説明

弾性表面波素子、弾性表面波素子の製造方法

【課題】 優れた周波数特性と通過特性を有する弾性表面波素子、及びこの弾性表面波素
子の製造方法を提供する。
【解決手段】 弾性表面波素子10は、半導体基板(Si層50)の同一平面上に半導体
配線領域20とSAW領域30が並列して形成されている弾性表面波素子10であって、
ウエハ1に弾性表面波素子10を格子状に配列すると共に、隣接する弾性表面波素子10
に形成される半導体配線領域20を市松模様状に配列し、半導体配線領域20とSAW領
域30の上面に渡って同一平面の絶縁層71〜74を形成し、最上層の絶縁層74の表面
に圧電体層90を形成し、SAW領域30の圧電体層90の表面にIDT40を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板上に形成される弾性表面素子と、この弾性表面波素子の製造方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Si基板等の半導体基板上にエピタキシャル層、SiO2層を順次形成し、Si
2層上面に半導体配線領域とSAW領域とを平面方向に並列して配列し、SAW領域に
おいては、半導体配線領域のSiO2層よりも厚く形成されたSiO2層上面にAlからな
る櫛歯状のIDT及び圧電体層(ZnO)が形成され、半導体配線領域においては、Si
2層上面にAl配線層と窒化珪素(Si34)からなる絶縁層が形成されている弾性表
面波素子、及びその製造方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】Ultrasonics Simposium,1989.Proceedinngs.IEEE 1989,3−6Oct.1989、Pages:195―200 Vol.1Visser,J.H;Vellekoop,M.J;Venema,A;van der Drift,E;rek,P.J.M.;Nederlof,A.J.;Nieuwenhuizen,M.S.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような非特許文献1では、半導体配線領域の最上層とSAW領域のSiO2層との
高さが異なっており、特に半導体配線領域の最上層がSAW領域のSiO2層上面の高さ
より低く形成されているので、IDT(Interdigital Transduce
r)が形成されるSAW領域のSiO2層表面を平滑にするために、CMP(Chemi
cal and Mechanical Polishing)等により研磨する際、I
DTが形成されるSAW領域のSiO2層を均一の厚みに形成することが困難であった。
IDTが形成されるSAW領域のSiO2層は、その厚みによって音波が伝播する速度(
音速)に差がでることが知られているが、周波数は音速に比例するために、同一素子内で
音速が異なる領域が存在すると、安定した周波数特性及び急峻な通過特性が得られないと
いう課題がある。
【0005】
本発明の目的は、半導体基板上にSAWデバイスが形成される弾性表面波素子において
、優れた周波数特性及び通過特性を有する弾性表面波素子、及びこの弾性表面波素子の製
造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の弾性表面波素子は、半導体基板の上面の同一平面上に半導体配線領域とSAW
領域が並列して形成されている弾性表面波素子であって、前記半導体配線領域に形成され
る金属配線と、前記金属配線を含んで前記半導体配線領域の表面と前記SAW領域の表面
に渡って形成される絶縁層と、が設けられ、前記絶縁層の最上層は、前記半導体配線領域
と前記SAW領域に渡って前記半導体基板の上面からの厚みが同じ同一平面に形成され、
前記絶縁層の最上層表面に形成される圧電体層と、前記SAW領域の前記圧電体層の表面
に形成されるIDTと、がさらに設けられていることを特徴とする。
ここで、半導体基板としてはSi層で形成され、絶縁層としてはSiO2層、圧電体層
としてはZnO薄膜等が採用される。
【0007】
この発明によれば、半導体配線領域とSAW(Surface Acoustic W
ave)領域に渡って絶縁層が同一平面に形成されているので、IDTが平滑な同一平面
上に形成することができるため、安定した周波数特性や急峻な通過特性を有する弾性表面
波素子を提供することができる。
【0008】
また、本発明の弾性表面波素子の製造方法は、半導体基板の上面の同一平面上に半導体
