説明

弾性表面波センサおよび弾性表面波センサの圧力測定方法

【課題】 温度変化の影響を小さくできる弾性表面波センサ,および,弾性表面波センサの圧力測定方法を提供する。
【解決手段】 弾性表面波センサ1は、発振回路11〜14,周波数ミキサ21〜24を備えている。
周波数ミキサ21は、発振回路11および発振回路12の出力周波数の差の周波数Fx1_Tを出力する。また、周波数ミキサ22は、発振回路12および発振回路13の出力周波数の差の周波数Fx2_Tを出力する。基準状態においてはFx2_0=Fx1_0となるように設定されている。
また、第3の周波数ミキサ23は、第4の発振回路14および第2の周波数ミキサ22の出力周波数の差の周波数Fx3_Tを出力する。Fx3_T=Fx2_T−F4となる。第4の周波数ミキサ24は、Fx1_TとFx3_Tとの差の周波数を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子を用いて構成される弾性表面波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体や液体などの圧力の変動を検出する圧力センサとして、印加される圧力の変動を発振周波数の変化として検出する弾性表面波センサが用いられている。
【0003】
このような弾性表面波センサとして、例えば、櫛歯状電極より構成される弾性表面波素子を備える発振回路(発振器)を、圧電基板における厚みを薄くした領域の中心部と周縁部の2箇所に配置する構造の弾性表面波センサ(圧力トランスデューサ)が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
弾性表面波センサは、圧電基板に圧力が加えられると、圧電基板の表面応力が変化し弾性表面波の音速が変化するとともに、弾性表面波素子の電極の間隔も変化する。このことにより発振回路の発振周波数が変化するため、この発振周波数の変化を測定することで、圧電基板に加わる圧力の変化を検出することができる。さらに、上述した特許文献1の弾性表面波センサは、等しい発振周波数および温度特性を有する2つの発振回路の差の周波数を取り出すことで、温度変化に伴う発振周波数の変化の大半を取り除くことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55−153412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のように等しい発振周波数を有する2つの発振回路における出力周波数の差の周波数は非常に低い周波数となる場合がある。周波数の計測には少なくとも発振1周期分の時間が必要となるため、その周波数が低すぎると、検出速度が遅くなることがある。
【0007】
そこで、2つの発振回路に、予め所定以上の発振周波数の差を持たせると、その差の周波数が低くなりすぎることが抑制できる。
【0008】
上述した従来の弾性表面波センサでは、2つの発振回路の発振周波数に大きな差が生じないことを前提としているため、2つの発振回路の発振周波数に製造上の誤差が生じてしまう場合や、異なる発振周波数を有する発振回路でセンサを構成する場合など、発振周波数に差がある場合には、温度変化による誤差が大きくなる。その理由を以下に説明する。
【0009】
基準温度での2つの発振回路の発振周波数をそれぞれF1_0、F2_0としたとき(ここでは圧電基板に加わる圧力の変化は考えないものとする)、基準温度からT度温度上昇した場合の2つの発振器の発振周波数F1_T、F2_T、およびそれらの差の周波数Fx_Tは、温度変化の係数をk、温度変化をT、絶対値の関数をabs( )として、次のように表せる。
【0010】
F1_T=F1_0×(1+kT)
F2_T=F2_0×(1+kT)
Fx_T=abs(F1_T−F2_T)=abs(F1_0−F2_0)×(1+kT)
上記Fx_Tにおいては、差の周波数(F1_0−F2_0)に温度係数kと温度変化Tとを掛けた分が、温度変化に伴う周波数の変化量となる。
【0011】
具体例を挙げると、F1_0が100MHz、F2_0 が101MHz、温度係数が1e-4のとき、温度変化がない場合、Fx_Tは1MHzであるが、温度が100度上昇とすると、Fx_Tは1.01MHzとなり、温度による周波数の変化は0.01MHzとなる。
【0012】
センサが圧力を受けたときの周波数変化が数十kHz程度である場合には、誤差の0.01MHz(=10kHz)は無視できない大きさとなる。このように、従来の技術では、発振周波数に差があることに起因して、温度変化による測定誤差が発生してしまうという問題があった。
