説明

弾性表面波素子

【課題】ATカット水晶振動子と同等かそれ以上の優れた周波数温度特性を有する弾性表面波素子を提供する。
【解決手段】弾性表面波素子1は、カット角がオイラー角(φ°,θ°,ψ°)による表示で(0±0.25°,113〜135°,±(40〜49°))となる水晶基板2と、水晶基板2上に設けられ、複数の電極指31a、31bを備えるIDT3(櫛歯電極)と、IDT3を水晶基板2とは反対側から覆うように設けられ、SiOを主成分として構成されたSiO膜6とを有し、SiO膜6の規格化膜厚hs/λ(ただし、hsは、SiO膜6の平均厚さ[nm]であり、λは、弾性表面波の波長[nm]である)が、0.0046〜0.0233である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)を利用した弾性表面波素子は、圧電体で構成された圧電体基板と、この圧電体基板上に設けられた櫛歯電極(Interdigital Transducer:IDT)とを備えている。
このような弾性表面波素子は、高周波領域における特性が優れていることから、例えば高周波フィルタとして広く利用され、その場合、一般に、圧電体基板としてSTカット水晶板が用いられる。
【0003】
このようなSTカット水晶板を用いた弾性表面波素子は、一次温度係数がほぼ0であるものの、2次温度係数の絶対値が比較的大きいため、使用温度範囲(−40〜85℃)における温度変化に対する周波数変動が比較的大きい。
そこで、STカット水晶板をその主面に垂直な軸線まわりに回転(面内回転)した面内回転ST水晶板を用いた弾性表面素子が開発されている(例えば、特許文献1参照)。このような面内回転STカット水晶板を用いた弾性表面波素子は、2次温度係数の絶対値を小さくすることができる。
【0004】
しかし、特許文献1に開示されているような従来の面内STカット水晶板を用いた弾性表面波素子は、2次温度係数の絶対値を十分に小さくすることができなかった。その結果、使用温度範囲(−40〜85℃)における温度変化に対する周波数変動を十分に小さくすることができなかった。そのため、このような弾性表面波素子は、高精度な高周波発振器として用いることが難しい。
【0005】
ところで、ATカット水晶振動子は、高周波領域における特性は劣るが、温度変化に対する周波数変動を極めて小さく抑えることができることが知られている。面内回転STカット水晶板を用いた弾性表面波素子においても、ATカット水晶振動子と同等かそれ以上の周波数温度特性を満足することが望まれている。
図18は、ATカット水晶振動子の周波数温度特性と、2次温度係数が−0.01ppm/℃の場合の弾性表面波素子の周波数温度特性を比較したものである。このように、ATカット水晶振動子と同等の周波数温度特性を得るには、2次温度係数の絶対値が0.01ppm/℃以下の弾性表面波素子を実現しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−204275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ATカット水晶振動子と同等かそれ以上の優れた周波数温度特性を有する弾性表面波素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の弾性表面波素子は、カット角がオイラー角(φ°,θ°,ψ°)による表示で(0±0.25°,113〜135°,±(40〜49°))となる水晶基板と、
前記水晶基板上に設けられ、複数の電極指を備える櫛歯電極と、
前記櫛歯電極を前記水晶基板とは反対側から覆うように設けられ、SiOを主成分として構成されたSiO膜とを有し、
前記SiO膜の規格化膜厚hs/λ(ただし、hsは、前記SiO膜の平均厚さ[nm]であり、λは、弾性表面波の波長[nm]である)が、0.0046〜0.0233であることを特徴とする。
これにより、周波数温度特性の2次温度係数の絶対値を極めて小さく抑えることができる。その結果、ATカット水晶振動子と同等かそれ以上の優れた周波数温度特性を発揮することができる。
【0009】
本発明の弾性表面波素子では、θおよびψは、
ψ=0.3295θ+3.3318+y±1.125・・・(1)
