説明

強化繊維シートとその製造方法及びそのシートを用いたドレスアップシート

【課題】 強化繊維クロスを埋め込んだ成形製品を綺麗でかつ簡単に製造できるようにして、製作コスト及び製作時間を増大させずに成形製品の品質を向上させる。
【解決手段】 本発明に係る強化繊維シート1は、多数の強化繊維の集合物である縦帯体11と横帯体12を縦横に織ることによって構成されたクロス層13と、縦帯体11と横帯体12同士が互いに接合した状態のままクロス層13が常温で変形可能となるように当該クロス層13に含浸させた繋ぎ補強層14と、からなるクロス芯材4を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維シートとその製造方法及びそのシートを用いたドレスアップシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、車体の軽量化及び高強度化を図るべく、バンパーやボンネット等の車両部品の補強材料として、多数のカーボン繊維の集合物である縦帯体と横帯体を縦横に織って構成されたカーボンクロスをマトリックス樹脂内に埋設させる場合がある。しかるに、かかるカーボンクロスを構成するカーボン繊維は極細繊維であることから、金型内のマトリックス樹脂に浸すとカーボンクロスが局所的にほどけ、縦帯体又は横帯体が蛇行したり捩れたりすることがあり、これが原因で整形後の車両部品の見栄えが悪くなることがある。
【0003】
そこで、上記カーボンクロスをアクリル樹脂で強固に固めることによって構成されたアクリルカーボン板が市販されており、このカーボン板は常温ではほぼ完全に固化しているが、130度〜200度に加熱すると自由に変形する。このため、当該カーボン板を加熱して変形させてから金型内に収納し、その後、同カーボン板の再硬化を待って金型内にマトリックス樹脂を充填することにより、縦帯体や横帯体を蛇行させないでカーボン繊維で強化された車両部品を綺麗に成形することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記アクリルカーボン板では、それを金型に合わせて変形させるために加熱する必要があるので、当該カーボン板を金型内に収納するのに非常に手間がかかり、車両部品の製作コスト及び製作時間が大きくなるという欠点がある。
本発明は、このような実情に鑑み、強化繊維クロスを埋め込んだ成形製品を綺麗でかつ簡単に製造できるようにして、製作コスト及び製作時間を増大させずに成形製品の品質を向上させることを第一の目的とする。
【0005】
一方、この種のカーボンクロスを用いた車両部品はF1等のレーシング仕様の車両に搭載されることが多いので、縦帯体と横帯体を縦横に織ることによって構成される強化繊維の織り目模様は、特に車好きの若者の間においてその外観そのものに大きな価値がある。このため、そのような織り目模様が表面に疑似的に印刷されかつ裏面に接着剤層が設けられたドレスアップシートが市販されており、かかるシートを車両の内装又は外装部分に貼り付けて、ドレスアップを図る場合がある。
【0006】
しかしながら、織り目模様が疑似的に印刷されているだけのドレスアップシートでは、表面が平坦で本物のカーボンクロス独特の凹凸が出ていないため、重厚感がなく品粗な外観になるという欠点がある。なお、前記アクリルカーボン板は高温に加熱しないと変形しないので、車両の内装又は外装部分に貼り付けて使用するドレスアップシートとして使用することは極めて困難である。
本発明は、このような実情に鑑み、本物の強化繊維クロスを有しかつ非加熱で比較的自由に変形するドレスアップシートを得られるようにして、本物の織り目模様によるドレスアップを簡単かつ安価に実現することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は次の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係る強化繊維シートは、多数の強化繊維の集合物である縦帯体と横帯体を縦横に織ることによって構成されたクロス層と、前記縦帯体と横帯体同士が互いに接合した状態のまま前記クロス層が常温で変形可能となるように当該クロス層に含浸させた繋ぎ補強層と、からなるクロス芯材を備えていることを特徴としている。
