弾性波デバイス
【課題】損失を抑制すること、または帯域特性を制御することが可能な弾性波デバイスを提供すること。
【解決手段】第1圧電膜14と前記第1圧電膜を上下に挟む第1下部電極12および第1上部電極16とを含む第1圧電薄膜共振子10と、前記第1上部電極16上に設けられたデカプラ膜30と、前記デカプラ膜上に設けられ、第2圧電膜24と前記第2圧電膜を上下に挟む第2下部電極22および第2上部電極26とを含む第2圧電薄膜共振子20と、を具備し、前記第1圧電膜および前記第2圧電膜は窒化アルミニウムにより形成されるとともに前記窒化アルミニウムの圧電定数を高める元素を含有する弾性波デバイス。
【解決手段】第1圧電膜14と前記第1圧電膜を上下に挟む第1下部電極12および第1上部電極16とを含む第1圧電薄膜共振子10と、前記第1上部電極16上に設けられたデカプラ膜30と、前記デカプラ膜上に設けられ、第2圧電膜24と前記第2圧電膜を上下に挟む第2下部電極22および第2上部電極26とを含む第2圧電薄膜共振子20と、を具備し、前記第1圧電膜および前記第2圧電膜は窒化アルミニウムにより形成されるとともに前記窒化アルミニウムの圧電定数を高める元素を含有する弾性波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスに関し、特に、圧電薄膜共振子がデカプラ膜を挟んで設けられた弾性波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の高周波回路として、圧電薄膜共振子が用いられている。圧電薄膜共振子には、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)タイプとSMR(Solidly Mounted Resonator)タイプとがある。近年、アンテナデュプレクサにおいて、受信端子にバランス出力が要求されることがある。しかしながら、FBARおよびSMRを用いたフィルタにおいては、アンバランス信号とバランス信号との変換ができない。そこで、アンバランス信号とバランス信号との変換が可能なCRF(Coupled Resonator Filter)構造が検討されている(例えば、非特許文献1)。CRFは、複数の圧電薄膜共振子とデカプラ膜とを備えている。複数の圧電薄膜共振子はデカプラ膜を介し積層されている。
【0003】
非特許文献2には、窒化アルミニウムにスカンジウム(Sc)を添加することにより、圧電定数が増加することが記載されている。また、非特許文献3には、窒化アルミニウムにエルビウム(Er)を添加することにより、圧電定数が増加することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Improved Resonator Filter Performance using a Carbon-doped Oxide de-coupling Layer”, IEEE Ultrasonics Symp., 2009
【非特許文献2】Advanced Materials 2009, 21, pp293-596.
【非特許文献3】Mater. Res. Soc Symp. Proc. Vol. 1129 2009 pp21-25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CRFにおいては、低周波数側の反対称モードと、高周波数側の対称モードの2つの共振特性が出現する。この2つの共振周波数間隔が広すぎた結果、帯域の中央付近の損失が大きくなる場合、デカプラ膜の音響インピーダンスを小さくすることにより、帯域の中央付近の損失を抑制することができる。しかしながら、デカプラ膜の音響インピーダンスを小さくすると、デカプラ膜自体に起因する損失が大きくなってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、損失を抑制すること、または帯域特性を制御することが可能な弾性波デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1圧電膜と前記第1圧電膜を上下に挟む第1下部電極および第1上部電極とを含む第1圧電薄膜共振子と、前記第1上部電極上に設けられたデカプラ膜と、前記デカプラ膜上に設けられ、第2圧電膜と前記第2圧電膜を上下に挟む第2下部電極および第2上部電極とを含む第2圧電薄膜共振子と、を具備し、前記第1圧電膜および前記第2圧電膜は窒化アルミニウムにより形成されるとともに前記窒化アルミニウムの圧電定数を高める元素を含有することを特徴とする弾性波デバイスである。本発明によれば、通過帯域の帯域中央の損失を抑制することができる。
【0008】
上記構成において、前記第1圧電膜と第2圧電膜とは、前記元素の濃度が異なる構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記元素は、スカンジウムまたはエルビウムである構成とすることができる。
【0010】
本発明は、第1圧電膜と前記第1圧電膜を上下に挟む第1下部電極および第1上部電極とを含む第1圧電薄膜共振子と、前記第1上部電極上に設けられたデカプラ膜と、前記デカプラ膜上に設けられ、第2圧電膜と前記第2圧電膜を上下に挟む第2下部電極および第2上部電極とを含む第2圧電薄膜共振子と、を具備し、前記第1上部電極および前記第2下部電極のそれぞれの膜厚は、前記第1下部電極および前記第2上部電極のそれぞれの膜厚と異なることを特徴とする弾性波デバイスである。本発明によれば、損失を抑制すること、または帯域特性を制御することが可能な弾性波デバイスを提供することができる。
【0011】
上記構成において、前記第1上部電極および前記第2下部電極のそれぞれの膜厚は、前記第1下部電極および前記第2上部電極のそれぞれの膜厚より大きい構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記デカプラ膜は単層膜である構成とすることができる。
【0013】
前記デカプラ膜の音響インピーダンスは5Mrayl以上である構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記デカプラ膜は、酸化シリコンを含む構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記第1下部電極、前記第1上部電極、前記第2下部電極および前記第2上部電極の音響インピーダンスは50Mrayl以上かつ120Mrayl以下である構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記第1下部電極、前記第1上部電極、前記第2下部電極および前記第2上部電極はIr、W、Ru、Rh、Mo、PtおよびTaの少なくとも1つを含む構成とすることができる。
【0017】
上記構成において、前記第1下部電極との間に空隙が形成されるように設けられた基板を具備する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、損失を抑制すること、または帯域特性を制御することが可能な弾性波デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1(a)および図1(b)は、FBARタイプの圧電薄膜共振子のそれぞれ平面図およびA−A断面図である。
【図2】図2は、FBARタイプの圧電薄膜共振子の別の例の断面図である。
【図3】図3は、SMRタイプの圧電薄膜共振子の断面図である。
【図4】図4は、比較例1に係るCRFの断面図である。
【図5】図5は、比較例2に係るCRFの断面図である。
【図6】図6は、シミュレーションを行った比較例1のCRFの断面模式図である。
【図7】図7(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図7(b)は、通過(S21)特性を示す図である。
【図8】図8は、デカプラ膜の音響インピーダンスに対する共振周波数間隔率を示す図である。
【図9】図9は、デカプラ膜の音響インピーダンスに対する減衰量を示す図である。
【図10】図10(a)は、デカプラ膜を酸化シリコン膜とした場合の比較例1の周波数に対するインピーダンスを示す図である。図10(b)は、誘電率、弾性定数および圧電定数の変化量に対する共振周波数間隔率を示す図である。
【図11】図11(a)は、低周波数側対称モードの共振/反共振周波数間隔ΔfLを示す図である。図11(b)は、誘電率、弾性定数および圧電定数の変化量に対する共振/反共振周波数間隔率を示す図である。
【図12】図12(a)は、高周波数側対称モードの共振/反共振周波数間隔ΔfHを示す図である。図12(b)は、誘電率、弾性定数および圧電定数の変化量に対する共振/反共振周波数間隔率を示す図である。
【図13】図13(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図13(b)は、通過特性を示す図である。
【図14】図14は、圧電定数の変化量に対する通過帯域の中心の挿入損失を示す図である。
【図15】図15は、シミュレーションを行なった実施例2のCRFの構造を示す図である。
【図16】図16(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図16(b)は、通過特性を示す図である。
