説明

微生物集団の細胞密度に影響を及ぼすクオラムセンシングの破壊方法

本発明は、微生物の発酵能力を利用する目的上の微生物のクオラムセンシング機構の調節に関する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
いくつかの属の細菌は、特定遺伝子の発現を調整するために細胞密度依存性の様式で相互に連絡することが示されている。この細菌の連絡はクオラムセンシングと呼ばれ、そして、それは、細菌が自己誘導物質と呼ばれる拡散可能なシグナル伝達分子のレベルに応答して遺伝子発現を制御することを可能にする。クオラムセンシング系は、溶液中のその濃度が何らかの閾値レベルに達する場合に特定の一組の遺伝子の発現を誘発する自己誘導物質分子の構成的低レベル発現に頼る。この閾値は、自己誘発物質の分解および拡散的希釈の複合速度がその産生速度より小さいような限局された領域に十分な数(「クオラム」)の細菌が存在する場合に達成される(例えば特許文献1(そっくりそのまま本明細書に引用することによりここに組み込まれる)を参照されたい)。一般に、シグナル伝達分子が受容体タンパク質に結合し、それがその後遺伝子発現を活性化する。クオラムセンシングにより調節されることが記述されている過程は、病原性、生物発光、バイオフィルム形成、スウォーミング、胞子形成、プラスミドの接合伝達および応答能の発生を包含する(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。
【0002】
細菌は産生される自己誘導物質の型が異なる。グラム陰性細菌は典型的にアシルホモセリンラクトン(AHL)を産生し、そしてグラム陽性細菌は典型的にペプチドを産生するようであるが、しかしこれらのグループ分け内にもまた差違が存在する。例えば、所定の一グラム陰性細菌は、N−(3−オキソヘキサノイル)−L−ホモセリンラクトン(OHHL)、N−(3−オキソドデカノイル)−L−ホモ−セリンラクトン(OdDHL)、N−ブタノイル−L−ホモセリンラクトン(BHL)およびN−ヘキサノイル−L−ホモセリンラクトン(HHL)を包含する1種若しくは複数のアシルラクトン(ACL)を産生しうる。アシル鎖中のこれらの差違は自己誘導物質の生物学的特性に影響を及ぼし、そして特定の細菌遺伝子型若しくは群に対する特異性、相互作用するAHLに基づく遺伝子制御、ならびに細菌遺伝子型間の自己誘導物質のクロストークおよび干渉を見込む(非特許文献4)。
【0003】
3つの主要な型のクオラムセンシング系すなわち1型、2型およびペプチドに基づくがこれまで細菌で記述されている。1型クオラムセンシングはこれまでグラム陰性微生物中でのみ示されており、そしてシグナル伝達分子としてアシルホモセリンラクトンを利用する。2型はグラム陽性およびグラム陰性双方の微生物で示され、そしてシグナル伝達分子として4−ヒドロキシ−5−メチル−2H−フラン−3−オン若しくは4,5−ジヒドロキシ−2−シクロペンテン−1−オンを利用すると考えられている。ペプチドに基づくクオラムセンシング系はグラム陽性微生物でのみ示されており、そして遺伝子活性化のため小ペプチドに頼る。加えて、他の化学シグナルがクオラムセンシングに使用されることが示されており;これらはストレプトミセス属(Streptomyces)スピーシーズにおけるγブチロラクトンおよび緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)における2−ヘプチル−3−ヒドロキシ−4−キノロンを包含する。
【0004】
1型クオラムセンシングはシグナル伝達分子としてアシルホモセリンラクトン(AHL)を利用する。AHL化学シグナルはペプチド結合によってアシル鎖に結合されたラクトン環よりなる。アシル鎖長および修飾は微生物の種若しくは調節される過程とともに変動する。数種のAHLはアシル鎖の3位にカルボニル若しくはヒドロキシル基を含有する(例えば3−オキソ−ヘキサノイルホモセリンラクトンおよび3−ヒドロキシ−ブタノイルホモセリンラクトン)。最も良く特徴付けられた1型クオラムセンシング系はビブリオ フィシェリ(Vibrio fischeri)のluxI/luxR系である(非特許文献5)。それは2種の遺伝子luxIおよびluxRよりなる。luxIおよびlux
Rの発現は自己誘導物質の産生および検出の原因である。luxIタンパク質は自己誘導物質3−オキソ−ヘキサノイルホモセリンラクトン(OHHL)の合成を触媒する。細胞密度が増大する際に自己誘導物質が蓄積し、そして閾値レベルが達せられる場合にOHHLシグナルがluxRタンパク質と相互作用する。luxR/OHHL複合体がluxボックスでDNAに結合して生物発光遺伝子の転写をもたらす。
【0005】
1型クオラムセンシングを表す他の微生物はluxIおよびluxRのアナログを有し、そして、その後の研究は、多数の他の微生物過程に関与する遺伝子を調節する多くの他の細菌におけるluxIおよびluxRに相同な遺伝子の存在を示した。自己誘導物質依存性の転写活性化タンパク質のLuxRファミリーに相同なタンパク質が多彩な異なる細菌種にわたって見出されている。2種の十分に特徴付けられた例は、ビブリオ フィシェリ(Vibrio fischeri)からの原型LuxRタンパク質およびアグロバクター ツメファシエンス(Agrobacter tumefaciens)のTraRタンパク質を包含し、特定の細胞外AHLシグナル伝達分子の濃度に応答してそれぞれ光産生若しくは接合プラスミド伝達に必要とされる遺伝子の発現を調節する。
【0006】
特許文献2は、2型クオラムセンシングのその記述のためそっくりそのまま本明細書に組み込まれる。2型自己誘導物質の生合成は、メチオニンからS−アデノメチオニンを経由しS−アデノシルホモシステインからS−リボシルホモシステインから4−ヒドロキシ−5−メチル−2H−フラン−3−オン若しくは4,5−ジヒドロキシ−2−シクロペンテン−1−オンへの前進的段階により進行すると考えられている。該合成に関与する酵素は、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ、メチルトランスフェラーゼ、ヌクレオシダーゼ、および4−ヒドロキシ−5−メチル−2H−フラン−3−オン若しくは4,5−ジヒドロキシ−2−シクロペンテン−1−オンをその前駆体から合成するluxSタンパク質若しくはそのアナログを包含すると考えられている。ビブリオ ハルベリ(Vibrio harveyi)において、2型自己誘導物質の受容体はluxPおよびluxPQである。自己誘導物質濃度が閾値レベルに達する場合、自己誘導物質は該受容体と相互作用し、そしてluxOが脱リン酸化(かつ不活性化)され、それによりリプレッサーの活性化を予防しかつluxRにluxCDABE遺伝子の転写を活性化させる。
【0007】
多くのグラム陽性細菌は自己誘導物質として分泌型ペプチドを使用する。一般に、ペプチドに基づくクオラムセンシング系において、該ペプチドはATP結合カセット(ABC)輸送体により分泌される。自己誘導物質の濃度は細胞密度とともに増大し、そして閾値レベルで2種の成分センサーキナーゼが自己誘導物質を検出する。同族の応答制御因子タンパク質のリン酸化をもたらすリン酸化カスケードが開始される。該応答制御因子がかように活性化され、それがDNAを結合しかつクオラムセンシングで調節される遺伝子の転写に影響を及ぼすことを可能にする。
【0008】
酵素がAHLを分解し得ることが示されている。ラクトナーゼがオキソヘキサノイル、オキソデカノイルおよびオキソオクタノイル−ホモセリンラクトンを不活性化することが示されている(非特許文献6;非特許文献7)。数種の細菌を包含するある種の生物体は、2種の異なる反応機序によりAHLシグナル化合物を分解する2つの型の酵素を産生することが知られている。AHLラクトナーゼ酵素は、ラクトン結合を加水分解してアシル−ホモセリンを産生することによりAHL分子を分解し、また、AHLアシラーゼはAHL分子のアミド結合を切断してアシルおよびホモセリンラクトン部分を分離する。例えば、バシルス セレウス(Bacillus cereus)およびアグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)はそれぞれAHLラクトナーゼ酵素AiiAおよびAttMを産生し、ならびにラルストニア属(Ralstonia)および緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)はそれぞれAHLアシラーゼAiiDおよびPvdQを産生する。同様に、バリオボラック
ス パラドキサス(Variovorax paradoxus)のある株は増殖のため数種のアシルホモセリンラクトンを利用し得ることが示され;該環が酵素的に切断されてアシル鎖およびラクトン環がそれぞれエネルギーおよび窒素の供給源として使用されることを可能にすると考えられている(非特許文献8)。
【0009】
微生物は多彩な醗酵生成物を産生する。これらの生成物は、乳酸、酢酸、コハク酸および酪酸のような有機酸、ならびにエタノール、ブタノール、アセトンおよびブタンジオールのような中性の生成物を包含する。事実、細菌からの発酵生成物の多様性は分類学における主決定子としてのそれらの使用に至った。例えば非特許文献9を参照されたい。接着若しくは懸濁およびバッチ若しくは連続を包含する多様な醗酵培養法によるこれらの醗酵生成物の微生物産生は、乳製品、精肉、飲料および燃料の生産を包含するバイオテクノロジーの多くの経済的に成功裏の応用の基礎を形成する。近年、研究者が数種の微生物の遺伝子構成を選択的に改変することを可能にする新たな技術の結果としてバイオテクノロジーの分野で多くの進歩がなされた。
【0010】
Z.モビリス(Z.mobilis)は酸化的リン酸化の機能的系を欠く強制醗酵(obligatively fermentative)細菌である。酵母、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のように、Z.モビリス(Z.mobilis)は主醗酵生成物としてエタノールおよび二酸化炭素を産生する。Z.モビリス(Z.mobilis)は、2種の酵素活性すなわちピルビン酸脱炭酸酵素およびアルコール脱水素酵素のみを必要とする短い経路によりエタノールを産生する。ピルビン酸脱炭酸酵素はピルビン酸の流れをエタノールにそらすこの経路の重要な酵素である。ピルビン酸脱炭酸酵素はピルビン酸の非酸化的脱炭酸を触媒してアセトアルデヒドおよび二酸化炭素を産生する。2種のアルコール脱水素酵素イソ酵素がこの生物体に存在し、そしてNADHのNAD+への参加により付随される醗酵の間のアセトアルデヒドのエタノールへの還元を触媒する。細菌のアルコール脱水素酵素は多くの生物体に共通であるとは言え、ピルビン酸脱炭酸酵素を有する細菌はほとんどない。エタノール産生体としてのその商業的有用性を高めるためZ.モビリス(Z.mobilis)を改変するための試みは非常に制限された成功に遭っている。
【0011】
例えばエタノール若しくは乳酸の産生のための微生物への糖化する特質の付加のための遺伝子工学のアプローチは、高酵素レベルの培地への分泌に向けられている。すなわち、当該技術は、それらの酵素がその後多糖基質に作用して単糖およびオリゴ糖を生じ得る醗酵培地中に細胞で産生された酵素を輸送するための必須のタンパク質を既に有する微生物を改変することもまた扱ってきた。このアプローチは、こうしたタンパク質を輸送する必須の能力を欠く生物体の成功裏の改変における困難を当該技術が認識していたためにとられた。
【0012】
Z.モビリス(Z.mobilis)のアルコール脱水素酵素IIおよびピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子は別個にクローン化され、特徴付けられ、そして大腸菌(E.coli)で発現された。非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15を参照されたい。
【0013】
非特許文献10は、エタノール産生がZ.モビリス(Z.mobilis)のピルビン酸脱炭酸酵素の過剰発現により組換え大腸菌(E.coli)で増大され得たとは言え非常に低いエタノール濃度が生じたことを最初に示した。その後の研究は、2種の他の腸内細菌、黒脚病菌(Erwinia chrysanthemi)およびクレブシエラ プランチコラ(Klebsiella planticola)を使用することによりこの研究を拡大し、そしてそれにより六単糖、五単糖および糖混合物からより高レベルのエタノールを達成した。非特許文献16を参照されたい。ザイモモナス モビリス(Zymo
monas mobilis)からのピルビン酸脱炭酸酵素(pdc)およびアルコール脱水素酵素II(adhB)をコードする遺伝子がグラム陰性細菌で高レベルで発現され、主産物としてエタノールを産生することに醗酵性代謝を効果的に向け直した(非特許文献17;非特許文献14;非特許文献18)。
【0014】
エタノールを包含する醗酵生成物の高収量産生を見込むのに十分な密度まで増殖することが可能な適する微生物が長年探求されていた。クオラムセンシングは集団の細胞密度の制限に関与しうる。制限される細胞密度を維持するこうした機構が、数種の細菌の増大された密度の培養物を樹立することを試みた者により経験される困難に寄与しうる。集団の細胞密度若しくは容量生産性(volumetric productivity)の増大により産生収量を増大し得る応用において、微生物集団のクオラムセンシング系の破壊は収量の増大につながるはずである。本発明はこの問題を取り扱いかつ解決する。
【0015】
数種の微生物がそれらの細胞分裂を制御するためにクオラムセンシングを利用することが既知であり、そして従って多くの微生物はクオラムセンシングにより実験室で培養不可能であった。従って、微生物が以前は「培養されなかった」サンプルから潜在的な新規遺伝子および微生物を明らかにする方法を同定および発見することの長年にわたる切実な必要性が存在する。本発明はこの必要性を満たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許出願公開第20040038374号明細書
【特許文献2】国際特許出願第WO 01/85664号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】KellerとSurette、2006、Nat.Rev.Microbiol.、4:249−258
【非特許文献2】Milton、2006、Int.J.Med.Microbiol.、296:61−71
【非特許文献3】WaltersとSperandio、2006、Int.J.Med.Microbiol.、296:125−31
【非特許文献4】Swiftら、1996、Trends Microbiol.、4:463−465
【非特許文献5】KaplanとGreenberg、1985、J.Bacteriol.、163:1210−1214
【非特許文献6】Dongら、2000、PNAS、97:3526−331
【非特許文献7】Dongら、2001、Nature 411:813−817
【非特許文献8】LeadbetterとGreenberg、2000、J.Bacteriology、182:6921−6926
【非特許文献9】Bergery’s Manual of Systematic Bacteriology、Williams & Wilkins Co.、ボルチモア(1984)
【非特許文献10】BrauとSahm(1986a)Arch.Microbiol.144:296−301
【非特許文献11】BrauとSahm(1986b)Arch.Microbiol.146:105−110
【非特許文献12】Conwayら(1987a)J.Bacteriol.169:2591−2597
【非特許文献13】Nealeら(1987)Nucleic Acids Res.15:1752−1761
【非特許文献14】IngramとConway[1988]Appl.Environ.Microbiol.54:397−404
【非特許文献15】Ingramら(1987)Appl.Environ.Microbiol.53:2420−2425
【非特許文献16】TolanとFinn(1987)Appl.Environ.Microbiol.53:2033−2038、2039−2044
【非特許文献17】Beallら、1993
【非特許文献18】WoodとIngram、1992
【発明の概要】
【0018】
[発明の要約]
本発明は最低1種の遺伝子突然変異を含んでなる遺伝子的に改変された既知微生物を包含し、該突然変異は、突然変異を含まずかつ同一培養条件下で培養されるそれ以外は同一の微生物の細胞密度より高い細胞密度まで増殖する能力を該遺伝子的に改変された微生物に賦与する。好ましくは該突然変異は欠失変異体である。
【0019】
一態様において、遺伝子的に改変された既知微生物は、クオラムセンシングと関連する遺伝子の調節領域内に1突然変異を含んでなる。
【0020】
別の態様において、遺伝子的に改変された既知微生物はクオラムセンシングタンパク質をコードする核酸配列中に1突然変異を含んでなり;該突然変異は
a.クオラムセンシングタンパク質の産生;
b.クオラムセンシングタンパク質の半減期;
c.クオラムセンシングシグナルに対するクオラムセンシングタンパク質の応答;
d.クオラムセンシングタンパク質の活性;および
e.微生物中のクオラムセンシング経路との該クオラムセンシングタンパク質の相互作用の最低1つを調節する。
【0021】
なお別の態様において、遺伝子的に改変された既知微生物は、1型クオラムセンシング経路、2型クオラムセンシング経路およびペプチドに媒介されるクオラムセンシング経路よりなる群から選択される最低1経路のクオラムセンシングシグナル伝達に関与する最低1種のポリペプチドの産生および/若しくは活性を調節する突然変異を含んでなる。
【0022】
別の態様において、遺伝子的に改変された既知微生物は、1型クオラムセンシング経路、2型クオラムセンシング経路およびペプチドに媒介されるクオラムセンシング経路よりなる群から選択される最低1経路のクオラムセンシングシグナル伝達に関与するポリペプチドをコードする核酸の妨害をもたらす輸送可能な妨害体(interruptor)である突然変異を含んでなる。
【0023】
別の態様において、遺伝子的に改変された既知微生物はLuxR型タンパク質をコードする核酸配列中に1突然変異を含んでなり;該突然変異は
a.LuxR型タンパク質のDNAへの結合;
b.LuxR型タンパク質のアシルホモセリンラクトン(AHL)への結合;および
c.LuxR型タンパク質のタンパク質フォールディングスイッチ
条件
の最低1つを調節する。
【0024】
本発明はまた最低1種の遺伝的を含んでなる遺伝子的に改変された既知微生物も包含し、該突然変異は、該突然変異を含まないそれ以外は同一の微生物による醗酵生成物の容量生産性よりもより多い、該微生物により産生される同一醗酵生成物の容量生産性を達成す
る能力を該遺伝子的に改変された微生物に賦与する。
【0025】
本発明は、
a.遺伝子改変を微生物に導入すること;および
b.該遺伝子的に改変された微生物を培地中で増殖させ、
それにより、該改変された微生物が、該突然変異を含まずかつ同一培養条件下で培養されるそれ以外は同一の微生物の細胞密度より高い細胞密度まで増殖すること、
を含んでなる、既知微生物の集団の細胞密度の増大方法を包含する。
【0026】
本発明は、
a.遺伝子改変を微生物に導入すること;および
b.該改変された微生物を培地中で増殖させること、
を含んでなる、既知微生物の集団の容量生産性の増大方法を包含し、
該改変された微生物により産生される醗酵生成物に関する該微生物の容量生産性が、該突然変異を含まないそれ以外は同一の微生物による同一発酵生成物の容量生産性より大きい。
【0027】
本発明は、
a.ポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなる核酸ベクターを微生物に導入することであって、該ポリペプチドは最低1種のクオラムセンシング経路を調節する能力を有し;
b.該ポリペプチドを該微生物内で発現させること;および
c.該改変された微生物を培地中で増殖させ、
それにより、該改変された微生物が、該ポリペプチドを含まずかつ同一培養条件下で培養されるそれ以外は同一の微生物の細胞密度より高い細胞密度まで増殖すること、
を含んでなる、既知微生物の集団の細胞密度の増大方法を包含する。
【0028】
本発明は、
a.ポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなる核酸ベクターを微生物に導入することであって、該ポリペプチドは最低1種のクオラムセンシング経路を調節する能力を有し;
b.該ポリペプチドを該微生物内で発現させること;および
c.該改変された微生物を培地中で増殖させること
を含んでなる、既知微生物の集団の容量生産性の増大方法を包含し、
該改変された微生物により産生される醗酵生成物に関する該微生物の容量生産性が、該ポリペプチドを含まないそれ以外は同一の微生物による同一醗酵生成物の容量生産性より大きい。
【0029】
本発明は、
a.クオラムセンシングタンパク質をコードする核酸配列中に最低1個の突然変異を含んでなる遺伝子的に改変された既知微生物を提供することであって;該突然変異は
i.クオラムセンシングタンパク質の産生;