【0008】
上記の本発明によれば、クロス層に含浸させた繋ぎ補強層により、縦帯体と横帯体同士が互いに接合した状態のままになっているので、クロス芯材をマトリックス樹脂に浸した場合に縦帯体や横帯体が蛇行したり捩れたりすることがなくなり、車両部品等の成形製品を綺麗に成形することができる。また、本発明によれば、縦帯体と横帯体の接合状態を維持したままクロス層が常温で変形できるようになっているので、クロス芯材を金型に合わせて変形させる際に同芯材を加熱する必要がなく、車両部品等の成形製品の成形作業が非常に簡便である。
【0009】
本発明に係る強化繊維シートは、上記クロス芯材のみで構成した場合には、マトリックス樹脂内に埋設することによって成型製品の補強材料として使用することができるが、透明でかつ延性に富んだ合成樹脂製の多延性シート材をクロス芯材の繋ぎ補強層に貼り付けることにより、ドレスアップシートの原料シートとして利用することもできる。
この原料シートによれば、縦帯体と横帯体同士が互いに接合した状態のままクロス層を常温で変形可能にするクロス芯材の繋ぎ補強層に、透明でかつ延性に富んだ合成樹脂製の多延性シート材が貼り付けられているので、本物の強化繊維クロスを有しているにも拘わらず、当該原料シートを非加熱で比較的自由に変形させることができる。
【0010】
このため、クロス芯材の表面に多延性シート材を貼り付けることによって構成した強化繊維シート(ドレスアップシートの原料シート)の裏面に接着剤層を設け、この接着剤層の裏面に剥離シートを貼り付けることにより、例えば車両の内装又は外装部分等に後付け的に貼り付けて使用する、ステッカータイプのドレスアップシートを得ることができる。また、同強化繊維シートの裏面にクッション層を設けるようにすれば、例えば車両の座席の外皮として使用する、外皮タイプのドレスアップシートを得ることができる。
【0011】
前記多延性シート材としては、クロス芯材の変形を阻害しない程度の延性を有する材料であれば特に限定されないが、合成樹脂製のベースシートと、乾燥後において豊富な柔軟性を示すインキを前記ベースシートに含浸させることによって当該ベースシートの裏面に形成された繋ぎ補強層と、から構成されたものを採用することが好ましい。
この場合、多延性シート材の繋ぎ補強層をベースシートの裏面に形成しているので、当該多延性シート材の繋ぎ補強層の裏面側がクロス芯材で被覆され、ベースシートに含浸させた繋ぎ補強層の溶剤成分が製造時の状態のまま封入され、外部に揮発するのが防止される。このため、多延性シート材を貼り付けた前記ドレスシートを出荷した後においても、ベースシートに塗布したインキの柔軟性が製造時の状態のまま長期間維持され、当該ドレスアップシートの製品寿命を増大させることができる。
【0012】
一方、縦帯体と横帯体の接合状態を維持したままクロス層を常温で変形可能にする繋ぎ補強層を有する、前記クロス芯材のみからなる強化繊維シートは、例えば、市販の強化繊維クロス(クロス層)に対してスクリーン印刷を施すことによって製造することができる。
すなわち、本発明に係る強化繊維シート(クロス芯材)の製造方法は、次の工程(a)〜(c)を含んでいる。
【0013】
(a) 多数の強化繊維の集合物である縦帯体と横帯体を縦横に織ることによって構成されたクロス層の上面に、標準メッシュ数よりも粗いメッシュ数のスクリーンをセットする第一工程
(b) 乾燥後において豊富な柔軟性を示すインキを前記スクリーン上に供給してスクリーン印刷を行うことにより、そのインキを前記クロス層に含浸させる第二工程
(c) そのインキが含浸されたクロス層を乾燥させてクロス芯材を作製する第三工程
【0014】
このように、縦帯体と横帯体とからなるクロス層に対して通常よりも粗いメッシュによるスクリーン印刷を行うと、クロス層に対するインキの塗布量が非常に多くなり、インキがクロス層を構成する強化繊維に十分に含浸した状態になる。このため、乾燥後のインキが接着媒体となって縦帯体と横帯体同士が互いに接合されるとともに、同インキの柔軟性によってクロス層が常温でも十分に変形する変形性能が発現されるようになる。
