説明

微細藻類の分離回収方法

【課題】 微細藻類を含有する培養溶液から微細藻類と培地等の水とを凝集剤の使用量を低減しつつ効率よく分離して、微細藻類の含有率の高い分離水を得る分離回収方法を提供する。
【解決手段】 微細藻類を含む原水Wを中和凝集槽1に導入したら、電気伝導率計(EC計)16で電気伝導率を測定する。そして、電気伝導率が30μS/m未満であれば、ポンプ14Aを起動して塩水供給ライン14から塩水を供給して、電気伝導率を30μS/m以上に調整する。続いて、上記凝集工程で生成した凝集フロックを、浮上分離槽2で凝集フロックと処理水を分離する。具体的には、微細藻類を加圧浮上分離してスキマー2Aで集合させ、この微細藻類を含む回収水Kをスカム回収槽3に一旦貯留した後、回収水Kを回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻類を含有する培養溶液から微細藻類と培地等の水とを効率よく分離して、微細藻類の含有率の高い分離水を得る分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細藻類は、数μm〜数十μmの大きさの単細胞生物である。この微細藻類は、太陽エネルギーを効率よく炭化水素に転換して蓄積し、また各種ミネラルや不飽和脂肪酸などを高濃度に含有することから、ディーゼル燃料などの代替燃料として用いたり、健康食品としたりするなど種々の利用法が提案されている。
【0003】
このような用途に微細藻類を利用するためには、コスト的な制限が大きいことから、微細藻類と培地(液体部分)とを効率よく分離する必要がある。また、このとき回収した微細藻類に不純物が含まれるのを忌避するために、できるだけ薬品を使用せずに回収する方法が望まれる。
【0004】
この微細藻類を回収する方法において、健康食品などの高付加価値の商品の製造を目的とした場合には、遠心分離機を用いて培養液中の微細藻類を分離回収することが一般的に行われている。しかしながら、この方法では、設備の初期投資額が高い上に、多大な消費電力を消費するので、製品の製造コストが高くなってしまう、という問題点がある。特に微細藻類をバイオ燃料として用いることを目的とする場合には、製造に伴う消費エネルギーが生産されるバイオ燃料から得られるエネルギーを上回り、環境負荷の低減にはつながらない、という問題点があった。
【0005】
そこで、アオコや赤潮などの除去技術や、浄水製造工程における前処理工程などを適用することが考えられる。例えば、アオコを分離除去する技術として、特許文献1には、アオコを含む処理水を加圧浮上処理することによりアオコを分離する技術が開示されている。また、特許文献2には、アオコを凝集させた後、加圧浮上処理することによりアオコを分離する技術が開示されている。一方、微細藻類を分離除去する技術として、微細藻類を含む処理水を重力沈降処理することにより微細藻類を分離する方法が種々開示されている(特許文献3、4及び5)。さらに、特許文献6には、アオコを含む処理水をマイクロフィルターや織布スクリーンなどのろ過膜でろ過することにより、アオコを除去することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公1991−37994号公報
【特許文献2】特開1994−315602号公報
【特許文献3】特公1991−37994号公報
【特許文献4】特開1994−315602号公報
【特許文献5】特開2007−98342号公報
【特許文献6】特開2007−98342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているように凝集剤を用いずに微細藻類を加圧浮上分離により分離する場合には、微細藻類の会合状態が良くないので、十分な回収率が得られない、という問題点がある。
【0008】
そこで、特許文献2に記載されているように凝集剤を用いて微細藻類を凝集させることが行われている。この分離回収方法により微細藻類の回収率は向上し、回収性能は安定する。この凝集剤としては、無機凝集剤を単独で使用するか、あるいは無機凝集剤と高分子凝集剤の併用するのが一般的である。
【0009】
