説明

患者の生理的パラメータを確定するための装置、及びその方法

【課題】患者の生理的パラメータを適切に確定し、担当医師が間違った判断をすることを避けることができる装置及び方法を提供する。
【解決手段】圧力センサ(2)による血圧測定値を経時的な圧力曲線として格納する記憶手段と、この圧力曲線から生理的パラメータを確定する評価ユニット(7)とを有し、評価ユニット(7)は、患者(6)の呼吸状態及び/又は心臓の律動状態を示す曲線特性を確定し、曲線特性が第一の条件を満たす場合に、第一の容量応答性表示状態から第二の容量応答性表示状態に切り替わり、曲線特性が第二の条件を満たす場合に、第二の容量応答性表示状態から第一の容量応答性表示状態に切り替わるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の生理的パラメータを確定するための装置に関する。特に、本発明は、患者の生理的パラメータを確定するための装置であって、患者の血圧を測定するために設けられる少なくとも一つの圧力センサと、その測定値を少なくとも一つの経時的圧力曲線として格納する記憶手段と、得られた経時的圧力曲線から生理的パラメータを確定する評価ユニットを備えている。
【0002】
さらに、本発明は、電子装置を用いて患者の生理的パラメータを確定するための方法に関し、この電子装置は、患者の血圧を表す信号を読み込み、その読み取り値は少なくとも一つの経時的圧力曲線として格納され、この経時的圧力曲線から生理的パラメータを確定することができる。
【0003】
このような装置及び方法は従来から周知の技術であり、重篤な患者の臨床診療におけるモニタリングに広く用いられている。確定される生理的パラメータが単に血圧のみであるような単純な場合のほかに、通常はパルスの輪郭分析が行われ、一時的に格納された圧力曲線から、血行力学的パラメータのような、種々の生理的パラメータが確定されている。例えば、特許文献1には、患者のコンプライアンス機能及び心拍出量をパルスの輪郭分析を用いて直接確定することが記載されている。
【0004】
心拍出量は、臨床モニタで確定される、最も重要なパラメータの一つである。定義により、心拍出量(CO)は、1回拍出量に心拍数(HR)を乗じた量である。1回拍出量に影響を及ぼす3つの主要因は、前負荷、後負荷及び心筋の収縮性である。前負荷の一般的な定義は、心拡張期の終わりに左心室に残留する血液量、すなわち、左室拡張末期容積(LVEDV)である。一般に、前負荷は、患者の容量状態、すなわち患者の循環系における充填状態に影響されるが、臨床診療において直接測定することはできない。臨床診療において、後負荷は、心室収縮のインピーダンス又は抵抗と考えられるが、厳密な生理学的意味としては、心収縮期の左心室における内外圧力差と定義される。心筋の収縮性は、心筋が収縮する能力として定義される。
【0005】
監視している患者の心拍出量が低過ぎる場合には、担当医師は、必要な対応処置を考慮しなければならない。一般に、循環系の容量増加による影響は、その充填状態や個々の患者によって異なり、心拍出量に対して大きな効果を及ぼす場合もあるし、殆ど効果のない場合もある。このような影響を記述するためにしばしば用いられる用語は、容量応答性である。臨床診療では、患者の血液容量を増加して、生体の反応を観察することがよく行われる。しかし、容量の増加は肺水腫を生じる危険性を含んでいる。このため、医師が容量応答性を正確に評価できる、有用なパラメータを決めようと多くの努力が払われてきた。すなわち、その評価とは、心拍出量(CO)を増大したときに、心臓血管系が付加された流体に応答するか否か、及びどのような心拍出量(CO)となるかということである。
【0006】
非特許文献1及び非特許文献2は、患者の容量応答性を確定するために、1回拍出量の変動(SVV)と脈圧変動(PPV)をパラメータとして使用することを開示している。
【0007】
特許文献2には、計算された脈圧変動(PPV)又は1回拍出量の変動(SVV)を用いて、血行力学的に不安定な患者を管理するための治療アルゴリズムが開示されている。そして、患者の状態に応じた容量管理、血圧管理、心筋管理及び心臓管理が示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】EP 0947941A2号公報
【特許文献2】US 6776764B2号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】フレッド・ミカード(Fred Michard)及びジーン・ルイス・デボー(Jean−Louis Teboul)、「ICU患者における流体応答性の予知(Predicting fluid responsiveness in ICU Patient)」、「胸(Chest)」121(2002)、2000−2008
