性ステロイド前駆体と選択的エストロゲン受容体モジュレーターとの組み合わせによるホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗の治療
ある量の性ステロイド前駆体、特にデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)及び抗エストロゲン剤又は選択的エストロゲン受容体モジュレーター、特にベンゾピラン化合物の投与を含む、感受性のあるヒトを含む温血動物における骨粗鬆症、高コレステロール血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、インスリン抵抗性、2型糖尿病、筋肉量減少、脂肪症、アルツハイマー病、認知機能の喪失、記憶喪失又は膣乾燥の発生の阻害によって、乳癌、子宮癌又は子宮内膜癌の罹患リスクを低減し、また有益作用を更にもたらしつつ、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗の発生を低減又は排除するための新規方法。本発明に有用な、活性成分を送達するための医薬組成物及びキットも開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により内容が本明細書に組み込まれている、2009年6月16日に出願した米国仮出願第61/187,549号及び2010年6月1日に出願した米国非仮出願第12/791,174号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、女性におけるホットフラッシュ(火照り)、血管運動症状及び寝汗の新規治療に関する。詳細には、この治療は、乳癌又は子宮内膜癌の罹患リスクを低減するための、性ステロイドの前駆体と選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)との組み合わせの投与を含む。本発明はまた、前記組み合わせを実施するためのキット及び医薬組成物を提供する。患者への前記組み合わせの投与は、ホットフラッシュ、血管運動症状、寝汗及び睡眠障害の発生を低減又は排除する。更に、乳癌及び/又は子宮内膜癌の罹患リスクもこの併用療法を受けた患者では低減されると考えられる。また、骨粗鬆症、高コレステロール血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、アルツハイマー病、認知機能の喪失、記憶喪失、不眠症、心血管疾患、インスリン抵抗性、糖尿病及び肥満(特に腹部肥満)の罹患可能性又は罹患リスクの低減などの付加的な利益も提供される。
【背景技術】
【0003】
本明細書中で以下に記載する参考文献の完全な引用を、より簡略な引用形式を用いて下記に示す。
(参考文献)
【0004】
多数の疾病、病態及び望ましくない症状が、外因性の性ステロイド又はそれらの前駆体の投与に好ましく応答することが知られている。例えば、エストロゲンは骨量減少速度を低下させると考えられており、アンドロゲンは骨形成を刺激することによって骨量を増加させることが示されている。ホルモン補充療法(例えば、エストロゲンの投与)は、更年期症状の治療に使用できる。プロゲスチンは、子宮内膜の増殖を妨げ、エストロゲンによって誘発される子宮内膜癌のリスクを打ち消すためにしばしば使用される。治療への又は予防目的での、多岐にわたる症状及び障害への、エストロゲン、アンドロゲン化合物及び/又はプロゲスチンの使用には、多数の弱点がある。アンドロゲン化合物による女性の治療には、ある種の男性化副作用を引き起こすという望ましくない副作用を伴うことある。また、患者への性ステロイドの投与は、患者の、ある種の疾患の罹患リスクを増大させることもある。例えば、女性の乳癌は、エストロゲン活性によって増悪する。
【0005】
更に、アンドロゲン化合物は、HRTによってしばしば引き起こされる乳腺痛(mastalgia)の治療に有益であることがわかっている(Pyeら、1985)。実際に、エストロゲン補充療法は、治療中断の原因ともなり得る重度の乳房痛(breast pain)をもたらす場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US6,060,503
【特許文献2】欧州特許第0279982号
【特許文献3】米国特許第5,162,037号
【特許文献4】米国特許第5,154,922号
【特許文献5】米国特許第5,135,480号
【特許文献6】米国特許第4,666,441号
【特許文献7】米国特許第4,624,665号
【特許文献8】米国特許第3,742,951号
【特許文献9】米国特許第3,797,444号
【特許文献10】米国特許第4,568,343号
【特許文献11】米国特許第5,064,654号
【特許文献12】米国特許第5,071,644号
【特許文献13】米国特許第5,071,657号
【特許文献14】英国特許出願第2185187号
【特許文献15】米国特許第6,710,059B1号
【特許文献16】JP10036347(特開平10-36347号公報)
【特許文献17】WO97/32837
【特許文献18】WO97/25034
【特許文献19】WO97/25035
【特許文献20】WO97/25037
【特許文献21】WO97/25038
【特許文献22】WO97/25036
【特許文献23】EP0802183A1
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Women’s Health Initiative、2002
【非特許文献2】Koller及びBuri、S.T.P Pharma 3(2)、115〜124頁、1987
【非特許文献3】Gauthierら、J.Med.Chem. 40:2117〜2122頁、1997
【非特許文献4】Kramer CY;Biometrics 1956;12:307〜310頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
より有効なホルモン療法並びに副作用及びリスクの低減が必要とされている。本発明の併用療法、並びにそれらの療法に使用できる医薬組成物及びキットは、これらの要求に応えると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、ホットフラッシュ、血管運動症状、寝汗及び睡眠障害の治療方法又はそれらの発生若しくは罹患リスクの低減方法を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、乳癌及び/又は子宮内膜癌、骨粗鬆症、心血管疾患、高コレステロール血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、インスリン抵抗性、糖尿病、肥満(特に、腹部肥満)並びに膣乾燥の罹患リスクを最小限に抑えながら、前記疾患を治療するか又は前記疾患の罹患リスクを低減する方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、前記方法への使用に好適なキット及び医薬組成物を提供することである。好ましくは、これらの製品は、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される症状の発生の低減又は排除のためのそれらの内容物の使用説明書と共にパッケージ化される。
【0012】
一実施形態において、本発明は、ホットフラッシュ、血管運動症状、寝汗及び睡眠障害の発生を低減又は排除する方法であって、前記排除又は低減を必要とする患者に、治療有効量の性ステロイドの前駆体又はそれらのプロドラッグを、前記患者への、治療有効量の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はそれらのプロドラッグの投与と組み合わせて投与する段階を含む方法を提供する。
【0013】
性ステロイド前駆体は、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール、4-アンドロステン-3,17-ジオン及び前記の追加作用剤のいずれかのプロドラッグからなる群から選択されるのが好ましい。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、付加的な有益作用を提供するか、又は骨粗鬆症、高コレステロール血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、アルツハイマー病、インスリン抵抗性、糖尿病、筋肉量減少、肥満からなる群から選択される病態の罹患リスクを低減する。前記の有益作用は、この有益作用を必要とする患者に、治療有効量の性ステロイドの前駆体又はそれらのプロドラッグを、前記患者への治療有効量の選択的エストロゲン受容体モジュレーター又はそれらのプロドラッグの投与と組み合わせて投与することによって、得られる。
【0015】
別の実施形態において、本発明は、
a)薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、
b)治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグと、
c)治療有効量の少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はプロドラッグと
を含む医薬組成物を提供する。
【0016】
別の実施形態において、本発明は、
a)薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、
b)治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグと、
c)治療有効量の少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はプロドラッグと
を含む丸剤、錠剤、カプセル剤、ゲル剤、クリーム剤、卵形剤(膣坐剤)(ovule)又は坐剤を提供する。
【0017】
別の実施形態において、本発明は、治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグを含む医薬製剤を収容している第1の容器を含み、治療有効量の少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はそれらのプロドラッグを含む医薬製剤を収容している第2の容器を更に含むキットを提供する。
【0018】
別の実施形態において、本発明は、ホットフラッシュ、血管運動症状、寝汗及び睡眠障害の治療又は発生の低減を必要とする患者における、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、硫酸デヒドロエピアンドロステロン(DHEA-S)、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール(5-ジオール)及び4-アンドロステン-3,17-ジオンからなる群から選択される性ステロイド前駆体のレベルを増加させること、更に併用療法の一部としての、治療有効量の選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)の前記患者への投与を含むことによる、ホットフラッシュ、血管運動症状、寝汗及び睡眠障害の治療又は発生の低減方法に関する。
【0019】
本明細書中で使用する「純粋SERM」は、SERMが、生理学的又は薬理学的濃度において乳房及び子宮内膜組織中でエストロゲン活性を有さないことを意味する。
【0020】
別の実施形態において、本発明は、治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体を収容している第1の容器を含み、治療有効量の少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーターを収容している第2の容器を更に含むキットを提供する。
【0021】
別の実施形態において、本発明は、1つの容器中に
a)薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、
b)治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体と、
c)治療有効量の少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーターと
を含む医薬組成物を提供する。
【0022】
別の実施形態において、本発明は、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される症状の発生を低減又は排除する方法であって、前記排除又は低減を必要とする患者に、(i)治療有効量の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグと、(ii)治療有効量の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はいずれかのプロドラッグとを組み合わせて投与する段階を含む方法を提供する。
【0023】
別の実施形態において、本発明は、
a)薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、
b)少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグと、
c)少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はいずれかのプロドラッグと
を含む、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される症状を低減又は排除するための医薬組成物であって、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される少なくとも1つの症状の低減又は排除のための前記組成物の使用を指示するパッケージングの形態で提供される医薬組成物を提供する。
【0024】
別の実施形態において、本発明は、(i)少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグを収容している第1の容器と、(ii)少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又は前記のいずれかのプロドラッグを収容している第2の容器と、(iii)ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される少なくとも1つの症状の低減又は排除のためのキットの使用説明書とを含む、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される症状の低減又は排除のためのキットを提供する。
【0025】
本明細書中で使用するように、他の化合物「と組み合わせて」患者に投与される化合物は、両化合物が時間的に近傍で投与されなかったとしても、患者が両化合物の生理学的作用を同時に得られるように、前記他の化合物の投与の十分に近くで投与される。これらの化合物が併用療法の一部として投与される場合には、それらは互いに組み合わせて投与される。本明細書中に記載される好ましい選択的エストロゲン受容体モジュレーターは、好ましい性ステロイド前駆体、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール又は4-アンドロステン-3,17-ジオン、特にデヒドロエピアンドロステロンと組み合わせて使用するのが好ましい。
【0026】
エストロゲン補充療法は、閉経による疾患、即ち、骨粗鬆症、ホットフラッシュ、膣乾燥、冠動脈性心疾患(Cummings 1991)の予防及び治療のため閉経後女性によく使用されているが、エストロゲンの慢性投与に関連するいくつかの望ましくない作用を及ぼす。特に、エストロゲンによって子宮癌及び/又は乳癌のリスクの増大が認識されている(Judd、Meldrumら、1983;Colditz、Hankinsonら、1995)ことが、この療法の主な欠点である。本発明者らは、性ステロイド前駆体の投与への選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)の追加がこれらの望ましくない作用を抑制することを発見した。
【0027】
他方、SERMは単独では、ホットフラッシュ及び発汗のような一部の更年期症状に対してはほとんど又は全く有益作用がない。本出願人は、更年期症状のSERM治療への性ステロイド前駆体の追加がホットフラッシュ及び発汗を低減し、又は更には排除すると考える。ホットフラッシュ及び発汗が閉経の最初の徴候であること、並びに患者が閉経期治療を受け入れるか否かが通常、ホットフラッシュ及び発汗の低減の成否次第であることに注目することが重要である。
【0028】
本明細書中で使用するように、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)は、直接的に又はその活性代謝産物によって、乳房組織中ではエストロゲン受容体アンタゴニスト(「抗エストロゲン剤」)として作用するが、骨組織に対して及び血清コレステロール濃度に対して(即ち、血清コレステロールを低減させることによって)エストロゲン又はエストロゲン様作用をもたらす化合物である。インビトロで又はヒト若しくはラット乳房組織においてエストロゲン受容体アンタゴニストとして機能する非ステロイド系化合物は(特に化合物がヒト乳癌細胞に対して抗エストロゲン剤として作用する場合には)、SERMとして機能する可能性がある。逆に、ステロイド系抗エストロゲン剤は、血清コレステロールに対して有益作用を示さない傾向があるので、SERMとして機能しない傾向がある。我々の試験により、SERMとして機能することがわかった非ステロイド系抗エストロゲン剤としては、EM-800、EM-652.HCl、ラロキシフェン(Raloxifene)、タモキシフェン(Tamoxifen)、4-ヒドロキシ-タモキシフェン、トレミフェン(Toremifene)、4-ヒドロキシ-トレミフェン、ドロロキシフェン(Droloxifene)、LY 353 381、LY 335 563、GW-5638、ラソフォキシフェン(Lasofoxifene)、バゼドキシフェン(Bazedoxifene)(TSE 424;WAY-TSE 424;WAY 140424;1-[[4-[2-(ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)エトキシ]フェニル]メチル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1H-インドール-5-オール);ピペンドキシフェン(Pipendoxifene)(ERA 923;2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1-[[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]メチル]-1H-インドール-5-オール)及びイドキシフェン(Idoxifene)が挙げられるが、これらの化合物に限定するものではない。
【0029】
しかし、我々はまた、全てのSERMが同様に反応するのではなく、「純粋SERM」及び「混合SERM」の2つのサブクラスに分類できることを発見した。したがって、EM-800及びEM-652.HClのような一部のSERMは、乳房及び子宮内膜組織中では生理学的又は薬理学的濃度においてエストロゲン活性を有さず、ラットでコレステロール低下作用及びトリグリセリド低下作用を有する。これらのSERMは、「純粋SERM」と称することができる。理想的なSERMは、乳腺における強力で純粋な抗エストロゲン活性のため、EM-652.HCl型の純粋SERMである。ラロキシフェン、タモキシフェン、ドロロキシフェン、4-ヒドロキシ-タモキシフェン(1-(4-ジメチルアミノエトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-2-フェニル-ブタ-1-エン)、トレミフェン、4-ヒドロキシ-トレミフェン[(Z)-(2)-2-[4-(4-クロロ-1-(4-ヒドロキシフェニル)-2-フェニル-1-ブテニル)フェノキシ]-N,N-ジメチルエタンアミン)、LY 353 381、LY 335 563、GW-5638、ラソフォキシフェン、イドキシフェン及びバゼドキシフェンのような他のSERMは、乳房及び子宮内膜において若干のエストロゲン活性を有する。この第2の系のSERMは、「混合SERM」と称することができる。インビトロ試験においては図5及び6に示されるように、また、乳癌のインビボ試験においては図7に示されるように、これらの「混合SERM」の望ましくないエストロゲン活性は、「純粋SERM」の追加によって阻害できる。ヌードマウスにおけるヒト乳癌異種移植片は、入手可能なヒト乳癌に最も近いモデルであるので、したがって、我々はヌードマウスにおけるZR-75-1乳癌異種移植片の成長に対する、EM-800及びタモキシフェンの単独効果と併用効果とを比較した。
【0030】
一実施形態において、本発明は、下記分子構造
【化1】
【0031】
[式中、R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル又はインビボでヒドロキシルに転化される部分であり、n=1又は2である]
の選択的エストロゲン受容体モジュレーターを使用する。
【0032】
本出願人は、SERMがエストロゲン、特に乳房、子宮及び子宮内膜組織において癌のリスクを増加させる可能性がある外因性の性ステロイド前駆体から形成されるものの潜在的副作用を打ち消す必要があるので、本発明のSERMが乳房、子宮及び子宮内膜組織において純粋な抗エストロゲン剤として作用することは非常に重要と考える。特に、本出願人は、2位に2S絶対配置を有する本発明のベンゾピラン誘導体がそのラセミ混合物よりも好適であると考える。例えば、US6,060,503に、2S配置を有する光学活性ベンゾピラン抗エストロゲン剤が、エストロゲンで増悪した乳癌及び子宮内膜癌を治療することが開示されており、これらの化合物はラセミ混合物よりも著しく効果的であることが示されている(US6,060,503の図1〜5を参照のこと)。
【0033】
2S配置のエナンチオマーは工業的に純粋な状態での入手が困難であり、本出願人は、2Rエナンチオマーの混入は10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは2重量%未満が望ましいと考える。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ラットにおける、血清トリグリセリド(A)及びコレステロール(B)濃度に対する、DHEA(10mg、経皮、1日1回)又はEM-800(75μg、経口、1日1回)の単独又は組み合わせによる9ヶ月間の治療効果を示す。データは、平均値±SEMとして表す。**:P<0.01(実験群対各対照群)。
【図2】卵巣切除ラットにおける、総血清コレステロール濃度に対する、漸増用量(0.01、0.03、0.1、0.3及び1mg/kg)で投与されたEM-800又はラロキシフェンによる37週間の治療効果を示す。17β-エストラジオール(E2)のインプラント(implant)を有する卵巣切除ラットと無傷のラットとが比較される。**p<0.01(実験群対OVX対照ラット群)。
【図3】A)は、エストロンを補充した卵巣切除(OVX)ヌードマウスにおける、平均ZR-75-1腫瘍サイズに対する、1日2回皮下投与された漸増用量(0.3mg、1.0mg又は3.0mg)のDHEAの効果を示す。ビヒクル(vehicle)のみを投与された対照OVXマウスを、追加対照群として用いる。初期腫瘍サイズを100%と見なした。DHEAは、50%エタノール-50%プロピレングリコールの溶液0.02mlとして背面皮膚に経皮(p.c.)投与した。B)エストロンを補充されたOVXヌードマウスにおける、ZR-75-1腫瘍重量に対する、漸増用量のDHEA又はEM-800(本発明のSERM)の単独又は組み合わせによる9.5ヶ月間の治療効果を示す。**p<0.01(治療群対エストロン補充対照OVXマウス群)。
【図4】エストロンを補充した卵巣切除(OVX)ヌードマウスにおける平均ZR-75-1腫瘍サイズに対する、漸増経口用量(15μg、50μg又は100μg)の抗エストロゲン剤EM-800 (A)、又は漸増用量(0.3mg、1.0mg又は3.0mg)のDHEAとEM-800(15mg)との組み合わせ若しくはEM-800単独の経皮投与(B)の9.5ヶ月間の効果を示す。初期腫瘍サイズを100%と見なした。ビヒクル(vehicle)のみを投与された対照OVXマウスを、更なる対照群として用いた。エストロンは1日1回、0.5μgの用量で皮下投与し、DHEAは、50%エタノール-50%プロピレングリコール中に溶解させて、0.02mlの容量で1日2回、背面皮膚領域に適用した。ビヒクルのみを投与されたOVXマウスと比較される。
【図5】ヒト石川(Ishikawa)細胞における、アルカリホスファターゼ活性に対する、漸増濃度のEM-800、(Z)-4-OH-タモキシフェン、(Z)-4-OH-トレミフェン及びラロキシフェンの効果を示す。アルカリホスファターゼ活性は、1.0nMのE2の存在下又は不存在下で漸増濃度の指示化合物に5日間曝露した後に測定した。データは、4個のウェルの平均値±SEMで表す。SEMが用いた記号と重なる場合には、記号のみを示す(Simard、Sanchezら、1997)。
【図6】ヒト石川癌腫細胞における、抗エストロゲン剤EM-800による、アルカリホスファターゼ活性に対する(Z)-4-OH-タモキシフェン、(Z)-4-OH-トレミフェン、ドロロキシフェン及びラロキシフェンの刺激作用の遮断を示す。アルカリホスファターゼ活性は、30又は100nMのEM-800の存在下又は不存在下で3又は10nMの指示化合物に5日間曝露した後に測定した。データは、対照群のデータが16個のウェルから得たデータである以外は、8個のウェルの平均値±SDで表す(Simard、Sanchezら、1997)。
【図7】ヒト乳癌ZR-75-1異種移植片の成長に対するタモキシフェンの刺激作用が、EM-652.HClの同時投与によって完全に遮断されることを示す。EM-652.HCl自体は、その純粋な抗エストロゲン活性と一致して、タモキシフェンの不存在下では腫瘍成長に対して効果がない。
【図8】閉経のパラメーターに対する、標準ERT(エストロゲン)又はHRT(エストロゲン+プロゲスチン)と、デヒドロエピアンドロステロンとSERMアコルビフェン(Acolbifene)との組み合わせとの効果の比較を示す。デヒドロエピアンドロステロンへのアコルビフェンの追加は、デヒドロエピアンドロステロンから形成されるエストロゲンの起こり得るマイナス効果を妨げるであろう。
【図9】ラット乳腺の切片を示す。 a)未治療ラット。小葉(L)は、数個の腺胞からなる。挿入部分-腺胞を示す高倍率。 b)EM-800(0.5mg/kg体重/日)で12週間治療されたラット。小葉(L)のサイズは縮小されている。挿入部分-萎縮した腺胞細胞を示す高倍率。
【図10】ラット子宮内膜の切片を示す。 a)未治療ラット。管腔上皮(LE)は円柱上皮細胞を特徴とするが、腺上皮(GE)は立方上皮細胞である。間質は、数種の細胞成分及び膠原線維を含んでいる。 b)EM-800(0.5mg/kg体重/日)で12週間治療されたラット。管腔上皮は、高さが顕著に減少している。腺上皮細胞は未染色の細胞質を有し、活性の徴候がない。間質は、間質の細胞間成分の減少により、細胞密度が高い。
【図11】エストロンで同時治療された卵巣切除マウスに9日間経口投与された漸増濃度のEM-652.HCl、ラソフォキシフェン(遊離塩基;活性及び不活性エナンチオマー)及びラロキシフェンの、子宮重量に対する効果を示す。*p<0.05、**p<0.01(対E1-治療対照群)。
【図12】エストロンで同時治療された卵巣切除マウスに9日間経口投与された漸増濃度のEM-652.HCl、ラソフォキシフェン(遊離塩基;活性及び不活性エナンチオマー)及びラロキシフェンの、膣重量に対する効果を示す。**p<0.01(対E1-治療対照群)。
【図13】卵巣切除マウスに9日間経口投与された1μg及び10μgのEM-652.HCl、ラソフォキシフェン(遊離塩基;活性及び不活性エナンチオマー)及びラロキシフェンの、子宮重量に対する効果を示す。**p<0.01(対OVX対照群)。
【図14】卵巣切除マウスに9日間経口投与された1μg及び10μgのEM-652.HCl、ラソフォキシフェン(遊離塩基;活性及び不活性エナンチオマー)及びラロキシフェンの、膣重量に対する効果を示す。**p<0.01(対OVX対照群)。
【図15】卵巣切除ラットにおける、海綿骨体積に対するデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)の単独又はフルタミド若しくはEM-800との組み合わせによる12ヶ月の治療効果を示す。無傷のラットを、追加対照群として加える。データは、平均値±SEMとして表す。**p<0.01(対OVX対照群)。
【図16】卵巣切除ラットにおける、海綿骨梁数に対するデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)の単独又はフルタミド若しくはEM-800との組み合わせによる12ヶ月の治療効果を示す。無傷のラットを、追加対照群として加える。データは、平均値±SEMとして表す。**p<0.01(対OVX対照群)。
【図17】無傷対照(A)、卵巣切除対照(B)、及びDHEA単独によって治療された卵巣切除ラット(C)、又はDHEAとフルタミドとの組み合わせによって治療された卵巣切除ラット(D)、若しくはDHEAとEM-800との組み合わせによって治療された卵巣切除ラット(E)からの脛骨近位端骨幹端を示す。卵巣切除対照ラット(B)のおける海綿骨量(T)の減少、及びDHEA投与後(C)に誘発された海綿骨体積(T)の著しい増加に注目のこと。DHEAへのフルタミドの追加が海綿骨体積に対するDHEAの効果を部分的に遮断した(D)のに対し、DHEAとEM-800との組み合わせは卵巣切除に関連する骨量減少を完全に防いだ。Masson-Goldnerトリクローム染色の変法、倍率×80。T:骨梁、GP:成長板。
【図18】ZR-75-1腫瘍成長に対する抗エストロゲン剤の効果を示す。卵巣切除ヌードマウスにおける、エストロンによって誘発されたヒトZR-75-1乳房腫瘍の成長に対する7種の抗エストロゲン剤による161日間の治療効果。腫瘍サイズは、初期腫瘍面積(1日目=100%)の百分率として表す。データは、平均値±SEMとして表す(腫瘍数n=18〜30個/群);##p<0.01(対EM-652.HCl群);**p<0.01(対OVX群)。抗エストロゲン剤は、エストロンとコレステロールとを1:25の比で含む皮下0.5cmシラスティックインプラントによって得られるエストロン刺激下で、50μg/マウスの用量で1日1回経口投与した。
【図19】ZR-75-1腫瘍成長に対する抗エストロゲン剤の効果を示す。卵巣切除ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳房腫瘍の成長に対する7種の抗エストロゲン剤による161日間の治療効果。腫瘍サイズは、初期腫瘍面積(1日目=100%)の百分率として表す。データは、平均値±SEMとして表す(腫瘍数n=18〜30個/群);##p<0.01(対EM-652.HCl群);**p<0.01(対OVX群)。抗エストロゲン剤は、エストロゲン刺激の不存在下で100μg/マウスの用量で1日1回経口投与した。
【図20】ZR-75-1腫瘍成長に対する抗エストロゲン剤の効果を示す。卵巣切除ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳房腫瘍の成長に対する、抗エストロゲン剤、タモキシフェン、EM-652.HCl(アコルビフェン)及びタモキシフェンとEM-652.HClとの組み合わせによる161日間の治療効果。腫瘍サイズは、初期腫瘍面積(1日目=100%)の百分率として表す。データは、平均値±SEMとして表す(腫瘍数n=18〜30個/群);##p<0.01(対EM-652.HCl群);**p<0.01(対OVX群)。抗エストロゲン剤は、エストロゲン刺激の不存在下で200μg/マウスの用量で1日1回経口投与した。
【図21】応答のカテゴリーに対する抗エストロゲン剤の効果を示す。卵巣切除ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳房腫瘍の応答のカテゴリーに対する、7種の抗エストロゲン剤の161日間投与効果。完全退縮は、治療終了時に検出できなかった腫瘍を特定し;部分退縮は、元のサイズの50%以上の退縮を示した腫瘍に相当し;不変は、50%未満の退縮又は50%以下の進行を示した腫瘍を指し;進行は、腫瘍が元のサイズと比較して50%超進行したことを示す。抗エストロゲン剤は、エストロンとコレステロールとを1:25の比で含む皮下0.5cmシラスティックインプラントによって得られるエストロン刺激下で、50μg/マウスの用量で1日1回経口投与した。
【図22】応答のカテゴリーに対する抗エストロゲン剤の効果を示す。卵巣切除ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳房腫瘍の応答のカテゴリーに対する、7種の抗エストロゲン剤の161日間投与効果。完全退縮は、治療終了時に検出できなかった腫瘍を特定し;部分退縮は、元のサイズの50%以上の退縮を示した腫瘍に相当し;不変は、50%未満の退縮又は50%以下の進行を示した腫瘍を指し;進行は、腫瘍が元のサイズと比較して50%超進行したことを示す。抗エストロゲン剤は、エストロゲン刺激の不存在下で200μg/マウスの用量で1日1回経口投与した。
【図23】応答のカテゴリーに対する抗エストロゲン剤の効果を示す。卵巣切除ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳房腫瘍の応答のカテゴリーに対する、抗エストロゲン剤、タモキシフェン、EM-652.HCl(アコルビフェン)及びタモキシフェンとEM-652.HClとの組み合わせの161日間投与効果。完全退縮は、治療終了時に検出できなかった腫瘍を特定し;部分退縮は、元のサイズの50%以上の退縮を示した腫瘍に相当し;不変は、50%未満の退縮又は50%以下の進行を示した腫瘍を指し;進行は、腫瘍が元のサイズと比較して50%超進行したことを示す。抗エストロゲン剤は、エストロゲン刺激の不存在下で200μg/マウスの用量で1日1回経口投与した。
【図24】16週間の治療期間中における中等度〜重度のホットフラッシュの平均数に対する日用量のDHEA又はプラセボの効果を示す。*p<0.05(DHEA群対プラセボ群)。
【図25】16週間の治療期間中における全ホットフラッシュ(軽度、中等度及び重度)の平均数に対する日用量50mgのDHEA又はプラセボによる治療を示す。*p<0.05(DHEA群対プラセボ群)。
【図26】0%、0.5%、1.0%又は1.8%のDHEAを含む膣坐剤の連日投与を受けている40〜75才の閉経後女性において1日目及び7日目に測定された成熟度指数(maturation index)を示す。データは、平均値±SEMとして表す(n=9又は10)。*<0.05、**p<0.01(7日目データ群対1日目データ群)。
【図27】0%、0.5%、1.0%又は1.8%のDHEAを含む膣坐剤の連日投与を受けている40〜75才の閉経後女性において1日目及び7日目に測定された膣pHを示す。データは、平均値±SEMとして表す(n=9又は10)。*p<0.05、**p<0.01(7日目データ群対1日目データ群)。
【発明を実施するための形態】
【0035】
DHEAの有益作用
閉経に関して最も広く認識されている事実は、卵巣によるエストロゲン分泌の漸進的減少及び最終的にはその停止が認められることである。卵巣のエストロゲン分泌中止は、血中17β-エストラジオール(E2)濃度の顕著な低下によって説明される。この容易に測定可能な血中E2濃度変化が、更年期症状及び骨吸収に対するエストロゲンの有益作用と相まって、ホルモン補充療法の取り組みのほとんどを、種々の形態のエストロゲンと、子宮内膜の過形成及び癌を引き起こし得る、子宮内膜に対して有害な可能性があるエストロゲン単独使用の刺激効果を回避するための、エストロゲンとプロゲスチンとの組み合わせとに集中させている。
【0036】
閉経期における血中17β-エストラジオール(E2)の急激な低下は、更年期症状及び骨吸収に対する外因性エストロゲンの有益作用と相まって、ホルモン補充療法の取り組みのほとんどを、種々の形態のエストロゲンと、エストロゲン単独投与によって誘発される子宮内膜癌のリスクを回避するためのエストロゲンとプロゲスチンとの組み合わせとに集中させている。
【0037】
ホルモン補充療法(HRT)、エストロゲン及びプロゲスチンは、閉経後女性において、エストロゲンの欠乏によって生じる急性症状、特にホットフラッシュ及び寝汗に対して、並びに骨粗鬆症及び場合によっては心血管疾患の長期予防に使用されている。プロゲスチンは、長期エストロゲン曝露の刺激作用からの子宮の保護に有効であるが、それ自体の副作用、特に機能不全性子宮出血を伴う(Archerら、1999)。これは、よく起こる副作用であり、女性が最初の6〜12ヶ月以内に途中でホルモン補充療法を打ち切る一般的な理由となっている。最近になって、古典的HRTは重大な問題として取り上げられ、又は更にはプレマリン(Premarin)とプロベラ(Provera)(プレンプロ(Prempro))との組み合わせが5.2年の追跡調査で乳癌の発生率を26%増加させることを示すデータが受けて、多くの女性がその治療を放棄した(Women’s Health Initiative、2002)。
【0038】
イントラクリノロジー(intracrinology)と称される、末梢標的組織におけるアンドロゲン及びエストロゲンの形成及び作用に対する理解の向上(Labrie、1991;Labrieら、1992a;Labrieら、1992b;Labrieら、1994;Labrieら、1995;Luu-Theら、1995a;Labrieら、1996;Labrieら、1997a;Labrieら、1997b;Labrieら、1997c;Labrieら、1997d)、並びにラットおいて卵巣切除後の骨量減少予防に果たすアンドロゲンの主な役割がエストロゲンの主な役割を上回ることを示す観察(Martelら、1998)及び閉経後女性における同様な状況の観察(Labrieら、1997c)が、性ステロイド補充療法及び加齢の分野の、時宜に得た、潜在的に極めて大きい進歩への道を開いたと、我々は感じている。このような可能性は、我々の観察によって十分に裏付けられる。
【0039】
Bergerら(2005)においては、ラット膣の3層の膣壁に対するDHEAの特に興味深い作用、即ち、上皮粘液分泌の亢進(highly mucified epithelium)、筋層厚の増加及び粘膜固有層における膠原線維の緻密度の増加が示されている。このように、DHEAには、膣粘膜に対してアンドロゲン及びエストロゲンの両作用があり、より生理学的な補充療法を可能にする。
【0040】
したがって、本発明は、男性及び女性における性ステロイドの生理機能に対する我々の理解において得られた最近の進歩(Labrie、1991;Labrieら、1992a;Labrieら、1992b;Labrieら、1994;Labrieら、1995a;Luu-Theら、1995a;Labrieら、1997a;Labrieら、1997b;Labrieら、1997c;Labrieら、1997d)と、閉経期女性は卵巣活性低下によりエストロゲン活性が乏しいだけでなく、既に数年間アンドロゲン曝露低下状態にあるという認識とに基づく。実際には、健常女性は、男性において分泌されるアンドロゲンの2/3に等しい量のアンドロゲンを産生している(Labrieら、1997a)。
【0041】
女性におけるアンドロゲンの貯留は、30才頃から、DHEA及びDHEA-Sの血清濃度の減少と並行して次第に低下する(Labrieら、1997b)。したがって、アンドロゲン及びエストロゲンの両補充療法を閉経周辺期及び閉経後に使用し、それによって各細胞及び組織中におけるこれら2種の性ステロイド間の生理的バランスを維持することは論理にかなっているように思われる。この目標は、末梢組織におけるステロイド前駆体DHEAからのアンドロゲン及びエストロゲンの局所的形成によってのみ達成可能である。
【0042】
アンドロゲンの主要な供給源、DHEA
末梢での性ステロイド形成におけるDHEAの役割
ヒトは、他のいくつかの霊長類と共に、末梢組織中で強力なアンドロゲン及び/又はエストロゲンに転化される不活性な前駆体ステロイドDHEA、特にDHEA-Sを大量に分泌する副腎を有する点で、動物種の中で独特である。成人女性における血漿中DHEA-S濃度は、テストステロンよりも500倍高く、エストラジオールよりも10,000倍高く、したがってアンドロゲン及び/又はエストロゲンの形成のための基質の大きな供給源となっている。前述のように、末梢標的組織における性ステロイドの局所合成及び作用は、イントラクリノロジーと称されている(Labrieら、1988;Labrie、1991)。この領域における最近の急激な進歩は、末梢組織におけるDHEA-S及びDHEAからアンドロゲン及び/又はエストロゲンへの局所的変換に関与するステロイド産生酵素をコードするほとんどの組織特異的遺伝子の構造の解明によって可能になった(Labrieら、1992a;Labrieら、1992c;Labrieら、1995;Luu-Theら、1995b;Labrieら、1996;Labrieら、1997d)。
【0043】
ヒト性ステロイドの生理機能におけるDHEA及びDHEA-Sの主な重要性は、成人男性の総アンドロゲンの約50%がこれらの副腎前駆体ステロイドに由来するという推定によって説明されている(Labrieら、1985,Belangerら、1986;Labrieら、1993)が、女性では、末梢組織におけるエストロゲンのイントラクリン(intracrine)形成の我々の最良推定値は、閉経前はほぼ75%程度であり、閉経後は100%に近い(Labrieら、1991)。
【0044】
ほぼ例外なく卵巣エストロゲンの役割に注目が集まったため、20〜30才と40才〜50才との年齢間で既に起こっている血中DHEAの劇的な70%の低下には注意が払われなかった(Migeonら、1957;Vermeulen及びVerdonck、1976:Vermeulenら、1982;Orentreichら、1984;Belangerら、1994;Labrieら、1997b)。DHEAは末梢組織においてアンドロゲン及びエストロゲンの両者に変換されるので、血清DHEA及びDHEA-Sのこのような低下により、前述のように閉経期の女性にエストロゲンが欠乏しているだけでなく、アンドロゲンが乏しいという理由の説明がつく。
【0045】
前述のように、最近のデータは、プロゲスチンが乳癌に対して悪影響を及ぼすことを示唆しており(Clarke及びSutherland、1990;Musgroveら、1991;Horwitz、1992)、疾病リスクの増大を示す報告もある(Colditzら、1995)。これに関連して、DHEAはヒト子宮内膜に対して刺激作用がない(Labrieら、1997c)ため、子宮内膜に対するエストロゲンの潜在的作用を相殺するためにプロゲスチンを投与する必要性がないことを示すことが重要である。
【0046】
乳房に関しては、DHEAは、ラットにおいてジメチルベンゾ(a)アントラセン誘発性乳腺腫瘍の発現を予防すること(Luoら、1997)及びその成長を阻害すること(Liら、1993)が知られている。更に、DHEAは、ヌードマウスにおいてヒト乳癌異種移植片の成長を阻害する(実施例1及びCouillardら、1998を参照のこと)。したがって、刺激作用をもたらすエストロゲン及びプロゲスチンとは逆に、DHEAは、女性における乳癌の発現及び成長を阻害すると推測される。
【0047】
我々の以前の研究において十分に実証されているように、生理学的量の外因性DHEAの補充は、特異的ステロイド産生酵素を含む該当標的組織中でのみ、アンドロゲン及びエストロゲンの生合成を可能にする。このようにして合成された活性アンドロゲン及びエストロゲンは、起源細胞(cell of origin)中に残り、血液循環中への漏出はほとんど起こらない。実際に、DHEA投与の最も顕著な作用は、DHTの代謝産物のグルクロニド誘導体、即ち、ADT-G及び3α-ジオール-Gの血中濃度に対して認められる。これらの代謝産物は、副腎の前駆体DHEA及びDHEA-SからDHTを合成し、その後にDHTを不活性な抱合体(conjugate)に代謝する該当ステロイド産生酵素を有する末梢イントラクリン組織において局所的に産生される(Labrie、1991;Labrieら、1996)。標的組織におけるアンドロゲンのこのような局所生合成及び作用は、アンドロゲンへの他の組織の曝露を排除し、したがって、望ましくない男性化又は他のアンドロゲン関連副作用のリスクを最小限に抑える。同じことがエストロゲンにも当てはまるが、我々は、信頼性のある(アンドロゲンに対するグルクロニドに匹敵する)総エストロゲン分泌のパラメーターをまだ得られていないと感じている。
【0048】
骨の生理機能におけるアンドロゲン及びエストロゲンの役割
骨の生理機能に対するアンドロゲンの主な役割は、文献で十分に裏付けられている(Labrieら、1997c;Martelら、1998)。実際に、テストステロン及びDHTはいずれも、骨芽細胞様骨肉腫細胞においてα(I)プロコラーゲンmRNAの転写を増加させる(Benzら、1991)。DHTによる治療はまた、睾丸切除ラットにおいて軟骨内性骨の発達を刺激することが示されている(Kapur及びReddi、1989)。更に、腰椎、大腿骨転子(femoral trochanter)及び全身において測定された骨塩密度は、閉経後女性において24ヶ月の治療期間にわたって、E2単独よりもエストロゲン+テストステロンインプラントによる方がより多く増加した(Davisら、1995)。
【0049】
更に、確立した骨粗鬆症において、タンパク質同化ステロイドが骨量減少の予防に役立つことが報告されている(Hennernan及びWallach、1957)。同様に、皮下E2及びテストステロンインプラントが、閉経後女性における骨粗鬆症の予防に、経口エストロゲンよりも効果的であることがわかっている(Savvasら、1988)。この研究で観察された差はエストロゲンの投与経路の違いに起因したが、差の原因はテストステロンの作用である可能性が高い。骨形成増加の指数としての、骨形成マーカーである血清オステオカルシンの増加が、エストロゲン単独と比べて、メチルテストステロン+エストロゲンを投与されている閉経後女性において認められた(Raiszら、1996)。血清オステオカルシンに対する同様な刺激作用は、閉経後女性を経皮DHEAで12ヶ月治療後に観察された(Labrieら、1997c)。更に、アンドロゲン療法は、デカン酸ナンドロロンの場合に観察されるように、閉経後女性の腰椎の骨塩密度を増加させることがわかった(Needら、1989)。アンドロゲンは、閉経後女性における特有の作用のために次第に支持を得つつあるが、テストステロンを使用する場合には、男性化作用が観察されている(Burgerら、1984;Studdら、1987)。
【0050】
DHEA及び腹部肥満
腹部肥満は、インスリン抵抗性、2型糖尿病及びアテローム性動脈硬化症のリスクの増加と関連している(Shimokataら、1989;Cefaluら、1995;Ferranniniら、1997;Kopelman、2000)。中でも、ホルモンの変化、特に、副腎によるDHEA及びDHEA-Sの分泌の減少が、関与因子と考えられている(Tchernofら、1996)。ラット及びマウスモデルにおいて、DHEA投与は、食餌性(Yenら、1977;Cleary及びZisk、1986;Mohanら、1990;Hansenら、1997)肥満における内臓脂肪蓄積を低減する。DHEAの有益作用はまた、加齢に伴って起こるインスリン抵抗性の減少に対しても観察された(Hanら、1998)。
【0051】
DHEAクリーム剤を12ヶ月間投与された閉経後女性において実施した試験において、我々は、インスリン抵抗性が低下すると同時に、大腿部の位置の皮下脂肪も減少したことを発見した(Diamondら、1996)。更に、65〜78才の男性及び女性に50mgのDHEAを6ヶ月間連日投与すると、腹部内臓脂肪が女性で10.2%、男性で7.4%減少した(Villareal及びHolloszy、2004)。同じ試験で、腹部皮下脂肪は、男性及び女性のいずれとも、6%減少した。更に、グルコース負荷試験への血清インスリンの応答性は13%低下したが、グルコース応答に変化は認められず、結果としてDHEA投与後のインスリン感受性指数が34%改善された。DHEA作用の改善は、高コレステロール血症を患っている中年男性においても認められた(Kawanoら、2003)。
【0052】
同じグループによって実施された以前の試験において、6ヶ月間のDHEA投与は全身の体脂肪量を1.4kg減少させたが、除脂肪量は0.9kg増加した(Villarealら、2000)。
【0053】
性欲、ホットフラッシュ及び生活の質に対するアンドロゲンの効果
コミュニティベースの試験は、8〜50%の範囲の女性において、自己申告による性機能障害を示唆している。実際に、女性における低性欲及び性機能障害は、卵巣切除後(Nathorst-Boos及びvon Schoultz、1992)の他に、30才代から加齢に伴って増加する(Laumannら、1999)。低い性的興奮及び性的欲求には心理社会的因子及び健康因子が関与する(Dennersteinら、1997)が、低アンドロゲンは独自の役割を果たすと考えられている(Bachmannら、2002;Millerら、2004)。
