説明

弾性波装置の製造方法

【課題】圧電基板の一方主面に形成された電極パターンを損傷することなく、レーザ光を用いて圧電基板の他方主面にマーキングを行い、特性の低下を招くことなく、必要なマーキングが施された弾性波装置を確実に製造できるようにする。
【解決手段】
一方主面に電極パターンが形成された圧電基板の他方主面に、圧電基板に吸収される波長を有するレーザ光を照射してマ一キングを行う。
また、素子毎に個片化された圧電基板を複数個、一方主面がベース基板に対向するように、ベース基板上にフリップチップボンディングし、各圧電基板の他方主面を研磨し、個々の弾性波装置毎に分割した後、圧電基板に吸収される波長を有するレーザ光を照射してマ一キングを行う。
圧電基板として、マーキングに使用するレーザ光に対して透明な圧電単結晶材料(例えば、LiNbO3またはLiTaO3)からなるものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波装置の製造方法に関し、詳しくは、例えば、実装時の方向や、品種などの情報を表示するためマーキングが施された弾性波装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機器のフィルタや共振子を構成するために、弾性表面波装置が広く用いられている。
このような弾性表面波装置およびその製造方法の一つに、図11に示すように、圧電単結晶材料(圧電基板)101の表面に櫛型電極102、パッド電極103を設け、櫛型電極102を覆うように空間形成部108を、パッド電極103上に突起電極104をそれぞれ設け、突起電極104、空間形成部108を覆うように絶縁材料106を設けた後に、絶縁材料106と圧電基板101を研削することにより、圧電基板101の割れを防止しつつ素子の低背化を図るとともに、その後に、突起電極104と導通する端子電極105を形成するようにした弾性表面波装置の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、図12に示すように、配線パターン201に、弾性表面波素子(電気素子)203を実装し、熱硬化性樹脂組成物204で封止した後、電気素子203の上面と、熱硬化性樹脂組成物204の上面を同時に研磨することにより、弾性表面波素子(電気素子)203を損傷することなく製品を薄型化するようにした弾性表面波装置(電気素子内蔵モジュール)210の製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
ところで、上述のように、特許文献1あるいは特許文献2に開示された方法で製造される弾性表面波装置に、実装時の方向を示すドットや、品種、生産月度などを表示するコードなどの情報を表示するためのマーキング方法として、CO2レーザ(波長10.6μm)や、YAGレーザ(基本波1064nm)などを用いてマーキングを行う方法が一般的に用いられている。
【0005】
しかしながら、CO2レーザを用いて圧電基板の裏面にマーキングを行った場合、圧電基板が、LiTaO3基板やLiNbO3基板などの圧電単結晶材料からなるものである場合、圧電基板の表面にクラックが生じやすいという問題点がある。
【0006】
また、YAGレーザは、LiTaO3基板やLiNbO3基板などの圧電単結晶材料からなる基板を透過することから、YAGレーザを用いてマーキングする場合、予め圧電基板のマーキングが行われる裏面を粗面化してからレーザを照射することが行われる。
【0007】
しかしながら、圧電基板の裏面を粗面化した場合にも、いくらかのレーザ光はLiTaO3基板やLiNbO3基板などの圧電基板を透過し、この透過したレーザ光によりIDT電極が損傷するという問題点がある。
【0008】
また、近年、圧電体と絶縁体との界面を伝搬する弾性境界波を利用した、弾性境界波装置も利用されるに至っているが、上述のようにレーザ光を用いてマーキングを行う場合の問題点は弾性表面波装置に限らず、この弾性境界波装置にも当てはまるものである。
【特許文献1】特開2003−115734号公報
