形質細胞様樹状細胞特異的膜分子に対する抗体を含む治療剤
【課題】ヒト形質細胞様樹状細胞(PDC)が関与する各種疾患の治療剤または診断剤を提供する。
【解決手段】ヒトPDC膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を有効成分として含有する、PDCが関与する疾患の治療剤または診断剤、ならびに、該抗体またはその断片を用いるPDCのin vitroでの分離、除去方法。
【解決手段】ヒトPDC膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を有効成分として含有する、PDCが関与する疾患の治療剤または診断剤、ならびに、該抗体またはその断片を用いるPDCのin vitroでの分離、除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト形質細胞様樹状細胞(Plasmacytoid Dendritic Cell;以下PDCともいう)で特異的に発現する特定のヒトPDC膜分子に対する抗体を用いた、PDCの除去法または検出法、ならびに、該抗体を有効成分として含む、PDCが関与する各種疾患の治療剤または診断剤に関する。PDCが関与する疾患は、例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、乾癬、I型糖尿病等の自己免疫性疾患、アレルギー性鼻炎等の炎症性疾患、腫瘍等が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
免疫系は微生物の排除や腫瘍の発生阻止など、生体の恒常性を維持するために極めて重要なシステムである。樹状細胞(DC)はT細胞の活性化などを介してその免疫系を始動させる起点となる細胞として重要であることが知られている。しかしながら、過剰な免疫応答が疾患の原因となる自己免疫疾患では、その病態形成にも種々のDCが働いていることが報告されている(非特許文献1)。DCは各種のサブポピュレーションに分類されており、ミエロイド系DCに分類され表皮に存在するランゲルハンス細胞やその他の各種臓器で見出される間質樹状細胞の他、形質細胞様樹状細胞(PDC)が存在する。PDCは、細菌やウイルスの刺激をその細胞で発現するToll-likeレセプター(TLR)から受けると大量のI型インターフェロン(IFN-α/β)を産生する細胞として近年見出されたDCのサブポピュレーションであり(非特許文献2および非特許文献3)、その生体での機能について各種検討がなされつつある。
【0003】
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;以下SLEともいう)は、自己抗体の産生を伴い、皮膚、口腔粘膜、関節、血球系や腎臓などに異常をきたす全身性の自己免疫疾患である。このSLEについては、これまで多くの研究がなされてきてはいるが、その病因について不明な点が多く、適切な療法が見出されていない。そのため、SLEに対しては既存免疫抑制薬が処方されているが、それら薬物の免疫系全般に対する非特異的な作用による毒性が臨床上問題となっている(非特許文献4)。そこで、より疾患特異的な療法のためのターゲットの研究が行われている。
【0004】
SLE患者の血中ではIFN-α/β濃度が上昇しており(非特許文献5)、IFN-α/βの投与により抗核抗体の上昇やSLE症状が発症すること(非特許文献6)、あるいはSLE患者の血中PDCは減少しているが皮膚の患部においてはPDCが浸潤していること(非特許文献7)などが報告され、過度のI型インターフェロン産生がSLEの自己免疫応答に関連していることが注目されている(非特許文献8、非特許文献9および非特許文献10)。
【0005】
このI型インターフェロンやその産生細胞であるPDCとSLEとの関係については、疾患モデルマウスでの検討もなされている。SLEを自然発症するNZBマウスを用いた検討で、I型インターフェロンレセプターのノックアウトを行うと自己抗体産生、溶血性貧血や腎炎が改善されること(非特許文献11)や、このマウスの骨髄中のPDCは高TLR9発現であり高インターフェロン産生であること(非特許文献12)などが報告されている。SLE様症状をより強く自然発症する(NZB x NZW)F1マウス(NZBWF1マウス)でも、PDCで発現するTLR9のリガンドであるCpG ODNの投与(非特許文献13)や、IFN-αの人為的暴露(非特許文献14)によりSLE症状の発症が促進されることが報告されている。また、インターフェロン産生細胞の活性抑制物質としてのBST2に対する抗体のNZBWF1マウスへの投与によりSLEに付随するループス腎炎の治療に有用であることが報告されている(特許文献1)。
【0006】
この他、シェーグレン症候群の唾液腺(非特許文献15)、皮膚筋炎(非特許文献16)、乾癬(非特許文献17)やI型糖尿病(非特許文献18)の患部、およびアレルギー性鼻炎(非特許文献19)といった気道アレルギーの粘膜においてIFN-α発現の上昇やPDCの増加が報告されており、SLEとそれ以外の多くの自己免疫性や炎症性疾患にも、このPDCとI型インターフェロンシステムが関与しているものと考えられる。さらに、腫瘍周囲に浸潤するPDCがT細胞による腫瘍免疫に対して抑制的に働いている可能性も指摘されている(非特許文献20)。
【0007】
CD20を標的としたキメラ抗体(Rituximab)やHer2/neuを標的としたヒト化抗体(Herceptin)の悪性腫瘍に対する治療効果が認められており、抗体は癌治療における重要かつ価値のあるアプローチとして注目されている。血中半減期が長く、抗原への特異性が高いという抗体の特徴は、抗腫瘍剤として非常に有用と言える。例えば、腫瘍特異的な抗原を標的とした抗体であれば、投与した抗体は腫瘍に集積することが推定されるので、補体依存性細胞傷害(Complement−Dependent Cytotoxicity;CDC)活性や抗体依存的細胞性細胞傷害(Antibody−Dependent Cellular Cytotoxicity;ADCC)活性による、免疫システムの癌細胞に対する攻撃が期待できる。ADCC活性は、抗体のFc領域のアミノ酸変異(特許文献2)や抗体に付加される糖鎖からフコースを除くこと(特許文献3)などで、増強されることも知られており、発現量の少ない抗原を標的とする場合にもADCC活性による癌細胞除去が期待できる。また、抗体に放射性核種や細胞毒性物質(非特許文献21)などの薬剤を結合しておくことにより、結合した薬剤を効率よく腫瘍部位に送達することが可能となり、同時に、非特異的な他組織への該薬剤到達量が減少することで、副作用の軽減も見込むことができる。腫瘍特異的抗原に細胞死を誘導するような活性がある場合はアゴニスティックな活性を持つ抗体を投与することで、また、腫瘍特異的抗原が細胞の増殖及び生存に関与する場合は中和活性を持つ抗体を投与することで、腫瘍特異的な抗体の集積と、抗体の活性による腫瘍の増殖停止または退縮が期待される。抗体の上記のような特徴は抗腫瘍剤への適用ばかりでなく、SLEなどの特定の細胞が原因と考えられる疾病においてもその標的細胞の機能調整あるいは除去を通じた治療効果が期待できる。
【0008】
細胞特異的な分子の探索には、標的細胞を免疫原とするモノクローナル抗体の作製とそれに基づいた抗原取得やプロテオーム解析や遺伝子発現プロファイルなど様々な手法を用いることができる。なかでも遺伝子発現プロファイルは、解析に必要な細胞数が他の方法に比べて少ないということ、さらにヒトゲノムの完全解析によりすべての遺伝子レパートリーが判明しており、その情報に基づいた遺伝子の網羅的解析が可能なことなどが他の蛋白ベースの方法と比べた場合の有利点と言える。しかしながら、遺伝子プロファイルが往々にして陥りやすい失敗として、純度の低い細胞を用いた発現プロファイルが単なる構成細胞の比率解析になることが挙げられる。すなわち、解析対象サンプルの細胞レベルでの純度は非常に重要であり、さらに豊富な参照サンプルとの比較が、細胞特異的分子の同定には不可欠となる。また、遺伝子発現と蛋白発現、特に膜発現が必ずしも相関しないことも、遺伝子プロファイルによる分子探索では注意を要するポイントと言える。
【0009】
PDCに特異的に存在する膜分子が同定されるならば、該膜分子に対する抗体の作製や、医療分野での該抗体の利用が可能となる。
【0010】
【特許文献1】国際特許出願WO2006/054748
【特許文献2】国際特許出願WO2004/099249
【特許文献3】Kandaら、米国特許第6946292号
【非特許文献1】Immunity,20巻,539頁,2004年
【非特許文献2】Nat.Med.,5巻,919頁,1999年
【非特許文献3】Science,284巻,1835頁,1999年
【非特許文献4】J.Rheumatol.,22巻,1259頁,1995年
【非特許文献5】J.Exp.Med.,197巻,711頁,2003年
【非特許文献6】J.Intern.Med.,227巻,207頁,1990年
【非特許文献7】Am.J.Pathol.,159巻,237頁,2001年
【非特許文献8】Trends.Immunol.,22巻,427頁,2001年
【非特許文献9】Autoimmunity,36巻,463頁,2003年
【非特許文献10】Curr.Opin.Rheumatol.,15巻,548頁,2003年
【非特許文献11】J.Exp.Med.,197巻,777頁,2003年
【非特許文献12】J.Immunol.,173巻,5283頁,2004年
【非特許文献13】Lupus,12巻,838頁,2003年
【非特許文献14】J.Immunol.,174巻,2499頁,2005年
【非特許文献15】Arthritis.Rheum.,52巻,1185頁,2005年
【非特許文献16】Ann.Neurol.,57巻,664頁,2005年
【非特許文献17】J.Exp.Med,202巻,135頁,2005年
【非特許文献18】Lancet,2巻,1423頁,1987年
【非特許文献19】J.Immunol.,165巻,4062頁,2000年
【非特許文献20】Nat.Med.,7巻,1339頁,2001年
【非特許文献21】Nature Biotec.,23巻,1137頁,2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、PDCで特異的に発現する膜分子に対する抗体を利用したPDCの分離・除去方法、並びに、該作用を利用した、PDCが関与する自己免疫疾患等に対する治療法の提供である。また、該分子を特異的に認識する抗体を使用して、生体試料中のPDCを検出する方法、ならびに、PDCが関与する疾患を診断または検出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ヒト健常人由来のPDC及び代表的なリンパ球及び主要組織のmRNA発現をアフィメトリクス社のGeneChip(登録商標)を用いて解析し、PDCでのみ特異的にmRNAを発現する遺伝子;Hs.22920(Unigen ID)を同定した。この遺伝子は、LAMP−1(J.Biol.Chem.,265巻,7419頁,1990年)と相同性を持つ、機能未知のI型膜蛋白をコードする。また、Hs.22920に対するモノクローナル抗体を作製し、蛋白レベルでの特異性も確認した。更に、Fc領域のアミノ酸変異及び付加糖鎖からのフコース除去の改変を加えた上記抗体が、ヒト健常人由来PDCに対してADCC活性を有することを確認した。
【0013】
これまでの研究により、I型インターフェロン及びその主要産生細胞であるPDCとSLE発症との関連性が指摘されており、Hs.22920に対する抗体を用いたPDC除去に、SLEに対する治療効果が期待できる。また、PDCやI型インターフェロンが関与しているSLE以外の自己免疫疾患や炎症性疾患などへの応用も可能である。
【0014】
上記知見に基づき本発明を要約すると以下のようになる。
【0015】
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を有効成分として含有する、形質細胞様樹状細胞が関与する疾患の治療剤または診断剤。
【0016】
(2)形質細胞様樹状細胞が関与する疾患が全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、乾癬、I型糖尿病等の自己免疫性疾患、アレルギー性鼻炎等の炎症性疾患または腫瘍から選択される、(1)に記載の治療剤または診断剤。
【0017】
(3)上記抗体またはその断片がヒト形質細胞様樹状細胞膜分子の細胞外領域を認識することを特徴とする、(1)または(2)に記載の治療剤または診断剤。
【0018】
(4)上記抗体またはその断片がヒト抗体、ヒト化抗体、またはその断片である、(1)〜(3)のいずれかに記載の治療剤または診断剤。
【0019】
(5)上記抗体またはその断片がポリクローナル抗体、ペプチド抗体、モノクローナル抗体またはその断片である、(1)〜(4)のいずれかに記載の治療剤または診断剤。
【0020】
(6)上記断片がF(ab’)2である、(1)〜(5)のいずれかに記載の治療剤または診断剤。
【0021】
(7)上記抗体またはその断片が形質細胞様樹状細胞に対して抗体依存的細胞性細胞傷害(ADCC)活性または補体依存性細胞傷害(CDC)活性を有する、(1)〜(6)のいずれかに記載の治療剤または診断剤。
【0022】
(8)上記抗体またはその断片にアミノ酸或いは糖鎖構造上の改変を加え、形質細胞様樹状細胞に対する抗体依存的細胞性細胞傷害(ADCC)活性を増強した、(1)〜(7)のいずれかに記載の治療剤または診断剤。
【0023】
(9)上記抗体またはその断片が、それに細胞毒性物質或いは放射性核種を付加することによって形質細胞様樹状細胞に対して細胞傷害活性を有する、(1)〜(8)のいずれかに記載の治療剤または診断剤。
【0024】
(10)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を用いて、ヒトまたは他の動物由来の形質細胞様樹状細胞を検出する方法。
【0025】
(11)上記抗体またはその断片が標識されている、(10)に記載の方法。
【0026】
(12)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を用いて、ヒトまたは他の動物由来の生体試料中に含まれる形質細胞様樹状細胞をin vitroで分離、除去する方法。
【0027】
(13)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を有効成分として含有する、形質細胞様樹状細胞除去剤。
【0028】
(14)上記抗体またはその断片が担体に固定化されている、(13)に記載の形質細胞様樹状細胞除去剤。
【0029】
本明細書中で使用する本発明の抗体に関する「特異的に免疫結合する」という用語は、本発明の抗体が本膜分子のみが有するエピトープと免疫学的に交差反応し、そのようなエピトープをもたないタンパク質と交差反応しないことを意味する。このようなエピトープは、例えば本発明の膜分子のアミノ酸配列と他のタンパク質のアミノ酸配列とを整列比較することによって、本質的に異なる配列部分(連続する少なくとも5アミノ酸、好ましくは少なくとも8アミノ酸、さらに好ましくは少なくとも15アミノ酸)を選択することによって決定できる。また、上記エピトープは、連続エピトープだけでなく、本発明の抗体と特異的に免疫結合することができる不連続エピトープであってもよい。