配線層領域とSAW領域が並列して形成されている弾性表面波素子の製造方法であって、
ウエハに前記弾性表面波素子を格子状に配列すると共に、隣接する前記弾性表面波素子に
形成される前記半導体配線領域と前記SAW領域とを市松模様状に配列し、前記半導体配
線層領域と前記SAW領域の上面に渡って前記半導体基板の上面からの厚みが同じ同一平
面の絶縁層を形成し、この前記絶縁層の最上層表面に圧電体層を形成し、前記SAW領域
の前記圧電体層の表面にIDTを形成することを特徴とする。
ここで、市松模様状とは、半導体配線領域またはSAW領域同士が、相互に同じ辺で隣
接せずに、半導体配線領域とSAW領域とが隣接するように配置されていることを意味す
る。
また、同じ厚み、且つ、同一平面の絶縁層とは、半導体基板表面から絶縁層の最上層ま
での厚みを有する平面に形成されていることを意味する。
【0009】
詳しくは後述する実施形態で説明するが、ウエハ内において、配線密度が小さいSAW
領域の絶縁層が広い面積で構成されると部分的に厚みが異なる領域ができてしまうことが
半導体製造プロセスでは知られているが、弾性表面波素子の半導体配線領域とSAW領域
とを前述のように市松模様状に配置することで、SAW領域が半導体配線領域で囲まれる
ように配置されるために、配線密度が異なるSAW領域と半導体配線領域との上面に形成
される絶縁層を、同じ厚みで平滑に形成することができる。
【0010】
また、本発明では、前記ウエハの外周部に配列される前記弾性表面波素子外側周縁に、
前記半導体配線領域に形成される金属配線の配線密度と略同じ配線密度を有する金属配線
層を、前記金属配線とは独立して形成することが好ましい。
【0011】
本発明の弾性表面波素子は、半導体配線領域とSAW領域とを前述したように市松模様
状に配置するが、外周部においては、SAW領域が最外周部に配列されることがある。こ
のような場合、SAW領域の外周部に、半導体配線領域の配線密度と略同じ配線密度を有
する独立した金属配線層を形成することで、ウエハの内部に配置される弾性表面波素子に
おいても、外周部に配置される弾性表面波素子においても、SAW領域が略同じ配線密度
を有する半導体配線領域及び金属配線層で囲まれるため、配線密度が異なるSAW領域と
半導体配線領域との上面に形成される絶縁層が、同じ厚みで平滑に形成することができる

【0012】
また、前記半導体基板の前記半導体配線領域の表面に前記金属配線を形成する工程と、
前記金属配線を含んで前記金属配線の表面と前記SAW領域の表面に渡って絶縁層を形成
する工程と、前記絶縁層を所定の厚みに研磨する工程と、前記絶縁層の最上層を前記半導
体配線領域と前記SAW領域に渡って同一平面にすべく研磨する工程と、前記絶縁層の最
上層に圧電体層を形成する工程と、前記圧電体層の表面にIDTを形成する工程と、を含
むことを特徴とする。
【0013】
弾性表面波素子を前述したようにウエハに配置し、前述したような製造工程によれば、
従来の半導体製造プロセスを用いて、工程数を増やさずに、厚みが同じ、且つ同一平面の
絶縁層を形成することができる。
【0014】
さらに、本発明では、前記半導体基板の前記半導体配線領域の表面に前記金属配線を形
成する工程と、前記金属配線を含んで前記金属配線の表面と前記SAW領域の表面に渡っ
て絶縁層を形成する工程と、前記絶縁層の表面を同じ厚み、且つ同一平面にすべく研磨す
る工程と、研磨された前記絶縁層の前記SAW領域に圧電体層を形成する工程と、前記圧
電体層の表面にIDTを形成する工程と、を含むことが望ましい。
【0015】
このようにすれば、同じ厚み、且つ同一平面にすべく研磨される絶縁層のSAW領域に
圧電体層を形成し、さらにIDTを形成するため、SAW領域の圧電体層は、均一な厚み
を有する平滑な絶縁層上に形成され、安定した周波数特性と急峻な通過特性を有する弾性
表面波素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1、図2には、本発明の実施形態1に係る弾性表面波素子が示され、図3〜図6には
、実施形態1に係る弾性表面波素子の製造方法、図7、図8には、弾性表面波素子の特性
を示すグラフ、図9には、実施形態2の弾性表面波素子の製造方法、図10には、実施形
態3、図11には、従来の他の実施形態が示されている。
【0017】
(実施形態1)
図1は、本実施形態1の弾性表面波素子を示す平面図である。図1において、弾性表面
波素子10は、長方形の半導体基板としてのSi層50(図2、参照)の上面に半導体配
線領域20とSAW領域30とが同じ平面状に並列して形成されている。半導体配線領域