【図17】図17は、膜厚T1/膜厚T2に対する共振周波数間隔Δfを示す図である。
【図18】図18(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図18(b)は、通過特性を示す図である。
【図19】図19は、電極膜の音響インピーダンスに対する共振周波数間隔率を示す図である。
【図20】図20(a)および図20(b)は、実施例4に係る弾性波デバイスの断面図である。
【図21】図21(a)および図21(b)は、実施例4に係る弾性波デバイスの別の例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、圧電薄膜共振子について説明する。圧電薄膜共振子には、FBARタイプとSMRタイプとがある。図1(a)および図1(b)は、FBARタイプの圧電薄膜共振子のそれぞれ平面図およびA−A断面図である。圧電薄膜共振子は、主に、基板50、下部電極52、圧電膜54および上部電極56を備える。基板50上に下部電極52と上部電極56とが圧電膜54を挟んで設けられている。圧電膜54を挟み上部電極56と下部電極52とが対向する部分(共振領域60)の下に、基板50を貫通する空隙58が形成されている。
【0021】
図2は、FBARタイプの圧電薄膜共振子の別の例の断面図である。基板50の上面は平坦であり、基板50と下部電極52との間に空隙58が形成されるように下部電極52が形成されている。空隙58は、例えばドーム状形状を有している。例えば、基板50に窪みがあり、窪みにより、基板50と下部電極52との間に空隙58が形成されていてもよい。
【0022】
図3は、SMRタイプの圧電薄膜共振子の断面図である。共振領域60の下部電極52の下に音響反射膜62が形成されている。音響反射膜62は、音響インピーダンスの高い膜と低い膜を交互にλ/4の膜厚で積層した膜である。ここで、λは弾性波の波長である。図1から図3の圧電薄膜共振子において、下部電極52および上部電極56としては、モリブデン(Mo)、タングステン(W)およびルテニウム(Ru)等がよく用いられる。圧電膜54としては、窒化アルミニウム(AlN)がよく用いられる。基板50としては、シリコン(Si)がよく用いられる。
【0023】
次に、CRFについて説明する。図4は、比較例1に係るCRFの断面図である。基板50上に、第1圧電薄膜共振子10および第2圧電薄膜共振子20が積層されている。第1圧電薄膜共振子10は、第1下部電極12、第1圧電膜14および第1上部電極16を備えている。第2圧電薄膜共振子20は、第2下部電極22、第2圧電膜24および第2上部電極26を備えている。第1圧電薄膜共振子10と第2圧電薄膜共振子20との間に単層のデカプラ膜30が形成されている。共振領域の第1下部電極12下に空隙58が設けられている。
【0024】
図5は、比較例2に係るCRFの断面図である。比較例1と比較し、デカプラ膜30が、膜32、34等の複数の積層された膜を用い形成されている。第1下部電極12下に音響反射膜62が形成されている。その他の構成は比較例1の図4と同じであり、説明を省略する。
【0025】
比較例1の場合、デカプラ膜30として単層膜を用いているため、比較例2のように、デカプラ膜30が複数膜により形成されている場合に比べ、製造工程数が少なくかつ膜厚の制御も容易となる。一方、以下に説明するような課題もある。
【0026】
デカプラ膜30が1層の場合についてシミュレーションを行った。図6は、シミュレーションを行った比較例1のCRFの断面模式図である。CRF100は、第1圧電薄膜共振子10、第2圧電薄膜共振子20およびデカプラ膜30を含む。第1圧電薄膜共振子10は、第1圧電膜14と第1圧電膜14を上下に挟む第1下部電極12および第1上部電極16とを含む。デカプラ膜30は、第1上部電極16上に設けられている。第2圧電薄膜共振子20は、デカプラ膜30上に設けられ、第2圧電膜24と第2圧電膜24を上下に挟む第2下部電極22および第2上部電極26とを含む。このように、デカプラ膜30を挟み第1圧電薄膜共振子10と第2圧電薄膜共振子20とが積層されている。第1下部電極12および第2上部電極26はそれぞれ入出力端子40および42に接続されている。第1上部電極16および第2下部電極22はそれぞれ接地されている。
【0027】
第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26をそれぞれ膜厚が100nmのRu膜とし、第1圧電膜14および第2圧電膜24を、膜厚が800nmのAlN膜とし、デカプラ膜30の膜厚を450nmとしてシミュレーションを行なった。シミュレーションは、デカプラ膜30の音響インピーダンスを変化させた。
【0028】
図7(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図7(b)は、通過(S21)特性を示す図である。インピーダンスは、入出力端子40を接地したときの特性であり、通過特性は、入出力端子40および42間のS21である。図7(a)および図7(b)において、実線、破線および点線は、デカプラ膜30の音響インピーダンスがそれぞれ12.7Mrayl、7.6Mraylおよび2.5Mraylの場合のシミュレーション結果である。12.7Mraylは、酸化シリコン膜の音響インピーダンスに対応する。
【0029】
図7(a)のように、CRFにおいては、低周波数側に反対称モード(この周波数をfarとする)の共振特性、高周波数側に対称モード(この周波数をfsrとする)の共振特性が生じる。この2つのモードfsrとfarとの共振周波数の間隔を共振周波数間隔Δfとする。図8は、デカプラ膜30の音響インピーダンスに対する共振周波数間隔率を示す図である。共振周波数間隔率は、(fsr−far)/(fsr+far)×2×100で表される。図8のように、デカプラ膜30の音響インピーダンスが大きくなるに従い、共振周波数間隔は単純に増加する。図7(b)のように、共振周波数の間隔が広い場合、インピーダンスミスマッチに起因した通信帯域の帯域中央の損失が大きくなる。一方、共振周波数の間隔が狭い場合、通信帯域の帯域中央の損失が小さくなる。このように、図7(a)から図8によれば、デカプラ膜30の音響インピーダンスを小さくすることにより、共振周波数間隔Δfを小さくでき、通信帯域の帯域中央の損失を小さくできる。
【0030】
しかしながら、図7(a)、図7(b)および図8のシミュレーションにおいては、デカプラ膜30自体の損失は考慮していない。図9は、デカプラ膜30の音響インピーダンスに対する減衰量を示す図である。図9は、非特許文献1に記載されている図である。図9のように、デカプラ膜30の音響インピーダンスが小さくなるに従い、デカプラ膜30の伝搬損失が大きくなってしまう。以上のように、デカプラ膜30の音響インピーダンスを変えたのでは、通過帯域の帯域中央の損失と伝搬損失とがトレードオフの関係になってしまう。
【0031】
例えば、図9のように、音響インピーダンスが5Mrayl以上のデカプラ膜30を用いると、デカプラ膜30の伝送損失を小さくすることができる。例えば、音響インピーダダンスが約13Mraylの酸化シリコン(例えばSiO2)膜を用いることにより、デカプラ膜30の伝送損失を抑制することができる。しかし、この場合、上記したように、共振周波数間隔Δfが大きくなってしまい、通過帯域の中央における損失が大きくなってしまう。
【0032】
以上のように、例えばデカプラ膜30として単層膜を用いた場合、通過帯域の帯域中央の損失と伝搬損失とがトレードオフの関係になってしまう。以下、上記問題点を解決する実施例について説明する。
【実施例1】
【0033】
実施例1は、圧電膜の圧電定数を向上させる例である。まず、圧電膜の圧電定数を向上させる意義について説明する。シミュレーションを行った各膜の構成は、比較例1と同じであり、デカプラ膜30を酸化シリコン膜とし音響インピーダンスを12.7Mraylとしている。
【0034】
図10(a)は、デカプラ膜30を酸化シリコン膜とした場合の比較例1の周波数に対するインピーダンスを示す図である。2つのモードの間隔を共振周波数間隔Δfとした。図10(b)は、圧電膜14および24の誘電率(白丸)、弾性定数(黒丸)および圧電定数(白△)の変化量に対する共振周波数間隔率((fsr−far)/(fsr+far)×2×100)を示す図である。変化量は、(002)方向を主軸とする配向性を有する窒化アルミニウムの標準値で規格化した値である。誘電率(ε33)、弾性定数(c33)および圧電定数(e33)の標準値は、それぞれ8.91×1011F/m、4.29×10−11Paおよび1.55C/m2である。なお、圧電薄膜共振子においては、上下方向に伝搬する弾性波を用いているため、(002)方向を主軸とする配向性を有する窒化アルミニウムにおいては、誘電率(ε33)、弾性定数(c33)および圧電定数(e33)が特性に主に影響する。よって、シミュレーションには、これらの値を用いている。
【0035】
図10(b)のように、誘電率および圧電定数が変化しても共振周波数間隔は大きく変化しない。一方、弾性定数が小さくなるに従い、共振周波数間隔が大きくなり好ましくない。
【0036】
ここで、電気機械結合定数k33は以下の式で表されるが、弾性定数の減少は電気機械結合定数の増加を意味している。