【0013】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、温度変化の影響を小さくできる弾性表面波センサ,および,弾性表面波センサの圧力測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した問題点を解決するためになされた請求項1に記載の弾性表面波センサは、圧電基板に形成される弾性表面波素子を有する発振回路を用いて圧電基板に加えられる圧力の変動を測定するものである。
【0015】
この弾性表面波センサは、第1の発振手段と第2の発振手段とを備えている。これら発振手段は、それぞれ圧電基板上に形成される一対の発振回路から構成されている。なお、第2の発振手段を構成する一対の発振回路は、少なくとも一方の発振回路が第1の発振手段を構成する一対の発振回路と異なればよい。つまり、第1の発振手段と第2の発振手段とを構成する発振回路は全て異なる発振回路であってもよいし、1つの発振回路が両方の発振手段に共有されるように用いられる構成であってもよい。
【0016】
また、この弾性表面波センサは、第1〜第3のミキシング回路を備えている。第1のミキシング回路は、第1の発振手段を構成する発振回路それぞれと接続し、それら発振回路の出力周波数の差の周波数である第1の周波数Fx1_Tを出力する。また、第2のミキシング回路は、第2の発振手段を構成する発振回路それぞれと接続し、それら発振回路の出力周波数の差の周波数である第2の周波数Fx2_Tを出力する。
【0017】
また、第3のミキシング回路は、上記第1の周波数Fx1_Tと、所定の係数αを付けた第2の上記周波数Fx2_Tと、の差の周波数を出力する。
【0018】
なお、「第2の周波数Fx2_Tに係数αを付ける」とは、Fx1_TまたはFx2_Tを逓倍または分周して、Fx1_Tの倍率に対してFx2_Tの倍率がα倍となるように設定することである。例えばα=1/3であれば、Fx1_Tに対しては逓倍も分周もせず、Fx2_Tを1/3に分周することで、係数αを付けることを実現できる。
【0019】
ここで、所定の係数αとは、E=Fx1_0−(α×Fx2_0)という式において、Eが略0となるように設定した値である。なお、Fx1_0は、基準温度かつ圧電基板が所定の圧力にて加圧される状態である基準状態における第1の周波数を示しており、Fx2_0はその基準状態における第2の周波数を示している。
【0020】
上述した構成の弾性表面波センサの効果を説明する。Eが略0になるということは、Fx1_0とα×Fx2_0とが略等しくなるということであり、つまり基準状態において第3のミキシング回路へ入力する周波数を略等しくなるように設定することである。
【0021】
ここで、第1の発振手段を構成する発振回路の周波数をF1_T、F2_T,第2の発振手段を構成する発振回路の周波数をF3_T、F4_Tとし、各発振回路の基準状態における発振周波数をそれぞれF1_0、F2_0、F3_0、F4_0とする。圧電基板に圧力が加わって各発振回路の周波数が変化したときの変化した周波数をそれぞれA、B、C、Dとすると、温度変化の係数を示す式f(T)を用いて
F1_T=(F1_0+A)×(1+f(T))
F2_T=(F2_0+B)×(1+f(T))
F3_T=(F3_0+C)×(1+f(T))
F4_T=(F4_0+D)×(1+f(T))
と表すことができる。
【0022】
なお、温度変化の係数を示す式f(T)は、実際には発振回路ごとに個体差がある場合があるが、同一の圧電基板に同形状の弾性表面波素子を形成した場合など、構成が等しい場合にはほぼ等しい値となるので、全ての発振回路で同一の値を用いて計算する。
【0023】
ここで、第1のミキシング回路の出力周波数Fx1_Tは次のように表せる。なお、F1_T>F2_T、またその差がA,Bより十分大きいとして、abs( )を除いている。
【0024】
Fx1_T=F1_T−F2_T={(F1_0+A)×(1+f(T))}−{(F2_0+B)×(1+f(T))}
第2のミキシング回路の出力周波数Fx2_Tは次のように表せる。なお、F3_T>F4_T、またその差がC,Dより十分大きいとして、abs( )を除いている。
【0025】
Fx2_T=F3_T−F4_T={(F3_0+C)×(1+f(T))}−{(F4_0+D)×(1+f(T))}
次に、第3ミキシング回路の出力値Foutは、係数αを用いて、次のように表せる。
【0026】
Fout=Fx1_T−Fx2_T