20には、図示しない金属配線が4層形成されている(図2、参照)。また、SAW領域
30には、最上層に櫛歯状のIDT40が形成されている。
【0018】
IDT40は、Alからなり、入力側電極41と出力側電極42とが、相互に間挿する
ように形成され、それぞれが入力または出力のための端子を有し、これら端子は、図示し
ない半導体領域に形成される所定の金属配線と接続されている。
【0019】
図2には、本実施形態の弾性表面波素子10の図1においてA−Aで示す部分断面図が
示されている。図2において、弾性表面波素子10は、半導体基板としてのSi層50と
、Si層50の表面に形成されるSi層50の表面を平滑にするためのBPSG層(ボロ
ンリンドープ酸化膜層)51と、金属配線としてのAl配線61と、Al配線61を含み
Si層50の表面に渡って形成されるSiO2からなる絶縁層71と、同様に、絶縁層7
1の上面に形成されるAl配線62と、Al配線62の上面に形成される絶縁層72と、
絶縁層72の上面に形成されるAl配線63、Al配線63の上面に形成される絶縁層7
3と、絶縁層73の上面に形成されるAl配線64と、Al配線64の上面に形成される
絶縁層74とが、Al配線と絶縁層とがそれぞれ交互に層状に形成されている。
【0020】
絶縁層71〜74は、それぞれが上面が研磨されて、同じ厚みの平面に平滑に仕上げら
れている。さらに、最上層の絶縁層74の表面全体にわたって窒化珪素(Si34)から
なる保護層80と、保護層80の上面全体にわたってZnOからなる圧電体層90が形成
されている。Si層50の上面は、2領域に2分されており(図1、参照)、Al配線6
1〜64が形成されている範囲を半導体配線領域20、それ以外をSAW領域30と呼称
している。
【0021】
SAW領域30の圧電体層90の上面には、AlからなるIDT40が形成されている
。IDT40は、図1で示した櫛歯状の電極である。
なお、Si層50には、図示しない複数のトランジスタ等の回路素子が形成され、これ
ら回路素子を接続するためにAl配線61〜64が設けられ、ビアホール(図示せず)等
でそれぞれ所定の接続がなされている。また、やはり図示しないが、IDT40の入力側
端子、出力側端子がAl配線61〜64のうちの対応するいずれかと接続されている。な
お、図2では、Al配線のうちの1部を図示しているが、Al配線は、これだけに限らず
、図示しない他の複数が存在している。
【0022】
前述したように、半導体基板(Si層50)上に、半導体配線領域20とSAW領域3
0とが形成され、その両領域にわたって平滑な絶縁層と、圧電体層が形成され、SAW領
域30にIDT40が形成されていることが本発明の第1の要旨である。
【0023】
次に、本発明の実施形態1に係る弾性表面波素子10の製造方法について図面を参照し
て説明する。
図3は、実施形態1に係る弾性表面波素子10が形成されるウエハ1のレイアウトを示
す平面図である。図3において、ウエハ1には、図示したように多数の弾性表面波素子1
0が格子状に配置されている。ウエハ内部の一部範囲を1B、ウエハの外周部にある一部
範囲を1Cとして、以降に詳しく説明する。
【0024】
図4(a)は、図3に示す1Bに示す範囲を拡大して、弾性表面波素子10の配置を例
示した平面図、図4(b)は、図4(a)のB−B切断面を示す断面図である。図4(a
)、図4(b)において、弾性表面波素子10は、図中、上方側において、弾性表面波素
子10A,10B,10Cというように配置されている。ここで、SAW領域30Aと半
導体配線領域20B、SAW領域30Bと半導体配線領域20Cとが一辺を接して隣接し
ている。また、図中、縦方向も同様に、弾性表面波素子10A,10D,10Eが、それ
ぞれ半導配線領域とSAW領域とが隣接されて配置されている。つまり、半導体配線領域
とSAW領域とが市松模様状に配置されている。
【0025】
このように配置され、後述する図5で示す製造方法によって、半導体製造プロセスによ
って弾性表面波素子10は多数同時に形成された後、ダイシングによって、ダイシングラ
イン11で一つ一つに切り離される。
【0026】
図5(a)〜(e)は、弾性表面波素子の製造工程を示す部分断面図である。図5では
、ウエハ1に形成される弾性表面波素子の一つを代表して例示している。
まず、図5(a)において、半導体基板としてのSi層50の表面にBPSG層51を
形成し、BPSG層51の表面にAl配線61を形成する。Al配線61の表裏両面には
、Al配線の保護層61A,61Bが形成されている。なお、以降、保護層61A,61
