説明

微細炭素繊維分散皮膜およびその製造方法

【課題】良好な被膜強度を有しつつ、比較的少量の微細炭素繊維をもって所期の導電性ないし制電性を発揮し得る微細炭素繊維分散皮膜を得る。
【解決手段】炭素繊維が皮膜基質中に分散されてなる炭素繊維分散皮膜であって、
分散媒ないし溶媒中に炭素繊維を分散させてなる炭素繊維分散液を、基板上に膜状に展開し、前記炭素繊維分散液の膜状展開層が少なくとも流動性を失った後に、当該膜状展開層に対して、前記皮膜基質を形成する皮膜形成成分を含有する流動体を適用することで得られることを特徴とする炭素繊維分散皮膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細炭素繊維分散皮膜およびその製造方法に関するものである。詳しく述べると、本発明は、良好な被膜強度を有しつつ、皮膜内において微細炭素繊維が実質的に単分散となるような良好な分散特性を有し、高い導電性を発揮し得る微細炭素繊維分散皮膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テレビ、パーソナルコンピュータ、デジタルカメラ、携帯音楽プレーヤー、携帯電話等のいわゆる娯楽用電化製品においては、高機能・多機能化とともに、軽薄短小化が望まれており、このような製品の実現化の上で、導電性ないし制電性を有するフレキシブルなシートの開発が望まれている。
【0003】
また、例えば、自動車製造業において、外装ないし内装部品として各種樹脂製のものが用いられているが、このような樹脂製部品と金属製部品とに同一彩色の塗装を施そうとする場合、樹脂製部品に対して導電性を付与し、金属製部品と共に、静電塗装等の塗装を施すことが望ましい。このような分野においても、樹脂製部品表面へと良好な導電性を与える皮膜を形成することが望まれている。
【0004】
従来、一般に、導電性ないし制電性皮膜としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー等の皮膜形成成分に、導電性の高いフィラー等を配合したものが知られている。導電性フィラーとしては、金属繊維及び金属粉末、カーボンブラック、炭素繊維などが一般に用いられているが、金属繊維及び金属粉末を導電性フィラーとして用いた場合、耐食性に劣り、また機械的強度が得にくいという欠点がある。一方、炭素繊維を導電性フィラーとして使用する場合、一般の補強用炭素繊維では、所望の強度、弾性率はある程度の量を配合することにより達成することができるが、導電性に関しては十分なものとはならず、所期の導電性を得ようとすると高充填を必要とするため、元の樹脂本来の物性を低下させてしまう。なお、炭素繊維では、繊維径が細かい方が同量の繊維を加えた場合にマトリックス樹脂と繊維との間の接触面積が大きくなるため導電性付与効果に優れることが期待される。
【0005】
さらに、近年、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも記する。)に代表されるカーボンナノ構造体などの微細炭素繊維が開発されており、これを熱可塑性エラストマー等の皮膜形成成分中に配合しようとする試みも行われている(例えば、特許文献1参照。)
カーボンナノ構造体を構成するグラファイト層は、通常では規則正しい六員環配列構造を有し、その特異な電気的性質とともに、化学的、機械的および熱的に安定した性質を持つ物質である。従って、皮膜形成成分中に、このような微細炭素繊維を均一かつ安定に分散配合することにより、前記したような物性を生かすことができれば、有望な導電性ないし制電性材料となり得る。また、このような微細炭素繊維分散皮膜は、上記に例示したような産業分野に限られず多方面での応用用途が期待されるものである。
【0006】
しかしながら、一方で、このようなCNT、特に単層カーボンナノチューブ(以下「SWCNT」とも記する)は、構成原子が全て表面原子であるため、隣接するCNT間のファンデルワールス力による凝集が生じやすく、生成時点で既に、複数本のCNTから成る強い凝集(バンドル)構造が形成されてしまうことが知られている。従って、これをそのまま使用すると、皮膜形成成分中において分散が進まず性能不良をきたすおそれがある。このため樹脂等の皮膜形成成分に導電性等の所定の特性を発揮させようとする場合には、かなりの添加量を必要とするものであった。
【0007】
このような微細炭素繊維の分散性を改良するための技術としても、種々の研究が進められており、例えば、(1)微細炭素繊維を超音波、各種撹拌装置等の物理的処理によって分散媒体に分散させる方法(例えば、特許文献2等)、(2)微細炭素繊維を化学修飾して分散液を得る方法(例えば、特許文献3等)、(2)カーボンナノチューブを界面活性剤等の各種分散剤を用いて分散させる方法(例えば、特許文献4参照)等各種のものが報告されている。
【0008】
しかし、このようにして微細炭素繊維の分散性を向上させた場合であっても、所期の皮膜強度を有する微細炭素繊維分散皮膜を得るためには、樹脂等の皮膜形成成分の配合量を多くしていくか、あるいは皮膜の膜厚を厚くしていく必要があるために、比較的少量の微細炭素繊維をもって所期の導電性ないし制電性を得ることが困難であった。
【特許文献1】米国特許第5098771号明細書
【特許文献2】特開2004−256964号公報
【特許文献3】特開2006−265151号公報
【特許文献4】特開2005−263608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、良好な被膜強度を有しつつ、比較的少量の微細炭素繊維をもって所期の導電性ないし制電性を発揮し得る微細炭素繊維分散皮膜およびその製造方法を提供することを課題とする。本発明はまた、皮膜内において微細炭素繊維が実質的に単分散となるような良好な分散特性を有し、高い導電性ないし制電性を発揮し得る微細炭素繊維分散皮膜およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討の結果、微細炭素繊維の添加量が少なくても十分な電気特性向上を発揮し、かつ良好な皮膜強度等を得るさせるためには、分散媒ないし溶媒中に炭素繊維を分散させてなる炭素繊維分散液を、基板上にコーティング等により膜状に展開し、この膜状展開層を乾燥ないしゲル化して、一端、基板上に実質的に炭素繊維のみが網目状等に均一に分散配置されたてなる繊維骨格組織層を形成し、その後、当該繊維骨格組織層に対し、皮膜形成成分を含有する流動体をオーバーコート等により適用することで、炭素繊維−皮膜形成成分複合体の基質(マトリックス)部分を、前記繊維骨格組織間を含めて形成すれば、比較的少ない炭素繊維によって所期の導電性ないし制電性を有する一方で、その皮膜強度等も十分である微細炭素繊維分散皮膜が得られることを見出した。
【0011】
なお、炭素繊維分散皮膜としては、多くの用途において、皮膜のバルク全体としての導電性ないし制電性が必ずしも求められるわけではなく、皮膜の或る表面ないし断面においてその面内で良好かつ均一な導電性ないし制電性を有していれば良いものである。本発明において得られる微細炭素繊維分散皮膜は、このような特定の面内において良好かつ均一な導電性ないし制電性を発揮し得ることができることから、多くの用途に好適に用いることができるものである。
【0012】
もちろん、炭素繊維分散液の膜状展開およびおよび当該膜状展開層の非流動化の工程を、複数回繰り返せば、上記したような繊維骨格組織を2次元的のみならず、3次元的に所定の厚みをもって形成することが可能であり、最終的に、皮膜のバルク全体にわたり繊維骨格組織が均一に存在してなる、バルク全体として均一な導電性ないし制電性を有する皮膜を形成することも可能である。
【0013】
また、従来技術においては、例えば、炭素繊維を分散配合してなる樹脂溶液を展開して炭素繊維分散皮膜を形成していたため、皮膜形成時に炭素繊維と炭素繊維の間には樹脂分子が介在することとなり炭素繊維同士のネットワーク組織を被膜内に形成することは容易ではなかったが、上記したような手法に従えば、容易かつ安定してこのような組織を形成することができるものであった。
【0014】
以上のような知見から、本発明者らは、上記課題を解決する本発明に到達したものである。
【0015】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、炭素繊維が皮膜基質中に分散されてなる炭素繊維分散皮膜であって、分散媒ないし溶媒中に炭素繊維を分散させてなる炭素繊維分散液を、基板上に膜状に展開し、前記炭素繊維分散液の膜状展開層が少なくとも流動性を失った後に、当該膜状展開層に対して、前記皮膜基質を形成する皮膜形成成分を含有する流動体を適用することで得られることを特徴とする炭素繊維分散皮膜である。
