説明

感光性樹脂組成物、感光性フィルム、リブパターンの形成方法、中空構造の形成方法及び電子部品

【課題】耐湿熱性に優れ、硬化物が高温で高い弾性率を有し、中空構造保持性にも優れる感光性樹脂組成物、並びにそれを用いた感光性フィルム、リブパターンの形成方法、中空構造の形成方法及び電子部品を提供する。
【解決手段】中空構造を有する電子部品において前記中空構造を形成するリブ材または蓋材として用いられる感光性樹脂組成物であって、(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物と(B)光重合開始剤とを含有してなる感光性樹脂組成物及び該感光性樹脂組成物から得られる感光性フィルムを用いることを特徴とする。さらに、中空構造を有する電子部品の信頼性を大幅に向上させるために、(A)成分として、アクリレート化合物又はメタクリレート化合物、具体的には、アミド基を含有するアクリレート化合物又はメタクリレート化合物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐湿熱性に優れ、高温で高い弾性率を有する厚膜形成可能な感光性樹脂組成物並びにそれを用いた感光性フィルム、リブパターンの形成方法、中空構造の形成方法及び電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子の高集積化、小型化が進むことで、急速な大容量化、低コスト化を実現している。表面弾性波(SAW)フィルタに代表される、単結晶ウエハー表面に電極パターンや微細構造を形成して特定の電気的機能を発揮する素子のパッケージは、機能部表面を樹脂等で覆うと特性が変化するため、素子表面の特に機能的に重要な部分に他の物体が接触しないように、中空構造が必要とされる。また、CMOS、CCDセンサーに代表されるイメージセンサーは、撮像の妨げとなる湿気や埃から素子を守り、かつ外部からの光を遮蔽しないために、ガラス蓋にて受光部を覆った中空構造になっている。その他にも、ジャイロセンサーやミリ波レーダー等の高周波用途のMEMS(Micro Electro Mechanical System)においても、可動部分の保護のため中空構造が用いられている。
【0003】
これらの中空構造を必要とする素子は、従来、無機材料の加工・接合により中空構造体を形成している(下記特許文献1参照)。しかしながら、これら無機材料の加工は、部品点数増加や工程数の増加により高コストとなること、構造上の制限から小型化・低背化が困難なことが問題となっている(下記特許文献2、3参照)。
【0004】
この問題を解決するため、無機材料(セラミックス)の代替材として、非感光型の樹脂フィルムによる中空構造形成法が提案されている(下記特許文献4参照)。しかしながら、この方法においても、耐湿熱性や中空部保持性などの信頼性に不安があること、小型化のためにはレーザーによる電極部穴あけが必要な点が問題となり、品質、コストの面で満足のできるものではない。
【0005】
そこで、フォトリソグラフィにより容易に穴あけ加工ができ、かつ耐湿熱性や中空部保持性を有するために、感光性樹脂材料を用いた中空構造の形成方法が報告されている(下記特許文献5、6、7、8及び9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−191181号公報
【特許文献2】特開2001−244785号公報
【特許文献3】特開平8−204482号公報
【特許文献4】特開平6−164292号公報
【特許文献5】特開2008−227748号公報
【特許文献6】特開2004−64732号公報
【特許文献7】特開2008−963号公報
【特許文献8】特開2008−964号公報
【特許文献9】特開2008−250200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献5に記載の弾性波デバイスは、中空構造のリブ材の一部として10μm程度の厚さで感光性樹脂(エポキシ樹脂)を形成するものであり、感光性材料を用いて一回の露光で厚膜のリブ材を形成する方法については開示されていない。また、前記特許文献6に記載の表面弾性波装置は、封止樹脂流入防止堰として感光性樹脂を適用するものであり、前記感光性樹脂の微細なパターン形成性や信頼性については全く考慮されていない。
【0008】
前記特許文献7、8及び9には、中空構造のリブ形成に必要な30μm程度の厚膜の形成が可能である感光性樹脂として感光性エポキシ樹脂が挙げられており、パターン形成性については優れた効果を有するものの、MEMS用デバイスとしての信頼性は不明である。
【0009】
一般的に、感光性樹脂は加熱だけによる熱硬化性樹脂と比べて材料の選択幅が限られるため、耐熱耐湿性や基板への接着性に優れる組成とすることが前記の熱硬化性樹脂の場合より難しいことは良く知られている。例えば前記特許文献5〜9に記載の感光性エポキシ樹脂は、熱硬化エポキシ樹脂よりも吸湿率や透湿率が高くなる傾向にあり、十分な耐湿熱性が得られず、中空構造デバイスとしての所望の信頼性を確保することができないという問題がある。また、前記特許文献5〜9には、感光性エポキシ樹脂について光硬化後の高温における弾性率が具体的な記載がされておらず、製造中や使用中に樹脂の変形、ダレ又は凹み等が発生して、中空構造保持性が損なわれて特性的に大きなダメージに至ることが考えられる。特に、信頼性の確保や他のデバイスとのモジュール化のために、中空構造デバイスを後の工程の封止樹脂によるモールドを行う時に、高温高圧条件において中空構造に圧力がかかった際に、中空が潰れる恐れが高いために、形状及び電気特性の維持ができなくなり大きな問題となる。また、基板上に搭載する時に実施されるはんだリフロー時の高温繰り返しプロセスにおいて、変形だけではなく、クラックや剥離が発生する可能性が高くなるという製造上の問題が発生していた。加えて、前記特許文献5〜9に記載の弾性波デバイスは、フォトリソグラフィによる開口径100μm以上の大きさでパターン形成するものであり、それ以下の微細なパターン形成に関しては開示されておらず、感光性エポキシ樹脂によって微差なパターンが形成できるものなのかについては不明である。
【0010】
一方、高耐熱性及び高信頼性を有する感光性樹脂としては、感光性エポキシ樹脂以外にも感光性ポリイミド樹脂が挙げられるが、一般に、感光性ポリイミド樹脂では10μm以上の厚さの膜を形成することが難しいという問題がある。そのため、中空構造のリブ形成に必要とされる十分な厚さを形成することが困難である。中空構造デバイスの小型化や高精密化においては、厚膜でかつ微細なパターンを有するリブ形成が不可欠であるが、感光ポリイミド樹脂では適用できる材料の選択幅が小さく、この要求に十分に答えることができない。また、感光性ポリイミド樹脂は、中空構造の蓋部に適用した場合に、厚膜形成が困難であるために蓋部が薄いフィルム状とならざるをえず、高温高圧条件に耐えることができない。補強材として剛性の高い材料と併用することも可能であるが、材料費や作成工数が増えるという別の問題が発生する。加えて、感光性ポリイミド樹脂は、所望の物性や特性を実現するために250℃以上で硬化する必要があるため、そのような高温で加熱した場合に応力発生や基板破損のおそれがあるSAWフィルタデバイス等への適用が困難である。このように、従来の感光性ポリイミド樹脂は、中空構造のリブ部と蓋部を形成するには適用範囲が狭められると共に、材料そのものの構造と物性・特性を大幅に改良する必要がある。
【0011】
そこで本発明は、以上のような問題を解決するためになされたものであって、微細なパターン形成性に優れ、硬化物が高温で高い弾性率を有し、耐湿熱性に優れ、中空構造保持性にも優れる感光性樹脂組成物、並びにそれを用いた感光性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記目的を達成するために、中空構造を形成するための蓋材又はリブ材に適用する感光性樹脂組成物の組成について信頼性向上、高弾性率、厚膜形成性及びパターン形成性を総合的に鋭意検討した結果、前記感光性樹脂組成物の構成成分について最適化を行い、光重合性化合物として従来のエポキシ樹脂やポリイミド樹脂ではなく、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物に着目して、その構造を特定することによって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、以下(1)〜(12)に関する。
