説明

応答器

【課題】応答信号強度の低下を抑止しつつ2種類以上の応答信号を生成させる。
【解決手段】質問器200からユーザの所在を問合せる無線信号が発信された時に、応答器100のスイッチをオフ状態にすると、応答器は第1の応答無線信号xをその発信元の質問器に返信する。一方、応答器のスイッチをオン状態にすると、応答器は第2の応答無線信号yをその発信元の質問器に返信する。すなわち、この応答器は、スイッチのオン/オフに応じて、バッテリレスで2種類の応答無線信号を切り替えて返信することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応答信号を返信する応答器に関する。
【背景技術】
【0002】
質問器から電磁波などの問合せ信号が送信されると、自身のIDを示す応答信号をバッテリレスで生成し、質問器に返信する応答器がある。この応答器は、特に移動体装置などに備えられ、通信対象である移動体装置を非接触で識別するシステムなどに利用されている。例えば、特許文献1に記載された応答器は、電磁波が送信されるとこの電磁波を単一パルスに変換し、その単一パルスを順次遅延させて特有のパルス列を生成し、応答信号として返信するようになっている。また、特許文献2、特許文献3、特許文献4、及び非特許文献1に記載された応答器は、無線信号が送信されると圧電基板に弾性表面波を発生させ、その弾性表面波が圧電基板上に設けられた各々の反射器に反射して戻ってきた伝搬時間の差により特有の応答信号を生成し、返信するようになっている。
【特許文献1】特開平07−174845号公報
【特許文献2】特表平09−508974号公報
【特許文献3】特開2004−191334号公報
【特許文献4】特表平07−502613号公報
【非特許文献1】Programmable Reflectors for SAW-ID-Tags(1993 ULTRASONICS SYMPOSIUM) p125-130
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、この種の応答器によって複数のIDを示す応答信号を生成するには、最低でも2つ以上の反射器が必要になる。例えば、特許文献2では、一連の反射器に加えて大きな反射器を備えることにより、IDを示す応答信号と存在確認用の応答信号とを生成している。
【0004】
図15は、媒体60上に2つの反射器50p及び50qを直列に配置した応答器100の構成を示す図である。この応答器100は、媒体60、反射器50p及び50qの他に、アンテナ10、弾性表面波素子40などを備える。図示せぬ質問器200から問合せ無線信号が送信されると、アンテナ10はその問合せ無線信号から得られる電気信号S1を弾性表面波素子40に供給する。アンテナ10から電気信号S1が供給されると、弾性表面波素子40は弾性表面波を励起させ、励起された弾性表面波素子40は媒体60により伝搬される。この弾性表面波が弾性表面波素子40から距離aだけ離れた反射器50pに到達すると、反射器50pは到達した弾性表面波の成分の一部を透過させて残りの成分を伝搬元へ反射させるようになっている。続いて、反射器50pにより透過された弾性表面波の成分が弾性表面波素子40から距離bだけ離れた反射器50qに到達すると、反射器50qは、反射器50pと同様に、到達した弾性表面波の成分の一部を透過させて残りの成分を伝搬元へ反射させる。
【0005】
弾性表面波素子40は、自らが励起した弾性表面波が反射器50p及び50qを経由して戻ってきた時に、その弾性表面波の大きさに応じた電気信号を発生してアンテナ10へ供給する。アンテナ10は、その電気信号を応答無線信号として発信する。弾性表面波素子40に問合せ無線信号の電気信号S1が供給されてから、第1の応答無線信号の電気信号S2が発生されるまでの時間長は、図16に示すように、弾性表面波素子40と反射器50pとの間の距離aの2倍の距離2aと搬送波の速度の積により求まる時間長となり、第2の応答無線信号の電気信号S3が発生されるまでの時間長は、弾性表面波素子40と反射器50qとの間の距離bの2倍の距離2bと搬送波の速度の積により求まる時間長となる。しかしながら、図15に示す構成では、反射器50pと反射器50qとが弾性表面波の伝搬方向に対して直列に配置されているため、反射器50qにより反射される弾性表面波は、反射器50pにより反射される弾性表面波に比べて小さくなる。これにより、第2の応答無線信号S3の強度は、第1の応答無線信号S2の強度よりも小さくなってしまうという問題があった。