【0016】
本発明はまた、炭素繊維分散皮膜は、前記基板より剥離されたものである炭素繊維分散皮膜を示すものである。
【0017】
本発明はまた、炭素繊維分散皮膜は、前記基板上に保持された状態のものである炭素繊維分散皮膜を示すものである。
【0018】
本発明はさらに、皮膜形成成分を含有する流動体を適用するに先立ち、炭素繊維分散液の膜状展開およびおよび当該膜状展開層の非流動化の工程を、複数回繰り返し得られたものである炭素繊維分散皮膜を示すものである。
【0019】
本発明はまた、前記皮膜基質は、皮膜形成成分を含有する溶液の塗布および乾燥、皮膜形成成分の溶融塗布および凝固、あるいは未架橋ないし未硬化の皮膜形成成分の塗布および架橋ないし硬化により形成されたものである炭素繊維分散皮膜を示すものである。
【0020】
本発明はまた、前記炭素繊維として、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した構造であって、筒を構成するシートが多角形の軸直交断面を有し、該断面の最大径が15〜100nmであり、アスペクト比が10以下で、ラマン分光分析で514nmにて測定されるI/Iが0.1以下であるものを用いることを特徴とする炭素分散皮膜を示すものである。
【0021】
本発明はまた、前記炭素繊維として、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものであることを特徴とする炭素構造体を含有するものである炭素分散皮膜を示すものである。
【0022】
本発明はまた、10−3〜10Ω/□の範囲内の表面抵抗率を有するものである炭素繊維分散皮膜を示すものである。
【0023】
上記課題を解決する本発明はまた、炭素繊維が皮膜基質中に分散されてなる炭素繊維分散皮膜の製造方法であって、分散媒ないし溶媒中に炭素繊維を分散させてなる炭素繊維分散液を、基板上に膜状に展開し、前記炭素繊維分散液の膜状展開層が少なくとも流動性を失った後に、当該膜状展開層に対して、前記皮膜基質を形成する皮膜形成成分を含有する流動体を適用することを特徴とする炭素繊維分散皮膜の製造方法である。
【0024】
本発明はまた、炭素繊維分散液を基板上に膜状に展開することが、炭素繊維分散液を基板上に塗布する、あるいは炭素分散液に基板を浸漬することにより行われるものである炭素繊維分散皮膜の製造方法を示すものである。
【0025】
本発明はまた、炭素繊維分散液を基板上に膜状に展開することが、炭素繊維分散液を液状媒体界面上に膜状に展開し、この膜状展開層を液状媒体界面から基板に転写することにより行われるものである炭素繊維分散皮膜の製造方法を示すものである。
【0026】
本発明はまた、形成された炭素繊維分散皮膜を、前記基板より剥離する工程をさらに含むものである炭素繊維分散皮膜の製造方法を示すものである。
【0027】
本発明はまた、所期形状の基板上を被覆する炭素繊維分散皮膜を形成するものである炭素繊維分散皮膜の製造方法を示すものである。
【0028】
本発明はさらに、皮膜形成成分を含有する流動体を適用するに先立ち、炭素繊維分散液の膜状展開およびおよび当該膜状展開層の非流動化の工程を、複数回繰り返すものである炭素繊維分散皮膜の製造方法を示すものである。
【0029】
本発明はまた、前記皮膜基質は、皮膜形成成分を含有する溶液の塗布および乾燥、皮膜形成成分の溶融塗布および凝固、あるいは未架橋ないし未硬化の皮膜形成成分の塗布および架橋ないし硬化により形成されたものである炭素繊維分散皮膜の製造方法を示すものである。
【0030】
本発明はまた、前記炭素繊維として、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した構造であって、筒を構成するシートが多角形の軸直交断面を有し、該断面の最大径が15〜100nmであり、アスペクト比が10以下で、ラマン分光分析で514nmにて測定されるI/Iが0.1以下であるものを用いることを特徴とする炭素分散皮膜の製造方法を示すものである。
【0031】
本発明はまた、前記炭素繊維として、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものであることを特徴とする炭素構造体を用い、炭素繊維分散液を調製するにおいて、メディアミルを用いた分散処理を施すことを特徴とする炭素繊維分散皮膜の製造方法を示すものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明においては、上記したように比較的少ない炭素繊維によって所期の導電性ないし制電性を有しつつその強度等も十分である微細炭素繊維分散皮膜が得られることから、導線、発熱材料、導電性基板、フィールドエミッタ等の電気ないし電子材料、静電塗装等のためのプライマー、その他、各種の用途において好適に用いられることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0034】
本発明に係る炭素繊維分散皮膜は、炭素繊維が皮膜基質中に分散されてなる炭素繊維分散皮膜であって、分散媒ないし溶媒中に炭素繊維を分散させてなる炭素繊維分散液を、基板上に膜状に展開し、前記炭素繊維分散液の膜状展開層が少なくとも流動性を失った後に、当該膜状展開層に対して、前記皮膜基質を形成する皮膜形成成分を含有する流動体を適用することで得られることを特徴とするものである。
【0035】
まず、このような本発明に係る炭素繊維分散皮膜を得る上で、用いられる各原料および方法等について説明する。
【0036】
基板
本発明の炭素分散皮膜を得るにおいて、用いられる基板としては、炭素繊維分散液をその表面に展開できるものである限り特に限定されるものではなく、得ようとする炭素分散皮膜の用途等に応じて、各種の材質および各種の形状のものとすることができる。その材質としては、例えば、各種樹脂、各種ゴムないしエラストマー、ガラス、各種金属、各種セラミック、その他、紙、織布、編布、不織布、紐ないし糸等の各種繊維製品等のいずれのものを用いることができる。また、本発明の炭素分散皮膜は、このような基板上にそのまま残すことも、またこのような基板上から剥離して膜単体として得ることも可能であり、基板上にそのまま残す態様においては、対象となる基板は、例えば、所期の形状を有する製品ないし部品等であっても良い。一方、基板が最終製品としての皮膜単体から切り離される態様においては、基板は、このような皮膜に対しある程度、剥離性の良いものであることが望まれ、例えば、剥離紙や、表面に離型剤処理等を施した基板等を用いることができる。
【0037】
炭素繊維分散液
次に、このような基板表面に膜状に展開される炭素繊維分散液としては、少なくとも炭素繊維およびこれを分散させる溶媒ないし分散媒を含むものである。
【0038】
炭素繊維分散液中の炭素繊維の含有量としては、良好な分散状態が保持される限り限定されるものではなく、例えば、0.01〜95質量%、より好ましくは0.5〜50質量%程度とすることができる。
【0039】
(a)微細炭素繊維
炭素繊維分散液中に配され、基板上に展開される微細炭素繊維としては、特に限定されるものではないが、主として、炭素の六員環配列構造を有する構造体であって、この構造体の三次元のディメンションのうち少なくとも1つの寸法がナノメートルの領域にある、たとえば、数〜数100nm程度のオーダーを有する、ものが代表的なものである。
【0040】
この炭素の六員環配列構造としては、代表的には、シート状のグラファイト(グラフェンシート)を例示することができ、さらには、たとえば、炭素の六員環に五員環もしくは七員環が組み合わされた構造等をも含むことができる。
【0041】
より具体的には、例えば、一枚のグラフェンシートが筒状に丸まってできる直径数nm程度の単層カーボンナノチューブや、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブの端部が円錐状で閉じたカーボンナノホーンなどが例示される。さらに、このカーボンナノホーンが直径100nm程度の球状の集合体となったカーボンナノホーン集合体、炭素の六員環配列構造を有するカーボンオニオン等や、炭素の六員環配列構造中に五員環が導入されたフラーレンやナノカプセル等も包含される。これらの微細炭素繊維は、上記したような種類の単独体とすることも、あるいは、2種以上の混合体とすることも可能である。また、本発明においては、このような微細炭素繊維を粉砕処理したものも用いることができる。