この凝集剤を用いて微細藻類を加圧浮上分離により分離回収方法は、例えば、図4に示すようなシステムにより実施することができる。図4において、微細藻類の分離回収システムは、中和槽21と、凝集槽22と、スキマー23Aを備えた浮上分離槽23とが管路27A、27Bにより順次連通しており、浮上分離槽23のスキマー23Aはスカム回収槽24に接続している一方、浮上分離槽23の底部には管路27Cが設けられていて処理水槽25で受ける構造となっている。そして、処理水槽25は引抜き管27Dにより加圧水タンク26に連通しており、さらに、この加圧水タンク26は管路27Eから管路27Bに合流している。なお、図4において、28A、28Bはそれぞれ攪拌装置であり、29はpH計であり、30はアルカリであるNaOH水溶液の薬注ポンプであり、この薬注ポンプ30は、pH計29の測定結果に基づき図示しない制御装置により制御可能となっている。
【0010】
上述したような分離回収シスムにおいて、微細藻類を含む原水Wを中和槽21に導入し、所定量の無機凝集剤を添加したら攪拌装置28Aで攪拌する。このとき無機凝集剤の種類に応じてNaOH水溶液などのアリカリ剤を添加してpHを制御する。
【0011】
続いて、この凝集剤を添加した原水Wを凝集槽22に移送して、攪拌装置28Bでさらに攪拌することにより、微細藻類の凝集フロックを形成し、さらにポリアクリルアミド系高分子などの高分子凝集剤を添加してこの凝集フロックを粗大化する。
【0012】
そして、この微細藻類の凝集フロックが形成された原水Wを浮上分離槽23に移送して、微細藻類を加圧浮上分離してスキマー23Aで集合させ、この微細藻類を含む回収水Kをスカム回収槽24に一旦貯留した後回収する。これにより微細藻類を高濃度に回収することができる。
【0013】
一方、浮上分離槽23の残留水中にも原水Wよりも高濃度に微細藻類が含まれているので、この浮上分離槽23の底部から分離水Sを引き抜き、処理水槽25でこれを受けて、管路27Dにより加圧水タンク26に供給し、加圧水タンク26からエアーで押し出してこの加圧水Pを管路27Eから管路27Bに合流させて浮上分離槽23に返送することにより、微細藻類の回収率の向上を図っている。
【0014】
しかしながら、上述したような分離回収システムでは、代表的な無機凝集剤であるPACや鉄系凝集剤などをある程度の量添加する必要があり、これらの無機凝集剤に由来するアルミニウムや不純物として含まれる重金属が回収水Kに混入する。しかも、高分子凝集剤も混入してしまう。これらの無機凝集剤や高分子凝集剤に由来する成分の混入量はできるだけ少なくする必要がある。その一方で微細藻類の回収率及び回収水K中の微細藻類の濃度についても改善の余地がある、という問題点がある。
【0015】
一方、加圧浮上分離ではなく、特許文献3〜5に記載されているように沈降分離により微細藻類を分離する方法では、微細藻類は種類によっては比重が水とほぼ等しいため、十分に分離せず、回収率が低く安定処理が困難となる、という問題点がある。また、この結果濃縮水の含水率が高いため、回収後の乾燥工程が大型化し、処理コストが増大する、という問題点がある。
【0016】
さらに、特許文献6に記載されているようにマイクロフィルターや織布スクリーンなどのろ過膜でろ過する場合には、数μm〜数十μmの目開きの織布スクリーンを用いたときには、ろ過差圧が小さくポンプ動力を小さくできる利点がある反面、リークする微細藻類が多くなり回収率が低下する、という問題点がある。一方、細孔径がサブミクロン以下のマイクロフィルターを用いたときには、回収率は高いが、ろ過差圧が高く消費電力量が大きい上にファウリングによるフラックスの低下が起きやすい、という問題点がある。そこで、フラックスを回復させるために薬品洗浄や逆洗浄を定期的に実施することが考えられるが、設備が複雑になるため、回収率が低下したり回収コストが増加したりする、という問題点を生じる。
【0017】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、微細藻類を含有する培養溶液から微細藻類と培地等の水とを凝集剤の使用量を低減しつつ効率よく分離して、微細藻類の含有率の高い分離水を得る分離回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明は、微細藻類を含有する原水から微細藻類を分離回収する方法において、微細藻類が凝集しやすい表面ゼータ電位となるように原水の塩類濃度を調整する調整工程と、前記微細藻類を含む原水に無機凝集剤を添加して凝集反応を行わせる凝集工程と、凝集工程で生成した凝集フロックを固液分離する加圧浮上分離工程とを有することを特徴とする微細藻類の分離回収方法を提供する(発明1)。
【0019】
