説明

微量液体試料分注装置

【課題】従来の微量液体試料の解析技術においては、複雑で大型の検出装置を伴うため、システム全体を単純化してスループットを高めることが困難であった。
【解決手段】微量液体試料を吸入吐出し、内部に微量液体試料を保持する構造を有する微量液体保持チップと、内部空間の開放密閉を行う開閉制御機構とを備えたピペット部から成る微量液体制御部をアレイ状に多数配置し、これらを自動制御させる機構を備えた微量液体試料分注装置を供することによって、複雑な検出装置を不要としながら、微量試料の解析、および移動の制御を可能にする迅速かつ簡便な装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料の自動分注装置に関する技術であり、とくに非常に多数の微量液体試料を対象として、解析処理結果に応じた移動の制御を可能にする方法およびこれを用いる装置に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、ライフサイエンスの各分野において広く使用される自動分注装置は、ハイスループット化、微量化、多機能化が進んでいる。自動分注装置では、96ウェル、384ウェル、1536ウェルなどのマルチウェルプレートが用いられ、同一のマルチウェルプレートに収容された液体試料は同時に解析処理を受ける。しかしながら、その解析結果がプレート単位で一定になることはまれであり、一様ではない場合の方が多い。したがって、解析結果に応じて選択的に異なる容器に分注させることが望ましい。
【0003】
従来の技術においては、一部を分取した液体試料を別のマルチウェルプレートに移した後に比色,蛍光等を利用した解析処理を行い、その解析結果を元のマルチウェルプレートと照合して各液体試料を分注するという手段が講じられている。
【0004】
例えば、特許文献1から特許文献3には、微量液体試料分注装置の例が記載されている。
【特許文献1】特開2004−325117号公報
【特許文献2】特開2001−299388号公報
【特許文献3】特開平11−201976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このような手段においては、次のような問題点がある。すなわち、
(1)液体試料の分注の回数が多くなり、工程数が増加する。
(2)微量液体試料の比色,蛍光等を利用した解析装置は複雑かつ大型のものが一般的で、これらをシステムに組み込んだ場合、システム全体の単純化・小型化が困難なものとなってしまう。
【0006】
本発明の課題は、上述の事情を考慮してなされたものであり、検出装置自体を不要としながらも、微量液体試料の解析、および移動の制御を可能にする簡便な代替方法およびこれを用いる装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。具体的には、試料が微量のときに支配的な特性となる表面張力に着目した微量液体試料分注装置である。
本発明の微量液体試料分注装置は、微量液体試料を吸入吐出し、内部に微量液体試料を保持する構造を有する微量液体保持チップと、内部空間の開放密閉を行う開閉制御機構を備えたピペットとを有しており、試料間で表面張力の異なる複数の微量液体試料を表面張力の差異に応じて異なる容器に分注することを特徴としている。
【0008】
本発明では、重力の影響が小さくなり、表面張力の影響が支配的になるような微量液体試料が対象となるので、具体的には数μlから500μl以下程度の微量液体試料が望ましい。
【0009】
また、微量液体試料の種類は、粘性の極めて高い液体試料を除き特に限定されない。具体的には、様々な水溶液、有機化合物、化学反応溶液、菌培養液、あるいは細胞培養液であってもかまわない。
【発明の効果】
【0010】
従って、本発明によれば、複雑な検出装置を不要としながらも、微量試料の解析、および移動の制御を可能にする迅速かつ簡便な装置を提供することができる。
