説明

弾性表面波装置、その製造方法、および電子機器

【課題】 擬似縦波型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波装置において、スプリアスを効果的に抑制することによりCI値やQ値を改善し、高周波化を容易にする弾性表面波装置を得る。
【解決手段】 圧電基板としてタンタル酸リチウム基板を用いた場合、基板の厚みtをIDT波長λで規格化した規格化基板厚みt/λを1≦t/λ≦22とし、基板の切り出し角および前記擬似縦波型漏洩弾性表面波の伝搬方向をオイラー表示で(90°、90°、0°〜180°)の範囲内とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬似縦波型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波装置、弾性表面波装置の製造方法、および弾性表面波装置を用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波装置は、圧電基板の表面にIDT電極を設けた弾性表面波素子から構成され、共振子、フィルタ等の回路素子として通信機器などに使用されている。
弾性表面波装置に用いられる弾性表面波としては、レイリー波(Rayleigh wave)や、漏洩弾性表面波(Leaky wave)が主に用いられている。
レイリー波は、弾性体の表面を伝搬する表面波であり、そのエネルギーは圧電基板内部に放射することなく伝搬する。圧電基板中には、「遅い横波」、「速い横波」、「縦波」の3種類の体積波(バルク波)が存在するが、このレイリー波は「遅い横波」よりもさらに遅い位相速度で伝搬する。
また、漏洩弾性表面波は、弾性体(圧電体)の深さ方向にエネルギーを放射しながら伝搬する弾性表面波であり、圧電基板の特定の切り出し角および伝搬方向での利用が可能である。この漏洩弾性表面波は、「遅い横波」と「速い横波」の間の位相速度で伝搬する。
【0003】
弾性表面波装置の特性は、圧電基板を伝搬する弾性表面波の伝搬特性に依存しており、弾性表面波装置の高周波化に対応するために位相速度の速い弾性表面波の利用が求められている。
近年、漏洩弾性表面波の理論を発展させて、基板表面での変位の殆どが縦波成分で構成され、体積波として2つの横波成分を圧電基板内部に放射しながら「速い横波」と「縦波」の間の速い位相速度で伝搬する擬似縦型漏洩弾性表面波の弾性表面波装置への利用が開示されている。
擬似縦波型漏洩弾性表面波は位相速度が速いため、レイリー波や漏洩弾性表面波等では困難であった弾性表面波装置の高周波化を容易に実現する可能性がある。
特に、電気機械結合係数の大きなタンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)を基板材料とすることで、弾性表面波装置の高周波化が期待されている。
【0004】
例えば、四ホウ酸リチウム基板において、基板表面の切り出し角を特定することにより、位相速度が5000〔m/秒〕〜7500〔m/秒〕と大きく、伝搬損失が低い擬似縦波型漏洩弾性表面波を利用できることが明らかにされている(特許文献1参照)。
さらに、タンタル酸リチウム基板やニオブ酸リチウム基板においても位相速度が速く、伝搬損失の小さい擬似縦波型漏洩弾性表面波が利用できる基板表面の切り出し角が明らかにされている(特許文献2、特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平6−112763号公報
【特許文献2】特開平8−316781号公報
【特許文献3】特開平10−84245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電気機械結合係数が大きいという利点を持つタンタル酸リチウム基板やニオブ酸リチウム基板または四ホウ酸リチウム基板を用いて、擬似縦波型漏洩弾性表面波を利用する場合に、従来の開示された圧電基板の切り出し角範囲内でスプリアスが発生し実用上不都合であることが確認された。
例えば、弾性表面波装置を共振子として用いた際に、スプリアスが主振動の近傍で発生した場合には、CI(クリスタルインピーダンス)値やQ値を低下させ、また、発振回路を構成した発振器の場合には、異常発振や周波数飛びのなどの不具合を生ずる原因となる。さらに、フィルタに用いた場合には、遅延平坦特性を確保する必要性から、通過帯域の広い範囲にわたりスプリアスをできる限り抑制しなければならない課題がある。
【0007】
本発明の目的は、擬似縦波型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波装置において、スプリアスを効果的に抑制することによりCI値やQ値を改善し、高周波化を容易にする弾性表面波装置および、弾性表面波装置の製造方法、弾性表面波装置を備えた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1の発明の弾性表面波装置は、タンタル酸リチウム基板と、タンタル酸リチウム基板の表面に擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振させるためのIDT電極を備えた弾性表面波装置であって、タンタル酸リチウム基板の厚みtをIDT波長λで規格化した規格化基板厚みt/λが、1≦t/λ≦22の範囲内であることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、タンタル酸リチウム基板を伝搬する擬似縦波型漏洩弾性表面波を用いて、スプリアスの抑制された弾性表面波装置を提供できる。また、発振回路を構成した発振器の場合には、異常発振や周波数飛びなどの不具合を防止でき、安定度の高い発振器を提供することができる。
【0010】
また、第2の発明は、第1の発明の弾性表面波装置において、タンタル酸リチウム基板の表面の切り出し角および前記擬似縦波型漏洩弾性表面波の伝搬方向がオイラー表示で(90°、90°、0°〜180°)の範囲内であることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、位相速度がレイリー波の約2倍の擬似縦波型弾性表面波を発生させることが可能であり、弾性表面波装置の高周波化が容易になる。
【0012】