=[{(F1_0+A)×(1+ f(T))}−{(F2_0+B)×(1+f(T))}]−α[{(F3_0+C)×(1+f(T))}−{(F4_0+D)×(1+f(T))}]
ここで、温度変化の係数を示す式f(T)を含む項と含まない項に分けると、
Fout=[(F1_0+A)−(F2_0+B)−α{(F3_0+C)−(F4_0+D)}]+[(F1_0+A)−(F2_0+B)−α{(F3_0+C)−(F4_0+D)}]×f(T)
となる。この式は、次のように書きなおせる。
【0027】
Fout=[(F1_0−F2_0)−α(F3_0−F4_0)+A−B−α(C−D)]+[(F1_0−F2_0)−α(F3_0−F4_0)+A−B−α(C−D)]×f(T)・・・(1)式
ここで、上述したEを表す式が0となるようにαを設定すると、
E=Fx1_0−(α×Fx2_0)=(F1_0−F2_0)−α(F3_0−F4_0)=0であるから、α(F3_0−F4_0)=(F1_0−F2_0)となる。これを用いて上記(1)式を整理すると、Foutは次のように表せる。
【0028】
Fout=[(A)−(B)−α(C)+α(D)]+[(A)−(B)−α(C)+α(D)]×f(T)
このように、第3のミキシング回路の出力する周波数Foutは、圧電基板に圧力が加わって各発振回路の周波数が変化したときの変化した周波数に基づく値のみとなり、基準状態における発振回路の発振周波数の影響を受けない。そのため、複数の発振回路の基準状態における発振周波数に差があっても、温度変化による出力値への影響を小さくすることができる。
【0029】
さらに、各発振回路は、製造上の発振周波数の誤差を勘案した状態で係数αの値を設定することで、製造上の周波数誤差によって発生する温度変化による影響を小さくすることができる。
【0030】
ところで、2つのミキシングする周波数が近い値である場合、出力が非常に低い周波数となってしまう可能性があり、その場合、圧力の測定に時間が掛かるなどの問題が発生する。そのため、各ミキシング回路から出力される周波数はある程度の高さを有するほうが好ましい。そのためには、請求項1に記載の弾性表面波センサを、請求項2に記載のように構成するとよい。
【0031】
請求項2に記載の弾性表面波センサは、第1の周波数Fx1_Tおよび第2の周波数Fx2_Tが所定の周波数以上となるように、上述した第1の発振手段および第2の発振手段が設定されている。言い換えると、第1の発振手段を構成する発振回路の周波数の差、および、第2の発振手段を構成する発振回路の周波数の差が、所定の周波数以上となるように構成されている。
【0032】
ただし、これだけでは第3のミキシング回路が出力する周波数、つまり第1の周波数Fx1_Tと係数αを付けた前記第2の周波数Fx2_Tとの差の周波数が低くなりすぎる可能性が残るため、第3のミキシング回路に入力される周波数のいずれか一方に、温度および圧電基板に加えられる圧力の変化に応じて変化しない固定周波数をミキシングするように構成されている。
【0033】
このように構成された弾性表面波センサであれば、第1〜第3のミキシング回路のいずれの出力周波数も低くなりすぎることがない。よって、各ミキシング回路の出力が低い周波数となり、圧力の測定に時間が掛かることを抑制できる。
【0034】
ところで、上記構成の弾性表面波センサにおいて、圧電基板に加えられた圧力の大きさの測定は、圧力の変化に伴う各発振回路の周波数変動を測定することで実現する。しかしながら、上述したように、各発振回路の発振周波数は第1〜第3のミキシング回路でミキシングされるため、その各発振回路の周波数変動分もミキシングされることになる。このとき、ミキシングによって周波数変動分が0となると、圧力の変化が測定できないという問題が生じる。この問題を解決するためには、請求項3に記載の弾性表面波センサのように、圧電基板に対して加えられる圧力の大きさにより変化する第1の周波数Fx1_Tの変化度合と係数αを付けた第2の周波数Fx2_Tの変化度合とが異なるように、第1および第2の発振手段が構成されているとよい。
【0035】
このように構成された弾性表面波センサであれば、圧電基板にある大きさの圧力が加えられたときの第1の周波数Fx1_Tの変化量と第2の周波数Fx2_Tの変化量とが異なるため、第3のミキシング回路の出力値において周波数変動分が0となることを防止できる。
【0036】
請求項4に記載の弾性表面波センサは、請求項1から請求項3のいずれかに記載の弾性表面波センサにおいて、上記基準状態における第1の周波数Fx1_0と第2の周波数Fx2_0とが略同一となるように、第1および第2の発振手段が設定されていることを特徴とする。