本発明は、多検体同時高速処理の需要が非常に高い微量液体試料の解析方法およびこれを用いる装置に利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明に係る微量液体試料分注装置の実施例1が適用されたマルチウェルプレート自動分注装置1の全体構造を示す斜視図である。この図1に示す、微量液体試料分注装置としてのマルチウェルプレート自動分注装置1は、マルチウェルプレートA3の各ウェル2に入った表面張力の異なる微量液体試料を、表面張力の差に応じて、マルチウェルプレートB4およびマルチウェルプレートC5に分注する装置である。このマルチウェルプレート自動分注装置1は、3枚のマルチウェルプレートを固定するプレートホルダ6、プレートホルダ6をXY方向に動かすプレートホルダ駆動機構7、微量液体試料を吸入吐出する液体制御部8、並びに液体制御部8をYZ方向に動かす液体制御部駆動機構9から構成される。さらに、液体制御部8は、ピペット10、ピペットホルダ11、ピペット制御部12、並びに微量液体保持チップ13から構成される。
【0013】
図2は、上記液体制御部8を断面にして示す平面図である。以下、図2に基づいて、液体制御部8の構成を詳細に説明する。マルチウェルプレートのウェル数と同数のピペット10が、マルチウェルプレートの各ウェルと対応するようにピペットホルダ11にアレイ状に配置され、全てのピペットに微量液体保持チップ13が取り付けられる。また、全てのピペット10は、ピペット制御部12によって同時に自動制御を受けるようになっている。
【0014】
各ピペット10は、筒状のバレル14と、バレル内を上下に動くプランジャ15と、バレル内部の開放密閉の状態を切り替える開閉バルブ16から構成される。プランジャ15の上下の動作並びに開閉バルブ16の開閉の動作は、それぞれピペット制御部12におけるプランジャ制御部17並びにバルブ制御部18により自動制御されるようになっている。
【0015】
微量液体保持チップ13は、下端にいくほど内径が小さくなる円錐形状をしており、内径の最大部は5mm、最小部で0.5mmである。材質はポリプロピレンである。なお、微量液体保持チップ13はピペット10にはめこまれて連結されているため、交換可能となっている。
【0016】
次に、図3と図4に基づいて、微量液体試料分注装置としてのマルチウェルプレート自動分注装置1の動作機序を説明する。図3は液体制御部8の動作図であり、プレートAの各ウェルに入った微量液体試料のうち、表面張力の小さい微量液体試料がプレートBのウェルに、表面張力の大きい微量液体試料がプレートCのウェルに、それぞれ分注される機序を示す。
【0017】
ここで述べる表面張力の小さい微量液体試料は、例えば、エタノール、イソプロパノール等のアルコール溶液や、ヘキサン、オクタン等の有機化合物、あるいはドデシル硫酸ナトリウムのような界面活性剤の水溶液等である。一方、表面張力の大きい微量液体試料は、例えば、水、濃度の低い水溶液、あるいは塩化ナトリウム等の金属塩の水溶液である。
【0018】
図3(A)には、表面張力の小さい微量液体試料24が収容されたマルチウェルプレートAの一個のウェル19と、このウェルと同座標の位置にあるマルチウェルプレートBの一個のウェル20と、マルチウェルプレートCの一個のウェル21、並びにこれらのウェルに対応するピペット22と、そのピペットに取り付けられた液体保持チップ23が図示される。
【0019】
以下、図3(A)に基づき、マルチウェルプレートAの一個のウェルに入った表面張力の小さい微量液体試料が、マルチウェルプレートBの一個のウェルに、分注される動作を示す。第一に、マルチウェルプレートAが液体制御部の下方に位置するように移動し、開閉バルブが閉まった状態でプランジャが引き上げられることにより、微量液体試料が吸入され、液体保持チップ内部の上方部分に保持される(図3(A−1))。
【0020】
第二に、マルチウェルプレートBが液体制御部の下方に位置するように移動し、開閉バルブが開く。このとき、微量液体試料は大気圧の作用を受けるが、表面張力が小さいために、微量液体試料は下方に滑り落ちて液体保持チップから落下し、マルチウェルプレートBのウェルに入る(図3(A−2))。
【0021】
第三に、マルチウェルプレートCが液体制御部の下方に位置するように移動し、開閉バルブが閉まった状態で、プランジャが引き下げられるが、液体保持チップ内部には何も存在しないため、マルチウェルプレートCのウェルには何も分注されない(図3(A−3))。
【0022】
一方、図4(B)には、表面張力の大きい微量液体試料30が収容されたマルチウェルプレートAの一個のウェル25と、このウェルと同座標の位置にあるマルチウェルプレートBの一個のウェル26と、マルチウェルプレートCの一個のウェル27、並びにこれらのウェルに対応するピペット28と、そのピペットに取り付けられた液体保持チップ29が図示される。
【0023】
