説明

微粉末堆積成膜装置および成膜方法ならびに成膜部材

【課題】ノズル内部の噴射材による閉塞または損耗を低減し、かつ、噴射材の定量供給性を改善したエアロゾルデポジション法による微粉末堆積成膜装置およびその成膜方法ならびに成膜部材を提供する。
【解決手段】ノズルの入口部に続く円錐状の先端部以降からノズル出口部までの間に粉末供給口を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温の材料粉末とガス流を混合して噴射する噴射ノズルを用い、材料粉末を固相状態のまま基材に衝突させて皮膜を形成する微粉末堆積成膜装置および皮膜の製造方法ならびに成膜部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
代表的な皮膜作製技術としてCVD(Chemical Vapor Deposition)ならびにPVD(Physical Vapor Deposition)などの気相合成法、溶融または半溶融粒子を基材に衝突堆積させる溶射法、固体の粉末を高速で基材に衝突堆積させるコールドスプレー法(特許文献2)ならびにエアロゾルデポジション法(特許文献1)がある。
【0003】
CVDおよびPVD法は緻密な皮膜の作製が可能であるが、成膜速度が低いという問題点がある。一方、溶射法およびコールドスプレー法は成膜速度が高い反面、膜組織に気孔を多く含むという問題点がある。これらに対し、エアロゾルデポジション法など微粉末堆積成膜法では成膜速度が高く、緻密な皮膜を短時間で作製が可能であることや、金属、セラミックスなど多くの材料を成膜することが可能なため注目されている。
【0004】
しかし、図1に示す典型的なエアロゾルデポジション装置の模式図より、エアロゾル発生器内でエアロゾル化した粉末粒子をガスと共にノズルを介して加速するため、ノズル内部において金属など軟質粉末の場合は粒子付着による閉塞、セラミックスなど硬質粉末の場合は粒子衝突による損耗を引き起こし、ノズルの長期利用ができないという問題がある。
【0005】
また、エアロゾル発生器内でエアロゾル化した粉体の供給においては、定量供給が難しく、平滑な皮膜の形成が困難である。
【特許文献1】特開2003−073855号公報
【特許文献2】特開2005−095886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、金属などの軟質粉末を用いた場合の粒子付着によるノズル内部の閉塞には定期的なメンテナンスを行う、セラミックスなどの硬質粉末を用いた場合の粒子衝突による損耗にはより硬質な素材を用いたノズル作製による対策が可能であったが、作業時間やコストの点から現実的ではない。
【0007】
また、粉末の定量供給には微粉末用の粉末供給装置の使用が効果的であるが、高圧のガスを流すことから、一般的な粉末供給装置の利用は不可能である。
【0008】
本発明の目的は、エアロゾルデポジション法において、ノズル内部の閉塞または損耗を低減し、かつ、粉末の定量供給性を改善する微粉末堆積成膜装置および成膜方法ならびに成膜部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的は、本発明の方法によって達成される。
【0010】
粉末噴射ノズルにおいて、ノズル入口部に続く円錐状の先細部と、前記先細部にのど部を介して加速された加速ガス流に対し、ノズル出口部以前において、供給ガスと共に材料粉末を投入することにより、ノズルのど部における粉末衝突によるノズルの詰まりもしくは損耗を回避することができる。
【0011】
供給ガスおよび粉末投入部の位置および数は特に限定されるものではないが、例えば円筒状の平行部において同心円上で対向する位置に2つ投入部を設けることにより、粉末のノズル内壁への衝突が抑制されるため、望ましい。
【0012】
粉末供給器には市販の粉末供給装置を使用することができる。粉末供給装置の種類や原理は特に限定しないが、微粉末の定量供給に適したものが望ましい。
【0013】
次に本発明の皮膜部材の製造方法について説明する。
【0014】
本発明における成膜チャンバー内圧力は1×10−1〜2×10Paの範囲で行う。雰囲気ガスに関しては特に限定しないが、通常、加速ガス、供給ガスおよび残存空気から成る。
【0015】
本発明において、加速ガスおよび供給ガスとして用いるガス種は特に限定しないが、例えば圧縮空気、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム等を用いることができる。特にヘリウムを用いることで粒子速度の上昇が得られるため、望ましい。
【0016】
本発明は上述の微粉末堆積成膜装置および成膜方法によって皮膜を形成した部材を提供するものであり、その成膜材料や基材材質は特に限定されず、金属、セラミックス、サーメット、ガラス、有機化合物などが利用できる。
【0017】
本発明におけるノズル断面形状は、丸形や矩形形状が例にあげられるが、そうした形状に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0018】