【0054】
アンドロゲンは、女性の性的興奮性、性的快感並びにオルガズムの強さ及び得やすさに関与することが知られている。アンドロゲンは、膨潤の神経血管平滑筋応答及び潤滑の増加にも関与する(Basson、2004)。エストロゲンは、外陰部及び膣のうっ血性応答に影響を及ぼす。エストロゲンは気分にも影響を及ぼすので、性的関心に影響する(Basson、2004)。DHEAは膣中でアンドロゲン及びエストロゲンの両者に変換される(Sourlaら、1998)(Bergerら、2005)ことを忘れてはならない。
【0055】
更に、ERA又はHRTへのアンドロゲンの追加の詳細な利益は、全般的健康状態、活力、気分及び全般的な生活の質について記載されている(Sherwin及びGelfand、1985;Sherwin、1988)。エストロゲン補充療法(ERT)へのアンドロゲンの追加後には、主な精神症状及び心身症状、即ち、易刺激性、神経過敏、記銘力及び不眠の改善が観察された(Notelovitzら、1991)。
【0056】
性欲減退及び/又は性的満足感低下は、閉経後早期によく見られる。ホルモン補充療法(HRT)へのアンドロゲンの追加は、これらの問題に対して有益作用を有することが知られている。Shifrenら(2000)は、外科的閉経女性において、貼付剤によって投与された経皮的テストステロンが性交頻度、性的快感及び性的気分を改善したことを発見した。この作用は、血清テストステロン濃度を健常者の上限値とする用量である日用量300μgのテストステロンで認められた。テストステロン治療は、性欲減退を訴えるアンドロゲン非欠乏女性においても研究された(Goldstatら、2003)。テストステロンによるこのような治療は、プラセボと比較して、性欲、性機能及び生活の質を改善した。同様に、正常濃度のアンドロゲンを有する閉経女性においても、エストロゲンへのメチルテストステロンの追加が、エストロゲン単独と比較して、性的欲求及び性交頻度を増加させた(Loboら、2003)。性的関心、性的欲求の障害を有する女性のうち、血清遊離テストステロン濃度が基準範囲の下方四分位数内である者に対してアンドロゲン療法が勧められている(Bachmannら、2002)。実際に、性的欲求低下障害(HSDD)の治療へのテストステロンの使用が増加している(Sherwin及びGelfand、1987;Davisら、1995;Shifrenら、2000;Goldstatら、2003)。これらの無作為化臨床試験から、HSDDの女性においてテストステロンが有効であることが明らかである。
【0057】
DHEAのアンドロゲン作用は、ホットフラッシュの低減にも有用なはずである。実際に、アンドロゲン療法は、性腺機能低下症の男性(De Fazioら、1984)及び閉経移行期の女性(Overlieら、2002)においてホットフラッシュの低減に成功している。更に、アンドロゲンの追加は、エストロゲン単独では満足できる結果が得られない女性においてホットフラッシュの軽減に有効であることがわかった(Sherwin及びGelfand、1984)。ホットフラッシュは、女性が最初にHRT療法を受けようとする主な理由の1つであり、エストロゲンはこの症状の緩和に非常に有効である。
【0058】
副腎由来のアンドロゲン欠乏症の性質のよい例は、副腎不全の症例によって示される。(Arltら、1999)は、副腎不全を患っている女性母集団において日用量50mgのDHEA及びプラセボの4ヶ月間の効果を試験した。DHEAによる治療は、低基準範囲の血清テストステロンを上昇させた。このような治療は、性的想像、性的関心及び性的満足の頻度を増加させた。健康状態、抑うつ状態及び不安も改善された。DHEAが300mgの高日用量で投与された試験において、アダルトビデオに応答して、比較的大きい主観的な精神的効果(p<0.016)及び身体的効果(p<0.030)が観察された(Hackbert及びHeiman、2002)。50mgのDHEAを連日投与されている女性において行った試験において、性欲の改善は、70才以上の女性においては観察されたが、60〜70才の女性においては観察されなかった(Baulieu、1999)。DHEAは、ホットフラッシュに対しても有益作用を示した(Baulieu、1999;Stomatiら、2000)。最近のカナダの調査では、開業医の70.8%が、生活の質を向上させるためにエストロゲンにアンドロゲンを追加している(Gelfand、2004)。
【0059】
DHEAの他の潜在的利益
加齢に伴って副腎によるDHEA及びDHEA-Sの形成が70〜95%減少することにより、末梢標的組織におけるアンドロゲン及びエストロゲンの形成が劇的に減少する。これは、インスリン抵抗性(Colemanら、1982;Schriockら、1988)及び肥満(Nestlerら、1988;MacEwen及びKurzman、1991;Tchernofら、1995)などの加齢性疾患の病因に関与する可能性が高い。実際に、乳癌を有する患者において、低いDHEA-S及びDHEA血中濃度が認められ(Zumoffら、1981)、一連の動物モデルにおいて、DHEAが抗発癌活性をもたらすことが判明した(Schwartzら、1986;Gordonら、1987;Liら、1993)。DHEAはまた、インビトロで(Suzukiら、1991)及びインビボでHIV(Hendersonら、1992)を含む真菌性及びウイルス性疾患(Rasmussenら、1992)において免疫調節作用を有することが示された。他方、閉経後女性における免疫系に対するDHEAの刺激作用が文献記載されている(Cassonら、1993)。
【0060】
女性においてDHEAを用いて得られた以前のデータ
エストロゲン補充療法の使用には、エストロゲンによって誘発される子宮内膜増殖を打ち消すためにプロゲスチンの追加が必要であるが、エストロゲン及びプロゲスチンはいずれも乳癌リスクを増大させる可能性があった(Bardonら、1985;Colditzら、1995)。標準エストロゲン(ERT)又はホルモン補充療法(HRT)の制約を回避するために、我々は、骨塩密度、骨形成及び骨代謝回転のパラメーター、血清中の脂質、グルコース及びインスリン、脂肪組織量、筋肉量、活力、健康状態並びに膣及び子宮内膜の組織像に対する、60〜70才の女性への12ヶ月間のDHEA投与の効果を試験した(Diamondら、1996;Labrieら、1997c)。DHEAは、ステロイド前駆体が最初に肝臓を通過しないように経皮投与した。
【0061】
したがって、我々は、60〜70才の女性(N=15)において10%DHEAクリーム剤の1日1回12ヶ月間の適用による長期補充療法の効果を検討した。12ヶ月目の身体測定値は、体重変化は示さなかったが、皮下脂肪の厚さを9.8%低減した(p<0.05)(Diamondら、1996)。骨量密度は、股関節部で2.3%、大腿骨頸部のWard三角で3.75%、腰椎の位置で2.2%増加した(全てp<0.05)。骨塩密度のこれらの変化に付随して、12ヶ月目に、尿中ヒドロキシプロリン及び血漿中骨型アルカリホスファターゼが、それぞれ38%及び22%の著しい低下を示した(全てp<0.05)。付随して、血漿中オステオカルシンが対照に比較して135%増加する(p<0.05)ことが観察され、したがって骨形成に対するDHEAの刺激作用が示唆された。
【0062】
コンピューター断層撮影法による大腿中央部の脂肪及び筋肉面積の測定は、12ヶ月目に大腿部脂肪の3.8%の減少(p<0.05)及び大腿部筋肉面積の3.5%の増加(p<0.05)を示した(Diamondら、1996)。腹部脂肪の測定値には著しい変化が認められなかった。体脂肪及び筋肉表面積のこれらの変化は、空腹時血漿グルコース濃度の12%低下(p<0.05)及び空腹時血漿インスリン濃度の17%低下(p<0.05)と関連が見られた。DHEAによる治療は、脂質像にもリポタンパク質像にも望ましくない作用をもたらさなかった。実際に、総コレステロール分画及びそのリポタンパク質分画に3〜10%の全体的減少傾向が見られた。血漿トリグリセリドには影響が認められなかった。
【0063】
皮脂分泌指数(index of sebum secretion)は、12ヶ月のDHEA療法後に79%増加し、治療中止の3ヶ月後に治療前値に戻った。DHEA投与は、療法開始時に成熟度(maturation value)が0である10人の女性のうち8人において膣上皮の成熟を刺激し、療法前に中間の膣成熟度を有する3人の女性においても刺激が認められた。最も重要なことは、12ヶ月のDHEA治療後の全女性において、膣において観察されるエストロゲンの刺激作用が子宮内膜では認められず、子宮内膜が完全に萎縮したままであったことである(Labrieら、1997c)。
【0064】
これらのデータは、閉経後女性において、特異的イントラクリン標的組織におけるアンドロゲン及び/又はエストロゲンへのDHEAの変換によるDHEA療法の有益作用と、DHEA療法が著しい副作用を伴わないことを明確に示している。DHEAは子宮内膜を刺激しないので、プロゲスチン補充療法の必要性が排除され、したがってプロゲスチン誘発性乳癌の恐れがなくなる。骨塩密度について観察されたDHEAの刺激作用及び骨形成マーカーである血清オステオカルシンの増加は、骨粗鬆症の予防及び治療にとって特に興味深く、骨の生理機能、即ち骨形成に対するDHEAの特有の作用を示している。これに対して、ERT及びHRTは骨量減少速度を減少させることしかできない。
【0065】
アンドロゲンの役割は、抑うつ状態、記憶喪失、認知機能の喪失及び脳細胞活性について提示されている(Almeidaら、2008、Azadら、2003及びHajszanら、2008)。脳内でもDHEAから合成され得るエストロゲンは、アルツハイマー病、記憶喪失及び認知機能の喪失に対して有益な作用があることが示された(Roccaら、2007)。3つのメタアナリシスが、閉経後にエストロゲンを使用した女性においてアルツハイマー病のリスクが20〜40%低下することをを示した(Yaffeら、1998、Leblancら、2001、Hogovorstら、2000)。エストロゲンは脳内へのβアミロイド沈着を低減するが、プロゲステロンは反対の作用を有する(Xuら、1998、Huangら、2004)。
【0066】
エストロゲンの欠乏と認知機能障害又は認知症との関連性は、検査値によって裏付けられている。中でも、エストロゲンは、卵巣切除ラットの海馬中の樹状突起棘上におけるシナプス形成を改善する(Mc Ewen及びAlves、1999、Monk及びBrodatz、2000)。更に、エストロゲンは、脳血流量及びグルコース代謝を改善し、抗酸化物質として作用し得る(Mc Ewen及びAlves、1999;Monk及びBrodatz、2000;Gibbs及びAggamal、1998)。エストロゲンはまた、β-アミロイド1-42による細胞内カルシウムの上昇及びミトコンドリア損傷を予防することが判明している(Chenら、2006、Morrisonら、2006)。
【0067】
現在のところ、神経保護(Roccaら、2007)、心血管疾患(Mansonら、2006)及び全死亡率(Roccaら、2006)に対するエストロゲンの有益作用について、臨界年齢期(critical age window)が存在するという確かな証拠が、臨床試験によって示されている。最良の利益は、E2による治療を早期に開始した場合に認められ、閉経期後に遅れて開始した場合には、場合によっては効果がないかマイナス効果がある(WHI試験)。エストロゲンは脳内へのβ-アミロイド沈着を低減するが、プロゲステロンは反対の作用を有する(Xuら、1998、Huangら、2004)。
【0068】
DHEAの利益:エストロゲン様作用とアンドロゲン作用との組み合わせ
アンドロゲンは、ZR-75-1の成長に対して直接的な抗増殖活性をもたらすことが観察されている。アンドロゲンはまた、ラットにおいてDMBA誘発性乳腺癌腫の成長を阻害し、この阻害が純粋抗アンドロゲン剤フルタミドの同時投与によって反転されることが示されている(Dauvoisら、1989)。総合すれば、これらのデータは、インビトロにおいてヒト乳癌細胞の乳癌に対するDHEAの阻害作用にアンドロゲン受容体が関与すること、及びアンドロゲンのこのような阻害作用が抗エストロゲン剤の阻害作用に対して相加的であることを示している(Poulin及びLabrie、1986;Poulinら、1988)。同様な阻害作用が、ヌードマウスにおけるZR-75-1異種移植片に対してインビボで観察されている(Dauvoisら、1991)。
【0069】
我々は、雌ラット(Luoら、1997)及び閉経後女性(Labrieら、1997c)のいずれにおいても、DHEAが骨に対して有益作用をもたらすことを示した。例えば、無傷雌ラットにおいて、DHEAによる治療は、全骨格、腰椎及び大腿骨の骨塩密度(BMD)を増加させる(Luoら、1997)。
【0070】
本発明は、女性における性ステロイドの生理機能に対する我々の理解において得られた最近の進歩と、閉経期女性は卵巣によるエストロゲン分泌の停止のためにエストロゲンが乏しいだけでなく、既に数年間アンドロゲン曝露低下状態にあるという認識とに基づく。実際には、健常女性は、男性において分泌されるアンドロゲンの2/3に等しい量のアンドロゲンを産生している(Labrieら、1997a)。女性におけるアンドロゲンの貯留は、30才頃から、DHEA及びDHEA-Sの血清濃度の減少と並行して次第に低下する(Labrieら、1997b)。したがって、アンドロゲン及びエストロゲンの両補充療法を閉経周辺期及び閉経後に使用し、それによって各細胞及び組織中におけるこれら2種の性ステロイド間の生理的バランスを維持することは論理にかなっているように思われる。この目標は、末梢組織におけるDHEAなどのステロイド前駆体からのアンドロゲン及びエストロゲンの局所的形成によってのみ達成可能である。SERM様アコルビフェンの追加は、乳癌防御及びSERM投与の他の利益に対するプラス効果を増加させるためである。図8において、古典的ERTのプラス効果及びマイナス効果との比較を行っている。
【0071】
以前のデータは、閉経後女性において、特異的イントラクリン標的組織におけるアンドロゲン及び/又はエストロゲンへのDHEAの変換によるDHEA療法の有益作用と、DHEA療法が著しい副作用を伴わないことを示している。実際に、ラットにおいて得られた我々のデータは、DHEAが、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)の単独使用の場合にはない有益作用を提供できることを明確に示している。
【0072】
アコルビフェンの有益作用:
図7において、腫瘍成長に対するタモキシフェンの約100%の刺激作用が、EM-652.HClによる同時治療によって完全に遮断されたことがわかる。EM-652.HClは、その純粋な抗エストロゲン活性と一致して、ヌードマウスにおけるヒト乳癌ZR-75-1異種移植片の成長に対しては刺激作用をもたらさなかった。
【0073】
我々は、ステロイド性抗エストロゲン剤フルベストラント(Faslodex、ICI 182,780)を試験し、それがSERMとしては機能しないことを発見したが、抗エストロゲン剤フルベストラントは、本発明においては乳癌予防のためにDHEAと併用できる。当業界がSERMとしてではなく抗エストロゲン剤として使用している場合であっても、本発明によれば、SERMは当業界で知られているのと同じ投与量で投与できる。
【0074】
我々はまた、血清コレステロールに対するSERMの有益作用と骨に対するエストロゲン又はエストロゲン様作用との間に相関があることを確認した。SERMはまた、高血圧症、インスリン抵抗性、糖尿病及び肥満(特に腹部肥満)に対して有益作用を有する。理論に拘束されるものではないが、SERMは、その多くが好ましくは1〜2個の炭素原子によって結合されている2つの芳香環を有し、エストロゲン受容体によって最もよく認識される分子の前記部分によってエストロゲン受容体と相互作用すると推測されると考えられる。好ましいSERMは、乳房組織及び通常は子宮組織において選択的にアンタゴニスト特性をもたらし得るが他の組織においては有意なアンタゴニスト特性を有さない側鎖を有する。したがって、SERMは乳房においては抗エストロゲン剤として望ましく機能でき、骨及び血液中では意外なことにエストロゲンとして望ましく機能する(又はエストロゲン様活性を示す)ことができる(その場合、脂質及びコレステロールの濃度が有利に影響される)。コレステロール及び脂質に対するこの有利な作用は、コレステロール及び脂質の不適当な濃度によって悪化することが知られているアテローム性動脈硬化症に対する有利な作用につながる。
【0075】
図9において明らかなように、17β-エストラジオールの血中濃度は、無傷動物において95.9±32.4pg/mlから143.5±7.8pg/mlに上昇した(0.5mg/kgのEM-800を12週間、毎日経口的に治療された動物において50%の上昇)が、乳腺の顕著な萎縮が観察された。同様に、図10において、EM-800(0.5mg/kg)を投与された動物において、子宮内膜の顕著な萎縮が観察された。純粋抗エストロゲン剤EM-800を投与されたこれらの無傷動物においては、視床下部-下垂体レベルでのエストロゲンの阻害作用が取り除かれ、したがってLHの増加、次いで卵巣による17β-エストラジオールの二次的増加がもたらされた。
【0076】
ホットフラッシュ、心血管症状、アルツハイマー病、認知機能の喪失及び不眠症が、中枢神経系に位置するエストロゲン受容体に関連することは確かである。脳中のエストロゲン濃度が低いことが、少なくとも一部分はこれらの病態を説明できると思われる。外因性エストロゲン、特に性ステロイド前駆体の投与によって形成されるエストロゲン(即ち、エストラジオール)は、脳関門(brain barrier)を通過し、エストロゲン受容体に結合することによって、正常なエストロゲン作用を回復することができる。他方、本発明のSERM、より具体的にはアコルビフェン系のSERMは、実施例8において示すように、脳関門を通過できない。したがって、これらは脳内ではエストロゲンのプラス効果に拮抗する可能性がなく、乳房、子宮及び子宮内膜組織中ではエストロゲンのマイナス効果に拮抗するので、この組み合わせ(SERM+性ステロイド前駆体)は、前記病態の治療又は前記病態の罹患リスクの低減にとって特に魅力的である。
【0077】
既述のように、アンドロゲンが果たす役割はまた、これらの症状全てについて示唆されている。実際に、DHEAは、脳内で生理的要求に従ってエストロゲンとアンドロゲンの両方を形成することができる。
【0078】
性ステロイド前駆体とSERM又は抗エストロゲン剤との組み合わせの全体的な相加的利益
女性が閉経期に開業医を受診する主な理由は、エストロゲン補充療法によって排除されることがよく知られている問題である、ホットフラッシュの発生である。ホットフラッシュに関与する部位は中枢神経系(CNS)であり、EM-652はCNSに非常に接近しにくい(データは同封されている)。このため、性ステロイド前駆体の投与は、SERMによって妨げられることなく、中枢神経系のエストロゲン濃度を増加させ、ホットフラッシュを抑えると予想される。他方、SERMは他の部位におけるエストロゲンのマイナス効果、特に乳癌及び子宮癌のリスクを全て排除する。実際に、性ステロイド前駆体へのEM-652の追加は、形成エストロゲンの乳腺及び子宮に対する刺激作用を遮断し、他の組織においては、例えば骨に対するそれ自身の有益作用を及ぼし、その場合、骨塩密度に対する卵巣切除の影響を部分的に反転する。
【0079】
我々のデータは、DHEAがホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗を低減できることを示しているので、我々は、E2を除去することによって乳癌リスクを低減する。しかし、DHEAはわずかにエストロゲンに変換される可能性があるので、SERMが必要である。
【0080】
いずれのパラメーターに対してもEM-652の有害作用は認められず、EM-652は、乳癌及び子宮癌の予防及び治療に顕著な有益作用を及ぼすはずである。
【0081】
本明細書中に記載する好ましいSERM又は抗エストロゲン剤は、(1)本発明に感受性であると述べた全ての疾患に;(2)治療的適用及び予防的適用の両方に,並びに(3)好ましい医薬組成物及びキットに関する。
【0082】
所与の疾患の治療又は発症リスクの低減を必要とする患者は、このような疾患と診断された患者又はこのような疾患を罹患しやすい患者である。
【0083】
特に断る場合を除いて、本発明の活性化合物の好ましい投与量(投与濃度及び投与方法)は、治療目的及び予防目的の両者について同一である。本明細書中に記載する各活性成分の投与量は、治療される疾患(又は発症の可能性が低減される疾患)に関わらず、同一である。
【0084】
特に明記する場合又は文脈から明らかな場合を除いて、本明細書中での投与量は、医薬賦形剤、希釈剤、担体又は他の成分によって影響されない活性化合物の重量を意味するが、本明細書中の実施例に示されるような追加成分を含めるのが望ましい。医薬業界において一般に使用される任意の剤形(カプセル剤、丸剤、錠剤、注射剤など)が本発明における使用に適切であり、用語「賦形剤」、「希釈剤」又は「担体」は、当業界においてこのような剤形中に活性成分と共に典型的に含まれるような非活性成分を包含する。例えば、典型的なカプセル剤、丸剤、腸溶コーティング、固体又は液体の希釈剤又は賦形剤、矯味矯臭剤、保存剤などが挙げられる。
【0085】
本明細書中に記載する任意の療法に使用される活性成分は全て、1種又は複数の他の活性成分を更に含む医薬組成物中に配合できる。或いは、それらはそれぞれ、別個であるが時間的には十分に同時に投与して、患者が最終的に高い血中濃度を有するか又はそうでなければ、各活性成分(若しくはストラテジー)の利益を同時に享受するようにできる。本発明の一部の好ましい実施形態において、例えば、1種又は複数の活性成分を、単一の医薬組成物中に配合できる。本発明の他の実施形態において、少なくとも1つの容器の内容物が、含まれる活性成分に関して、全部又は一部において少なくとも1つの他の容器の内容物と異なる少なくとも2つの別個の容器を含むキットを提供する。
【0086】
本明細書中に記載した併用療法はまた、当該疾病の治療(又はリスク低減)のための医薬品の製造への(組み合わせの)1種の活性成分の使用を含み、治療又は予防は本発明による組み合わせの別の活性成分を更に含む。例えば、一実施形態において、本発明は、本発明の併用療法が有効であると考えられる疾病(即ち、ホットフラッシュ、発汗、月経不順及び閉経関連症状)のいずれかの治療に、インビボで性ステロイド前駆体と併用される医薬品の調製へのSERMの使用を提供する。
【0087】
エストロゲンは、乳房上皮細胞の増殖を刺激することがよく知られており、細胞の増殖自体が、異常増殖を引き起こす恐れがある偶発的な遺伝的エラーの集積によって発癌リスクを増大させると考えられている(Preston Martin etら、1990)。この考えに基づき、乳癌の予防のために、エストロゲンによって刺激される細胞分裂速度を低減する目的で、抗エストロゲン剤を採用した。
【0088】
我々はまた、ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳癌異種移植片の成長に対する、新規抗エストロゲン剤(EM-800)の阻害作用と性ステロイド前駆体(DHEA)の阻害作用との相互作用の可能性を2種の薬物の併用投与によって試験した。図3及び4は、DHEA自体は使用用量において腫瘍成長を50〜80%阻害し、低用量の抗エストロゲン剤によって達成された腫瘍成長のほぼ完全な阻害がDHEAによって影響されなかったことを示している。
【0089】
骨塩密度(BMD)測定の制約はよく知られている。一例として、BMD測定値は、ステロイド性抗エストロゲン剤ICI 182780で治療されたラットにおいては変化を示さなかった(Wakeling、1993)が、組織形態計測によって阻害性の変化が認められた(Gallagherら、1993)。同様な差異が、タモキシフェンに関しても報告された(Jordanら、1987;Sibongaら、1996)。
【0090】
骨塩密度の低下は、骨強度の低下と関連する唯一の異常ではないことを示す必要がある。したがって、種々の化合物及び治療によって誘発される骨代謝の生化学的パラメーターの変化の分析により、それらの作用をよりよく知ることが重要である。
【0091】
特に重要なことは、DHEAとEM-800との組み合わせが、骨代謝の重要な生化学的パラメーターに対して予想外の有益作用をもたらしたことを示すことである。実際に、DHEAは単独では、骨吸収マーカーである尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニン比に影響を及ぼさなかった。更に、カルシウム又はリンの1日尿中排泄量に対するDHEAの作用は検出できなかった(Luoら、1997)。EM-800は、尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニン比を48%低下させたが、DHEAと同様に、カルシウム又はリンの尿中排泄量に対してEM-800の作用は認められなかった。更に、EM-800は、骨形成マーカーである血清アルカリホスファターゼ活性に対しても作用を有さなかったが、DHEAはこのパラメーターの値を約75%上昇させた(Luoら、1997)。
【0092】
DHEAとEM-800との組み合わせの予想外の作用の1つは、骨吸収マーカーである尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニン比に関連し、この比は、DHEAとEM-800とを組み合わせた場合には69%低下し、この値は、EM-800単独で達成された48%の阻害と統計的に差があった(p<0.01)。ちなみに、DHEAは単独では作用を生じなかった。したがって、EM-800へのDHEAの追加は、骨再吸収に対するEM-800の阻害作用を50%増加させる。最も重要なことには、EM-800へのDHEAの追加の、別の予想外の作用として、尿中カルシウムの約84%低下(23.17±1.55μmol/24時間/100gから3.71±0.75μmol/24時間/100gまで(p<0.01))及び尿中リンの55%低下(132.72±6.08μmol/24時間/100gから59.06±4.76μmol/24時間/100gまで(p<0.01))が認められた(Luoら、1997)。
【0093】
重要なことには、EM-800とDHEAとの組み合わせは、12ヶ月間治療された卵巣切除ラットにおいて、骨形態計測に対して有益作用を生じた。海綿骨体積は、骨強度に及び骨折予防に特に重要である。したがって、前記試験において、脛骨の海綿骨体積は、卵巣切除ラットにおいてDHEA単独によって4.1±0.7%から11.9±0.6%まで増加し(p<0.01)、DHEAへのEM-800の追加によって、14.7±1.4%まで更に増加し、これは無傷対照群においてみられる値と同様な値である(図15)。
【0094】
DHEAの治療は、海綿骨梁数を卵巣切除ラット群における0.57±0.08個/mmの値から、卵巣切除対照群と比較して137%増加させた。したがって、DHEAの刺激作用は1.27±0.1個/mmに達し、EM-800及びDHEAによる同時治療は、DHEA単独で達成された値と比較して、海綿骨梁数を更に28%増加させた(p<0.01)(図16)。同様に、DHEA治療へのEM-800の追加は、DHEA単独によって達成された値と比較して、海綿骨分離を更に15%(p<0.05)低減し、したがって、無傷対照群においてみられる値と差がない値を生じた。
【0095】
図中15、16に示した数値データを補うものとして、図17は、卵巣切除対照群(B)と比較した、卵巣切除治療動物群(C)におけるDHEAよって誘発された脛骨近位端骨幹端の海綿骨体積の増加と、DHEA治療へのフルタミド追加後(D)のDHEAの刺激作用の部分阻害を示している。他方、DHEAとEM-800との併用投与は、卵巣切除誘発性骨減少を完全に予防し(E)、海綿骨体積は、無傷対照群(A)においてみられる値に匹敵した。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
骨組織形態計測に対するDHEAの刺激作用のアンドロゲン成分の重要性は、骨形成マーカー及び骨吸収マーカーに対するDHEAの作用によっても裏付けられる。骨形成マーカーである血清アルカリホスファターゼの濃度(Meunierら、1987;Lauffenburgerら、1977)は、OVC対照群の51±4IU/Lから、DHEA治療動物群で201±25IU/Lまで上昇し、DHEAの骨形成に対する刺激作用を示唆した(Table 2(表2))。FLUは、このパラメーターに対するDHEAの刺激作用を65%反転したが、EM-800は顕著な作用を生じなかった。他方、コラーゲン分解の間に放出されるヒドロキシプロリンはコラーゲン合成において再利用されないので、コラーゲン代謝又は破骨細胞骨吸収の有用なマーカーである。この試験において、尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニン比はOVX対照群の11.7±1.2mol/mmolからDHEA治療ラット群の7.3±1.0mol/mmolへと低下した(p<0.05)(Table 2(表2))。FLUの投与は、このパラメーターに対するDHEAの阻害作用を完全に防いだが、EM-800は、DHEAの作用に統計的に有意な影響を及ぼさなかった。
【0099】
更に、血清コレステロールは、DHEA治療によって2.29±0.16mmol/lから1.78±0.16mmol/lまで22%低下し(p<0.05)、作用は、純粋抗アンドロゲン剤FLUによる同時治療によって相殺された。他方、純粋抗エストロゲン剤EM-800の追加は、総血清コレステロールを更に0.63±0.09mmol/lまで低下させ(p<0.01)、したがって65%の阻害作用に達した。使用した治療のいずれによっても、血清トリグリセリド濃度には統計的に有意な変化が観察されなかった(Table 2(表2))。
【0100】
また、血清コレステロールに対するEM-800の強力な阻害作用がDHEAによる同時治療によって予防されないことに注目することが重要である(Luoら、1997)。
【0101】
女性において閉経期に観察される骨量減少は、骨形成の二次的増加によっては十分に補償されない骨吸収速度の増加に関連すると考えられる。実際に、骨形成及び骨吸収の両パラメーターは骨粗鬆症において上昇し、骨形成及び骨吸収はいずれも、エストロゲン補充療法によって阻害される。したがって、骨形成に対するエストロゲン補充の阻害作用は、一次的なエストロゲン誘発性骨吸収減少が骨形成の減少を伴うような、骨吸収と骨形成との連関メカニズムによって起こると考えられる(Parfitt、1984)。
【0102】
海綿状骨の骨強度及びその後の骨折抵抗は、海綿状骨の総量だけでなく、骨梁の数、サイズ及び分布によって決定される骨梁の微細構造に左右される。閉経後女性における卵巣機能低下は、総海綿骨体積の有意な減少を伴い(Melsenら、1978;Vakamatsouら、1985)、これは、骨梁の数の減少及びそれほどにないにせよ、骨梁の幅の減少に主に関連する(Weinstein及びHutson、1987)。
【0103】
本発明の併用療法の態様が本明細書中に記載した全ての適応症に役立つように、本発明は、同時投与用の単一組成物中にSERM及び性ステロイド前駆体を含む医薬組成物を企図する。組成物は、経口投与、皮下注射、筋肉内注射又は経皮投与を含むがこれらに限定されない任意の常法による投与に好適であることができる。他の実施形態において、別個の容器又は1つの容器中に1種又は複数のSERM及び性ステロイド前駆体を含むキットを提供する。キットは、経口投与に適切な物質、例えば、錠剤、カプセル剤、シロップ剤など、及び経皮投与に適切な物質、例えば、軟膏剤、ローション剤、ゲル剤、クリーム剤、持続放出貼付剤などを含むことができる。
【0104】
出願人らは、SERM又は抗エストロゲン剤及び性ステロイド前駆体の投与が、ホットフラッシュ及び発汗の治療及び/又は発生率の低減に有用であると考える。本発明の活性成分(SERM、抗エストロゲン若しくは前駆体又はその他のいずれであっても)は、種々の方法で配合及び投与できる。本発明に従って一緒に投与する場合、活性成分は同時に又は別個に投与できる。
【0105】
経皮投与又は経粘膜投与用の活性成分は、好ましくは0.01〜1%のDHEA又は5-ジオールである。或いは、活性成分は、当業界で知られている構造、例えば、欧州特許第0279982号に記載されているような構造を有する膣リング若しくは経皮貼付剤中に、又は膣内クリーム剤、ゲル剤、卵形剤(ovule)若しくは坐剤中に入れることができる。
【0106】
軟膏剤、ローション剤、ゲル剤、クリーム剤、卵形剤又は坐剤などとして配合する場合には、活性化合物は、ヒトの皮膚又は粘膜と適合性であり、皮膚又は粘膜からの化合物の経皮的又は経粘膜的浸透を増進する好適な担体と混合する。好適な担体は当業界で知られており、Klucel HF及びGlaxal基剤が挙げられるが、これらに限定するものではない。一部の担体は市販されており、例えば、Glaxal基剤はGlaxal Canada Limited Companyから入手可能である。他の好適なビヒクルは、Koller及びBuri、S.T.P Pharma 3(2)、115〜124頁、1987に記載されている。担体は好ましくは、活性成分が使用濃度において周囲温度で可溶なものである。担体は、組成物が適用された皮膚又は粘膜の局部に阻害剤を保持するのに十分な粘度を有する必要があり、皮膚又は粘膜の局部から、望ましい臨床効果をもたらす血流中に前駆体を相当量浸透させるのに十分な時間、流れたり蒸発したりしてはならない。担体は典型的には、数種の成分、例えば、薬学的に許容される溶媒及び増粘剤の混合物である。有機溶媒と無機溶媒との混合物は、親水性及び親油性溶解性を促進することができ、例えば、水とエタノールなどのアルコールとの混合物であることができる。
【0107】
卵形剤又は膣坐剤などとして配合する場合には、活性化合物は、ヒト膣粘膜と適合性の好適な担体と混合する。好ましい担体はハードファット(hard fat)(飽和脂肪酸のグリセリドの混合物)、具体的にはWitepsol、特にWitepsol H-15基剤(Medisca(Montreal、Canada)から入手可能)である。任意の他の親油性基剤、例えば、Fattibase、Wecobee、カカオバター、カカオ脂又はWitepsol基剤の他の組み合わせも使用できるであろう。
【0108】
好ましい性ステロイド前駆体は、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)(Proquina(Orizaba、Veracruz、Mexico)から入手可能)である。
【0109】
担体はまた、軟膏剤、ローション剤及び坐剤に一般に使用されている、化粧品業界及び医療業界でよく知られている種々の添加剤を含むことができる。例えば、フレグランス、酸化防止剤、パーフューム、ゲル化剤、増粘剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、界面活性剤、安定剤、皮膚軟化剤、着色剤及び他の同様な作用剤が存在できる。
【0110】
本発明による治療は、不確定な継続に好適である。SERM又は抗エストロゲン化合物並びに性ステロイド前駆体は、経口経路によっても投与でき、常用の医薬賦形剤、例えば、噴霧乾燥ラクトース、微結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムと配合して、経口投与用の錠剤又はカプセル剤の形態とすることができる。
【0111】
活性物質は、固体の粉状担体物質(例えば、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム又はリン酸二カルシウム)及び結合剤(例えば、ポリビニルピロリドン、ゼラチン又はセルロース誘導体)と、場合によっては滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、「Carbowax」又はポリエチレングリコール)を更に添加することによって混合することによって、錠剤又は糖衣錠コアとすることができる。言うまでもなく、経口投与剤形の場合には、矯味剤を添加するとができる。
【0112】
更なる剤形として、プラグカプセル剤(plug capsule)、例えば、硬ゼラチンのプラグカプセル剤、及び軟化剤又は可塑剤、例えば、グリセリンを含む密封軟ゼラチンカプセル剤を使用することもできる。プラグカプセル剤は活性物質を、好ましくは粒質物の形態で、例えば、充填剤(例えば、ラクトース、サッカロース、マンニトール、デンプン(例えば、ジャガイモデンプン又はアミロペクチン)、セルロース誘導体又は高分散ケイ酸)と混合して含む。軟ゼラチンカプセル剤中には、活性物質が好ましくは好適な液体、例えば、植物油又は液体ポリエチレングリコールに溶解又は懸濁されている。
【0113】
ローション剤、軟膏剤、ゲル剤又はクリーム剤は、過剰分がはっきり見えることがないように皮膚に十分に擦り込まなければならず、経皮的浸透のほとんどが起こるまで、好ましくは少なくとも4時間、より好ましくは少なくとも6時間、皮膚のその部分を洗浄してはならない。
【0114】
経皮貼付剤は、公知の技術に従って前駆体の送達に使用できる。経皮貼付剤は典型的には、はるかに長期間、例えば、1〜4日間適用するが、典型的には活性成分を比較的小さい表面積に接触させ、活性成分の緩徐な持続する送達を可能にする。
【0115】
既に開発され、使用されている多くの経皮薬物送達システムが、本発明の活性成分の送達に好適である。放出速度は典型的には、マトリックス拡散によって、又は活性成分の制御膜通過によって制御される。
【0116】
経皮デバイスの機械的態様は当業界でよく知られており、例えば、参照によって本明細書中に組み込まれている米国特許第5,162,037号、第5,154,922号、第5,135,480号、第4,666,441号、第4,624,665号、第3,742,951号、第3,797,444号、第4,568,343号、第5,064,654号、第5,071,644号、第5,071,657号において説明されている。更なる背景は、欧州特許第0279982号及び英国特許出願第2185187号によって提供される。
【0117】
デバイスは、粘着性マトリックス及びリザーバー型経皮送達デバイスを含む、当業界で知られている任意の一般型であることができる。デバイスは、活性成分及び/又は担体を吸収する繊維を組み込んでいる薬物含有マトリックスを含むことができる。リザーバー型デバイスにおいては、リザーバーは、担体及び活性成分を浸透させないポリマー膜によって輪郭を示されてもよい。
【0118】
経皮デバイスにおいて、デバイス自体は、活性成分を、皮膚表面の目的とする局部と接触した状態に保つ。このようなデバイスにおいて、活性成分用の担体の粘度は、クリーム剤又はゲル剤の場合ほど重要ではない。経皮デバイスの溶媒系としては、例えば、オレイン酸、直鎖アルコール乳酸エステル及びジプロピレングリコール、又は当業界で知られている他の溶媒系が挙げられる。活性成分は担体中に溶解又は懸濁させることができる。
【0119】
皮膚に付着させるために、経皮貼付剤は、中央に孔が開けられている外科用粘着テープ上に取り付けられることができる。粘着剤は、使用前は、保護用の剥離ライナーで覆われているのが好ましい。剥離ライナーに好適な典型的な材料としては、ポリエチレン及びポリエチレンコート紙が挙げられ、除去を容易にするためにシリコーンコートされているのが好ましい。デバイスを適用するためには、剥離ライナーを剥がして、粘着剤を患者皮膚に付着させるだけでよい。参照によって開示が本明細書中に組み込まれている米国特許第5,135,480号において、Bannonらは、皮膚にデバイスを固定する非粘着性手段を有する別のデバイスを記載している。
【0120】
SERM、抗エストロゲン剤及び性ステロイド前駆体は、それぞれの血清濃度を所望のレベルにするのに十分な方法及び投与量で投与すれば十分である。本発明の併用療法によれば、性ステロイド前駆体濃度が所望のパラメーター内に保たれると同時に、SERM濃度が所望のパラメーター内に保たれる。
【0121】
1つの好ましい性ステロイド前駆体はDHEAであるが、DHEA-S及び以下に記載する類似体もまた、以下に記載する理由から特に有効である。
【0122】
本発明の選択的エストロゲン受容体モジュレーターは、a)両芳香環がヒドロキシル基又はインビボでヒドロキシル基に転化される基によって置換されているか又は置換されていない、1〜2個の介在炭素原子によって離間されている2つの芳香環と、b)芳香環及び第3級アミン官能基又はその塩を有する側鎖とを特徴とする分子式を有する。
【0123】
本発明の1つの好ましいSERMは、アコルビフェン
【化2】
【0124】
である。アコルビフェン(EM-652.HCl;EM-1538とも称する)は、強力な抗エストロゲン剤EM-652の塩酸塩である。これは、米国特許第6,710,059B1号に開示されている。別の好ましいSERMは、ラソフォキシフェン(Oporia;CP-336,156;(-)-シス-(5R,6S)-6-フェニル-5-[4-(2-ピロリジン-1-イルエトキシ)フェニル]-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-2-オール,D-(-)-酒石酸塩)(Pfizer Inc.(USA)から入手可能)である。
【0125】
別の好ましいSERMは、Wyeth Ayers(USA)によって開発され、JP10036347(特開平10-36347号公報)に開示され(American Home Products Corporation)、閉経後骨粗鬆症の予防薬として米国で認可されているバゼドキシフェン(TSE 424;WAY-TSE 424;WAY 140424; 1-[[4-[2-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)エトキシ]フェニル]メチル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1H-インドール-5-オール,アセテート)、及びWO97/32837に記載されている非ステロイド系エストロゲン誘導体である。本発明の他の好ましいSERMとしては、タモキシフェン((Z)-2-[4-(1,2-ジフェニル-1-ブテニル)フェノキシ]-N,N-ジメチルエタンアミン)(Zeneca(UK)から入手可能)、トレミフェン((Z)-2-[4-(4-クロロ-1,2-ジフェニル-1-ブテニル)フェノキシ]-N,N-ジメチルエタンアミン)(Orion(Finland)から商標Farestonとして又はSchering-Ploughから入手可能)、ドロロキシフェン((E)-3-[1-[4-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]フェニル]-2-フェニル-1-ブテニル]フェノール)、並びにEli Lilly and Co.(USA)製のラロキシフェン([2-(4-ヒドロキシフェニル)-6-ヒドロキシベンゾ[b]チエン-3-イル] [4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]メタノンヒドロクロリド)、LY335124、LY326315、LY335563(6-ヒドロキシ-3-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェノキシル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)ベンゾ[b]チオフェンヒドロクロリド)及びアルゾキシフェン(Arzoxifene)(LY353381、6-ヒドロキシ-3-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェノキシル]-2-(4-メトキシフェニル)ベンゾ[b]チオフェンヒドロクロリド)が挙げられる。他の好ましいSERMは、イドキシフェン((E)-1-[2-[4-[1-(4-ヨードフェニル)-2-フェニル-1-ブテニル]フェノキシ]エチル]ピロリジン)(SmithKline Beecham、USA)、レボルメロキシフェン(Levormeloxifene)(3,4-トランス-2,2-ジメチル-3-フェニル-4-[4-(2-(2-(ピロリジン-1-イル)エトキシ)フェニル]-7-メトキシクロマン)(Novo Nordisk,A/S、Denmark)(ShalmiらのWO97/25034、WO97/25035、WO97/25037、WO97/25038、及びKorsgaardらのWO97/25036に開示されている)、GW5638(Willsonら、1997によって記載されている)、及びインドール誘導体(Millerら、EP0802183A1に開示されている)である。更に以下の化合物も挙げられる:イプロキシフェン(Iproxifen)(TAT 59;(E)-4-[1-[4-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]フェニル]-2-[4-(1-メチルエチル)フェニル]-1-ブテニル]フェノール二水素リン酸塩)(大鵬薬品工業株式会社(日本)から入手可能)、オスペミフェン(Ospemifene)(FC 1271;((Z)-2-[4-(4-クロロ-1,2-ジフェニル-1-ブテニル)フェノキシル]エタノール)(Orion-Farmos Pharmaceutica(Finland)から入手可能)、SERM 3471、HMR 3339及びHMR 3656(Sanofi-Aventis(France)製)、SH 646(Schering AG(Germany)製)、ピペンドキシフェン(ERA 923)(Wyeth-Ayersによって開発)、WO97/32837に記載された非ステロイド系エストロゲン誘導体、フィスペミフェン(Fispemifene)(QuatRx(USA)によって開発)並びにCC 8490(Celgene(USA)によって開発)。
【0126】
製造業者によって推奨されるように、効力の必要に応じて使用される任意のSERMを使用できる。適切な投与量は当業界で知られている。本発明によれば、市販されている任意の他の非ステロイド系抗エストロゲン剤を使用できる。SERMと同様な活性を有する任意の化合物(例えば、ラロキシフェン)を使用できる。
【0127】
本発明に従って投与するSERMは好ましくは、経口投与の場合には、0.01〜10mg/kg体重/日(好ましくは0.05〜1.0mg/kg)の投与量範囲で投与し(ヒトの平均体重当たり5mg/日、特に10mg/日を2つの均等分割用量で投与するのが好ましい)、又は非経口投与(即ち、筋肉内投与、皮下投与又は経皮投与)の場合には、0.003〜3.0mg/kg体重/日(好ましくは0.015〜0.3mg/ml)の投与量範囲で投与する(ヒトの平均体重当たり1.5mg/日、特に3.0mg/日を2つの均等分割用量で投与するのが好ましい)。好ましくは、SERMは、以下に記載する薬学的に許容される希釈剤又は担体と共に投与する。
【0128】
本発明の1つの好ましい抗エストロゲン剤は、250mg/月の投与量で筋肉内投与される、AstraZeneca Canada Inc.(Mississauga、Ontario、Canada)から入手可能なフルベストラント(Faslodex、ICI 182 780)、7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-ペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオール)である。
【0129】
本明細書中で推奨する投与量の全てに関して、担当臨床医は、個々の患者の応答を監視し、それに応じて投与量を調節する必要がある。
【実施例】
【0130】
(実施例1)
乳腺において、アンドロゲンは、前駆体ステロイドであるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)から形成される。臨床的エビデンスは、アンドロゲンが乳癌に対する阻害作用を有することを示している。他方、エストロゲンは、乳癌の発現及び成長を刺激する。我々は、卵巣切除ヌードマウスにおいてヒト乳癌細胞株ZR-75-1によって形成される腫瘍異種移植片の成長に対する、DHEAの単独効果又はDHEAと新規に記載された純粋抗エストロゲン剤EM-800との併用効果を試験した。
【0131】
マウスに、エストロン(卵胞ホルモン)0.5μgを卵巣切除直後から連日皮下注射した。EM-800(15、50又は100μg)は、1日1回経口的に与えた。DHEAは、単独で又は経口日用量15μgのEM-800と組み合わせて、背面皮膚に1日2回(総用量0.3、1.0又は3.0mg)適用した。治療に応答した腫瘍サイズの変化を、1日目に行った測定との関連で定期的に評価した。実験の最後に、腫瘍を切開し、秤量した。
【0132】
エストロンのみを投与された卵巣切除マウスにおいては、エストロゲンを投与されなかったマウスと比較して、9.5ヶ月で腫瘍サイズの9.4倍の増加が観察された。エストロンを補充された卵巣切除マウスへの15、50又は100μgのEM-800投与はそれぞれ、腫瘍サイズを88%、93%及び94%阻害した。他方、DHEAは0.3、1.0又は3.0mgの用量で最終腫瘍重量をそれぞれ67%、82%及び85%阻害した。種々の用量の経皮DHEAの投与の有無に関わらず、経口日用量15μgのEM-800によって、腫瘍サイズの同等の阻害が得られた。DHEAとEM-800とは、ヌードマウス中のエストロン刺激ZR-75-1マウス異種移植片腫瘍の成長を独立して抑制した。規定用量のDHEAの投与は、EM-800の阻害作用を変化させなかった。
【0133】
材料及び方法
ZR-75-1細胞