【0030】
本明細書中で使用する本発明の抗体に関する「ADCC活性又はCDC活性を有する」という用語は、本発明の抗体がPDCの膜上で発現する本膜分子に結合し、抗体のFc領域を介した抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性及び補体依存性細胞傷害(CDC)活性により、PDCを破壊することを意味する。ADCCは、Fc受容体を有するNK細胞等のエフェクター細胞が、Fc領域とFc受容体の結合を介して、抗体が結合した標的細胞に結合し、自身の放出するパーフォリンやグランザイムBなどの細胞傷害物質によって標的細胞を破壊する活性を言う。また、CDCは、標的細胞に結合した抗体のFc領域が補体系を活性化し、その結果細胞表面に形成される膜傷害性複合体(MAC)によって、標的細胞を破壊する活性を言う。
【0031】
本明細書中で使用する本発明の抗体に関する「細胞傷害活性を有する」という用語は、本発明の抗体がPDCの膜上で発現する本膜分子に結合し、抗体に付加した細胞毒性物質がエンドサイトーシスによって細胞内に入り、pH変動やエンドペプチダーゼ等の働きで抗体から分離し、毒性を発揮することによりPDCを破壊することを意味する。また、抗体に付加した放射性核種は、その発する放射線によって抗体が結合したPDCのDNAを破壊することにより毒性を発揮する。
【0032】
本明細書中で使用する、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子の「変異体またはそれらの断片」とは、該変異体について、配列番号1のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の変異(例えば置換、欠失または付加)を含むアミノ酸配列を含む変異体、あるいは、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上、95%以上、97%以上または99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む変異体を指し、また、該断片について、ヒト形質細胞様樹状細胞膜分子の配列番号1のアミノ酸配列またはその変異体のアミノ酸配列において連続する5アミノ酸〜全アミノ酸、連続する8アミノ酸〜全アミノ酸、連続する15アミノ酸〜全アミノ酸、連続する30アミノ酸〜全アミノ酸、連続する50アミノ酸〜全アミノ酸、連続する70アミノ酸〜全アミノ酸、連続する100アミノ酸〜全アミノ酸、連続する150アミノ酸〜全アミノ酸、連続する200アミノ酸〜全アミノ酸、または連続する250アミノ酸〜全アミノ酸からなるアミノ酸配列を含む断片を指す。上記変異体または断片は、人工的に作製されたもの、あるいは、多型性、スプライス変異、突然変異などの変異、プロテアーゼやペプチダーゼなどの酵素による切断、などによって生体内で生じたものを意図するが、好ましくは生体内で天然に生じた変異体または断片を意図する。
【0033】
ここで、本明細書中で使用する「数個」なる用語は、10〜2、8〜2、5〜2、4〜2または3〜2の整数を指す。また、「同一性」なる用語は、例えばBLASTX、BLASTP、FASTAなどのホモロジー検索プログラムを使用する相同性比較から決定することができるように、ギャップを導入するかまたは導入しないで2つの配列間のアラインメントをとったときに、同一のアミノ酸数を総アミノ酸数で割算した割合(%)を意味する(例えば、高木利久・金久實編、ゲノムネットのデータベース利用法(第2版)第5章1998年(共立出版))。
【発明の効果】
【0034】
本発明の抗体またはその断片は、PDCで特異的に発現する膜分子に対する特異抗体またはその断片であることから、それを利用することによって、例えばPDCの選択的な除去を可能とし、ならびに、PDCが関与する自己免疫疾患等の疾患に対する治療や診断をも可能とする、という優れた作用効果を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
Hs.22920及び当該遺伝子がコードする膜分子
上述したように、本発明は、発現プロファイリングによりHs.22920(Unigene ID)遺伝子がPDCで特異的に発現しているという知見に基づいている。
ボランティア採血によって得た末梢血より、セルソーターを用いてPDC、T細胞、B細胞、NK細胞、単球をそれぞれ分画し、RNAを抽出した(後述の実施例1参照)。また、各種ヒト組織由来RNAを購入した(Clontech社、Ambion社、及びBioChain社)。それぞれのRNAからSMARTTM法(Clontech社)を用いてcDNAを合成し、インビトロ転写によりビオチン化したcRNAを合成し、GeneChip(登録商標)プローブアレイ(Human Genome U133 set;Affymetrix社製)を用いて発現プロファイルを行った(後述の実施例2参照)。その結果、Hs.22920遺伝子がPDCで特異的に発現していることを見出した(後述の実施例3参照)。さらにこの発現特異性はリアルタイム定量PCR法により確認された(後述の実施例4参照)。
【0036】
本発明者らが見出したHs.22920遺伝子は、280アミノ酸残基の蛋白(配列番号1)をコードしており、分泌シグナル予測(SignalP;Protein Engineering,10巻,1頁,1997年)及びトポロジー予測(HMMTOP;Bioinfomatics,17巻,849頁,2001年)により、29アミノ酸残基のシグナルペプチドと209アミノ酸残基の細胞外領域と18アミノ酸残基の膜貫通領域を一箇所持つI型の膜蛋白であると予測される。本遺伝子については、既にいくつかの特許出願が成されており(国際公開WO9961471−A2、WO200179254−A1、WO200286443−A2、WO2003000012−A2、WO2003025138−A2、WO2003042661−A2、WO2004013311−A2、WO2004053079−A2、WO2005001092−A2など)、その中で癌細胞における発現が報告されている。また、Strausbergらによって進められたMammalian Gene Collection(MGC)プログラムにおいてもcDNA単離が報告されている(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99巻,16899頁,2002年)。しかし、細胞外領域にLAMP−1モチーフ(Lysosome−associated membrane glycoproteins duplicated domain signature;PROSITE Entry PS00310)を持ち、LAMP−1(J.Biol.Chem.,265巻,7419頁,1990年)との機能の類似性が想像されるものの、正確な機能、特にPDCにおける働きについてはまったく明らかになっていない。
【0037】
抗Hs.22920抗体
目的の抗体を得るための抗原エピトープは、本膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片のアミノ酸配列(好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列)において抗原性の高い領域、表在性がある領域、二次構造をとらない可能性のある領域、他のタンパク質とホモロジーがないかまたは低い領域から選択されうる。ここで抗原性の高い領域は、Parkerらの方法(Biochemistry,25巻,5425頁,1986年)によって推定可能である。表在性がある領域は、例えばハイドロパシーインデックスを計算しプロットすることによって推定可能である。二次構造をとらない可能性のある領域は、例えば、ChouとFasmanの方法(Adv.Enzymol.Relat.Areas Mol. Biol.,47巻,45頁,1978年)によって推定可能である。さらに、他のタンパク質とホモロジーがないかまたは低い領域は、本膜分子のアミノ酸配列と他のタンパク質のアミノ酸配列との相同性比較によって推定可能である。
【0038】
上記の手法で推定された本膜分子の部分アミノ酸配列を基に、ペプチド合成法を利用することによって該アミノ酸配列からなるペプチドを合成することができる。目的のペプチドは、例えば、R.B.Merrifield(Science,232巻,341頁,1986年)によって開発された固相ペプチド合成に基づいた市販のペプチド合成機を使用して合成し、保護基を脱離後、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等を単独もしくは組み合わせた方法により精製することができる。得られた精製ペプチドは、単独で、あるいはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、アルブミンなどのキャリヤタンパク質と結合し、免疫原として使用して、これらの抗原に対するポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体を公知の手法により作製することができる。
【0039】
また、遺伝子組換え本膜分子を免疫原として本膜分子に対するポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体を公知の手法により作製することもできる。この場合、本膜分子、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、または他のタンパク質に関して用いられる「組換え」という用語は、これらのタンパク質が宿主細胞内で組換えDNAによって生産されたものであることを意味する。宿主細胞としては、原核生物(例えば大腸菌、枯草菌、シュードモナスなどの細菌等)及び真核生物(例えば酵母、CHO細胞、昆虫細胞、動物細胞等)由来の細胞のいずれも使用され得る。遺伝子組換え本膜分子は、本膜分子のタンパク質の全配列または部分配列をコードするDNAを、例えば大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などの原核もしくは真核細胞に形質転換またはトランスフェクションし、該DNAを発現させることにより調製することができる。遺伝子組換え技術は、公知であり、例えばJ.Sambrookら,Molecular Cloning,A Laboratory Mannual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)などに記載されており、その記載を参照できる。遺伝子組換え本膜分子は、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等を単独もしくは組み合わせた方法により精製し、この精製標品を免疫原として用いることができる。
【0040】
さらに、本膜分子の発現細胞を免疫原として本膜分子に対するポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体を公知の手法により作製することもできる。この場合の発現細胞は、本膜分子をコードするDNA(またはcDNA)を適当な発現ベクター(例えばプラスミド、ウイルス、ファージなど)に組み込み、適当な宿主細胞に導入することにより作製できる。発現ベクターは、種々のものが市販または寄託されており、あるいは文献等の刊行物に記載されており、それらを使用できる。ベクターの例は、pRc(H.L.Davisら,Human Molecular Genetics,2巻,1847−1851頁,1993年)、pcDNA3(A.A.M. Coelho−Casteloら,Genetic Vaccines and Therapy,4巻,1頁,2006年)、pCR3(J.J.Changら,Reproduction,31巻,183−192頁,2006年)などを含む。通常、ベクターは、本膜分子をコードするDNAの転写、発現を調節するためのプロモーター/エンハンサー、リボソーム結合部位、複製開始点、ターミネーターなどの制御配列を含むことができる。ベクターによって宿主細胞をトランスフェクションする方法として、例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法、遺伝子銃法などが挙げられる。宿主細胞にはヒト胎児腎臓細胞、ヒト白血病細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、NIH3T3細胞などの動物細胞が挙げられる。
【0041】
本発明の「抗体」はペプチド抗体、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよい。「抗体」は、マウスまたは他の適した宿主動物を免疫に用いられたタンパク質に特異的に結合するであろう抗体を産生するか、あるいは、産生するであろうリンパ球を引き出すために、皮下、腹腔内、または筋肉内の経路によって、抗原あるいは抗原発現細胞により動物を免疫化することによって得られる。さらに宿主動物としてはヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原または抗原発現細胞を投与し、所望のヒト抗体を取得してもよい(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97巻,722頁,2000年;国際公開WO96/33735,WO97/07671,WO97/13852およびWO98/37757)。あるいは、該動物由来のリンパ球をin vitroで免疫化してもよい。宿主動物から得られた血清から、抗原に結合する画分を集め、精製することにより、ポリクローナル抗体を取得することができる。さらに、ハイブリドーマ細胞を形成するために、公知の手法により、ポリエチレングリコールのような適当な融合試薬を用いて、免疫化動物から取り出した脾臓細胞またはリンパ球を骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体を作製することができる(Goding,Monoclonal Antibodies:Principals and Practice,59−103頁,Academic press,1986年)。例えば本発明のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法(Nature,256巻,495頁,1975年)を用いても、組換えDNA法(Cabillyら,米国特許4816567)を用いても作製することができる。
【0042】
また、本発明の抗体は、無傷の抗体であってもよいし、あるいはF(ab’)2、Fab、Fv、scFv(single chain Fv)、dsFV(disulfide−stabilized Fv)などの抗体断片であってもよい。
【0043】
また、定常領域をヒトの定常領域に置き換えたキメラ抗体(Cabillyら,米国特許4816567;Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89巻,6851頁,1984年)、定常領域および超可変領域(または、Complementary−determining region;CDR)を除く全ての可変領域をヒトの配列に置き換えたヒト化抗体(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89巻,4285頁,1992年;BioTechnology,10巻,163頁,1992年)も本発明の抗体に含まれる。
