説明

心臓不整脈を治療及び予防する方法

この発明は、心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療する方法、及び心房の不整頻搏の開始を阻害する方法を提供する。この発明は、運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療する方法及び運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の開始を阻害する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
この出願は、2000年5月10日に出願された米国連続番号09/568,474の継続出願の、2002年11月5日に出願された米国連続番号10/288,606の一部継続出願であり、今は2002年12月3日に発行された米国特許第6,489,125号 B1であり、それらのコンテンツは引用により編入される。
【0002】
本明細書に開示された発明は、国立衛生研究所、ヘルスアンドヒューマンサービスの米国部門から認可番号RO1 HL61503及びRO1 HL56180にて政府のサポートのもとになされた。従って、米国政府はこの発明において一定の権利を有する。
【0003】
この出願を通して、様々な刊行物が括弧内に著者及び年号により引用される。これらの引用の全文献は請求の範囲の直前の明細書の最後に見いだされる。これらの刊行物の全体の開示は、引用によりこの出願に編入されることにより、この発明が関係する技術分野の状況をより完全に記載する。
【0004】
発明の背景
溝のある筋肉の収縮は、筋小胞体(SR)として知られる筋肉細胞内の細管からカルシウム(Ca2+)が放出されるときに、開始する。溝のある筋肉のSR上のカルシウムの放出チャネル(ライアノジン受容体、RyRs)は、興奮性収縮カップリング(EC)に必要である。タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)は、心臓筋肉内のECカップリングのために必要な主要のCa2+放出チャネルである。ECカップリングの間、作用ポテンシャルのフェーズゼロにおける心臓筋肉細胞膜の脱分極は、電圧−関門開閉された(gated)Ca2+チャネルを活性化する。これらのチャネルを通したCa2+の流入が、今度は、Ca2+−誘導性Ca2+放出として知られるプロセスにおいて、SRからRyR2によりCa2+放出を開始する(Fabiato,1983;Nabauer et al.m1989)。RyR2−媒介性の、Ca2+−誘導されたCa2+放出は、心臓筋肉の収縮に必須の、収縮蛋白質を活性化する。
【0005】
RyR2受容体は、4つの565,000ドルトンのRyR2ポリペプチド及び4つの12,000ドルトンFK−506結合蛋白質(FKBP12.6)を含むテトラマーである。FKBP12.6は、RyR2チャネルに、RyR2サブユニットあたり一つの分子が結合し、RyR2チャネル機能を安定化させ(Brillantes et al.,1994)、そして隣接するRyR2チャネルの間のカップリングされた関門開閉を促進させる(Marx et al.,1998)。後者は、Ca2+の細胞内の貯蔵を放出するSRの特化された領域内で密集したアレイにパックされて、筋肉収縮を誘因する。類似のタイプ1ライアノジン受容体(RyR1)は、制御サブユニットFKBP12を結合し、骨格筋のSR上に見いだされる。
【0006】
心不全においては、RyR2のcAMP依存性プロテインキナーゼA(PKA)によるRyR2の高リン酸化が、RyR2チャネルからの制御性FKBP12.6サブユニットの解離を誘導する(Marx et al.,2000)。これは、RyR2チャネルの生物物理的特性における顕著な変化であり、Ca2+−依存性活性化に対する感度の増加による開確率の増加により証明され(Brillantes et al.,1994;Kaftan et al.,1996)、当該チャネルの脱分極はサブコンダクタンス状態をもたらし、そして当該チャネルの欠陥をもつカップリング関門開閉が欠陥性ECカップリング及び心臓機能不全をもたらす(Marx et al.,1998)。
【0007】
心不全の別の共通の特徴は、心臓不整脈の出現である。心臓内の心室の不整脈は急性の致命傷であり、心臓性急死(SCD)と呼ばれる現象である。SCDは普通の心臓病に付随し、もっとも顕著なのは心不全であり、患者の約50%が致命的な心臓の不整脈により死ぬ。しかしながら、致命的な心室の不整脈は若年でも、その他では構造的な心臓疾患をもたない健康な人でも起こる。構造上正常な心臓において、心室の頻脈の誘導及び保守のためのもっとも共通の機構は、異常な自動能である(automaticity)。異常な自動能の一つの形態は、「誘因された(triggered)不整脈」として知られ、遅延した後脱分極(DADs)を開始させるSRのCa2+の異常な放出に付随する(Fozzard,1992;Wit and Rosen,1983)。DADsは、致命的な心室の不整脈を誘因し得て、心臓の作用ポテンシャルの再分極後に起こる心筋内の異常な脱分極である。DADsを引き起こす異常なSRのCa2+放出の分子上の基礎は、完全に明らかにされていない。DADsは、しかしながら、ライアノジンによりブロックされていることが知られており、RyR2がこの異常なCa2+放出の病理において鍵となる役割を担うかもしれないとの証拠を提供する(Marban et al.,1986;Song and Belardinelli,1994)。
【0008】
カテコールアミン性の多形性心室性頻脈(CPVT)として知られる遺伝した不整脈障害の被験者においては、肉体的運動及び感情的なストレスが、検出可能な構造上の心臓の疾患の不在下でSCDを導く二方向性及び/又は多形性の心室頻脈を誘導する(Maitinen et al.,2001;Leedhardt et al.,1995;Priori et al.,2002;Priori et al.,2001;Swan et al.,1999)。CPVTは常染色体支配的様式において優性遺伝する。罹患した人は幼少期又は青年期に反復性の運動により誘導された失神を伴って発病し(present)、30歳まで30−50%の死亡率である(Fisher et al.,1999;Swan et al.,1999)。連鎖の研究及び直接の配列決定は、CPVTの人における染色体1q42−q43上のヒトRyR2遺伝子(hRyR2)内の変異を同定した(Laitinen et al.,2001;Priori et al.,2001;Swan et al.,1999)。重要なことには、CPVTの人は、運動テストに服従させられたときに、心室性不整脈を有するが、休息しているときにはこれらの不整脈を有さない。
【0009】
運動及び感情的ストレスの間の交感神経系の刺激は、心臓内のβ−アドレナリン受容体(β−ARs)を活性化するカテコールアミンの放出を誘導することが知られている。β−ARsは、G−プロテインを通して、cAMP濃度を増加させて次にはPKAを活性化するアデニリルシクラーゼの活性化と共役する。
【0010】
発明の概要
本発明は、心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療する方法を提供するが、当該被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む。
【0011】
この発明は、被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む、心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療する方法も提供する。
【0012】
この発明は、さらに、被験者に、被験者の心臓のタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6結合蛋白質の結合を模倣する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む、心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療する方法を提供する。
【0013】
さらに、この発明は、製造物品に向けられ、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む。
【0014】
この発明は、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6の解離を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品にも向けられる。
【0015】
この発明は、さらに、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6の結合を模倣する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品に向けられる。
【0016】
この発明は、さらに、被験者において心房の不整頻搏の発病(onset)を阻害する方法を提供するが、当該被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤を予防上有効な量にて投与し、それにより被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することを含む。
【0017】
この発明は、被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を阻害する薬剤を予防上有効な量にて投与し、それにより被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することを含む、被験者において心房の不整頻搏の発病を阻害する方法も提供する。
【0018】
この発明は、さらに、被験者に、被験者の心臓のタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6結合蛋白質の結合を模倣する薬剤を予防上有効な量にて投与し、それにより被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することを含む、被験者において心房の不整頻搏の発病を阻害する方法を提供する。
【0019】
さらに、この発明は、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品に向けられる。
【0020】
この発明は、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6の解離を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品にも向けられる。
【0021】
この発明は、さらに、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6の結合を模倣する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品に向けられる。
【0022】
本発明は、運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療する方法を提供するが、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む。
【0023】
この発明は、被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む、運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療する方法も提供する。
【0024】
この発明は、さらに、被験者に、被験者の心臓のタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6結合蛋白質の結合を模倣する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む、運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療する方法を提供する。
【0025】
さらに、この発明は、製造物品に向けられ、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む。
【0026】
この発明は、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6の解離を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品にも向けられる。
【0027】
この発明は、さらに、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6の結合を模倣する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品に向けられる。
【0028】
本発明は、さらに、運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害する方法を提供するが、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することを含む。
【0029】
この発明は、被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することを含む、運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害する方法も提供する。
【0030】
この発明は、さらに、被験者に、被験者の心臓のタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6結合蛋白質の結合を模倣する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することを含む、運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害する方法を提供する。
【0031】
さらに、この発明は、製造物品に向けられ、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む。
【0032】
この発明は、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6の解離を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品にも向けられる。
【0033】
最後に、この発明は、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6の結合を模倣する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品に向けられる。
【0034】
発明の詳細な説明
定義
以下の定義はこの発明を理解する上での助けとなる。
本明細書において使用される「RyR2受容体」は、タイプ2ライアノジン受容体を意味し、心臓の筋小胞体(SR)上のカルシウム(Ca2+)放出チャネルである。
「FKBP12.6」は、FK−506結合蛋白質であり、約12,000ドルトンの分子量を有し、RyR2受容体チャネルに結合してその関門開閉(活性化及び不活性化)を制御する。
【0035】
「PKAリン酸化」は、酵素、cAMP−依存性プロテインキナーゼA(PKA)により触媒される反応においてリン酸基による基質内のヒドロキシル基の置換を意味する。
RyR2受容体の「戻しリン酸化(back-phosphorylation)」は、RyR2のPKAによるインビトロリン酸化を意味する。
【0036】
「カテコールアミン性の多形性心室性頻脈」は、「CPVT」とも呼ばれ、アドレナリン(即ち、運動により、及び精神的なストレスにより)誘導された二方向性及び/又は多形性の心室の頻脈及び心筋の著しい構造上の疾患の不在下での心臓性急死により特徴付けされる障害である。「心室頻脈」は、心室(1分あたり100を超える拍動の少なくとも3つの連続した心室複合体)内の電気インパルスの生成に関連した異常に速い心臓リズムであり、そして広いQRS複合体を有する心電図により同定される。
【0037】
「薬学上有効な量」は、薬剤が有効性を示す疾患に罹患した被験者に投与されたときに、当該疾患の減少、軽減又は緩解を引き起こすか又は当該疾患の再発を予防する、薬剤の量を意味する。
【0038】
「予防上有効な量」は、疾患に罹患した被験者に投与されたときに、当該疾患の発病を阻害する、薬剤の量を意味する。
疾患の発病を「阻害する」は、当該疾患の発病の可能性(likelihood)を減らすか又は当該疾患の発病を完全に妨害することを意味することになる。本薬剤の治療上又は予防上有効な量の決定は、日常のコンピューター方法を用いて動物データを基にして実施され得る。一つの態様において、治療上又は予防上有効な量は、約0.2mgと約1.5gの間の薬剤を含む。別の態様においては、有効な量は、約5mgと約500mgの間の薬剤を含む。さらなる態様においては、有効な量は、約25mgと約125mgの間の薬剤を含む。
【0039】
「薬学上受容可能な担体」は当業者に知られており、限定ではないが、0.01−0.1M、そして好ましくは0.05Mのリン酸バッファー又は0.8%塩溶液を含む。さらに、そのような薬学上受容可能な担体は、水性又は非水性の溶液、懸濁液、及びエマルジョンであり得る。非水性溶剤の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油、及び注射可能な有機エステル類、例えばオレイン酸エチルである。水性の担体は、水、アルコール/水性溶液、エマルジョン及び懸濁液を含み、塩溶液及び緩衝媒質を含む。非経口媒体は、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸化リンゲル及び固定油を含む。静脈内媒体は、流体及び栄養性の補填剤、電解質補填剤、例えばリンゲルデキストロース等に基づくものを含む。保存剤及び他の付加物を存在させてもよく、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガス等を含む。
【0040】
「投与する」は、当業者に知られた様々な方法及び送達系の何れかを用いて果たされるか又は実施される様式における送達を意味する。投与することは、例えば、局所的、静脈内、心膜内(pericardially)、経口、移植物により、経粘膜、経皮、筋肉内、皮下、腹膜内、くも膜下(intrathecally)、リンパ液内(intralymphatically)、外傷内(intralesionally)、又は硬膜外(epidurally)で実施できる。投与することは、例えば、1回、多数回、及び又は1又はそれより多い期間をかけて実施することもできる。
【0041】
「被験者(subject)」は、あらゆる動物、例えば、哺乳類又は鳥であってよく、限定ではないが、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、齧歯類、例えばマウス又はラット、シチメンチョウ、チキン及び霊長類を含む。好ましい態様においては、被験者は人間である。
【0042】
化学薬剤(chemical agent)の「構造上及び機能上の相同体」は、構造上及び機能上類似の薬剤のシリーズの一つであり、その各々は一定の要素の添加によりその前の一つから形成される(each of which is formed from the one before it by the addition of a constant element)。化学薬剤の「構造上及び機能上の類似体」は、薬剤のそれと類似の構造及び機能を有するが、特定の成分(単数又は複数)に関してそれとは異なる。用語「類似体」は、用語「相同体」よりも広くてそれを包含する。「類似体」は以下の用語も包含する:「アイソマー」、同じ分子式を有するが異なる分子構造又は原子の異なる空間的配置を有する化学化合物;「プロドラッグ」、インビボにおいて要求された化合物に容易に変換可能な化合物の機能性誘導体;及び「代謝物」、生物学上の反応の産物であって化学薬剤の生物又は他の生物学的環境への導入に際して生産される活性な種を含む。
【0043】
発明の態様
本発明は、心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療する方法を提供するが、当該被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む。一つの態様において、RyR2受容体のPKAリン酸化はRyR2からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を引き起こす。別の態様において、心房の不整頻搏は、心房細動又は心室より上の不整頻搏である。
【0044】
この発明は、被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む、心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療する方法も提供する。一つの態様において、心房の不整頻搏は、心房細動又は心室より上の不整頻搏である。別の態様において、上記薬剤は、JTV−519(K201としても知られる)又は1,4−ベンゾチアゼピンの誘導体である化合物のこのクラスの中のあらゆる他の化合物である(Yano et al.,2003;Kaneko et al.,1994;Hachida et al.,1999;Kimura et al.,1999)。
【0045】
この発明は、さらに、被験者に、被験者の心臓のタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6結合蛋白質の結合を模倣する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む、心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療する方法を提供する。一つの態様において、心房の不整頻搏は、心房細動又は心室より上の不整頻搏である。
【0046】
さらに、この発明は、製造物品に向けられ、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む。
【0047】
この発明は、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6の解離を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品にも向けられる。別の態様において、上記薬剤は、JTV−519(K201としても知られる)又は1,4−ベンゾチアゼピンの誘導体である化合物のこのクラスの中のあらゆる他の化合物である(Yano et al.,2003;Kaneko et al.,1994;Hachida et al.,1999;Kimura et al.,1999)。
【0048】