ii.クオラムセンシングタンパク質の半減期;
iii.クオラムセンシングシグナルに対するクオラムセンシングタンパク質の応答;
iv.クオラムセンシングタンパク質の活性;および
v.微生物におけるクオラムセンシング経路とのクオラムセンシングタンパク質の相互作用
の最低1つを調節し;および
b.該遺伝子的に改変された微生物を培地中で培養すること
を含んでなる醗酵生成物の製造方法を包含し;
該突然変異は、該突然変異を含まないそれ以外は同一の微生物による発酵生成物の容量生産性より大きい、該微生物により産生される同一醗酵生成物の容量生産性を達成する能力を該遺伝子的に改変された微生物に賦与する。
【0030】
本発明は、
a.ポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなる核酸ベクターを既知微生物に導入することであって、該ポリペプチドは最低1種のクオラムセンシング経路を調節する能力を有し;
b.該遺伝子的に改変された微生物を培地中で培養すること
を含んでなる醗酵生成物の製造方法を包含し;
該改変された微生物は、該ポリペプチドを含まないそれ以外は同一の微生物による発酵生成物の容量生産性より大きい、該微生物により産生される同一醗酵生成物の容量生産性を達成する能力を有する。
【0031】
本発明はクオラムセンシングと関連する遺伝子の同定方法を包含し、微生物細胞中での該遺伝子の突然変異は該細胞が増大された密度で増殖することを可能にする。該方法は
a.変異体核酸フラグメントのライブラリーを複数の細胞に導入すること;
b.増大された細胞増殖を表す細胞を選択すること;
c.増大された細胞増殖を表す細胞から変異された核酸配列を単離すること;
d.該変異された核酸を配列決定すること;
e.該変異された核酸配列の配列を解析し;
それによりクオラムセンシングと関連する遺伝子を同定すること
を含んでなる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[発明の詳細な記述]
数種の細菌はそれら自身の細胞密度を調節する化学シグナルを生じる。クオラムセンシングシグナル分子は、クオラムセンシングシグナル分子を産生する細菌の娘細胞の増殖を阻害してそれにより細胞集団を低密度で平衡状態にしうることが示唆された。比較的低い細胞密度を維持するこうした機構は、これらの細菌の純粋培養物を樹立するための試みにおいて微生物学者により経験される困難にもまた寄与しうる。クオラムセンシング系の1成分を破壊することによってのシグナルの除去、その産生を遮断すること若しくはシグナルの活性を阻害することは、細胞密度を増大させかつそれにより以前に増殖するのが困難であったか若しくは培養不可能でさえあった細胞の培養を見込みうる。
【0033】
本発明は既知微生物の1遺伝子を突然変異するための方法および組成物に関し、それにより、該遺伝子の突然変異は、培養される微生物の能力をその遺伝子が変異されていないそれ以外は同一の微生物eに比較して増大させる。いくつかの例において、変異されている遺伝子は細胞密度を制限するために不可欠である遺伝子(例えばクオラムセンシング系)である。従って、本発明は、細胞密度を制限することに関連する遺伝子をスクリーニングおよび同定すること、ならびにそうでなければ該微生物が全く増殖しないとみられるか若しくはより低い細胞密度まで増殖するとみられるより高密度で増殖する微生物の能力を高めるように該微生物のこうした遺伝子を変異することを包含する。
【0034】
本発明は、微生物集団の細胞密度を制限するクオラムセンシング系の破壊により微生物集団の細胞密度を増大させるための方法および組成物にもまた関する。「クオラムセンシングクエンチング」と一態様において本明細書で称される、本発明の既知微生物の1種若しくはそれ以上のクオラムセンシング系を調節することにより、醗酵生成物の増大された収量を得ることができる。1つのこうした産物はエタノールである。制限しない一例として、微生物の培養物から得られるエタノールの収量を本発明の方法により増大し得、該微
生物中の1種若しくはそれ以上のクオラムセンシング系が破壊されてそれにより該微生物が増殖し得る細胞密度を増大させる。
【0035】
定義
冠詞「ある(a)」および「ある(an)」は該冠詞の文法上の目的語の1若しくは1以上(すなわち最低1)を指すのに本明細書で使用する。例として「ある要素(an element)」は1要素若しくは1以上の要素を意味している。
【0036】
本明細書で使用されるところの「アシルホモセリンラクトン分解酵素」若しくは「AHL分解酵素」という句は、アシルホモセリンラクトンの修飾および/若しくは分解を触媒する酵素である。一局面において、AHL分解酵素はアシルホモセリンラクトンに1個若しくはそれ以上の原子を付加することにより該アシルホモセリンラクトンを分解する。別の局面において、AHL分解酵素はアシルホモセリンラクトン中の1個若しくはそれ以上の結合を切断することにより該アシルホモセリンラクトンを分解する。なお別の局面において、AHL分解酵素はアシルホモセリンラクトンから1個若しくはそれ以上の原子を除去することにより該アシルホモセリンラクトンを分解する。
【0037】
本明細書で使用されるところの「抗体」という用語は、抗原上の特定の1エピトープに特異的に結合することが可能である免疫グロブリン分子を指す。抗体は天然の供給源若しくは組換え供給源由来の無傷の免疫グロブリンであり得、および無傷の免疫グロブリンの免疫反応性部分であり得る。抗体は典型的には免疫グロブリン分子の四量体である。本発明の抗体は、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、FabおよびF(ab)、ならびに一本鎖抗体およびヒト化抗体を包含する多様な形態で存在しうる(Harlowら、1999、Using Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク;Harlowら、1989、Antibodies:A Laboratory Manual、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー;Houstonら、1988 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883;Birdら、1988、Science 242:423−426)。
【0038】
「増強する」という用語は何かの量若しくは質の増大を示すのに本明細書で使用する。いくつかの制限しない例として、ポリペプチドの産生は、細胞中で以前にポリペプチドが産生されなかった場合にいずれかの量のポリペプチドが産生される場合に「増強される」。ポリペプチドの産生は、細胞内に存在する測定可能なポリペプチドが以前に存在しなかった場合にいずれかの量のポリペプチドが産生される場合に「増強される」。ポリペプチドの産生は、細胞内に存在するポリペプチドのより低いレベルが以前に存在した場合に細胞中で増大された量のポリペプチドが産生される場合にもまた本発明により「増強される」。
【0039】
本明細書で使用されるところの「生化学的経路」という用語は、細胞中で天然に発生する結合された一連の生化学反応、若しくはより広範には細胞分裂若しくはDNA複製のような細胞事象を指す。典型的には、こうした生化学的経路中の段階は、特定の産物(1種若しくは複数)を産生するためまたは何らかの他の特定の生化学的作用を生じるために協調された様式で作用する。こうした生化学的経路は、遺伝子の発現生成物の非存在がその経路の1若しくはそれ以上の段階の完了を直接若しくは間接的にのいずれかで予防してそれによりその経路の1種若しくはそれ以上の正常の産物若しくは効果の産生を予防若しくは大きく低下させる場合に、その発現生成物を必要とする。
【0040】
「保存的置換」は類似の物理および化学特性をもつ別のアミノ酸での1アミノ酸の置換である。対照的に「非保存的置換」は異なる物理および化学特性をもつ別のアミノ酸での
1アミノ酸の置換である。
【0041】
本明細書で使用されるところの「遺伝子」および「組換え遺伝子」という用語は、1ポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含んでなる核酸分子を指す。
【0042】
本明細書で使用されるところの「遺伝子操作された」という用語は、微生物に外的若しくは内的シグナル伝達(例えばとりわけ環境的圧力、化学的圧力)によりその遺伝子構成を変えさせる、微生物の固有の遺伝物質の改変(例えば遺伝物質内の1若しくはそれ以上の核酸残基の欠失、付加若しくは突然変異の1種若しくはそれ以上)、微生物への外因性遺伝物質(例えばとりわけ安定なプラスミド、組込みプラスミド、裸の遺伝物質)の添加、またはこれら若しくは生物体の遺伝子構成全体を変えるための類似の技術のいかなる組合せも指す。
【0043】
本明細書で使用されるところの「相同性」は「同一性」と同義に使用する。
【0044】
2種のヌクレオチド若しくはアミノ酸配列間のパーセント同一性の決定は数学的アルゴリズムを使用して達成し得る。例えば、2配列を比較するのに有用な数学的アルゴリズムは、KarlinとAltschul(1993、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877)でのとおり改変されたKarlinとAltschul(1990、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−2268)のアルゴリズムである。このアルゴリズムはAltschulら(1990、J.Mol.Biol.215:403−410)のNBLASTおよびXBLASTプログラムに組み込まれ、そして、例えばURL「http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/」を有する国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI、National Center for Biotechnology Information)のワールドワイドウェブでアクセスし得る。BLASTヌクレオチド検索は、本明細書に記述される核酸に相同なヌクレオチド配列を得るため、以下のパラメータ、すなわちギャップペナルティ(gap penalty)=5;ギャップ伸長ペナルティ(gap extention penalty)=2;ミスマッチペナルティ(mismatch penalty)=3;マッチリウォード(match reward)=1;期待値(expectaion value)10.0;および語長(word size)=11を使用するNBLASTプログラム(NCBIウェブサイトで「blastn」と呼称される)を用いて実施し得る。BLASTタンパク質検索は、本明細書に記述されるタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得るため、以下のパラメータすなわち期待値(expectaion value)10.0、BLOSUM62スコアリングマトリックス(scoring matrix)を使用してXBLASTプログラム(NCBIウェブサイトで「blastn」と呼称される)若しくはNCBI「blastp」プログラムを用いて実施し得る。比較の目的上ギャップを付けたアライメントを得るため、Altschulら(1997、Nucleic Acids Res.25:3389−3402)に記述されるところのGapped BLASTを利用し得る。あるいは、PSI−Blast若しくはPHI−Blastを使用して、分子間の遠隔関係(distant relationship)(同上)および共通パターンを共有する分子間の関係を検出する反復検索を実施し得る。BLAST、Gapped BLAST、PSI−BlastおよびPHI−Blastプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトのパラメータを使用し得る。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/を参照されたい。2配列間のパーセント同一性は、ギャップを許容することを伴う若しくは伴わない上述されたものに類似の技術を使用して決定し得る。パーセント同一性の計算において、典型的には正確な適合を計数する。
【0045】
本明細書で使用されるところの「相同な」は、2種のポリマー分子間、例えば2核酸分子、例えば2DNA分子若しくは2RNA分子間、または2ポリペプチド分子間のサブユニット配列類似性を指す。該2分子の双方のある1サブユニット位置が同一単量体サブユニットにより占有される場合、例えば2DNA分子のそれぞれ中の1位置がアデニンにより占有される場合には、それらはその位置で相同である。各領域の最低1ヌクレオチド残基位置が同一残基により占有される場合、第一の領域は第二の領域に相同である。2領域間の相同性は、同一ヌクレオチド残基により占有される2領域のヌクレオチド残基位置の比率に関して表される。2配列間の相同性は適合する若しくは相同な位置の数の直接の関数であり、例えば、2化合物の配列の位置の半分(例えば長さ10サブユニットのポリマーの5位置)が相同である場合には該2配列は50%相同であり、位置の90%、例えば10のうち9が適合若しくは相同である場合、該2配列は90%の相同性を共有する。例として、DNA配列3’ATTGCC5’および3’TATGGCは50%相同性を共有する。
【0046】
「単離された核酸」は、天然に存在する状態でそれに隣接する配列から分離されている核酸セグメント若しくはフラグメント、例えば該フラグメントに通常隣接する配列、例えばそれが天然に存在するゲノム中で該フラグメントに隣接する配列から取り出されたDNAフラグメントを指す。該用語は、該核酸に天然に付随する他の成分、例えば細胞中でそれに天然に付随するRNA若しくはDNAまたはタンパク質から実質的に精製された核酸にもまた当てはまる。該用語は従って、例えばベクター、自律複製プラスミド若しくはウイルス、またはゲノムDNAに組込まれる、あるいは他の配列に独立に別個の分子として(例えばPCR若しくは制限酵素消化により製造されるcDNAまたはゲノム若しくはcDNAフラグメントとして)存在する組換えDNAを包含する。それは付加的なポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換えDNAもまた包含する。
【0047】
「ポリヌクレオチド」は一本鎖若しくは平行および反平行鎖核酸を意味している。従ってポリヌクレオチドは一本鎖若しくは二本鎖核酸のいずれでもありうる。
【0048】
「核酸」という用語は典型的に大型ポリヌクレオチドを指す。
【0049】
「オリゴヌクレオチド」という用語は、典型的には一般に約50ヌクレオチドを超えない短いポリヌクレオチドを指す。ヌクレオチド配列がDNA配列(すなわちA、T、G、C)により表される場合にこれは「U」が「T」を置き換えるRNA配列(すなわちA、U、G、C)もまた包含することが理解されるであろう。
【0050】
慣習的表記法がポリヌクレオチド配列を記述するために本明細書で使用される。すなわち、一本鎖ポリヌクレオチド配列の左側端が5’端であり;二本鎖ポリヌクレオチド配列の左側の方向を5’方向と称する。
【0051】
新生RNA転写物へのヌクレオチドの5’から3’の付加の方向を転写の方向と称する。mRNAと同一の配列を有するDNA鎖を「コーディング鎖」と称し;DNAの参照点に対し5’に位置するDNA鎖上の配列を「上流配列」と称し;DNAの参照点に対し3’であるDNA鎖上の配列を「下流配列」と称する。
【0052】
「コーディング」は、ヌクレオチド(すなわちrRNA、tRNAおよびmRNA)の規定された配列若しくはアミノ酸の規定された配列のいずれかならびにそれから生じる生物学的特性を有する、生物学的過程において他のポリマーおよび巨大分子の合成のための鋳型としてはたらく遺伝子、cDNA若しくはmRNAのようなポリヌクレオチド中のヌクレオチドの特定の配列の固有の特性を指す。従って、遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳が細胞若しくは他の生物学的系でタンパク質を産生する場合に
、タンパク質をコードする。コーディング鎖すなわちmRNA配列に同一でありかつ通常配列表に提供されるヌクレオチド配列、および遺伝子若しくはcDNAの転写の鋳型として使用される非コーディング鎖の双方を、その遺伝子若しくはcDNAのタンパク質若しくは他の産物をコードすると称し得る。
【0053】
別の方法で明記されない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、相互の縮重バージョンでありかつ同一アミノ酸配列をコードする全部のヌクレオチド配列を包含する。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチド配列はイントロンを包含しうる。
【0054】
本発明の情況において、普遍的に存在する核酸塩基の以下の略語を使用する。「A」はアデノシンを指し、「C」はシチジンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンを指し、そして「U」はウリジンを指す。
【0055】
「組換えポリヌクレオチド」は天然に一緒に結合されていない配列を有するポリヌクレオチドを指す。増幅若しくは集成された組換えポリヌクレオチドを適するベクターに包含することができ、そして該ベクターを使用して適する宿主細胞を形質転換し得る。組換えポリヌクレオチドは、非コーディング機能(例えばプロモーター、エンハンサー、複製起点、リボソーム結合部位など)を同様に供しうる。
【0056】
「組換えポリペプチド」は組換えポリヌクレオチドの発現に際して産生されるものである。
【0057】
本明細書で使用されるところの「プロモーター/制御配列」は、該プロモーター/制御配列に作動可能に連結されている遺伝子産物の発現に必要とされる核酸配列を意味している。いくつかの例において、この配列はコアプロモーター配列であることができ、また、他の例において、この配列は、エンハンサー配列、および遺伝子産物の発現に必要とされる他の調節エレメントもまた包含しうる。プロモーター/制御配列は、例えば遺伝子産物を条件特異的様式で発現するものでありうる。
【0058】
本明細書で使用されるところの「タンパク質フォールディングスイッチ」という用語は、コンホメーションの変化が物理、化学若しくは生物学的活性を調節するポリペプチド若しくはポリペプチドの一部分のコンホメーションの変化を指す。
【0059】
ポリペプチド(若しくはそれをコードするDNA)の「変異体」、「誘導体」および「バリアント」は、該ペプチド(若しくは該核酸)が野生型配列に同一でないがしかし野生型ポリペプチド(若しくは核酸)に対する相同性を有するような1若しくはそれ以上のアミノ酸(または1若しくはそれ以上のヌクレオチド)にて修飾され若しくは変えられうるポリペプチドである。
【0060】
ポリペプチド(若しくはそれをコードするDNA)の「突然変異」は、該ペプチド(若しくは核酸)が本明細書で列挙される配列に同一でないがしかし野生型ポリペプチド(若しくは核酸)に対する相同性を有するような1若しくはそれ以上のアミノ酸(または1若しくはそれ以上のヌクレオチド)の修飾若しくは変化である。
【0061】
本明細書で使用されるところの遺伝子の「変異体」は、天然に若しくは人工的にのいずれかで変えられて遺伝子の塩基配列を変え、コードされるポリペプチドのアミノ酸配列の変化をもたらす遺伝子である。塩基配列の変化は、1若しくはそれ以上の塩基の異なる塩基についての変化、小さな欠失および小さな挿入を包含する数種の異なる型のものでありうる。突然変異は、減弱された活性につながる、すなわち切断型タンパク質の発現をもた
らすことによるトランスポゾン挿入もまた包含しうる。対照的に、正常の形態の遺伝子は生物体の天然の集団で一般に見出される形態である。一般に単一の形態の遺伝子が天然の集団で優勢であることができる。一般に、こうした遺伝子は正常の形態の遺伝子として適するが;しかしながら、類似の機能的特徴を提供する他の形態もまた正常遺伝子として使用しうる。
【0062】
「ポリペプチド」は、アミノ酸残基から構成されるポリマー、関係する天然に存在する構造バリアント、およびペプチド結合を介して連結されたそれらの合成の天然に存在しないアナログ、関係する天然に存在する構造バリアント、ならびにそれらの合成の天然に存在しないアナログを指す。合成ポリペプチドは例えば自動ポリペプチド合成機を使用して合成し得る。
【0063】
「タンパク質」という用語は典型的に大型のポリペプチドを指す。
【0064】
「ペプチド」という用語は典型的に短いポリペプチドを指す。
【0065】
慣習的表記法をポリペプチド配列を描写するのに本明細書で使用する。すなわちポリペプチド配列の左側端がアミノ末端であり;ポリペプチド配列の右側端がカルボキシル末端である。
【0066】
ポリヌクレオチドの一「部分」はポリヌクレオチドの最低約20の連続するヌクレオチド残基を意味している。ポリヌクレオチドの一部分は該ポリヌクレオチドのすべてのヌクレオチド残基を包含しうることが理解される。
【0067】
それが微生物を指すところの「既知の」という用語は、本明細書に記述されるところのクオラムセンシングを変えるための遺伝子操作の前に同定された微生物、好ましくは細菌を意味している。こうした同定は、少なくとも、生物体の単離、および場合によっては述べられる遺伝子操作を実施し得るような該微生物の培養を包含する。