k332=e332/(ε33・c33)
【0037】
図11(a)は、低周波数側対称モードの共振/反共振周波数間隔ΔfLを示す図である。図11(b)は、圧電膜14および24の誘電率(白丸)、弾性定数(黒丸)および圧電定数(白△)の変化量に対する共振/反共振周波数間隔率((fL2−fL1)/(fL2+fL1)×2×100)を示す図である。変化量は、(002)方向を主軸とする配向性を有する窒化アルミニウムの標準値で規格化した。図11(b)のように、誘電率および弾性定数が小さくなるに従い共振/反共振周波数間隔ΔfLが大きくなる。一方、圧電定数が大きくなるに従い低周波数対称モードの共振/反共振周波数間隔ΔfLが大きくなる。また、同じ変化割合なら、圧電定数が最も効率よくΔfLを大きくすることができる。ここで、誘電率および弾性定数の減少、および、圧電定数の増加は、電気機械結合定数k33の増加を意味している。
【0038】
図12(a)は、高周波数側対称モードの共振/反共振周波数間隔ΔfHを示す図である。図12(b)は、誘電率(白丸)、弾性定数(黒丸)および圧電定数(白△)の変化量に対する共振/反共振周波数間隔率((fH2−fH1)/(fH2+fH1)×2×100)を示す図である。変化量は、(002)方向を主軸とする配向性を有する窒化アルミニウムの標準値で規格化した。図12(b)のように、誘電率および弾性定数が小さくなるに従い共振/反共振周波数間隔ΔfHが大きくなる。一方、圧電定数が大きくなるに従い高周波数側対称モードの共振/反共振周波数間隔ΔfHが大きくなる。また、同じ変化割合なら、圧電定数が最も効率よくΔfLを大きくすることができる。ここで、誘電率および弾性定数の減少、および、圧電定数の増加は、電気機械結合定数k33の増加を意味している。
【0039】
共振/反共振周波数間隔ΔfLおよびΔfHは広い方が、CRFの通過帯域の中央の損失は改善する。よって、圧電膜の圧電定数を向上させることにより、最も効率よくCRFの通過帯域の中央の損失を改善させることができる。
【0040】
第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26を膜厚が85nmのW膜とし、第1圧電膜14および第2圧電膜24を、膜厚が680nmの窒化アルミニウム膜とし、デカプラ膜30の膜厚を385nmの酸化シリコン膜としてシミュレーションを行なった。第1圧電膜14および第2圧電膜24の圧電定数を窒化アルミニウムの圧電定数(e33)の標準値から変化させた。
【0041】
図13(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図13(b)は、通過特性を示す図である。図13(a)および図13(b)中の実線、破線および点線は、それぞれ圧電定数(e33)が、1.55C/m2(窒化アルミニウムの標準値)、1.55×1.5C/m2(窒化アルミニウムの標準値の1.5倍)および1.55×2C/m2(窒化アルミニウムの標準値の2倍)の場合のシミュレーション結果である。図13(a)のように、第1圧電膜14および第2圧電膜24の圧電定数を大きくすると、2つのモードの共振周波数間隔Δfはほぼ同じだが、2つのモードの共振/反共振周波数間隔ΔfLおよびΔfHは大きくなる。図13(b)のように、圧電膜の圧電定数が大きくなると、通過帯域の中央の損失が小さくなる。
【0042】
図14は、圧電定数の変化量に対する通過帯域の中心の挿入損失を示す図である。圧電定数(e33)は、窒化アルミニウムの標準値1.55C/m2で規格化している。図14のように、通過帯域の中心の挿入損失は、圧電定数が大きくなると小さくなる。圧電定数の変化量が2のとき挿入損失は最も小さくなる。その後、圧電定数が大きくなると挿入損失が大きくなる。
【0043】
例えば、通過帯域の帯域中心における挿入損失を−6dB以下とするためには、圧電定数(e33)は窒化アルミニウムの標準値の1.1〜3.9倍とすることが好ましい。また、挿入損失を−4dB以下とするためには、圧電定数(e33)は窒化アルミニウムの標準値の1.3〜3.3倍とすることが好ましい。
【0044】
以上のように、第1圧電膜14および第2圧電膜24の圧電定数を大きくすることにより、帯域中央の損失が小さくなる。第1圧電膜14および第2圧電膜24の圧電定数を大きくするためには、例えば、非特許文献2および3のように、窒化アルミニウムにスカンジウム(Sc)またはエルビウム(Er)等を添加することにより実現できる。
【0045】
実施例1によれば、第1圧電膜14および第2圧電膜24は圧電定数を高めるような元素を含有する窒化アルミニウムである。すなわち、第1圧電膜14および第2圧電膜24に、元素を添加しない場合に比べ、元素を添加することにより、圧電定数が大きくなるような元素を添加する。例えば、スカンジウムまたはエルビウムを添加する。これにより、通過帯域の帯域中央の損失を抑制することができる。なお、窒化アルミニウムに添加する元素は、スカンジウムまたはエルビウム以外であっても窒化アルミニウムの圧電定数を向上させるものであればよい。
【0046】
窒化アルミニウムの圧電定数のような材料定数は結晶の配向性に依存する。結晶の配向性は下地膜のラフネス等に大きく影響を受ける。例えば、窒化アルミニウムをスパッタリング法を用い形成する場合、下地膜のラフネスが悪いと、窒化アルミニウムの配向性が低下し、圧電定数も小さくなってしまう。このように、第1圧電膜14と第2圧電膜24とで共振特性が異なることがある。そこで、第1圧電膜14と第2圧電膜24とで、添加元素の含有量を異ならせる。これにより、例えば、第1圧電膜14と第2圧電膜24との圧電定数を同程度とし、共振特性を同程度とすることができる。
【0047】
また、上層の膜は下層の膜よりラフネスが悪化しやすい。これにより、第2圧電膜24の配向性が第1圧電膜14より悪くなり易い。このため、第2圧電薄膜共振子20の共振特性が第1圧電薄膜共振子10より悪化しやすい。そこで、第2圧電膜24の添加元素の含有量を第1圧電膜14の含有量と異ならせる(例えば第2圧電膜24の添加元素の含有量を高くする)ことにより、第2圧電薄膜共振子20と第1圧電薄膜共振子10との共振特性が同程度となるように制御することができる。
【実施例2】
【0048】
実施例2は、電極の膜厚を異ならせる例である。図15は、シミュレーションを行なった実施例2のCRFの構造を示す図である。図15のように、第1下部電極12および第2上部電極26の膜厚が膜厚T1、第1上部電極16および第2下部電極22の膜厚が膜厚T2である。その他の構成は図1と同じであり、説明を省略する。第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26をRu膜とし、第1圧電膜14および第2圧電膜24を、膜厚が800nmで圧電定数(e33)が1.55C/m2のAlN膜とし、デカプラ膜30を膜厚が450nmの酸化シリコン膜としてシミュレーションを行なった。シミュレーションは、第1下部電極12および第2上部電極26の膜厚T1と、第1上部電極16および第2下部電極22の膜厚T2と、を変化させた。膜厚T1と膜厚T2との合計は200nmで固定した。
【0049】
図16(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図16(b)は、通過特性を示す図である。図17は、膜厚T1/膜厚T2に対する共振周波数間隔Δfを示す図である。図16(a)および図16(b)中の実線は、膜厚T1が100nm、膜厚T2が100nmの場合(T1/T2=1.0)のシミュレーション結果を示す。破線は、膜厚T1が60nm、膜厚T2が140nmの場合(T1/T2=0.43)のシミュレーション結果を示す。点線は、膜厚T1が140nm、膜厚T2が60nmの場合(T1/T2=2.33)のシミュレーション結果を示す。図16(a)および図17のように、膜厚T1/膜厚T2が小さくなると、2つのモードの共振周波数の間隔が小さくなり、図16(b)のように、帯域中央の損失が小さくなる。
【0050】
実施例2によれば、第1上部電極16および第2下部電極22のそれぞれの膜厚は、第1下部電極12および第2上部電極26のそれぞれの膜厚より大きくすることにより、通過帯域の帯域中央の損失を小さくすることができる。例えば、第1上部電極16および第2下部電極22の膜厚が異なり、第1下部電極12および第2上部電極26の膜厚が異なる場合、第1上部電極16および第2下部電極22の薄い方の膜厚は、第1下部電極12および第2上部電極26の厚い方の膜厚より大きいことが好ましい。
【0051】
例えば、酸化シリコン膜のような音響インピーダンスの大きなデカプラ膜30を用いた場合、共振周波数の間隔が大きくなる。そこで、膜厚T1/膜厚T2を小さくすることにより、通過帯域の中央の損失を抑制することができる。一方、音響インピーダンスの小さなデカプラ膜30を用いた場合、例えば図7(b)において、音響インピーダンスが2.5Mraylのデカプラ膜30を用いた場合、共振周波数間隔が狭くなる。そこで、逆に、膜厚T1/膜厚T2を大きくして広帯域化を図ることもできる。このように、例えば音響インピーダンスが5Mrayl以下のように、音響インピーダンスが小さいデカプラ膜30を用いた場合、第1上部電極16および第2下部電極22のそれぞれの膜厚を、第1下部電極12および第2上部電極26のそれぞれの膜厚より小さくすることもできる。
