説明

弾性表面波センサ

【課題】1つのSAWデバイスによって、歪みと温度の両方を測定できるSAWセンサを提供する。
【解決手段】SAWデバイス1を測定物20の一面201上に配置し、SAWデバイス1の基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aを測定物20に固定し、基板下面102のうち駆動電極11および反射器12の真下に位置する領域102b、102cを測定物20に固定しない構造とする。この構造では、測定物に歪みが生じると、基板上面の伝搬路13のみに歪みが生じることとなり、反射器12で反射した弾性表面波に位相変化が生じる。このときの位相変化は温度変化の影響をほとんど受けないので、この位相変化から測定物の歪みを測定できる。また、この構造では、SAWデバイス1の共振周波数は、温度変化によって変化し、測定物の歪みの影響を受けないので、共振周波数変化から温度を測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波(Surface Acoustic Wave:以下SAWと略す)を利用して物理量を検出する弾性表面波センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなセンサの検出方式としては、位相検出方式と(例えば、特許文献1〜5参照)、発振方式とがある(例えば、特許文献6参照)。
【0003】
位相検出方式のセンサは、例えば、SAWデバイスと、発振回路と、位相検出回路とを備えており、SAWデバイスは、例えば、圧電基板と、圧電基板の表面に形成された駆動電極(IDT対)および反射器とを有している。
【0004】
この位相検出方式のセンサの測定原理は次の通りである。発振回路から駆動電極の共振周波数に合わせた励起信号(バースト信号)を送ると、駆動電極によって電気的な信号が機械的な振動に変換され、圧電基板表面にSAWが励起される。駆動電極で励起されたSAWは、圧電基板表面の伝搬路を伝って反射器で反射される。反射されたSAWは駆動電極にて電気信号に変換され、位相検出回路に向けて出力される。そして、このSAWデバイスから位相検出回路に入力した信号と、SAWの励起時に発振回路から直接位相検出回路に入力した信号とを比較すると、伝搬路の電気的、機械的特性の変化により、SAWデバイスから出力されるSAWの位相が変化することから、測定したい物理量を位相により検出することができる。
【0005】
この位相検出方式のセンサは、例えば、ガスセンサ(例えば、特許文献1、2参照)、液体密度センサ(例えば、特許文献3参照)、液体性状センサ(例えば、特許文献4参照)、細胞特性測定装置(例えば、特許文献5参照)などに応用されている。
【0006】
ガスセンサでは、ガス感応膜を伝搬路にのせることでセンシングしている。選択性のあるガス感応膜であれば、膜がガスを吸着することによって質量効果が生じ、SAWの伝搬特性が変化することでガスの濃度を検出できる。また、液体性状センサでは、液体を伝搬路にのせることでセンシングしている。液体を伝搬路にのせると、液体の導電率、誘電率、質量、粘度によってSAWの位相、振幅が変化することで、液体性状を検出できる。
【0007】
一方、発振方式のセンサは、SAWデバイスと、発振回路とを備え、発振回路で発振したときの発振周波数(SAWデバイスの共振周波数)の変化から物理量を検出するものである。例えば、SAWデバイスの伝搬路に歪みが生じると、伝搬路に生じた歪みに応じてSAWデバイスの共振周波数が変化することから、この周波数変化からSAWデバイスが受けた歪みを測定できる。
【0008】
また、発振方式のセンサでは、SAWの共振周波数が温度変化によっても大きく変化することから、温度変化による共振周波数の変動をキャンセルするために、2つ以上のSAWデバイスが用いられてきた(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−26688号公報
【特許文献2】特開2009−109261号公報
【特許文献3】特開2008−275503号公報
【特許文献4】特開2008−309779号公報
【特許文献5】特開2010−29193号公報
【特許文献6】特表2008−541121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、従来の位相検出方式のセンサでは、駆動電極の歪みによって共振周波数が変化することにより、励振されるSAWの周波数が変化する場合において、歪みと温度を測定することができなかった。
【0011】
これは、詳細については後述するが、SAWデバイスに、測定物の温度や歪みが伝わると、伝搬路だけでなく、駆動電極、反射器に対しても、歪み(膨張もしくは伸縮)が一様に生じるためである。
【0012】
一方、従来の発振方式のセンサでは、上述の通り、SAWデバイスが受けた歪みを測定できる。
【0013】
しかし、従来の発振方式のセンサでは、SAWの共振周波数が、SAWデバイスが受けた歪みと温度変化の両方によって変化するため、温度変化による共振周波数の変動をキャンセルするために、2つ以上のSAWデバイスを用いなければならない。例えば、温度変化のみを受ける環境下に一のSAWデバイスを配置し、温度変化と歪みの両方を受ける環境下に他のSAWデバイスを配置しなければならない。
【0014】
このため、2つ以上のSAWデバイスを用いることで、SAWデバイスの実装位置や実装工程が複雑となったり、信号処理回路が複雑になったり等の問題があった。
【0015】
本発明は上記点に鑑みて、1つのSAWデバイスによって、歪みと温度の両方を測定できるSAWセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、
歪みおよび温度の測定対象である測定物(20)の一面(201)上に配置され、一部もしくは全部が圧電材料で構成された基板(10)と、
基板(10)の上面(101)に形成され、弾性表面波を発振もしくは受信する第1電極(11)と、
基板(10)の上面(101)に形成され、第1電極(11)から発振された弾性表面波を受信もしくは反射する第2電極(12)と、
基板(10)の上面(101)のうち第1電極(11)と第2電極(12)との間に位置し、第1電極(11)から第2電極(12)に向かって弾性表面波が伝搬する伝搬路(13)と、
第1電極(11)から発振された弾性表面波の位相と第2電極(12)で受信もしくは反射した弾性表面波の位相とを検出する位相検出手段(3)と、