この発明は、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6の結合を模倣する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品にも向けられる。
【0049】
本発明は、さらに、被験者において心房の不整頻搏の発病(onset)を阻害する方法を提供するが、当該被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤を予防上有効な量にて投与し、それにより被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することを含む。一つの態様において、RyR2受容体のPKAリン酸化はRyR2からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を引き起こす。別の態様において、心房の不整頻搏は、心房細動又は心室より上の不整頻搏である。
【0050】
この発明は、被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を阻害する薬剤を予防上有効な量にて投与し、それにより被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することを含む、被験者において心房の不整頻搏の発病を阻害する方法も提供する。一つの態様において、心房の不整頻搏は、心房細動又は心室より上の不整頻搏である。別の態様において、上記薬剤は、JTV−519(K201としても知られる)又は1,4−ベンゾチアゼピンの誘導体である化合物のこのクラスの中のあらゆる他の化合物である(Yano et al.,2003;Kaneko et al.,1994;Hachida et al.,1999;Kimura et al.,1999)。
【0051】
この発明は、さらに、被験者に、被験者の心臓のタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6結合蛋白質の結合を模倣する薬剤を予防上有効な量にて投与し、それにより被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することを含む、被験者において心房の不整頻搏の発病を阻害する方法を提供する。一つの態様において、心房の不整頻搏は、心房細動又は心室より上の不整頻搏である。
【0052】
さらに、この発明は、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品に向けられる。
【0053】
この発明は、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6の解離を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品にも向けられる。別の態様において、上記薬剤は、JTV−519(K201としても知られる)又は1,4−ベンゾチアゼピンの誘導体である化合物のこのクラスの中のあらゆる他の化合物である(Yano et al.,2003;Kaneko et al.,1994;Hachida et al.,1999;Kimura et al.,1999)。
【0054】
この発明は、さらに、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6の結合を模倣する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品に向けられる。
【0055】
この発明は、運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療する方法も提供するが、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む。一つの態様において、RyR2受容体のPKAリン酸化はRyR2からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を引き起こす。別の態様において、心房の不整頻搏は、心房細動又は心室より上の不整頻搏である。さらなる態様において、被験者は、カテコールアミン性多形性心室頻脈(CPVT)に苦しめられている。
【0056】
この発明は、さらに、被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む、運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療する方法を提供する。一つの態様において、心房の不整頻搏は、心房細動又は心室より上の不整頻搏である。別の態様において、被験者は、カテコールアミン性多形性心室頻脈(CPVT)に苦しめられている。別の態様において、上記薬剤は、JTV−519(K201としても知られる)又は1,4−ベンゾチアゼピンの誘導体である化合物のこのクラスの中のあらゆる他の化合物である(Yano et al.,2003;Kaneko et al.,1994;Hachida et al.,1999;Kimura et al.,1999)。
【0057】
この発明は、被験者に、被験者の心臓のタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6結合蛋白質の結合を模倣する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む、運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療する方法も提供する。一つの態様において、心房の不整頻搏は、心房細動又は心室より上の不整頻搏である。別の態様において、被験者は、カテコールアミン性多形性心室頻脈(CPVT)に苦しめられている。
【0058】
さらに、この発明は、製造物品に向けられ、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む。
【0059】
この発明は、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6の解離を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品にも向けられる。異なる態様において、上記薬剤は、JTV−519(K201としても知られる)又は1,4−ベンゾチアゼピンの誘導体である化合物のこのクラスの中のあらゆる他の化合物である(Yano et al.,2003;Kaneko et al.,1994;Hachida et al.,1999;Kimura et al.,1999)。
【0060】
この発明は、さらに、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6の結合を模倣する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品に向けられる。
【0061】
この発明は、運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害する方法を提供するが、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することを含む。一つの態様において、RyR2受容体のPKAリン酸化はRyR2からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を引き起こす。別の態様において、心房の不整頻搏は、心房細動又は心室より上の不整頻搏である。さらなる態様において、被験者は、カテコールアミン性多形性心室頻脈(CPVT)に苦しめられている。
【0062】
この発明は、被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することを含む、運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害する方法も提供する。一つの態様において、心房の不整頻搏は、心房細動又は心室より上の不整頻搏である。さらなる態様において、被験者は、カテコールアミン性多形性心室頻脈(CPVT)に苦しめられている。異なる態様において、上記薬剤は、JTV−519(K201としても知られる)又は1,4−ベンゾチアゼピンの誘導体である化合物のこのクラスの中のあらゆる他の化合物である(Yano et al.,2003;Kaneko et al.,1994;Hachida et al.,1999;Kimura et al.,1999)。
【0063】
この発明は、被験者に、被験者の心臓のタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6結合蛋白質の結合を模倣する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することを含む、運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害する方法も提供する。一つの態様において、心房の不整頻搏は、心房細動又は心室より上の不整頻搏である。さらなる態様において、被験者は、カテコールアミン性多形性心室頻脈(CPVT)に苦しめられている。
【0064】
さらに、本発明は、製造物品に向けられ、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む。
【0065】
この発明は、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6の解離を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品にも向けられる。
異なる態様において、上記薬剤は、JTV−519(K201としても知られる)又は1,4−ベンゾチアゼピンの誘導体である化合物のこのクラスの中のあらゆる他の化合物である(Yano et al.,2003;Kaneko et al.,1994;Hachida et al.,1999;Kimura et al.,1999)。
【0066】
最後に、この発明は、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6の結合を模倣する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品に向けられる。
【0067】
受容体選択性化合物をデザインして合成するアプローチは、よく知られており、薬物化学並びにコンビナトリアルケミストリーのより新しい技術を含み、両者は共にコンピューターにより補助される分子モデリングにより支持される。そのようなアプローチを用いて、化学者及び薬学者は、受容体に結合するか及び/又は受容体の活性化を活性化するか又は阻害するために決定された標的化受容体サブタイプ及び化合物の構造に関する彼らの知見を使用することにより、これらの受容体サブタイプにおいて活性を有する構造をデザインして合成する。
【0068】
コンビナトリアルケミストリーは、様々な新規化合物の自動化された合成を含み、ケミカルビルディングブロックの異なる組み合わせを用いてそれらを集合させることによる。コンビナトリアルケミストリーの使用は、化合物を生成するプロセスを多大に加速させる。結果の化合物のアレイはライブラリーと呼ばれて、目的の受容体における十分なレベルの活性を証明する化合物(「リード化合物」)をスクリーニングするために使用される。コンビナトリアルケミストリーを用いることにより、目的の受容体標的物に対して大きく偏っていると認識される化合物の「焦点を集めた」ライブラリーを合成することが可能である。
【0069】
コンビナトリアルケミストリーの使用を通してであろうと慣用の薬物化学の使用を通してであろうとなかろうと、一度化合物が同定されたなら、様々な相同体及び類似体を製造することにより、化学構造と生物学上の活性又は機能活性との間の関係の理解を促進させる。これらの研究は、構造と活性の関係を規定し、そして改善された潜在能力、選択性及び薬力学特性を有するドラッグをデザインするために使用される。コンビナトリアルケミストリーも、リード最適化のための様々な構造を迅速に生成するために使用される。慣用の薬物化学も、一度における複数の化合物の合成を含むが、さらなる精製のため及び自動化された技術により接近不可能な化合物を生成するために使用される。そのようなドラッグが規定されたなら、薬学工業及び化学工業を通じて利用されている標準の化学マニュファクチュアリング方法論を用いて、生産をスケールアップする。
【0070】
この発明は以下の実験の詳細から良好に理解されることになる。しかしながら、当業者は、その後の特許請求の範囲においてより完全に記載されていることから、特定の方法及び考察された結果が発明の単なる例示であることを容易に認識する。
【0071】
実験の詳細
実験セットI
材料と方法
RyR2の免疫沈殿及び戻しリン酸化
ホモジェネート及び筋小胞体(SR)膜を心臓の心室の組織から、Kaftanら(1996)に記載されるとおりにして調製した。心臓のSR(200μg)又はホモジェネート(500μg)を0.5mlのバッファー(50mM Tris−HCl(pH7.4),0.9% NaCl,0.5mM NaF,0.5mM NaVO,0.25% Triton X100,プロテアーゼ阻害剤)に懸濁した。サンプルを一晩4℃において下に示す抗体と共にインキュベートした(各抗体による免疫沈殿に関して、イムノグロブリンのみを陰性対照として使用した、データは示さず)。プロテインA−セファロースビーズをサンプルに加え、そして4℃において1時間一定の撹拌と共にインキュベートした。ビーズを1xリン酸化バッファー(8mM NgCl,10mM エチレングリコール−ビス(β−アミノエチルエーテル)N,N,N’,N’−四酢酸(EGTA),及び50mM Tris/ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルフォン酸)、pH6.8)で洗浄し、媒質のみ、PKAの触媒サブユニット(Sigma,セントルイス、MO)、又はPKAプラスPKA阻害剤(PKI5−24,500nM,カルビオケム、サンディエゴ、CA)又はcAMPを示された通りに含む、10μlの1.5xリン酸化バッファーに再懸濁した。免疫沈殿されたRyR2の戻しリン酸化は、PKA(5ユニット)及びMgATP(33μM)も添加により開始し、そして5μlの停止溶液(4%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及び0.25Mジチオスレイトール(DDT))の添加による5分間のインキュベーションの後に終結させた。1)プロテインキナーゼC(PKC)(0.05ユニット、カルビオケム)によるRyR2リン酸化を類似の条件下で実施した(1.5mM CaClをリン酸化バッファーに加えた);そして2)Ca2+/カルモジュリン−依存性プロテインキナーゼ(CaMKII,0.2μg,アップステートバイオテック、レイクプラシッド、NY)と共に;1.5mM CaCl及び5μMカルモジュリンをリン酸化バッファーに加えた。同じ実験において、アデノシン3リン酸(ATP)溶液は10%[γ32P]−ATP(NENライフサイエンス、ボストン、MA)も含んだ。サンプルを95℃に加熱して、6%SDS−PAGE上でサイズ分画した。RyR2に対応する放射性シグナルを、モリキュラーダイナミックスホスホルイメージャー及びイメージクアントソフトウエア(アマシャムファルマシアバイオテック、ピスカタウエイ、NJ)を用いて定量した。戻しリン酸化をホスホルイメージャーを用いて定量し、非特異的リン酸化(PKA阻害剤により阻害されない)を差し引き、そして結果の値を各免疫沈殿物のRyR2蛋白質の量(イムノブロッティング及び比重計によるか、又は[H]ライアノジン結合により測定された)で割って、そしてPKA−依存性[γ32P]−ATPシグナルの逆数として表した。4℃において1時間インキュベートしてから洗浄することにより、200μgの心臓SRから、マイクロシスチン−セファロース(35μl,UBI)を用いてRyR2を単離した。ビーズを6X SDS負荷バッファーに再懸濁して、沸騰させ、そして上清をSDS−PAGE上でサイズ分画した。マイクロシスチン−セファロースビーズに結合したホスファターゼPP1及びPP2Aを、遊離のマイクロシスチン−LR(カルビオケム)の添加とコンピートオフさせた。
【0072】
PKAリン酸化の化学量論
アルカリホスファターゼ(AP,1:100酵素:蛋白質、ニューイングランドバイオラブズ)によるRyR2の20分間37℃における前処理により結合したリン酸を除去することにより、最大のPKA−依存性リン酸化を決定した。5μlの停止溶液の添加により反応を終結させた。NaFを除き、次に、脱リン酸化の後に加えて反応を終結させた。サンプルを上で記載されたとおりにPKAにより戻しリン酸化した。RyR2のPKAリン酸化の化学量論を計算するために、ホスホルイメージャーを用いて公知の比活性(2.0x1.0−4から2.0x10−3μCi/μl)の[γ32P]−ATP標準により生じたシグナルを換算した。32P−リン酸化を、免疫沈殿させたRyR2蛋白質の各サンプル中の高親和性[H]ライアノジン結合により割ることにより、32P/RyR2のモル比を計算した。
【0073】
イムノブロット
イムノブロットを記載されたとおりに実施した(Moschella and Marks,1993)が、以下の抗体を用いた:抗−FKBP12(1:1000)、抗−RyR(5029、1:3000)(Jayaraman et al.,1992)、抗−PP1(1:1000)、抗−PP2A(1:1000)、抗−CnA(1:1000)、抗−PKA触媒サブユニット(1:1000、トランスダクションラブズ、レキシントン、KY)、抗−ホスホセリン(1μg/ml,ジメド、サンフランシスコ、CA)、抗−mAKAP(3μg/ml,アップステートバイオテクノロジー、レイクプラシッド、NY)、又は精製されたVO56(抗−mAKAP抗体)(Kapiloff et al.,1999)。洗浄後に、膜をペルオキシダーゼコンジュゲートされたヤギ抗−ウサギ又はヤギ抗−マウスIgG抗血清(1:3000、ベーリンガーマンハイム)と60分間室温においてインキュベートし、Tris−緩衝バッファー(TBS),0.1% Tween 20により3回洗浄し、そして増強されたケミルミネッセンスを用いて発色させた(ECL,アマシャム)。
【0074】
FKBP12.6結合部位を同定するための酵母2ハイブリッドアッセイ
ヒトFKBP12.6cDNAを酵母2ハイブリッドベクターpEG202(オリジーンテクノロジーズ、ロックビル、MD)にサブクローン化することにより、pEGFKBP12.6(GAL4のDNA結合ドメインに融合させたFKBP12.6)を作成した。酵母2ハイブリッドベクターpJG4−5(オリジーン)にサブクローン化されたヒトRyR2のcDNA断片は、配列決定により確認した。蛋白質−蛋白質相互作用のための酵母2ハイブリッドアッセイを、DupLEX−A酵母系(オリジーン)を用いて、製造者の指示書に従い実施した。pEGFKBP12.6及びpAD−GAL4RyR2/2361−2496によりラパマイシン−耐性変異酵母株Y663を同時形質転換し(Lorenz and Heitman,1995)、そして液体β−ガラクトシダーゼアッセイを、FKBP12.6への結合に関してRyR2と競合するラパマイシンの不在又は存在下で実施した(0.1,1.0及び10μM)。
【0075】
部位特異的変異導入、GST−RyR2融合蛋白質の発現及びインビトロマッピング
pGST−RyR2構築物をウサギ又はヒトRyR2のcDNAを用いて生じさせ、そして融合蛋白質を発現させて、グルタチオンセファロースビーズを用いて精製した。部位特異的変異導入は、5’プライム−3’−プライム部位特異的変異導入キット(アマシャムファルマシアバイオテック)を用いて、製造者の指示書に従い実施した。セファロースビーズに結合させたpGST−RyR2融合蛋白質をイヌの心臓SR(200μg蛋白質)とインキュベートし、沈殿させ、修飾RIPAバッファーにより洗浄し、SDS−PAGE上でサイズ分画し、そして示された抗体によりイムノブロットした。
【0076】
免疫組織化学
ヒトの心臓の組織を10%中性緩衝化ホルマリン中で固定し、そしてパラフィンに埋包した。切片(4μM)を一晩37℃において乾燥し、キシレンにより脱ワックスし、再水和し、リン酸緩衝塩溶液(PBS)、0.2%Tween−20と5分間インキュベートし、次に、5%ヤギ血清とPBS中で1時間室温においてインキュベートした。切片を次に、PBS中の、前免疫(pre-immune)ウサギ抗体(IgG)又は一次抗体[mAKAP(VO56),RyR2(モノクローナル、アフィニティーバイオリージェント);1:50]、3%ウシ血清アルブミン(BSA)と一晩4℃においてインキュベートし、そしてPBSにより激しく洗浄した。切片を、次に、FITC又はローダミン二次抗体(1:100;ジメッド)の何れかと3%BSA−PSA中で1時間室温においてインキュベートし、PBSで洗浄し、そしてヘキスト染料(10μg/ml)により5分間染色し、そしてPBSで激しく洗浄した。二重免疫染色のため、スライドを連続して2つの個々の一次抗体で染色し、そして二次抗体と同時にインキュベートした。免疫染色されたスライドをニコン顕微鏡を用いて100X対物レンズで調査した;アドビーフォトショップを用いて、イメージをSPOT RTカメラで撮った(ダイアグノスティックインスツルメント社)。
【0077】
RyR2の単離及び単一チャネルレコーディング
心筋の重いSRを[H]ライアノジンとインキュベートし、3−[(3−コールアミドプロピル)−ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルフォネート(CHAPS)により可溶化し、そして14時間かけて10から32%の直線蔗糖勾配上で26,000rpmにてソバオールAH−629ローター内で遠心分離した(Brillantes et al.,1994;Marx et al.,1998)。単一チャネルレコーディングを、記載されたとおりに実施した(Brillantes et al.,1994)。単一チャネル特性を、pCLAMP6.02ソフトウエア(アクソンインスツルメンツ)を用いて評価した。最少で3分をかけて、10秒及び30秒の間隔でデータを分析することにより、開確率を決定した。各実験の結論において、ライアノジン及び/又はルテニウムレッドを適用することにより、ライアノジン受容体としてのチャネルの同定を確認した。結果は、平均±標準偏差として表す。スチューデントt−試験を休止時間分配及び開確率の統計分析に用いた。
【0078】
ヒト心臓サンプル及び左心室補助装置(LVAD)
この研究のためのヒト組織の使用は、コロンビア長老教会医学センターの制度化評論会議により承認された。正常及び不全のヒト心臓組織、以前に記載されたとおりに、心臓移植を経験した患者から得た(Go et al.,1995)。左心室補助装置(サーモカルジオシステム社、ウオバーン、MA)を心臓移植のブリッジとして標準臨床実務に従い患者に移植した(Frazier,1994)。
【0079】
筋肉ストリップ機能