【特許文献2】特開2004−208326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、圧電基板に形成された電極パターンを損傷することなく、レーザ光を用いて圧電基板にマーキングを行うことが可能で、特性の低下を招くことなく、必要なマーキングが施された弾性表面波装置や弾性境界波装置などの弾性波装置を確実に製造することが可能な弾性波装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の弾性波装置の製造方法は、
マザー圧電基板の一方主面に複数の素子用電極パターンを形成する電極パターン形成工程と、
前記マザー圧電基板を素子毎に分割して個片化された圧電基板とする個片化工程と、
素子毎に個片化された前記圧電基板の他方主面に、前記圧電基板に吸収される波長を有するレーザ光を照射してマ一キングを行うマーキング工程と
を備えていることを特徴としている。
【0011】
また、本発明は、前記個片化工程と、前記マーキング工程との間に、前記個片化された圧電基板の他方主面を研磨する研磨工程を備えていることを特徴としている。
【0012】
また、本発明は、
マザー圧電基板の一方主面に複数の素子用電極パターンを形成する電極パターン形成工程と、
前記マザー圧電基板を素子毎に分割して個片化された圧電基板とする個片化工程と、
素子毎に個片化された前記圧電基板を複数個、その一方主面がベース基板に対向するように、ベース基板上にフリップチップボンディングするボンディング工程と、
前記ベース基板上にボンディングされた各圧電基板の他方主面を研磨する研磨工程と、
前記ベース基板を個々の弾性波装置毎に分割する分割工程と、
前記分割された各弾性波装置を構成する前記圧電基板の前記他方主面に、前記圧電基板に吸収される波長を有するレーザ光を照射してマ一キングを行うマーキング工程と
を備えていることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の弾性波装置の製造方法は、
マザー圧電基板の一方主面に複数の素子用電極パターンを形成する電極パターン形成工程と、
前記マザー圧電基板の一方主面側を素子毎にハーフカットするハーフカット工程と、
前記マザー圧電基板の他方主面を研磨することにより、素子毎に分割し、個片化された圧電基板とする個片化工程と、
前記圧電基板の他方主面に、前記圧電基板に吸収される波長を有するレーザ光を照射してマーキングを行う工程と
を備えていることを特徴としている。
【0014】
また、前記圧電基板が、LiNbO3またはLiTaO3からなるものであることを特徴としている。
【0015】
また、圧電基板が、LiNbO3またはLiTaO3からなるものである場合に、前記レーザ光として、波長が300nm以下のものを用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の弾性波装置の製造方法においては、一方主面に電極パターンが形成された圧電基板の他方主面に、圧電基板に吸収される波長を有するレーザ光を照射してマーキングを行うようにしているので、マーキングに用いられたレーザ光(の余分のエネルギー)を圧電基板に吸収させて、圧電基板を介して他方主面と対向する一方主面に形成された電極パターンがレーザ光により損傷することを抑制、防止できるようになる。
したがって、本発明によれば、電極パターンが損傷することによる特性の低下を招くことなく、必要なマーキングが施された弾性波装置を確実に製造することができる。
なお、本発明において、弾性波装置とは、圧電体の表面を伝搬する弾性表面波を利用した弾性表面波装置や圧電体と絶縁体との界面を伝搬する弾性境界波を利用した弾性境界波装置などを含む広い概念のものである。
したがって、本発明でいう圧電基板には、その一方主面上に、電極パターンが形成され、さらに電極パターンを覆うように一方主面上に絶縁体(絶縁膜)が配設されているものも含まれる。
【0017】
個片化工程と、マーキング工程との間に、個片化された圧電基板の他方主面を研磨する研磨工程を設けることにより、弾性波装置を低背化することが可能になるとともに、平滑な圧電基板の他方主面に、より情報の確認性に優れた明確なマーキングを施すことが可能になり、本発明をさらに実効あらしめることができる。
【0018】