【0042】
これら、微細炭素繊維の製造方法としては、触媒金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学分解させ、生成炉内の微細炭素繊維核、中間生成物及び生成物である繊維の滞留時間を短くして繊維(以下、中間体又は第1の中間体という)を得た上で、高温熱処理することが、好ましい微細炭素繊維を製造する好適な方法である。
【0043】
これらの微細炭素繊維を得るため、具体的には、触媒の遷移金属または遷移金属化合物および硫黄または硫黄化合物の混合物と、原料炭化水素を雰囲気ガスとともに300℃以上に加熱してガス化して生成炉に入れ、800〜1300℃、好ましくは1000〜1300℃の範囲の一定温度で加熱して触媒金属の微粒子生成の改善と炭化水素の分解により微細炭素繊維を合成する。生成した炭素繊維(中間体又は第1の中間体)は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含んでいる。
【0044】
次に、中間体(第1の中間体)を圧縮成形することなく、粉体のままで1段または2段で高温熱処理する。1段で行う場合は、中間体を雰囲気ガスとともに熱処理炉に送り、まず800〜1200℃の範囲の温度(好ましくは一定温度)に加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を気化して除き、その後2400〜3000℃の範囲の温度(好ましくは一定温度)で繊維の多層構造の形成を改善すると同時に繊維に含まれる触媒金属を蒸発させて除去し、精製された微細炭素繊維を得る。
【0045】
高温熱処理を2段で行う場合は、第1の中間体を雰囲気ガスとともに800〜1200℃の範囲の温度(好ましくは一定温度)に加熱保持された第1の熱処理炉に送り、未反応原料やタール分などの揮発分を気化して除いた微細炭素繊維(以下、第2の中間体という。)を得る。次に、第2の中間体を第2の2400〜3000℃の範囲の温度(好ましくは一定温度)に加熱保持された第2の熱処理炉に雰囲気ガスとともに送り、繊維の多層構造の形成を改善すると同時に触媒金属を蒸発させて除去し、精製微細炭素繊維とする。第2の熱処理炉における第2の中間体の加熱時間が、5〜25分、前記第2の加熱炉において、前記第2の中間体の嵩密度が5〜20kg/m未満、好ましくは5kg/m以上、15kg/m未満となるように調整することが望ましい。中間体の嵩密度が5kg/m未満であると、粉体の流動性が悪く熱処理効率が低下するためであり、中間体の嵩密度が20kg/m以上であると熱処理効率は良いが、樹脂混合時の分散性が悪いためである。
【0046】
また、生成炉は、縦型、高温熱処理炉は縦型でも横型でもよいが、中間体を降下させることができる縦型が望ましい。
【0047】
以上の製法において、原料有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素(CO)、エタノール等のアルコール類などが使用できる。雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリオム、キセノン等の不活性ガスや水素を用いることができる。
【0048】
また、触媒としては、鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属あるいはフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と硫黄あるいはチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物の混合物を使用する。
【0049】
以上の製法によれば、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した構造の繊維状物質において、筒を構成するシートが多角形の軸直交断面を有し、該断面の最大径が15〜100nmであり、アスペクト比が10以下で、ラマン分光分析で514nmにて測定されるI/Iが0.1以下である微細炭素繊維を得ることができる。
【0050】
この微細炭素繊維によれば、ラマン分光分析にて検出されるDバンドが小さくグラフェンシート内の欠陥が少ない微細炭素繊維を得ることができ、また、炭素繊維の軸直交断面が多角形状となり、積層方向および炭素繊維を構成するグラフェンシートの面方向の両方において緻密で欠陥の少ないものとなるため、曲げ剛性(EI)が向上し、結果、凝集し難く、分散剤として用いる用途において、好ましい微細炭素繊維を得ることができる。
【0051】
なお、本発明に用いられる微細炭素繊維として更に好ましい微細炭素繊維としては、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものが挙げられる。
【0052】
この炭素繊維構造体を得るにおいては、上記した製法に加え、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることが望まれる。なお、ここで述べる「少なくとも2つ以上の炭素化合物」とは、必ずしも原料有機化合物として2種以上のものを使用するというものではなく、原料有機化合物としては1種のものを使用した場合であっても、繊維構造体の合成反応過程において、例えば、トルエンやキシレンの水素脱アルキル化(hydrodealkylation)などのような反応を生じて、その後の熱分解反応系においては分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物となっているような態様も含むものである。
【0053】
原料となる炭化水素の熱分解反応は、主として触媒粒子ないしこれを核として成長した粒状体表面において生じ、分解によって生じた炭素の再結晶化が当該触媒粒子ないし粒状体より一定方向に進むことで、繊維状に成長する。しかしながら、上記した炭素繊維構造体を得る上においては、このような熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させる、例えば上記したように炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることで、一次元的方向にのみ炭素物質を成長させることなく、粒状体を中心として三次元的に炭素物質を成長させる。もちろん、このような三次元的な炭素繊維の成長は、熱分解速度と成長速度とのバランスにのみ依存するものではなく、触媒粒子の結晶面選択性、反応炉内における滞留時間、炉内温度分布等によっても影響を受け、また、前記熱分解反応と成長速度とのバランスは、上記したような炭素源の種類のみならず、反応温度およびガス温度等によっても影響受けるが、概して、上記したような熱分解速度よりも成長速度の方が速いと、炭素物質は繊維状に成長し、一方、成長速度よりも熱分解速度の方が速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向に成長する。従って、熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させることで、上記したような炭素物質の成長方向を一定方向とすることなく、制御下に多方向として、三次元構造を形成することができるものである。なお、生成する中間体において、繊維相互が粒状体により結合された前記したような三次元構造を容易に形成する上では、触媒等の組成、反応炉内における滞留時間、反応温度、およびガス温度等を最適化することが望ましい。
【0054】
さらに、特に限定されるわけではないが、この粒状部の粒径は、前記微細炭素繊維の外径よりも大きいことが望ましい。このように炭素繊維相互の結合点である粒状部の粒径が十分に大きなものであると、当該粒状部より延出する炭素繊維に対して高い結合力がもたらされ、樹脂等のマトリックス中に当該炭素繊維構造体を配した場合に、ある程度のせん弾力を加えた場合であっても、3次元的な構造を保持したままマトリックス中に分散させることができる。なお、本明細書でいう「粒状部の粒径」とは、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして測定した値である。
【0055】
この炭素繊維構造体によれば、再分散用炭素繊維集合塊を得るにおいて、疎な構造を有したまま、分散媒体中に存在せしめることができるため、分散媒体中における炭素繊維構造体の孤立分散化が容易となる。