【非特許文献2】ディー・エー・ロイター(D.A.Reuter)他、「左心室の1回拍出量の変動のオンラインモニタリングによる、機械的に換気される心臓手術後の患者の輸液療法の最適化。大動脈収縮期血圧変動との比較。(Optimizing fluid therapy in mechanically ventilated patients after cardiac surgery by on−line monitoring of left ventricular stroke volume variations. Comparison with aortic systoric pressure variations.)」、「英国麻酔ジャーナル」(Br. J. Anaesth.)、88(2002)、124−126
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、PPV及びSVV測定における一般的な制約により、これらの方法は、一般的に、機械的な換気で管理されている患者に制限され、自発的に呼吸している患者には適用できない。以下「機械的な換気」とは、自発的な呼吸の努力を実質的に行わない、圧力又は容量が完全に制御されている機械的な換気であるとする。一方「自発的な呼吸」とは、患者に取り付けられた呼吸器を用いない自発的な呼吸、呼吸器を使用する自発的な呼吸、及び自発的な呼吸と機械的な換気との組み合わせで、例えば、圧力補助を行う補助換気と呼ばれるものを含む。
【0011】
患者の容量応答性を評価する他の周知の方法も、しばしば患者の呼吸状態に依存する。
【0012】
さらに、SVV及び/又はPPVに基づく容量応答性の評価は、患者の不整脈の状態により失敗する可能性がある。
【0013】
そして、適用範囲外で決定されたパラメータに基づいて、容量応答性が評価される場合には、患者を死に至らせる可能性まである、間違った診断を下す重大な危険性がある。
【0014】
したがって、本発明の主たる目的は、不適切なパラメータによって起こる、このような間違った判断を避けることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一つの態様によれば、この目的は請求項1に係る装置により達成される。すなわち、冒頭に述べた生理的パラメータを確定するための装置において、その評価ユニットは、患者の呼吸状態及び/又は心臓の律動状態を示す曲線特性を確定するように構成されており、さらに、曲線特性が第一の条件を満たす場合に、第一の容量応答性表示状態から第二の容量応答性表示状態に切り替えられ、曲線特性が第二の条件を満たす場合に、第二の容量応答性表示状態から第一の容量応答性表示状態に切り替えられるように構成されている。
【0016】
例えば、本発明は、次のような場合に応じて二つの異なる表示状態を提供し、装置の使用者は、この表示状態を視覚的及び/又は聴覚的に判別することができる。
・その曲線特性は、患者が不整脈の状態にあることを示しているか否か。
・その曲線特性は、患者が自発的に呼吸していることを示しているか否か。
【0017】
本発明の好ましい実施形態は、請求項2乃至8によって構成することができる。
【0018】
ある状況、特に困難で時間の無い状況においては、医療スタッフの中には、実際の状況下において、各パラメータの適用に疑問を抱くことなく、患者モニタ又は同様な装置上に表示されたパラメータを信じてしまう傾向が見られた。本発明は、適用できる領域の外でパラメータの値が確定された場合には、そのことを使用者に警告することができる。適用できる領域の外でアルゴリズムが使用され、パラメータの値が確定された場合についても同様に警告することができる。また、好ましい実施形態によれば、本発明は、パラメータが適用領域外で確定された場合には、そのパラメータが表示されないようにする方法を、採用することができる。
【0019】
好ましい実施形態によれば、呼吸状態を表す曲線特性は、圧力曲線の包絡線の隣り合う最大値間の距離、及び/又は隣り合う最小値間の距離を含む。これらの距離は、二次元座標系における尖頭値間距離又は横座標上の距離(すなわち、2個の極値間の時間間隔)の何れかであることが好ましい。最大値間の距離又は最小値間の距離の代わりに、隣り合う極値間の距離、例えば、最大値の後にある最大値と最小値との間の距離及び/又は最小値の後にある最小値と最大値との間の距離を使用することもできる。