かかる発明(発明1)によれば、原水の塩類濃度を調整する調整することにより、微細藻類の表面のゼータ電位を調整し凝集しやすくすることができるので、無機凝集剤の添加量を大幅に削減しても良好に微細藻類の凝集フロックを形成することができる。そして、この凝集フロックを加圧浮上分離することにより、微細藻類の含有率の高い分離水を得ることができる。さらに、微細藻類は水と比重が近似するものが多いので、沈降分離には長時間を要するが、固液分離手段として加圧浮上分離を採用しているので、効率よく微細藻類を固液分離することができる。
【0020】
上記発明(発明1)においては、前記調整工程において、原水の電気伝導率が30μS/m以上となるように塩類濃度を調整するのが好ましい(発明2)。
【0021】
かかる発明(発明2)によれば、微細藻類の表面のゼータ電位を特に凝集しやすくすることができる。
【0022】
上記発明(発明1、2)においては、前記加圧浮上分離工程の処理水の一部を凝集工程に返送する返送工程を有するのが好ましい(発明3)。
【0023】
かかる発明(発明3)によれば、加圧浮上分離工程の処理水を返送することにより、微細藻類の回収率を向上させることができる。
【0024】
上記発明(発明3)においては、前記返送工程において、前記加圧浮上分離工程の処理水中に含まれる微細藻類の少なくとも一部を返送するとともに、該返送される加圧浮上分離工程の処理水に高分子凝集剤を添加するのが好ましい(発明4)。
【0025】
かかる発明(発明4)によれば、加圧浮上分離工程の処理水を返送することにより、原水中の微細藻類の濃度が増加し、必要な凝集剤の量が増加するが、返送される加圧浮上分離工程の処理水に高分子凝集剤を添加することにより、原水に添加する凝集剤と高分子凝集剤との相乗効果により、凝集剤の増加量を最小限に抑制しても凝集効果を得ることができる。
【0026】
上記発明(発明1〜4)においては、前記加圧浮上分離工程で分離回収した微細藻類を一次貯留してさらに固液分離する貯留分離工程と、該貯留分離工程の固液分離水を加圧浮上分離工程に返送する固液分離水返送工程とを有するのが好ましい(発明5)。
【0027】
かかる発明(発明5)によれば、加圧浮上分離工程で分離回収した微細藻類は、一次貯留してもすぐには沈降しないため、下部から水を引き抜くことにより、微細藻類の濃縮倍率を簡単に上げることができる。そして、貯留分離工程の固液分離水中には、加圧浮上分離工程の処理水よりも微細藻類が高濃度で含まれているので、これを加圧浮上分離工程に返送することにより、固液分離の効率をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、微細藻類が凝集しやすい表面ゼータ電位となるように原水の塩類濃度を調整して、前記微細藻類を含む原水に凝集剤を添加して凝集反応を行っているので、良好に微細藻類の凝集フロックを形成することができ、凝集剤の添加量を大幅に削減することができる。そして、この凝集フロックを加圧浮上分離することにより、微細藻類の含有率の高い分離水を得ることができる。さらに、微細藻類は水と比重が近似するものが多いので、沈降分離には長時間を要するが、固液分離手段として加圧浮上分離を採用しているので、効率よく微細藻類を固液分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る微細藻類の分離回収方法を実施可能なシステムを示すフロー図である。
【図2】本発明の第二の実施形態に係る微細藻類の分離回収方法を実施可能なシステムを示すフロー図である。
【図3】実施例1及び比較例1のPACの添加量と微細藻類の回収率とを示すグラフである。
【図4】従来の微細藻類の分離回収方法を実施可能なシステムを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、本実施形態はいずれも例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
図1は、本実施形態の第一の実施形態による微細藻類の分離回収方法を実施可能な回収システムを示している。図1において、微細藻類の分離回収システムは、中和凝集槽1と、スキマー2Aを備えた浮上分離槽2とが管路6Aにより連通しており、浮上分離槽2のスキマー2Aはスカム回収槽3に接続している一方、浮上分離槽2の底部には管路6Bが設けられていて処理水槽4で受ける構造となっている。この処理水槽4は管路6Cにより加圧水タンク5に連通しており、さらにこの加圧水タンク5は、管路6Dから管路6Aに合流している。また、処理水槽4の下部は傾斜面となっていて、底部には返送配管7が接続されている。そして、本実施形態においては、返送配管7の途中にはスタティックミキサーなどの固定型管内混合器(図示せず)が付設されていて、高分子凝集剤が注入可能となっている。
【0032】