第1電極(11)の共振周波数を検出する周波数検出手段(5)とを備え、
基板(10)は、下面(102)のうち伝搬路(13)の真下に位置する領域(102a)が測定物(20)に固定され、下面(102)のうち第1電極(11)および第2電極(12)の真下に位置する領域(102b、102c)が測定物(20)に固定されていないことを特徴とする。
【0017】
これによれば、基板下面における第1、第2電極および伝搬路の真下に位置する領域のうち、伝搬路の真下に位置する領域のみが測定物に拘束されるので、測定物に歪みが生じると、伝搬路のみに測定物の歪みが伝達する。これは、基板のうち測定物に固定されている範囲は、測定物に拘束されるので、測定物の変形に追随して変形し、基板のうち測定物に固定されていない範囲は、測定物に拘束されていないので、測定物の変形に追随しないからである。
【0018】
このため、測定物に歪みが生じると、基板上面における第1、第2電極および伝搬路のうち伝搬路のみに歪みが生じるので、第1電極から発振された弾性表面波の位相に対して、第2電極で受信もしくは反射した弾性表面波に位相変化が生じる。このときの位相変化は、測定物の温度変化の影響をほとんど受けない。これは、測定物の温度が変化した場合、第1、第2電極および伝搬路において一様に温度変化が生じるからである。
【0019】
そこで、本発明のセンサでは、位相検出手段によって検出した第2電極で受信もしくは反射した弾性表面波の位相変化に基づいて、測定物の歪みを測定することができる。
【0020】
一方、測定物の温度が変化した場合では、弾性表面波の伝搬速度が変化し、また、第1電極の電極間距離が温度変化による伸び(縮み)により、弾性表面波が励起されるときの第1電極の共振周波数が変化する。このときの共振周波数変化は、測定物の歪みの影響を受けない。これは、測定物に歪みが生じると、基板上面における第1、第2電極および伝搬路のうち伝搬路のみに歪みが生じ、伝搬路の歪みは共振周波数に影響しないからである。
【0021】
そこで、周波数検出手段によって検出した共振周波数の変化に基づいて、測定物の温度を測定することができる。
【0022】
このように、本発明によれば、1つのSAWデバイスによって、歪みと温度の両方を測定できる。
【0023】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、基板(10)は、下面(102)のうち第1、第2電極(11、12)の真下に位置する領域(102b、102c)が、下面(102)のうち伝搬路(13)の真下に位置する領域(102a)よりも凹んでいる形状であり、下面(102)のうち伝搬路(13)の真下に位置する領域(102a)が、接合材(30)により、測定物(20)に接合されていることを特徴とする。
【0024】
基板をこのような形状とすることで、請求項1に記載の基板と測定物の固定構造を実現できる。
【0025】
請求項2に記載の発明においては、さらに、請求項3に記載のように、基板(10)は、下面(102)のうち伝搬路(13)の真下に位置する領域(102a)に、凹凸(14、15)が形成されていることが好ましい。これにより、基板と測定物の接合強度を向上できるからである。
【0026】
請求項4に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、測定物(20)は、一面(201)のうち第1、第2電極(11、12)の真下に位置する領域(201b、201c)が、一面(201)のうち伝搬路(13)の真下に位置する領域(201a)よりも凹んでいる形状であり、一面(201)のうち伝搬路(13)の真下に位置する領域(201a)が、接合材(30)により、基板(10)に接合されていることを特徴とする。
【0027】
測定物をこのような形状とすることで、請求項1に記載の基板と測定物の固定構造を実現できる。
【0028】
請求項4に記載の発明においては、さらに、請求項5に記載のように、基板(10)は、下面(102)のうち第1、第2電極(11、12)の真下に位置する領域(102b、102c)が、下面(102)のうち伝搬路(13)の真下に位置する領域(102a)よりも突出した形状であることが好ましい。
【0029】
これにより、SAWデバイスを測定物に実装するとき、基板下面の突出形状部を、測定物の一面の凹形状部に入れるように配置すれば良く、測定物に対するSAWデバイスの位置決めが容易となるからである。
【0030】
請求項6に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、基板(10)の下面(102)における第1、第2電極(11、12)および伝搬路(13)の真下に位置する領域(102b、102c、102a)のうち伝搬路(13)の真下に位置する領域(102a)のみと測定物(20)との間に、接合材(30)が配置されていることを特徴とする。
【0031】
このように、基板下面における伝搬路(13)の真下に位置する領域(102a)のみに、接合材を配置することで、基板下面と測定物の一面とが平坦面であっても、請求項1に記載の基板と測定物の固定構造を実現できる。
【0032】
請求項6に記載の発明においては、基板(10)の下面(102)のうち第1、第2電極(11、12)の真下に位置する領域(102b、102c)と測定物(20)との間に空間が形成されていても良く、請求項7に記載のように、基板(10)と測定物(20)とを接合しないシート状の非接合材(60)が配置されていても良い。
【0033】
請求項8に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、基板(10)の下面(102)における第1、第2電極(11、12)および伝搬路(13)の真下に位置する領域(102b、102c、102a)のうち、伝搬路(13)の真下に位置する領域(102a)のみが、介在物(40)に接合材(30)により接合され、
介在物(40)が接合材(30)により測定物(20)に接合されていることを特徴とする。
【0034】
このように、介在物を用いることで、基板下面と測定物の一面とが平坦面であっても、請求項1に記載の基板と測定物の固定構造を実現できる。
【0035】
請求項9に記載の発明では、請求項2〜6、8のいずれか1つに記載の発明において、基板(10)の下面(102)のうち第1、第2電極(11、12)の真下に位置する領域(102b、102c)と測定物(20)との間に、ゲル状部材(50)が配置されていることを特徴とする。