肉柱(trabeculae)(直径<1mm、長さ>3mm)を、LVAD移植の時に得られたヒト左心室先端コアサンプルから、又は正所性の(orthotopic)心臓移植の時に外植された心臓から得た。肉柱を標準の筋肉バスに入れ、強制変換器(force transducer)に取り付け、そして1Hzにて刺激して、弛緩長において研究する前に1時間平衡に達するように放置し、次に、最大伸長成長(Lmax)の点まで段々引き伸ばした。イソプロテレノール(4μM)を含むクレブス−リンゲル溶液を筋肉に注ぐことにより、β−アドレナリン性応答を試験した。
【0080】
イヌ心不全モデル
イヌの心不全を、210心拍/分の速い心臓ペーシングを3週間、続いて240心拍/分における追加の週のペーシングにより、前に記載されたとおりに誘導した(Wang et al.,1997)。この速いペーシング養生法は、重度の心不全を誘導するが、左心室dP/dtmaxにおける平均40%の低下(約1800mmHg/秒まで)、ピークの左心室及び平均大動脈圧の20%低下(それぞれ100及び85mmHgまで)、休止心臓速度の50%増加(132心拍/分まで)、及び末期拡張期の圧力の20mmHgを越える上昇により証明された(Wang et al.,1997)。全ての手法は動物保護委員団体により承認された。
【0081】
細胞をトランスフェクトする方法
ライアノジン受容体が発現される細胞を得るための、ライアノジン受容体をコードする核酸により細胞をトランスフェクトする方法は、当業界でよく知られている(例えば、Brillantes et al.,1994を参照)。非筋肉細胞においては、RyR2受容体が細胞質網状構造(ER)上に発現される。当該細胞は、RyR2受容体とβ−ARの両方が発現される細胞を得るためにβ−ARをコードする核酸によりさらにトランスフェクトされてよい。そのようにトランスフェクトされた細胞は、受容体を結合する薬剤並びにそのような細胞において機能性応答を活性化するか又は活性化を阻害する薬剤を得るために化学薬剤を試験すること及び化学薬剤のライブラリーをスクリーニングするために使用してもよく、よって、インビボでおそらくはそうするであろう。
【0082】
広い多様な宿主細胞を用いることにより、異種組織で発現された蛋白質を研究することができる。HEK293細胞に加え、これらの細胞は、限定ではないが、哺乳類細胞系、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、COS−7;マウス胚性繊維芽細胞NIH−373,LM(tk−),マウスY1及びヒーラ細胞;昆虫細胞系、例えば、Sf9,Sf21及びイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)5B−4細胞;両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞及びアフリカツメガエルメラニン細胞;多彩な酵母株;多彩な細菌細胞株;及びその他を含む。これらの細胞種の各々の培養条件は特別であり、当技術分野を熟知した人には知られている。
【0083】
研究される蛋白質をコードするDNAを、様々な哺乳類、昆虫、両生類、酵母、細菌及び他の細胞系において、いくつかのトランスフェクション法により一時的に発現させることができ、限定ではないが、リン酸カルシウム媒介性、DEAE−デキストラン−媒介性、リポソーム−媒介性、ウイルス−媒介性、エレクトロポレーション−媒介性、及びマイクロインジェクション送達を含む。これらの方法の各々は、DNA、細胞系、及び次に用いられるアッセイの種類に依存して、実験パラメーターの最適化を要求するかもしれない。
【0084】
異種組織DNAを安定に宿主細胞に取込むことにより、細胞に、永久に外来蛋白質を発現させることができる。DNAを細胞に送達する方法は、一時的な発現に関して上で記載されたものと類似であるが、選択可能な表現型、例えば薬剤耐性を標的化宿主細胞に付与するために、補助的に選択可能なマーカー遺伝子の同時トランスフェクションを要求する。DNAを拾い上げた細胞を選択して保持するために、保証する(ensuring)薬剤耐性、を探索することができる。様々な耐性遺伝子が利用可能であり、限定ではないが、カナマイシン、G−418及びハイグロマイシンを含む。
【0085】
RyR2結合アッセイ
結合アッセイを実施する方法は、当業界でよく知られている。標識された化学薬剤を完全細胞に接触させるか、又はSR又はERを含む細胞抽出物に接触させて、RyR2受容体を発現させる。SR又はERを発現する細胞抽出物を調製する方法は、当業界でよく知られている(Kaftan et al.,1996)。薬剤を放射性アイソトープ、例えば、H,14C,125I,35S,32P又は33Pで標識するなら、結合した薬剤は、液体シンチレーションカウンティング、シンチレーション近接又は放射性アイソトープを検出するための他のあらゆる方法を用いて検出してよい。薬剤をフルオロフォアで標識するなら、結合した標識薬剤は、限定ではないが、蛍光強度、時間解析された蛍光、蛍光偏光、蛍光伝達(transfer)、又は蛍光相関分光のような方法により測定してよい。薬剤を染料により標識するなら、結合した標識薬剤は、比色定量又は分光測定を含む様々な方法により測定してよい。薬剤に化学発光標識を付加するなら、結合した標識薬剤は、例えば、光電子倍増管又は電子なだれ(avalanche)光ダイオードにより照度計を用いて測定してよい。RyR2受容体に結合した標識薬剤を検出することに加え、非標識の二次薬剤の受容体への結合を、受容体に特異的に結合することが公知の標識された一次薬剤の結合の、その競合的阻害によりアッセイしてよい。
【0086】
心臓疾患を治療するための化合物に関するアッセイ
RyR2のPKAリン酸化は、チャネルの所定の活性化因子に関して細胞の細胞質へのカルシウムのより多い放出をもたらすRyR2チャネルの活性を増加させる。RyR2のPKA活性化をブロックする化合物は、細胞へのより少ないカルシウムの放出をもたらすRyR2チャネルの活性化を誘導することが予測されるはずである。FKBP12.6結合部位においてRyR2チャネルに結合するがPKAによりチャネルがリン酸化される場合にチャネルにはならない(not come off)化合物も、PKA活性化又はRyR2チャネルを活性化する他のトリガーに応答してチャネルの活性を低下させると予測されるはずである。そのような化合物も細胞への低いカルシウム放出をもたらすはずである。
【0087】
心臓疾患を治療するのに有効かもしれない化合物に関する一つのアッセイは、RyR2チャネルにより、カルシウム−感受性蛍光染料(例えば、Fluo−3,Fura−2)を用いて細胞へのカルシウムの放出を測定することを含む。当該アッセイは、蛍光染料による細胞を負荷し(loading)、そして細胞に添加された化合物がカルシウム依存性蛍光シグナルを減少させるか否かを測定することを含む(Brillantes et al.,1994;Gillo et al,1993;Jayaraman et al.,1996)。一つのRyR2活性化因子は、細胞に添加できるカフェインである。カルシウムが細胞の細胞質に放出されたなら、カルシウム感受性染料により結合されて、次に蛍光シグナルを放射する。カルシウム依存性蛍光シグナルは、光電子倍増管により監視されて、適切なソフトウエアにより分析され、Brillantesら、1994;Gilloら、1993;及びJayaramanら、1996に記載されるとおりである。このアッセイは、マルチウエルディッシュを用いて莫大な数の化合物をスクリーニングするために容易に自動化され得る。当該アッセイは異種発現系、例えば細菌、酵母、昆虫、Sf9,HEK293,CHO,COS−7,LM(tk−),マウス胚性繊維芽細胞NIH−3T3,293ヒト胚性腎臓、又はヒーラ細胞内で組換えRyR2チャネルを発現させることを含む(Brillantes et al.,1994)。非筋肉細胞においては、RyR2受容体を細胞質網状構造上で発現させる。RyR2チャネルを活性化する場合、カルシウムは細胞質網状構造から細胞の細胞質へ放出される。これは、ベータアドレナリン受容体アゴニストの添加に応答してRyR2受容体活性化における化合物の評価を可能にさせるはずである。
【0088】
他のアッセイは、心不全の程度に相関するRyR2のプロテインキナーゼAリン酸化のレベルを測定することを含み、そしてRyR2チャネルのプロテインキナーゼAリン酸化をブロックするようにデザインされた化合物の効率を測定するために使用することができる。このアッセイは、心不全が速い心臓ペーシングにより誘導された動物モデルと関連して使用することができる。当該アッセイはRyR2チャネル蛋白質に特異的な抗体(抗−RyR2抗体)の使用に基づく。このアッセイのためには、RyR2チャネル蛋白質を抗−RyR2抗体により免疫沈殿させ、そして次に、プロテインキナーゼA及び[γ32P]−アデノシン3リン酸(ATP)を用いて戻しリン酸化する。RyR2受容体蛋白質に移動した放射性32P標識の量は、ホスホルイメージャーを用いて測定することができる。当該アッセイの別のバージョンにおいては、抗体がRyR2受容体のリン酸化された形態に特異的であり、その場合には戻しリン酸化は必要ない。
【0089】
RyR2受容体チャネルの機能に関する別のアッセイは、FKBP12.6結合蛋白質とRyR2受容体の結合(association)の程度、RyR2受容体チャネルのサブコンダクタンス状態、RyR2受容体チャネルの活性化に関するCa2+感受性、又はRyR受容体チャネルの開確率(P)を測定することを含む。
【0090】
結果
プロテインキナーゼAはRyR2をリン酸化する
565,000ドルトンのRyR2ポリペプチドは、インビトロキナージング反応においてPKAリン酸化された(図1A)。RyR2としてのPKAリン酸化された高分子量蛋白質の同定を確認するため、リン酸化されたバンドを抗−RyR抗体によりイムノブロットした。リン酸化の特異性は、PKA阻害剤を用いて証明した(図1A)。cAMPを含み外来のPKAを含まないリン酸化バッファーの添加も、PKIにより阻害されたRyR2のリン酸化をもたらすことから、内生PKAがRyR2と結合することを示す(図1A)。PKAリン酸化の化学量論は、心筋SRからRyR2を免疫沈殿させ、RyR2をアルカリホスファターゼにより脱リン酸化し、そして次に、PKA及び[γ32P]−ATPによりリン酸化することにより測定する。PKAリン酸化の化学量論は、チャネルのモルあたり3.8±0.1モル(各チャネルは4つのRyR2サブユニットを含む)又はRyR2サブユニットあたり1モルのリン酸であったことから、各RyR2蛋白質は単一のアミノ酸残基上でPKAリン酸化されることを示す。
【0091】
RyR2マクロ分子複合体はFKBP12.6,PKA,PPI,PP2A及びmAKAPを含む
RyR2を蔗糖密度勾配遠心分離により[H]ライアノジン(図1B)を用いて記載されたとおりに単離した(Marx et al.,1998)。個々のテトラマーRyR2チャネルは30S複合体として沈降し、そして複数チャネル(2又はそれより多い)は密度の高い複合体として沈降する(Marx et al.,1998)。筋肉のAキナーゼアンカリング蛋白質(mAKAP)はPKAを結合してそれを基質に対して標的化するが、心臓SRに集中した(Kapiloff et al.,1999;Yang et al.,1998)。心筋中の主要な蛋白質ホスファターゼはプロテインホスファターゼ2A(PP2A)、プロテインホスファターゼ1(PP1)(MacDougall et al.,1991)、及びカルシニューリン(CnA)である。蔗糖勾配からのフラクションを抗−RyR2抗体によるか又はFKBP12.6,PKAの触媒サブユニット、PKA制御サブユニット(RII)、PP2A,PP1,mAKAP又はCnA(図1C)を認識する抗体によりイムノブロットしたがそれら全て(CnAを除く)はRyR2を含む全てのフラクションにおいて検出された。これらのデータは、RyR2,FKBP12.6,PKA,RII,PP1,PP2A及びmAKAPにより構成される高分子量複合体と一致する。
【0092】
ホスファターゼ阻害剤ミクロシスチンはPP1及びPP2Aに結合する。RyR2はミクロシスチン−セファロースビーズへ結合することにより沈降し、そしてこの相互作用の特異性は遊離のミクロシスチン−LRを用いてRyR2と競合することにより証明された(図1D)。同時免疫沈殿を実行したところ、FKBP12.6,PKA,RII,PP2A,PP1及びmAKAPは全てRyR2により免疫沈殿したことを示すので、これらの蛋白質とSR Ca2+放出チャネルの物理的結合を示す(図1E)。マクロ分子複合体の存在は、当該複合体をミクロシスチン−セファロースビーズにより最初に沈降させ、次に当該ビーズから離れた複合体(the complex off from the beads)を遊離のミクロシスチン−LRと競合させ、次に複合体の成分の各々を免疫沈殿させることにより個別に示した(図1E、最後の3つのレーン)。これらのデータを一緒にすると、FKBP12.6,PKA,RII,PP1,PP2A及びmAKAPはRyR2とマクロ分子複合体を含むことを示す。
【0093】
心不全筋肉内のRyR2のPKA高リン酸化
増加した交感神経の活性は、増加したcAMPレベルを生じさせてPKAを活性化するアドレナリン性シグナリング経路の活性化をもたらすストレスに対する重要な物理的応答である。心不全においては(心臓に対する損傷の原因に拘わらず)、循環するカテコールアミンのレベルは顕著に増加する。正常心臓及び不全心臓におけるRyR2の特異的PKAリン酸化を、[γ32P]−ATPによる戻しリン酸化並びに抗−ホスホセリンイムノブロットの両方を用いて試験した(図2A及びB)。
【0094】
印象的なことに、RyR2のPKAリン酸化は、非不全心臓に比較して、ヒト及び動物モデル(ペーシング誘導された心不全のイヌ)からの不全の心臓において顕著に上昇した(図2A及びB)。不全心臓からのRyR2チャネルのPKAリン酸化は、非不全心臓からのRyR2チャネルに比較して約4倍増加した。不全の心臓から単離されたRyR2チャネルのPKAの戻しリン酸化の化学量論は、チャネル(n=8)のモルあたり0.7±0.3モルのリン酸が転移し、対するに、正常な非不全心臓からのチャネルのモルあたり3.1±0.1モルのリン酸が転移した。これらのデータは、不全心臓においては、テトラマーRyR2チャネル上の4つのPKA部位のうちの約3つがインビボにおいてリン酸化されて、正常な非不全心臓から単離されたRyR2上ではインビボにおいてたった一つしかリン酸化されない。
【0095】
RyR2のPKAリン酸化のこの増加は、RyR2によるPKAの同時免疫沈殿により測定したところによれば、RyR2と結合したPKA蛋白質のレベルの増加によった(図2A)。PKA戻しリン酸化を免疫沈殿させたRyR2を用いて実施することにより、測定されたリン酸化シグナルがRyR2のPKAリン酸化を特異的に表したことを保証した。RyR2レベルは不全心臓において低下する(Go et al.,1995)。RyR2のPKAリン酸化を免疫沈殿させたRyR2蛋白質の量に対して標準化することにより、正常及び不全心臓からのRyR2分子あたりのPKAリン酸化の量の確実な比較を保証した(図2A及びB)。さらに、免疫沈殿させたRyR2を抗−ホスホセリン抗体によりイムノブロットしたときに同一な結果が得られたことから(例えば、図2B挿入図を参照)、不全心臓からのRyR2チャネルは、非不全心臓からのチャネルに比較してPKA高リン酸化されたことを確証する。
【0096】
ドナーの心臓が利用可能でないときの移植物に対するブリッジとして、左心室補助装置(LVADs)を使用する。研究が示すことは、装置を不全心臓に移植したときに、LVADsにより提供される左心室の血行力学上の負荷軽減(unloading)が心臓収縮機能における顕著な改善をもたらすことである(Levin et al.,1995)。LVAD挿入のとき、組織のコアを患者の左心室から取り出し、そして次に、この組織を、移植のときに利用可能になる外植心臓からの組織と比較する。即ち、前(pre-)LVADサンプルは不全心臓由来であり、そして後(post-)LVADサンプルは改善された機能を有する心臓由来である。RyR2のPKAリン酸化は、非不全心臓からのサンプルに比較して、前LVAD心臓において顕著に増加し、LVAD処理後に正常レベルに戻った(図2A及びB)。これらのデータを一緒にすると、1)RyR2のPKAリン酸化はインビボにおいて生理学的に制御されている;2)心不全はRyR2の増加したPKAリン酸化と関連する;そして3)心機能がLVAD挿入により改善されるとき、RyR2のPKAリン酸化は正常レベルに戻ることを示す。
【0097】
末期の心不全患者多数を心臓移植の前にβ−アドレナリンアゴニスト(例えば、ドブタミン)で処理したが、数人の患者は、ドナーの心臓が利用可能の時は家から直接入院し、よって病院では静脈投与されたβ−アドレナリンアゴニストを投与されない。RyR2のPKAリン酸化は、正常に比較して、患者からの心臓において顕著に増加したが、β−アドレナリンアゴニスト上では増加しなかった(図2A及びB)。RyR2のPKAリン酸化は、心臓移植前にβ−アドレナリンアゴニストで処置された患者からの心臓においてさらに顕著に増加した(図2A及びB)。これらのデータは、心不全の患者へのβ−アドレナリンアゴニストの外来(exogenous)投与が、さらに心臓中のRyR2のPKAリン酸化を増加できることを示す。
【0098】
不全の心臓において観察されたRyR2の増加したPKAリン酸化が単にPKA活性の増加によるのか又はひょっとしたらリン酸基の除去を触媒するホスファターゼの活性の随伴する低下によるのかを決定するため、不全の心臓中のRyR2に物理的に関連したPP1とPP2Aの量を、ヒト及びイヌからの正常な心臓のそれらと比較した(図2C及びD)。不全心臓からのRyR2で同時免疫沈殿させたPP1とPP2Aのレベルには顕著な低下があった(図2C及びD)。RyR2と結合したPP1の量の低下(PP2Aではない)は、LVAD処置により正常に回復した(図2C及びD)。これらのデータは、少なくとも一部、RyR2のPKAリン酸化がRyRチャネルマクロ分子複合体に結合したホスファターゼの低下によることを示唆する。
【0099】
RyR2上のシグナリング複合体結合部位のマッピング
RyR2の断片又は完全長のFKBP12.6の何れかをGal4活性化ドメイン又はDNA結合ドメインに融合させて含むベクターにより酵母が形質転換されるように、酵母2ハイブリッド蛋白質相互作用スクリーンを用いてRyR2上のFKBP12.6結合部位を同定した。アミノ酸残基2361−2496に対応する一つのRyR2断片(Otsu et al.,1990)は、β−ガラクトシダーゼ活性の増加により測定されたところによると、FKBP12.6との正の相互作用をもたらした(図3A)。ラパマイシン耐性酵母を用いたところ(Lorenz and Heitman,1995)、ラパマイシンはFKBP12.6とRyR2の間の相互作用を酵母において濃度依存性様式にて特異的に阻害することが示されたため(図3A)、FKBP12.6とRyR2の間の相互作用は特異的であったことを示唆する。この断片は、RyR1,IP3R1(Cameron et al.,1997)、及びTRI中のFKBP12結合部位に相同であるイソロイシン2427及びプロリン2428(ズ3A)から構成される疎水性モチーフを含む(図3A)。GST−RyR2融合蛋白質をプルダウンアッセイにおいて心臓SRと共に使用することにより、RyR2上のPP1(残基513−808)及びPP2A(残基1451−1768)のための結合ドメインがマップされた(図3B)。興味深いことに、PP1とPP2Aのための結合ドメインが共にロイシン/イソロイシンジッパーを含む。免疫組織化学は、mAKAPが心臓SR内に存在するが、RyR2と同じ細胞内の位置であり、そしてこの点に関しては正常なヒト心臓と不全ヒト心臓の間に顕著な差異は存在しなかったことを示した(図3C)。野生型及び変異体GST−RyR2融合蛋白質を用いることにより、PPリン酸化の部位を決定した(セリン2809、図3D)。
RyR2のPKAリン酸化はFKBP12.6結合を阻害する
【0100】
免疫沈殿したRyR2のPKAリン酸化(FKBP12.6のPKAリン酸化はなかった)は、RyR2と同時沈殿するFKBP12.6の量の有意な低下(約90±9%低下、n=8,p<0.001)をもたらした(図4A)。RyR2からのFKBP12.6の解離は、以下の陰性対照において観察されなかった:1)反応物中にPKA阻害剤を含む反応;2)PKAを沸騰させる反応;3)ATPを省いた反応。Ca2+カルモジュリンキナーゼ(CaMKII)もプロテインキナーゼC(PKC)も、共にRyR2をリン酸化するが、RyR2からのFKBP12.6の解離を誘導しなかったことから、RyR2からのPKAリン酸化誘導性のFKBP12.6の解離は特異的な効果であることを示す(図4A)。さらに、ヒト(65±11%減少、n=4,p<0.005)及びペーシング誘導された心不全のイヌの両方の正常心臓(50±8%減少、n=3,p<0.005)と比較すると、不全心臓からのRyRにより同時免疫沈殿したFKBP12.6の量に顕著な低下があった(図4B)。FKBP12.6の全量は、イムノブロッティングにより測定されたとおり、正常心臓と不全心臓からのホモジェネートにおいて同一であった(データは示さず)。これらのデータは、RyR2のPKAリン酸化がRyR2のFKBP12.6結合の生理学的及び病態生理学的な制御の機構を提供する。
【0101】
RyR2のPKAリン酸化はPを増加させてサブコンダクタンス状態を誘導する
RyR1又はRyR2からのFKBP12.6の解離は、以前に、活性化に関するCa2+−依存性を左にシフトすることによりチャネルの開確率(P)を増加させることが示された(Brillantes et al.,1996)。チャネルからのFKBP12.6の解離の二次的効果は、テトラマーチャネル構造の不安定化に一致してサブコンダクタンス状態を誘導することである(Brillantes et al.,1994)。平坦な脂質二層中のRyR2のPKAリン酸化は、0.10±0.03から0.35±0.06への、Pの顕著な増加をもたらした(n=4/4,p<0.001,例えば、図5A)。RyR2のPKAリン酸化は、RyRチャネルからのFKBP解離後に観察されるのと類似の、サブコンダクタンス状態も誘導した(n=4,例えば図5B)(Brillantes et al.,1994;Kaftan et al.,1996;Marx et al.,1998)。RyR2チャネルのPKAリン酸化は、フルコンダクタンス状態の平均開時間を変えなかった(対照チャネルに関してτ=2.1±0.8ms対2.6±0.6msPKA処理後、n=4,p=NS)。しかしながら、長く継続するサブコンダクタンス状態(τ=502.1±40.8ms)が、二層中のRyR2チャネルのPKAリン酸化後に観察された(図5B)。さらに、ホスファターゼ阻害剤オカダ酸(1μM)は、RyR2のPを0.3±0.1から0.8±0.1に顕著に増加させた(n=5/6,p<0.001)。これらのデータは、PKAリン酸化がRyR2チャネルを活性化する機構がCa2+−誘導性活性化に対して増加した感受性をもたらすチャネルからのFKBP12.6の解離を含むことを示唆する。