【0056】
(b)溶媒ないし分散媒
炭素繊維分散液を調製する上で用いられる溶媒ないし分散媒としては、水系のものであっても、非水系のものであっても良く、炭素繊維分散液を展開する基材に対する安定性、濡れ性等の観点から適宜選択可能である。
【0057】
水系とする場合には、水、水混和性の有機溶媒、または水とこれら水混和性有機溶媒との混合溶媒を用いることができる。水混和性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールといったC〜C程度の低級アルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジオキサン、エチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、ジメチルホルムアミド等を例示することができる。
【0058】
一方、非水系溶媒としては、特に限定されるわけではないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ドデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、イソオクタン、水添トリイソブチレン等のC〜C12程度の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等のC〜C12程度の芳香族炭化水素、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロルエタン等のハロゲン化炭化水素、アイソパー(商品名、エクソン社)系等の鉱油、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン等のシリコーン系溶剤等を例示することができ、これらは単独であるいは二種以上組み合わせて使用することができる。
【0059】
(c)分散方法
本発明において用いられる炭素繊維分散液としては、上記したような溶媒ないし分散媒中に炭素繊維が均一に、より望ましくは、単分散状に安定に分散し得るものであれば、その分散方法としては、特に限定されるものではなく、従来、公知の各種の方法を単独であるいは複数組み合わせて、採択することは可能である。例えば、超音波処理、各種撹拌装置を用いた攪拌処理、加熱処理といった物理的方法、あるいは各種分散剤を分散液中に配合して分散液を調製する方法などを用いることができるが、好ましくは、分散剤を用いた分散方法である。
【0060】
分散剤を用いて炭素繊維を溶媒ないし分散媒中に分散させる場合においても、超音波処理、各種撹拌装置を用いた攪拌処理、加熱処理を併用する、特に炭素繊維の投入初期において併用することで、より効率的かつ安定に分散状態を形成することができる。
【0061】
特に、炭素繊維として、前記したような、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有することを特徴とする炭素繊維構造体を用いる場合には、ビーズミルに代表されるメディアミルによって分散処理を併用して行うことが、良好な分散性を得る上で好ましい。
【0062】
(d)分散剤
分散剤としては、使用する溶媒ないし分散媒の種類に応じて各種のものを用いることができる。
【0063】
使用する溶媒ないし分散媒が非水系のものである場合、好ましい一例としては、フラーレンを挙げることができる。非水系溶媒中では、2個のカーボンナノチューブの開口部にフラーレンが挟まる構造が確認されている。このような構造を採ることにより、微細炭素繊維が液内で安定に分散することを可能としていると考えられる。尚、フラーレンの添加量は、分散させようとする微細炭素繊維の全重量に対して、15〜30%であることが好適である。
【0064】
使用する溶媒ないし分散媒が水系のものである場合、好ましい一例としては、水溶液中で直径が50〜2000nmの球状ミセルを形成しうる界面活性剤(以下、「ミセルタイプ」という)又は重量平均分子量が1万〜5千万である水溶性高分子(以下、擬似ミセルタイプ」という)を例示することができる。
【0065】
このタイプに使用される界面活性剤は、水溶液中で直径が50〜2000nm(好適には50〜300nm)の球状ミセルを形成しうるものである。この大きさの球状ミセル(小胞体)が好適である理由は定かでないが、現時点では、以下のような理由ではないかと推察している。例えば、カーボンナノチューブの場合、その長さは、通常、100〜1000nmの範囲にある。そして、当該界面活性剤(ミセルタイプ)または水溶性高分子(擬似ミセルタイプ)を含有する水溶液中で、カーボンナノチューブは、数分の一程度(例えば四分の一程度)の長さに折り畳まれ、その結果、溶液中では数十nm〜数百nmの長さになる。恐らく、上記のサイズが、この折り畳まれたカーボンナノチューブを小胞体内に収納するのに丁度良く、結果、カーボンナノチューブを効率的に可溶化できるためと理解される。また、他の微細炭素繊維についても同様の作用機序でミセル内に格納されるものと推定される。
【0066】
尚、従来これらのもの以外の界面活性剤を添加する技術は知られている(例えば、特開2002−255528号参照)が、それにより形成されるミセルは、0.1nm程度と非常に小さいものであり、そのミセル表面にカーボンナノチューブが付着するという原理である。上記した好適なタイプは、ミセル表面でなく、ミセル(小胞体)の内部にナノカーボン(例えばカーボンナノチューブ)を格納するという新規な着想に基づくものである。
【0067】
なお、本明細書にいう「球状ミセル」(「小胞体」)とは、界面活性剤により形成されたミセルであって、球状のような収納空間を持つものをいう。例えば、リン脂質系界面活性剤の場合には、該小胞体はリポソームといわれる。また、この球状ミセル(小胞体)の直径は、光散乱法に従って測定された値(20℃のpH未調整の水溶液)を指す。
【0068】
界面活性剤の種類は、上記の特性を有するものである限り特に限定されず、例えば、以下で述べるようなリン脂質系界面活性剤及び非リン脂質系活性剤のいずれも用い得る。
ここで、「リン脂質系界面活性剤」とは、リン酸基を官能基とする陰イオン性界面活性剤・両性イオン界面活性剤であり、リン脂質(グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質の両方を含む)及び改質リン脂質(例えば、水素添加リン脂質、リゾリン脂質、酵素変換リン脂質、リゾホスファチジルグリセロール、他の物質との複合体)のいずれでもよい。このようなリン脂質は、生物を構成する細胞の種々の膜系、例えば原形質膜、核膜、小胞体膜、ミトコンドリア膜、ゴルジ体膜、リソソーム膜、葉緑体膜、細菌細胞膜に存在し、好適には、リポソームの調製に用いられるリン脂質が好適である。具体的には、例えば、ホスファチジルコリン{例えば、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトリルホスファチジルコリン(DPPC)}、その他のレシチン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、n−オクチルホスホコリン、n−ドデシルホスホコリン、n−テトラデシルホスホコリン、n−ヘキサデシルホスホコリンを挙げることができる。
【0069】
また、2−メタクロイルオキシホスホリルコリン(MPC)とn-ブチメタクリレート(BMA)とのコポリマー等を用いることもできる。
【0070】
また、「非リン脂質系界面活性剤」とは、リン酸基を官能基として含まない非イオン型界面活性剤・両性イオン型界面活性剤であり、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアミノ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CHAPSO)、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアミノ]−プロパンスルホン酸(CHAP)及びN,N−ビス(3−D−グルコナミドプロピル)−コラミド、3−(N,N−ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート、3−(N,N−ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホネート、n−ドデシル−N,N'−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、n−ヘキサデシル−N,N'−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、、ジメチルアルキルベタイン、パーフルオロアルキルベタインなどが挙げられる。また、必要に応じて、その他の界面活性剤、例えば、ドデシル硫酸塩等を併用することも可能である。