(ただし、yは、補正値であり、規格化膜厚hs/λをHとしたとき、
y=−380114.81×H+15550.14×H−141.47×H+0.05
である)
なる関係を満たすことが好ましい。
これにより、周波数温度特性の頂点温度を使用温度範囲(−40〜85℃)内に設定することができる。そのため、使用温度範囲(−40〜85℃)における温度変化に対する周波数変動量の幅を極めて小さくすることができる。
【0010】
本発明の弾性表面波素子では、前記SiO膜は、酸素および不活性ガスからなる雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより形成されたものであることが好ましい。
これにより、SiO膜を化学量論的な組成比に近づけることができ、均質で優れた膜質を有するものとすることができる。その結果、より効果的に、周波数温度特性を向上させることができる。
本発明の弾性表面波素子では、前記SiO膜は、前記スパッタリングにおける酸素流量比を5〜60%として形成されたものであることが好ましい。
これにより、SiO膜の化学的安定性を優れたものとすることができる。その結果、さらに効果的に、周波数温度特性を向上させることができる。
【0011】
本発明の弾性表面波素子では、前記櫛歯電極は、Alを主材料として構成されていることが好ましい。
Alは、導電性に優れている(電気抵抗が小さい)ため、櫛歯電極をAlを主材料として構成することにより、エネルギー損失が小さくなる。その結果、弾性表面波素子の弾性表面波の共振をより鋭くすることができる。そのため、弾性表面波素子を高周波発振器として用いるのに好適である。
【0012】
本発明の弾性表面波素子では、前記櫛歯電極の規格化膜厚ha/λ(ただし、haは、前記櫛歯電極の平均厚さ[nm]であり、λは、弾性表面波の波長[nm]である)は、0.01〜0.1であることが好ましい。
これにより、櫛歯電極の導電性を優れたものとしつつ、櫛歯電極の通電によるストレスマイグレーション等に起因する周波数変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態にかかる弾性表面波素子を模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示す弾性表面波素子に備えられた圧電体基板のカット角を説明するための図である。
【図3】図1に示す弾性表面波素子の部分拡大断面図である。
【図4】面内回転STカット水晶板を用いた弾性表面波素子のSiO膜の膜厚(規格化膜厚)と2次温度係数との関係を示すグラフである。
【図5】面内回転STカット水晶板を用いた弾性表面波素子(SiO膜省略)において、周波数温度特性を表わす3次関数の極値が使用温度範囲内にあるためのθおよびψの条件を示すグラフである。
【図6】図1および図3に示すような層構造を有する弾性表面波素子において、SiO膜の膜厚を変化させたとき、上記の式(3)に対して必要な補正値とSiO膜の膜厚との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例1の弾性表面波素子における温度変化に対する周波数変動を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例2の弾性表面波素子における温度変化に対する周波数変動を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例3の弾性表面波素子における温度変化に対する周波数変動を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例4の弾性表面波素子における温度変化に対する周波数変動を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例5の弾性表面波素子における温度変化に対する周波数変動を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例6の弾性表面波素子における温度変化に対する周波数変動を示すグラフである。
【図13】比較例1の弾性表面波素子における温度変化に対する周波数変動を示すグラフである。