【0015】
上記の強化繊維シートの製造方法において、スクリーン印刷に用いるスクリーンは、標準メッシュ数(各インキについて最良の印刷結果が得られるものとしてインキメーカーが定めたスクリーンのメッシュ数)の1/3以下でかつ1/4以上の粗さのメッシュ数に設定することが好ましい。
その理由は、当該スクリーンのメッシュ数が標準メッシュ数の1/3を超えると、クロス層に対するインキの含浸量が不足し、縦帯体と横帯体の接合強度が弱くなってクロス層がほどけ易くなるからであり、また、標準メッシュ数の1/4未満になると、今度はクロス層に対するインキの含浸量が多くなり過ぎ、強化繊維の束が膨潤して縦帯体と横帯体の太さが不揃いになる恐れがあるからである。
【0016】
なお、クロス層に対するインキの塗布及び乾燥のサイクルは、これを1回だけ行う場合でも比較的好適な結果が得られるが、これを2回以上(特に2回が好適である。)繰り返して行うようにすれば、クロス層を構成する強化繊維全体に対してインキをくまなく含浸させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図4は本発明に係る強化繊維シート1の一実施形態を示し、図5及び図6はその強化繊維シート1を利用したドレスアップシート2,3の実施形態を示している。
図4に示すように、本実施形態の強化繊維シート1は、カーボン繊維等の強化繊維を主原料としたクロス芯材4と、このクロス芯材4の表面(図4の上面)に強粘着性の永久接着層5を介して強固に貼り付けられた、透明でかつ延性に富んだ合成樹脂製の多延性シート材6とから構成されている。
【0018】
図5に示すように、表面に多延性シート材6を有する本実施形態の強化繊維シート1は、その裏面側に位置するクロス芯材4の裏面に粘着性の接着剤層7を塗布し、この接着剤層7の裏面に剥離シート8を貼り付けることにより、車両の内装又は外装部分等に後付け的に貼り付けて使用するステッカー2として利用することができる。
また、図6に示すように、本実施形態の強化繊維シート1は、その裏面側に位置するクロス芯材4の裏面に、図示しない接着剤又は縫製等の結合手段を介して発泡樹脂等よりなるクッション層9を設けることにより、車両の座席の外皮3として使用することができる。
【0019】
図4に示すように、強化繊維シート1の構成部材であるクロス芯材4は、多数の強化繊維の集合物である縦帯体11と横帯体12を縦横に織ってなるクロス層13と、縦帯体11と横帯体12同士が互いに接合した状態のままクロス層13が常温で変形可能となるように当該クロス層13に含浸させた繋ぎ補強層14とから構成されている。なお、図例の繋ぎ補強層14は、繋ぎ剤がクロス層13の全厚にわたって含浸し、そのうえで更にクロス層13の表面側へ盛り上がる状態で示されている。もっとも、実際の繋ぎ補強層14では、表面側への盛り上がり量が図示できない程度に極めて小さいか、そのような盛り上がりが認められない場合もある。
【0020】
本実施形態のクロス層13は、極細のカーボン繊維の束よりなる縦帯体11と横帯体12を平織りすることによって構成されたカーボンクロスよりなり、図2(b)に示す斜め方向に引っ張ると縦帯体11と横帯体12が簡単にほどけるようになっている。
かかるカーボンクロスは、自動車部品等の樹脂成形製品の補強材料として市販されているもので、例えば、東レ株式会社製の「トレカクロス」を例示することができる。
【0021】
クロス芯材4の繋ぎ補強層14の形成に使用する繋ぎ剤は、乾燥後において豊富な柔軟性を示すインキよりなり、クロス層13を構成するカーボン繊維に含浸することで、縦帯体11と横帯体12同士が互いに接合した状態のままに維持する接着性能を有するものであり、その結果、縦帯体11や横帯体12が蛇行したり捩れたりして、クロス層13がほどけるのが防止される。かかる接着性能を有する繋ぎ剤としては、帝国インキ製造株式会社製の商品名「セリコールSP2100AUクリヤー(別名、セリコールVKTインキのスクリーン印刷用オーバーコートクリヤー)」や、同社製の商品名「セリコールEGスクリーンインキ(別名、ポリエステル用グロスインキ)」等がある。