(1)中空構造を有する電子部品において前記中空構造を形成するリブ材または蓋材として用いられる感光性樹脂組成物であって、(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物と(B)光重合開始剤とを含有してなる感光性樹脂組成物。
(2)前記の(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物が、アクリレート化合物又はメタクリレート化合物である前記(1)に記載の感光性樹脂組成物。
(3)前記のアクリレート化合物又はメタクリレート化合物が、アミド基を含有するものである前記(2)に記載の感光性樹脂組成物。
(4)前記の(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物が、下記一般式(1)で表される請求項1〜3のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。

[式(1)中、R31、R32及びR33は各々独立に、2価の有機基を示し、R34は水素原子又はメチル基を示し、R35及びR36は各々独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示す。]
(5)前記(1)〜(4)に記載の感光性樹脂組成物が、(C)無機フィラーを含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。
(6)硬化後の引張り弾性率が、150℃において0.5GPa以上である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
(7)中空構造を有する電子部品における前記中空構造を形成するための蓋材又はリブ材として用いられる感光性フィルムであって、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の感光性樹脂組成物をフィルム状に成形してなる感光性フィルム。
(8)基板上に、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の感光性樹脂組成物又は前記(7)に記載の感光性フィルムを基板上に積層する感光性樹脂層積層工程と、前記感光性樹脂層の所定部分にマスクを通して活性光線を照射して露光部を光硬化せしめる露光工程と、前記感光性樹脂層の前記露光部以外の部分を現像液を用いて除去する除去工程と、前記感光性樹脂層の前記露光部を熱硬化させて樹脂硬化物を形成する熱硬化工程とを有する、中空構造を形成するためのリブパターンの形成方法。
(9)基板上に中空構造を形成するために設けられたリブパターン上に、中空構造の蓋部を形成するように前記(1)〜(6)のいずれかに記載の感光性樹脂組成物又は前記(7)に記載の感光性フィルムを積層する感光性樹脂層積層工程と、前記感光性樹脂層の所定部分に活性光線を照射して露光部を光硬化せしめる露光工程と、必要に応じて前記感光性樹脂層の前記露光部以外の部分を現像液を用いて除去する場合には現像液を用いて除去する除去工程と、前記感光性樹脂層の前記露光部を熱硬化させて樹脂硬化物を形成する熱硬化工程とを有する、中空構造の形成方法。
(10)前記の基板上に中空構造を形成するために設けられたリブパターンが前記(8)に記載の方法によって形成されたものである請求項9記載の中空構造の形成方法。
(11)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の感光性樹脂組成物又は前記(7)に記載の感光性フィルムを用いて中空構造のリブ部又は蓋部が形成されてなる中空構造を有する電子部品。
(12)表面弾性波フィルタである前記(11)に記載の電子部品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の感光性樹脂組成物は、(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物と(B)光重合開始剤との構成により、厚膜で微細パターン形成ができるばかりでなく、高温での高弾性率化や基板との高接着性という樹脂硬化物の特性向上を図ることができる。そのため、本発明の感光性樹脂組成物は、中空構造を有する電子デバイスに適用したときに、高温の高弾性率化と剛直性及び耐湿熱性を有することから中空構造保持性に優れる。また、本発明の感光性樹脂組成物は(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物として、アクリレート化合物又はメタクリレート化合物を用いることで、厚膜でも光硬化性に優れ、剛直性に優れた樹脂硬化物が得られる。特に、アミド基を含有するアクリレート化合物又はメタクリレート化合物は、高温の高弾性率を発揮するだけではなく、基板との高い接着性を保持できることから、厚膜においても耐リフロークラック性の向上に対して大きな効果を有する。このように、本発明の感光性樹脂組成物は、特定の光重合性化合物と光重合開始剤との組合せによって、より優れた耐湿熱性が得られ、例えば、PCT(プレッシャークッカー)試験のような過酷な高温高湿度雰囲気においても高い接着性を保持し、中空構造デバイスの信頼性を確保できる。
【0015】
加えて、本発明によれば、耐湿熱性に優れ、高温弾性率が高く、封止材モールド時の温度や圧力への耐性があるだけではなく、溶剤現像に対応可能であり、フィルム状でも解像度がよく像形成が可能な感光性樹脂組成物、それを用いた感光性フィルム、リブパターン及び中空構造形成方法並びに電子部品を提供することができる。
【0016】
さらに、本発明の感光性樹脂組成物は、無機フィラーを含有させることにより、高温で高い弾性率を発揮させるだけではなく、剛直性に優れた樹脂硬化物を得ることが容易となり、より厳しい高温高圧条件においても、高い中空保持性を達成することが可能となる。また、本発明の感光性樹脂組成物は、無機フィラーを含有させることによって硬化物の低熱膨張化や吸湿率低減を図ることができるため、中空構造デバイスにおいて高信頼性のリブ部及び蓋部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の電子部品の一つであるSAWフィルタ及びその製造方法の好適な一実施形態を示す図である。
【図2】本発明の別の実施形態である金属ボールが搭載されたSAWフィルタを示す図である。
【図3】本発明の金属ボールが搭載されたSAWフィルタの製造方法を示す図である。
【図4】本発明の電子部品の一つである2層配線層を有するSAWフィルタの配線形成方法を示す図である。
【図5】本発明の別の実施形態である封止材で封止されたSAWフィルタの製造方法を示す図である。
【図6】本発明の別の実施形態である封止材で封止されたSAWフィルタの別の製造方法を示す図である。
【図7】本発明の感光性樹脂組成物について、解像度の評価基準を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、場合により図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
なお、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0019】
