説明

意匠性、金属光沢、及び絶縁性に優れた樹脂成型品、並びにその製造方法

【課題】金属光沢を有する意匠性ある外観を有し、しかも携帯電話の函体などに使用可能な絶縁性を有する樹脂成型品とその製造方法を提供する。
【解決手段】表面に凹凸の布目模様と金属薄膜が形成された樹脂成型品を、凹凸の布目模様を太さ200〜2000デニールの糸で組織された布表面の意匠性を有する布目模様とし、金属薄膜が膜厚200〜800Åの金属光沢を有する金属薄膜で前記凹凸に沿って形成されているものとし、前記金属薄膜は目視で確認できない微細な亀裂が存在し、電子レンジによる1000W×3秒の処理の前後で金属光沢に変化を生じない絶縁性を有するものとした。この樹脂成型品は、表面に前記布目模様を有する布と前記金属薄膜を有する転写フィルムを重ねて、樹脂面に前記金属薄膜側が接するようにして、樹脂成型することにより製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の凹凸の布目模様である意匠性、金属光沢、及び電子レンジによる1000W×3秒の処理の前後で金属光沢に変化を生じない絶縁性をいずれも兼ね備えた樹脂成型品、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面にSn薄膜やAl薄膜等の金属薄膜が形成された樹脂成型品は装飾性あるものとして種々知られているが、いずれも導電性を有するため、電子機器の函体などに使用できるものではなかった。
通常、Al薄膜では、導電性に優れるため表面にAl薄膜が形成された樹脂成型品は、金属光沢を有する状態で、絶縁性を有するものとはならなかった。
また、Sn薄膜では、膜厚300Å未満では島状の金属薄膜となり、絶縁性とある程度の金属光沢を有するが、金属光沢をより向上させるために、膜厚300Å以上とすると絶縁性となる島状の金属薄膜は得られないため、表面にSn薄膜が形成された樹脂成型品も、金属光沢を有する状態で、絶縁性を有するものとはならなかった。
【0003】
別途、意匠性に優れた射出成型品を製造する方法として、布を使用することにより、布表面を組織する布目模様が表面に形成された樹脂成型品を得ようとする試みがある。例えば、特許文献1には、絵柄の付いた転写フイルムと繊維材料を重合したものを、該転写フイルムが射出孔に面するように射出成型用金型内に配設した後、射出孔より合成樹脂を射出成型し、得られた転写フイルムと繊維材料が表面に付着した成型品から、該転写フイルムと繊維材料を剥離することにより成型品表面に絵柄と繊維模様を同時に転写して、絵付け射出成型品を得る方法が開示されており、転写フイルムとしてアルミ蒸着した蒸着転写フイルムが使用できることも示されている。
【0004】
特許文献1の実施例に示されるように、繊維材料として通常のナイロンタフタやポリエステルタフタ(太さ:40デニール程度、密度:85本〜130本/インチ)を使用した場合、転写フイルムとして蒸着転写フイルムを使用すると導電性を有する成型品となるため、化粧品容器などとして使用されるだけで、電気部品の容器(電子機器の函体)に使用することはできなかった(特許文献1の実施例2参照)。そのため、特許文献1で電気部品の容器を得るためには、転写フイルムとして単なる透明フイルムを使用して、繊維模様のみを転写していたのである(特許文献1の実施例3参照)。
すなわち、従来技術では、意匠性、金属光沢、及び絶縁性を兼ね備えた樹脂成型品であって、電子機器の函体などに使用できる樹脂成型品を得ることができなかったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−261819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、表面に凹凸の布目模様と金属薄膜が形成された樹脂成型品であって、優れた意匠性、金属光沢、及び絶縁性を兼ね備えた、携帯電話の函体など電子機器の函体に使用可能な樹脂成型品、並びにその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、表面に凹凸の布目模様と金属薄膜が形成された樹脂成型品であって、該凹凸の布目模様を太さ200デニール〜2000デニールの糸で組織された布表面の意匠性を有する布目模様とし、前記金属薄膜を膜厚が200Å〜800Åの金属光沢を有する金属薄膜として前記凹凸に沿って形成することにより、前記金属薄膜に目視で確認できない微細な亀裂が存在するようになることを見出した。