【図14】比較例2の弾性表面波素子における温度変化に対する周波数変動を示すグラフである。
【図15】比較例3の弾性表面波素子における温度変化に対する周波数変動を示すグラフである。
【図16】比較例4の弾性表面波素子における温度変化に対する周波数変動を示すグラフである。
【図17】比較例5の弾性表面波素子における温度変化に対する周波数変動を示すグラフである。
【図18】ATカット水晶振動子の周波数温度特性と、2次温度係数が−0.01ppm/℃の場合の弾性表面波素子の周波数温度特性とを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の弾性表面波素子の製造方法を好適な実施形態を用いて説明する。
図1は、本発明の実施形態にかかる弾性表面波素子を模式的に示す平面図、図2は、図1に示す弾性表面波素子に備えられた圧電体基板のカット角および弾性表面波の伝播方向を説明するための図、図3は、図1に示す弾性表面波素子の部分拡大断面図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0015】
図1および図2に示す弾性表面波素子1は、いわゆる1ポート型と呼ばれるタイプの素子であり、水晶基板2と、水晶基板2上に設けられたIDT(櫛歯電極)3と、IDT3の両側に設けられた1対の反射器4、5と、IDT3および1対の反射器4、5を覆うように設けられたSiO膜6とを有している。
この弾性表面波素子1は、IDT3(後述する各電極3a、3b間)に周期的に変化する電圧が入力されると、水晶基板2の圧電効果により水晶基板2の表面付近において弾性表面波が励振される。励振された弾性表面波は、1対の反射器4、5間で反射を繰り返して、これらの間に封じ込められる。
【0016】
以下、このような弾性表面波素子1を構成する各部を順次詳細に説明する。
水晶基板2は、圧電体材料である水晶で構成され、弾性表面波の伝搬媒体として機能するものである。
水晶の結晶軸は、図2に示すように、互いに直交するX軸(電気軸)、Y軸(機械軸)およびZ軸(光学軸)によって表現される。そして、水晶のカット角は、オイラー角(φ,θ,ψ)で表現されるが、Z軸に直角な主面を有するZカット基板のカット角は、オイラー角(0°,0°,0°)で表わされる。
【0017】
ここで、オイラー角のφは、Zカット基板の第1の回転に関するものであり、Z軸を回転軸とし、+X軸側から+Y軸側へ回転する方向を正の回転角度とした第1の回転角度である。また、オイラー角のθは、Zカット基板の第1の回転後に行う第2の回転に関するものであり、第1の回転後のX軸(座標軸X’軸)を回転軸とし、第1の回転後の+Y軸(座標軸+Y’軸)側から+Z軸側へ回転する方向を正の回転角度とした第2の回転角度である。また、オイラー角のψは、Zカット基板の第2の回転後に行う第3の回転に関するものであり、第2の回転後のZ軸(座標軸Z’軸)を回転軸とし、第2の回転後の+X軸(座標軸+X’軸)側から第2の回転後の+Y軸(座標軸+Y”軸)側へ回転する方向を正の回転角度とした第3の回転角度である。
【0018】
水晶基板2のカット面は、前述した第1の回転角度φおよび第2の回転角度θで決定される。また、水晶基板2における弾性表面波の伝播方向は、前述した第2の回転後のX軸(座標軸X’軸)に対する第3の回転角度ψで表わされる。
特に、水晶基板2は、図2に示すように、STカット水晶板10をZ’軸まわりにψ°回転させたカット角となる面内回転STカット水晶板20を用いて形成されている。このような水晶基板2のカット角は、オイラー角(φ°,θ°,ψ°)による表示で(0°,113°〜135°,±(40°〜49°))となる。水晶基板2のカット角および弾性表面波の伝播方向をこの範囲にすると、周波数温度特性に優れた弾性表面波素子1を得ることができる。特に、弾性表面波素子1の周波数温度特性と水晶基板2のオイラー角との間には相関関係があり、後述するようにオイラー角を上記の範囲内において調整することで、弾性表面波素子1の周波数温度特性を向上させることができる。
【0019】
より具体的には、θおよびψは、
ψ=0.3295θ+3.3318+y±1.125・・・(1)
なる関係を満たすのが好ましい。