【0052】
以上のように、膜厚T1とT2の比を調整することにより、共振周波数間隔、しいてはCRFの帯域特性を制御することができる。このように、第1上部電極16および第2下部電極22のそれぞれの膜厚を、第1下部電極12および第2上部電極26のそれぞれの膜厚と異ならせることができる。
【実施例3】
【0053】
実施例3は、電極の音響インピーダンスを変えた例である。図6と同じ構造のCRFについて、電極材にRuを使用した場合、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26をそれぞれ膜厚が100nmとし、第1圧電膜14および第2圧電膜24を、膜厚が800nmで圧電定数(e33)が1.55C/m2の1.5倍のAlN膜とし、デカプラ膜30を膜厚が450nmの酸化シリコン膜としてシミュレーションを行なった。シミュレーションは、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスを変化させた。この際、周波数が変化するため、周波数がほぼ一致するように、各層の膜厚に同じ補正係数をかける膜厚補正を行った。
【0054】
図18(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図18(b)は、通過特性を示す図である。図19は、電極の音響インピーダンスに対する共振周波数間隔率を示す図である。図18(a)および図18(b)中の一点鎖線は、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスが109Mraylの場合であり、イリジウム(Ir)の場合のシミュレーション結果を示す。実線は、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスが82Mraylの場合であり、タングステン(W)の場合のシミュレーション結果を示す。破線は、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスが58Mraylの場合であり、モリブデン(Mo)の場合のシミュレーション結果を示す。点線は、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスが23Mraylの場合であり、チタン(Ti)の場合のシミュレーション結果を示す。図18(a)および図19のように、電極の音響インピーダンスが大きくなると、共振周波数の間隔が小さくなる。図18(b)のように、電極の音響インピーダンスが大きくなると、通過帯域の帯域中央の損失が小さくなる。
【0055】
特に、図19のように、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスが50Mrayl以上とすることにより、共振周波数の間隔が飽和する。さらに、電極の音響インピーダンスは、60Mrayl以上がより好ましく、70Mrayl以上がさらに好ましい。各金属元素の音響インピーダンスを表1に示す。
【表1】
【0056】
表1より、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスを50Mrayl以上とするためには、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26は、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、モリブデン(Mo)、白金(Pt)およびタンタル(Ta)の少なくとも1つを含むことが好ましい。また、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26は、Ir膜、W膜、Ru膜、Rh膜、Mo膜、Pt膜またはTa膜であることが好ましい。さらに、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26として、Irを用いることが最も好ましい。なお、最も音響インピーダンスの大きい金属元素がIrであることから、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスは120Mrayl以下であることが好ましい。
【実施例4】
【0057】
実施例4は、実施例1から実施例3に係るCRFを基板上に形成した例である。図20(a)から図21(b)は、実施例4に係る弾性波デバイスの断面図である。図20(a)のように、基板50上に、第1圧電薄膜共振子10および第2圧電薄膜共振子20がデカプラ膜30を介し積層されている。基板50としては、シリコン、ガラスまたはサファイア等を用いることができる。共振領域において、第1下部電極12が基板50との間に空隙58が形成されるように設けられている。空隙58は、例えばドーム状形状を有している。その他の構成は、図6と同じであり説明を省略する。
【0058】
図20(b)のように、基板50は共振領域に基板を貫通する空隙58を有している。その他の構成は、図20(a)と同じであり説明を省略する。図21(a)のように、基板50の共振領域に対応する領域に窪みが形成され、窪みが空隙58を形成していてもよい。図21(b)のように、空隙58の代わりに、第1下部電極12下に音響反射膜62が設けられていてもよい。音響反射膜62の構造は、図3と同じであり説明を省略する。
【0059】
実施例1から4において、デカプラ膜30は、図5のような多層膜でもよい。デカプラ膜30を多層膜とすることにより、共振周波数の間隔を狭くでき、通過帯域の帯域中央の損失を小さくできる。一方、デカプラ膜30を単層膜とすることにより、デカプラ膜30の成膜は容易となる。しかし、共振周波数の間隔が大きくなり、通過帯域の帯域中央の損失が大きくなる。よって、デカプラ膜30が単層膜の場合に、実施例1から実施例4の構造を用い、通過帯域の帯域中央の損失が小さくすることが好ましい。
【0060】
また、図7(a)から図8のように、デカプラ膜30の音響インピーダンスが5Mrayl以上の場合、共振周波数の間隔が大きくなり、通過帯域の帯域中央の損失が大きくなる。よって、デカプラ膜30の音響インピーダンスが5Mrayl以上の場合に、実施例1から実施例4の構造を適用することが好ましい。デカプラ膜30の音響インピーダンスが7Mrayl以上の場合に実施例1から実施例4の構造を適用することが好ましく、10Mrayl以上の場合に実施例1から実施例4の構造を適用することがより好ましい。
【0061】
さらに、図7(a)および図8のように、デカプラ膜30が酸化シリコンを含む場合、共振周波数の間隔が大きくなり、通過帯域の帯域中央の損失が大きくなる。よって、デカプラ膜30が酸化シリコンを含む場合に、実施例1から実施例4の構造を適用することが好ましい。デカプラ膜30は、酸化シリコン膜でもよく、酸化シリコン膜に添加元素を含有した膜でもよい。例えば、酸化シリコン膜は、温度特性改善のためフッ素(F)を含有してもよい。
【0062】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 第1圧電薄膜共振子
12 第1下部電極
14 第1圧電膜
16 第1上部電極
20 第2圧電薄膜共振子
22 第2下部電極
24 第2圧電膜
26 第2上部電極
30 デカプラ膜
50 基板
58 空隙
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスに関し、特に、圧電薄膜共振子がデカプラ膜を挟んで設けられた弾性波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の高周波回路として、圧電薄膜共振子が用いられている。圧電薄膜共振子には、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)タイプとSMR(Solidly Mounted Resonator)タイプとがある。近年、アンテナデュプレクサにおいて、受信端子にバランス出力が要求されることがある。しかしながら、FBARおよびSMRを用いたフィルタにおいては、アンバランス信号とバランス信号との変換ができない。そこで、アンバランス信号とバランス信号との変換が可能なCRF(Coupled Resonator Filter)構造が検討されている(例えば、非特許文献1)。CRFは、複数の圧電薄膜共振子とデカプラ膜とを備えている。複数の圧電薄膜共振子はデカプラ膜を介し積層されている。
【0003】
非特許文献2には、窒化アルミニウムにスカンジウム(Sc)を添加することにより、圧電定数が増加することが記載されている。また、非特許文献3には、窒化アルミニウムにエルビウム(Er)を添加することにより、圧電定数が増加することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Improved Resonator Filter Performance using a Carbon-doped Oxide de-coupling Layer”, IEEE Ultrasonics Symp., 2009
【非特許文献2】Advanced Materials 2009, 21, pp293-596.