本発明においては、中空構造のリブ部と蓋部を光露光によってパターン形成するために、厚膜でも光透過性と微細パターン性に優れると共に、耐熱耐湿性の向上のために、樹脂硬化物の耐熱性が高く、低吸湿性及び低透湿性を有する感光性樹脂であることが必要である。少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物は、光重合反応性が高く、厚膜形成性とパターン形成性の感光特性に優れるだけではなく、樹脂硬化物の耐熱性向上、具体的にはガラス転移温度の向上及び低吸湿率化を図る化学構造を分子中に導入することが容易であるため、本願発明において特に好適な樹脂である。また、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物は、低粘度の材料として選択幅が広いため、リブ部又は蓋部を形成する際に基板上に塗布する感光性樹脂組成物の粘度を任意に調整することが容易である。塗布する感光性樹脂組成物の低粘度化は溶剤を用いても可能であるが、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物を使用する場合、硬化後の樹脂組成物の特性や信頼性に悪影響を与える溶剤の量を低減することができる。加えて、感光性樹脂組成物に無機フィラーの配合量を含有させる場合、例えば、その配合量を多くしても、感光性樹脂組成物の塗工性やフィルム形成性を維持できる。
【0020】
さらに、(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物として、特定の構造を有する化合物を用いることによって、本願発明の効果を高めることができる。以下に、本発明の感光性樹脂組成物について説明する。
【0021】
(感光性樹脂組成物)
本発明の感光性樹脂組成物の基本構成は、(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物と(B)光重合開始剤とからなる。
【0022】
少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する重合性化合物としては、アミド結合を有する重合性化合物が好ましい。アミド結合を有する重合性化合物を用いることにより、高い耐湿熱性や高い接着性を付与することができる。
【0023】
少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する重合性化合物としては、例えば、多価アルコールにα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物、アミド結合及び2以上の少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する重合性化合物、ビスフェノールA系(メタ)アクリレート化合物、グリシジル基含有化合物にα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレート化合物等のウレタンモノマー又はウレタンオリゴマー、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体でエチレン性不飽和基が導入されたもの等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用して使用される。
【0024】
上記多価アルコールにα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物としては、例えば、エチレン基の数が2〜14であるポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレン基の数が2〜14であるポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレン基の数が2〜14でありプロピレン基の数が2〜14であるポリエチレン・ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド(EO)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド(PO)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO,PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用して使用される。
【0025】
上記アミド結合及び少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する重合性化合物としては、エチレン性不飽和基が1分子中に2個以上有するものが硬化膜の高耐熱性と高温での高弾性率化を容易に図ることができるために好ましく、さらに基板等との接着性を向上できる下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【化1】

[式(1)中、R31、R32及びR33は各々独立に、2価の有機基を示し、R34は水素原子又はメチル基を示し、R35及びR36は各々独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示す。]
【0026】
上記一般式(1)で表される重合性化合物は、オキサゾリン基含有化合物とカルボキシル基含有化合物及び/又はフェノール性水酸基含有化合物とを反応させて得られる、アミド結合を有するジ(メタ)アクリレートであることが好ましい。かかる上記一般式(1)で表される重合性化合物は、例えば、下記一般式(2)で表されるビスオキサゾリンと、1分子中にフェノール性水酸基を2つ有する化合物と、(メタ)アクリル酸とを反応させることにより得ることができる。
【0027】
【化2】

一般式(2)中、Yは2価の有機基を示すが、置換基を有していてもよいフェニレン基、置換基を有していてもよいピリジレン基、又は炭素数1〜10の枝分かれしていてもよいアルキレン基であることが好ましい。また、R45及びR46は各々独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示す。
【0028】
上記一般式(2)で表されるビスオキサゾリンとしては、例えば、2,2’−(1,3−フェニレン)ビス−2−オキサゾリン、2,6−ビス(4−イソプロピル−2−オキサゾリン−2−イル)ピリジン、2−2’−イソプロピリデンビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2−2’−イソプロピリデンビス(4−ターシャリーブチル−2−オキサゾリン)等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
上記1分子中にフェノール性水酸基を2つ有する化合物としては、ビフェノール、テトラメチルビフェノール、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシメチルナフタレン、ジヒドロキシジメチルナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルシラン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ジメチルシラン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)ジメチルシラン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)エーテル、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フルオロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)フルオレン等が挙げられる。これらの中でも特に、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンが好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
上述した分子内にアミド結合及び2以上の少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する重合性化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