【0020】
このような実施形態において、第一の条件とは、隣り合う最大値及び/又は最小値間の距離の変動値がそれぞれの第一の閾値(以下、第一の極値間隔変動閾値)を超えることとし、第二の条件とは、隣り合う最大値及び/又は最小値間の距離の変動値がそれぞれの第二の閾値(以下、第二の極値間隔変動閾値)を下回ることとすることが好ましい。
【0021】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、評価ユニットは、さらに、心電図検査信号の入力チャンネルを有しており、心臓の律動状態を示す曲線特性は、心電図検査信号の隣り合うRピーク間の距離(時間間隔)(RR間隔)を有している。
【0022】
このような実施形態において、第一の条件は、隣り合うRピーク間の距離の変動値が第一のRR間隔変動閾値を越えることとし、第二の条件は、隣り合うRピーク間の距離の変動値が第二のRR間隔変動閾値を下回ることとすることが好ましい。
【0023】
他の好ましい実施形態によれば、評価ユニットは、さらに患者の容量応答性を示す容量応答性標識を確定し、該容量応答性標識を出力するようにされている。
【0024】
好ましくは、容量応答性標識の確定及び/又は出力は、第二の容量応答性表示状態では不可能にされ、容量応答性標識の確定及び出力は、第一の容量応答性表示状態で双方とも可能にされている。
【0025】
好ましくは、評価ユニットは、圧力曲線から脈圧変動(PPV)及び1回拍出量の変動(SVV)のうち少なくとも一方を確定し、PPV及びSVVの少なくとも一方から容量応答性標識を確定するようにされている。
【0026】
他の好ましい実施形態によれば、評価ユニットは、さらに、現在の容量応答性表示状態が第一の容量応答性表示状態か、又は第二の容量応答性表示状態かを示す警報信号を出力するようにされている。
【0027】
好ましくは、第一の容量応答性表示状態及び第二の容量応答性表示状態の間の切り替えを抑制するために抑制手段を備え、該抑制手段は使用者により自由にオン・オフすることができる。
【0028】
本発明のもう一つの態様により、本発明の目的は、請求項9に係る方法によって達成することができる。すなわち、電子装置を用いて患者の生理的パラメータを確定するための方法であって、
・患者の血圧を表す信号を読み込むステップと、
・読み取り値を、少なくとも一つの経時的な圧力曲線として格納するステップと、
・圧力曲線から前記生理的パラメータを確定するステップと、
・患者の呼吸状態及び/又は心臓の律動状態を示す曲線特性を確定するステップと、を有する方法である。
前記電子装置は、曲線特性が第一の条件を満たす場合に、第一の容量応答性表示状態から第二の容量応答性表示状態に切り替え、曲線特性が第二の条件を満たす場合に、第二の容量応答性表示状態から第一の容量応答性表示状態に切り替える。
【0029】
この方法の好ましい実施形態は、請求項10乃至14に従って実施することができる。
【0030】
呼吸状態を表す曲線特性は、圧力曲線の包絡線の隣り合う最大値及び/又は隣り合う最小値間の距離を含むことが好ましい。この距離は、二次元座標系の尖頭値間距離、又は横座標上の距離(すなわち、2個の各極値間の時間間隔)の何れか一方であることが好ましい。最大値間の距離又は最小値間の距離とする代わりに、隣り合う極値間距離、例えば、最大値に続く最大値と最小値間の距離、及び/又は最小値に続く最小値と最大値間の距離を使用することもできる。このような実施形態において、第一の条件は、隣り合う最大値及び/又は最小値間の距離の変動値がそれぞれの第一の閾値(第一の極値間隔変動閾値)を超えることとし、第二の条件は、この変動値がそれぞれの第二の閾値(第二の極値間隔変動閾値)を下回ることとすることが好ましい。
【0031】
この方法は、心電図検査信号を電子装置に読み込むステップをさらに有することが好ましい。その場合、曲線特性は、心電図検査信号の隣り合うRピーク間の距離(RR間隔)を含むことが好ましい。
【0032】
このような実施形態において、第一の条件は、隣り合うRピーク間の距離(時間間隔)の変動値が第一のRR間隔変動閾値を越えることとし、第二の条件は、隣り合うRピーク間の距離の変動値が第二のRR間隔変動閾値を下回ることとすることが好ましい。
【0033】
好ましくは、この方法は、さらに、患者の容量応答性を示す容量応答性標識を確定し、該容量応答性標識を出力するステップを有している。
【0034】
好ましくは、容量応答性標識を確定し出力するステップは、第二の容量応答性表示状態では不可能にされ、第一の容量応答性表示状態で双方とも可能にされる。