以下、図4(B)に基づき、マルチウェルプレートAの一個のウェルに入った表面張力の大きい微量液体試料が、マルチウェルプレートCの一個のウェルに分注される動作を示す。第一に、マルチウェルプレートAが液体制御部の下方に位置するように移動し、開閉バルブが閉まった状態でプランジャが引き上げられ、マルチウェルプレートAの一個のウェルに入った微量液体試料が吸入され、液体保持チップ内部の上方部分に保持される(図4(B−1))。
【0024】
第二に、マルチウェルプレートBが液体制御部の下方に位置するように移動し、開閉バルブが開く。このとき、微量液体試料は大気圧の作用を受けるが、表面張力が大きいために、微量液体試料は内径が小さい部分まで滑り落ちて途中で止まり、液体保持チップから落下しない(図4(B−2))。
【0025】
第三に、マルチウェルプレートCが液体制御部の下方に位置するように移動し、開閉バルブが閉まった状態で、プランジャが引き下げられることにより、微量液体試料は液体保持チップから吐出され、マルチウェルプレートCのウェルに入る(図4(B−3))。
【0026】
しがたって、以上の説明のように、マルチウェルプレート自動分注装置1の一回の動作で、マルチウェルプレートAに入っている微量液体試料のうち、表面張力の小さい試料はマルチウェルプレートBに、表面張力の大きい試料はマルチウェルプレートCに分注される。また、微量液体保持チップ13を交換することにより、次のマルチウェルプレートの分注を行うことができる。
【0027】
以上のように、本発明の実施例1によれば、表面張力の異なる多数の微量液体試料を、表面張力の測定が全くの不要で、非常に簡便かつ迅速に、表面張力の差に応じて分注することが可能である。
【実施例2】
【0028】
本発明の実施例2は、異なる微量液体保持チップを使用すること以外は、上述した実施例1の微量液体試料分注装置と同様である。図5は、本実施例2で特徴的に使用する微量液体保持チップを取り付けた液体制御部の断面図である。本実施例2における微量液体保持チップ13は、内径約1mmの円筒形状をしており、材質はポリプロピレンである。また、内壁の上方に疎水表面部31を有し、疎水表面部以外の内壁部分に親水表面部32を有する。
【0029】
疎水表面部31はフッ素樹脂、ケイ素樹脂、ポリプロピレン等の疎水性材料により表面処理されているものとする。また、親水表面部32はナイロン、ポリエチレンテレフタラート等の親水性材料により表面処理されているものとする。
なお、微量液体保持チップ13はピペット10にはめこまれて連結されているため、交換可能となっている。
【0030】
次に、図6及び図7に基づいて、微量液体試料分注装置としてのマルチウェルプレート自動分注装置1の動作機序を説明する。図6は液体制御部8の動作図であり、プレートAの各ウェルに入った微量液体試料のうち、表面張力の小さい微量液体試料がプレートBのウェルに、表面張力の大きい微量液体試料がプレートCのウェルに、それぞれ分注される機序を示す。
【0031】
ここで述べる表面張力の小さい微量液体試料は、例えば、エタノール、イソプロパノール等のアルコール溶液や、ヘキサン、オクタン等の有機化合物、あるいはドデシル硫酸ナトリウムのような界面活性剤の水溶液等であり、疎水表面部及び親水表面部に対して濡れ性の高い液体試料であれば何であってもよい。一方、表面張力の大きい微量液体試料は、例えば、水、濃度の低い水溶液、あるいは塩化ナトリウム等の金属塩の水溶液であり、疎水表面部に対しては濡れ性が低いが、親水表面部に対して濡れ性の高い液体試料であれば何であってもよい。
【0032】
図6(A)には、表面張力の小さい微量液体試料24が収容されたマルチウェルプレートAの一個のウェル19と、このウェルと同座標の位置にあるマルチウェルプレートBの一個のウェル20と、マルチウェルプレートCの一個のウェル21、並びにこれらのウェルに対応するピペット22と、そのピペットに取り付けられた液体保持チップ23が図示される。
【0033】
以下、図6(A)に基づき、マルチウェルプレートAの一個のウェルに入った表面張力の小さい微量液体試料が、マルチウェルプレートBの一個のウェルに、分注される動作を示す。第一に、マルチウェルプレートAが液体制御部の下方に位置するように移動し、開閉バルブが閉まった状態でプランジャが引き上げられることにより、微量液体試料が吸入され、液体保持チップ内部の疎水表面部に保持される(図6(A−1))。
【0034】
