説明

微細凹凸パターンの転写方法及び転写箔

【課題】レリーフホログラム、回折格子等に係る微細凹凸パターンを忠実かつ連続的に熱可塑性樹脂フィルムの表面に賦型できるようにした微細凹凸パターンの転写方法と、それによって得られる微細凹凸パターン形成フィルムを一部に具備してなる転写箔の提供を目的とする。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムの表面に平板状の賦型原版をその微細凹凸パターンが設けられている面が密接するように重ね合わせた状態にしながら、これらを複数のローラーによって支持されながら移動する一対の耐熱性搬送ベルトの間に挟みつけて圧着させながら搬送させると共に、その過程で、加熱手段により加熱することにより賦型原版の微細凹凸パターンを熱可塑性樹脂フィルムに賦型せしめた後、冷却手段により冷却し、しかる後に賦型原版と熱可塑性樹脂フィルムの圧着状態を解放して分離し、賦型原版の微細凹凸パターンを熱可塑性樹脂フィルム面に転写・形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レリーフホログラム、回折格子、光ディスク、微小光学レンズ等に係る微細凹凸パターンを忠実かつ連続的に熱可塑性樹脂フィルムの表面に賦型できるようにした微細凹凸パターンの転写方法と、それによって得られる微細凹凸パターン形成フィルムを一部に具備してなる転写箔に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルム表面へ凹凸パターンを連続的に賦型する方法としては、従来から、金属ロールの表面に凹凸パターンが設けられてなるロール状賦型原版や、凹凸パターンを有する平板状賦型原版をロールの表面に貼りつけてなるロール状賦型原版等の金属製のロール状賦型原版を使用し、熱可塑性樹脂フィルム面に連続的に熱プレスする方法が一般的には採用されている。
【0003】
このような凹凸パターンの賦型方法に用いられる金属製のロール状賦型原版を作製する方法としては、例えば、金属ロールに旋盤で直接パターン切削する方法があるが、この方法では金属ロールの湾曲した表面に微細凹凸パターンを切削することは至難の技である。
【0004】
また、平板状の金属製賦型原版を接着剤や粘着剤を使用してロールの表面に貼りつける方法(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)や、曲面金属支持体に平板状の金属製賦型原版を物理的に固定し、複数組み合わせて略円筒状のロール状賦型原版とする方法(例えば、特許文献3参照。)もある。図3には、平板状に作製された金属製賦型原版をロール状にしてなるロール状賦型原版の例が示してある。
【0005】
このようにして得られる、凹凸パターンがその表面に設けられているロール状賦型原版を用い、熱可塑性樹脂フィルムの表面にその凹凸パターンを連続的に賦型する方法としては、図2に示すような方法が一般的には採られている。すなわち、基材フィルム3上に熱可塑性樹脂層4が設けられてなる熱可塑性樹脂フィルムを加熱手段を有するロール状賦型原版5に抱き合わせるようにして供給・搬送させると共に、加熱状態の下で圧胴6側から押圧し、熱可塑性樹脂層4上に凹凸パターンを賦型させた後、剥離ロール7でロール状賦型原版5から熱可塑性フィルムを分離させることで、賦型原版の凹凸パターンを熱可塑性樹脂フィルムの上に転写・形成させている。
【0006】
この様な方法にあっては、熱可塑性樹脂フィルムがまだ柔らかく、その表面に賦型された凹凸パターンの形状が完全に固定されない状態でロール状賦型原版から剥離させられてしまい勝ちで、賦型原版の凹凸パターンが熱可塑性樹脂フィルム上で忠実に反映し難いという問題がある。
【0007】
従来は、セキュリティー用途に用いられるレリーフホログラムや回折格子パターン等に係る凹凸パターンは細かいものでも1μm前後の凹凸を有するものがほとんどであり、このような程度の凹凸パターンであれば上記したようなロール状賦型原版を用いても連続的に凹凸パターンを賦型することが可能であった。しかしながら、最近は、セキュリティー用途に用いられるレリーフホログラムや回折格子パターン等に係る凹凸パターンとしては、よりセキュリティー性を向上させるべく、数十nm〜数百nm程度の微細な凹凸を有するものにしたいという要求が多くあり、このような要求に対応できる微細凹凸パターンの転写方法の開発が強く望まれている。
【0008】
数十nm〜数百nm程度の微細凹凸パターンを有する賦型原版を形成するには、レーザ