【0006】
この問題は、反射器の数が多くなるほど、顕著になる。以下の数1は、反射器の数と最後段に配置された反射器により透過された弾性表面波(以下、「出力側透過波」と記す)電力との関係を示す式である。
【数1】

B=出力側透過波電力
P=反射器に到達する弾性表面波の電力
R=反射率
n=反射器の段数
上記数1によれば、反射器の数が多くなるほど、出力側透過波電力は小さくなることがわかる。
【0007】
また、以下の数2は、反射器の数と各反射器に反射されて弾性表面波素子に戻ってくる弾性表面波の合計電力(以下、「入力側反射波」と記す)との関係を示す式である。
【数2】

C=入力側反射電力
P=反射器に到達する弾性表面波の電力
R=反射率
n=反射器の段数
上記数2によれば、反射器の数が多くなるほど、入力側反射波電力は大きくなることがわかる。
【0008】
図17は、発明者らが実験にて求めた反射器の数nと反射率、及び反射器の数nと透過率との各々の関係を示す図である。反射率は、弾性表面波素子が励起させた弾性表面波の電力の内、入力側反射波電力の割合を示すものであり、透過率は、弾性表面波素子が励起させた弾性表面波の電力の内、出力側透過波電力の割合を示すものである。図17に示す内容によれば、透過率は、反射器の数が多くなるほど低くなる。一方、反射率は、反射器の数が多くなるほど高くなっていく。しかし、反射率は、n>200になると、その勾配が徐々に緩やかになっていく。これは、多数の反射器が設けられた場合、反射器の配置位置が後段になる程、前段の反射器に比べて反射される弾性表面波電力が減衰し、それに伴い応答信号が弱くなることを示す。
【0009】
この応答信号が弱くなることを回避するために、多数の反射器を設ける際は、それらの反射器を弾性表面波の伝搬方向に対して直列ではなく、並列に配置する方法も取り得るが、その場合は、同程度の信号を得ようとすると、これらの反射器が配置される媒体は必然的に大きくなり、応答器の小型化の要望に反する結果を招いてしまう。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、応答信号強度の低下を抑止しつつ2種類以上のIDの応答信号を生成することができる応答器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の好適な態様である応答器は、弾性表面波を伝搬する媒体と、無線信号と電気信号を相互変換するアンテナと、前記アンテナと第1の電線により繋がれ、その第1の電線を介して電気信号の供給を受けた時に弾性表面波を励起させて前記媒体上を伝搬させるべく当該媒体に設置された素子であって、当該媒体上を自らに向かって伝搬されてくる弾性表面波が自らに到達した時に前記第1の電線を介して前記アンテナへ電気信号を供給すると共に当該到達した弾性表面波の一部を反射させる第1の弾性表面波素子と、前記第1の弾性表面波素子と第2の電線により繋がれ、その第2の電線を介して電気信号の供給を受けた時に弾性表面波を励起させて前記媒体上を伝搬させるべく当該媒体に設置された素子であって、当該媒体上を自らに向かって伝搬されてくる弾性表面波が自らに到達した時に前記第2の電線を介して前記アンテナへ電気信号を供給すると共に当該到達した弾性表面波の一部を反射させる一又は複数の第2の弾性表面波素子と、前記第2の電線の結線の有無を切り替えるスイッチとを備える。
この態様において、前記アンテナと前記第1の弾性表面波素子との間のインピーダンスを整合させる整合回路を前記アンテナと第1の弾性表面波素子の間に介挿させてもよい。このような形態も、本願に含むものとする。
【0011】
これらの態様において、前記複数の弾性表面波素子の各々は、バスバーに複数の電極子の一端を連結させてなる櫛形電極であり、それらの電極指が平行になるように前記媒体上に並べられていてもよい。
また、前記弾性表面波を吸収減衰する部材を前記弾性表面波素子と前記媒体の端辺の間に備え付けてもよい。
さらに、前記媒体の端辺の一部又は全部と前記電極指が平行にならないように前記複数の弾性表面波素子が並べられてもよい。