また、第3の発明の弾性表面波装置は、ニオブ酸リチウム基板と、ニオブ酸リチウム基板の表面に擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振させるためのIDT電極を備えた弾性表面波装置であって、ニオブ酸リチウム基板の厚みtをIDT波長λで規格化した規格化基板厚みt/λが、1≦t/λ≦29の範囲内であることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、ニオブ酸リチウム基板を伝搬する擬似縦波型漏洩弾性表面波を用いて、スプリアスの抑制された弾性表面波装置を提供できる。また、発振回路を構成した発振器の場合には、異常発振や周波数飛びなどの不具合を防止でき、安定度の高い発振器を提供することができる。
【0014】
また、第4の発明は、第3の発明の弾性表面波装置において、前記ニオブ酸リチウム基板の表面の切り出し角および前記擬似縦波型漏洩弾性表面波の伝搬方向がオイラー表示で(0°、70°〜105°、90°)の範囲内であることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、位相速度がレイリー波の約2倍の擬似縦波型弾性表面波を発生させることが可能であり、弾性表面波装置の高周波化が容易になる。
【0016】
また、第5の発明の弾性表面波装置は、四ホウ酸リチウム基板と、四ホウ酸リチウム基板の表面に擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振させるためのIDT電極を備えた弾性表面波装置であって、四ホウ酸リチウム基板の厚みtをIDT波長λで規格化した規格化基板厚みt/λが、1≦t/λ≦17の範囲内であることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、四ホウ酸リチウム基板を伝搬する擬似縦波型漏洩弾性表面波を用いて、スプリアスの抑制された弾性表面波装置を提供できる。また、発振回路を構成した発振器の場合には、異常発振や周波数飛びなどの不具合を防止でき、安定度の高い発振器を提供することができる。
【0018】
また、第6の発明は、第5の発明の弾性表面波装置において、前記四ホウ酸リチウム基板の表面の切り出し角および前記擬似縦波型漏洩弾性表面波の伝搬方向がオイラー表示で(0°〜45°、30°〜90°、40°〜90)の範囲内であることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、位相速度がレイリー波の約2倍の擬似縦波型弾性表面波を発生させることが可能であり、弾性表面波装置の高周波化が容易になる。
【0020】
また、第7の発明は、第1の発明乃至第6の発明の弾性表面波装置において、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板は、IDT電極の形成領域外であって基板厚み方向に厚みを持ち前記IDT電極形成面及びその対向面のうち少なくとも一方に補強部を設けたことを特徴とする。
【0021】
このようにすれば、補強部を設けない場合に比べて、タンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または四ホウ酸リチウム基板の機械的強度が大きくなり、プロセスにおける基板の割れなどの破損を防止でき、歩留まりを向上させることができる。
【0022】
また、第8の発明は、弾性表面波装置をフィルタまたは共振子として備えた電子機器であって、前記弾性表面波装置は第1の発明乃至第7の発明のいずれかに記載の弾性表面波装置であることを特徴とする。
【0023】
これにより、タンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または四ホウ酸リチウム基板を伝搬する擬似縦波型弾性表面波を用いて、スプリアスの抑制された共振子やフィルタを備えた電子機器の提供が可能となる。
【0024】
また、第9の発明は、弾性表面波装置の製造方法であって、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の厚みを調整する第1工程と、厚みが調整された前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の表面に擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振するIDT電極を形成して弾性表面波素子を得る第2工程と、前記弾性表面波素子をパッケージに収納固定する第3工程とを備え、前記第1工程では、基板の厚みtをIDT波長λで規格化した規格化基板厚みt/λが、前記タンタル酸リチウム基板においては、1≦t/λ≦22、前記ニオブ酸リチウム基板においては1≦t/λ≦29、前記四ホウ酸リチウム基板においては1≦t/λ≦17の範囲内に、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の厚みを調整することを特徴とする。
【0025】
この製造方法によれば、IDT電極の形成に先立ってタンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または四ホウ酸リチウム基板の厚みを調整するので、IDT電極を侵すことなくスプリアスを抑制し、CI値やQ値の改善された弾性表面波装置を製造できる。
【0026】
また、第10の発明は、弾性表面波装置の製造方法であって、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の表面に擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振するIDT電極を形成して弾性表面波素子を得る第1工程と、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の前記IDT電極の形成面と対向する面を削って前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の厚みを調整する第2工程と、前記弾性表面波素子をパッケージに収納固定する第3工程とを備え、前記第2工程では、基板の厚みtをIDT波長λで規格化した規格化基板厚みt/λが、前記タンタル酸リチウム基板においては、1≦t/λ≦22、前記ニオブ酸リチウム基板においては1≦t/λ≦29、前記四ホウ酸リチウム基板においては1≦t/λ≦17の範囲内に、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の厚みを調整することを特徴とする。