【0037】
このように構成されている弾性表面波センサであれば、係数αが1となるため、周波数を分周するための分周器などを取り付ける必要がなくなるため都合がよい。
【0038】
請求項5に記載の発明は、圧電基板に形成される弾性表面波素子を有する発振回路を、圧電基板上に一対配置してなる第1の発振手段と、圧電基板に形成される弾性表面波素子を有する発振回路を、圧電基板上に一対配置してなり、少なくとも一方の発振回路が第1の発振手段を構成する発振回路と異なる発振回路である第2の発振手段と、を有する弾性表面波センサの圧力測定方法である。
【0039】
この弾性表面波センサの圧力測定方法では、第1の発振手段を構成する発振回路それぞれにおける出力周波数の差の周波数を第1の周波数Fx1_Tとし、第2の発振手段を構成する発振回路それぞれにおける出力周波数の差の周波数を第2の周波数Fx2_Tとしたときに、上記第1の周波数Fx1_Tと、式E=Fx1_0−(α×Fx2_0)において、Eが略0となる係数αを付けた第2の周波数Fx2_Tと、の差の周波数を出力する出力ステップを有することを特徴とする。なお、係数αを付ける、とは、請求項1に記載された内容と同様の意味である。
【0040】
このような方法により弾性表面波センサの圧力測定を行う場合、請求項1に記載の弾性表面波センサと同様の作用,効果を得ることができる。
【0041】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の弾性表面波センサの圧力測定方法であって、第1の周波数Fx1_Tおよび第2の周波数Fx2_Tが所定の周波数以上となるように、第1および第2の発振手段が設定されている。
【0042】
この圧力測定方法では、出力ステップの前にはミキシングステップを有している。このミキシングステップでは、第1の周波数Fx1_Tまたは係数αを付けた第2の周波数Fx2_Tに対して、温度および圧電基板に加えられる圧力の変化に応じて変化しない固定周波数をミキシングする。
【0043】
そして、出力ステップでは、第1の周波数Fx_1と、係数αを付けた第2の周波数Fx_2と、のいずれか一方に固定周波数がミキシングされたものと、上記一方とは異なる他方と、の差の周波数を出力する。
【0044】
このような方法により弾性表面波センサの圧力測定を行う場合、請求項2に記載の弾性表面波センサと同様の作用,効果を得ることができる。
【0045】
請求項7に記載の発明は、請求項5または請求項6に記載の弾性表面波センサの圧力測定方法であって、圧電基板に対して加えられる圧力の大きさにより変化する第1の周波数Fx1_Tの変化度合と係数αを付けた第2の周波数Fx2_Tの変化度合とが異なるように、第1および第2の発振手段が設定されていることを特徴とする。
【0046】
このような方法により弾性表面波センサの圧力測定を行う場合、請求項3に記載の弾性表面波センサと同様の作用,効果を得ることができる。
【0047】
請求項8に記載の発明は、請求項5から請求項7のいずれかに記載の弾性表面波センサの圧力測定方法であって、上述した基準状態における第1の周波数Fx1_0と第2の周波数Fx2_0とが略同一となるように、第1および第2の発振手段が設定されていることを特徴とする。
【0048】
このような方法により弾性表面波センサの圧力測定を行う場合、請求項4に記載の弾性表面波センサと同様の作用,効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1の弾性表面波センサの構成を示す図
【図2】弾性表面波センサの圧電基板および発振回路の配置を示す斜視図
【図3】実施例2の弾性表面波センサの構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[実施例1]
(1)全体構成
本実施例の弾性表面波センサ1は、図1に示すように、第1〜第4の発振回路11〜14,第1〜第4の周波数ミキサ21〜24を備えている。
【0051】
これらのうち、第1〜第3の発振回路11〜13、および、第1,第2の周波数ミキサ21,22は、測定領域2に配置され、発振回路14および周波数ミキサ23,24は、出力調整領域3に配置される。
【0052】
なお、測定領域2とは、弾性表面波センサ1が圧力を測定する対象が存在する領域(例えば、エンジン燃焼室内など)であって、−40℃〜400℃の温度変化が起こりうる領域である。一方、出力調整領域3とは、温度変化を受ける領域2とは離れた位置において、相対的に温度変化を受けにくく、−40℃〜125℃の温度変化が起こりうる領域(例えば、エンジンルーム内など)である。