【0012】
これらの態様において、前記弾性表面波素子から前記媒体を伝搬されてくる弾性表面波が自身に到達した時に、到達した弾性表面波の一部を反射させる反射器を更に備えてもよい。
また、前記反射器は、開放型の電極であってもよいし、前記反射器は、短絡型の電極であってもよい。さらに、前記反射器は、櫛形電極であってもよいし、前記反射器は、PN構造の電極であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、応答信号強度の低下を抑止しつつ2種類以上の応答信号を生成させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<実施形態>
まず、本発明の本実施形態にかかる信号応答システムの特徴について図1を参照して概説しておく。図に示すように、このシステムは、室内に備え付けた質問器200と、その室内に入室する各ユーザにそれぞれ携帯させる複数の応答器100とからなる。質問器200は、ユーザの所在を問合せる無線信号(以下、「問合せ無線信号」と呼ぶ)を室内に向けて所定時間長毎に発信し、その問合せ無線信号に応じて各ユーザの応答器100から返信されてくる無線信号(以下、「応答無線信号」と呼ぶ)の応答態様、具体的には、応答無線信号の返信に要した時間長を解析することにより、応答無線信号の発信元の応答器100に割り当ててあるIDを識別する。そして、各応答器100は、問合せ無線信号から各々に固有の応答無線信号を生成するための素子である弾性表面波素子に加えてスイッチを搭載しており、弾性表面波素子の作用を受けて生成する応答無線信号の応答態様をスイッチのオン/オフに応じて切り替え可能とする。
【0015】
このように、応答器100からバッテリレスでしかも2種類の応答無線信号を切り替えて返信できるようなシステムを構築した場合、その用途は多岐に渡ることが期待される。例えば、スイッチをオフ状態にして返信される第1の応答無線信号xによりその発信元の質問器200を携帯するユーザの入室自体を検出した後、オン状態にして返信される第2の応答無線信号yにより、入室したユーザからのある特定メッセージ(室内照明の点灯指示)を検出する如くである。
以下、このシステムの中核をなす機器である応答器100の特徴的な構成について説明する。
【0016】
(応答器100の構成)
応答器100の構成について説明する。図2はスイッチオフ状態の応答器100の構成を、図3はスイッチオン状態の応答器100の構成をそれぞれ示している。なお、スイッチをオンにした場合、実際はアンテナからの信号が弾性表面波素子40qにも伝搬されるため、弾性表面波素子40qから出射され弾性表面波素子40pで反射する弾性表面波もあるが、ここでは図が煩雑になるのを避けるため、便宜上弾性表面波素子40pからアンテナに返される弾性表面波のみを記載する。発明の説明においても、一方の弾性表面波素子からアンテナに返される弾性表面波に焦点をしぼって説明する。
両図に示すように、応答器100は、弾性表面波を伝搬する媒体60の上に、アンテナ10と、スイッチ20と、2つの弾性表面波素子40p及び40qと、整合回路30p及び30qとを配設してなる。なお、特に区別の必要がない場合は、弾性表面波素子40p、40qを総称して「弾性表面波素子40」と記し、整合回路30p及び30qを総称して「整合回路30」と記す。なお、図において矢印は弾性表面波の動きを概略的に示したものである。
【0017】
これら各部について説明する。媒体60は、弾性表面波(SAW:surface acoustic wave)を励起、伝搬可能な材質よりなる圧電基板である。また、この媒体60上を伝搬する弾性表面波は、媒体60の表面に沿って伝搬される性質を持つ。
アンテナ10は、無線信号と電気信号を相互変換する。具体的に説明すると、このアンテナ10は、質問器200から受信した問合せ無線信号を電気信号に変換し、電線を介して自器内に導く。また、自器内で発生された電気信号を応答無線信号に変換して発信する。
スイッチ20は、アンテナ10から整合回路30p及び30qの各々へ繋がる電線のうち、整合回路30qへと繋がる電線の結線の有無を切り替える。つまり、このスイッチ20がオフとなっている間は、アンテナ10と整合回路30pのみとの結線が確保される一方、スイッチ20がオンとなると、アンテナ10と整合回路30p及び30qの両者との結線が確保されることになる。