【0068】
本明細書で使用されるところの「調節する」という用語は現在の状態からのいかなる変化も指す。該変化は増大若しくは減少でありうる。例えば酵素の活性がその現在の状態から増大されるような酵素の活性が調節されうる。あるいは、酵素の活性がその現在の状態から低下されるような酵素の活性が調節されうる。
【0069】
該用語が本明細書で使用されるところの「集団」は2若しくはそれ以上の細胞を指す。
【0070】
本明細書で使用されるところの「クオラムセンシングクエンチング」という用語は、微生物の最低1種のクオラムセンシング経路の妨害、破壊若しくは阻害を指す。
【0071】
「ライブラリー」という用語は多様な起源および構造の複数のポリヌクレオチドを含んでなる複雑な組成物を呼称する。典型的には、ライブラリー内の数種のポリヌクレオチドは未知のポリヌクレオチド、すなわちその配列および/若しくは供給源および/若しくは活性が知られていない若しくは特徴付けられていないポリヌクレオチドのものである。こうした未知の(若しくは特徴付けられていない)ポリヌクレオチドに加え、ライブラリーは既知の配列若しくはポリヌクレオチドをさらに包含しうる。典型的には、ライブラリーは20種以上の異なるポリヌクレオチド、より好ましくは最低50、典型的には最低100、500若しくは1000を含んでなる。ライブラリーの複雑さは変動しうる。とりわけ、ライブラリーは多様な起源、供給源、大きさなどの5000、10 000若しくは100 000種以上のポリヌクレオチドを含有しうる。さらに、ポリヌクレオチドは一般にクローニングベクターにクローン化されて適する宿主細胞中でのそれらの維持および
増殖を可能にする。ライブラリーのポリヌクレオチドは混合物の形態にありうるか、または全部若しくは部分的に相互から分離されうる。ライブラリーの何らかの若しくは各ポリヌクレオチドが多様なコピー数で存在しうることが理解されるべきである。ライブラリーの型の例は、限定されるものでないが遺伝子破壊ライブラリー、若しくはそうでなければ変異体挿入ライブラリー、ゲノムライブラリー、cDNAスクリーニングライブラリーなどを挙げることができる。さらに、1つの型の遺伝子破壊ライブラリーは、限定されるものでないがシグネチャタグ化(signature−tagged)変異体ライブラリー、トランスポゾン挿入変異体ライブラリーなどを挙げることができる。核酸ライブラリーに加え、ポリペプチドの類似のライブラリーもまた企図している。
【0072】
トランスポゾン挿入部位のライブラリーに関して、該ライブラリーは配列情報の集合物であり、その情報は生化学的形態(例えばポリヌクレオチド分子の集合物として)または電子的形態(例えばコンピュータシステム中のようなおよび/若しくはコンピュータプログラムの一部としてコンピュータで読み出し可能な形態で記憶されたポリヌクレオチド配列の集合物として)いずれでも提供される。ポリヌクレオチドの配列情報は多様な方法で、例えば遺伝子発見すなわちクオラムセンシングと関連する遺伝子を同定および確認するため、または他の生化学的経路中の不可欠の若しくは重要なホモログを同定するための資源として使用し得る。ライブラリー中のポリヌクレオチド配列は、mRNA、ポリペプチド、若しくは該ポリヌクレオチドによりコードされる他の遺伝子産物を表すポリヌクレオチドであり得、そして従ってこうしたポリヌクレオチドライブラリーはライブラリーメンバーの配列に従って対応するRNA若しくはアミノ酸ライブラリーを定式化するのに使用し得る。該ライブラリーの生化学的態様は、該ライブラリー中に遺伝子若しくはトランスポゾン挿入部位の配列を有する核酸の集合物を包含し、該核酸はライブラリー中の遺伝子全体若しくはそのフラグメントに対応し得る。
【0073】
本明細書で互換性に使用されるところの「トランスポゾン」および「転位因子」という用語は特定の1宿主種のゲノムDNAに挿入し得かつそれからそれ自身を切断し得るDNAの一片を包含することを意図している。トランスポゾンは、挿入配列、および挿入機能に関係しない付加的な遺伝子配列(例えばレポーター遺伝子をコードする配列)を含有する可動性遺伝因子(MGE)を包含し得る。
【0074】
本明細書で使用されるところの「容量生産性」という用語は、特定の時間単位内に特定の単位容量で得られる特定の一産物の量を指す。制限しない一例として、細菌細胞培養物の容量生産性は、1分あたり培養物1ミリリットルあたりに産生される醗酵生成物の量について測定し得る。
【0075】
記述
I.遺伝子改変
本発明は、微生物の細胞密度を制限することに関与するタンパク質(例えばクオラムセンシングタンパク質)をコードする遺伝子中に最低1個の突然変異を含んでなる遺伝子的に改変された微生物を特徴とする。微生物は既知の微生物である。いくつかの例において、該突然変異は、クオラムセンシングタンパク質の産生、クオラムセンシングタンパク質の半減期、クオラムセンシングタンパク質の生物学的活性、クオラムセンシングシグナルに対するクオラムセンシングタンパク質の応答、および微生物中のクオラムセンシング経路とのクオラムセンシングタンパク質の相互作用の最低1つを調節する。いくつかの例において該突然変異は遺伝子の制御配列(例えばプロモーター配列)内にあり得るともかく、該突然変異は、該突然変異の非存在下で存在するよりも大きい、該微生物により産生される醗酵生成物の容量生産性を達成する能力を該遺伝子的に改変された微生物に賦与する。
【0076】
該突然変異はクオラムセンシングタンパク質を調節する遺伝子中にもまた存在し得る。本発明はクオラムセンシングタンパク質をコードする遺伝子中に最低1個の突然変異を含んでなる遺伝子的に改変された微生物を特徴とし、該突然変異は、クオラムセンシングタンパク質の産生、クオラムセンシングタンパク質の半減期、クオラムセンシングシグナルに対するクオラムセンシングタンパク質の応答、および微生物中のクオラムセンシング経路とのクオラムセンシングタンパク質の相互作用の最低1つを調節する。該突然変異は、該突然変異の非存在下で存在するよりも大きい、該微生物により産生される醗酵生成物の容量生産性を達成する能力を該遺伝子的に改変された微生物に賦与する。
【0077】
本発明は既知の微生物のクオラムセンシング経路の内因性制御の1要素に向けられるため、本発明は従来技術の方法と異なる。従来技術の方法はこうしたクオラムセンシング経路の外因性制御のみを開示する。例えば、Kuhnerらの米国特許出願公開第20040038374号明細書は、微生物のクオラムセンシング経路に影響を及ぼすための剤の外因性添加を開示する。こうした従来技術の方法は、微生物に進入するこうした剤の多様な能力、培地中での場合のこうした剤の利用可能性、および培地中のこうした剤の安定性を包含する制限および欠点を有する。
【0078】
本発明の別の局面において、該突然変異は、該突然変異の非存在下でよりも高い細胞密度まで増殖する能力を該遺伝子的に改変された微生物に賦与する。本明細書に示される開示に基づき、微生物培養物の容量生産性および細胞密度が、本明細書の別の場所に詳細に記述されるところのパラメータに基づいて関係しても若しくはしなくてもよいことが理解されるであろう。
【0079】
本発明は、1種若しくはそれ以上の機序(その最低1種は微生物中の内因性制御を必要とする)によるクオラムセンシングクエンチングのための方法および組成物を特徴とする。本明細書に示される開示に基づいて理解されるであろう通り、微生物中のいかなるクオラムセンシング経路も本発明の標的であり得る。制限しない一例として、AHLラクトナーゼおよびAHLアシラーゼ双方の酵素は、該細菌によりクオラムセンシングシグナル分子として認識されない生成物にAHL分子を分解する(Huang 2003、App Env Micro 69:5941−5949;Zhangら 2002 PNAS 99:4638−4643)。クローン化されたAHL分解酵素の異種発現は、従って内因性に産生されたAHLシグナル分子に対する細菌株の応答を変え得る(Linら 2003 Mol Microbiol 47:849−860)。
【0080】
NovickとMuir(1999、Current Op.in Micro.2:40−45)(その内容全体は引用することにより本明細書に組み込まれる)は、1細菌種の自己誘導物質が別のものの阻害剤としてどのように作用しうるかを記述する。これらのペプチドは本発明で阻害の剤として使用し得る。当業者が本発明で有用であると認識するであろう阻害剤を引用する多数の他の参考文献が存在する。ストレプトミセス属(Streptomyces)からのγ−ブチロラクトンおよび緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)からの2−ヘプチル−3−ヒドロキシ−4−キノロンのような他のクオラムセンシング自己誘導物質分子が記述されている。付加的なクオラムセンシング系が未だ記述されていないことがありそうである。
【0081】
A.ツメファシエンス(A.tumefaciens)からのTraRおよび大腸菌(Escherichia coli)からの別のLuxRファミリーメンバーSdiAのx線結晶学および核磁気共鳴(NMR)により解明された共結晶構造は、これら2種のタンパク質が共通の全体的2ドメイン構造を共有しかつそれらの同族のAHLリガンドを結合するために保存された機構を使用することを示した(Yaoら、2006、Mol.Biol.、13:262−73;Vanniniら、2002、Acta Crysta
llogr.D.Biol.Crystallogr.、58:1362−1364;Zhangら、2002、Nature、417:971−974)。これらの結果、およびLuxRファミリーの多くの付加的なメンバー間の観察されるタンパク質配列類似性に基づき、全LuxRタンパク質が、TraRおよびSdiAJの解明された共結晶構造により例示されるようにそれらの同族のAHLリガンドを結合するため関係する機構を共有することが予測された(Yaoら、2006、Mol.Biol.、13:262−73)。
【0082】
LuxR型タンパク質は2構造ドメインを含有する。N末端ドメイン(約160アミノ酸残基)はAHL結合を媒介し、そしてタンパク質二量体化にもまた参画する。C末端ドメイン(約60アミノ酸残基)は特定のDNA配列の結合および認識を媒介するヘリックス−ターン−ヘリックスDNA結合モチーフを含有する。TraRの共結晶構造はTraRのC末端ドメインとその同族のDNA結合部位の間の直接相互作用を示す(Vanniniら、2002、Acta Crystallogr.D.Biol.Crystallogr.、58:1362−1364;Zhangら、2002、Nature、417:971−974)。
【0083】
LuxR型タンパク質は、タンパク質フォールディング「スイッチ」として機能すると考えられるAHLリガンドへの結合に際してコンホメーション変化を受ける。該タンパク質は、該構造スイッチが適正なコンホメーション状態にある場合に適切なDNA配列を結合しかつその特定の調節された遺伝子の転写を刺激のみし得る(Yaoら、2006、Mol.Biol.、13:262−273)。
【0084】
グラム陰性細菌ザイモモナス モビリス(Zymomonas mobilis)を包含する数種の細菌は、AHLシグナル伝達分子との相互作用によりそれらの集団の細胞密度を検知するためにLuxR型タンパク質を使用すると考えられる。Z.モビリス(Z.mobilis)により産生されるLuxRホモログを同定すること、およびAHL分子に対する該微生物の応答を破壊するように該タンパク質を改変することは、これらの細菌の集団が別の方法でするであろうより高い細胞密度までそれらが増殖することを可能にするとみられる。
【0085】
従って、本発明の一局面において、AHL分解酵素の異種発現により、AHLシグナル分子の存在に対し応答しない若しくは変えられた応答を示す(例えばより少ない程度まで、若しくは異なるタイミングで)誘導体細菌株を創製し得る。制限しない一例として、細菌株がAHLシグナル分子に応答してその増殖を天然に制限する場合、AHL分解酵素の異種発現は、該細菌株がより高い細胞密度まで増殖することを可能にし得る。
【0086】
本発明の別の局面において、AHL分解酵素の発現が、培地への適切な誘導物質分子(例えば乳糖若しくはIPTG)の添加により調節され得る条件的プロモーター(例えば乳糖オペロンプロモーターおよび同族のLacIリプレッサータンパク質)の制御下にある場合、ならびにAHL分解酵素の発現は増殖培地に添加される誘導物質濃度の適切な選択により制御され得る。本態様は微調整され得る系、およびAHLシグナル分子に対する宿主株の応答がAHL分解酵素の差次的発現により調節されるものを提供する。例えば、多様な濃度の誘導物質の添加は、本発明により望ましいことができるとおり、該細菌が異なる最終細胞密度まで増殖することを可能にし得る。
【0087】
クオラムセンシング系の破壊は、微生物中のクオラムセンシング制御に影響を及ぼす最低1種の内因性経路の改変若しくは変化をもたらす外因性剤と微生物の集団を接触させることにより、微生物を遺伝子的に改変することにより、若しくは最低1種の外因性剤および最低1種の遺伝子改変の組合せを使用することにより達成し得る。クオラムセンシング
系の破壊は、例えば、自己誘導物質の安定性、自己誘導物質の有効性、自己誘導物質の産生、自己誘導物質受容体の安定性、自己誘導物質受容体の有効性、自己誘導物質受容体の産生、自己誘導物質受容体の結合、自己誘導物質受容体のシグナル伝達、および自己誘導物質シグナル伝達に対する応答性のレベルで達成し得る。付加的なクオラムセンシング系が未だ記述されていないことがありそうである。本明細書に記述される方法および組成物を使用して、当業者が、細胞密度の調節に影響を及ぼすように既知のおよびこれまで未知のクオラムセンシング系をクエンチすることが可能であるとみられる。
【0088】
剤および遺伝子改変のいずれかの組合せを使用してクオラムセンシング系を破壊し得る。制限しない一例として、1型自己誘導物質のための剤、2型自己誘導物質のための剤およびペプチド自己誘導物質のための剤をそれぞれ単独若しくは多様な組合せで使用しかつ未改変の生物体若しくは遺伝子的に改変された生物体いずれにも適用しうる。
【0089】
別の態様において、本発明は、LuxR型タンパク質をコードする遺伝子に対する最低1突然変異を含んでなる遺伝子的に改変された微生物を含んでなり、該突然変異は
a.LuxR型タンパク質のDNAへの結合;
b.LuxR型タンパク質のAHLへの結合;および
c.LuxR型タンパク質のタンパク質フォールディングスイッチ
の最低1つを調節し、
該突然変異は、該突然変異の非存在下よりも高い細胞密度まで増殖する能力を該遺伝子的に改変された微生物に賦与する。別の局面において、該突然変異は、該突然変異の非存在下に存在する微生物により産生される醗酵生成物のより高い容量生産性を達成する能力を該遺伝子的に改変された微生物に賦与する。
【0090】
他のLuxR型タンパク質は、限定されるものでないがA.ツメファシエンス(A.tumefaciens)からのTraRおよび大腸菌(E.coli)からのSdiAを挙げることができる。本明細書の別の場所に詳細に記述されるとおり、本発明は、本発明の組成物および方法で有用な他のタンパク質の同定方法を提供する。
【0091】
本明細書で定義されるところの容量生産性は、単位時間内に単位容量で得られる生成物の尺度である。従って、微生物細胞培養物(該微生物はLuxR型タンパク質をコードする遺伝子に対する最低1個の突然変異を含んでなる)の容量生産性は、単位時間あたり培養物の単位容量あたりに産生される醗酵生成物の量を確かめることにより決定し得る。遺伝子的に改変された微生物における増大された量の容量生産性(すなわち単位時間あたり単位容量あたりの醗酵生成物の増大された産生)は、該遺伝子改変が本発明の生物体の容量生産性を増大させるものであることの表示である。
【0092】
より高い細胞密度は、当該技術分野で公知の多くの方法のいずれか1つにより、または未だ発見されるべき方法で若しくはそれを用いて確かめ得る。微生物集団の密度の全部のこうした測定および/若しくは特徴付け方法は本発明により包含される。いくつかの制限しない例として、細胞集団の密度は、培養物の光学密度を測定することにより、細胞計数により、または培養物の伝導率若しくはpHのような参照パラメータの測定により確かめ得る。
【0093】
本発明の微生物培養物の増大された細胞密度は、選択された単位容量に関する特定の微生物の培養物の細胞密度の比較でもまたある。例えば、微生物細胞培養物は、該細胞培養物が単位容量あたりより多くの細胞を含有する場合に、本発明により製造されるより高密度であると言われ、より高い細胞密度を有すると言われる。制限しない一例として、1リットル培養物の細胞密度は1.5であり、本発明により製造されない場合の同一微生物の1リットル培養物の光学密度はわずか1.0であり、より大きい密度を有する細胞培養物
を代表する。当業者は、この比較および全体として本発明が多くの多様な微生物、培養条件、細胞密度および細胞密度の測定方法に当てはまることを理解するであろう。
【0094】
一般に、本発明はこの調節を実施するように微生物を操作することによるクオラムセンシングの調節方法を特徴とする。一局面において該調節は本明細書に記述されるところのクオラムセンシングクエンチングである。本発明により、微生物は以下、すなわちとりわけ微生物の遺伝物質を変えること、微生物に外因性遺伝物質を添加すること、微生物の培養条件を変えること、微生物に利用可能な栄養素を変えること、微生物に利用可能な環境シグナル(例えば温度、pH、イオン強度、圧、光など)を変えることの1つ若しくはそれ以上により操作し得る。
【0095】
一態様において、遺伝子操作される微生物は1種若しくはそれ以上のタンパク質を発現するよう操作され、該発現されるタンパク質は該微生物のクオラムセンシング経路を調節する原因である。一局面において発現されるタンパク質は酵素である。一態様において、発現されるタンパク質は、こうした経路をクエンチするために1種若しくはそれ以上のクオラムセンシング経路の1成分に作用し得る。別の態様において、タンパク質は1種若しくはそれ以上のクオラムセンシング経路である役割を直接演じることができる。制限しない一例として、発現されるタンパク質はクオラムセンシング経路の1若しくはそれ以上の成分と結合してクオラムセンシング経路の成分を効果的に除去し、それによりクオラムセンシング経路をクエンチし得る。
【0096】
発現されるタンパク質の存在は、とりわけ経路を通る天然の流動を変えることにより、若しくは該経路を向け直すことによりクエンチするようにはたらき得る。なお別の態様において、発現される酵素はクオラムセンシングクエンチャーである化合物の産生を触媒し得る。なお別の態様において、発現される酵素は、クオラムセンシング分子である化合物若しくはクオラムセンシング経路によるシグナル伝達に必要とされる分子の改変、破壊若しくは排除を触媒し得る。こうした酵素は、従って本発明のクオラムセンシングクエンチャーであり、そしてクオラムセンシング分子を破壊若しくはそしてクオラムセンシング経路から除去することにより作用する。
【0097】
本発明の一態様において、クエンチング剤はアシルホモセリンラクトン自己誘導物質との反応を触媒する酵素である。酵素の分類の例は、エステラーゼ、リパーゼ、ラクトナーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、アミノアシラーゼ若しくはカルボキシペプチダーゼを包含する。当業者により理解されるであろうとおり、これらの分類を含んでなる多くの酵素が商業的に入手可能である。
【0098】
一局面において、本発明は、多くのグラム陰性細菌において1型クオラムセンシングを助長するアシルホモセリンラクトン(AHSL)化学シグナル(自己誘導物質)の妨害、破壊、除去、阻害若しくは不能化(dis−enable)方法に関する。
【0099】
本発明の別の態様において、制限しない一例として、AHSLシグナルは、クオラムセンシングクエンチング剤を産生するよう操作されている微生物により産生されるクオラムセンシングクエンチング剤を使用して破壊しうる。すなわち、該微生物は、該微生物が剤を産生するように遺伝子的に改変されることができ、該剤はa)ラクトン感を開裂するか、b)ペプチド結合を加水分解するか、若しくはc)AHSL自己誘導物質のアシル鎖を修飾する。
【0100】
例えば、酵素がAHSLを分解し得ることが示された。ラクトナーゼはオキソヘキサノイル、オキソデカノイルおよびオキソオクタノイルホモセリンラクトンを不活性化することが示されている(Dongら、PNAS USA 97:3526−331、2000
およびNature 411:813−817、2001)。同様に、バリオボラックス
パラドキサス(Variovorax paradoxus)のある株が数種のアシルホモセリンラクトンを増殖のため利用し得ることが示されており;環が酵素的に切断されてアシル鎖およびラクトン環がそれぞれエネルギーおよび窒素の供給源として使用されることを可能にすると考えられている(LeadbetterとGreenberg、J.Bacteriology、182:6921−6926)。別の態様において、該剤は自己誘導物質分子との反応を触媒する酵素以外の化学物質であり、その結果自己誘導物質の構造が改変されそして該自己誘導物質は非機能的になる。pHを8以上に上げるための水酸化ナトリウム若しくは他の塩基の添加はラクトン環を加水分解してそれによりAHSLを分解することが知られている。