【非特許文献3】Mater. Res. Soc Symp. Proc. Vol. 1129 2009 pp21-25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CRFにおいては、低周波数側の反対称モードと、高周波数側の対称モードの2つの共振特性が出現する。この2つの共振周波数間隔が広すぎた結果、帯域の中央付近の損失が大きくなる場合、デカプラ膜の音響インピーダンスを小さくすることにより、帯域の中央付近の損失を抑制することができる。しかしながら、デカプラ膜の音響インピーダンスを小さくすると、デカプラ膜自体に起因する損失が大きくなってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、損失を抑制すること、または帯域特性を制御することが可能な弾性波デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1圧電膜と前記第1圧電膜を上下に挟む第1下部電極および第1上部電極とを含む第1圧電薄膜共振子と、前記第1上部電極上に設けられたデカプラ膜と、前記デカプラ膜上に設けられ、第2圧電膜と前記第2圧電膜を上下に挟む第2下部電極および第2上部電極とを含む第2圧電薄膜共振子と、を具備し、前記第1圧電膜および前記第2圧電膜は窒化アルミニウムにより形成されるとともに前記窒化アルミニウムの圧電定数を高める元素を含有することを特徴とする弾性波デバイスである。本発明によれば、通過帯域の帯域中央の損失を抑制することができる。
【0008】
上記構成において、前記第1圧電膜と第2圧電膜とは、前記元素の濃度が異なる構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記元素は、スカンジウムまたはエルビウムである構成とすることができる。
【0010】
本発明は、第1圧電膜と前記第1圧電膜を上下に挟む第1下部電極および第1上部電極とを含む第1圧電薄膜共振子と、前記第1上部電極上に設けられたデカプラ膜と、前記デカプラ膜上に設けられ、第2圧電膜と前記第2圧電膜を上下に挟む第2下部電極および第2上部電極とを含む第2圧電薄膜共振子と、を具備し、前記第1上部電極および前記第2下部電極のそれぞれの膜厚は、前記第1下部電極および前記第2上部電極のそれぞれの膜厚と異なることを特徴とする弾性波デバイスである。本発明によれば、損失を抑制すること、または帯域特性を制御することが可能な弾性波デバイスを提供することができる。
【0011】
上記構成において、前記第1上部電極および前記第2下部電極のそれぞれの膜厚は、前記第1下部電極および前記第2上部電極のそれぞれの膜厚より大きい構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記デカプラ膜は単層膜である構成とすることができる。
【0013】
前記デカプラ膜の音響インピーダンスは5Mrayl以上である構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記デカプラ膜は、酸化シリコンを含む構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記第1下部電極、前記第1上部電極、前記第2下部電極および前記第2上部電極の音響インピーダンスは50Mrayl以上かつ120Mrayl以下である構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記第1下部電極、前記第1上部電極、前記第2下部電極および前記第2上部電極はIr、W、Ru、Rh、Mo、PtおよびTaの少なくとも1つを含む構成とすることができる。
【0017】
上記構成において、前記第1下部電極との間に空隙が形成されるように設けられた基板を具備する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、損失を抑制すること、または帯域特性を制御することが可能な弾性波デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1(a)および図1(b)は、FBARタイプの圧電薄膜共振子のそれぞれ平面図およびA−A断面図である。
【図2】図2は、FBARタイプの圧電薄膜共振子の別の例の断面図である。
【図3】図3は、SMRタイプの圧電薄膜共振子の断面図である。
【図4】図4は、比較例1に係るCRFの断面図である。
【図5】図5は、比較例2に係るCRFの断面図である。
【図6】図6は、シミュレーションを行った比較例1のCRFの断面模式図である。
【図7】図7(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図7(b)は、通過(S21)特性を示す図である。
【図8】図8は、デカプラ膜の音響インピーダンスに対する共振周波数間隔率を示す図である。
【図9】図9は、デカプラ膜の音響インピーダンスに対する減衰量を示す図である。
【図10】図10(a)は、デカプラ膜を酸化シリコン膜とした場合の比較例1の周波数に対するインピーダンスを示す図である。図10(b)は、誘電率、弾性定数および圧電定数の変化量に対する共振周波数間隔率を示す図である。
【図11】図11(a)は、低周波数側対称モードの共振/反共振周波数間隔ΔfLを示す図である。図11(b)は、誘電率、弾性定数および圧電定数の変化量に対する共振/反共振周波数間隔率を示す図である。
【図12】図12(a)は、高周波数側対称モードの共振/反共振周波数間隔ΔfHを示す図である。図12(b)は、誘電率、弾性定数および圧電定数の変化量に対する共振/反共振周波数間隔率を示す図である。
【図13】図13(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図13(b)は、通過特性を示す図である。
【図14】図14は、圧電定数の変化量に対する通過帯域の中心の挿入損失を示す図である。
【図15】図15は、シミュレーションを行なった実施例2のCRFの構造を示す図である。
【図16】図16(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図16(b)は、通過特性を示す図である。
【図17】図17は、膜厚T1/膜厚T2に対する共振周波数間隔Δfを示す図である。
【図18】図18(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図18(b)は、通過特性を示す図である。
【図19】図19は、電極膜の音響インピーダンスに対する共振周波数間隔率を示す図である。
【図20】図20(a)および図20(b)は、実施例4に係る弾性波デバイスの断面図である。
【図21】図21(a)および図21(b)は、実施例4に係る弾性波デバイスの別の例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、圧電薄膜共振子について説明する。圧電薄膜共振子には、FBARタイプとSMRタイプとがある。図1(a)および図1(b)は、FBARタイプの圧電薄膜共振子のそれぞれ平面図およびA−A断面図である。圧電薄膜共振子は、主に、基板50、下部電極52、圧電膜54および上部電極56を備える。基板50上に下部電極52と上部電極56とが圧電膜54を挟んで設けられている。圧電膜54を挟み上部電極56と下部電極52とが対向する部分(共振領域60)の下に、基板50を貫通する空隙58が形成されている。
【0021】
図2は、FBARタイプの圧電薄膜共振子の別の例の断面図である。基板50の上面は平坦であり、基板50と下部電極52との間に空隙58が形成されるように下部電極52が形成されている。空隙58は、例えばドーム状形状を有している。例えば、基板50に窪みがあり、窪みにより、基板50と下部電極52との間に空隙58が形成されていてもよい。
【0022】
図3は、SMRタイプの圧電薄膜共振子の断面図である。共振領域60の下部電極52の下に音響反射膜62が形成されている。音響反射膜62は、音響インピーダンスの高い膜と低い膜を交互にλ/4の膜厚で積層した膜である。ここで、λは弾性波の波長である。図1から図3の圧電薄膜共振子において、下部電極52および上部電極56としては、モリブデン(Mo)、タングステン(W)およびルテニウム(Ru)等がよく用いられる。圧電膜54としては、窒化アルミニウム(AlN)がよく用いられる。基板50としては、シリコン(Si)がよく用いられる。
【0023】
次に、CRFについて説明する。図4は、比較例1に係るCRFの断面図である。基板50上に、第1圧電薄膜共振子10および第2圧電薄膜共振子20が積層されている。第1圧電薄膜共振子10は、第1下部電極12、第1圧電膜14および第1上部電極16を備えている。第2圧電薄膜共振子20は、第2下部電極22、第2圧電膜24および第2上部電極26を備えている。第1圧電薄膜共振子10と第2圧電薄膜共振子20との間に単層のデカプラ膜30が形成されている。共振領域の第1下部電極12下に空隙58が設けられている。
【0024】
図5は、比較例2に係るCRFの断面図である。比較例1と比較し、デカプラ膜30が、膜32、34等の複数の積層された膜を用い形成されている。第1下部電極12下に音響反射膜62が形成されている。その他の構成は比較例1の図4と同じであり、説明を省略する。
【0025】
比較例1の場合、デカプラ膜30として単層膜を用いているため、比較例2のように、デカプラ膜30が複数膜により形成されている場合に比べ、製造工程数が少なくかつ膜厚の制御も容易となる。一方、以下に説明するような課題もある。
【0026】