【0027】
この製造方法によれば、IDT電極形成後に圧電基板の厚さを調整するため、IDT電極形成時において、薄い圧電基板をハンドリングすることによる破損を防止することができ、製品の歩留まりを向上させることができる。
【0028】
また、第11の発明は、第9の発明または第10の発明の弾性表面波装置の製造方法において、前記第3工程の後に弾性表面波素子の周波数調整を行う周波数調整工程を含み、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の前記IDT電極の形成面と厚さ方向に対向する面を削り周波数調整を行うことを特徴とする。
第12の発明は、第11の発明の弾性表面波装置の製造方法において、周波数調整は前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の前記IDT電極の形成面と厚さ方向に対向する面をドライエッチングで削ることを特徴とする。
【0029】
このように、第11および第12の発明によれば、圧電基板のIDT電極を侵すことなく周波数調整を行うことができるので、周波数調整後の中心周波数の変化を減少させ、経年変化の少ない安定した弾性表面波装置を製造できる。また、IDT電極形成面をエッチングして周波数調整を行った場合と比較し、エッチング量に対する周波数変動が小さいため精度のよい周波数調整を行うことが可能となる。そして、エッチングとしてドライエッチングを用いることにより、微小量のエッチング量を制御することが可能となり、さらに精度の良い周波数調整ができる。
【0030】
第13の発明は、第11の発明または第12の発明の弾性表面波装置の製造方法において、前記周波数調整に先立って前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板のIDT電極形成面の基板表面および前記IDT電極の表面のうちの少なくとも一方を削り予備周波数調整を行うことを特徴とする。
【0031】
この第13の発明によれば、周波数を大きく調整する必要がある場合には、まず、IDT電極形成面をエッチングして周波数の調整を粗く予備調整を行い、その後に、IDT電極形成面と対向する面をエッチングして精度の良い周波数調整をすることができる。このようにすれば、周波数調整を短時間で行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
【0033】
図1(a)は、本実施形態に係る弾性表面波素子の概略構成を示す斜視図、図1(b)は同図(a)のA−A断面図である。
弾性表面波素子10は、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板を含む圧電基板1と、この圧電基板1の表面上に形成されたIDT電極2および反射器電極3a、3bを備えている。
図1において、tは、圧電基板1の厚み、PはIDT電極2のピッチ、λはIDT波長、hは、IDT電極2および反射器電極3a、3bの厚みである。
【0034】
圧電基板1としてタンタル酸リチウム基板を用いる場合には、圧電基板1の表面の切り出し角および前記擬似縦波型漏洩弾性表面波の伝搬方向(以下、「切り出し角」という。)がオイラー表示で(90°、90°、0°〜180°)の範囲内で形成されている。また、圧電基板1としてニオブ酸リチウム基板を用いる場合には、圧電基板1の表面の切り出し角がオイラー表示で(0°、70°〜105°、90°)の範囲内で形成されている。さらに、圧電基板1として四ホウ酸リチウム基板を用いる場合には、圧電基板1の主平面の切り出し角がオイラー表示で(0°〜45°、30°〜90°、40°〜90°)の範囲内で形成されている。これら、圧電基板1の切り出し角は、特許文献1、2、3により従来知られた内容である。
【0035】
圧電基板1の厚みtは、それぞれの圧電基板材料によりスプリアスが十分に抑制されるような値に調整されている。この点については後述する。
【0036】
IDT電極2は、圧電基板1上をX´軸と平行に伝搬する擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振するものであり、規格化電極厚みh/λは0.02以上に設定される。ここで、規格化電極厚みh/λは、IDT電極2および反射器電極3a、3bの厚みhをIDT波長λで規格化したものである。例えば、IDT波長λが10μmのとき、IDT電極2および反射器電極3a、3bの厚みhは、200nm以上に設定される。
反射器電極3a、3bは、IDT電極2で発生した擬似縦波型漏洩弾性表面波を反射させ、IDT電極2に表面波エネルギーを閉じ込めるものである。
【0037】
図2はタンタル酸リチウム基板を用い、共振子を作成した場合の規格化基板厚みt/λに対する直列共振周波数および並列共振周波数、そしてスプリアス周波数の変化を示すグラフである。
ここで、規格化基板厚みt/λは、基板厚みtをIDT波長λで規格化したものである。例えば、IDT波長λが10μmのとき基板厚みtが100μmであれば、規格化基板厚みt/λは10となる。
図2の場合、基板の切り出し角はオイラー表示で(90°、90°、30°)とし、規格化電極厚みh/λは0.07としている。また、周波数fを直列共振周波数f0で規格化した規格化周波数f/f0とし、主振動の直列共振周波数の規格化周波数f/f0を1としている。
【0038】
同様に、図3は、ニオブ酸リチウム基板を用い、共振子を作成した場合の規格化基板厚みt/λに対する直列共振周波数および並列共振周波数、そしてスプリアス周波数の変化を示すグラフである。基板の切り出し角は、オイラー表示で(0°、90°、90°)とし、規格化電極厚みh/λは0.07としている。
さらに同様に、図4は四ホウ酸リチウム基板を用い、共振子を作成した場合の規格化基板厚みt/λに対する直列共振周波数および並列共振周波数、そしてスプリアス周波数の変化を示すグラフである。基板の切り出し角は、オイラー表示で(0°、46°、90°)とし、規格化電極厚みh/λは0.07としている。
【0039】