【0101】
本発明の一態様において、該剤は、luxIタンパク質、そのアナログ、若しくは類似の機能を表すタンパク質を阻害することによるようなアシルホモセリンラクトン自己誘導物質の生合成を阻害する化学物質である。こうした剤の例は、S−アデノシルメチオニン合成の阻害剤シクロロイシンすなわち(2S,4S)−2−アミノ−4,5−エポキシペンタン酸を包含する。本発明の別の態様において、該剤はアシルホモセリンラクトン自己誘導物質のその受容体への結合を阻害する化学物質であり、かようにクオラムセンシングに調節される遺伝子の転写を遮断する。こうした化学物質の一例は該受容体に特異的に結合する抗体であり;該抗体はポリクローナル若しくはモノクローナルであることができ、そして当該技術分野で公知である方法を使用して製造し得る。こうした化学物質の付加的な一例はAHSLそれ自身のアナログである。セラチア リクファシエンス(Serratia liquefaciens)のスウォーミングを調節する受容体へのAHSLの結合を阻害する紅藻デリセア プルクラ(Delisea pulchra)からのハロゲン化フラノンがAHSLのアナログの一例である(Rasmussenら、Microbiology、146:3237−3244、2000)。
【0102】
別の態様において、抗体はクオラムセンシングシグナル伝達分子を結合するのに使用し得る。一局面において、抗体は、クオラムセンシングをクエンチするためにクオラムセンシングシグナル伝達ペプチドを結合するのに使用する。別の局面において、抗体は、クオラムセンシングをクエンチするためにクオラムセンシングシグナル伝達小分子を結合するのに使用する。制限しない一例として、AHSLに特異的な抗体を、AHSLを結合しかつ生物体でのクオラムセンシングをクエンチするのに使用し得る。
【0103】
本発明により、そうした剤はこうした剤を産生するように微生物を操作することにより製造しうることが理解されるであろう。一態様において、該微生物は、合成若しくは別の分子の分解のいずれかによるこうした剤の産生を触媒する酵素を産生するように操作し得る。本発明により、こうした生成物は該剤の産生に至る経路により直接若しくは間接的に産生されうる。制限しない一例として、酵素を産生するように微生物を操作し得、該酵素は、最終的な有用なクオラムセンシングクエンチング剤を産生するために培養物中の該微生物により取り込まれる化合物に作用する。不活性の「前駆体」化合物を微生物の培養物に添加し得、そして微生物により内部に取り込まれ得、この時点で、該微生物で操作されている酵素が前駆体化合物を活性のクオラムセンシングクエンチング剤に転化する。
【0104】
別の態様において、本発明は、2型クオラムセンシングの妨害、破壊、除去、阻害若しくは不能化方法を包含する。一態様において、クエンチング剤は、2型クオラムセンシング自己誘導物質すなわち4−ヒドロキシ−5−メチル−2H−フラン−3−オン、4,5−ジヒドロキシ−2−シクロペンテン−1−オン若しくはアナログとの反応を触媒する酵素である。別の態様において、該剤は2型自己誘導物質を破壊する化学物質である。
【0105】
なお別の態様において、クエンチング剤は2型クオラムセンシング自己誘導物質の生合
成を阻害する化学物質である。2型自己誘導物質の生合成を阻害する剤は生合成酵素それら自身を改変し得る。あるいは、該剤は該酵素の1種の生合成前駆体の1種のアナログであり得る。例えば、該剤は、メチオニンのアナログ、S−アデノシルホモシステイン若しくはS−リボシルホモシステインであり得、かように適切な酵素へのこれらの分子の結合および自己誘導物質の生合成を予防する。本明細書の別の場所に詳細に示されるとおり、こうした剤はこうした剤を産生するように微生物を操作することにより産生されうる。
【0106】
本発明の別の態様において、クエンチング剤は、2型クオラムセンシング自己誘導物質のその受容体への結合を阻害する化学物質である。該剤は、luxP若しくはluxQを修飾する化学物質、または他の生物体で類似の機能を実施するタンパク質であり得る。同様に、剤は、luxO、luxR若しくはリプレッサータンパク質または他の生物体で類似の機能を実施するタンパク質のいずれかを改変することにより2型クオラムセンシングを阻害し得る。該剤は、自己誘導物質受容体、若しくは自己誘導物質とクオラムセンシングに制御される遺伝子の間のシグナル伝達に関与する他のタンパク質にもまた結合し得;一例は関与するタンパク質の1種に結合する抗体である。別の態様において、該剤は修飾フラノンのような2型自己誘導物質分子のアナログであり得る。
【0107】
一態様において、本発明のクオラムセンシングクエンチング剤の前駆体は、好ましくは水に可溶性であり、そして許容できる担体系とともに適用若しくは送達しうる。本発明の前駆体を含んでなる組成物は、該剤が直接若しくは間接的に投与される場合にそれが本明細書の別の場所に詳細に示されるところの特定の有利な方法で利用可能である形態でそれが存在するように安定な様式で該剤が分散若しくは溶解されうるような適する担体系とともに適用若しくは送達しうる。すなわち、前駆体が送達される様式若しくは状態は、本明細書の別の場所に詳細に記述されるところの1種若しくはそれ以上のクオラムセンシング経路を微生物が迂回かつ/若しくは阻害し得るような微生物を誘導若しくは改変するのに十分である。
【0108】
別の局面において、本発明の別個の前駆体を予め配合しうるか、若しくは、各成分を、処置成分の所望の濃度レベルを達成する目的上予め決められた投薬量に従って同一環境に別個に添加しうるが、但し該成分は最終的に相互との緊密な混合状態となる。
【0109】
別の態様において、本発明は、グラム陽性細菌によるペプチドに調節されるクオラムセンシングの妨害、破壊、除去、阻害若しくは不能化方法に関する。多くのグラム陽性細菌が分泌型ペプチドを自己誘導物質として使用する。一態様において、グラム陽性細菌によるクオラムセンシングは、ペプチド自己誘導物質との反応を触媒する酵素により阻害される。こうした酵素の例は、限定されるものでないがプロテアーゼ、ペプチダーゼおよびデアミナーゼを包含する。ブドウ球菌属(Staphylococcus)のような数種のグラム陽性生物体において、該ペプチドはチオラクトン環を含有し;これらの自己誘導物質はチオール還元酵素のようなチオール結合との反応を触媒する酵素によってもまた破壊されうる。本発明の別の態様において、クエンチング剤は、カルボキシル若しくはアミド基を修飾することによるような自己誘導物質ペプチドの構造を破壊する化学物質である。本発明のなお別の態様において、該剤は自己誘導物質ペプチドに結合する抗体であり、かように該ペプチドのその受容体タンパク質への結合を予防する。該抗体は自己誘導物質プロペプチドもまた結合することができ、かように活性の自己誘導物質への翻訳後プロセシングを予防する。本発明の一局面において、β−ペプチドのようなペプチド模倣物もまたペプチドのその受容体への結合を阻害しうる。
【0110】
本発明の別の態様において、該剤は自己誘導物質ペプチドの生合成を阻害する化学物質である。該剤は、例えば該ペプチド若しくはそのプロペプチド(翻訳後に修飾される自己誘導物質の場合)の転写を阻害しうる。該剤は自己誘導物質ペプチドのそのプロペプチド
からの切断を阻害しうる。
【0111】
別の態様において、該剤は該ペプチドのその受容体タンパク質への結合を阻害する化学物質である。該剤は、受容体を修飾するか若しくは該受容体に結合してそれによりそれを不活性化する化学物質若しくは酵素であることができ;一例は、受容体への自己誘導物質の結合を破壊する受容体に特異的な抗体である。別の態様において、該剤は受容体に結合してそれにより自己誘導物質の結合を予防する自己誘導物質ペプチドのアナログである。NovickとMuir(1999、Current Op.in Micro.2:40−45)(その内容全体は引用することにより本明細書に組み込まれる)は、1細菌種の自己誘導物質が別のものの阻害剤としてどのように作用しうるかを記述する。これらのペプチドは本発明の阻害の剤として使用し得る。本発明で有用であるとして当業者が認識するであろう阻害剤を引用する多数の他の参考文献が存在する(例えばLinら、2003、Mol.Microbiol.47:849−860を参照されたい)。
【0112】
ストレプトミセス属(Streptomyces)からのγ−ブチロラクトンおよび緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)からの2−ヘプチル−3−ヒドロキシ−4−キノロンのような他のクオラムセンシング自己誘導物質分子が記述されている。しかしながら、付加的なクオラムセンシング系が未だ記述されていないことがありそうである。上述された方法を使用して、クオラムセンシングを使用することにより細胞密度を調節する生物体によるコロニー形成若しくは培養物増殖を可能にするために、これらのクオラムセンシング系を同定、特徴付けおよび/若しくは破壊することが当業者に可能であるとみられる。従って、本発明は、未だ発見されるべきクオラムセンシング系を含んでなる方法および組成物もまた包含する。
【0113】
本明細書に記述されるところの剤のいかなる組合せも、クオラムセンシングを妨害、破壊、除去または無力化若しくは阻害するのに使用し得る。制限しない一例として、1型自己誘導物質の剤、2型自己誘導物質の剤およびペプチド自己誘導物質の剤を組合せ得、そして本発明の単一反応混合物中のクオラムセンシングを調節するのに使用し得る。
【0114】
本発明の酵素を包含するタンパク質クオラムセンシングクエンチング剤は好ましくは既知のタンパク質である。本発明の組成物および方法で有用な本明細書に記述されるタンパク質は、当業者により理解されるであろうとおり多様な方法で製造し得る。一態様において、タンパク質は外因性に細胞に添加し得る(例えば細胞培養物に添加されかつ培養物中の細胞により取り込まれる)。制限しない一例として、タンパク質に作用する酵素を発現するように微生物を操作し得、該タンパク質はクオラムセンシングクエンチング剤に対する前駆体である。前駆体タンパク質は、操作された微生物の培地に添加し得、該微生物により内部に取り込まれ得、そしてその後該操作された微生物により産生される酵素により作用されて活性のクオラムセンシングクエンチング剤を産生する。
【0115】
別の制限しない例として、前駆体タンパク質を二量体化する第一のタンパク質を発現するように既知の微生物を操作し得、該発現される第一のタンパク質(前駆体タンパク質二量体)は活性のクオラムセンシングクエンチング剤を形成する。前駆体タンパク質は微生物の培地に添加し得、そして内部に取り込まれ得、それに際してそれが発現された第一のタンパク質と二量体化する。あるいは、前駆体タンパク質を第一のタンパク質とともに微生物内で共発現させることができ、そして共発現に際して第一のタンパク質および前駆体タンパク質が二量体化して活性のクオラムセンシングクエンチング剤を形成する。
【0116】
本発明の別の態様において、核酸プラスミドを当該技術分野で既知のいずれかの手段により細胞に添加し得、該プラスミドは所望のタンパク質をコードする。該タンパク質はその後該プラスミドから発現される。別の態様において、目的のタンパク質をコードする核
酸を標的微生物の染色体に組込むことができ、そしてコードされるタンパク質をその後それから発現させうる。
【0117】
加えて、発現されるタンパク質は、限定されるものでないが、クオラムセンシング経路の1メンバーと直接結合すること、クオラムセンシング経路の1メンバーに酵素的に作用すること、クオラムセンシング経路の1若しくはそれ以上のメンバーの発現を調節する分子を妨害若しくはそれに作用すること、および第三の分子と多量体複合体を形成することによりを挙げることができるいずれかの数の方法で本発明により使用することができ、該多量体複合体はクオラムセンシングクエンチングの原因である。上の方法のいずれの組合せもまた本発明により使用しうることが理解されるであろう。
【0118】
本発明の容量生産性の増大方法は、本明細書の別の場所に詳細に示されるところの多くの目的上有用である。本発明の一局面において、増大された容量生産性は、増大されたすなわちより多い量の該微生物由来の醗酵生成物を得るのに有用である。これは、醗酵生成物を産生する微生物のより高い容量生産性は、細胞培養物の単位容量あたりのその醗酵生成物のより高いすなわちより大きい収量を提供するからである。
【0119】
本発明の細胞密度の増大方法は、本明細書の別の場所に詳細に示されるところの多くの目的上もまた有用である。本発明の一局面において、増大された細胞密度は該微生物由来の醗酵生成物の増大されたすなわちより多い量を得るのに有用である。これは、醗酵生成物を産生する微生物のより高い密度が、細胞培養物の単位容量あたりのその醗酵生成物のより高いすなわちより大きい収量をもたらすことができるからである。こうして、本発明の細胞密度の増大方法はより高い容量生産性を提供する。
【0120】
本発明の一局面において、微生物は所望の醗酵生成物を天然に産生するものである。別の局面において、微生物は所望の醗酵生成物を産生するよう遺伝子的に改変されているものである。一態様において、微生物は1種以上の醗酵生成物を産生し、各醗酵生成物は天然に若しくは該微生物の遺伝子改変によるかのいずれかで該微生物で産生されうる。こうした遺伝子改変は本明細書の別の場所で詳細に論考する。
【0121】
外来遺伝子の発現手順を記述する多数の本文が入手可能である。また、カタログはグラム陽性細菌を包含する多様な生物体に使用し得るクローニングベクターを列挙している。これらのクローニングベクターを注文し得るカタログは容易に入手可能でありそして当業者に公知である。例えば、Marino(1989)BioPharm.2:18−33;Vectors:A Survey of Molecular Cloning Vectors and Their Uses(Butterworths 1988)を参照されたい。
【0122】
本発明の別の態様において、外来遺伝子の染色体組込みはプラスミドに基づく構築を上回るいくつかの利点を提供し得、後者は商業的過程にある種の制限を有する。組換え体の初期選択は、単一コピー組込み後の増殖を可能にするように20mgクロラムフェニコール(「Cm」)/リットルのプレートで作成し得る。これらの構築物は非常に低頻度で得られることがある。より高レベルの発現は、600ないし1000mg Cm/リットルを含有するプレートでの選択により単一段階として達成しうる。こうした株は非常に安定と判明している。ある種の野生株の試験は、電気穿孔法がプラスミド送達を改良しかつ組込みを達成するのに必要とされる努力を低下しうることを示す。
【0123】
当業者は、多くの微生物が本発明での使用に適することを認識するであろう。一局面において、本発明で有用な微生物は細菌である。別の局面において、本発明で有用な微生物は酵母である。
【0124】
当業者は、本明細書に例示される方法および材料に多数の改変を行い得ることを認識するであろう。例えば、グラム陽性組換え宿主での異種遺伝子の発現を駆動するために多様なプロモーターを利用し得る。本開示の利益を有する当業者は、本目的上利用可能な多様なプロモーターのいずれか1つを容易に選択かつ利用することが可能であろう。同様に、当業者は、慣例の好みの問題として、所望の遺伝子のより高コピー数のプラスミド若しくは本明細書に記述されるところの染色体組込みを利用しうる。さらなる最適化は、目的の遺伝子上のリボソーム結合部位をグラム陽性宿主からの天然のリボソーム結合部位で置き換えることにより容易に達成し得る。とりわけ、バチルス属(Bacillus)宿主の場合、バチルス属(Bacillus)遺伝子からの結合部位を包含するようにオペロンを改変し得る。最後に、化学物質若しくは放射で変異させてより高レベルの発現を伴う変異体を創製かつ選択することは慣例の研究室の実務の問題である。アルデヒド指示薬プレート若しくはピルビン酸脱炭酸酵素活性染色を、有用な突然変異をもつ株を同定するのに便宜的に使用し得る。
【0125】
II.醗酵
天然産物の産生のための微生物の発酵は生物触媒現象の広範に既知の一応用である。工業的微生物は、単一反応槽中で再生可能な原材料の高価値の化学製品への多段階転化を遂げ、そしてそうすることにおいて数十億ドルの産業を触媒する。醗酵生成物はエタノール、乳酸、アミノ酸およびビタミンのような精製および汎用化学製品から高価値の小分子医薬品、タンパク質製剤および工業的酵素までの範囲にわたる。
【0126】
これらの生成物を市場にもたらすことにおける成功、および市場での競合における成功は、全細胞生物触媒現象の継続的改善に部分的に依存する。改善は、より高い細胞密度まで微生物を増殖させる能力、所望の生成物の増大された収量、容量生産性の増大された量、不要な共代謝物の除去、安価な炭素および窒素源の改良された利用、ならびに、醗酵装置条件への適応、一次代謝物の増大された産生、二次代謝物の増大された産生、酸性条件に対する増大された耐性、塩基性条件に対する増大された耐性、有機溶媒に対する増大された耐性、高塩条件に対する増大された耐性および高若しくは低温に対する増大された耐性を包含する。これらの領域のいずれでの欠点も、高製造コスト、市場占有率を獲得若しくは維持することの不能、および有望な製品を市場にもたらすことの失敗をもたらし得る。
【0127】
本発明の方法および組成物は、発酵工程を改良するために慣習的醗酵バイオリアクター(例えばバッチ、流加(fed−batch)、細胞再循環および連続醗酵)に適合し得る。クオラムセンシング遺伝子を破壊するためのある型の突然変異誘発の方法論の使用は細胞密度を増大させるための一戦略を提供する。
【0128】
大スケールの状態での情況で破壊されるクオラムセンシングと関連する最低1種の遺伝子を有するように改変された遺伝子の使用は、伝統的な発酵法が増大された密度の培養物の樹立において困難を経験している増大された密度の培養物を樹立するための手段を提供することにより醗酵産業の努力を改良し得る。集団細胞密度若しくは容量生産性の増大により生産収量を増大させ得る応用において、微生物集団のクオラムセンシング系の破壊は収量の増大につながり得る。であるから、本明細書に開示される方法は、順に、現在の発酵工程の収益性を増大させそして新製品の開発を助長し得る。
【0129】
微生物(例えば細菌)から所望の生成物を得るために、細菌は一般に、液体への生成物の排出に至る液体培地中で培養し(液内培養)、それからそれらを単離し得る。生成物の形成は、生物体の初期の迅速な増殖の間および/またはゆっくりと増殖する若しくは増殖しない状態で培養物が維持される第二の期間に起こり得る。こうした工程の間、時間の単
位あたりに形成される生成物の量(生産性)は、一般に多数の因子、すなわち微生物の固有の代謝活性;培養物中で優勢な生理学的条件(例えばpH、温度、培地組成);および該工程に使用される機器中に存在する微生物の量の関数である。一般に、発酵工程の最適化の間の焦点は最高の可能な生産性を得ることにある。この問題に対する一解決策は、可能な限り高い細菌の濃度を得ることである。クオラムセンシング遺伝子が破壊された改変された細胞の使用は増大された密度の培養物を見込む。これは、改変された細胞の使用を包含する発酵工程が、より高い産生速度で稼働され得かつ/若しくは所望の生成物のより高濃度を達成し得ることを意味しているとみられる。
【0130】
改変された発酵工程は、組換えポリペプチドの大スケール単離が望ましいシナリオにもまた適用し得る。最初に、発酵工程での目的のポリペプチド発現前に、所望の組換えポリペプチドに対応する外因性遺伝子を含有する宿主細胞を、対数増殖に必要な必須栄養素およびpH制御と一緒に例えば利用可能な酸素および炭素/エネルギー源の全部(若しくは好ましくは1供給源)を醗酵に接種するか、若しくはそれらを伴い好都合な増殖条件下で増殖させる。本発明により、これらの条件は、例えば、宿主細胞が所望の数若しくは細胞密度まで培養物中で増殖するまで溶存酸素含量をある設定点で制御する速度で濃縮グルコースを供給することにより維持する。
【0131】
標的細胞密度に達した後に醗酵のさらなる操作が発生し得る。第一のものは、宿主細胞によるポリペプチドの発現を誘導するため宿主細胞にシグナルを提供することである。(第一のものから生じ得る)第二の操作は宿主細胞の代謝速度を下方移動すなわち低下させることである。対数増殖の間の代謝速度は酸素および炭素/エネルギー源の利用可能性に直接比例するため、利用可能な酸素若しくは炭素/エネルギー源または双方のレベルを低下させることは代謝速度を低下し得る。攪拌速度若しくは背圧のような醗酵すなわち作動パラメータの操作ならびにO圧を低下させることは、利用可能な酸素レベルを調節し得る。炭素/エネルギー源(1個若しくは複数)の濃度若しくは送達速度または双方を低下させることは類似の影響を有する。さらに、発現系の性質に依存して、発現の誘導は代謝速度の劇的な低下につながり得る。
【0132】
目的のポリペプチドは、好ましくは分泌型ポリペプチドとしてペリプラズム若しくは培地から回収されるとは言え、それは分泌シグナルを伴わずに直接発現される場合は宿主細胞ライセートからもまた回収しうる。あるいは、細胞若しくはその部分を生物触媒として若しくは実質的な精製を伴わない他の機能のため使用しうる。
【0133】