デカプラ膜30が1層の場合についてシミュレーションを行った。図6は、シミュレーションを行った比較例1のCRFの断面模式図である。CRF100は、第1圧電薄膜共振子10、第2圧電薄膜共振子20およびデカプラ膜30を含む。第1圧電薄膜共振子10は、第1圧電膜14と第1圧電膜14を上下に挟む第1下部電極12および第1上部電極16とを含む。デカプラ膜30は、第1上部電極16上に設けられている。第2圧電薄膜共振子20は、デカプラ膜30上に設けられ、第2圧電膜24と第2圧電膜24を上下に挟む第2下部電極22および第2上部電極26とを含む。このように、デカプラ膜30を挟み第1圧電薄膜共振子10と第2圧電薄膜共振子20とが積層されている。第1下部電極12および第2上部電極26はそれぞれ入出力端子40および42に接続されている。第1上部電極16および第2下部電極22はそれぞれ接地されている。
【0027】
第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26をそれぞれ膜厚が100nmのRu膜とし、第1圧電膜14および第2圧電膜24を、膜厚が800nmのAlN膜とし、デカプラ膜30の膜厚を450nmとしてシミュレーションを行なった。シミュレーションは、デカプラ膜30の音響インピーダンスを変化させた。
【0028】
図7(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図7(b)は、通過(S21)特性を示す図である。インピーダンスは、入出力端子40を接地したときの特性であり、通過特性は、入出力端子40および42間のS21である。図7(a)および図7(b)において、実線、破線および点線は、デカプラ膜30の音響インピーダンスがそれぞれ12.7Mrayl、7.6Mraylおよび2.5Mraylの場合のシミュレーション結果である。12.7Mraylは、酸化シリコン膜の音響インピーダンスに対応する。
【0029】
図7(a)のように、CRFにおいては、低周波数側に反対称モード(この周波数をfarとする)の共振特性、高周波数側に対称モード(この周波数をfsrとする)の共振特性が生じる。この2つのモードfsrとfarとの共振周波数の間隔を共振周波数間隔Δfとする。図8は、デカプラ膜30の音響インピーダンスに対する共振周波数間隔率を示す図である。共振周波数間隔率は、(fsr−far)/(fsr+far)×2×100で表される。図8のように、デカプラ膜30の音響インピーダンスが大きくなるに従い、共振周波数間隔は単純に増加する。図7(b)のように、共振周波数の間隔が広い場合、インピーダンスミスマッチに起因した通信帯域の帯域中央の損失が大きくなる。一方、共振周波数の間隔が狭い場合、通信帯域の帯域中央の損失が小さくなる。このように、図7(a)から図8によれば、デカプラ膜30の音響インピーダンスを小さくすることにより、共振周波数間隔Δfを小さくでき、通信帯域の帯域中央の損失を小さくできる。
【0030】
しかしながら、図7(a)、図7(b)および図8のシミュレーションにおいては、デカプラ膜30自体の損失は考慮していない。図9は、デカプラ膜30の音響インピーダンスに対する減衰量を示す図である。図9は、非特許文献1に記載されている図である。図9のように、デカプラ膜30の音響インピーダンスが小さくなるに従い、デカプラ膜30の伝搬損失が大きくなってしまう。以上のように、デカプラ膜30の音響インピーダンスを変えたのでは、通過帯域の帯域中央の損失と伝搬損失とがトレードオフの関係になってしまう。
【0031】
例えば、図9のように、音響インピーダンスが5Mrayl以上のデカプラ膜30を用いると、デカプラ膜30の伝送損失を小さくすることができる。例えば、音響インピーダダンスが約13Mraylの酸化シリコン(例えばSiO2)膜を用いることにより、デカプラ膜30の伝送損失を抑制することができる。しかし、この場合、上記したように、共振周波数間隔Δfが大きくなってしまい、通過帯域の中央における損失が大きくなってしまう。
【0032】
以上のように、例えばデカプラ膜30として単層膜を用いた場合、通過帯域の帯域中央の損失と伝搬損失とがトレードオフの関係になってしまう。以下、上記問題点を解決する実施例について説明する。
【実施例1】
【0033】
実施例1は、圧電膜の圧電定数を向上させる例である。まず、圧電膜の圧電定数を向上させる意義について説明する。シミュレーションを行った各膜の構成は、比較例1と同じであり、デカプラ膜30を酸化シリコン膜とし音響インピーダンスを12.7Mraylとしている。
【0034】
図10(a)は、デカプラ膜30を酸化シリコン膜とした場合の比較例1の周波数に対するインピーダンスを示す図である。2つのモードの間隔を共振周波数間隔Δfとした。図10(b)は、圧電膜14および24の誘電率(白丸)、弾性定数(黒丸)および圧電定数(白△)の変化量に対する共振周波数間隔率((fsr−far)/(fsr+far)×2×100)を示す図である。変化量は、(002)方向を主軸とする配向性を有する窒化アルミニウムの標準値で規格化した値である。誘電率(ε33)、弾性定数(c33)および圧電定数(e33)の標準値は、それぞれ8.91×1011F/m、4.29×10−11Paおよび1.55C/m2である。なお、圧電薄膜共振子においては、上下方向に伝搬する弾性波を用いているため、(002)方向を主軸とする配向性を有する窒化アルミニウムにおいては、誘電率(ε33)、弾性定数(c33)および圧電定数(e33)が特性に主に影響する。よって、シミュレーションには、これらの値を用いている。
【0035】
図10(b)のように、誘電率および圧電定数が変化しても共振周波数間隔は大きく変化しない。一方、弾性定数が小さくなるに従い、共振周波数間隔が大きくなり好ましくない。
【0036】
ここで、電気機械結合定数k33は以下の式で表されるが、弾性定数の減少は電気機械結合定数の増加を意味している。
k332=e332/(ε33・c33)
【0037】
図11(a)は、低周波数側対称モードの共振/反共振周波数間隔ΔfLを示す図である。図11(b)は、圧電膜14および24の誘電率(白丸)、弾性定数(黒丸)および圧電定数(白△)の変化量に対する共振/反共振周波数間隔率((fL2−fL1)/(fL2+fL1)×2×100)を示す図である。変化量は、(002)方向を主軸とする配向性を有する窒化アルミニウムの標準値で規格化した。図11(b)のように、誘電率および弾性定数が小さくなるに従い共振/反共振周波数間隔ΔfLが大きくなる。一方、圧電定数が大きくなるに従い低周波数対称モードの共振/反共振周波数間隔ΔfLが大きくなる。また、同じ変化割合なら、圧電定数が最も効率よくΔfLを大きくすることができる。ここで、誘電率および弾性定数の減少、および、圧電定数の増加は、電気機械結合定数k33の増加を意味している。
【0038】
図12(a)は、高周波数側対称モードの共振/反共振周波数間隔ΔfHを示す図である。図12(b)は、誘電率(白丸)、弾性定数(黒丸)および圧電定数(白△)の変化量に対する共振/反共振周波数間隔率((fH2−fH1)/(fH2+fH1)×2×100)を示す図である。変化量は、(002)方向を主軸とする配向性を有する窒化アルミニウムの標準値で規格化した。図12(b)のように、誘電率および弾性定数が小さくなるに従い共振/反共振周波数間隔ΔfHが大きくなる。一方、圧電定数が大きくなるに従い高周波数側対称モードの共振/反共振周波数間隔ΔfHが大きくなる。また、同じ変化割合なら、圧電定数が最も効率よくΔfLを大きくすることができる。ここで、誘電率および弾性定数の減少、および、圧電定数の増加は、電気機械結合定数k33の増加を意味している。
【0039】
共振/反共振周波数間隔ΔfLおよびΔfHは広い方が、CRFの通過帯域の中央の損失は改善する。よって、圧電膜の圧電定数を向上させることにより、最も効率よくCRFの通過帯域の中央の損失を改善させることができる。
【0040】
第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26を膜厚が85nmのW膜とし、第1圧電膜14および第2圧電膜24を、膜厚が680nmの窒化アルミニウム膜とし、デカプラ膜30の膜厚を385nmの酸化シリコン膜としてシミュレーションを行なった。第1圧電膜14および第2圧電膜24の圧電定数を窒化アルミニウムの圧電定数(e33)の標準値から変化させた。
【0041】
図13(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図13(b)は、通過特性を示す図である。図13(a)および図13(b)中の実線、破線および点線は、それぞれ圧電定数(e33)が、1.55C/m2(窒化アルミニウムの標準値)、1.55×1.5C/m2(窒化アルミニウムの標準値の1.5倍)および1.55×2C/m2(窒化アルミニウムの標準値の2倍)の場合のシミュレーション結果である。図13(a)のように、第1圧電膜14および第2圧電膜24の圧電定数を大きくすると、2つのモードの共振周波数間隔Δfはほぼ同じだが、2つのモードの共振/反共振周波数間隔ΔfLおよびΔfHは大きくなる。図13(b)のように、圧電膜の圧電定数が大きくなると、通過帯域の中央の損失が小さくなる。
【0042】
図14は、圧電定数の変化量に対する通過帯域の中心の挿入損失を示す図である。圧電定数(e33)は、窒化アルミニウムの標準値1.55C/m2で規格化している。図14のように、通過帯域の中心の挿入損失は、圧電定数が大きくなると小さくなる。圧電定数の変化量が2のとき挿入損失は最も小さくなる。その後、圧電定数が大きくなると挿入損失が大きくなる。
【0043】