図2、3、4のグラフからそれぞれの基板で共通して、規格化基板厚みt/λが小さくなると、これに応じて主振動の直列共振周波数とスプリアス周波数との差が大きくなることがわかる。つまり、規格化基板厚みt/λがある値より小さい条件でスプリアスを抑制できることが理解できる。
スプリアス発生の原因は、圧電基板全体が振動して発生するバルク波の高次モードであり、その共振周波数は圧電基板の厚みで決定される定在波である。従って、圧電基板を薄くすることにより、次数の異なる定在波の間の共振周波数差は大きくなる。つまり、スプリアスと主振動の間の周波数差が大きくなり、スプリアスを抑制することが可能となる。
【0040】
規格化基板厚みt/λの下限については、基板歩留まりを考慮して1以上であればよい。これは、規格化基板厚みt/λが、1より小さい場合に、圧電基板の厚さが極めて薄くなり、加工途中での扱い(ハンドリング)などにより圧電基板が割れる、或いは欠けるなどの不具合が発生することによる基板歩留まり低下を考慮したものである。
このことについて詳述する。IDT波長λは、λ=位相速度(m/秒)/共振周波数(Hz)で表される。本例で示す圧電基板の位相速度は、約5000〜7000(m/秒)である。ここで、共振周波数のほぼ上限である2GHz(2ギガヘルツ)の共振周波数、位相速度の最小値5000(m/秒)の場合を一例として説明する。このとき、λ=5000/2000000000=0.0000025となり、IDT波長λは、2.5μmとなる。t/λ=1のときは、t=λであり、圧電基板の厚さは、2.5μmと極めて薄くなる。この圧電基板の厚さ2.5μmは、実質的な加工下限値に近い厚さであり、この値以下になると割れ、欠けなどの発生が増加する。t/λが、1より小さい場合は、さらに圧電基板の厚さが薄くなり、不具合の起こる可能性がさらに高くなる。
また、規格化基板厚みt/λの上限については、好ましくは直列共振周波数と並列共振周波数の間にスプリアスが発生しない条件であるが、弾性表面波装置の回路構成から、規格化周波数f/f0が1.01より高い範囲に発生するスプリアスは、インピーダンスが極めて大きくなり、異常発振を生じさせる可能性がないため、実用上は規格化周波数f/f0が1.00から1.01の範囲にスプリアスが発生しない条件であれば問題ない。
【0041】
このことから、図2より、タンタル酸リチウム基板を用いた場合、スプリアスを抑制できる規格化基板厚みt/λは、好ましくは1≦t/λ≦14の範囲であり、実用上は、
1≦t/λ≦22 ・・・(1)
の範囲である。
また、図3より、ニオブ酸リチウム基板を用いた場合、スプリアスを抑制できる規格化基板厚みt/λは好ましくは、1≦t/λ≦6の範囲であり、実用上は、
1≦t/λ≦29 ・・・(2)
の範囲である。
さらに、図4より、四ホウ酸リチウム基板を用いた場合、スプリアスを抑制できる規格化基板厚みt/λは、好ましくは1≦t/λ≦14の範囲であり、実用上は、
1≦t/λ≦17 ・・・(3)
の範囲である。
【0042】
図5は、上述した弾性表面波素子10を収容容器に収容した弾性表面波装置の概略断面である。
セラミックスなどで形成された収容容器14は、一面が開放されて凹部が設けられている。この凹部に、圧電基板1からなる弾性表面波素子10を、IDT電極2が下を向くように金バンプ13を介して収容容器14内に接続させ、電気的接続と機械的接続を同時に果たしている。そして、収容容器14の上面を蓋体15で、内部を真空雰囲気あるいは不活性ガス雰囲気に保持して封止され、パッケージされた弾性表面波装置30となる。
【0043】
このように、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板を含む圧電基板1を用いて、従来の弾性表面波の設計条件にはなかった圧電基板1の規格化基板厚みt/λを規定することにより、位相速度の大きな擬似縦波型漏洩弾性表面波を利用する場合に不都合であったスプリアスを効果的に抑制することができ、CI値やQ値を改善することができる。また、このように圧電基板1の規格化基板厚みt/λを規定することにより、位相速度の大きな擬似縦波型漏洩弾性表面波を利用することができ、弾性表面波装置の高周波化が可能となる。
(第1の実施形態の変形例)
【0044】
図6は、第1の実施形態の変形例を示す弾性表面波素子の概略断面図である。
弾性表面波素子20は、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板を含む圧電基板1に、補強部1aが設けられている。補強部1aは、IDT電極2および反射器電極3a、3bが設けられた圧電基板1の表面と表裏の関係となる対向面としての裏面1b側の外周部に沿って設けられている。この補強部1aは、圧電基板1の表面側に配置したIDT電極2および反射器電極3a、3bと対向する領域外に設けられている。また、IDT電極2および反射器電極3a、3bと対向する領域の圧電基板1の厚さは第1の実施形態で説明した、それぞれの圧電基板材料に応じた厚みに調整されている。そして、図示しないが、弾性表面波素子20を収容容器に収容して弾性表面波装置として完成する。
なお、補強部1aの配置は上記の構成に限らず、圧電基板1の表面側の外周部に沿って設けても良く、あるいは、圧電基板1の表面側と裏面側の各外周部に沿ってそれぞれ設けても良い。
【0045】
このように、変形例によれば、補強部1aを設けるようにしたので、補強部1aのない構成に比べて圧電基板1の機械的強度が増し、プロセスにおける割れなどの破損を防止でき、歩留まりを向上させることができる。
(第2の実施形態)
【0046】
次に、本発明に係る電子機器の実施形態について説明する。
図7は、電子機器の構成を示す概略構成図である。例えば、携帯電話やキーレスエントリーシステムなどの電子機器60に、弾性表面波装置30を具備している。携帯電話の場合には、弾性表面波装置30を周波数選別用フィルタとして用い、キーレスエントリーシステムの場合には、弾性表面波装置30を発振器の共振子として用いている。つまり、この実施形態に係る電子機器60は弾性表面波装置30をフィルタや共振子として含んだものである。
このような構成から成る電子機器60によれば、圧電基板1を励振する擬似縦波型漏洩弾性表面波を利用し、スプリアスの抑制されたフィルタや共振子を用いた電子機器60の提供が可能となる。
(第3の実施形態)