【0053】
上述した発振回路11〜13は、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムなどからなる圧電性を示す圧電基板に形成されてなる弾性表面波(Surface Acoustic Wave)型の共振器である弾性表面波素子やインダクタなどにより構成されている。
【0054】
発振回路11〜13の弾性表面波素子11A〜13Aは、図2に示すように、全て1つの圧電基板4に形成されている。弾性表面波素子11Aは、圧電基板4において、圧力を加えられたときに変形可能となるように厚みを薄くした領域4Aに配置されている。圧電基板4に圧力が加えられると、圧電基板4の表面応力が変化し、弾性表面波の音速が変化するとともに、弾性表面波素子11Aの電極の間隔も変化する。これにより発振周波数が変化するため、この発振周波数の変化を測定することで、圧力の変化を検出することができる。
【0055】
また、弾性表面波素子12A,13Aは、圧電基板4において圧力を受けても表面応力が変化しない領域に配置されているため、圧電基板4が圧力を受けても発振回路12,13の発振周波数はほとんど変化しない。
【0056】
所定の基準温度かつ所定の圧力である基準状態における発振回路11〜13の発振周波数Fi_0(i=1〜3、それぞれ第1〜第3の発振回路11〜13に対応、以下同様)は、それぞれ100,101,102MHzである。温度変化および圧電基板に加えられる圧力の変化を考慮したときの発振回路11〜13の発振周波数Fi_Tは、次のように表せる。なお、圧力を受けた時の出力周波数の変化をA(A≪Fi_0),温度係数をkとする。
【0057】
F1_T=(100+A)×(1+kT)
F2_T=(101)×(1+kT)
F3_T=(102)×(1+kT)(単位:MHz)
発振回路14は、温度による周波数の変化の少ない発振回路(例えば水晶振動子からなる発振回路)であって、さらにこの発振回路14は相対的に温度変化が小さい出力調整領域3に配置されているため、温度変化に拠らず常に一定の発振周波数F4(本実施例においては、F4=0.1MHz)の信号を出力する。
【0058】
第1の周波数ミキサ21は、第1の発振回路11および第2の発振回路12それぞれと接続しており、それらの出力周波数の差の周波数Fx1_T(=F2_T−F1_T)を出力する。
【0059】
また、第2の周波数ミキサ22は、第2の発振回路12および第3の発振回路13それぞれと接続しており、それらの出力周波数の差の周波数Fx2_T(=F3_T−F2_T)を出力する。
【0060】
また、第3の周波数ミキサ23は、第4の発振回路14および第2の周波数ミキサ22それぞれと接続しており、それらの出力周波数の差の周波数Fx3_Tを出力する。なお、本実施例においては、Fx1_0=1,Fx2_0=1であるため、E=Fx1_0−(α×Fx2_0)=0を満たす係数α=1となる結果、第2の周波数ミキサ22と第3の周波数ミキサ23との間に分周器などが配置されない。よって、Fx3_Tは、Fx3_T=Fx2_T−F4となる。
【0061】
また、第4の周波数ミキサ24は、第1の周波数ミキサ21および第3の周波数ミキサ23それぞれと接続しており、それらの出力周波数の差の周波数を、弾性表面波センサ1の出力周波数Fout(=Fx1_T−Fx3_T)として出力する。
【0062】
なお、本実施例において、第1の発振回路11および第2の発振回路12が本発明における第1の発振手段であり、第2の発振回路12および第3の発振回路13が本発明における第2の発振手段である。
【0063】
また、第1、第2の周波数ミキサ21,22が本発明における第1、第2のミキシング回路である。
【0064】
また、第3の周波数ミキサ23および第4の発振回路14が、本発明におけるミキシング手段である。
【0065】
また、第4の周波数ミキサ24が、本発明における第3のミキシング手段である。
(2)Foutの算出
第1の周波数ミキサ21が出力する周波数Fx1_Tは次のように表せる。
【0066】
Fx1_T=F2_T−F1_T=(1−A)×(1+kT)
第2の周波数ミキサ22が出力する周波数Fx2_Tは次のように表せる。
【0067】
Fx2_T=F3_T−F2_T=(1)×(1+kT)=1+kT
第3の周波数ミキサ23が出力する周波数Fx3_Tは次のように表せる。
【0068】
Fx3_T=Fx2_T−F4=1+kT−F4
第4の周波数ミキサ24が出力する周波数Foutは次のように表せる。