Bを含めてAl配線と呼称する。
【0027】
次に、Al配線61の上面及び、それ以外のBPSG層51の表面にわたってSiO2
からなる絶縁層71を所定の概ね同じ厚みで形成する。従って、Al配線61が存在する
位置の絶縁層71の上面は、Al配線61がない範囲の上面よりもhだけ厚くなっている

【0028】
続いて、図5(b)に示すように、厚くなっている絶縁層71をhだけCMPにより研
磨して、Si層50の表面からの厚みがどの位置でも同じの平滑な絶縁層表面71Aを形
成する。なお、この際、hよりも深く研磨して絶縁層表面71Aを得るように研磨量を調
整することができるが、Al配線61上面の絶縁層71の厚みを、絶縁性能が劣化しない
範囲とする。
【0029】
図5(c)は、第2層目を形成する工程を示している。図5(c)において、第1層目
の絶縁層71の上面には、第2層目のAl配線62を形成し、さらにその上面に絶縁層7
2を形成する。第2層目の絶縁層72も第1層目の絶縁層71と同様にCMPによって、
Al配線62上面方向の突出した部分を研磨して、平滑で均一な厚みの絶縁層表面72A
を形成する。
同様な工程で、第3層目、第4層目を形成する。
【0030】
図5(d)には、第4層目の絶縁層74を形成した状態を示す断面図である。図5(d
)において、Al配線64の上面に形成される絶縁層74の突出部(hで示す)をCMP
によって研磨し、平滑で、Si層50の表面からの厚みが均一な絶縁層表面74Aを得る
。この絶縁層表面74AにSi34からなる保護層80を全面にわたって形成する(図5
(e)も参照)。保護層80は、構造的強度が高く、耐衝撃性が高い薄膜である。
なお、最上層のAl配線64及び絶縁層73の上面に保護層80を設ける構成としても
よい。
【0031】
図5(e)には、実施形態1に係る弾性表面波素子のダイシングによる切り離し前の形
態を示し、図4(a)に示すB−B切断部の1部を示す断面図である。図5(e)におい
て、保護層80の上面全体にわたって圧電体層90を形成し、圧電体層90のSAW領域
にIDT40を形成する。弾性表面波素子10Aには隣接して弾性表面波素子10Bが配
置されており、弾性表面波素子10Bのダイシングライン11側には半導体配線領域20
Bが構成されている。半導体配線領域20Bは、Al配線61B〜64B、絶縁層71〜
74が、前述した図5(a)〜図5(d)と同じ工程で同時に形成される。
【0032】
このように形成した弾性表面波素子10は、半導体配線領域20とSAW領域30にわ
たって形成される絶縁層71〜74をCMPによって研磨することで均一な厚みを形成す
るが、SAW領域にはAl配線61〜64が存在しないため、半導体配線領域に比べ密度
(Al配線の配線密度)が低くなっている。このことから、両領域を同時にCMPにより
研磨した際に、密度が低くなっているSAW領域の絶縁層表面が部分的に多く研磨される
ことが半導体製造プロセスにおいては知られている。この部分的に研磨量が増加すること
を低減するために、半導体配線領域を市松模様状に配置することが本発明の第2の要旨で
ある。
【0033】
ここで、半導体チップのウエハに配置する一般的なレイアウト方法を用いた弾性表面波
素子について図面を参照して説明する。なお、図4(a)と同じ符合を付与している。
図11(a)は、一般的なレイアウトによる弾性表面波素子を示す平面図、11(b)
は、図11(a)のD−D断面図である。図11(a)、(b)において、弾性表面波素
子は全てが同じ方向に配置されている。つまり、半導体配線領域20及びSAW領域30
が、図中、縦方向に連続して配置される。ここで、図11(a)に示す横方向のB−B断
面の形態は、前述した図4(a)、図4(b)と同じように配置されるが、縦方向に隣接
する弾性表面波素子10C,10Dは、半導体配線領域20Cと20D、SAW領域30
Cと30Dとが、それぞれ隣接して配置されている。従って、ウエハ内において、縦方向
において、SAW領域は、前述した実施形態1による市松模様状の配置に比べて半導体配
線領域に囲まれない広い面積を有している。
【0034】
次に、実施形態1による市松模様状の配置(図4(a)、(b)、参照)と前述した一
般的な配置(図11(a)、(b)、参照)による弾性表面波素子をCMPで研磨したと
きの断面を図6を参照して、その差を説明する。
図6は、弾性表面波素子を模式的に表した断面図である。図6において、実施形態1の
構成では両側にAl配線61〜64とAl配線61B〜64Bがあるため、最上層の絶縁