また、個片化した圧電基板を一方主面がベース基板に対向するようにフリップチップボンディングし、圧電基板の他方主面を研磨した後、ベース基板を個々の弾性波装置毎に分割し、この分割された各弾性波装置を構成する圧電基板の他方主面に、圧電基板に吸収される波長を有するレーザ光を照射してマ一キングを行うことにより、複数個の圧電基板の他方主面を、フリップチップボンディングされた状態で効率よく研磨することが可能になる。したがって、圧電基板の研磨により製品の低背化が実現され、かつマーキングが施された弾性波装置を効率よく製造することが可能になる。
【0019】
また、本発明の他の弾性波装置の製造方法においては、一方主面に電極パターンが形成されたマザー圧電基板の一方主面側を素子毎にハーフカットした後、マザー圧電基板の他方主面を研磨することにより、素子毎に分割して個片化し、個片化された圧電基板の研磨された他方主面に、圧電基板に吸収される波長を有するレーザ光を照射してマーキングするようにしているので、圧電基板の他方主面の研磨により低背化が実現される。また、基板の他方主面の研磨と個片化とを効率よく行うことができる。また、この構成の場合にも、マーキングに用いられたレーザ光(の余分のエネルギー)を圧電基板に吸収させて、一方主面に形成された電極パターンが損傷することを防止することが可能になる。
したがって、電極パターンが損傷することによる特性の低下を招くことなく、必要なマーキングが施された、背の低い弾性波装置を確実にしかも効率よく製造することができる。
【0020】
また、LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電単結晶基板に対し、例えば、深紫外(波長300nm以下)のレーザ光を圧電基板の他方主面に照射してマーキングすることにより、マーキングに用いられたレーザ光(の余分のエネルギー)を効率よく圧電基板に吸収させて、一方主面に形成された電極パターンを損傷することなく、他方主面に確実にマーキングを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0022】
この実施例1では、弾性波装置として、圧電体と絶縁体との界面を伝搬する弾性境界波を利用した弾性境界波装置を製造する場合を例にとって説明する。
図3(a)は本発明の実施例1にかかる弾性波装置の製造方法により製造される弾性境界波装置10を示す平面図、図3(b)はP−P線に沿う断面図である。
【0023】
この弾性境界波装置10は、図3(a),(b)に示すように、圧電基板1と、圧電基板1の一方主面21a上に設けられたIDT(くし歯状電極)9と、圧電基板1の一方主面21a上に、IDT9を覆うように設けられた絶縁膜7と、絶縁膜7上に積層された吸音膜8を備えている。
【0024】
そして、圧電基板1の一方主面21a上には、IDT9に電気的に接続されるように配線12が形成されており、絶縁膜7は、配線12を部分的に露出させる絶縁膜開口部7aを有し、吸音膜8も、配線12を部分的に露出させる吸音膜開口部8aを有している。
【0025】
また、絶縁膜開口部7a、吸音膜開口部8aから、絶縁膜7と吸音膜8の界面に至るようにアンダーバンプメタル下地層(UBM下地層)13が配設されており、絶縁膜開口部7a、吸音膜開口部8aに充填されたアンダーバンプメタル(UBM)15は、UBM下地層13と接合され、電気的に接続されている。
【0026】
そして、絶縁膜7と吸音膜8の界面には、上記UBM下地層13と電気的に接続された給電ライン14が配設されている。
【0027】
さらに、上記UBM15上には、弾性境界波装置10を、バンプ接合により実装基板に搭載するための金属バンプ11a〜11dが印刷法などにより形成されている。なお、金属バンプ11a〜11dの構成材料としては通常はんだなどが用いられる。
【0028】
そして、この弾性境界波装置10を構成する圧電基板1の他方主面21bには、実装時の方向や、品種などの情報、製造の年月日などの情報を表示するためのマーキングが施されている(図1参照)。
【0029】
次に、図3(a),(b)に示す弾性境界波装置10の製造方法について、図4,5および6を参照しつつ説明する。