ZR-75-1ヒト乳癌細胞は、American Type Culture Collection(Rockville、MD)から入手し、文献記載された方法(Poulin及びLabrie、1986;Poulinら、1988)で、空気95%/CO25%の加湿雰囲気下で37℃において、2mM L-グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、ペニシリン100IU/ml、ストレプトマイシン100μg/ml及び10%ウシ胎児血清が補充されたRPMI 1640培地中でルーチン的に単層培養した。細胞は、週1回、0.05%トリプシン:0.02%EDTA(w/v)で処理後に継代培養した。この報告に記載する実験に用いた細胞培養物は、細胞株ZR-75-1の継代93に由来した。
【0134】
動物
雌ホモ接合Harlan Sprague-Dawley(nu/nu)胸腺欠損マウス(日齢28〜42日)を、HSD(Indianapolis、Indiana、USA)から入手した。マウスは、層流フード内に保ち、また病原体制限条件下に保持した、エアフィルタートップを備えたビニルケージ中に収容した。ケージ、床敷(bedding)及び飼料は、使用前にオートクレーブした。水は、オートクレーブし、pH2.8に酸性化し、自由に摂取させた。
【0135】
細胞の接種
マウスは、腫瘍細胞接種の1週間前に、アベルチン(Avertin)(アミルアルコール:0.8g/100ml(0.9%NaCl);及びトリブロモエタノール:2g/100ml(0.9%NaCl))0.25ml/マウスの腹腔内注射による麻酔下で、両側卵巣切除(OVX)した。前述のようにして(Dauvoisら、1991)、0.05%トリプシン/0.02%EDTA(w/v)による単層処理後に、対数増殖期のZR-75-1細胞1.5×106個を採取し、25%マトリゲル(Matrigel)を含む培地0.1ml中に懸濁させ、長さ1インチの20ゲージの針を用いてマウスの両側腹部の皮下に接種した。腫瘍の成長を促進するために、各マウスに、0.9%NaCl-5%エタノール-1%ゼラチンからなるビヒクル中エストラジオール(E2)10μgを5週間、連日皮下注射した。触知可能なZR-75-1腫瘍の出現後、腫瘍直径をキャリパーで測定し、0.2〜0.7cmの腫瘍直径を有するマウスをこの試験のために選択した。
【0136】
ホルモン治療
対照OVX群を除く全動物に、0.2mlの0.9%NaCl-5%エタノール-1%ゼラチン中エストロン(E1)0.5μgを連日皮下注射した。指示群には、DHEAを、腫瘍成長領域外の背面皮膚領域に0.3、1.0又は3.0mg/動物の用量を0.02mlの容量で1日2回経皮投与した。DHEAは、50%エタノール-50%プロピレングリコール中に溶解させた。EM-800、((+)-7-ピバロイルオキシ-3-(4’-ピバロイルオキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-(2’’’-ピペリジノエトキシ)フェニル)-2H-ベンゾピラン)は、Laboratory of Molecular Endocrinology of the CHUL Research Centerの医薬化学部門において、既に文献記載されている方法(Gauthierら、J.Med.Chem. 40:2117〜2122頁、1997)で合成された。EM-800は、4%(v/v)エタノール-4%(v/v)ポリエチレングリコール(PEG)600-1%(w/v)ゼラチン-0.9%(w/v)NaCl中に溶解させた。指示群の動物に、経口日用量15μg、50μg又は100μgのEM-800を、単独で又はDHEAと組み合わせて投与し、OVX群の動物にビヒクルのみを(4%エタノール-4%PEG600-1%ゼラチン-0.9%NaClを0.2ml)投与した。腫瘍の測定は、Vernierキャリパーを用いて1週間に1回行った。2つの直交直径(cm)(L及びW)を記録し、式:L/2×W/2×π(Dauvoisら、1991)を用いて腫瘍面積(cm2)を算出した。治療1日目に測定された面積を100%と見なし、腫瘍サイズの変化を、初期腫瘍面積の百分率として表した。皮下腫瘍の場合には一般的に、腫瘍の三次元体積の正確な評価は不可能であるので、腫瘍面積のみを測定した。291日(又は9.5ヶ月)の治療後に、動物を屠殺した。
【0137】
応答のカテゴリーは、文献記載の方法で評価した(Dauvoisら、1989a;Dauvoisら、1989b;Labrieら、1995b)。約言すれば、部分退縮は、元のサイズの50%以上の退縮を示した腫瘍に相当し;不変は、元のサイズの50%未満の退縮又は元のサイズの50%以下の進行を示した腫瘍を指し、完全退縮は、治療終了時に検出できなかった腫瘍を指す。進行は、元のサイズと比較して50%超進行した腫瘍を示す。実験終了時に、全動物を断頭によって屠殺した。腫瘍、子宮及び膣を直ちに摘出し、結合組織及び脂肪組織を取り除き、秤量した。
【0138】
統計解析
腫瘍サイズに対する治療効果の統計的有意性を、分散分析(ANOVA)を用いて検討し、DHEA、EM-800及び時間による効果を評価した。治療の開始時及び終了時に、同じ動物において反復測定を行った(群因子内の対象)。治療0日目及び9.5ヶ月の治療後における反復測定を、動物の乱塊とする。したがって、時間をブロック内効果として解析し、両治療をブロック間効果として検討する。主効果間の全相互作用項をモデルに含めた。治療要因及びそれらの相互作用項の有意性は、群内の対象を誤差項として用いて解析した。データは、対数変換した。ANOVAの根拠となる仮説は、残差及び等分散性の正規性を仮定した。
【0139】
フィッシャー(Fischer)検定を用いて事後対比較(posteriori pairwise comparison)を行い、最小有意差を求めた。体重及び臓器重量に対する治療の主効果及び相互作用項を、相互作用項に関する標準二元ANOVAを用いて解析した。ANOVAは全て、SASプログラム(SAS Institute、Cary、NC、USA)を用いて行った。有意差は、全水準を5%として両側検定を用いて申告した。クラスカル-ワリス(Kruskall-Wallis)検定を用いてカテゴリーデータを解析し、順序カテゴリー応答変数(ordered categorical response variable)(完全奏効、部分奏効、不変及び腫瘍進行)を求めた。治療効果の全体的検討後、Table 4(表4)に示した結果のサブセットを、多重比較のために限界p値(有意水準)を調節して解析した。正確なp値は、StatXactプログラム(Cytel、Cambridge、MA、USA)を用いて算出した。データは、各群12〜15匹のマウスの平均値±平均値の標準誤差(SEM)として表す。
【0140】
結果
図3Aに示すように、ヒトZR-75-1腫瘍は、日用量0.5μgのエストロンの連日皮下投与によって治療された卵巣切除ヌードマウス群において291日間(9.5ヶ月)で9.4倍増加し、ビヒクルのみを投与された対照OVXマウス群では、試験期間の間に腫瘍サイズが初期値の36.9%まで減少した。
【0141】
漸増用量の皮下DHEAによる治療は、E1刺激ZR-75-1腫瘍の成長を漸進的に阻害した。マウス当たり日用量0.3mg、1.0mg及び3.0mgのDHEAによる治療9.5ヶ月目にそれぞれ50.4%、76.8%及び80.0%の阻害が達成された(図3A)。総腫瘍負荷量の減少と一致して、DHEAによる治療は、実験終了時に残存する腫瘍の平均重量を顕著に減少させた。実際に、平均腫瘍重量は、対照E1補充卵巣切除ヌードマウス群の1.12±0.26gから、日用量0.3mg、1.0mg及び3.0mgのDHEAを投与されたマウス群でそれぞれ0.37±0.12g(P=.005)、0.20±0.06g(P=.001)及び0.17±0.06g(P=.0009)まで減少した(図3B)。
【0142】
抗エストロゲン剤EM-800は、日用量15μg、50μg及び100μgにおいて、対照マウス群の腫瘍サイズと比較した場合に、エストロゲンで刺激された腫瘍のサイズを9.5ヶ月目にそれぞれ87.5%(P<.0001)、93.5%(P<.0001)及び94.0%(P=.0003)阻害した(図4A)。達成された腫瘍サイズの減少は、3つのEM-800用量間で有意差がなかった。図3Bに示すように、9.5ヶ月の試験の終了時の腫瘍重量は、対照E1補充OVXマウス群の1.12±0.26gから、日用量15μg、50μg及び100μgのEM-800で治療されたマウス群でそれぞれ0.08±0.03g、0.03±0.01g及び0.04±0.03gまで減少した(P<.0001(全EM-800用量群対E1補充OVX群))。
【0143】
前述のように、抗エストロゲン剤EM-800は、経口日用量15μgで、9.5ヶ月目にエストロンで刺激された腫瘍の成長を87.5%阻害した。使用した3つの用量のDHEAの追加は、日用量15μgの抗エストロゲン剤EM-800によって達成された腫瘍サイズの既に顕著な阻害に対して有意な効果を及ぼさなかった(図4B)。したがって、平均腫瘍重量は、対照エストロン補充マウス群の1.12±0.26gから日用量15μgの抗エストロゲン剤を単独投与された又は日用量15μgの抗エストロゲン剤と用量0.3mg、1.0mg及び3.0mgのDHEAとを併用投与されたマウス群でそれぞれ0.08±0.03g(P<.0001)、0.11±0.04g(P=.0002)、0.13±0.07g(P=.0004)及び0.08±0.05g(P<.0001)まで劇的に減少した(これら4群間で有意差は認められなかった)(図3B)。
【0144】
また、前記で指示した治療に従って達成された応答のカテゴリーを調べることも重要であった。したがって、漸増量のDHEAの治療が、進行性腫瘍の数を、統計的有意水準までではないが(P=.088)、エストロンを補充された対照OVX動物群の87.5%から、日用量0.3mg、1.0mg又は3.0mgのDHEAで治療された動物群でそれぞれ50.0%、53.3%及び66.7%まで減少させた(Table 3(表3))。他方、完全奏効は、エストロン補充マウス群の0%から、日用量0.3mg、1.0mg及び3.0mgのDHEAを経皮投与された動物群でそれぞれ28.6%、26.7%及び20.0%まで増加した。また他方で、不変は、対照E1補充マウス群及び前記指示用量のDHEAを投与された3つのマウス群でそれぞれ12.5%、21.4%、20.0%及び13.3%と測定された。対照卵巣切除マウス群において、完全奏効、部分奏効及び不変の比率はそれぞれ68.8%、6.2%及び18.8%と測定され、進行は腫瘍の6.2%でしか認められなかった(Table 3(表3))。
【0145】
完全奏効又は腫瘍の消失は、抗エストロゲン剤EM-800(P=.0006)を単独(15μg)で又は0.3mg、1.0mg若しくは3.0mgのDHEAとの併用で投与された動物群においてそれぞれ腫瘍の29.4%、33.3%、26.7%及び35.3%で達成された。他方、進行は、同じ群の動物においてそれぞれ腫瘍の35.3%、44.4%、53.3%及び17.6%で認められた。単独で又はDHEAを併用してEM-800で治療された群間で有意差は認められなかった。
【0146】
腫瘍重量に対して調整した体重に対して、DHEA又はEM-800治療の有意な効果は観察されなかった。エストロンによるOVXマウスの治療は、子宮重量をOVX対照マウス群の28±5mgから132±8mgまで増加させ(P<.01)、漸増用量のDHEAは、漸進的ではあるが、使用DHEAの最高用量で26%(P=.0008)に達する、エストロンの刺激効果の比較的少ない阻害をもたらした。同一図中で、エストロンで刺激された子宮の重量は、対照エストロン補充マウス群の132±8mgから、経口日用量15μg、50μg又は100μgのEM-800によってそれぞれ49±3mg、36±2mg及び32±1mg(P<.0001(全用量群対対照群))まで減少したことがわかる(全てP<.0001)。15μgのEM-800と日用量0.3mg、1.0mg又は3.0mgのDHEAとの併用では、子宮重量はそれぞれ、46±3mg、59±5mg及び69±3mgと測定された。
【0147】
他方、エストロンによる治療は、膣重量をOVX動物群の14±2mgから31±2mgまで増加させた(P<.01)が、DHEAの追加には有意な効果がなかった。この場合、日用量15μg、50μg又は100μgのEM-800による治療後に、膣重量はそれぞれ23±1mg、15±1mg及び11±1mgまで減少した(全p及び対P<.0001(全用量群対対照群)。用量0.3mg、1.0mg又は3.0mgのDHEAとEM-800との併用では、膣重量はそれぞれ22±1mg、25±2mg及び23±1mgと測定された(有意差なし(全群対EM-800 15μg群))。使用最高用量、即ち、日用量100μgにおいて、EM-800は、エストロン補充OVX動物群の子宮重量を減少させたが、OVX対照群の子宮重量の値と差がなく、膣重量をOVX対照群で測定された重量未満の値まで減少させた(P<.05)。DHEAは、おそらくそのアンドロゲン作用により、子宮重量又は膣重量に対するEM-800の効果を部分的に打ち消した。
【0148】
【表3】
【0149】
(実施例2)
本発明の好ましい化合物の合成例
(S)-(+)-7-ヒドロキシ-3-(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-(2’’’-ピペリジノエトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピランヒドロクロリドEM-01538(EM-652.HCl)の合成
【0150】
【化3】
【0151】
ステップA:BF3・Et2O、トルエン;100℃;1時間。
ステップC:3,4-ジヒドロピラン、p-トルエンスルホン酸一水和物、酢酸エチル;窒素下25℃で16時間、次いでイソプロパノール中で結晶化。
ステップD、E及びF:
(1)ピペリジン、トルエン、Dean&Stark装置、窒素下で還流;(2)1,8-ジアゾビシクロ[5, 4,0]ウンデカ-7-エン、DMF、3時間還流;(3)CH3MgCl、THF、-20〜0℃、次いで室温で24時間。
ステップG、H:(1S)-(+)-10-カンファースルホン酸、アセトン、水、トルエン、室温、48時間。
ステップHH:95%エタノール、70℃、次いで室温で3日間。
ステップHHR:ステップHHの母液及び洗液の再循環
(S)-10-カンファースルホン酸、還流;36時間、次いで室温で16時間。
ステップI:
(1)DMF aq.、Na2CO3、酢酸エチル;
(2)エタノール、希HCl;
(3)水。
【0152】
2-テトラヒドロピラニルオキシ-4-ヒドロキシ-2’-(4’’-テトラヒドロピラニルオキシフェニル)アセトフェノン(4)の合成。3,4-ジヒドロピラン(218ml、3.39モル)及び酢酸エチル(520ml)中2,4-ジヒドロキシ-2’-(4’’-ヒドロキシフェニル)アセトフェノン3(97.6g、0.4モル)(Chemsyn Science Laboratories(Lenexa、Kansas)から入手可能)懸濁液を、約25℃においてp-トルエンスルホン酸一水和物(0.03g、0.158ミリモル)で処理した。反応混合物を、外部加熱を行わずに窒素下で約16時間撹拌した。次いで、混合物を、重炭酸ナトリウム(1g)及び塩化ナトリウム(5g)の水(100ml)中溶液で洗浄した。相を分離させ、有機相をブライン(20ml)で洗浄した。各洗液を、酢酸エチル50mlで逆抽出した。全有機相を合し、硫酸ナトリウムを通して濾過した。溶媒(約600ml)を、大気圧において蒸留によって除去し、イソプロパノール(250ml)を添加した。更なる溶媒(約300ml)を、大気圧において蒸留し、イソプロパノール(250ml)を添加した。更なる溶媒(約275ml)を、大気圧において蒸留し、イソプロパノール(250ml)を添加した。溶液を約25℃において撹拌しながら冷却し、約12時間後に、結晶性固体を濾過し、イソプロパノールで洗浄し、乾燥させた(116.5g、70%)
【0153】
4-ヒドロキシ-4-メチル-2-(4’-[2’’-ピペリジノ]-エトキシ)フェニル-3-(4’’’-テトラヒドロピラニルオキシ)フェニル-7-テトラヒドロピラニルオキシ-クロマン(10)の合成。トルエン(8L)中2-テトラヒドロピラニルオキシ-4-ヒドロキシ-2’-(4’’-テトラヒドロピラニルオキシフェニル)アセトフェノン4(1kg、2.42モル)、4-[2-(1-ピペリジノ)エトキシ]ベンズアルデヒド5(594g、2.55モル)(Chemsyn Science Laboratories(Lenexa、Kansas)から入手可能)及びピペリジン(82.4g、0.97モル)(Aldrich Chemical Company Inc.(Milwaukee、Wis.)から入手可能)の溶液を、Dean&Stark装置を用いて窒素下で、1当量の水(44mL)が収集されるまで還流させた。トルエン(6.5L)を、大気圧において蒸留によって溶液から除去した。ジメチルホルムアミド(6.5L)及び1,8-ジアゾビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン(110.5g、0.726モル)を添加した。溶液を室温で約8時間撹拌して、カルコン8をクロマノン9に異性化させ、次いで水及び氷(8L)とトルエン(4L)との混合物に添加した。相を分離させ、トルエン層を水(5L)で洗浄した。合した水性洗液をトルエンで抽出した(3×4L)。合したトルエン抽出物を最後にブラインで洗浄し(3×4L)、大気圧において5.5Lまで濃縮し、次いで-10℃まで冷却した。窒素下で外部冷却及び撹拌を続けながら、温度を0℃未満に保持しつつ、THF中3M塩化メチルマグネシウム溶液(2.5L、7.5モル)(Aldrich Chemical Company Inc (Milwaukee、Wis.)から入手可能)を添加した。グリニャール試薬を全て添加後、外部冷却を取り外し、混合物を室温まで加温した。混合物を同温度で約24時間撹拌した。混合物を再び、約-20℃まで冷却し、外部冷却及び撹拌を続けながら、温度を20℃未満に保持しつつ、塩化アンモニウム飽和溶液(200ml)をゆっくり添加した。混合物を2時間撹拌し、次いで塩化アンモニウム飽和溶液(2L)及びトルエン(4L)を添加し、5分間撹拌した。相を分離させ、水性層をトルエン(2×4L)で抽出した。合したトルエン抽出物を、溶液が均質となるまで希塩酸で洗浄し、次いでブライン(3×4L)で洗浄した。トルエン溶液を最後に大気圧で2Lまで濃縮した。この溶液を、次のステップに直接使用した。
【0154】
(2R,S)-7-ヒドロキシ-3-(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-[2’’’-ピペリジノ]エトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピラン(1S)-10-カンファースルホン酸塩(±12)の合成。4-ヒドロキシ-4-メチル-2-(4’-[2’’-ピペリジノ]エトキシ)フェニル-3-(4’’’-テトラヒドロピラニルオキシ)フェニル-7-テトラヒドロピラニルオキシクロマン(10)のトルエン溶液に、アセトン(6L)、水(0.3L)及び(S)-10-カンファースルホン酸(561g、2.42モル)(Aldrich Chemical Company Inc.(Milwaukee、Wis.)から入手可能)を添加した。混合物を窒素下で48時間撹拌した後、固体(2R,S)-7-ヒドロキシ-3-(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-[2’’’-ピペリジノ]エトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピラン(1S)-10-カンファースルホン酸塩(12)を濾過し、アセトンで洗浄し、乾燥させた(883g)。この物質を、更に精製せずに、次の(HH)ステップに使用した。
【0155】
(2S)-7-ヒドロキシ-3-(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-[2’’’-ピペリジノ]エトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピラン(1S)-10-カンファースルホン酸塩(13、(+)-EM-652(1S)-CSA塩)の合成。(2R,S)-7-ヒドロキシ-3-(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-[2’’’-ピペリジノ]エトキシ)フェニル)-2H-ベンゾピラン(1S)-10-カンファースルホン酸塩±12(759g)の95%エタノール中懸濁液を、固体が溶解するまで撹拌しながら約70℃まで加熱した。溶液を撹拌しながら室温に冷却し、次いで、(2S)-7-ヒドロキシ-3-(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-[2’’’-ピペリジノ]エトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピラン(1S)-10-カンファースルホン酸塩13の数個の結晶をこれに播種した。溶液を室温において合計約3日間撹拌した。結晶を濾過し、95%エタノールで洗浄し、乾燥させた(291g、76%)。生成物のdeは94.2%であり、純度は98.8%であった。
【0156】
(S)-(+)-7-ヒドロキシ-3-(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-(2’’’-ピペリジノエトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピランヒドロクロリドEM-01538(EM-652.HCl)の合成。化合物13(EM-652-(+)-CSA塩、500mg、0.726mmol)のジメチルホルムアミド(11μL、0.15mmol)中懸濁液を、0.5M炭酸ナトリウム水溶液(7.0mL、3.6mmol)で処理し、15分間撹拌した。懸濁液を酢酸エチル(7.0mL)で処理し、4時間にわたり撹拌した。次いで、有機相を炭酸ナトリウム飽和水溶液(2×5mL)及びブライン(1×5mL)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で脱水し、濃縮した。得られたピンク色のフォーム(EM-652)のエタノール(2mL)中溶液を、2N塩酸(400μL、0.80mmol)で処理し、1時間撹拌し、蒸留水(5mL)で処理し、30分間にわたり撹拌した。得られた懸濁液を濾過し、蒸留水(5mL)で洗浄し、空気中において高真空下(65℃)で乾燥させて、クリーム状の粉末(276mg、77%)を得た:オフホワイト色の微粉;示差走査熱量測定法:融解ピーク開始219℃、ΔH=83J/g;[α]24D=154°(メタノール中10mg/ml)。1H NMR (300 MHz, CD3OD) δ (ppm) 1.6 (広幅, 2H, H-4'''), 1.85 (広幅, 4H, H-3''''及び5''''), 2.03 (s, 3H, CH3), 3.0及び3.45 (広幅, 4H, H-2''''及び6''''), 3.47 (t, J=4.9Hz, 2H, H-3'''), 4.26 (t, J=4.9Hz, 2H, H-2'''), 5.82 (s, 1H, H-2), 6.10 (d, J=2.3Hz, 1H, H-8), 6.35 (dd, J=8.4, 2.43 Hz, 1H, H-6), 6.70 (d, J=8.6 Hz, 2H, H-3',及びH-5'), 6.83 (d, J=8.7Hz, 2H, H-3''及びH-5''), 7.01 (d, J=8.5 Hz, 2H, H-2'及びH-6'), 7.12 (d, J=8.4Hz, 1H, H-5), 7.24 (d, J=8.6Hz, 2H, H-2''及びH-6''); 13C RMN (CD3OD, 75 MHz) δ ppm 14.84, 22.50, 23.99, 54.78, 57.03, 62.97, 81.22, 104.38, 109.11, 115.35, 116.01, 118.68, 125.78, 126.33, 130.26, 130.72, 131.29, 131.59, 134.26, 154.42, 157.56, 158.96, 159.33. 元素組成: C, H, N, Cl: 理論値; 70.51, 6.53, 2.84, 7.18, %, 実測値: 70.31, 6.75, 2.65, 6.89%.
【0157】
(実施例3)
材料及び方法
動物
体重18〜20gの雌BALB/cマウス(BALB/cAnNCrIBR)を、Charles-River,Inc.(St-Constant、Quebec、Canada)から入手し、温度(23±1℃)及び光(明12時間/日、7:15に点灯)制御環境にあるケージに5匹/ケージを収容した。マウスに、齧歯類用固形飼料及び水道水を自由に摂取させた。マウスを、イソフルラン(Isoflurane)麻酔下で両側腹部の切開によって卵巣切除(OVX)し、各群10匹の群に無作為に割り付けた。マウス10匹を対照として、無傷のままにしておいた。
【0158】
治療
第1の実験(図11〜14)においては、被験化合物、即ち、EM-652.HCl、ラソフォキシフェン(遊離塩基として;活性及び不活性エナンチオマー)及びラロキシフェンを、卵巣切除の2日後から始めて9日間、1、3又は10μg/マウスの用量で1日1回、胃強制投与によって経口的に投与した。第2の実験(Table 6(表6))においては、TSE424を、卵巣切除の2日後から始めて9日間、1、3、10又は30μg/マウスの用量で1日1回、胃強制投与によって経口的に投与した。いずれの実験においても、抗エストロゲン活性を評価するために、エストロンによる治療(E1、0.06μg, s.c.注射、1日2回)を卵巣切除の5日後に開始し、6日間投与した。化合物はエタノールに溶解させ(最終濃度4%)、0.4%メチルセルロース中に入れて投与した。無傷対照群及びOVX対照群のマウスに、9日間ビヒクル(4%ETOH-0.4%メチルセルロース)のみを投与した。マウスは、卵巣切除後11日目の朝に腹部大動脈における瀉血によって屠殺した。子宮及び膣を速やかに切開し、秤量し、更なる組織学検査のために10%緩衝ホルマリン中に保存した。
【0159】
項目I.結果
実験1:
図11に示すように、経口日用量1、3又は10μgで投与されたEM-652.HClは、エストロンで刺激された子宮の重量をそれぞれ24%、48%及び72%阻害し(p<0.01(全用量群対対照群))、同一用量で投与されたラロキシフェンは、このパラメーターをそれぞれ6%(NS)、14%(p<0.01)及び43%(p<0.01)阻害した。他方、ラソフォキシフェン(遊離塩基として)は、使用最低用量においては阻害作用を示さなかったが、日用量3μg及び10μgでは、エストロンで刺激された子宮の重量をそれぞれ25%(p<0.01)及び44%(p<0.01)阻害した。ラソフォキシフェンの不活性エナンチオマーは、使用用量においてこのパラメーターに対して阻害作用をもたらさなかった。
【0160】
前記化合物は、膣重量に対しても同様な作用をもたらした。EM-652.HClの連日経口投与は、用量1、3及び10μgにおいて膣重量をそれぞれ10%(NS)、25%及び53%阻害し(2つの最高用量群についてはp<0.01)(図12)、ラフォキシフェンは最高用量(10μg)においてのみ、このパラメーターに対して有意な24%(p<0.01)の阻害作用をもたらした。ラロキシフェンと同様に、ラソフォキシフェン(遊離塩基として)は、使用最高用量においてのみ、有意な37%(p<0.01)の阻害作用をもたらし、不活性エナンチオマーは使用用量において膣重量に阻害作用を生じなかった。
【0161】
卵巣切除マウスに化合物単独(エストロンを使用しない)を経口日用量1μg及び10μgで投与した場合、EM-652.HClは、両使用用量において子宮重量に対して有意な刺激作用を生じなかったが、ラソフォキシフェン及びラロキシフェン10μgによる治療はそれぞれ、子宮重量の93%(p<0.01)及び85%(p<0.01)の刺激をもたらし(図13)、したがって、このパラメーターに対するこれら後者の化合物のエストロゲン作用を示している。同様に、EM-652.HClは、膣重量に対して有意な刺激作用をもたらさなかった(図14)が、ラソフォキシフェン及びラロキシフェン10μgの投与はそれぞれ、膣重量の73%(p<0.01)及び56%(p<0.01)の刺激をもたらした。他方、ラソフォキシフェンの不活性エナンチオマーは、子宮重量及び膣重量に対して刺激作用を生じなかった。
【0162】
実験2
Table 4(表4)に示すように、経口日用量1、3、10又は30μgで投与されたTSE424は、エストロンで刺激された子宮の重量をそれぞれ12%(NS)、47%、74%及び94%阻害した(p<0.01(3つの最高用量群対E1対照群))。他方、TSE424の連日経口投与は、用量3、10及び30μgにおいて膣重量をそれぞれ16%(NS)、56%(p<0.01)及び93%(p<0.01)阻害した。
【0163】
卵巣切除マウスに化合物単独(エストロンを使用しない)を経口日用量3μg及び30μgで投与した場合、TSE424は、両使用用量において子宮重量及び膣重量に対して有意な刺激作用を生じなかった(Table 4(表4))。
【0164】
【表4】
【0165】
(実施例4)
骨量減少、血清脂質及び全身脂肪に対する予防効果
動物及び治療
治療開始時の体重が約220〜270gの週齢10〜12週の雌Sprague-Dawleyラット(Crl:CD(SD)Br)(Charles River Laboratory、St-Constant、Canada)を使用した。ラットは、実験開始前の少なくとも1週間、環境条件(温度:22±3℃;湿度:50±20%;明(12時間)-暗(12時間)サイクル、7:15に点灯)に順化させた。ラットは1匹ずつ収容し、水道水及び齧歯類用の認証ペレット飼料(Lab Diet 5002、Ralston Purina、St-Louis、MO)を自由に摂取させた。実験は、Canadian Council on Animal Care(CCAC)及びAssociation for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care(AAALAC)によって認可されている動物施設において、CCAC Guide for Care and Use of Experimental Animalsに従って実施した。
【0166】
第1の実験においては、154匹のラットを、以下のようにして各群14匹の11群に無作為に分布させた:1)無傷対照群;2)OVX対照群;3)OVX+E2(1mg/kg)群;4)OVX+EM-652.HCl(2.5mg/kg)群;5)OVX+E2+EM-652.HCl群;6)OVX+デヒドロエピアンドロステロン(DHEA;80mg/kg)群;7)OVX+DHEA+EM-652.HCl群;8)OVX+DHEA+E2群;9)OVX+DHEA+E2+EM-652.HCl群;10)OVX+GW 5638群;11)OVX+E2+GW 5638群。試験1日目に、適切な群のラットに対して、イソフルラン麻酔下で両側卵巣切除(OVX)を行った。DHEAは、50%エタノール-50%プロピレングリコール中溶液として背面皮膚に局所適用し、他の被験化合物は、0.4%メチルセルロース中懸濁液として経口的に胃強制投与した。治療は、試験2日目に開始し、3ヶ月間にわたり1日1回行った。
【0167】
第2の実験においては、132匹のラットを、以下のようにして各群14又は15匹の9群に無作為に分布させた:1)無傷対照群;2)OVX対照群;3)OVX+プレマリン(0.25mg/kg)群;4)OVX+EM-652.HCl(2.5mg/kg)群;5)OVX+プレマリン+EM-652.HCl群;6)OVX+TSE 424(2.5mg/kg)群;7)OVX+プレマリン+TSE424群;8)OVX+ラソフォキシフェン(酒石酸塩;ラセミ体;2.5mg/kg)群;9)OVX+プレマリン+ラソフォキシフェン群。試験1日目に、適切な群のラットに対して、イソフルラン麻酔下で両側OVXを行った。被験化合物は、0.4%メチルセルロース中懸濁液として経口的に胃強制投与した。治療は、試験2日目に開始し、26週間間にわたり1日1回行った。いずれの実験においても、被験物質を投与しなかったラットには、同じ期間にわたって適切なビヒクルのみで治療した。
【0168】
骨塩密度測定
3ヶ月間(実験1)又は26週間(実験2)の治療後に、イソフルラン麻酔下の個々のラットについて、二重エネルギーX線吸収計(DEXA;QDR 4500A、Hologic、Waltham、MA)及びRegional High Resolution Scanソフトウェアを用いて全身骨格及び腰椎を走査した。腰椎(椎骨L2〜L4)の骨塩密度(BMD)及び全身体組成(脂肪率)を測定した。
【0169】
血清アッセイ
3ヶ月間(実験1)又は26週間(実験2)の治療後に、夜間絶食ラットの頸静脈から血液サンプルを採取した(イソフルラン麻酔下で)。サンプルを血清調製のために処理し、アッセイまで-80℃で凍結させた。血清コレステロール濃度及びアルカリホスファターゼ活性(ALP)を、Boehringer Mannheim Diagnostic Hitachi 911 Analyzer(Boehringer Mannheim Diagnostic Laboratory Systems)を用いて測定した。
【0170】
統計解析
データは、平均値±SEMとして表す。統計的有意性は、Duncan-Kramerの多重範囲検定(Kramer CY;Biometrics 1956;12:307〜310頁)に従って判定した。
【0171】
結果
Table 5(表5)に示すように、卵巣切除3ヶ月後に、腰椎のBMDは、OVX対照群では無傷対照群よりも10%低かった(p<0.01)。使用用量において、エストラジオール及びEM-652.HClの単独投与は、腰椎BMD低下をそれぞれ98%(p<0.01)及び65%(p<0.05)予防し、E2及びEM-652.HClによる併用治療群はOVX誘発性の腰椎BMD低下を61%予防した(p<0.05)。他方、DHEAの単独投与群はOVX誘発性の腰椎BMD低下を43%予防し(p<0.05)、DHEA+E2+EM-652.HClの併用投与群はOVX誘発性の腰椎BMD低下を91%予防し、無傷対照群と差のないBMD値をもたらした。
【0172】
Table 6(表6)において、卵巣切除の26週間後に、腰椎のBMDは、無傷対照群と比較して18%低下した(p<0.01)。プレマリン、EM-652.HCl、TSE424及びラソフォキシフェンの単独投与は、腰椎BMDをそれぞれ54%、62%、49%及び61%予防した(全てp<0.01(対OVX対照群)。EM-652.HCl、TSE424又はラソフォキシフェンへのプレマリンの追加は、各SERMの単独投与によって得られる腰椎BMD値と有意差のない腰椎BMD値をもたらした(Table 6(表6))。同様に、E2又はEM-652.HClへのDHEAの追加は、OVX誘発性の腰椎BMD低下を完全に予防した(Table 5(表5))。BMDに対するDHEAのプラス効果は、骨形成及び骨代謝回転のマーカーである血清アルカリホスファターゼ活性(ALP)に対するその効果によっても裏付けられる。ALP活性は、OVX対照動物群の73±6IU/Lから、DHEA-治療動物群、DHEA+EM-652.HCl-治療動物群、DHEA+E2-治療動物群及びDHEA+E2+EM-652.HCl-治療動物群でそれぞれ224±18IU/L、290±27IU/L、123±8IU/L及び261±20IU/Lまで増加し(全てp<0.01)、したがって骨形成に対するDHEAの刺激作用を示唆している(Table 7(表7))。
【0173】
骨量減少に対する予防効果の他に、EM-652.HCl、TSE424、ラソフォキシフェン、GW5638、DHEA及びE2の投与は総体脂肪率及び血清脂質に対してもある程度の有益効果を及ぼす。卵巣切除の3ヶ月後に、総体脂肪は22%増加した(p<0.05;Table XXX6)。EM-652.HClの投与は、OVX誘発性の脂肪率増加を完全に予防し、SERMへのDHEA及び/又はE2の追加は、無傷対照動物群において観察される値未満の脂肪率値をもたらした。卵巣切除の26週間後に、エストロゲン欠乏によって誘発された40%の脂肪増加は、プレマリン、EM-652.HCl、TSE424又はラソフォキシフェンの投与後にそれぞれ74%、78%、75%及び114%反転され、各SERMへのプレマリンの追加は、OVX誘発性の脂肪率増加を完全に予防した(Table 8(表8))。
【0174】
Table 7(表7)に示すように、卵巣切除の3ヶ月後には、OVX対照ラット群においては、無傷対照群と比較して血清コレステロール濃度の22%の増加が観察された(p<0.01)。実際に、血清コレステロールは、無傷動物群の2.01±0.11mmol/Lから、OVX対照ラット群で2.46±0.08mmol/Lまで増加した。E2又はDHEAの単独投与は、血清コレステロール濃度をそれぞれ1.37±0.18mmol/L及び1.59±0.10mmol/Lに低下させ、EM-652.HClの単独投与又はE2及び/若しくはDHEAとの併用投与は、無傷動物群において見られる値(2.01±0.11mmol/L)よりも著しく低いコレステロール濃度(0.65〜0.96mmol/L)をもたらした。同様に、GW5638、TSE424及びラソフォキシフェンの単独投与又はE2若しくはプレマリンとの併用投与は、血清コレステロール濃度に対するOVX誘発性増加を予防し、無傷動物群においてみられる値より低い値をもたらした(Table 7(表7)及びTable 8(表8))。
【0175】
【表5】
【0176】
【表6】
【0177】
【表7】
【0178】
【表8】
【0179】
(実施例5)
卵巣切除雌ラットに単独投与された又はDETAと併用投与された、SERMであるEM-652.HCl、TSE-424及びERA-923による治療後の骨量減少に対する予防効果
動物及び治療
治療開始時の体重が約220〜270gの10〜12週齢の雌Sprague-Dawleyラット(Crl:CD(SD)Br)(Charles River Laboratory、St-Constant、Canada)を使用した。ラットは、実験開始前の少なくとも1週間、環境条件(温度:22±3℃;湿度:50±20%;明(12時間)-暗(12時間)サイクル、7:15に点灯)に順化させた。ラットは1匹ずつ収容し、水道水及び齧歯類用の認証ペレット飼料(Lab Diet 5002、Ralston Purina、St-Louis、MO)を自由に摂取させた。実験は、Canadian Council on Animal Care(CCAC)及びAssociation for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care(AAALAC)に認可されている動物施設において、CCAC Guide for Care and Use of Experimental Animalsに従って実施した。
【0180】
126匹のラットを、以下のようにして各群14匹の9群に無作為に分布させた:1)無傷対照群;2)OVX対照群;3)OVX+EM-652.HCl(2.5mg/kg)群;4)OVX+TSE-424(EM-4803、2.5mg/kg)群;5)OVX+ERA-923(EM-3527、2.5mg/kg)群;6)OVX+デヒドロエピアンドロステロン(DHEA; 80mg/kg)群;7)OVX+DHEA+EM-652.HCl群;8)OVX+DHEA+TSE-424群;9)OVX+DHEA+ERA-923群。試験1日目に、適切な群のラットに対して、イソフルラン麻酔下で両側卵巣切除(OVX)を行った。DHEAは、50%エタノール-50%プロピレングリコール中溶液として背面皮膚に局所適用し、被験SERMは、0.4%メチルセルロース中懸濁液として経口的に胃強制投与した。治療は、試験2日目に開始し、5週間にわたり1日1回行った。
【0181】
骨塩密度測定
5週間の治療後に、イソフルラン麻酔下の個々のラットについて、二重エネルギーX線吸収計(DEXA;QDR 4500A、Hologic、Waltham、MA)及びRegional High Resolution Scanソフトウェアを用いて腰椎、大腿骨及び脛骨を走査した。腰椎(椎骨L2〜L4)、大腿骨遠位端骨幹端(DFM)及び脛骨近位端骨幹端(PTM)の骨塩密度(BMD)を測定した。
【0182】
統計解析
データは、平均値±SEMとして表す。統計的有意性は、Duncan-Kramerの多重範囲検定(Kramer CY 1956)に従って判定した。
【0183】
結果
Table 9(表9)に示すように、卵巣切除5週間後に、腰椎のBMDは、OVX対照動物群では無傷対照群よりも9%低かった。使用用量において、SERM:EM-652.HCl、TSE-424又はERA-923の単独投与は、腰椎BMD低下をそれぞれ86%、53%及び78%予防した。他方、DHEAの単独投与は、腰椎BMD低下を44%予防し、DHEA+EM-652.HCl、DHEA+TSE-424又はDHEA+ERA-923による併用治療は、OVX誘発性の腰椎BMD低下をそれぞれ94%、105%及び105%予防した。
【0184】
卵巣切除の5週間後に、大腿骨遠位端骨幹端(DFM)の骨塩密度は、10%低下した(Table 9(表9))。SERM:EM-652.HCl、TSE-424又はERA-923の単独投与は、DFM BMD低下をそれぞれ95%、70%及び83%予防した。他方、DHEAの単独投与はDFM BMD低下を71%予防し、DHEA+ EM-652.HCl、DHEA+TSE-424又はDHEA+ERA-923による併用治療はOVX誘発性のDFM BMD低下を完全に予防し、無傷対照動物群において観察される値より高いDFM BMD値をもたらした。同様な結果は、脛骨近位端骨幹端BMDについても得られた(Table 9(表9))。
【0185】
【表9】
【0186】
(実施例6)
ヒト子宮内膜腺癌石川細胞におけるアルカリホスファターゼ活性に対する本発明の化合物の効果
材料
保存細胞培養物の維持
高分化子宮内膜腺癌に由来するヒト石川細胞株は、Dr Erlio Gurpide(The Mount Sinai Medical Center、New York、NY)から快く提供されたものである。石川細胞は、5%(vol/vol)FBS(ウシ胎児血清)を含み、ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン100μg/mL、0.1mM非必須アミノ酸溶液が補充されたイーグル最小必須培地(Eagle’s Minimum Essential Medium)(MEM)中でルーチン的に維持した。細胞は、Falcon T75フラスコ中で37℃において1.5x106個の密度で平板培養した。
【0187】
細胞培養実験
実験開始24時間前に、コンフルエントに近い石川細胞の培地を、ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン100μg/mL、2mMグルタミン及び内因性ステロイド除去のためにデキストランチャコール(dextran-coated charcoal)で2回処理された5%FBSが補充された、フェノールレッド非含有ハムF-12(Ham’s F-12)とダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)(DMEM)との1:1(v:v)混合物からなる新鮮なエストロゲン非含有基礎培地(EFBM)と交換した。次いで、細胞を0.1%パンクレアチン(Sigma)及び0.25mM HEPESによって採取し、EFBM中に再懸濁させ、Falcon 96ウェル平底マイクロタイタープレート中において容量100μl中、細胞密度2.2×104個/ウェルで平板培養し、24時間プレートの表面に付着させた。その後、培地を、最終容量200μl中に指示濃度の化合物を含む新鮮なEFBMと交換した。48時間後に培地を交換しながら、細胞を5日間インキュベートした。
【0188】
アルカリホスファターゼアッセイ
インキュベーション期間の終了時に、マイクロタイタープレートを反転させて、成長培地をデカントした。プレートを、ウェルごとに200μlのPBS(0.15M NaCl、10mMリン酸ナトリウム、pH7.4)ですすいだ。次いで、若干の残留PBSを慎重に残しながら、プレートからPBSを除去し、洗浄手順を一度繰り返した。次いで、緩衝生理食塩水をデカントし、反転プレートをペーパータオル上でそっと吸い取った。カバーの交換後、プレートを-80℃に15分間に置いた後、室温で10分間解凍した。次に、プレートを氷上に置き、5mM p-ニトロフェニルホスフェート、0.24M MgCl2及び1Mジエタノールアミン(pH9.8)を含む氷冷溶液50μlを添加した。次いで、プレートを室温まで温め、p-ニトロフェニルの生成による黄色を顕色させた(8分間)。プレートを酵素結合免疫吸着測定プレートリーダー(BIO-RAD、モデル2550EIA Reader)において405nmで監視した。
【0189】
計算
重み付逐次最小二乗法による非線形回帰を用いて、用量反応曲線及びIC50値を計算した。
【0190】
【表10−1】
【0191】
【表10−2】
【0192】
(実施例7)
ヒト乳癌MCF-7細胞の増殖に対するEM-652.HCl、TSE424及びラソフォキシフェンの効果
方法
保存細胞培養物の維持
MCF-7ヒト乳癌細胞を、American Type Culture Collection #HTB22から継代147で入手し、フェノールレッド非含有ダルベッコ変法イーグル-ハムF-12培地中でルーチン的に成長させた。培地は、前述の補充以外に5%FBSを補充した。MCF-7ヒト乳腺癌細胞株は、69才のコーカサス系女性患者の胸水に由来した。MCF-7細胞は、継代148〜165のものを使用し、週1回継代培養した。
【0193】
細胞増殖試験
後期対数増殖期の細胞を0.1%パンクレアチン(Sigma)によって採取し、ウシインスリン50ng/ml及び内因性ステロイド除去のためにデキストランチャコール(dextran-coated charcoal)で2回処理された5%(v/v)FBSを含む適切な培地中に再懸濁させた。細胞を、24ウェルFalconプラスチック培養プレート(2cm2/ウェル)中において指示密度で平板培養し、72時間プレートの表面に付着させた。その後、1000倍原液から99%再蒸留エタノール中で希釈された指示濃度の化合物を含む、E2を含む又は含まない新鮮な培地と交換した。対照細胞には、エタノール性ビヒクル(0.1%EtOH、v/v)のみを加えた。培地を2日又は3日間隔で交換しながら、細胞を指定期間、インキュベートした。細胞数は、DNA含量の測定によって求めた。
【0194】
計算及び統計解析
重み付逐次最小二乗法による非線形回帰を用いて、用量反応曲線及びIC50値を計算した。結果は全て、平均値±SEMとして表す。
【0195】
【表11】
【0196】
(実施例8)
ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳房腫瘍の成長に対する、EM-652.HCl、タモキシフェン、トレミフェン、ドロロキシフェン、イドキシフェン、GW-5638及びラロキシフェンの効果の比較
この実施例の目的は、卵巣切除ヌードマウスにおける高分化エストロゲン感受性ZR-75-1乳癌異種移植片の成長に対する、EM-652.HCl及び6種の他の経口抗エストロゲン剤(SERM)のアゴニスト及びアンタゴニスト作用を比較することであった。
【0197】
材料及び方法
ヒトZR-75-1乳癌細胞
ZR-75-1ヒト乳癌細胞は、American Type Culture Collection(Rockville、MD)から入手し、フェノールレッド非含有RPMI-1640培地中で培養した。細胞に、2mM L-グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、ペニシリン100IU/ml、ストレプトマイシン100μg/ml及び10%(v/v)ウシ胎児血清を補充し、空気95%/CO2 5%の加湿雰囲気下で37℃においてインキュベートした。細胞を週に1回継代し、85〜90%コンフルエントな状態で0.083%パンクレアチン/0.3mM EDTAを用いて採取した。
【0198】
動物及び腫瘍接種
雌ホモ接合nu/nu Br胸腺欠損マウス(日齢28〜42日)を、Charles River,Inc.(Saint-Constant、Quebec、Canada)から入した。マウス(5匹/ケージ)を、層流フード内に保ち、また病原体制限条件下に保持した、エアフィルターリッドを備えたビニルケージ中に収容した。光周期は、明12時間及び暗12時間とした(7:15に点灯)。ケージ、床敷及び飼料(Agway Pro-Lab R-M-H Diet #4018)は、使用前にオートクレーブした。水は、オートクレーブし、自由に摂水させた。イソフルランによる麻酔下で両側卵巣切除を行った。最初の腫瘍成長を刺激するために、卵巣切除時に、エストラジオール(E2)のインプラントを皮下挿入した。E2インプラントは、0.5cmのエストラジオールとコレステロールとの1:10(w/w)混合物を含む1cm長のシラスティックチューブ(内径:0.062インチ;外径:0.095インチ)の形態で調製した。卵巣切除1週間後に、2.5cm長の22ゲージの針を用いて、0.1mlのRPMI-1640培地+30% Matrigel中の2×106個のZR-75-1(継代93)細胞を、各卵巣切除(OVX)マウスの両側腹部に皮下接種した。4週間後、全マウスにおいて、E2インプラントを同サイズのエストロン含有インプラント(E1:chol、1:25 w:w)と交換した。1週間後、無作為化及び治療を開始した。