さらに、上記微細な亀裂が存在することにより、電子レンジによる1000W×3秒の処理によっても金属薄膜が破壊されず、該処理の前後で、金属光沢に変化を生じない絶縁性を有する樹脂成型品となしうることを見出し、優れた意匠性、金属光沢、及び絶縁性を有し、携帯電話の函体など電子機器の函体に使用可能な実用性ある樹脂成型品の提供を可能とした。
【0008】
本発明の樹脂成型品は、表面に凹凸の布目模様と金属薄膜が形成された樹脂成型品であって、該凹凸の布目模様は太さ200デニール〜2000デニールの糸で組織された布表面の意匠性を有する布目模様であり、前記金属薄膜は膜厚が200Å〜800Åの金属光沢を有する金属薄膜で前記凹凸に沿って形成されており、かつ前記金属薄膜は目視で確認できない微細な亀裂が存在し、電子レンジによる1000W×3秒の処理の前後で金属光沢に変化を生じない絶縁性を有することを特徴とする、意匠性、金属光沢、及び絶縁性のいずれも兼ね備えた樹脂成型品である。
【0009】
布目模様は、太さ200デニール〜2000デニールの糸で組織された布表面の意匠性を有する布目模様であるが、縦横いずれにおいても、前記糸の糸密度が10本/インチ〜100本/インチの範囲の糸で組織された布表面の布目模様であるのが好ましい。
尚、本発明における布目模様は、上記の範囲の太さや糸密度の糸で組織された布表面の布目模様そのものの布目模様であってもよいが、該布表面の布目模様を転写することにより形成される(布表面の凹凸や柄(例えば刺繍柄)が、ネガとポジの関係のように、凹凸や柄の左右が反対に形成される)布目模様であってもよく、本発明には上記両方の布目模様が含まれる。
【0010】
金属薄膜としては、Sn、Bi、Al、Zn、In及びこれらの合金からなる群から選ばれる金属薄膜の使用が好ましく、所望の金属光沢や絶縁性の程度に応じて適宜選択使用することができる。
【0011】
金属薄膜の膜厚は、200Å〜800Åであればよいが、金属の種類によっては、導電性が大であったり、金属光沢が充分でないものも存在するので、通常、金属光沢及び絶縁性を共に優れた範囲で維持するためには、400Å〜600Åであるのがより好ましい。
【0012】
樹脂成型品に使用する成型用樹脂としては、通常の成型品の製造に使用できるものがいずれも使用でき、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよい。電子機器の函体の製造には、例えばABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、AS(アクリロニトリル・スチレン共重合体)樹脂、PP(ポリプロピレン)樹脂、PE(ポリエチレン)樹脂などの使用が好ましい。
【0013】
また金属薄膜の保護や意匠性を高めるため、金属薄膜上に樹脂からなる保護層や該保護層を着色剤で着色した着色層を形成したものであってもよい。
さらに、金属薄膜の表面側と反対側に、所望に応じて接着層を設け、成型用樹脂と金属薄膜の密着性を向上するようにしてもよい
【0014】
かかる本発明の樹脂成型品は、次のような本発明の製造方法で品質よく安定して製造することができる。
まず、表面に太さ200デニール〜2000デニールの糸で組織された布目模様を有する布と、ベースフィルム上に離型層を介して少なくとも膜厚200Å〜800Åの金属薄膜を形成した転写フィルムを、該転写フィルムの金属薄膜側が外側になるように(布とベースフィルムが接するように)積層配置し、該転写フィルムの金属薄膜側を成型用樹脂に接触させ、前記樹脂表面に前記布目模様の凹凸を形成し、同時に前記金属薄膜を転写するようにした後、前記布と前記ベースフィルムを剥離することにより本発明の樹脂成型品を製造することができる。
【0015】