層74の表面は74Bで表される形状になり、Si層50の表面からの距離(厚み)の最
小値はT2である。また、一般的な配置によれば、前述したようにSAW領域は半導体配
線領域に囲まれない広い面積を有しているので、74C(図中、二点差線で示す)で表さ
れる形状となり、Si層50の表面からの距離(厚み)の最小値はT1である。
【0035】
ここで、絶縁層の厚みが弾性表面波素子の性能に与える影響について説明する。
図7は、弾性表面波素子を伝播する速度(音速)Vと絶縁層の厚みの関係を示すグラフ
である。図7において、縦軸には音速V、横軸には絶縁層の厚みTと音波の波数kを乗じ
た値kTを示している。波数kは2π/λ(波長)で表されるので波長が一定の場合に波
数kは定数となり、横軸において表されるkTの大きさは絶縁層の厚みに支配される。
【0036】
従って、図7で示すように、厚みT2のように絶縁層の厚みが厚いときには、音速Vが
低くなり、厚みT1のように絶縁層の厚みが薄いときには、音速Vは高くなる。また、音
速Vと周波数fの関係は、f=V/λで表されるため、絶縁層の厚みが厚いときには周波
数が低くなり、厚いときには周波数が高くなる。
このように、絶縁層の厚みによって周波数が変化するため、安定した周波数特性を得る
ために、絶縁層は均一な厚みに形成することが要求される。
【0037】
また、弾性表面波素子をSAWフィルタとしたときの通過特性と絶縁層の厚みの関係に
ついて図8を参照して説明する。
図8は、SAWフィルタの通過特性を示すグラフである。図8において、縦軸には減衰
量(単位dB)が示され、横軸には周波数が示されている。グラフ97は、図11で示し
た配置で形成された最小厚みT1が存在するときのSAWフィルタの通過特性が示されて
いる。また、グラフ96は、実施形態1による市松模様状に配置された最小厚みT2が存
在するときのSAWフィルタの通過特性が示されている。
【0038】
図8で示すように、グラフ96で示される通過特性は、中心周波数帯域付近で急峻な特
性を示しており、高性能なフィルタ特性を得ることができることを示している。グラフ9
6は、前述したようにIDT40の下層に形成される絶縁層の厚みがCMPによって研磨
する際の厚みの均一性を高めることによって得られる特性である。
【0039】
従って、前述した実施形態1によれば、半導体配線領域20とSAW領域30とをウエ
ハ1内において市松模様状に配置することで、SAW領域30が半導体配線領域20で囲
まれるように配置されるために、配線密度が異なるSAW領域30と半導体配線領域20
との上面に形成される絶縁層が、厚みの均一性が高い同一平面に形成することができるの
で、安定した周波数特性を有するSAW共振器や、急峻な通過特性を有するSAWフィル
タを提供することができる。
【0040】
また、弾性表面波素子10を前述したように、ウエハ1に市松模様状に配置し、半導体
基板(Si層50)の上面に半導体配線領域20とSAW領域30に並列に分離して形成
し、絶縁層71〜74をCMPにより研磨する半導体製造プロセスを用いて工程数を増や
さずに、厚みの均一性が高い同一平面に形成することができる。
【0041】
(実施形態2)
続いて、本発明の実施形態2に係る弾性表面波素子について図面を参照して説明する。
実施形態2は、前述した実施形態1の技術的思想を基本として、特に、ウエハ外周部に形
成される弾性表面波素子のSAW領域の絶縁層の厚みの均一性を高めることを目的として
いる。
図9には、実施形態2に係る弾性表面波素子が示され、図9(a)は、弾性表面波素子
10のウエハ1内の配置を示す部分平面図、図3で示す1C領域を拡大して模式的に示し
ている。図9(b)には、図9(a)で示すB−B断面図、図9(c)には、C―C断面
図が示されている。図9(a)〜(c)において、弾性表面波素子10の外周部には、金
属配線層21が形成されている。
【0042】
金属配線層21は、図示しないが、前述した実施形態1(図2、参照)と同様に、Al
配線61〜64とは独立した4層のAl配線層と、絶縁層71〜74とが層状に同じ厚み
に形成される。従って、図9(a)で示す弾性表面波素子10AのSAW領域30A、弾
性表面波素子10BのSAW領域30B、弾性表面波素子10CのSAW領域30C等の
外周側には、半導体配線層20C,20D等と略同じ配線密度を有する金属配線層21が
形成される。
【0043】
SAW領域30Aを代表して説明すると、SAW領域30Aは、周囲を半導体配線領域
と金属配線層で囲まれ、図3で示す1B領域と同じ配置構成になる。
【0044】
即ち、実施形態1で説明した状態となるため、絶縁層の最上層は、CMPで平滑、且つ