第二に、マルチウェルプレートBが液体制御部の下方に位置するように移動し、開閉バルブが開く。このとき、微量液体試料は大気圧の作用を受けるが、表面張力が小さいために下方に移動する。わずかに下方に移動すると、疎水表面部及び親水表面部に対する微量液体試料の濡れ性の差異から微量液体試料に下方への駆動力が加わり、微量液体試料は疎水表面部から親水表面部へと完全に移動する。親水表面部では微量液体試料の濡れ性が高いために、微量液体試料は下方に滑り落ちて液体保持チップから落下し、マルチウェルプレートBのウェルに入る(図6(A−2))。
【0035】
第三に、マルチウェルプレートCが液体制御部の下方に位置するように移動し、開閉バルブが閉まった状態で、プランジャが引き下げられるが、液体保持チップ内部には何も存在しないため、マルチウェルプレートCのウェルには何も分注されない(図6(A−3))。
【0036】
一方、図7(B)には、表面張力の大きい微量液体試料30が収容されたマルチウェルプレートAの一個のウェル25と、このウェルと同座標の位置にあるマルチウェルプレートBの一個のウェル26と、マルチウェルプレートCの一個のウェル27、並びにこれらのウェルに対応するピペット28と、そのピペットに取り付けられた液体保持チップ29が図示される。
【0037】
以下、図7(B)に基づき、マルチウェルプレートAの一個のウェルに入った表面張力の大きい微量液体試料が、マルチウェルプレートCの一個のウェルに分注される動作を示す。第一に、マルチウェルプレートAが液体制御部の下方に位置するように移動し、開閉バルブが閉まった状態でプランジャが引き上げられ、マルチウェルプレートAの一個のウェル21に入った微量液体試料が吸入され、液体保持チップ内部の疎水表面部に保持される(図7(B−1))。
【0038】
第二に、マルチウェルプレートBが液体制御部の下方に位置するように移動し、開閉バルブが開く。このとき、微量液体試料は大気圧の作用を受けるが、表面張力が大きいために微量液体試料は液体保持チップ内部の疎水表面部からは移動せず、液体保持チップから落下しない(図7(B−2))。
【0039】
第三に、マルチウェルプレートCが液体制御部の下方に位置するように移動し、開閉バルブが閉まった状態で、プランジャが引き下げられることにより、微量液体試料は液体保持チップから吐出され、マルチウェルプレートCのウェルに入る(図7(B−3))。
【0040】
しがたって、以上の説明のように、マルチウェルプレート自動分注装置1の一回の動作で、マルチウェルプレートAに入っている微量液体試料のうち、表面張力の小さい試料はマルチウェルプレートBに、表面張力の大きい試料はマルチウェルプレートCに分注される。また、微量液体保持チップ13を交換することにより、次のマルチウェルプレートの分注を行うことができる。
【0041】
以上のように、本発明の第二の実施の形態によれば、表面張力の異なる多数の微量液体試料を、表面張力の測定が全くの不要で、非常に簡便かつ迅速に、表面張力の差に応じて分注することが可能である。
【0042】
また、本装置においては、一切の検出装置もしくは測定装置を使用しないので、微量液体試料が1μl程度でも十分に分注可能であり、さらに微量の液体試料でも実現可能である。従来の装置では検出装置もしくは測定装置の小型化が困難であったため、装置システム全体の小型化が実現できなかったが、本装置の小型化は非常に容易に達成される。
【実施例3】
【0043】
本発明の実施例3は、上述した実施例1又は実施例2の微量液体試料分注装置を、核酸増幅反応の成否に応じて反応溶液を選択的に自動分注する解析システムとして利用したものである。本実施例では、分注対象の微量液体試料は核酸増幅反応溶液であり、具体的には非常に多くの分野で汎用されるPCR反応の終了後の液体試料である。
【0044】
図8は、本発明に利用可能な核酸増幅反応に用いるDNA,プライマ,プローブをそれぞれ示す概念図である。一般的な核酸増幅反応は、増幅されるべき少なくとも一つのDNA33と、プライマ34及び35と、図示しない異なる四種類のデオキシヌクレオチド三リン酸(アデニン、チミン、シトシン、グアニン)と、核酸ポリメラーゼとしてのDNAポリメラーゼ(不図示)とを含有し、その他PCR反応に必要な試薬や溶媒からなるが、本発明に利用可能な核酸増幅反応においては、上記に加えて、オリゴヌクレオチド36の5’末端の−OHを−Hに変えて3’末端に親油性鎖37を修飾したプローブ38を含有する。ここで述べる親油性鎖37は、例えば、炭素数が8個から18個の直鎖アルキル基であるが、分岐鎖アルキル基、アルキルナフタレン等、疎水性の強い官能基を一部に有すればよい(図8(A))。