【0022】
ところで、クロス層13を構成する縦帯体11及び横帯体12は極細のカーボン繊維の束よりなることから、クロス層13はそもそも水分を吸収し易い性質があり、このため、当該強化繊維シート1を後述するステッカー2として使用した場合に、ステッカー2の縁部から雨水が浸透して当該ステッカー2を膨潤させる恐れがある。そこで、上記繋ぎ剤に使用するインキは、クロス層13に撥水性を付与して製品の膨潤に伴う劣化を防止すべく、溶剤系の油性インキを使用するのが好ましく、或いは、油性インキに撥水シリコンを混合したものを使用することが更に好ましい。
【0023】
他方、上記多延性シート材6は、合成樹脂製のベースシート15と、このベースシート15の裏面(図4の下面)の一部厚さ領域又は全厚にわたり繋ぎ剤を溶剤的に含浸した状態で設けられた繋ぎ補強層16とから構成されている。なお、図例の繋ぎ補強層16は、繋ぎ剤がベースシート15の全厚にわたって含浸し、そのうえで更にベースシート15の裏面側へ盛り上がる状態で示されている。
このように、本実施形態の強化繊維シート1では、多延性シート材6の繋ぎ補強層16をベースシート15の裏面に形成しているので、当該多延性シート材6を永久接着層5を介してクロス芯材4の表面に貼り付けた場合に、多延性シート材6の繋ぎ補強層16の裏面側がクロス芯材4で被覆されるようになっている。
【0024】
このため、ベースシート15に含浸させた繋ぎ補強層16の溶剤成分が製造時の状態のまま封入され、外部に揮発するのが防止されるので、多延性シート材6を貼り付けた前記ドレスアップシート2,3を出荷した後においても、ベースシート15に塗布したインキの柔軟性が製造時の状態のまま長期間維持され、当該ドレスアップシート2,3の製品寿命を増大させることができる。
本実施形態のベースシート15は、マーキングフィルムの基材シート部分(同フィルムから裏面側の粘着剤を取り除いたシート部分)よりなり、かかるマーキングフィルムは、それ単体で伸び性及び引張強度に優れた特性を有したフィルム製品として市販されている。なお、本発明に使用可能な基材シート部分を有するマーキングフィルムとしては、リンテック株式会社製の商品名「モディカル」「フジペイント」「イージータック」をはじめ、同社製の商品名「ルミラスター」「反射シート」等、セキスイ化学株式会社製の商品名「タックペイント」、TOYO株式会社製の商品名「ダイナカル」等がある。
【0025】
このうち、一部の例についてその諸元等を記載すると、上記「モディカル」は、厚さ75〜85μmのものであれば、伸び100%以上、引張強度1.0kg/10mmが得られるものである。また、その耐熱性は80℃−168時間後も異常無しというものである。また、上記「フジペイント」は、厚さ130μm(うち基材部分は50μm)のものであれば、伸びが縦・横それぞれに60%以上、引張強度が縦・横それぞれに2.0kg以上が得られるものである。また、その耐熱性は70℃−240時間後も異常無しというものである。
【0026】
上記「イージータック」は、厚さ135μm(うち基材部分は50μm)のものであれば、伸びが縦・横それぞれに60%以上、引張強度が縦・横それぞれに2.0kg以上が得られるものである。また、その耐熱性は70℃−240時間後も異常無しというものである。
このようなことから、市販のマーキングフィルムを単独で使用した場合も、例えば自動車ボディ等、曲率半径の比較的緩いカーブ面であれば、柔軟に追従させた貼り付けができるが、本発明者の試験的使用によれば、マーキングフィルム単独の場合、この程度のカーブ面への使用が、加熱を必要としないで使用できる範囲の限度である。
【0027】
多延性シート材6の繋ぎ補強層16の形成に使用する繋ぎ剤も、乾燥後において豊富な柔軟性を示すインキよりなるもので、塩化ビニル系等の合成樹脂シートよりなるベースシート15に対する馴染みが良好な性質のものが採用されている。かかる繋ぎ剤は、ベースシート15に対して含浸することで溶剤的な結合状態を生じるものであり、その結果、ベースシート15の伸び性及び引張強度が飛躍的に高められるようになる。