【0036】
これによれば、ゲル状部材が配置されておらず、空間となっている場合と比較して、基板の揺れを低減でき、基板のうち第1、第2電極が形成されている部分に生じる揺れを抑制でき、揺れによる基板や接合部の不具合の発生を抑制できる。
【0037】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(a)は第1実施形態におけるセンサ全体の概略構成を示す図であり、(b)は(a)中のA−A’線断面図である。
【図2】比較例1のセンサにおけるSAWデバイスと測定物の断面図である。
【図3】比較例1のSAWデバイスでの定常状態のときと基板全体に歪みが生じたときのSAWの模式図である。
【図4】比較例1のSAWデバイスでの定常状態のときと基板に温度変化が生じたときのSAWの模式図である。
【図5】第1実施形態のSAWデバイスでの定常状態のとき、基板に温度変化が生じたとき、基板に温度変化と歪みが生じたときの基板上面を伝搬するSAWの模式図である。
【図6】(a)は第2実施形態におけるSAWデバイスの平面図であり、(b)は(a)中のB−B’線断面図である。
【図7】(a)は第3実施形態におけるSAWデバイスの平面図であり、(b)は(a)中のC−C’線断面図である。
【図8】(a)は第4実施形態におけるSAWデバイスの平面図であり、(b)は(a)中のD−D’線断面図である。
【図9】(a)は第5実施形態におけるSAWデバイスの平面図であり、(b)は(a)中のE−E’線断面図である。
【図10】(a)は第6実施形態におけるSAWデバイスの平面図であり、(b)は(a)中のF−F’線断面図である。
【図11】(a)は第7実施形態におけるSAWデバイスの平面図であり、(b)は(a)中のG−G’線断面図である。
【図12】(a)は第8実施形態におけるSAWデバイスの平面図であり、(b)は(a)中のH−H’線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0040】
(第1実施形態)
図1(a)に本実施形態におけるセンサ全体の概略構成を示し、図1(b)に図1(a)中のA−A’線断面図を示す。
【0041】
図1(a)に示すように、本実施形態のセンサは、SAWデバイス1と、発振回路2と、位相検出回路3と、切り替えスイッチ4と、周波数カウンタ5とを備えている。
【0042】
SAWデバイス1は、SAWを利用した素子であり、基板10と、基板10の表面上に形成された駆動電極11と、基板10の表面上に形成された反射器12とを備えている。
【0043】
基板10は、全部が圧電材料で構成された圧電基板であり、基板10として一般的な圧電材料で構成された圧電基板を採用することができる。
【0044】
駆動電極11は、SAWを発振(励起)および受信する第1電極であり、一対の櫛歯電極が向かい合うとともに、各櫛歯電極の櫛歯が交互に配置されたものである。
【0045】
反射器12は、駆動電極11から発振されたSAWを反射する第2電極であり、複数の直線状の電極が平行に配置されたものである。
【0046】
発振回路2は、SAWデバイス1にSAWを励起させるための回路であり、駆動電極11に励起信号(バースト信号)を送信する。発振回路2としては、一般的なものを採用することができる。
【0047】
位相検出回路3は、駆動電極11によって励起されるSAWの位相や、反射器12で反射されたSAWの位相を検出する位相検出手段である。位相検出回路3は、発振回路2から信号が入力されるとともに、切り替えスイッチ4を介して、SAWデバイス1から出力されたSAWの信号が入力されるようになっている。位相検出回路3としては、一般的なものを採用することができる。
【0048】
切り替えスイッチ4は、発信回路2とSAWデバイス1とが電気的に接続された常態と、位相検出回路3とSAWデバイス1とが電気的に接続された常態とを切り替える切り替え手段である。
【0049】
周波数カウンタ5は、SAWの周波数、すなわち、SAWデバイス1の共振周波数を検出する共振周波数検出手段である。本実施形態では、所定時間間隔で、SAWデバイス1から出力されたSAWの周波数を計測する。
【0050】
ここで、図1(b)に示すように、SAWデバイス1は、測定物20の一面201上に配置される。測定物20は、歪みと温度の測定対象であり、例えば、圧力を測定する場合であれば、圧力を受けて歪む金属製のダイアフラム部である。
【0051】
図1(b)中の矢印のように、測定物20の一面201を基準として、一面201に近い側を下、一面201から遠い側を上とすると、SAWデバイス1の基板10において、測定物20の一面201に近い側の面が下面102であり、測定物20の一面201に遠い側の面が上面101である。
【0052】
SAWデバイス1の駆動電極11および反射器12は、基板10の上面101に形成されている。また、基板10の上面101のうち、駆動電極11と反射器12との間に位置し、駆動電極11から反射器12に向かってSAWが伝搬する領域が伝搬路13である。なお、伝搬路13は、基板10の上面101のうち駆動電極11と反射器12とが形成された位置を含まない。
【0053】
そして、基板10の下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aが測定物20の一面201に固定され、基板10の下面102のうち駆動電極11の真下に位置する領域102bおよび反射器12の真下に位置する領域102cが測定物20の一面201に固定されていない。
【0054】
具体的には、基板10は、下面102のうち駆動電極11および反射器12の真下に位置する領域102b、102cが、下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aよりも凹んでいる形状であり、図1(b)に示すように、基板全体がT字の断面形状となっている。このような基板形状は、例えば、下面102の全域が平坦な基板10に対して、下面102のうち駆動電極11および反射器12の真下に位置する領域102b、102cを、半導体製造技術として一般に用いられるエッチングにより、除去することで実現される。
【0055】
そして、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aが、接合材30により、測定物20の一面102に接合されている。接合材30としては、例えば、低融点ガラスや接着剤等を用いることが可能である。