【0045】
上記DNA33は、異なる塩基配列の一本鎖33A及び33Bが、相補的に結合されて螺旋形状の二本鎖に構成されたものである。上記プライマ34及び35は、デオキシヌクレオチド三リン酸及びDNAポリメラーゼの存在下で、増幅の対象となるDNA33を合成する際に、その合成の開始点として作用するヌクレオチドであり、上記DNA33に相補的に結合する塩基配列となっている。
【0046】
上記プローブ38は、本実施の形態において特徴的に利用される試薬であり、上記プライマ34及び35に挟まれた位置において上記DNAに相補的に結合する塩基配列を有する。そのため、このプローブは増幅の対象となるDNAが合成される際に、DNAポリメラーゼのexo活性により5’側から1塩基のdNTP39ずつ分解されていき、最終的には親水性部と親油性部を持つ分子構造を有する界面活性剤40として作用するものである。すなわち、増幅の対象となるDNA33が1分子増幅されると界面活性剤40が1分子生成する(図8(B))。上述した試薬を混合し、混合した溶液に対して、熱変性工程、アニール工程、伸長工程から成る温度サイクルを複数回繰り返す。
【0047】
ここで、上記熱変性工程は、反応溶液を熱変性温度(通常約94℃)に数秒間設定させることにより、反応溶液中のDNA33の二本鎖を解離して、一本鎖33A、33Bとする工程である。また、上記アニール工程は、反応溶液をアニール温度(通常約55℃)に数秒間設定させることにより、熱変性工程にて生成されたDNA33の一本鎖33A又は33B(鋳型DNA)に、プライマ34又は35を相補的に結合(アニール)させる工程である。
【0048】
更に、上記伸長工程は、反応溶液を伸長温度(通常約72℃)に数分間設定させることにより、アニール工程でプライマ34又は35がアニールされたDNA33の一本鎖33A又は33B(鋳型DNA)に、DNAポリメラーゼの作用でデオキシヌクレオチド三リン酸を相補的に結合させてプライマ34又は35を伸長させ、二本鎖のDNA33を合成する工程であり、同時にプローブ15を分解し、界面活性剤16を生成させる工程である。
【0049】
上述した温度サイクルを複数回(n回)くり返すことにより、増幅の対象となるDNA33は2n倍に増幅し、同時に増幅したDNAと同分子数の界面活性剤が生成する。ここで、界面活性剤は表面張力を大きく低下させるため、核酸増幅反応溶液の表面張力は反応前と比べて大きく低下する。一方、上述の核酸増幅反応において、プライマの特異性が低い、温度サイクルが適当でない、塩濃度が適切でない、あるいは反応溶液の調製の失敗等が原因で、増幅の対象となるDNA33が十分に増幅されない場合は、界面活性剤も十分に生成しないので、核酸増幅反応溶液の表面張力は反応前と比べてほとんど変化せず、水と同程度のままである。
【0050】
マルチウェルプレートを使用して、以上に述べた核酸増幅反応を行い、前記第1の実施の形態もしくは第2の実施の形態で説明した微量液体試料分注装置に供する。反応終了後の核酸増幅反応溶液の入ったマルチウェルプレートは、前記実施例1または実施例2におけるマルチウェルプレートAに相当する。
【0051】
核酸増幅反応が成功した核酸増幅反応溶液、つまり増幅の対象となるDNA33が十分に増幅され、表面張力が小さい核酸増幅反応溶液は、前記実施例1または実施例2と同様にして、マルチウェルプレートBに分注される。
【0052】
一方、核酸増幅反応が失敗した核酸増幅反応溶液、つまり増幅の対象となるDNA33がほとんど増幅されず、水と同程度に表面張力が大きい核酸増幅反応溶液は、前記実施例1または実施例2と同様にして、マルチウェルプレートCに分注される。
【0053】
以上のように、本発明の実施例3によれば、簡便かつ迅速に、核酸増幅反応の成否の判定と同時に、成功した核酸増幅反応溶液と失敗した核酸増幅反応溶液の分注を行うことができる。
【0054】
従来の方法では、核酸増幅反応溶液の一部を分取し、分取した溶液をアガロース電気泳動等の核酸解析方法に供して、その解析結果を照合して核酸増幅反応の成否を判定していた。そのため、このような方法では、分析のために手間と時間を要する上、照合の再の試料の取り違え等によるIDミスの危険が常にあった。しかしながら、本発明によれば、試料の解析が不要になり、成否の判定と分注を同時に行うことができるため、IDミスの危険は全くなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施例1の微量液体試料分注装置の全体構造を示す斜視図である。