また、中和凝集槽1には、攪拌装置10と、無機凝集剤供給ライン11と、高分子凝集剤供給ライン12と、ポンプ13Aを備えたNaOH水溶液供給ライン13と、ポンプ14Aを備えた塩水供給ライン14とがそれぞれ設けられている一方、中和凝集槽1中には、pH計15と電気伝導率計16とが設置されている。そして、ポンプ13Aは、pH計15の測定結果に基づき図示しない制御装置により制御可能となっており、ポンプ14Aは、電気伝導率計16の測定結果に基づき図示しない制御装置により制御可能となっている。
【0033】
次に、上述したような回収システムを用いた本実施形態の微細藻類の分離回収方法について説明する。
【0034】
(調整工程)
まず、微細藻類を含む原水Wを中和凝集槽1に導入したら、電気伝導率計(EC計)16で電気伝導率を測定する。そして、電気伝導率が30μS/m未満であれば、ポンプ14Aを起動して塩水供給ライン14から塩水を供給して、電気伝導率を30μS/m以上、好ましくは40μS/m以上に調整する(調整工程)。原水Wの電気伝導率が30μS/m未満では、微細藻類の表面のゼータ電位が大きく、微細藻類の凝集性の向上が十分でない。原水Wの電気伝導率の上限については、100μS/mを超えてもそれ以上の微細藻類の凝集性の向上効果が得られないばかりか経済的でない。
【0035】
(凝集工程)
上記調整工程と並行して、無機凝集剤供給ライン11から原水Wに所定量の無機凝集剤を添加する。本実施形態においては、中和凝集槽1で中和とフロック形成を行うことで工程の簡略化と省エネ化を図っている。上記無機凝集剤としては、特に制限はなく、例えば、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄などを用いることができる。
【0036】
これらの無機凝集剤の添加により、Al3+、Fe3+、Fe2+などの多価カチオンが、懸濁粒子の荷電を中和して、凝結作用により原水中の懸濁物、有機物、重金属などのフロックが形成される。添加する無機凝集剤の量は、原水(被処理水)W中の微細藻類濃度(SS濃度)に応じて適宜選択することができるが、回収した微細藻類中の混入量を極力避ける目的で通常は数〜数百mg/Lの範囲で選択し、必要最小限の濃度とすることが好ましい。特に、本実施形態においては、前述した調整工程により原水Wの電気伝導率計を30μS/m以上としているので、無機凝集剤の添加量を30〜90%程度削減することができる。なお、中和凝集槽1内のpHが高くなりやすいため、アルカリ条件で不溶性の炭酸塩や水酸化物塩を生成するカルシウムやマグネシウム塩の使用は避けるのが好ましい。
【0037】
このように原水Wの電気伝導率を30μS/m以上とすることで、微細藻類の回収率が向上し、また凝集剤の使用量を削減できる理由は必ずしも明確ではないが、原水W中の塩類濃度が高くなると微細藻類周辺のイオン量が増えゼータ電位が低下する結果、微細藻類が凝集しやすくなったためであると考えられる。
【0038】
なお、特に初期段階などにおいては、必要に応じて高分子凝集剤供給ライン12から高分子凝集剤を添加することができる。この高分子凝集剤としては、返送配管で添加するものと同じものを用いることができる。
【0039】
本実施形態においては、pH計15の測定値に基づいてポンプ13Aを起動することで、pH調整剤としてのNaOHを添加してpHの調整を行うことが好ましい。このpH調整剤としては、水酸化ナトリウム水溶液の他、例えば、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液などのアルカリを用いることができる。調整するpH値は、使用する無機凝集剤の種類に応じて適切な値を選択する。例えば、硫酸アルミニウム及びポリ塩化アルミニウムを用いた場合はpH5〜7.5とすることが好ましく、塩化第二鉄を用いた場合はpH5〜8とすることが好ましく、硫酸第一鉄を用いた場合はpH9〜11とするのが好ましい。なお、原水Wに無機凝集剤を添加した状態ですでにpHが好適範囲にあれば、pH調整剤の添加を省略することができる。
【0040】
このように必要に応じてpHを調整して不溶性の金属水酸化物を形成し、攪拌装置10により攪拌することにより、懸濁粒子の荷電の中和とフロックの形成が進行する。凝集工程を行う中和凝集槽1での滞留時間は5〜10分であることが好ましく、攪拌装置10による撹拌速度は周速0.3〜3mm/secであることが好ましい。
【0041】
(加圧浮上分離工程)