厚みの均一性が高い同一平面に形成することができ、実施形態1と同様な効果が得られる
。また、ウエハ1のどの位置に配置される弾性表面波素子も平滑、且つ厚みの均一性が高
い同一平面が形成されるため、歩留まりが上がりコストの低減にも効果がある。
【0045】
(実施形態3)
次に、本発明に係る実施形態3について図面を参照して説明する。実施形態3は、実施
形態1(図2、参照)に示す圧電体層90の形成範囲をSAW領域だけにしたところに特
徴を有し、他の構成は実施形態1と同じであるため説明を省略し、同じ符号を付与してい
る。
図10には、実施形態3に係る弾性表面波素子10の断面が示されている。図10にお
いて、最上層の絶縁層74の上面には保護層80がSAW領域30の範囲に形成され、そ
のさらに上面には、圧電体層90が形成され、圧電体層90の上面には、IDTが形成さ
れている。
【0046】
このような実施形態3の構造によれば、Al配線61〜64、絶縁層71〜74の構成
と製造方法は、実施形態1と同じであり、最上層にある絶縁層74の表面は、平滑、且つ
厚みの均一性が高い同一平面が形成されるため、前述した実施形態1と同様な効果が得ら
れる。
また、圧電体層90が、SAW領域だけに形成されるため、半導体配線領域20に与え
る音波の影響を減ずることができ、圧電体層90を形成する際に半導体配線領域に与える
負荷を減少することもできる。
【0047】
なお、前述した実施形態1及び実施形態3は、前述した実施形態2と組み合わせること
がより好ましい。
【0048】
次に、本発明に係る実施形態4について説明する。実施形態4は、絶縁層を塗布ガラス(SOG)で作成する方法である。図10に示す素子絶縁膜71〜74は、高周波化、配線の微細化に伴い気相法を用いた成膜を行うことが多い。しかしながら、数百MHz以下の比較的低周波の場合は、配線は0.35μm以上の旧世代の配線でも可能である。この場合、塗布ガラスを素子絶縁膜71〜74に用いることで、より安価な成膜が提供できる。なお、SOG工程は液状ガラスを、スピンコートにてプレ回転300rpmで3秒、メイン回転3000rpmで10秒でウエハ上に塗布を行う。その後、ベイク炉にて80℃で3分処理を行い、最後にキュアを300℃で60分することで作成した。
【0049】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる
範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前述の実施形態では、弾性表面波素子を一つづつの市松模様状に配置したが、
複数個毎の市松模様に配置することもできる。
また、CMPによる研磨は、ウエハの場所によって僅かであるが研磨量が異なることが
考えられ、ウエハ1の場所によって、弾性表面波素子の配置を変えて、密度のバランスを
とることもできる。
【0050】
また、前述の実施形態1(図5(b)、参照)では、絶縁層71は、Al配線61の厚
み分hが周囲より突出し、この突出分をCMPで研磨しているが、絶縁層をもっと厚く形
成し、CMPにおいて絶縁層全面を所定厚みに研磨しても良い。
【0051】
また、前述の実施形態2では、ウエハ外周部に形成される弾性表面波素子の外側周縁の
全部に金属配線層21を形成したが、金属配線層21は、SAW領域の外側に隣接する部
分にだけ形成しても前述の効果が得られる。
【0052】
さらに、前述した実施形態1〜3によれば、一つの弾性表面波素子の絶縁層の厚みを均
一にできる他、ウエハ1の各位置に配置されている弾性表面波素子の絶縁層の厚みのばら
つきを小さくできるため、各弾性表面波素子毎の周波数特性や通過特性等を安定して得ら
れるので歩留まりを高め、このことからコストの低減に寄与することができる。
【0053】
従って、前述の実施形態1〜実施形態3では、半導体基板上にSAWデバイスが形成さ
れる弾性表面波素子において、優れた通過特性を有するSAWフィルタ、及び優れた周波
数特性を有するSAW共振器等の弾性表面波素子と、これら弾性表面波素子の製造方法を
提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態1に係る弾性表面波素子の構成を示す平面図。
【図2】本発明の実施形態1に係る弾性表面波素子構成を示す部分断面図。
【図3】本発明の実施形態1に係る弾性表面波素子が形成されるウエハのレイアウトを示す平面図。
【図4】(a)は、本発明の実施形態1に係る弾性表面波素子の配置関係を示す平面図、(b)は、B−B断面図。