【0069】
Fout=Fx1_T−Fx3_T=(1−A)×(1+kT)−(1+kT−F4)
=A+AkT+F4
ここで、圧力による周波数変化Aを−40kHz(−0.04MHz)、基準温度との差Tを100、関数kを1e-4とすると、Foutは次のような値になる。
【0070】
Fout=−0.04−(0.04×1e-4×100)+F4
=−0.0404+F4=0.0596
なお、Foutにおいて、圧電基板4に加えられる圧力の変化に応じた発振周波数の変化量は、F4を基準としたときの周波数の差となるので、本実施例においては−0.0404MHzの周波数変動があったと検出される。
【0071】
また、温度差Tが0のときには、Fout=−0.04+F4=0.06となるので、温度変化による誤差は0.0004MHzとなる。
(3)効果
上記構成の弾性表面波センサ1では、第1〜第3の発振回路11〜13には基準状態において1MHzごとの発振周波数の差があるが、Foutにおいてはその差およびその差に基づく温度変化による周波数の変化量が補償されているため、温度変化による影響を小さくして、圧電基板に加わる圧力の変化に基づく発振周波数の変化を反映した周波数を出力することができる。
【0072】
また、上述したように第1および第2の周波数ミキサ21,22の出力値は1MHz前後の値となっており、さらに、第3の周波数ミキサにてF4(=0.1MHz)をミキシングしているため、出力周波数が低くなりすぎることによる検出速度の低下を招くことがなく、必要な測定時間間隔(サンプリングレート)を確保できるという点で都合が良い。
【0073】
また、上記弾性表面波センサ1は、基準状態における第1および第2の周波数ミキサの出力値が同じになるように設定されているため、分周器などを設けずとも、温度による誤差を補償することができる。
[実施例2]
(1)全体構成
本実施例の弾性表面波センサ5は、基本的に実施例1の弾性表面波センサ1と同様の構成であるが、以下の点で弾性表面波センサ1と異なる。
【0074】
本実施例の弾性表面波センサ5は、第2の周波数ミキサ22と第3の周波数ミキサ23の間に分周器31が配置されている。また、第1〜第3の発振回路11〜13の基準状態における発振周波数が、それぞれ100,101,104MHzである。温度変化および圧電基板に加えられる圧力の変化を考慮したときの発振回路11〜13の発振周波数Fi_Tは、次のように表せる。
【0075】
F1_T=(100+A)×(1+kT)
F2_T=(101)×(1+kT)
F3_T=(104)×(1+kT)(単位:MHz)
ここで、Fx1_0=1,Fx2_0=3であるため、
E=Fx1_0−(α×Fx2_0)=1−(α×3)=0を満たすαはα=1/3となる。
【0076】
よって、分周器31は、周波数ミキサ22の出力周波数Fx2_Tを1/3とした周波数信号を出力して周波数ミキサ23に入力するように設定される。
(2)Foutの算出
第1の周波数ミキサ21が出力する周波数Fx1_Tは次のように表せる。
【0077】
Fx1_T=F2_T−F1_T=(1−A)×(1+kT)
第2の周波数ミキサ22が出力する周波数Fx2_Tは次のように表せる。
【0078】
Fx2_T=F3_T−F2_T=(3)×(1+kT)
この周波数Fx2_Tは、第3の周波数ミキサ23に入力される前に分周器31により1/3に分周されるため、第3の周波数ミキサ23に入力される周波数は(3)×(1+kT)×1/3=1+kTとなる。
【0079】
よって、第3の周波数ミキサ23が出力する周波数Fx3_Tは次のように表せる。
【0080】
Fx3_T=1+kT−F4
第4の周波数ミキサ24が出力する周波数Foutは次のように表せる。
【0081】
Fout=Fx1_T−Fx3_T=(1−A)×(1+kT)−(1+kT−F4)
=A+AkT+F4
これは実施例1の弾性表面波センサ1と同様の出力値である。
(3)効果
本実施例の弾性表面波センサ5は、実施例1の弾性表面波センサ1と同様に、基準状態における発振周波数に差があっても温度変化による影響を小さくすることができる。
【0082】
また、分周器31を用いているため、基準状態における第1,第2の発振回路11,12の周波数差と、第2,第3の発振回路12,13の周波数差と、を等しく設定する必要がなくなる。これにより、例えば発振周波数に製造上の誤差が生じる場合、その誤差を考慮して分周器の分周率を決定することで製造上の発振周波数の誤差に基づく温度変化による誤差も補償することができる。例えば、第1〜第3の発振回路11〜13の基準状態における発振周波数が、それぞれ100,101,104MHzを目指して製造した結果、100.1,100.9,104.1MHzとなった場合、Fx1_0=0.8,Fx2_0=3.2となるので、E=0を満たすαはα=1/4となるため、分周器の分周率を1/4とすればよい。