【0035】
好ましくは、この方法は、圧力曲線から、脈圧変動(PPV)及び1回拍出量の変動(SVV)のうち少なくとも一方を確定し、PPV及びSVVの少なくとも一方から、容量応答性標識を確定している。
【0036】
本発明のさらに別の態様によれば、物理的に格納されたコンピュータプログラムを有する記憶媒体を備え、このプログラムをコンピュータに実行させることによって、上述した各ステップが実行される。
【発明の効果】
【0037】
本発明の装置及び方法は、患者の生理的パラメータを適切に確定し、間違いを起こさない形で提供するので、不適切なパラメータによって担当医師が間違った判断をすることを避けることができる。そして、上述した態様及びここに述べられた選択肢は、実際の適用状態に応じて、それぞれ特に好ましい場合がある。さらに、ある実施形態の特徴は、他に指示のない限り、他の実施形態の特徴や従来から知られている特徴と、技術的に可能な限り、組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ECG装置に接続された、本発明に係る装置の一実施形態の基本構成を示す図である。
【図2】追加された測定機能を備え、ECG装置に接続されていない、本発明に係る装置の一実施形態の構成を示す図である。
【図3】(a)は機械的な換気をしている場合の動脈圧曲線を経時的に示す図であり、(b)は自発的な呼吸をしている場合の動脈圧曲線を経時的に示す図である。
【図4】(a)は律動状態にある患者のECGグラフを示し、(b)は不整脈のある患者のECGグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
概略的に描かれた添付図を参照して、本発明の特徴をさらに詳しく説明する。
【0040】
図1の装置は、動脈カテーテル1を用いて患者6の動脈圧を測定する圧力センサ2を備え、圧力センサ2からの圧力信号を入力チャンネル3を介して読み込む患者モニタ4を備えている。患者モニタ4は、読み込んだ圧力信号から確定される経時的動脈圧曲線P(t)を格納する記憶手段と、圧力曲線P(t)から心拍出量CO等の生理的パラメータを確定するためにプログラムされた評価ユニット7と、これらの生理的パラメータを表示するためのディスプレイ5とを有している。
【0041】
このカテーテル1とセンサ2との構成は、従来から知られている患者モニタリングシステム、特に市販のPiCCO(商標)等のパルスの輪郭分析を採用した患者モニタリングシステム、と同一又は同様とすることができる。追加のカテーテル端部14は、血液試料の採取、医薬品の注入等に用いることができる。
【0042】
ここでは、侵襲的な圧力センサ2が示されているが、代わりに非侵襲的な圧力センサを用いることもできる。
【0043】
患者モニタ4は、ECG入力チャンネル16を介して、ECG装置15から心電図検査信号を読み込むこともできる。
【0044】
患者6が機械的に換気されているか、自発的に呼吸しているかによって、図3(a)及び図3(b)に示すように、確定される圧力曲線P(t)が異なることになる。機械的に換気されている場合には、図3(a)に破線で示すように、動脈圧力曲線P(t)の包絡線は、その最大値a、b、c及び/又は最小値d、e、fのそれぞれの間の間隔が略等間隔となる。
【0045】
したがって、ab=bc‥‥及び/又はde=ef‥‥及び/又はab=bc=de=ef‥‥及び/又はad=db=be=ec‥‥という条件が、十分長い時間(例えば1分間)満たされている場合には、圧力信号の評価から機械的な換気が行われていると仮定することができる。
【0046】
ここで、ab、de等は、それぞれ極値aと極値bの間、極値dと極値eの間における実際の距離を二次元座標系で表しても良いし、或いは、横座標上の距離(すなわち、2個の各極値間の時間間隔)として表すこともできる。通常、後者を選択する方が、実施するのに容易となる。
【0047】
実際には、以下のことを考慮すると、距離ab、bc等が正確に等しくなることは殆どあり得ない。すなわち、最近の測定機器及び電子計算の精度は、換気用機械における機械的・電気的な精度よりもはるかに高く、また、外部から強制される気道内圧に対し、患者6の身体の機械的応答には、常に僅かの変動があるからである。
【0048】
したがって、圧力曲線P(t)から患者6の呼吸状態を確定するときには、通常、距離ab、bc等の間にある変動を許して、一定の変動値内であれば、患者6が機械的に換気されていると表示する。
【0049】