【0056】
一方、基板下面102のうち駆動電極11および反射器12の真下に位置する領域102b、102cは、空間を介して、測定物20の一面102に対向している。なお、測定物20の一面201は基板10に対向する全領域が平坦面である。
【0057】
このように、本実施形態では、基板10の形状によって、追加部品無しで、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aのみが測定物20の一面201に固定された構造を実現している。
【0058】
また、基板10をこのような形状とすることで、例えば、測定物20の一面201に接合材30を配置し、その上に基板10を搭載することで、SAWデバイス1と測定物20とを接合できる。
【0059】
本実施形態のセンサは、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aのみが測定物20の一面201に固定された構造であるので、SAWデバイス1に測定物20の歪みが伝わると、基板上面101のうち伝搬路13のみに歪みが生じるため、後述の通り、駆動電極11から励起されたSAWの位相に対して、反射器12で反射されたSAWの位相が変化する。そこで、本実施形態のセンサでは、反射器12で反射されたSAWの位相変化から、測定物20の歪みを測定する。
【0060】
具体的には、スイッチ4を発振回路2と駆動電極11とを電気的に接続した状態として、発振回路2から駆動電極11の共振周波数に合わせた励起信号を送ると、駆動電極11によって圧電基板表面にSAWが励起される。このとき、位相検出回路3に対しても発振回路2から電気信号が出力される。そして、駆動電極11で励起されたSAWは、伝搬路13を伝って反射器12で反射され、駆動電極11で受信されるので、スイッチ4を切り替えて、位相検出回路3と駆動電極11とを電気的に接続した状態とする。これにより、反射器12で反射されたSAWは駆動電極11にて電気信号に変換され、位相検出回路3に向けて出力される。発振回路2から位相検出回路3に入力された信号と、駆動電極11から位相検出回路3に入力された信号とに基づいて、駆動電極11で励起されたSAWの位相に対する反射器12で反射されたSAWの位相の変化量を検出することで、測定物20の歪み量を測定することができる。
【0061】
また、SAWデバイス1に温度変化が生じると、後述の通り、温度変化の前後で、駆動電極11で励起されるSAWの共振周波数が変化する。そこで、本実施形態のセンサでは、周波数カウンタ5が検出した周波数を、ある温度での基準周波数と比較したり、周波数カウンタ5が検出した複数の周波数同士を比較したりすることにより、駆動電極11で励起されるSAWの共振周波数の変化量を検出し、この周波数変化量に基づいて、測定物20の温度を測定することができる。
【0062】
なお、位相変化量の算出や、位相変化量からの測定物20の歪み量の算出は、歪み量算出手段としての図示しない演算回路にて実行され、共振周波数の変化量の算出や、共振周波数の変化量からの温度の算出は、温度算出手段としての図示しない演算回路にて実行される。
【0063】
次に、本実施形態のセンサの歪みと温度の測定原理について説明する。
【0064】
まず、図2に、比較例1のセンサにおけるSAWデバイスと測定物の断面図を示す。また、図3に比較例1のSAWデバイスでの定常状態のときと基板全体に歪みが生じたときの基板上面を伝搬するSAWの模式図を示し、図4に比較例1のSAWデバイスでの定常状態のときと基板に温度変化が生じたときの基板上面を伝搬するSAWの模式図を示す。
【0065】
図2に示すように、比較例1のセンサは、SAWデバイス1の基板下面102全域が測定物20の一面201に固定されたものである。
【0066】
このため、図3(a)、(b)に示すように、比較例1のSAWデバイス1に、測定物20の歪みが伝わると、基板上面101の駆動電極11、伝搬路13および反射器12が形成された領域101b、101a、101cの全域において、一様に歪みが生じるため、次の数1、2からわかるように、定常状態と比較して、反射器12に到達するSAWの位相は変化しない。
【0067】
すなわち、図3(a)に示すように、定常状態の場合、反射器12に到達するSAWの位相θは、数1に示すように、伝搬路長さLを波長λで割ったときの小数点以下の値で決まる。
【0068】
【数1】


θは、反射器12の位置で計測されるSAWの位相[deg]であり、λは励起されたSAWの波長[m]であり、Lは伝搬路の長さ[m]である。
【0069】
これに対して、図3(b)に示すように、基板上面101の全域に一様に歪みが生じた場合であって、基板10に温度変化が生じていない場合では、SAWの波長と伝搬路長さとが同じ変化率εにて変化するため、反射器12に到達するSAWの位相θは、数2に示すように、変化しない。
【0070】
【数2】


εは、歪みによる変化率である。
【0071】
また、図4(a)、(b)に示すように、比較例1のSAWデバイス1に、温度変化が生じた場合も、基板上面101の駆動電極11、伝搬路13および反射器12が形成された領域101b、101a、101cの全域が温度変化して一様に歪みが生じるため、次の数3、4、5からわかるように、定常状態と比較して、駆動電極11で励起されるSAWの共振周波数は変化するが、反射器12に到達するSAWの位相は変化しない。
【0072】
すなわち、図4(a)に示すように、定常状態の場合、駆動電極11で励起されるSAWの共振周波数fは、数3に示すように、音速Vと波長λで決まる。
【0073】
【数3】


fは駆動電極11で励起されるSAWの共振周波数[Hz]であり、Vは音速(SAWの伝搬速度)[m/s]である。
【0074】
これに対して、図4(b)に示すように、基板10に温度変化が生じた場合であって、基板10に歪みが生じていない場合では、音速と波長が、それぞれ、変化するため、数4に示すように、共振周波数fは変化するが、数5に示すように、反射器12に到達するSAWの位相θは、音速の影響を受けないため変化しない。
【0075】
【数4】

【0076】
【数5】


Tは温度[℃]であり、αは基板10の線膨張係数[ppm/℃]であり、βはSAWの伝搬速度の温度特性[ppm/℃]である。
【0077】
図5に、本実施形態のSAWデバイスでの定常状態のとき、基板に温度変化が生じたとき、基板に温度変化と歪みが生じたときの基板上面を伝搬するSAWの模式図を示す。