【0102】
心不全及びPKA高リン酸化は同じRyR2欠陥を生み出す
ヒト心臓(n=21,前LVAD処理心臓サンプルからの3チャネルを含む心不全の3人の患者からの13チャネル、非不全心臓からの4チャネル、及び後LVAD処理心臓からの4チャネル)及びイヌ心臓(n=27,ペーシング誘導された心不全を有する2匹のイヌからの14チャネル、及び非不全心臓からの13チャネル)は、不全心臓からのRyR2チャネルが、PKAリン酸化されたチャネル(図5B)と同じ変化を単一チャネル特性中にて呈した(図6A及びB)ことを明らかにした。不全心臓からのRyR2チャネルは、低シス(cis)(細胞質)Ca2+濃度において増加したPを呈した(50nM,0.24±0.21対0.002±0.001、n=27不全心臓、n=21非不全心臓及び後LVAD心臓、p<0.0001)。50nMの低シス(cis)(細胞質)[Ca2+]において、不全心臓からの70%のRyR2チャネル(19/27)が非不全心臓からの9.5%(2/21)に比較して、増加したP(P>0)を呈した。さらに、50nMのシス(cis)(細胞質)[Ca2+]において活性であったRyR2チャネルにより呈された2種類の挙動があった。不全心臓からの56%のRyR2チャネルは、低レベルの活性を呈し(n=15/27,P約0.03)たが、異常であり、何故ならば、非不全心臓からのチャネルは50nMのシス(cis)(細胞質)[Ca2+]においてはほとんどいつも完全に不活性だからである(図6B)。厳密に言えば、不全心臓からの15%のRyR2チャネル(n=4/27)は、正常心臓からのチャネルにおいてはけっして観察されなかった第2の種類の挙動を呈した:50nMのシス(cis)(細胞質)[Ca2+]においてP約1.0にて長く継続するサブコンダクタンス状態であり(図6B)、二層中のRyR2チャネルのPKAリン酸化後に観察されたものと類似であった(図5B)。これらのサブコンダクタンス状態は、顕著に増加した開時間(τ=802.1±66.7ms)を有し、非不全心臓からのRyR2チャネル(τ=2.2±0.7ms)と比較される(例えば、図6B参照)。50nMのシス(cis)(細胞質)[Ca2+]において活性なRyR2チャネルは、心臓周期を通して(収縮期及び拡張期の両方において)開くと予測される。
【0103】
不全心臓からのRyR2チャネルの52%において、サブコンダクタンス状態が観察され(n=14/27)たが、正常心臓からのチャネルでは5%未満にしか存在しなかった(n=1/21,p<0.001)(例えば、図6A参照)。当該サブコンダクタンス状態は、RyR1チャネルをFKBP12なしで発現させたときに観察されたもの(Brillantes et al.,1994)又はFKBP12.6が天然RyR2チャネルから解離されたときに観察されたもの(Kaftan et al.,1996)及びPKAリン酸化されたチャネル中で観察されたもの(図5A)と類似である。上記のとおり、不全の心臓からのチャネルも増加したPKAリン酸化(図2A及び2B)及び減少したFKBP12.6結合(図4B)を呈した。これらのデータは、不全心臓中のRyR2の増加したPKAリン酸化がFKBP12.6の解離をもたらし、不安定化されたチャネル及び変化したCa2+感受性に一致して、サブコンダクタンス状態及び増加したPにより特徴付けされる単一チャネル特性の欠陥を引き起こす(Brillantes et al.,1994)。
【0104】
LVAD処理により回復したβ−アドレナリンアゴニスト応答
RyR2のPKAリン酸化の生理学上のレベルはSR Ca2+放出を増加させて、心臓筋肉収縮性を増加させ、少なくとも一部は、β−アドレナリンアゴニストの筋肉収縮支配効果を説明する。不全心臓において心臓収縮性におけるβ−アドレナリンアゴニスト誘導による増加が鈍くなることは、不全心臓においてβ−アドレナリン受容体のダウン制御及び脱感作に帰した(Bristow et al.,1992)。
【0105】
β−アドレナリンアゴニストに対して鈍くなった応答性は、一部には、不全心筋においてはRyR2が既に高リン酸化されており(図2A及び2B)、そしてさらにRyR2のPKAリン酸化が起こり得ないという事実により説明されるかもしれない。RyR2のPKAリン酸化を非不全心臓において観察されたレベルへ戻るまで低下させる介入(intervention)が、心臓収縮性におけるβ−アドレナリンアゴニスト誘導性の増加を回復させるべきである。この仮説を試験するため、我々は、イソプロテレノール−誘導性収縮を測定できるような条件下で、器官バスに入れられた前−及び後−LVADの心臓から単離された筋肉ストリップを使用した。正常心臓に比較して、前−LVAD(不全)筋肉ストリップはイソプロテレノールに対して鈍い応答を呈し(図6C)、LVAD処理後に顕著に回復した。LVAD処理は、RyR2のPKAリン酸化を正常レベルに回復させ(図2A及び2B)、そしてRyR2/Ca2+放出チャネルの単一チャネル特性における欠陥を逆転させた(データは示さず)。これらのデータは、後−LVAD筋肉において観察されたβ−アドレナリンアゴニストに対する感受性の回復が、一部には、これらのRyR2チャネルが生理学的にPKAリン酸化される利用可能性の増加により説明されるかもしれないことを示唆する。
【0106】
考察
本出願は、PKAリン酸化がRyR2へのFKBP12.6結合を制御し、刺激−収縮カップリングに必要な筋小胞体のCa2+放出チャネルを変調させる機構を提供する。不全心臓におけるRyR2のPKAリン酸化は、以下の異常な単一チャネル特性をもたらした:1)活性化のための増加したCa2+感受性;及び2)テトラマーチャネル複合体の不安定化に関連した、上昇したチャネル活性(P)(非不全心臓からのチャネルにはけっして観察されなかった長く継続する部分的開状態を含むサブコンダクタンス状態として明らかにされた)。同時沈降及び同時免疫沈殿研究を用いて、FKBP12.6,PKA,RII,PP1及びPP2Aを含むRyR2チャネルマクロ分子複合体、及びmAKAPを規定するために使用されたことから、上記チャネルのリン酸化は局所的に調節される(controlled)ことを示唆する(図7)。
【0107】
FKBP12.6及びFKBP12は、それぞれ、心臓筋肉RyR2及び骨格筋RyR1のSR Ca2+放出チャネルの絶対必要な成分であり(Jayaraman et al.,1992;Marks,1996)、そして正常なチャネル関門開閉に必要である(Brillantes et al.,1994;Kaftan et al.,1996;Marx et al.,1998)。FKBP12/12.6のRyR1又はRyR2からの解離は、チャネル機能に3つの欠陥をもたらす:1)完全な開チャネルの1/4,1/2及び3/4に等しいコンダクタンスを伴うサブコンダクタンス状態;2)増加したP;及び3)Ca2+−依存性活性化に対する増加した感受性(Brillantes et al.,1994;Kaftan et al.,1996;Marx et al.,1998)。FKBP12/12.6除去後のチャネルにおいて呈された増加したPは、Ca2+−依存性活性化に対する増加した感受性により説明され(Brillantes et al.,1994)、RyRチャネルのCa2+−依存性を記載するベル型の曲線の上昇する部分の左へのシフトを表す(Bezprozvanny et al.,1991)。低細胞質Ca2+(例えば、50nM[Ca2+]、図6Bを参照)における増加したPは、不適切な活性SR Ca2+放出シグナルをもたらすはずである。これは、心臓の収縮機能を害するかもしれないSR Ca2+の枯渇を導くはずである(筋肉収縮を活性化するCa2+シグナルを減じることにより)。低細胞質Ca2+における不適切なSR Ca2+放出チャネル活性化は、致命的な心臓不整脈を誘因し且つ心臓性急死を引き起こす、初期及び遅延した後−脱分極の一因ともなるかもしれない(Fozzard,1992)。
【0108】
PKAリン酸化により誘導されたRyR2単一チャネル機能の変化は、FKBP12.6がチャネルから解離した時に観察されるのに相当する(図5A及び5B)。我々の発見と一致して、RyR2のPKAリン酸化は上記チャネルの活性を増加させることが報告された(Hain et al.,1995;Valdivia et al.,1995)。不全心臓から単離されたRyR2チャネルはPKA−高リン酸化されており(図2A及び2B)、そしてインビトロPKA−リン酸化されたチャネルにおいて観察された機能において同じ変化を呈した(図6A及び6B)。これらのデータを一緒にすると、不全心臓におけるRyR2のPKA高リン酸化は制御サブユニットFKBP12.6の解離によりチャネル機能において欠陥を誘導することが示される。心臓機能を改善する機械的装置(LVAD)による心不全の治療は、RyR2のPKAリン酸化の、正常ヒト心臓において観察されたレベルまでの低下と関連した(図2A及び2B)。さらに、LVAD処置は、標準化されたRyR2単一チャネル機能をもたらした(即ち、サブコンダクタンス状態の減少、活性化のためのCa2+感受性の標準化及び低下したP)。
【0109】
FKBP12のRyR1からの解離の追加の効果は、隣接するチャネルの関門開閉を分離する(uncouple)ことである(Marx et al.,1998)。我々は、FKBP12.6がRyR2チャネル間のカップリングされた関門開閉に必要であることを最近発見した。カップリング関門開閉は均一に活性化され得ることにより、心臓筋肉収縮を誘因するように、最適なCa2+シグナルをもたらす。分離したRyR2チャネルの一つの意義は、心筋症の心臓において実験上観察された刺激−収縮カップリングの増進の損失のはずである(Gomez et al.,1997)。
【0110】
本出願は、心臓のSR並びに核周囲の領域に局在した(McCartney et al.,1995;Yang et al.,1998)筋肉Aキナーゼアンカリング蛋白質(mAKAP)がRyR2と共沈降して共に免疫沈殿することを開示する。mAKAPはRyR2に直接結合することができ、NMDA受容体へ直接結合するyotiaに類似しており(Westphal et al.,1999)、あるいはアダプターによる。PKA制御性サブユニットRIIはAKAPsに直接結合し(Fraser and Scott,1999)、そしてPKA触媒サブユニットを固定する(anchor)。PP1とPP2Aは、直接か又はそれら自身の制御/標的化蛋白質により、おそらくは、RyR2中に存在するロイシンイソロイシンジッパーに結合することにより、RyR2と相互作用するかもしれない。
【0111】
β−アドレナリンシグナリングカスケード成分(刺激性G−プロテインGs及びアデニルシクラーゼ)は、ラットの心室筋細胞中で貫通管状(transverse tubular)ネットワークに局在した(Laflamme and Becker,1999)。即ち、PKA,RII,PP1及びPP2AをRyR2複合体に固定化してT−管−SR接続へβ−アドレナリンシグナリングカスケードの上流成分を局在化させる一つの重要な意義は、RyR2のリン酸化/脱リン酸化が刺激−収縮カップリングの部位において局所的に制御され得ることである。
【0112】
不全心臓からのチャネルのPKA戻しリン酸化の化学量論は0.7であったことから(完全に脱リン酸化されたチャネルに関しては3.8であり、そして非不全心臓からのRyR2に関しては3.1)、RyR2上の4つのPKA部位の約3つが不全心臓においてはリン酸化されており、対するに、非不全心臓においてはRyR2上に一つ又は無しであったことを示す。RyR2のPKA高リン酸化は、正常心臓からのチャネルに比較して、不全心臓からのRyR2チャネルへ結合したFKBP12.6の量の約60%の低下を説明する(図4B)。RyR2チャネルへのFKBP12.6結合のこの低下は、FKBP12.6をラパマイシン又はFK506を用いてチャネルからコンピートオフする時に観察されたものと類似の、偏光された単一チャネル特性を呈した不全心臓からのRyR2の約70%を占めるかもしれない(Brillantes et al.,1994;Kaftan et al.,1996;Marx et al.,1998)。さらに、不全心臓からのチャネルの15%がもっとも重度の欠陥を呈した(50nM細胞質[Ca2+]においてPが約1の長く継続するサブコンダクタンス状態、例えば、図6B参照)ことから、これらのチャネルは結合したFKBP12.6を一つ有するか又は有さないことを示唆する。
【0113】
心不全は合衆国における死亡率及び罹患率のトップの原因であり、年間約400,000人の死亡を占め、心臓性急死(SCD)と呼ばれる心拍の障害により引き起こされるこれらの死の約50%である。ヒト心不全と心不全の多数の動物モデルの共通の特徴は、高アドレナリン状態であり、そして及び循環するカテコールアミンのレベルの上昇が、心不全患者における増加した死亡率に関するマーカーである(Cohn et al.,1984)。
【0114】
研究が証明したことは、不全心臓筋肉におけるβ−アドレナリン受容体のダウン制御及びそれらの下流のシグナリング分子であるG−プロテインからの分離に寄与しうるこれらの受容体の脱感作である(Bristow et al.,1982)が、β−アドレナリンブロッカーが心不全のもっとも重要な治療法の一つであることが証明されたため、いくらかの混乱を招いた(CIBIS−II,1999;Merit,1999)。いくつかの研究は、AMPレベル及びPKA活性が不全のヒト心臓において変化しないこと(Kirchhefer et al.,1999;Regitz−Zagrosek et al.,1994)又はcAMPレベルは減少するがPKA活性は変化しないことである(Bohm et al.,1994)。β−アドレナリンブロッカーの使用は、直感に反する物として考察されたが、アドレナリンシステムが不全心臓においてはダウン制御されていると考えられ、そして陰性の筋肉収縮支配特性をもつドラッグが患者に対して危険な可能性があると考えられるためである。よって、心不全の患者においてβ−アドレナリンブロッカーにより提供された治療上の利益の分子上の基礎の機械論的な理解は、この疾患に対するアプローチにおける重要な進歩である。進行中の実験は、β−アドレナリンブロッカーが速い心臓ペーシングにより誘導された心不全を有するイヌにおいてRyR2のPKA高リン酸化を逆転させることを証明する。
【0115】
本研究は、筋小胞体Ca2+放出チャネルのRyR2が予測に反して不全心臓においてPKA−高リン酸化されることを示す。これらのデータは、局所シグナリングが不全心臓からの心筋においてPKA基質のリン酸化を低下させるよりもむしろ増加させるかもしれないという概念を呼び起こす。
【0116】
RyR2のPKA高リン酸化の驚くべき発見に関する一つの説明は、RyR2に対するホスファターゼの標的化が不全心臓においてはダウン制御されているかもしれないということである。事実、我々は、RyR2と結合するPP1とPP2Aのレベルが不全心臓においては顕著に低下したことを発見した(図2C及びD)。細胞のPP1レベルは不全心臓において増加した(Neuman et al.,1997);即ち、RyR2−結合PP1の低下は、心臓内のPP1レベルの標準化された低下により説明できないRyR2とのPP1結合の特定の低下によるに違いない。
【0117】
Ca2+過度電流(transient)の減少した振幅と遅延した減衰を含む不全心臓内で観察される低下した収縮性を説明できたCa2+制御の欠陥が、記載された(Beuckelmann et al.,1992;Morgan et al.,1990)。しかしながら、これらの欠陥に関する分子上の基礎は明らかにされていない。筋小胞体からのCa2+の放出及び取込みが心臓の収縮期における収縮の力を調節している。SRのCa2+放出はRyR2の活性化により起こり、そしてCa2+の再取込みがSRのCa2+−ATPaseにより起こり、今度は、ホスホランバンにより制御される。PKAは心筋において複数の基質を有し、ホスホランバン、筋繊維鞘上のL−タイプのCa2+チャネル及び収縮装置の成分を含む。しばらくの間は、β−アドレナリンアゴニストが心臓収縮性を制御することに関与する分子の活性を変調できると理解されてきた。明らかに、心不全と同じくらい複雑な疾患は、多数の分子とCa2+ホメオスタシスの制御に寄与するシグナリング経路の間の相互作用を含む。本研究を区別する一つのキーポイントは、動物モデル(例えばペーシング化イヌモデル)のみならず、ヒトの心不全においても起こるCa2+操縦(handling)分子内の機能上の欠陥の同定であり、そしてヒトにおいては心不全の治療(例えば、LVAD)により逆転される。
【0118】
本出願は、FK−506結合蛋白質12.6(FKBP12.6)を放出することによりセリン2809上の心臓ライアノジン受容体/カルシウム放出チャネル(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)リン酸化がチャネルを活性化することを開示する。不全心臓において(心不全のヒト並びに動物モデル)、RyR2はPKA−高リン酸化されており、欠陥のあるチャネルをもたらすが、それらに結合したFKBP12.6の量が低下しており且つカルシウム誘導性活性化に体する感受性が増加している。これらの変化の正味の結果は、RyR2チャネルが「漏出性」なことである。これらの「漏出性」なチャネルは、筋肉の収縮のための強い刺激を提供するように筋小胞体内に十分ではないカルシウムが存在するように、カルシウムの細胞内貯蔵の枯渇をもたらし得る。これは、心臓筋肉の弱い収縮をもたらす。「漏出性」なRyR2チャネルの二次的な重要性は、拡張期として知られる心臓周期の休止期の間にそれらがカルシウムを放出することである。拡張期の間のカルシウムのこの放出は心臓の致命的な不整脈を誘因し得て(例えば、心室頻脈及び心室細動)、心臓性急死を導く。
【0119】
出願は、PKAリン酸化によるFKBP12.6のチャネルへの結合を生理的に調節することにより、RyR2チャネルの機能を変調させるための新規な機構を開示する。さらに、不全心臓中で欠陥機能を伴うPKAリン酸化されたチャネルの発見は、心不全における心臓機能不全の機構を提供する。出願は、心臓の筋肉の収縮を制御して心不全を治療するための新規な標的を開示する。さらに、出願は、RyR2チャネルへのそれらの効果をアッセイすることにより、心臓疾患に対して治療上の新規なアプローチを試験する方法を開示する。
【0120】
実験セットII
本出願は、偏光されたRyR2チャネル機能と心室不整脈の間のリンクを証明するデータを提供し、そしてRyR2複合体からのFKBP12.6の枯渇による欠陥チャネル機能が、DADsを導いて心室不整脈を誘因し得る異常なSR Ca2+放出の根底にある一つの分子機構かもしれないことを示唆する。
【0121】
以下の実験は、運動の間に、RyR2のPKAリン酸化がチャネルからFKBP12.6を一部解離させることにより、細胞内Ca2+放出及び心臓収縮性を増加させる。FKBP12.6欠損マウス及びCPVTの患者からのRyR2チャネルが対照と比較して運動の間はより活性であること、及びFKBP12.6欠損マウスが不整脈を誘因し得て心臓性急死を導く後脱分極を呈することを示すデータが提供される。心臓不整脈を治療する新規な治療上のアプローチは、よって、RyR2マクロ分子複合体内のFKBP12.6欠損により誘導される「漏出性」なRy2チャネル致命的な不整脈を誘因し得るとの発見に基づいて提供される。
【0122】
材料と方法
FKBP12.6−欠損マウス
ヒトFK506結合蛋白質12.6(FKBP12.6)のマウスオルソログのマウスゲノミックλ−ファージクローンを、DBA/1lacJライブラリーから、完全長のマウスcDNAプローブを用いてファイザー社のジェーンベネット博士の研究室において単離した。マウスFKBP12.6の全コーディング配列を含むエクソン3及び4を(Bennett et al.,1998)、3.5kbのマウスゲノミックDNAをPGK−neo選択可能マーカーで置換することにより欠失させるように、標的化ベクターをデザインした。5.0kbの5’断片及び1.9kbの3’断片を、PGK−neoとPGK−TKカセットを伴うバックボーンベクターであるpJNS2にクローン化した。DBA/lacJ胚性幹(ES)細胞を生育させ、そして確立されたプロトコルを用いてトランスフェクトした。陽性及び陰性の選択を用いることにより、標的化されたES細胞系の同定のためのクローンを単離して増殖させた。標的化されたES細胞を、最初に、サザン分析によりFKBP12.6座の5’末端上でスクリーニングした。FKBP12.6の5’相同領域から上流のHindIII−MscI DNA断片を用いて、BglIIにより消化されたゲノミックES細胞DNAを釣り上げた。この方法は、8.5kbの内因性断片を同定し、そして7.7kbのバンドを標的とする正確な遺伝子が観察される。ゲノミックのサザン分析は、69の選択されたES細胞コロニーから、上流プローブを用いて、5つの陽性の標的化クローンを証明した(#14,15,20,34,97)。これらの5つの陽性ES細胞系をPCRにより分析することにより、3’相同アーム及び標的FKBP12.6座により相同組換えを確認した。PGK−neo1023FからのPCRプライマー(5’−ggatgatctggacgaagagcatc−3’)及びFKBP12.6内の配列3’1.9kb相同アームの外部、FKBP12.6 448R(5’−ctctctgcagggggtgcattgc−3’)は、サザン分析により同定された、4/5のES細胞系(#14,15,20,97)内で、予測された2.4kbの断片を増幅した。これら4つの核型分析は、系#15が一致した異数性を有し、そして終結したことを標的化ES細胞系が決定したことを確認した。細胞系#97からの標的化ES細胞を、C57BI/6胚盤胞へ注入した。オスのキメラをDBA/1lacJメスと交配して、生殖細胞子孫がブラウンコート色により同定された。生殖細胞子孫は5’サザン分析を用いて遺伝子型分類された。陽性FKBP12.6+/−のオスとメスを交配したところ、子孫は約25%の頻度でFKBP12.6−/−であった。FKBP12.6−/−マウスは稔性であり、そしてオスとメスのFKBP12.6−/−マウスを交配することにより次のコロニーを確立し、よって、同系交配の遺伝子背景を維持した。FKBP12.6−/−マウスにより実施した全ての研究は、対照として同じ齢及び性別に適合させたFKBP12.6+/+マウスを用いた。以下のバックグラウンド:DBA/C57BL6混合、純粋DBA及び純粋C57BL6上で出現したFKBP12.6−/−マウス間で、差異は観察されなかった。
【0123】
マウス遺伝子型の同定のためにサザンブロット分析を用いた。マウス尾部サンプルから単離されたDNAをBglIIで切断して、Prime−a−Gene標識キット(プロメガ)を用いて32P−α−dCTPにより標識された5’プローブとハイブリダイズさせた。標的化ベクターの5’からすぐ上流に位置するDNAの1kbのHindIII−MscI断片を単離することにより、プローブDNAを得た。野生型マウス及び同型接合型変異マウスからのDNAは、それぞれ、8.5kbと7.7kbのバンドを生じた。FKBP12.6蛋白質の不在は、心臓組織及び特異的には共免疫沈殿によるRyR2マクロ分子複合体中の両方においてイムノブロッティングにより証明した(図8C)。