(ただし、後述する規格化膜厚hs/λをHとしたとき、
y=−380114.81×H+15550.14×H−141.47×H+0.05
である)
【0020】
これにより、周波数温度特性の頂点温度を使用温度範囲(−40〜85℃)内に設定することができる。そのため、使用温度範囲(−40〜85℃)における温度変化に対する周波数変動量の幅を極めて小さくすることができる。なお、弾性表面波素子1の周波数温度特性と水晶基板2のオイラー角との関係については、後に詳述する。
また、このような面内回転STカット水晶板を用いた水晶基板2においては、結晶の異方性のため、IDT3への通電により弾性表面波を発生させた場合、弾性表面波の位相の伝播方向である位相速度の方向Bと、波群の伝播方向である群速度の方向Aが異なる。より具体的には、水晶基板2は、図1に示すように、弾性表面波の位相速度の方向BがX”軸に沿っている。そして、群速度の方向Aは、弾性表面波のエネルギーが進む方向となっていて、位相速度の方向Bと角度PFAをもって交差する。位相速度の方向Bと群速度の方向Aとのなす角度PFAは、パワーフロー角と言う。
【0021】
したがって、本実施形態では、群速度の方向Aに伝播する波群(波束)を効率的に反射し、高いQ値が得られるように、後述するIDT3と反射器4、5とを群速度の方向Aに沿って配列している。また、IDT3の電極指31a、31bおよび反射器4、5の反射体41、51は、それぞれ、長手方向が位相速度の方向B(X”軸)に直交した方向、すなわちY'''軸に沿って形成されている。また、水晶基板2は、平面視にて、長方形をなし、対向する一対の辺(長辺)21、22がIDT3および反射器4、5の配列方向に沿っており、他の一対の辺(短辺)23、24は、弾性表面波の群速度の方向Aと直交している。これにより、水晶基板2は、小型化を図るとともに、水晶ウエハに対する収率を向上することができる。また、水晶基板2は、二辺(短辺)23、24が弾性表面波の位相速度の方向Bと直交していないため、反射器4、5から漏れた波群が各辺23、24で反射された場合でも、反射波の位相をずらして反射器4、5ひいてはIDT3に戻すことができる。これにより水晶基板2の端面からの反射波に起因するスプリアスの影響を抑圧することができる。
このような水晶基板2の一方の面(上面)には、IDT(櫛歯電極)3および1対の反射器4、5が接合されている。
【0022】
IDT3は、電気信号を受け(電圧が印加され)、これにより、水晶基板2に弾性表面波を励振させる機能を有するものである。
IDT3は、1対の電極3a、3bで構成されている。そして、電極3aは、複数の電極指31aを備え、電極3bは、複数の電極指31bを備えている。このようなIDT3は、電極3aの複数の電極指31aと、電極3bの複数の電極指31bとが互いに噛み合うように構成されている。このようなIDT3の電極指31a、31bの幅、間隔、厚さ等を調整することにより、弾性表面波の発振周波数の特性を所望のものに設定することができる。
このような電極3a、3b間に周期的に変化する電圧を印加すると、水晶基板2の上面付近に、電極指31a、31bの配列方向に伝播する弾性表面波が励振される。
【0023】
IDT3の構成材料としては、導電性を有する材料であれば、特に限定されないが、金属材料が好適に用いられる。特に、IDT3の構成材料としては、AlまたはAlを主材料とした合金(Al系合金)を用いるのが好ましい。Alは、導電性に優れている(電気抵抗が小さい)ため、IDT3をAlまたはAl系合金を主材料として構成することにより、エネルギー損失が小さくなる。その結果、弾性表面波素子1の弾性表面波の共振をより鋭くすることができる。そのため、弾性表面波素子1を高周波発振器として用いるのに好適である。
【0024】
また、Alは比重が小さいので、IDT3の膜厚に依存した音速変化が小さく抑えられる。したがって、弾性表面波素子1の中心周波数のばらつきを抑えることができる。
また、IDT3の膜厚の制御が容易となるので、精度の高い弾性表面波素子1を得ることができる。
また、IDT3をAl系合金を主材料として構成する場合、Alに、Cu、Si、Ti、Mo、Sc等の金属を添加することにより、IDT3のマイグレーション耐性を改善することもできる。Alに添加する金属の含有割合は、重量比で10%以下であればよい。