目的のポリペプチドを組換え細胞タンパク質若しくはポリペプチドから精製して目的のポリペプチドに関し実質的に均質である調製物を得ることがしばしば好ましい。第一段階として、培地若しくはライセートを遠心分離して粒状の細胞破片を除去する。膜および可溶性タンパク質画分をその後必要な場合は分離しうる。ポリペプチドをその後、該ポリペプチドが膜結合型であるか、可溶性であるか、若しくは凝集形態で存在するかどうかに依存して、可溶性タンパク質画分および培養物ライセートの膜画分から精製しうる。ポリペプチドをその後、必要な場合は可溶化かつフォールディングし、そして汚染可溶性タンパク質およびポリペプチドから精製し、以下の手順すなわち免疫親和性若しくはイオン交換カラムでの分画;エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカ若しくはDEAEのような陽イオン交換樹脂でのクロマトグラフィー;等電点電気泳動;SDS−PAGE;硫酸アンモニウム沈殿;および例えばSephadex G−75を使用するゲル濾過は適する精製手順を例示する。
【0134】
III.ランダム破壊
本発明は、所望の機能を有するように細胞を獲得する若しくは進化させるためのライブラリー(例えば遺伝子破壊ライブラリー)をスクリーニングする情況でのZ.モビリス(
Z.mobilis)のような細胞の改変方法を提供する。所望の機能は、遺伝子的に改変されていない別の(another wise)Z.モビリス(Z.mobilis)に比較して該変異体がより高密度で増殖する能力である。こうした機能はクオラムセンシング系が細胞中で破壊されている場合に観察し得る。従って、本発明は変異体からの遺伝子を同定することを包含し、該遺伝子は細胞密度を制限することに関与する。
【0135】
Z.モビリス(Z.mobilis)のような微生物中の増殖制御(例えばクオラムセンシング)に重要な遺伝子を、遺伝子破壊ライブラリーの型(例えばトランスポゾンに基づく突然変異誘発戦略)を使用することにより発見かつ同定し得る。該ライブラリーはランダム「ノックアウト」突然変異を含有する誘導体株を包含する。変異体染色を、増殖する培養物の光学密度を測定することにより増殖効果についてスクリーニングする。少なくとも(i)静止期の増大された細胞密度、(ii)増大された増殖速度若しくは(iii)短縮された誘導期持続期間を表す株をDNA配列分析のため選択する。
【0136】
従って、本発明は、破壊された場合に該細菌がより培養可能となることを可能にする遺伝子の同定もまた包含する。例えば、本発明は、細胞密度を制限するのに不可欠である遺伝子の同定を見込み、そして細胞中のこうした遺伝子の破壊は該細胞が増大密度(increase−density)で増殖することを可能にする。
【0137】
細胞中の遺伝子のこうしたランダム破壊方法は、例えば複数の細胞にDNAフラグメントのライブラリーを導入してそれにより該フラグメントの最低1種がゲノム中の1セグメント若しくは細胞の1エピソームとの組換えを受けて改変された細胞を生じることを包含する。改変された細胞をその後、所望の機能の獲得に向けて進化した改変若しくは組換え細胞についてスクリーニングする。所望の機能に向けて進化した改変された細胞からのDNAをその後、場合によってはDNAフラグメントのさらなる1ライブラリーで組換え、その最低1種は該改変された細胞のゲノム中の1セグメント若しくはエピソームとの組換えを受けてさらなる改変された細胞を生じる。該さらなる改変された細胞をその後、所望の機能の獲得に向けてさらに進化したさらなる改変された細胞についてスクリーニングする。細胞に第2回の改変を通過させること、またはそうでなければ1回以上の改変に細胞をかけることは、クオラムセンシングを調節することに対する相互との相乗効果を協同する若しくは有する遺伝子の同定を見込む。組換えおよびスクリーニング/選択の段階を、さらなる改変された細胞が所望の機能を獲得するまで必要とされるとおり反復する。であるから、本発明はクオラムセンシングを集合的に調節する遺伝子の組合せの同定もまた包含する。クオラムセンシングを調節しかついくつかの例においてはクオラムセンシングの破壊を高める遺伝子の組合せの破壊もまた本発明で企図している。
【0138】
本発明は、全般として、遺伝子破壊ライブラリーをスクリーニングすること、および該破壊された遺伝子が細胞増殖を調節するかどうかを決定することにより達成されるクオラムセンシング遺伝子の同定および発見に関する。好ましくは、破壊された遺伝子を含有する細胞は、該細胞がより培養可能となることを可能にする。しかしながら、本発明は細胞増殖に関与する遺伝子の調節成分の同定のためにライブラリーをスクリーニングすることもまた包含し得る。
【0139】
クオラムセンシング遺伝子を同定するために遺伝子破壊ライブラリーをスクリーニングする局面に加え、本発明は、微生物でのクオラムセンシングを無力化するためにクオラムセンシング遺伝子に関する部分的配列データの作成および最低1種のクオラムセンシング遺伝子を破壊することを包含する。遺伝子の一破壊方法は、それから生じる生物学的活性を改変するという意図をもってDNAフラグメントのヌクレオチド配列を人工的に改変することを目的とする技術である包括的突然変異誘発方法である。
【0140】
突然変異誘発
突然変異誘発若しくはそうでなければ突然変異という用語は、DNAフラグメントの最低3種の異なる修飾(すなわち欠失、挿入および置換)と関連し得る。欠失は目的のDNAフラグメントからの1個若しくはそれ以上のヌクレオチドの除去に対応し;挿入はそれの付加に対応し;置換は1個若しくはそれ以上の塩基の異なる性質の同一数の塩基での置換に対応する。
【0141】
新規特性を獲得した若しくは改良された既存の特性を有する変異体を探求するこの情況において、突然変異誘発は第一段階を構成しかつ多様性を創製する。第二段階において、多様性をその後、改良されたすなわち所望の特性を賦与する遺伝子中の突然変異を含有する変異体を単離するように、機能試験によってスクリーニングする。
【0142】
しかしながら、スクリーニングされなければならない変異体の数は、ライブラリーを何らかの合理的に根拠に基づき生成した若しくは選んだ場合に低下させ得る。例えば、遺伝子破壊ライブラリーを既知のクオラムセンシング遺伝子および関連遺伝子に基づき生成し得る。この場合、これらの半合理的ライブラリー中の所望の変異体の頻度は、多様性をランダムにのみ生成した場合より高い。
【0143】
多様な突然変異誘発法が開発されており、そして微生物中のクオラムセンシング遺伝子を同定かつ/若しくはクオラムセンシングを破壊することに適合させ得る。突然変異誘発法は少なくとも5種の主要グループ、すなわちランダム突然変異誘発;DNAシャッフリング(組換え)による突然変異誘発;定方向突然変異誘発;飽和突然変異誘発などに分割し得る。
【0144】
突然変異誘発はまた、タンパク質の活性を高める突然変異も包含し得る。例えば、ライブラリーを、クオラムセンシングに関与するタンパク質を阻害する阻害剤の能力を高める活性化突然変異若しくは別の突然変異についてスクリーニングし得る。本質的に、クオラムセンシングの阻害剤の活性化若しくは高められた活性は、微生物でのクオラムセンシングを阻害し得、そして、結果としてより高密度まで増殖しかつ/若しくはより高い容量生産性を達成する増大された能力を賦与する。
【0145】
スクリーニング
本発明は微生物の細胞増殖に関与する遺伝子の同定方法を包含する。該方法は、変異体微生物がより高密度で増殖しかつ/若しくはより高い容量生産性を達成することを該変異体核酸が可能にするように、変異体の形態の遺伝子を含んでなる外因性核酸を既知微生物に提供することを含んでなる。該突然変異は細胞増殖に関与する遺伝子の破壊であり得る。あるいは、突然変異は細胞増殖に関与する遺伝子の調節に関与する遺伝子の活性化であり得る。さらに、突然変異は細胞増殖に関与する遺伝子の制御配列中にあり得る。すなわち、微生物の細胞増殖をもたらし増大しかつ/若しくはより高い容量生産性を達成するいかなる遺伝子突然変異も本発明に包含される。本発明が各変異体の保存およびそれからの外因性核酸の単離を個別に見込むこともまた企図している。
【0146】
好ましくは、個別の変異体は、破壊されて従ってクオラムセンシング系が破壊されなかった場合の密度と比較してより高い細胞密度まで該変異体が増殖することを可能にするクオラムセンシング系の最低1成分を有する。従って、本発明は、微生物の集団密度を調節しかつ/若しくはより高い容量生産性を達成する微生物の個別の変異体若しくはそうでなければある遺伝子により発現される外因性変異体遺伝子の同定もまた包含する。これは、変異体遺伝子の配列を備える場合に、当業者は対応する野生型遺伝子を同定する方法を知っているとみられるためである。
【0147】
以下の論考は、宿主細胞のゲノム中に突然変異を生成するために転位可能な核酸エレメントを必要とするある型の遺伝子破壊構築物および/若しくはライブラリーを使用することに関する。本発明のライブラリーに関して、ポリヌクレオチドのライブラリー若しくはトランスポゾン挿入部位のライブラリーは配列情報の集合物であり、その情報は生化学的形態(例えばポリヌクレオチド分子の集合物として)または電子的形態で(例えばコンピュータシステム中のようなおよび/若しくはコンピュータプログラムの一部としてのコンピュータで読み出し可能な形態で記憶されたポリヌクレオチド配列の集合物として)のいずれかで提供される。ポリヌクレオチドの配列情報は、例えば遺伝子発見の資源として、すなわち特定の一微生物の不可欠かつ重要な遺伝子を同定かつ確認するため、または他の属若しくは種の不可欠な若しくは重要なホモログを同定するために多様な方法で使用し得る。ライブラリー中のポリヌクレオチド配列は、該ポリヌクレオチドによりコードされるmRNA、ポリペプチド若しくは他の遺伝子産物を表すポリヌクレオチドであり得、そして、従ってこうしたポリヌクレオチドライブラリーを使用して、ライブラリーメンバーの配列に従って対応するRNA若しくはアミノ酸ライブラリーを定式化し得る。
【0148】
トランスポゾンは遺伝子を挿入的に不活性化するのに便宜的であるとは言え、いずれかの他の既知の方法、若しく今後開発される方法をクオラムセンシングと関連する遺伝子についてスクリーニングするために使用しうることが認識されるであろう。いかなる場合も、変異体をクオラムセンシング遺伝子ならびに他の分類の遺伝子についてスクリーニングし得る。従って、本発明は、核酸エレメント、細菌変異体、製造方法、スクリーニング方法および治療方法を包含する。
【0149】
ハイスループットトランスポゾン挿入マッピング(HTTIM)戦略をクオラムセンシングと関連する遺伝子を同定するのに使用し得る。こうした戦略は、染色体にランダムに挿入する小型の移動性DNAエレメントであるトランスポゾンを利用する。染色体へのその挿入がランダムである、すなわちホットスポットを欠く限りは、いかなるトランスポゾンも使用しうる。
【0150】
トランスポゾン挿入がゲノム中の不可欠の遺伝子の1種を破壊する場合にその遺伝子の機能が喪失される。破壊された遺伝子がクオラムセンシングと関連する場合、トランスポゾン挿入変異体は、同一遺伝子がクオラムセンシングの破壊の結果として破壊されなかった場合より高密度で増殖することが可能である。クオラムセンシングに関連する遺伝子の破壊は、そうでなければ培養することが可能でなかったとみられる微生物を培養するための一方法を提供する。多数のトランスポゾン変異体の挿入部位を検査することによりクオラムセンシング遺伝子の潜在的に全部を同定し得、そして以前は培養不可能な微生物を培養し得る。
【0151】
いくつかの場合において、トランスポゾンはクオラムセンシングに負に若しくは正に影響を及ぼすようにゲノムに挿入することができる。「クオラムセンシングに悪影響を及ぼす」という用語は、トランスポゾン挿入を伴う微生物宿主がクオラムセンシングに破壊を有し、そして従って該挿入を欠くそれ以外は同一の微生物宿主と比較してより高密度まで増殖することが可能であることを意味している。同様に、「毒性に正に影響を及ぼす」という用語は、トランスポゾン挿入を伴う細菌宿主が、該挿入を欠くそれ以外は同一の微生物宿主に比較してクオラムセンシングに対しより感受性であることを意味している。
【0152】
いくつかの態様において、本発明は、細菌のような異種生物体のゲノムに組込み得る転位可能な核酸エレメントを包括する。一対の逆方向反復配列に認識される転位酵素を含んでなるエレメントをとりわけ企図している。トランスポゾン若しくはそうでなければトランスポゾン様エレメントは他の核酸配列を含有しうる。さらなる態様において、該エレメントは最低1個のスクリーニング可能なマーカー遺伝子を有するがしかしそれらに限定さ
れない。該エレメントは、最低1、またはせいぜい1、2、3、4、5、6若しくはそれ以上のスクリーニング可能なマーカー遺伝子、ならびに該配列によりコードされうるポリペプチドの発現のためのプロモーター若しくは他の調節領域を有しうる。こうしたスクリーニング可能なマーカーは比色、蛍光若しくは酵素であるポリペプチドをコードしうる。さらに、エレメントは1個若しくはそれ以上の選択可能なマーカー遺伝子および/または1個若しくはそれ以上の選択可能でない(しかしスクリーニング可能な)マーカー遺伝子を含有しうる。いくつかの場合において、該エレメントは抗生物質耐性を賦与するポリペプチドをコードする選択可能なマーカー遺伝子を有する。耐性は、限定されるものでないがエリスロマイシン、テトラサイクリン、スペクチノマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどよりなる群から選択される抗生物質を挙げることができる。
【0153】
スクリーニング可能なマーカーを使用して、該エレメントが染色体内に若しくはエピソームに組込まれた生物体を同定し得る。特定の場合において、該エレメントを染色体に挿入させている微生物を同定するのにそれを使用し得る。あるいは、スクリーニング可能なエレメントを使用して、組込みの部位近く若しくはその部位の核酸制御配列を同定し若しくは特徴付け得る。いくつかの場合において、スクリーニング可能なマーカーは、プロモーター配列を提供する組込みの部位の核酸配列を同定若しくは特徴付けするようにプロモーターを欠く。エンハンサーの同一性が同様に企図され得る。いくつかの態様において、スクリーニング可能なマーカーは緑色蛍光タンパク質のような比色的ポリペプチドをコードする遺伝子である。
【0154】
本発明のある態様において、本発明の転位可能なエレメントを認識かつ転位する転位酵素をコードする核酸が存在する。本発明のいくつかの例において、本発明の転位可能なエレメントおよび/若しくは該エレメントを認識する転位酵素をコードする核酸を含有するプラスミド若しくはベクターが存在する。こうしたベクターは、該ベクターを増殖させるため、若しくはトランスポゾン誘発性の突然変異誘発の標的としてのいずれかで細菌中にあり得る。さらに、転位可能なエレメントを含有するベクターおよび同族の転位酵素を含有するベクターの双方が同一微生物中に一緒にあることができる。
【0155】
本発明はさらにトランスポゾン挿入を有する微生物を包含し、これは該微生物がそのゲノムに転位された最低1エレメントを有することを意味している。該挿入はランダムであり得るか、または予め決められ若しくは操作され得る。
【0156】
多様な突然変異をもつ微生物を本発明の転位可能なエレメントを使用して創製し得る。トランスポゾンは、ゲノム全体のいかなる部位にもそれ自身を挿入することができ、そしていずれかの特定の場所に制限されない。各個々の微生物は特定の一位置に突然変異を有する。いくつかの態様において、挿入は、クオラムセンシング遺伝子、代謝遺伝子、調節遺伝子、細胞外因子遺伝子、細胞若しくは分泌型遺伝子、ならびにORFの存在および/若しくは他の生物体との配列の保存に基づくいずれかの推定の遺伝子(「仮説上遺伝子」若しくは「保存される仮説上遺伝子」)よりなる群から選択される遺伝子中にある。あるいは、挿入は、自己誘導物質、酵素、構造タンパク質、膜タンパク質、輸送体、共輸送体、若しくは機能的RNA分子(rRNA、tRNA、tmRNA若しくは小分子RNAのような)、および微生物ゲノム中のいずれかの他の遺伝子をコードする遺伝子中にありうる。
【0157】
トランスポゾン若しくは他のDNA配列のランダム組込みは、異なる遺伝子が各変異体で挿入で不活性化されかつ各変異体が異なるマーカー配列を含有する複数の独立に変異された微生物の単離を可能にする。こうした挿入変異体の集合物を、各ウェルが異なる変異体微生物を含有するようにウェル付き(welled)マイクロタイター皿に配列する。各個別の変異体微生物からの独特のマーカー配列を含んでなるDNA(便宜的にはクロー
ンからの全DNAを使用する)を保存する。これは、マイクロタイター皿から微生物のサンプルを取り出すこと、核酸ハイブリダイゼーションメンブレン(ニトロセルロース若しくはナイロンメンブレンのような)上にそれをスポットすること、アルカリ中で微生物を溶解すること、および核酸をメンブレンに固定することにより行う。従って、ウェル付きマイクロタイター皿の内容物のレプリカが作成される。
【0158】
ウェル付きマイクロタイター皿からの微生物のプールを作成しそしてDNAを抽出する。このDNAは、「標識」に隣接する共通の「アーム」にアニーリングするプライマーを使用するPCRの標的として使用し、そして増幅したDNAを例えばP32で標識する。PCRの産物を使用して各個々の変異体から保存したDNAをプロービングして、ウェル付きマイクロタイター皿のレプリカの参照ハイブリダイゼーションパターンを提供する。これは、個々の微生物のそれぞれが実際にマーカー配列を含有すること、および該マーカー配列を効率的に増幅かつ標識し得ることの確認である。
【0159】
トランスポゾン変異体のプールを作成して特定の環境に導入する。96ウェルマイクロタイター皿を使用し得、そして該プールは96種のトランスポゾン変異体を含有する。理論的には、該プールの下限は2変異体であり;該プールの大きさに対する理論的上限は存在しない。
【0160】
別の局面において、本発明は、微生物が高密度で増殖しかつ/若しくはより高い容量生産性を達成することを可能にする遺伝子の同定方法を提供する。該方法は、遺伝子破壊ライブラリースクリーニングからの第一回の選択後に選択される個別の変異体から挿入で不活性化される遺伝子若しくはその部分を単離することを含んでなる。しかしながら、本明細書の別の場所で論考されるとおり、該変異体の表現型がより高密度で増殖しかつ/若しくはより大きい容量生産性を達成する高められた能力である限りは、いかなる型の突然変異もスクリーニングし得る。追加の回のスクリーニングおよび選択を実施し得る。ともかく、標準的分子生物学技術を使用して該遺伝子を単離かつ特徴付けし得る。独特のマーカーを含有する遺伝子の単離方法は分子生物学の技術分野で公知である。遺伝子プロービング方法は分子生物学の技術分野で公知である。本発明の実務での使用に適する分子生物学的方法は、Sambrookら、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL、第1〜3巻(第3版、Cold Spring Harbor Press、ニューヨーク 2001)(引用することにより本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0161】
ベクター
本発明は、本発明の核酸配列、オープンリーディングフレームおよび遺伝子を含んでなるベクター、ならびにこうしたベクターを含有する宿主細胞を包含する。本明細書で同定されるクオラムセンシング遺伝子は容易に単離され得、かつ、コードされる遺伝子産物は慣例の方法により発現され得るため、本発明はそれらの遺伝子によりコードされるポリペプチド、ならびに最低約50%、若しくはより好ましくは約60%、若しくはより好ましくは約70%、若しくはより好ましくは約80%、若しくはより好ましくは約90%若しくは最も好ましくは約95%のタンパク質の配列同一性を有する遺伝子もまた提供する。
【0162】
「ベクター」という用語は、核酸配列を複製かつ/若しくは発現し得る細胞への導入のためそれを挿入し得る核酸分子を指すのに使用する。核酸は、該ベクターを導入している細胞に対しそれが外来であること、若しくは該配列が該細胞中の配列に相同であるがしかし通常該配列が見出されない宿主細胞核酸内の一位置にあることを意味している「外因性」であり得る。当業者は、Sambrookら、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL、第1〜3巻(第3版、Cold Spring Harbor Press、ニューヨーク 2001)およびAusubelら(1
997、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、ニューヨーク)(双方とも引用することにより本明細書に組み込まれる)に記述される標準的組換え技術によりベクターを構築する素養が十分にあるとみられる。
【0163】
「発現ベクター」という用語は、転写されることが可能な遺伝子産物の少なくとも部分をコードする核酸配列を含有するベクターを指す。いくつかの場合、RNA分子はその後タンパク質、ポリペプチド若しくはペプチドに翻訳されうる。他の場合にはこれらの配列は翻訳されない(例えばアンチセンス分子若しくはリボザイムの産生において)。発現ベクターは、特定の宿主生物体で作動可能に連結されたコーディング配列の転写およびおそらく翻訳に必要な核酸配列を指す多様な「制御配列」を含有し得る。