【0071】
次に、擬似ミセルタイプにつき説明する。このタイプで使用される水溶性高分子は、重量平均分子量が1万〜5千万(好適には1万〜5百万)であるものである。ここで、重量平均分子量は、プルランを標準としたゲル濾過高速液体クロマトグラフィーにより測定した値に基づくものである。
【0072】
上記の水溶性高分子は、上記の分子量を有するものである限り特に限定されず、例えば、各種の植物性界面活性剤、水溶性多糖類、例えば、アルギン酸類、例えば、アルギン酸、プロピレングリコールアルギネート、アラビアンゴム、キサンタンガム、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、水溶性セルロースないしその塩、エステル等の誘導体類、例えば、酢酸セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キトサン、キチン;水溶性タンパク質、例えば、ゼラチン、コラーゲン;ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー;DNAから選ばれる化合物を挙げることができる。
【0073】
ミセルタイプまたは擬似ミセルタイプの分散剤を使用する水溶液系において、分散させようとする微細炭素繊維として粗生成物を用いる場合には、当該分散媒は、その当初においては、微細炭素繊維透過性物質及び酸化剤を更に含有し、かつ、アルカリ性水溶液の形態にあることが好適である。ここで、「当初においては」とは、最終的に皮膜を形成した場合においては、これら成分や状態は必須でないことを意味する。即ち、これら成分や状態は、微細炭素繊維として粗生成物を使用した場合に系内に存在する不必要な成分を除去するために添加・調整されるからである。
【0074】
以下、この好適な態様について説明する。
【0075】
まず、「微細炭素繊維透過性物質」とは、微細炭素繊維のC−C格子サイズより小さい直径を有する物質を意味する。例えば、このような直径(イオン径)を有する微細炭素繊維透過性カチオン、具体的には、リチウムイオンを挙げることができる。但し、水素イオンは、格子サイズより小さいが、オキソニウムイオンの形で水に奪われてしまうため、微細炭素繊維透過性カチオンとしては不適切である。尚、微細炭素繊維透過性物質の役割は、正確なところは明らかではないが、例えば、微細炭素繊維透過性カチオンの場合には、微細炭素繊維内に入り込むことにより、微細炭素繊維内部の電荷状態を変えると共に、微細炭素繊維内部の表面及び内部の不純物を押し出す役割を担うと推察される。
【0076】
この微細炭素繊維透過性物質の含有量は、微細炭素繊維1g用水溶液の場合、水溶液1リットル当たり、好適には0.1〜1molである。
【0077】
次に、酸化剤について説明する。使用可能な酸化剤は、特に限定されないが、過硫酸塩(液中では過硫酸イオン)が好適である。その理由は、過硫酸塩が、アルカリ性で活性が高いことに加え、酸化した後自身は硫酸になるので、後処理が容易であるからである。
【0078】
また、水溶液のpHとしては、特に限定されるものではないが、pHは、6〜14の範囲であること、特に、アルカリ性であることが望ましい。水溶液がこの範囲であることが好適である理由は定かでないが、炭素繊維の表面の電子状態を変えることに加え、カーボンナノチューブの場合には、カーボンナノチューブの表面を柔らかくし、カーボンナノチューブを折り畳む役割を担っていると推察される。尚、ミセルタイプの場合は、pH10〜14の範囲、擬似ミセルタイプの場合は、pH6〜12の範囲がさらに好適である。
【0079】
さらに、擬似ミセルタイプの分散剤として、アルギン酸を用いる場合、アルギン酸は、中性、酸性領域では水に不要であるが、アルカリ性下においては高粘性の水溶液となる。このため、溶媒ないし分散媒により多くのアルギン酸を含有させる必要がある場合にはアルカリ性に保つことは望ましいことである。
【0080】
次に、上記ミセルタイプ及び擬似タイプを分散剤として用いた炭素繊維分散液について説明する。
【0081】
ミセルタイプの場合、水溶液中の界面活性剤の含有量は、小胞体を形成する臨界ミセル濃度以上である必要がある。通常、炭素繊維1g用の水溶液1リットル当たり、0.2〜10mmolである。また、擬似ミセルタイプの場合、水溶性高分子の含有量は特に限定されないが、通常、炭素繊維1g用の水溶液1リットル当たり、5〜50gである。
【0082】
このようなミセルタイプないしは擬似ミセルタイプを含有する水溶液中に、炭素繊維、例えばカーボンナノチューブを投入する。ここで、投入量に関しては特に限定されないが、通常、精製用水溶液1リットルに対し、例えばミセルタイプの場合は炭素繊維1〜5g、擬似ミセルタイプの場合は炭素繊維1〜10g程度が適当である。
【0083】
投入後、ミセルタイプの場合は、炭素繊維、例えばカーボンナノチューブを完全に単分散ないし溶解させるため、好適には、最初に超音波で5分程度ほぐす。その後、室温だと6時間程度、60℃に加温すると数分程度で完全に単分散ないし溶解する。
【0084】
また、擬似ミセルタイプの場合は、ホモジナイザーで、擬似ミセル形成物質、例えば、アルギン酸ナトリウム、透過剤、例えば、水酸化リチウム、酸化剤、例えば、過硫酸ナトリウム、ナノカーボン及び脱イオン水を含む混合物を十分に拡散分散させた後、40℃で、一日程度、静置する。尚、透過剤や酸化剤を用いない場合には、40℃で1週間程度、静置する。
【0085】
使用する溶媒ないし分散媒が水系のものである場合、好ましい別の一例としては、サイクロデキストリンとフラーレンを挙げることができる。ここで、使用可能なサイクロデキストリンは、グルコース残基の数が6個のα型、7個のβ型、8個のγ型のサイクロデキストリンのいずれでもよく、その他、マルトシルサイクロデキストリン、ジメチルサイクロデキストリン等の分岐サイクロデキストリンや修飾サイクロデキストリン、又はサイクロデキストリンポリマー等も使用可能である。これらの分散剤により微細炭素繊維が単分散化するメカニズムは、まず、サイクロデキストリンが疎水性のフラーレンを包摂し、次に当該包摂体の表面の疎水性のフラーレンが、疎水性の炭素繊維と親和力に基づき結合しているためと考えられる。なお、サイクロデキストリンの添加量は、添加する微細炭素繊維の全重量に対して150〜30%であることが好適であり、フラーレンの添加量は添加する微細炭素繊維の全量に対して15〜30%であることが好適である。
【0086】
なお、水系の溶媒ないし分散媒中で、上述したような分散剤を用い、微細炭素繊維を分散処理した後、この分散液より水系溶媒ないし分散媒を完全に除去し乾燥させて得られた、分散処理済の微細炭素繊維を調製すると、当該分散処理済の微細炭素繊維は、これを、非水系溶媒に投入しても良好な分散性を発揮する。従って、非水系の溶媒ないし分散媒中に微細炭素繊維を分散させようとする場合には、このように一端、水系で分散処理を行った後、非水系の溶媒ないし分散媒へと分散させる手法を取ることも可能である。
【0087】
その他の成分
炭素繊維の分散液中には、必要に応じてその他の成分を配合することが可能である。
【0088】
このような成分の1つとしては、例えば、後述するような皮膜形成成分を挙げることができる。
【0089】
本発明においては、炭素繊維分散液を基板上に膜状に展開し、この膜状展開層を乾燥ないしゲル化させて、基板上に少なくとも炭素繊維を分散状態で保持する必要がある。分散液中に配合される分散剤として、上記したミセルタイプや擬似ミセルタイプとして例示される化合物を用いた場合には、これらの化合物の多くが皮膜形成性を有するものであるため、特段別途に皮膜形成成分を配合する必要はない。一方、分散剤を全く含まない場合や、分散剤が例えば無機のものである場合でも、基板上で乾燥ないしゲル化した際に、基板上に炭素繊維を分散状態で保持することは可能ではある。しかしながら、この状態は十分に安定したものとはいえず、搬送等によって外力が加わることによって分散状態(繊維骨格組織)が損なわれてしまう可能性がある。このような場合においては、炭素繊維の分散液皮膜形成成分を配合することが望まれる。