【0025】
また、IDT3の平均膜厚をha[nm]、弾性表面波の波長をλ[nm]としたとき、IDT3の規格化膜厚ha/λは、0.01〜0.1であるのが好ましい。規格化膜厚ha/λが0.01未満になるとIDTの電気的抵抗値が増大する虞がある。また、規格化膜厚ha/λを0.1より大きくすると、バルク波への変換損失増大の虞が生じる。
このようなIDT3を介して対向するように、1対の反射器4、5が配置されている。
【0026】
1対の反射器4、5は、それぞれ、水晶基板2を伝搬する弾性表面波を反射して、反射器4と反射器5との間に封じ込める機能を有する。
また、反射器4は、所定間隔で並設された複数の反射体41を有し、全体としてグレーティング状をなしている。これと同様に、反射器5は、所定間隔で並設された複数の反射体51を有し、全体としてグレーティング状をなしている。これにより、各反射器4、5は、それぞれ、弾性表面波を効率よく反射することができる。
反射器4、5の構成材料としては、特に限定されないが、前述したIDT3の構成材料と同様の金属材料が好適に用いられる。
【0027】
このような反射体41、51の幅、間隔、ピッチ、厚さ等を調整することにより、弾性表面波素子1において励振される弾性表面波の発振周波数等の特性を所望のものに設定することができる。
このような水晶基板2、IDT3および1対の反射器4、5には、SiO膜6が接合されている。また、SiO膜6は、IDT3を水晶基板2とは反対側から覆うように設けられている。
【0028】
SiO膜6は、弾性表面波素子1の周波数温度特性を向上させる機能を有するものである。
特に、SiO膜6の平均厚さをhs[nm]とし、弾性表面波の波長をλ[nm]としたときに、SiO膜6の規格化膜厚hs/λが0.46〜2.33%である。
これにより、後に詳述するように周波数温度特性の2次温度係数の絶対値を極めて小さく抑えることができる。その結果、弾性表面波素子1は、ATカット水晶振動子と同等かそれ以上の優れた周波数温度特性を発揮することができる。なお、SiO膜6の厚さと弾性表面波素子1の周波数温度特性との間には相関関係を有しているが、これらの関係については後に詳述する。
【0029】
また、SiO膜6は、IDT3および反射器4、5の表面に異物が付着するのを防止して、異物を介した電極指31a、31b間のショートを防ぐ機能をも有する。なお、本実施形態では、SiO膜6は、図3に示すようにIDT3および反射器4、5の露出面全体を覆うように設けられているが、IDT3および反射器4、5の上面に選択的に設け、IDT3および反射器4、5の側面が露出していてもよい。
【0030】
このようなSiO膜6の形成方法としては、特に限定されないが、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法等を用いることができるが、中でも、スパッタリングを用いるのが好ましい。
SiO膜6をスパッタリングにより形成する場合、酸素および不活性ガス(例えばアルゴン)からなる雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いて行うのが好ましい。これにより、SiO膜6を化学量論的な組成比に近づけることができ、均質で優れた膜質を有するものとすることができる。その結果、より効果的に、弾性表面波素子1の周波数温度特性を向上させることができる。
また、この場合、かかるスパッタリングにおける酸素流量比は、5〜60%であるのが好ましく、10〜50%であるのがより好ましい。これにより、SiO膜6の化学的安定性を優れたものとすることができる。その結果、さらに効果的に、弾性表面波素子1の周波数温度特性を向上させることができる。
【0031】
ここで、弾性表面波素子1の周波数温度特性について詳述する。
以下、弾性表面波素子1の周波数温度特性とSiO膜の膜厚および水晶基板2のオイラー角との関係について、詳述する。