【0124】
マウスの心臓エコー図
胸腔を通しての心臓エコー図を齢及び性別適合させたマウスに対して、15MHzの変換器を備えたPhilips Agilent Sonos 5500超音波マシンを用いて実施した。体重適合基準にて、2.5%の2−2−2トリブロモエタノールを静脈内投与してマウスを麻酔した。短軸の二次元(2D)視野を乳頭筋肉のレベルにて得た。次に、腹側と背面を通る2DガイドされたM−モードのトレースを100mm/sの前進スピードにて得た。2D視野を用いることにより、左心室の背面壁の厚さ(LVPWT)と左心室弛緩末期の寸法(EDD)の両方を測定した。M−モードのトレーシングを用いることにより、拡張期及び収縮期の両方の内部寸法(それぞれ、LVIDd及びLVIDs)を測定した。フラクションの短縮化(FS)をLVIDd−LVIDs/LVIDdとして計算した。
【0125】
マウスにおける遠隔測定レコーディング及び運動試験
コロンビア大学の公共団体動物ケア及び活用委員会により承認されたプロトコルに従い、FKBP12.6+/+及びFKBP12.6−/−マウスを維持して、研究した。ケタミン(50μg/kg)及びキシラジン(10μg/kg)の静脈内注射を用いて動物を麻酔した。移動性の動物のECG無線遠隔操作(radiotelemetry)レコーディングを静脈内移植の>48時間に得た(データサイエンスインターナショナル、セントポール、MN)(Mitchell et al.,1998)。各マウスに関して連続レコーディングを回収したが、明らかに規定された開始と終結のシグナルを伴うECG複合体のみをサンプルした。標準的な基準を用いることにより、ECGパラメーターを測定した(Mitchelle t al.,1998)。QT間隔を、2相T波の終わりまで測定した(Tr + Ts;QTc=QT/(RR/100);Mohler et al.,2003を参照)。ストレス試験に関しては、マウスを疲労困憊するまで傾斜した踏み輪の上で運動させ、そしてエピネフィリン(0.1−0.5mg/kg)を静脈注射した(Mohler et al.,2003)。4時間かけて休止心臓速度を平均化することにより、移動性の動物の心臓速度を測定した。
【0126】
組織学分析
PBS/20mM KCl溶液により拡張期に心臓を止めて、10%中性緩衝化ホルマリンにより20mmHgにて圧力を固定した。パラフィン埋包組織を切片化し(8μm)、そしてヘマトキシリン及びエオシン(H&E)により光学顕微鏡のために染色した。パラフィン切片をピクロシリウスレッドによっても染色し、そして心筋のコラーゲンの分布を評価するために偏光光学顕微鏡により分析した。
【0127】
マウスからのSRの調製
心臓を1.0mlのホモジェナイズ化バッファー(10mM Trisマレイン酸、pH6.8,20mM NaF,及びプロテアーゼ阻害剤)中でホモジェナイズすることにより、心臓ホモジェネートをFKBP12.6+/+及びFKBP12.6−/−マウスから調製し、そして3,000gにて10分間遠心分離した。上清を次に12,000gにて20分間遠心分離した。120,000gにおいて30分間の最後の遠心分離からの沈殿物を50μlの懸濁バッファー(10mM Trisマレイン酸、pH6.8,0.9% NaCl,300mM蔗糖)に懸濁して、アリコート化し、そして使用まで−80℃に保存した。
【0128】
CVT−結合RyR2及びFKBP12.6変異体の生成と発現
シャメロンの部位特異的変異導入キット(ストラタジーン)を用いて変異導入を実施した。RyR2に示された変異を導入するように、そして導入された制限部位を用いて変異クローンの選択を可能にするように、以下のプライマーをデザインした:(S2246L)5’−GTG GCT GCA GC CTA GTG ATG GAT AAT AAT GAA CTA GC;(R2474S)5’−G GTT TTA CTT GAG AG GT TA GGG ATT GAG G;(R4497C)5’−CTA AAC TAT TTT GC TG AAC TTT TAC AAC ATG。RyR2−S2809D変異は、QuickChangeTM部位特異的変異導入キット(ストラタジーン、ラホーヤ)を用いて、以下のプライマーを使用して生成した:5’−C CGG ACT CGT CGT ATT GAT CAG ACA AGC CAG GTT TC,及び5’−GA AAC CTG GCT TGT CTG ATC AAT ACG ACG AGT CCG G。
【0129】
pRSET−A−FKBP12.6内で、リバースプライマー5’−CTG TCC CGG GAT GAA CTA AAC TTC TTC CCA TTT TGGを用いて、変異体スクリーニングのためにbp121にてXmaI部位を導入して使用することにより、FKBP12.6変異D37Sを生成した。pRSET−A−FKBP12.6(D37S)からのBsmI−XhoI断片をpCMV−FKBP12.6プラスミドにサブクローン化することにより、プラスミドpCMV−FKBP12.6−D37Sを生成した。
【0130】
Ca2+リン酸法を用いて、HEK293細胞に20μgのRyR2 WT又は変異体のcDNA及び10μgのFKBP12.6 cDNAを同時トランスフェクトし、そして以前に記載されたとおりに機能性RyR2チャネルを含む小胞体を調製した(Gaburjakova et al.,2001)。
【0131】
RyR2の免疫沈殿
マウスの心臓のSRからのRyR2の免疫沈殿を以前に記載されたとおりに実施した(Marx et al.,2000)。心臓のSR(200μg蛋白質)を0.5mlのバッファー(50mM Tris−HCl(pH7.4),0.9% NaCl,0.5mM NaF,0.5mM NaVO,0.25% Triton X−100,及びプロテアーゼ阻害剤)に懸濁して、そして一晩4℃において抗−RyR−5029抗体とインキュベートした(イムノグロブリンG(IgG)のみを陰性対照として免疫沈殿に用いた、データは示さず)。プロテインA−セファロースビーズをサンプルに加え、そして4℃において1時間コンスタントに撹拌しながら加えた。ビーズを1Xリン酸化バッファー[50μM MgCl及び50mM Tris/ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルフォン酸),pH6.8]により洗浄し、そして10μlの1.5Xリン酸化バッファーに懸濁した。
【0132】
RyR2のPKAリン酸化
心臓のSR膜を以前に記載されたとおりに調製した(Kaftan et al.,1996;Marx et al.,2000)。蛋白質濃度はブラッドフォードアッセイにより測定した。ミクロソーム(50μg蛋白質)を、PKAの触媒サブユニット(10ユニット、シグマ、セントルイス、MO)を含む90μlのリン酸化バッファー[50μM MgCl及び50mM Tris/ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルフォン酸),pH6.8]に、特異的PKA阻害剤PKI5−24(500nM,カルビオケム、サンディエゴ、CA)の存在又は不在下で懸濁した。リン酸化はMg−ATP(50μM)の添加により開始し、そして30分間室温におけるインキュベーション後にPKIの添加により終結させた。サンプルを100,000gにて20分間遠心分離して、4回洗浄し、そして10mM HEPES及び250mM蔗糖を含む20μlのバッファーに懸濁した。アリコートを−80℃に保存した。
【0133】
免疫沈殿したRyR2の標識されたATPによる戻しリン酸化を使用することにより、RyR2のPKAリン酸化の程度を測定してよい。戻しリン酸化は、免疫沈殿したRyR2(10μlの1.5Xリン酸化バッファーに懸濁された)に、PKA(5ユニット)及び10%の標識されたATP、例えば[γ−32P]ATP(NENライフサイエンセズ、ボストン、MA)を含むMg−ATP(33μM)を加えることにより開始する。反応物を5分間室温においてインキュベートし、そして5μlの停止溶液(4%SDS及び0.25M DDT)の添加により終結させる。サンプルを95℃に加熱し、そして6%SDS−PAGEによりサイズ分画する。戻しリン酸化は、RyR2に結合した標識の量を定量すること、例えば、モリキュラーダイナミックスホスホルイメージャー及びImageQuantソフトウエア(アマシャムファルマシアバイオテック、ピスカタウエイ、NJ)を用いてRyR2の放射性を定量すること、そしてイムノブロッティング及び密度測定により測定された免疫沈殿物中のRyR2蛋白質の量により割ることにより測定される。
【0134】
イムノブロット
ミクロソーム(50μg蛋白質)をSDS−PAGE(RyR2に関しては6%、FKBP12.6に関しては15%)によりサイズ分画し、そして50Vにて一晩ニトロセルロース膜に転写した。膜は、TBS−Tween中の5%ミルクによりブロックし、そして一次抗体(抗−FKBP12、1:1,000希釈)、抗−RyR(5029,1:3,000)(Jayaraman et al.,1992)、又は抗−ホスホRyR2(P2809,1:5,000)と1時間室温においてインキュベートした。P2809ホスホエピトープ−特異性抗−RyR2抗体は、親和精製されたポリクローナルウサギ抗体であり、RyR2に相当するS2809においてPKA−リン酸化されたペプチドCRTRRI−(pS)−QTSQを用いて、Zymedラボラトリーズ(サンフランシスコ、CA)によりカスタムメイドされたものであった。洗浄後に、膜をホースラディッシュパーオキシダーゼ−コンジュゲートされた抗−ウサギIgG(1:5,000希釈、トランスダクションラボラトリーズ、レキシントン、KY)と60分間室温においてインキュベートし、Tris−緩衝塩溶液により3回洗浄し、そしてECL増強化学発光を用いて発色させた(アマシャムファルマシア、ピスカタウエイ、NJ)。
【0135】
細胞トランスフェクション
ヒトの胚腎臓(HEK)293細胞を、25mM HEPES(ギブコ)を含み、10%(v/v)胎児ウシ血清(ギブコ)、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100mg/ml)、及びL−グルタミン(2mM)を追加された最少必須培地(MEM)中で生育させ、そしてCa2+リン酸沈殿法を用いて20μgのcDNAをトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に、SRミクロソームを調製した。
【0136】
単一チャネルレコーディング
マウス心臓由来の天然のRyR2又は組換えRyR2の単一チャネルレコーディングを、電圧クランプ条件下で0mMにおいて前に記載されたとおりに獲得した(Gaburjakova et al.,2001)。チャネルを含む小胞体を、KClを用いて、3:1ホスファチジルエタノールアミン/ホスファチジルセリン(アナティポラーリピッズ、バーミンガム、AL)からなる平坦な脂質2層に融合させた。チャネルレコーディングのために使用された相称性(symmetric)溶液は(mmol/l):トランスコンパートメント、HEPES 250,Ba(OH)53(いくつかの実験においては、Ba(OH)をCa(OH)に置き換えた),pH7.35,及びシス(cis)コンパートメント、HEPES 250,Tris−ベース125,EGTA1.0,及びCaCl,pH7.35であった。他に示さない限り、単一チャネルレコーディングは、150nM [Ca2+]及び1.0mM[Mg2+]の存在下で、シスコンパートメント中で作成した。各実験の結論においては、ライアノジン(5mM)をシスコンパートメントに適用することにより、特異的関門開閉ブロックによるチャネルの同定を確認した。関門開閉パラメーター(開確率P,平均の(average)平均(mean)開時間及び閉時間To,Tc)をデジタル化された電流レコーディングから、Fetchanソフトウエア(アクソンインスツルメンツ、ユニオンシティ、CA)、そして代表的な2分レコーディングからの結果を図に示す。RyR2の開、閉、及び部分開門開閉状態の確率を、全点振幅ヒストグラムから、代表例に関して示されるとおりに測定した。一連の実験において、150nMから10mMシスコンパートメントの増強増加(incremental increase)により測定されたCa2+感受性を、Hill方程式を用いた標準回帰分析により測定したところ、CPVT変異体とWTのRyR2チャネルの間では顕著な差異が見いだされなかった。全てのデータは、平均SE±として表す。不対スチューデンツt試験を実験間の平均値の統計比較に用いた。P<0.05の値が統計上有意であると考えた。
【0137】
作用ポテンシャルレコーディング
FKBP12.6+/+又はFKBP12.6−/−マウスの心臓から、Langendorffの方法(Reiken et al.,2003)を用いて心筋を単離し、そして(mMにて):NaCl(140),KCl(5),MgCl(0.5),CaCl(2.5),NaHPO(0.33),グルコース(5.5)、NaF(0.5),及びHEPES(5),pH7.40を35−37℃において注いだ(superfused with)。1μMのイソプロテレノール又は1μMのエピネフィリンの注入(superfusion)溶液への添加により、細胞のβ−アドレナリン刺激を生じさせた。ピペット(1−3MΩ)充填溶液は(mMにて):NaCl(10),KCl(130),MgCl(1.0),MgATP(5),HEPES(19),TEA−Cl(20),KOHによりpH7.20であった。アクソパッチ(Axopatch)200Aを電流クランプ様式において使用することにより、作用ポテンシャルを記録した(Mohler et al.,2003)。電流注入(current injections)は、低速の12Hzにおいて作用ポテンシャルを誘因した。
【0138】
FKBP12.6結合親和性アッセイ
35S−標識されたFKBP12.6を製造者の指示書に従い、プロメガ(マジソン、WI)からのTNT登録商標Quick共役された転写/翻訳システムを用いて作成した。[H]−ライアノジン結合を組換えミクロソーム上で60nM[H]−ライアノジンにて実施することにより、野生型(WT)及び各変異体に関して等量の組換えRyR2を上記アッセイにおいて用いた。ミクロソーム(約100μg蛋白質)を100μlの10mMイミダゾールバッファー、pH6.8中へ希釈し、そして様々な濃度の[35S]−標識されたFKBP12.6と37℃において60分間インキュベートした。反応は、サンプルを500μlの氷冷イミダゾールバッファー中に希釈することにより停止した。サンプルを100,000gにて10分間遠心分離し、イミダゾールバッファー中で3回洗浄し、そして結合した[35S]−FKBP12.6の量を沈殿物の液体シンチレーションカウンティングにより測定した。
【0139】
RyR2とFKBP12.6の結合の程度を測定する別の方法は、2つの蛋白質の共沈降及びイムノブロッティングによる。ミクロソーム(約200μg蛋白質)を、プロテアーゼ阻害剤を含む0.1mlのイミダゾールバッファー(5mMイミダゾール、pH7.4,0.3M蔗糖)に懸濁し、そして37℃において1時間ラパマイシン(セルシグナリングテクノロジー、ビバリー,MA)と共にインキュベートする。サンプルを95,000gにて10分間遠心分離し、そして上清を回収する。沈殿物は0.2mlのイミダゾールバッファー中で2回洗浄し、そして95,000gにて10分間遠心分離する。最終沈殿物は0.1mlのイミダゾールバッファーに懸濁する。沈殿物と上清の両方の成分をSDS−PAGEにより分画し、そして以前に記載されたとおりに、FKBP12.6に関してイムノブロットした(Gaburjakowa et al.,2001)。
【0140】
RyR2チャネル機能に対する試験薬剤の効果を監視するためのアッセイ
RyR2のPKAリン酸化はRyR2チャネルの活性を増加させ、チャネルの所定の活性因子に関して細胞の細胞質へのより多くのCa2+の放出をもたらす。密閉した状態でチャネルを維持することを助けることによるRyR2受容体の活性化を抑圧するためのいくつかの機構を予見することができる。例えば、RyR2のPKAリン酸化を阻害する化学試薬は、チャネルの密閉した状態の維持管理を増強すると予測される。同様に、RyR2からのFKBP12.6の解離を阻害する薬剤及びFKBP12.6の結合を模倣する薬剤、即ち、FKBP12.6結合部位においてRyR2に結合するがチャネルがPKAによりリン酸化された時にはチャネルにならない(not come off)薬剤も、密閉されたチャネルを維持してPKA又はRyR2チャネルの他の薬剤に応答してその活性を低下させることが予測される。これらの薬剤は、全て、細胞へのCa2+の漏出をほとんどもたらさないと予測され、よって、心臓不整脈を誘導し得るDADsを妨害する治療上の価値を有するかもしれない。
【0141】
RyR2からのFKBP12.6の解離を阻害する薬剤の例は、JTV−519(K201とも呼ばれる)又は1,4−ベンゾチアゼピンの誘導体である化合物のこのクラス内の他の何れかの化合物である(Yano et al.,2003;Kaneko et al.,1994;Hachida et al.,1999;Kimura et al.,1999)。
【0142】
RyR2チャネルの密閉を増強し、即ち、心臓不整脈を治療するのに有効かもしれない薬剤の一つのアッセイは、RyR2チャネルにより、カルシウム感受性蛍光染料(例えば、Fluo−3又はFura−2)を用いて、細胞へのCa2+の放出を測定することに基づく。当該アッセイは、細胞に蛍光染料を負荷すること、細胞をRyR2活性因子(例えば、PKA又はカフェイン)で刺激すること、及び細胞に添加された化学試薬がCa2+−依存性蛍光シグナルを減少させるか否かを測定することを含む(Brillantes et al.,1994;Gillo et al.,1993;Jayaraman et al.,1996)。Ca2+が細胞の細胞質に放出されたとき、Ca2+−感受性染料により結合されて、次に、蛍光シグナルを発する。Ca2+−依存性蛍光シグナルは、例えば、光電子倍増管又は電荷結合素子(CCD)検出器により監視し、そして適切なソフトウエアにより分析する(Brillantes et al.,1994;Gillo et al.,1993;Jayaraman et al.,1996を参照)。このアッセイは、マルチウエルディッシュを用いて多数の化学薬剤をスクリーニングするために容易に自動化することができる。当該アッセイは、異種発現系、例えば、細菌、酵母、昆虫、両生類、植物又は哺乳類(HEK293,CHO,COS−7,LM(tk),マウス胚性繊維芽細胞NIH−3T3,又はヒーラを含む)細胞内でのRyR2チャネルの発現を必要とする(Brillantes et al.,1994)。非筋肉細胞においては、RyR2受容体をER上で発現させ、そしてRyR2チャネルが活性化されたときに、Ca2+がERから細胞の細胞質に放出される。
【0143】
β−ARsは、RyR2受容体と同時発現させることもできる。これは、β−ARs刺激に対する応答における、RyR2活性化に対しての異なる化学試薬の効果の評価を可能にさせる。
【0144】
別のアッセイは、RyR2のPKAリン酸化のレベルを測定することを含み、RyR2チャネルのPKAリン酸化を阻害するようにデザインされた化合物の効果を決定するのに使用できる。このアッセイは、RyR2チャネル蛋白質に特異的な抗体の使用に基づく(抗体−RyR2抗体)。このアッセイにおいては、RyR2チャネル蛋白質が抗−RyR2抗体により免疫沈殿され、そして次にPKAと[γ−32P]−アデノシン3リン酸(ATP)により戻しリン酸化される。サンプルを次にSDS−PAGE上でサイズ分画する。RyR2受容体蛋白質に転移した放射性32P標識の量をホスホルイメージャーを用いて測定できる。別のバージョンのアッセイにおいては、RyR2のPKAリン酸化された形態には結合するが未リン酸化形態には結合しない抗体を用いる。この場合、戻しリン酸化は必要ない。
【0145】
RyR2機能のための別のアッセイは、FKBP12.6とRyR2受容体の結合の程度、サブコンダクタンス状態の出現、活性化のためのCa2+の感受性、開確率(P)、開休止時間定数(τ)又は沈殿の関門開閉頻度を測定することを含む。
【0146】
FK506とラパマイシンは共にFKBP12.6をRyR2から解離させる。別のアッセイは、FK506−セファロース又はラパマイシン−セファロースカラムを用いることにより、化学薬剤のライブラリーをスクリーニングして、上記カラムに結合するものを同定することを含む。結合は、カラムを結合バッファーで徹底して洗浄し、次に、高塩濃度バッファーにより溶出することにより評価することができる。カラムに結合する薬剤は、それらがRyR2に結合して(心臓SR中又は異種細胞SR膜調製物中)、変異体チャネルに結合したFKBP12.6を置き換える能力に関して試験することができる。この競合アッセイにおいては、RyR2チャネルを化学薬剤とインキュベートし、次に遠心分離し、そして沈殿物対上清フラクションをイムノブロットする。チャネルに結合してFKBP12.6をコンピートオフする薬剤は、FKBP12.6が上清中で検出されることを可能にする。これは、96ウエルプレートを用いて、ドットブロット装置により、そして抗−FKBP12.6抗体によりイムノブロッティングすることにより分析できる。
【0147】
これらのアッセイにおいて同定された化学薬剤は、イソプロテレノール誘導性の、カルシウム感受性蛍光染料(例えば、Fluo−3又はFura−2)を負荷した細胞内Ca2+放出を阻害するそれらの能力に関して試験できる。
【0148】
変異体RyR2からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を阻害する化学薬剤は、例えば96ウエルディッシュの中で上清へのFKBP12.6の放出を検出する高処理量酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)により検出することができる。変異体RyR2からのFKBP12.6の解離の後に、例えば、ラパマイシン又はFK506の添加によるか又は変異体RyR2のcAMP及びATPによるPKAリン酸化により、抗−FKBP12.6抗体をELISAにおいて使用する。FKBP12.6の上清への放出を阻害する薬剤は、新規治療剤の候補を導き、次に、心臓不整脈の被験者において試験することができる。
【0149】
結果
FKBP12.6−欠損マウスにおける運動誘導性不整脈
心臓中でFKBP12.6蛋白質の不在をもたらす相同組換えにより、FKBP12.6−/−マウスを生じさせた(図8)。オス及びメスFKBP12.6−/−マウスの心臓は、心臓エコー図及び組織学上(繊維症の不在を含む、データは示さず)に基づくと、構造上正常であった。知覚のある(conscious)FKBP12.6+/+及びFKBP12.6−/−マウスのECGパラメーターの試験は、RR(+/+,97.3±5msec,−/−,92.1±4msec),PR(+/+,36.2±2.1msec,−/−,35.4±2.0msec),QRS(+/+.17.4±1.8msec,−/−,16.4±1.4msec),又は速度修正されたQT間隔(QTc;+/+,56.7±3.0msec,−/−,55.1±4.0msec;n=10 +/+;6 −/−,N.S.)において有意な差異は示さなかった。即ち、FKBP12.6−/−マウスは構造上の異常さを示さず休止期においてECG異常性又は不整脈を示さなかった(図9A及びB)。