続いて、上記凝集工程で生成した凝集フロックを、浮上分離槽2で凝集フロックと処理水を分離する。具体的には、微細藻類を加圧浮上分離してスキマー2Aで集合させ、この微細藻類を含む回収水Kをスカム回収槽3に一旦貯留した後回収する。これにより高濃度で微細藻類を回収することができる。
【0042】
一方、浮上分離槽2の分離水S中にも原水Wよりも高濃度に微細藻類が含まれているので、この分離水Sを浮上分離槽2の下部から引き抜き、処理水槽4で受ける。本実施形態においては、処理水槽4の底部を凹状の傾斜面とすることで、重力で沈降した微細藻類を集めて返送水Bとして、返送配管7から原水Wに返送する。一方、処理水槽4に残った分離水Sに含まれる微細藻類は容易に浮上分離するため、再度の凝集剤添加や撹拌によるフロックの形成は不要であるので、管路6Cにより加圧水タンク5に供給し、加圧水タンク5からエアーで押し出して加圧水Pを管路6Dから管路6Aに合流させて浮上分離槽2に返送すればよい。
【0043】
上述したような返送配管7から原水Wへの微細藻類の返送は、原水W中の微細藻類濃度が10〜200mg/L、特に30〜80mg/L上昇するように行うのが好ましい。返送に伴う原水W中の微細藻類の濃度の上昇が10mg/L未満では、返送による回収率の向上効果が十分でない一方、200mg/Lを超えると、フロックの形成に必要な凝集剤量が増加し、その結果回収水K中に残留する凝集剤量が多くなる恐れがあるため、好ましくない。
【0044】
なお、本実施例においては、返送配管7の途中にラインミキサー、スタティックミキサーなどの固定型管内混合器(図示せず)を付設して高分子凝集剤を急速混合する。このような構成を採用することにより、返送水Bに高分子凝集剤を添加して中和凝集槽1に到達するまでに10秒以上の時間を確保できれば、高分子凝集剤と返送水Bとを十分に混合することができる。
【0045】
上記高分子凝集剤としては、特に制限はないが、高分子量のノニオン性又はアニオン性の重合体であることが好ましい。このような高分子凝集剤としては、例えば、ポリアクリルアミド若しくはポリメタクリルアミド又はそれらの部分加水分解物、アクリルアミド若しくはメタクリルアミド又はそれらのナトリウム塩とアクリル酸又はメタクリル酸との共重合体、ポリアクリル酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はそのナトリウム塩の重合体又は共重合体などを用いることができる。その他、ポリグルタミン酸やアルギン酸、キトサンなどの天然凝集剤も使用可能であるが、微細藻類の種類によっては凝集効果が安定性を欠く場合があり、選定には注意が必要である。
【0046】
上述したような各工程により、原水Wに塩類を添加して電気伝導率を調整した後、微細藻類を回収するとともに、未回収の微細藻類を返送して循環しながら回収することにより、無機凝集剤の添加量を大幅に削減するとともに微細藻類を効率よく高い回収率で回収することができる。
【0047】
さらに、上述したような第一の実施形態によれば、中和凝集槽1の単槽で中和と凝集を行うので、槽の数が少なく装置を簡略化することができる上に、ポリ塩化アルミニウムなど無機凝集剤の添加量を削減することができるので、pH調整に用いるNaOHの必要量も削減することができる、という効果も奏する。これらにより、その後必要に応じて行われる後処理工程としての濃縮工程や乾燥工程における装置・設備の規模を縮小でき、これらの工程のコストおよび消費エネルギーを低減することができる。
【0048】
次に第二の実施形態について、図2に基づいて詳細に説明する。図2においては、前述した第一の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0049】
第二の実施形態においては、スカム回収槽3の底部は凹状の傾斜面となっており、スカム回収槽3の底部から固液分離水を返送配管8から管路6Aに合流させて浮上分離槽2に返送する構造となっている以外は、前述した第一の実施形態と同じ構成及び作用効果を有する。
【0050】
さらに、このような構成を採用することにより、固液分離手段として浮上分離槽2による加圧浮上分離工程を採用しているが、スカム回収槽3に回収された微細藻類はすぐに沈降しない。そこで、スカム回収槽3に一旦貯留し(貯留分離工程)、スカム回収槽3の底部から固液分離水を引き抜くこと(固液分離水返送工程)で、微細藻類の濃縮倍率を上げることが可能となっている。
【0051】
以上、本発明について添付図面を参照に説明してきたが、本発明は前記第一及び第二の実施形態に限定されず、種々の変更実施が可能である。例えば、返送配管7で返送される処理水に高分子凝集剤を添加する方法は、スタティックミキサーから注入する方法に限らず、返送配管7の途中に撹拌槽を設け、高分子凝集剤を別途添加するようにしてもよい。