【0018】
弾性表面波素子40p及び40qは、電気信号の供給を受けた時に弾性表面波を励起させて媒体60を伝搬させるべくその媒体60上に並べられた2つの櫛形電極である。具体的に説明すると、これらの弾性表面波40p及び40qの各々は、バスバー11の両端に2つの電極指13及び14の一端をそれぞれ連結させてなる第1の電極と、別のバスバー12の略中央に1つの電極指15の一端を連結させてなる第2の電極とを組み合わせてなる。そして、両弾性表面波素子40は、互いの電極指13〜15同士が平行に並ぶようにaの距離を開けて配置されており、自身と対抗するもう一方の素子から媒体60を伝搬されてくる弾性表面波が自身に到達した時に電気信号を発生すると共に、到達した弾性表面波の成分の一部を透過させて残りの成分を伝搬元へ反射させるようになっている。
整合回路30p及び30qは、アンテナ10から両弾性表面波素子40の各々へ供給される電気信号の周波数を弾性表面波素子40の共振周波数に近づけるべく、アンテナ10と両弾性表面波素子40の間に介挿された定インピーダンス回路である。
【0019】
(応答器100の作用)
応答器100の作用について、スイッチ20がオフであるときの作用から順を追って説明する。上述したように、スイッチ20がオフである間は、アンテナ10から整合回路30qへ繋がる電線は結線されていないので、アンテナ10が問合せ無線信号から得た電気信号S1は整合回路30pを経由して弾性表面波素子40pのみに供給される。電気信号S1の供給を受けた弾性表面波素子40pは媒体60に弾性表面波を励起し、励起された弾性表面波は媒体60上をその伝搬特性に依存した一定の速度で伝搬していく。そして、この弾性表面波は、弾性表面波素子40pから距離aだけ離れた弾性表面波素子40qへ到達する。弾性表面波素子40qへの到達に要する時間長は、距離aと搬送波の速度の積により求まる時間長である。
【0020】
弾性表面波素子40qは自身に到達した弾性表面波の成分の一部を透過させる一方、残りの成分を弾性表面波素子40pに向かって反射させる。すると、今度は、反射された弾性表面波が、弾性表面波素子40qから距離aだけ離れた弾性表面波素子40pへ到達する。弾性表面波素子40pは、自らが励起した弾性表面波が弾性表面波素子40qを経由して戻ってきた時に電気信号S2を発生してアンテナ10へ供給し、アンテナ10はその電気信号S2を応答無線信号として発信するのである。ここで、弾性表面波素子40pに問合せ無線信号の電気信号S1が供給されてから、応答無線信号の電気信号S2が発生されるまでの時間長は、図4に示すように、両弾性表面波素子40p及び40qの間の弾性表面波の往復に要する時間長、つまり、弾性表面波素子40pと40qの間の距離aの2倍の距離2aと搬送波の速度の積により求まる時間長である。
【0021】
よって、弾性表面波素子40pと40qの間の距離aを異にする各応答器100を各ユーザにそれぞれ携帯させた上で、距離aの2倍の距離2aの伝搬に要する時間長を示すパラメータを各応答器100に固有の第1のIDのテーブルとして取り纏めておき、問合せ無線信号の発信タイミングから応答無線信号の受信タイミングまでに要した時間長を質問器200で計測するようにすれば、スイッチ20をオフにした状態でその応答無線信号を発信してきている応答器100がどのユーザの物かを一意に特定可能である。
【0022】
一方、スイッチ20がオンになると、アンテナ10から整合回路30qに繋がる電線も結線されるので、アンテナ10が問合せ無線信号から得た電気信号S1は、整合回路30pを経由して弾性表面波素子40pへと供給されると共に、整合回路30qを経由して弾性表面波素子40qへも供給される。電気信号S1の供給を受けた弾性表面波素子40p及び40qは、媒体60に弾性表面波を励起し、励起された弾性表面波の各々は媒体60上を伝搬していく。そして、弾性表面波素子40pは、弾性表面波素子40qが励起させた弾性表面波が自身に到達した時に電気信号S2を発生してアンテナ10へ供給すると共に、その弾性表面波を弾性表面波素子40qに向かって反射させる。一方、弾性表面波素子40qも同様に、弾性表面波素子40pが励起させた弾性表面波が自身に到達した時に電気信号S2を発生してアンテナ10へ供給すると共に、その弾性表面波を弾性表面波素子40pに向かって反射させる。図5に示すように、一方の弾性表面波素子40から他方の弾性表面波素子40への弾性表面波の到達に要する時間長は、両者の距離aと搬送波の速度の積により求まる。アンテナ10は、弾性表面波素子40pと40qとから供給される電気信号S2を応答無線信号として発信する。