例えば、2つの距離の差(ab−bc)が所定の閾値よりも小さい場合には、距離abと距離bcは実質的に等しいと考える。本明細書では、このような閾値を「極値間隔変動閾値」と定義する。
【0050】
したがって、距離abと距離bc等が、実質的に等しいという場合は、隣り合う最大値間の距離の変動値及び/又は隣り合う最小値間の距離の変動値が、それぞれ極値間隔変動閾値よりも小さいことを意味している。
【0051】
患者が自発的に呼吸している場合には、距離ab、bc、de、ef、及び距離ad、db、be、cfは、図3(b)に示すように、大きく変動する。
【0052】
したがって、自発的な呼吸の場合には、隣り合う最大値間の距離の変動値及び/又は隣り合う最小値間の距離の変動値は、各極値間隔変動閾値を超えることになる。すなわち、2つの距離の差(ab−bc)は、所定の閾値以上に上昇する。
【0053】
このような極値間隔変動の閾値は、機械的に換気された患者の動脈圧曲線の試料から、経験的に確定することができる。
【0054】
同様にして、心電図の検査信号を読み込んで、隣り合うRピーク間の距離ab、bc等を確定することができる。
【0055】
図4は、患者の代表的なECGグラフを示しており、図4(a)は律動的な状態を示しており、図4(b)は不整脈の状態を示している。隣り合うRピーク間の距離が略等しい場合には、すなわち先に定義したように、隣り合うRピーク間の距離の変動値が各RR間隔変動閾値よりも小さい場合には、患者6は律動状態にある。隣り合うRピーク間の距離が実質的に等しくない場合には、すなわち、隣り合うRピーク間の距離の変動値が各RR間隔変動閾値を超える場合には、患者6は不整脈状態にある。
【0056】
担当医師が患者6の容量応答性を評価することができるように、患者モニタ4は、従来の患者モニタリングシステムから周知の方法で、パラメータPPV(脈圧変動)、パラメータSVV(1回拍出量の変動)及び/又はこれらのパラメータから導出された容量応答性パラメータを確定するとともに、これらのパラメータをディスプレイ5上に表示するようになっている。
【0057】
図4における隣り合うRピーク間の距離ab、bc等が略等しく、図3における包絡線の距離ab、bc、de、ef及び/又はad、db、be、ec、cf等も所定の時間(例えば1分間)略等しい場合には、患者モニタ4は、パラメータPPV、SVV及び/又は容量応答性パラメータを、所定の表示モードで実際にディスプレイ5上に表示する。このように、容量応答性が通常の表示モードで表示される状態を、本明細書では、「第一の容量応答性表示状態」と称している。
【0058】
しかし、もしも隣り合うRピーク間の距離ab、bc等が実質的に等しくない場合、或いは、図3における包絡線の距離ab、bc、de、ef及び/又はad、db、be、ec、cf等が実質的に等しくない場合は、患者モニタ4は、通常とは異なる表示モード、すなわち、異常を示す容量応答性表示状態に切り替わる。患者モニタ4の設定に応じて、異常表示モードには、PPVパラメータ、SVVパラメータ及び/又は容量応答性パラメータがディスプレイ5上に全く表示されないモードも含まれる。その代わりに、あるいはそれに加えて、患者6が自発的に呼吸していることを示す標識(例えば「自発呼吸」の文字情報)及び/又は患者6が不整脈状態にあることを示す標識(例えば「不整脈」の文字情報)を表示してもよい。このように、容量応答性が異常表示モードで表示される状態を、本明細書では、「第二の容量応答性表示状態」と称している。
【0059】
律動的状態であるか/不整脈状態であるか、及び機械的な換気であるか/自発的な呼吸であるか、という2つの基準に応じた表示モードとする代わりに、本発明は、これらの内一方の基準のみに応じた表示モードとして実施してもよい。
【0060】
さらに、換気されている患者6の不整脈状態、換気されている患者6の律動的状態、自発的に呼吸している患者6の不整脈状態、及び自発的に呼吸している患者6の律動的状態の各場合に対して、それぞれ異なる表示モードを実行することも可能である。
【0061】
かくして、担当医師は、実際に適用できる領域の外で確定されたパラメータに基づいて容量増加に関する決定を行うことを、避けることができる。
【0062】