【0199】
治療
治療開始1日前に、平均面積24.4±0.4mm2(範囲5.7〜50.7mm2)のZR-75-1腫瘍を有するマウス255匹を、各群15匹(腫瘍総数29又は30個)の17群に無作為に(腫瘍サイズに関して)割り付けた。17群の内訳は、2つの対照群(OVX群及びOVX+エストロン群)、エストロンインプラントを補充し、抗エストロゲン剤で治療した7群、抗エストロゲン剤を単独投与された他の8群であった。次に、卵巣切除対照群(OVX)及び抗エストロゲン剤単独投与群のマウスから、エストロンインプラントを取り出した。他の9群のエストロン含有インプラントはその後6週間毎に交換した。EM-652.HCl、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、イドキシフェン及びGW5638は、Oncology and Molecular Endocrinology Research Centerの医薬化学部門において合成された。タモキシフェンはPlantex(Netanya、Israel)から、クエン酸トレミフェンはOrion(Espoo、Finland)から購入した。エストロン刺激下で、抗エストロゲン剤は、0.4%(w/v)メチルセルロース0.2ml中に懸濁させて、経口日用量50μg(平均2mg/kg)で与えた。エストロン刺激の不存在下で、200μg(平均8mg/kg)の各抗エストロゲン剤で1日1回経口経路によってマウスを治療した。両対照群のマウスには、ビヒクルのみを0.2ml投与した。適切な濃度の抗エストロゲン剤懸濁液を月に1回に調製し、4℃で保存し、絶えず撹拌しながら使用した。粉末ストックは密封して4℃(イドキシフェン、ラロキシフェン、トレミフェン、GW5638、ドロロキシフェン)又は室温(タモキシフェン、EM-652.HCl)で保存した。
【0200】
腫瘍測定及び解剖
2つの直交直径を記録し、式:L/2×W/2×πを用いて腫瘍面積(mm2)を算出した。治療1日目に測定された面積を100%と見なした。
【0201】
161日間の治療後に、残りの動物をイソフルランで麻酔し、瀉血によって屠殺した。エストロゲン及び抗エストロゲン剤の効果を更に特徴付けるために、子宮及び膣などのエストロゲン応答性組織を直ちに摘出し、結合組織及び脂肪組織を取り除き、秤量した。Image Pro-Plus(Media Cybernetics、Maryland、USA)による画像解析によって子宮内膜厚を求めるために、子宮の標本を作成した。簡単に説明すれば、子宮を10%ホルマリン中で固定し、パラフィン中に包理した。マウス子宮のヘマトキシリン及びエオジン染色切片を解析した。子宮当たり4つ(子宮角当たり2つ)の画像を解析した。上皮細胞の平均高を、各群の全てのマウスにおいて測定した。
【0202】
応答基準
腫瘍応答は、試験の終了時、又は実験中であっても動物が死亡した場合には各動物の死亡時に、評価した。この場合は、腫瘍応答解析には、試験期間の少なくとも1/2の期間(84日間)生き延びたマウスのデータのみを使用した。簡単に説明すれば、完全退縮は、実験終了時に検出できなかった腫瘍を特定し;部分退縮は、元のサイズの50%以上の退縮を示した腫瘍に相当し;不変は、50%未満の退縮又は50%以下の進行を示した腫瘍を指し;進行は、元のサイズと比較して50%以上進行した腫瘍を指す。
【0203】
統計解析
1日目と161日目の間の総腫瘍面積の変化を、反復測定値についてANOVAに従って解析した。モデルには、治療効果、時間効果及び時間-治療相互作用効果、加えて無作為化において層(strata)となる項を含めた。例えば、161日目における種々の治療効果の有意性は、時間-治療相互作用によって試験した。残差の分析から、原尺度での測定値はANOVAによる解析にも、試行した変換のいずれにも適合しないことが示された。したがって、解析に順位(rank)を選択した。上皮厚に対する治療効果を、無作為化における層も含む一元ANOVAによって評価した。最小二乗平均統計量を用いて、事後対比較を行った。全ての第1種の誤り率(α)を5%に制御して、差の有意性を申告した。計算は全て、SAS Software(SAS Institute、Carry、NC)上でProc MIXEDを用いて行った。
【0204】
結果
ZR-75-1腫瘍成長に対するアンタゴニスト効果
エストロン単独(OVX+E1)は、23週間の治療期間中にZR-75-1腫瘍サイズを707%増加させた(図18)。エストロン刺激マウスへの経口日用量50μgの純粋抗エストロゲン剤EM-652.HClの投与は、腫瘍成長を完全に予防した。実際に、腫瘍成長が予防されただけでなく、23週間の治療後に、腫瘍サイズは治療開始時の初期値よりも26%小さかった(p<0.04)。EM-652.HClによる治療後に得られたこの値は、腫瘍サイズが初期腫瘍サイズより61%減少した、卵巣切除のみ(OVX)の後に観察された値と統計的に差がなかった。同じ用量(50μg)及び治療期間において、他の6種の抗エストロゲン剤は、初期平均腫瘍サイズを減少させなかった。これらの群の腫瘍は全て、OVX対照群及びEM-652.HCl治療群よりも有意に大きかった(p<0.01)。実際に、治療前値に比較して、ドロロキシフェン、トレミフェン、GW5638、ラロキシフェン、タモキシフェン及びイドキシフェンによる23週間の治療は、治療前値よりもそれぞれ478%、230%、227%、191%、87%及び86%大きい平均腫瘍サイズをもたらした(図18)。
【0205】
ZR-75-1腫瘍成長に対するアゴニスト効果
エストロン補充の不存在下における日用量200μgのタモキシフェンによる161日間の治療後に、平均腫瘍サイズはベースラインよりも196%大きい値まで増加した(p<0.01(対OVX群))(図19)。他方、イドキシフェンによって治療されたマウスの平均腫瘍サイズは増加し(125%)(p<0.01)、トレミフェンによって治療されたマウスの腫瘍サイズは86%増加した(p<0.01)(図19)。タモキシフェン200μgへのEM-652.HCl 200μgの追加は、タモキシフェン単独によって観察される増殖を阻害した(図20)。他方、EM-652.HCl(p=0.44)、ラロキシフェン(p=0.11)、ドロロキシフェン(p=0.36)又はGW5638(p=0.17)による単独治療群は、実験終了時にOVX対照群に比較してZR-75-1腫瘍サイズを有意に変化させなかった(図19)。
【0206】
カテゴリー応答に対する効果
エストロン刺激に対する抗エストロゲン剤50μgの効果。腫瘍サイズに対する効果に加えて、実験終了時において個々の腫瘍によって達成される応答のカテゴリーは、治療効果の重要なパラメーターである。卵巣切除マウス群においては、完全奏効、部分奏効及び不変がそれぞれ21%、43%及び38%の腫瘍で達成され、進行を示した腫瘍はなかった。他方、エストロン補充OVXマウス群においては、100%の腫瘍が進行を示した(図21)。エストロン補充EM-652.HCl治療OVXマウス群においては、完全奏効、部分奏効及び不変がそれぞれ17%、17%及び60%の腫瘍で認められ、進行を示したのはわずか7%(腫瘍30個中2個)であった。同一エストロン刺激条件下で、日用量50μgの他の全ての抗エストロゲン剤は、進行性腫瘍の割合を60%未満に低下できなかった。実際には、タモキシフェン治療群では65%の腫瘍(26個中17個)が進行し、トレミフェン治療群では89%の腫瘍(28個中25個)が進行し、ラロキシフェン治療群では81%の腫瘍(26個中21個)が進行し、ドロロキシフェン治療群では100%の腫瘍(23個中23個)が進行し、イドキシフェン治療群では71%の腫瘍(28個中20個)が進行し、GW5638治療群では77%の腫瘍(26個中20個)が進行した(図21)。
【0207】
カテゴリー応答に対する、エストロン刺激の不存在下における抗エストロゲン剤200μgの効果
図22に示すように、タモキシフェン、イドキシフェン及びトレミフェンは、エストロン刺激の不存在下において他の抗エストロゲン剤よりも高い割合の進行性腫瘍を生じた。実際に、日用量200μgのタモキシフェン、イドキシフェン及びトレミフェン治療後には、それぞれ62%(26個中16個)、33%(24個中8個)及び21%(28個中6個)の腫瘍が進行のカテゴリーであった。図23に見られるように、タモキシフェンへの200μgのEM-652.HClの追加は、進行性腫瘍の割合を、タモキシフェン単独の場合の62%(26個中16個)から7%(28個中2個)まで減少させた。
【0208】
子宮上皮細胞の厚さに対する抗エストロゲン剤の効果
子宮内膜上皮細胞の高さを、子宮内膜における各化合物のアゴニスト及びアンタゴニスト効果の最も直接的なパラメーターとして測定した。
【0209】
子宮内膜上皮細胞の厚さに対する、エストロン刺激の存在下における日用量50μgの抗エストロゲン剤の効果
経口日用量50μgにおいて、EM-652.HClは、上皮の高さに対するエストロンの刺激作用を70%阻害した。試験した他の6種の抗エストロゲン剤の効力は、有意に低かった(p<0.01)。実際に、ドロロキシフェン、GW5638、ラロキシフェン、タモキシフェン、トレミフェン及びイドキシフェンは、エストロン刺激をそれぞれ17%、24%、26%、32%、41%及び50%阻害した(Table 12(表12))。
【0210】
子宮内膜上皮細胞の厚さに対する、エストロン刺激の不存在下における日用量200μgの抗エストロゲン剤の効果
エストロゲン刺激の不存在下において上皮細胞の高さを有意に増加させなかった被験化合物は、EM-652.HCl及びドロロキシフェンのみであった(それぞれ、OVX対照群値の114%及び101%)。タモキシフェン(155%)、トレミフェン(135%)及びイドキシフェン(176%)は、子宮上皮の高さの有意な刺激をもたらした(p<0.01(対OVX対照群)。ラロキシフェン(122%)及びGW5638(121%)も、子宮上皮の高さの統計的に有意な刺激をもたらした(p<0.05(対OVX対照群))(Table 12(表12))。子宮及び膣重量に対して測定された各抗エストロゲン剤のアゴニスト及びアンタゴニスト効果は、子宮上皮厚について観察されたパターンと一致していた(データは示さず)。
【0211】
【表12】
【0212】
(実施例9)
14C-EM-800(20mg/kg)の単回経口投与後の雌ラット脳の放射活性
実施例8は、本発明のSERM、14C-EM-800(20mg/kg)の単回経口投与後のラット脳の放射活性を示す。比較のため、これらの動物のそれぞれからの血液、血漿、肝臓(Table 13(表13))及び子宮の値も挙げる。雌雄Long-Evansラットへの14C-EM-800(20mg/2ml/kg)の単回経口投与後の放射活性の組織分布及び排泄量。これらの数値は、雌Long-Evansラットの脳中の薬物由来の総放射活性の量が、非常に低く(ng当量/g組織)、投与12時間後には検出されなかったことを示している。2時間において、脳中の放射活性は肝臓中の412分の1、子宮中の21分の1、血液中の8.4分の1、血漿中の13分の1であった。割合はわからないが総脳放射活性は血液の放射活性による汚染に起因するので、脳の放射活性についてTable X1に示した値は、脳組織自体の14C(EM-800)関連放射活性レベルの過大評価である。このようなデータは、脳組織中の抗エストロゲン剤の濃度は低すぎて、外因性エストロゲンの作用を打ち消せないことを示唆している。脳組織中に検出された放射活性の一部は組織中の残留血液に起因し得ることに留意することが重要である(Table 14(表14))。また、この試験に使用した14C-EM-800の放射化学的純度は最小限でも96.25%であった。
【0213】
【表13】
【0214】
【表14】
【0215】
(実施例10)
臨床試験ERC-205
ETUDE DE PHASE II-III RANDOMISEE AVEC CONTROLE PLACEBO POUR EVALUER LES EFFETS DE LA DHEA SUR LES SYMPTOMES VASOMOTEURS (BOUFFEES DE CHALEUR)-閉経後女性の血管運動症状(ホットフラッシュ)に対するDHEAの効果を評価するための第II相-第III相無作為化プラセボ対照試験
試験計画要約
これは、プラセボ投与と比較して、血管運動症状(ホットフラッシュ)の低減に対するDHEAの効果を評価するための無作為化プラセボ対照試験であった。1週間に50回以上の中等度又は重度のホットフラッシュ(2週間日記によって測定)の自覚がある閉経後女性を、プラセボ又は50mgのDHEAのいずれかの連日投与に無作為に割り付けた。50人の評価可能患者(患者数25/群)を4ヶ月間治療した。ホットフラッシュの毎日の評価は、各被験者による自己記入式日記に記録されたものである。
【0216】
【化4】
【0217】
2週間スクリーニングホットフラッシュ日記によって確認された、50回/週以上の中等度又は重度のホットフラッシュを呈した年齢40〜70才の閉経後女性を、インフォームドコンセントへの署名後に登録した。プロトコールは、Institutional Review Board (IRB) of Le Centre Hospitalier de I’Universite Laval及びHealth Canadaの承認を得た。
女性は、a又はb又はcに適合しなければならない。
a.少なくとも1年間月経がない、又は
b.6ヶ月以上12ヶ月未満月経がない女性若しくは子宮摘出時に閉経前であった子宮摘出女性においては、FSH濃度が40mIU/mL以上(無作為化1日目前の60日以内)、又は
c.両側卵巣切除の前歴。
無作為化の12ヶ月以内における正常な子宮頚部細胞診(炎症性変化を含む)及び正常な子宮頚部細胞診(PAP smear)が入手可能でなければならない。
経膣超音波検査における子宮内膜厚が4mm以下でなければならない。
【0218】
主要評価項目は、4ヶ月の治療後の16週における、中等度から重度のホットフラッシュの週間頻度のベースラインからの変化とした。全ホットフラッシュの週間頻度のベースラインからの変化及び週別重み付重症度スコアのベースラインからの変化も、主要評価項目の対象に含めた。
【0219】
副次的評価項目は、DHEAの安全性評価及び生活の質とした。
【0220】
応答評価項目は、ホットフラッシュの数及び型を以下のように特定する、毎日記入された患者の紙日記である。
0 なし。
1 軽度=発汗を伴わない熱感。
2 中等度=発汗を伴うが活動停止の必要がない熱感。
3 重度=活動停止を必要とする、発汗を伴う熱感。これは、寝汗を含む。
【0221】
ホットフラッシュ日記は、無作為化の2週間前からスクリーニング日記として開始された。患者には、ホットフラッシュの数及び重症度を記録してこの日記を毎日記入する義務が課された。患者が適格であるためには、2週間にわたって平均50回/週以上の中等度又は重度のホットフラッシュの記録(即ち、2週間のスクリーニング日記への少なくとも100回のホットフラッシュの記録)が必要であった。
【0222】
無作為化の後、患者は、治験薬治療開始後に8冊の2週間ホットフラッシュ日記を記入した。この日記は、毎日記入する必要があった。第1の日記は、最初の2週間にわたって記入し、2週間目の来診時に返却された。第2の2週間日記は、最初の4週間の治療期間のうち次の2週間にわたって記入し、4週間目の来診時に返却された。4、8、12及び16週間目の来診時には、ホットフラッシュに関する2週間日記が2冊回収された。
【0223】
日記と無作為化治験薬投与とは、同一日に開始された(即ち、1日目。患者は、治験薬投与を受け始める予定と同一日に起床すると、ホットフラッシュを記録し始めた)。
【0224】
結果
図24及びTable 15(表15)に示すように、中等度から重度のホットフラッシュの回数は、スクリーニング時の70.7±4.5回/週から、4週で50.1±5.7回/週(有意差なし(対プラセボ群))まで、8週で40.2±6.1回/週まで、12週で34.7±5.8回/週(p<0.05(対プラセボ群))まで及び16週で32.2±5.8回/週(p<0.05(対プラセボ群))まで減少した。DHEAの場合の54.5%減少に対して、プラセボによる減少は32.9%であった。
【0225】
同様な効果が、全ホットフラッシュの頻度についても観察され(図25、Table 16(表16))、ホットフラッシュ75.5±4.4回/週のプレスクリーニング値は、4週で55.3±5.8回/週(有意差なし(対プラセボ群))まで、8週で44.7±6.3回/週まで、12週で39.5±5.9回/週(p<0.05(対プラセボ群))まで及び16週で36.0±5.7回/週(p<0.05(対プラセボ群))まで減少した。DHEAの場合の52.4%減少に対して、プラセボによる減少は34.9%であった。
【0226】
軽度のホットフラッシュをスコア1、中等度のホットフラッシュをスコア2及び重度のホットフラッシュをスコア3とする場合には、値は、16週で、DHEA群では187.1±13.9から87.2±15.8へと変化し、これに対してプラセボ群では196.3±13.6から130±14.1へと変化した(p<0.05)ことがわかる。DHEA群の53.4%の減少に対して、プラセボは18.0%の減少を引き起こし、したがってDHEAの効果が3.0倍であることが示された。
【0227】
Table 18(表18)に示すように、DHEAの効果は、中等度から重度のホットフラッシュに対してより大きく、効果は重み付重症度スコアでよりよく説明され、この場合、値はDHEAによって99.1±15.6減少し、プラセボの場合には68.6±15.6減少した。この効果は、Table 19(表19)においてよりよく示され、スクリーニング時に71回/週以上のホットフラッシュを呈する女性群のホットフラッシュ平均数は、プラセボ群で94.7±7.9から57.8±8.3へと変化し、DHEA投与女性群では88.5±7.1から31.6±11.6へと変化した。このようなデータは、血管運動症状が最も大きかった女性群において、DHEAのよる阻害が65%大きい(DHEA群の64.3%対プラセボ群の39.0%)ことを示している。実際に、50〜70回/週の中等度から重度のホットフラッシュを呈する女性において、数は、プレスクリーング時の56.7±1.3回/週から6週で32.7±6.2回/週まで変化し(43.3%の減少)、これに対してプラセボ群の場合の減少は24.7%であり、したがってDHEAによる阻害がプレセボよりも43%大きいことを示した。
【0228】
軽度のホットフラッシュ数は比較的少ない(Table 18(表18)とTable 19(表19)との比較)ので、同様な結論がTable 20(表20)に見られる。70超の軽度+中等度+重度ホットフラッシュを呈する女性におけるホットフラッシュ数は、プレスクリーン時の91.0±7.0回/週からDHEA投与女性群の16週の36.3±11.5回/週まで減少している(60%の減少)。プレセボ投与女性群においては、全ホットフラッシュのは、スクリーン時の100.4±7.9から16週で61.3±8.9まで変化し、減少は39.9%である。このようなデータは、全重症度のホットフラッシュの最大数を示した女性群において、DHEAの効力が50%大きいことを示している。
【0229】
計算に重み付重症度スコアを用いる場合にも、類似した結論に達する(Table 21(表21))。70回超/週のホットフラッシュを呈する女性について検討する場合、スコアは、DHEA投与女性群においてはスクリーニング時の241.6±21.1から16週で95.2±34.3まで変化し(61.6%の減少)、プラセボ群では242.0±21.6から16週で141.3±20.1まで減少している(41.6%の減少)。スクリーニング時に50〜70回/週のホットフラッシュを呈する女性においては、スコアは、DHEA投与女性群ではスクリーニング時の144.3±6.7から16週で81.6±13.6からまで変化し(43.5%の減少)、これに対してプラセボ群ではスクリーニング時の154.2±3.7から16週で118.8±20.2まで変化している(33.0%の減少)。
【0230】
結論
本データから、中等度から重度のホットフラッシュ又は全ホットフラッシュの総数の有意な減少、及びホットフラッシュ週別重み付重症度スコアの有意な減少によって評価されるように、血管運動症状軽減のための50mgのDHEA治療の効力が明らかになった。
【0231】
【表15】
【0232】
【表16】
【0233】
【表17】
【0234】
【表18】
【0235】
【表19】
【0236】
【表20】
【0237】
【表21】
【0238】
(実施例11)
臨床試験ERC-213
膣萎縮を呈する閉経後女性における、膣坐剤投与後のDHEAのバイオアベイラビリティ
試験計画要約
この試験の主目的は、DHEAの連日膣内適用後における、膣上皮細胞の成熟度の測定であった。40人の閉経後女性を、以下のDHEA濃度:0.0%、0.5%(DHEA 6.5mg/卵形剤)、1.0%(DHEA13mg/卵形剤)又は1.8%(DHEA23.4mg/卵形剤)の卵形剤1個を7日間連日投与する群に無作為化した。DHEAの全身バイオアベイラビリティ及びその代謝産物も測定した。
【0239】
結果
わずか1週間のDHEA坐剤の連日投与後に、成熟度指数は、0.5%、1.0%及び1.8%DHEA群においてそれぞれ107%(p<0.01)、75%(p<0.05)及び150%(p<0.01)増加した(図26)。1日目と7日目との間で、プラセボ群では変化が観察されなかった。他方、膣pHは、0.5%、1.0%及び1.8%DHEA群においてそれぞれ6.29±0.21から5.75±0.27(p<0.05)まで、6.47±0.23から5.76±0.22(p<0.01)まで及び6.53±0.25から5.86±0.28(p<0.05)まで低下した(図27)。プラセボ群では、膣pHの変化は観察されなかった。
【0240】
結論
本データは、DHEAの膣内投与が、血清エストロゲンに有意な変化を与えることなく、膣萎縮に対する有益作用の迅速な達成を可能にし、したがって、現在使用されている膣内又は全身性エストロゲン製剤と関連する乳癌リスクの増大を回避すること及びこの組織内において最近認識されたDHEA作用のアンドロゲン成分の局所的利益を膣の全層に付加することを示している。
【0241】
医薬組成物例
限定としてではなく一例として以下に記載するのは、好ましい活性SERMアコルビフェン(EM-652.HCl、EM-1538)及び好ましい活性な性ステロイド前駆体デヒドロエピアンドロステロン(DHEA、Prasterone)を使用する数種の医薬組成物である。アコルビフェン又はデヒドロエピアンドロステロンの代わりに(それに加えて)、本発明の他の化合物及びそれらの組み合わせを使用できる。活性成分の濃度は、本明細書中に記載するように広範囲にわたって変化し得る。挙げることができる他の成分の量及び型は、当業界でよく知られているものである。
【0242】
(実施例A)
【0243】
【表22】
【0244】
(実施例B)
【0245】
【表23】
【0246】
(実施例C)
【0247】
【表24】
【0248】
(実施例D)
【0249】
【表25】
【0250】
DHEA坐剤は、Witepsol H-15基剤(Medisca、Montreal、Canada)を用いて調製した。Hard Fat、Fattibase、Wecobee、カカオバター、カカオ脂又はWitepsol基剤の他の組み合わせなどの任意の他の親油性基剤も使用できるであろう。好ましいSERMは、EM-800及びアコルビフェンである。
【0251】
キット例
限定としてではなく一例として以下に記載するのは、好ましい活性SERMアコルビフェン、好ましい抗エストロゲン剤Faslodex及び好ましい活性な性ステロイド前駆体DHEAを使用する数種のキットである。活性成分の濃度は、本明細書中に記載するように広範囲にわたって変化し得る。挙げることができる他の成分の量及び型は、当業界でよく知られているものである。
【0252】
(実施例D)
キット
SERM及び性ステロイドを、経口投与する。
【0253】
【表26】
【0254】
前記製剤中のアコルビフェンの代わりに他のSERMを使用することもでき、DHEAの代わりに他の性ステロイド前駆体を使用することもできる。2種以上のSERM又は2種以上の性ステロイド前駆体を使用することも可能であり、その場合には、総合重量百分率は好ましくは、前記実施例中に示した単一性ステロイド前駆体又は単一SERMの百分率の総合重量百分率である。
【0255】
(実施例E)
キット
SERMを経口投与し、性ステロイド前駆体を膣内投与する。
【0256】
【表27】
【0257】
DHEA坐剤は、Witepsol H-15基剤(Medisca、Montreal、Canada)を用いて調製した。Hard Fat、Fattibase、Wecobee、カカオバター、カカオ脂又はWitepsol基剤の他の組み合わせなどの任意の他の親油性基剤も使用できるであろう。
【0258】
(実施例F)
キット
SERM及び性ステロイド前駆体を膣内投与する。
【0259】
【表28】
【0260】
アコルビフェン坐剤は、Hard Fat(Witepsol)を用いて調製した。Fattibase、Wecobee、カカオバター、カカオ脂又はHard Fatの他の組み合わせなどの任意の他の基剤も使用できるであろう。
【0261】
(実施例G)
SERMを経口投与し、性ステロイド前駆体を経皮投与する。
【0262】
【表29】
【0263】
(実施例H)
キット
抗エストロゲン剤を筋肉内投与し、性ステロイド前駆体を経口投与する。
【0264】
【表30】
【0265】
前記製剤中のアコルビフェンの代わりに他のSERM(トレミフェン、オスペミフェン、ラロキシフェン、アルゾキシフェン、ラソフォキシフェン、TSE-424、ERA-923、EM-800、SERM3339、GW-5638)を使用することもでき、DHEAの代わりに他の性ステロイド阻害剤を使用することもできる。2種以上のSERM又は2種以上の前駆体を使用することも可能であり、その場合には、総合重量百分率は好ましくは、前記実施例中に示した単一前駆体又は単一SERMの百分率の総合重量百分率である。
【0266】
本発明を、好ましい実施形態及び実施例に関して記載したが、本発明はそれらによって限定されるものではない。当業者ならば、添付した「特許請求の範囲」によってのみ限定される本発明のより広範な適用可能性及び範囲を容易に認識できる。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により内容が本明細書に組み込まれている、2009年6月16日に出願した米国仮出願第61/187,549号及び2010年6月1日に出願した米国非仮出願第12/791,174号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、女性におけるホットフラッシュ(火照り)、血管運動症状及び寝汗の新規治療に関する。詳細には、この治療は、乳癌又は子宮内膜癌の罹患リスクを低減するための、性ステロイドの前駆体と選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)との組み合わせの投与を含む。本発明はまた、前記組み合わせを実施するためのキット及び医薬組成物を提供する。患者への前記組み合わせの投与は、ホットフラッシュ、血管運動症状、寝汗及び睡眠障害の発生を低減又は排除する。更に、乳癌及び/又は子宮内膜癌の罹患リスクもこの併用療法を受けた患者では低減されると考えられる。また、骨粗鬆症、高コレステロール血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、アルツハイマー病、認知機能の喪失、記憶喪失、不眠症、心血管疾患、インスリン抵抗性、糖尿病及び肥満(特に腹部肥満)の罹患可能性又は罹患リスクの低減などの付加的な利益も提供される。
【背景技術】
【0003】
本明細書中で以下に記載する参考文献の完全な引用を、より簡略な引用形式を用いて下記に示す。
(参考文献)
【0004】
多数の疾病、病態及び望ましくない症状が、外因性の性ステロイド又はそれらの前駆体の投与に好ましく応答することが知られている。例えば、エストロゲンは骨量減少速度を低下させると考えられており、アンドロゲンは骨形成を刺激することによって骨量を増加させることが示されている。ホルモン補充療法(例えば、エストロゲンの投与)は、更年期症状の治療に使用できる。プロゲスチンは、子宮内膜の増殖を妨げ、エストロゲンによって誘発される子宮内膜癌のリスクを打ち消すためにしばしば使用される。治療への又は予防目的での、多岐にわたる症状及び障害への、エストロゲン、アンドロゲン化合物及び/又はプロゲスチンの使用には、多数の弱点がある。アンドロゲン化合物による女性の治療には、ある種の男性化副作用を引き起こすという望ましくない副作用を伴うことある。また、患者への性ステロイドの投与は、患者の、ある種の疾患の罹患リスクを増大させることもある。例えば、女性の乳癌は、エストロゲン活性によって増悪する。
【0005】
更に、アンドロゲン化合物は、HRTによってしばしば引き起こされる乳腺痛(mastalgia)の治療に有益であることがわかっている(Pyeら、1985)。実際に、エストロゲン補充療法は、治療中断の原因ともなり得る重度の乳房痛(breast pain)をもたらす場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US6,060,503
【特許文献2】欧州特許第0279982号
【特許文献3】米国特許第5,162,037号
【特許文献4】米国特許第5,154,922号
【特許文献5】米国特許第5,135,480号
【特許文献6】米国特許第4,666,441号
【特許文献7】米国特許第4,624,665号
【特許文献8】米国特許第3,742,951号
【特許文献9】米国特許第3,797,444号
【特許文献10】米国特許第4,568,343号
【特許文献11】米国特許第5,064,654号
【特許文献12】米国特許第5,071,644号
【特許文献13】米国特許第5,071,657号
【特許文献14】英国特許出願第2185187号
【特許文献15】米国特許第6,710,059B1号
【特許文献16】JP10036347(特開平10-36347号公報)
【特許文献17】WO97/32837
【特許文献18】WO97/25034
【特許文献19】WO97/25035
【特許文献20】WO97/25037
【特許文献21】WO97/25038
【特許文献22】WO97/25036
【特許文献23】EP0802183A1
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Women’s Health Initiative、2002
【非特許文献2】Koller及びBuri、S.T.P Pharma 3(2)、115〜124頁、1987
【非特許文献3】Gauthierら、J.Med.Chem. 40:2117〜2122頁、1997
【非特許文献4】Kramer CY;Biometrics 1956;12:307〜310頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
より有効なホルモン療法並びに副作用及びリスクの低減が必要とされている。本発明の併用療法、並びにそれらの療法に使用できる医薬組成物及びキットは、これらの要求に応えると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、ホットフラッシュ、血管運動症状、寝汗及び睡眠障害の治療方法又はそれらの発生若しくは罹患リスクの低減方法を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、乳癌及び/又は子宮内膜癌、骨粗鬆症、心血管疾患、高コレステロール血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、インスリン抵抗性、糖尿病、肥満(特に、腹部肥満)並びに膣乾燥の罹患リスクを最小限に抑えながら、前記疾患を治療するか又は前記疾患の罹患リスクを低減する方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、前記方法への使用に好適なキット及び医薬組成物を提供することである。好ましくは、これらの製品は、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される症状の発生の低減又は排除のためのそれらの内容物の使用説明書と共にパッケージ化される。
【0012】
一実施形態において、本発明は、ホットフラッシュ、血管運動症状、寝汗及び睡眠障害の発生を低減又は排除する方法であって、前記排除又は低減を必要とする患者に、治療有効量の性ステロイドの前駆体又はそれらのプロドラッグを、前記患者への、治療有効量の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はそれらのプロドラッグの投与と組み合わせて投与する段階を含む方法を提供する。
【0013】
性ステロイド前駆体は、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール、4-アンドロステン-3,17-ジオン及び前記の追加作用剤のいずれかのプロドラッグからなる群から選択されるのが好ましい。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、付加的な有益作用を提供するか、又は骨粗鬆症、高コレステロール血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、アルツハイマー病、インスリン抵抗性、糖尿病、筋肉量減少、肥満からなる群から選択される病態の罹患リスクを低減する。前記の有益作用は、この有益作用を必要とする患者に、治療有効量の性ステロイドの前駆体又はそれらのプロドラッグを、前記患者への治療有効量の選択的エストロゲン受容体モジュレーター又はそれらのプロドラッグの投与と組み合わせて投与することによって、得られる。
【0015】
別の実施形態において、本発明は、
a)薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、
b)治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグと、
c)治療有効量の少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はプロドラッグと
を含む医薬組成物を提供する。
【0016】
別の実施形態において、本発明は、
a)薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、
b)治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグと、
c)治療有効量の少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はプロドラッグと
を含む丸剤、錠剤、カプセル剤、ゲル剤、クリーム剤、卵形剤(膣坐剤)(ovule)又は坐剤を提供する。
【0017】
別の実施形態において、本発明は、治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグを含む医薬製剤を収容している第1の容器を含み、治療有効量の少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はそれらのプロドラッグを含む医薬製剤を収容している第2の容器を更に含むキットを提供する。
【0018】
別の実施形態において、本発明は、ホットフラッシュ、血管運動症状、寝汗及び睡眠障害の治療又は発生の低減を必要とする患者における、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、硫酸デヒドロエピアンドロステロン(DHEA-S)、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール(5-ジオール)及び4-アンドロステン-3,17-ジオンからなる群から選択される性ステロイド前駆体のレベルを増加させること、更に併用療法の一部としての、治療有効量の選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)の前記患者への投与を含むことによる、ホットフラッシュ、血管運動症状、寝汗及び睡眠障害の治療又は発生の低減方法に関する。
【0019】
本明細書中で使用する「純粋SERM」は、SERMが、生理学的又は薬理学的濃度において乳房及び子宮内膜組織中でエストロゲン活性を有さないことを意味する。
【0020】
別の実施形態において、本発明は、治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体を収容している第1の容器を含み、治療有効量の少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーターを収容している第2の容器を更に含むキットを提供する。
【0021】
別の実施形態において、本発明は、1つの容器中に
a)薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、
b)治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体と、
c)治療有効量の少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーターと
を含む医薬組成物を提供する。
【0022】
別の実施形態において、本発明は、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される症状の発生を低減又は排除する方法であって、前記排除又は低減を必要とする患者に、(i)治療有効量の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグと、(ii)治療有効量の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はいずれかのプロドラッグとを組み合わせて投与する段階を含む方法を提供する。
【0023】
別の実施形態において、本発明は、
a)薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、
b)少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグと、
c)少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はいずれかのプロドラッグと
を含む、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される症状を低減又は排除するための医薬組成物であって、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される少なくとも1つの症状の低減又は排除のための前記組成物の使用を指示するパッケージングの形態で提供される医薬組成物を提供する。
【0024】
別の実施形態において、本発明は、(i)少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグを収容している第1の容器と、(ii)少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又は前記のいずれかのプロドラッグを収容している第2の容器と、(iii)ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される少なくとも1つの症状の低減又は排除のためのキットの使用説明書とを含む、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される症状の低減又は排除のためのキットを提供する。
【0025】
本明細書中で使用するように、他の化合物「と組み合わせて」患者に投与される化合物は、両化合物が時間的に近傍で投与されなかったとしても、患者が両化合物の生理学的作用を同時に得られるように、前記他の化合物の投与の十分に近くで投与される。これらの化合物が併用療法の一部として投与される場合には、それらは互いに組み合わせて投与される。本明細書中に記載される好ましい選択的エストロゲン受容体モジュレーターは、好ましい性ステロイド前駆体、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール又は4-アンドロステン-3,17-ジオン、特にデヒドロエピアンドロステロンと組み合わせて使用するのが好ましい。
【0026】
エストロゲン補充療法は、閉経による疾患、即ち、骨粗鬆症、ホットフラッシュ、膣乾燥、冠動脈性心疾患(Cummings 1991)の予防及び治療のため閉経後女性によく使用されているが、エストロゲンの慢性投与に関連するいくつかの望ましくない作用を及ぼす。特に、エストロゲンによって子宮癌及び/又は乳癌のリスクの増大が認識されている(Judd、Meldrumら、1983;Colditz、Hankinsonら、1995)ことが、この療法の主な欠点である。本発明者らは、性ステロイド前駆体の投与への選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)の追加がこれらの望ましくない作用を抑制することを発見した。
【0027】
他方、SERMは単独では、ホットフラッシュ及び発汗のような一部の更年期症状に対してはほとんど又は全く有益作用がない。本出願人は、更年期症状のSERM治療への性ステロイド前駆体の追加がホットフラッシュ及び発汗を低減し、又は更には排除すると考える。ホットフラッシュ及び発汗が閉経の最初の徴候であること、並びに患者が閉経期治療を受け入れるか否かが通常、ホットフラッシュ及び発汗の低減の成否次第であることに注目することが重要である。
【0028】
本明細書中で使用するように、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)は、直接的に又はその活性代謝産物によって、乳房組織中ではエストロゲン受容体アンタゴニスト(「抗エストロゲン剤」)として作用するが、骨組織に対して及び血清コレステロール濃度に対して(即ち、血清コレステロールを低減させることによって)エストロゲン又はエストロゲン様作用をもたらす化合物である。インビトロで又はヒト若しくはラット乳房組織においてエストロゲン受容体アンタゴニストとして機能する非ステロイド系化合物は(特に化合物がヒト乳癌細胞に対して抗エストロゲン剤として作用する場合には)、SERMとして機能する可能性がある。逆に、ステロイド系抗エストロゲン剤は、血清コレステロールに対して有益作用を示さない傾向があるので、SERMとして機能しない傾向がある。我々の試験により、SERMとして機能することがわかった非ステロイド系抗エストロゲン剤としては、EM-800、EM-652.HCl、ラロキシフェン(Raloxifene)、タモキシフェン(Tamoxifen)、4-ヒドロキシ-タモキシフェン、トレミフェン(Toremifene)、4-ヒドロキシ-トレミフェン、ドロロキシフェン(Droloxifene)、LY 353 381、LY 335 563、GW-5638、ラソフォキシフェン(Lasofoxifene)、バゼドキシフェン(Bazedoxifene)(TSE 424;WAY-TSE 424;WAY 140424;1-[[4-[2-(ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)エトキシ]フェニル]メチル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1H-インドール-5-オール);ピペンドキシフェン(Pipendoxifene)(ERA 923;2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1-[[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]メチル]-1H-インドール-5-オール)及びイドキシフェン(Idoxifene)が挙げられるが、これらの化合物に限定するものではない。
【0029】
しかし、我々はまた、全てのSERMが同様に反応するのではなく、「純粋SERM」及び「混合SERM」の2つのサブクラスに分類できることを発見した。したがって、EM-800及びEM-652.HClのような一部のSERMは、乳房及び子宮内膜組織中では生理学的又は薬理学的濃度においてエストロゲン活性を有さず、ラットでコレステロール低下作用及びトリグリセリド低下作用を有する。これらのSERMは、「純粋SERM」と称することができる。理想的なSERMは、乳腺における強力で純粋な抗エストロゲン活性のため、EM-652.HCl型の純粋SERMである。ラロキシフェン、タモキシフェン、ドロロキシフェン、4-ヒドロキシ-タモキシフェン(1-(4-ジメチルアミノエトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-2-フェニル-ブタ-1-エン)、トレミフェン、4-ヒドロキシ-トレミフェン[(Z)-(2)-2-[4-(4-クロロ-1-(4-ヒドロキシフェニル)-2-フェニル-1-ブテニル)フェノキシ]-N,N-ジメチルエタンアミン)、LY 353 381、LY 335 563、GW-5638、ラソフォキシフェン、イドキシフェン及びバゼドキシフェンのような他のSERMは、乳房及び子宮内膜において若干のエストロゲン活性を有する。この第2の系のSERMは、「混合SERM」と称することができる。インビトロ試験においては図5及び6に示されるように、また、乳癌のインビボ試験においては図7に示されるように、これらの「混合SERM」の望ましくないエストロゲン活性は、「純粋SERM」の追加によって阻害できる。ヌードマウスにおけるヒト乳癌異種移植片は、入手可能なヒト乳癌に最も近いモデルであるので、したがって、我々はヌードマウスにおけるZR-75-1乳癌異種移植片の成長に対する、EM-800及びタモキシフェンの単独効果と併用効果とを比較した。
【0030】
一実施形態において、本発明は、下記分子構造
【化1】
【0031】
[式中、R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル又はインビボでヒドロキシルに転化される部分であり、n=1又は2である]
の選択的エストロゲン受容体モジュレーターを使用する。
【0032】
本出願人は、SERMがエストロゲン、特に乳房、子宮及び子宮内膜組織において癌のリスクを増加させる可能性がある外因性の性ステロイド前駆体から形成されるものの潜在的副作用を打ち消す必要があるので、本発明のSERMが乳房、子宮及び子宮内膜組織において純粋な抗エストロゲン剤として作用することは非常に重要と考える。特に、本出願人は、2位に2S絶対配置を有する本発明のベンゾピラン誘導体がそのラセミ混合物よりも好適であると考える。例えば、US6,060,503に、2S配置を有する光学活性ベンゾピラン抗エストロゲン剤が、エストロゲンで増悪した乳癌及び子宮内膜癌を治療することが開示されており、これらの化合物はラセミ混合物よりも著しく効果的であることが示されている(US6,060,503の図1〜5を参照のこと)。
【0033】
2S配置のエナンチオマーは工業的に純粋な状態での入手が困難であり、本出願人は、2Rエナンチオマーの混入は10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは2重量%未満が望ましいと考える。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ラットにおける、血清トリグリセリド(A)及びコレステロール(B)濃度に対する、DHEA(10mg、経皮、1日1回)又はEM-800(75μg、経口、1日1回)の単独又は組み合わせによる9ヶ月間の治療効果を示す。データは、平均値±SEMとして表す。**:P<0.01(実験群対各対照群)。
【図2】卵巣切除ラットにおける、総血清コレステロール濃度に対する、漸増用量(0.01、0.03、0.1、0.3及び1mg/kg)で投与されたEM-800又はラロキシフェンによる37週間の治療効果を示す。17β-エストラジオール(E2)のインプラント(implant)を有する卵巣切除ラットと無傷のラットとが比較される。**p<0.01(実験群対OVX対照ラット群)。
【図3】A)は、エストロンを補充した卵巣切除(OVX)ヌードマウスにおける、平均ZR-75-1腫瘍サイズに対する、1日2回皮下投与された漸増用量(0.3mg、1.0mg又は3.0mg)のDHEAの効果を示す。ビヒクル(vehicle)のみを投与された対照OVXマウスを、追加対照群として用いる。初期腫瘍サイズを100%と見なした。DHEAは、50%エタノール-50%プロピレングリコールの溶液0.02mlとして背面皮膚に経皮(p.c.)投与した。B)エストロンを補充されたOVXヌードマウスにおける、ZR-75-1腫瘍重量に対する、漸増用量のDHEA又はEM-800(本発明のSERM)の単独又は組み合わせによる9.5ヶ月間の治療効果を示す。**p<0.01(治療群対エストロン補充対照OVXマウス群)。
【図4】エストロンを補充した卵巣切除(OVX)ヌードマウスにおける平均ZR-75-1腫瘍サイズに対する、漸増経口用量(15μg、50μg又は100μg)の抗エストロゲン剤EM-800 (A)、又は漸増用量(0.3mg、1.0mg又は3.0mg)のDHEAとEM-800(15mg)との組み合わせ若しくはEM-800単独の経皮投与(B)の9.5ヶ月間の効果を示す。初期腫瘍サイズを100%と見なした。ビヒクル(vehicle)のみを投与された対照OVXマウスを、更なる対照群として用いた。エストロンは1日1回、0.5μgの用量で皮下投与し、DHEAは、50%エタノール-50%プロピレングリコール中に溶解させて、0.02mlの容量で1日2回、背面皮膚領域に適用した。ビヒクルのみを投与されたOVXマウスと比較される。