【0044】
本発明の実施形態によれば、本発明の抗体またはその断片は、本膜分子の細胞外領域を認識するものが好ましい。
【0045】
また、Fc領域にアミノ酸の変異を加えること(Lazarら,国際公開WO2004099249−A2)、糖鎖からフコースを除くこと(Kandaら,米国特許6946292)などによってADCC活性を増強した抗体も本発明に含まれる。
【0046】
さらに、放射性核種や細胞毒性物質などを付加した抗体(Nature Biotec.,23巻,1137頁,2005年)も本発明に含まれる。放射性核種の例は、99mTc、123I、111In、18F、64Cu、68Ga、86Y、124I、131I、90Y、177Lu、67Cu、213Bi、211Atなどを含む。細胞毒性物質の例は、ドキソルビシン、カリケマイシン、DM−1(ジスルフィド)、オーリスタチン(auristatin)、リシン(ricin)、パクリタキソール、臭化エピジウム、マイトマイシン、エトポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ダウノルビシン、ミトラマイシン、グルココルチコイド、テトラカイン、リドカイン、チミジンキナーゼなどを含む。
【0047】
抗Hs.22920抗体の用途
上記のようにして得られた本膜分子に対する本発明の各種抗体は、その特徴を生かすことができる様々な用途に使用可能である。
本膜分子がPDCに特異的に発現が見られる分子であることを利用して、本発明の抗体を蛍光性物質(例えばローダミン、フルオレサミン、それらの誘導体、FLAG、GFPなど)で標識し、周知のFACS(フローサイトメトリー)、酵素(ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼなど)、放射性同位元素(3H、121I、123I、32P、35S、68Ga、54Mn、99Tc、133Xeなど)、生物発光物質(ルシフェラーゼ、ルミノール−H2O2-ペルオキシダーゼ系など)を用いてPDCを検出することができるし、あるいはPDCが関与する疾患、例えばSLE、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、乾癬、I型糖尿病等の自己免疫性疾患、アレルギー性鼻炎等の炎症性疾患、腫瘍などを、患者または被験者由来の生体試料(例えば、血液、リンパ液などの体液、組織など)を用いてin vitroで診断または検出することができる。
【0048】
本膜分子の検出に関しては、FACSでの検出にとどまるものではない。例えばウェスタンブロッティングにおいて本抗体を一次抗体として作用させることにより検出可能であり、またそれによってタンパク質レベルでの発現確認を行うこともできる。さらにまた、本発明の抗体を固相(例えばポリスチレンビーズ、マイクロタイターウエル表面、ラテックスビーズなど)に結合して不均一系で、あるいは均一系で、免疫学的反応を行って相同な膜分子を検出、定量(例えば蛍光抗体法、ELISA、ラジオイムノアッセイなどの方法使用)することができる。この場合、免疫学的反応は競合反応であってもよいし非競合反応であってもよい。また2つ以上の抗体(モノクローンまたはポリクローン)を用いるサンドイッチ法による反応も使用できる。上記における診断、検出、定量のためには、当業界で公知のいずれの免疫学的手法も用いることができる。
【0049】
本発明の診断剤(または診断組成物)には、上記定義の本発明の抗体またはその断片、あるいは上記のような標識を結合した該抗体またはその断片が含まれる。このような抗体類は、凍結乾燥形態などの固体形態が好ましく、バイアルなどの容器中に入れて密封される。また、診断剤がキットの形態をとる場合には、上記の(標識化してもよい)抗体またはその断片に加えて、検出のために必要な緩衝液、試薬類(例えば、二次抗体、酵素など)、使用説明書などを含有させることができる。
【0050】
さらに別の用途として、本発明の抗体類は本膜分子の機能を評価する用途にも使用可能である。PDCはそのI型インターフェロンの産生能を基にした自然免疫に対する関与が知られている。これら機能を制御し得るか否かを確認するために、I型インターフェロンの産生を抑制或いは促進しうるか否かの確認等のin vitroでのアッセイにも使用可能である。
【0051】
本発明の抗体類はさらに、そのADCC活性やCDC活性、または該抗体類に付加した細胞毒性物質もしくは放射性核種によるPDC除去効果によって、PDCが関与する疾患、例えばSLE、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、乾癬、I型糖尿病等の自己免疫性疾患、アレルギー性鼻炎等の炎症性疾患、腫瘍などの治療に適応可能である。
【0052】
投与法は、特に制限されないが、経口投与、あるいは非経口投与、例えば静脈内投与、動脈内投与、筋内投与、粘膜投与、座剤投与などであるが、好ましくは非経口投与である。また、投与剤型は、特に制限されないが、錠剤、粉剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤、溶液剤、懸濁剤、吸入剤、ゲル剤などを含む。このような剤型は、医薬分野で公知の薬学的に許容可能な賦形剤、希釈剤、添加剤(例えば安定剤、結合剤、保存剤、抗酸化剤、懸濁化剤、崩壊助剤、滑沢剤、界面活性剤、風味剤、着色剤など)と組み合わせて経口用または非経口用に処方することができる。剤型、賦形剤、希釈剤および添加剤の種類については、例えばRemington:The Science and Practice of Pharmacy,Mack Publishing Company,1995年に記載されており、本発明のために参照することができる。投与は、1日あたり1回かまたは数回に分けて行うことができる。また、投与量は、患者の重篤度、年齢、性別、体重などの条件に応じて決定され、副作用を併発しない範囲である。例えばヒト成人体重1kgあたり1μg〜100mgの範囲内の用量である。
【0053】
本発明の抗体類はさらに、ヒトまたは他の動物由来のPDCを除去するために使用できる。抗体を、例えば固相(例えば多糖類、高分子ポリマーなどの物質;繊維状、布状、膜状、中空糸繊維膜状、カラム状などの任意の形状)に固定化し、該固相を充填した例えばカラムまたはカートリッジ内を、PDCを含有する患者または被験者由来の生体試料(例えば、血液などの体液)を通すことによって、PDCを分離、除去することができる。抗体の固定化は、例えば共有結合または非共有結合(例えば、吸着など)によって行うことができる。共有結合は、例えば、抗体のN末端のアミノ基またはリジンのアミノ基と、それと反応性の臭化シアン、アルデヒド基、N−ヒドロキシコハク酸イミジル基などの担体上の官能基との間で行うことができる。
【0054】
したがって、本発明は、上記定義の本発明の抗体またはその断片を用いて、ヒトまたは他の動物由来のPDCを除去する方法、あるいは該抗体またはその断片を有効成分として含有するPDC除去剤、を提供する。PDC除去剤は、例えば、本発明の抗体またはその断片、あるいは、固相に結合した本発明の抗体またはその断片としうる。その形態の例は、凍結乾燥して容器に充填したり、あるいは、カラム、カートリッジなどの形状である。
【実施例】
【0055】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらの実施例によって限定されないものとする。
【0056】
実施例1 各リンパ球の調製とtotal RNAの抽出
PDCを含む各リンパ球は以下のように調製した。まず、健常人の末梢血を採血バック(TERUMO社製)を用いて採血後、LymphoprepTM(AXIS−SHIELD社製)に重層し、比重遠心により単核細胞を分離した。この末梢血単核細胞から、MicroBeads(Miltenyi Biotec社製;T細胞:CD3、B細胞:CD19、NK細胞:CD56、単球:CD14、myeloid DC:BDCA−1、PDC:BDCA−4)とMACS(登録商標)カラム(Miltenyi Biotec社製)を用いて主要リンパ球を粗分画した。次に、Becton Dickinson社製の標識抗体を用い、FACS VantageSETM(Becton Dickinson社製)にて、T細胞:CD3陽性、B細胞:CD19陽性、NK細胞:CD56陽性、単球:CD14陽性、myeloid DC:Lin陰性かつHLA−DR陽性かつCD11c陽性、PDC:Lin陰性かつHLA−DR陽性かつCD123陽性かつCD11c陰性、を指標にして各細胞をさらに高純度に分画した。分画後の各細胞の純度は、一部の細胞をFACScaliburTM(Becton Dickinson社製)を用いて再解析することによって求め、95%以上の純度の細胞をその後の解析に供した。
【0057】
各細胞からのtotal RNA抽出にはQIAGEN社のRNeasy(登録商標)Mini Kitを使用した。106個前後の各細胞から1μg前後のtotal RNAを得た。各組織のtotal RNAはClontech社、Ambion社、及びBioChain社から購入した。
【0058】
リンパ球画分の中で細胞数の確保が難しいものについては、複数のドナーから調製した細胞を同数ずつ混合したものからRNAを調製することとし、各画分につき2バッチづつを調製した。組織については、それぞれ異なる2ドナー由来のRNAを購入した。これにより、個体差を考慮した解析を行うこととした。
【0059】
実施例2 GeneChip(登録商標)解析
実施例1で得たRNAを用いて以下の如く発現解析を行った。各500ngのtotal RNAを用いて、SMARTTM PCR cDNA Synthesis Kit(Clontech社製)によりcDNAを合成し、さらにBioArrayTM HighYieldTM RNA Transcript Labeling Kit(Enzo社製)を用いてビオチン化cRNAを合成した。合成したcRNAはAffymetrix社のマニュアルに従って、Human Genome U133 set(Affymetrix社製)にハイブリダイズさせ、シグナル読み取り装置;HP GeneArrayスキャナ(Hewlett−Packard社製)及び解析ソフト;Affymetrix(登録商標)Microsuite 5.0(Affymetrix社製)を用いて各遺伝子の発現量を測定した。
【0060】
実施例3 PDC特異的遺伝子の同定
実施例2で得たデータは、まずハウスキーピング遺伝子(グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ、βアクチン、αチューブリン、ヒポキサンチンフォスフォリボシルトランスフェラーゼ、ホスホリパーゼA2、リボゾーム蛋白S9)のシグナルの相対値の幾何平均によって標準化した。その上で、各遺伝子の発現量を比較し、PDCにおけるシグナルが他の細胞や組織のそれと比較して10倍以上の差のある遺伝子を選択した。次に、PDCでの特異的発現や機能が既知の遺伝子は除外した。さらに、Affymetrix社のウェブサイト(NetAffxTM Analysis Center;http://www.affymetrix.com/analysis/index.affx)上で得られる情報及び分泌シグナル予測(SignalP;Protein Engineering,10巻,1−6頁,1997年)及びトポロジー予測(HMMTOP;Bioinfomatics,17巻,849−850頁,2001年)から、膜蛋白あるいはその可能性のある分子をコードする遺伝子を選択した。その結果、Hs.22920(UniGene ID)をPDC特異的に発現する膜分子をコードする遺伝子の候補として見出した(図1)。
【0061】
実施例4 Hs.22920遺伝子の定量PCR解析
Hs.22920の発現特異性を確認するため、Real−time PCRを行った。各細胞・組織由来のcDNAとしては、実施例2で合成したものを用いた。また、TaqMan(登録商標) ProbeはApplied Biosystems社のTaqMan(登録商標)Gene Expression Assays(Assay ID:Hs00935891_m1)を使用した。Applied Biosystems社のマニュアルに従い、各細胞・組織におけるmRNAの相対量をABI PRISM(登録商標)7900HT(Applied Biosystems社製)を用いて測定した。さらに、同様に測定したハウスキーピング遺伝子(グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ、βアクチン、αチューブリン、ヒポキサンチンフォスフォリボシルトランスフェラーゼ、リボゾーム蛋白S9)の測定値を用いて実施例3と同様に標準化した。その結果、GeneChip(登録商標)解析で得られた結果と同様、神経系を除いて、PDCで特異的にHs.22920が発現していることを確認した(図2)。
【0062】
実施例5 Hs.22920遺伝子のクローニング
GeneChip(登録商標)解析及びReal−time PCRで検出したmRNAが実際にPDC由来のmRNA中に存在すること及び抗体作成用の抗原作成のため、PDCのmRNAよりHs.22920のcDNAをクローニングした。Hs.22920のORFの5’端及び3’端にそれぞれ特異的なプライマー(配列番号2;5’−GATTTGCTCTGCCAGCAGCT−3’及び配列番号3;5’−ACACAAGCCAAGCAAGCCTC−3’)を用い、実施例2で合成したPDCのcDNAをテンプレートとして、常法によりPCR反応を行い、特異的に増幅されたDNA断片をクローニング用ベクター;pCR(登録商標)4BluntTOPO(Invitrogen社製)にクローニングし、DNAシークエンス解析をした。その結果、Unigeneに登録されている配列と完全に一致することが判明し、実際にPDCでHs.22920のmRNAが発現していることを確認できた。
【0063】
実施例6 Hs.22920の膜構造及び機能予測
Hs.22920遺伝子はORF検索により、配列番号1の蛋白をコードすることが予測される。この配列に関して、SignalP(Protein Engineering,10巻,1−6頁,1997年)による分泌シグナル予測及びHMMTOP(Bioinfomatics,17巻,849頁,2001年)によるトポロジー予測を行った。その結果、29アミノ酸残基のシグナルペプチドと209アミノ酸残基の細胞外領域と18アミノ酸残基の膜貫通領域を一箇所持つI型の膜蛋白であると予測された。本遺伝子は、既に癌マーカーとしての特許出願(WO9961471−A2,WO200179254−A1,WO200286443−A2,WO2003000012−A2,WO2003025138−A2,WO2003042661−A2,WO2004013311−A2,WO2004053079−A2,WO2005001092−A2)が成されており、またStrausbergらによって進められたMammalian Gene Collection(MGC)プログラムにおいてもcDNA単離が報告されているが(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99巻,16899頁,2002年)、正確な機能は明らかになっていない。ただし、細胞外領域にLAMP−1モチーフ(Lysosome−associated membrane glycoproteins duplicated domain signature;PROSITE Entry PS00310)を持ち、LAMP−1(J.B.C.,265巻,7419頁,1990年)との機能の類似性が想像される(図3)。