フェノール性水酸基含有化合物及び/又はカルボキシル基含有化合物とオキサゾリン基含有化合物との反応は、反応温度50〜200℃で行うことが好ましい。反応温度が50℃未満では反応が遅くなり、反応温度が200℃以上では副反応が多く生じる傾向がある。場合により、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の極性有機溶剤中で反応を行ってもよい。
【0032】
上記グリシジル基含有化合物にα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物としては、例えば、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂と、(メタ)アクリル酸と、を反応させて得られるエポキシアクリレート化合物などが挙げられる。また、上記エポキシアクリレート化合物のOH基に、テトラヒドロフタル酸無水物等の酸無水物を反応させて得られる酸変性エポキシアクリレート化合物を用いることもできる。このような酸変性エポキシアクリレート化合物としては、例えば、下記一般式(3)で表されるEA−6340(新中村化学製、商品名)が商業的に入手可能である。
【化3】

[式中、mとnとの比は、100/0〜0/100である。]
【0033】
上記ウレタン結合を有する(メタ)アクリレート化合物としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等のβ位にOH基を有する(メタ)アクリルモノマーと、イソホロンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートメタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ジメチルベンゼンジイソシアネート、エチルベンゼンジイソシアネート、イソプロピルベンゼンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネート、2,7−ナフタレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等のジイソシアネート化合物もしくは、トリフェニルメタン−4,4’,4’’−トリイソシアネート等の3個以上のイソシアネ−ト基を有するポリイソシアネート化合物類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ポリアルキレングリコール、トリメチロ−ルプロパン、ヘキサントリオ−ル等のポリオールの水酸基に対してイソシアネート基が過剰量となる量のポリイソシアネート化合物を反応させてなる付加物類、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などのビューレットタイプ付加物、イソシアヌル環タイプ付加物との付加反応物;EO変性ウレタンジ(メタ)アクリレート;EO又はPO変性ウレタンジ(メタ)アクリレート;カルボキシル基含有ウレタン(メタ)アクリレート;1,4−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、等のジオール化合物、分子中に2個の水酸基と2個のエチレン性不飽和基とを含有する2官能エポキシ(メタ)アクリレート、ポリイソシアネートとの反応物等が挙げられる。
【0034】
上述した少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用される。
【0035】
上記(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物の含有量は、感光性樹脂組成物において無機フィラーを含まない固形分全量(即ち無機フィラーと溶剤は除かれる成分量)を基準として、80〜99.9質量%であることが好ましく、90〜99.5質量%であることがより好ましく、95〜99質量%であることが特に好ましい。(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物の含有量が80〜99.9質量%であると、形成されるリブパターンや蓋の形状が良好であり、十分な樹脂強度が得られて中空構造がつぶれにくい。
【0036】
上記(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物と共に含有される(B)成分である光重合開始剤は、活性光線により遊離ラジカルを生成するものであれば特に制限はなく、例えば、芳香族ケトン、アシルフォスフィンオキサイド、オキシムエステル類、キノン類、ベンゾインエーテル化合物、ベンジル誘導体、2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体、アクリジン誘導体、N−フェニルグリシン、N−フェニルグリシン誘導体、クマリン系化合物が挙げられる。
【0037】
芳香族ケトンとしては、例えば、ベンゾフェノン、N,N’−テトラメチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン(すなわちミヒラーケトン)、N,N’−テトラエチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4−メトキシ−4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オンが挙げられる。
【0038】
アシルフォスフィンオキサイドとしては、例えば、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキシドが挙げられる。
【0039】
オキシムエステル類としては、例えば、1,2−オクタンジオン−1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)]が挙げられる。
【0040】
キノン類としては、例えば、2−エチルアントラキノン、フェナントレンキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2,3−ベンズアントラキノン、2−フェニルアントラキノン、2,3−ジフェニルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−メチルアントラキノン、1,4−ナフトキノン、9,10−フェナントラキノン、2−メチル−1,4−ナフトキノン、2,3−ジメチルアントラキノンが挙げられる。
【0041】
ベンゾインエーテル化合物としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテルが挙げられる。
【0042】
ベンジル誘導体としては、例えば、ベンゾイン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン化合物、ベンジルジメチルケタールが挙げられる。
【0043】
2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体としては、例えば、2−(2−クロロフェニル)−1−〔2−(2−クロロフェニル)−4,5−ジフェニル−1,3−ジアゾール−2−イル〕−4,5−ジフェニルイミダゾール等の2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2−(o−フルオロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(o−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(p−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体が挙げられる。
【0044】
アクリジン誘導体としては、例えば、9−フェニルアクリジン、1,7−ビス(9,9’−アクリジニル)ヘプタンが挙げられる。
【0045】