【0023】
その後、弾性表面波素子40p、40qによって反射された弾性表面波は、各々の励起元の弾性表面波素子40p、40qへ到達する。図5に示すように、一方の弾性表面波素子40で励起された弾性表面波が他方の弾性表面波素子40を経由してその励起元へ到達するまでに要する時間長は、両者の距離aの2倍の距離2aと搬送波の速度の積により求まる時間長である。弾性表面波素子40p及び40qは、自らが励起した弾性表面波が対向する素子を経由して戻ってきた時に電気信号S3を再び発生してアンテナ10へ供給する。アンテナ10は、弾性表面波素子40pと40qとから供給される電気信号S3を応答無線信号として再び発信する。
【0024】
よって、弾性表面波素子40pと40qとの間の距離aを異にする各応答器100を各ユーザにそれぞれ携帯させた上で、距離aの伝搬に要する時間長とその2倍の距離2aの伝搬に要する時間長とを示すパラメータを各応答器100に固有の第2のIDのテーブルとして取り纏めておき、問合せ無線信号の発信タイミングから応答無線信号の受信タイミングまでに要した時間長を質問器200で計測するようにすれば、スイッチ20をオンにした状態でその応答無線信号を発信してきている応答器100がどのユーザの物かを一意に特定可能である。
【0025】
<他の実施形態>
本発明は、種々の変形実施が可能である。
上記実施形態において、応答器100は、弾性表面波を伝搬する媒体60の上に2つの弾性表面波素子40p及び40qを設けたが、3つ以上の弾性表面波素子40を設けてもよい。図6及び図7は、媒体60の上に3つの弾性表面波素子40p、40q、及び40rを設けた応答器100の構成を示す図である。図6及び図7に示す構成が上記図2及び図3に示す実施形態と異なる点は、弾性表面波素子40rを設けた点と、整合回路30r及びスイッチ20rを設けた点である。整合回路30rは、アンテナ10と弾性表面波素子40p及び40rの両弾性表面波素子40の間に介挿された定インピーダンス回路である。スイッチ20rは、アンテナ10から整合回路30rへと繋がる電線の結線の有無を切り替える。なお、上記図2及び図3に示す実施形態で説明した「スイッチ20」は、説明の便宜上「スイッチ20q」として説明する。
【0026】
この応答器100の作用を、スイッチ20q及び20rが共にオフであるとき、スイッチ20rだけがオンであるとき、スイッチ20qだけがオンであるとき、及びスイッチ20q及び20rが共にオンであるときの各々について順を追って説明する。まず、スイッチ20q及び20rがオフである間は、アンテナ10が問合せ無線信号から得た電気信号S1は整合回路30pを経由して弾性表面波素子40pのみに供給される。電気信号S1の供給を受けた弾性表面波素子40pは媒体60に弾性表面波を励起し、励起された弾性表面波は媒体60上をその伝搬特性に依存した一定の速度で伝搬していく。そして、この弾性表面波は、弾性表面波素子40pから距離aだけ離れた弾性表面波素子40r、及び弾性表面波素子40pから距離bだけ離れた弾性表面波素子40qへ到達する。弾性表面波素子40q及び40rは、到達した弾性表面波の成分の一部を透過させる一方、残りの成分を弾性表面波pに向かって反射させる。なお、図8や図9から明確なように、応答信号が重ならないように、a≠b、2a≠b、a≠2bの各条件をすべて満たす必要がある。
【0027】
弾性表面波素子40pは、自らが励起した弾性表面波が弾性表面波素子40q及び40rを経由して戻ってきた時に各々電気信号S2及びS3を発生してアンテナ10へ供給し、アンテナ10はそれらの電気信号S2及びS3を応答無線信号として発信する。ここで、弾性表面波素子40pに問合せ無線信号の電気信号S1が供給されてから、応答無線信号の電気信号S2が発生されるまでの時間長は、図8に示すように、弾性表面波素子40pと40rとの間の距離aの2倍の距離2aと搬送波の速度の積により求まる時間長であり、電気信号S3が発生されるまでの時間長は、弾性表面波素子40pと40qとの間の距離bの2倍の距離2bと搬送波の速度の積により求まる時間長である。