【0047】
次に、本発明に係る弾性表面波装置の製造方法の実施形態について説明する。図8は、弾性表面波装置の製造方法の実施形態を説明するフローチャートである。ここでは、図1に示す弾性表面波素子10を図5に示す収容容器14に収容して弾性表面波装置30として完成するまでを説明する。
まず、圧電基板1の厚みtを調整する(ステップS1)。この圧電基板1は、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板から形成され、基板表面の切り出し角は前述した角度範囲内にそれぞれ切り出されている。この圧電基板1の厚みtの調整は、研磨やエッチングにより基板の表裏を均一に削ることにより行われる。このとき、圧電基板1の厚みtは、規格化基板厚みt/λで規定された、それぞれの基板に応じた上記の(1)、(2)、(3)式を満たすように加工される。
【0048】
次に、ステップS2に進み、厚みが調整された圧電基板1の表面に、蒸着やスパッタによる手法により、例えばアルミニウム(Al)の膜を成膜する。
そして、ステップS3に進み、成膜したアルミニウム膜を所定のパターンにエッチングして擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振するIDT電極2、および反射器電極3a、3bを形成する。その後、ステップS4でIDT電極2、および反射器電極3a、3bの表面に酸化膜を形成し、弾性表面波素子10を得る。
次に、ステップS5に進み、弾性表面波素子10を収容容器14にマウント(固定)し、ステップS6で収容容器14にマウントした弾性表面波素子10の周波数調整を行う。
そして、ステップS7に進み、収容容器14の上面に蓋体15を固着して、内部を真空雰囲気あるいは不活性ガス雰囲気に保持して封止され、パッケージされた弾性表面波装置となる。
なお、ステップS6における周波数調整については、従来知られたIDT電極2、および反射器電極3a、3bをエッチングする方法、または、これらの電極が形成された基板面をエッチングする方法であっても良く、さらに、第4の実施形態で詳述するIDT電極2の形成された面に対向する基板面をエッチングする方法であっても良い。
【0049】
以上のように、この製造方法によれば、IDT電極2の形成に先立ってタンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または四ホウ酸リチウム基板の厚みtを調整するので、IDT電極2を侵すことなくスプリアスを抑制し、CI値やQ値の改善された弾性表面波装置を製造できる。
【0050】
次に、この製造方法に係る他の実施形態について説明する。図9は弾性表面波装置の製造方法の実施形態を説明するフローチャートである。
まず、所定の厚さからなる圧電基板1を用意し、この圧電基板1の表面に、例えばアルミニウム(Al)の膜を形成する(ステップS11)。
そして、ステップS12に進み、成膜したアルミニウム膜を所定のパターンにエッチングして擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振するIDT電極2、および反射器電極3a、3bを形成する。その後、ステップS13でIDT電極2、および反射器電極3a、3bの表面に酸化膜を形成し、弾性表面波素子10を得る。
次にステップS14に進み、圧電基板1の厚みtの調整を行う。この圧電基板1の厚みtの調整は、圧電基板1の裏面(IDT電極2を形成した面と対向する面)を研磨またはエッチングすることにより行う。このとき、圧電基板1の厚みtは、規格化基板厚みt/λで規定された、それぞれの基板に応じた上記の(1)、(2)、(3)式を満たすように加工される。
【0051】
次に、ステップS15に進み、弾性表面波素子10を収容容器14にマウント(固定)し、ステップS16で収容容器14にマウントした弾性表面波素子10の周波数調整を行う。そして、ステップS17に進み、収容容器14の上面に蓋体15を固着して、内部を真空雰囲気あるいは不活性ガス雰囲気に保持して封止され、パッケージされた弾性表面波装置となる。
なお、ステップS16における周波数調整については、従来知られたIDT電極2、および反射器電極3a、3bをエッチングする方法、または、これらの電極が形成された基板面をエッチングする方法であっても良く、さらに、第4の実施形態で詳述するIDT電極2の形成された面に対向する基板面をエッチングする方法であっても良い。
【0052】
この製造方法によれば、IDT電極2形成後に圧電基板1の厚さtを調整するため、IDT電極2形成時において、薄い圧電基板1をハンドリングすることによる破損を防止でき、製品の歩留まりを向上させることができる。
(第4の実施形態)
【0053】
次に、本発明に係る弾性表面波装置の製造方法、特に周波数調整方法の実施形態について説明する。まず、弾性表面波素子の周波数調整方法の具体的な説明に先立ち、その周波数調整の原理について説明する。
一般に、弾性表面波素子の周波数はIDT電極や反射器電極(以下、両者を合わせて電極と表現する)の実効膜厚に依存し、電極膜厚が薄くなると周波数が上がり、厚くなると周波数が下がる。この原理を利用して、実用的には、電極をエッチングして周波数を上げる方法や、電極を厚くする方法に代えて、電極をマスクにして基板を削って見かけ上の電極膜厚を増し、周波数を下げる方法で弾性表面波素子の周波数調整が行われている。
また、擬似縦波型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波素子の場合には、この擬似縦波型漏洩弾性表面波が弾性体(圧電体)の深さ(厚み)方向にエネルギーを放射しながら伝搬する弾性表面波であるため、基板厚みを調整することにより中心周波数を変化させることが可能である。つまり、IDT電極や反射器電極を形成した面の厚み方向に対向する面をエッチングして、基板厚さを薄くすることにより、周波数を上げることが可能である。
【0054】
図10は、擬似縦波型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波装置の各周波数調整方法における、エッチング量と周波数の変動を示す概略説明図である。