かかる本発明の製造方法では、直接成型用樹脂が布に接触しないことから、成型時に樹脂が布に食込むことなく、成型後、安定して布を剥離できるため、布を、その組織や材質を問わず、広い範囲から選択できる。また、成型時の応力が布を介在することで分散されることから、金属薄膜には、不均一で、かつ目視で確認できる大きなクラックが発生することがないので外観に問題がないとともに、射出成型等金型を使用する成型の場合には複雑な金型にも対応可能となり、意匠性、金属光沢、及び絶縁性のいずれにも優れた樹脂成型品の提供が可能となる。
【0016】
なお、本発明における所望の布目模様を得るためには、布表面の布目が太さ200デニール〜2000デニールの糸を使用して組織された布をいずれも使用できる。特に、縦横ともに、1インチ当たり10本〜100本の糸密度で組織される布を使用するのが好ましく、600デニール〜1500デニールの糸を、1インチ当たり15本〜40本の密度で組織された布の使用が特に好ましい。
ここに糸密度とは、布表面の布目を構成する糸の本数で、縦方向又は横方向それぞれ1インチ間に存在する糸の本数を意味するものである。例えば、二本引き揃え糸を横糸として1インチ間に5組織り込んだ織布の横糸の密度は10本/インチとする。
【0017】
かかる布としては、織布、編布、刺繍布などがいずれも使用できる。
尚、刺繍布は織布や編布の全面又は部分的に刺繍を施したものであって、該刺繍もやはり太さ200デニール〜2000デニールの糸で縦横いずれも糸密度が10本/インチ〜80本/インチの範囲の糸で組織された刺繍としておくのが絶縁性の点から好ましい。
織布、編布、刺繍布の表面の糸の太さ、糸密度が上記の範囲となるように設計した場合、凹凸の布目模様を備えた樹脂成型品表面に形成された金属薄膜に、目視で確認できない微細な亀裂が生じ、金属光沢及び意匠性に優れた樹脂成型品でありながら、所望の絶縁性を兼ね備えたものとなしうるのである。
【0018】
なお、樹脂成型品の成型方法としては、金型を使用し、該金型に応じて樹脂成型品の表面形状を形成する通常の方法がいずれも適用でき、例えば射出成型、圧縮成型、移送成型、ブロー成型、押出成型、真空成型等の方法がある。
射出成型を例にとって詳細に説明すると、表面に太さ200デニール〜2000デニールの糸で組織された布目模様を有する布と、ベースフィルム上に離型層を介して少なくとも膜厚200Å〜800Åの金属薄膜を形成した転写フィルムを、該転写フィルムの金属薄膜側が外側に、かつ射出孔側になるように射出成型用金型に積層配置し、該転写フィルムの金属薄膜側に射出孔より成型用樹脂を射出、接触させた後、前記布と前記ベースフィルムを剥離することにより、本発明の樹脂成型品を得ることができる。
また、上記布、転写フィルム、及び板状の成型用樹脂をこの順に、かつ該転写フィルムの金属薄膜側と板状の成型用樹脂が接触するように積層配置した積層体とし、布側からロールにより熱と圧力を加えた後、前記布と前記ベースフィルムを剥離する熱ロール成型、さらには上記積層体を金属板を挟んで複数重ねて上下(両面側)から熱と圧力を加えた後、前記布と前記ベースフィルムを剥離する多段プレス成型などの成型方法も例示できる。
【0019】
成型用樹脂としては、前記樹脂成型品に使用する樹脂と同様、通常の成型品の製造に使用できるものがいずれも使用でき、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよい。電子機器の函体の製造には、例えばABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、AS(アクリロニトリル・スチレン共重合体)、PP(ポリプロピレン樹脂)、PE(ポリエチレン樹脂)などの使用が好ましい。
【0020】
布としては、前記したとおり、織布、編布、刺繍布などがいずれも使用できるが、平織、変化平織とされる斜子織、正則斜子織、平織・畝織・斜子織を組合わせた変化斜子織、接結斜子織、経畝織と緯畝織を組合わせた斜子織及び籠編のように、粗く浮沈する組織からなるものを使用するのが好ましい。なお、刺繍布においては、表面組織を形成する刺繍糸の太さや密度が所定の範囲になるように構成すればよい。
【0021】