上記のようなベースシート15への含浸に伴う伸び率の増長を奏する繋ぎ剤としては、ベースシート15が塩化ビニル系である場合には、帝国インキ製造株式会社製の商品名「セリコールSP2100AUクリヤー(別名、セリコールVKTインキのスクリーン印刷用オーバーコートクリヤー)」等のインキがある。
【0028】
また、その他のインキとして、帝国インキ製造株式会社製の商品名「セリコールEGスクリーンインキ(別名、ポリエステル用グロスインキ)」や、株式会社セイコーアドバンス社製の商品名「SG700シリーズ」等のインキを使用することもできる。
なお、上記「セリコールSP2100AUクリヤー」の諸元等を記載すると、200mm/min下での伸び180%、同、引張強度2.0kg/15mmが得られるものであった。また、その耐熱性は80℃−168時間後も異常無しというものであった。
【0029】
このようなことから、上記繋ぎ剤をベースシート15へ含浸させた状態の繋ぎ補強層16は、例えば携帯電話機やパソコンマウスのように小型でかつ曲率半径の小さなアール部が多く採用されたものに対して貼り付けるような場合でも、簡単でかつ綺麗な仕上がりが得られるほどにの多延性(即ち、ヒビ等の不具合が生じない状況下で伸びが極めて豊富となる特性)を有したものとなる。
なお、図示していないが、多延性シート材6の繋ぎ補強層16の裏面には、この補強層16と同じ材質で透明なインキやクリヤインキ等よりなるコート層を設けることにしてもよい。
【0030】
また、図5に示す接着剤層7を構成する接着剤としては、クロス芯材4の裏面側から溶剤成分が揮発するのを防止するパック機能を果たすため、例えば、有機溶剤型アクリル系粘着剤を使用するのが好ましい。
【0031】
次に、図1〜図3を参照しつつ、本実施形態に係る強化繊維シート1の製造方法を説明する。
図1は強化繊維シート1を主構成しているクロス芯材4の製造方法を示している。
すなわち、かかるクロス心材4を製造するには、まず、図1(a)に示すように、前記クロス層13の上面にスクリーン18を有する刷版19をセットし、図1(b)に示すように、乾燥後において豊富な柔軟性を示すインキ20をスクリーン18上に供給してスクリーン印刷を行うことにより、そのインキ20をクロス層13に含浸させる。かかるスクリーン印刷で用いる刷版19は、このインキ20の標準使用規格よりも粗いメッシュのスクリーン18を具備している。
【0032】
例えば、前記「セリコールSP2100AUクリヤー」の場合には、その標準使用規格は180〜225メッシュ程度が適当とされ、また、前記「セリコールEGスクリーンインキ」の場合には、その標準使用規格は230メッシュ程度が適当とされているが、本実施形態では、刷版19のスクリーン18は、これらの標準使用規格の1/3以下の70メッシュ程度に設定してある。このように極めて目開きの粗いスクリーン18を用いることで、クロス層13の上にかなり多めのインキ20が供給される状態となり、その結果、十分な量のインキ20が確実にクロス層13の各繊維に含浸するようになる。
【0033】
従って、上記のようにしてインキ20が十分に含浸されたクロス層13は、図2(a)に示すように、当該インキ20の乾燥後における接着性能によって縦帯体11と横帯体12同士が互いに接合した状態となる。また、この場合のインキ20は乾燥後において豊富な柔軟性を有することから、図2(b)に示すように、常温下においてクロス芯材4を斜めに方向に引っ張ると、縦帯体11と横帯体12が互いに傾斜して菱形状に変形するが、それらの接着状態は維持されたままであり、クロス層13がほどけてしまうことはない。
【0034】
なお、上記スクリーン印刷に用いるスクリーン18は、インキメーカーが定める標準メッシュ数の1/3以下でかつ1/4以上の粗さのメッシュ数に設定することが好ましい。その理由は、当該スクリーン18のメッシュ数が標準メッシュ数の1/3を超えると、クロス層13に対するインキの含浸量が不足し、縦帯体11と横帯体12の接合強度が弱くなってクロス層13がほどけ易くなるからである。