まず、個々の弾性境界波装置10の圧電基板1となるマザー圧電基板(ウエハー)1Aを用意する(図4(a)参照)。マザー圧電基板1Aとしては、この実施例1では、LiTaO3、LiNbO3の圧電単結晶材料からなるものを2種類用意した。圧電単結晶材料としては水晶を用いることも可能である。さらに、場合によっては圧電セラミックスを用いることも可能である。
【0030】
なお、図4(a)は、本発明の第1の実施形態の製造方法で用いられるマザー圧電基板(ウエハー)およびダイシングラインを説明するための模式的平面図であり、図4(b)は、マザー圧電基板における1つの弾性境界波装置が構成されている部分の拡大平面図である。
【0031】
図4(a)に示されているように、マザー圧電基板1Aは、略円形の形状を有している。ただし、マザー圧電基板1Aの平面形状は特に限定されない。このマザー圧電基板1Aにおいて、マトリックス状に多数の弾性境界波装置が構成される。すなわち、マザー圧電基板1Aには、X方向に平行に延びる、導電性材料からなる複数のダイシングライン2と、Y方向に平行に延びる、導電性材料からなる複数のダイシングライン3とが形成されている。ダイシングライン2,3に沿ってマザー圧電基板1Aを分割することにより、図4(b)に示すような、個々の弾性境界波装置10が切り出されることになる。
【0032】
なお、図4(a)に示すように、マザー圧電基板1Aには、ダイシングライン2,3と電気的に接続するように、給電端子4,5が形成されている。この給電端子4,5は、後述のUMB15(図3(b))形成のための電解メッキの際に、電圧を印可する端子として機能する。なお、この給電端子4,5は、ダイシングライン2,3と同じ導電材料により構成されている。
【0033】
以下、弾性境界波装置10の製造方法を、図5,図6を参照してより具体的に説明する。なお、図5,6では、集合状態のマザー圧電基板1Aの一部のみを拡大して示しているが、実際には、個々の弾性境界波装置10は、製造工程の最終段階で、マザー圧電基板1Aを前述したダイシングライン2,3に沿って分割することにより得られる。
【0034】
まず、図5(a)に示すように、圧電基板1(マザー圧電基板1A)上にフォトリソグラフィ法などによりIDT9を形成する。IDT9の構成材料としては、例えばAl、Cuまたはその他の適宜の金属もしくは合金などを用いることができる。また、IDT9は、複数の金属を積層してなる積層膜により形成されていてもよい。
【0035】
次に、図5(b)に示すように、IDT9と導通する配線12を形成する。配線12は、Al、Cuなどの金属材料により構成される。
この配線12の形成方法は特に限定されるものではなく、公知の種々の薄膜形成法を用いることが可能である。
【0036】
それから、図5(c)に示すように、IDT9を覆うように圧電基板1上に絶縁膜7を形成する。この実施例1では、絶縁膜7として、SiO2からなり、厚みが数μm〜10数μm程度の絶縁膜を形成した。この絶縁膜7は、スパッタリング等の薄膜形成方法により形成することができる。
【0037】
その後、図5(d)に示すように、絶縁膜7に、配線12の一部を露出させる絶縁膜開口部7aを形成する。この絶縁膜開口部7aは、例えば反応性イオンエッチングなどのドライエッチング法により形成することができる。ただし、他の方法で形成することも可能である。
【0038】
次に、図6(a)に示すように、絶縁膜開口部7a及びその周囲に、UBM下地層13、給電ライン14及びダイシングライン3を同じ導電性材料を用いて同時に形成する。 UBM下地層13は、後述するUBM15(図6(d))をその上に電解メッキにより形成するために設けられている。すなわち、UBM15を電解メッキにより形成するための下地層として機能する。もっとも、UBM下地層13は、UBM15が設けられる部分だけでなく、絶縁膜7の表面、すなわち、絶縁膜7と、吸音膜8との界面に至るように形成されている。そして、絶縁膜7と吸音膜8との界面に設けられた給電ライン14に連ねられている。また、給電ライン14と連ねられるように、ダイシングライン3が絶縁膜7上に形成されている。
【0039】