【0064】
実施例7 Hs.22920分子の膜局在性の確認
Hs.22920分子の膜局在性を実験的に証明するため、Hs.22920のC末にEGFP蛋白(BD Biosciences社)を融合させた分子をBALB3T3細胞(マウス胎児由来細胞株)で発現させ、共焦点顕微鏡による観察を行った。Hs.22920のC末直下にEGFP蛋白を結合させた融合蛋白(配列番号4;Hs.22920−EGFPと称する)をコードするcDNAをレトロウイルスベクター;pMXs−IG(Ex.Hematol.,24巻,324頁,1996年)に組み込み、北村らの方法(Gene Ther.,7巻,1063頁,2000年)に従ってウイルス粒子を作成し、BALB3T3細胞に感染導入した。その結果、共焦点顕微鏡(LSM510;ZEISS社製)による観察により、膜局在性が確認された(図4)。
【0065】
実施例8 抗Hs.22920モノクローナル抗体の作成
Hs.22920のcDNAをレトロウイルスベクター;pMXs−IGを用いてBALB3T3細胞、L929細胞(マウス線維芽組織由来細胞株)、c−WRT−7−LR細胞(ラット骨髄単球性白血病由来細胞株)、Y3−Ag1.2.3細胞(ラット多発性骨髄腫由来細胞株)、3Y1細胞(ラット繊維芽細胞由来細胞株)にそれぞれ感染導入した。作成したHs.22920発現細胞は、BALB/cマウス或いはSDラットに免疫し、モノクローナル抗体を作成した。106〜107個の発現細胞をマウス或いはラットの腹腔及び皮下に2〜5週間隔で計3回免疫した後、岩崎らの方法(単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA,岩崎辰夫著, 講談社,1983年刊)に従ってハイブリドーマを作成した。ハイブリドーマの上清に産生された抗体のHs.22920発現細胞及びPDC(健常人末梢血由来抗BDCA2抗体(Miltenyi Biotec社製)陽性細胞)に対する結合性をFACScaliburTM(Becton Dickinson社製)にて解析することにより、抗Hs.22920モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを9個取得した(#126A1はマウス抗体、その他はラット抗体;図5)。
【0066】
上記ハイブリドーマはCELLineTM System(BD Bioscience社製)を用いて大量培養し、Protein G Sepharose 4 Fast Flow(GE Healthcare社製)を用いたアフィニティー精製及びSuperose 6(GE Healthcare社製)を用いたゲルろ過精製によってモノクローナル抗体を精製した。さらに、一部をBiotin−AC5−OSu(同仁化学社製)を用いてビオチン化した。ビオチン化抗体と未修飾抗体のHs.22920発現細胞に対する競合性をFACScaliburTMにて解析することにより、上記モノクローナル抗体は認識するエピトープにより大よそ3つのグループに分けられた(図6)。
【0067】
実施例9 フローサイトメーターによるHs.22920のPDC特異的発現の確認
実施例8で取得した抗Hs.22920モノクローナル抗体と各リンパ球マーカーを用い、実施例1と同様に調製した健常人由来末梢血単核細胞をFACScaliburTM(Becton Dickinson社製)にて解析した。抗体としては、Hs.22920:#126A1、#9.10(取得した抗体の中で、比較的結合性が強く、エピトープの異なる2クローンを選択)、T細胞:抗CD3抗体(Becton Dickinson社製)、B細胞: 抗CD19(Becton Dickinson社製)、NK細胞:抗CD56(Becton Dickinson社製)、単球:抗CD14(Becton Dickinson社製)、PDC:抗BDCA2(Miltenyi Biotec社製)、をそれぞれ用いた。その結果、PDC、すなわちBDCA2陽性画分のみに抗Hs.22920モノクローナル抗体が結合することが確認され(図7)、Hs.22920分子の蛋白レベルでのPDC特異性が証明された。
【0068】
実施例10 ADCC活性増強キメラ抗体の作成
PDC除去によるSLE治療に用いる抗体医薬の一例として、マウス抗Hs.22920抗体;#126A1のFc領域をアミノ酸の変異を加えたヒトIgG1(Lazarら,国際特許出願WO2004099249−A2)のそれに交換し、フコース転換酵素を欠損するCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来細胞株)で抗体遺伝子を発現させることによって糖鎖からフコースを除き(Kandaら,米国特許6946292)、ADCC活性を増強したキメラ抗体を作製した。まず、#126A1のハイブリドーマから実施例1及び2と同様にRNA抽出・cDNA合成を行い、マウスIgG1の重鎖及びκ軽鎖の定常領域にそれぞれ特異的なプライマー(重鎖:配列番号5;5’−ATTTTGTCGACCKYGGTSYTGCTGGCYGGGTG−3’,軽鎖:配列番号6;5’−TTGAAGCTCTTGACAATGGGTGAAGTTGAT−3’)とSMARTTM PCR cDNA Synthesis Kit(Clontech社製)付属プライマー;5’PCR Primer IIA(配列番号7;5’−AAGCAGTGGTATCAACGCAGAGT−3’)を用いたPCR反応によって可変領域を増幅し、クローニング用ベクター;pCR(登録商標)4BluntTOPO(Invitrogen社製)にクローニングした。#126A1の重鎖可変領域は配列番号8、軽鎖可変領域は配列番号9のアミノ酸配列を有していた。#126A1の重鎖の可変領域は3つのアミノ酸変異を加えてFcレセプターとの結合性を高めたヒトIgG1の重鎖の定常領域(Lazarら,国際特許出願WO2004099249−A2)と、軽鎖はヒトκ軽鎖の定常領域と結合させ、更にそれぞれIRES(internal ribosome entry site)配列(Trends Biochem.Sci.,15巻,477頁,1990年)を介してブレオマイシン耐性遺伝子(BD Biosciences社製)及びEGFP遺伝子(BD Biosciences社製)と共にバイシストロン性転写産物として発現させるべく、発現ベクター;N5hKG1X−126A1(図8)を構築した。N5hKG1X−126A1はキメラ重鎖(配列番号10)と、キメラ軽鎖(配列番号11)をCMV(Cytomegalovirus)プロモーター下に発現する。N5hKG1X−126A1は、α1,6フコース転換酵素欠損CHO株(塚原ら,日本動物細胞工学会2004年度大会発表)に形質転換試薬;Lipofectamin2000(Invitrogen社製)を用いて導入し、ブレオマイシン耐性及びEGFP発現を指標に形質転換体を選択した。ADCC活性増強キメラ抗体発現CHO株は無血清培地;EX−CELLTM 325 PF CHO(SAFC Biosciences社製)にて培養し、その培養液120mlから実施例8と同様に抗体を精製し、約4mgのADCC活性増強キメラ抗体を得た。
【0069】
実施例11 抗Hs.22920モノクローナル抗体のPDCに対するADCC活性
実施例10で作製したADCC活性増強キメラ抗体を用いて、末梢血由来PDCに対するADCC活性を、尾崎らの方法(Blood,90巻,3179頁,1997年)に従い、51Cr release assay法により測定した。標的細胞とするPDCは、実施例1と同様に健常人由来末梢血から調製し、CHROMIUM−51(PerkinElmer社製)を用いて標識した。ADCC活性測定に用いるエフェクター細胞としては、同一ドナーの末梢血単核細胞からCD56 MicroBeads Kit(Miltenyi Biotec社製)を用いて調製したNK細胞を用いた。その結果、PDCに対する強力なADCC活性が認められた(図9)。
【0070】
実施例12 マウスPDC特異的抗体の取得
NZB/NZW F1(BWF1)マウス(J.Exp.Med.,127巻,507頁,1968年)は、最も一般的なSLEモデルの1つである。加齢に伴ってヒトSLE様ループス腎炎を自然発症し、生後1年以内に95%以上が腎障害により死亡する。さらに、抗核抗体を始めとする種々の自己抗体の産生やI型インターフェロンの関与(J.Immunol.,174巻,2499頁,2005年)など、ヒトSLEと類似した特徴をもつ。そこで、このBWF1マウスを、PDC除去のSLE治療効果を証明するためのモデルとして選択した。まず、このBWF1マウスの各細胞・組織について、実施例1〜3と同様のGeneChip(登録商標)解析を実施し、BWF1マウスのPDC特異的に発現する膜分子として、CD209d抗原(UniGene ID:Mm.111026)を同定した(図10)。次に、実施例8と同様にレトロウイルスベクターを用いてCD209d発現細胞を作製し、SDラットに免疫を行って、抗CD209dモノクローナル抗体#25−11を得た。#25−11はPDCに特異的に結合し(図11)、500μgの該抗体をBWF1マウスに静脈投与後24時間で脾臓中のPDCの数が半減することを確認した。
【0071】
実施例13 マウスPDC特異的抗体のBWF1マウス治療効果
実施例12で得たモノクローナル抗体#25−11を、20週齢のメスに対し、一匹当たり500μg、週2回の頻度で、腹腔内投与した。38週齢の時点で、コントロール群(PBS投与群)に対し、#25−11投与群は有意に生存率が高かった(図12)。この結果から、抗PDC抗体によるPDC除去が一定のSLE治療効果を持つことが証明され、抗Hs.22920抗体のヒトSLEに対する同様な治療効果が予想される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、PDCが関与する自己免疫疾患、アレルギー、腫瘍などの疾患の治療、診断などのために利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】この図は、Hs.22920遺伝子の各細胞・組織におけるGeneChip(登録商標)解析結果を示す。
【図2】この図は、Hs.22920遺伝子の各細胞・組織におけるReal−time PCR解析結果を示す。
【図3】この図は、Hs.22920分子の構造的特徴を示す。
【図4】この図は、Hs.22920−EGFPを発現させたBALB3T3細胞の共焦点顕微鏡による解析結果を示す。Aは蛍光観察結果を示し、BはDIC観察結果を示し、Cは蛍光図とDIC図を重ね合わせた結果を示す。
【図5】この図は、抗Hs.22920モノクローナル抗体のHs.22920発現L929細胞及びヒト末梢血由来PDCに対する結合性をフローサイトメーターにて解析した結果を示す。
【図6】この図は、抗Hs.22920モノクローナル抗体の競合実験の結果を示す。この結果から、同じエピトープを認識すると考えられるクローン群は、(1)#6.12,#7.7,#9.10,#9.69;(2)#7.59,#7.81,#8.58,#126A1;(3)#15.57である。
【図7】この図は、抗Hs.22920モノクローナル抗体を用いたPDC及び主要リンパ球のフローサイトメーター解析結果を示す。
【図8】この図は、発現ベクター;N5hKG1X−126A1のマップを示す。
【図9】この図は、抗Hs.22920キメラ抗体のPDCに対するADCC活性測定結果を示す。
【図10】この図は、CD209d遺伝子のBWF1マウスの各細胞・組織におけるGeneChip(登録商標)解析結果を示す。
【図11】この図は、抗CD209dモノクローナル抗体を用いたBWF1マウス由来PDC及び主要リンパ球のフローサイトメーター解析結果を示す。
【図12】この図は、抗CD209dモノクローナル抗体のBWF1マウス投与実験の結果を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト形質細胞様樹状細胞(Plasmacytoid Dendritic Cell;以下PDCともいう)で特異的に発現する特定のヒトPDC膜分子に対する抗体を用いた、PDCの除去法または検出法、ならびに、該抗体を有効成分として含む、PDCが関与する各種疾患の治療剤または診断剤に関する。PDCが関与する疾患は、例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、乾癬、I型糖尿病等の自己免疫性疾患、アレルギー性鼻炎等の炎症性疾患、腫瘍等が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
免疫系は微生物の排除や腫瘍の発生阻止など、生体の恒常性を維持するために極めて重要なシステムである。樹状細胞(DC)はT細胞の活性化などを介してその免疫系を始動させる起点となる細胞として重要であることが知られている。しかしながら、過剰な免疫応答が疾患の原因となる自己免疫疾患では、その病態形成にも種々のDCが働いていることが報告されている(非特許文献1)。DCは各種のサブポピュレーションに分類されており、ミエロイド系DCに分類され表皮に存在するランゲルハンス細胞やその他の各種臓器で見出される間質樹状細胞の他、形質細胞様樹状細胞(PDC)が存在する。PDCは、細菌やウイルスの刺激をその細胞で発現するToll-likeレセプター(TLR)から受けると大量のI型インターフェロン(IFN-α/β)を産生する細胞として近年見出されたDCのサブポピュレーションであり(非特許文献2および非特許文献3)、その生体での機能について各種検討がなされつつある。
【0003】
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;以下SLEともいう)は、自己抗体の産生を伴い、皮膚、口腔粘膜、関節、血球系や腎臓などに異常をきたす全身性の自己免疫疾患である。このSLEについては、これまで多くの研究がなされてきてはいるが、その病因について不明な点が多く、適切な療法が見出されていない。そのため、SLEに対しては既存免疫抑制薬が処方されているが、それら薬物の免疫系全般に対する非特異的な作用による毒性が臨床上問題となっている(非特許文献4)。そこで、より疾患特異的な療法のためのターゲットの研究が行われている。
【0004】
SLE患者の血中ではIFN-α/β濃度が上昇しており(非特許文献5)、IFN-α/βの投与により抗核抗体の上昇やSLE症状が発症すること(非特許文献6)、あるいはSLE患者の血中PDCは減少しているが皮膚の患部においてはPDCが浸潤していること(非特許文献7)などが報告され、過度のI型インターフェロン産生がSLEの自己免疫応答に関連していることが注目されている(非特許文献8、非特許文献9および非特許文献10)。
【0005】