弾性表面波素子の温度変化に対する周波数変動量(すなわち周波数温度特性)は、2次関数または3次関数で表わされる。したがって、使用温度範囲(−40〜85℃)において、温度変化に対する周波数変動量の幅を小さくするには、すなわち、周波数温度特性を向上させるには、[A]上記の関数における各係数(以下、「温度係数」と言う)が小さいことが必要であり、より好ましくは、[B]上記の関数における頂点(以下、「頂点温度」と言う)が使用温度範囲内にあることが必要となる。
【0032】
[A]
温度係数を小さくするには、面内回転STカット水晶板を用いた弾性表面波素子の上記関数における1次係数(1次温度係数)がほぼ0であることから、上記の関数における2次係数(2次温度係数)を小さくすることが有効である。
図4は、面内回転STカット水晶板を用いた弾性表面波素子のSiO膜の膜厚(規格化膜厚)と2次温度係数との関係を示すグラフである。
【0033】
本発明者は、SiO膜の膜厚(規格化膜厚)と2次温度係数との関係について、鋭意検討した結果、図1および図3に示すような層構造を有する弾性表面波素子において、図4に示すように、周波数温度特性の2次温度係数を効果的に抑えることが可能なSiO膜の膜厚の範囲を見出した。
図4に示すように、SiOの規格化膜厚を0.046〜0.0233とすることで、2次温度係数の大きさ(絶対値)を0.01ppm/℃以下と極めて小さくすることができる。
【0034】
[B]
頂点温度が使用温度範囲内にあるためには、前述したように、θおよびψは、
ψ=0.3295θ+3.3318+y±1.125・・・(1)
なる関係を満たす必要がある。
ただし、上記式(1)において、yは補正値であり、規格化膜厚hs/λをHとしたとき、
y=
−380114.81×H+15550.14×H−141.47×H+0.05
である)
【0035】
ここで、上記式(1)について、より具体的に説明する。
面内回転STカット水晶板を用いた弾性表面波素子の周波数温度特性は、3次関数で表わすことができる。この場合、かかる3次関数の極値(極大値または極小値)が頂点温度に相当する。
図5は、オイラー角が(0°,113〜135°,±(40〜49°))にある面内回転STカット水晶板を用いた弾性表面波素子(SiO膜省略)において、周波数温度特性を表わす3次関数の極値が使用温度範囲内にあるためのθおよびψの条件を示すグラフである。
【0036】
本発明者は、種々の検討を繰り返し、図5に示すように、オイラー角が(0°,113〜135°,±(40〜49°))にある面内回転STカット水晶板を用いたトランスバーサル型および共振型のそれぞれの弾性表面波素子(SiO膜省略)において、周波数温度特性を表わす3次関数の極値が使用温度範囲内にあるためのθおよびψの条件を見いだした(詳細は、特許第3216137号参照)。
【0037】
図5に示すハッチング部8は、上記のトランスバーサル型の弾性表面波素子に関し、上述したようなθおよびψの条件を満たす範囲である。また、図5に示すハッチング部7は、上記の共振型の弾性表面波素子に関し、上述したようなθおよびψの条件を満たし、かつ、ハッチング部8の範囲外にある範囲である。
このようなハッチング部7およびハッチング部8を合わせた領域は、下記の式(3)で表わされる。
ψ=0.3295θ+3.3318±1.125・・・(3)
【0038】
さらに、本発明者は、SiO膜の膜厚と極値(頂点温度)との関係について、鋭意検討した結果、図1および図3に示すような層構造を有する弾性表面波素子において、SiO膜の膜厚によって、極値(頂点温度)が変化し、上記の式(3)に対して補正値が必要となり、この補正値とSiO膜の膜厚との間に、図6に示すような関係があることを見出した。
【0039】
図6は、図1および図3に示すような層構造を有する弾性表面波素子において、SiO膜の膜厚を変化させたとき、上記の式(3)に対して必要な補正値とSiO膜の膜厚との関係を示すグラフである。
より具体的には、上記の式(3)に対する補正値をyとし、SiO膜の規格化膜厚をHとしたときに、yおよびHは、下記数2で表わされる関係を有することを見出した。
y=
−380114.81×H+15550.14×H−141.47×H+0.05
・・・(2)
このようにして、かかる補正値yを上記の式(3)に組み入れることによって、上記の式(1)を導き出した。
【0040】