ーや電子線描画装置を使用した2P法が最適であり、このような方法で作製された平板状賦型原版を使用して数十nm〜数百nm程度の微細凹凸パターンを有する賦型原版が種々製造され、実用に供されている。しかし、上記したこれらの方法を利用して金属製のロール状賦型原版を作製するには、(a)曲面へのレジストの塗布、(b)曲面でのレーザーまたは電子線描画、(c)曲面での現像、エッチング、レジスト除去、等々の工程を要するため、パターンずれ、描画精度不良、作製の長期化、及び各種のムラ等の問題点が発生し、得られる金属製のロール状賦型原版は、数十nm〜数百nm程度の微細凹凸パターンを賦型するための賦型原版としては実用に供されるレベルのものではなかった。
以下に先行技術文献を示す。
【特許文献1】特開平7−314567号公報
【特許文献2】特開2001−310340号公報
【特許文献3】特開2005−212259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は以上のような状況に基づきなされたものであり、数十nm〜数百nm程度の微細凹凸パターンを設けてなる平板状の賦型原版を使用し、その微細凹凸パターンを忠実かつ連続的に熱可塑性樹脂フィルムに賦型させることを可能とした微細凹凸パターンの転写方法と、その転写方法によって得られた微細凹凸パターン形成フィルムを一部に有してなる転写箔の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされ、請求項1に記載の発明は、熱可塑性樹脂フィルムの表面に平板状の賦型原版をその微細凹凸パターンが設けられている面が密接するように重ね合わせた状態にしながら、これらを複数のローラーによって支持されながら移動する一対の耐熱性搬送ベルトの間に挟みつけて圧着させながら搬送させると共に、その過程で、加熱手段により加熱することにより賦型原版の微細凹凸パターンを熱可塑性樹脂フィルムに賦型せしめた後、冷却手段により冷却し、しかる後に賦型原版と熱可塑性樹脂フィルムの圧着状態を解放して分離し、賦型原版の微細凹凸パターンを熱可塑性樹脂フィルム面に転写・形成することを特徴とする微細凹凸パターンの転写方法である。
【0011】
請求項1に係る発明によれば、平板状の賦型原版を使用して微細凹凸パターンを忠実にかつ連続的に熱可塑性樹脂シートの表面に賦型させることが可能となる。
【0012】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の微細凹凸パターンの転写方法において、冷却手段による冷却が、賦型原版と熱可塑性樹脂フィルムとの圧着状態を解放させる部分の近傍で行われることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、賦型原版の微細凹凸パターンが熱可塑性樹脂シートの表面に忠実に賦型された状態から冷却されるまでの時間が長くとれるため、微細凹凸パターンが固定化された以降に賦型原版と熱可塑性樹脂フィルムを分離させることができるようになり、微細凹凸パターンの忠実な賦型、転写が可能となる。
【0014】
さらにまた、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の微細凹凸パターンの転写方法において、賦型原版と熱可塑性樹脂フィルムとの圧着状態を解放させた後に、微細凹凸パターンが転写・形成された熱可塑性樹脂フィルムを強制冷却することを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、熱可塑性樹脂シートの表面に賦型された微細凹凸パターンの形状を崩さずに維持することができると共に、賦型原版からの熱可塑性樹脂シートの分離を容易にする。
【0016】
さらにまた、請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の微細凹凸パターンの転写方法において、前記賦型原版は、電鋳法で作製されたニッケルまたはニッケル合金からなることを特徴とする。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、微細凹凸パターンを設けてなる賦型原版を容易に複版することができ、それを基に微細凹凸パターンを熱可塑性樹脂シートに常に忠実に賦型することが可能となる。
【0018】
さらにまた、請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の微細凹凸パターンの転写方法において、前記熱可塑性樹脂フィルムは、その微細凹凸パターンを転写・形成させようとする面のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する樹脂シートが他方の面に積層されてなる複層フィルムであることを特徴とする。
【0019】
請求項5に係る発明によれば、このような構成の複層フィルムの使用により、シームレス金属ベルト等の高価な耐熱性搬送ベルトを傷めることが少なくなる。