また、その反対に、スクリーン18のメッシュ数が標準メッシュ数の1/4未満になると、今度はクロス層13に対するインキの含浸量が多くなり過ぎ、強化繊維の束が膨潤して縦帯体11と横帯体12の太さが不揃いになる恐れがあるからである。
【0035】
図7(a)は、このスクリーン印刷で使用するスクリーン印刷機22の一例を示している。この印刷機22は、中央部に刷版19のセット部23を有し、その上部をドクター24及びスキージ25が移動する構造になっている。なお、刷版19は、テトロン製のスクリーン18を具備している。
このインキ20の塗布後には、所定時間の養生を行ってインキ20の乾燥を待つ。この乾燥には、図1(c)に示すように、適宜の加熱装置26を用いて加熱を施すようにするとよい。
【0036】
図7(b)は、この加熱装置26の一例の外観を示したもので、熱風循環式の恒温槽(図示略)を内蔵したものとなっている。もっとも、この他の加熱方式のものを使用することも可能である。この場合の加熱温度は、30℃以上でかつ80℃以下とするのが好適である。その理由は、30℃に満たなかった場合には、インキ20が乾かないことがあり、80℃を超えると、溶剤成分が急速に抜けて波打ち現象が生じることがあるからである。
【0037】
インキ20が乾燥した後は、このインキ20を含浸させたクロス層13を再びスクリーン印刷機22にセットし、上記と同じ条件で、更に、乾燥後において豊富な柔軟性を有する同じインキ20の塗布を行うと共に、続いて、加熱装置26により、上記と同条件で同インキ20の乾燥を行う。
このように、柔軟性に優れた同じインキ20の塗布及び乾燥サイクルを2回繰り返すことで、クロス層13に対するインキ20の含浸がより確実となり、インキ20が乾燥した後のクロス芯材4の柔軟性を向上させることができる。なお、クロス層13に対するインキ20の塗布及び乾燥サイクルを2回繰り返す場合には、そのサイクルを表裏で1回ずつ行うようにすれば、表裏いずれか一方側からインキ20の塗布を繰り返す場合に比べてクロス層13に対するインキ20の含浸が更に確実となり、より好ましい。
【0038】
次に、図3は強化繊維シート1の構成部材である多延性シート材6の製造方法を示している。
すなわち、かかるシート材6を製造するには、まず、図3(a)に示すように、ベースシート15の上面にスクリーン28を有する刷版29をセットし、図3(b)に示すように、乾燥後において豊富な柔軟性を示すインキ30をスクリーン28上に供給してスクリーン印刷を行うことにより、そのインキ30をベースシート15に含浸させる。かかるスクリーン印刷で用いる刷版29も、このインキ30の標準使用規格よりも粗いメッシュのスクリーン28を具備している。
【0039】
例えば、前記「セリコールSP2100AUクリヤー」の場合には、その標準使用規格は180〜225メッシュ程度が適当とされ、また、前記「セリコールEGスクリーンインキ」の場合には、その標準使用規格は230メッシュ程度が適当とされているが、本実施形態では、刷版29のスクリーン28は、これらの標準使用規格の1/2に近い120メッシュに設定してある。このように目開きの粗いスクリーン28を用いることで、ベースシート15上にかなり多めのインキ30が供給される状態となり、その結果、十分な量のインキ30が確実にベースシート15に含浸するようになる。
【0040】
このインキ30の塗布後には、所定時間の養生を行ってインキ30の乾燥を待つ。この乾燥には、図3(c)に示すように、前記加熱装置26を用いて加熱を施すようにするとよい。この場合の加熱温度は、30℃以上80℃以下とするのが好適である。その理由は、30℃に満たなかった場合には、インキ30の柔軟性をあまりうまく引き出すことができず、また、80℃を超えると製造後に得られたシ─ト材1において波打ちが現れる恐れがあるからである。
【0041】
また、上記30℃以上80℃以下の範囲内であるとしても、50℃に満たない場合には乾燥時間が長引く傾向となり、また70℃を超える場合では稀ではあるがシート材1に小さな傷みが生じることがある。従って、50℃以上70℃以下とするのが実用に向いているということになる。最良の条件としては、60℃とするのがよく、またその加熱時間は15分とするのがよいものであった。