転写フィルムとしては、公知のものがいずれも使用できる。例えば、ベースフィルムの片面に離型性を有する樹脂等からなる離型層を介して直接金属薄膜を形成したもの、あるいは金属薄膜の保護や意匠性を高めるため、前記離型層と金属薄膜の間に樹脂からなる保護層や該保護層を着色剤で着色した着色層を形成したものであってもよい。
さらに、金属薄膜の上には、所望に応じて、接着層を設け、本発明の樹脂成型品の成型用樹脂と金属薄膜の密着性を向上するようにしてもよい。
ベースフィルムとしては、通常の転写フィルムの製造に使用されるものがいずれも使用可能であるが、金型の内面に沿わせて配置するということから、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のプラスチックフィルムであるのが好ましい。
離型層には、従来転写フィルムの離型層として使用される材料がいずれも使用でき、アクリル系樹脂、ワックス等が使用できる。
保護層や着色層にも、従来転写フィルムの保護層や着色層として使用される材料がいずれも使用でき、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂や該樹脂にイソシアネート等の硬化剤を混入した樹脂、染料や顔料等の着色剤が使用できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、特定の凹凸の布目模様である意匠性、金属光沢、及び電子レンジによる1000W×3秒の処理の前後で金属光沢に変化を生じない絶縁性をいずれも兼ね備えた樹脂成型品、並びにその製造方法であり、携帯電話の函体など電子機器の函体に使用可能な絶縁性を有する樹脂成型品の提供が可能となる。なお、電子レンジによる1000W×3秒の処理の前後で金属光沢に変化を生じないということは、電子機器の函体における絶縁性として必要なものであるが、更に、電子レンジによる1000W×5秒の処理によっても、金属光沢に変化を生じないことが好ましいが、本発明では、実施例にも示すとおり、この処理条件の場合にも適合する樹脂成型品をも容易に提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明を実施例に基づき、更に詳しく説明する。
<実施例1>
ベースフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム)/離型層/保護層/Sn薄膜/接着層からなる転写フィルムで、Sn薄膜の膜厚を100Å、200Å、400Å、600Å、800Å及び900Åと変化させた転写フィルムをそれぞれ準備し、各転写フィルムを、ベースフィルム側を内側とし、Sn薄膜側を外側として、1500デニールのポリエステル糸を縦/横=17本/15本の糸密度でバスケット織(経緯いずれも2本の引き揃え糸からなる正則斜子織)からなる織布と積層し、射出成型用金型内に、該金型に沿わせて、転写フィルムのSn薄膜側が射出成型用樹脂の射出孔に面するように配置し、前記射出孔からABS樹脂を射出成型し、その後、金型から取り出した成型品から、織布とベースフィルムを剥離した。
その結果、各々の樹脂成型品の表面には上記織布表面の凹凸の布目模様と、該凹凸に沿って全面に、接着層、Sn薄膜、及び保護層が順次形成された樹脂成型品を得ることができた。
得られた樹脂成型品の物性を評価した結果を表1に示す。この結果から、Sn薄膜の膜厚が200〜800Åである転写フィルムを用いた場合には、表面に織布の織組織による凹凸模様を有する意匠性、及び金属光沢に優れた樹脂成型品が絶縁性を有する状態で得られることが分かる。
しかし、Sn薄膜の膜厚が100Åの場合には、金属光沢を有する樹脂成型品を得ることができず、Sn薄膜の膜厚が900Åと厚すぎると、所望の絶縁性を有する樹脂成型品を得ることができなかった。
【0024】
【表1】

【0025】
但し、表1における評価は下記の基準によるものである。
<絶縁性>
1000Wの電子レンジ処理の前後で、金属光沢の変化を調べた。
◎ 5秒間の処理でもSn薄膜が破壊されず金属光沢に変化がない。
○ 3秒間の処理ではSn薄膜が破壊されず金属光沢に変化はないが、5秒間の処理で一部Sn薄膜が破壊され部分的に金属光沢が低下した。