【0150】
心臓不整脈を試験するため、FKBP12.6+/+及びFKBP12.6−/−マウスを、以前にマウスで用いられた運動プロトコルに供した(Mohler et al.,2003)。何れのFKBP12.6+/+マウスも(0/10)、プロトコルの間に不整脈又は失神の事象を示さなかったが、FKBP12.6−/−マウスは8匹のうちの2匹が精力的な運動の2−5秒後に非応答になり、そして全部のFKBP12.6−/−マウスが運動プラスエピネフィリン注射により死んだ(8/8)。運動後に、エピネフィリンを投与した場合、野生型(WT)マウスはこのストレスプロトコルにおいて不整脈にならなかったが、FKBP12.6−/−マウスは100%(8/8)が致命的な不整脈を有し、洞(sinus)リズム(心臓速度約700−850bpm)からの進行(progression)からなり、保持された心室不整脈に対して多形性(polymorphic)心室不整脈(心臓速度>1,200bpm)を伴った(図9C)。死ぬ前に、マウスのうちの2匹が有意に延期された多形性の不整脈を呈し(>6秒)、4匹が心室不整脈の複数の短い(0.5−2秒)ランを呈し、そして2匹のマウスがECG監視外で死んだ。別のFKBP12.6−/−マウスモデルを用いた以前の報告は、オスのマウスが心筋症を有し、そして我々の発見と一致して心臓不整脈は非運動動物において観察されなかったことを示した(Xin et al.,2002)。運動の効果は、その研究では報告されなかった。本研究において報告された我々のFKBP12.6−/−マウスからの心臓を試験したが、心筋症を示唆するような発見はなく、心臓エコー図、組織学(データは示さず)及び心室不整脈に対する罹病性を含む、測定された機能パラメーターの何れに関しても、オスとメスの間に差異はなかった。
【0151】
FKBP12.6−欠損心筋における遅延した後脱分極
FKBP12.6の欠損が不整脈を誘因し得る遅延した後脱分極(DADs)の危険の増加と関連するか否かを決定するため、FKBP12.6−/−マウス及び対照のFKBP12.6+/+マウスから単離した心筋をパッチクランプにより試験した。両遺伝子型の心臓からの心筋において単一の細胞作用ポテンシャル(AP)に有意な変化はなかった。しかしながら、運動を刺激する条件下で試験された4匹のFKBP12.6−/−マウスからのFKBP12.6−/−心筋細胞には後脱分極が観察された(即ち、イソプロテレノール(1μM)又はエピネフィリン(1μM)の適用後、そして致命的な運動誘導性不整脈がFKBP12.6−/−マウスにおいて起こった約700から750bpmの心臓速度に相当する12Hzにおける作用ポテンシャルによる刺激)(図9D及びE)。FKBP12.6+/+心臓及びFKBP12.6−/−心臓の両方が、増加したSERCA2(筋小胞体Ca2+ATPaseタイプ2)活性になりやすく(subject to)、そして増加したL−タイプのCa2+チャネル活性になりやすく(PKA−依存性リン酸化による)、そして両遺伝子型はPKAによるRyR2リン酸化になりやすく、残りの差異はFKBP12.6−/−マウスの心臓細胞内のF12.6の不在である。
【0152】
FKBP12.6−/−マウスからのRyR2チャネルは運動の間に欠陥関門開閉を呈する
天然RyR2は4つのRyR2モノマーからなるテトラマーであり、各々は単一のFKBP12.6分子を結合する。FKBP12.6は密閉された状態においてRyR2チャネルを安定化してその活性を減少させる(Brillantes et al.,1994;Kaftan et al.,1996)。運動の間の交換神経系の刺激は、β−ARを活性化するカテコールアミンの放出を誘導して、心臓筋肉中でcAMPレベルを上昇させてプロテインキナーゼAを活性化する。RyR2−Ser2809のPKAリン酸化は、FKBP12.6をチャネル複合体から解離させ(Marx et al.,2000)、そして[Ca2+]iによる活性化に対するRyR2の感受性を増加させる(Valdivia,1995)。よって、PKAリン酸化はFKBP12.6のRyR2からの解離を誘導し、そしてRyR2の[Ca2+]iに対する増加した感受性(以下を参照)は、RyR2活性をアップ制御すること(Marx et al.,2000)及びSR Ca2+の放出を増加させることに関与する生理的機構である。これは運動の代謝要求に合致するように心臓の出力を増加させるシグナリング系(「闘争又は逃避」ストレス応答)の一部として起こる。
【0153】
RyR2に対する運動の効果を決定するため、チャネルのPKAリン酸化を運動後のFKBP12.6+/+及びFKBP12.6−/−マウスにおいて試験した。RyR2はPKA−リン酸化されることがわかり(図10A)、部分的にFKBP12.6を消耗させた(図10B)。FKBP12.6+/+及びFKBP12.6−/−の両方からのRyR2が運動の間に類似の程度までPKA−リン酸化された(図10A)。運動の間、RyR2チャネルの開確率が非運動動物のチャネルに比較して増加した(図10C−F)。しかしながら、運動したマウスからのFKBP12.6−/−のRyR2チャネルは開確率において約10倍大きな増加を呈し(図10Dと10Fを比較せよ)、同じ程度の運動に供された、齢及び性別を適合されたFKBP12.6+/+対照動物に比較される(図10G)。RyR2チャネルが心臓不整脈を誘因し得る拡張期のSR Ca2+漏出を阻害するように極めて低い開確率を有すべきである場合に、拡張期の間の心臓における条件に近似させるため、150nMの低いシス(細胞質)[Ca2+]の条件下でこれらのチャネルを研究した。即ち、運動の間のFKBP12.6−/−のチャネル中のこれらの条件下でのRyR2開確率の顕著な増加は、マウスが運動しているときはこれらのチャネルが拡張期の間「漏出性」であり得たことを示唆する。
【0154】
運動誘導性の心臓性急死は欠陥のあるRyR2関門開閉にリンクする
CPVTの臨床上の表現型は、運動ストレス試験により誘導可能な心室不整脈からなる。運動の間、患者は、単離された未成熟の心室収縮から、心室細動に退化して心臓性急死を引き起こすかもしれない多形性の心室頻脈への典型的な進行を呈するかもしれない(Leenhardt et al.,1995;Priori et al.,2002)。
【0155】
CPVT患者における運動誘導性の不整脈がSRのCa2+放出チャネル機能の欠陥に関係するか否かを決定するため、公知のCPVTミスセンス変異に相当するRyR2の3つの変異形態(RyR2−S2246L,RyR2−R2474S,及びRyR2−R4497C)(図11A)を発現させた。SRのCa2+漏出を阻止するために心臓が弛緩してRyR2チャネルが極めて低い開確率を有するときの拡張期の心臓筋肉の条件に近似させるように、150nMの低シス(細胞質)[Ca2+]にて実験を実施した。PKAリン酸化の不在下では、WTと全ての3つの変異体RyR2が極めて低い活性しか有さない(図11Bの上部トレーシングを参照)。50nMから5mMの広い範囲のシス(脂肪質)[Ca2+]にわたり試験されたWT RyR2及び変異体RyR2の単一チャネル特性には差異がなかった(図11B,上部右のグラフ)。
【0156】
基底条件下で3つ全てのCPVT−関連変異体RyR2がRyR2−WTチャネルのそれらと識別不可能な正常な単一チャネル特性を呈したという発見は、CPVTの患者が休止期に不整脈を有さないとすれば、驚くべきことではなかった(Leenhardt et al.,1995;Priori et al.,2002)。しかしながら、CPVTの患者は運動により誘導された不整脈を有する(Leenhardt et al.,1995;Priori et al.,2002)。心筋においてβ−ARシグナリング経路を通してPKAを活性化する運動の効果に近似させるため、PKA−リン酸化されたWTと変異体RyR2のチャネルの単一チャネル特性を平坦脂質2層において比較した。
【0157】
PKAリン酸化はWTのRyR2及びCPVT変異体のチャネルの活性(開確率;P)を顕著に増加させた(図11Bの底部トレーシング)。変異体RyR2(RyR2−S2246L,RyR2−R2474S,及びRyR2−R4497C)の開確率は、しかしながら、WTのRyR2のチャネルよりも顕著に高かった(図11C,n=9,P<0.05)。同様に、関門開閉頻度は変異体チャネルにおいて顕著に低かった(n=9,P<0.05,データは示さず)。変異体チャネルにより呈された増加した開確率及び関門開閉頻度は、それらがPKAによる活性化に対してより感受性であることを示す。PKAリン酸化の後では、WTとCPVT−関連変異体RyR2の両方が中度の[Ca2+]iにおいてCa2+−誘導性の活性化に対してより感受性であり(図11B,右)、そしてこの効果は変異体チャネルにおいて際立ったことから、それらが増加したCa2+−依存性活性化を呈するために拡張期にはそれらがWTチャネルよりも活性であることを示唆する。
【0158】
RyR2へのFKBP12.6結合に対するCPVT変異の効果を決定するため、WTのRyR2及び3つのCPVT変異体(RyR2−S2246L,RyR2−R2474S,及びRyR2−R4497C)を発現するHEK293細胞からミクロソームを調製した。これらのミクロソーム中のRyR2の量を、[H]−ライアノジン結合により測定した。上記ミクロソームを35S−標識されたFKBP12.6とインキュベートすることにより、FKBP12.6結合曲線を得た。チャネルへのFKBP12.6結合の解離定数(Kd)(n=3)をスキャッチャード分析から測定した(図4D):WT RyR2に関して108.3±9.1nM、RyR2−S2246Lに関して182.7±8.1nM、RyR2−R2474Sに関して215.7±6.0nM、及びRyR2−R4497Cに関して202.2±11.2nM。
【0159】
Kdの顕著な増加(P<0.001)は、CPVT変異体がWTチャネルに比較してFKBP12.6に関して低下した親和性を有したことを示す。
CPVTの患者が変異体RyR2対立遺伝子に関して異型接合性であるため、HEK293細胞においてWT RyR2及びCPVT−変異体RyR2を等量発現させることにより、ヘテロテトラマーチャネルの機能も試験した。2層実験において研究されたあらゆる所定のチャネルの正確な組成は決定できないが、複数のヘテロテトラマーチャネルからのデータをプールした。ホモテトラマーCPVT−関連変異体RyR2チャネルの場合のように、ヘテロテトラマーRyR2チャネルも同じ変更された単一チャネル特性を呈し、PKAリン酸化後の開確率の増加を含んだ(図11E及びF)。これらのデータを一緒にすると、CPVT−関連変異体RyR2チャネルはWTのRyR2チャネルに比較して顕著に変更された単一チャネル特性を呈するが、PKAリン酸化後のみであることを示す。
【0160】
FKBP12.6は欠陥のあるRyR2チャネルに対する正常な関門開閉を回復させる
FKBP12.6はPKA−リン酸化されたRyR2には結合できないことが以前に示された(Marx et al.,2001;Marx et al.,2000)。本研究からの結果は、FKBP12.6は、PKA−リン酸化されたRyR2を構成的に模倣する変異体RyR2−S2809Dにも結合できないことを示す(図12A)。変異体CPVT−関連RyR2の欠陥のある関門開閉が減少したFKBP12.6によったのか否かを決定するために、そして野生型FKBP12.6がPKAリン酸化されたRyR2に結合できないため、37位のアスパラギン酸がセリンに置き換わった変異形態のFKBP12.6を生成した(FKBP12.6−D37S)。この変異体FKBP12.6はPKA−リン酸化されたRyR2に対して及びRyR2−S2809D変異体に対して結合することができる(図12A)。Asp37上の負の電荷を中和するために選択を行ったのは、FKBP12がTGFβ受容体Iに結合する際にこの残基が疎水性結合ポケットに近く(Huse et al.,1999)、そしてリン酸化後に追加の負の電荷がチャネルに付加されたときにRyR1又はRyR2からのそれぞれFKBP12又はFKBP12.6のPKAリン酸化誘導性解離に関与するかもしれないからである。事実、変異体FKBP12.6−D37Sの付加は、RyR2−S2809Dチャネルに対しての正常(低い活性)のチャネル機能を回復させた(図12B)。
【0161】
さらに、野生型FKBP12.6とは対照的に、FKBP12.6−D37Sは、運動したFKBP12.6−/−マウスの心臓から単離されたRyR2チャネルに結合することができたし(図12C)、正常なチャネル機能を回復させた(図12D)。最後に、FKBP12.6−D37Sは、PKA−リン酸化されたCPVT−関連RyR2変異体チャネルに結合し(図12E)、そして正常チャネル機能を回復させた(図12F)が、野生型FKBP12.6はしなかった。即ち、野生型FKBP12.6とは異なり、PKA−リン酸化されたRyR2に結合し且つ正常チャネル機能を回復させる変異形態のFKBP12.6を生成した。一緒にすると、これらの結果は、運動中に生理学上起こるRyR2マクロ分子複合体からのFKBP12.6の部分的な消耗は、増加したRyR2開確率に関連するが、RyR2複合体中のより重度のFKBP12.6の欠損(例えば、FKBP12.6−/−マウス又はCPVT変異を有する患者)が、正常な心臓からの野生型チャネルにおいては観察されない拡張期の間の顕著に増加した開確率を伴うチャネルをもたらし得ることを示唆する。
【0162】
考察
本研究においては、運動により誘導された心臓性急死を呈するFKBP12.6−/−マウスからのRyR2、及び患者において運動により誘導された不整脈にリンクしたCPVT−関連変異体RyR2の両方が、運動中に心臓において拡張期に相当する条件下で顕著に増加した開確率を呈することを示した。これらのデータは、インビボにおいて、SR Ca2+のPKA−リン酸化されたFKBP12.6枯渇RyR2を通した漏出が起こり得ることを示唆する。事実、模擬運動中のFKBP12.6−/−マウスからの心筋細胞において、遅延した後−脱分極(DADs)が観察された。重要なことに、FKBP12.6−/−マウスからのRyR2及びCPVTマウスのRyR2は基底条件下で正常なチャネル機能を呈し、そして運動誘導性刺激に相当する条件下でそれらが試験された場合に欠陥機能(即ち、増加した開確率)を示すのみである。FKBP12.6−/−マウスからの心筋細胞において観察されたDADsと組み合わされた、運動中のFKBP12.6−/−マウス及びCPVT−関連変異体RyR2からのチャネルの増加した開確率は、RyR2によるSR Ca2+漏出が、DADが誘因した不整脈を開始できることを示唆する(図13)。
【0163】
FKBP12.6欠損は運動により誘導された心臓性急死を引き起こす
心臓の心室不整脈は、死亡率の主要な原因であるが、不整脈を開始する誘因の分子基礎が、まだよく理解されていない。本研究において、運動したFKBP12.6−/−マウスからのRyR2チャネルが運動したFKBP12.6+/+マウスにおいては観察されなかった劇的に増加した開確率を示すことが発見された。これらのデータは、運動したFKBP12.6+/+マウスからのRyR2チャネル複合体中の残りのFKBP12.6(図12B)が拡張期の間に閉じたPKAリン酸化されたRyR2チャネルを保持するのに十分であることを示唆する。独立に生成したFKBP12.6−/−マウスの表現型を試験した以前の研究は、心筋Ca2+シグナリングの欠陥を報告したが、運動により誘導された不整脈は研究されなかった(Xin et al.,2002)。本結果は、RyR2チャネル複合体中のFKBP12.6の不在がマウスを、運動中並びにβ−AR経路の刺激の間に、DADs、心室不整脈及び心臓性急死にしたことを示す。
【0164】
RyR2のPKAリン酸化がチャネル複合体からのFKBP12.6の解離を誘導することが以前に示された(Marx et al.,2000)。この発見は、PKAリン酸化されたRyR2を構成的に模倣し、よってFKBP12.6を結合できない、RyR2−S2809D変異体チャネルを用いて本研究において確認された(図12A及びB)。変異体FKBP12.6−D37SがPKA−リン酸化されたRyR2又はRyR2−S2809Dを結合できないという発見は、陰性荷電されたリン酸基のRyR2−S2809への付加に対して二次的な電荷−斥力がFKBP12.6のチャネル複合体からの解離を引き起こすというモデルに一致する。
【0165】
FKBP12.6−D37Sが、運動したFKBP12.6−/−マウスからのRyR2中の(低い活性)チャネル表現型又はCPVT−変異RyR2チャネルを救済できたことは、PKAリン酸化後のFKBP12.6の不在がRyR2チャネル高活性を導くことを強く示唆する。FKBP12.6の不在はFKBP12.6−/−マウスにおいて、及びCPVT−関連RyR2変異を有する患者において不整脈を誘引するかもしれない。さらに、これらの結果は、FKBP12.6のリン酸化されたRyR2チャネルへの結合を増加させることが、CPVT及び心不全において誘導された不整脈を阻止するための新規且つ極めて特異的な治療戦略を提供するかもしれないことを示唆する。
【0166】
RyR2のPKAリン酸化は闘争又は逃避応答の一部である
RyR2のPKAリン酸化は、「闘争又は逃避」応答として知られる重要な生理学的ストレス経路の一部として起こる(Marks,2000)。このシグナリング経路は、関連したストレスの代謝要求に合わせるのに必要とされる増強された心臓出力を運動又はストレスに応答した交換神経系の活性化がもたらす機構を提供する。運動の間の交換神経系の刺激は、β−ARを活性化するカテコールアミンの放出を誘導して、細胞内cAMPレベルを上昇させ、よって、心臓筋肉中のPKAを活性化する。Ser2809におけるRyR2のPKAリン酸化は、FKBP12.6をチャネル複合体から解離させ、そしてRyR2活性のアップ制御を含む生理的機構を提供する(Marx et al.,2000)ことにより、運動又はストレスに応答してSRのCa2+放出を増加させる。
【0167】
運動誘導性の心臓性急死にリンクしたCPVT−関連RyR2
CPVT−関連変異と共にRyR2バリアントはFKBP12.6のRyR2への結合の減少を呈するが、これらの変異体RyR2チャネルは基底条件下ではFKBP12.6を結合することができなかった。この発見は、CPVT患者が休止条件下では不整脈を呈さないという事実に符合する。PKA−リン酸化誘導されたFKBP12.6の解離はRyR2チャネルが運動の間に活性化される機構の一部であるため、低下したFKBP12.6の親和性は、PKAによる活性化に対しての変異体チャネルの感受性の増加において役割を担う。事実、PKAリン酸化後は、この研究において試験されたCPVT−関連RyR2変異が、同じ条件下で試験されたWTチャネルに比較して、増加した活性を有するチャネルをもたらした。即ち、運動の間、CPVT−変異体のRyR2のPKAリン酸化は、不整脈を誘引する後脱分極の可能性を高める(図13)。
【0168】
基底条件下ではCPVT−関連RyR2チャネルが正常な活性を呈したことを発見したが、RyR2−R4479C変異体が極めて低い[Ca2+]において増加した活性を有したという以前の報告とは対照的である(Juang et al.,2002)。休止心筋細胞のそれよりも低い50nMの[Ca2+]においてさえ、又は心臓筋肉が弛緩している拡張期の間、チャネル機能に差異は観察されなかった。さらに、本研究において変異体RyR2がPKAリン酸化後に欠陥を呈したにすぎなかったという事実は、運動の間のチャネルの条件に相当するが、チャネル機能のこれらの特定の変更の、CPVT患者内の運動誘導性不整脈に対する関連性を支持する。さらに、非運動条件下でCPVT−関連RyR2チャネルにおいて見いだされたあらゆる欠陥が、これらの患者において如何にしてSCDとリンクし得るかを理解するのは困難であるが、何故ならば、休止しているときに不整脈は起こらないからである。
【0169】
「漏出性」ライアノジン受容体に関連する遅延した後脱分極
DADsは異常なSR Ca2+放出により引き起こされる心臓の作用ポテンシャルの完了後に起こるプラズマ膜ポテンシャル内の振動(oscillations)であり、Ca2+−活性化された一時的な内部への(脱分極)電流(Iti)をもたらす(Fozzard,1992;Wit and Rosen,1983)。以前の薬理学の研究は、ライアノジンが特異的にDADsを阻害することを示し、それらが欠陥のあるSR Ca2+放出によるのかもしれず、そしてこのプロセスにおいてRyR2に影響するのかもしれないことを示唆する(Marban et al.,1986;Song and Belardinelli,1994)。本研究は、誘発された心室不整脈のセッティングにおける、RyR2とDADsの間のこの機械的なリンクを強くする。
【0170】
DAD−誘導されて(induced)誘因された(triggered)活性はCPVT−関連の運動誘導性不整脈の主な機構として提案された(Priori et al.,2002)。CPVT−変異体チャネルの生物物理的な欠陥は、チャネルがPKAリン酸化に供されたときにのみ観察され、運動の間にチャネルの条件を模倣する。これは、チャネル機能におけるこれらの欠陥の患者における不整脈に対する関連性を支持するさらなる証拠を提供するが、何故ならば、不整脈は運動の間にも広範囲に観察されて、運動試験により導き出され得るからである。
【0171】
この機構の支持として、運動中のCPVTの患者における未成熟の心室収縮(PVCs)の開始が1分あたり>100拍動(107±7拍動/分、速度100−120,n=9)の洞速度において起こることがわかった。心室頻脈が>130bpmの洞速度において発症した(平均148±22;速度135−204)。興味を引くのは、心室頻脈のカップリング間隔(352±26msec)は、単離された未成熟の拍動SR Ca2+放出のそれよりも短いことであり(p<0.0001)、3つのRyR2変異体のキャリアー中の不整脈の速度依存性がDAD−媒介性の誘発された活性の基準を満たすことを示す(Fozzard,1992)。
【0172】
誘発された心臓不整脈に関する可能性のある分子機構
CPVTは稀な遺伝(inherited)障害であるが、データは、RyR2機能の欠陥が広い密接な関係を有するかもしれない心臓性急死にリンクしていることを示す。CPVT−関連RyR2における欠陥の解明は、「漏出性」のSR Ca2+放出チャネルと心臓不整脈の表現型の間のリンクを提供する。RyR2機能における一時的な運動誘導性欠陥は、運動誘導性不整脈に関する機構を提供するらしい(図13)。
【0173】