例えば、通過帯域の帯域中心における挿入損失を−6dB以下とするためには、圧電定数(e33)は窒化アルミニウムの標準値の1.1〜3.9倍とすることが好ましい。また、挿入損失を−4dB以下とするためには、圧電定数(e33)は窒化アルミニウムの標準値の1.3〜3.3倍とすることが好ましい。
【0044】
以上のように、第1圧電膜14および第2圧電膜24の圧電定数を大きくすることにより、帯域中央の損失が小さくなる。第1圧電膜14および第2圧電膜24の圧電定数を大きくするためには、例えば、非特許文献2および3のように、窒化アルミニウムにスカンジウム(Sc)またはエルビウム(Er)等を添加することにより実現できる。
【0045】
実施例1によれば、第1圧電膜14および第2圧電膜24は圧電定数を高めるような元素を含有する窒化アルミニウムである。すなわち、第1圧電膜14および第2圧電膜24に、元素を添加しない場合に比べ、元素を添加することにより、圧電定数が大きくなるような元素を添加する。例えば、スカンジウムまたはエルビウムを添加する。これにより、通過帯域の帯域中央の損失を抑制することができる。なお、窒化アルミニウムに添加する元素は、スカンジウムまたはエルビウム以外であっても窒化アルミニウムの圧電定数を向上させるものであればよい。
【0046】
窒化アルミニウムの圧電定数のような材料定数は結晶の配向性に依存する。結晶の配向性は下地膜のラフネス等に大きく影響を受ける。例えば、窒化アルミニウムをスパッタリング法を用い形成する場合、下地膜のラフネスが悪いと、窒化アルミニウムの配向性が低下し、圧電定数も小さくなってしまう。このように、第1圧電膜14と第2圧電膜24とで共振特性が異なることがある。そこで、第1圧電膜14と第2圧電膜24とで、添加元素の含有量を異ならせる。これにより、例えば、第1圧電膜14と第2圧電膜24との圧電定数を同程度とし、共振特性を同程度とすることができる。
【0047】
また、上層の膜は下層の膜よりラフネスが悪化しやすい。これにより、第2圧電膜24の配向性が第1圧電膜14より悪くなり易い。このため、第2圧電薄膜共振子20の共振特性が第1圧電薄膜共振子10より悪化しやすい。そこで、第2圧電膜24の添加元素の含有量を第1圧電膜14の含有量と異ならせる(例えば第2圧電膜24の添加元素の含有量を高くする)ことにより、第2圧電薄膜共振子20と第1圧電薄膜共振子10との共振特性が同程度となるように制御することができる。
【実施例2】
【0048】
実施例2は、電極の膜厚を異ならせる例である。図15は、シミュレーションを行なった実施例2のCRFの構造を示す図である。図15のように、第1下部電極12および第2上部電極26の膜厚が膜厚T1、第1上部電極16および第2下部電極22の膜厚が膜厚T2である。その他の構成は図1と同じであり、説明を省略する。第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26をRu膜とし、第1圧電膜14および第2圧電膜24を、膜厚が800nmで圧電定数(e33)が1.55C/m2のAlN膜とし、デカプラ膜30を膜厚が450nmの酸化シリコン膜としてシミュレーションを行なった。シミュレーションは、第1下部電極12および第2上部電極26の膜厚T1と、第1上部電極16および第2下部電極22の膜厚T2と、を変化させた。膜厚T1と膜厚T2との合計は200nmで固定した。
【0049】
図16(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図16(b)は、通過特性を示す図である。図17は、膜厚T1/膜厚T2に対する共振周波数間隔Δfを示す図である。図16(a)および図16(b)中の実線は、膜厚T1が100nm、膜厚T2が100nmの場合(T1/T2=1.0)のシミュレーション結果を示す。破線は、膜厚T1が60nm、膜厚T2が140nmの場合(T1/T2=0.43)のシミュレーション結果を示す。点線は、膜厚T1が140nm、膜厚T2が60nmの場合(T1/T2=2.33)のシミュレーション結果を示す。図16(a)および図17のように、膜厚T1/膜厚T2が小さくなると、2つのモードの共振周波数の間隔が小さくなり、図16(b)のように、帯域中央の損失が小さくなる。
【0050】
実施例2によれば、第1上部電極16および第2下部電極22のそれぞれの膜厚は、第1下部電極12および第2上部電極26のそれぞれの膜厚より大きくすることにより、通過帯域の帯域中央の損失を小さくすることができる。例えば、第1上部電極16および第2下部電極22の膜厚が異なり、第1下部電極12および第2上部電極26の膜厚が異なる場合、第1上部電極16および第2下部電極22の薄い方の膜厚は、第1下部電極12および第2上部電極26の厚い方の膜厚より大きいことが好ましい。
【0051】
例えば、酸化シリコン膜のような音響インピーダンスの大きなデカプラ膜30を用いた場合、共振周波数の間隔が大きくなる。そこで、膜厚T1/膜厚T2を小さくすることにより、通過帯域の中央の損失を抑制することができる。一方、音響インピーダンスの小さなデカプラ膜30を用いた場合、例えば図7(b)において、音響インピーダンスが2.5Mraylのデカプラ膜30を用いた場合、共振周波数間隔が狭くなる。そこで、逆に、膜厚T1/膜厚T2を大きくして広帯域化を図ることもできる。このように、例えば音響インピーダンスが5Mrayl以下のように、音響インピーダンスが小さいデカプラ膜30を用いた場合、第1上部電極16および第2下部電極22のそれぞれの膜厚を、第1下部電極12および第2上部電極26のそれぞれの膜厚より小さくすることもできる。
【0052】
以上のように、膜厚T1とT2の比を調整することにより、共振周波数間隔、しいてはCRFの帯域特性を制御することができる。このように、第1上部電極16および第2下部電極22のそれぞれの膜厚を、第1下部電極12および第2上部電極26のそれぞれの膜厚と異ならせることができる。
【実施例3】
【0053】
実施例3は、電極の音響インピーダンスを変えた例である。図6と同じ構造のCRFについて、電極材にRuを使用した場合、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26をそれぞれ膜厚が100nmとし、第1圧電膜14および第2圧電膜24を、膜厚が800nmで圧電定数(e33)が1.55C/m2の1.5倍のAlN膜とし、デカプラ膜30を膜厚が450nmの酸化シリコン膜としてシミュレーションを行なった。シミュレーションは、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスを変化させた。この際、周波数が変化するため、周波数がほぼ一致するように、各層の膜厚に同じ補正係数をかける膜厚補正を行った。
【0054】
図18(a)は、周波数に対するインピーダンスを示す図である。図18(b)は、通過特性を示す図である。図19は、電極の音響インピーダンスに対する共振周波数間隔率を示す図である。図18(a)および図18(b)中の一点鎖線は、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスが109Mraylの場合であり、イリジウム(Ir)の場合のシミュレーション結果を示す。実線は、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスが82Mraylの場合であり、タングステン(W)の場合のシミュレーション結果を示す。破線は、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスが58Mraylの場合であり、モリブデン(Mo)の場合のシミュレーション結果を示す。点線は、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスが23Mraylの場合であり、チタン(Ti)の場合のシミュレーション結果を示す。図18(a)および図19のように、電極の音響インピーダンスが大きくなると、共振周波数の間隔が小さくなる。図18(b)のように、電極の音響インピーダンスが大きくなると、通過帯域の帯域中央の損失が小さくなる。
【0055】
特に、図19のように、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスが50Mrayl以上とすることにより、共振周波数の間隔が飽和する。さらに、電極の音響インピーダンスは、60Mrayl以上がより好ましく、70Mrayl以上がさらに好ましい。各金属元素の音響インピーダンスを表1に示す。
【表1】
【0056】
表1より、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスを50Mrayl以上とするためには、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26は、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、モリブデン(Mo)、白金(Pt)およびタンタル(Ta)の少なくとも1つを含むことが好ましい。また、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26は、Ir膜、W膜、Ru膜、Rh膜、Mo膜、Pt膜またはTa膜であることが好ましい。さらに、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26として、Irを用いることが最も好ましい。なお、最も音響インピーダンスの大きい金属元素がIrであることから、第1下部電極12、第1上部電極16、第2下部電極22および第2上部電極26の音響インピーダンスは120Mrayl以下であることが好ましい。
【実施例4】
【0057】