【0020】
さらにまた、請求項6記載の発明は、請求項5に記載の微細凹凸パターンの転写方法において、前記熱可塑性樹脂フィルムは、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に少なくともアクリルを主成分とする1乃至10μmの範囲の厚さの熱可塑性樹脂層が積層されてなる複層フィルムであることを特徴とする。
【0021】
請求項6に係る発明によれば、微細凹凸パターンの賦型の際に加えられる熱によるフィルムの反りを抑えることができると共に、賦型し終わった熱可塑性樹脂フィルムの巻き取り時に起きる巻き取り時打痕の発生要因となる継ぎ目段差をほぼ無くすことができる。
【0022】
さらにまた、請求項7記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の微細凹凸パターンの転写方法において、賦型原版と熱可塑性樹脂フィルムの圧着状態を解放する部分における耐熱性ベルトの温度は、熱可塑性樹脂フィルムへの微細凹凸パターンの賦型部分における耐熱性搬送ベルトの温度より少なくとも50℃以上低く設定されていることを特徴とする。
【0023】
請求項7に係る発明によれば、転写性が向上するとともに反りや転写むらが改善する。
【0024】
さらにまた、請求項8記載の発明は、熱可塑性樹脂フィルム表面に賦型原版をその微細凹凸パターンが設けられている面が密接するように重ね合わせた状態を保持しながら、これらを複数のロールによって支持されながら移動する一対の耐熱性搬送ベルトの間に挟みつけて圧着させながら搬送させると共に、加熱手段により加熱することにより、賦型原版の微細凹凸パターンを熱可塑性樹脂フィルムに賦型せしめた後、冷却手段により冷却し、しかる後に賦型原版と熱可塑性樹脂フィルムを分離させ、微細凹凸パターンを熱可塑性樹脂フィルムに転写・形成させて作製される微細凹凸パターン転写フィルムの微細凹凸パターン形成面に、反射層と接着層が順次積層されていることを特徴とする転写箔である。
【0025】
請求項8に係る発明によれば、ナノ構造の微細凹凸パターンを有し、紙幣、商品券、カード及びブランドプロテクション商品等の偽造防止対策が必要とされる商品に適用し得る転写箔としての提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1には、本発明の微細凹凸パターンの転写方法に用いられる装置の一例が示してある。
【0027】
この装置は、図示の如く、一対の耐熱性搬送ベルト11、12が駆動ロール13、15及びテンションロール14、16によって保持されながら駆動するようになっている。そして、それらが密着して移動する部分において、フィルム巻き出し部8から供給されてくる熱可塑性樹脂フィルム10と、ベルトコンベア23で運ばれてくる平板状の賦型原版9とを密着状態で重ね合わせながら、かつ一対の耐熱性ベルト11、12で圧着させながら搬送するようになっている。そして、その搬送経路に沿って加熱装置17、19が設けられていて、そこから加えられる熱により賦型原版の微細凹凸パターンが熱プレスされ、熱可塑性樹脂フィルムの表面に微細凹凸パターンが賦型されるようになっている。
【0028】
一方、一対の耐熱性搬送ベルト11、12による搬送経路の先には冷却装置18、20が設けられていて、加熱装置17、19の部分で微細凹凸パターンが賦型された熱可塑性樹脂フィルムと賦型原版とが圧着状態を保持したまま冷却されるようになっている。その後、熱可塑性樹脂フィルムと賦型原版とはその圧着状態は解放されてさらに搬送されていき、必要に応じて強制冷却装置21により強制冷却が施され、熱可塑性樹脂フィルムに形成された微細凹凸パターンが完全に固定された時点で熱可塑性樹脂フィルムを賦型原版から分離させ、熱可塑性樹脂フィルムに微細凹凸パターンを転写・形成できるようになっている。
【0029】
図中、24は微細凹凸パターンの賦型に用いる賦型原版9と微細凹凸パターンが賦型された熱可塑性樹脂フィルムを搬送するためのベルトコンベア、22は微細凹凸パターンが賦型された微細凹凸パターン転写フィルムを巻き取るためのフィルム巻取り部をそれぞれ示している。
【0030】
一方、図4には本発明の微細凹凸パターンの転写方法に用いられる装置の他の一例が示してある。この装置は、基本的には図3に示す装置と同じであるが、加熱装置が加熱ロール25、26を具備し、これを耐熱性搬送ベルト11、12の背面に位置させて加熱するタイプのものであり、冷却装置が冷却ロール27、28を具備し、これを耐熱性ベルト11、12の背面に位置させて冷却するタイプのものである点で若干異なっている。
【0031】