このI型インターフェロンやその産生細胞であるPDCとSLEとの関係については、疾患モデルマウスでの検討もなされている。SLEを自然発症するNZBマウスを用いた検討で、I型インターフェロンレセプターのノックアウトを行うと自己抗体産生、溶血性貧血や腎炎が改善されること(非特許文献11)や、このマウスの骨髄中のPDCは高TLR9発現であり高インターフェロン産生であること(非特許文献12)などが報告されている。SLE様症状をより強く自然発症する(NZB x NZW)F1マウス(NZBWF1マウス)でも、PDCで発現するTLR9のリガンドであるCpG ODNの投与(非特許文献13)や、IFN-αの人為的暴露(非特許文献14)によりSLE症状の発症が促進されることが報告されている。また、インターフェロン産生細胞の活性抑制物質としてのBST2に対する抗体のNZBWF1マウスへの投与によりSLEに付随するループス腎炎の治療に有用であることが報告されている(特許文献1)。
【0006】
この他、シェーグレン症候群の唾液腺(非特許文献15)、皮膚筋炎(非特許文献16)、乾癬(非特許文献17)やI型糖尿病(非特許文献18)の患部、およびアレルギー性鼻炎(非特許文献19)といった気道アレルギーの粘膜においてIFN-α発現の上昇やPDCの増加が報告されており、SLEとそれ以外の多くの自己免疫性や炎症性疾患にも、このPDCとI型インターフェロンシステムが関与しているものと考えられる。さらに、腫瘍周囲に浸潤するPDCがT細胞による腫瘍免疫に対して抑制的に働いている可能性も指摘されている(非特許文献20)。
【0007】
CD20を標的としたキメラ抗体(Rituximab)やHer2/neuを標的としたヒト化抗体(Herceptin)の悪性腫瘍に対する治療効果が認められており、抗体は癌治療における重要かつ価値のあるアプローチとして注目されている。血中半減期が長く、抗原への特異性が高いという抗体の特徴は、抗腫瘍剤として非常に有用と言える。例えば、腫瘍特異的な抗原を標的とした抗体であれば、投与した抗体は腫瘍に集積することが推定されるので、補体依存性細胞傷害(Complement−Dependent Cytotoxicity;CDC)活性や抗体依存的細胞性細胞傷害(Antibody−Dependent Cellular Cytotoxicity;ADCC)活性による、免疫システムの癌細胞に対する攻撃が期待できる。ADCC活性は、抗体のFc領域のアミノ酸変異(特許文献2)や抗体に付加される糖鎖からフコースを除くこと(特許文献3)などで、増強されることも知られており、発現量の少ない抗原を標的とする場合にもADCC活性による癌細胞除去が期待できる。また、抗体に放射性核種や細胞毒性物質(非特許文献21)などの薬剤を結合しておくことにより、結合した薬剤を効率よく腫瘍部位に送達することが可能となり、同時に、非特異的な他組織への該薬剤到達量が減少することで、副作用の軽減も見込むことができる。腫瘍特異的抗原に細胞死を誘導するような活性がある場合はアゴニスティックな活性を持つ抗体を投与することで、また、腫瘍特異的抗原が細胞の増殖及び生存に関与する場合は中和活性を持つ抗体を投与することで、腫瘍特異的な抗体の集積と、抗体の活性による腫瘍の増殖停止または退縮が期待される。抗体の上記のような特徴は抗腫瘍剤への適用ばかりでなく、SLEなどの特定の細胞が原因と考えられる疾病においてもその標的細胞の機能調整あるいは除去を通じた治療効果が期待できる。
【0008】
細胞特異的な分子の探索には、標的細胞を免疫原とするモノクローナル抗体の作製とそれに基づいた抗原取得やプロテオーム解析や遺伝子発現プロファイルなど様々な手法を用いることができる。なかでも遺伝子発現プロファイルは、解析に必要な細胞数が他の方法に比べて少ないということ、さらにヒトゲノムの完全解析によりすべての遺伝子レパートリーが判明しており、その情報に基づいた遺伝子の網羅的解析が可能なことなどが他の蛋白ベースの方法と比べた場合の有利点と言える。しかしながら、遺伝子プロファイルが往々にして陥りやすい失敗として、純度の低い細胞を用いた発現プロファイルが単なる構成細胞の比率解析になることが挙げられる。すなわち、解析対象サンプルの細胞レベルでの純度は非常に重要であり、さらに豊富な参照サンプルとの比較が、細胞特異的分子の同定には不可欠となる。また、遺伝子発現と蛋白発現、特に膜発現が必ずしも相関しないことも、遺伝子プロファイルによる分子探索では注意を要するポイントと言える。
【0009】
PDCに特異的に存在する膜分子が同定されるならば、該膜分子に対する抗体の作製や、医療分野での該抗体の利用が可能となる。
【0010】
【特許文献1】国際特許出願WO2006/054748
【特許文献2】国際特許出願WO2004/099249
【特許文献3】Kandaら、米国特許第6946292号
【非特許文献1】Immunity,20巻,539頁,2004年
【非特許文献2】Nat.Med.,5巻,919頁,1999年
【非特許文献3】Science,284巻,1835頁,1999年
【非特許文献4】J.Rheumatol.,22巻,1259頁,1995年
【非特許文献5】J.Exp.Med.,197巻,711頁,2003年
【非特許文献6】J.Intern.Med.,227巻,207頁,1990年
【非特許文献7】Am.J.Pathol.,159巻,237頁,2001年
【非特許文献8】Trends.Immunol.,22巻,427頁,2001年
【非特許文献9】Autoimmunity,36巻,463頁,2003年
【非特許文献10】Curr.Opin.Rheumatol.,15巻,548頁,2003年
【非特許文献11】J.Exp.Med.,197巻,777頁,2003年
【非特許文献12】J.Immunol.,173巻,5283頁,2004年
【非特許文献13】Lupus,12巻,838頁,2003年
【非特許文献14】J.Immunol.,174巻,2499頁,2005年
【非特許文献15】Arthritis.Rheum.,52巻,1185頁,2005年
【非特許文献16】Ann.Neurol.,57巻,664頁,2005年
【非特許文献17】J.Exp.Med,202巻,135頁,2005年
【非特許文献18】Lancet,2巻,1423頁,1987年
【非特許文献19】J.Immunol.,165巻,4062頁,2000年
【非特許文献20】Nat.Med.,7巻,1339頁,2001年
【非特許文献21】Nature Biotec.,23巻,1137頁,2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、PDCで特異的に発現する膜分子に対する抗体を利用したPDCの分離・除去方法、並びに、該作用を利用した、PDCが関与する自己免疫疾患等に対する治療法の提供である。また、該分子を特異的に認識する抗体を使用して、生体試料中のPDCを検出する方法、ならびに、PDCが関与する疾患を診断または検出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ヒト健常人由来のPDC及び代表的なリンパ球及び主要組織のmRNA発現をアフィメトリクス社のGeneChip(登録商標)を用いて解析し、PDCでのみ特異的にmRNAを発現する遺伝子;Hs.22920(Unigen ID)を同定した。この遺伝子は、LAMP−1(J.Biol.Chem.,265巻,7419頁,1990年)と相同性を持つ、機能未知のI型膜蛋白をコードする。また、Hs.22920に対するモノクローナル抗体を作製し、蛋白レベルでの特異性も確認した。更に、Fc領域のアミノ酸変異及び付加糖鎖からのフコース除去の改変を加えた上記抗体が、ヒト健常人由来PDCに対してADCC活性を有することを確認した。
【0013】
これまでの研究により、I型インターフェロン及びその主要産生細胞であるPDCとSLE発症との関連性が指摘されており、Hs.22920に対する抗体を用いたPDC除去に、SLEに対する治療効果が期待できる。また、PDCやI型インターフェロンが関与しているSLE以外の自己免疫疾患や炎症性疾患などへの応用も可能である。
【0014】
上記知見に基づき本発明を要約すると以下のようになる。
【0015】
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を有効成分として含有する、形質細胞様樹状細胞が関与する疾患の治療剤または診断剤。
【0016】
(2)形質細胞様樹状細胞が関与する疾患が全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、乾癬、I型糖尿病等の自己免疫性疾患、アレルギー性鼻炎等の炎症性疾患または腫瘍から選択される、(1)に記載の治療剤または診断剤。
【0017】
(3)上記抗体またはその断片がヒト形質細胞様樹状細胞膜分子の細胞外領域を認識することを特徴とする、(1)または(2)に記載の治療剤または診断剤。
【0018】
(4)上記抗体またはその断片がヒト抗体、ヒト化抗体、またはその断片である、(1)〜(3)のいずれかに記載の治療剤または診断剤。
【0019】
(5)上記抗体またはその断片がポリクローナル抗体、ペプチド抗体、モノクローナル抗体またはその断片である、(1)〜(4)のいずれかに記載の治療剤または診断剤。
【0020】
(6)上記断片がF(ab’)2である、(1)〜(5)のいずれかに記載の治療剤または診断剤。
【0021】
(7)上記抗体またはその断片が形質細胞様樹状細胞に対して抗体依存的細胞性細胞傷害(ADCC)活性または補体依存性細胞傷害(CDC)活性を有する、(1)〜(6)のいずれかに記載の治療剤または診断剤。
【0022】
(8)上記抗体またはその断片にアミノ酸或いは糖鎖構造上の改変を加え、形質細胞様樹状細胞に対する抗体依存的細胞性細胞傷害(ADCC)活性を増強した、(1)〜(7)のいずれかに記載の治療剤または診断剤。
【0023】
(9)上記抗体またはその断片が、それに細胞毒性物質或いは放射性核種を付加することによって形質細胞様樹状細胞に対して細胞傷害活性を有する、(1)〜(8)のいずれかに記載の治療剤または診断剤。
【0024】
(10)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を用いて、ヒトまたは他の動物由来の形質細胞様樹状細胞を検出する方法。
【0025】
(11)上記抗体またはその断片が標識されている、(10)に記載の方法。
【0026】
(12)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を用いて、ヒトまたは他の動物由来の生体試料中に含まれる形質細胞様樹状細胞をin vitroで分離、除去する方法。
【0027】
(13)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を有効成分として含有する、形質細胞様樹状細胞除去剤。
【0028】
(14)上記抗体またはその断片が担体に固定化されている、(13)に記載の形質細胞様樹状細胞除去剤。
【0029】
本明細書中で使用する本発明の抗体に関する「特異的に免疫結合する」という用語は、本発明の抗体が本膜分子のみが有するエピトープと免疫学的に交差反応し、そのようなエピトープをもたないタンパク質と交差反応しないことを意味する。このようなエピトープは、例えば本発明の膜分子のアミノ酸配列と他のタンパク質のアミノ酸配列とを整列比較することによって、本質的に異なる配列部分(連続する少なくとも5アミノ酸、好ましくは少なくとも8アミノ酸、さらに好ましくは少なくとも15アミノ酸)を選択することによって決定できる。また、上記エピトープは、連続エピトープだけでなく、本発明の抗体と特異的に免疫結合することができる不連続エピトープであってもよい。
【0030】
本明細書中で使用する本発明の抗体に関する「ADCC活性又はCDC活性を有する」という用語は、本発明の抗体がPDCの膜上で発現する本膜分子に結合し、抗体のFc領域を介した抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性及び補体依存性細胞傷害(CDC)活性により、PDCを破壊することを意味する。ADCCは、Fc受容体を有するNK細胞等のエフェクター細胞が、Fc領域とFc受容体の結合を介して、抗体が結合した標的細胞に結合し、自身の放出するパーフォリンやグランザイムBなどの細胞傷害物質によって標的細胞を破壊する活性を言う。また、CDCは、標的細胞に結合した抗体のFc領域が補体系を活性化し、その結果細胞表面に形成される膜傷害性複合体(MAC)によって、標的細胞を破壊する活性を言う。
【0031】
本明細書中で使用する本発明の抗体に関する「細胞傷害活性を有する」という用語は、本発明の抗体がPDCの膜上で発現する本膜分子に結合し、抗体に付加した細胞毒性物質がエンドサイトーシスによって細胞内に入り、pH変動やエンドペプチダーゼ等の働きで抗体から分離し、毒性を発揮することによりPDCを破壊することを意味する。また、抗体に付加した放射性核種は、その発する放射線によって抗体が結合したPDCのDNAを破壊することにより毒性を発揮する。
【0032】
本明細書中で使用する、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子の「変異体またはそれらの断片」とは、該変異体について、配列番号1のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の変異(例えば置換、欠失または付加)を含むアミノ酸配列を含む変異体、あるいは、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上、95%以上、97%以上または99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む変異体を指し、また、該断片について、ヒト形質細胞様樹状細胞膜分子の配列番号1のアミノ酸配列またはその変異体のアミノ酸配列において連続する5アミノ酸〜全アミノ酸、連続する8アミノ酸〜全アミノ酸、連続する15アミノ酸〜全アミノ酸、連続する30アミノ酸〜全アミノ酸、連続する50アミノ酸〜全アミノ酸、連続する70アミノ酸〜全アミノ酸、連続する100アミノ酸〜全アミノ酸、連続する150アミノ酸〜全アミノ酸、連続する200アミノ酸〜全アミノ酸、または連続する250アミノ酸〜全アミノ酸からなるアミノ酸配列を含む断片を指す。上記変異体または断片は、人工的に作製されたもの、あるいは、多型性、スプライス変異、突然変異などの変異、プロテアーゼやペプチダーゼなどの酵素による切断、などによって生体内で生じたものを意図するが、好ましくは生体内で天然に生じた変異体または断片を意図する。
【0033】
ここで、本明細書中で使用する「数個」なる用語は、10〜2、8〜2、5〜2、4〜2または3〜2の整数を指す。また、「同一性」なる用語は、例えばBLASTX、BLASTP、FASTAなどのホモロジー検索プログラムを使用する相同性比較から決定することができるように、ギャップを導入するかまたは導入しないで2つの配列間のアラインメントをとったときに、同一のアミノ酸数を総アミノ酸数で割算した割合(%)を意味する(例えば、高木利久・金久實編、ゲノムネットのデータベース利用法(第2版)第5章1998年(共立出版))。
【発明の効果】
【0034】
本発明の抗体またはその断片は、PDCで特異的に発現する膜分子に対する特異抗体またはその断片であることから、それを利用することによって、例えばPDCの選択的な除去を可能とし、ならびに、PDCが関与する自己免疫疾患等の疾患に対する治療や診断をも可能とする、という優れた作用効果を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