(B)光重合開始剤は、常法によって合成してもよく、市販のものを入手してもよい。入手可能な(C)光重合開始剤としては、例えば、イルガキュア−369、イルガキュア−907、イルガキュア−651、イルガキュア−819、(以上、いずれもチバスペシャリティーケミカルズ(株)製、商品名)、オキシムエステル結合を有する化合物等が挙げられる。
【0046】
上述した(B)光重合開始剤の中でも、特に光硬化性の向上や高感度化の観点から、オキシムエステル結合を有する化合物が好ましい。オキシムエステル結合を有する化合物としてより具体的には、下記式(4)で示される1,2−オクタンジオン−1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−2−(O−ベンゾイルオキシム)(商品名:OXE−01、チバスペシャルティーケミカルズ社製)、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]エタノン1−(O−アセチルオキシム)(商品名:OXE−02、チバスペシャルティーケミカルズ社製)、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−[O−(エトキシカルボニル)オキシム](商品名:Quantacure−PDO、日本化薬社製)等が挙げられる。
【化4】

【0047】
上記(B)光重合開始剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
上記(B)光重合開始剤の含有量は、感光性樹脂組成物の固形分全量を基準として、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましく、1〜5質量%であることが特に好ましい。(B)光重合開始剤の含有量を0.1〜20質量%とすることで、感光性樹脂組成物の感度を向上させ、レジスト形状の悪化を防ぐことができる。
【0049】
本発明の感光性樹脂組成物は、(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物と(B)光重合開始剤に、さらに(C)無機フィラーを含有させることができる。無機フィラーとしては、体積平均粒径10nm〜50μmの範囲にあるシリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、セラミック微粉、タルク、マイカ、窒化ホウ素、カオリン、又は硫酸バリウム等を使用することができる。粒径が10nm未満であると、感光性樹脂組成物中の無機フィラーの凝集が起こりやすいため、均一分散が困難になり、微細パターン形成性が大幅に低下し、加えて硬化物の物性や特性のバラツキが大きくなる場合がある。逆に、粒径が50μmを超えると、無機フィラによる照射光の散乱が大きくなるため、厚膜形成性や微細パターン形成性が低下する場合がある。
【0050】
本発明の感光性樹脂組成物に含有される無機フィラーの形状は、球状、破砕状、針状又は板状のいずれも使用することができ、粒径に応じて所望の形状を選ぶことができる。例えば、体積平均粒径が10nm〜1μmの範囲で、球状又は球形に近い形状を有する小粒径の無機フィラーは、感光性樹脂組成物の高温における弾性率を高めるだけではなく、硬化物の機械的強度を向上させることができると共に、硬化前の感光性樹脂組成物にチクソ性を付与してその塗布性を向上させるという効果を有する。そのため、小粒径の無機フィラーは、光透過性や光吸収性に悪影響を与えないで、本発明の感光性樹脂組成物の物性や特性をわずかでも向上したいときに使用される。また、体積平均粒径が1μm〜50μmの範囲にある大粒径の無機フィラーは、感光性樹脂組成物の高温における弾性率を大幅に高めることができるため、中空構造の形状維持性に対して大きな効果を発揮する。さらに、形状として板状を有する無機フィラーは、感光性樹脂組成物の硬化物の吸湿率や透湿率を大幅に低減できる。このように、中空構造のリブ部や蓋部用に適用する本発明の感光性樹脂組成物においては、形状として板状を有する大粒径の無機フィラーを含有させることが好適である。
【0051】
本発明は、高温高圧下における中空部保持性を確保すると共に、耐湿熱性を有する高信頼性の感光性樹脂組成物を提供することが主な目的であるので、特に、平均アスペクト比が30〜100であり、かつ体積平均粒子径が5〜50μmである無機フィラーを含有させることが好ましい。このようなアスペクト比及び体積平均粒子径を有する無機フィラーを用いることにより、その樹脂硬化物が低い吸湿性と水分透過性及び優れた剛直性を発現することができ、例えば、高温での封止樹脂モールド圧力に耐えるような中空部保持性を得ることができる。また、感光性樹脂組成物に無機フィラーを含有させた場合、本発明の必須の感光特性である厚膜形成性と微細パターン形成性は低下する傾向にあるが、無機フィラーの形状と粒径を上記のアスペクト比及び体積平均粒子径に規定することにより、それらの低下を抑えることができる。
【0052】
本発明において、アスペクト比は、無機フィラーの長径に対する厚みの比(長径/厚み)として定義するものであり、無機フィラー面内の(長径/短径)を意味するものではない。無機フィラーの形状としては、一般に板状(平板状、円板状、扁平状及び鱗片状を含む)と呼ばれる形状が好ましく、本発明では鱗片状がより好ましい。前記無機フィラーのアスペクト比は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて算出されるが、本発明では無機フィラーの体積平均粒子径が5μm以上であるため走査型電子顕微鏡によって求めることができる。すなわち、ここで、平均アスペクト比の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察で行なう。まずはSEMの試料台に無機フィラーを固着させ、一つの粒子が視野に入る最大限まで観察倍率を高くして、形状を観察し、その粒子の観察面積の最も大きな面(即ち比較的平滑で広がりのある面、例えばマイカ等ではその劈開面;X面とする)の方向から画像を取り込む(撮影する)。次に、試料台を回転させて、先程とは異なり、その粒子の観察面積の最も小さな面(即ち粒子が板状であればその板の厚みとして観察される面、例えばマイカ等では積層断面(破断面);Y面とする)の方向から画像を取り込む(撮影する)。このようにして得られた画像(写真)から、まずは前記X面の粒子画像についてはこれを内接する最小の円を設定してその直径を計測して前記粒子の「長径」と定義し、前記Y面の粒子画像については二本の平行線が最も近接してかつ粒子を挟み込むようにして引いたその平行線の間隔を「厚み」と定義し、前記長径を厚みで除して個々の粒子のアスペクト比を求める。この操作を、任意に抽出した100個の無機フィラーに対して行ない、平均値を算出することで平均アスペクト比とする。本発明において、平均アスペクト比が30未満であると、感光性樹脂組成物中の光散乱が小さくなることから、感光特性は良くなるものの、感光性樹脂への吸湿や透湿の低減効果がそれほど得られず、加えて、高弾性率化の効果も小さくなり、例えば、高温での封止樹脂モールド圧力に耐えるような中空部保持性を得ることができない。逆に、平均アスペクト比が100を超えると厚膜形成性や微細パターン形成性等の感光特性が極端に悪くなる。
【0053】
本発明において、無機フィラーの平均粒子径は、レーザー回折粒度分布計(例えば、日機装製、商品名:マイクロトラックMT3000)により、MV値(Mean Volume Diameter :体積平均値)として求めることができる。無機フィラーは、分散剤としてホスフィン酸塩類を用いて水中に分散させて測定解析することができる。本発明において、前記の無機フィラーの体積平均粒子径が5μm未満の場合は、前記アスペクト比が小さい時と同じ様に、感光特性は良くなるものの、感光性樹脂への吸湿や透湿の低減効果がそれほど得られず、加えて、高弾性率化の効果も小さくなる。逆に、体積平均粒子径が50μmを超えると、厚膜形成性や微細パターン形成性等の感光特性が極端に悪くなる恐れがある。
【0054】