このような装置を使って微細凹凸パターンを熱可塑性樹脂フィルムに賦型するに当たっては、まず、熱可塑性樹脂フィルムの表面に平板状の賦型原版をその微細凹凸パターンが設けられている面が密接するように重ね合わせた状態にしながら、これらを複数のロールによって支持されながら移動する一対の耐熱性搬送ベルトの間に挟みつけて圧着させながら搬送させる。そして、その搬送過程で、加熱手段により加熱することにより、賦型原版の微細凹凸パターンを熱可塑性樹脂フィルムに賦型させる。その後、冷却手段により冷却し、しかる後に賦型原版と熱可塑性樹脂フィルムの圧着状態を解放して分離し、賦型原版の微細凹凸パターンを熱可塑性樹脂フィルム面に転写・形成する。
【0032】
ここで、熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリルレート、ポリカーボネート等からなる樹脂製のフィルムを使用することが可能である。また、耐熱性搬送ベルトとしては、ベルトに継ぎ目があると段差が転写されてしまうので、シームレスベルトを使用する必要があり、錆びを生じにくいステンレス製シームレスベルトの使用が好ましい。
【0033】
微細凹凸パターンを有する平板状の賦型原版は、例えば、レーザーや電子線描画装置にてフォトレジストもしくは電子線(EB)レジストに微細凹凸パターンを記録した後、その微細凹凸パターン上に蒸着法やスパッタ法にて金属導電膜を形成し、しかる後に金属導電膜の表面に電鋳法にて金属を電着させ、金属電着膜のみを剥離し、さらに洗浄工程を経
て作製することができる。金属導電膜形成工程前にエッチング工程を加えてパターンの溝を深くする方法もある。
【0034】
なお、電鋳法とは、電気分解による電着を利用し、鋳型で鋳物を作るように原形と同じものを精密に複製する方法をいい、物質の表面を電鋳材料の膜で被覆する電気メッキ等の技術をいう。電鋳材料としては、ニッケル、その合金またはその化合物のうちいずれかの他、銅、銀、金、クロム、チタン、鉄、亜鉛のいずれか一種からなる金属、またはこれらの材料の二種以上からなる合金またはこれらのうち少なくとも一種を含む化合物等が挙げられる。また、電鋳対象物が絶縁体の場合には、ニッケル、その合金または化合物のいずれかの他、銀、金、クロム、チタン、鉄、亜鉛のいずれか一種からなる金属、あるいはこれら二種以上からなる合金またはこれらのうち少なくとも一種を含む化合物等を用いてスパッタ法、蒸着法または無電解メッキ法等で導電膜を形成してから、電鋳を行う。
【0035】
また、レーザーや電子線描画装置を使用した2P法を用い、エッチングを行うことでガラス製や石英製の賦型原版を作製することもできる。さらに、ガラス原版、石英原版、若しくは、レジスト上に描画した微細凹凸パターンに直接導電化処理を施した後、ニッケル電鋳することで、ニッケル製の賦型原版を作製することもできる。さらにまた、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂を用いて型取りすることで精密な賦型原版を作製することも可能である。
【0036】
図1に示すような構成の装置を用い、熱可塑性樹脂シートとしてポリメチルメタクリレート(PMMA)フィルムを使用して平板状の賦型原版により連続的に微細凹凸パターンを賦型するに当たっては、PMMAフィルムと賦型原版を圧着させた状態で抵抗加熱やIRヒータ等の加熱装置17、19によって140℃程度まで加熱しながら微細凹凸パターンを賦型し、続いて、冷却装置18、20によって80℃程度まで冷却し、さらに強制冷却装置21にてさらに40℃以下に冷却して熱可塑性樹脂シートに賦型した微細凹凸パターンを完全に固定化させた後、賦型原版から分離させ、微細凹凸パターン転写フィルム22を得ることができる。凹凸が数十nm〜数百nmの程度の微細凹凸パターンを有する回折格子の場合、加熱ロールエンボスを使用した従来の凹凸パターンの転写方法では、転写率80%が程度であるが、平板状の賦型原版と一対の耐熱性搬送ベルトを使用したこの方式では、転写率を95%以上に高めることが可能となる。
【0037】
ここで、上記した装置においては、駆動ロール13、15を誘導加熱式やオイル循環式の加熱ロールとすることで加熱装置を兼ねるようにすることも可能である。
【0038】
また、テンションロール14、16を水冷循環式の冷却ロールとすることで冷却装置を兼ねるようにすることも可能である。さらには、叙述の如くに、加熱装置を加熱ロール25、26や、冷却装置を冷却ロール27、28を具備するものとすることも可能である。
【0039】
このように、一対の耐熱性搬送ベルトで圧着させながら微細凹凸パターンを賦型する方法によれば、従来の加熱ロールで圧着して賦型させる従来の転写方法とは異なり、平板状の賦型原版で圧着している時間が長くなり、その間に加熱、冷却が可能となるため、熱可塑性樹脂シートがゴム状態(溶融状態)の間に賦型原版の微細凹凸パターンを忠実に賦型せしめることができるようになり、また、微細凹凸パターンが賦型された微細凹凸パターン転写シートがガラス状態(又は固体)となり微細凹凸パターンが完全に固定化された後に賦型原版との圧着状態を解放することが可能となる。