[変形例]
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0083】
例えば上記各実施例においては、圧電基板4に圧力が加えられたとき、第1の発振回路11のみが発振周波数を変化させる構成を例示したが、Foutに圧力変化に基づく出力周波数の変化が反映されるように構成されていれば、第2の発振回路12や第3の発振回路13の発振周波数が変化する構成であってもよい。Foutに圧力変化に基づく出力周波数の変化が反映される条件とは、圧電基板4に対して圧力が加えられた場合に、第1の周波数Fx1_Tの変化度合と、係数αを付けた第2の周波数Fx2_Tの変化度合と、が異なることである。
【0084】
Foutに圧力変化が反映されない例としては、F1_0とF3_0とが等しく、第2の発振回路12のみが圧力変化に応じて発振周波数を変化させる場合や、F1_0とF3_0とが等しく、圧力変化に応じた周波数の変化量が、第1の発振回路11と第3の発振回路13とで等しい場合などである。このように構成されていると、Fx1_TとFx2_Tとに含まれる周波数の変化量が等しい値となるため、それらの差分をとると圧力変化に基づく出力周波数の変化が相殺されてFoutに反映されず、圧力変化が検出できなくなる。
【0085】
また、上記実施例2においては、第2の周波数ミキサ22と第3の周波数ミキサ23との間に分周器31を設置する構成を例示したが、第1の周波数ミキサ21と第4の周波数ミキサ24との間に設置する構成であってもよいし、第3の周波数ミキサ23と第4の周波数ミキサ24との間に設置する構成や、複数の箇所に設置する構成であってもよい。
【0086】
また、上記各実施例では、計算上、温度変化を表す式として1次式のkTを用いたが、3つの発振回路それぞれの温度特性が略同じであれば、2次式以上の高次式であっても同様に温度変化の影響を小さくすることができる。
【0087】
また、上記各実施例では、発振回路を3つ用い、第2の発振回路12の出力が第1、第2の周波数ミキサ21,22に出力される構成を例示したが、第1の周波数ミキサ21と第2の周波数ミキサそれぞれと接続する発振回路が全て異なり、合計4つの発振回路を用いる構成であってもよい。
【0088】
また、上記各実施例では、1つの圧電基板4に全ての発振回路が形成されてなる構成を例示したが、温度変化により発振回路が受ける周波数の変化を等しくすることができれば、複数の圧電基板4に分かれて配置されていてもよい。例えば、同様の温度変化をうけるように隣り合わせて配置される同形状・同材質の圧電基板2つに発振回路が配置される場合、どちらに配置されても温度変化の影響を等しく受けることができる。
【符号の説明】
【0089】
1…弾性表面波センサ、2…測定領域、3…出力調整領域、4…圧電基板、4A…領域、5…弾性表面波センサ、11,12,13…発振回路、11A,12A,13A…弾性表面波素子、14…発振回路、21〜24…周波数ミキサ、31…分周器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板に形成される弾性表面波素子を有する発振回路を、前記圧電基板上に一対配置してなる第1の発振手段と、
前記圧電基板に形成される弾性表面波素子を有する発振回路を、前記圧電基板上に一対配置してなり、少なくとも一方の発振回路が前記第1の発振手段を構成する発振回路と異なる発振回路である第2の発振手段と、
前記第1の発振手段を構成する発振回路それぞれと接続し、それら発振回路の出力周波数の差の周波数である第1の周波数Fx1_Tを出力する第1のミキシング回路と、
前記第2の発振手段を構成する発振回路それぞれと接続し、それら発振回路の出力周波数の差の周波数である第2の周波数Fx2_Tを出力する第2のミキシング回路と、
前記第1の周波数Fx1_Tと、下記式においてEが略0となる係数αを付けた前記第2の周波数Fx2_Tと、の差の周波数を出力する第3のミキシング回路と、を備える
ことを特徴とする弾性表面波センサ。
E=Fx1_0−(α×Fx2_0)
上式において、Fx1_0は基準温度かつ前記圧電基板が所定の圧力にて加圧される状態である基準状態における前記第1の周波数であり、Fx2_0は前記基準状態における前記第2の周波数である。
【請求項2】