本発明は、無機フィラーの平均アスペクト比と体積平均粒子径の両者がそれぞれ、30〜100と5〜50μmの範囲を満たす必要がある。平均アスペクト比が30〜100の範囲であっても、体積平均粒子径が5μm未満又は50μmを超える場合は、厚膜形成性や微細パターン形成性等の感光特性と樹脂硬化物の耐湿熱性及び高弾性率化との両立を図ることができない。また、無機フィラーの体積平均粒子径が5〜50μmの範囲内であっても、平均アスペクト比が30未満又は100を超える場合は、前記と同様に、本願発明の効果を奏することができない場合がある。
【0055】
本願発明は、中空構造デバイスにおいて、製造中及び使用中の形状維持性と信頼性向上の点に特に重点が置かれる。そのため、無機フィラーは平均アスペクト比及び体積平均粒子径がそれぞれ30〜100及び5〜50μmの範囲内であれば本願発明の効果を奏することができるが、平均アスペクトを50を超え100以下に設定した場合に、感光特性の大幅な低下を伴わないで、前記の形状維持性と信頼性向上を大幅に向上できるために、特に好適である。その場合、無機フィラーの体積平均粒径は5〜50μmの範囲内であれば、本願発明の効果を奏する上で問題は生じない。
【0056】
本発明の感光性樹脂組成物において、平均アスペクト比が30〜100であり、かつ体積平均粒子径が5〜50μmである無機フィラーの具体的なものとしては、例えば、タルク、マイカ、窒化ホウ素、カオリン、硫酸バリウム等が挙げられるが、中でも鱗片状であるマイカが好ましい。マイカは、アスペクト比を大きくでき、かつ形状の均一性が高いために、感光性樹脂組成物への水分の透過性を低減すると共に、高弾性率化によるモールド耐性を上げるだけではなく、感光特性の低下を他の無機フィラーよりも抑えるという効果を有する。また、マイカは合成マイカ等があり、他の天然物無機フィラーとして不純物の少ないものが得られるため、光硬化性に対する阻害を小さくできる。加えて、無機フィラーに含まれる不純物に起因する耐湿性低下を抑えることができるため、中空構造デバイスの信頼性を大幅に向上できるという効果を有する。
【0057】
本発明において、無機フィラーを前記のような平均アスペクト比と体積平均粒子径とするには、その特性を有する市販品を購入してそのまま使用しても良いし、複数の市販品を自ら混合して加工して使用しても良いし、市販品を篩にかけて分級するなどして加工して使用しても良い。例えば、マイカの市販品としては、株式会社山口雲母工業所製の各種マイカが使用でき、具体的な例としては、A−51S(平均アスペクト比85、体積平均粒子径52μm)、SYA−31RS(平均アスペクト比90、体積平均粒子径40μm)、SYA−21RS(平均アスペクト比90、体積平均粒子径27μm)、SJ−005(平均アスペクト比30、体積平均粒子径5μm)などを、そのまま又は加工して使用することができる。
【0058】
本発明において、無機フィラーの含有量は、本発明の感光性樹脂組成物を中空構造デバイスの蓋材として適用する場合には通常厳密なパターン精度が求められることがないため、樹脂硬化物の物性と厚膜形成性や微細パターン形成性等の感光特性とのバランスによって決めることができる。しかし、中空構造デバイスのリブ材として適用する場合は、通常微細なパターン精度が求められるため、前記の無機フィラーの含有量は、感光性樹脂組成物の固形分全量を基準として、0.5〜50質量%であることが好ましく、2〜50質量%であることがより好ましく、5〜45質量%であることがさらに好ましく、10〜40質量%であることが特に好ましい。無機フィラーの含有量が0.5〜50質量%であることにより、感光性樹脂組成物の厚膜形成やパターン形状が良好となり、十分な樹脂強度が得られると共に、樹脂硬化物として物性や特性をわずかでも向上させることができる。本発明の感光性樹脂組成物を蓋材に適用する場合では、無機フィラーの含有量を0.5〜60質量%に設定することが好ましく、2〜50質量%であることがより好ましく、5〜40質量%であることが特に好ましい。
【0059】
本発明の感光性樹脂組成物において、平均アスペクト比が30〜100であり、かつ体積平均粒子径が5〜50μmである無機フィラーを含有させる場合は、その無機フィラーの含有量は、感光性樹脂組成物の固形分全量を基準として、5〜50質量%であることが好ましく、20〜50質量%であることがより好ましく、20〜45質量%であることがさらに好ましく、20〜40質量%であることが特に好ましい。前記の範囲にある平均アスペクト比と体積平均粒径を有する無機フィラーの含有量が20〜50質量%であることにより、感光性樹脂組成物の厚膜形成性やパターン形成性に悪影響を与えることなく、十分な樹脂強度と高温における高弾性率化だけではなく、低吸湿性や低透湿性等の樹脂硬化物として所望の物性や特性を得ることができる。本発明において、平均アスペクト比が30〜100であり、かつ体積平均粒子径が5〜50μmである無機フィラーを含有する感光性樹脂組成物を蓋材に適用する場合では、フィルム塗工性の観点から無機フィラーの含有量を5〜60質量%に設定することが好ましく、強度の観点から20〜50質量%であることがより好ましく、解像度の観点から20〜40質量%であることが特に好ましい。
【0060】
また、本発明の感光性樹脂組成物には、さらに(D)増感剤を添加することができる。(D)増感剤としては、例えば、ピラゾリン類、アントラセン類、クマリン類、キサントン類、オキサゾール類、ベンゾオキサゾール類、チアゾール類、ベンゾチアゾール類、トリアゾール類、スチルベン類、トリアジン類、チオフェン類、ナフタルイミド類などが挙げられる。これらの(D)増感剤は、1種を単独で又は2種以上を混合して使用される。
【0061】
上記(D)増感剤の含有量は、感光性樹脂組成物の固形分全量を基準として0.1〜1質量%であることが好ましい。(D)増感色素の含有量が上記範囲であると、感光性樹脂組成物の感度が向上したり、溶剤との相溶性が良好となる。
【0062】
また、上述の感光性樹脂組成物には、さらに(E)耐熱性高分子を添加することができる。(E)耐熱性高分子としては、例えば、耐熱性の高い、ポリイミド、ポリオキサゾール及びそれらの前駆体、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等のノボラック樹脂、ポリアミドイミド、ポリアミドなどが加工性の点から好ましい。これらは1種又は2種以上を混合して使用される。
【0063】
上記(E)耐熱性高分子の含有量は、感光性樹脂組成物の固形分全量を基準として1〜50質量%であることが好ましい。(E)耐熱性高分子の含有量が上記範囲であると、感光性樹脂組成物の耐熱性や樹脂強度が良好であり、また現像性も良好である。
【0064】
また、上述の感光性樹脂組成物には、さらに(F)熱架橋材を添加することができる。(F)熱架橋材としては、例えば、エポキシ樹脂、α位がメチロール基、アルコキシメチル基で置換されたフェノール樹脂、N位がメチロール基及び/又はアルコキシメチル基で置換されたメラミン樹脂、尿素樹脂等が硬化後樹脂強度の点から好ましい。これらは1種又は2種以上を混合して使用される。
【0065】
上記(F)熱架橋材の含有量は、感光性樹脂組成物の固形分全量を基準として1〜20質量%であることが好ましい。(F)熱架橋材の含有量が上記範囲であると、感光性樹脂組成物の耐熱性や樹脂強度が良好であり、現像性も良好である。
【0066】
また、上述の感光性樹脂組成物には、さらに(G)熱酸発生剤を添加することができる。(G)熱酸発生剤としては、例えばオニウム塩等の強酸と塩基とから形成される塩や、イミドスルホナートなどが挙げられる。オニウム塩としては、例えば、アリールジアゾニウム塩、ジフェニルヨードニウム塩のようなジアリールヨードニウム塩、ジアリールヨードニウム塩、ジ(t−ブチルフェニル)ヨードニウム塩のようなジ(アルキルアリール)ヨードニウム塩、トリメチルスルホニウム塩のようなトリアルキルスルホニウム塩、ジメチルフェニルスルホニウム塩のようなジアルキルモノアリールスルホニウム塩、ジフェニルメチルスルホニウム塩のようなジアリールモノアルキルヨードニウム塩、及びトリアリールスルホニウム塩がある。
【0067】
上記(G)熱酸発生剤の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜30質量部が好ましく、0.2〜20質量部がより好ましく、0.5〜10質量部がさらに好ましい。