△ 瞬時にはSn薄膜は破壊されず金属光沢に変化はないが、3秒間の処理で一部Sn薄膜が破壊され部分的に金属光沢が低下した。
× 瞬時にSn薄膜の大部分が破壊され、全体に金属光沢が低下した。
<金属光沢>
外観目視により、下記の基準で評価した。
◎ 金属光沢に優れる。
○ やや黒っぽい金属光沢で、金属光沢にやや劣る。
× 金属光沢なし。
【0026】
<実施例2>
ベースフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム)/離型層/保護層/Al薄膜/接着層からなる転写フィルムで、Al薄膜の膜厚を100Å、200Å、400Å、600Å、800Å及び900Åと変化させた転写フィルムをそれぞれ準備し、各転写フィルムを、ベースフィルム側を内側とし、Al薄膜側を外側として、1500デニールのポリエステル糸を縦/横=17本/15本の糸密度でバスケット織(経緯いずれも2本の引き揃え糸からなる正則斜子織)からなる織布と積層し、射出成型用金型内に、該金型に沿わせて、転写フィルムのAl薄膜側が射出成型用樹脂の射出孔に面するように配置し、前記射出孔からABS樹脂を射出成型し、その後、金型から取り出した成型品から、織布とベースフィルムを剥離した。
その結果、各々の樹脂成型品の表面には上記織布表面の凹凸の布目模様と、該凹凸に沿って全面に、接着層、Al薄膜、及び保護層が順次形成された樹脂成型品を得ることができた。
得られた樹脂成型品の物性を表2に示す(評価基準は表1のものと同様である。但し、Sn薄膜をAl薄膜と読み替えて適用する)。この結果から、Al薄膜の膜厚が200〜800Åである転写フィルムを用いた場合には、表面に織布の織組織による凹凸模様を有する意匠性、金属光沢に優れた樹脂成型品が絶縁性を有する状態で得られることが分かる。
しかし、Al薄膜の膜厚が100Åの場合には、金属光沢を有する樹脂成型品を得ることができず、Al薄膜の膜厚が900Åと厚すぎると、絶縁性を有する樹脂成型品を得ることができなかった。
【0027】
【表2】

【0028】
<実施例3>
ベースフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム)/離型層/保護層/膜厚600ÅのSn薄膜/接着層からなる転写フィルムと表3に示す糸使いの平織組織の織布を用いて、実施例1と同様の方法で、各々の樹脂成型品の表面には上記織布表面の凹凸の布目模様と、該凹凸に沿って全面に、接着層、Sn薄膜、及び保護層が順次形成された樹脂成型品を得ることができた。
得られた樹脂成型品の物性を表3に示す。絶縁性と金属光沢は、表1のものと同様の基準で評価した。また、表面の金属薄膜におけるクラックの評価は、目視によるもので、次の基準に従った。
◎ 大きなクラックは無く、樹脂成型品の外観として実用上全く問題はない。
○ わずかにクラックがあるが、樹脂成型品の外観として実用上問題はない。
△ クラックが目立ち、樹脂成型品の外観として実用上問題がある。
【0029】
【表3】

【0030】
糸のデニール数が200〜2000で、糸密度が100〜10本/インチの織布を用いた場合には、意匠性及び金属光沢に優れ、しかも絶縁性を有する樹脂成型品が得られた。また、外観も実用上問題はなかった。特に、600デニールの糸を40本/インチの糸密度で織った織布、又は1500デニールの糸を15本/インチの糸密度で織った織布を使用した場合には、意匠性及び金属光沢共に優れ、絶縁性においても、非常に優れた樹脂成型品を得ることができた。また外観についても実用上全く問題はなかった。
しかし、200デニール未満の細い糸を用いた場合には、絶縁性を有せず、2000デニールを超える太い糸を使用した場合には、クラックが目立ち外観が悪くなり、絶縁性も有しない、樹脂成型品しか得ることができなかった。
【0031】
<実施例4>
ベースフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム)/離型層/保護層/膜厚600ÅのSn蒸着層/接着層からなる転写フィルムと、実施例1で使用した織布に300デニールのポリエステル糸により花柄を刺繍した(刺繍部分の糸密度:縦横いずれも80本/インチ)刺繍布を準備し、該転写フィルムを該刺繍布上に刺繍面が転写フィルム側になるように積層し、射出成型用金型内に、該金型に沿わせて、転写フィルムのSn薄膜側が射出成型用樹脂の射出孔に面するように配置し、前記射出孔からABS樹脂を射出成型し、その後、金型から取り出した成型品から、刺繍布とベースフィルムを剥離した。
その結果、樹脂成型品の表面には上記刺繍布表面の凹凸の布目模様(刺繍による花柄、及び刺繍が施されていない部分は実施例1と同様の織布表面の凹凸の布目模様)と、該凹凸に沿って全面に、接着層、Sn薄膜、及び保護層が順次形成された本発明の樹脂成型品を得ることができた。
【0032】
本発明に従って各実施例で得られた樹脂成型品は、意匠性、金属光沢、及び絶縁性を兼ね備えているため、いずれも、携帯電話の函体、パソコン、ゲーム機、家電の前面パネル等に実用的に使用できるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸の布目模様と金属薄膜が形成された樹脂成型品であって、該凹凸の布目模様は太さ200デニール〜2000デニールの糸で組織された布表面の意匠性を有する布目模様であり、前記金属薄膜は膜厚が200Å〜800Åの金属光沢を有する金属薄膜で前記凹凸に沿って形成されており、かつ前記金属薄膜は目視で確認できない微細な亀裂が存在し、電子レンジによる1000W×3秒の処理の前後で金属光沢に変化を生じない絶縁性を有することを特徴とする、意匠性、金属光沢、及び絶縁性のいずれも兼ね備えた樹脂成型品。
【請求項2】
前記凹凸の布目模様が、縦横いずれにおいても、前記糸の糸密度が10本/インチ〜100本/インチの範囲の糸で組織された布表面の布目模様である請求項1記載の樹脂成型品。
【請求項3】
前記金属薄膜がSn、Bi、Al、Zn、In及びこれらの合金からなる群から選ばれる金属薄膜である請求項1又は2記載の樹脂成型品。
【請求項4】
前記金属薄膜の膜厚が400Å〜600Åである請求項1〜3いずれか1項記載の樹脂成型品。
【請求項5】
請求項1記載の樹脂成型品の製造方法であって、表面に太さ200デニール〜2000デニールの糸で組織された布目模様を有する布と、ベースフィルム上に離型層を介して少なくとも膜厚200Å〜800Åの金属薄膜を形成した転写フィルムを、該転写フィルムの金属薄膜側が外側になるように積層配置し、該転写フィルムの金属薄膜側に成型用樹脂を接触させ、前記樹脂表面に前記布目模様の凹凸を形成し、同時に前記金属薄膜を転写するようにした後、前記布と前記ベースフィルムを剥離することを特徴とする、意匠性、金属光沢、及び絶縁性のいずれも兼ね備えた樹脂成型品の製造方法。
【請求項6】
前記布として、表面の組織が、縦横いずれにおいても、前記糸の糸密度が10本/インチ〜80本/インチの範囲の糸で組織された編織布を使用する請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記金属薄膜がSn、Bi、Al、Zn、In及びこれらの合金からなる群から選ばれる金属薄膜である請求項5又は6記載の製造方法。
【請求項8】
前記金属薄膜の膜厚が400Å〜600Åである請求項5〜7いずれか1項記載の製造方法。
【請求項9】
前記布が、全面又は部分的に刺繍を施した刺繍布であって、該刺繍が太さ200デニール〜2000デニールの糸で糸密度が10本/インチ〜80本/インチの範囲の糸で組織された刺繍布であり、該刺繍を施した面を前記転写フィルムと接するように積層配置する請求項5〜8いずれか1項記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−240982(P2010−240982A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92249(P2009−92249)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000156042)株式会社麗光 (33)
【出願人】(390010238)株式会社アドユニオン研究所 (6)
【Fターム(参考)】