【0078】
これに対して、本実施形態のセンサでは、図5(a)、(b)に示すように、基板10に温度変化が生じた場合であって、基板に歪みが生じていない場合では、比較例1と同様に、数4、5に示すように、定常状態と比較して、駆動電極11で励起されるSAWの共振周波数は変化するが、反射器12に到達するSAWの位相は、音速の影響を受けないため変化しない。
【0079】
しかし、図5(c)に示すように、基板10に温度変化が生じるとともに、基板10に測定物20の歪みが伝わると、基板上面101の駆動電極11、伝搬路13および反射器12が形成された領域101b、101a、101cのうち、伝搬路13の形成領域101aのみに歪みが生じるため、次の数6に示す通り、定常状態と比較して、反射器12に到達するSAWの位相θ(T,ΔL)が変化する。このときのSAWの位相変化量Δθ(T,ΔL)は、次の数7で表すことができる。
【0080】
【数6】

【0081】
【数7】


Δθは反射器の位置で計測されるSAWの位相の変化量[deg]であり、ΔLは歪みによる伝搬路長さの変化量[m]である。
【0082】
ちなみに、数7に示すように、SAWの位相変化量Δθ(T,ΔL)には、温度Tが含まれているが、温度Tの影響は代表的な圧電材料であるLiNbO3においてα=15.4ppm/℃であり、1と比べて非常に小さいものであるので、SAWの位相変化量から測定物20の歪みを算出したときの誤差は非常に小さいものである。したがって、SAWの位相変化量は、温度変化の影響がほとんどないと言える。
【0083】
したがって、1つのSAWデバイス1におけるSAWの位相変化に基づいて測定物20の歪みを測定することができる。
【0084】
また、基板10に温度変化が生じるとともに、伝搬路13のみに歪みが生じた場合、数4に示すように、共振周波数は、伝搬路13の歪みの影響を受けないので、1つのSAWデバイスの共振周波数変化に基づいて測定物20の温度を測定することができる。
【0085】
ちなみに、駆動電極11に歪みが生じると、駆動電極11の電極間隔が変化し、共振周波数が変化するが、本実施形態のセンサでは、測定物20の歪みは、駆動電極11や反射器12に伝わらないので、SAWデバイスの共振周波数は、温度変化によって変化し、歪みの影響を受けない。
【0086】
このような理由により、本実施形態のセンサによれば、1つのSAWデバイス1によって、歪みと温度の両方を測定することができる。
【0087】
なお、図1(b)では、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aの全域ではなく一部が測定物20に固定されているが、駆動電極11、反射器12には歪みが伝搬せず、伝搬路13のみに歪みが伝搬するためには、図1(b)のように、基板下面102の伝搬路13の真下に位置する領域102aの少なくとも一部が固定され、基板下面102の駆動電極11、反射器12の真下に位置する領域102b、102cの全域が固定されない構造とすれば良い。
【0088】
(第2実施形態)
図6(a)に本実施形態におけるSAWデバイスの平面図を示し、図6(b)に図6(a)中のB−B’線断面図を示す。
【0089】
本実施形態は、第1実施形態の図1(b)に示すSAWデバイス1に対して、図6(b)に示すように、基板10の接合面102aに凹凸14、15を設けた点が異なるものであり、以下では、第1実施形態と異なる点を説明する。
【0090】
具体的には、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aに、凸部14と凹部15とが交互に複数形成されている。この凹凸14、15は、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aをエッチングして複数の凹部15を形成することで形成可能である。
【0091】
ちなみに、この複数の凹部15の形成のためのエッチングを、第1実施形態での説明の通り、下面102のうち駆動電極11および反射器12の真下に位置する領域102b、102cが、下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aよりも凹んでいる形状とするためのエッチングと同時に行うことで、製造工程を簡略化することができる。
【0092】
このように、基板10の接合面102aに凹凸14、15を設けることで、基板10の接合面102aの接合面積を拡大でき、接合強度を向上させることができる。
【0093】
(第3実施形態)
図7(a)に本実施形態におけるSAWデバイスの平面図を示し、図7(b)に図7(a)中のC−C’線断面図を示す。
【0094】
本実施形態は、第1実施形態の図1(b)に示すSAWデバイス1に対して、図7(b)に示すように、基板10と測定物20との接合部に介在物を介在させた点が第1実施形態と異なり、以下では、第1実施形態と異なる点を説明する。
【0095】
具体的には、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aと、測定物20の一面201との間に所定厚さの金属板40を配置し、接合材30により、金属板40を基板10と測定物20のそれぞれに接合している。
【0096】
金属板40は、基板10と測定物20の間の熱膨張係数を持つものであり、例えば、基板10がLiNbO3(15.4ppm/℃)であり、測定物20がSUS304(17.3ppm/℃)であるとき、金属板40として、銅(16.5ppm/℃)、18-8クロムニッケル鋼(16.7ppm/℃)製のものを採用する。
【0097】
基板10と測定物20の間の熱膨張係数差が大きい場合、温度変化が繰り返されることで、基板10と測定物20との接合部に歪みが生じ、基板10と測定物20との接合がとれてしまうところ、本実施形態によれば、基板10と測定物20との接合部に生じる歪みを低減でき、基板10と測定物20との接合を確保することができる。
【0098】
(第4実施形態)
図8(a)に本実施形態におけるSAWデバイスの平面図を示し、図8(b)に図8(a)中のD−D’線断面図を示す。
【0099】
本実施形態は、第1実施形態の図1(b)に示すSAWデバイス1に対して、図8(b)に示すように、基板下面102のうち櫛歯電極11および反射器12の真下に位置する領域102b、102cと測定物20の一面201との間に、ゲル状部材50を配置している。
【0100】