前記第1の発振手段および前記第2の発振手段は、前記第1の周波数Fx1_Tおよび前記第2の周波数Fx2_Tが所定の周波数以上となるように構成されており、
前記第1の周波数Fx1_Tまたは前記係数αを付けた前記第2の周波数Fx2_Tに対し、温度および前記圧電基板に加えられる圧力の変化に応じて変化しない固定周波数をミキシングするミキシング手段を備え、
前記第3のミキシング回路は、前記第1の周波数Fx_1と前記係数αを付けた前記第2の周波数Fx_2とのいずれか一方に、前記ミキシング手段により前記固定周波数がミキシングされたものと、前記一方とは異なる他方と、の差の周波数を出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波センサ。
【請求項3】
前記圧電基板に対して圧力が加えられた場合に、前記第1の周波数Fx1_Tの変化度合と前記係数αを付けた前記第2の周波数Fx2_Tの変化度合とが異なるように前記第1の発振手段および前記第2の発振手段が構成されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波センサ。
【請求項4】
前記基準状態における前記第1の周波数Fx1_0と前記第2の周波数Fx2_0とが略同一となるように、前記第1の発振手段および前記第2の発振手段が構成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の弾性表面波センサ。
【請求項5】
圧電基板に形成される弾性表面波素子を有する発振回路を、前記圧電基板上に一対配置してなる第1の発振手段と、前記圧電基板に形成される弾性表面波素子を有する発振回路を、前記圧電基板上に一対配置してなり、少なくとも一方の発振回路が前記第1の発振手段を構成する発振回路と異なる発振回路である第2の発振手段と、を有する弾性表面波センサの圧力測定方法であって、
前記第1の発振手段を構成する発振回路それぞれにおける出力周波数の差の周波数を第1の周波数Fx1_Tとし、
前記第2の発振手段を構成する発振回路それぞれにおける出力周波数の差の周波数を第2の周波数Fx2_Tとしたときに、
前記第1の周波数Fx1_Tと、下記式においてEが略0となる係数αを付けた前記第2の周波数Fx2_Tと、の差の周波数を出力する出力ステップを有する
ことを特徴とする弾性表面波センサの圧力測定方法。
E=Fx1_0−(α×Fx2_0)
上式において、Fx1_0は基準温度かつ前記圧電基板が所定の圧力にて加圧される状態である基準状態における前記第1の周波数であり、Fx2_0は前記基準状態における前記第2の周波数である。
【請求項6】
前記第1の発振手段および前記第2の発振手段は、前記第1の周波数Fx1_Tおよび前記第2の周波数Fx2_Tが所定の周波数以上となるように構成されており、
前記出力ステップの前には、前記第1の周波数Fx1_Tまたは前記係数αを付けた前記第2の周波数Fx2_Tに対し、温度および前記圧電基板に加えられる圧力の変化に応じて変化しない固定周波数をミキシングするミキシングステップを有しており、
前記出力ステップでは、前記第1の周波数Fx_1と、前記係数αを付けた前記第2の周波数Fx_2と、のいずれか一方に前記固定周波数がミキシングされたものと、前記一方とは異なる他方と、の差の周波数を出力する
ことを特徴とする請求項5に記載の弾性表面波センサの圧力測定方法。
【請求項7】
前記圧電基板に対して圧力が加えられた場合に、前記第1の周波数Fx1_Tの変化度合と前記係数αを付けた前記第2の周波数Fx2_Tの変化度合とが異なるように前記第1の発振手段および前記第2の発振手段が構成されている
ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の弾性表面波センサの圧力測定方法。
【請求項8】
前記基準状態における前記第1の周波数Fx1_0と前記第2の周波数Fx2_0とが略同一となるように、前記第1の発振手段および前記第2の発振手段が構成されている
ことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載の弾性表面波センサの圧力測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−160101(P2010−160101A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3585(P2009−3585)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】