【0164】
ベクターは典型的にプロモーター領域を含有する。「プロモーター」は転写の開始および速度を制御する核酸配列の一領域である制御配列である。それは、調節タンパク質および分子がRNAポリメラーゼおよび他の転写因子のようなを結合しうる遺伝因子を含有しうる。「効果的に配置される」、「作動可能に連結される」、「制御下」および「転写制御下」という句は、プロモーターが核酸配列の転写開始および/若しくは発現を制御するためにその配列に関して正しい機能的位置および/若しくは向きにあることを意味している。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関与するシスに作用する制御配列を指す「エンハンサー」とともに使用しても若しくはしなくてもよい。
【0165】
プロモーターは、コーディングセグメントの上流に配置される5’非コーディング配列を単離することにより得ることができるところの遺伝子若しくは配列と天然に関連するものでありうる。同様に、エンハンサーは、核酸配列の下流若しくは上流いずれかに配置されるその配列と天然に関連するものでありうる。あるいは、組換え若しくは異種プロモーター(その天然の環境で核酸配列と天然に関連しないプロモーターを指す)の制御下にコーディング核酸セグメントを配置することにより、ある種の利点を得ることができる。組換え若しくは異種エンハンサーは、その天然の環境で核酸配列と天然に関連しないエンハンサーもまた指す。
【0166】
発現のため選ばれた細胞型においてDNAセグメントの発現を効果的に指図するプロモーターおよび/若しくはエンハンサーを使用することが有利である。分子生物学の技術分野の当業者は、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサーおよび細胞型の組合せの使用を一般に知っており、例えば、Sambrookら、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL、第1〜3巻(第3版、Cold
Spring Harbor Press、ニューヨーク 2001)を参照されたい。使用されるプロモーターは、構成的、組織特異的、誘導可能、ならびに/または、より高い細胞密度、所望の生成物の増大された収量、増大された量の容量生産性、不要な共代謝物の除去、安価な炭素および窒素源の改良された利用、ならびに醗酵槽条件への適応、一次代謝物の増大された産生、二次代謝物の増大された産生、酸性条件に対する増大された耐性、塩基性条件に対する増大された耐性、有機溶媒に対する増大された耐性、高塩条件に対する増大された耐性、高若しくは低温に対する増大された耐性などまで微生物を増殖させるのに有利であるような、導入されるDNAセグメントの高レベル発現を指図するための適切な条件下で有用でありうる。
【0167】
ベクターを宿主細胞中で増殖させるために、それは、複製が開始される特殊な核酸配列である1個若しくはそれ以上の複製起点部位(しばしば「ori」と称される)を含有しうる。複製起点は、場合によっては特定の温度で活性であっても若しくはなくてもよい(すなわち温度感受性)。
【0168】
本発明のある態様において、該細胞は本発明の核酸構築物を含有し、細胞は発現ベクター中にマーカーを包含することによりin vitroで同定しうる。こうしたマーカーは同定可能な変化を該細胞に賦与して該発現ベクターを含有する細胞の容易な同定を可能にするとみられる。一般に、選択可能なマーカーは選択を可能にする特性を賦与するものである。陽性の選択可能なマーカーは該マーカーの存在がその選択を見込むものである一方、陰性の選択可能なマーカーはその存在がその選択を予防するものである。陽性の選択可能なマーカーの一例は薬剤耐性マーカーである。
【0169】
通常、薬剤選択マーカーの包含は形質転換体のクローニングおよび同定で補助し、例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシンおよびヒスチジノールに対する耐性を賦与する遺伝子が有用な選択可能なマーカーである。条件の実行に基づく形質転換体の識別を見込む表現型を賦与するマーカーに加え、その基礎が比色分析であるGFPのような選択可能なマーカーを包含する他の型のマーカーもまた企図している。あるいは、単純疱疹ウイルスチミジンキナーゼ(tk)若しくはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)のようなスクリーニング可能な酵素を利用しうる。当業者は、おそらくFACS分析とともにの蛍光若しくは化学発光マーカーの使用方法もまた知っているとみられる。使用されるマーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時にそれが発現されることが可能である限りは重要であると考えられない。選択可能かつスクリーニング可能なマーカーのさらなる例は当業者に公知である。
【0170】
本発明のある局面において、トランスポゾンを含有する細胞は特殊なマーカーで同定される。こうしたマーカーは、トランスポゾンが宿主のゲノムに組込まれた状況下でのみ出現する容易に検出可能な表現型をそれらの組換え宿主に賦与する。一般に、レポーター遺伝子は、細胞培養物の分析により、例えば細胞培養物の薬剤耐性または蛍光測定若しくは分光測定分析により検出可能である、該宿主細胞によりそうでなければ産生されないポリペプチドをコードする。
【0171】
選択マーカーに関して、導入遺伝子発現のマーカーとして緑色蛍光タンパク質(GFP)を本発明での使用に企図している。GFPの使用は外因性に添加される基質を必要とせず、近UV若しくは青色光による照射のみ必要とし、そして従って生存細胞での遺伝子発現のモニターにおける使用に対する大きな潜在性を有する。他の特定の例は、酵素ホタルおよび細菌のルシフェラーゼ、ならびに細菌酵素β−ガラクトシダーゼおよびβ−グルクロニダーゼである。この分類内の他のマーカー遺伝子は当業者に公知であり、そして本発明での使用に適する。
【0172】
宿主細胞に検出可能な特徴を賦与する他の分類のレポーター遺伝子は、それらの形質転換体を毒素に対し抵抗性にするポリペプチド、一般に酵素をコードするものである。この分類のレポーター遺伝子の例は、当該技術分野で公知の多くの他者とともに、毒性レベルの抗生物質G418に対し宿主細胞を保護するneo遺伝子、ストレプトマイシン耐性を賦与する遺伝子、ハイグロマイシンB耐性を賦与する遺伝子、メトトレキサートに対する耐性を賦与するジヒドロ葉酸還元酵素をコードする遺伝子、酵素HPRTである。クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)はクロラムフェニコールに対する耐性を賦与し、またβ−ラクタマーゼ遺伝子はアンピシリン耐性を賦与する。
【0173】
本発明によれば、核酸配列は当業者に既知の標準的方法論を使用して所望の細胞(例えば細菌細胞)に移入する。本発明のある態様において、ベクター若しくはそれ以外の構築物は電気穿孔法を介して細胞に導入する。電気穿孔法は細胞の懸濁液およびDNAの高電圧放電への曝露を必要とする。電気穿孔法は細菌で良好に作用する。
【0174】
本発明の他の態様において、構築物はリン酸カルシウム沈殿を使用して細胞に導入する
。別の態様において、発現構築物はDEAEデキストラン、次いでポリエチレングリコールを使用して細胞に送達される。
【0175】
本発明の別の態様は、裸のDNA発現構築物を粒子照射によって細胞中に移入することを包含する。この方法は、DNA被覆した微粒子を、それらを死滅させることなくそれらに細胞膜を貫通させかつ細胞に進入させる高速まで加速する能力に依存する(Kleinら、1992、Biotechnology 24:384−6)。小粒子を加速するための数種の装置が開発されている。1つのこうした装置は電流を生成するために高電圧放電に頼り、この電流は順に輸送力を提供する。使用される微粒子はタングステン若しくは金ビーズのような生物学的に不活性の物質よりなる。本発明のさらなる態様は、直接微小注入若しくは超音波負荷による発現構築物の導入を包含する。
【0176】
宿主細胞中に構築物を導入するための化学的手段は、巨大分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズおよび水中油型乳剤を包含する脂質に基づく系、ミセル、混合ミセルならびにリポソームのようなコロイド分散系を包含する。こうした系の製造および使用は当該技術分野で公知である。
【0177】
宿主細胞に外因性核酸を導入するのに使用される方法に関係なく、宿主細胞中の組換えDNA配列の存在を確認するために多様なアッセイを実施しうる。こうしたアッセイは、例えば、サザンおよびノーザンブロッティング、RT−PCRおよびPCRのような当業者に公知の「分子生物学的」アッセイ;例えば免疫学的手段(ELISAおよびウエスタンブロット)により、若しくは本発明の範囲内にある剤を同定するための本明細書に記述されるアッセイにより、特定の1ペプチドの存在若しくは非存在を検出することのような「生化学的」アッセイを包含する。
【0178】
選択
宿主細胞へのポリヌクレオチドの導入(例えば遺伝子破壊ライブラリー、トランスポゾン突然変異誘発、活性化突然変異など)後に、当業者は多様な基準を使用して適切な形質転換株を選択することができる。制限しない一例として、スクリーニング過程をトランスポゾン突然変異誘発手順の本文で論考する。選択の第一のレベルで、トランスポゾンを取り込んだ宿主細胞を同定することを単純に願うことができる。第二のレベルで、おそらくトランスポゾンの組込みの部位およびそれにより引き起こされる影響に基づき形質転換体の特定の機能的属性を探すことができる。ならびに、第三のレベルで、場合によっては遺伝子を同定若しくはその機能を帰属する目的上、組込みの正確な性質および場所を同定することが望ましいとみられる。これらの選択のそれぞれの多様な達成方法を下述する。
【0179】
一態様において、トランスポゾンは選択可能なマーカーを含有し得る。選択可能なマーカーは、形質転換体の容易な同定および選択を可能にする1要素、通常はポリペプチドである。古典的かつしばしば使用される選択可能な一マーカーは抗生物質に対する耐性を賦与するタンパク質をコードする遺伝子である。選択手順で有用な抗生物質は当業者に公知であり、そしてクロラムフェニコール、アンピシリン、ハイグロマイシンB、ピューロマイシン、ゼオシン、G418および他者を包含する。
【0180】
抗生物質の選択方法は当業者に公知である。適切な濃度の抗生物質は所望の目的に基づき公知である。例えば、細菌細胞は宿主細胞の増殖に別の方法で適する他の条件下で抗生物質とともに培養する。選択は、連続する回のより厳格な選択とともに抗生物質の濃度を増大することを使用することもまた必要としうる。選択は、ブロス培養物中でありうるか、若しくは寒天上でプレーティングされうるか、または双方の連続的組合せでありうる。
【0181】
別の態様において、形質転換体は蛍光若しくは発光マーカーの発現に基づいて選択しう
る。マーカーは赤色蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質、シアン蛍光タンパク質若しくはそれらのバリアントでありうる。発光マーカーはルシフェラーゼを包含する。この局面において、本発明は蛍光標示式細胞分取(FACS)を利用しうる。この技術は、それらの蛍光の大きさおよび色に基づき懸濁液中の細胞を迅速に分離し得る機械を利用する。一般に、蛍光タンパク質で標識された細胞を含有する細胞懸濁液を、全部の細胞が一列で通過するように細い流れに向ける。この流れは1秒あたり約40,000サイクルで振動するノズルから出現し、これは該流れを各秒40,000個の別個の液滴に分裂する。これらのいくつかは細胞を含有しうる。それが液滴に分裂する直前にレーザー光線を流れに向ける。各標識された細胞が該光線を通過する際にその生じる蛍光が光電セルにより検出される。2個の検出器からのシグナルが蛍光および大きさについて設定された基準のいずれかと合致する場合に、電荷(+若しくは−)が流れに与えられる。一対の荷電した金属板の間を液滴が通過する際にそれらがこの電荷を保持する。正に荷電した滴は負に荷電した板に誘引され、そして逆もまた同じである。荷電していない液滴(細胞を含有しないもの、若しくは蛍光および大きさの所望の基準に合致することに失敗する細胞)は第三の容器に素通りしそして後に廃棄される。この装置は1分あたり約300,000細胞を分取し得る。
【0182】
別の局面において、本発明は変異体とそれらの親株の間の機能の差違の同定方法を包含する。機能の差違は増殖、倍加時間、栄養素依存性、薬物感受性若しくは病原性を包含する多様な異なる特質のいずれでもありうる。
【0183】
別の態様において、本発明は、マーカー遺伝子をコードするセグメントを含有するがしかし転写を遂げるのに必要とされる制御配列を欠くトランスポゾンの使用を包含する。しかしながら、トランスポゾンがプロモーター配列近くに組込む場合、該隣接するプロモーターはそうでなければプロモーターなしのマーカー遺伝子の発現を駆動してそれにより本文書の別の場所に記述されるところの同定/選択を可能にしうる。プロモーターなしマーカーがトランスポゾンの一方の末端近くに配置されること、およびマーカーの5’端が最も近いトランスポゾン末端に最も近いことが一般に望ましい。
【0184】
いくつかの態様において、特定のトランスポゾンがどこに挿入されたかを同定することが望ましいことができる。これは、RFLP型手順(制限、次いでゲノムフラグメントの大きさ分離)を使用して、若しくは配列決定により、大まかな遺伝子マッピングのレベルで実施し得る。後者は、中断されそしていくつかの場合には以前に記述されていない機能を目的の遺伝子に帰する配列の正確な同定を可能にする。シークェンシングは、隣接するゲノム配列への合成をプライミングするためトランスポゾン配列を使用して多様な様式で遂げることができる。
【0185】
当業者は、本明細書に示される開示に基づき、本発明での使用に多数の生物体、技術および代謝経路が利用可能であること、ならびに多様な醗酵生成物を本発明により所望のとおり得ることができることもまた認識するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0186】
本発明を具体的に説明する目的上、本発明のある態様を図面で描く。しかしながら、本発明は、該図面に描かれる態様の正確な配置および手段に制限されない。
【図1】本発明のpAB301プラスミドの像である。
【図2】本発明のpAB303プラスミドの像である。
【図3】図3Aおよび3Bを含んでなり、トランスポゾン挿入突然変異誘発の図解である。図3Aは、転位酵素複合体を生じるためのMu転位酵素複合体(transpososome)および合成DNAのin vitro集成を示す漫画である。図3Bはmini−MuのDNA構造の図解である。
【実施例】
【0187】
実験実施例
本発明は以下の実験実施例への言及により詳細にさらに記述される。これらの実施例は具体的説明のみの目的上提供され、そして別の方法で明記されない限り制限することを意図していない。従って、本発明は、以下の実施例に制限されると決して解釈されるべきでなく、しかしむしろ本明細書に提供される教示の結果として明らかになるいずれかのおよび全部の変形物を包含すると解釈されるべきである。
【0188】
実験実施例1:遺伝子改変
エタノール製造の戦略
ザイモモナス モビリス(Zymomonas mobilis)の増殖により達成される最大細胞密度は、AHLシグナル分子を利用する1型クオラムセンシングにより影響を及ぼされる。緑膿菌(P.aeruginosa)からのPvdQ(核酸配列、配列番号3およびアミノ酸配列、配列番号4)若しくはB.セレウス(B.cereus)からのAiiA(核酸配列、配列番号5およびアミノ酸配列、配列番号6)のようなAHL分解酵素のZ.モビリス(Z.mobilis)での異種発現を使用して、より高密度まで増殖する誘導体Z.モビリス(Z.mobilis)株を創製し得る。しかしながら、AHL基質を変える若しくは分解するいかなるAHLアシラーゼ若しくはAHLラクトナーゼも同一目的上使用し得る。より高密度まで増殖するZ.モビリス(Z.mobilis)株は、リアクターの容量生産性が醗酵生物体の細胞密度に直接比例して増大するために、例えば糖からのエタノールの醗酵生産に商業上価値がある。
【0189】
Z.モビリス(Z.mobilis)でのLuxR型タンパク質の同定
Z.モビリス(Z.mobilis)により産生されるLuxRホモログを、既知のLuxR型タンパク質に対するアミノ酸配列および構造の類似性により同定した。ビブリオ
フィシェリ(Vibrio fisherii)からのLuxR、A.ツメファシエンス(A.tumefaciens)からのTraRおよび大腸菌(Escherichia coli)からのSdiAを包含する異なる生物体からの多様な既知のLuxR型タンパク質のアミノ酸配列を、LuxRタンパク質ファミリーに対する相同性を有するタンパク質についてZ.モビリス(Z.mobilis)ZM4ゲノム(Seoら、2004、Nat Biotecnol.、23:63−68;GenBank受託番号AE008692)を検索するためのクエリとして使用した。該検索は、潜在的に関係する配列を同定するため位置特異的スコアリングマトリックスを計算する、デフォルトのパラメータを用いるPsi−BLASTアルゴリズムを使用して実施した。本実施例において、ZM4ゲノムからの1種の予測されるタンパク質コーディング配列YP_162698(核酸配列、配列番号1およびアミノ酸配列、配列番号2)を、ありそうな機能的関係を示すLuxRに対する有意の相同性を伴い独特に同定した。同定されたタンパク質は4e−06というPsi−BLAST Expectスコアを示し、そしてその長さにわたりLuxRに22%同一(196残基の45)および46%類似(196残基の91)であった。
【0190】
同定されたZ.モビリス(Z.mobilis)LuxR型タンパク質のモデル化
DNAおよびAHL結合に関与するアミノ酸残基を予測するため、DNAおよび結合型AHLシグナル伝達分子とのその相互作用を示すZ.モビリス(Z.mobilis)LuxR型タンパク質YP_162698の構造モデルを構築した。相同性モデル化を使用してYP_162698の三次元原子モデルを形成した。該モデルを形成するため、YP
_162698のアミノ酸配列を、2種の既存のLuxR型タンパク質の構造鋳型すなわちA.ツメファシエンス(A.tumefaciens)からのTraRおよび大腸菌(Escherichia coli)からのSdiAのアミノ酸配列のそれぞれと整列した。該アライメントはmGenTHREADER(McGuffinら、2003、Bioinformatics、19:874−881;http://bioinf.cs.ucl.ac.uk/psipred/で入手可能)(それらのそれぞれは遠隔に関係する生物体からの関係するタンパク質配列を整列することが可能である)を包含する、それらのデフォルトのパラメータを使用する数種の構造に基づくフォールド認識(fold recognition)アルゴリズムを使用して形成した。Swiss−Modelサーバから入手可能なモデル形成ソフトウェアを使用して、各鋳型構造について公表された原子座標に基づく各Z.モビリス(Z.mobilis)タンパク質のフルアトム(full−atom)相同性モデルを形成した。該モデルを、アミノ酸残基の幾何学的構造の立体化学分析を実行するPROCHECKソフトウェア(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン生化学・分子生物学部、英国ロンドン http://www.biochem.ucl.ac.uk/〜roman/procheck/procheck.htmlで利用可能)、および標準的原子容からの逸脱を検査するPROVEソフトウェア(Service de Conformation des Macromolecules Biologiques et de Bioinformatique、ブリュッセル自由大学、ブリュッセル http://www.ucmb.ulb.ac.be/SCMBB/PROVE/で利用可能)を用いてタンパク質構造を検査することにより検証した。PROCHECKおよびPROVEはそれらのデフォルトのパラメータとともに使用して、該モデル中の特定の目的の領域(例えばAHLおよびDNA結合表面)が共通のタンパク質構造から大きく逸脱しなかったことを確認した。例えば、ペプチド結合のφおよびψ角度の範囲をラマチャンドランプロットで検査した。
【0191】
該モデルを使用して、Z.モビリス(Z.mobilis)のホモログタンパク質中のどのアミノ酸残基がDNA結合に関与していることがありそうであったかを予測した。Z.モビリス(Z.mobilis)からのLuxRホモログ中の潜在的DNA分子結合接触点は、結合したDNA分子に近接した残基について該モデルを検査することにより同定される。DNA結合に直接影響を及ぼしうる合計15残基がYP_162698中で同定される。他の残基は、ありそうには、例えばAHL分子と直接相互作用する他の残基のコンホメーションを安定化することにより間接的にAHL結合に重要である。該モデルはまた、Z.モビリス(Z.mobilis)のホモログタンパク質中のどのアミノ酸残基がAHL結合に関与することがありそうであったかを予測するのにも使用する。