ここで、第1実施形態のように、基板下面102のうち櫛歯電極11および反射器12の真下に位置する領域102b、102cと測定物20の一面201との間に空間が形成されている場合では、SAWデバイス1にある周波数の上下振動が伝わると、基板10のうち櫛歯電極11および反射器12が形成されている部分が片持ち梁構造であるため、場合によっては共振が生じ、この揺れによって、基板10が破壊されたり、基板10と測定物20との接合がとれたりする等の不具合が発生してしまう。
【0101】
これに対して、本実施形態によれば、ゲル状部材50によって、基板10のうち櫛歯電極11および反射器12が形成されている部分の揺れを抑制でき、揺れによる不具合の発生を抑制できる。
【0102】
また、このようにしても、測定物20に歪みが発生したとき、ゲル状部材50が変形することで、櫛歯電極11、反射器12に測定物20の歪みは伝わらず、伝搬路13のみに測定物20の歪みが伝わることで、測定物20の歪みを測定することができる。このため、ゲル状部材50は、基板10に接着するものであっても良い。なお、ゲル状部材50は、例えば、SAWデバイス1と測定物20とを接合した後に、SAWデバイス1と測定物20との間に注入される。
【0103】
(第5実施形態)
図9(a)に本実施形態におけるSAWデバイスの平面図を示し、図9(b)に図9(a)中のE−E’線断面図を示す。
【0104】
第1実施形態では、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aのみが測定物20の一面201に固定された構造を、基板10の形状によって実現したが、本実施形態は、基板10と測定物20との間に介在物を配置することによって実現するものである。以下では、第1実施形態と異なる点を説明する。
【0105】
具体的には、図9(b)に示すように、基板下面102は全域が平坦面であり、測定物20の一面201も基板10に対向する全領域が平坦面である。そして、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aと、測定物20の一面201との間に所定厚さの金属板40を配置し、接合材30により、金属板40を基板10と測定物20のそれぞれに接合している。
【0106】
この金属板40の基板下面102と平行な方向での大きさは、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aと同等以下である。これにより、基板下面102のうち櫛歯電極11および反射器12の真下に位置する領域102b、102cと測定物20の一面201との間に空間が形成されている。
【0107】
本実施形態によれば、基板10、測定物20のどちらも、加工しなくても、従来のSAWデバイスと測定物との実装構造に対して金属板40を追加すれば良いので、基板10、測定物20のどちらかを加工して、両者を実装する場合と比較して、実装コストを低減できる。
【0108】
また、金属板40は、第3実施形態で説明した金属板40と同様に、基板10と測定物20の間の熱膨張係数を持つものである。これにより、基板10と測定物20との熱膨張係数の違いによる接合部に生じる歪みを低減でき、接合を確保することができる。
【0109】
なお、本実施形態では、介在物として金属板40を用いたが、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aのみが測定物20の一面201に固定された構造を実現するという観点では、介在物として金属以外の材料で構成されたものを採用しても良い。
【0110】
(第6実施形態)
図10(a)に本実施形態におけるSAWデバイスの平面図を示し、図10(b)に図10(a)中のF−F’線断面図を示す。
【0111】
本実施形態は、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aのみが測定物20の一面201に固定された構造を、基板と測定物とを接合しない非接合材を用いて実現するものである。以下では、第1実施形態と異なる点を説明する。
【0112】
図10(a)、(b)に示すように、基板下面102と測定物20の一面201との間に非接合部材としての潤滑シート60を配置している。潤滑シート60は、滑らかなシート状のものであり、例えば、テフロン(登録商標)製のものである。
【0113】
潤滑シート60は開口部61を有しており、この開口部61が基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aのみに対向している。そして、この開口部61に接合材30が配置されており、接合材30によって、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aのみが測定物20に接合されている。
【0114】
一方、基板下面102のうち櫛歯電極11および反射器12の真下に位置する領域102b、102cと測定物20との間には、潤滑シート60が配置されていることにより、両者は接合されていない。
【0115】
本実施形態では、例えば、測定物20の一面201上に潤滑シート60を配置し、潤滑シート60の開口部61に接合材30を塗布する。その後、測定物20の一面201上にSAWデバイス1を搭載することで、測定物20とSAWデバイス1とを接合する。
【0116】
本実施形態によれば、基板10、測定物20のどちらも加工しなくても、SAWデバイス1と測定物20との実装の際に、潤滑シート60を用いるだけで良いので、基板10、測定物20のどちらかを加工して、両者を実装する場合と比較して、実装コストを低減できる。
【0117】
なお、潤滑シート60は、基板10と測定物20の接合後に除去しても良く、基板10と測定物20の接合後に除去することなく、そのまま配置しておいても良い。
【0118】
接合後に潤滑シート60を除去する場合、基板10と測定物20の実装工程において、潤滑シート60を再利用することができ、実装コストを低減できる。
【0119】
一方、潤滑シート60を除去しない場合、基板下面102の駆動電極11および反射器12の真下に位置する領域102b、102cと測定物20との間に、潤滑シート60が配置された実装構造となる。このため、第4実施形態と同様に、基板下面102のうち櫛歯電極11および反射器12の真下に位置する領域102b、102cと測定物20の一面201との間に空間が形成されている場合と比較して、基板10のうち櫛歯電極11および反射器12が形成されている部分に生じる揺れを抑制できる。