心不全は開発国における死亡率の一番の原因であり、異常なSR Ca2+放出を引き起こすかもしれない、PKA高リン酸化及びチャネル複合体からのFKBP12.6の枯渇による、変更されたRyR2機能に関連する(Marx et al.,2000)。事実、不全心臓からのRyR2は、運動条件下で試験されたFKBP12.6−/−マウスからのRyR2及びCPVT−関連RyR2と同じ欠陥性の単一チャネル特性を呈する(Marx et al.,2000)。これは、おそらく、心不全がRyR2チャネルの長期にわたるPKA高リン酸化及びRyR2マクロ分子複合体からのFKBP12.6の枯渇をもたらす高アドレナリン状態だからである(Marx et al.,2000)。
【0174】
不全ヒト心臓からのPKAリン酸化されたCPVT−関連変異体のRyR2のチャネルとWT RyR2のチャネルは、共に、低細胞質[Ca2+]において増加した活性を呈し、SR Ca2漏出を促進させるかもしれない。これら2つの疾患状態の違いは、CPVTにおいては、欠陥チャネル機能がFKBP12.6に対する親和性を低下させて拡張期の間にチャネルを閉じさせる能力を損傷させるRyR2中の遺伝した変異によるのに対して、心不全においては、長期にわたるPKA高リン酸化のためにRyR2チャネル複合体がFKBP12.6を枯渇する(Marx et al.,2000)。一緒にすると、これらのデータは、心不全患者において不整脈を誘引する機構が、CPVT及びFKBP12.6−/−マウスにおけるそれらと類似するかもしれないことを示唆する。不全心臓における心臓不整脈は複数の原因によるらしく、そしてSR Ca2+漏出により誘発されるそれらがこれらの不整脈のサブセットを代表するらしい。
【0175】
本研究は、心臓不整脈に対する治療上のアプローチに関して密接な関係を有する。FKBP12.6−/−マウス及びCPVTヒト患者におけるRyR2によるCa2+の「漏出」の分子機構の解明は、特定のアッセイのデザインが、RyR2チャネルの密閉した状態を維持することによりCa2+の漏出を打ち消す化学薬剤を同定することを可能にさせてきた。RyR2チャネルの閉鎖を増強する戦略は、限定ではないが、チャネルのPKAリン酸化を減少させること、PKAリン酸化されたチャネルからのFKBP12.6の解離を阻害すること、及びPKAリン酸化により容易にはほとんど解離されない薬剤によりFKBP12.6のチャネルへの結合を模倣することを含む。当業者は、RyR2受容体のPKAリン酸化を減少させる化学薬剤が雑多な機構により作用し得ることを認識するはずであり、とりわけ、PKA活性を阻害することか、又は内生ホスファターゼの活性を阻害すること(PP1とPP2AはRyR2マクロ分子複合体の中に存在することが示された;Marx et al.,2000)、又はcAMPを加水分解するホスホジエステラーゼの活性を増加させること(PDE4D3,cAMPを加水分解するが、RyR2マクロ分子複合体中に存在することが示された;Dodge et al.,2001)を含む。Ca2+の漏出は、Ca2+の輸送を、リン酸化されたRyR2を通して、チャネルに直接結合するか又はチャネルを通して優先的に輸送される化学薬剤により物理的に塞ぐことにより減少させてもよい。少なくとも一つの上記治療戦略の実行可能性は、CPVTの患者において不整脈を阻止するために(Leehardt et al.,1995)RyR2のPKAリン酸化を阻害する(Reiken et al.,2001)β−ARブロッカードラッグの使用により既に証明された。
【0176】
結論
一緒にすると、本実験の結果は、マウスにおけるFKBP12.6の欠損及びヒトのCPVT−関連の変異がチャネル機能における一時的な運動誘導性欠陥を引き起こすことを示しており、RyR2を通したCa2+の漏れが心臓不整脈を誘因し得ることを示唆する。不全心臓においてはRyR2がFKBP12.6を長期にわたり枯渇することを示す以前のデータセットを組み合わせると(実験セットI)、これらの発見は、FKBP12.6−/−マウス及び変異体RyR2によるCPVTにおいての心室不整脈の根底にある機構は心不全に共通に関連する心室不整脈を開始する機構に類似しているかもしれないことを示唆する。鍵となる相違は、FKBP12.6−欠損マウスからのチャネルとCPVT−関連RyR2のチャネルが一時的に運動中にPKA−リン酸化されたときに変更された活性を呈したにすぎないのに対して、不全心臓においては、変異をもたないRyR2チャネルは長期のPKA高リン酸化に基づいて、変更された機能を呈することである(Marx et al.,2000)。心不全における心室不整脈の根底にあるCa2+「漏出」の可能な分子機構の解明は、RyR2受容体を標的化する新規な治療上のアプローチのデザインを可能にさせた。
【0177】
実験セットIII
材料と方法
FKBP12.6のPKA−リン酸化されたRyR2に対するJTV−519の効果
イヌの心臓SR膜を前に記載されたとおりに調製した(Kaftan et al.,1996)。ライアノジン受容体(RyR2)をPKA触媒サブユニット(40U;シグマケミカル社、セントルイス、MO)により、PKA阻害剤PKI5−24の存在又は不在下で、リン酸化バッファー(8mM MgCl,10mM EGTA,及び50mM Tris/PIPES,pH6.8)中でリン酸化した。サンプルを100,000xgにて10分間遠心分離し、イミダゾールバッファー(10mMイミダゾール、pH7)中で3回洗浄した。組換え発現されたFKBP12.6(最終濃度250nM)を、異なる濃度のJTV−519の不在及び存在下で、サンプルに加えた。60分間のインキュベーション後に、サンプルを100,000xgにて10分間遠心分離し、イミダゾールバッファーにより2回洗浄した。サンプルを95度に加熱し、そしてSDS−PAGEを用いてサイズ分画した。SRミクロソームのイムノブロッティングを抗−FKBP12.6抗体(1:1,000)及び抗−RyR2−5029抗体(1:3,000)により実施した(Jayaraman et al.,1996)。
【0178】
結果
結果は、JTV−519がFKBP12.6をPKA−リン酸化されたRyR2に結合させ得ることを示した(100nMにおいて一部結合、1000nMにおいて全部結合)。
文献
【0179】
【表1】

【0180】
【表2】

【0181】
【表3】

【0182】
【表4】

【0183】
【表5】

【0184】
【表6】

【0185】
【表7】

【0186】
【表8】

【0187】
【表9】

【0188】
【表10】

【0189】
【表11】

【図面の簡単な説明】
【0190】
【図1】図1.RyR2のPKAリン酸化、マクロ分子シグナリング複合体.PKA(5ユニット)又は3,5’−サイクリックアデノシン5’−一リン酸(cAMP)(10μM)の添加により、RyR2をリン酸化した;PKA阻害剤PKI5−24(500nM)がリン酸化を阻害した。RyR2を免疫沈殿させて、インビトロキナーゼ反応に供した;等量のRyR2蛋白質をイムノブロッティングにより示すとおりに各反応において用いた。(B)RyR2チャネルを、Brillantesら(1984)により記載されたとおりに、[H]ライアノジンを使用して、蔗糖密度勾配上での遠心分離により単離した。[H]ライアノジン結合(白い四角)及び全蛋白質(黒い円)の両方をプロットした。RyR1沈降に関して以前に報告されたとおり、個々のRyR2チャネルは30S沈降において沈降し(矢印)、そして2つ又はそれより多い物理的に付着したRyR2沈降は高蔗糖フラクションにおいて沈降した(Marx et al.,1998)。(C)特異的抗体によるイムノブロッティング勾配フラクションは、FKBP12.6、PKA触媒サブユニット(PKA cat)、PKA制御サブユニット(RII)、高蛋白質ホスファターゼ2A(PP2A)、蛋白質ホスファターゼ1(PP1)、筋肉A−キナーゼアンカーリング蛋白質がRyR2を含む全てのフラクションにおいて検出されたが、カルシニューリン(CnA)は検出されなかったことを示した。(D)ミクロシスチン−セファロースビーズへ結合するRyR2を、フリーミクロシスチン−LRを用いて競合させた。サンプルを沈殿させ、SDS−PAGEにより分析して、抗−RyR抗体によりイムノブロッティングを行った。(E)RyR2複合体の成分(FKBP12.6,PKA,RII,PP2A,PP1,及びmAKAP)を心臓のSR(200μg蛋白質)により同時に免疫沈殿させた。RyR2複合体をミクロシスチン−セファロースを用いて沈降させ、当該複合体をフリーのミクロシスチン−LRとコンピートオフさせ、続いて、抗−RyR抗体(αRyR)で免疫沈殿させてイムノブロッティングを行った。陽性対照(+Cont.)は示されたとおり組換え蛋白質か又は精製された蛋白質であった;陰性対照(−Cont.)は各抗体のブロッキングペプチドであるか又は精製された蛋白質又は組換え蛋白質により予め吸着した抗体であった。全てのケースにおいて、示されたデータは3つより多い類似の実験の代表である。
【図2】図2.心不全の間のRyR2 PKAリン酸化.(A)示された組織から免疫沈殿されたRyR2蛋白質のPKA戻しリン酸化(back-phosphorylation)を上部の列に示す;中部の列は各反応において免疫沈殿したRyR2の量を示す;そして底部の列は各サンプルからのRyR2と同時免疫沈殿したPKAの量を示す。正常の不全ヒト心臓;ICM,虚血性心筋症の末期の不全ヒト心臓;IDCM,突発性膨張心筋症(idiopathic dilated cardiomyopathy)の末期の不全ヒト心臓;IDCM(−Dba)β−アドレナリンアゴニストDba(ドブタミン)により処置されていないヒト心臓からのサンプル;前−LVAD,左心室補助装置の挿入の間の末期の不全を伴うヒト心臓から採取された左心室サンプル;後−LVAD,LVAD処置後の同じヒト心臓からのサンプル;PKI,PKAリン酸化がPKIにより阻害されたことを示す代表的な陰性対照。(B)(A)にて示されたRyR2戻しリン酸化研究の定量.挿入図は、抗−ホスホセリンイムノブロッティングにより確認されたRyR2のPKA高リン酸化を示す:1)上部の列、RyR2イムノブロット(上部のレーン);2)底部の列、同じサンプルの抗体−ホスホセリンイムノブロッティング。レーン1、正常の非不全ヒト心臓;レーン2、不全ヒト心臓(ICM)。各条件に関して、3つの異なる心臓からの組織を用いた3つの実験の最低値が成し遂げられ、エラーバーは平均の標準偏差を表す。(C)PP1及びPP2Aは正常及び心不全においてRyR2と同時沈殿した。抗−RyR抗体による免疫沈殿後に、免疫沈殿物をサイズ分画し、そして抗−RyR2(上部パネル)、抗−PP1(中部パネル)、又は抗−PP2A抗体によりイムノブロッティングした。示されるデータは、3つの類似の実験の代表である。(D)RyR2と同時免疫沈殿するPP1とPP2Aの量をイムノブロットの比重定量により測定し、そして同時免疫したRyR2の量に関して標準化した。全ての心不全サンプルにおいて、ほとんどのPP1及びPP2AがRyR2と対合(associated)しなかった。示されるデータは、3つの類似の実験の代表である。
【図3】図3.RyR2上のシグナリング複合体結合部位のマッピング.(A)酵母の2−ハイブリッド相互作用スクリーンを用いて、RyR2中のFKBP12.6結合部位を同定した。左の棒グラフは、1)FKBP12.6/活性化ドメイン融合蛋白質のみ;2)RyR2(残基2361−2496)/DNA結合ドメインのみ;3)両者一緒により形質転換された酵母に関してのβ−ガラクトシダーゼ活性を示す。FKBP12.6とRyR2断片(残基2361−2496、Otsu et al.,1990)の間の相互作用は、増加したβ−ガラクトシダーゼ活性をもたらすGal−4転写を活性化する。当該棒グラフは、RyR2からFKBP12.6をコンピートオフするラパマイシンを示された濃度で処理されたFKBP12.6及びRyR2断片で形質転換されたラパマイシン耐性酵母に関しての標準化されたβ−ガラクトシダーゼ活性を示す。RyR2中のFKBP12/12.6結合部位は、イソロイシン2427とプロリン2428(矢印)により規定される。ボックス内に示されるのは、RyR1(配列番号:1)(Takeshima et al.,1989)、RyR2(配列番号:2)(Otsu et al.,1990)、IP3R1(配列番号:3)(Harnick et al.,1995),IP3R2(配列番号:4)(Yamamoto−Hino et al.,1994),及びTβRI(配列番号:5)(Franzen et al.,1993)内のFKBP12結合部位の配列である。(B)セファロースビーズに結合したグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)−RyR2融合蛋白質を、心臓SR(200μg蛋白質)とインキュベートし、沈殿させ、SDS−PAGEによりサイズ分画し、そして示された抗体とイムノブロットした。レーン1、陽性対照(組換え蛋白質);レーン2、セファロースビーズ(陰性対照);レーン3、GST(陰性対照);レーン4、GST−RyR2−1−334(アミノ酸残基1−334);レーン5、GST−RyR2−513−808;レーン6、GST−RyR2−1027−1304;レーン7、GST−RyR2−1251−1500;レーン8、GST−RyR2−1451−1768。(C)正常及び不全ヒト心臓におけるmAKAP及びRyR2の心臓SRへの同一局在化を示す免疫組織化学.バー:長い、1.5μm;短い、5μm。(D)野生型(WT)及び変異体(S2809A)PKA部位を含むGST−RyR2融合蛋白質を用いたインビトロキナーゼ反応.PKAリン酸化を[γ32P]−ATPにより、続いてSDS−PAGE上でのサイズ分画及びオートラジオグラフィーにより実施した。
【図4】図4.RyR2のPKAリン酸化はFKBP12.6結合を阻害する.(A)FKBP12.6を、心臓SRから、抗−RyR抗体、続いて抗−RyR(上部パネル)又は抗−FKBP(底部パネル)抗体の何れかによるイムノブロッティングにより同時免疫沈殿させた。示された免疫沈殿物をSDS−PAGEによるサイズ分画の前にPKAでリン酸化した。FKBP12.6のRyR2との同時免疫沈殿は、PKAリン酸化されたサンプルにおいて顕著に低下したが、Ca2+−カルモジュリンキナーゼ(CaMKII)又はプロテインキナーゼC(PKC)リン酸化されたRyR2サンプルにおいてはしなかった。[γ32P]−ATPを用いて評価したところによると、RyR2リン酸化は、PKA、CaMKII及びPKCに関して均等であった(データは示さず)。(B)示されたサンプルからのRyR2とのFKBP12.6同時免疫沈殿の量の定量.正常ヒト心臓;前−LVAD,左心室補助装置の挿入の間の末期の不全を伴うヒト心臓から採取された左心室サンプル;後−LVAD,LVAD処置後の同じヒト心臓からのサンプル;IDCM,突発性膨張心筋症(idiopathic dilated cardiomyopathy)の末期の不全ヒト心臓;正常の非不全イヌ心臓;イヌの早い拍動に誘導された心不全モデル。挿入図は、抗−RyR抗体を用いたRyR2とFKBP12.6の同時免疫沈殿の代表を示す:レーン1、正常の非不全ヒト心臓;レーン2、前−LVAD;レーン3、後−LVAD;レーン4、ヒトIDCM;レーン5、正常イヌ心臓;レーン6不全イヌ心臓。正常に比較して心不全の各々において、RyR2によるFKBP12.6同時免疫沈殿は顕著に低かった。示されるデータは、3つまたはそれより多い代表である。FKBP12.6の量を、各実験に関しての単一のイムノブロットに基づいて、特異的FKBP12.6の比重を用いて定量した。
【図5】図5.PKAリン酸化はRyR2を活性化してサブコンダクタンス状態を誘導する.(A)MgATP(2mM)、続くPKA(2ユニット)の添加の効果を示す時間の関数としてプロットされた単一のRyR2中チャネルの開確率(P)。(B)Aにおいて示された実験に相当する単一チャネルトレーシング。チャネルの開き(openings)は上方への方向であって、これらの条件下での完全な開チャネルに関しての電流の振幅(電流キャリアーとしてのBa2+)は約4pAであった。増加したP及び複数サブコンダクタンス状態がPKA処理の前と後のチャネルに関するトレーシングの右に示される。サブコンダクタンス状態は、1、2、又は3pAの電流の振幅を有し、FKBP12不在下でのチャネルのフルコンダクタンスの1/4,1/2及び3/4に相当する(Brillantes et al.,1994;Marx et al.,1998)。底部のトレーシングは、ワンハーフコンダクタンス状態においてPKAリン酸化されたRyR2チャネルをロックするライアノジン(1μM)によりRyR2チャネルの特徴的な修飾を示す。レコーディングは、脂質二層膜を横切る0mVポテンシャルにおいてであった;破線はチャネルの閉じた状態を示す。示されたデータは、2匹の異なるイヌから単離されたRyR2を含むSRマイクロソームを用いた4つの実験の代表である(各動物に関して2つの別々の単離物)。類似の結果が正常なヒト心臓から単離されたRyR2チャネルを用いて得られた。
【図6】図6.心不全筋肉内の欠陥RyR2チャネル及び収縮性.(A)正常なイヌの心臓(上部の3つのトレーシング);心不全のイヌ(底部の3つのトレーシング)からのRyR2の単一チャネルトレーシング.対応する振幅のヒストグラムは右側である。3つの各セットの底部のトレーシングは、1/2コンダクタンス状態にてチャネルをロックするライアノジン(1μM)によるRyR2チャネルの特徴的修飾を示す。レコーディングは0mVにおいてであった;破線はチャネルの閉じた状態を示す。類似の結果がヒト心不全から単離されたRyR2チャネルを用いて得られた(詳細はテキストを参照)。(B)イヌの心不全からのRyR2チャネルは、シス(cis)(細胞質)チャンバー(上部トレーシング)中の≦50nMの遊離Ca2+において一般には不活性であった正常心臓からのチャネルと比較して、Ca2+−依存性活性化に対する増加した感受性を呈した。心不全からのRyR2チャネルは、≦50nMの遊離Ca2+において2種類のCa2+−依存性活性化を呈した。心不全からのいくつかのチャネル(n=15)は、≦50nMの遊離Ca2+において低いP(第2のトレーシング)を伴って活性であった;その他(n=4)は≦50nMの遊離Ca2+において極めて活性であり、サブコンダクタンス状態において安定に開いたままであった(底部トレーシング)。類似の結果がヒト心不全から単離されたRyR2のチャネルを用いて得られた。(C)イソプロテレノール(4μM)への暴露の間のヒトの左心室柱からの連続した力によるトレーシング(continuous force tracings)。正常な心臓サンプルは、イソプロテレノール後の力において3倍を超える増加を示した。鬱血性心不全(CHF)の患者からの筋肉は、移植前にβ−アゴニストを受けた患者において応答無しであるか、又は移植前にβ−アゴニストを受けなかった患者において鈍い応答(約2倍増加)を示した。外科手術の前にβ−アゴニストを受けたLVADレシピエントの頂点コア組織から得た筋肉は、イソプロテレノールに対してほとんど応答を示さなかった。しかしながら、同じ患者からLVADサポートの48時間後に得られた筋肉は、イソプロテレノールに対する応答において5倍より高い増加を示す(n=3,p<0.01)。
【図7】図7.心臓中のPKAリン酸化の効果のモデル.非不全心臓(左のパネル)において、β−アゴニストは、ヘテロトリマーG−プロテイン(Gprot)にカップリングさせた受容体(β1及びβ2アドレナリン受容体、ARs)に結合し、今度は、アデニリルシクラーゼ(AC)を活性化してサイクリックAMP(cAMP)レベルを上昇させ、そしてPKAを活性化する。このモデルにおいては、RyR2のPKAリン酸化が活性化に関するCa2+−依存性を左にシフトさせるチャネルからの一つのFKBP12.6の解離を誘導し、T−細管(ジヒドロピリジン受容体、DHPR)内の電位差で関門開閉されたカルシウムチャネルによるCa2+−流入による活性化に対するRyR2の感受性を増加させ、そしてRyR2チャネル開確率を増加させる。結果は、増加したSR Ca2+放出及び心臓収縮性である。テトラマーRyR2チャネルはマクロ分子シグナリング複合体の一部であり、RyR2,FKBP12.6,PKA,プロテインホスファターゼPP1及びPP2A,及びアンカーリング蛋白質mAKAPの各4分子を含む(マクロ分子複合体のPKA,PP1,PP2A,mAKAP成分を4つのRyR2サブユニットのたった一つのみに関して示す)。Ca2+のSRへの再取込みは、SR Ca2+−ATPase(SERCA)及びその関連する制御性蛋白質ホスホランバン(PLB)を通して起こる。
【0191】
心不全においては(右のパネル)、RyR2のPKA高リン酸化が心不全筋肉において観察されるβ−アゴニストに対する鈍い応答に寄与するかもしれないのは、当該チャネルがさらにPKAリン酸化され得ないからである。心不全におけるRyR2チャネルは、それらがサイトゾルのCa2+の休止レベルにおいて活性化されるように、活性化に関してCa2+−依存性におけるシフトを呈する。
【図8】図8.FKBP12.6けそマウスの生成.(A)マウスFKBP12.6遺伝子(上部)、標的化遺伝子(中部)、及び相同性組換え変異対立遺伝子(底部)の制限マップ。エクソン3及び4を含む3.5キロベース(kb)のSpeI−SacIセグメントをネオマイシン耐性(neo)発現カセットで置き換えた。チミジンキナーゼ(tk)カセットを、ネガティブ選択のために3’末端に連結した。(B)FKBP12.6対立遺伝子に関してのマウスヘテロ接合性(+/−)又はホモ接合性(−/−)、及び野生型マウス(+/+)の尾部から抽出されたDNAのサザンブロット分析。DNAをNglIIにより消化し、そして5’プローブ(パネルAに示す)にハイブリダイズさせることにより、野生型(+/+)及びFKBP12.6−欠損(−/−)マウスに関してそれぞれ8.5kb及び7.7kbのバンドを生じた。(C)FKBP12.6(+/+)及び(−/−)マウスからの心臓ホモジェネートのFKBP12/12.6イムノブロット。
【図9】図9.FKBP12.6−欠損マウスにおける運動誘導性胎児心室不整脈及び遅延した後脱分極.(B)FKBP12.6−/−マウスに対する(A)知覚のあるFKBP12.6+/+マウスのECGsを比較するが、顕著な異常性はなかった。(C)運動及びエピネフィリン後のFKBP12.6−/−マウスのECG。精力的な運動及びエピネフィリン注射(トレースの約8分前)は、FKBP12.6−/−マウスにおいて多形性心室性頻脈を誘導し、このトレースの記録の4分後に死んだ。このストレス試験はオス(n=3)及びメス(n=5)のFKBP12.6−/−マウスの8/8(100%)において心室不整脈をもたらしたのに対して、FKBP12.6+/+マウスでは0/6(0%)であった。作用ポテンシャルは、(D)FKBP12.6+/+マウス(n=19)及び(E)FKBP12.6−/−マウス(n=38)の心筋において早いペーシングの間に記録された。作用ポテンシャルは電流クランプモードにおいて12Hzにて簡単な電流注射(brief current injection)により刺激されたパッチクランプされた単一の心筋内で生じた。パネル(D)及び(E)の底部の上方の矢印は、誘導された作用ポテンシャルのタイミングを示す。(E)に示されるもののような後脱分極(after-depolarization)が、4匹のFKBP12.6−/−マウスからのFKBP12.6−/−心筋(n=6)において観察された。下方への矢印は、遅延した後分極(DAD)を示し、FKBP12.6−/−心筋において期外収縮を生じた。