【図5】ヒト石川(Ishikawa)細胞における、アルカリホスファターゼ活性に対する、漸増濃度のEM-800、(Z)-4-OH-タモキシフェン、(Z)-4-OH-トレミフェン及びラロキシフェンの効果を示す。アルカリホスファターゼ活性は、1.0nMのE2の存在下又は不存在下で漸増濃度の指示化合物に5日間曝露した後に測定した。データは、4個のウェルの平均値±SEMで表す。SEMが用いた記号と重なる場合には、記号のみを示す(Simard、Sanchezら、1997)。
【図6】ヒト石川癌腫細胞における、抗エストロゲン剤EM-800による、アルカリホスファターゼ活性に対する(Z)-4-OH-タモキシフェン、(Z)-4-OH-トレミフェン、ドロロキシフェン及びラロキシフェンの刺激作用の遮断を示す。アルカリホスファターゼ活性は、30又は100nMのEM-800の存在下又は不存在下で3又は10nMの指示化合物に5日間曝露した後に測定した。データは、対照群のデータが16個のウェルから得たデータである以外は、8個のウェルの平均値±SDで表す(Simard、Sanchezら、1997)。
【図7】ヒト乳癌ZR-75-1異種移植片の成長に対するタモキシフェンの刺激作用が、EM-652.HClの同時投与によって完全に遮断されることを示す。EM-652.HCl自体は、その純粋な抗エストロゲン活性と一致して、タモキシフェンの不存在下では腫瘍成長に対して効果がない。
【図8】閉経のパラメーターに対する、標準ERT(エストロゲン)又はHRT(エストロゲン+プロゲスチン)と、デヒドロエピアンドロステロンとSERMアコルビフェン(Acolbifene)との組み合わせとの効果の比較を示す。デヒドロエピアンドロステロンへのアコルビフェンの追加は、デヒドロエピアンドロステロンから形成されるエストロゲンの起こり得るマイナス効果を妨げるであろう。
【図9】ラット乳腺の切片を示す。 a)未治療ラット。小葉(L)は、数個の腺胞からなる。挿入部分-腺胞を示す高倍率。 b)EM-800(0.5mg/kg体重/日)で12週間治療されたラット。小葉(L)のサイズは縮小されている。挿入部分-萎縮した腺胞細胞を示す高倍率。
【図10】ラット子宮内膜の切片を示す。 a)未治療ラット。管腔上皮(LE)は円柱上皮細胞を特徴とするが、腺上皮(GE)は立方上皮細胞である。間質は、数種の細胞成分及び膠原線維を含んでいる。 b)EM-800(0.5mg/kg体重/日)で12週間治療されたラット。管腔上皮は、高さが顕著に減少している。腺上皮細胞は未染色の細胞質を有し、活性の徴候がない。間質は、間質の細胞間成分の減少により、細胞密度が高い。
【図11】エストロンで同時治療された卵巣切除マウスに9日間経口投与された漸増濃度のEM-652.HCl、ラソフォキシフェン(遊離塩基;活性及び不活性エナンチオマー)及びラロキシフェンの、子宮重量に対する効果を示す。*p<0.05、**p<0.01(対E1-治療対照群)。
【図12】エストロンで同時治療された卵巣切除マウスに9日間経口投与された漸増濃度のEM-652.HCl、ラソフォキシフェン(遊離塩基;活性及び不活性エナンチオマー)及びラロキシフェンの、膣重量に対する効果を示す。**p<0.01(対E1-治療対照群)。
【図13】卵巣切除マウスに9日間経口投与された1μg及び10μgのEM-652.HCl、ラソフォキシフェン(遊離塩基;活性及び不活性エナンチオマー)及びラロキシフェンの、子宮重量に対する効果を示す。**p<0.01(対OVX対照群)。
【図14】卵巣切除マウスに9日間経口投与された1μg及び10μgのEM-652.HCl、ラソフォキシフェン(遊離塩基;活性及び不活性エナンチオマー)及びラロキシフェンの、膣重量に対する効果を示す。**p<0.01(対OVX対照群)。
【図15】卵巣切除ラットにおける、海綿骨体積に対するデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)の単独又はフルタミド若しくはEM-800との組み合わせによる12ヶ月の治療効果を示す。無傷のラットを、追加対照群として加える。データは、平均値±SEMとして表す。**p<0.01(対OVX対照群)。
【図16】卵巣切除ラットにおける、海綿骨梁数に対するデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)の単独又はフルタミド若しくはEM-800との組み合わせによる12ヶ月の治療効果を示す。無傷のラットを、追加対照群として加える。データは、平均値±SEMとして表す。**p<0.01(対OVX対照群)。
【図17】無傷対照(A)、卵巣切除対照(B)、及びDHEA単独によって治療された卵巣切除ラット(C)、又はDHEAとフルタミドとの組み合わせによって治療された卵巣切除ラット(D)、若しくはDHEAとEM-800との組み合わせによって治療された卵巣切除ラット(E)からの脛骨近位端骨幹端を示す。卵巣切除対照ラット(B)のおける海綿骨量(T)の減少、及びDHEA投与後(C)に誘発された海綿骨体積(T)の著しい増加に注目のこと。DHEAへのフルタミドの追加が海綿骨体積に対するDHEAの効果を部分的に遮断した(D)のに対し、DHEAとEM-800との組み合わせは卵巣切除に関連する骨量減少を完全に防いだ。Masson-Goldnerトリクローム染色の変法、倍率×80。T:骨梁、GP:成長板。
【図18】ZR-75-1腫瘍成長に対する抗エストロゲン剤の効果を示す。卵巣切除ヌードマウスにおける、エストロンによって誘発されたヒトZR-75-1乳房腫瘍の成長に対する7種の抗エストロゲン剤による161日間の治療効果。腫瘍サイズは、初期腫瘍面積(1日目=100%)の百分率として表す。データは、平均値±SEMとして表す(腫瘍数n=18〜30個/群);##p<0.01(対EM-652.HCl群);**p<0.01(対OVX群)。抗エストロゲン剤は、エストロンとコレステロールとを1:25の比で含む皮下0.5cmシラスティックインプラントによって得られるエストロン刺激下で、50μg/マウスの用量で1日1回経口投与した。
【図19】ZR-75-1腫瘍成長に対する抗エストロゲン剤の効果を示す。卵巣切除ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳房腫瘍の成長に対する7種の抗エストロゲン剤による161日間の治療効果。腫瘍サイズは、初期腫瘍面積(1日目=100%)の百分率として表す。データは、平均値±SEMとして表す(腫瘍数n=18〜30個/群);##p<0.01(対EM-652.HCl群);**p<0.01(対OVX群)。抗エストロゲン剤は、エストロゲン刺激の不存在下で100μg/マウスの用量で1日1回経口投与した。
【図20】ZR-75-1腫瘍成長に対する抗エストロゲン剤の効果を示す。卵巣切除ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳房腫瘍の成長に対する、抗エストロゲン剤、タモキシフェン、EM-652.HCl(アコルビフェン)及びタモキシフェンとEM-652.HClとの組み合わせによる161日間の治療効果。腫瘍サイズは、初期腫瘍面積(1日目=100%)の百分率として表す。データは、平均値±SEMとして表す(腫瘍数n=18〜30個/群);##p<0.01(対EM-652.HCl群);**p<0.01(対OVX群)。抗エストロゲン剤は、エストロゲン刺激の不存在下で200μg/マウスの用量で1日1回経口投与した。
【図21】応答のカテゴリーに対する抗エストロゲン剤の効果を示す。卵巣切除ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳房腫瘍の応答のカテゴリーに対する、7種の抗エストロゲン剤の161日間投与効果。完全退縮は、治療終了時に検出できなかった腫瘍を特定し;部分退縮は、元のサイズの50%以上の退縮を示した腫瘍に相当し;不変は、50%未満の退縮又は50%以下の進行を示した腫瘍を指し;進行は、腫瘍が元のサイズと比較して50%超進行したことを示す。抗エストロゲン剤は、エストロンとコレステロールとを1:25の比で含む皮下0.5cmシラスティックインプラントによって得られるエストロン刺激下で、50μg/マウスの用量で1日1回経口投与した。
【図22】応答のカテゴリーに対する抗エストロゲン剤の効果を示す。卵巣切除ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳房腫瘍の応答のカテゴリーに対する、7種の抗エストロゲン剤の161日間投与効果。完全退縮は、治療終了時に検出できなかった腫瘍を特定し;部分退縮は、元のサイズの50%以上の退縮を示した腫瘍に相当し;不変は、50%未満の退縮又は50%以下の進行を示した腫瘍を指し;進行は、腫瘍が元のサイズと比較して50%超進行したことを示す。抗エストロゲン剤は、エストロゲン刺激の不存在下で200μg/マウスの用量で1日1回経口投与した。
【図23】応答のカテゴリーに対する抗エストロゲン剤の効果を示す。卵巣切除ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳房腫瘍の応答のカテゴリーに対する、抗エストロゲン剤、タモキシフェン、EM-652.HCl(アコルビフェン)及びタモキシフェンとEM-652.HClとの組み合わせの161日間投与効果。完全退縮は、治療終了時に検出できなかった腫瘍を特定し;部分退縮は、元のサイズの50%以上の退縮を示した腫瘍に相当し;不変は、50%未満の退縮又は50%以下の進行を示した腫瘍を指し;進行は、腫瘍が元のサイズと比較して50%超進行したことを示す。抗エストロゲン剤は、エストロゲン刺激の不存在下で200μg/マウスの用量で1日1回経口投与した。
【図24】16週間の治療期間中における中等度〜重度のホットフラッシュの平均数に対する日用量のDHEA又はプラセボの効果を示す。*p<0.05(DHEA群対プラセボ群)。
【図25】16週間の治療期間中における全ホットフラッシュ(軽度、中等度及び重度)の平均数に対する日用量50mgのDHEA又はプラセボによる治療を示す。*p<0.05(DHEA群対プラセボ群)。
【図26】0%、0.5%、1.0%又は1.8%のDHEAを含む膣坐剤の連日投与を受けている40〜75才の閉経後女性において1日目及び7日目に測定された成熟度指数(maturation index)を示す。データは、平均値±SEMとして表す(n=9又は10)。*<0.05、**p<0.01(7日目データ群対1日目データ群)。
【図27】0%、0.5%、1.0%又は1.8%のDHEAを含む膣坐剤の連日投与を受けている40〜75才の閉経後女性において1日目及び7日目に測定された膣pHを示す。データは、平均値±SEMとして表す(n=9又は10)。*p<0.05、**p<0.01(7日目データ群対1日目データ群)。
【発明を実施するための形態】
【0035】
DHEAの有益作用
閉経に関して最も広く認識されている事実は、卵巣によるエストロゲン分泌の漸進的減少及び最終的にはその停止が認められることである。卵巣のエストロゲン分泌中止は、血中17β-エストラジオール(E2)濃度の顕著な低下によって説明される。この容易に測定可能な血中E2濃度変化が、更年期症状及び骨吸収に対するエストロゲンの有益作用と相まって、ホルモン補充療法の取り組みのほとんどを、種々の形態のエストロゲンと、子宮内膜の過形成及び癌を引き起こし得る、子宮内膜に対して有害な可能性があるエストロゲン単独使用の刺激効果を回避するための、エストロゲンとプロゲスチンとの組み合わせとに集中させている。
【0036】
閉経期における血中17β-エストラジオール(E2)の急激な低下は、更年期症状及び骨吸収に対する外因性エストロゲンの有益作用と相まって、ホルモン補充療法の取り組みのほとんどを、種々の形態のエストロゲンと、エストロゲン単独投与によって誘発される子宮内膜癌のリスクを回避するためのエストロゲンとプロゲスチンとの組み合わせとに集中させている。
【0037】
ホルモン補充療法(HRT)、エストロゲン及びプロゲスチンは、閉経後女性において、エストロゲンの欠乏によって生じる急性症状、特にホットフラッシュ及び寝汗に対して、並びに骨粗鬆症及び場合によっては心血管疾患の長期予防に使用されている。プロゲスチンは、長期エストロゲン曝露の刺激作用からの子宮の保護に有効であるが、それ自体の副作用、特に機能不全性子宮出血を伴う(Archerら、1999)。これは、よく起こる副作用であり、女性が最初の6〜12ヶ月以内に途中でホルモン補充療法を打ち切る一般的な理由となっている。最近になって、古典的HRTは重大な問題として取り上げられ、又は更にはプレマリン(Premarin)とプロベラ(Provera)(プレンプロ(Prempro))との組み合わせが5.2年の追跡調査で乳癌の発生率を26%増加させることを示すデータが受けて、多くの女性がその治療を放棄した(Women’s Health Initiative、2002)。
【0038】
イントラクリノロジー(intracrinology)と称される、末梢標的組織におけるアンドロゲン及びエストロゲンの形成及び作用に対する理解の向上(Labrie、1991;Labrieら、1992a;Labrieら、1992b;Labrieら、1994;Labrieら、1995;Luu-Theら、1995a;Labrieら、1996;Labrieら、1997a;Labrieら、1997b;Labrieら、1997c;Labrieら、1997d)、並びにラットおいて卵巣切除後の骨量減少予防に果たすアンドロゲンの主な役割がエストロゲンの主な役割を上回ることを示す観察(Martelら、1998)及び閉経後女性における同様な状況の観察(Labrieら、1997c)が、性ステロイド補充療法及び加齢の分野の、時宜に得た、潜在的に極めて大きい進歩への道を開いたと、我々は感じている。このような可能性は、我々の観察によって十分に裏付けられる。
【0039】
Bergerら(2005)においては、ラット膣の3層の膣壁に対するDHEAの特に興味深い作用、即ち、上皮粘液分泌の亢進(highly mucified epithelium)、筋層厚の増加及び粘膜固有層における膠原線維の緻密度の増加が示されている。このように、DHEAには、膣粘膜に対してアンドロゲン及びエストロゲンの両作用があり、より生理学的な補充療法を可能にする。
【0040】
したがって、本発明は、男性及び女性における性ステロイドの生理機能に対する我々の理解において得られた最近の進歩(Labrie、1991;Labrieら、1992a;Labrieら、1992b;Labrieら、1994;Labrieら、1995a;Luu-Theら、1995a;Labrieら、1997a;Labrieら、1997b;Labrieら、1997c;Labrieら、1997d)と、閉経期女性は卵巣活性低下によりエストロゲン活性が乏しいだけでなく、既に数年間アンドロゲン曝露低下状態にあるという認識とに基づく。実際には、健常女性は、男性において分泌されるアンドロゲンの2/3に等しい量のアンドロゲンを産生している(Labrieら、1997a)。
【0041】
女性におけるアンドロゲンの貯留は、30才頃から、DHEA及びDHEA-Sの血清濃度の減少と並行して次第に低下する(Labrieら、1997b)。したがって、アンドロゲン及びエストロゲンの両補充療法を閉経周辺期及び閉経後に使用し、それによって各細胞及び組織中におけるこれら2種の性ステロイド間の生理的バランスを維持することは論理にかなっているように思われる。この目標は、末梢組織におけるステロイド前駆体DHEAからのアンドロゲン及びエストロゲンの局所的形成によってのみ達成可能である。
【0042】
アンドロゲンの主要な供給源、DHEA
末梢での性ステロイド形成におけるDHEAの役割
ヒトは、他のいくつかの霊長類と共に、末梢組織中で強力なアンドロゲン及び/又はエストロゲンに転化される不活性な前駆体ステロイドDHEA、特にDHEA-Sを大量に分泌する副腎を有する点で、動物種の中で独特である。成人女性における血漿中DHEA-S濃度は、テストステロンよりも500倍高く、エストラジオールよりも10,000倍高く、したがってアンドロゲン及び/又はエストロゲンの形成のための基質の大きな供給源となっている。前述のように、末梢標的組織における性ステロイドの局所合成及び作用は、イントラクリノロジーと称されている(Labrieら、1988;Labrie、1991)。この領域における最近の急激な進歩は、末梢組織におけるDHEA-S及びDHEAからアンドロゲン及び/又はエストロゲンへの局所的変換に関与するステロイド産生酵素をコードするほとんどの組織特異的遺伝子の構造の解明によって可能になった(Labrieら、1992a;Labrieら、1992c;Labrieら、1995;Luu-Theら、1995b;Labrieら、1996;Labrieら、1997d)。
【0043】
ヒト性ステロイドの生理機能におけるDHEA及びDHEA-Sの主な重要性は、成人男性の総アンドロゲンの約50%がこれらの副腎前駆体ステロイドに由来するという推定によって説明されている(Labrieら、1985,Belangerら、1986;Labrieら、1993)が、女性では、末梢組織におけるエストロゲンのイントラクリン(intracrine)形成の我々の最良推定値は、閉経前はほぼ75%程度であり、閉経後は100%に近い(Labrieら、1991)。
【0044】
ほぼ例外なく卵巣エストロゲンの役割に注目が集まったため、20〜30才と40才〜50才との年齢間で既に起こっている血中DHEAの劇的な70%の低下には注意が払われなかった(Migeonら、1957;Vermeulen及びVerdonck、1976:Vermeulenら、1982;Orentreichら、1984;Belangerら、1994;Labrieら、1997b)。DHEAは末梢組織においてアンドロゲン及びエストロゲンの両者に変換されるので、血清DHEA及びDHEA-Sのこのような低下により、前述のように閉経期の女性にエストロゲンが欠乏しているだけでなく、アンドロゲンが乏しいという理由の説明がつく。
【0045】
前述のように、最近のデータは、プロゲスチンが乳癌に対して悪影響を及ぼすことを示唆しており(Clarke及びSutherland、1990;Musgroveら、1991;Horwitz、1992)、疾病リスクの増大を示す報告もある(Colditzら、1995)。これに関連して、DHEAはヒト子宮内膜に対して刺激作用がない(Labrieら、1997c)ため、子宮内膜に対するエストロゲンの潜在的作用を相殺するためにプロゲスチンを投与する必要性がないことを示すことが重要である。
【0046】
乳房に関しては、DHEAは、ラットにおいてジメチルベンゾ(a)アントラセン誘発性乳腺腫瘍の発現を予防すること(Luoら、1997)及びその成長を阻害すること(Liら、1993)が知られている。更に、DHEAは、ヌードマウスにおいてヒト乳癌異種移植片の成長を阻害する(実施例1及びCouillardら、1998を参照のこと)。したがって、刺激作用をもたらすエストロゲン及びプロゲスチンとは逆に、DHEAは、女性における乳癌の発現及び成長を阻害すると推測される。
【0047】
我々の以前の研究において十分に実証されているように、生理学的量の外因性DHEAの補充は、特異的ステロイド産生酵素を含む該当標的組織中でのみ、アンドロゲン及びエストロゲンの生合成を可能にする。このようにして合成された活性アンドロゲン及びエストロゲンは、起源細胞(cell of origin)中に残り、血液循環中への漏出はほとんど起こらない。実際に、DHEA投与の最も顕著な作用は、DHTの代謝産物のグルクロニド誘導体、即ち、ADT-G及び3α-ジオール-Gの血中濃度に対して認められる。これらの代謝産物は、副腎の前駆体DHEA及びDHEA-SからDHTを合成し、その後にDHTを不活性な抱合体(conjugate)に代謝する該当ステロイド産生酵素を有する末梢イントラクリン組織において局所的に産生される(Labrie、1991;Labrieら、1996)。標的組織におけるアンドロゲンのこのような局所生合成及び作用は、アンドロゲンへの他の組織の曝露を排除し、したがって、望ましくない男性化又は他のアンドロゲン関連副作用のリスクを最小限に抑える。同じことがエストロゲンにも当てはまるが、我々は、信頼性のある(アンドロゲンに対するグルクロニドに匹敵する)総エストロゲン分泌のパラメーターをまだ得られていないと感じている。
【0048】
骨の生理機能におけるアンドロゲン及びエストロゲンの役割
骨の生理機能に対するアンドロゲンの主な役割は、文献で十分に裏付けられている(Labrieら、1997c;Martelら、1998)。実際に、テストステロン及びDHTはいずれも、骨芽細胞様骨肉腫細胞においてα(I)プロコラーゲンmRNAの転写を増加させる(Benzら、1991)。DHTによる治療はまた、睾丸切除ラットにおいて軟骨内性骨の発達を刺激することが示されている(Kapur及びReddi、1989)。更に、腰椎、大腿骨転子(femoral trochanter)及び全身において測定された骨塩密度は、閉経後女性において24ヶ月の治療期間にわたって、E2単独よりもエストロゲン+テストステロンインプラントによる方がより多く増加した(Davisら、1995)。
【0049】
更に、確立した骨粗鬆症において、タンパク質同化ステロイドが骨量減少の予防に役立つことが報告されている(Hennernan及びWallach、1957)。同様に、皮下E2及びテストステロンインプラントが、閉経後女性における骨粗鬆症の予防に、経口エストロゲンよりも効果的であることがわかっている(Savvasら、1988)。この研究で観察された差はエストロゲンの投与経路の違いに起因したが、差の原因はテストステロンの作用である可能性が高い。骨形成増加の指数としての、骨形成マーカーである血清オステオカルシンの増加が、エストロゲン単独と比べて、メチルテストステロン+エストロゲンを投与されている閉経後女性において認められた(Raiszら、1996)。血清オステオカルシンに対する同様な刺激作用は、閉経後女性を経皮DHEAで12ヶ月治療後に観察された(Labrieら、1997c)。更に、アンドロゲン療法は、デカン酸ナンドロロンの場合に観察されるように、閉経後女性の腰椎の骨塩密度を増加させることがわかった(Needら、1989)。アンドロゲンは、閉経後女性における特有の作用のために次第に支持を得つつあるが、テストステロンを使用する場合には、男性化作用が観察されている(Burgerら、1984;Studdら、1987)。
【0050】
DHEA及び腹部肥満
腹部肥満は、インスリン抵抗性、2型糖尿病及びアテローム性動脈硬化症のリスクの増加と関連している(Shimokataら、1989;Cefaluら、1995;Ferranniniら、1997;Kopelman、2000)。中でも、ホルモンの変化、特に、副腎によるDHEA及びDHEA-Sの分泌の減少が、関与因子と考えられている(Tchernofら、1996)。ラット及びマウスモデルにおいて、DHEA投与は、食餌性(Yenら、1977;Cleary及びZisk、1986;Mohanら、1990;Hansenら、1997)肥満における内臓脂肪蓄積を低減する。DHEAの有益作用はまた、加齢に伴って起こるインスリン抵抗性の減少に対しても観察された(Hanら、1998)。
【0051】
DHEAクリーム剤を12ヶ月間投与された閉経後女性において実施した試験において、我々は、インスリン抵抗性が低下すると同時に、大腿部の位置の皮下脂肪も減少したことを発見した(Diamondら、1996)。更に、65〜78才の男性及び女性に50mgのDHEAを6ヶ月間連日投与すると、腹部内臓脂肪が女性で10.2%、男性で7.4%減少した(Villareal及びHolloszy、2004)。同じ試験で、腹部皮下脂肪は、男性及び女性のいずれとも、6%減少した。更に、グルコース負荷試験への血清インスリンの応答性は13%低下したが、グルコース応答に変化は認められず、結果としてDHEA投与後のインスリン感受性指数が34%改善された。DHEA作用の改善は、高コレステロール血症を患っている中年男性においても認められた(Kawanoら、2003)。
【0052】
同じグループによって実施された以前の試験において、6ヶ月間のDHEA投与は全身の体脂肪量を1.4kg減少させたが、除脂肪量は0.9kg増加した(Villarealら、2000)。
【0053】
性欲、ホットフラッシュ及び生活の質に対するアンドロゲンの効果
コミュニティベースの試験は、8〜50%の範囲の女性において、自己申告による性機能障害を示唆している。実際に、女性における低性欲及び性機能障害は、卵巣切除後(Nathorst-Boos及びvon Schoultz、1992)の他に、30才代から加齢に伴って増加する(Laumannら、1999)。低い性的興奮及び性的欲求には心理社会的因子及び健康因子が関与する(Dennersteinら、1997)が、低アンドロゲンは独自の役割を果たすと考えられている(Bachmannら、2002;Millerら、2004)。
【0054】
アンドロゲンは、女性の性的興奮性、性的快感並びにオルガズムの強さ及び得やすさに関与することが知られている。アンドロゲンは、膨潤の神経血管平滑筋応答及び潤滑の増加にも関与する(Basson、2004)。エストロゲンは、外陰部及び膣のうっ血性応答に影響を及ぼす。エストロゲンは気分にも影響を及ぼすので、性的関心に影響する(Basson、2004)。DHEAは膣中でアンドロゲン及びエストロゲンの両者に変換される(Sourlaら、1998)(Bergerら、2005)ことを忘れてはならない。
【0055】
更に、ERA又はHRTへのアンドロゲンの追加の詳細な利益は、全般的健康状態、活力、気分及び全般的な生活の質について記載されている(Sherwin及びGelfand、1985;Sherwin、1988)。エストロゲン補充療法(ERT)へのアンドロゲンの追加後には、主な精神症状及び心身症状、即ち、易刺激性、神経過敏、記銘力及び不眠の改善が観察された(Notelovitzら、1991)。
【0056】
性欲減退及び/又は性的満足感低下は、閉経後早期によく見られる。ホルモン補充療法(HRT)へのアンドロゲンの追加は、これらの問題に対して有益作用を有することが知られている。Shifrenら(2000)は、外科的閉経女性において、貼付剤によって投与された経皮的テストステロンが性交頻度、性的快感及び性的気分を改善したことを発見した。この作用は、血清テストステロン濃度を健常者の上限値とする用量である日用量300μgのテストステロンで認められた。テストステロン治療は、性欲減退を訴えるアンドロゲン非欠乏女性においても研究された(Goldstatら、2003)。テストステロンによるこのような治療は、プラセボと比較して、性欲、性機能及び生活の質を改善した。同様に、正常濃度のアンドロゲンを有する閉経女性においても、エストロゲンへのメチルテストステロンの追加が、エストロゲン単独と比較して、性的欲求及び性交頻度を増加させた(Loboら、2003)。性的関心、性的欲求の障害を有する女性のうち、血清遊離テストステロン濃度が基準範囲の下方四分位数内である者に対してアンドロゲン療法が勧められている(Bachmannら、2002)。実際に、性的欲求低下障害(HSDD)の治療へのテストステロンの使用が増加している(Sherwin及びGelfand、1987;Davisら、1995;Shifrenら、2000;Goldstatら、2003)。これらの無作為化臨床試験から、HSDDの女性においてテストステロンが有効であることが明らかである。
【0057】
DHEAのアンドロゲン作用は、ホットフラッシュの低減にも有用なはずである。実際に、アンドロゲン療法は、性腺機能低下症の男性(De Fazioら、1984)及び閉経移行期の女性(Overlieら、2002)においてホットフラッシュの低減に成功している。更に、アンドロゲンの追加は、エストロゲン単独では満足できる結果が得られない女性においてホットフラッシュの軽減に有効であることがわかった(Sherwin及びGelfand、1984)。ホットフラッシュは、女性が最初にHRT療法を受けようとする主な理由の1つであり、エストロゲンはこの症状の緩和に非常に有効である。
【0058】
副腎由来のアンドロゲン欠乏症の性質のよい例は、副腎不全の症例によって示される。(Arltら、1999)は、副腎不全を患っている女性母集団において日用量50mgのDHEA及びプラセボの4ヶ月間の効果を試験した。DHEAによる治療は、低基準範囲の血清テストステロンを上昇させた。このような治療は、性的想像、性的関心及び性的満足の頻度を増加させた。健康状態、抑うつ状態及び不安も改善された。DHEAが300mgの高日用量で投与された試験において、アダルトビデオに応答して、比較的大きい主観的な精神的効果(p<0.016)及び身体的効果(p<0.030)が観察された(Hackbert及びHeiman、2002)。50mgのDHEAを連日投与されている女性において行った試験において、性欲の改善は、70才以上の女性においては観察されたが、60〜70才の女性においては観察されなかった(Baulieu、1999)。DHEAは、ホットフラッシュに対しても有益作用を示した(Baulieu、1999;Stomatiら、2000)。最近のカナダの調査では、開業医の70.8%が、生活の質を向上させるためにエストロゲンにアンドロゲンを追加している(Gelfand、2004)。
【0059】
DHEAの他の潜在的利益
加齢に伴って副腎によるDHEA及びDHEA-Sの形成が70〜95%減少することにより、末梢標的組織におけるアンドロゲン及びエストロゲンの形成が劇的に減少する。これは、インスリン抵抗性(Colemanら、1982;Schriockら、1988)及び肥満(Nestlerら、1988;MacEwen及びKurzman、1991;Tchernofら、1995)などの加齢性疾患の病因に関与する可能性が高い。実際に、乳癌を有する患者において、低いDHEA-S及びDHEA血中濃度が認められ(Zumoffら、1981)、一連の動物モデルにおいて、DHEAが抗発癌活性をもたらすことが判明した(Schwartzら、1986;Gordonら、1987;Liら、1993)。DHEAはまた、インビトロで(Suzukiら、1991)及びインビボでHIV(Hendersonら、1992)を含む真菌性及びウイルス性疾患(Rasmussenら、1992)において免疫調節作用を有することが示された。他方、閉経後女性における免疫系に対するDHEAの刺激作用が文献記載されている(Cassonら、1993)。
【0060】
女性においてDHEAを用いて得られた以前のデータ
エストロゲン補充療法の使用には、エストロゲンによって誘発される子宮内膜増殖を打ち消すためにプロゲスチンの追加が必要であるが、エストロゲン及びプロゲスチンはいずれも乳癌リスクを増大させる可能性があった(Bardonら、1985;Colditzら、1995)。標準エストロゲン(ERT)又はホルモン補充療法(HRT)の制約を回避するために、我々は、骨塩密度、骨形成及び骨代謝回転のパラメーター、血清中の脂質、グルコース及びインスリン、脂肪組織量、筋肉量、活力、健康状態並びに膣及び子宮内膜の組織像に対する、60〜70才の女性への12ヶ月間のDHEA投与の効果を試験した(Diamondら、1996;Labrieら、1997c)。DHEAは、ステロイド前駆体が最初に肝臓を通過しないように経皮投与した。
【0061】
したがって、我々は、60〜70才の女性(N=15)において10%DHEAクリーム剤の1日1回12ヶ月間の適用による長期補充療法の効果を検討した。12ヶ月目の身体測定値は、体重変化は示さなかったが、皮下脂肪の厚さを9.8%低減した(p<0.05)(Diamondら、1996)。骨量密度は、股関節部で2.3%、大腿骨頸部のWard三角で3.75%、腰椎の位置で2.2%増加した(全てp<0.05)。骨塩密度のこれらの変化に付随して、12ヶ月目に、尿中ヒドロキシプロリン及び血漿中骨型アルカリホスファターゼが、それぞれ38%及び22%の著しい低下を示した(全てp<0.05)。付随して、血漿中オステオカルシンが対照に比較して135%増加する(p<0.05)ことが観察され、したがって骨形成に対するDHEAの刺激作用が示唆された。
【0062】
コンピューター断層撮影法による大腿中央部の脂肪及び筋肉面積の測定は、12ヶ月目に大腿部脂肪の3.8%の減少(p<0.05)及び大腿部筋肉面積の3.5%の増加(p<0.05)を示した(Diamondら、1996)。腹部脂肪の測定値には著しい変化が認められなかった。体脂肪及び筋肉表面積のこれらの変化は、空腹時血漿グルコース濃度の12%低下(p<0.05)及び空腹時血漿インスリン濃度の17%低下(p<0.05)と関連が見られた。DHEAによる治療は、脂質像にもリポタンパク質像にも望ましくない作用をもたらさなかった。実際に、総コレステロール分画及びそのリポタンパク質分画に3〜10%の全体的減少傾向が見られた。血漿トリグリセリドには影響が認められなかった。
【0063】
皮脂分泌指数(index of sebum secretion)は、12ヶ月のDHEA療法後に79%増加し、治療中止の3ヶ月後に治療前値に戻った。DHEA投与は、療法開始時に成熟度(maturation value)が0である10人の女性のうち8人において膣上皮の成熟を刺激し、療法前に中間の膣成熟度を有する3人の女性においても刺激が認められた。最も重要なことは、12ヶ月のDHEA治療後の全女性において、膣において観察されるエストロゲンの刺激作用が子宮内膜では認められず、子宮内膜が完全に萎縮したままであったことである(Labrieら、1997c)。
【0064】
これらのデータは、閉経後女性において、特異的イントラクリン標的組織におけるアンドロゲン及び/又はエストロゲンへのDHEAの変換によるDHEA療法の有益作用と、DHEA療法が著しい副作用を伴わないことを明確に示している。DHEAは子宮内膜を刺激しないので、プロゲスチン補充療法の必要性が排除され、したがってプロゲスチン誘発性乳癌の恐れがなくなる。骨塩密度について観察されたDHEAの刺激作用及び骨形成マーカーである血清オステオカルシンの増加は、骨粗鬆症の予防及び治療にとって特に興味深く、骨の生理機能、即ち骨形成に対するDHEAの特有の作用を示している。これに対して、ERT及びHRTは骨量減少速度を減少させることしかできない。
【0065】
アンドロゲンの役割は、抑うつ状態、記憶喪失、認知機能の喪失及び脳細胞活性について提示されている(Almeidaら、2008、Azadら、2003及びHajszanら、2008)。脳内でもDHEAから合成され得るエストロゲンは、アルツハイマー病、記憶喪失及び認知機能の喪失に対して有益な作用があることが示された(Roccaら、2007)。3つのメタアナリシスが、閉経後にエストロゲンを使用した女性においてアルツハイマー病のリスクが20〜40%低下することをを示した(Yaffeら、1998、Leblancら、2001、Hogovorstら、2000)。エストロゲンは脳内へのβアミロイド沈着を低減するが、プロゲステロンは反対の作用を有する(Xuら、1998、Huangら、2004)。
【0066】
エストロゲンの欠乏と認知機能障害又は認知症との関連性は、検査値によって裏付けられている。中でも、エストロゲンは、卵巣切除ラットの海馬中の樹状突起棘上におけるシナプス形成を改善する(Mc Ewen及びAlves、1999、Monk及びBrodatz、2000)。更に、エストロゲンは、脳血流量及びグルコース代謝を改善し、抗酸化物質として作用し得る(Mc Ewen及びAlves、1999;Monk及びBrodatz、2000;Gibbs及びAggamal、1998)。エストロゲンはまた、β-アミロイド1-42による細胞内カルシウムの上昇及びミトコンドリア損傷を予防することが判明している(Chenら、2006、Morrisonら、2006)。
【0067】
現在のところ、神経保護(Roccaら、2007)、心血管疾患(Mansonら、2006)及び全死亡率(Roccaら、2006)に対するエストロゲンの有益作用について、臨界年齢期(critical age window)が存在するという確かな証拠が、臨床試験によって示されている。最良の利益は、E2による治療を早期に開始した場合に認められ、閉経期後に遅れて開始した場合には、場合によっては効果がないかマイナス効果がある(WHI試験)。エストロゲンは脳内へのβ-アミロイド沈着を低減するが、プロゲステロンは反対の作用を有する(Xuら、1998、Huangら、2004)。
【0068】
DHEAの利益:エストロゲン様作用とアンドロゲン作用との組み合わせ
アンドロゲンは、ZR-75-1の成長に対して直接的な抗増殖活性をもたらすことが観察されている。アンドロゲンはまた、ラットにおいてDMBA誘発性乳腺癌腫の成長を阻害し、この阻害が純粋抗アンドロゲン剤フルタミドの同時投与によって反転されることが示されている(Dauvoisら、1989)。総合すれば、これらのデータは、インビトロにおいてヒト乳癌細胞の乳癌に対するDHEAの阻害作用にアンドロゲン受容体が関与すること、及びアンドロゲンのこのような阻害作用が抗エストロゲン剤の阻害作用に対して相加的であることを示している(Poulin及びLabrie、1986;Poulinら、1988)。同様な阻害作用が、ヌードマウスにおけるZR-75-1異種移植片に対してインビボで観察されている(Dauvoisら、1991)。
【0069】
我々は、雌ラット(Luoら、1997)及び閉経後女性(Labrieら、1997c)のいずれにおいても、DHEAが骨に対して有益作用をもたらすことを示した。例えば、無傷雌ラットにおいて、DHEAによる治療は、全骨格、腰椎及び大腿骨の骨塩密度(BMD)を増加させる(Luoら、1997)。
【0070】
本発明は、女性における性ステロイドの生理機能に対する我々の理解において得られた最近の進歩と、閉経期女性は卵巣によるエストロゲン分泌の停止のためにエストロゲンが乏しいだけでなく、既に数年間アンドロゲン曝露低下状態にあるという認識とに基づく。実際には、健常女性は、男性において分泌されるアンドロゲンの2/3に等しい量のアンドロゲンを産生している(Labrieら、1997a)。女性におけるアンドロゲンの貯留は、30才頃から、DHEA及びDHEA-Sの血清濃度の減少と並行して次第に低下する(Labrieら、1997b)。したがって、アンドロゲン及びエストロゲンの両補充療法を閉経周辺期及び閉経後に使用し、それによって各細胞及び組織中におけるこれら2種の性ステロイド間の生理的バランスを維持することは論理にかなっているように思われる。この目標は、末梢組織におけるDHEAなどのステロイド前駆体からのアンドロゲン及びエストロゲンの局所的形成によってのみ達成可能である。SERM様アコルビフェンの追加は、乳癌防御及びSERM投与の他の利益に対するプラス効果を増加させるためである。図8において、古典的ERTのプラス効果及びマイナス効果との比較を行っている。
【0071】
以前のデータは、閉経後女性において、特異的イントラクリン標的組織におけるアンドロゲン及び/又はエストロゲンへのDHEAの変換によるDHEA療法の有益作用と、DHEA療法が著しい副作用を伴わないことを示している。実際に、ラットにおいて得られた我々のデータは、DHEAが、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)の単独使用の場合にはない有益作用を提供できることを明確に示している。
【0072】
アコルビフェンの有益作用:
図7において、腫瘍成長に対するタモキシフェンの約100%の刺激作用が、EM-652.HClによる同時治療によって完全に遮断されたことがわかる。EM-652.HClは、その純粋な抗エストロゲン活性と一致して、ヌードマウスにおけるヒト乳癌ZR-75-1異種移植片の成長に対しては刺激作用をもたらさなかった。
【0073】
我々は、ステロイド性抗エストロゲン剤フルベストラント(Faslodex、ICI 182,780)を試験し、それがSERMとしては機能しないことを発見したが、抗エストロゲン剤フルベストラントは、本発明においては乳癌予防のためにDHEAと併用できる。当業界がSERMとしてではなく抗エストロゲン剤として使用している場合であっても、本発明によれば、SERMは当業界で知られているのと同じ投与量で投与できる。
【0074】
我々はまた、血清コレステロールに対するSERMの有益作用と骨に対するエストロゲン又はエストロゲン様作用との間に相関があることを確認した。SERMはまた、高血圧症、インスリン抵抗性、糖尿病及び肥満(特に腹部肥満)に対して有益作用を有する。理論に拘束されるものではないが、SERMは、その多くが好ましくは1〜2個の炭素原子によって結合されている2つの芳香環を有し、エストロゲン受容体によって最もよく認識される分子の前記部分によってエストロゲン受容体と相互作用すると推測されると考えられる。好ましいSERMは、乳房組織及び通常は子宮組織において選択的にアンタゴニスト特性をもたらし得るが他の組織においては有意なアンタゴニスト特性を有さない側鎖を有する。したがって、SERMは乳房においては抗エストロゲン剤として望ましく機能でき、骨及び血液中では意外なことにエストロゲンとして望ましく機能する(又はエストロゲン様活性を示す)ことができる(その場合、脂質及びコレステロールの濃度が有利に影響される)。コレステロール及び脂質に対するこの有利な作用は、コレステロール及び脂質の不適当な濃度によって悪化することが知られているアテローム性動脈硬化症に対する有利な作用につながる。
【0075】
図9において明らかなように、17β-エストラジオールの血中濃度は、無傷動物において95.9±32.4pg/mlから143.5±7.8pg/mlに上昇した(0.5mg/kgのEM-800を12週間、毎日経口的に治療された動物において50%の上昇)が、乳腺の顕著な萎縮が観察された。同様に、図10において、EM-800(0.5mg/kg)を投与された動物において、子宮内膜の顕著な萎縮が観察された。純粋抗エストロゲン剤EM-800を投与されたこれらの無傷動物においては、視床下部-下垂体レベルでのエストロゲンの阻害作用が取り除かれ、したがってLHの増加、次いで卵巣による17β-エストラジオールの二次的増加がもたらされた。
【0076】
ホットフラッシュ、心血管症状、アルツハイマー病、認知機能の喪失及び不眠症が、中枢神経系に位置するエストロゲン受容体に関連することは確かである。脳中のエストロゲン濃度が低いことが、少なくとも一部分はこれらの病態を説明できると思われる。外因性エストロゲン、特に性ステロイド前駆体の投与によって形成されるエストロゲン(即ち、エストラジオール)は、脳関門(brain barrier)を通過し、エストロゲン受容体に結合することによって、正常なエストロゲン作用を回復することができる。他方、本発明のSERM、より具体的にはアコルビフェン系のSERMは、実施例8において示すように、脳関門を通過できない。したがって、これらは脳内ではエストロゲンのプラス効果に拮抗する可能性がなく、乳房、子宮及び子宮内膜組織中ではエストロゲンのマイナス効果に拮抗するので、この組み合わせ(SERM+性ステロイド前駆体)は、前記病態の治療又は前記病態の罹患リスクの低減にとって特に魅力的である。
【0077】
既述のように、アンドロゲンが果たす役割はまた、これらの症状全てについて示唆されている。実際に、DHEAは、脳内で生理的要求に従ってエストロゲンとアンドロゲンの両方を形成することができる。
【0078】
性ステロイド前駆体とSERM又は抗エストロゲン剤との組み合わせの全体的な相加的利益
女性が閉経期に開業医を受診する主な理由は、エストロゲン補充療法によって排除されることがよく知られている問題である、ホットフラッシュの発生である。ホットフラッシュに関与する部位は中枢神経系(CNS)であり、EM-652はCNSに非常に接近しにくい(データは同封されている)。このため、性ステロイド前駆体の投与は、SERMによって妨げられることなく、中枢神経系のエストロゲン濃度を増加させ、ホットフラッシュを抑えると予想される。他方、SERMは他の部位におけるエストロゲンのマイナス効果、特に乳癌及び子宮癌のリスクを全て排除する。実際に、性ステロイド前駆体へのEM-652の追加は、形成エストロゲンの乳腺及び子宮に対する刺激作用を遮断し、他の組織においては、例えば骨に対するそれ自身の有益作用を及ぼし、その場合、骨塩密度に対する卵巣切除の影響を部分的に反転する。
【0079】
我々のデータは、DHEAがホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗を低減できることを示しているので、我々は、E2を除去することによって乳癌リスクを低減する。しかし、DHEAはわずかにエストロゲンに変換される可能性があるので、SERMが必要である。
【0080】
いずれのパラメーターに対してもEM-652の有害作用は認められず、EM-652は、乳癌及び子宮癌の予防及び治療に顕著な有益作用を及ぼすはずである。
【0081】
本明細書中に記載する好ましいSERM又は抗エストロゲン剤は、(1)本発明に感受性であると述べた全ての疾患に;(2)治療的適用及び予防的適用の両方に,並びに(3)好ましい医薬組成物及びキットに関する。
【0082】
所与の疾患の治療又は発症リスクの低減を必要とする患者は、このような疾患と診断された患者又はこのような疾患を罹患しやすい患者である。
【0083】
特に断る場合を除いて、本発明の活性化合物の好ましい投与量(投与濃度及び投与方法)は、治療目的及び予防目的の両者について同一である。本明細書中に記載する各活性成分の投与量は、治療される疾患(又は発症の可能性が低減される疾患)に関わらず、同一である。
【0084】
特に明記する場合又は文脈から明らかな場合を除いて、本明細書中での投与量は、医薬賦形剤、希釈剤、担体又は他の成分によって影響されない活性化合物の重量を意味するが、本明細書中の実施例に示されるような追加成分を含めるのが望ましい。医薬業界において一般に使用される任意の剤形(カプセル剤、丸剤、錠剤、注射剤など)が本発明における使用に適切であり、用語「賦形剤」、「希釈剤」又は「担体」は、当業界においてこのような剤形中に活性成分と共に典型的に含まれるような非活性成分を包含する。例えば、典型的なカプセル剤、丸剤、腸溶コーティング、固体又は液体の希釈剤又は賦形剤、矯味矯臭剤、保存剤などが挙げられる。
【0085】
本明細書中に記載する任意の療法に使用される活性成分は全て、1種又は複数の他の活性成分を更に含む医薬組成物中に配合できる。或いは、それらはそれぞれ、別個であるが時間的には十分に同時に投与して、患者が最終的に高い血中濃度を有するか又はそうでなければ、各活性成分(若しくはストラテジー)の利益を同時に享受するようにできる。本発明の一部の好ましい実施形態において、例えば、1種又は複数の活性成分を、単一の医薬組成物中に配合できる。本発明の他の実施形態において、少なくとも1つの容器の内容物が、含まれる活性成分に関して、全部又は一部において少なくとも1つの他の容器の内容物と異なる少なくとも2つの別個の容器を含むキットを提供する。
【0086】
本明細書中に記載した併用療法はまた、当該疾病の治療(又はリスク低減)のための医薬品の製造への(組み合わせの)1種の活性成分の使用を含み、治療又は予防は本発明による組み合わせの別の活性成分を更に含む。例えば、一実施形態において、本発明は、本発明の併用療法が有効であると考えられる疾病(即ち、ホットフラッシュ、発汗、月経不順及び閉経関連症状)のいずれかの治療に、インビボで性ステロイド前駆体と併用される医薬品の調製へのSERMの使用を提供する。
【0087】
エストロゲンは、乳房上皮細胞の増殖を刺激することがよく知られており、細胞の増殖自体が、異常増殖を引き起こす恐れがある偶発的な遺伝的エラーの集積によって発癌リスクを増大させると考えられている(Preston Martin etら、1990)。この考えに基づき、乳癌の予防のために、エストロゲンによって刺激される細胞分裂速度を低減する目的で、抗エストロゲン剤を採用した。
【0088】
我々はまた、ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳癌異種移植片の成長に対する、新規抗エストロゲン剤(EM-800)の阻害作用と性ステロイド前駆体(DHEA)の阻害作用との相互作用の可能性を2種の薬物の併用投与によって試験した。図3及び4は、DHEA自体は使用用量において腫瘍成長を50〜80%阻害し、低用量の抗エストロゲン剤によって達成された腫瘍成長のほぼ完全な阻害がDHEAによって影響されなかったことを示している。
【0089】
骨塩密度(BMD)測定の制約はよく知られている。一例として、BMD測定値は、ステロイド性抗エストロゲン剤ICI 182780で治療されたラットにおいては変化を示さなかった(Wakeling、1993)が、組織形態計測によって阻害性の変化が認められた(Gallagherら、1993)。同様な差異が、タモキシフェンに関しても報告された(Jordanら、1987;Sibongaら、1996)。
【0090】
骨塩密度の低下は、骨強度の低下と関連する唯一の異常ではないことを示す必要がある。したがって、種々の化合物及び治療によって誘発される骨代謝の生化学的パラメーターの変化の分析により、それらの作用をよりよく知ることが重要である。
【0091】