【0120】
(第7実施形態)
図11(a)に本実施形態におけるSAWデバイスの平面図を示し、図11(b)に図11(a)中のG−G’線断面図を示す。
【0121】
本実施形態は、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aのみが測定物20の一面201に固定された構造を、測定物20の形状により実現するものである。以下では、第1実施形態と異なる点を説明する。
【0122】
図11(a)、(b)に示すように、測定物20は、一面201のうち櫛歯電極11および反射器12の真下に位置する領域201b、201cが、一面201のうち伝搬路13の真下に位置する領域201aよりも凹んでいる形状である。
【0123】
このような測定物20の形状は、測定物20の一面201のうち、櫛歯電極11および反射器12の真下に位置する領域201b、201cをくり抜く等の加工を行って、測定物20の一面201に凹部21、22を形成することにより実現される。
【0124】
そして、測定物20の一面201のうち伝搬路13の真下に位置する領域201aが、接合材30により、基板下面102に接合されている。
【0125】
一方、測定物20の一面201のうち櫛歯電極11および反射器12の真下に位置する領域201b、201cは、空間を介して、基板下面102のうち櫛歯電極11および反射器12の真下に位置する領域102b、102cに対向している。なお、基板下面102は全域が平坦面である。
【0126】
本実施形態では、測定物20をこのような形状とすることで、追加部品無しで、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aのみが測定物20の一面201に固定された構造を実現できる。
【0127】
また、微小なSAWデバイス1の基板10を加工するより、本実施形態のように、SAWデバイス20よりも大きな測定物20の一面201を加工する方が容易に加工できる。
【0128】
また、本実施形態のように、測定物20の一面201のうち櫛歯電極11および反射器12の真下に位置する領域201b、201cを凹部21、22とすることで、図11(a)からわかるように、この凹部21、22がSAWデバイス1の配置場所を示す印となり、SAWデバイス1を測定物20の一面201に搭載するときの位置合わせが容易となる。したがって、SAWの伝搬方向、図11(a)、(b)の左右方向において、凹部21、22の外周端を、それぞれ、基板10の両端部に対して一致もしくは若干外側に位置させることが好ましい。
【0129】
なお、図11(b)に示すように、基板10の膨張時における基板10と測定物20との干渉を防止するという観点では、クリアランスC1を設けておくことが好ましい。クリアランスC1は、使用温度範囲、基板10と測定物20の熱膨張係数差、基板10のうち接合されていない部分の距離L1により規定される。
【0130】
(第8実施形態)
図12(a)に本実施形態におけるSAWデバイスの平面図を示し、図12(b)に図12(a)中のH−H’線断面図を示す。
【0131】
本実施形態は、第7実施形態の図11(b)に示すSAWデバイス1に対して、図12(b)に示すように、さらに、基板10の形状を変更したものである。
【0132】
具体的には、SAWデバイス1の基板10において、基板下面102のうち櫛歯電極11および反射器12の真下に位置する領域102b、102cが、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aよりも突出した形状としている。
【0133】
この形状は、例えば、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aをエッチング等の加工により、除去することで形成される。このとき、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aの深さは、測定物20の凹部21、22の深さよりも浅くなっている。
【0134】
これにより、本実施形態によれば、SAWデバイス1と測定物20とを実装する際に、基板下面102の凸部102b、102cを、測定物20の一面201の凹部21、22に入れることで、測定物20に対するSAWデバイス1の位置が決まるので、SAWデバイス1の位置決めが容易である。
【0135】
なお、本実施形態においても、図12(b)に示すように、基板10の膨張時における基板10と測定物20との干渉を防止するという観点より、クリアランスC1、C2を設けておくことが好ましい。クリアランスC1、C2は、使用温度範囲、基板10と測定物20の熱膨張係数差、基板10のうち接合されていない部分の距離L1により規定される。
【0136】
(第9実施形態)
本実施形態は、第8実施形態で説明したSAWデバイス1および測定物20に対して、凹形状と凸形状とを入れ替えたものである。
【0137】
すなわち、図示しないが、測定物20は、図12(b)の測定物20とは反対に、一面201のうち伝搬路13の真下に位置する領域201aが、一面201のうち櫛歯電極11および反射器12の真下に位置する領域201b、201cよりも凹んでいる形状である。
【0138】
一方、SAWデバイス1の基板10は、図12(b)の基板10とは反対に、第1実施形態と同様の形状であり、基板下面102のうち伝搬路13の真下に位置する領域102aが、基板下面102のうち櫛歯電極11および反射器12の真下に位置する領域102b、102cよりも突出した形状である。
【0139】
このようにしても、第8実施形態と同様に、SAWデバイス1と測定物20とを実装する際に、基板下面102の凸部を、測定物20の一面201の凹部に入れることで、測定物20に対するSAWデバイス1の位置が決まるので、SAWデバイス1の位置決めが容易である。
【0140】
(他の実施形態)
(1)上述の各実施形態では、基板10として、全部が圧電材料で構成されたものを用いたが、支持基板上に圧電材料で構成された圧電薄膜が形成された場合のように、一部が圧電材料で構成されたものを用いても良い。
【0141】
(2)上述の各実施形態では、SAWデバイス1は反射器12でSAWを反射し、駆動電極11でその反射したSAWを受信していたが、反射器12の代わりに、駆動電極11からのSAWを受信する受信用電極を用いても良い。この場合、駆動電極11がSAWを発振する第1電極であり、受信用電極がSAWを受信する第2電極である。