【図2】微量液体制御部を断面にして示す平面図である。
【図3】微量液体制御部の動作図(A1〜A3)である。
【図4】微量液体制御部の動作図(B1〜B4)である。
【図5】本発明の実施例2の微量液体制御部を断面にして示す平面図である。
【図6】微量液体制御部の動作図(A1〜A3)である。
【図7】微量液体制御部の動作図(B1〜B4)である。
【図8】本発明の実施例3のPCR反応に用いるDNA,プライマ,プローブをそれぞれ示す概念図である。
【符号の説明】
【0056】
1 マルチウェルプレート自動分注装置
2 ウェル
3 マルチウェルプレートA
4 マルチウェルプレートB
5 マルチウェルプレートC
6 プレートホルダ
7 プレートホルダ駆動機構
8 液体制御部
9 液体制御部駆動機構
10 ピペット
11 ピペットホルダ
12 ピペット制御部
13 微量液体保持チップ
14 バレル
15 プランジャ
16 開閉バルブ
17 プランジャ制御部
18 バルブ制御部
19 マルチウェルプレートAの一個のウェル
20 マルチウェルプレートBの一個のウェル
21 マルチウェルプレートCの一個のウェル
22 ウェルに対応するピペット
23 ウェルに対応する液体保持チップ
24 表面張力が小さい微量液体試料
25 マルチウェルプレートAの一個のウェル
26 マルチウェルプレートBの一個のウェル
27 マルチウェルプレートCの一個のウェル
28 ウェルに対応するピペット
29 ウェルに対応する液体保持チップ
30 表面張力が大きい微量液体試料
31 疎水表面部
32 親水表面部
33 DNA
33A,33B 一本鎖DNA
34 プライマ
35 プライマ
36 オリゴヌクレオチド
37 親油性鎖
38 プローブ
39 dNTP
40 界面活性剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微量液体試料を吸入吐出し、内部に上記微量液体試料を保持する構造を有する微量液体保持チップと、内部空間の開放密閉を行う開閉制御機構を備えたピペットを有する微量液体試料分注装置であって、試料間で表面張力の異なる複数の上記微量液体試料を表面張力の差異に応じて異なる容器に分注することを特徴とする微量液体試料分注装置。
【請求項2】
請求項1に記載の微量液体試料分注装置において、
上記微量液体保持チップが下端にいくほど内径が小さくなる円錐形状であることを特徴とする微量液体試料分注装置。
【請求項3】
請求項1に記載の微量液体試料分注装置において、
上記微量液体保持チップの内壁に疎水表面部と親水表面部を備えることを特徴とする微量液体試料分注装置。
【請求項4】
請求項1に記載の微量液体試料分注装置において、
上記微量液体保持チップの表面に粗面部と平滑平面部を備えることを特徴とする微量液体試料分注装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の微量液体試料分注装置において、
上記微量液体保持チップと上記ピペット部から成る微量液体制御部をアレイ状に多数配置し、多数の上記微量液体試料を同時分注することを特徴とする微量液体試料分注装置。
【請求項6】
請求項5に記載の微量液体試料分注装置において、
上記液体制御部及び上記微量液体試料の収容容器を自動動作させる機構を備えることを特徴とする微量液体試料分注装置。
【請求項7】
請求項1に記載の微量液体試料分注装置において、
上記微量液体試料が核酸増幅反応溶液であって、核酸増幅反応の成否に応じて、核酸増幅反応溶液を自動的に異なる容器に分注することを特徴とする微量液体試料分注装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−212310(P2007−212310A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32881(P2006−32881)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000233550)株式会社日立ハイテクサイエンスシステムズ (112)
【Fターム(参考)】