もっとも、前記したマーキングフィルムのベースシート15やインキ30の具体例では、いずれも耐熱性として70℃、ものによっては80℃をクリアしており、従って、乾燥時の加熱自体でベースシート15やインキ30が熱損を受けるということを回避するのは、別段困難なことではない。
【0042】
インキ30が乾燥した後は、このインキ30が含浸した状態とされたベースシート15を再びスクリーン印刷機22へセットし、上記と同じ条件で、更に、乾燥後において豊富な柔軟性を有する同じインキ30の塗布を行うと共に、続いて、加熱装置26により、上記と同条件で、同インキ30の乾燥を行う。
このように、柔軟性に優れた同じインキ30の塗布及び乾燥サイクルを2回繰り返すことで、ベースシート15に対するインキ30の含浸がより確実となり、更に一層豊富な塗布量を確保できるものとなり、それに伴って、より一層良好な多延性を有したシート材6が得られることになる。
【0043】
ただ、ベースシート15に対するインキ30の塗布及び乾燥サイクルは、多く繰り返すほどよいというものでもなく、2回を超えた後は繰り返し数を増やしても効果が顕著に高められるということはない。このようなことから、インキ11の塗布及び乾燥サイクルの繰り返し数は2回が最も効率的であると言える。
上記のようにして製造された多延性シート材6は、図4に示すように、前記クロス芯材4の表面に永久接着層5を介して一体化され、このようにして製作された補強繊維シート1は、例えば図5及び図6に示すドレスアップシート2,3の原料シートとして利用される。
【0044】
なお、上記クロス芯材4は、マトリックス樹脂内に埋設することによって成型製品の補強材料として使用することができ、この場合には、多延性シート材6を貼り付ける必要はなく、クロス芯材4だけで強化繊維シート1が構成される。
【0045】
本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、クロス層13を構成する強化繊維は、ガラス繊維やケブラー繊維等のカーボン繊維以外のものを使用することができる。また、同クロス層13は、縦帯体11と横帯体12とを平織りにしたものだけでなく、それらを綾織りにしたものを採用することにしてもよい。
また、図5に示すステッカー2は、車両の外装又は内装部分だけでなく、ノートパソコン等の電子機器や置物類等の家庭用品といったあらゆる品物に貼り付けて使用することができる。
【0046】
〔発明の効果〕
以上説明したように、本発明によれば、強化繊維クロスを埋め込んだ成形製品を綺麗にかつ簡単に製造することができるので、製作コスト及び製作時間を増大させることなく成形製品の品質を向上することができる。
また、本発明によれば、本物の強化繊維クロスを有しかつ非加熱で自由に変形するドレスアップシートが得られるので、本物の織り目模様によるドレスアップを簡単かつ安価に実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る強化繊維シートは、マトリックス樹脂内に埋設することによって成型製品の補強材料として利用することができる。また、車両の内装又は外装部分に貼り付けて使用するステッカーや車両の座席の外皮として利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】クロス芯材の製造工程を示す斜視図である。
【図2】クロス芯材の一部を拡大した平面図であり、(a)は変形前の通常状態、(b)は斜め方向に引っ張った後の変形状態を示す。
【図3】多延性シート材の製造工程を示す斜視図である。
【図4】強化繊維シートの内部構造を模式的に示す断面図である。
【図5】ステッカー(ドレスアップシート)の内部構造を模式的に示す断面図である。
【図6】外皮(ドレスアップシート)の内部構造を模式的に示す断面図である。
【図7】(a)はスクリーン印刷機の一例を示す側面図であり、(b)は加熱装置の一例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 強化繊維シート
2 ステッカー(ドレスアップシート)
3 外皮(ドレスアップシート)