Hs.22920及び当該遺伝子がコードする膜分子
上述したように、本発明は、発現プロファイリングによりHs.22920(Unigene ID)遺伝子がPDCで特異的に発現しているという知見に基づいている。
ボランティア採血によって得た末梢血より、セルソーターを用いてPDC、T細胞、B細胞、NK細胞、単球をそれぞれ分画し、RNAを抽出した(後述の実施例1参照)。また、各種ヒト組織由来RNAを購入した(Clontech社、Ambion社、及びBioChain社)。それぞれのRNAからSMARTTM法(Clontech社)を用いてcDNAを合成し、インビトロ転写によりビオチン化したcRNAを合成し、GeneChip(登録商標)プローブアレイ(Human Genome U133 set;Affymetrix社製)を用いて発現プロファイルを行った(後述の実施例2参照)。その結果、Hs.22920遺伝子がPDCで特異的に発現していることを見出した(後述の実施例3参照)。さらにこの発現特異性はリアルタイム定量PCR法により確認された(後述の実施例4参照)。
【0036】
本発明者らが見出したHs.22920遺伝子は、280アミノ酸残基の蛋白(配列番号1)をコードしており、分泌シグナル予測(SignalP;Protein Engineering,10巻,1頁,1997年)及びトポロジー予測(HMMTOP;Bioinfomatics,17巻,849頁,2001年)により、29アミノ酸残基のシグナルペプチドと209アミノ酸残基の細胞外領域と18アミノ酸残基の膜貫通領域を一箇所持つI型の膜蛋白であると予測される。本遺伝子については、既にいくつかの特許出願が成されており(国際公開WO9961471−A2、WO200179254−A1、WO200286443−A2、WO2003000012−A2、WO2003025138−A2、WO2003042661−A2、WO2004013311−A2、WO2004053079−A2、WO2005001092−A2など)、その中で癌細胞における発現が報告されている。また、Strausbergらによって進められたMammalian Gene Collection(MGC)プログラムにおいてもcDNA単離が報告されている(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99巻,16899頁,2002年)。しかし、細胞外領域にLAMP−1モチーフ(Lysosome−associated membrane glycoproteins duplicated domain signature;PROSITE Entry PS00310)を持ち、LAMP−1(J.Biol.Chem.,265巻,7419頁,1990年)との機能の類似性が想像されるものの、正確な機能、特にPDCにおける働きについてはまったく明らかになっていない。
【0037】
抗Hs.22920抗体
目的の抗体を得るための抗原エピトープは、本膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片のアミノ酸配列(好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列)において抗原性の高い領域、表在性がある領域、二次構造をとらない可能性のある領域、他のタンパク質とホモロジーがないかまたは低い領域から選択されうる。ここで抗原性の高い領域は、Parkerらの方法(Biochemistry,25巻,5425頁,1986年)によって推定可能である。表在性がある領域は、例えばハイドロパシーインデックスを計算しプロットすることによって推定可能である。二次構造をとらない可能性のある領域は、例えば、ChouとFasmanの方法(Adv.Enzymol.Relat.Areas Mol. Biol.,47巻,45頁,1978年)によって推定可能である。さらに、他のタンパク質とホモロジーがないかまたは低い領域は、本膜分子のアミノ酸配列と他のタンパク質のアミノ酸配列との相同性比較によって推定可能である。
【0038】
上記の手法で推定された本膜分子の部分アミノ酸配列を基に、ペプチド合成法を利用することによって該アミノ酸配列からなるペプチドを合成することができる。目的のペプチドは、例えば、R.B.Merrifield(Science,232巻,341頁,1986年)によって開発された固相ペプチド合成に基づいた市販のペプチド合成機を使用して合成し、保護基を脱離後、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等を単独もしくは組み合わせた方法により精製することができる。得られた精製ペプチドは、単独で、あるいはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、アルブミンなどのキャリヤタンパク質と結合し、免疫原として使用して、これらの抗原に対するポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体を公知の手法により作製することができる。
【0039】
また、遺伝子組換え本膜分子を免疫原として本膜分子に対するポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体を公知の手法により作製することもできる。この場合、本膜分子、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、または他のタンパク質に関して用いられる「組換え」という用語は、これらのタンパク質が宿主細胞内で組換えDNAによって生産されたものであることを意味する。宿主細胞としては、原核生物(例えば大腸菌、枯草菌、シュードモナスなどの細菌等)及び真核生物(例えば酵母、CHO細胞、昆虫細胞、動物細胞等)由来の細胞のいずれも使用され得る。遺伝子組換え本膜分子は、本膜分子のタンパク質の全配列または部分配列をコードするDNAを、例えば大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などの原核もしくは真核細胞に形質転換またはトランスフェクションし、該DNAを発現させることにより調製することができる。遺伝子組換え技術は、公知であり、例えばJ.Sambrookら,Molecular Cloning,A Laboratory Mannual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)などに記載されており、その記載を参照できる。遺伝子組換え本膜分子は、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等を単独もしくは組み合わせた方法により精製し、この精製標品を免疫原として用いることができる。
【0040】
さらに、本膜分子の発現細胞を免疫原として本膜分子に対するポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体を公知の手法により作製することもできる。この場合の発現細胞は、本膜分子をコードするDNA(またはcDNA)を適当な発現ベクター(例えばプラスミド、ウイルス、ファージなど)に組み込み、適当な宿主細胞に導入することにより作製できる。発現ベクターは、種々のものが市販または寄託されており、あるいは文献等の刊行物に記載されており、それらを使用できる。ベクターの例は、pRc(H.L.Davisら,Human Molecular Genetics,2巻,1847−1851頁,1993年)、pcDNA3(A.A.M. Coelho−Casteloら,Genetic Vaccines and Therapy,4巻,1頁,2006年)、pCR3(J.J.Changら,Reproduction,31巻,183−192頁,2006年)などを含む。通常、ベクターは、本膜分子をコードするDNAの転写、発現を調節するためのプロモーター/エンハンサー、リボソーム結合部位、複製開始点、ターミネーターなどの制御配列を含むことができる。ベクターによって宿主細胞をトランスフェクションする方法として、例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法、遺伝子銃法などが挙げられる。宿主細胞にはヒト胎児腎臓細胞、ヒト白血病細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、NIH3T3細胞などの動物細胞が挙げられる。
【0041】
本発明の「抗体」はペプチド抗体、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよい。「抗体」は、マウスまたは他の適した宿主動物を免疫に用いられたタンパク質に特異的に結合するであろう抗体を産生するか、あるいは、産生するであろうリンパ球を引き出すために、皮下、腹腔内、または筋肉内の経路によって、抗原あるいは抗原発現細胞により動物を免疫化することによって得られる。さらに宿主動物としてはヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原または抗原発現細胞を投与し、所望のヒト抗体を取得してもよい(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97巻,722頁,2000年;国際公開WO96/33735,WO97/07671,WO97/13852およびWO98/37757)。あるいは、該動物由来のリンパ球をin vitroで免疫化してもよい。宿主動物から得られた血清から、抗原に結合する画分を集め、精製することにより、ポリクローナル抗体を取得することができる。さらに、ハイブリドーマ細胞を形成するために、公知の手法により、ポリエチレングリコールのような適当な融合試薬を用いて、免疫化動物から取り出した脾臓細胞またはリンパ球を骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体を作製することができる(Goding,Monoclonal Antibodies:Principals and Practice,59−103頁,Academic press,1986年)。例えば本発明のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法(Nature,256巻,495頁,1975年)を用いても、組換えDNA法(Cabillyら,米国特許4816567)を用いても作製することができる。
【0042】
また、本発明の抗体は、無傷の抗体であってもよいし、あるいはF(ab’)2、Fab、Fv、scFv(single chain Fv)、dsFV(disulfide−stabilized Fv)などの抗体断片であってもよい。
【0043】
また、定常領域をヒトの定常領域に置き換えたキメラ抗体(Cabillyら,米国特許4816567;Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89巻,6851頁,1984年)、定常領域および超可変領域(または、Complementary−determining region;CDR)を除く全ての可変領域をヒトの配列に置き換えたヒト化抗体(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89巻,4285頁,1992年;BioTechnology,10巻,163頁,1992年)も本発明の抗体に含まれる。
【0044】
本発明の実施形態によれば、本発明の抗体またはその断片は、本膜分子の細胞外領域を認識するものが好ましい。
【0045】
また、Fc領域にアミノ酸の変異を加えること(Lazarら,国際公開WO2004099249−A2)、糖鎖からフコースを除くこと(Kandaら,米国特許6946292)などによってADCC活性を増強した抗体も本発明に含まれる。
【0046】
さらに、放射性核種や細胞毒性物質などを付加した抗体(Nature Biotec.,23巻,1137頁,2005年)も本発明に含まれる。放射性核種の例は、99mTc、123I、111In、18F、64Cu、68Ga、86Y、124I、131I、90Y、177Lu、67Cu、213Bi、211Atなどを含む。細胞毒性物質の例は、ドキソルビシン、カリケマイシン、DM−1(ジスルフィド)、オーリスタチン(auristatin)、リシン(ricin)、パクリタキソール、臭化エピジウム、マイトマイシン、エトポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ダウノルビシン、ミトラマイシン、グルココルチコイド、テトラカイン、リドカイン、チミジンキナーゼなどを含む。
【0047】
抗Hs.22920抗体の用途
上記のようにして得られた本膜分子に対する本発明の各種抗体は、その特徴を生かすことができる様々な用途に使用可能である。
本膜分子がPDCに特異的に発現が見られる分子であることを利用して、本発明の抗体を蛍光性物質(例えばローダミン、フルオレサミン、それらの誘導体、FLAG、GFPなど)で標識し、周知のFACS(フローサイトメトリー)、酵素(ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼなど)、放射性同位元素(3H、121I、123I、32P、35S、68Ga、54Mn、99Tc、133Xeなど)、生物発光物質(ルシフェラーゼ、ルミノール−H2O2-ペルオキシダーゼ系など)を用いてPDCを検出することができるし、あるいはPDCが関与する疾患、例えばSLE、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、乾癬、I型糖尿病等の自己免疫性疾患、アレルギー性鼻炎等の炎症性疾患、腫瘍などを、患者または被験者由来の生体試料(例えば、血液、リンパ液などの体液、組織など)を用いてin vitroで診断または検出することができる。
【0048】
本膜分子の検出に関しては、FACSでの検出にとどまるものではない。例えばウェスタンブロッティングにおいて本抗体を一次抗体として作用させることにより検出可能であり、またそれによってタンパク質レベルでの発現確認を行うこともできる。さらにまた、本発明の抗体を固相(例えばポリスチレンビーズ、マイクロタイターウエル表面、ラテックスビーズなど)に結合して不均一系で、あるいは均一系で、免疫学的反応を行って相同な膜分子を検出、定量(例えば蛍光抗体法、ELISA、ラジオイムノアッセイなどの方法使用)することができる。この場合、免疫学的反応は競合反応であってもよいし非競合反応であってもよい。また2つ以上の抗体(モノクローンまたはポリクローン)を用いるサンドイッチ法による反応も使用できる。上記における診断、検出、定量のためには、当業界で公知のいずれの免疫学的手法も用いることができる。
【0049】
本発明の診断剤(または診断組成物)には、上記定義の本発明の抗体またはその断片、あるいは上記のような標識を結合した該抗体またはその断片が含まれる。このような抗体類は、凍結乾燥形態などの固体形態が好ましく、バイアルなどの容器中に入れて密封される。また、診断剤がキットの形態をとる場合には、上記の(標識化してもよい)抗体またはその断片に加えて、検出のために必要な緩衝液、試薬類(例えば、二次抗体、酵素など)、使用説明書などを含有させることができる。