【図10】図10.運動中のFKBP12.6欠損マウスからのRyR2の増加した開確率を示す単一チャネル研究.(A)FKBP12.6+/+マウス及びFKBP12.6−/−マウスからのRyR2のPKAリン酸化が運動中に増加した。「材料と方法」に記載されるとおりにマウスを運動させ、そして運動終了後に心臓を素早く取り出して急速凍結した。RyR2を心臓のホモジェネートから免疫沈殿させ、そしてRyR2のPKAリン酸化を、RyR2−Ser2809にてPKA−リン酸化されたRyR2を特異的に認識するホスホエピトープ−特異的抗体(抗−RyR2−P2809)を用いて評価した。RyR2のカルボキシ末端を認識する抗体である、RyR2の抗−RyR2−5029(Jayaraman et al.,1992)によるイムノブロットを使用することにより、等量のRyR2蛋白質が各サンプルにおいて試験されたことを示した。(B)運動後にRyR2に結合したFKBP12.6の量はFKBP12.6+/+マウスにおいて低下した(チャネルからFKBP12.6を解離させるRyR2のPKAリン酸化のため)。FKBP12.6−/−マウス中では、RyR2マクロ分子複合体中にFKBP12.6は検出されなかった。(C)−(F)運動後のFKBP12.6+/+に比較したFKBP12.6−/−マウスからのRyR2の増加した開確率を示す単一チャネル研究。各条件に関して、チャネルの開きは上方であり、破線は完全な開きのレベルを示し(4pA)、そして「c」は閉じた状態を示す。チャネルは、圧縮され(5秒、上部トレーシング)そして伸長された(500ms,底部トレーシング)時間スケールにて示される;記録は0mVにおいてであった。FKBP12.6+/+及びFKBP12.6−/−チャネルの振幅のヒストグラムは増加した活性を証明し、そして運動したFKBP12.6+/+チャネルにおいて部分的又はサブコンダクタンスの開きを証明した。(G)対照及び運動したFKBP12.6+/+マウス及びFKBP12.6−/−マウスの開確率(P)の要約は、心臓内で拡張期を刺激する条件下(低い細胞質[Ca2+]=150nM)で、運動後のFKBP12.6−/−マウスにおける増加したPを明らかにした。
【図11】図11.運動誘導性の心臓性急死にリンクしたRyR2変異はFKBP12.6親和性を減少させてPKAリン酸化によるRyR2活性化を増加させる.(A)CPVT−関連性RyR2変異の位置決定。RyR2内の公知のCPVT変異を垂直線により示す;この出願において分析された3つのCPVT変異を太い垂直線で示し、そして相当するアミノ酸置換により区別する。「FKBP12.6」結合部位をRyR2上に示す;「S2809」はRyR2上のPKAリン酸化部位である。悪性高熱(MH)及びセントラルコア病(CCD)にリンクした骨格筋RyR1変異のクラスターを含む3つの領域を太いグレーの線で示す。CPVT及びMH/CCD変異はそれぞれRyR2とRyR1の高度に相同な領域内に起こることから、SR Ca2+放出における共通の欠陥が、これらの障害において役割を担うかもしれないことを示唆する。(B)CPVT−変異RyR2チャネルは運動を刺激する条件下のみにおいて変更されたチャネル活性を呈する。PKAプラスPKA阻害剤PKI5−24で処理されたHEK293細胞内で発現されたWT及びCPVT−変異RyR2の単一チャネルレコーディング。RyR2−WT及びCPVT−関連変異チャネルは、150nMのシス(cis)(細胞質)[Ca2+]を伴う基底条件下では低い活性を呈する。PKAリン酸化されたCPVT−変異RyR2は、RyR2−WTチャネルに比較して、増加した活性を呈する。少なくとも2つの別々の調製物からの最少の5チャネルをRyR2−WTに関して記録し、そして示された各条件に関して変異RyR2チャネルを記録した。(C)PKAリン酸化後のRyR2−WT及びCPVT−関連変異RyR2の平均開確率(P);*はP<0.05を示す。(D)RyR2−WT及びCPVT−関連変異RyR2チャネルを含むミクロソームに結合する35S−標識されたFKBP12.6はCPVT−関連変異RyR2チャネルに関しての低下したFKBP12.6親和性を示す。(E)RyR2−WT及びCPVT−関連変異体RyR2(RyR2−R2474S)の一つをホモ−又はヘテロテトラマーチャネルとして表した。RyR2−WT,RyR2−R2474S,及びヘテロテトラマーWT x R2474Sチャネルの代表的単一チャネルトレースを示し、PKAリン酸化後のWT x R2474Sチャネルの増加した活性を示す。(F)RyR2−WT,WT x R2474S,及びRyR2−R2474Sチャネルに関する平均開確率を要約する棒グラフ;*はP<0.05を示す。
【図12】図12.変異FKBP12.6−D37Sは正常な単一チャネル機能を運動したFKBP12.6−/−マウスからのチャネル及びPKA−リン酸化されたCPVT−変異チャネルに戻す.(A)等量のマウス心臓SR(CSR)から免疫沈殿させたRyR2、及びHEK293細胞内で発現させた組換えRyR2−S2809Dの、RyRのカルボキシ末端を認識する抗−RyR−5029抗体を用いたイムノブロット(Jayaraman et al.,1992).PKAリン酸化後のRyR2からのFKBP12.6の解離を示すFKBP12.6のイムノブロット。野生型FKBP12.6はPKA−リン酸化されたRyR2に結合しない。変異体FKBP12.6−D37SはPKA−リン酸化されたRyR2チャネルに結合した。RyR2−S2809Dはリン酸化されたRyR2チャネルを構成的に模倣し、よって、FKBP12.6を結合しない。(B)FKBP12.6(上部)及び変異FKBP12.6−D37S(底部)により処理されたRyR2−S2809Dチャネルの単一チャネルトレーシングは、PKA−リン酸化されたRyR2チャネルに類似して、RyR2−S2809Dチャネルの増加した開確率を示す(Marx et al.,2000)。FKBP12.6−D37SのRyR2−S2809Dチャネルへの結合は、正常なチャネル関門開閉を救済し、そして開確率を低下させた(底部)。対応する振幅のヒストグラムを右に示すが、FKBP12.6−処理されたチャネル中の部分的な開き又はサブコンダクタンス状態の存在を示し、FKBP12.6−D37S存在下では示さない。(C)運動したオス(M)及びメス(F)のFKBP12.6−/−マウスからのCSRのRyR2及びFKBP12.6のイムノブロット。野生型FKBP12.6は、運動したFKBP12.6−/−マウスマウスの心臓から単離されたRyR2は結合しないが、FKBP12.6−D37Sは結合する。(D)FKBP12.6−/−心臓から単離されたRyR2チャネルの単一チャネルトレーシングは、高い開確率及びサブコンダクタンス状態を示す(右のヒストグラムを参照)。FKBP12.6D37Sの結合はチャネル表現型を完全に救済する;開確率は劇的に低下し、そしてサブコンダクタンス開きは観察されなかった。(E)HEK293細胞内で発現された組換えRyR2−R2474Sのイムノブロット。FKBP12.6−D37Sは、PKA−リン酸化された、CSR−関連変異体RyR2−R2474Sチャネルにも結合する。(F)PKAリン酸化後のCSR−関連変異体RyR2−R2474Sチャネルの単一チャネルトレーシングは、高開確率及びサブコンダクタンス状態の存在を示す(振幅のヒストグラムを参照)。FKBP12.6−D37Sの結合は、チャネル関門開閉及び開確率を完全に標準化した。各トレーシングに関して、チャネル開きは上方に向かい、破線は完全な開きのレベル(4pA)を示し、そして「c」は閉じた状態を示す。チャネルは、圧縮され(5秒、上部トレーシング)そして伸長された(500ms,底部トレーシング)時間スケールにて示される;記録は0mVにおいてであった。
【図13】図13.心臓不整脈を誘因する遅延した後脱分極をSR Ca2+漏出が開始するかもしれない機構のモデル.心筋中の興奮性収縮(EC)カップリングの間、筋小胞体(SR)上の心臓のライアノジン受容体(RyR2)を、横断管(T−管)上の電位差−関門開閉カルシウムチャネル(VGCC)を通してCa2+の流入により活性化する。交感神経系のストレス/運動により誘導された活性化に応答して、RyR2はPKA−リン酸化され、チャネルからのFKBP12.6の解離を引き起こし、そしてその開確率を増加させる。これは、正常な物理的ストレス応答の一部である(例えば、「闘争又は逃避」)。正常な心臓においては、生理学上PKA−リン酸化されたときでさえ、心筋が弛緩して次の収縮のために(心収縮期)血液を再度満たし得る心拡張期の間、野生型RyR2がきつく閉じたままであり得る。これは、心臓不整脈を誘因し得る遅延した後脱分極を開始し得る心拡張期の間の、SR Ca2+の漏出を防ぐのに必要である(Fozzard,1992;Wit and Rosen,1983)。CSR−関連RyR2変異体チャネルの場合、それらがPKA−リン酸化されているとき(FKBP12.6の結合親和性の低下のため)に、チャネルの増加した活性(増加した開確率)が、内部脱分極電流により、おそらくはナトリウム/カルシウム交換体のためにDADsを活性化し得る心拡張期の間の異常なSR Ca2+漏出の確率を増加させ、心臓不整脈を誘因する(Pogwizd et al.,1998)。類似の機構は、構造上は正常なRyR2がPKA−リン酸化されて欠陥チャネル機能をもたらす心不全における心臓不整脈を経るかもしれず(Marx et al.,2000)、不整脈を誘因し得るSR Ca2+漏出を促進するかもしれない(Pogwizd et al.,2001)。ナトリウム/カルシウム交換体による内部脱分極電流の活性化により誘因された心臓不整脈の起こる可能性は、上記交換体のアップ制御により心不全内でさらに増強される(Pogwizd et al.,2001)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療する方法であって、当該被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む方法。
【請求項2】
RyR2受容体のPKAリン酸化がRyR2受容体のからのFKBP12.6結合蛋白質の解離を誘導する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
心房の不整頻搏が心房細動又は心室より上の不整頻搏である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療する方法であって、被験者に、被験者の心臓のタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6結合蛋白質の結合を模倣する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む方法。
【請求項5】
心房の不整頻搏が心房細動又は心室より上の不整頻搏である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
薬剤がJTV−519である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療する方法であて、被験者に、被験者の心臓のタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6結合蛋白質の結合を模倣する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む方法。
【請求項8】
心房の不整頻搏が心房細動又は心室より上の不整頻搏である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
製造物品であって、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む物品。
【請求項10】
製造物品であって、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6の解離を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品。
【請求項11】
薬剤がJTV−519である、請求項10記載の製造物品。
【請求項12】
製造物品であて、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6の結合を模倣する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)心房の不整頻搏に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品。
【請求項13】
被験者において心房の不整頻搏の発病(onset)を阻害する方法であって、当該被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤を予防上有効な量にて投与し、それにより被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することを含む方法。
【請求項14】
RyR2受容体のPKAリン酸化がRyR2受容体のからのFKBP12.6結合蛋白質の解離を誘導する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
心房の不整頻搏が心房細動又は心室より上の不整頻搏である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
被験者において心房の不整頻搏の発病を阻害する方法であて、被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を阻害する薬剤を予防上有効な量にて投与し、それにより被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することを含む方法。
【請求項17】
心房の不整頻搏が心房細動又は心室より上の不整頻搏である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
薬剤がJTV−519である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
被験者において心房の不整頻搏の発病を阻害する方法であって、被験者に、被験者の心臓のタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6結合蛋白質の結合を模倣する薬剤を予防上有効な量にて投与し、それにより被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することを含む方法。
【請求項20】
心房の不整頻搏が心房細動又は心室より上の不整頻搏である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
製造物品であって、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品。
【請求項22】
製造物品であって、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6の解離を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品。
【請求項23】
薬剤がJTV−519である、請求項22記載の製造物品。
【請求項24】
製造物品であって、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6の結合を模倣する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者の心房の不整頻搏の発病を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品。
【請求項25】
運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療する方法であって、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む方法。
【請求項26】
RyR2受容体のPKAリン酸化がRyR2受容体のからのFKBP12.6結合蛋白質の解離を誘導する、請求項25記載の方法。
【請求項27】
心房の不整頻搏が心房細動又は心室より上の不整頻搏である、請求項25記載の方法。
【請求項28】
被験者がカテコールアミン性の多形性心室性頻脈(CPVT)に罹患している、請求項27記載の方法。
【請求項29】
運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療する方法であって、被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む方法。
【請求項30】
心房の不整頻搏が心房細動又は心室より上の不整頻搏である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
被験者がカテコールアミン性の多形性心室性頻脈(CPVT)に罹患している、請求項30記載の方法。
【請求項32】
薬剤がJTV−519である、請求項29記載の方法。
【請求項33】
運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療する方法であって、被験者に、被験者の心臓のタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6結合蛋白質の結合を模倣する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者を治療することを含む方法。
【請求項34】
心房の不整頻搏が心房細動又は心室より上の不整頻搏である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
被験者がカテコールアミン性の多形性心室性頻脈(CPVT)に罹患している、請求項34記載の方法。
【請求項36】
製造物品であって、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む製造物品。
【請求項37】
製造物品であって、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6の解離を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品。
【請求項38】
薬剤がJTV−519である、請求項37記載の製造物品。
【請求項39】
製造物品であって、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6の結合を模倣する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈に苦しめられる被験者を治療することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品。
【請求項40】
運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害する方法であって、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することを含む方法。
【請求項41】
RyR2受容体のPKAリン酸化がRyR2受容体のからのFKBP12.6結合蛋白質の解離を誘導する、請求項40記載の方法。
【請求項42】
心房の不整頻搏が心房細動又は心室より上の不整頻搏である、請求項40記載の方法。
【請求項43】
被験者がカテコールアミン性の多形性心室性頻脈(CPVT)に罹患している、請求項42記載の方法。
【請求項44】
運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害する方法であって、被験者に、被験者の心臓においてタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6結合蛋白質の解離を阻害する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することを含む方法。
【請求項45】
心房の不整頻搏が心房細動又は心室より上の不整頻搏である、請求項44記載の方法。
【請求項46】
被験者がカテコールアミン性の多形性心室性頻脈(CPVT)に罹患している、請求項45記載の方法。
【請求項47】
薬剤がJTV−519である、請求項44記載の方法。
【請求項48】
運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害する方法であって、被験者に、被験者の心臓のタイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6結合蛋白質の結合を模倣する薬剤を治療上有効な量にて投与し、それにより被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することを含む方法。
【請求項49】
心房の不整頻搏が心房細動又は心室より上の不整頻搏である、請求項48記載の方法。
【請求項50】
被験者がカテコールアミン性の多形性心室性頻脈(CPVT)に罹患している、請求項49記載の方法。
【請求項51】
製造物品であって、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)のプロテインキナーゼA(PKA)高リン酸化を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品。
【請求項52】
製造物品であって、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)からのFKBP12.6の解離を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品。
【請求項53】
薬剤がJTV−519である、請求項52記載の製造物品。
【請求項54】
製造物品であって、(i)タイプ2のライアノジン受容体(RyR2)へのFKBP12.6の結合を模倣する薬剤をその中に有するパッケージング材料及び(ii)被験者において運動により誘導されたか又はストレスにより誘導された心臓不整脈の発病を阻害することにおける薬剤の使用を示唆するラベルを含む、製造物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2007−524631(P2007−524631A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517678(P2006−517678)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/020474
【国際公開番号】WO2005/002518
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(505019998)トラスティーズ・オブ・コロンビア・ユニバーシティ・イン・ザ・シティ・オブ・ニューヨーク (7)
【Fターム(参考)】