【0040】
一対のエンドレスの耐熱性搬送ベルトを使用したこのような連続転写方法では、熱可塑性樹脂フィルムの継ぎ目のロスを少なくためには、挿入準備工程に1枚、圧着工程に1枚、剥離後の移動工程に1枚が位置するよう、少なくとも3枚以上の平板状の賦型原版を必要
とする。そのためには、この必要枚数に見合った高精度の複版を用意する必要があるが、ニッケル電鋳法により複版されたものが最も正確にトレース可能であり、好適に用いられる。
【0041】
しかし、ニッケル電鋳法では、版厚を300μm程度にするのには約半日を要とすため、100μ厚程度のニッケル製賦型原版をまず作製し、これに転写に使用する熱可塑性樹脂シートよりも耐熱性に優れる樹脂シートを貼り合せることにより、短時間で複版を作製する方法が奨励される。このような複版を使用すれば、装置の金属製の耐熱性搬送ベルトを傷めることが少なくなる。転写用の熱可塑性樹脂フィルムがPMMAの場合、貼り合わせる樹脂シートとしてはポリカーボネートシートが最適である。
【0042】
一方、微細凹凸パターン賦型用の熱可塑性樹脂フィルムとしては、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(例えば、東洋紡E5007 25μm厚)上に1〜2μm厚となるようにアクリル(三菱レイヨンBR87)からなる層をグラビアコーティング法などで設けてなる複層フィルムを用いることで、転写時の熱によるフィルムの反りを抑えることが可能となる。また、このような複層フィルムは凹凸パターンを賦型するための転写層が、10μm厚以下のアクリル層であるため、巻き取り時打痕を引き起こす原因となる継ぎ目段差をほぼ無くすことが可能となる。また、後述する、本発明に係る転写箔の構成材料となることも考慮すると、箔切れ性の面からもアクリル層の膜厚は10μm以下であることがより好ましい。なお、本明細書においては、フィルムとシートは同義語として扱うこととする。
【0043】
ここで、使用するアクリルとは、ポリメチルメタクリレートを始めとして、例えば、アクリルウレタン、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等、常温で固体であるもので、ガラス転移温度が120℃以下のものが望ましい。また、樹脂の一部を不飽和としておき、熱や光によって硬化する開始剤を添加することで、転写後、熱や光によって、フィルムの耐熱性を向上させるようにしてもよい。
【0044】
図5には、前記複層フィルム及び回折格子パターンを有する賦型原版を使用し、複層フィルムに転写テストを行ったときの、加熱温度とパターン転写率の関係が示してある。このテストにおいては、賦型原版からの複層フィルムの剥離は50℃以下に下げてから行っている。また、図6には、加熱温度を150℃として回折格子パターンの賦型を行った後に賦型原版から剥離するときの温度とパターン転写率の関係が示してある。これらから、前記複層フィルムのアクリル樹脂層に微細凹凸パターンの高精度な転写を行うには、少なくとも130℃以上の加熱温度が必要であり、剥離時には少なくとも80℃以下の温度に冷却しておくことが必要であることが分かる。
【0045】
一方、このような方式で回折格子パターンを転写した複層フィルムの転写面に、アルミニウムの薄膜を蒸着法で80nm程度の厚さで成膜し、続いて、ポリエステル樹脂(東洋紡製バイロン200)を使用し、グラビアコーティング法で0.6μmの厚さの接着層をコートすることにより、回折格子に係る微細凹凸パターンを有する転写箔を得ることができる。この回折格子転写箔をカード等の被転写媒体に熱転写すれば、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとアクリルとの境界で剥離し、被転写媒体側にはアクリルを最表面とする回折格子箔を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】微細凹凸パターンの転写に際して用いられるベルト方式微細転写装置の概略の構成を示す説明図である。
【図2】微細凹凸パターンの転写に際して用いられる他のベルト方式微細転写装置の概略の構成を示す説明図である。
【図3】従来の方法で平面状スタンパーをシリンダーに取り付けてなる原版ロールを示す説明図である。
【図4】従来の微細パターン連続転写装置の一部を示す説明図である。
【図5】アクリル樹脂からなる層に回折格子に係る微細凹凸パターンを転写するときの版加熱温度と転写率の関係を示す説明図である。