図2の装置は、図1に示された構成要素に対応する各構成要素を備えており、対応する符号を用いて示されている。さらに、この装置は、静脈内カテーテルセット及び動脈内温度測定セットを備え、機能性が高められている。すなわち、動脈カテーテル1は、もう一つの入力チャンネル9を介して、温度信号を患者モニタ4に供給する温度センサ8を備えている。温度センサ8は、カテーテル端部に取り付けられるサーミスタ等であり、得られる温度信号は、熱希釈アルゴリズムを用いて、追加のパラメータを確定するのに役立つ。この目的のために、コールドボーラスを中心静脈カテーテル12のカテーテル端部13から注入できる。この熱希釈の構成は、上述したPiCCO等の熱希釈方法を採用した従来の患者モニタリングシステムと、同一または同様とすることが好ましい。中心静脈カテーテル12を用いている患者の中心静脈圧を測定する圧力センサ10から得られるもう一つの圧力信号は、追加の入力チャンネル11を介して読み込むことができる。
【0063】
図2の装置は、ECG装置が接続されていないので、ディスプレイ5の表示モードは、記録された動脈圧信号のみの曲線特性に依存する。
【0064】
担当の医師が、患者6の容量応答性を評価できるようにするために、患者モニタ4は、パラメータPPV、SVV及び/又はこれらのパラメータから導出された容量応答性パラメータを確定し、これらのパラメータをディスプレイ5上に表示するようにされている。
【0065】
図1及び図3に関して説明したように、自発的な呼吸の場合には、隣り合う最大値間の距離の変動値、及び/又は隣り合う最小値間の距離の変動値は、各極値間隔変動閾値を超える。すなわち、距離間の差(ab−bc)は、所定の閾値を越えて上昇する。
【0066】
この場合、患者モニタ4の表示状態は、ディスプレイ5上に上記のパラメータが表示されないか、あるいは警告標識が表示されるか、上記のパラメータが表示されないで、かつ警告標識が表示されるか、の何れかに切り替わる。
【0067】
また、距離ab、bc、de、ef及び/又はad、db、be、ec、cf等が、所定の時間(例えば1分間)略等しい場合には、患者モニタ4は、パラメータPPV、SVV及び/又は容量応答性パラメータが実際にディスプレイ5上に表示される、表示モードに切り替えられる。
【符号の説明】
【0068】
1 動脈カテーテル
2、10 圧力センサ
3、9、11 入力チャンネル
4 患者モニタ
5 ディスプレイ
6 患者
7 評価ユニット
8 温度センサ
12 中心静脈カテーテル
13、14 カテーテル端部
15 ECG装置
16 ECG入力チャンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の生理的パラメータを確定するための装置であって、
(a)前記患者の血圧測定するために設けられる少なくとも一つの圧力センサと、
(b)その測定値を少なくとも一つの経時的な圧力曲線として格納する記憶手段と、
(c)前記圧力曲線から前記生理的パラメータを確定する評価ユニットとを有する装置において、
前記評価ユニットは、前記患者の呼吸状態及び/又は心臓の律動状態を示す曲線特性を確定し、
前記曲線特性が第一の条件を満たす場合に、第一の容量応答性表示状態から第二の容量応答性表示状態に切り替わり、
前記曲線特性が第二の条件を満たす場合に、前記第二の容量応答性表示状態から前記第一の容量応答性表示状態に切り替わるように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記曲線特性が、前記圧力曲線の包絡線の隣り合う最大値間の距離、及び/又は隣り合う最小値間の距離を含み、
前記第一の条件は、前記隣り合う最大値間の距離の変動値及び/又は前記隣り合う最小値間の距離の変動値が、それぞれの第一の極値間隔変動閾値を越えることとし、
前記第二の条件は、前記隣り合う最大値間の距離の変動値及び/又は前記隣り合う最小値間の距離の変動値が、それぞれの第二の極値間隔変動閾値を下回ることとする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記評価ユニットが、心電図検査信号のための入力チャンネルを有し、
前記曲線特性は、前記心電図検査信号の隣り合うRピーク間の距離を含み、
前記第一の条件は、前記隣り合うRピーク間の距離の変動値が、第一のRR間隔変動閾値を越えることとし、
前記第二の条件は、前記隣り合うRピーク間の距離の変動値が、第二のRR間隔変動閾値を下回ることとする、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記評価ユニットが、前記患者の容量応答性を示す容量応答性標識を確定し、該容量応答性標識を出力することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記容量応答性標識の確定及び/又は出力が、前記第二の容量応答性表示状態では不可能にされ、