上記UBM下地層13、給電ライン14及びダイシングライン3は、Al、Cuなどの金属材料により構成される。好ましくは、絶縁膜7や配線12に対する密着強度を確保するために、Ni、NiCrもしくはTiなどからなる密着層を積層した構造を有することが望ましい。
【0040】
次に、図6(b)に示すように、吸音膜8としてエポキシ樹脂膜を形成する。
エポキシ樹脂膜は、例えば、熱硬化型エポキシ樹脂系組成物あるいは光硬化型エポキシ樹脂系組成物を塗布し硬化することにより形成される。エポキシ樹脂以外のポリイミドなどの他の樹脂を用いてもよい。
【0041】
その後、図6(c)に示すように、吸音膜8に吸音膜開口部8aを形成する。吸音膜開口部8aの形成に際し、吸音膜開口部8aの下方に埋められている吸音膜8構成材料も除去することにより絶縁膜開口部7aを再度露出させる。このような開口の形成は、感光性樹脂等を用いたフォトリソグラフィなどの方法により行うことができる。これにより、絶縁膜開口部7aが再度形成されることになり、UBM下地層13が再度絶縁膜開口部7aの底部に露出されることになる。
【0042】
次に、図4(a)に示した給電端子4,5から電圧を印加する。印加された電圧はダイシングライン2,3および給電ライン14を介してUBM下地層13に伝わり、Niの電解メッキによって、UBM15(図3(b)、図6(d))が形成される。
【0043】
なお、この実施例1では、UBM15はNiを電解メッキすることにより形成されているが、Ni以外の適宜の金属によりUBM15を形成することも可能である。
【0044】
次に、上記UBM15上に、印刷法等によりはんだなどの材料からなる金属バンプ11a〜11dを形成する(図3(b),図4(b))。
【0045】
それから、図4(a)に示したダイシングライン2,3に沿ってダイシングライン2,3が形成されている部分を除去するように、ダイサーによりマザー圧電基板1Aを切断する。
これにより、ダイシングの工程で、図3(a)に示されているダイシングライン2,3を含むダイシング領域2A,3Aが除去されることになり、図3(a)中のP−P線断面図である図3(b)に示すように、切断により端面10aが形成されることになる。このようにして、個々の弾性境界波装置10が取り出される。なお、得られた弾性境界波装置10においては、金属バンプ11a〜11dが設けられているので、バンプ接合により実装基板に搭載することができる。
なお、この実施例1で作製した弾性境界波装置10は、その寸法が、圧電基板1の厚さ:0.250mmであり、チップサイズ(平面サイズ)は、長さ:0.800mm、幅:0.600mmである。
【0046】
それから、上述のようにして作製した図3(a),(b)に示すような構造を有する弾性境界波装置10の下面すなわち、LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電基板1の他方主面21bを研磨した。
【0047】
次に、研磨された圧電基板1の他方主面21bにレーザ光を照射してマーキングを施した。
【0048】
なお、マーキングには、以下の条件のレーザ光を用いた。
レーザ光の種類 :ランプ励起YAG−FHGレーザ
レーザ光の波長 :266nm(第4高調波)
レーザ出力 :75mmW
ガルバノスピード:20mm/s
周波数 :10kHz
【0049】
また、マーキングを行うに当たっては、平面サイズが、長さ0.800m、幅0.600mmの弾性境界波装置10を構成する圧電基板1の他方主面21bに6文字のマーキングを施した。
ただし、マーキングは、
文字の線幅 :0.025mm
文字描画加工スピード :41ms/6文字
の条件でを行った。
【0050】
なお、上記レーザ光は、LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電基板1との関係でいえば、圧電基板1の他方主面21bからレーザ光を上記の条件で照射した場合には、レーザ光のエネルギーがすべて圧電基板1に吸収され、圧電基板1の一方主面21aに達しないようなレーザ光である。
【0051】
<マーキングの評価>
上述のような条件で、圧電基板(圧電単結晶材料からなる基板)1に吸収される、深紫外(300nm以下(266nm))のレーザ光を、圧電基板1の他方主面(弾性境界波装置の下面)21bに直接照射して、圧電基板1の他方主面21bの表面近傍を溶融除去することにより、圧電基板の一方主面21aに形成されたIDT9などの電極パターンを損傷することなく、その後の洗浄工程などにおいても消失することのないマーキングを行うことができた。