【0028】
スイッチ20rだけをオンにすると、アンテナ10が問合せ無線信号から得た電気信号S1は、整合回路30pを経由して弾性表面波素子40pへと供給されると共に、整合回路30rを経由して弾性表面波素子40rへも供給される。電気信号S1の供給を受けた弾性表面波素子40p及び40rは、媒体60に弾性表面波を励起し、励起された弾性表面波の各々は媒体60上を伝搬していく。そして、弾性表面波素子40pは、弾性表面波素子40rが励起させた弾性表面波が自身に到達した時に電気信号S2を発生してアンテナ10へ供給すると共に、その弾性表面波を弾性表面波素子40rに向かって反射させる。一方、弾性表面波素子40rも同様に、弾性表面波素子40pが励起させた弾性表面波が自身に到達した時に電気信号S2を発生してアンテナ10へ供給すると共に、その弾性表面波を弾性表面波素子40pに向かって反射させる。図9に示すように、一方の弾性表面波素子40から他方の弾性表面波が励起させた弾性表面波の到達に要する時間長は、両者の距離aと搬送波の速度の積により求まる。アンテナ10は、弾性表面波素子40pと40rとから供給される電気信号S2を応答無線信号として発信する。
【0029】
その後、弾性表面波素子40r、40pによって反射された弾性表面波は、各々の励起元の弾性表面波素子40p、40rへ到達する。図9に示すように、弾性表面波素子40pで励起された弾性表面波が弾性表面波素子40rを経由してその励起元へ到達するまでに要する時間長、及び弾性表面波素子40rで励起された弾性表面波が弾性表面波素子40pを経由してその励起元へ到達するまでに要する時間長は、両者の距離aの2倍の距離2aと搬送波の速度の積により求まる時間長である。弾性表面波素子40p及び40rは、自らが励起した弾性表面波が戻ってきた時に電気信号S3を再び発生してアンテナ10へ供給する。アンテナ10は、弾性表面波素子40pと40rとから供給される電気信号S3を応答無線信号として再び発信する。
【0030】
さらに、弾性表面波素子40pにより励起された弾性表面波が弾性表面波素子40qを経由してその励起元へ到達するまでに要する時間長は、両者の距離bの2倍の距離2bと搬送波の速度の積により求まる時間長である。弾性表面波素子40pは、自らが励起した弾性表面波が弾性表面波素子40qを経由して戻ってきた時に電気信号S4を再度発生してアンテナ10へ供給する。アンテナ10は、弾性表面波素子40pから供給される電気信号S4を応答無線信号として再度発信する。
【0031】
同様に、スイッチ20qだけをオンにすると、bの時間長だけ経過したタイミング、2aの時間長だけ経過したタイミング、及び2bの時間長だけ経過したタイミングで応答無線信号が発信される。また、スイッチ20q及びpを共にオンにすると、aの時間長だけ経過したタイミング、bの時間長だけ経過したタイミング、2aの時間長だけ経過したタイミング、及び2bの時間長だけ経過したタイミングで応答無線信号が発信される。
このように、上記図6及び図7が示す応答器100の構成によると、4種類の応答無線信号を生成することができる。
【0032】
上記実施形態において、アンテナ10と各弾性表面波素子40の間には整合回路30が介挿されたが、アンテナ10から両弾性表面波素子40の各々へ供給される電気信号の周波数が弾性表面波素子40の共振周波数に近い場合、整合回路30は設けなくてもよい。
【0033】
上記実施形態において、弾性表面波素子40は櫛形電極であったが、これに限定しない。例えば、ダブル構造の櫛形電極であってもよい。
【0034】
上記図2及び図3に示す実施形態において、弾性表面波素子40pの弾性表面波素子40qと対面する面の背面に、一の面が向かい合うようにbの距離だけ離して反射器50を配置してもよい。この反射器50は、電気的に接続されていない櫛形電極であり、弾性表面波素子40から媒体60を伝搬されてくる弾性表面波が自身に到達した時に、到達した弾性表面波の成分の一部を透過させて残りの成分を伝搬元へ反射させる。