以上説明したように、本発明の弾性表面波素子1によれば、水晶基板2として面内回転STカット水晶板を用いた上で、規格化膜厚hs/λが0.0046〜0.0233であるSiO膜6を設けることにより、周波数温度特性の2次温度係数の絶対値を極めて小さく抑えることができる。その結果、ATカット水晶振動子と同等かそれ以上の優れた周波数温度特性を発揮することができる。
特に、水晶基板2のカット角を前述したような式(1)を満たすようにした場合、周波数温度特性の頂点温度を使用温度範囲(−40〜85℃)内に設定することができる。そのため、使用温度範囲(−40〜85℃)における温度変化に対する周波数変動量の幅を極めて小さくすることができる。
以上説明したような弾性表面波素子1は、各種の電子機器に適用することができ、得られる電子機器は、信頼性の高いものとなる。
【0041】
本発明の弾性表面波素子を備える電子機器としては、特に限定されないが、例えば、パーソナルコンピュータ(モバイル型パーソナルコンピュータ)、携帯電話機、ディジタルスチルカメラ、インクジェット式吐出装置(例えばインクジェットプリンタ)、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ等が挙げられる。
【0042】
以上、本発明の弾性表面波素子の製造方法について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明を適用する弾性表面波素子は、用途に応じて反射器、櫛歯電極の数を変更してもよく、また反射器を省略することもできる。
また、本発明を適用する弾性表面波素子には、各種機能を有する半導体素子が複合化されていてもよい。
【実施例】
【0043】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.弾性表面波素子の作製
(実施例1)
まず、圧電体基板として、平均厚さ:0.4mmの水晶基板(面内回転STカット水晶基板)を用意した。
【0044】
次に、水晶基板上に、真空蒸着法によりアルミニウムを被着させ、アルミニウム膜(導体層)を形成した。
次に、フォトリソグラフィー法により、IDT(櫛歯電極)および反射器に対応する形状のマスクを形成した。
次に、このマスクとして用いてドライエッチングを行うことにより、アルミニウム膜の不要部分を除去することにより、IDTおよび反射器を形成し、その後、マスクを除去した。
【0045】
その後、酸素およびアルゴンからなる雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いて、SiO膜をスパッタリングにより形成した。このとき、酸素流量1sccm、アルゴン流量10sccmの条件でスパッタリングを行った。
これにより、図1に示すような弾性表面波素子を得た。
ここで、得られた弾性表面波素子の設計値を下記に示す。
【0046】
水晶基板のオイラー角 :(0°,127°,45°)
弾性表面波の周波数 :300MHz
IDT対数 :180
反射器本数(片側あたり) :272
チルト角(PFA) :2.750°
IDTη(線幅/(線幅+スペース幅)) :0.434
反射器η(線幅/(線幅+スペース幅)) :0.434
交差幅(×λ) :40
IDT膜厚(×λ) :0.045
IDT波長(電極寸法)[μm]:10.718
反射器波長(電極寸法)[μm]:10.743
【0047】
(実施例2〜6、比較例1〜5)
SiO膜の膜厚を変更した以外は、前述した実施例1と同様にして弾性表面波素子を作成した。
ここで、実施例2は、SiO膜の膜厚hsを750Å(=75nm)とし、SiO膜の規格化膜厚H(=hs/λ)を0.00700とした。
また、実施例3は、SiO膜の膜厚hsを1000Å(=100nm)とし、SiO膜の規格化膜厚H(=hs/λ)を0.00933とした。
【0048】
また、実施例4は、SiO膜の膜厚hsを1500Å(=150nm)とし、SiO膜の規格化膜厚H(=hs/λ)を0.01400とした。
また、実施例5は、SiO膜の膜厚hsを2000Å(=200nm)とし、SiO膜の規格化膜厚H(=hs/λ)を0.01866とした。
また、実施例6は、SiO膜の膜厚hsを2500Å(=250nm)とし、SiO膜の規格化膜厚H(=hs/λ)を0.02333とした。