【0142】
(3)上述の各実施形態を実施可能な範囲で組み合わせても良い。例えば、第4実施形態で用いたゲル状部材50を、第2、3、5〜9実施形態において、基板下面102のうち櫛歯電極11および反射器12の真下に位置する領域102b、102cと測定物20の一面201との間の隙間に、ゲル状部材50を配置しても良い。
【符号の説明】
【0143】
1 SAWデバイス(弾性表面波センサ)
3 位相検出回路(位相検出手段)
5 周波数カウンタ(周波数検出手段)
10 基板
101 基板上面
102 基板下面
102a 基板下面のうち伝搬路の真下に位置する領域
102b 基板下面のうち駆動電極(第1電極)の真下に位置する領域
102c 基板下面のうち反射器(第2電極)の真下に位置する領域
11 駆動電極(第1電極)
12 反射器(第2電極)
13 伝搬路
20 測定物
201 測定物の一面
201a 測定物の一面のうち伝搬路の真下に位置する領域
201b 測定物の一面のうち駆動電極(第1電極)の真下に位置する領域
201c 測定物の一面のうち反射器(第2電極)の真下に位置する領域
30 接合材
40 金属板(介在物)
50 ゲル状部材
60 潤滑シート(シート状の非接合材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歪みおよび温度の測定対象である測定物(20)の一面(201)上に配置され、一部もしくは全部が圧電材料で構成された基板(10)と、
前記基板(10)の上面(101)に形成され、弾性表面波を発振もしくは受信する第1電極(11)と、
前記基板(10)の上面(101)に形成され、前記第1電極(11)から発振された弾性表面波を受信もしくは反射する第2電極(12)と、
前記基板(10)の上面(101)のうち前記第1電極(11)と前記第2電極(12)との間に位置し、前記第1電極(11)から前記第2電極(12)に向かって弾性表面波が伝搬する伝搬路(13)と、
前記第1電極(11)から発振された弾性表面波の位相と前記第2電極(12)で受信もしくは反射した弾性表面波の位相とを検出する位相検出手段(3)と、
前記第1電極(11)の共振周波数を検出する周波数検出手段(5)とを備え、
前記基板(10)は、前記下面(102)のうち前記伝搬路(13)の真下に位置する領域(102a)が前記測定物(20)に固定され、前記下面(102)のうち前記第1電極(11)および前記第2電極(12)の真下に位置する領域(102b、102c)が前記測定物(20)に固定されていないことを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項2】
前記基板(10)は、前記下面(102)のうち前記第1、第2電極(11、12)の真下に位置する領域(102b、102c)が、前記下面(102)のうち前記伝搬路(13)の真下に位置する領域(102a)よりも凹んでいる形状であり、
前記下面(102)のうち前記伝搬路(13)の真下に位置する領域(102a)が、接合材(30)により、前記測定物(20)に接合されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波センサ。
【請求項3】
(従属)
前記基板(10)は、前記下面(102)のうち前記伝搬路(13)の真下に位置する領域(102a)に、凹凸(14、15)が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の弾性表面波センサ。
【請求項4】
前記測定物(20)は、前記一面(201)のうち前記第1、第2電極(11、12)の真下に位置する領域(201b、201c)が、前記一面(201)のうち前記伝搬路(13)の真下に位置する領域(201a)よりも凹んでいる形状であり、
前記一面(201)のうち前記伝搬路(13)の真下に位置する領域(201a)が、接合材(30)により、前記基板(10)に接合されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波センサ。
【請求項5】
前記基板(10)は、前記下面(102)のうち前記第1、第2電極(11、12)の真下に位置する領域(102b、102c)が、前記下面(102)のうち前記伝搬路(13)の真下に位置する領域(102a)よりも突出した形状であることを特徴とする請求項4に記載の弾性表面波センサ。
【請求項6】
前記基板(10)の前記下面(102)における前記第1、第2電極(11、12)および前記伝搬路(13)の真下に位置する領域(102b、102c、102a)のうち前記伝搬路(13)の真下に位置する領域(102a)のみと前記測定物(20)との間に、接合材(30)が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波センサ。
【請求項7】
前記基板(10)の前記下面(102)のうち前記第1、第2電極(11、12)の真下に位置する領域(102b、102c)と前記測定物(20)との間に、前記基板(10)と前記測定物(20)とを接合しないシート状の非接合材(60)が配置されていることを特徴とする請求項6に記載の弾性表面波センサ。
【請求項8】
前記基板(10)の前記下面(102)における前記第1、第2電極(11、12)および前記伝搬路(13)の真下に位置する領域(102b、102c、102a)のうち、前記伝搬路(13)の真下に位置する領域(102a)のみが、介在物(40)に接合材(30)により接合され、
前記介在物(40)が接合材(30)により前記測定物(20)に接合されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波センサ。
【請求項9】
前記基板(10)の前記下面(102)のうち前記第1、第2電極(11、12)の真下に位置する領域(102b、102c)と前記測定物(20)との間に、ゲル状部材(50)が配置されていることを特徴とする請求項2〜6、8のいずれか1つに記載の弾性表面波センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−29367(P2013−29367A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164507(P2011−164507)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】