【0192】
Z.モビリス(Z.mobilis)からのLuxRホモログ中の潜在的AHL結合接触点を、結合したAHL分子に近接した残基について該モデルを検査することにより同定した。AHL結合に直接影響を及ぼしうる合計21残基がYP_162698で同定された。他の残基は、ありそうには、例えばDNA分子と直接相互する他の残基のコンホメーションを安定化することにより間接的にDNA結合に重要である。
【0193】
変異体LuxR型タンパク質の構築
以下すなわち
1)タンパク質とAHL分子の間の結合の親和性を低下させる、
2)標的DNA活性化配列でDNA結合を不安定化する、
3)タンパク質フォールディングスイッチの活性のコンホメーションを不安定化する
の最低1つを行うことが予測されたZ.モビリス(Z.mobilis)LuxR型タンパク質(例えばYP_162698)をコードするDNA配列に突然変異を導入する。突然変異は、ランダムおよび部位特異的双方の突然変異誘発戦略を使用して、Z.モビリス(Z.mobilis)LuxR型タンパク質(例えばYP_162698)をコードす
るDNA配列に導入する。
【0194】
タンパク質フォールディングスイッチの適正な機能に参画する特定のアミノ酸を変えるため、LuxR型タンパク質をコードする配列全体にランダム突然変異を導入し、そしてその後、タンパク質フォールディングスイッチ機構を妨害し得るものを同定するためにスクリーニングする。ランダム突然変異誘発は、GeneMorphキット(Stratagene、カリフォルニア州ラホヤ)、または本発明により所望のとおりランダム突然変異を生成することが既知若しくは予測されるいずれかの他の方法を使用して実施し得る。
【0195】
部位特異的突然変異誘発は、Quick−Siteキット(Stratagene、カリフォルニア州ラホヤ)、またはcDNAに突然変異を導入するためのいずれかの他の適するキット若しくは方法を使用して実施して、相同性モデルで同定され、かつ、DNA分子と結合するために重要であることが、若しくはAHL分子との結合に重要として予測される特定のアミノ酸(例えばYP_162698中の36アミノ酸残基)に所望の変更を行う。各部位で、2種の異なる突然変異を導入して保存的および非保存的双方の置換を創製し得る。
【0196】
突然変異は、以下すなわち
1)タンパク質とAHL分子の間の結合の親和性を低下させる、
2)標的DNA活性化配列でのDNA結合を不安定化する、および
3)タンパク質フォールディングスイッチの活性のコンホメーションを不安定化する
の最低2つを行うことが予測された改変の組合せを作成するためにランダムおよび部位特異的突然変異誘発戦略の組合せを使用して、Z.モビリス(Z.mobilis)LuxR型タンパク質をコードするDNA配列に導入する。
【0197】
Z.モビリス(Z.mobilis)での変異体LuxR型タンパク質の発現
Z.モビリス(Z.mobilis)での使用のためのプラスミド発現ベクターを以前に記述された方法(全般として、Sambrookら、2001、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory、ニューヨーク;Ausubelら、1997、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、ニューヨーク、およびGerhardtら編、1994、Methods for General and Molecular Bacteriology、米国微生物学会(American Society for Microbiology)、ワシントンDC中を参照されたい)に従って構築する。本発明の一態様において、大腸菌(E.coli)tacプロモーター配列(trpおよびlacプロモーターの融合)ならびに構成的に発現されるlacIリプレッサー遺伝子を含有するDNAフラグメントをPCRにより増幅し、そして広範な宿主範囲のベクターpBBR1MCS−2(Genbank受託番号U23751;Kovachら、1994、Biotechniques 16:800−802.)にクローン化してプラスミドpAB300を創製する。tacプロモーターはZ.モビリス(Z.mobilis)中で機能し、そして増殖培地(ref)に添加されたIPTG誘導物質分子の濃度に応答して下流の遺伝子の誘導可能な差次的発現を見込む。他の誘導可能なプロモーター配列もまた差次的発現に使用し得、そして、本明細書に示される開示に基づき当業者により理解されるとみられる。Z.モビリス(Z.mobilis)からのLuxR型タンパク質YP_162698をその後、ZM4ゲノムDNAからのPCRによりにより増幅し、そしてtacプロモーターから下流にクローン化してプラスミドpAB301(図1)を創製する。クローンは大腸菌(E.coli)中で構築し、そしてその後12kV/cmの10msパルスを使用する電気穿孔法によりZ.モビリス(Z.mobilis)に移入する。形質転換体は、200μg ml−1カナマイシンを含有するリッチ培地(RM)寒天プレートで選択かつ単離する。
【0198】
発現変異体LuxR型タンパク質YP_162698の影響を、多様な遺伝子改変を含有する多様なプラスミド発現ベクターでZ.モビリス(Z.mobilis)株を形質転換すること、およびクローン化した遺伝子の発現をIPTGで誘導することにより検査する。集団細胞密度に影響を及ぼす特定の突然変異を、1mLの液体RM培地中30℃で12時間増殖させた培養物の600nmでの光学密度を測定することにより同定した。
【0199】
LuxR型遺伝子の染色体コピーの不活性化
本発明の一態様において、同定されたLuxR遺伝子の既存の染色体コピーからの干渉を伴わずに変異体LuxR型タンパク質の発現の影響を評価するために、YP_162698の染色体コピーを自殺ベクターの組込みにより不活性化する。自殺ベクター、例えばプラスミドR6Kからの条件付き(conditioal)複製起点を含有するpGPG8(Kolterら、1978、Cell 15:1199−1208)は、細胞の別の場所でのpir遺伝子の発現によりPiタンパク質が存在する場合にのみ複製する。pir遺伝子は該プラスミドに保有されないため、Piタンパク質が存在しない場合、該プラスミドは例えば大腸菌(E.coli)若しくはZ.モビリス(Z.mobilis)中で複製することが不可能である。pAB302と命名されるpGPG8の一誘導体を、ゲンタマイシン耐性をコードする遺伝子の下流にテトラサイクリン耐性をコードする遺伝子をクローニングすることにより構築する。pGPG8由来の全自殺ベクターをPi+株の大腸菌(E.coli)中で増殖させる。プラスミドpAB303(図2)は、pAB302にYP_162698遺伝子の450bpフラグメント(予測されるコーディング配列の残基50ないし200を包含する)をクローン化することにより構築する。この構築物をその後電気穿孔法を介してZ.モビリス(Z.mobilis)に形質転換する。Z.モビリス(Z.mobilis)への自殺ベクターの移入に際して、該プラスミド上の抗生物質耐性遺伝子は、該プラスミド上のYP_162698の破壊された部分と染色体中のYP_162698の完全な活性のコピーの間の相同的組換えを介して該プラスミドが染色体に組込む場合にのみ安定に遺伝され得る。この組込み事象の結果は、破壊された非機能的2コピーのYP_162698遺伝子が、それぞれ組込まれた自殺プラスミドDNAに隣接して染色体中で創製されることである。該組込まれたプラスミドは含有される抗生物質耐性(テトラサイクリン)が選択される限り安定である。
【0200】
実験実施例2:外因性剤
Z.モビリス(Z.mobilis)におけるAHL分解酵素のクローン化および発現
既知の酵素的AHL分解機構のそれぞれを表す2種のAHL分解酵素を、クオラムセンシングを破壊しかつ該生物体をより高い細胞密度まで増殖させるためにZ.モビリス(Z.mobilis)中で発現させる。選ばれる酵素は、B.セレウス(B.cereus)からのAiiA AHLラクトナーゼおよび緑膿菌(P.aeruginosa)からのPvdQ AHLアシラーゼである。
【0201】
上述された広範な宿主範囲のプラスミドpAB300を双方の酵素を発現するのに使用する。AiiAおよびPvdQをコードする遺伝子を標準的な分子生物学技術を使用してtacプロモーターの下流でpAB300にクローン化して、それによりそれぞれプラスミドpAB310およびpAB320を創製する。クローンは大腸菌(E.coli)で構築し、そしてその後電気穿孔法によりZ.モビリス(Z.mobilis)に移入する。形質転換体は、200μg ml−1カナマイシンを含有するリッチ培地(RM)寒天プレートで選択かつ単離する。
【0202】
各AHL分解酵素を発現することの影響を、1Lの液体RM培地中、培地に添加される変動する濃度のIPTG誘導物質を伴いに30℃で12時間増殖させた培養物の600n
mでの光学密度を測定することにより検査する。IPTGの増大する濃度は増大された最終細胞密度と相関する。
【0203】
ホモセリンラクトン(1型)自己誘導物質シグナルを分解するためのエステラーゼの利用
それぞれ100ミリリットルの水あたり2グラムのグルコース、1グラムの酵母抽出液(Oxoid L21)および0.2グラムのKHPOよりなる1リットルの液体RM培地を含有する4容器を準備する。
【0204】
該容器の2個中で、培地に200U/mlのフィルター滅菌したエステラーゼ、Sigma #E0887(Sigma−Aldrich Corp.ミズーリ州セントルイス)を補充し、および他の2容器中の培地はしない。未改変のZ.モビリス(Z.mobilis)細菌を、エステラーゼを含有する容器の一方およびエステラーゼを含有しない容器の一方に添加し、ならびに、遺伝子的に改変されたZ.モビリス(Z.mobilis)をエステラーゼを含有する容器の他方およびエステラーゼを含有しない容器の他方に添加する。全4個の容器を30℃のインキュベーターに12時間置く。
【0205】
該4培養物のそれぞれの細胞密度を、各培養物の連続希釈をRM寒天プレートにプレーティングすること、該プレートを30℃で12時間インキュベートすること、およびコロニー形成単位(CFU)を計数することにより測定する。遺伝子的に改変された細菌の培養物からのプレート上のCFUの数は改変されない細菌を含有するプレート上のものより大きいはずである。エステラーゼを含有する培養物からのプレート上のCFUの数は、エステラーゼを含まない培養物からのプレート上のものより大きいはずである。
【0206】
ペプチドに調節されるシグナル伝達系を阻害するための固相結合した抗体の利用
自己誘導物質ペプチドに対する抗体を当該技術分野で既知の方法を使用して生成する。該抗体をその後、製造元により開発された手順に従って一級アミノ基を介しNHS活性化したSepharose(Amersham Pharmacia Biotech)に結合する。抗体結合したSepharoseを含有するカラムを準備する。使用されるべき微生物の要件に基づき培地を調製する。サンプルをSepharoseカラムに添加しそして微生物を結合させる。培地をその後カラムから連続的に流す。この様式で自己誘導物質が抗体により除去されることができる。
【0207】
クオラムセンシングを阻害するための連続流装置の利用
微生物を、液体RM増殖培地若しくは本明細書に記述されるところのいずれかの他の適する増殖培地を含有する連続流リアクターに添加する。培地の連続除去および除去された培地の置換は自己誘導物質レベルが閾値レベルに達することを予防する。加えて、他の培養条件(例えばpH、イオン強度など)および栄養素レベルの調節を使用して自己誘導物質レベルを制御し得る。醗酵生成物は除去した培地若しくは連続培養容器から収集し得る。
【0208】
実験実施例3:増殖効果を賦与する「ノックアウト」突然変異についてのスクリーニング
以下の実験は、クオラムセンシングシグナルの産生若しくは検出の原因の遺伝子についてスクリーニングするために設計した。クオラムセンシング系の不活性化は致死的効果をもたらさないと考えられる。
【0209】
ランダム突然変異誘発は多数の理由上好ましい戦略である。回復突然変異はクオラムセンシングに関与する酵素を破壊することができると考えられているが;しかしながら増大された増殖を賦与するいかなる遺伝子変化も回復され得る。非クオラムセンシング系の遺伝子の破壊もまた増殖の利点を提供することができ、そしてこれらの系の同定は他の手段により予測可能でないかもしれない。ランダム突然変異誘発は染色体中の全遺伝子を破壊
すると期待され、そして従って配列分析により予測されるであろういかなる有用な遺伝子も同定するはずである。加えて、突然変異誘発(例えば挿入突然変異誘発)は調節DNAエレメントを同定し得、従って遺伝子工学戦略が後に恩恵を受け得る情報を提供する。
【0210】
方法
Mini−Mu DNAフラグメント構築
Mini−Mu DNAは製造元のプロトコルを使用してpEntransposon−Kan(R)(Finnzymes、フィンランド・エスポー)から製造し得る。簡潔には、pEntransposon−Kan(R)をBglIIで消化しておよそ4塩基の5’オーバーハングを有する「プレカット(precut)」トランスポゾン端を生じる。この端構造は安定なmini−Mu転位酵素複合体の効率的集成体を確保し、そしてPCRにより直接製造されるDNAよりもMuAに触媒される組込みの効率を増大する。
【0211】
転位酵素複合体集成体
転位酵素複合体は製造元の推奨(Finnzymes、フィンランド・エスポー)に従って集成し得る。簡潔には、精製したmini−Mu DNAフラグメントを、150mMのトリス−HCl(pH6.0)、50%(v/v)グリセロール、0.025%(w/v)Triton X−100、150mM NaClおよび0.1mM EDTA中1:5のモル比でMu転位酵素と組合せ、そして30℃で2時間インキュベートする。非共有タンパク質−DNA複合体を4℃で2%アガロースゲルでの電気泳動後に検出し得る。安定な転位酵素複合体は低下された移動度およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に対する感受性をもつバンドとして眼で見える。
【0212】
Z.モビリス(Z.mobilis)の増殖および電気穿孔法
株ZM4をATCC(#31821)から得、通気を伴い振とうフラスコ中30℃でRM培地(グルコース、20g L−1;酵母抽出液、10g L−1;KHPO、2g g L−1(50mM);pH6.0)上で増殖させる。標準的技術を使用してZM4を電気穿孔する。電気コンピテントな(electrocompetent)細胞を製造するため、ZM4を0.3〜0.4のOD600まで増殖させる。細胞を遠心分離により収集し、氷冷水で2回、10%グリセロールで1回洗浄し、そして細胞ペレットを10%グリセロールに懸濁する。電気穿孔法のため、転位酵素複合体混合物を水で希釈し(4倍若しくはそれ以上)、そして20〜200ngのDNAを含有するアリコートを、1mmギャップキュベット中で25μlの電気コンピテントな細胞と組合せる。電気穿孔法はBio−Rad Genepulser:25μF;1.8kV;200Ωを使用して実施する。電気穿孔した細胞を1mlのRM培地中30℃で振とうを伴わずにインキュベートしてカナマイシン耐性の表現型発現を可能にし、そしてその後、組込まれたmini−Muトランスポゾンを含有する細胞について選択するため寒天(15g L−1)およびカナマイシン(50μg mL−1)を含むRM培地上に広げる。
【0213】
挿入されたトランスポゾンの確認
最低20の独立に単離されたコロニーを、(1)遺伝子転位が起こっている、および(2)独特の部位への挿入が回復されていることを確実にするためにDNAシークェンシングにより検証し得る。DNAシークェンシングプライマーはトランスポゾンの両端について設計し、そしてシークェンシング反応は20種の変異体株のそれぞれから調製した染色体DNAを用いて実施する。生じるシークェンシングデータをZM4ゲノム配列と比較して、各mini−Mu挿入の場所を同定する。
【0214】
ライブラリー構築
突然変異誘発処置が一旦検証されれば、最低6000の独立の変異体のライブラリーを単離する。ZM4はおよそ2000種の遺伝子を含有するため、6000種の変異体のラ
イブラリーは突然変異が全遺伝子で回復されることの95%信頼度を提供する。各コロニーをRM培地およびカナマイシン(50μg mL−1)を含有する96ウェルマイクロタイタープレートの1ウェルに接種する。プレートは通気を伴い30℃で飽和密度までインキュベートする。保存のため、グリセロールを含有するレプリカプレートを−80℃で保存し得る。
【0215】
トランスポゾン挿入突然変異誘発
突然変異誘発は複雑な微生物過程に関与する遺伝子を研究するための強力なアプローチである。遺伝子が未だ解明されなければならない場合に、それらの同定のための効率的一戦略は、全部の可能な不可欠でない遺伝子中の「ノックアウト」突然変異のライブラリーを創製することである。生じるライブラリーをその後目的の表現型について試験し得る。ノックアウト突然変異の場所を決定することは、破壊された遺伝子若しくは制御配列(例えばプロモーター、オペレーター)の同一性を提供する。
【0216】
トランスポゾン挿入突然変異誘発戦略はランダム挿入ライブラリーを構築するための効率的一手段を提供する。トランスポゾン突然変異誘発は、通常、トランスポゾンが挿入された遺伝子を完全に不活性化する安定な極性突然変異を創製する。挿入の場所は、トランスポゾン端の既知配列から開始されるDNAシークェンシングにより容易に決定し得る。トランスポゾン突然変異誘発は、バクテリオファージMuの一誘導体である「mini−Mu」を使用してZ.モビリス(Z.mobilis)で成功裏に示されている。Muは転位によりそのゲノムを複製し、そして最良の研究可動性エレメントの1つである。しかしながら、染色体中の活性Muエレメントは、それが該染色体中の他の部位への転位によりそのゲノムを複製することを継続することができるために安定でない。所望の初期事象後のその後のMu転位を予防するための2戦略が存在する。
【0217】
第一の戦略は、精製されたMuA転位酵素および合成DNA配列から「転位酵素複合体」がin vitroで最初に集成される最近開発された2段階のアプローチを使用する。mini−Mu DNA分子は抗生物質耐性遺伝子に隣接する両端に転位酵素の結合部位を含有する(図3)。安定な転位酵素複合体の複合体を電気穿孔法を介して細胞に導入する。細胞に進入することに際して、転位酵素複合体はマグネシウムイオンにより活性化され、そして合成DNA配列の染色体へのランダム挿入を触媒する。
【0218】
第二の戦略はMuA転位酵素遺伝子を欠く関係するMu誘導体(Mudと称される)を利用する。転位は、「一過性シス補完」と称されるMudエレメントの外側の遺伝子からMuA転位酵素を発現することにより可能にされる。一過性シス補完はMudが染色体にランダムに飛び乗る(hop)ことを可能にするが;しかしながら、MuAをコードする遺伝子が置き去りにされるためさらなる転位は予防される。典型的に、MudおよびMuAを保有する送達されるDNAは複製しないエレメント(例えばバクテリオファージにより形質導入される複合「自殺」プラスミド若しくはDNA)であり、そしてMuA遺伝子は細胞から迅速かつ永久に喪失される。
【0219】
転位酵素複合体のin vitro集成および電気穿孔は挿入ライブラリーを創製することへの単純かつ効率的アプローチである。それはネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)LT2、軟腐病菌(Erwinia carotovora)およびエルシニア エンテロコリティカ(Yersinia enterocolitica)を包含する多くのグラム陰性細菌種で成功裏であった。MuA転位酵素はZ.モビリス(Z.mobilis)で活性であることが既知であり、そして従ってZ.モビリス(Z.mobilis)に応用可能であるとみられる。
【0220】
大腸菌(E.coli)においては、電気穿孔法および転位酵素複合体組込みの複合効
率は電気穿孔法の効率から1000倍低下された。DNA1μgあたり107までの形質転換体を達成するZ.モビリス(Z.mobilis)の高効率電気穿孔法が報告されており;転位酵素複合体の電気穿孔および組込みの効率は従ってDNA1μgあたり104の形質転換体に近づくと期待され、これは6000株の必要とされるライブラリーを構築するのに十分である。
【0221】
Z.モビリス(Z.mobilis)株Zm4は大腸菌(E.coli)によりメチル化されるDNAに対しメチル化されないDNAで10ないし1000倍より効率的に形質転換することが既知である。トランスポゾン組込みの効率を向上させることが必要な場合、適切なメチル化を伴うDNAを、(1)JM110(ecoK−)若しくはHB101(damdcm−)のようなメチル化欠損大腸菌(E.coli)株からの精製、(2)直接Z.モビリス(Z.mobilis)ZMからの精製、若しくは(3)PCRによる合成によりBglII消化前に調製し得る。
【0222】