IDT電極の表面をエッチングして電極膜厚を薄くした場合には、一点鎖線で示すように電極のエッチング量に対して、周波数の変動量は大きく、周波数は上がる方向に変化する。また、電極をマスクにして圧電基板をエッチングした場合には、破線で示すように、圧電基板のエッチング量に対して、周波数の変動量は大きく、周波数は下がる方向に変化する。これらに対して、IDT電極や反射器電極を形成した面に対向する基板面をエッチングした場合には、実線で示すように圧電基板のエッチング量に対して周波数の変動量は小さく、周波数が上がる方向に変化する。このことは、精度の良い周波数調整に適し、特に周波数が高く、IDT波長の短い弾性表面波素子の周波数調整に適しているのがわかる。
【0055】
図11は、圧電基板としてタンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または四ホウ酸リチウム基板を用い、IDT電極や反射器電極を形成した面に対向する基板面(基板裏面)をエッチングした場合の、エッチング量と周波数変動量の関係を示すグラフである。
このように、上述したそれぞれの基板材料を用いた場合に、基板裏面のエッチング量に対して周波数変動量が小さく、高精度の周波数調整が可能である。
そこで、本発明に係る弾性表面波装置の製造方法は、周波数調整において、上記の点に着目し、基板裏面をエッチングすることにより、精度の良い周波数調整ができるようにしたものである。
【0056】
この基板裏面をエッチングする方法としては、ウェットエッチングでもドライエッチングでも良いが、微小なエッチング量の制御が可能であるドライエッチングが好適である。
以下、本実施形態に用いられるエッチング装置(周波数調整装置)について、説明をする。図12はエッチング装置の概略構成図である。
エッチング装置40は、チャンバ41を有しており、チャンバ41内を排気およびチャンバ41内にガスを導入できるように構成されている。また、このチャンバ41内に上部電極42aおよび下部電極42bが配置されている。上部電極42aは接地され、下部電極42bはコンデンサ43を介してRF電源(高周波電源)44に接続されている。下部電極42b上には支持台45が設けられ、その支持台45の上に、収容容器に弾性表面波素子をマウントした弾性表面波装置30bを載置できるようになっている。
【0057】
また、支持台45には、弾性表面波装置30bから発生する擬似縦波型漏洩弾性表面波の周波数を測定するための測定端子47が設けられている。この測定端子47は、電気ケーブル48を介して周波数測定計49に接続されている。
周波数測定計49は、その測定した中心周波数をRF電源制御部46に供給するようになっている。RF電源制御部46は、その供給される測定中心周波数と目標値を比較してRF電源44の動作などを制御するようになっている。
【0058】
このエッチング装置40を用いて弾性表面波装置30bの周波数調整を行う場合には、図13に示すように、圧電基板1のIDT電極2の形成面と対向する面(基板裏面1b)を上にマウントされた弾性表面波装置30bを支持台45上に載せる。
次に、周波数測定計49により、弾性表面波装置30bの中心周波数の測定を開始する。そこで、チャンバ41内を排気しつつ、エッチングガスをチャンバ41内に導入して所定の減圧下でプラズマを発生させる。
【0059】
このとき、RF電源44により、上部電極42aと下部電極42bとの間に高周波電圧が印加されているため、プラズマ中で生成したイオンが電界で加速され、弾性表面波素子10の裏面1bのエッチングが行われる。これにより、そのエッチングにより測定される中心周波数が変化し目標値に近づいていく。
このエッチング中は、周波数測定計49は、弾性表面波装置30bの中心周波数の測定を行い、その測定値をRF電源制御部46に供給する。RF電源制御部46は、その測定値が予め設定されている目標値と比較し、目標値になるとRF電源44の動作を停止させる。これにより上記のエッチングが停止し、周波数調整が終了する。
【0060】
このようなエッチング装置40を用いた弾性表面波装置の周波数調整方法について、図14のフローチャートを参照しながら説明をする。圧電基板1は、第1の実施形態で説明したタンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または四ホウ酸リチウム基板であり、基板の厚み、および切り出し角はそれぞれの基板に応じた所定の値に調整されている。
まず、ステップS21で圧電基板1上に形成されたIDT電極2の厚みhを、目標の厚みよりもわずかに厚めであって、中心周波数が目標値よりわずかに低めとなるように設定しておく。次に、弾性表面波装置30bをエッチング装置40のチャンバ41内に設置してIDT電極2に電圧を印加させて中心周波数の測定(入出力測定)を開始する(ステップS22)。そして、ステップS23に進み、圧電基板1の基板裏面1bのエッチングが行われる。すると、そのエッチングにより測定される中心周波数が徐々に上がって目標値に近づいていく。次のステップS24では中心周波数が目標値でなければステップS23に戻りエッチングを継続し、目標値になればステップS25に進みエッチングを停止する。つまり、エッチングしながら中心周波数の測定を繰り返し、目標値になるまでエッチングを継続する。
【0061】
以上のような周波数調整方法によれば、エッチング量に対して周波数の変動量が小さい圧電基板1の基板裏面1bをエッチングすることにより、中心周波数を精度良く目標値に調整することができる。
また、圧電基板1に形成される電極を一切侵すことなく周波数調整を行うことができるので、電極をプラズマなどでエッチングする場合に問題となる残留アルミニウムに起因した調整後の周波数変動を防止することができる。そして、このことから、中心周波数の経年変化が少なく、長期的に安定に動作する弾性表面波装置を実現できる。
【0062】
次に、他の周波数調整方法について図15を参照しながら説明をする。
この方法は、弾性表面波装置の圧電基板上に形成されるIDT電極の厚みなどに製造上の大きなバラツキがあり、精度よく周波数調整を必要とする場合に有用な方法である。
まず、IDT電極2に電圧を印加させて中心周波数の測定を開始する(ステップS31)。次に、その測定中心周波数が目標値以下または目標値以上であるかを判定する(ステップS32)。
【0063】
この判定の結果、測定中心周波数が目標値以下の場合にはステップS33に進み、測定中心周波数が目標値以上の場合にはステップS39に進む。なお、測定中心周波数が目標値に一致する場合には、周波数の調整が不要であるので、その調整を終了する。