【0090】
なお、このような皮膜形成成分の量が、必要以上に多いと、膜状展開層を乾燥ないしゲル化させた際に炭素繊維同士のネットワーク形成を阻害し、良好な繊維骨格組織層を得ることが損なわれる可能性があるため、最小限の配合量であることが望ましく、例えば、分散液中に含まれる炭素繊維の10質量%以下、より望ましくは5質量%以下とすることが望ましい。
【0091】
その他の配合可能な成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、染料ないし顔料等の着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定化材、難燃化剤等が挙げられる。なお、分散液中に上記したような分散剤を配合することによって微細炭素繊維を分散化させた場合には、一概に、分子量が小さい物質、例えば、分子量500以下、より好ましくは分子量1000以下の物質は、分散液中に配合することを避けるべきである。すなわち、このような分子量の小さな物質が系内に存在することによって、分散性のバランスが損なわれてしまう可能性があるためである。例えば、このような物質が上記したようなミセルタイプないし擬似ミセルタイプの分散剤の分子に置き換わって微細炭素繊維との接触界面に存在してしまうことによって、ミセルないし擬似ミセル形成が損なわれてしまう可能性がある。
【0092】
炭素繊維分散液の膜状展開
上記したような炭素繊維分散液の基板上への膜状展開方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、スピンコーティング法、スプレー法、ローラ法等のコーティング法、あるいは基板を炭素繊維分散液に浸漬する浸漬法などといった公知の各種方法を用いて、炭素繊維分散液を基板へ直接展開することによって行うことができる。
【0093】
あるいはまた、炭素繊維分散液が、例えば、上記したミセルタイプなどのような両親媒性物質を用いて調製されたものである場合、当該炭素繊維分散液を液状媒体、例えば、水等に滴下すると、炭素繊維分散液は、当該液状媒体界面上に膜状に展開し、その流動性を失う。したがって、この膜状展開層を、固相状態を保ったまま、液状媒体界面から基板に転写することにより基板上へ炭素繊維分散液の膜状展開物を被着させることが可能である。特に、液状媒体界面が十分に広いものである場合、炭素繊維分散液の膜状展開層は、炭素繊維を実質的に二次元的に展開した単分子膜状のものとすることができるので、極めて微量の微細炭素繊維によって高い分散性を確保することができる。さらに、このように、一端液状媒体界面上に膜状展開層を形成した場合、炭素繊維分散液中に含まれていた分散剤を膜状展開層中より除去することが容易となる。なお、分散剤は、上記したミセルタイプなどのようなものであっても炭素繊維に固定化されているわけではないので、最終的に炭素繊維分散皮膜を形成した後であっても、系外へ除去することは可能であるが、このように膜状展開層を形成した時点で除去できればより望ましいものである。
【0094】
上記したような、炭素繊維分散液の基板上への膜状展開法において、1回の処理により基板上へ被着される炭素繊維分散液の量としては、特に限定されるものではなく、得ようとする炭素繊維分散皮膜の用途等に応じて適宜変動させることができるが、極端に多い量を単回で付着させると、乾燥ないしゲル化させた後において、嵩高な層を安定に保持することが難しくなると想定されるため、安定な層が形成できる限度で行うことが望ましい。
【0095】
一方で、微細炭素繊維による嵩高な繊維骨格組織層を得ようとする場合には、上記したように単回の処理による付着量を増加させる手法ではなく、炭素繊維分散液の膜状展開およびおよび当該膜状展開層の非流動化の工程を、複数回繰り返すことによって、乾燥ないしゲル化した薄層を積み上げ、所期の層厚とする手法を採択することが望ましい。繰り返しの回数としては特に制限はない。当該繊維骨格組織への、後述する皮膜形成成分を含有する流動体の適用は、このように複数回の処理によって当該繊維骨格組織が所期の層厚とされた後に行われる。しかしながら、必要に応じて、その途中において皮膜形成成分を含有する流動体の適用し、最終的に繊維骨格組織が所期の層厚となった後、再度、皮膜形成成分を含有する流動体を適用するような態様も選択し得る。
【0096】
なお、炭素繊維分散液を基板上に膜状に展開することが、炭素繊維分散液を液状媒体界面上に膜状に展開し、この膜状展開層を液状媒体界面から基板に転写することにより行われる場合、上述したように、液状媒体界面上において炭素繊維分散液の膜状展開層は、流動性を失った状態にあるため、例えば、この膜状展開層を有する液状媒体界面を通過して、基板を上下させる、あるいは基板を界面に水平に移動させるといった、ラングミュア−ブロージェット法における手技と類同の手技を採択することによって、当該薄膜の累積層を簡単に形成することができる。
【0097】
また、上記したように基板表面上に直接炭素繊維分散液をコーティングないし浸漬等により適用し膜状展開層を形成した場合、この膜状展開層の流動性を失わせる、好ましくはゲル化ないし乾燥させる、特に好ましくは乾燥させる方法としても、特に限定されるものではなく、風乾、オーブン乾燥、減圧乾燥等の各種の手法を用いることができる。
【0098】
膜状展開層が流動性を失い、さらにゲル化ないし乾燥化することで、基板表面上には、実質的に炭素繊維のみが網目状等に均一に分散配置されてなる繊維骨格組織層が形成される。
【0099】
皮膜形成成分を含有する流動体の適用(オーバーコート層)
上記のように炭素繊維分散液の膜状展開層が少なくとも流動性を失った後に、当該膜状展開層に対して、前記皮膜基質を形成する皮膜形成成分を含有する流動体を適用する。
【0100】
皮膜形成成分を含有する流動体の適用は、炭素繊維分散液の膜状展開層が少なくとも流動性を失った状態であればよいが、好ましくは、完全にゲル化し乾燥され、前記繊維骨格組織が構造的に安定に確保された後に行う、いわゆるドライ・オン・ウェットにて実施することが望ましい。特に限定されるわけではないが、炭素繊維分散液の膜状展開層が、例えば、揮発分が5%以下、より好ましくは1%以下の状態とされた後に、皮膜基質を形成する皮膜形成成分を含有する流動体を適用することが望ましい。
【0101】
前記皮膜基質を形成する皮膜形成成分を含有する流動体が、流動性を失った炭素繊維分散液の膜状展開層、すなわち、炭素繊維の繊維骨格組織上に適用されると、当該流動体は、単純に炭素繊維の繊維骨格組織の上部のみを覆うことなく、当該繊維骨格組織の内部空隙中にも侵入しこの部位を充填していくため、炭素繊維−皮膜形成成分複合体の基質(マトリックス)部分を形成して行くため、最終的に、少なくともある表面あるいは膜のある面方向断面上では、基質(マトリックス)中に炭素繊維が均一分散された炭素繊維複合皮膜が得られる。
【0102】
なお、上記したような炭素分散液の膜状展開層がゲル化ないし乾燥して形成される前記繊維骨格組織層が、比較的薄い層である場合、皮膜形成成分を含有する流動体によって形成される皮膜基質は繊維骨格組織層の間隙部のみでなく、このような繊維骨格組織層の上部の微細炭素繊維が実質的に存在しない領域にも存在し、ちょうど、炭素繊維−皮膜形成成分複合体層上に皮膜形成成分のみからなる一種の「オーバーコート層」を形成するような形態を取ることもある。
【0103】
このような場合であっても、当該複合体層部分において所期の導電性ないし制電性等が発揮され、複合体層部分の基質および当該オーバーコート層によって、皮膜の硬度、強度等が確保されるゆえ、その目的、用途等においては、このような形態を採るほうがむしおろ望ましい場合もある。
【0104】
ここで、皮膜形成成分を含有する流動体の適用方法としては、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂あるいは水溶性膠質などの皮膜形成成分を含有する溶液の塗布および乾燥による方法、熱硬化性樹脂あるいは紫外線ないし電子線硬化型樹脂、付加反応型樹脂ないしエラストマー、縮合反応型樹脂ないしエラストマー、反応性シリコーン系樹脂等のプレポリマー、未反応成分などといった未架橋ないし未硬化の皮膜形成成分の塗布および架橋ないし硬化による方法、あるいはまた、熱可塑性樹脂のホットメルト、粉体溶融コーティング等のような皮膜形成成分の溶融塗布および凝固による方法など、各種の方法を用いることができる。
【0105】