特に重要なことは、DHEAとEM-800との組み合わせが、骨代謝の重要な生化学的パラメーターに対して予想外の有益作用をもたらしたことを示すことである。実際に、DHEAは単独では、骨吸収マーカーである尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニン比に影響を及ぼさなかった。更に、カルシウム又はリンの1日尿中排泄量に対するDHEAの作用は検出できなかった(Luoら、1997)。EM-800は、尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニン比を48%低下させたが、DHEAと同様に、カルシウム又はリンの尿中排泄量に対してEM-800の作用は認められなかった。更に、EM-800は、骨形成マーカーである血清アルカリホスファターゼ活性に対しても作用を有さなかったが、DHEAはこのパラメーターの値を約75%上昇させた(Luoら、1997)。
【0092】
DHEAとEM-800との組み合わせの予想外の作用の1つは、骨吸収マーカーである尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニン比に関連し、この比は、DHEAとEM-800とを組み合わせた場合には69%低下し、この値は、EM-800単独で達成された48%の阻害と統計的に差があった(p<0.01)。ちなみに、DHEAは単独では作用を生じなかった。したがって、EM-800へのDHEAの追加は、骨再吸収に対するEM-800の阻害作用を50%増加させる。最も重要なことには、EM-800へのDHEAの追加の、別の予想外の作用として、尿中カルシウムの約84%低下(23.17±1.55μmol/24時間/100gから3.71±0.75μmol/24時間/100gまで(p<0.01))及び尿中リンの55%低下(132.72±6.08μmol/24時間/100gから59.06±4.76μmol/24時間/100gまで(p<0.01))が認められた(Luoら、1997)。
【0093】
重要なことには、EM-800とDHEAとの組み合わせは、12ヶ月間治療された卵巣切除ラットにおいて、骨形態計測に対して有益作用を生じた。海綿骨体積は、骨強度に及び骨折予防に特に重要である。したがって、前記試験において、脛骨の海綿骨体積は、卵巣切除ラットにおいてDHEA単独によって4.1±0.7%から11.9±0.6%まで増加し(p<0.01)、DHEAへのEM-800の追加によって、14.7±1.4%まで更に増加し、これは無傷対照群においてみられる値と同様な値である(図15)。
【0094】
DHEAの治療は、海綿骨梁数を卵巣切除ラット群における0.57±0.08個/mmの値から、卵巣切除対照群と比較して137%増加させた。したがって、DHEAの刺激作用は1.27±0.1個/mmに達し、EM-800及びDHEAによる同時治療は、DHEA単独で達成された値と比較して、海綿骨梁数を更に28%増加させた(p<0.01)(図16)。同様に、DHEA治療へのEM-800の追加は、DHEA単独によって達成された値と比較して、海綿骨分離を更に15%(p<0.05)低減し、したがって、無傷対照群においてみられる値と差がない値を生じた。
【0095】
図中15、16に示した数値データを補うものとして、図17は、卵巣切除対照群(B)と比較した、卵巣切除治療動物群(C)におけるDHEAよって誘発された脛骨近位端骨幹端の海綿骨体積の増加と、DHEA治療へのフルタミド追加後(D)のDHEAの刺激作用の部分阻害を示している。他方、DHEAとEM-800との併用投与は、卵巣切除誘発性骨減少を完全に予防し(E)、海綿骨体積は、無傷対照群(A)においてみられる値に匹敵した。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
骨組織形態計測に対するDHEAの刺激作用のアンドロゲン成分の重要性は、骨形成マーカー及び骨吸収マーカーに対するDHEAの作用によっても裏付けられる。骨形成マーカーである血清アルカリホスファターゼの濃度(Meunierら、1987;Lauffenburgerら、1977)は、OVC対照群の51±4IU/Lから、DHEA治療動物群で201±25IU/Lまで上昇し、DHEAの骨形成に対する刺激作用を示唆した(Table 2(表2))。FLUは、このパラメーターに対するDHEAの刺激作用を65%反転したが、EM-800は顕著な作用を生じなかった。他方、コラーゲン分解の間に放出されるヒドロキシプロリンはコラーゲン合成において再利用されないので、コラーゲン代謝又は破骨細胞骨吸収の有用なマーカーである。この試験において、尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニン比はOVX対照群の11.7±1.2mol/mmolからDHEA治療ラット群の7.3±1.0mol/mmolへと低下した(p<0.05)(Table 2(表2))。FLUの投与は、このパラメーターに対するDHEAの阻害作用を完全に防いだが、EM-800は、DHEAの作用に統計的に有意な影響を及ぼさなかった。
【0099】
更に、血清コレステロールは、DHEA治療によって2.29±0.16mmol/lから1.78±0.16mmol/lまで22%低下し(p<0.05)、作用は、純粋抗アンドロゲン剤FLUによる同時治療によって相殺された。他方、純粋抗エストロゲン剤EM-800の追加は、総血清コレステロールを更に0.63±0.09mmol/lまで低下させ(p<0.01)、したがって65%の阻害作用に達した。使用した治療のいずれによっても、血清トリグリセリド濃度には統計的に有意な変化が観察されなかった(Table 2(表2))。
【0100】
また、血清コレステロールに対するEM-800の強力な阻害作用がDHEAによる同時治療によって予防されないことに注目することが重要である(Luoら、1997)。
【0101】
女性において閉経期に観察される骨量減少は、骨形成の二次的増加によっては十分に補償されない骨吸収速度の増加に関連すると考えられる。実際に、骨形成及び骨吸収の両パラメーターは骨粗鬆症において上昇し、骨形成及び骨吸収はいずれも、エストロゲン補充療法によって阻害される。したがって、骨形成に対するエストロゲン補充の阻害作用は、一次的なエストロゲン誘発性骨吸収減少が骨形成の減少を伴うような、骨吸収と骨形成との連関メカニズムによって起こると考えられる(Parfitt、1984)。
【0102】
海綿状骨の骨強度及びその後の骨折抵抗は、海綿状骨の総量だけでなく、骨梁の数、サイズ及び分布によって決定される骨梁の微細構造に左右される。閉経後女性における卵巣機能低下は、総海綿骨体積の有意な減少を伴い(Melsenら、1978;Vakamatsouら、1985)、これは、骨梁の数の減少及びそれほどにないにせよ、骨梁の幅の減少に主に関連する(Weinstein及びHutson、1987)。
【0103】
本発明の併用療法の態様が本明細書中に記載した全ての適応症に役立つように、本発明は、同時投与用の単一組成物中にSERM及び性ステロイド前駆体を含む医薬組成物を企図する。組成物は、経口投与、皮下注射、筋肉内注射又は経皮投与を含むがこれらに限定されない任意の常法による投与に好適であることができる。他の実施形態において、別個の容器又は1つの容器中に1種又は複数のSERM及び性ステロイド前駆体を含むキットを提供する。キットは、経口投与に適切な物質、例えば、錠剤、カプセル剤、シロップ剤など、及び経皮投与に適切な物質、例えば、軟膏剤、ローション剤、ゲル剤、クリーム剤、持続放出貼付剤などを含むことができる。
【0104】
出願人らは、SERM又は抗エストロゲン剤及び性ステロイド前駆体の投与が、ホットフラッシュ及び発汗の治療及び/又は発生率の低減に有用であると考える。本発明の活性成分(SERM、抗エストロゲン若しくは前駆体又はその他のいずれであっても)は、種々の方法で配合及び投与できる。本発明に従って一緒に投与する場合、活性成分は同時に又は別個に投与できる。
【0105】
経皮投与又は経粘膜投与用の活性成分は、好ましくは0.01〜1%のDHEA又は5-ジオールである。或いは、活性成分は、当業界で知られている構造、例えば、欧州特許第0279982号に記載されているような構造を有する膣リング若しくは経皮貼付剤中に、又は膣内クリーム剤、ゲル剤、卵形剤(ovule)若しくは坐剤中に入れることができる。
【0106】
軟膏剤、ローション剤、ゲル剤、クリーム剤、卵形剤又は坐剤などとして配合する場合には、活性化合物は、ヒトの皮膚又は粘膜と適合性であり、皮膚又は粘膜からの化合物の経皮的又は経粘膜的浸透を増進する好適な担体と混合する。好適な担体は当業界で知られており、Klucel HF及びGlaxal基剤が挙げられるが、これらに限定するものではない。一部の担体は市販されており、例えば、Glaxal基剤はGlaxal Canada Limited Companyから入手可能である。他の好適なビヒクルは、Koller及びBuri、S.T.P Pharma 3(2)、115〜124頁、1987に記載されている。担体は好ましくは、活性成分が使用濃度において周囲温度で可溶なものである。担体は、組成物が適用された皮膚又は粘膜の局部に阻害剤を保持するのに十分な粘度を有する必要があり、皮膚又は粘膜の局部から、望ましい臨床効果をもたらす血流中に前駆体を相当量浸透させるのに十分な時間、流れたり蒸発したりしてはならない。担体は典型的には、数種の成分、例えば、薬学的に許容される溶媒及び増粘剤の混合物である。有機溶媒と無機溶媒との混合物は、親水性及び親油性溶解性を促進することができ、例えば、水とエタノールなどのアルコールとの混合物であることができる。
【0107】
卵形剤又は膣坐剤などとして配合する場合には、活性化合物は、ヒト膣粘膜と適合性の好適な担体と混合する。好ましい担体はハードファット(hard fat)(飽和脂肪酸のグリセリドの混合物)、具体的にはWitepsol、特にWitepsol H-15基剤(Medisca(Montreal、Canada)から入手可能)である。任意の他の親油性基剤、例えば、Fattibase、Wecobee、カカオバター、カカオ脂又はWitepsol基剤の他の組み合わせも使用できるであろう。
【0108】
好ましい性ステロイド前駆体は、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)(Proquina(Orizaba、Veracruz、Mexico)から入手可能)である。
【0109】
担体はまた、軟膏剤、ローション剤及び坐剤に一般に使用されている、化粧品業界及び医療業界でよく知られている種々の添加剤を含むことができる。例えば、フレグランス、酸化防止剤、パーフューム、ゲル化剤、増粘剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、界面活性剤、安定剤、皮膚軟化剤、着色剤及び他の同様な作用剤が存在できる。
【0110】
本発明による治療は、不確定な継続に好適である。SERM又は抗エストロゲン化合物並びに性ステロイド前駆体は、経口経路によっても投与でき、常用の医薬賦形剤、例えば、噴霧乾燥ラクトース、微結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムと配合して、経口投与用の錠剤又はカプセル剤の形態とすることができる。
【0111】
活性物質は、固体の粉状担体物質(例えば、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム又はリン酸二カルシウム)及び結合剤(例えば、ポリビニルピロリドン、ゼラチン又はセルロース誘導体)と、場合によっては滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、「Carbowax」又はポリエチレングリコール)を更に添加することによって混合することによって、錠剤又は糖衣錠コアとすることができる。言うまでもなく、経口投与剤形の場合には、矯味剤を添加するとができる。
【0112】
更なる剤形として、プラグカプセル剤(plug capsule)、例えば、硬ゼラチンのプラグカプセル剤、及び軟化剤又は可塑剤、例えば、グリセリンを含む密封軟ゼラチンカプセル剤を使用することもできる。プラグカプセル剤は活性物質を、好ましくは粒質物の形態で、例えば、充填剤(例えば、ラクトース、サッカロース、マンニトール、デンプン(例えば、ジャガイモデンプン又はアミロペクチン)、セルロース誘導体又は高分散ケイ酸)と混合して含む。軟ゼラチンカプセル剤中には、活性物質が好ましくは好適な液体、例えば、植物油又は液体ポリエチレングリコールに溶解又は懸濁されている。
【0113】
ローション剤、軟膏剤、ゲル剤又はクリーム剤は、過剰分がはっきり見えることがないように皮膚に十分に擦り込まなければならず、経皮的浸透のほとんどが起こるまで、好ましくは少なくとも4時間、より好ましくは少なくとも6時間、皮膚のその部分を洗浄してはならない。
【0114】
経皮貼付剤は、公知の技術に従って前駆体の送達に使用できる。経皮貼付剤は典型的には、はるかに長期間、例えば、1〜4日間適用するが、典型的には活性成分を比較的小さい表面積に接触させ、活性成分の緩徐な持続する送達を可能にする。
【0115】
既に開発され、使用されている多くの経皮薬物送達システムが、本発明の活性成分の送達に好適である。放出速度は典型的には、マトリックス拡散によって、又は活性成分の制御膜通過によって制御される。
【0116】
経皮デバイスの機械的態様は当業界でよく知られており、例えば、参照によって本明細書中に組み込まれている米国特許第5,162,037号、第5,154,922号、第5,135,480号、第4,666,441号、第4,624,665号、第3,742,951号、第3,797,444号、第4,568,343号、第5,064,654号、第5,071,644号、第5,071,657号において説明されている。更なる背景は、欧州特許第0279982号及び英国特許出願第2185187号によって提供される。
【0117】
デバイスは、粘着性マトリックス及びリザーバー型経皮送達デバイスを含む、当業界で知られている任意の一般型であることができる。デバイスは、活性成分及び/又は担体を吸収する繊維を組み込んでいる薬物含有マトリックスを含むことができる。リザーバー型デバイスにおいては、リザーバーは、担体及び活性成分を浸透させないポリマー膜によって輪郭を示されてもよい。
【0118】
経皮デバイスにおいて、デバイス自体は、活性成分を、皮膚表面の目的とする局部と接触した状態に保つ。このようなデバイスにおいて、活性成分用の担体の粘度は、クリーム剤又はゲル剤の場合ほど重要ではない。経皮デバイスの溶媒系としては、例えば、オレイン酸、直鎖アルコール乳酸エステル及びジプロピレングリコール、又は当業界で知られている他の溶媒系が挙げられる。活性成分は担体中に溶解又は懸濁させることができる。
【0119】
皮膚に付着させるために、経皮貼付剤は、中央に孔が開けられている外科用粘着テープ上に取り付けられることができる。粘着剤は、使用前は、保護用の剥離ライナーで覆われているのが好ましい。剥離ライナーに好適な典型的な材料としては、ポリエチレン及びポリエチレンコート紙が挙げられ、除去を容易にするためにシリコーンコートされているのが好ましい。デバイスを適用するためには、剥離ライナーを剥がして、粘着剤を患者皮膚に付着させるだけでよい。参照によって開示が本明細書中に組み込まれている米国特許第5,135,480号において、Bannonらは、皮膚にデバイスを固定する非粘着性手段を有する別のデバイスを記載している。
【0120】
SERM、抗エストロゲン剤及び性ステロイド前駆体は、それぞれの血清濃度を所望のレベルにするのに十分な方法及び投与量で投与すれば十分である。本発明の併用療法によれば、性ステロイド前駆体濃度が所望のパラメーター内に保たれると同時に、SERM濃度が所望のパラメーター内に保たれる。
【0121】
1つの好ましい性ステロイド前駆体はDHEAであるが、DHEA-S及び以下に記載する類似体もまた、以下に記載する理由から特に有効である。
【0122】
本発明の選択的エストロゲン受容体モジュレーターは、a)両芳香環がヒドロキシル基又はインビボでヒドロキシル基に転化される基によって置換されているか又は置換されていない、1〜2個の介在炭素原子によって離間されている2つの芳香環と、b)芳香環及び第3級アミン官能基又はその塩を有する側鎖とを特徴とする分子式を有する。
【0123】
本発明の1つの好ましいSERMは、アコルビフェン
【化2】
【0124】
である。アコルビフェン(EM-652.HCl;EM-1538とも称する)は、強力な抗エストロゲン剤EM-652の塩酸塩である。これは、米国特許第6,710,059B1号に開示されている。別の好ましいSERMは、ラソフォキシフェン(Oporia;CP-336,156;(-)-シス-(5R,6S)-6-フェニル-5-[4-(2-ピロリジン-1-イルエトキシ)フェニル]-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-2-オール,D-(-)-酒石酸塩)(Pfizer Inc.(USA)から入手可能)である。
【0125】
別の好ましいSERMは、Wyeth Ayers(USA)によって開発され、JP10036347(特開平10-36347号公報)に開示され(American Home Products Corporation)、閉経後骨粗鬆症の予防薬として米国で認可されているバゼドキシフェン(TSE 424;WAY-TSE 424;WAY 140424; 1-[[4-[2-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)エトキシ]フェニル]メチル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1H-インドール-5-オール,アセテート)、及びWO97/32837に記載されている非ステロイド系エストロゲン誘導体である。本発明の他の好ましいSERMとしては、タモキシフェン((Z)-2-[4-(1,2-ジフェニル-1-ブテニル)フェノキシ]-N,N-ジメチルエタンアミン)(Zeneca(UK)から入手可能)、トレミフェン((Z)-2-[4-(4-クロロ-1,2-ジフェニル-1-ブテニル)フェノキシ]-N,N-ジメチルエタンアミン)(Orion(Finland)から商標Farestonとして又はSchering-Ploughから入手可能)、ドロロキシフェン((E)-3-[1-[4-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]フェニル]-2-フェニル-1-ブテニル]フェノール)、並びにEli Lilly and Co.(USA)製のラロキシフェン([2-(4-ヒドロキシフェニル)-6-ヒドロキシベンゾ[b]チエン-3-イル] [4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]メタノンヒドロクロリド)、LY335124、LY326315、LY335563(6-ヒドロキシ-3-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェノキシル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)ベンゾ[b]チオフェンヒドロクロリド)及びアルゾキシフェン(Arzoxifene)(LY353381、6-ヒドロキシ-3-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェノキシル]-2-(4-メトキシフェニル)ベンゾ[b]チオフェンヒドロクロリド)が挙げられる。他の好ましいSERMは、イドキシフェン((E)-1-[2-[4-[1-(4-ヨードフェニル)-2-フェニル-1-ブテニル]フェノキシ]エチル]ピロリジン)(SmithKline Beecham、USA)、レボルメロキシフェン(Levormeloxifene)(3,4-トランス-2,2-ジメチル-3-フェニル-4-[4-(2-(2-(ピロリジン-1-イル)エトキシ)フェニル]-7-メトキシクロマン)(Novo Nordisk,A/S、Denmark)(ShalmiらのWO97/25034、WO97/25035、WO97/25037、WO97/25038、及びKorsgaardらのWO97/25036に開示されている)、GW5638(Willsonら、1997によって記載されている)、及びインドール誘導体(Millerら、EP0802183A1に開示されている)である。更に以下の化合物も挙げられる:イプロキシフェン(Iproxifen)(TAT 59;(E)-4-[1-[4-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]フェニル]-2-[4-(1-メチルエチル)フェニル]-1-ブテニル]フェノール二水素リン酸塩)(大鵬薬品工業株式会社(日本)から入手可能)、オスペミフェン(Ospemifene)(FC 1271;((Z)-2-[4-(4-クロロ-1,2-ジフェニル-1-ブテニル)フェノキシル]エタノール)(Orion-Farmos Pharmaceutica(Finland)から入手可能)、SERM 3471、HMR 3339及びHMR 3656(Sanofi-Aventis(France)製)、SH 646(Schering AG(Germany)製)、ピペンドキシフェン(ERA 923)(Wyeth-Ayersによって開発)、WO97/32837に記載された非ステロイド系エストロゲン誘導体、フィスペミフェン(Fispemifene)(QuatRx(USA)によって開発)並びにCC 8490(Celgene(USA)によって開発)。
【0126】
製造業者によって推奨されるように、効力の必要に応じて使用される任意のSERMを使用できる。適切な投与量は当業界で知られている。本発明によれば、市販されている任意の他の非ステロイド系抗エストロゲン剤を使用できる。SERMと同様な活性を有する任意の化合物(例えば、ラロキシフェン)を使用できる。
【0127】
本発明に従って投与するSERMは好ましくは、経口投与の場合には、0.01〜10mg/kg体重/日(好ましくは0.05〜1.0mg/kg)の投与量範囲で投与し(ヒトの平均体重当たり5mg/日、特に10mg/日を2つの均等分割用量で投与するのが好ましい)、又は非経口投与(即ち、筋肉内投与、皮下投与又は経皮投与)の場合には、0.003〜3.0mg/kg体重/日(好ましくは0.015〜0.3mg/ml)の投与量範囲で投与する(ヒトの平均体重当たり1.5mg/日、特に3.0mg/日を2つの均等分割用量で投与するのが好ましい)。好ましくは、SERMは、以下に記載する薬学的に許容される希釈剤又は担体と共に投与する。
【0128】
本発明の1つの好ましい抗エストロゲン剤は、250mg/月の投与量で筋肉内投与される、AstraZeneca Canada Inc.(Mississauga、Ontario、Canada)から入手可能なフルベストラント(Faslodex、ICI 182 780)、7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-ペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオール)である。
【0129】
本明細書中で推奨する投与量の全てに関して、担当臨床医は、個々の患者の応答を監視し、それに応じて投与量を調節する必要がある。
【実施例】
【0130】
(実施例1)
乳腺において、アンドロゲンは、前駆体ステロイドであるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)から形成される。臨床的エビデンスは、アンドロゲンが乳癌に対する阻害作用を有することを示している。他方、エストロゲンは、乳癌の発現及び成長を刺激する。我々は、卵巣切除ヌードマウスにおいてヒト乳癌細胞株ZR-75-1によって形成される腫瘍異種移植片の成長に対する、DHEAの単独効果又はDHEAと新規に記載された純粋抗エストロゲン剤EM-800との併用効果を試験した。
【0131】
マウスに、エストロン(卵胞ホルモン)0.5μgを卵巣切除直後から連日皮下注射した。EM-800(15、50又は100μg)は、1日1回経口的に与えた。DHEAは、単独で又は経口日用量15μgのEM-800と組み合わせて、背面皮膚に1日2回(総用量0.3、1.0又は3.0mg)適用した。治療に応答した腫瘍サイズの変化を、1日目に行った測定との関連で定期的に評価した。実験の最後に、腫瘍を切開し、秤量した。
【0132】
エストロンのみを投与された卵巣切除マウスにおいては、エストロゲンを投与されなかったマウスと比較して、9.5ヶ月で腫瘍サイズの9.4倍の増加が観察された。エストロンを補充された卵巣切除マウスへの15、50又は100μgのEM-800投与はそれぞれ、腫瘍サイズを88%、93%及び94%阻害した。他方、DHEAは0.3、1.0又は3.0mgの用量で最終腫瘍重量をそれぞれ67%、82%及び85%阻害した。種々の用量の経皮DHEAの投与の有無に関わらず、経口日用量15μgのEM-800によって、腫瘍サイズの同等の阻害が得られた。DHEAとEM-800とは、ヌードマウス中のエストロン刺激ZR-75-1マウス異種移植片腫瘍の成長を独立して抑制した。規定用量のDHEAの投与は、EM-800の阻害作用を変化させなかった。
【0133】
材料及び方法
ZR-75-1細胞
ZR-75-1ヒト乳癌細胞は、American Type Culture Collection(Rockville、MD)から入手し、文献記載された方法(Poulin及びLabrie、1986;Poulinら、1988)で、空気95%/CO25%の加湿雰囲気下で37℃において、2mM L-グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、ペニシリン100IU/ml、ストレプトマイシン100μg/ml及び10%ウシ胎児血清が補充されたRPMI 1640培地中でルーチン的に単層培養した。細胞は、週1回、0.05%トリプシン:0.02%EDTA(w/v)で処理後に継代培養した。この報告に記載する実験に用いた細胞培養物は、細胞株ZR-75-1の継代93に由来した。
【0134】
動物
雌ホモ接合Harlan Sprague-Dawley(nu/nu)胸腺欠損マウス(日齢28〜42日)を、HSD(Indianapolis、Indiana、USA)から入手した。マウスは、層流フード内に保ち、また病原体制限条件下に保持した、エアフィルタートップを備えたビニルケージ中に収容した。ケージ、床敷(bedding)及び飼料は、使用前にオートクレーブした。水は、オートクレーブし、pH2.8に酸性化し、自由に摂取させた。
【0135】
細胞の接種
マウスは、腫瘍細胞接種の1週間前に、アベルチン(Avertin)(アミルアルコール:0.8g/100ml(0.9%NaCl);及びトリブロモエタノール:2g/100ml(0.9%NaCl))0.25ml/マウスの腹腔内注射による麻酔下で、両側卵巣切除(OVX)した。前述のようにして(Dauvoisら、1991)、0.05%トリプシン/0.02%EDTA(w/v)による単層処理後に、対数増殖期のZR-75-1細胞1.5×106個を採取し、25%マトリゲル(Matrigel)を含む培地0.1ml中に懸濁させ、長さ1インチの20ゲージの針を用いてマウスの両側腹部の皮下に接種した。腫瘍の成長を促進するために、各マウスに、0.9%NaCl-5%エタノール-1%ゼラチンからなるビヒクル中エストラジオール(E2)10μgを5週間、連日皮下注射した。触知可能なZR-75-1腫瘍の出現後、腫瘍直径をキャリパーで測定し、0.2〜0.7cmの腫瘍直径を有するマウスをこの試験のために選択した。
【0136】
ホルモン治療
対照OVX群を除く全動物に、0.2mlの0.9%NaCl-5%エタノール-1%ゼラチン中エストロン(E1)0.5μgを連日皮下注射した。指示群には、DHEAを、腫瘍成長領域外の背面皮膚領域に0.3、1.0又は3.0mg/動物の用量を0.02mlの容量で1日2回経皮投与した。DHEAは、50%エタノール-50%プロピレングリコール中に溶解させた。EM-800、((+)-7-ピバロイルオキシ-3-(4’-ピバロイルオキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-(2’’’-ピペリジノエトキシ)フェニル)-2H-ベンゾピラン)は、Laboratory of Molecular Endocrinology of the CHUL Research Centerの医薬化学部門において、既に文献記載されている方法(Gauthierら、J.Med.Chem. 40:2117〜2122頁、1997)で合成された。EM-800は、4%(v/v)エタノール-4%(v/v)ポリエチレングリコール(PEG)600-1%(w/v)ゼラチン-0.9%(w/v)NaCl中に溶解させた。指示群の動物に、経口日用量15μg、50μg又は100μgのEM-800を、単独で又はDHEAと組み合わせて投与し、OVX群の動物にビヒクルのみを(4%エタノール-4%PEG600-1%ゼラチン-0.9%NaClを0.2ml)投与した。腫瘍の測定は、Vernierキャリパーを用いて1週間に1回行った。2つの直交直径(cm)(L及びW)を記録し、式:L/2×W/2×π(Dauvoisら、1991)を用いて腫瘍面積(cm2)を算出した。治療1日目に測定された面積を100%と見なし、腫瘍サイズの変化を、初期腫瘍面積の百分率として表した。皮下腫瘍の場合には一般的に、腫瘍の三次元体積の正確な評価は不可能であるので、腫瘍面積のみを測定した。291日(又は9.5ヶ月)の治療後に、動物を屠殺した。
【0137】
応答のカテゴリーは、文献記載の方法で評価した(Dauvoisら、1989a;Dauvoisら、1989b;Labrieら、1995b)。約言すれば、部分退縮は、元のサイズの50%以上の退縮を示した腫瘍に相当し;不変は、元のサイズの50%未満の退縮又は元のサイズの50%以下の進行を示した腫瘍を指し、完全退縮は、治療終了時に検出できなかった腫瘍を指す。進行は、元のサイズと比較して50%超進行した腫瘍を示す。実験終了時に、全動物を断頭によって屠殺した。腫瘍、子宮及び膣を直ちに摘出し、結合組織及び脂肪組織を取り除き、秤量した。
【0138】
統計解析
腫瘍サイズに対する治療効果の統計的有意性を、分散分析(ANOVA)を用いて検討し、DHEA、EM-800及び時間による効果を評価した。治療の開始時及び終了時に、同じ動物において反復測定を行った(群因子内の対象)。治療0日目及び9.5ヶ月の治療後における反復測定を、動物の乱塊とする。したがって、時間をブロック内効果として解析し、両治療をブロック間効果として検討する。主効果間の全相互作用項をモデルに含めた。治療要因及びそれらの相互作用項の有意性は、群内の対象を誤差項として用いて解析した。データは、対数変換した。ANOVAの根拠となる仮説は、残差及び等分散性の正規性を仮定した。
【0139】
フィッシャー(Fischer)検定を用いて事後対比較(posteriori pairwise comparison)を行い、最小有意差を求めた。体重及び臓器重量に対する治療の主効果及び相互作用項を、相互作用項に関する標準二元ANOVAを用いて解析した。ANOVAは全て、SASプログラム(SAS Institute、Cary、NC、USA)を用いて行った。有意差は、全水準を5%として両側検定を用いて申告した。クラスカル-ワリス(Kruskall-Wallis)検定を用いてカテゴリーデータを解析し、順序カテゴリー応答変数(ordered categorical response variable)(完全奏効、部分奏効、不変及び腫瘍進行)を求めた。治療効果の全体的検討後、Table 4(表4)に示した結果のサブセットを、多重比較のために限界p値(有意水準)を調節して解析した。正確なp値は、StatXactプログラム(Cytel、Cambridge、MA、USA)を用いて算出した。データは、各群12〜15匹のマウスの平均値±平均値の標準誤差(SEM)として表す。
【0140】
結果
図3Aに示すように、ヒトZR-75-1腫瘍は、日用量0.5μgのエストロンの連日皮下投与によって治療された卵巣切除ヌードマウス群において291日間(9.5ヶ月)で9.4倍増加し、ビヒクルのみを投与された対照OVXマウス群では、試験期間の間に腫瘍サイズが初期値の36.9%まで減少した。
【0141】
漸増用量の皮下DHEAによる治療は、E1刺激ZR-75-1腫瘍の成長を漸進的に阻害した。マウス当たり日用量0.3mg、1.0mg及び3.0mgのDHEAによる治療9.5ヶ月目にそれぞれ50.4%、76.8%及び80.0%の阻害が達成された(図3A)。総腫瘍負荷量の減少と一致して、DHEAによる治療は、実験終了時に残存する腫瘍の平均重量を顕著に減少させた。実際に、平均腫瘍重量は、対照E1補充卵巣切除ヌードマウス群の1.12±0.26gから、日用量0.3mg、1.0mg及び3.0mgのDHEAを投与されたマウス群でそれぞれ0.37±0.12g(P=.005)、0.20±0.06g(P=.001)及び0.17±0.06g(P=.0009)まで減少した(図3B)。
【0142】
抗エストロゲン剤EM-800は、日用量15μg、50μg及び100μgにおいて、対照マウス群の腫瘍サイズと比較した場合に、エストロゲンで刺激された腫瘍のサイズを9.5ヶ月目にそれぞれ87.5%(P<.0001)、93.5%(P<.0001)及び94.0%(P=.0003)阻害した(図4A)。達成された腫瘍サイズの減少は、3つのEM-800用量間で有意差がなかった。図3Bに示すように、9.5ヶ月の試験の終了時の腫瘍重量は、対照E1補充OVXマウス群の1.12±0.26gから、日用量15μg、50μg及び100μgのEM-800で治療されたマウス群でそれぞれ0.08±0.03g、0.03±0.01g及び0.04±0.03gまで減少した(P<.0001(全EM-800用量群対E1補充OVX群))。
【0143】
前述のように、抗エストロゲン剤EM-800は、経口日用量15μgで、9.5ヶ月目にエストロンで刺激された腫瘍の成長を87.5%阻害した。使用した3つの用量のDHEAの追加は、日用量15μgの抗エストロゲン剤EM-800によって達成された腫瘍サイズの既に顕著な阻害に対して有意な効果を及ぼさなかった(図4B)。したがって、平均腫瘍重量は、対照エストロン補充マウス群の1.12±0.26gから日用量15μgの抗エストロゲン剤を単独投与された又は日用量15μgの抗エストロゲン剤と用量0.3mg、1.0mg及び3.0mgのDHEAとを併用投与されたマウス群でそれぞれ0.08±0.03g(P<.0001)、0.11±0.04g(P=.0002)、0.13±0.07g(P=.0004)及び0.08±0.05g(P<.0001)まで劇的に減少した(これら4群間で有意差は認められなかった)(図3B)。
【0144】
また、前記で指示した治療に従って達成された応答のカテゴリーを調べることも重要であった。したがって、漸増量のDHEAの治療が、進行性腫瘍の数を、統計的有意水準までではないが(P=.088)、エストロンを補充された対照OVX動物群の87.5%から、日用量0.3mg、1.0mg又は3.0mgのDHEAで治療された動物群でそれぞれ50.0%、53.3%及び66.7%まで減少させた(Table 3(表3))。他方、完全奏効は、エストロン補充マウス群の0%から、日用量0.3mg、1.0mg及び3.0mgのDHEAを経皮投与された動物群でそれぞれ28.6%、26.7%及び20.0%まで増加した。また他方で、不変は、対照E1補充マウス群及び前記指示用量のDHEAを投与された3つのマウス群でそれぞれ12.5%、21.4%、20.0%及び13.3%と測定された。対照卵巣切除マウス群において、完全奏効、部分奏効及び不変の比率はそれぞれ68.8%、6.2%及び18.8%と測定され、進行は腫瘍の6.2%でしか認められなかった(Table 3(表3))。
【0145】
完全奏効又は腫瘍の消失は、抗エストロゲン剤EM-800(P=.0006)を単独(15μg)で又は0.3mg、1.0mg若しくは3.0mgのDHEAとの併用で投与された動物群においてそれぞれ腫瘍の29.4%、33.3%、26.7%及び35.3%で達成された。他方、進行は、同じ群の動物においてそれぞれ腫瘍の35.3%、44.4%、53.3%及び17.6%で認められた。単独で又はDHEAを併用してEM-800で治療された群間で有意差は認められなかった。
【0146】
腫瘍重量に対して調整した体重に対して、DHEA又はEM-800治療の有意な効果は観察されなかった。エストロンによるOVXマウスの治療は、子宮重量をOVX対照マウス群の28±5mgから132±8mgまで増加させ(P<.01)、漸増用量のDHEAは、漸進的ではあるが、使用DHEAの最高用量で26%(P=.0008)に達する、エストロンの刺激効果の比較的少ない阻害をもたらした。同一図中で、エストロンで刺激された子宮の重量は、対照エストロン補充マウス群の132±8mgから、経口日用量15μg、50μg又は100μgのEM-800によってそれぞれ49±3mg、36±2mg及び32±1mg(P<.0001(全用量群対対照群))まで減少したことがわかる(全てP<.0001)。15μgのEM-800と日用量0.3mg、1.0mg又は3.0mgのDHEAとの併用では、子宮重量はそれぞれ、46±3mg、59±5mg及び69±3mgと測定された。
【0147】
他方、エストロンによる治療は、膣重量をOVX動物群の14±2mgから31±2mgまで増加させた(P<.01)が、DHEAの追加には有意な効果がなかった。この場合、日用量15μg、50μg又は100μgのEM-800による治療後に、膣重量はそれぞれ23±1mg、15±1mg及び11±1mgまで減少した(全p及び対P<.0001(全用量群対対照群)。用量0.3mg、1.0mg又は3.0mgのDHEAとEM-800との併用では、膣重量はそれぞれ22±1mg、25±2mg及び23±1mgと測定された(有意差なし(全群対EM-800 15μg群))。使用最高用量、即ち、日用量100μgにおいて、EM-800は、エストロン補充OVX動物群の子宮重量を減少させたが、OVX対照群の子宮重量の値と差がなく、膣重量をOVX対照群で測定された重量未満の値まで減少させた(P<.05)。DHEAは、おそらくそのアンドロゲン作用により、子宮重量又は膣重量に対するEM-800の効果を部分的に打ち消した。
【0148】
【表3】
【0149】
(実施例2)
本発明の好ましい化合物の合成例
(S)-(+)-7-ヒドロキシ-3-(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-(2’’’-ピペリジノエトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピランヒドロクロリドEM-01538(EM-652.HCl)の合成
【0150】
【化3】
【0151】
ステップA:BF3・Et2O、トルエン;100℃;1時間。
ステップC:3,4-ジヒドロピラン、p-トルエンスルホン酸一水和物、酢酸エチル;窒素下25℃で16時間、次いでイソプロパノール中で結晶化。
ステップD、E及びF:
(1)ピペリジン、トルエン、Dean&Stark装置、窒素下で還流;(2)1,8-ジアゾビシクロ[5, 4,0]ウンデカ-7-エン、DMF、3時間還流;(3)CH3MgCl、THF、-20〜0℃、次いで室温で24時間。
ステップG、H:(1S)-(+)-10-カンファースルホン酸、アセトン、水、トルエン、室温、48時間。
ステップHH:95%エタノール、70℃、次いで室温で3日間。
ステップHHR:ステップHHの母液及び洗液の再循環
(S)-10-カンファースルホン酸、還流;36時間、次いで室温で16時間。
ステップI:
(1)DMF aq.、Na2CO3、酢酸エチル;
(2)エタノール、希HCl;
(3)水。
【0152】
2-テトラヒドロピラニルオキシ-4-ヒドロキシ-2’-(4’’-テトラヒドロピラニルオキシフェニル)アセトフェノン(4)の合成。3,4-ジヒドロピラン(218ml、3.39モル)及び酢酸エチル(520ml)中2,4-ジヒドロキシ-2’-(4’’-ヒドロキシフェニル)アセトフェノン3(97.6g、0.4モル)(Chemsyn Science Laboratories(Lenexa、Kansas)から入手可能)懸濁液を、約25℃においてp-トルエンスルホン酸一水和物(0.03g、0.158ミリモル)で処理した。反応混合物を、外部加熱を行わずに窒素下で約16時間撹拌した。次いで、混合物を、重炭酸ナトリウム(1g)及び塩化ナトリウム(5g)の水(100ml)中溶液で洗浄した。相を分離させ、有機相をブライン(20ml)で洗浄した。各洗液を、酢酸エチル50mlで逆抽出した。全有機相を合し、硫酸ナトリウムを通して濾過した。溶媒(約600ml)を、大気圧において蒸留によって除去し、イソプロパノール(250ml)を添加した。更なる溶媒(約300ml)を、大気圧において蒸留し、イソプロパノール(250ml)を添加した。更なる溶媒(約275ml)を、大気圧において蒸留し、イソプロパノール(250ml)を添加した。溶液を約25℃において撹拌しながら冷却し、約12時間後に、結晶性固体を濾過し、イソプロパノールで洗浄し、乾燥させた(116.5g、70%)
【0153】
4-ヒドロキシ-4-メチル-2-(4’-[2’’-ピペリジノ]-エトキシ)フェニル-3-(4’’’-テトラヒドロピラニルオキシ)フェニル-7-テトラヒドロピラニルオキシ-クロマン(10)の合成。トルエン(8L)中2-テトラヒドロピラニルオキシ-4-ヒドロキシ-2’-(4’’-テトラヒドロピラニルオキシフェニル)アセトフェノン4(1kg、2.42モル)、4-[2-(1-ピペリジノ)エトキシ]ベンズアルデヒド5(594g、2.55モル)(Chemsyn Science Laboratories(Lenexa、Kansas)から入手可能)及びピペリジン(82.4g、0.97モル)(Aldrich Chemical Company Inc.(Milwaukee、Wis.)から入手可能)の溶液を、Dean&Stark装置を用いて窒素下で、1当量の水(44mL)が収集されるまで還流させた。トルエン(6.5L)を、大気圧において蒸留によって溶液から除去した。ジメチルホルムアミド(6.5L)及び1,8-ジアゾビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン(110.5g、0.726モル)を添加した。溶液を室温で約8時間撹拌して、カルコン8をクロマノン9に異性化させ、次いで水及び氷(8L)とトルエン(4L)との混合物に添加した。相を分離させ、トルエン層を水(5L)で洗浄した。合した水性洗液をトルエンで抽出した(3×4L)。合したトルエン抽出物を最後にブラインで洗浄し(3×4L)、大気圧において5.5Lまで濃縮し、次いで-10℃まで冷却した。窒素下で外部冷却及び撹拌を続けながら、温度を0℃未満に保持しつつ、THF中3M塩化メチルマグネシウム溶液(2.5L、7.5モル)(Aldrich Chemical Company Inc (Milwaukee、Wis.)から入手可能)を添加した。グリニャール試薬を全て添加後、外部冷却を取り外し、混合物を室温まで加温した。混合物を同温度で約24時間撹拌した。混合物を再び、約-20℃まで冷却し、外部冷却及び撹拌を続けながら、温度を20℃未満に保持しつつ、塩化アンモニウム飽和溶液(200ml)をゆっくり添加した。混合物を2時間撹拌し、次いで塩化アンモニウム飽和溶液(2L)及びトルエン(4L)を添加し、5分間撹拌した。相を分離させ、水性層をトルエン(2×4L)で抽出した。合したトルエン抽出物を、溶液が均質となるまで希塩酸で洗浄し、次いでブライン(3×4L)で洗浄した。トルエン溶液を最後に大気圧で2Lまで濃縮した。この溶液を、次のステップに直接使用した。
【0154】
(2R,S)-7-ヒドロキシ-3-(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-[2’’’-ピペリジノ]エトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピラン(1S)-10-カンファースルホン酸塩(±12)の合成。4-ヒドロキシ-4-メチル-2-(4’-[2’’-ピペリジノ]エトキシ)フェニル-3-(4’’’-テトラヒドロピラニルオキシ)フェニル-7-テトラヒドロピラニルオキシクロマン(10)のトルエン溶液に、アセトン(6L)、水(0.3L)及び(S)-10-カンファースルホン酸(561g、2.42モル)(Aldrich Chemical Company Inc.(Milwaukee、Wis.)から入手可能)を添加した。混合物を窒素下で48時間撹拌した後、固体(2R,S)-7-ヒドロキシ-3-(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-[2’’’-ピペリジノ]エトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピラン(1S)-10-カンファースルホン酸塩(12)を濾過し、アセトンで洗浄し、乾燥させた(883g)。この物質を、更に精製せずに、次の(HH)ステップに使用した。
【0155】
(2S)-7-ヒドロキシ-3-(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-[2’’’-ピペリジノ]エトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピラン(1S)-10-カンファースルホン酸塩(13、(+)-EM-652(1S)-CSA塩)の合成。(2R,S)-7-ヒドロキシ-3-(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-[2’’’-ピペリジノ]エトキシ)フェニル)-2H-ベンゾピラン(1S)-10-カンファースルホン酸塩±12(759g)の95%エタノール中懸濁液を、固体が溶解するまで撹拌しながら約70℃まで加熱した。溶液を撹拌しながら室温に冷却し、次いで、(2S)-7-ヒドロキシ-3-(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-[2’’’-ピペリジノ]エトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピラン(1S)-10-カンファースルホン酸塩13の数個の結晶をこれに播種した。溶液を室温において合計約3日間撹拌した。結晶を濾過し、95%エタノールで洗浄し、乾燥させた(291g、76%)。生成物のdeは94.2%であり、純度は98.8%であった。
【0156】
(S)-(+)-7-ヒドロキシ-3-(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4’’-(2’’’-ピペリジノエトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピランヒドロクロリドEM-01538(EM-652.HCl)の合成。化合物13(EM-652-(+)-CSA塩、500mg、0.726mmol)のジメチルホルムアミド(11μL、0.15mmol)中懸濁液を、0.5M炭酸ナトリウム水溶液(7.0mL、3.6mmol)で処理し、15分間撹拌した。懸濁液を酢酸エチル(7.0mL)で処理し、4時間にわたり撹拌した。次いで、有機相を炭酸ナトリウム飽和水溶液(2×5mL)及びブライン(1×5mL)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で脱水し、濃縮した。得られたピンク色のフォーム(EM-652)のエタノール(2mL)中溶液を、2N塩酸(400μL、0.80mmol)で処理し、1時間撹拌し、蒸留水(5mL)で処理し、30分間にわたり撹拌した。得られた懸濁液を濾過し、蒸留水(5mL)で洗浄し、空気中において高真空下(65℃)で乾燥させて、クリーム状の粉末(276mg、77%)を得た:オフホワイト色の微粉;示差走査熱量測定法:融解ピーク開始219℃、ΔH=83J/g;[α]24D=154°(メタノール中10mg/ml)。1H NMR (300 MHz, CD3OD) δ (ppm) 1.6 (広幅, 2H, H-4'''), 1.85 (広幅, 4H, H-3''''及び5''''), 2.03 (s, 3H, CH3), 3.0及び3.45 (広幅, 4H, H-2''''及び6''''), 3.47 (t, J=4.9Hz, 2H, H-3'''), 4.26 (t, J=4.9Hz, 2H, H-2'''), 5.82 (s, 1H, H-2), 6.10 (d, J=2.3Hz, 1H, H-8), 6.35 (dd, J=8.4, 2.43 Hz, 1H, H-6), 6.70 (d, J=8.6 Hz, 2H, H-3',及びH-5'), 6.83 (d, J=8.7Hz, 2H, H-3''及びH-5''), 7.01 (d, J=8.5 Hz, 2H, H-2'及びH-6'), 7.12 (d, J=8.4Hz, 1H, H-5), 7.24 (d, J=8.6Hz, 2H, H-2''及びH-6''); 13C RMN (CD3OD, 75 MHz) δ ppm 14.84, 22.50, 23.99, 54.78, 57.03, 62.97, 81.22, 104.38, 109.11, 115.35, 116.01, 118.68, 125.78, 126.33, 130.26, 130.72, 131.29, 131.59, 134.26, 154.42, 157.56, 158.96, 159.33. 元素組成: C, H, N, Cl: 理論値; 70.51, 6.53, 2.84, 7.18, %, 実測値: 70.31, 6.75, 2.65, 6.89%.