図10及び図11は、図2及び図3に示す上記実施形態の構成に反射器50を加えた応答器100の構成を示す図であり、図10はスイッチオフ状態の応答器100の構成を、図11はスイッチオン状態の応答器100の構成をそれぞれ示している。この応答器100の作用は、スイッチ20がオフである間は、上述した図6に示した構成の応答器100と同様になり、スイッチ20がオフである間は、上述した図7に示した構成の応答器100と同様になる。よって、その詳細な説明を割愛する。
【0035】
また、図10及び図11の変形例にかかる応答器100は、弾性表面波素子40と同様の部材である櫛形電極を反射器50として用いていたが、図12(a)に示す開放型の電極、図12(b)に示す短絡型の電極、または図12(c)に示すPN構造の電極でこれを代用してもよい。
【0036】
上記実施形態においてスイッチ20は、切り替えられることにより、オン状態またはオフ状態のどちらか一つの状態をとるスイッチであった。このスイッチは、バイメタルを用いたスイッチやヒューズなどであってもよい。
【0037】
上記実施形態において、弾性表面波素子40p及び40qは、自らに到達した弾性表面波の成分の一部を透過させるため、透過された弾性表面波の成分がの媒体60のチップ端面(エッジ)より反射する現象が生じ得る。この端面より戻ってくる反射信号と反射器より戻ってくる信号の区別は付けにくく、ノイズとなってしまう恐れがあるため、SN比を向上すべく、チップ端面より反射してくる信号を防ぐ仕組みを応答器100に搭載さてもよい。
【0038】
チップ端面より反射してくる信号を防ぐ仕組みを取り入れた変形例の態様としては、以下の2つが想定できる。
1つ目は、図13に示すように、表面弾性波を吸収減衰する部材を表面弾性波素子40p及びqと媒体60の端辺の間に備え付ける態様である。図に示すように、この変形例では、媒体60の左右両端面の内側に、吸音材21及び22を備え付けている。この変形例によると、表面弾性波素子40p及び40qを透過した表面弾性波が媒体の両端面まで到達しても、その成分が吸音材21及び22に吸収されて反射されないため、SN比を向上させることが可能である。
【0039】
2つ目は、図14に示すように、媒体60の端辺の一部又は全部と弾性表面波を励起させる電極指13乃至15が平行にならないように複数の弾性表面波素子40p及びqを並べる態様である。図に示すように、この変形例では、媒体60の表面を台形状としている。そして、弾性表面波素子40p及びqの電極指13乃至15は媒体60表面の左端面と平行になっているものの、右端面に対しては平行になっていない。このため、弾性表面波素子40qを透過して媒体60表面の右端面に到達した表面弾性波の成分の多くは下方向に反射されることになるため、SN比を向上させることが可能である。もちろん、このような端面の処理は、図14における左端面にも施すことが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】応答システムの特徴を示す図である。
【図2】スイッチオフ状態の応答器の構成である(実施形態)。
【図3】スイッチオン状態の応答器の構成である(実施形態)。
【図4】スイッチオフ状態の電気信号を示す図である(実施形態)。
【図5】スイッチオン状態の電気信号を示す図である(実施形態)。
【図6】両スイッチオフ状態の応答器の構成である(他の実施形態)。
【図7】スイッチ20rのみオン状態の応答器の構成である(他の実施形態)。
【図8】両スイッチオフ状態の電気信号を示す図である(他の実施形態)。
【図9】スイッチ20rのみオン状態の電気信号を示す図である(他の実施形態)。
【図10】反射器50を設けたオフ状態の応答器の構成である(他の実施形態)。
【図11】反射器50を設けたオン状態の応答器の構成である(他の実施形態)。
【図12(a)】開放型の電極の形状を示す図である(他の実施形態)。
【図12(b)】短絡型の電極の形状を示す図である(他の実施形態)。
【図12(c)】PN構造の電極の形状を示す図である(他の実施形態)。
【図13】チップ端面にて反射する信号を防ぐ応答器の構成である(他の実施形態)。
【図14】チップ端面にて反射する信号を防ぐ応答器の構成である(他の実施形態)。
【図15】従来の応答器の構成である。