実施例4は、実施例1から実施例3に係るCRFを基板上に形成した例である。図20(a)から図21(b)は、実施例4に係る弾性波デバイスの断面図である。図20(a)のように、基板50上に、第1圧電薄膜共振子10および第2圧電薄膜共振子20がデカプラ膜30を介し積層されている。基板50としては、シリコン、ガラスまたはサファイア等を用いることができる。共振領域において、第1下部電極12が基板50との間に空隙58が形成されるように設けられている。空隙58は、例えばドーム状形状を有している。その他の構成は、図6と同じであり説明を省略する。
【0058】
図20(b)のように、基板50は共振領域に基板を貫通する空隙58を有している。その他の構成は、図20(a)と同じであり説明を省略する。図21(a)のように、基板50の共振領域に対応する領域に窪みが形成され、窪みが空隙58を形成していてもよい。図21(b)のように、空隙58の代わりに、第1下部電極12下に音響反射膜62が設けられていてもよい。音響反射膜62の構造は、図3と同じであり説明を省略する。
【0059】
実施例1から4において、デカプラ膜30は、図5のような多層膜でもよい。デカプラ膜30を多層膜とすることにより、共振周波数の間隔を狭くでき、通過帯域の帯域中央の損失を小さくできる。一方、デカプラ膜30を単層膜とすることにより、デカプラ膜30の成膜は容易となる。しかし、共振周波数の間隔が大きくなり、通過帯域の帯域中央の損失が大きくなる。よって、デカプラ膜30が単層膜の場合に、実施例1から実施例4の構造を用い、通過帯域の帯域中央の損失が小さくすることが好ましい。
【0060】
また、図7(a)から図8のように、デカプラ膜30の音響インピーダンスが5Mrayl以上の場合、共振周波数の間隔が大きくなり、通過帯域の帯域中央の損失が大きくなる。よって、デカプラ膜30の音響インピーダンスが5Mrayl以上の場合に、実施例1から実施例4の構造を適用することが好ましい。デカプラ膜30の音響インピーダンスが7Mrayl以上の場合に実施例1から実施例4の構造を適用することが好ましく、10Mrayl以上の場合に実施例1から実施例4の構造を適用することがより好ましい。
【0061】
さらに、図7(a)および図8のように、デカプラ膜30が酸化シリコンを含む場合、共振周波数の間隔が大きくなり、通過帯域の帯域中央の損失が大きくなる。よって、デカプラ膜30が酸化シリコンを含む場合に、実施例1から実施例4の構造を適用することが好ましい。デカプラ膜30は、酸化シリコン膜でもよく、酸化シリコン膜に添加元素を含有した膜でもよい。例えば、酸化シリコン膜は、温度特性改善のためフッ素(F)を含有してもよい。
【0062】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 第1圧電薄膜共振子
12 第1下部電極
14 第1圧電膜
16 第1上部電極
20 第2圧電薄膜共振子
22 第2下部電極
24 第2圧電膜
26 第2上部電極
30 デカプラ膜
50 基板
58 空隙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1圧電膜と前記第1圧電膜を上下に挟む第1下部電極および第1上部電極とを含む第1圧電薄膜共振子と、
前記第1上部電極上に設けられたデカプラ膜と、
前記デカプラ膜上に設けられ、第2圧電膜と前記第2圧電膜を上下に挟む第2下部電極および第2上部電極とを含む第2圧電薄膜共振子と、
を具備し、
前記第1圧電膜および前記第2圧電膜は窒化アルミニウムにより形成されるとともに前記窒化アルミニウムの圧電定数を高める元素を含有することを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項2】
前記第1圧電膜と第2圧電膜とは、前記元素の含有量が異なることを特徴とする請求項1記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記元素は、スカンジウムまたはエルビウムであることを特徴とする請求項1または2記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
第1圧電膜と前記第1圧電膜を上下に挟む第1下部電極および第1上部電極とを含む第1圧電薄膜共振子と、
前記第1上部電極上に設けられたデカプラ膜と、
前記デカプラ膜上に設けられ、第2圧電膜と前記第2圧電膜を上下に挟む第2下部電極および第2上部電極とを含む第2圧電薄膜共振子と、
を具備し、
前記第1上部電極および前記第2下部電極のそれぞれの膜厚は、前記第1下部電極および前記第2上部電極のそれぞれの膜厚と異なることを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項5】
前記第1上部電極および前記第2下部電極のそれぞれの膜厚は、前記第1下部電極および前記第2上部電極のそれぞれの膜厚より大きいことを特徴とする請求項4記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記デカプラ膜は単層膜であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記デカプラ膜の音響インピーダンスは5Mrayl以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記デカプラ膜は、酸化シリコンを含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記第1下部電極、前記第1上部電極、前記第2下部電極および前記第2上部電極の音響インピーダンスは50Mrayl以上かつ120Mral以下であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記第1下部電極、前記第1上部電極、前記第2下部電極および前記第2上部電極はIr、W、Ru、Rh、Mo、PtおよびTaの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
前記第1下部電極との間に空隙が形成されるように設けられた基板を具備することを特徴とする請求項1から10のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項1】
第1圧電膜と前記第1圧電膜を上下に挟む第1下部電極および第1上部電極とを含む第1圧電薄膜共振子と、
前記第1上部電極上に設けられたデカプラ膜と、
前記デカプラ膜上に設けられ、第2圧電膜と前記第2圧電膜を上下に挟む第2下部電極および第2上部電極とを含む第2圧電薄膜共振子と、
を具備し、
前記第1圧電膜および前記第2圧電膜は窒化アルミニウムにより形成されるとともに前記窒化アルミニウムの圧電定数を高める元素を含有することを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項2】
前記第1圧電膜と第2圧電膜とは、前記元素の含有量が異なることを特徴とする請求項1記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記元素は、スカンジウムまたはエルビウムであることを特徴とする請求項1または2記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
第1圧電膜と前記第1圧電膜を上下に挟む第1下部電極および第1上部電極とを含む第1圧電薄膜共振子と、
前記第1上部電極上に設けられたデカプラ膜と、
前記デカプラ膜上に設けられ、第2圧電膜と前記第2圧電膜を上下に挟む第2下部電極および第2上部電極とを含む第2圧電薄膜共振子と、
を具備し、
前記第1上部電極および前記第2下部電極のそれぞれの膜厚は、前記第1下部電極および前記第2上部電極のそれぞれの膜厚と異なることを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項5】
前記第1上部電極および前記第2下部電極のそれぞれの膜厚は、前記第1下部電極および前記第2上部電極のそれぞれの膜厚より大きいことを特徴とする請求項4記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記デカプラ膜は単層膜であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記デカプラ膜の音響インピーダンスは5Mrayl以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記デカプラ膜は、酸化シリコンを含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記第1下部電極、前記第1上部電極、前記第2下部電極および前記第2上部電極の音響インピーダンスは50Mrayl以上かつ120Mral以下であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記第1下部電極、前記第1上部電極、前記第2下部電極および前記第2上部電極はIr、W、Ru、Rh、Mo、PtおよびTaの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
前記第1下部電極との間に空隙が形成されるように設けられた基板を具備することを特徴とする請求項1から10のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−100029(P2012−100029A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245452(P2010−245452)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]