【0157】
(実施例3)
材料及び方法
動物
体重18〜20gの雌BALB/cマウス(BALB/cAnNCrIBR)を、Charles-River,Inc.(St-Constant、Quebec、Canada)から入手し、温度(23±1℃)及び光(明12時間/日、7:15に点灯)制御環境にあるケージに5匹/ケージを収容した。マウスに、齧歯類用固形飼料及び水道水を自由に摂取させた。マウスを、イソフルラン(Isoflurane)麻酔下で両側腹部の切開によって卵巣切除(OVX)し、各群10匹の群に無作為に割り付けた。マウス10匹を対照として、無傷のままにしておいた。
【0158】
治療
第1の実験(図11〜14)においては、被験化合物、即ち、EM-652.HCl、ラソフォキシフェン(遊離塩基として;活性及び不活性エナンチオマー)及びラロキシフェンを、卵巣切除の2日後から始めて9日間、1、3又は10μg/マウスの用量で1日1回、胃強制投与によって経口的に投与した。第2の実験(Table 6(表6))においては、TSE424を、卵巣切除の2日後から始めて9日間、1、3、10又は30μg/マウスの用量で1日1回、胃強制投与によって経口的に投与した。いずれの実験においても、抗エストロゲン活性を評価するために、エストロンによる治療(E1、0.06μg, s.c.注射、1日2回)を卵巣切除の5日後に開始し、6日間投与した。化合物はエタノールに溶解させ(最終濃度4%)、0.4%メチルセルロース中に入れて投与した。無傷対照群及びOVX対照群のマウスに、9日間ビヒクル(4%ETOH-0.4%メチルセルロース)のみを投与した。マウスは、卵巣切除後11日目の朝に腹部大動脈における瀉血によって屠殺した。子宮及び膣を速やかに切開し、秤量し、更なる組織学検査のために10%緩衝ホルマリン中に保存した。
【0159】
項目I.結果
実験1:
図11に示すように、経口日用量1、3又は10μgで投与されたEM-652.HClは、エストロンで刺激された子宮の重量をそれぞれ24%、48%及び72%阻害し(p<0.01(全用量群対対照群))、同一用量で投与されたラロキシフェンは、このパラメーターをそれぞれ6%(NS)、14%(p<0.01)及び43%(p<0.01)阻害した。他方、ラソフォキシフェン(遊離塩基として)は、使用最低用量においては阻害作用を示さなかったが、日用量3μg及び10μgでは、エストロンで刺激された子宮の重量をそれぞれ25%(p<0.01)及び44%(p<0.01)阻害した。ラソフォキシフェンの不活性エナンチオマーは、使用用量においてこのパラメーターに対して阻害作用をもたらさなかった。
【0160】
前記化合物は、膣重量に対しても同様な作用をもたらした。EM-652.HClの連日経口投与は、用量1、3及び10μgにおいて膣重量をそれぞれ10%(NS)、25%及び53%阻害し(2つの最高用量群についてはp<0.01)(図12)、ラフォキシフェンは最高用量(10μg)においてのみ、このパラメーターに対して有意な24%(p<0.01)の阻害作用をもたらした。ラロキシフェンと同様に、ラソフォキシフェン(遊離塩基として)は、使用最高用量においてのみ、有意な37%(p<0.01)の阻害作用をもたらし、不活性エナンチオマーは使用用量において膣重量に阻害作用を生じなかった。
【0161】
卵巣切除マウスに化合物単独(エストロンを使用しない)を経口日用量1μg及び10μgで投与した場合、EM-652.HClは、両使用用量において子宮重量に対して有意な刺激作用を生じなかったが、ラソフォキシフェン及びラロキシフェン10μgによる治療はそれぞれ、子宮重量の93%(p<0.01)及び85%(p<0.01)の刺激をもたらし(図13)、したがって、このパラメーターに対するこれら後者の化合物のエストロゲン作用を示している。同様に、EM-652.HClは、膣重量に対して有意な刺激作用をもたらさなかった(図14)が、ラソフォキシフェン及びラロキシフェン10μgの投与はそれぞれ、膣重量の73%(p<0.01)及び56%(p<0.01)の刺激をもたらした。他方、ラソフォキシフェンの不活性エナンチオマーは、子宮重量及び膣重量に対して刺激作用を生じなかった。
【0162】
実験2
Table 4(表4)に示すように、経口日用量1、3、10又は30μgで投与されたTSE424は、エストロンで刺激された子宮の重量をそれぞれ12%(NS)、47%、74%及び94%阻害した(p<0.01(3つの最高用量群対E1対照群))。他方、TSE424の連日経口投与は、用量3、10及び30μgにおいて膣重量をそれぞれ16%(NS)、56%(p<0.01)及び93%(p<0.01)阻害した。
【0163】
卵巣切除マウスに化合物単独(エストロンを使用しない)を経口日用量3μg及び30μgで投与した場合、TSE424は、両使用用量において子宮重量及び膣重量に対して有意な刺激作用を生じなかった(Table 4(表4))。
【0164】
【表4】
【0165】
(実施例4)
骨量減少、血清脂質及び全身脂肪に対する予防効果
動物及び治療
治療開始時の体重が約220〜270gの週齢10〜12週の雌Sprague-Dawleyラット(Crl:CD(SD)Br)(Charles River Laboratory、St-Constant、Canada)を使用した。ラットは、実験開始前の少なくとも1週間、環境条件(温度:22±3℃;湿度:50±20%;明(12時間)-暗(12時間)サイクル、7:15に点灯)に順化させた。ラットは1匹ずつ収容し、水道水及び齧歯類用の認証ペレット飼料(Lab Diet 5002、Ralston Purina、St-Louis、MO)を自由に摂取させた。実験は、Canadian Council on Animal Care(CCAC)及びAssociation for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care(AAALAC)によって認可されている動物施設において、CCAC Guide for Care and Use of Experimental Animalsに従って実施した。
【0166】
第1の実験においては、154匹のラットを、以下のようにして各群14匹の11群に無作為に分布させた:1)無傷対照群;2)OVX対照群;3)OVX+E2(1mg/kg)群;4)OVX+EM-652.HCl(2.5mg/kg)群;5)OVX+E2+EM-652.HCl群;6)OVX+デヒドロエピアンドロステロン(DHEA;80mg/kg)群;7)OVX+DHEA+EM-652.HCl群;8)OVX+DHEA+E2群;9)OVX+DHEA+E2+EM-652.HCl群;10)OVX+GW 5638群;11)OVX+E2+GW 5638群。試験1日目に、適切な群のラットに対して、イソフルラン麻酔下で両側卵巣切除(OVX)を行った。DHEAは、50%エタノール-50%プロピレングリコール中溶液として背面皮膚に局所適用し、他の被験化合物は、0.4%メチルセルロース中懸濁液として経口的に胃強制投与した。治療は、試験2日目に開始し、3ヶ月間にわたり1日1回行った。
【0167】
第2の実験においては、132匹のラットを、以下のようにして各群14又は15匹の9群に無作為に分布させた:1)無傷対照群;2)OVX対照群;3)OVX+プレマリン(0.25mg/kg)群;4)OVX+EM-652.HCl(2.5mg/kg)群;5)OVX+プレマリン+EM-652.HCl群;6)OVX+TSE 424(2.5mg/kg)群;7)OVX+プレマリン+TSE424群;8)OVX+ラソフォキシフェン(酒石酸塩;ラセミ体;2.5mg/kg)群;9)OVX+プレマリン+ラソフォキシフェン群。試験1日目に、適切な群のラットに対して、イソフルラン麻酔下で両側OVXを行った。被験化合物は、0.4%メチルセルロース中懸濁液として経口的に胃強制投与した。治療は、試験2日目に開始し、26週間間にわたり1日1回行った。いずれの実験においても、被験物質を投与しなかったラットには、同じ期間にわたって適切なビヒクルのみで治療した。
【0168】
骨塩密度測定
3ヶ月間(実験1)又は26週間(実験2)の治療後に、イソフルラン麻酔下の個々のラットについて、二重エネルギーX線吸収計(DEXA;QDR 4500A、Hologic、Waltham、MA)及びRegional High Resolution Scanソフトウェアを用いて全身骨格及び腰椎を走査した。腰椎(椎骨L2〜L4)の骨塩密度(BMD)及び全身体組成(脂肪率)を測定した。
【0169】
血清アッセイ
3ヶ月間(実験1)又は26週間(実験2)の治療後に、夜間絶食ラットの頸静脈から血液サンプルを採取した(イソフルラン麻酔下で)。サンプルを血清調製のために処理し、アッセイまで-80℃で凍結させた。血清コレステロール濃度及びアルカリホスファターゼ活性(ALP)を、Boehringer Mannheim Diagnostic Hitachi 911 Analyzer(Boehringer Mannheim Diagnostic Laboratory Systems)を用いて測定した。
【0170】
統計解析
データは、平均値±SEMとして表す。統計的有意性は、Duncan-Kramerの多重範囲検定(Kramer CY;Biometrics 1956;12:307〜310頁)に従って判定した。
【0171】
結果
Table 5(表5)に示すように、卵巣切除3ヶ月後に、腰椎のBMDは、OVX対照群では無傷対照群よりも10%低かった(p<0.01)。使用用量において、エストラジオール及びEM-652.HClの単独投与は、腰椎BMD低下をそれぞれ98%(p<0.01)及び65%(p<0.05)予防し、E2及びEM-652.HClによる併用治療群はOVX誘発性の腰椎BMD低下を61%予防した(p<0.05)。他方、DHEAの単独投与群はOVX誘発性の腰椎BMD低下を43%予防し(p<0.05)、DHEA+E2+EM-652.HClの併用投与群はOVX誘発性の腰椎BMD低下を91%予防し、無傷対照群と差のないBMD値をもたらした。
【0172】
Table 6(表6)において、卵巣切除の26週間後に、腰椎のBMDは、無傷対照群と比較して18%低下した(p<0.01)。プレマリン、EM-652.HCl、TSE424及びラソフォキシフェンの単独投与は、腰椎BMDをそれぞれ54%、62%、49%及び61%予防した(全てp<0.01(対OVX対照群)。EM-652.HCl、TSE424又はラソフォキシフェンへのプレマリンの追加は、各SERMの単独投与によって得られる腰椎BMD値と有意差のない腰椎BMD値をもたらした(Table 6(表6))。同様に、E2又はEM-652.HClへのDHEAの追加は、OVX誘発性の腰椎BMD低下を完全に予防した(Table 5(表5))。BMDに対するDHEAのプラス効果は、骨形成及び骨代謝回転のマーカーである血清アルカリホスファターゼ活性(ALP)に対するその効果によっても裏付けられる。ALP活性は、OVX対照動物群の73±6IU/Lから、DHEA-治療動物群、DHEA+EM-652.HCl-治療動物群、DHEA+E2-治療動物群及びDHEA+E2+EM-652.HCl-治療動物群でそれぞれ224±18IU/L、290±27IU/L、123±8IU/L及び261±20IU/Lまで増加し(全てp<0.01)、したがって骨形成に対するDHEAの刺激作用を示唆している(Table 7(表7))。
【0173】
骨量減少に対する予防効果の他に、EM-652.HCl、TSE424、ラソフォキシフェン、GW5638、DHEA及びE2の投与は総体脂肪率及び血清脂質に対してもある程度の有益効果を及ぼす。卵巣切除の3ヶ月後に、総体脂肪は22%増加した(p<0.05;Table XXX6)。EM-652.HClの投与は、OVX誘発性の脂肪率増加を完全に予防し、SERMへのDHEA及び/又はE2の追加は、無傷対照動物群において観察される値未満の脂肪率値をもたらした。卵巣切除の26週間後に、エストロゲン欠乏によって誘発された40%の脂肪増加は、プレマリン、EM-652.HCl、TSE424又はラソフォキシフェンの投与後にそれぞれ74%、78%、75%及び114%反転され、各SERMへのプレマリンの追加は、OVX誘発性の脂肪率増加を完全に予防した(Table 8(表8))。
【0174】
Table 7(表7)に示すように、卵巣切除の3ヶ月後には、OVX対照ラット群においては、無傷対照群と比較して血清コレステロール濃度の22%の増加が観察された(p<0.01)。実際に、血清コレステロールは、無傷動物群の2.01±0.11mmol/Lから、OVX対照ラット群で2.46±0.08mmol/Lまで増加した。E2又はDHEAの単独投与は、血清コレステロール濃度をそれぞれ1.37±0.18mmol/L及び1.59±0.10mmol/Lに低下させ、EM-652.HClの単独投与又はE2及び/若しくはDHEAとの併用投与は、無傷動物群において見られる値(2.01±0.11mmol/L)よりも著しく低いコレステロール濃度(0.65〜0.96mmol/L)をもたらした。同様に、GW5638、TSE424及びラソフォキシフェンの単独投与又はE2若しくはプレマリンとの併用投与は、血清コレステロール濃度に対するOVX誘発性増加を予防し、無傷動物群においてみられる値より低い値をもたらした(Table 7(表7)及びTable 8(表8))。
【0175】
【表5】
【0176】
【表6】
【0177】
【表7】
【0178】
【表8】
【0179】
(実施例5)
卵巣切除雌ラットに単独投与された又はDETAと併用投与された、SERMであるEM-652.HCl、TSE-424及びERA-923による治療後の骨量減少に対する予防効果
動物及び治療
治療開始時の体重が約220〜270gの10〜12週齢の雌Sprague-Dawleyラット(Crl:CD(SD)Br)(Charles River Laboratory、St-Constant、Canada)を使用した。ラットは、実験開始前の少なくとも1週間、環境条件(温度:22±3℃;湿度:50±20%;明(12時間)-暗(12時間)サイクル、7:15に点灯)に順化させた。ラットは1匹ずつ収容し、水道水及び齧歯類用の認証ペレット飼料(Lab Diet 5002、Ralston Purina、St-Louis、MO)を自由に摂取させた。実験は、Canadian Council on Animal Care(CCAC)及びAssociation for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care(AAALAC)に認可されている動物施設において、CCAC Guide for Care and Use of Experimental Animalsに従って実施した。
【0180】
126匹のラットを、以下のようにして各群14匹の9群に無作為に分布させた:1)無傷対照群;2)OVX対照群;3)OVX+EM-652.HCl(2.5mg/kg)群;4)OVX+TSE-424(EM-4803、2.5mg/kg)群;5)OVX+ERA-923(EM-3527、2.5mg/kg)群;6)OVX+デヒドロエピアンドロステロン(DHEA; 80mg/kg)群;7)OVX+DHEA+EM-652.HCl群;8)OVX+DHEA+TSE-424群;9)OVX+DHEA+ERA-923群。試験1日目に、適切な群のラットに対して、イソフルラン麻酔下で両側卵巣切除(OVX)を行った。DHEAは、50%エタノール-50%プロピレングリコール中溶液として背面皮膚に局所適用し、被験SERMは、0.4%メチルセルロース中懸濁液として経口的に胃強制投与した。治療は、試験2日目に開始し、5週間にわたり1日1回行った。
【0181】
骨塩密度測定
5週間の治療後に、イソフルラン麻酔下の個々のラットについて、二重エネルギーX線吸収計(DEXA;QDR 4500A、Hologic、Waltham、MA)及びRegional High Resolution Scanソフトウェアを用いて腰椎、大腿骨及び脛骨を走査した。腰椎(椎骨L2〜L4)、大腿骨遠位端骨幹端(DFM)及び脛骨近位端骨幹端(PTM)の骨塩密度(BMD)を測定した。
【0182】
統計解析
データは、平均値±SEMとして表す。統計的有意性は、Duncan-Kramerの多重範囲検定(Kramer CY 1956)に従って判定した。
【0183】
結果
Table 9(表9)に示すように、卵巣切除5週間後に、腰椎のBMDは、OVX対照動物群では無傷対照群よりも9%低かった。使用用量において、SERM:EM-652.HCl、TSE-424又はERA-923の単独投与は、腰椎BMD低下をそれぞれ86%、53%及び78%予防した。他方、DHEAの単独投与は、腰椎BMD低下を44%予防し、DHEA+EM-652.HCl、DHEA+TSE-424又はDHEA+ERA-923による併用治療は、OVX誘発性の腰椎BMD低下をそれぞれ94%、105%及び105%予防した。
【0184】
卵巣切除の5週間後に、大腿骨遠位端骨幹端(DFM)の骨塩密度は、10%低下した(Table 9(表9))。SERM:EM-652.HCl、TSE-424又はERA-923の単独投与は、DFM BMD低下をそれぞれ95%、70%及び83%予防した。他方、DHEAの単独投与はDFM BMD低下を71%予防し、DHEA+ EM-652.HCl、DHEA+TSE-424又はDHEA+ERA-923による併用治療はOVX誘発性のDFM BMD低下を完全に予防し、無傷対照動物群において観察される値より高いDFM BMD値をもたらした。同様な結果は、脛骨近位端骨幹端BMDについても得られた(Table 9(表9))。
【0185】
【表9】
【0186】
(実施例6)
ヒト子宮内膜腺癌石川細胞におけるアルカリホスファターゼ活性に対する本発明の化合物の効果
材料
保存細胞培養物の維持
高分化子宮内膜腺癌に由来するヒト石川細胞株は、Dr Erlio Gurpide(The Mount Sinai Medical Center、New York、NY)から快く提供されたものである。石川細胞は、5%(vol/vol)FBS(ウシ胎児血清)を含み、ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン100μg/mL、0.1mM非必須アミノ酸溶液が補充されたイーグル最小必須培地(Eagle’s Minimum Essential Medium)(MEM)中でルーチン的に維持した。細胞は、Falcon T75フラスコ中で37℃において1.5x106個の密度で平板培養した。
【0187】
細胞培養実験
実験開始24時間前に、コンフルエントに近い石川細胞の培地を、ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン100μg/mL、2mMグルタミン及び内因性ステロイド除去のためにデキストランチャコール(dextran-coated charcoal)で2回処理された5%FBSが補充された、フェノールレッド非含有ハムF-12(Ham’s F-12)とダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)(DMEM)との1:1(v:v)混合物からなる新鮮なエストロゲン非含有基礎培地(EFBM)と交換した。次いで、細胞を0.1%パンクレアチン(Sigma)及び0.25mM HEPESによって採取し、EFBM中に再懸濁させ、Falcon 96ウェル平底マイクロタイタープレート中において容量100μl中、細胞密度2.2×104個/ウェルで平板培養し、24時間プレートの表面に付着させた。その後、培地を、最終容量200μl中に指示濃度の化合物を含む新鮮なEFBMと交換した。48時間後に培地を交換しながら、細胞を5日間インキュベートした。
【0188】
アルカリホスファターゼアッセイ
インキュベーション期間の終了時に、マイクロタイタープレートを反転させて、成長培地をデカントした。プレートを、ウェルごとに200μlのPBS(0.15M NaCl、10mMリン酸ナトリウム、pH7.4)ですすいだ。次いで、若干の残留PBSを慎重に残しながら、プレートからPBSを除去し、洗浄手順を一度繰り返した。次いで、緩衝生理食塩水をデカントし、反転プレートをペーパータオル上でそっと吸い取った。カバーの交換後、プレートを-80℃に15分間に置いた後、室温で10分間解凍した。次に、プレートを氷上に置き、5mM p-ニトロフェニルホスフェート、0.24M MgCl2及び1Mジエタノールアミン(pH9.8)を含む氷冷溶液50μlを添加した。次いで、プレートを室温まで温め、p-ニトロフェニルの生成による黄色を顕色させた(8分間)。プレートを酵素結合免疫吸着測定プレートリーダー(BIO-RAD、モデル2550EIA Reader)において405nmで監視した。
【0189】
計算
重み付逐次最小二乗法による非線形回帰を用いて、用量反応曲線及びIC50値を計算した。
【0190】
【表10−1】
【0191】
【表10−2】
【0192】
(実施例7)
ヒト乳癌MCF-7細胞の増殖に対するEM-652.HCl、TSE424及びラソフォキシフェンの効果
方法
保存細胞培養物の維持
MCF-7ヒト乳癌細胞を、American Type Culture Collection #HTB22から継代147で入手し、フェノールレッド非含有ダルベッコ変法イーグル-ハムF-12培地中でルーチン的に成長させた。培地は、前述の補充以外に5%FBSを補充した。MCF-7ヒト乳腺癌細胞株は、69才のコーカサス系女性患者の胸水に由来した。MCF-7細胞は、継代148〜165のものを使用し、週1回継代培養した。
【0193】
細胞増殖試験
後期対数増殖期の細胞を0.1%パンクレアチン(Sigma)によって採取し、ウシインスリン50ng/ml及び内因性ステロイド除去のためにデキストランチャコール(dextran-coated charcoal)で2回処理された5%(v/v)FBSを含む適切な培地中に再懸濁させた。細胞を、24ウェルFalconプラスチック培養プレート(2cm2/ウェル)中において指示密度で平板培養し、72時間プレートの表面に付着させた。その後、1000倍原液から99%再蒸留エタノール中で希釈された指示濃度の化合物を含む、E2を含む又は含まない新鮮な培地と交換した。対照細胞には、エタノール性ビヒクル(0.1%EtOH、v/v)のみを加えた。培地を2日又は3日間隔で交換しながら、細胞を指定期間、インキュベートした。細胞数は、DNA含量の測定によって求めた。
【0194】
計算及び統計解析
重み付逐次最小二乗法による非線形回帰を用いて、用量反応曲線及びIC50値を計算した。結果は全て、平均値±SEMとして表す。
【0195】
【表11】
【0196】
(実施例8)
ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳房腫瘍の成長に対する、EM-652.HCl、タモキシフェン、トレミフェン、ドロロキシフェン、イドキシフェン、GW-5638及びラロキシフェンの効果の比較
この実施例の目的は、卵巣切除ヌードマウスにおける高分化エストロゲン感受性ZR-75-1乳癌異種移植片の成長に対する、EM-652.HCl及び6種の他の経口抗エストロゲン剤(SERM)のアゴニスト及びアンタゴニスト作用を比較することであった。
【0197】
材料及び方法
ヒトZR-75-1乳癌細胞
ZR-75-1ヒト乳癌細胞は、American Type Culture Collection(Rockville、MD)から入手し、フェノールレッド非含有RPMI-1640培地中で培養した。細胞に、2mM L-グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、ペニシリン100IU/ml、ストレプトマイシン100μg/ml及び10%(v/v)ウシ胎児血清を補充し、空気95%/CO2 5%の加湿雰囲気下で37℃においてインキュベートした。細胞を週に1回継代し、85〜90%コンフルエントな状態で0.083%パンクレアチン/0.3mM EDTAを用いて採取した。
【0198】
動物及び腫瘍接種
雌ホモ接合nu/nu Br胸腺欠損マウス(日齢28〜42日)を、Charles River,Inc.(Saint-Constant、Quebec、Canada)から入した。マウス(5匹/ケージ)を、層流フード内に保ち、また病原体制限条件下に保持した、エアフィルターリッドを備えたビニルケージ中に収容した。光周期は、明12時間及び暗12時間とした(7:15に点灯)。ケージ、床敷及び飼料(Agway Pro-Lab R-M-H Diet #4018)は、使用前にオートクレーブした。水は、オートクレーブし、自由に摂水させた。イソフルランによる麻酔下で両側卵巣切除を行った。最初の腫瘍成長を刺激するために、卵巣切除時に、エストラジオール(E2)のインプラントを皮下挿入した。E2インプラントは、0.5cmのエストラジオールとコレステロールとの1:10(w/w)混合物を含む1cm長のシラスティックチューブ(内径:0.062インチ;外径:0.095インチ)の形態で調製した。卵巣切除1週間後に、2.5cm長の22ゲージの針を用いて、0.1mlのRPMI-1640培地+30% Matrigel中の2×106個のZR-75-1(継代93)細胞を、各卵巣切除(OVX)マウスの両側腹部に皮下接種した。4週間後、全マウスにおいて、E2インプラントを同サイズのエストロン含有インプラント(E1:chol、1:25 w:w)と交換した。1週間後、無作為化及び治療を開始した。
【0199】
治療
治療開始1日前に、平均面積24.4±0.4mm2(範囲5.7〜50.7mm2)のZR-75-1腫瘍を有するマウス255匹を、各群15匹(腫瘍総数29又は30個)の17群に無作為に(腫瘍サイズに関して)割り付けた。17群の内訳は、2つの対照群(OVX群及びOVX+エストロン群)、エストロンインプラントを補充し、抗エストロゲン剤で治療した7群、抗エストロゲン剤を単独投与された他の8群であった。次に、卵巣切除対照群(OVX)及び抗エストロゲン剤単独投与群のマウスから、エストロンインプラントを取り出した。他の9群のエストロン含有インプラントはその後6週間毎に交換した。EM-652.HCl、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、イドキシフェン及びGW5638は、Oncology and Molecular Endocrinology Research Centerの医薬化学部門において合成された。タモキシフェンはPlantex(Netanya、Israel)から、クエン酸トレミフェンはOrion(Espoo、Finland)から購入した。エストロン刺激下で、抗エストロゲン剤は、0.4%(w/v)メチルセルロース0.2ml中に懸濁させて、経口日用量50μg(平均2mg/kg)で与えた。エストロン刺激の不存在下で、200μg(平均8mg/kg)の各抗エストロゲン剤で1日1回経口経路によってマウスを治療した。両対照群のマウスには、ビヒクルのみを0.2ml投与した。適切な濃度の抗エストロゲン剤懸濁液を月に1回に調製し、4℃で保存し、絶えず撹拌しながら使用した。粉末ストックは密封して4℃(イドキシフェン、ラロキシフェン、トレミフェン、GW5638、ドロロキシフェン)又は室温(タモキシフェン、EM-652.HCl)で保存した。
【0200】
腫瘍測定及び解剖
2つの直交直径を記録し、式:L/2×W/2×πを用いて腫瘍面積(mm2)を算出した。治療1日目に測定された面積を100%と見なした。
【0201】
161日間の治療後に、残りの動物をイソフルランで麻酔し、瀉血によって屠殺した。エストロゲン及び抗エストロゲン剤の効果を更に特徴付けるために、子宮及び膣などのエストロゲン応答性組織を直ちに摘出し、結合組織及び脂肪組織を取り除き、秤量した。Image Pro-Plus(Media Cybernetics、Maryland、USA)による画像解析によって子宮内膜厚を求めるために、子宮の標本を作成した。簡単に説明すれば、子宮を10%ホルマリン中で固定し、パラフィン中に包理した。マウス子宮のヘマトキシリン及びエオジン染色切片を解析した。子宮当たり4つ(子宮角当たり2つ)の画像を解析した。上皮細胞の平均高を、各群の全てのマウスにおいて測定した。
【0202】
応答基準
腫瘍応答は、試験の終了時、又は実験中であっても動物が死亡した場合には各動物の死亡時に、評価した。この場合は、腫瘍応答解析には、試験期間の少なくとも1/2の期間(84日間)生き延びたマウスのデータのみを使用した。簡単に説明すれば、完全退縮は、実験終了時に検出できなかった腫瘍を特定し;部分退縮は、元のサイズの50%以上の退縮を示した腫瘍に相当し;不変は、50%未満の退縮又は50%以下の進行を示した腫瘍を指し;進行は、元のサイズと比較して50%以上進行した腫瘍を指す。
【0203】
統計解析
1日目と161日目の間の総腫瘍面積の変化を、反復測定値についてANOVAに従って解析した。モデルには、治療効果、時間効果及び時間-治療相互作用効果、加えて無作為化において層(strata)となる項を含めた。例えば、161日目における種々の治療効果の有意性は、時間-治療相互作用によって試験した。残差の分析から、原尺度での測定値はANOVAによる解析にも、試行した変換のいずれにも適合しないことが示された。したがって、解析に順位(rank)を選択した。上皮厚に対する治療効果を、無作為化における層も含む一元ANOVAによって評価した。最小二乗平均統計量を用いて、事後対比較を行った。全ての第1種の誤り率(α)を5%に制御して、差の有意性を申告した。計算は全て、SAS Software(SAS Institute、Carry、NC)上でProc MIXEDを用いて行った。
【0204】
結果
ZR-75-1腫瘍成長に対するアンタゴニスト効果
エストロン単独(OVX+E1)は、23週間の治療期間中にZR-75-1腫瘍サイズを707%増加させた(図18)。エストロン刺激マウスへの経口日用量50μgの純粋抗エストロゲン剤EM-652.HClの投与は、腫瘍成長を完全に予防した。実際に、腫瘍成長が予防されただけでなく、23週間の治療後に、腫瘍サイズは治療開始時の初期値よりも26%小さかった(p<0.04)。EM-652.HClによる治療後に得られたこの値は、腫瘍サイズが初期腫瘍サイズより61%減少した、卵巣切除のみ(OVX)の後に観察された値と統計的に差がなかった。同じ用量(50μg)及び治療期間において、他の6種の抗エストロゲン剤は、初期平均腫瘍サイズを減少させなかった。これらの群の腫瘍は全て、OVX対照群及びEM-652.HCl治療群よりも有意に大きかった(p<0.01)。実際に、治療前値に比較して、ドロロキシフェン、トレミフェン、GW5638、ラロキシフェン、タモキシフェン及びイドキシフェンによる23週間の治療は、治療前値よりもそれぞれ478%、230%、227%、191%、87%及び86%大きい平均腫瘍サイズをもたらした(図18)。
【0205】
ZR-75-1腫瘍成長に対するアゴニスト効果
エストロン補充の不存在下における日用量200μgのタモキシフェンによる161日間の治療後に、平均腫瘍サイズはベースラインよりも196%大きい値まで増加した(p<0.01(対OVX群))(図19)。他方、イドキシフェンによって治療されたマウスの平均腫瘍サイズは増加し(125%)(p<0.01)、トレミフェンによって治療されたマウスの腫瘍サイズは86%増加した(p<0.01)(図19)。タモキシフェン200μgへのEM-652.HCl 200μgの追加は、タモキシフェン単独によって観察される増殖を阻害した(図20)。他方、EM-652.HCl(p=0.44)、ラロキシフェン(p=0.11)、ドロロキシフェン(p=0.36)又はGW5638(p=0.17)による単独治療群は、実験終了時にOVX対照群に比較してZR-75-1腫瘍サイズを有意に変化させなかった(図19)。
【0206】
カテゴリー応答に対する効果
エストロン刺激に対する抗エストロゲン剤50μgの効果。腫瘍サイズに対する効果に加えて、実験終了時において個々の腫瘍によって達成される応答のカテゴリーは、治療効果の重要なパラメーターである。卵巣切除マウス群においては、完全奏効、部分奏効及び不変がそれぞれ21%、43%及び38%の腫瘍で達成され、進行を示した腫瘍はなかった。他方、エストロン補充OVXマウス群においては、100%の腫瘍が進行を示した(図21)。エストロン補充EM-652.HCl治療OVXマウス群においては、完全奏効、部分奏効及び不変がそれぞれ17%、17%及び60%の腫瘍で認められ、進行を示したのはわずか7%(腫瘍30個中2個)であった。同一エストロン刺激条件下で、日用量50μgの他の全ての抗エストロゲン剤は、進行性腫瘍の割合を60%未満に低下できなかった。実際には、タモキシフェン治療群では65%の腫瘍(26個中17個)が進行し、トレミフェン治療群では89%の腫瘍(28個中25個)が進行し、ラロキシフェン治療群では81%の腫瘍(26個中21個)が進行し、ドロロキシフェン治療群では100%の腫瘍(23個中23個)が進行し、イドキシフェン治療群では71%の腫瘍(28個中20個)が進行し、GW5638治療群では77%の腫瘍(26個中20個)が進行した(図21)。
【0207】
カテゴリー応答に対する、エストロン刺激の不存在下における抗エストロゲン剤200μgの効果
図22に示すように、タモキシフェン、イドキシフェン及びトレミフェンは、エストロン刺激の不存在下において他の抗エストロゲン剤よりも高い割合の進行性腫瘍を生じた。実際に、日用量200μgのタモキシフェン、イドキシフェン及びトレミフェン治療後には、それぞれ62%(26個中16個)、33%(24個中8個)及び21%(28個中6個)の腫瘍が進行のカテゴリーであった。図23に見られるように、タモキシフェンへの200μgのEM-652.HClの追加は、進行性腫瘍の割合を、タモキシフェン単独の場合の62%(26個中16個)から7%(28個中2個)まで減少させた。
【0208】
子宮上皮細胞の厚さに対する抗エストロゲン剤の効果
子宮内膜上皮細胞の高さを、子宮内膜における各化合物のアゴニスト及びアンタゴニスト効果の最も直接的なパラメーターとして測定した。
【0209】
子宮内膜上皮細胞の厚さに対する、エストロン刺激の存在下における日用量50μgの抗エストロゲン剤の効果
経口日用量50μgにおいて、EM-652.HClは、上皮の高さに対するエストロンの刺激作用を70%阻害した。試験した他の6種の抗エストロゲン剤の効力は、有意に低かった(p<0.01)。実際に、ドロロキシフェン、GW5638、ラロキシフェン、タモキシフェン、トレミフェン及びイドキシフェンは、エストロン刺激をそれぞれ17%、24%、26%、32%、41%及び50%阻害した(Table 12(表12))。
【0210】
子宮内膜上皮細胞の厚さに対する、エストロン刺激の不存在下における日用量200μgの抗エストロゲン剤の効果
エストロゲン刺激の不存在下において上皮細胞の高さを有意に増加させなかった被験化合物は、EM-652.HCl及びドロロキシフェンのみであった(それぞれ、OVX対照群値の114%及び101%)。タモキシフェン(155%)、トレミフェン(135%)及びイドキシフェン(176%)は、子宮上皮の高さの有意な刺激をもたらした(p<0.01(対OVX対照群)。ラロキシフェン(122%)及びGW5638(121%)も、子宮上皮の高さの統計的に有意な刺激をもたらした(p<0.05(対OVX対照群))(Table 12(表12))。子宮及び膣重量に対して測定された各抗エストロゲン剤のアゴニスト及びアンタゴニスト効果は、子宮上皮厚について観察されたパターンと一致していた(データは示さず)。
【0211】
【表12】
【0212】
(実施例9)
14C-EM-800(20mg/kg)の単回経口投与後の雌ラット脳の放射活性
実施例8は、本発明のSERM、14C-EM-800(20mg/kg)の単回経口投与後のラット脳の放射活性を示す。比較のため、これらの動物のそれぞれからの血液、血漿、肝臓(Table 13(表13))及び子宮の値も挙げる。雌雄Long-Evansラットへの14C-EM-800(20mg/2ml/kg)の単回経口投与後の放射活性の組織分布及び排泄量。これらの数値は、雌Long-Evansラットの脳中の薬物由来の総放射活性の量が、非常に低く(ng当量/g組織)、投与12時間後には検出されなかったことを示している。2時間において、脳中の放射活性は肝臓中の412分の1、子宮中の21分の1、血液中の8.4分の1、血漿中の13分の1であった。割合はわからないが総脳放射活性は血液の放射活性による汚染に起因するので、脳の放射活性についてTable X1に示した値は、脳組織自体の14C(EM-800)関連放射活性レベルの過大評価である。このようなデータは、脳組織中の抗エストロゲン剤の濃度は低すぎて、外因性エストロゲンの作用を打ち消せないことを示唆している。脳組織中に検出された放射活性の一部は組織中の残留血液に起因し得ることに留意することが重要である(Table 14(表14))。また、この試験に使用した14C-EM-800の放射化学的純度は最小限でも96.25%であった。
【0213】
【表13】
【0214】
【表14】
【0215】
(実施例10)
臨床試験ERC-205
ETUDE DE PHASE II-III RANDOMISEE AVEC CONTROLE PLACEBO POUR EVALUER LES EFFETS DE LA DHEA SUR LES SYMPTOMES VASOMOTEURS (BOUFFEES DE CHALEUR)-閉経後女性の血管運動症状(ホットフラッシュ)に対するDHEAの効果を評価するための第II相-第III相無作為化プラセボ対照試験
試験計画要約
これは、プラセボ投与と比較して、血管運動症状(ホットフラッシュ)の低減に対するDHEAの効果を評価するための無作為化プラセボ対照試験であった。1週間に50回以上の中等度又は重度のホットフラッシュ(2週間日記によって測定)の自覚がある閉経後女性を、プラセボ又は50mgのDHEAのいずれかの連日投与に無作為に割り付けた。50人の評価可能患者(患者数25/群)を4ヶ月間治療した。ホットフラッシュの毎日の評価は、各被験者による自己記入式日記に記録されたものである。
【0216】
【化4】
【0217】
2週間スクリーニングホットフラッシュ日記によって確認された、50回/週以上の中等度又は重度のホットフラッシュを呈した年齢40〜70才の閉経後女性を、インフォームドコンセントへの署名後に登録した。プロトコールは、Institutional Review Board (IRB) of Le Centre Hospitalier de I’Universite Laval及びHealth Canadaの承認を得た。
女性は、a又はb又はcに適合しなければならない。
a.少なくとも1年間月経がない、又は
b.6ヶ月以上12ヶ月未満月経がない女性若しくは子宮摘出時に閉経前であった子宮摘出女性においては、FSH濃度が40mIU/mL以上(無作為化1日目前の60日以内)、又は
c.両側卵巣切除の前歴。
無作為化の12ヶ月以内における正常な子宮頚部細胞診(炎症性変化を含む)及び正常な子宮頚部細胞診(PAP smear)が入手可能でなければならない。
経膣超音波検査における子宮内膜厚が4mm以下でなければならない。
【0218】
主要評価項目は、4ヶ月の治療後の16週における、中等度から重度のホットフラッシュの週間頻度のベースラインからの変化とした。全ホットフラッシュの週間頻度のベースラインからの変化及び週別重み付重症度スコアのベースラインからの変化も、主要評価項目の対象に含めた。
【0219】
副次的評価項目は、DHEAの安全性評価及び生活の質とした。
【0220】
応答評価項目は、ホットフラッシュの数及び型を以下のように特定する、毎日記入された患者の紙日記である。
0 なし。
1 軽度=発汗を伴わない熱感。
2 中等度=発汗を伴うが活動停止の必要がない熱感。
3 重度=活動停止を必要とする、発汗を伴う熱感。これは、寝汗を含む。
【0221】
ホットフラッシュ日記は、無作為化の2週間前からスクリーニング日記として開始された。患者には、ホットフラッシュの数及び重症度を記録してこの日記を毎日記入する義務が課された。患者が適格であるためには、2週間にわたって平均50回/週以上の中等度又は重度のホットフラッシュの記録(即ち、2週間のスクリーニング日記への少なくとも100回のホットフラッシュの記録)が必要であった。
【0222】
無作為化の後、患者は、治験薬治療開始後に8冊の2週間ホットフラッシュ日記を記入した。この日記は、毎日記入する必要があった。第1の日記は、最初の2週間にわたって記入し、2週間目の来診時に返却された。第2の2週間日記は、最初の4週間の治療期間のうち次の2週間にわたって記入し、4週間目の来診時に返却された。4、8、12及び16週間目の来診時には、ホットフラッシュに関する2週間日記が2冊回収された。
【0223】
日記と無作為化治験薬投与とは、同一日に開始された(即ち、1日目。患者は、治験薬投与を受け始める予定と同一日に起床すると、ホットフラッシュを記録し始めた)。
【0224】
結果
図24及びTable 15(表15)に示すように、中等度から重度のホットフラッシュの回数は、スクリーニング時の70.7±4.5回/週から、4週で50.1±5.7回/週(有意差なし(対プラセボ群))まで、8週で40.2±6.1回/週まで、12週で34.7±5.8回/週(p<0.05(対プラセボ群))まで及び16週で32.2±5.8回/週(p<0.05(対プラセボ群))まで減少した。DHEAの場合の54.5%減少に対して、プラセボによる減少は32.9%であった。
【0225】
同様な効果が、全ホットフラッシュの頻度についても観察され(図25、Table 16(表16))、ホットフラッシュ75.5±4.4回/週のプレスクリーニング値は、4週で55.3±5.8回/週(有意差なし(対プラセボ群))まで、8週で44.7±6.3回/週まで、12週で39.5±5.9回/週(p<0.05(対プラセボ群))まで及び16週で36.0±5.7回/週(p<0.05(対プラセボ群))まで減少した。DHEAの場合の52.4%減少に対して、プラセボによる減少は34.9%であった。
【0226】
軽度のホットフラッシュをスコア1、中等度のホットフラッシュをスコア2及び重度のホットフラッシュをスコア3とする場合には、値は、16週で、DHEA群では187.1±13.9から87.2±15.8へと変化し、これに対してプラセボ群では196.3±13.6から130±14.1へと変化した(p<0.05)ことがわかる。DHEA群の53.4%の減少に対して、プラセボは18.0%の減少を引き起こし、したがってDHEAの効果が3.0倍であることが示された。
【0227】
Table 18(表18)に示すように、DHEAの効果は、中等度から重度のホットフラッシュに対してより大きく、効果は重み付重症度スコアでよりよく説明され、この場合、値はDHEAによって99.1±15.6減少し、プラセボの場合には68.6±15.6減少した。この効果は、Table 19(表19)においてよりよく示され、スクリーニング時に71回/週以上のホットフラッシュを呈する女性群のホットフラッシュ平均数は、プラセボ群で94.7±7.9から57.8±8.3へと変化し、DHEA投与女性群では88.5±7.1から31.6±11.6へと変化した。このようなデータは、血管運動症状が最も大きかった女性群において、DHEAのよる阻害が65%大きい(DHEA群の64.3%対プラセボ群の39.0%)ことを示している。実際に、50〜70回/週の中等度から重度のホットフラッシュを呈する女性において、数は、プレスクリーング時の56.7±1.3回/週から6週で32.7±6.2回/週まで変化し(43.3%の減少)、これに対してプラセボ群の場合の減少は24.7%であり、したがってDHEAによる阻害がプレセボよりも43%大きいことを示した。
【0228】
軽度のホットフラッシュ数は比較的少ない(Table 18(表18)とTable 19(表19)との比較)ので、同様な結論がTable 20(表20)に見られる。70超の軽度+中等度+重度ホットフラッシュを呈する女性におけるホットフラッシュ数は、プレスクリーン時の91.0±7.0回/週からDHEA投与女性群の16週の36.3±11.5回/週まで減少している(60%の減少)。プレセボ投与女性群においては、全ホットフラッシュのは、スクリーン時の100.4±7.9から16週で61.3±8.9まで変化し、減少は39.9%である。このようなデータは、全重症度のホットフラッシュの最大数を示した女性群において、DHEAの効力が50%大きいことを示している。
【0229】
計算に重み付重症度スコアを用いる場合にも、類似した結論に達する(Table 21(表21))。70回超/週のホットフラッシュを呈する女性について検討する場合、スコアは、DHEA投与女性群においてはスクリーニング時の241.6±21.1から16週で95.2±34.3まで変化し(61.6%の減少)、プラセボ群では242.0±21.6から16週で141.3±20.1まで減少している(41.6%の減少)。スクリーニング時に50〜70回/週のホットフラッシュを呈する女性においては、スコアは、DHEA投与女性群ではスクリーニング時の144.3±6.7から16週で81.6±13.6からまで変化し(43.5%の減少)、これに対してプラセボ群ではスクリーニング時の154.2±3.7から16週で118.8±20.2まで変化している(33.0%の減少)。
【0230】
結論
本データから、中等度から重度のホットフラッシュ又は全ホットフラッシュの総数の有意な減少、及びホットフラッシュ週別重み付重症度スコアの有意な減少によって評価されるように、血管運動症状軽減のための50mgのDHEA治療の効力が明らかになった。
【0231】
【表15】
【0232】
【表16】
【0233】
【表17】
【0234】
【表18】
【0235】
【表19】
【0236】
【表20】
【0237】
【表21】
【0238】
(実施例11)
臨床試験ERC-213
膣萎縮を呈する閉経後女性における、膣坐剤投与後のDHEAのバイオアベイラビリティ
試験計画要約
この試験の主目的は、DHEAの連日膣内適用後における、膣上皮細胞の成熟度の測定であった。40人の閉経後女性を、以下のDHEA濃度:0.0%、0.5%(DHEA 6.5mg/卵形剤)、1.0%(DHEA13mg/卵形剤)又は1.8%(DHEA23.4mg/卵形剤)の卵形剤1個を7日間連日投与する群に無作為化した。DHEAの全身バイオアベイラビリティ及びその代謝産物も測定した。
【0239】
結果
わずか1週間のDHEA坐剤の連日投与後に、成熟度指数は、0.5%、1.0%及び1.8%DHEA群においてそれぞれ107%(p<0.01)、75%(p<0.05)及び150%(p<0.01)増加した(図26)。1日目と7日目との間で、プラセボ群では変化が観察されなかった。他方、膣pHは、0.5%、1.0%及び1.8%DHEA群においてそれぞれ6.29±0.21から5.75±0.27(p<0.05)まで、6.47±0.23から5.76±0.22(p<0.01)まで及び6.53±0.25から5.86±0.28(p<0.05)まで低下した(図27)。プラセボ群では、膣pHの変化は観察されなかった。
【0240】
結論
本データは、DHEAの膣内投与が、血清エストロゲンに有意な変化を与えることなく、膣萎縮に対する有益作用の迅速な達成を可能にし、したがって、現在使用されている膣内又は全身性エストロゲン製剤と関連する乳癌リスクの増大を回避すること及びこの組織内において最近認識されたDHEA作用のアンドロゲン成分の局所的利益を膣の全層に付加することを示している。
【0241】
医薬組成物例
限定としてではなく一例として以下に記載するのは、好ましい活性SERMアコルビフェン(EM-652.HCl、EM-1538)及び好ましい活性な性ステロイド前駆体デヒドロエピアンドロステロン(DHEA、Prasterone)を使用する数種の医薬組成物である。アコルビフェン又はデヒドロエピアンドロステロンの代わりに(それに加えて)、本発明の他の化合物及びそれらの組み合わせを使用できる。活性成分の濃度は、本明細書中に記載するように広範囲にわたって変化し得る。挙げることができる他の成分の量及び型は、当業界でよく知られているものである。
【0242】
(実施例A)
【0243】
【表22】
【0244】
(実施例B)
【0245】
【表23】
【0246】
(実施例C)
【0247】
【表24】
【0248】
(実施例D)
【0249】
【表25】
【0250】
DHEA坐剤は、Witepsol H-15基剤(Medisca、Montreal、Canada)を用いて調製した。Hard Fat、Fattibase、Wecobee、カカオバター、カカオ脂又はWitepsol基剤の他の組み合わせなどの任意の他の親油性基剤も使用できるであろう。好ましいSERMは、EM-800及びアコルビフェンである。
【0251】
キット例
限定としてではなく一例として以下に記載するのは、好ましい活性SERMアコルビフェン、好ましい抗エストロゲン剤Faslodex及び好ましい活性な性ステロイド前駆体DHEAを使用する数種のキットである。活性成分の濃度は、本明細書中に記載するように広範囲にわたって変化し得る。挙げることができる他の成分の量及び型は、当業界でよく知られているものである。
【0252】
(実施例D)
キット
SERM及び性ステロイドを、経口投与する。
【0253】
【表26】
【0254】
前記製剤中のアコルビフェンの代わりに他のSERMを使用することもでき、DHEAの代わりに他の性ステロイド前駆体を使用することもできる。2種以上のSERM又は2種以上の性ステロイド前駆体を使用することも可能であり、その場合には、総合重量百分率は好ましくは、前記実施例中に示した単一性ステロイド前駆体又は単一SERMの百分率の総合重量百分率である。
【0255】
(実施例E)
キット
SERMを経口投与し、性ステロイド前駆体を膣内投与する。
【0256】
【表27】
【0257】
DHEA坐剤は、Witepsol H-15基剤(Medisca、Montreal、Canada)を用いて調製した。Hard Fat、Fattibase、Wecobee、カカオバター、カカオ脂又はWitepsol基剤の他の組み合わせなどの任意の他の親油性基剤も使用できるであろう。
【0258】
(実施例F)
キット
SERM及び性ステロイド前駆体を膣内投与する。
【0259】
【表28】
【0260】
アコルビフェン坐剤は、Hard Fat(Witepsol)を用いて調製した。Fattibase、Wecobee、カカオバター、カカオ脂又はHard Fatの他の組み合わせなどの任意の他の基剤も使用できるであろう。
【0261】
(実施例G)
SERMを経口投与し、性ステロイド前駆体を経皮投与する。
【0262】
【表29】
【0263】
(実施例H)
キット
抗エストロゲン剤を筋肉内投与し、性ステロイド前駆体を経口投与する。
【0264】
【表30】
【0265】
前記製剤中のアコルビフェンの代わりに他のSERM(トレミフェン、オスペミフェン、ラロキシフェン、アルゾキシフェン、ラソフォキシフェン、TSE-424、ERA-923、EM-800、SERM3339、GW-5638)を使用することもでき、DHEAの代わりに他の性ステロイド阻害剤を使用することもできる。2種以上のSERM又は2種以上の前駆体を使用することも可能であり、その場合には、総合重量百分率は好ましくは、前記実施例中に示した単一前駆体又は単一SERMの百分率の総合重量百分率である。
【0266】
本発明を、好ましい実施形態及び実施例に関して記載したが、本発明はそれらによって限定されるものではない。当業者ならば、添付した「特許請求の範囲」によってのみ限定される本発明のより広範な適用可能性及び範囲を容易に認識できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される症状の発生を低減又は排除する方法であって、前記排除又は低減を必要とする患者に、(i)治療有効量の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグと、(ii)治療有効量の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はいずれかのプロドラッグとを組み合わせて投与する段階を含む方法。
【請求項2】
前記性ステロイド前駆体が、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール、4-アンドロステン-3,17-ジオン及び前記前駆体のいずれかのプロドラッグからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、
b)少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグと、
c)少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はいずれかのプロドラッグと
を含む、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される症状を低減又は排除するための医薬組成物であって、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される少なくとも1つの症状の低減又は排除のための前記組成物の使用を指示するパッケージングの形態で提供される医薬組成物。
【請求項4】
性ステロイド前駆体及び選択的受容体モジュレーター又は抗エストロゲン剤の両者が、丸剤、錠剤、クリーム剤、ゲル剤、膣内坐剤及び膣内卵形剤からなる群から選択される医薬送達形態中に一緒に配合されている、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
(i)少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグを収容している第1の容器と、(ii)少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又は前記のいずれかのプロドラッグを収容している第2の容器と、(iii)ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される少なくとも1つの症状の低減又は排除のためのキットの使用説明書とを含む、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される症状の低減又は排除のためのキット。
【請求項6】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
a)両芳香環がヒドロキシル基又はインビボでヒドロキシル基に転化される基によって置換されているか又は置換されていない、1〜2個の介在炭素原子によって離間されている2つの芳香環と、
b)芳香環及び第3級アミン官能基又はその塩を有する側鎖と
を特徴とする分子式を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記側鎖が、
【化1】
からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、トリフェニルエチレン誘導体、インドール誘導体、ベンゾピラン誘導体、タモキシフェン、トレミフェン、CC 8490、SERM 3471、HMR 3339、HMR 3656、ラロキシフェン、LY 335124、LY 326315、アルゾキシフェン(LY 353381)、SH 646、ピペンドキシフェン(ERA 923)、バゼドキシフェン(TSE 424、WAY 140424)、Oporia(ラソフォキシフェン)及びセントクロマン誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化2】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択され、
b)R3及びR4は、(a)独立して、C1〜C4アルキル、又は(b)それらが結合している窒素原子と組み合わさって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ及びモルホリノからなる群から選択される部分であり、
c)Aは、-CO-、-CHOH及び-CH2-からなる群から選択され、
d)Bは、フェニレン、ピリジリデン及び-シクロC4H2N2-からなる群から選択される]
のベンゾチオフェン誘導体化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、ラロキシフェン、アルゾキシフェン(LY 353381)、LY 353381及びLY 335563からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化3】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4、-OCH2CH2OH又は-CH=CH-COOH(式中、R3及びR4は独立してC1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ及びモルホリノからなる群から選択される環構造である)であり、
b)E及びKは独立して、水素若しくはヒドロキシル、リン酸エステル又は低級アルキルであり、Jは水素又はハロゲンである]
のトリフェニルエチレン又はジフェニルヒドロナフタレン誘導体化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、タモキシフェン、OH-タモキシフェン、ドロロキシフェン、トレミフェン、イドキシフェン、ラソフォキシフェン、イプロキシフェン、FC 1271及びGW5638である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化4】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R7)R8、-CH=CH-CON(R7)R8、-CC-(CH2)n-N(R7)R8(R7及びR8は独立してC1〜C6アルキルからなる群から選択されるか、又はR7、R8及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)からなる群から選択され、
b)Xは、水素及びC1〜C6アルキルからなる群から選択され、
c)R1、R2、R3、R4、R5及びR6は独立して、水素、ヒドロキシル、C1〜C6アルキル及びインビボでヒドロキシル基に転化される部分からなる群から選択される]
のインドール誘導体化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、バゼドキシフェン(TSE 424;WAY-TSE 424;WAY 140424;1-[[4-[2-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)エトキシ]フェニル]メチル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1H-インドール-5-オール)及びピペンドキシフェン(ERA 923;2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1-[[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]メチル]-1H-インドール-5-オール)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化5】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択され、
b)R5及びR6は独立して、水素又はC1〜C6アルキルであり、
c)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4(R3及びR4は独立して、C1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)である]
のセントクロマン誘導体化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記セントクロマン誘導体が、(3,4-トランス-2,2-ジメチル-3-フェニル-4-[4-(2-(2-(ピロリジン-1-イル)エトキシ)フェニル]-7-メトキシクロマン)である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化6】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル又はインビボでヒドロキシルに転化される部分であり、
b)Zは、存在しないか、又は-CH2-、-O-、-S-及び-NR3-(R3は水素又は低級アルキルである)からなる群から選択され、
c)R100は、4〜10個の介在原子によってB環からLを離間させている二価部分であり、
d)Lは、-SO-、-CON-、-N<及び-SON<からなる群から選択される二価又は三価部分であり、
e)G1は、水素、C1〜C5炭化水素、G2及びLと組み合わさって5〜7員の複素環となる二価部分、並びに前述したもののハロ又は不飽和誘導体からなる群から選択され、
f)G2は、存在しないか、又は水素、C1〜C5炭化水素、G1及びLと組み合わさって5〜7員の複素環となる二価部分、並びに前述したもののハロ若しくは不飽和誘導体からなる群から選択され、
g)G3は、水素、メチル及びエチルからなる群から選択される]
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記一般構造:
【化7】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4(R3及びR4は独立してC1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)であり、
b)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択される]
のベンゾピラン化合物又はその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記ベンゾピラン化合物が、その立体異性体の大部分が炭素2上でS絶対配置を取るために光学活性であり、分子構造:
【化8】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化可能な部分からなる群から選択され、
b)R3は、飽和、不飽和又は置換ピロリジニル、飽和、不飽和又は置換ピペリジノ、飽和、不飽和又は置換ピペリジニル、飽和、不飽和又は置換モルホリノ、窒素含有環式部分、窒素含有多環式部分、及びNRaRb (Ra及びRbは独立して、水素、直鎖又は分岐鎖C1〜C6アルキル、直鎖又は分岐鎖C2〜C6アルケニル及び直鎖又は分岐鎖C2〜C6アルキニルである)からなる群から選択される化学種である]
を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記化合物又は塩が(2R)-エナンチオマーを実質的に含まない、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
【化9】
であり、その立体異性体の大部分が2S配置であるために光学活性である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、酢酸、アジピン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、フマル酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、塩化水素酸、ヒドロクロロチアジド酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、メチル硫酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、硝酸、パルミチン酸、ピバル酸、リン酸、プロピオン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、テレフタル酸、p-トルエンスルホン酸及び吉草酸からなる群から選択される酸のベンゾピラン塩である、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
【化10】
であり、そのエナンチオマーの大部分が2S配置であるために光学活性であり、前記性ステロイド前駆体がデヒドロエピアンドロステロンである、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、乳房、子宮又は子宮内膜組織中でエストロゲン活性を有さない、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
処置が更に、患者の乳癌、子宮癌又は子宮内膜癌の罹患リスクを低減する、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
処置が更に、骨粗鬆症、高コレステロール血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、インスリン抵抗性、2型糖尿病、筋肉量減少、脂肪症、アルツハイマー病、認知機能の喪失、記憶喪失又は膣乾燥の発現を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記抗エストロゲン剤が、Faslodex(ICI 182780、フルベストラント)、7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-ペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオール)である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターを膣内投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターを膣内投与する、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターを経口投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターを経皮投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターがオスペミフェンである、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
a)両芳香環がヒドロキシル基又はインビボでヒドロキシル基に転化される基によって置換されているか又は置換されていない、1〜2個の介在炭素原子によって離間されている2つの芳香環と、
b)芳香環及び第3級アミン官能基又はその塩を有する側鎖と
を特徴とする分子式を有する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項34】
前記側鎖が、
【化11】
からなる群から選択される、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項35】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、トリフェニルエチレン誘導体、インドール誘導体、ベンゾピラン誘導体、タモキシフェン、トレミフェン、CC 8490、SERM 3471、HMR 3339、HMR 3656、ラロキシフェン、LY 335124、LY 326315、アルゾキシフェン(LY 353381)、SH 646、ピペンドキシフェン(ERA 923)、バゼドキシフェン(TSE 424、WAY 140424)、Oporia(ラソフォキシフェン)及びセントクロマン誘導体からなる群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項36】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化12】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択され、
b)R3及びR4は、(a)独立して、C1〜C4アルキル、又は(b)それらが結合している窒素原子と組み合わさって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ及びモルホリノからなる群から選択される部分であり、
c)Aは、-CO-、-CHOH及び-CH2-からなる群から選択され、
d)Bは、フェニレン、ピリジリデン及び-シクロC4H2N2-からなる群から選択される]