また、使用される皮膜形成成分としても特に限定されるものではなく、得られる炭素繊維分散皮膜の用途、使用する基材との濡れ性等に応じて、天然高分子、天然高分子変性品(半合成品)、合成高分子(シリコーン系化合物を含む)等の各種のものから適宜選択することができる。
【0106】
なお、上述したように皮膜形成成分を含有する流動体の適用方法する際、炭素繊維分散液の膜状展開層はゲル化ないし乾燥され、微細炭素繊維の非流動的な繊維骨格組織が少なくともほぼ形成されているために、適用される皮膜形成成分に対する当該微細炭素繊維の分散性等は考慮に入れる必要がなく、使用可能な皮膜形成成分の自由度は高いものである。
【0107】
特に限定されるわけではないが、各種皮膜形成成分の一例を挙げると、天然高分子物質としては、酸化でんぷん、リン酸エステル化でんぷん等の多糖類、並びにゼラチン、カゼイン、にかわ、及びコラーゲン等のタンパク質等が挙げられる。また、半合成品としては、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等の繊維素誘導体が用いられる。
【0108】
また、合成高分子としては、ポリビニルアルコール、部分アセタール化ポリビニルアルコール、アリル変性ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、及びポリビニルイソブチルエーテル等の変性ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル部分けん化物、及びポリ(メタ)アクリルアマイド等のポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、及びビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体の親水性高分子や、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、スチレンブタジエン共重合体、カルボキシ変性スチレンブタジエン共重合体、アクリロニトリルブタジエン共重合体、アクリル酸メチルブタジエン共重合体、及びエチレン酢酸ビニル共重合体等のラテックス類等、メラミンホルムアルデヒド初期縮合物、尿素ホルマリン初期縮合物、熱可塑性エラストマー、シリコーン系エラストマーおよびシリコーン系ゴム等が挙げられ、これらは単独であるいは複数種組み合わせて用いることができる。
【0109】
さらに、皮膜形成成分を含有する流動体の組成としては、例えば、公知の各種の塗料やインキ等の組成を用いることも可能である。
【0110】
炭素繊維分散皮膜
上記したように、炭素繊維分散液の膜状展開層が少なくとも流動性を失った後に、当該膜状展開層に対して、前記皮膜基質を形成する皮膜形成成分を含有する流動体を適用することによって、本発明の炭素繊維分散皮膜は基板上に形成されるが、このようにして形成された炭素繊維分散皮膜は、基板上より剥離してフィルム単体として得ることも、あるいは基板上にそのまま残した状態として得ることも可能である。
【0111】
基板より剥離してフィルム単体として得る場合は、少なくとも、露出面、すなわち基材より剥離された面には、微細炭素繊維が分散配置されたものとなるので、例えば、フィールドエミッタや導電性基板等として機能することができる。もちろん、その用途等はこれらに限定されるものではない。
【0112】
一方、基板より剥離せずそのまま基板に炭素繊維分散皮膜を残す場合は、炭素繊維分散液の膜状展開層由来の微細炭素繊維が分散配置された層部分は、少なくとも一面は基板によって覆われており、また多くの場合、他方の面も、後から適用された皮膜形成成分によって形成されたオーバーコート状の層によって覆われており、微細炭素繊維分散層が、サイドイッチされているの状態とされているので、例えば、発熱材料や導線等として使える。
【0113】
また、前記したように炭素繊維分散液の展開被膜は、1層の炭素繊維分散体を基本単位として積層することにより作成され、その厚さは、1層から無限層までに、用途に応じて、自由に制御することができ、また、後から適用される皮膜形成成分を含有する流動体の分量を適宜調整することにより、オーバーコート状の層は、用途等に応じて任意の厚さとすることができ、また実質的にこのような層を形成しないことも可能である。
【0114】
さらに、本発明に係る炭素繊維分散皮膜の特性としては、特に限定されるものではないが、例えば、表面抵抗率等の電気的特性としては、10-3〜108Ω/□の範囲で、自由に制御することができる。また、耐スクラッチ特性等の機械的特性に関しても、従来の微細炭素繊維の樹脂中への分散体を展開して得られる分散皮膜のものと比較して、著しく改善されるものである。
【実施例】
【0115】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0116】
合成例 微細炭素繊維の製造
生成炉からの排ガスの一部を循環ガスとして使用し、この循環ガス中に含まれるメタン等の炭素化合物を、新鮮なトルエンと共に、炭素源として使用して、CVD法により微細炭素繊維を合成した。
【0117】
合成は、触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。新鮮な原料ガスとして、トルエン、触媒を水素ガスとともに予熱炉にて380℃に加熱した。一方、生成炉の下端より取り出された排ガスの一部を循環ガスとし、その温度を380℃に調整した上で、前記した新鮮な原料ガスの供給路途中にて混合して、生成炉に供給した。
【0118】
なお、使用した循環ガスにおける組成比は、体積基準のモル比でCH 7.5%、C 0.3%、C 0.7%、C 0.1%、CO 0.3%、N 3.5%、H 87.6%であり、新鮮な原料ガスとの混合によって、生成炉へ供給される原料ガス中におけるメタンとベンゼンとの混合モル比CH/C(なお、新鮮な原料ガス中のトルエンは予熱炉での加熱によって、CH:C=1:1に100%分解したものとして考慮した。)が、3.44となるように、混合流量を調整された。
【0119】
なお、最終的な原料ガス中には、混合される循環ガス中に含まれていた、C、CおよびCOも炭素化合物として当然に含まれているが、これらの成分は、いずれもごく微量であり、実質的に炭素源としては無視できるものであった。
【0120】
そして、生成炉において、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(第一中間体)を得た。
【0121】
なお、反応炉への原料ガス導入速度は、1850NL/min、圧力は1.03atmとした。
【0122】
上記のようにして合成された第一中間体をアルゴン中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.83であった。また、第一中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したところ、そのSEMおよびTEM写真を図1、2に示す。
【0123】
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、分散皮膜形成に用いる炭素繊維構造体を得た。
【0124】
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図3、4に示す。
【0125】
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察し粒度分布を調べた。得られた結果を表1に示す。
【0126】
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、75.8μm、嵩密度は0.004g/cm、ラマンI/I比値は0.086、TG燃焼温度は807℃、面間隔は3.386オングストローム、粉体抵抗値は0.0077Ω・cm、復元後の密度は0.26g/cmであった。なお、合成例1で測定した各種物性値を、表1にまとめた。
【0127】
【表1】

【0128】
【表2】

【0129】
合成例2 カーボンナノチューブの分散液の調製
精製水1リットルに対し、1.9グラムの3−(N,N−ジメチルステアリルアンモニオ)−プロパンスルホネート[3-(N,N-dimethylstearylammonio)-propanesulfonate]、0.1グラムのドデシル硫酸塩(dodecylsulfate)を添加し、混合ミセル水溶液を調製した。
【0130】