【0052】
図1は、弾性境界波装置を構成する圧電基板の、マークが形成された他方主面の顕微鏡写真を示す図である。
図1に示すように、この実施例1の方法によれば、明瞭な文字をマーキングできることがわかる。
【0053】
なお、図2は、レーザ光の波長と、LiNbO3基板(厚さ:1mm、透明ポリッシュ基板)へのレーザ光の透過率の関係を示す図である。図2に示すように、波長が300nm以下になると、レーザ光の透過率が0%となっており、このことからも、この実施例1のように、波長が266nmのレーザ光を照射してマーキングを行った場合、光透過率が0%になって、圧電基板の一方主面(図3(b)における上面)に形成されたIDTなどの電極パターンを損傷することなくマーキングできることが裏付けられている。
【0054】
なお、この実施例1では圧電基板の厚みが250μmであるのに対し、レーザ光の焦点深度が約500μmと長いため、圧電基板の表面ないしはその近傍で、エネルギーのほぼ全部が吸収されるようなレーザ光でなければ、圧電基板を透過して、一方主面に形成されたIDTにもレーザが集光照射され、IDTが破壊されてしまうことになるが、上述の実施例1の条件では、IDTが損傷を受けるようなことはなかった。
【0055】
この実施例1では、波長300nm以下のレーザ光として、ランプ励起YAG−FHGレーザを使用したが、レーザ光はこれに限られるものではなく、例えば、LD励起YAG−FHGレーザ、LD励起YVO4−FHGレーザ、LD励起YLF−FHGレーザ、KrFエキシマレーザ、ArFエキシマレーザ、F2エキシマレーザ、Arイオンレーザ、YAG/YVO4結晶による第5以上の高次の高調波レーザなどを適宜選択して用いることが可能である。
【0056】
なお、LiNbO3とLiTaO3は圧電材料として類似した物性を備えていることから、LiNbO3とLiTaO3のいずれからなる圧電基板が用いられている場合にも、本発明によれば、一方主面に形成されたIDTが破壊されてしまうようなことを防止しつつ、圧電基板の他方主面に確実にマーキングを施すことができる。
ただし、上述のLiNbO3とLiTaO3とは異なる物性を有する圧電基板を用いる場合においても、条件を適切に調整することにより、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることが可能である。
【0057】
なお、参考として、この実施例1で用いた、ランプ励起YAG−FHGレーザ(波長266nmの第4高調波)の代わりに、基本波(波長1064nm)、第2高調波(波長532nm)、第3高調波(波長355nm)を用いてマーキングした弾性境界波装置の圧電基板の他方主面および、電極パターンが形成された圧電基板の一方主面の顕微鏡写真を、図7(a),(b),図8(a),(b),図9(a),(b)に示す。
【0058】
なお、図7(a)は、基本波(波長1064nm)を用いてマーキングを行った場合の圧電基板の他方主面(レーザ光が照射された面)、図7(b)は、圧電基板の一方主面(IDTが形成された面)を示す図である。
【0059】
また、図8(a)は、第2高調波(波長532nm)を用いてマーキングを行った場合の圧電基板の他方主面(レーザ光が照射された面)、図8(b)は、圧電基板の一方主面(IDTが形成された面)を示す図である。
【0060】
さらに、図9(a)は、第3高調波(波長355nm)を用いてマーキングを行った場合の圧電基板の他方主面(レーザ光が照射された面)、図9(b)は、圧電基板の一方主面(IDTが形成された面)を示す図である。
【0061】
図7(a),図8(a)および図9(a)に示すように、どのレーザ光を用いた場合にも、圧電基板の他方主面(下面側)が削られており、マーキングの鮮明さはともかく、マーキングを行うことは可能であることがわかる。
【0062】
しかしながら、図7(b),図8(b)に示すように、基本波、第2高調波を用いた場合、IDT(電極パターン)が破壊されており、好ましい結果を得ることができなかった。