のベンゾチオフェン誘導体化合物である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項37】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、ラロキシフェン、アルゾキシフェン(LY 353381)、LY 353381及びLY 335563からなる群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項38】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化13】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4、-OCH2CH2OH又は-CH=CH-COOH(式中、R3及びR4は独立してC1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ及びモルホリノからなる群から選択される環構造である)であり、
b)E及びKは独立して、水素若しくはヒドロキシル、リン酸エステル又は低級アルキルであり、Jは水素又はハロゲンである]
のトリフェニルエチレン又はジフェニルヒドロナフタレン誘導体化合物である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項39】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、タモキシフェン、OH-タモキシフェン、ドロロキシフェン、トレミフェン、イドキシフェン、ラソフォキシフェン、イプロキシフェン、FC 1271及びGW5638である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項40】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化14】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R7)R8、-CH=CH-CON(R7)R8、-CC-(CH2)n-N(R7)R8(R7及びR8は独立してC1〜C6アルキルからなる群から選択されるか、又はR7、R8及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)からなる群から選択され、
b)Xは、水素及びC1〜C6アルキルからなる群から選択され、
c)R1、R2、R3、R4、R5及びR6は独立して、水素、ヒドロキシル、C1〜C6アルキル及びインビボでヒドロキシル基に転化される部分からなる群から選択される]
のインドール誘導体化合物である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項41】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、バゼドキシフェン(TSE 424;WAY-TSE 424;WAY 140424;1-[[4-[2-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)エトキシ]フェニル]メチル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1H-インドール-5-オール)及びピペンドキシフェン(ERA 923;2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1-[[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]メチル]-1H-インドール-5-オール)からなる群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項42】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化15】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択され、
b)R5及びR6は独立して、水素又はC1〜C6アルキルであり、
c)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4(R3及びR4は独立して、C1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)である]
のセントクロマン誘導体化合物である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項43】
前記セントクロマン誘導体が、(3,4-トランス-2,2-ジメチル-3-フェニル-4-[4-(2-(2-(ピロリジン-1-イル)エトキシ)フェニル]-7-メトキシクロマン)である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項44】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化16】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル又はインビボでヒドロキシルに転化される部分であり、
b)Zは、存在しないか、又は-CH2-、-O-、-S-及び-NR3-(R3は水素又は低級アルキルである)からなる群から選択され、
c)R100は、4〜10個の介在原子によってB環からLを離間させている二価部分であり、
d)Lは、-SO-、-CON-、-N<及び-SON<からなる群から選択される二価又は三価部分であり、
e)G1は、水素、C1〜C5炭化水素、G2及びLと組み合わさって5〜7員の複素環となる二価部分、並びに前述したもののハロ又は不飽和誘導体からなる群から選択され、
f)G2は、存在しないか、又は水素、C1〜C5炭化水素、G1及びLと組み合わさって5〜7員の複素環となる二価部分、並びに前述したもののハロ若しくは不飽和誘導体からなる群から選択され、
g)G3は、水素、メチル及びエチルからなる群から選択される]
を有する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項45】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記一般構造:
【化17】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4(R3及びR4は独立してC1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)であり、
b)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択される]
のベンゾピラン化合物又はその薬学的に許容される塩である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項46】
前記ベンゾピラン化合物が、その立体異性体の大部分が炭素2上でS絶対配置を取るために光学活性であり、分子構造:
【化18】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化可能な部分からなる群から選択され、
b)R3は、飽和、不飽和又は置換ピロリジニル、飽和、不飽和又は置換ピペリジノ、飽和、不飽和又は置換ピペリジニル、飽和、不飽和又は置換モルホリノ、窒素含有環式部分、窒素含有多環式部分、及びNRaRb (Ra及びRbは独立して、水素、直鎖又は分岐鎖C1〜C6アルキル、直鎖又は分岐鎖C2〜C6アルケニル及び直鎖又は分岐鎖C2〜C6アルキニルである)からなる群から選択される化学種である]
を有する、請求項45に記載の医薬組成物。
【請求項47】
前記化合物又は塩が(2R)-エナンチオマーを実質的に含まない、請求項46に記載の医薬組成物。
【請求項48】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
【化19】
であり、その立体異性体の大部分が2S配置であるために光学活性である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項49】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、酢酸、アジピン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、フマル酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、塩化水素酸、ヒドロクロロチアジド酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、メチル硫酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、硝酸、パルミチン酸、ピバル酸、リン酸、プロピオン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、テレフタル酸、p-トルエンスルホン酸及び吉草酸からなる群から選択される酸のベンゾピラン塩である、請求項45に記載の医薬組成物。
【請求項50】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
【化20】
であり、そのエナンチオマーの大部分が2S配置であるために光学活性であり、前記性ステロイド前駆体がデヒドロエピアンドロステロンである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項51】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、乳房、子宮又は子宮内膜組織中でエストロゲン活性を有さない、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項52】
処置が更に、患者の乳癌、子宮癌又は子宮内膜癌の罹患リスクを低減する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項53】
処置が更に、骨粗鬆症、高コレステロール血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、インスリン抵抗性、2型糖尿病、筋肉量減少、脂肪症、アルツハイマー病、認知機能の喪失、記憶喪失又は膣乾燥の発現を阻害する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項54】
前記抗エストロゲン剤が、Faslodex(ICI 182780、フルベストラント)、7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-ペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオール)である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項55】
前記組成物が膣内投与のための剤形を含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項56】
前記組成物が膣内投与のための剤形を含む、請求項48に記載の医薬組成物。
【請求項57】
前記組成物が経口投与のための剤形を含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項58】
前記組成物が経皮投与のための剤形を含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項59】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターがオスペミフェンである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項60】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
a)両芳香環がヒドロキシル基又はインビボでヒドロキシル基に転化される基によって置換されているか又は置換されていない、1〜2個の介在炭素原子によって離間されている2つの芳香環と、
b)芳香環及び第3級アミン官能基又はその塩を有する側鎖と
を特徴とする分子式を有する、請求項5に記載のキット。
【請求項61】
前記側鎖が、
【化21】
からなる群から選択される、請求項60に記載のキット。
【請求項62】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、トリフェニルエチレン誘導体、インドール誘導体、ベンゾピラン誘導体、タモキシフェン、トレミフェン、CC 8490、SERM 3471、HMR 3339、HMR 3656、ラロキシフェン、LY 335124、LY 326315、アルゾキシフェン(LY 353381)、SH 646、ピペンドキシフェン(ERA 923)、バゼドキシフェン(TSE 424、WAY 140424)、Oporia(ラソフォキシフェン)及びセントクロマン誘導体からなる群から選択される、請求項5に記載のキット。
【請求項63】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化22】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択され、
b)R3及びR4は、(a)独立して、C1〜C4アルキル、又は(b)それらが結合している窒素原子と組み合わさって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ及びモルホリノからなる群から選択される部分であり、
c)Aは、-CO-、-CHOH及び-CH2-からなる群から選択され、
d)Bは、フェニレン、ピリジリデン及び-シクロC4H2N2-からなる群から選択される]
のベンゾチオフェン誘導体化合物である、請求項5に記載のキット。
【請求項64】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、ラロキシフェン、アルゾキシフェン(LY 353381)、LY 353381及びLY 335563からなる群から選択される、請求項5に記載のキット。
【請求項65】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化23】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4、-OCH2CH2OH又は-CH=CH-COOH(式中、R3及びR4は独立してC1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ及びモルホリノからなる群から選択される環構造である)であり、
b)E及びKは独立して、水素若しくはヒドロキシル、リン酸エステル又は低級アルキルであり、Jは水素又はハロゲンである]
のトリフェニルエチレン又はジフェニルヒドロナフタレン誘導体化合物である、請求項5に記載のキット。
【請求項66】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、タモキシフェン、OH-タモキシフェン、ドロロキシフェン、トレミフェン、イドキシフェン、ラソフォキシフェン、イプロキシフェン、FC 1271及びGW5638である、請求項5に記載のキット。
【請求項67】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化24】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R7)R8、-CH=CH-CON(R7)R8、-CC-(CH2)n-N(R7)R8(R7及びR8は独立してC1〜C6アルキルからなる群から選択されるか、又はR7、R8及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)からなる群から選択され、
b)Xは、水素及びC1〜C6アルキルからなる群から選択され、
c)R1、R2、R3、R4、R5及びR6は独立して、水素、ヒドロキシル、C1〜C6アルキル及びインビボでヒドロキシル基に転化される部分からなる群から選択される]
のインドール誘導体化合物である、請求項5に記載のキット。
【請求項68】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、バゼドキシフェン(TSE 424;WAY-TSE 424;WAY 140424;1-[[4-[2-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)エトキシ]フェニル]メチル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1H-インドール-5-オール)及びピペンドキシフェン(ERA 923;2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1-[[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]メチル]-1H-インドール-5-オール)からなる群から選択される、請求項5に記載のキット。
【請求項69】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化25】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択され、
b)R5及びR6は独立して、水素又はC1〜C6アルキルであり、
c)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4(R3及びR4は独立して、C1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)である]
のセントクロマン誘導体化合物である、請求項5に記載のキット。
【請求項70】
前記セントクロマン誘導体が、(3,4-トランス-2,2-ジメチル-3-フェニル-4-[4-(2-(2-(ピロリジン-1-イル)エトキシ)フェニル]-7-メトキシクロマン)である、請求項5に記載のキット。
【請求項71】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化26】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル又はインビボでヒドロキシルに転化される部分であり、
b)Zは、存在しないか、又は-CH2-、-O-、-S-及び-NR3-(R3は水素又は低級アルキルである)からなる群から選択され、
c)R100は、4〜10個の介在原子によってB環からLを離間させている二価部分であり、
d)Lは、-SO-、-CON-、-N<及び-SON<からなる群から選択される二価又は三価部分であり、
e)G1は、水素、C1〜C5炭化水素、G2及びLと組み合わさって5〜7員の複素環となる二価部分、並びに前述したもののハロ又は不飽和誘導体からなる群から選択され、
f)G2は、存在しないか、又は水素、C1〜C5炭化水素、G1及びLと組み合わさって5〜7員の複素環となる二価部分、並びに前述したもののハロ若しくは不飽和誘導体からなる群から選択され、
g)G3は、水素、メチル及びエチルからなる群から選択される]
を有する、請求項5に記載のキット。
【請求項72】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記一般構造:
【化27】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4(R3及びR4は独立してC1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)であり、
b)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択される]
のベンゾピラン化合物又はその薬学的に許容される塩である、請求項5に記載のキット。
【請求項73】
前記ベンゾピラン化合物が、その立体異性体の大部分が炭素2上でS絶対配置を取るために光学活性であり、分子構造:
【化28】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化され得る部分からなる群から選択され、
b)R3は、飽和、不飽和又は置換ピロリジニル、飽和、不飽和又は置換ピペリジノ、飽和、不飽和又は置換ピペリジニル、飽和、不飽和又は置換モルホリノ、窒素含有環式部分、窒素含有多環式部分、及びNRaRb (Ra及びRbは独立して、水素、直鎖又は分岐鎖C1〜C6アルキル、直鎖又は分岐鎖C2〜C6アルケニル及び直鎖又は分岐鎖C2〜C6アルキニルである)からなる群から選択される化学種である]
を有する、請求項72に記載のキット。
【請求項74】
前記化合物又は塩が(2R)-エナンチオマーを実質的に含まない、請求項73に記載のキット。
【請求項75】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
【化29】
であり、その立体異性体の大部分が2S配置であるために光学活性である、請求項5に記載のキット。
【請求項76】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、酢酸、アジピン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、フマル酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、塩化水素酸、ヒドロクロロチアジド酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、メチル硫酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、硝酸、パルミチン酸、ピバル酸、リン酸、プロピオン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、テレフタル酸、p-トルエンスルホン酸及び吉草酸からなる群から選択される酸のベンゾピラン塩である、請求項72に記載のキット。
【請求項77】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
【化30】
であり、そのエナンチオマーの大部分が2S配置であるために光学活性であり、前記性ステロイド前駆体がデヒドロエピアンドロステロンである、請求項5に記載のキット。
【請求項78】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、乳房、子宮又は子宮内膜組織中でエストロゲン活性を有さない、請求項5に記載のキット。
【請求項79】
処置が更に、患者の乳癌、子宮癌又は子宮内膜癌の罹患リスクを低減する、請求項5に記載のキット。
【請求項80】
処置が更に、骨粗鬆症、高コレステロール血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、インスリン抵抗性、2型糖尿病、筋肉量減少、脂肪症、アルツハイマー病、認知機能の喪失、記憶喪失又は膣乾燥の発現を阻害する、請求項5に記載のキット。
【請求項81】
前記抗エストロゲン剤が、Faslodex(ICI 182780、フルベストラント)、7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-ペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオール)である、請求項5に記載のキット。
【請求項82】
前記キットの少なくとも1つの成分が膣内投与のための剤形である、請求項5に記載のキット。
【請求項83】
前記キットの少なくとも1つの成分が膣内投与のための剤形である、請求項75に記載のキット。
【請求項84】
前記キットの少なくとも1つの成分が経口投与のための剤形である、請求項5に記載のキット。
【請求項85】
前記キットの少なくとも1つの成分が経皮投与のための剤形である、請求項5に記載のキット。
【請求項86】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターがオスペミフェンである、請求項5に記載のキット。
【請求項87】
前記性ステロイド前駆体が、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール及び4-アンドロステン-3,17-ジオンからなる群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項88】
前記性ステロイド前駆体が、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール及び4-アンドロステン-3,17-ジオンからなる群から選択される、請求項5に記載のキット。
【請求項89】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが膣内投与のための剤形である、請求項75に記載のキット。
【請求項1】
ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される症状の発生を低減又は排除する方法であって、前記排除又は低減を必要とする患者に、(i)治療有効量の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグと、(ii)治療有効量の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はいずれかのプロドラッグとを組み合わせて投与する段階を含む方法。
【請求項2】
前記性ステロイド前駆体が、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール、4-アンドロステン-3,17-ジオン及び前記前駆体のいずれかのプロドラッグからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、
b)少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグと、
c)少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又はいずれかのプロドラッグと
を含む、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される症状を低減又は排除するための医薬組成物であって、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される少なくとも1つの症状の低減又は排除のための前記組成物の使用を指示するパッケージングの形態で提供される医薬組成物。
【請求項4】
性ステロイド前駆体及び選択的受容体モジュレーター又は抗エストロゲン剤の両者が、丸剤、錠剤、クリーム剤、ゲル剤、膣内坐剤及び膣内卵形剤からなる群から選択される医薬送達形態中に一緒に配合されている、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
(i)少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグを収容している第1の容器と、(ii)少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーター若しくは抗エストロゲン剤又は前記のいずれかのプロドラッグを収容している第2の容器と、(iii)ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される少なくとも1つの症状の低減又は排除のためのキットの使用説明書とを含む、ホットフラッシュ、血管運動症状及び寝汗からなる群から選択される症状の低減又は排除のためのキット。
【請求項6】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
a)両芳香環がヒドロキシル基又はインビボでヒドロキシル基に転化される基によって置換されているか又は置換されていない、1〜2個の介在炭素原子によって離間されている2つの芳香環と、
b)芳香環及び第3級アミン官能基又はその塩を有する側鎖と
を特徴とする分子式を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記側鎖が、
【化1】
からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、トリフェニルエチレン誘導体、インドール誘導体、ベンゾピラン誘導体、タモキシフェン、トレミフェン、CC 8490、SERM 3471、HMR 3339、HMR 3656、ラロキシフェン、LY 335124、LY 326315、アルゾキシフェン(LY 353381)、SH 646、ピペンドキシフェン(ERA 923)、バゼドキシフェン(TSE 424、WAY 140424)、Oporia(ラソフォキシフェン)及びセントクロマン誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化2】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択され、
b)R3及びR4は、(a)独立して、C1〜C4アルキル、又は(b)それらが結合している窒素原子と組み合わさって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ及びモルホリノからなる群から選択される部分であり、
c)Aは、-CO-、-CHOH及び-CH2-からなる群から選択され、
d)Bは、フェニレン、ピリジリデン及び-シクロC4H2N2-からなる群から選択される]
のベンゾチオフェン誘導体化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、ラロキシフェン、アルゾキシフェン(LY 353381)、LY 353381及びLY 335563からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化3】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4、-OCH2CH2OH又は-CH=CH-COOH(式中、R3及びR4は独立してC1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ及びモルホリノからなる群から選択される環構造である)であり、
b)E及びKは独立して、水素若しくはヒドロキシル、リン酸エステル又は低級アルキルであり、Jは水素又はハロゲンである]
のトリフェニルエチレン又はジフェニルヒドロナフタレン誘導体化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、タモキシフェン、OH-タモキシフェン、ドロロキシフェン、トレミフェン、イドキシフェン、ラソフォキシフェン、イプロキシフェン、FC 1271及びGW5638である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化4】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R7)R8、-CH=CH-CON(R7)R8、-CC-(CH2)n-N(R7)R8(R7及びR8は独立してC1〜C6アルキルからなる群から選択されるか、又はR7、R8及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)からなる群から選択され、
b)Xは、水素及びC1〜C6アルキルからなる群から選択され、
c)R1、R2、R3、R4、R5及びR6は独立して、水素、ヒドロキシル、C1〜C6アルキル及びインビボでヒドロキシル基に転化される部分からなる群から選択される]
のインドール誘導体化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、バゼドキシフェン(TSE 424;WAY-TSE 424;WAY 140424;1-[[4-[2-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)エトキシ]フェニル]メチル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1H-インドール-5-オール)及びピペンドキシフェン(ERA 923;2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1-[[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]メチル]-1H-インドール-5-オール)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化5】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択され、
b)R5及びR6は独立して、水素又はC1〜C6アルキルであり、
c)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4(R3及びR4は独立して、C1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)である]
のセントクロマン誘導体化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記セントクロマン誘導体が、(3,4-トランス-2,2-ジメチル-3-フェニル-4-[4-(2-(2-(ピロリジン-1-イル)エトキシ)フェニル]-7-メトキシクロマン)である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化6】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル又はインビボでヒドロキシルに転化される部分であり、
b)Zは、存在しないか、又は-CH2-、-O-、-S-及び-NR3-(R3は水素又は低級アルキルである)からなる群から選択され、
c)R100は、4〜10個の介在原子によってB環からLを離間させている二価部分であり、
d)Lは、-SO-、-CON-、-N<及び-SON<からなる群から選択される二価又は三価部分であり、
e)G1は、水素、C1〜C5炭化水素、G2及びLと組み合わさって5〜7員の複素環となる二価部分、並びに前述したもののハロ又は不飽和誘導体からなる群から選択され、
f)G2は、存在しないか、又は水素、C1〜C5炭化水素、G1及びLと組み合わさって5〜7員の複素環となる二価部分、並びに前述したもののハロ若しくは不飽和誘導体からなる群から選択され、
g)G3は、水素、メチル及びエチルからなる群から選択される]
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記一般構造:
【化7】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4(R3及びR4は独立してC1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)であり、
b)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択される]
のベンゾピラン化合物又はその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記ベンゾピラン化合物が、その立体異性体の大部分が炭素2上でS絶対配置を取るために光学活性であり、分子構造:
【化8】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化可能な部分からなる群から選択され、
b)R3は、飽和、不飽和又は置換ピロリジニル、飽和、不飽和又は置換ピペリジノ、飽和、不飽和又は置換ピペリジニル、飽和、不飽和又は置換モルホリノ、窒素含有環式部分、窒素含有多環式部分、及びNRaRb (Ra及びRbは独立して、水素、直鎖又は分岐鎖C1〜C6アルキル、直鎖又は分岐鎖C2〜C6アルケニル及び直鎖又は分岐鎖C2〜C6アルキニルである)からなる群から選択される化学種である]
を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記化合物又は塩が(2R)-エナンチオマーを実質的に含まない、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
【化9】
であり、その立体異性体の大部分が2S配置であるために光学活性である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、酢酸、アジピン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、フマル酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、塩化水素酸、ヒドロクロロチアジド酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、メチル硫酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、硝酸、パルミチン酸、ピバル酸、リン酸、プロピオン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、テレフタル酸、p-トルエンスルホン酸及び吉草酸からなる群から選択される酸のベンゾピラン塩である、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
【化10】
であり、そのエナンチオマーの大部分が2S配置であるために光学活性であり、前記性ステロイド前駆体がデヒドロエピアンドロステロンである、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、乳房、子宮又は子宮内膜組織中でエストロゲン活性を有さない、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
処置が更に、患者の乳癌、子宮癌又は子宮内膜癌の罹患リスクを低減する、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
処置が更に、骨粗鬆症、高コレステロール血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、インスリン抵抗性、2型糖尿病、筋肉量減少、脂肪症、アルツハイマー病、認知機能の喪失、記憶喪失又は膣乾燥の発現を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記抗エストロゲン剤が、Faslodex(ICI 182780、フルベストラント)、7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-ペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオール)である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターを膣内投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターを膣内投与する、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターを経口投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターを経皮投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターがオスペミフェンである、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
a)両芳香環がヒドロキシル基又はインビボでヒドロキシル基に転化される基によって置換されているか又は置換されていない、1〜2個の介在炭素原子によって離間されている2つの芳香環と、
b)芳香環及び第3級アミン官能基又はその塩を有する側鎖と
を特徴とする分子式を有する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項34】
前記側鎖が、
【化11】
からなる群から選択される、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項35】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、トリフェニルエチレン誘導体、インドール誘導体、ベンゾピラン誘導体、タモキシフェン、トレミフェン、CC 8490、SERM 3471、HMR 3339、HMR 3656、ラロキシフェン、LY 335124、LY 326315、アルゾキシフェン(LY 353381)、SH 646、ピペンドキシフェン(ERA 923)、バゼドキシフェン(TSE 424、WAY 140424)、Oporia(ラソフォキシフェン)及びセントクロマン誘導体からなる群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項36】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化12】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択され、
b)R3及びR4は、(a)独立して、C1〜C4アルキル、又は(b)それらが結合している窒素原子と組み合わさって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ及びモルホリノからなる群から選択される部分であり、
c)Aは、-CO-、-CHOH及び-CH2-からなる群から選択され、
d)Bは、フェニレン、ピリジリデン及び-シクロC4H2N2-からなる群から選択される]
のベンゾチオフェン誘導体化合物である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項37】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、ラロキシフェン、アルゾキシフェン(LY 353381)、LY 353381及びLY 335563からなる群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項38】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化13】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4、-OCH2CH2OH又は-CH=CH-COOH(式中、R3及びR4は独立してC1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ及びモルホリノからなる群から選択される環構造である)であり、
b)E及びKは独立して、水素若しくはヒドロキシル、リン酸エステル又は低級アルキルであり、Jは水素又はハロゲンである]
のトリフェニルエチレン又はジフェニルヒドロナフタレン誘導体化合物である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項39】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、タモキシフェン、OH-タモキシフェン、ドロロキシフェン、トレミフェン、イドキシフェン、ラソフォキシフェン、イプロキシフェン、FC 1271及びGW5638である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項40】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化14】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R7)R8、-CH=CH-CON(R7)R8、-CC-(CH2)n-N(R7)R8(R7及びR8は独立してC1〜C6アルキルからなる群から選択されるか、又はR7、R8及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)からなる群から選択され、
b)Xは、水素及びC1〜C6アルキルからなる群から選択され、
c)R1、R2、R3、R4、R5及びR6は独立して、水素、ヒドロキシル、C1〜C6アルキル及びインビボでヒドロキシル基に転化される部分からなる群から選択される]
のインドール誘導体化合物である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項41】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、バゼドキシフェン(TSE 424;WAY-TSE 424;WAY 140424;1-[[4-[2-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)エトキシ]フェニル]メチル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1H-インドール-5-オール)及びピペンドキシフェン(ERA 923;2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1-[[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]メチル]-1H-インドール-5-オール)からなる群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項42】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化15】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択され、
b)R5及びR6は独立して、水素又はC1〜C6アルキルであり、
c)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4(R3及びR4は独立して、C1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)である]
のセントクロマン誘導体化合物である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項43】
前記セントクロマン誘導体が、(3,4-トランス-2,2-ジメチル-3-フェニル-4-[4-(2-(2-(ピロリジン-1-イル)エトキシ)フェニル]-7-メトキシクロマン)である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項44】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化16】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル又はインビボでヒドロキシルに転化される部分であり、
b)Zは、存在しないか、又は-CH2-、-O-、-S-及び-NR3-(R3は水素又は低級アルキルである)からなる群から選択され、
c)R100は、4〜10個の介在原子によってB環からLを離間させている二価部分であり、
d)Lは、-SO-、-CON-、-N<及び-SON<からなる群から選択される二価又は三価部分であり、
e)G1は、水素、C1〜C5炭化水素、G2及びLと組み合わさって5〜7員の複素環となる二価部分、並びに前述したもののハロ又は不飽和誘導体からなる群から選択され、
f)G2は、存在しないか、又は水素、C1〜C5炭化水素、G1及びLと組み合わさって5〜7員の複素環となる二価部分、並びに前述したもののハロ若しくは不飽和誘導体からなる群から選択され、
g)G3は、水素、メチル及びエチルからなる群から選択される]
を有する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項45】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記一般構造:
【化17】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4(R3及びR4は独立してC1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)であり、
b)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択される]
のベンゾピラン化合物又はその薬学的に許容される塩である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項46】
前記ベンゾピラン化合物が、その立体異性体の大部分が炭素2上でS絶対配置を取るために光学活性であり、分子構造:
【化18】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化可能な部分からなる群から選択され、
b)R3は、飽和、不飽和又は置換ピロリジニル、飽和、不飽和又は置換ピペリジノ、飽和、不飽和又は置換ピペリジニル、飽和、不飽和又は置換モルホリノ、窒素含有環式部分、窒素含有多環式部分、及びNRaRb (Ra及びRbは独立して、水素、直鎖又は分岐鎖C1〜C6アルキル、直鎖又は分岐鎖C2〜C6アルケニル及び直鎖又は分岐鎖C2〜C6アルキニルである)からなる群から選択される化学種である]
を有する、請求項45に記載の医薬組成物。
【請求項47】
前記化合物又は塩が(2R)-エナンチオマーを実質的に含まない、請求項46に記載の医薬組成物。
【請求項48】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
【化19】
であり、その立体異性体の大部分が2S配置であるために光学活性である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項49】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、酢酸、アジピン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、フマル酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、塩化水素酸、ヒドロクロロチアジド酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、メチル硫酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、硝酸、パルミチン酸、ピバル酸、リン酸、プロピオン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、テレフタル酸、p-トルエンスルホン酸及び吉草酸からなる群から選択される酸のベンゾピラン塩である、請求項45に記載の医薬組成物。
【請求項50】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
【化20】
であり、そのエナンチオマーの大部分が2S配置であるために光学活性であり、前記性ステロイド前駆体がデヒドロエピアンドロステロンである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項51】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、乳房、子宮又は子宮内膜組織中でエストロゲン活性を有さない、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項52】
処置が更に、患者の乳癌、子宮癌又は子宮内膜癌の罹患リスクを低減する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項53】
処置が更に、骨粗鬆症、高コレステロール血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、インスリン抵抗性、2型糖尿病、筋肉量減少、脂肪症、アルツハイマー病、認知機能の喪失、記憶喪失又は膣乾燥の発現を阻害する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項54】
前記抗エストロゲン剤が、Faslodex(ICI 182780、フルベストラント)、7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-ペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオール)である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項55】
前記組成物が膣内投与のための剤形を含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項56】
前記組成物が膣内投与のための剤形を含む、請求項48に記載の医薬組成物。
【請求項57】
前記組成物が経口投与のための剤形を含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項58】
前記組成物が経皮投与のための剤形を含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項59】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターがオスペミフェンである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項60】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
a)両芳香環がヒドロキシル基又はインビボでヒドロキシル基に転化される基によって置換されているか又は置換されていない、1〜2個の介在炭素原子によって離間されている2つの芳香環と、
b)芳香環及び第3級アミン官能基又はその塩を有する側鎖と
を特徴とする分子式を有する、請求項5に記載のキット。
【請求項61】
前記側鎖が、
【化21】
からなる群から選択される、請求項60に記載のキット。
【請求項62】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、トリフェニルエチレン誘導体、インドール誘導体、ベンゾピラン誘導体、タモキシフェン、トレミフェン、CC 8490、SERM 3471、HMR 3339、HMR 3656、ラロキシフェン、LY 335124、LY 326315、アルゾキシフェン(LY 353381)、SH 646、ピペンドキシフェン(ERA 923)、バゼドキシフェン(TSE 424、WAY 140424)、Oporia(ラソフォキシフェン)及びセントクロマン誘導体からなる群から選択される、請求項5に記載のキット。
【請求項63】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化22】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択され、
b)R3及びR4は、(a)独立して、C1〜C4アルキル、又は(b)それらが結合している窒素原子と組み合わさって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ及びモルホリノからなる群から選択される部分であり、
c)Aは、-CO-、-CHOH及び-CH2-からなる群から選択され、
d)Bは、フェニレン、ピリジリデン及び-シクロC4H2N2-からなる群から選択される]
のベンゾチオフェン誘導体化合物である、請求項5に記載のキット。
【請求項64】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、ラロキシフェン、アルゾキシフェン(LY 353381)、LY 353381及びLY 335563からなる群から選択される、請求項5に記載のキット。
【請求項65】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化23】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4、-OCH2CH2OH又は-CH=CH-COOH(式中、R3及びR4は独立してC1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ及びモルホリノからなる群から選択される環構造である)であり、
b)E及びKは独立して、水素若しくはヒドロキシル、リン酸エステル又は低級アルキルであり、Jは水素又はハロゲンである]
のトリフェニルエチレン又はジフェニルヒドロナフタレン誘導体化合物である、請求項5に記載のキット。
【請求項66】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、タモキシフェン、OH-タモキシフェン、ドロロキシフェン、トレミフェン、イドキシフェン、ラソフォキシフェン、イプロキシフェン、FC 1271及びGW5638である、請求項5に記載のキット。
【請求項67】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化24】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R7)R8、-CH=CH-CON(R7)R8、-CC-(CH2)n-N(R7)R8(R7及びR8は独立してC1〜C6アルキルからなる群から選択されるか、又はR7、R8及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)からなる群から選択され、
b)Xは、水素及びC1〜C6アルキルからなる群から選択され、
c)R1、R2、R3、R4、R5及びR6は独立して、水素、ヒドロキシル、C1〜C6アルキル及びインビボでヒドロキシル基に転化される部分からなる群から選択される]
のインドール誘導体化合物である、請求項5に記載のキット。
【請求項68】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、バゼドキシフェン(TSE 424;WAY-TSE 424;WAY 140424;1-[[4-[2-ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)エトキシ]フェニル]メチル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1H-インドール-5-オール)及びピペンドキシフェン(ERA 923;2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1-[[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]メチル]-1H-インドール-5-オール)からなる群から選択される、請求項5に記載のキット。
【請求項69】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化25】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択され、
b)R5及びR6は独立して、水素又はC1〜C6アルキルであり、
c)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4(R3及びR4は独立して、C1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)である]
のセントクロマン誘導体化合物である、請求項5に記載のキット。
【請求項70】
前記セントクロマン誘導体が、(3,4-トランス-2,2-ジメチル-3-フェニル-4-[4-(2-(2-(ピロリジン-1-イル)エトキシ)フェニル]-7-メトキシクロマン)である、請求項5に記載のキット。
【請求項71】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記式:
【化26】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル又はインビボでヒドロキシルに転化される部分であり、
b)Zは、存在しないか、又は-CH2-、-O-、-S-及び-NR3-(R3は水素又は低級アルキルである)からなる群から選択され、
c)R100は、4〜10個の介在原子によってB環からLを離間させている二価部分であり、
d)Lは、-SO-、-CON-、-N<及び-SON<からなる群から選択される二価又は三価部分であり、
e)G1は、水素、C1〜C5炭化水素、G2及びLと組み合わさって5〜7員の複素環となる二価部分、並びに前述したもののハロ又は不飽和誘導体からなる群から選択され、
f)G2は、存在しないか、又は水素、C1〜C5炭化水素、G1及びLと組み合わさって5〜7員の複素環となる二価部分、並びに前述したもののハロ若しくは不飽和誘導体からなる群から選択され、
g)G3は、水素、メチル及びエチルからなる群から選択される]
を有する、請求項5に記載のキット。
【請求項72】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、下記一般構造:
【化27】
[式中、
a)Dは、-OCH2CH2N(R3)R4(R3及びR4は独立してC1〜C4アルキルからなる群から選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジノ、ジメチル-1-ピロリジノ、メチル-1-ピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、モルホリノからなる群から選択される環構造である)であり、
b)R1及びR2は独立して、水素、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化される部分からなる群から選択される]
のベンゾピラン化合物又はその薬学的に許容される塩である、請求項5に記載のキット。
【請求項73】
前記ベンゾピラン化合物が、その立体異性体の大部分が炭素2上でS絶対配置を取るために光学活性であり、分子構造:
【化28】
[式中、
a)R1及びR2は独立して、ヒドロキシル及びインビボでヒドロキシルに転化され得る部分からなる群から選択され、
b)R3は、飽和、不飽和又は置換ピロリジニル、飽和、不飽和又は置換ピペリジノ、飽和、不飽和又は置換ピペリジニル、飽和、不飽和又は置換モルホリノ、窒素含有環式部分、窒素含有多環式部分、及びNRaRb (Ra及びRbは独立して、水素、直鎖又は分岐鎖C1〜C6アルキル、直鎖又は分岐鎖C2〜C6アルケニル及び直鎖又は分岐鎖C2〜C6アルキニルである)からなる群から選択される化学種である]
を有する、請求項72に記載のキット。
【請求項74】
前記化合物又は塩が(2R)-エナンチオマーを実質的に含まない、請求項73に記載のキット。
【請求項75】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
【化29】
であり、その立体異性体の大部分が2S配置であるために光学活性である、請求項5に記載のキット。
【請求項76】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、酢酸、アジピン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、フマル酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、塩化水素酸、ヒドロクロロチアジド酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、メチル硫酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、硝酸、パルミチン酸、ピバル酸、リン酸、プロピオン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、テレフタル酸、p-トルエンスルホン酸及び吉草酸からなる群から選択される酸のベンゾピラン塩である、請求項72に記載のキット。
【請求項77】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、
【化30】
であり、そのエナンチオマーの大部分が2S配置であるために光学活性であり、前記性ステロイド前駆体がデヒドロエピアンドロステロンである、請求項5に記載のキット。
【請求項78】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、乳房、子宮又は子宮内膜組織中でエストロゲン活性を有さない、請求項5に記載のキット。
【請求項79】
処置が更に、患者の乳癌、子宮癌又は子宮内膜癌の罹患リスクを低減する、請求項5に記載のキット。
【請求項80】
処置が更に、骨粗鬆症、高コレステロール血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、インスリン抵抗性、2型糖尿病、筋肉量減少、脂肪症、アルツハイマー病、認知機能の喪失、記憶喪失又は膣乾燥の発現を阻害する、請求項5に記載のキット。
【請求項81】
前記抗エストロゲン剤が、Faslodex(ICI 182780、フルベストラント)、7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-ペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオール)である、請求項5に記載のキット。
【請求項82】
前記キットの少なくとも1つの成分が膣内投与のための剤形である、請求項5に記載のキット。
【請求項83】
前記キットの少なくとも1つの成分が膣内投与のための剤形である、請求項75に記載のキット。
【請求項84】
前記キットの少なくとも1つの成分が経口投与のための剤形である、請求項5に記載のキット。
【請求項85】
前記キットの少なくとも1つの成分が経皮投与のための剤形である、請求項5に記載のキット。
【請求項86】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターがオスペミフェンである、請求項5に記載のキット。
【請求項87】
前記性ステロイド前駆体が、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール及び4-アンドロステン-3,17-ジオンからなる群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項88】
前記性ステロイド前駆体が、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール及び4-アンドロステン-3,17-ジオンからなる群から選択される、請求項5に記載のキット。
【請求項89】
前記選択的エストロゲン受容体モジュレーターが膣内投与のための剤形である、請求項75に記載のキット。
【図9】
【図10】
【図17】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図10】
【図17】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公表番号】特表2012−530074(P2012−530074A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515300(P2012−515300)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【国際出願番号】PCT/CA2010/000898
【国際公開番号】WO2010/145010
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(511305645)アンドルシェルシュ・インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【国際出願番号】PCT/CA2010/000898
【国際公開番号】WO2010/145010
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(511305645)アンドルシェルシュ・インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
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