この混合ミセル水溶液1リットルに対して、合成例1で得られた炭素繊維構造体を20g添加し、十分に混合した後、ビーズミル(商品名DYNO-MILL、スイス製、ビーズの種類(ジルコニウム)、平均径0.32mm)を用いて、約180分間分散処理した。微細炭素繊維は完全に水溶液に孤立分散したコロイド(以下、ナノカーボンゾルと称する)が得られた。コロイドの大きさは粒度分布装置(microtrac、日機装)を使い計ったところ、平均直径は500nm以下であったことが分かった。
【0131】
実施例1 微細炭素繊維分散皮膜の形成
ガラス基材の表面上に、合成例1で調製された微細炭素繊維の分散液を、所定の塗布量(乾燥重量換算:10mg/m)でスピンコートによりコーティングし、80℃で2分間風乾させた。コーティングされた展開皮膜表面が乾燥した状態で、この上部より樹脂溶液(フェノール樹脂、濃度5%、溶剤:メタノール)を同様にスピンコートにより所定の塗布量(乾燥重量換算: 400mg/m)でコーティングし、380℃で10分間熱乾させ、微細炭素繊維分散皮膜を形成した。この皮膜の表面抵抗率を測定したところ18Ω/□であった。また、耐スクラッチ性についても十分良好な特性を示した。
【0132】
また、表面の炭素繊維の分散状態をTEMにより観察した。図5はその結果を示すものである。
【0133】
実施例2 微細炭素繊維分散皮膜の形成(多層コート)
実施例1において、微細炭素繊維の分散液をコーティングし乾燥した後、再度微細炭素繊維の分散液をコーティングし乾燥するという工程を10回繰り返す以外は、実施例1と同様にして微細炭素繊維分散皮膜を形成した。得られた皮膜は、実施例1におけるものと同様に、表面抵抗率、耐スクラッチ性共に良好なものであった。
【0134】
実施例3 微細炭素繊維分散皮膜の形成(水上展開)
合成例1で調製された微細炭素繊維の分散液を、水槽に入れた精製水の界面に静かに滴下したところ、分散液は界面上に薄膜状に広がった。そして、基板をこの水面を通過して約10回上下させることで、基板表面に分散液の展開皮膜を転写し約20層に重畳させた。
【0135】
その後、室温(20℃±5℃)にて30分程放置して、基板表面を軽く乾燥させたのち、実施例1と同様に、樹脂溶液をコーティングし、微細炭素繊維分散皮膜を形成した。得られた皮膜は、、実施例1におけるものと同様に、表面抵抗率、耐スクラッチ性共に良好なものであった。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の炭素繊維分散皮膜の調製に用いた炭素繊維構造体の中間体のSEM写真である。
【図2】本発明の炭素繊維分散皮膜の調製に用いた炭素繊維構造体の中間体のTEM写真である。
【図3】本発明の炭素繊維分散皮膜の調製に用いた炭素繊維構造体のSEM写真である。
【図4】(a)(b)は、それぞれ本発明の炭素繊維分散皮膜の調製に用いた炭素繊維構造体のTEM写真である。
【図5】本発明の炭素繊維分散皮膜における炭素繊維の分散状態を示すSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維が皮膜基質中に分散されてなる炭素繊維分散皮膜であって、
分散媒ないし溶媒中に炭素繊維を分散させてなる炭素繊維分散液を、基板上に膜状に展開し、
前記炭素繊維分散液の膜状展開層が少なくとも流動性を失った後に、
当該膜状展開層に対して、前記皮膜基質を形成する皮膜形成成分を含有する流動体を適用することで得られることを特徴とする炭素繊維分散皮膜。
【請求項2】
炭素繊維分散皮膜は、前記基板より剥離されたものである請求項1に記載の炭素繊維分散皮膜。
【請求項3】
炭素繊維分散皮膜は、前記基板上に保持された状態のものである請求項1に記載の炭素繊維分散皮膜。
【請求項4】
皮膜形成成分を含有する流動体を適用するに先立ち、炭素繊維分散液の膜状展開およびおよび当該膜状展開層の非流動化の工程を、複数回繰り返し得られたものである請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維分散皮膜。
【請求項5】
前記皮膜基質は、皮膜形成成分を含有する溶液の塗布および乾燥、皮膜形成成分の溶融塗布および凝固、あるいは未架橋ないし未硬化の皮膜形成成分の塗布および架橋ないし硬化により形成されたものである請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維分散皮膜。
【請求項6】
前記炭素繊維として、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した構造であって、筒を構成するシートが多角形の軸直交断面を有し、該断面の最大径が15〜100nmであり、アスペクト比が10以下で、ラマン分光分析で514nmにて測定されるI/Iが0.1以下であるものを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の再分散用微細炭素繊維集合塊。
【請求項7】
前記炭素繊維として、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものであることを特徴とする炭素構造体を含有するものである請求項1〜6のいずれかに記載の炭素分散皮膜。
【請求項8】
10−3〜10Ω/□の範囲内の表面抵抗率を有するものである請求項1〜7のいずれかに記載の炭素繊維分散皮膜。
【請求項9】
炭素繊維が皮膜基質中に分散されてなる炭素繊維分散皮膜の製造方法であって、
分散媒ないし溶媒中に炭素繊維を分散させてなる炭素繊維分散液を、基板上に膜状に展開し、
前記炭素繊維分散液の膜状展開層が少なくとも流動性を失った後に、
当該膜状展開層に対して、前記皮膜基質を形成する皮膜形成成分を含有する流動体を適用することを特徴とする炭素繊維分散皮膜の製造方法。
【請求項10】
炭素繊維分散液を基板上に膜状に展開することが、炭素繊維分散液を基板上に塗布する、あるいは炭素繊維分散液に基板を浸漬することにより行われるものである請求項9に記載の炭素繊維分散皮膜の製造方法。
【請求項11】
炭素繊維分散液を基板上に膜状に展開することが、炭素繊維分散液を液状媒体界面上に膜状に展開し、この膜状展開層を液状媒体界面から基板に転写することにより行われるものである請求項10に記載の炭素繊維分散皮膜の製造方法。
【請求項12】
形成された炭素繊維分散皮膜を、前記基板より剥離する工程をさらに含むものである請求項9〜11のいずれかに記載の炭素繊維分散皮膜の製造方法。
【請求項13】
所期形状の基板上を被覆する炭素繊維分散皮膜を形成するものである請求項9〜11に記載の炭素繊維分散皮膜の製造方法。
【請求項14】
皮膜形成成分を含有する流動体を適用するに先立ち、炭素繊維分散液の膜状展開およびおよび当該膜状展開層の非流動化の工程を、複数回繰り返すものである請求項9〜13のいずれかに記載の炭素繊維分散皮膜の製造方法。
【請求項15】
前記皮膜基質は、皮膜形成成分を含有する溶液の塗布および乾燥、皮膜形成成分の溶融塗布および凝固、あるいは未架橋ないし未硬化の皮膜形成成分の塗布および架橋ないし硬化により形成されたものである請求項9〜14のいずれかに記載の炭素繊維分散皮膜の製造方法。
【請求項16】
前記炭素繊維として、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した構造であって、筒を構成するシートが多角形の軸直交断面を有し、該断面の最大径が15〜100nmであり、アスペクト比が10以下で、ラマン分光分析で514nmにて測定されるI/Iが0.1以下であるものを用いることを特徴とする請求項9〜15のいずれかに記載の炭素繊維分散皮膜の製造方法。
【請求項17】
前記炭素繊維として、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものであることを特徴とする炭素構造体を用い、炭素繊維分散液を調製するにおいて、メディアミルを用いた分散処理を施すことを特徴とする請求項8〜16のいずれかに記載の炭素繊維分散皮膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−273806(P2008−273806A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122829(P2007−122829)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000005913)三井物産株式会社 (37)
【Fターム(参考)】