ステップS33では、IDT電極2の表面のエッチング、例えばウェットエッチングを測定周波数を確認しながら行う。すると、そのエッチングにより測定される中心周波数が短時間に上がっていく。そして、その測定中心周波数が、中心周波数の目標値よりもわずかに低く設定されている「仮の目標値」になるまで、そのエッチングを継続し(ステップS33、S34)、それが「仮の目標値」になった時点でそのエッチングを停止する(ステップS35)。以上のステップS33、S34の処理は、周波数の粗調整(予備周波数調整)となる。
【0064】
次に、圧電基板1の基板裏面1bのエッチングを、エッチング装置40を用いて行う。
このエッチングでは、測定周波数を確認しながら行う(ステップS36)。すると、そのエッチングにより測定される中心周波数が徐々に上がって目標値に近づいていく。そして、中心周波数が目標値になるまでそのエッチングを継続し(ステップS36、S37)、それが目標値になった時点でエッチングを停止する(ステップS38)。以上のステップS36、S37の処理は、周波数の微調整となる。
【0065】
一方、ステップS39では、圧電基板1のIDT電極形成面の基板表面をエッチング(例えば、ウェットエッチング)する。このエッチングでは測定周波数を確認しながら行う。すると、そのエッチングにより測定される中心周波数が短時間に下がっていく。そして、その測定中心周波数が、中心周波数の目標値よりわずかに低く設定されている「仮の目標値」になるまで、そのエッチングを継続し(ステップS39、S40)、それが「仮の目標値」になった時点でそのエッチングを停止する(ステップS41)。以上のステップS39、S40の処理は、周波数の粗調整(予備周波数調整)となる。
【0066】
次に、圧電基板1の基板裏面1bのエッチングを、エッチング装置40を用いて行う。
このエッチングでは、測定周波数を確認しながら行う(ステップS42)。すると、そのエッチングにより測定される中心周波数が徐々に上がって目標値に近づいていく。そして、中心周波数が目標値になるまでそのエッチングを継続し(ステップS42、S43)、それが目標値になった時点でエッチングを停止する(ステップS44)。以上のステップS42、S43の処理は、周波数の微調整となる。
【0067】
このような周波数調整方法によれば、中心周波数の目標値にバラツキがある場合でも、圧電基板1の基板表面またはIDT電極2の表面のエッチングにより周波数の粗調整を短時間で行い、その後、圧電基板1の基板裏面1bのエッチングにより周波数の微調整を行うことにより、全体として短時間で精度の良い周波数調整ができる。
また、周波数の粗調整をウェットエッチングによりIDT電極2の表面あるいは圧電基板1の表面について行い、微調整をドライエッチングにより圧電基板1の基板裏面1bについて行うことができるので、圧電基板1の表面をプラズマなどでエッチングする場合に問題となる残留アルミニウムに起因した調整後の周波数変動を防止することができる。
このことから、圧電基板1に形成される電極を一切侵すことなく周波数調整を行うことができるので、中心周波数の経年変化が少なく、長期的に安定に動作する弾性表面波装置を実現できる。
【0068】
なお、上記の例では、圧電基板1の表面のエッチング(ステップS39、S40)またはIDT電極2の表面のエッチング(ステップS33、S34)により周波数の粗調整を行い、その後、圧電基板1の基板裏面1bのエッチングにより周波数の微調整を行うようにしたが、以下のような調整方法も可能である。
すなわち、ステップS31の周波数測定の結果、その中心周波数が上記の「仮の目標値」以下の場合には、直ちに圧電基板1の基板裏面1bのエッチング処理(ステップS36またはステップS42)に移行するようにする。
【0069】
また、必要に応じて、まずIDT電極2の表面のエッチングを行い、次に圧電基板1の表面のエッチングを行い、最後に圧電基板1の基板裏面1bのエッチングを行い、中心周波数が目標値になるように調整しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の概略構成図。
【図2】タンタル酸リチウム基板を用いた場合の規格化基板厚みt/λに対するスプリアス周波数の変化を示すグラフ。
【図3】ニオブ酸リチウム基板を用いた場合の規格化基板厚みt/λに対するスプリアス周波数の変化を示すグラフ。
【図4】四ホウ酸リチウム基板を用いた場合の規格化基板厚みt/λに対するスプリアス周波数の変化を示すグラフ。
【図5】本発明の実施形態に係る弾性表面波装置の概略断面図。
【図6】弾性表面波素子の変形例を示す概略断面図。
【図7】実施形態の電子機器の構成図。
【図8】本発明の弾性表面波装置の製造方法の実施形態を説明するフローチャート。
【図9】本発明の弾性表面波装置の製造方法の実施形態を説明するフローチャート。
【図10】周波数調整方法によるエッチング量と周波数変動の関係を示すグラフ。
【図11】基板材料による基板のエッチング量と周波数変動の関係を示すグラフ。
【図12】エッチング装置の概略構成図。
【図13】エッチング装置での弾性表面波装置のエッチング状態を説明する断面図。
【図14】周波数調整方法の手順を説明するフローチャート。
【図15】周波数調整方法の手順を説明するフローチャート。
【符号の説明】
【0071】
1…圧電基板、1a…補強部、1b…基板裏面、2…IDT電極、3a、3b…反射器電極、10…弾性表面波素子、13…金バンプ、14…収容容器、15…蓋体、20…弾性表面波素子、30…弾性表面波装置、40…エッチング装置、60…電子機器、λ…IDT波長、t…圧電基板の厚み、t/λ…規格化基板厚み。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンタル酸リチウム基板と、前記タンタル酸リチウム基板の表面に擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振させるためのIDT電極を備えた弾性表面波装置であって、