【図5】(a)〜(e)は、本発明の実施形態1に係る弾性表面波素子の製造工程を示す部分断面図。
【図6】本発明の実施形態1に係る弾性表面波素子を模式的に示す断面図。
【図7】本発明の実施形態1に係る弾性表面波素子を伝播する音速Vと絶縁層の厚みの関係を示すグラフ。
【図8】本発明の実施形態1に係る弾性表面波素子(SAWフィルタ)の通過特性を示すグラフ。
【図9】(a)は、本発明の実施形態2に係る弾性表面波素子の配置関係を示す平面図、(b)はB−B断面図、(c)はC−C断面図。
【図10】本発明の実施形態3に係る弾性表面波素子の構成を示す断面図。
【図11】(a)従来の他の実施形態に係る弾性表面波素子の配置関係を示す平面図、(b)はD−D断面図。
【符号の説明】
【0055】
1…ウエハ、10…弾性表面波素子、20…半導体配線層領域、30…SAW領域、5
0…Si層(半導体基板)、40…IDT、61〜64…Al配線(金属配線)、71〜
74…絶縁層、90…圧電体層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の上面の同一平面上に半導体配線領域とSAW領域が並列して形成されてい
る弾性表面波素子であって、
前記半導体配線領域に形成される金属配線と、
前記金属配線を含んで前記半導体配線領域の表面と前記SAW領域の表面に渡って形成
される絶縁層と、が設けられ、
前記絶縁層の最上層は、前記半導体配線領域と前記SAW領域に渡って前記半導体基板
の上面からの厚みが同じ同一平面に形成され、
前記絶縁層の最上層表面に形成される圧電体層と、
前記SAW領域の前記圧電体層の表面に形成されるIDTと、がさらに設けられている
ことを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
半導体基板の上面の同一平面上に半導体配線層領域とSAW領域が並列して形成されて
いる弾性表面波素子の製造方法であって、
ウエハに前記弾性表面波素子を格子状に配列すると共に、隣接する前記弾性表面波素子
に形成される前記半導体配線領域と前記SAW領域とを市松模様状に配列し、
前記半導体配線層領域と前記SAW領域の上面に渡って前記半導体基板の上面からの厚
みが同じ同一平面の絶縁層を形成し、
前記絶縁層の最上層表面に圧電体層を形成し、前記SAW領域の前記圧電体層の表面に
IDTを形成することを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の弾性表面波素子の製造方法において、
前記ウエハの外周部に配列される前記弾性表面波素子の外側周縁に、前記半導体配線領
域に形成される金属配線の配線密度と略同じ配線密度を有する金属配線層を、前記金属配
線とは独立して形成することを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の弾性表面波素子の製造方法において、
前記半導体基板の前記半導体配線領域の表面に前記金属配線を形成する工程と、
前記金属配線を含んで前記金属配線の表面と前記SAW領域の表面に渡って絶縁層を形
成する工程と、
前記絶縁層を所定の厚みに研磨する工程と、
前記絶縁層の最上層を前記半導体配線領域と前記SAW領域に渡って同一平面にすべく
研磨する工程と、
前記絶縁層の最上層に圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の表面にIDTを形成する工程と、
を含むことを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載の弾性表面波素子の製造方法において、
前記半導体基板の前記半導体配線領域の表面に前記金属配線を形成する工程と、
前記金属配線を含んで前記金属配線の表面と前記SAW領域の表面に渡って絶縁層を形
成する工程と、
前記絶縁層の表面を同じ厚み、且つ同一平面にすべく研磨する工程と、
研磨された前記絶縁層の前記SAW領域に圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の表面にIDTを形成する工程と、
を含むことを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−186963(P2006−186963A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247274(P2005−247274)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】