【図16】従来の応答器が発生する電気信号を示す図である。
【図17】反射器の数と、反射率及び透過率との各々の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10…アンテナ、11、11p、11q、12、12p、12q…バスバー、13、13p、13q、14、14p、14q、15、15p、15q…電極指、20、20q、20r…スイッチ、21、22…吸音材、30、30p、30q、30r…整合回路、40、40p、40q、40r…弾性表面波素子、50、50p、50q…反射器、60…媒体、100…応答器、200…質問器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波を伝搬する媒体と、
無線信号と電気信号を相互変換するアンテナと、
前記アンテナと第1の電線により繋がれ、その第1の電線を介して電気信号の供給を受けた時に弾性表面波を励起させて前記媒体上を伝搬させるべく当該媒体に設置された素子であって、当該媒体上を自らに向かって伝搬されてくる弾性表面波が自らに到達した時に前記第1の電線を介して前記アンテナへ電気信号を供給すると共に当該到達した弾性表面波の一部を反射させる第1の弾性表面波素子と、
前記第1の弾性表面波素子と第2の電線により繋がれ、その第2の電線を介して電気信号の供給を受けた時に弾性表面波を励起させて前記媒体上を伝搬させるべく当該媒体に設置された素子であって、当該媒体上を自らに向かって伝搬されてくる弾性表面波が自らに到達した時に前記第2の電線を介して前記アンテナへ電気信号を供給すると共に当該到達した弾性表面波の一部を反射させる一又は複数の第2の弾性表面波素子と、
前記第2の電線の結線の有無を切り替えるスイッチと
を備えた応答器。
【請求項2】
請求項1に記載の応答器において、
前記アンテナと前記第1の弾性表面波素子との間のインピーダンスを整合させる整合回路を前記アンテナと弾性表面波素子の間に介挿させた
応答器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の応答器において、
前記複数の弾性表面波素子の各々は、バスバーに複数の電極子の一端を連結させてなる櫛形電極であり、それらの電極指が平行になるように前記媒体上に並べられている
応答器。
【請求項4】
請求項3に記載の応答器において、
前記弾性表面波を吸収減衰する部材を前記弾性表面波素子と前記媒体の端辺の間に備え付けた
応答器。
【請求項5】
請求項3に記載の応答器において、
前記媒体の端辺の一部又は全部と前記電極指が平行にならないように前記複数の弾性表面波素子が並べられた
応答器。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載の応答器において、
前記弾性表面波素子から前記媒体を伝搬されてくる弾性表面波が自身に到達した時に、到達した弾性表面波の一部を反射させる反射器
を更に備えた応答器。
【請求項7】
請求項6に記載の応答器において、
前記反射器は、開放型の電極である
応答器。
【請求項8】
請求項6に記載の応答器において、
前記反射器は、短絡型の電極である
応答器。
【請求項9】
請求項6に記載の応答器において、
前記反射器は、櫛形電極である
応答器。
【請求項10】
請求項6に記載の応答器において、
前記反射器は、PN構造の電極である
応答器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12(a)】
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【図12(b)】
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【図12(c)】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−327825(P2007−327825A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158603(P2006−158603)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】