【0050】
さらに別の用途として、本発明の抗体類は本膜分子の機能を評価する用途にも使用可能である。PDCはそのI型インターフェロンの産生能を基にした自然免疫に対する関与が知られている。これら機能を制御し得るか否かを確認するために、I型インターフェロンの産生を抑制或いは促進しうるか否かの確認等のin vitroでのアッセイにも使用可能である。
【0051】
本発明の抗体類はさらに、そのADCC活性やCDC活性、または該抗体類に付加した細胞毒性物質もしくは放射性核種によるPDC除去効果によって、PDCが関与する疾患、例えばSLE、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、乾癬、I型糖尿病等の自己免疫性疾患、アレルギー性鼻炎等の炎症性疾患、腫瘍などの治療に適応可能である。
【0052】
投与法は、特に制限されないが、経口投与、あるいは非経口投与、例えば静脈内投与、動脈内投与、筋内投与、粘膜投与、座剤投与などであるが、好ましくは非経口投与である。また、投与剤型は、特に制限されないが、錠剤、粉剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤、溶液剤、懸濁剤、吸入剤、ゲル剤などを含む。このような剤型は、医薬分野で公知の薬学的に許容可能な賦形剤、希釈剤、添加剤(例えば安定剤、結合剤、保存剤、抗酸化剤、懸濁化剤、崩壊助剤、滑沢剤、界面活性剤、風味剤、着色剤など)と組み合わせて経口用または非経口用に処方することができる。剤型、賦形剤、希釈剤および添加剤の種類については、例えばRemington:The Science and Practice of Pharmacy,Mack Publishing Company,1995年に記載されており、本発明のために参照することができる。投与は、1日あたり1回かまたは数回に分けて行うことができる。また、投与量は、患者の重篤度、年齢、性別、体重などの条件に応じて決定され、副作用を併発しない範囲である。例えばヒト成人体重1kgあたり1μg〜100mgの範囲内の用量である。
【0053】
本発明の抗体類はさらに、ヒトまたは他の動物由来のPDCを除去するために使用できる。抗体を、例えば固相(例えば多糖類、高分子ポリマーなどの物質;繊維状、布状、膜状、中空糸繊維膜状、カラム状などの任意の形状)に固定化し、該固相を充填した例えばカラムまたはカートリッジ内を、PDCを含有する患者または被験者由来の生体試料(例えば、血液などの体液)を通すことによって、PDCを分離、除去することができる。抗体の固定化は、例えば共有結合または非共有結合(例えば、吸着など)によって行うことができる。共有結合は、例えば、抗体のN末端のアミノ基またはリジンのアミノ基と、それと反応性の臭化シアン、アルデヒド基、N−ヒドロキシコハク酸イミジル基などの担体上の官能基との間で行うことができる。
【0054】
したがって、本発明は、上記定義の本発明の抗体またはその断片を用いて、ヒトまたは他の動物由来のPDCを除去する方法、あるいは該抗体またはその断片を有効成分として含有するPDC除去剤、を提供する。PDC除去剤は、例えば、本発明の抗体またはその断片、あるいは、固相に結合した本発明の抗体またはその断片としうる。その形態の例は、凍結乾燥して容器に充填したり、あるいは、カラム、カートリッジなどの形状である。
【実施例】
【0055】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらの実施例によって限定されないものとする。
【0056】
実施例1 各リンパ球の調製とtotal RNAの抽出
PDCを含む各リンパ球は以下のように調製した。まず、健常人の末梢血を採血バック(TERUMO社製)を用いて採血後、LymphoprepTM(AXIS−SHIELD社製)に重層し、比重遠心により単核細胞を分離した。この末梢血単核細胞から、MicroBeads(Miltenyi Biotec社製;T細胞:CD3、B細胞:CD19、NK細胞:CD56、単球:CD14、myeloid DC:BDCA−1、PDC:BDCA−4)とMACS(登録商標)カラム(Miltenyi Biotec社製)を用いて主要リンパ球を粗分画した。次に、Becton Dickinson社製の標識抗体を用い、FACS VantageSETM(Becton Dickinson社製)にて、T細胞:CD3陽性、B細胞:CD19陽性、NK細胞:CD56陽性、単球:CD14陽性、myeloid DC:Lin陰性かつHLA−DR陽性かつCD11c陽性、PDC:Lin陰性かつHLA−DR陽性かつCD123陽性かつCD11c陰性、を指標にして各細胞をさらに高純度に分画した。分画後の各細胞の純度は、一部の細胞をFACScaliburTM(Becton Dickinson社製)を用いて再解析することによって求め、95%以上の純度の細胞をその後の解析に供した。
【0057】
各細胞からのtotal RNA抽出にはQIAGEN社のRNeasy(登録商標)Mini Kitを使用した。106個前後の各細胞から1μg前後のtotal RNAを得た。各組織のtotal RNAはClontech社、Ambion社、及びBioChain社から購入した。
【0058】
リンパ球画分の中で細胞数の確保が難しいものについては、複数のドナーから調製した細胞を同数ずつ混合したものからRNAを調製することとし、各画分につき2バッチづつを調製した。組織については、それぞれ異なる2ドナー由来のRNAを購入した。これにより、個体差を考慮した解析を行うこととした。
【0059】
実施例2 GeneChip(登録商標)解析
実施例1で得たRNAを用いて以下の如く発現解析を行った。各500ngのtotal RNAを用いて、SMARTTM PCR cDNA Synthesis Kit(Clontech社製)によりcDNAを合成し、さらにBioArrayTM HighYieldTM RNA Transcript Labeling Kit(Enzo社製)を用いてビオチン化cRNAを合成した。合成したcRNAはAffymetrix社のマニュアルに従って、Human Genome U133 set(Affymetrix社製)にハイブリダイズさせ、シグナル読み取り装置;HP GeneArrayスキャナ(Hewlett−Packard社製)及び解析ソフト;Affymetrix(登録商標)Microsuite 5.0(Affymetrix社製)を用いて各遺伝子の発現量を測定した。
【0060】
実施例3 PDC特異的遺伝子の同定
実施例2で得たデータは、まずハウスキーピング遺伝子(グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ、βアクチン、αチューブリン、ヒポキサンチンフォスフォリボシルトランスフェラーゼ、ホスホリパーゼA2、リボゾーム蛋白S9)のシグナルの相対値の幾何平均によって標準化した。その上で、各遺伝子の発現量を比較し、PDCにおけるシグナルが他の細胞や組織のそれと比較して10倍以上の差のある遺伝子を選択した。次に、PDCでの特異的発現や機能が既知の遺伝子は除外した。さらに、Affymetrix社のウェブサイト(NetAffxTM Analysis Center;http://www.affymetrix.com/analysis/index.affx)上で得られる情報及び分泌シグナル予測(SignalP;Protein Engineering,10巻,1−6頁,1997年)及びトポロジー予測(HMMTOP;Bioinfomatics,17巻,849−850頁,2001年)から、膜蛋白あるいはその可能性のある分子をコードする遺伝子を選択した。その結果、Hs.22920(UniGene ID)をPDC特異的に発現する膜分子をコードする遺伝子の候補として見出した(図1)。
【0061】
実施例4 Hs.22920遺伝子の定量PCR解析
Hs.22920の発現特異性を確認するため、Real−time PCRを行った。各細胞・組織由来のcDNAとしては、実施例2で合成したものを用いた。また、TaqMan(登録商標) ProbeはApplied Biosystems社のTaqMan(登録商標)Gene Expression Assays(Assay ID:Hs00935891_m1)を使用した。Applied Biosystems社のマニュアルに従い、各細胞・組織におけるmRNAの相対量をABI PRISM(登録商標)7900HT(Applied Biosystems社製)を用いて測定した。さらに、同様に測定したハウスキーピング遺伝子(グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ、βアクチン、αチューブリン、ヒポキサンチンフォスフォリボシルトランスフェラーゼ、リボゾーム蛋白S9)の測定値を用いて実施例3と同様に標準化した。その結果、GeneChip(登録商標)解析で得られた結果と同様、神経系を除いて、PDCで特異的にHs.22920が発現していることを確認した(図2)。
【0062】
実施例5 Hs.22920遺伝子のクローニング
GeneChip(登録商標)解析及びReal−time PCRで検出したmRNAが実際にPDC由来のmRNA中に存在すること及び抗体作成用の抗原作成のため、PDCのmRNAよりHs.22920のcDNAをクローニングした。Hs.22920のORFの5’端及び3’端にそれぞれ特異的なプライマー(配列番号2;5’−GATTTGCTCTGCCAGCAGCT−3’及び配列番号3;5’−ACACAAGCCAAGCAAGCCTC−3’)を用い、実施例2で合成したPDCのcDNAをテンプレートとして、常法によりPCR反応を行い、特異的に増幅されたDNA断片をクローニング用ベクター;pCR(登録商標)4BluntTOPO(Invitrogen社製)にクローニングし、DNAシークエンス解析をした。その結果、Unigeneに登録されている配列と完全に一致することが判明し、実際にPDCでHs.22920のmRNAが発現していることを確認できた。
【0063】
実施例6 Hs.22920の膜構造及び機能予測
Hs.22920遺伝子はORF検索により、配列番号1の蛋白をコードすることが予測される。この配列に関して、SignalP(Protein Engineering,10巻,1−6頁,1997年)による分泌シグナル予測及びHMMTOP(Bioinfomatics,17巻,849頁,2001年)によるトポロジー予測を行った。その結果、29アミノ酸残基のシグナルペプチドと209アミノ酸残基の細胞外領域と18アミノ酸残基の膜貫通領域を一箇所持つI型の膜蛋白であると予測された。本遺伝子は、既に癌マーカーとしての特許出願(WO9961471−A2,WO200179254−A1,WO200286443−A2,WO2003000012−A2,WO2003025138−A2,WO2003042661−A2,WO2004013311−A2,WO2004053079−A2,WO2005001092−A2)が成されており、またStrausbergらによって進められたMammalian Gene Collection(MGC)プログラムにおいてもcDNA単離が報告されているが(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99巻,16899頁,2002年)、正確な機能は明らかになっていない。ただし、細胞外領域にLAMP−1モチーフ(Lysosome−associated membrane glycoproteins duplicated domain signature;PROSITE Entry PS00310)を持ち、LAMP−1(J.B.C.,265巻,7419頁,1990年)との機能の類似性が想像される(図3)。
【0064】
実施例7 Hs.22920分子の膜局在性の確認
Hs.22920分子の膜局在性を実験的に証明するため、Hs.22920のC末にEGFP蛋白(BD Biosciences社)を融合させた分子をBALB3T3細胞(マウス胎児由来細胞株)で発現させ、共焦点顕微鏡による観察を行った。Hs.22920のC末直下にEGFP蛋白を結合させた融合蛋白(配列番号4;Hs.22920−EGFPと称する)をコードするcDNAをレトロウイルスベクター;pMXs−IG(Ex.Hematol.,24巻,324頁,1996年)に組み込み、北村らの方法(Gene Ther.,7巻,1063頁,2000年)に従ってウイルス粒子を作成し、BALB3T3細胞に感染導入した。その結果、共焦点顕微鏡(LSM510;ZEISS社製)による観察により、膜局在性が確認された(図4)。
【0065】
実施例8 抗Hs.22920モノクローナル抗体の作成
Hs.22920のcDNAをレトロウイルスベクター;pMXs−IGを用いてBALB3T3細胞、L929細胞(マウス線維芽組織由来細胞株)、c−WRT−7−LR細胞(ラット骨髄単球性白血病由来細胞株)、Y3−Ag1.2.3細胞(ラット多発性骨髄腫由来細胞株)、3Y1細胞(ラット繊維芽細胞由来細胞株)にそれぞれ感染導入した。作成したHs.22920発現細胞は、BALB/cマウス或いはSDラットに免疫し、モノクローナル抗体を作成した。106〜107個の発現細胞をマウス或いはラットの腹腔及び皮下に2〜5週間隔で計3回免疫した後、岩崎らの方法(単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA,岩崎辰夫著, 講談社,1983年刊)に従ってハイブリドーマを作成した。ハイブリドーマの上清に産生された抗体のHs.22920発現細胞及びPDC(健常人末梢血由来抗BDCA2抗体(Miltenyi Biotec社製)陽性細胞)に対する結合性をFACScaliburTM(Becton Dickinson社製)にて解析することにより、抗Hs.22920モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを9個取得した(#126A1はマウス抗体、その他はラット抗体;図5)。
【0066】
上記ハイブリドーマはCELLineTM System(BD Bioscience社製)を用いて大量培養し、Protein G Sepharose 4 Fast Flow(GE Healthcare社製)を用いたアフィニティー精製及びSuperose 6(GE Healthcare社製)を用いたゲルろ過精製によってモノクローナル抗体を精製した。さらに、一部をBiotin−AC5−OSu(同仁化学社製)を用いてビオチン化した。ビオチン化抗体と未修飾抗体のHs.22920発現細胞に対する競合性をFACScaliburTMにて解析することにより、上記モノクローナル抗体は認識するエピトープにより大よそ3つのグループに分けられた(図6)。
【0067】
実施例9 フローサイトメーターによるHs.22920のPDC特異的発現の確認
実施例8で取得した抗Hs.22920モノクローナル抗体と各リンパ球マーカーを用い、実施例1と同様に調製した健常人由来末梢血単核細胞をFACScaliburTM(Becton Dickinson社製)にて解析した。抗体としては、Hs.22920:#126A1、#9.10(取得した抗体の中で、比較的結合性が強く、エピトープの異なる2クローンを選択)、T細胞:抗CD3抗体(Becton Dickinson社製)、B細胞: 抗CD19(Becton Dickinson社製)、NK細胞:抗CD56(Becton Dickinson社製)、単球:抗CD14(Becton Dickinson社製)、PDC:抗BDCA2(Miltenyi Biotec社製)、をそれぞれ用いた。その結果、PDC、すなわちBDCA2陽性画分のみに抗Hs.22920モノクローナル抗体が結合することが確認され(図7)、Hs.22920分子の蛋白レベルでのPDC特異性が証明された。