4 クロス芯材
5 多延性シート材
6 接着剤層
8 剥離シート
9 クッション層
11 縦帯体
12 横帯体
13 クロス層
14 繋ぎ補強層
15 ベースシート
16 繋ぎ補強層
18 スクリーン
20 インキ
28 スクリーン
30 インキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の強化繊維の集合物である縦帯体(11)と横帯体(12)を縦横に織ることによって構成されたクロス層(13)と、前記縦帯体(11)と横帯体(12)同士が互いに接合した状態のまま前記クロス層(13)が常温で変形可能となるように当該クロス層(13)に含浸させた繋ぎ補強層(14)と、からなるクロス芯材(4)を備えていることを特徴とする強化繊維シート。
【請求項2】
透明でかつ延性に富んだ合成樹脂製の多延性シート材(6)がクロス芯材(4)の繋ぎ補強層(14)に貼り付けられている請求項1に記載の強化繊維シート。
【請求項3】
多延性シート材(6)は、合成樹脂製のベースシート(15)と、乾燥後において豊富な柔軟性を示すインキ(30)を前記ベースシート(15)に含浸させることによって当該ベースシート(15)の裏面に形成された繋ぎ補強層(16)と、から構成されている請求項2に記載の強化繊維シート。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の強化繊維シート(1)の裏面に接着剤層(7)が設けられ、この接着剤層(7)の裏面に剥離シート(8)が貼り付けられていることを特徴とするドレスアップシート。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の強化繊維シート(1)の裏面にクッション層(9)が設けられていることを特徴とするドレスアップシート。
【請求項6】
次の工程(a)〜(c)を含む強化繊維シートの製造方法。
(a) 多数の強化繊維の集合物である縦帯体(11)と横帯体(12)を縦横に織ることによって構成されたクロス層(13)の上面に、標準メッシュ数よりも粗いメッシュ数のスクリーン(18)をセットする第一工程
(b) 乾燥後において豊富な柔軟性を示すインキ(20)を前記スクリーン(18)上に供給してスクリーン印刷を行うことにより、そのインキ(20)を前記クロス層(13)に含浸させる第二工程
(c) そのインキ(20)が含浸されたクロス層(13)を乾燥させてクロス芯材(4)を作製する第三工程
【請求項7】
更に、次の工程(d)を含む請求項6に記載の強化繊維シートの製造方法。
(d) 透明でかつ延性に富んだ合成樹脂製の多延性シート材(6)をクロス芯材(4)の繋ぎ補強層(14)に貼り付ける第四工程
【請求項8】
第四工程における多延性シート材(6)は、合成樹脂製のベースシート(15)の裏面に、乾燥後において豊富な柔軟性を示すインキ(30)をその標準メッシュ数よりも粗いスクリーン(28)を用いたスクリーン印刷によって塗布して乾燥させることによって構成されている請求項7に記載の強化繊維シートの製造方法。
【請求項9】
第二工程のスクリーン印刷に用いるスクリーン(18)は、標準メッシュ数の1/3以下でかつ1/4以上の粗さのメッシュ数に設定されている請求項6〜8のいずれかに記載の強化繊維シートの製造方法。
【請求項10】
クロス層(13)に対するインキ(20)の塗布及び乾燥を2回以上繰り返す請求項6〜9のいずれかに記載の強化繊維シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−159915(P2006−159915A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378051(P2005−378051)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【分割の表示】特願2005−507996(P2005−507996)の分割
【原出願日】平成16年1月13日(2004.1.13)
【出願人】(502341498)株式会社ハセ・プロ (8)
【Fターム(参考)】