【0052】
さらに、電気伝導率の調整には、塩水を用いればよいが、ある程度の塩類濃度があれば、安価な下水、排水、し尿などの処理水や海水などを代用してもよい。
【実施例】
【0053】
以下の実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
生クロレラ「V12」(クロレラ工業(株)製)に水を添加し、電気伝導率を約10μS/m、SS(クロレラ)濃度400〜500mg/Lの原水Wを調整した。
【0055】
図1に示す構成を有するパイロットテスト機を使用し、原水Wの処理量を100L/hrとして微細藻類の回収試験を実施した。中和凝集槽1の容量は10L、滞留時間6分、撹拌周速1m/secとし、中和凝集槽1にアニオン系高分子凝集剤(「クリフロックPA331」、栗田工業(株)製)を添加した加圧浮上処理水を返送配管7から返送するとともに、無機凝集剤供給ライン11からポリ塩化アルミニウムを5〜500mg/L添加する一方、NaOH水溶液供給ライン13から水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを6.5に調整し、さらに塩水供給ライン14から塩化ナトリウム水溶液を供給して原水Wの電気伝導率を40μS/m以上に調整して、微細藻類の凝集フロックを形成させた。
【0056】
次に、凝集フロックを生成させた原水Wを、容量13Lの浮上分離槽2に導入し、滞留時間8分で加圧浮上分離を行い、回収水Kを回収した。浮上分離槽2の分離水Sは容量5Lの処理水槽4に一時貯留した後放流した。この分離水Sの一部は加圧水タンク6を経て加圧水として、管路6Dを経由して浮上分離槽2に戻した。このときの加圧水の流量は40L/hrで送水し、加圧浮上処理水槽の滞留時間は3分とした。処理水槽4は下部がテーパー加工されており、分離水Sに残留した微細藻類が処理水槽4内で沈降するようにし、微細藻類濃度が低い上澄水を加圧水に利用し、微細藻類濃度が高い下部水を返送水Bとして返送配管7から0.4L/hrの量で返送するとともに、返送配管7の高分子凝集剤注入口の下流側にラインミキサーを設け、アニオン系高分子凝集剤(「クリフロックPA331」、栗田工業(株)製)を50〜200mg/hrの割合で注入した。返送水B中の微細藻類濃度は0.6〜1.4mg/Lであり、原水のSS増加量約40mg/Lに相当した。
【0057】
ポリ塩化アルミニウムとアニオン系高分子凝集剤の添加を上記の濃度範囲として、微細藻類の回収率(R)が高く添加量を最小にできる濃度に最適化を行った。そして、原水Wの微細藻類濃度(C1)と流量(Q1)、及び回収水Kの微細藻類濃度(C2)と流量(Q2)をそれぞれ測定し、微細藻類の回収率(R)を下記式に基づき算出した。また、中和凝集槽出口1において採水し、凝集した微細藻類フロック径を測定した。これらの結果を原水Wの電気伝導率、ポリ塩化アルミニウム添加量、アニオン系高分子凝集剤添加量、スカム浮上速度とともに、回収微細藻類濃度とともに表1に示す。
R(%)=[1−(C2×Q2)÷(C1×Q1)]×100
【0058】
(比較例1)
図4に示す装置を用い、アニオン系高分子凝集剤(「クリフロックPA331」、栗田工業(株)製)0.5〜2.0mg/Lを凝集槽22で添加し、塩化ナトリウムを用いた電気伝導率の調整を省略した以外は実施例1と同様にして試験を行った。なお、凝集槽22の滞留時間は3分、撹拌周速は0.8m/secとした。
【0059】
そして、原水Wの微細藻類濃度(C1)と流量(Q1)、及び回収水Kの微細藻類濃度(C2)と流量(Q2)をそれぞれ測定し、微細藻類の回収率(R)を実施例1と同様にして算出した。また、中和凝集槽出口1において採水し、凝集した微細藻類フロック径を測定した。これらの結果を原水Wの電気伝導率、ポリ塩化アルミニウム添加量、アニオン系高分子凝集剤添加量、スカム浮上速度とともに、回収微細藻類濃度とともに表1にあわせて示す。
【0060】
さらに、上記実施例1および比較例1において、ポリ塩化アルミニウム(PAC)の添加量を0.5mg/L、1mg/L、5mg/L、10mg/L、25mg/L及び50mg/Lとして微細藻類の回収率をそれぞれ測定した。結果を図3に示す。
【0061】
(実施例2)
図2に示す装置を用い、スカム回収槽3から分離水を0.1L/hrで返送した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。
【0062】