【0068】
また、上述の感光性樹脂組成物は、さらに(H)熱ラジカル発生剤を添加することができる。(H)熱ラジカル発生剤としては、例えば、t−ブチルクミルパーオキサイド(パーブチルC)、n−ブチル4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)バレレート(パーヘキサV)、ジクミルパーオキサイド(パークミルD)などの過酸化物が挙げられる。
【0069】
上記(H)熱ラジカル発生剤の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜30質量部が好ましく、0.2〜20質量部がより好ましく、0.5〜10質量部がさらに好ましい。
【0070】
本実施形態の感光性樹脂組成物は、上述した(A)光重合性化合物とともに、(B)光重合開始剤、必要に応じて(C)無機フィラー、並びにその他の材料、例えば(D)増感剤、(E)耐熱性高分子、(F)熱架橋材、(G)熱酸発生剤、(H)熱ラジカル発生剤を溶媒とともに混合することにより得ることができる。
【0071】
このときに用いられる溶媒としては特に制限されないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどを主成分とする極性溶媒や、γ−ブチロラクトンなどの溶媒が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で又は2種以上の混合物として用いられる。
【0072】
また、感光性樹脂組成物には、必要に応じて、感光性樹脂組成物と基板との接着性を向上させるために、接着助剤を添加してもよい。接着助剤としては、例えば、γ−グリシドキシシラン、アミノシラン、γ−ウレイドシラン等のシランカップリング剤等が挙げられる。
【0073】
(感光性フィルム)
前記感光性樹脂組成物は、ポリエチレンテレフタレートなどの有機フィルムを支持フィルムとして、公知の種々の方法により塗布し、乾燥して溶剤を除去することにより感光性樹脂層を形成した2層の感光性フィルム(ドライフィルムレジスト)とすることができる。また、さらに、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等を保護フィルムとしてその上に積層した3層の感光性フィルムとしても良い。また、感光性樹脂層に自己支持性があれば支持フィルムを剥がして1層の感光性フィルムとすることも可能である。
【0074】
本発明の感光性フィルムは、中空構造の蓋部として使用する場合は、後で述べるように、支持フィルムは光照射による光重合後に剥がして使用しても良いし、そのまま感光性樹脂組成物と共に蓋材料として使用することができる。本発明では、前記の支持フィルムの代わりに、透明又は半透明の耐熱性プラスチック(熱可塑性のエンジニアリングプラスチック又は3次元網目構造を有する熱硬化性樹脂等)、ガラス又はセラミック等を用いることができる。これらの耐熱性プラスチック、ガラス又はセラミックは、薄膜又は薄板状のものを使用することによって、前記の支持フィルムと同じ様に、感光性樹脂組成物を積層したフィルム又は薄板とすることができる。また、これらの耐熱性プラスチック、ガラス又はセラミックは、蓋の形状維持性や剛性を向上させると共に補強する機能を有する。
【0075】
感光性フィルムとする場合、その厚みに特に制限はないが、支持フィルム又は支持用薄板は10μm〜3mmが好ましく、感光性樹脂層は1〜500μmが好ましく、保護フィルムは10〜200μmが好ましい。前記の支持フィルム又は支持用薄板は、中空構造デバイスの形状と厚さ及び製造の点からそれらの厚さが適宜決められるため、使用できる範囲は広くなっている。
【0076】
(リブパターンの形成方法)
次に、本実施形態のリブパターン形成方法について説明する。本実施形態のリブパターン形成方法においては、上述の感光性樹脂組成物又は感光性フィルムを用いて形成される感光性樹脂層(感光性樹脂膜)を基板上に積層する積層工程と、該感光性樹脂層の所定部分にマスクを通して活性光線を照射して露光部を光硬化せしめる露光工程と、感光性樹脂層の前記露光部以外の部分を現像液を用いて除去する除去工程と、感光性樹脂層の前記露光部を熱硬化させて樹脂硬化物を形成する熱硬化工程とを経て、所望のパターンを形成することができる。
【0077】
以下、各工程について説明する。
【0078】
上記積層工程においては、上述の感光性樹脂組成物又は感光性フィルムを支持基板上に塗布及び乾燥、又は、積層することにより、感光性樹脂膜を形成することができる。支持基板としては、例えば、ガラス基板、半導体、金属酸化物絶縁体(例えばTiO、SiO等)、窒化ケイ素、セラミック圧電基板等が挙げられる。また、感光性樹脂組成物の塗布方法としては、スピンナーを用いた回転塗布、スプレー塗布、浸漬塗布、ロールコーティング等の方法が挙げられるが、これらに限定されない。感光性フィルムの場合は、ラミネーター等を用いて積層することができる。
【0079】
感光性樹脂組成物の塗布膜厚は、塗布手段、感光性樹脂組成物の固形分濃度及び粘度等によって異なるが、通常、乾燥後の被膜(感光性樹脂層)の膜厚が1〜500μm、好適には1〜300μmになるように塗布される。乾燥後の被膜の膜厚が1〜300μmになるようにするためには、上述の感光性樹脂組成物を溶剤で溶解させ、粘度を0.5〜20Pa・sに調節することが好ましく、1〜10Pa・sに調節することがより好ましい。また、感光性樹脂組成物の固形分濃度は、20〜80質量%にすることが好ましく、塗布性の観点から30〜70質量%にすることがより好ましい。得られる被膜の膜厚が、特に300μm以下であると、解像度が良好である。感光性フィルムを使用する場合は、感光性樹脂層の膜厚を予め上記の膜厚となるように形成しておくことができる。
【0080】
その後、ホットプレート、オーブンなどを用いて60〜120℃の範囲で1分〜1時間乾燥することにより、支持基板上に感光性樹脂膜を形成することができる。
【0081】
次に、露光工程では、支持基板上で被膜となった感光性樹脂膜に、必要に応じて所望のパターンを有するネガマスクを介して所定部分に活性光線を照射し、露光部を光硬化せしめる。
【0082】
ここで、露光に用いられる活性光線としては、紫外線、可視光線、電子線、X線等が挙げられる。これらの中でも特に、紫外線、可視光線が好ましい。
【0083】
次に、除去工程として、感光性樹脂層の露光部以外の部分(未露光部)を有機溶剤系若しくはアルカリ水溶液系の現像液を用いて除去することによりパターンを形成した後、感光性樹脂層の露光部を熱硬化させ、樹脂硬化物からなるパターンを形成する。
【0084】
ここで、現像液としては、N−メチルピロリドン、エタノール、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートのような有機溶剤を使用することができる。また、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ケイ酸ナトリウム、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどのアルカリ水溶液を使用することができる。これらの中でも、現像速度の点から、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートを用いることが好ましい。
【0085】
また、現像後、必要に応じて、水や、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコールや、n-ブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテルアセテート等でリンスすることが好ましい。
【0086】