【0063】
また、第3高調波を用いた場合、図9(b)では、IDT(電極パターン)は大きな損傷を受けていないようにみえるが、弾性境界波装置としての特性を測定した結果、IDT(電極パターン)が削られたことによる特性劣化が認められた。
【0064】
なお、この実施例1では、ダイサーによりマザー圧電基板を切断して、個々の弾性境界波装置を切り出すようにした場合を例にとって説明したが、予めマザー圧電基板の一方主面側を素子毎にハーフカットしておき、その後に、マザー圧電基板の他方主面を研磨することにより、素子毎に分割し、個片化された圧電基板を得るように構成することも可能である。
【0065】
このようにした場合、圧電基板の他方主面の研磨により低背化を実現することが可能になるとともに、基板の他方主面の研磨と個片化とを効率よく行うことが可能になり、生産性を向上させることができる。
【実施例2】
【0066】
図10は本願発明の他の実施例(実施例2)にかかる弾性表面波装置の製造方法を模式的に示す図である。
以下、図10を参照しつつ、この実施例2の弾性表面波装置の製造方法について説明する。なお、図10において、図3と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示す。
【0067】
(1)マザー圧電基板の一方主面に複数の電極パターンを形成した後、ダイシングラインに沿って、ダイサーによりマザー圧電基板を切断することによって得られる個片化した圧電基板1(他方主面を研磨していない状態の圧電基板)を、複数個、その一方主面21aがベース基板31に対向するように、ベース基板31上にフリップチップボンディングする(図10参照)。
【0068】
(2)次に、図10に示すように、ベース基板31上にボンディングされた各圧電基板1の他方主面21bを研磨した後、ダイサーにより、所定のカットラインLに沿ってベース基板31を切断し、個々の弾性表面波装置20毎に分割する。
【0069】
(3)それから、分割された各弾性表面波装置20を構成する圧電基板1の他方主面21bに、圧電基板1に吸収される波長を有するレーザ光(例えば、上記実施例1で用いたものと同じランプ励起YAG−FHGレーザ)を照射してマ一キングを行う。
【0070】
この実施例2の方法の場合、複数個の圧電基板の他方主面を、フリップチップボンディングされた状態で効率よく研磨することが可能になる。その結果、圧電基板の研磨により製品の低背化が実現され、かつ、電極パターンを損傷することなくマーキングが施された弾性波装置を効率よく製造することができる。
【0071】
なお、本発明は、上記実施例に限られるものではなく、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明にかかる方法により製造された弾性境界波装置であって、圧電基板の他方主面にマーキングが施された弾性境界波装置を示す顕微鏡写真である。
【図2】レーザ光の波長と、LiNbO3基板(厚さ:1mm、透明ポリッシュ基板)へのレーザ光の透過率の関係を示す図である。
【図3】(a)は本発明の実施例1にかかる弾性境界波装置の製造方法により製造された弾性境界波装置を模式的に示す平面図、(b)は(a)のP−P線に沿う部分の正面断面図である。
【図4】(a)は本発明の実施例1にかかる弾性境界波装置の製造方法において形成された、切断して個々の弾性境界波装置を取り出す前のマザー圧電基板およびダイシングラインを説明するための模式的平面図であり、(b)はマザー圧電基板における1つの弾性境界波装置が構成されている部分の拡大平面図である。
【図5】(a)〜(d)は、本発明の実施例1にかかる弾性境界波装置の製造方法を説明するための各部分正面断面図である。
【図6】(a)〜(d)は、本発明の実施例1にかかる弾性境界波装置の製造方法を説明するための各部分正面断面図である。
【図7】(a)は、基本波(波長1064nm)を用いてマーキングを行った場合の圧電基板の他方主面(レーザ光が照射された面)、(b)は、圧電基板の一方主面(IDTが形成された面)を示す図である。
【図8】(a)は、第2高調波(波長532nm)を用いてマーキングを行った場合の圧電基板の他方主面(レーザ光が照射された面)、(b)は、圧電基板の一方主面(IDTが形成された面)を示す図である。