そして、原水Wの微細藻類濃度(C1)と流量(Q1)、及び回収水Kの微細藻類濃度(C2)と流量(Q2)をそれぞれ測定し、微細藻類の回収率(R)を実施例1と同様にして算出した。また、中和凝集槽出口1において採水し、凝集した微細藻類フロック径を測定した。これらの結果を原水Wの電気伝導率、ポリ塩化アルミニウム添加量、アニオン系高分子凝集剤添加量、スカム浮上速度とともに、回収微細藻類濃度とともに表1にあわせて示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1から明らかなとおり、凝集工程に返送される返送水Bに高分子凝集剤を添加し、原水の電気伝導率を40μS/m以上に調整した実施例1及び2は、中和槽21及び凝集槽22を設けて高分子凝集剤を添加する従来法である比較例1よりも、凝集剤の添加量が少なくても中和凝集槽1において生成するフロックの径が大きく、その結果、微細藻類回収率が高くなっている。特に、スカム回収槽3の分離水を浮上分離槽2に返送した実施例2では、分離回収した微細藻類の濃度が高くなっている。また、図3から原水Wの電気伝導率を高くすることで、凝集剤の添加量を低減できることが明らかとなった。
【0065】
以上の結果より、本発明によれば従来方法に比べて少ない凝集剤の使用量で、高い微細藻類の回収率を得ることができ、また、回収した微細藻類をより高濃度に濃縮できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
上述したような本発明の微細藻類の分離回収方法は、微細藻類を含有する培養溶液から微細藻類と培地等の水とを効率よく分離して、微細藻類の含有率の高い分離水を得ることができるので、ディーゼル燃料などの代替燃料として用いたり、健康食品としたりするなど種々の用途へ活用でき、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0067】
1…中和凝集槽(調整工程、凝集工程)
2…浮上分離槽(加圧浮上分離工程)
2A…スキマー(加圧浮上分離工程)
3…スカム回収槽(加圧浮上分離工程)
7…返送配管(返送工程)
8…引き抜き返送配管(固液分離水返送工程)
11…無機凝集剤供給ライン
12…高分子凝集剤供給ライン
14…塩水供給ライン
16…電気伝導率計
W…原水
S…分離水
K…回収水
B…返送水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細藻類を含有する原水から微細藻類を分離回収する方法において、
微細藻類が凝集しやすい表面ゼータ電位となるように原水の塩類濃度を調整する調整工程と、
前記微細藻類を含む原水に無機凝集剤を添加して凝集反応を行わせる凝集工程と、
凝集工程で生成した凝集フロックを固液分離する加圧浮上分離工程と
を有することを特徴とする微細藻類の分離回収方法。
【請求項2】
前記調整工程において、原水の電気伝導率が30μS/m以上となるように塩類濃度を調整することを特徴とする請求項1に記載の微細藻類の分離回収方法。
【請求項3】
前記加圧浮上分離工程の処理水の一部を凝集工程に返送する返送工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の微細藻類の分離回収方法。
【請求項4】
前記返送工程において、前記加圧浮上分離工程の処理水中に含まれる微細藻類の少なくとも一部を返送するとともに、該返送される加圧浮上分離工程の処理水に高分子凝集剤を添加することを特徴とする請求項3に記載の微細藻類の分離回収方法。
【請求項5】
前記加圧浮上分離工程で分離回収した微細藻類を一次貯留してさらに固液分離する貯留分離工程と、
該貯留分離工程の固液分離水を加圧浮上分離工程に返送する固液分離水返送工程と
を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の微細藻類の分離回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−179586(P2012−179586A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67336(P2011−67336)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【分割の表示】特願2011−45766(P2011−45766)の分割
【原出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】