【0068】
実施例10 ADCC活性増強キメラ抗体の作成
PDC除去によるSLE治療に用いる抗体医薬の一例として、マウス抗Hs.22920抗体;#126A1のFc領域をアミノ酸の変異を加えたヒトIgG1(Lazarら,国際特許出願WO2004099249−A2)のそれに交換し、フコース転換酵素を欠損するCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来細胞株)で抗体遺伝子を発現させることによって糖鎖からフコースを除き(Kandaら,米国特許6946292)、ADCC活性を増強したキメラ抗体を作製した。まず、#126A1のハイブリドーマから実施例1及び2と同様にRNA抽出・cDNA合成を行い、マウスIgG1の重鎖及びκ軽鎖の定常領域にそれぞれ特異的なプライマー(重鎖:配列番号5;5’−ATTTTGTCGACCKYGGTSYTGCTGGCYGGGTG−3’,軽鎖:配列番号6;5’−TTGAAGCTCTTGACAATGGGTGAAGTTGAT−3’)とSMARTTM PCR cDNA Synthesis Kit(Clontech社製)付属プライマー;5’PCR Primer IIA(配列番号7;5’−AAGCAGTGGTATCAACGCAGAGT−3’)を用いたPCR反応によって可変領域を増幅し、クローニング用ベクター;pCR(登録商標)4BluntTOPO(Invitrogen社製)にクローニングした。#126A1の重鎖可変領域は配列番号8、軽鎖可変領域は配列番号9のアミノ酸配列を有していた。#126A1の重鎖の可変領域は3つのアミノ酸変異を加えてFcレセプターとの結合性を高めたヒトIgG1の重鎖の定常領域(Lazarら,国際特許出願WO2004099249−A2)と、軽鎖はヒトκ軽鎖の定常領域と結合させ、更にそれぞれIRES(internal ribosome entry site)配列(Trends Biochem.Sci.,15巻,477頁,1990年)を介してブレオマイシン耐性遺伝子(BD Biosciences社製)及びEGFP遺伝子(BD Biosciences社製)と共にバイシストロン性転写産物として発現させるべく、発現ベクター;N5hKG1X−126A1(図8)を構築した。N5hKG1X−126A1はキメラ重鎖(配列番号10)と、キメラ軽鎖(配列番号11)をCMV(Cytomegalovirus)プロモーター下に発現する。N5hKG1X−126A1は、α1,6フコース転換酵素欠損CHO株(塚原ら,日本動物細胞工学会2004年度大会発表)に形質転換試薬;Lipofectamin2000(Invitrogen社製)を用いて導入し、ブレオマイシン耐性及びEGFP発現を指標に形質転換体を選択した。ADCC活性増強キメラ抗体発現CHO株は無血清培地;EX−CELLTM 325 PF CHO(SAFC Biosciences社製)にて培養し、その培養液120mlから実施例8と同様に抗体を精製し、約4mgのADCC活性増強キメラ抗体を得た。
【0069】
実施例11 抗Hs.22920モノクローナル抗体のPDCに対するADCC活性
実施例10で作製したADCC活性増強キメラ抗体を用いて、末梢血由来PDCに対するADCC活性を、尾崎らの方法(Blood,90巻,3179頁,1997年)に従い、51Cr release assay法により測定した。標的細胞とするPDCは、実施例1と同様に健常人由来末梢血から調製し、CHROMIUM−51(PerkinElmer社製)を用いて標識した。ADCC活性測定に用いるエフェクター細胞としては、同一ドナーの末梢血単核細胞からCD56 MicroBeads Kit(Miltenyi Biotec社製)を用いて調製したNK細胞を用いた。その結果、PDCに対する強力なADCC活性が認められた(図9)。
【0070】
実施例12 マウスPDC特異的抗体の取得
NZB/NZW F1(BWF1)マウス(J.Exp.Med.,127巻,507頁,1968年)は、最も一般的なSLEモデルの1つである。加齢に伴ってヒトSLE様ループス腎炎を自然発症し、生後1年以内に95%以上が腎障害により死亡する。さらに、抗核抗体を始めとする種々の自己抗体の産生やI型インターフェロンの関与(J.Immunol.,174巻,2499頁,2005年)など、ヒトSLEと類似した特徴をもつ。そこで、このBWF1マウスを、PDC除去のSLE治療効果を証明するためのモデルとして選択した。まず、このBWF1マウスの各細胞・組織について、実施例1〜3と同様のGeneChip(登録商標)解析を実施し、BWF1マウスのPDC特異的に発現する膜分子として、CD209d抗原(UniGene ID:Mm.111026)を同定した(図10)。次に、実施例8と同様にレトロウイルスベクターを用いてCD209d発現細胞を作製し、SDラットに免疫を行って、抗CD209dモノクローナル抗体#25−11を得た。#25−11はPDCに特異的に結合し(図11)、500μgの該抗体をBWF1マウスに静脈投与後24時間で脾臓中のPDCの数が半減することを確認した。
【0071】
実施例13 マウスPDC特異的抗体のBWF1マウス治療効果
実施例12で得たモノクローナル抗体#25−11を、20週齢のメスに対し、一匹当たり500μg、週2回の頻度で、腹腔内投与した。38週齢の時点で、コントロール群(PBS投与群)に対し、#25−11投与群は有意に生存率が高かった(図12)。この結果から、抗PDC抗体によるPDC除去が一定のSLE治療効果を持つことが証明され、抗Hs.22920抗体のヒトSLEに対する同様な治療効果が予想される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、PDCが関与する自己免疫疾患、アレルギー、腫瘍などの疾患の治療、診断などのために利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】この図は、Hs.22920遺伝子の各細胞・組織におけるGeneChip(登録商標)解析結果を示す。
【図2】この図は、Hs.22920遺伝子の各細胞・組織におけるReal−time PCR解析結果を示す。
【図3】この図は、Hs.22920分子の構造的特徴を示す。
【図4】この図は、Hs.22920−EGFPを発現させたBALB3T3細胞の共焦点顕微鏡による解析結果を示す。Aは蛍光観察結果を示し、BはDIC観察結果を示し、Cは蛍光図とDIC図を重ね合わせた結果を示す。
【図5】この図は、抗Hs.22920モノクローナル抗体のHs.22920発現L929細胞及びヒト末梢血由来PDCに対する結合性をフローサイトメーターにて解析した結果を示す。
【図6】この図は、抗Hs.22920モノクローナル抗体の競合実験の結果を示す。この結果から、同じエピトープを認識すると考えられるクローン群は、(1)#6.12,#7.7,#9.10,#9.69;(2)#7.59,#7.81,#8.58,#126A1;(3)#15.57である。
【図7】この図は、抗Hs.22920モノクローナル抗体を用いたPDC及び主要リンパ球のフローサイトメーター解析結果を示す。
【図8】この図は、発現ベクター;N5hKG1X−126A1のマップを示す。
【図9】この図は、抗Hs.22920キメラ抗体のPDCに対するADCC活性測定結果を示す。
【図10】この図は、CD209d遺伝子のBWF1マウスの各細胞・組織におけるGeneChip(登録商標)解析結果を示す。
【図11】この図は、抗CD209dモノクローナル抗体を用いたBWF1マウス由来PDC及び主要リンパ球のフローサイトメーター解析結果を示す。
【図12】この図は、抗CD209dモノクローナル抗体のBWF1マウス投与実験の結果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を有効成分として含有する、形質細胞様樹状細胞が関与する疾患の治療剤または診断剤。
【請求項2】
形質細胞様樹状細胞が関与する疾患が全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、乾癬、I型糖尿病等の自己免疫性疾患、アレルギー性鼻炎等の炎症性疾患または腫瘍から選択される、請求項1に記載の治療剤または診断剤。
【請求項3】
上記抗体またはその断片がヒト形質細胞様樹状細胞膜分子の細胞外領域を認識することを特徴とする、請求項1または2に記載の治療剤または診断剤。
【請求項4】
上記抗体またはその断片がヒト抗体、ヒト化抗体、またはその断片である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の治療剤または診断剤。
【請求項5】
上記抗体またはその断片がポリクローナル抗体、ペプチド抗体、モノクローナル抗体またはその断片である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の治療剤または診断剤。
【請求項6】
上記断片がF(ab’)2である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の治療剤または診断剤。
【請求項7】
上記抗体またはその断片が形質細胞様樹状細胞に対して抗体依存的細胞性細胞傷害(ADCC)活性または補体依存性細胞傷害(CDC)活性を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の治療剤または診断剤。
【請求項8】
上記抗体またはその断片にアミノ酸あるいは糖鎖構造上の改変を加え、形質細胞様樹状細胞に対する抗体依存的細胞性細胞傷害(ADCC)活性を増強した、請求項1〜7のいずれか1項に記載の治療剤または診断剤。
【請求項9】
上記抗体またはその断片が、それに細胞毒性物質あるいは放射性核種を付加することによって形質細胞様樹状細胞に対して細胞傷害活性を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の治療剤または診断剤。
【請求項10】
配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を用いて、ヒトまたは他の動物由来の形質細胞様樹状細胞を検出する方法。
【請求項11】
上記抗体またはその断片が標識されている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を用いて、ヒトまたは他の動物由来の生体試料中に含まれる形質細胞様樹状細胞をin vitroで分離、除去する方法。
【請求項13】
配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を有効成分として含有する、形質細胞様樹状細胞除去剤。
【請求項14】
上記抗体またはその断片が担体に固定化されている、請求項13に記載の形質細胞様樹状細胞除去剤。
【請求項1】
配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を有効成分として含有する、形質細胞様樹状細胞が関与する疾患の治療剤または診断剤。
【請求項2】
形質細胞様樹状細胞が関与する疾患が全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、乾癬、I型糖尿病等の自己免疫性疾患、アレルギー性鼻炎等の炎症性疾患または腫瘍から選択される、請求項1に記載の治療剤または診断剤。
【請求項3】
上記抗体またはその断片がヒト形質細胞様樹状細胞膜分子の細胞外領域を認識することを特徴とする、請求項1または2に記載の治療剤または診断剤。
【請求項4】
上記抗体またはその断片がヒト抗体、ヒト化抗体、またはその断片である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の治療剤または診断剤。
【請求項5】
上記抗体またはその断片がポリクローナル抗体、ペプチド抗体、モノクローナル抗体またはその断片である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の治療剤または診断剤。
【請求項6】
上記断片がF(ab’)2である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の治療剤または診断剤。
【請求項7】
上記抗体またはその断片が形質細胞様樹状細胞に対して抗体依存的細胞性細胞傷害(ADCC)活性または補体依存性細胞傷害(CDC)活性を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の治療剤または診断剤。
【請求項8】
上記抗体またはその断片にアミノ酸あるいは糖鎖構造上の改変を加え、形質細胞様樹状細胞に対する抗体依存的細胞性細胞傷害(ADCC)活性を増強した、請求項1〜7のいずれか1項に記載の治療剤または診断剤。
【請求項9】
上記抗体またはその断片が、それに細胞毒性物質あるいは放射性核種を付加することによって形質細胞様樹状細胞に対して細胞傷害活性を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の治療剤または診断剤。
【請求項10】
配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を用いて、ヒトまたは他の動物由来の形質細胞様樹状細胞を検出する方法。
【請求項11】
上記抗体またはその断片が標識されている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を用いて、ヒトまたは他の動物由来の生体試料中に含まれる形質細胞様樹状細胞をin vitroで分離、除去する方法。
【請求項13】
配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒト形質細胞様樹状細胞膜分子もしくはその変異体またはそれらの断片と特異的に免疫結合する抗体あるいはその断片を有効成分として含有する、形質細胞様樹状細胞除去剤。
【請求項14】
上記抗体またはその断片が担体に固定化されている、請求項13に記載の形質細胞様樹状細胞除去剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−162954(P2008−162954A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355274(P2006−355274)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(307023122)キリンファーマ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(307023122)キリンファーマ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
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