前記タンタル酸リチウム基板の厚みtをIDT波長λで規格化した規格化基板厚みt/λが、1≦t/λ≦22の範囲内であることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記タンタル酸リチウム基板の表面の切り出し角および前記擬似縦波型漏洩弾性表面波の伝搬方向がオイラー表示で(90°、90°、0°〜180°)の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
ニオブ酸リチウム基板と、前記ニオブ酸リチウム基板の表面に擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振させるためのIDT電極を備えた弾性表面波装置であって、
前記ニオブ酸リチウム基板の厚みtをIDT波長λで規格化した規格化基板厚みt/λが、1≦t/λ≦29の範囲内であることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項4】
前記ニオブ酸リチウム基板の表面の切り出し角および前記擬似縦波型漏洩弾性表面波の伝搬方向がオイラー表示で(0°、70°〜105°、90°)の範囲内であることを特徴とする請求項3に記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
四ホウ酸リチウム基板と、前記四ホウ酸リチウム基板の表面に擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振させるためのIDT電極を備えた弾性表面波装置であって、
前記四ホウ酸リチウム基板の厚みtをIDT波長λで規格化した規格化基板厚みt/λが、1≦t/λ≦17の範囲内であることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項6】
前記四ホウ酸リチウム基板の表面の切り出し角および前記擬似縦波型漏洩弾性表面波の伝搬方向がオイラー表示で(0°〜45°、30°〜90°、40°〜90°)の範囲内であることを特徴とする請求項5に記載の弾性表面波装置。
【請求項7】
前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板は、前記IDT電極の形成領域外であって基板厚み方向に厚みを持ち前記IDT電極形成面及びその対向面のうち少なくとも一方に補強部を設けたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の弾性表面波装置。
【請求項8】
弾性表面波装置をフィルタまたは共振子として備えた電子機器であって、前記弾性表面波装置は請求項1乃至7のいずれか一項に記載の弾性表面波装置であることを特徴とする電子機器。
【請求項9】
タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の厚みを調整する第1工程と、厚みが調整された前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の表面に擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振するIDT電極を形成して弾性表面波素子を得る第2工程と、前記弾性表面波素子をパッケージに収納固定する第3工程とを備え、
前記第1工程では、基板の厚みtをIDT波長λで規格化した規格化基板厚みt/λが、前記タンタル酸リチウム基板においては、1≦t/λ≦22、前記ニオブ酸リチウム基板においては1≦t/λ≦29、前記四ホウ酸リチウム基板においては1≦t/λ≦17の範囲内に、前記タンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または四ホウ酸リチウム基板の厚みを調整することを特徴とする弾性表面波装置の製造方法。
【請求項10】
タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の表面に擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振するIDT電極を形成して弾性表面波素子を得る第1工程と、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の前記IDT電極の形成面と対向する面を削って前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の厚みを調整する第2工程と、前記弾性表面波素子をパッケージに収納固定する第3工程とを備え、
前記第2工程では、基板の厚みtをIDT波長λで規格化した規格化基板厚みt/λが、前記タンタル酸リチウム基板においては、1≦t/λ≦22、前記ニオブ酸リチウム基板においては1≦t/λ≦29、前記四ホウ酸リチウム基板においては1≦t/λ≦17の範囲内に、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の厚みを調整することを特徴とする弾性表面波装置の製造方法。
【請求項11】
前記第3工程の後に弾性表面波素子の周波数調整を行う周波数調整工程を含み、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の前記IDT電極の形成面と厚さ方向に対向する面を削り周波数調整を行うことを特徴とする請求項9または10に記載の弾性表面波装置の製造方法。
【請求項12】
前記周波数調整は、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の前記IDT電極の形成面と厚さ方向に対向する面をドライエッチングで削ることを特徴とする請求項11に記載の弾性表面波装置の製造方法。
【請求項13】
前記周波数調整に先立って前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板のIDT電極形成面の基板表面および前記IDT電極の表面のうちの少なくとも一方を削り予備周波数調整を行うことを特徴とする請求項11または12に記載の弾性表面波装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−25396(P2006−25396A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119323(P2005−119323)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】