【0049】
また、比較例1は、SiO膜の膜厚hsを0Å(=0nm)とし、SiO膜の規格化膜厚H(=hs/λ)を0.00000とした。
また、比較例2は、SiO膜の膜厚hsを100Å(=10nm)とし、SiO膜の規格化膜厚H(=hs/λ)を0.00093とした。
また、比較例3は、SiO膜の膜厚hsを200Å(=20nm)とし、SiO膜の規格化膜厚H(=hs/λ)を0.00187とした。
また、比較例4は、SiO膜の膜厚hsを300Å(=30nm)とし、SiO膜の規格化膜厚H(=hs/λ)を0.00280とした。
また、比較例5は、SiO膜の膜厚hsを3500Å(=350nm)とし、SiO膜の規格化膜厚H(=hs/λ)を0.03266とした。
【0050】
2.評価
上記の各実施例および各比較例の弾性表面波素子について、温度変化に対する周波数変動量を調べた。その結果を図7〜17に示す。なお、図7〜17では、周波数温度特性の関数を2次関数で示した(3次の項を省略して示した)。
各実施例1〜6では、図7〜12に示すように、使用温度範囲における温度変化に対する周波数変動量の幅を極めて小さく、周波数温度特性が優れていた。これに対し、各比較例1〜5では、図13〜17に示すように、各実施例に比し、使用温度範囲における温度変化に対する周波数変動量の幅が大きく、周波数温度特性に劣るものとなった。
【符号の説明】
【0051】
1‥‥弾性表面波素子 10、20‥‥STカット水晶板 2‥‥水晶基板 21、22、23、24‥‥辺 3‥‥IDT(櫛歯電極) 3a、3b‥‥電極 31‥‥電極指 4、5‥‥反射器 41、51‥‥反射体 6‥‥SiO

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カット角がオイラー角(φ°,θ°,ψ°)による表示で(0±0.25°,113〜135°,±(40〜49°))となる水晶基板と、
前記水晶基板上に設けられ、複数の電極指を備える櫛歯電極と、
前記櫛歯電極を前記水晶基板とは反対側から覆うように設けられ、SiOを主成分として構成されたSiO膜とを有し、
前記SiO膜の規格化膜厚hs/λ(ただし、hsは、前記SiO膜の平均厚さ[nm]であり、λは、弾性表面波の波長[nm]である)が、0.0046〜0.0233であることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
θおよびψは、
ψ=0.3295θ+3.3318+y±1.125・・・(1)
(ただし、yは、補正値であり、規格化膜厚hs/λをHとしたとき、
y=−380114.81×H+15550.14×H−141.47×H+0.05
である)
なる関係を満たす請求項1に記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
前記SiO膜は、酸素および不活性ガスからなる雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより形成されたものである請求項1または2に記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
前記SiO膜は、前記スパッタリングにおける酸素流量比を5〜60%として形成されたものである請求項3に記載の弾性表面波素子。
【請求項5】
前記櫛歯電極は、Alを主材料として構成されている請求項1ないし4のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項6】
前記櫛歯電極の規格化膜厚ha/λ(ただし、haは、前記櫛歯電極の平均厚さ[nm]であり、λは、弾性表面波の波長[nm]である)は、0.01〜0.1である請求項1ないし5のいずれかに記載の弾性表面波素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−177819(P2010−177819A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15985(P2009−15985)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】