【図6】アクリル樹脂からなる層に回折格子に係る微細凹凸パターンを転写するときの剥離温度と転写率の関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0047】
1…スタンパー(原版)
2…原版ロール
3…フィルム基材
4…熱可塑性樹脂層
5…加熱手段を有するロール状賦型原版
6…圧胴
7…剥離ロール
8…フィルム巻き出し部
9…平板状の賦型原版
10…熱可塑性樹脂フィルム
11、12…耐熱性搬送ベルト
13、15…駆動ロール
14、16…テンションロール
17、19…加熱装置
18、20…冷却装置
21…強制冷却装置
22…フィルム巻取り部
23、24…ベルトコンベア
25、26…加熱ロール
27、28…冷却ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムの表面に平板状の賦型原版をその微細凹凸パターンが設けられている面が密接するように重ね合わせた状態にしながら、これらを複数のローラーによって支持されながら移動する一対の耐熱性搬送ベルトの間に挟みつけて圧着させながら搬送させると共に、その過程で、加熱手段により加熱することにより賦型原版の微細凹凸パターンを熱可塑性フィルムに賦型せしめた後、冷却手段により冷却し、しかる後に賦型原版と熱可塑性樹脂フィルムの圧着状態を解放して分離し、賦型原版の微細凹凸パターンを熱可塑性樹脂フィルム面に転写・形成することを特徴とする微細凹凸パターンの転写方法。
【請求項2】
冷却手段による冷却が、賦型原版と熱可塑性樹脂フィルムとの圧着状態を解放させる部分の近傍で行われることを特徴とする請求項1記載の微細凹凸パターンの転写方法。
【請求項3】
平板状の賦型原版と熱可塑性樹脂フィルムとの圧着状態を解放させた後に、微細凹凸パターンが転写・形成された熱可塑性樹脂フィルムを強制冷却することを特徴とする請求項1または2記載の微細凹凸パターンの転写方法。
【請求項4】
前記平板状の賦型原版は、電鋳法で作製されたニッケルまたはニッケル合金からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の微細凹凸パターンの転写方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂フィルムは、その微細凹凸パターンを転写・形成させようとする面のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する樹脂シートが他方の面に積層されてなる複層フィルムであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の微細凹凸パターンの転写方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂フィルムは、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に少なくともアクリルを主成分とする1乃至10μmの範囲の厚さの熱可塑性樹脂層が積層されてなる複層フィルムであることを特徴とする請求項5記載の微細凹凸パターンの転写方法。
【請求項7】
平板状の賦型原版と熱可塑性樹脂フィルムの圧着状態を解放する部分における耐熱性搬送ベルトの温度は、熱可塑性樹脂フィルムへの微細凹凸パターンの賦型部分における耐熱性搬送ベルトの温度より少なくとも50℃以上低く設定されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の微細凹凸パターンの転写方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂フィルムの表面に賦型原版をその微細凹凸パターンが設けられている面が密接するように重ね合わせた状態を保持しながら、これらを複数のロールによって支持されながら移動する一対の耐熱性搬送ベルトの間に挟みつけて圧着させながら搬送させると共に、加熱手段により加熱することにより、賦型原版の微細凹凸パターンを熱可塑性樹脂フィルムに賦型せしめた後、冷却手段により冷却し、しかる後に賦型原版と熱可塑性樹脂フィルムを分離させ、微細凹凸パターンを熱可塑性樹脂フィルム面に転写・形成させて作製される微細凹凸パターン転写フィルムの微細凹凸パターン形成面に、反射層と接着層が順次積層されていることを特徴とする転写箔。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−173914(P2008−173914A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11205(P2007−11205)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】