【図9】(a)は、第3高調波(波長355nm)を用いてマーキングを行った場合の圧電基板の他方主面(レーザ光が照射された面)、(b)は、圧電基板の一方主面(IDTが形成された面)を示す図である。
【図10】本発明の他の実施例(実施例2)にかかる弾性境界波装置の製造方法を模式的に示す図である。
【図11】従来の弾性表面波装置の製造方法を説明するための図であり、(a)は正面断面図、(b)はその機能部を示す平面図である。
【図12】従来の他の弾性表面波装置を示す正面断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 圧電基板
1A マザー圧電基板
2,3 ダイシングライン
2A,3A ダイシング領域
4,5 給電端子
7 絶縁膜
7a 絶縁膜開口部
8 吸音膜
8a 吸音膜開口部
9 IDT
10 弾性境界波装置
10a 端面
11a〜11d 金属バンプ
12 配線
13 アンダーバンプメタル下地層(UBM下地層)
14 給電ライン
15 アンダーバンプメタル(UBM)
20 弾性表面波装置
21a 圧電基板の一方主面
21b 圧電基板の他方主面
31 ベース基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マザー圧電基板の一方主面に複数の素子用電極パターンを形成する電極パターン形成工程と、
前記マザー圧電基板を素子毎に分割して個片化された圧電基板とする個片化工程と、
素子毎に個片化された前記圧電基板の他方主面に、前記圧電基板に吸収される波長を有するレーザ光を照射してマ一キングを行うマーキング工程と
を備えていることを特徴とする弾性波装置の製造方法。
【請求項2】
前記個片化工程と、前記マーキング工程との間に、前記個片化された圧電基板の他方主面を研磨する研磨工程を備えていることを特徴とする、請求項1記載の弾性波装置の製造方法。
【請求項3】
マザー圧電基板の一方主面に複数の素子用電極パターンを形成する電極パターン形成工程と、
前記マザー圧電基板を素子毎に分割して個片化された圧電基板とする個片化工程と、
素子毎に個片化された前記圧電基板を複数個、その一方主面がベース基板に対向するように、ベース基板上にフリップチップボンディングするボンディング工程と、
前記ベース基板上にボンディングされた各圧電基板の他方主面を研磨する研磨工程と、
前記ベース基板を個々の弾性波装置毎に分割する分割工程と、
前記分割された各弾性波装置を構成する前記圧電基板の前記他方主面に、前記圧電基板に吸収される波長を有するレーザ光を照射してマ一キングを行うマーキング工程と
を備えていることを特徴とする弾性波装置の製造方法。
【請求項4】
マザー圧電基板の一方主面に複数の素子用電極パターンを形成する電極パターン形成工程と、
前記マザー圧電基板の一方主面側を素子毎にハーフカットするハーフカット工程と、
前記マザー圧電基板の他方主面を研磨することにより、素子毎に分割し、個片化された圧電基板とする個片化工程と、
前記圧電基板の他方主面に、前記圧電基板に吸収される波長を有するレーザ光を照射してマーキングを行う工程と
を備えていることを特徴とする弾性波装置の製造方法。
【請求項5】
前記圧電基板が、LiNbO3またはLiTaO3からなるものであることを特徴とする請求項1〜4に記載の弾性波装置の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ光の波長が300nm以下であることを特徴とする請求項5記載の弾性波装置の製造方法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図1】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−103811(P2010−103811A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274113(P2008−274113)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】