前記容量応答性標識の確定及び出力が、前記第一の容量応答性表示状態では双方とも可能にされることを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記評価ユニットが、前記圧力曲線から、脈圧変動及び1回拍出量の変動のうち少なくとも一方を確定し、
前記容量応答性標識が、前記脈圧変動及び前記1回拍出量の変動の少なくとも一方から確定されることを特徴とする請求項4又は5に記載の装置。
【請求項7】
前記評価ユニットが、現在の容量応答性表示状態が、前記第一の容量応答性表示状態であるか、あるいは前記第二の容量応答性表示状態であるかを示す警報信号を出力することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記第一の容量応答性表示状態と前記第二の容量応答性表示状態との切り替えが、抑制される抑制手段を備え、該抑制手段が、使用者によりオン・オフされることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の装置。
【請求項9】
電子装置を用いて患者の生理的パラメータを確定するための方法であって、
・前記患者の血圧を表す信号を読み込むステップと、
・少なくとも一つの経時的な圧力曲線として前記読み取り値を格納するステップと、
・前記圧力曲線から前記生理的パラメータを確定するステップとを有する方法において、
さらに、前記患者の呼吸状態及び/又は心臓の律動状態を示す曲線特性を確定するステップと、
前記曲線特性が第一の条件を満たす場合に、第一の容量応答性表示状態から第二の容量応答性表示状態に切り替えるステップと、
前記曲線特性が第二の条件を満たす場合に、前記第二の容量応答性表示状態から前記第一の容量応答性表示状態に切り替えるステップとを有することを特徴とする方法。
【請求項10】
前記曲線特性が、前記圧力曲線の包絡線の隣り合う最大値及び/又は隣り合う最小値間の距離を含み、
前記第一の条件は、前記隣り合う最大値間の距離の変動値及び/又は前記隣り合う最小値間の距離の変動値が、それぞれの第一の極値間隔変動閾値を越えることとし、
前記第二の条件は、前記隣り合う最大値間の距離の変動値及び/又は前記隣り合う最小値間の距離の変動値が、それぞれの第二の極値間隔変動閾値を下回ることとする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
心電図検査信号を前記電子装置に読み込むステップを有し、
前記曲線特性は、前記心電図検査信号の隣り合うRピーク間の距離を含み、
前記第一の条件は、前記隣り合うRピーク間の距離の変動値が、第一のRR間隔変動閾値を越えることとし、
前記第二の条件は、前記隣り合うRピーク間の距離の変動値が、第二のRR間隔変動閾値を下回ることとする、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記患者の容量応答性を示す容量応答性標識を確定し、該容量応答性標識を出力するステップを有することを特徴とする請求項9乃至11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記容量応答性標識を確定し出力するステップは、前記第二の容量応答性表示状態では不可能にされ、
前記容量応答性標識を確定し出力するステップは、前記第一の容量応答性表示状態では双方とも可能にされることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記圧力曲線から脈圧変動及び1回拍出量の変動のうち少なくとも一方を確定するステップと、
前記脈圧変動及び前記1回拍出量の変動の少なくとも一方から前記容量応答性標識を確定するステップを含むことを特徴とする請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
物理的に格納されたコンピュータプログラムを有する記憶媒体を備え、該プログラムをコンピュータに実行させることにより、各ステップが実行されることを特徴とする請求項9乃至14の何れか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−284532(P2010−284532A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−134167(P2010−134167)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(508344040)プルシオン メディカル システムズ アーゲー (4)
【Fターム(参考)】