MuA転位酵素はFinnzymes(フィンランド・エスポー)およびEpicentre(ウィスコンシン州マディソン)から商業的に入手可能である。Epicentreは、in vitroで野生型酵素より50倍より活性でありかつそのランダム挿入特異性を保持する、HyperMuTMとして知られるMuA転位酵素の一誘導体を提供する。HyperMu転位酵素の使用は、それが挿入の頻度を増大させてそれによりライブラリー構築の全体的効率を増大させうるために好ましい。
【0223】
代替の一戦略はプラスミド接合により「mini−Mu」を送達することである。必要なDNA構築物を創製するのに必要とされる追加の分子生物学作業によりより複雑かつ時間がかかるとは言え、このアプローチはZ.モビリス(Z.mobilis)で機能することが既知である。簡潔には、RP4のような接合プラスミドの誘導体が細菌種間で交配することが既知であり、また大腸菌(E.coli)とZ.モビリス(Z.mobilis)間のプラスミドDNAの接合伝達が示されている。標準的分子生物学技術を使用して、カナマイシン耐性mini−MuおよびMuA転位酵素遺伝子を含有する適切な接合プラスミドの誘導体を構築し得る。mini−MuはpEntransposon−KanRプラスミド(Epicentre)からPCRにより増幅し得る。MuAをコードする遺伝子はMuバクテリオファージに感染させた大腸菌(E.coli)株からPCRにより増幅し得る。大腸菌(E.coli)とZ.モビリス(Z.mobilis)間の交配は、適切な表面を提供するためにRM培地上で濾紙を使用することにより、本質的に本明細書の別の場所に記述されるとおり実施する。プラスミドDNAをZ.モビリス(Z.mobilis)に移入しかつ転位が発生した後、混合株を液体RM培地に再懸濁し、そして数時間インキュベートしてカナマイシン耐性の表現型発現を可能にする。選ばれた接合プラスミドはZ.モビリス(Z.mobilis)中で複製することが不可能であり;従って、カナマイシン耐性はmini−Muの染色体中への転位によってのみ安定に遺伝されることができる。混合細菌培養物をその後、カナマイシンを補充した固形RM培地上に広げて組込まれたトランスポゾンを含有するZM4誘導体について選択する。大腸菌(E.coli)細胞に対する対染色をZ.モビリス(Z.mobilis)のみが耐性である第二の抗生物質を包含することにより実施し得る。株ZM4は使用し得る多くの抗生物質に対し天然に耐性である。
【0224】
別の戦略は、クオラムセンシングを破壊するために、同定される遺伝子を直接破壊するための標的を定めた戦略を伴う。簡潔には、同定された標的遺伝子の不活性の切断型フラグメントおよび選択可能な抗生物質耐性マーカーを含有する複製しない「自殺」プラスミドを構築する。自殺ベクターをZ.モビリス(Z.mobilis)に電気穿孔する場合、それは、染色体中の活性遺伝子と該プラスミド上の不活性なコピーの間で相同的組換えが起こりそれにより染色体遺伝子を不活性化する場合にのみ安定に遺伝され得る。組込み
事象は自殺プラスミドに保有される抗生物質耐性遺伝子を使用して選択する。
【0225】
スクリーニング
ノックアウトライブラリーを挿入突然変異についてスクリーニングするため、培養物をマイクロタイタープレートで増殖させ、そしてマルチウェル分光光度計を使用して各プレート上の全培養物の光学密度を同時に測定する。光学密度は、双方の影響が同定されることを可能にするため連続的に測定する。増殖速度の変化もまたモニターする。過剰増殖は光学密度の最低10%増大として明示されることができると考えられる。該スクリーニング法は、マイクロタイタープレート中のRM培地に変異体株のそれぞれを接種することを包含するとみられ、そして飽和細胞密度までオービタルシェイカーで30℃でインキュベートした。複数プレートを同時に取り扱い得る。野生型ZM4を対照のため各プレートの数位置に接種する。マルチチャンネルピペッターを使用して、飽和培養物をマイクロタイタープレート中の200μlの新鮮RM培地に10倍希釈で接種する。プレートは通気を伴い30℃でインキュベートする。野生型培養物の画分に陽性対照として酵素を補充し;他の野生型培養物は陰性対照として酵素を伴わずインキュベートする。OD測定値は最初の8時間は1時間ごとに直接記録して短縮された誘導期の持続時間を表す培養物を同定し、そして対数増殖の速度を確立する。24時間後に定常期の光学密度を記録する。高密度(2.0〜3.0以上のOD)の不正確な示度に対し保護するため、飽和培養物は測定前にRM培地で10倍希釈する。
【0226】
変異体株を検証するため、高められた増殖を表す培養物を「経過観察」試験に選択する。高められた増殖は(1)短縮された誘導期の持続時間、(2)増大された対数増殖速度、若しくは(3)定常期の増大された密度と定義する。経過観察のための株の数を制限するため、10%以上の改善を示す変異体のみをさらに検査する。選択される変異体を再試験してそれらの表現型(1種若しくは複数)を確認しかつ各増強の大きさを測定する。正確さを向上させるため、培養物は複製物で試験しそして増大された培養物容量を使用する。
【0227】
変異体株のさらなる特徴付けは、それらの潜在的利用性および作用機序に対するさらなる洞察を提供し得る。第一に、DNAシークェンシングを実施して各挿入突然変異誘発の場所を同定する。第二に、野生型ZM4により馴化された培地に対する各変異体の感受性を検査する。突然変異はZ.モビリス(Z.mobilis)によるQSシグナルの産生若しくは検出いずれかを破壊することにより作用しうると考えられる。QSシグナル検出の破壊は該変異体株を外因性に添加されるQSシグナルに対し耐性にすることが期待される。対照的に、QSシグナル産生の破壊は、外因性シグナルによりなお阻害され得る変異体株を創製することがありそうである。第三に、単位培養物容量あたりの乾燥細胞質量および細胞タンパク質の総量を測定する。乾燥細胞質量は培養物中で産生される酵素触媒の総量と相関し、そしてエタノール生産についての該培養物の全体的生合成能力に比例して増大することが期待される。第四に、高められた容量生産性でエタノールを産生する各変異体の能力を推定するため、ADH遺伝子の容量活性を粗細胞抽出液で測定する。アルコール脱水素酵素(ADH)はZ.モビリス(Z.mobilis)によるエタノールの産生における重要な酵素であり、そして単位培養物容量あたりの増大されたADH活性は高められた醗酵生産性と相関することが期待される。
【0228】
突然変異の集合物およびそれらの関連する効果を表にし得る。最も有望な株をさらなる研究のため同定し得る。これらの株は、集合物 相加若しくは相乗的利益のため組合せ得る差次的に作用する機構を構成することができることが期待される。
【0229】
本明細書に引用されるそれぞれのおよび全部の特許、特許出願および刊行物の開示はここにそっくりそのまま引用することにより本明細書に組み込まれる。
【0230】
本発明は特定の態様に関して開示された一方、本発明の他の態様および変形物が本発明の真の技術思想および範囲から離れることなく当業者により考案されうることが明らかである。付随する請求の範囲は全部のこうした態様および同等の変形物を包含すると解釈されることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最低1個の遺伝子突然変異を含んでなる遺伝子的に改変された既知微生物であって、前記突然変異は、前記突然変異を含まずかつ同一培養条件下で培養されるそれ以外は同一の微生物の細胞密度より高い細胞密度まで増殖する能力を前記遺伝子的に改変された微生物に賦与する、上記遺伝子的に改変された微生物。
【請求項2】
突然変異がクオラムセンシングと関連する遺伝子の調節領域内にある、請求項1に記載の遺伝子的に改変された微生物。
【請求項3】
突然変異がクオラムセンシングタンパク質をコードする核酸配列中にあり;前記突然変異が
a.前記クオラムセンシングタンパク質の産生;
b.前記クオラムセンシングタンパク質の半減期;
c.前記クオラムセンシングタンパク質のクオラムセンシングシグナルに対する応答;
d.前記クオラムセンシングタンパク質の活性;および
e.微生物中における、クオラムセンシング経路との前記クオラムセンシングタンパク質の相互作用
の最低1つを調節する、請求項1に記載の遺伝子的に改変された微生物。
【請求項4】
前記突然変異が、1型クオラムセンシング経路、2型クオラムセンシング経路およびペプチドに媒介されるクオラムセンシング経路よりなる群から選択される最低1経路のクオラムセンシングシグナル伝達に関与する最低1種のポリペプチドの産生および/若しくは活性を調節する、請求項3に記載の遺伝子的に改変された微生物。
【請求項5】
前記突然変異が、1型クオラムセンシング経路、2型クオラムセンシング経路およびペプチドに媒介されるクオラムセンシング経路よりなる群から選択される最低1経路のクオラムセンシングシグナル伝達に関与するポリペプチドをコードする核酸の妨害をもたらす転位可能な妨害体である、請求項3に記載の遺伝子的に改変された微生物。
【請求項6】
前記突然変異がLuxR型タンパク質をコードする核酸配列中にあり;前記突然変異がa.前記LuxR型タンパク質のDNAへの結合;
b.前記LuxR型タンパク質のアシルホモセリンラクトン(AHL)への結合;およびc.前記LuxR型タンパク質のプロテインフォールディングスイッチ
条件
の最低1つを調節する、請求項3に記載の遺伝子的に改変された微生物。
【請求項7】
最低1種の遺伝子的を含んでなる遺伝子的に改変された既知微生物であって、前記突然変異は、前記突然変異を含まないそれ以外は同一の微生物による同一醗酵生成物の容量生産性より高い、前記微生物により産生される醗酵生成物の容量生産性を達成する能力を前記遺伝子的に改変された微生物に賦与する、上記遺伝子的に改変された微生物。
【請求項8】
突然変異がクオラムセンシングに関連する遺伝子の調節領域内にある、請求項7に記載の遺伝子的に改変された微生物。
【請求項9】
突然変異がクオラムセンシングタンパク質をコードする核酸配列中にあり;前記突然変異が
a.前記クオラムセンシングタンパク質の産生;
b.前記クオラムセンシングタンパク質の半減期;
c.前記クオラムセンシングタンパク質のクオラムセンシングシグナルに対する応答;
d.前記クオラムセンシングタンパク質の活性;および
e.微生物中における、クオラムセンシング経路との前記クオラムセンシングタンパク質の相互作用
の最低1つを調節する、請求項7に記載の遺伝子的に改変された微生物。
【請求項10】
前記突然変異が、1型クオラムセンシング経路、2型クオラムセンシング経路およびペプチドに媒介されるクオラムセンシング経路よりなる群から選択される最低1経路のクオラムセンシングシグナル伝達に関与する最低1種のポリペプチドの産生および/若しくは活性を調節する、請求項9に記載の遺伝子的に改変された微生物。
【請求項11】
前記突然変異が、1型クオラムセンシング経路、2型クオラムセンシング経路およびペプチドに媒介されるクオラムセンシング経路よりなる群から選択される最低1経路のクオラムセンシングシグナル伝達に関与するポリペプチドをコードする核酸の妨害をもたらす転位可能な妨害体である、請求項9に記載の遺伝子的に改変された微生物。
【請求項12】
前記突然変異がLuxR型タンパク質をコードする核酸配列中にあり;前記突然変異がa.前記LuxR型タンパク質のDNAへの結合;
b.前記LuxR型タンパク質のアシルホモセリンラクトン(AHL)への結合;およびc.前記LuxR型タンパク質のタンパク質フォールディングスイッチ
条件
の最低1つを調節する、請求項9に記載の遺伝子的に改変された微生物。
【請求項13】
既知微生物の集団の細胞密度の増大方法であって、前記方法が
a.遺伝子改変を微生物に導入すること;および
b.遺伝子的に改変された微生物を培地中で増殖させ、
それにより、前記改変された微生物が、前記突然変異を含まずかつ同一培養条件下で培養されるそれ以外は同一の微生物の細胞密度より高い細胞密度まで増殖すること
を含んでなる、上記方法。
【請求項14】
遺伝子改変が、クオラムセンシングと関連する遺伝子の調節領域内の突然変異である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
遺伝子改変がクオラムセンシングタンパク質をコードする核酸配列中の突然変異であり;前記突然変異が
a.前記クオラムセンシングタンパク質の産生;
b.前記クオラムセンシングタンパク質の半減期;
c.前記クオラムセンシングタンパク質のクオラムセンシングシグナルに対する応答;
d.前記クオラムセンシングタンパク質の活性;および
e.前記微生物中における、クオラムセンシング経路との前記クオラムセンシングタンパク質の相互作用
の最低1つを調節する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
突然変異が、1型クオラムセンシング経路、2型クオラムセンシング経路およびペプチドに媒介されるクオラムセンシング経路よりなる群から選択される最低1経路のクオラムセンシングシグナル伝達に関与する最低1種のポリペプチドの産生および/若しくは活性を調節する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
突然変異が、1型クオラムセンシング経路、2型クオラムセンシング経路およびペプチドに媒介されるクオラムセンシング経路よりなる群から選択される最低1経路のクオラムセンシングシグナル伝達に関与するポリペプチドをコードする核酸の妨害をもたらす転位
可能な妨害体である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
突然変異がLuxR型タンパク質をコードする核酸配列中にあり;前記突然変異が
a.前記LuxR型タンパク質のDNAへの結合;
b.前記LuxR型タンパク質のアシルホモセリンラクトン(AHL)への結合;およびc.前記LuxR型タンパク質のタンパク質フォールディングスイッチ
条件
の最低1つを調節する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
既知微生物の集団の容量生産性の増大方法であって、前記方法が
a.遺伝子改変を微生物に導入すること;および
b.改変された微生物を培地中で増殖させること
を含んでなり、
前記微生物により産生される醗酵生成物に関しての前記改変された微生物の容量生産性が、前記突然変異を含まないそれ以外は同一の微生物による同一醗酵生成物の容量生産性より高い、上記方法。
【請求項20】
遺伝子改変がクオラムセンシングと関連する遺伝子の調節領域内の突然変異である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
遺伝子改変がクオラムセンシングタンパク質をコードする核酸配列中の突然変異であり;前記突然変異が
a.前記クオラムセンシングタンパク質の産生;
b.前記クオラムセンシングタンパク質の半減期;
c.前記クオラムセンシングタンパク質のクオラムセンシングシグナルに対する応答;
d.前記クオラムセンシングタンパク質の活性;および
e.前記微生物中における、クオラムセンシング経路との前記クオラムセンシングタンパク質の相互作用
の最低1つを調節する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
突然変異が、1型クオラムセンシング経路、2型クオラムセンシング経路およびペプチドに媒介されるクオラムセンシング経路よりなる群から選択される最低1経路のクオラムセンシングシグナル伝達に関与する最低1種のポリペプチドの産生および/若しくは活性を調節する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
突然変異が、1型クオラムセンシング経路、2型クオラムセンシング経路およびペプチドに媒介されるクオラムセンシング経路よりなる群から選択される最低1経路のクオラムセンシングシグナル伝達に関与するポリペプチドをコードする核酸の妨害をもたらす転位可能な妨害体である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
突然変異がLuxR型タンパク質をコードする核酸配列中にあり;前記突然変異が
a.前記LuxR型タンパク質のDNAへの結合;
b.前記LuxR型タンパク質のアシルホモセリンラクトン(AHL)への結合;およびc.前記LuxR型タンパク質のタンパク質フォールディングスイッチ
条件
の最低1つを調節する、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
既知微生物の集団の細胞密度の増大方法であって、前記方法が
a.ポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなる核酸ベクターを微生物に導入することであって、該ポリペプチドは最低1種のクオラムセンシング経路を調節する能力を有し

b.前記微生物内で前記ポリペプチドを発現させること;および
c.改変された微生物を培地中で増殖させ、
それにより、前記改変された微生物が、前記ポリペプチドを含まずかつ同一培養条件下で培養されるそれ以外は同一の微生物の細胞密度より高い細胞密度まで増殖すること
を含んでなる、上記方法。
【請求項26】
既知微生物の集団の容量生産性の増大方法であって、前記方法が
a.ポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなる核酸ベクターを微生物に導入することであって、該ポリペプチドは最低1種のクオラムセンシング経路を調節する能力を有し;
b.前記微生物内で前記ポリペプチドを発現させること;および
c.改変された微生物を培地中で増殖させること
を含んでなり、
前記微生物により産生される醗酵生成物に関する前記改変された微生物の容量生産性が、前記ポリペプチドを含まないそれ以外は同一の微生物による同一醗酵生成物の容量生産性より大きい、上記方法。
【請求項27】
醗酵生成物の製造方法であって、前記方法が
a.クオラムセンシングタンパク質をコードする核酸配列中に最低1個の突然変異を含んでなる遺伝子的に改変された既知微生物を提供することであって;前記突然変異は
i.前記クオラムセンシングタンパク質の産生;
ii.前記クオラムセンシングタンパク質の半減期;
iii.前記クオラムセンシングタンパク質のクオラムセンシングシグナルに対する応答;
iv.前記クオラムセンシングタンパク質の活性;および
v.前記微生物における、クオラムセンシング経路との前記クオラムセンシングタンパク質の相互作用
の最低1つを調節し;
b.前記遺伝子的に改変された微生物を培地中で培養すること
を含んでなり、
前記突然変異が、前記突然変異を含まないそれ以外は同一の微生物による同一醗酵生成物の容量生産性より高い、前記微生物により産生される醗酵生成物の容量生産性を達成する能力を前記遺伝子的に改変された微生物に賦与する、上記方法。
【請求項28】
培地から最低1種の醗酵生成物を収集することをさらに含んでなる、請求項27に記載の醗酵生成物の製造方法。
【請求項29】
前記醗酵生成物が、乳酸、酢酸、コハク酸、ギ酸、酪酸、エタノール、ブタノール、アセトンおよびブタンジオールよりなる群から選択される最低1種の醗酵生成物である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記醗酵生成物がエタノールである、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
醗酵生成物の製造方法であって、前記方法が
a.ポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなる核酸ベクターを既知微生物に導入することであって、該ポリペプチドは最低1種のクオラムセンシング経路を調節する能力を有し;および
b.前記遺伝子的に改変された微生物を培地中で培養すること
を含んでなり、
前記改変された微生物が、前記ポリペプチドを含まないそれ以外は同一の微生物による同一醗酵生成物の容量生産性より高い、前記微生物により産生される醗酵生成物の容量生産性を達成する能力を有する、上記方法。
【請求項32】
クオラムセンシングと関連する遺伝子の同定方法であって、微生物細胞中の前記遺伝子の突然変異が該細胞が増大された密度で増殖することを可能にし、該方法は
a.複数の細胞に変異体核酸フラグメントのライブラリーを導入すること;
b.増大された細胞増殖を表す細胞を選択すること;
c.増大された細胞増殖を表す前記細胞から変異された核酸配列を単離すること;
d.変異された核酸を配列決定すること;
e.変異された核酸配列の配列を解析して;
それによりクオラムセンシングと関連する遺伝子を同定すること
を含んでなる、上記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2010−508021(P2010−508021A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534674(P2009−534674)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2007/022718
【国際公開番号】WO2008/066631
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(509118499)アテナ・バイオテクノロジーズ・インコーポレーテツド (1)
【Fターム(参考)】