本発明の部粉末堆積成膜装置は、粒子噴射ノズル内部における、ノズル入口部に続く円錐状の先細部と、前記先細部にのど部を介して加速された加速ガス流に対し、ノズル出口部以前において材料粉末を供給ガスと共に供給する簡便な方法により、顕著なノズル内部の損耗および詰まりの抑制効果を得ることができる。また、容易に市販の微粉末供給装置を使用することも可能であるため、粉末の均一な供給も得られ易い。本発明の皮膜製造方法は上記微粉末堆積成膜装置を用いることで製造可能であるため、製造工程が簡便である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施例を以下に説明するが、当該実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
実施例1:図1に示す微粉末堆積成膜装置を用い、平均粒径1.5μmの純銅粉末のノズル詰まりに対する有効性を検証した。実験条件として、成膜チャンバー内圧力2×10Pa、ノズル入口部圧力0.1MPa、加速ガスおよび供給ガス共にヘリウム、粉末供給量10g/minとした。
【0021】
3分間の粉末供給実験を30回繰り返し行ったが、ノズル内部での銅粉末付着によるノズル詰まりは見られなかった。
【0022】
比較例1:図2に示す微粉末堆積成膜装置を用いた以外は実施例1と同じ条件で純銅粉末のノズル詰まりに対する検証を行った。
【0023】
加速ガスと共に粉末をノズル内部に送給する、図2に示す微粉末堆積成膜装置では実験開始後3分以内に、ノズル内部での銅粉末付着によるノズル詰まりが起こった。
【0024】
実施例2:図1に示す微粉末堆積成膜装置を用い、平均粒径1.5μmのアルミナ粉末のノズルノド部の磨耗に対する有効性を検証した。実験条件として、成膜チャンバー内圧力2×10Pa、ノズル入口部圧力0.1MPa、加速ガスおよび供給ガス共にヘリウム、粉末供給量10g/minとした。
【0025】
3分間の粉末供給実験を30回繰り返し行ったが、ノズルノド部でのアルミナ粉末による磨耗は見られなかった。
【0026】
比較例2:図2に示す微粉末堆積成膜装置を用いた以外は実施例1と同じ条件でアルミナ粉末のノズルノド部の磨耗に対する検証を行った。
【0027】
加速ガスと共に粉末をノズル内部に送給する、図2に示す微粉末堆積成膜装置では実験後、ノズルノド部の断面積が、変るほど著しい磨耗が起こった。
【0028】
実施例3、銅皮膜を100μm成膜した場合に、図2に示したエアロゾルチャンバーを用いて成膜した場合、被膜厚さのばらつきが、±30μmであった。図1に示した本発明のノズルを用いて加圧式マイクロフィーダ又は、サクション式のマイクロフィーダで成膜した場合、被膜厚さのバラツキは、±7μmであった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の微粉末堆積成膜装置構成の概要を示す図である。
【図2】従来の微粉末堆積成膜装置構成の概要を示す図である。
【図3】本発明の成膜用ノズルの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
001:ノズル入り口部(ガス入り口部)
002:ノズル入口部に続く円錐状の先端部
003:粉末供給口
004:粉末・ガス噴射口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル入口部に続く円錐状の先端部以降からノズル出口部までの間に粉末供給口を設けた粉末噴射ノズルを用いることを特徴とするエアロゾルデポジション法による微粉末堆積成膜装置。
【請求項2】
先細末広円筒ノズル又は、先細円筒ノズル又は、先細末広ノズルの末広部又は、円筒部に粉末供給口を設けた粉末噴射ノズルを用いることを特徴とする請求項1に記載の微粉末堆積成膜装置。
【請求項3】
請求項1,2に記載の成膜装置を用いた成膜方法並びに成膜部材。
【請求項4】
金属又は、合金又は、2種類以上の金属を混合させた混合粉末を使用することを特徴とする請求項1,2,3に記載の微粉末堆積成膜装置並びに、成膜部材。
【請求項5】
セラミック、サーメット、ガラス、有機化合物又は、それらの複合物粉末を使用することを特徴とする請求項1,2,3に記載の微粉末堆積成膜装置並びに、成膜部材。
【請求項6】
請求項3に記載の成膜方法により皮膜を形成した部材。
【請求項7】
請求項3に記載の方法で製造した皮膜が金属又は、合金又は、2種類以上の金属を混合させた混合粉末、セラミックス、サーメット、ガラス、有機化合物又は、それらの複合物であることを特徴とする成膜部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−120914(P2009−120914A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297338(P2007−297338)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(390031185)新東ブレーター株式会社 (27)
【Fターム(参考)】