さらに、前記感光性樹脂層の前記露光部を熱硬化させて樹脂硬化物を形成する熱硬化工程を行う。現像後の熱硬化(キュア)は、温度を選択して段階的に昇温しながら1〜2時間実施することが好ましい。熱硬化は、120〜240℃で行うことが好ましい。加熱温度を段階的に昇温する場合、例えば、120℃、160℃で各10〜50分(好ましくは約30分間)熱処理した後、220℃で30〜100分(好ましくは約60分間)熱処理を行うことが好ましい。
【0087】
(中空構造の形成方法)
上述した形成方法により形成される樹脂硬化物からなるリブパターンは、十分な膜厚を有しており、セラミック基板、Si基板、ガラス基板、金属基板などを蓋として被せることで、中空構造を形成することもできる。
【0088】
本発明は、予め本発明の感光性樹脂組成物又はこれをフィルム化した感光性フィルムを、上記の中空構造リブ部としてだけではなく、蓋部として用いることができる。例えば、前記感光性樹脂組成物を一旦フィルム化したものや、予め感光性フィルムとしたものを、上述のパターン上部に貼り付け積層してから、露光工程、必要に応じて現像工程(除去工程)、熱硬化工程を経て中空構造を形成することができる。本発明の感光性樹脂組成物又は感光性フィルムを蓋として適用する時は、必ずしも現像工程を経る必要はないが、次の場合には、現像工程を採用することによって本発明の中空構造デバイスの活用性が向上する。例えば、蓋の形状を制御したい場合、又は複数の中空構造デバイスを同時に一括で製造する際に、個片の中空デバイスの蓋に相当する大きさだけをマスクを通して露光した後、その周辺の未露光部分を現像することによって、個片に分割する場合等である。
【0089】
積層工程、露光工程、除去工程及び熱硬化工程は、前記リブパターンの形成方法の説明で説明した方法と同様に行うことが可能である。蓋部を形成するための感光性樹脂層の膜厚は5〜500μmが好ましく、10〜400μmがより好ましい。硬化工程を経て形成される蓋部の最終的な膜厚は、パターン形成性及びパターンの強度の観点から10μm〜3mmが好ましく、20μm〜2mmがより好ましい。前記の蓋部の厚さは、本発明の感光性樹脂組成物又は感光性フィルムの厚さだけでなく、上記で述べたように、支持用のフィルム又は薄板をそのまま蓋材として残すことによって、所望の厚さに調整することができる。
【0090】
また、蓋部とリブパターンとの接着は、例えば、プレス機やロールラミネーター、真空ラミネーターを用いた熱圧着による接着等により行うことができる。なお、本発明においては、リブパターンは本発明の感光性樹脂組成物を用いないで作成し、蓋部のみを本発明の感光性樹脂組成物を用いて形成することもできるが、リブパターン及び蓋部の双方が本発明の感光性樹脂組成物を用いると、その間の接着性に優れるので好ましい。特に、リブパターン及び蓋部の双方に使用する感光性樹脂組成物として、光重合性化合物の種類や無機フィラーの含有量が近くものを使用することによって接着性の向上を一層図ることができる。
【0091】
以上のように、本発明によれば、中空構造形成工程において、フォトリソグラフィにより厚膜のリブパターンを一括形成でき、さらにその上からフィルム状に形成した感光性樹脂組成物の硬化物(もしくは、セラミック等の封止用基板)を蓋部として封止することにより、中空構造を形成することができる。また、この中空空間内は周囲の感光性樹脂組成物により防湿され、かつ、高温においても中空部が保持されるため、SAWフィルタ、CMOS・CCDセンサー、MEMS等の中空構造を必要とする電子部品に適用可能であり、電子部品の小型化、低背化、高機能化に有用である。本発明の感光性樹脂組成物は、特にSAWフィルタの中空構造のリブ部及び蓋部形成用として適しており、高信頼性を達成できるという点で特に蓋部形成用として適している。
【0092】
(SAWフィルタ及びその製造方法)
【0093】
上記SAWフィルタ及びその製造方法について説明する。図1(a)〜(c)は、本発明のSAWフィルタ100及びその製造方法の好適な一実施形態を示す工程図である。
【0094】
まず、図1(a)に示すように、櫛形電極20が形成された基板10上に本発明の感光性樹脂組成物を用いて形成する感光性樹脂層32を積層する。積層方法は、前記リブパターンの形成方法で記載した方法と同様の方法を用いることができる。
【0095】
塗布膜厚は、前記リブパターンの形成方法と同様に、通常、乾燥後の被膜(感光性樹脂層)の膜厚が1〜300μmになるように塗布される。
【0096】
基板10上に感光性樹脂組成物を塗布した後、被膜を乾燥して、感光性樹脂層32を得る。乾燥は、オーブン、ホットプレートなどを使用し、60〜120℃の範囲で1分〜1時間行うことが好ましい。
【0097】
次に、図1(a)に示すように、必要に応じて所望のパターンを有するネガマスク60を介して感光性樹脂層32の所定部分に活性光線を照射し、露光部を光硬化せしめる。ここで、露光に用いられる活性光線としては、紫外線、可視光線、電子線、X線などが挙げられる。これらの中でも特に、紫外線、可視光線が好ましい。
【0098】
次に、図1(b)に示すように、感光性樹脂層32の露光部以外の部分(未露光部)を有機溶剤系の現像液を用いて除去することによりパターンを形成した後、感光性樹脂層32の露光部を熱硬化させ、樹脂硬化物からなるリブ部30を形成する。これらの露光工程と、除去工程と、熱硬化工程とは、前記リブパターンの形成方法と同様の方法を用いることができる。
【0099】
次に、図1(c)に示すように、リブ部30上に蓋部40を設けて中空構造を形成する。ここで、蓋部40は、例えば、予め本発明の感光性樹脂組成物を成膜してフィルム化したものや予め感光性フィルムとして成形したものを用いて作製することができる。すなわち、これらのフィルムを、リブ30の上部に貼り付けしてから、露光、現像、熱硬化して蓋部40を形成することができる。
【0100】
また、蓋部40とリブ部30との接着は、例えば、ロールラミネーターを用いた熱圧着による接着等により行うことができる。
【0101】
なお、蓋部40は、本発明の感光性樹脂組成物以外の材料で構成されたものであってもよい。ただし、蓋部40は、耐湿熱性に優れ、且つ、吸水率の低い材料で構成されていることが好ましい。また、蓋部40としては、セラミック等の封止用基板を用いることもできる。この場合は少なくとも、本発明の感光性樹脂組成物により形成されたリブパターンを、SAWフィルタの中空構造形成用のリブ材として用いる。
【0102】
一方、本発明の感光性樹脂組成物又は感光性フィルムをSAWフィルタの中空構造形成用の蓋部に用いる場合は、リブ部は本発明の感光性樹脂組成物を用いる以外の方法で形成されていてもよい。
【0103】
本発明の感光性樹脂組成物又は感光性フィルムを用いてリブ部及び蓋部の形成を行った後、電極20と基板10の内部及び電極20の反対側表面に配線されている導体との電気的接続を行うためにメッキの形成及び金属ボールの搭載等が行われて得られたSAWフィルタを図2に示す。図2に示すSAWフィルタは、本願発明の形状維持性及び耐熱性と剛性に優れる感光性樹脂組成物又は感光性フィルムを適用することによって、はんだボール搭載時の高温リフロー条件でも、中空構造デバイスの特性に影響を及ぼすような変形は起こすことはない。
【0104】
上記基板10としては、例えば、タンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板、ガリウム砒素基板等の圧電性基板が用いられる。上記櫛形電極20の材質としては、例えば、アルミニウム等が用いられる。上記基板の内部と表面に形成される配線の材質としては銅、アルミなどの金属導体やセラミック基板の場合は、金、銀、白金又はパラジウム等の金属導体が用いられる。また、上記金属ボールは、例えば、スズ−銀−銅や鉛−スズ等のはんだ材、金又は表面を金属導体で被覆した樹脂ボール等が用いられる。
【0105】
図3は、本発明の電子部品の一つであるSAWフィルタの好適な別の実施形態を示す模式断面図及びその製造方法を示したものである。図3には、UU露光のみで本発明のリブ部と蓋部と形成する方法及びUV露光とレーザー穴開けの両者を用いて本発明のリブ部と蓋部と形成する方法を示している。レーザー穴開けは、蓋部の内部に導体を成形するために使用される。
【0106】
図3において、まず、UV露光のみでリブ部と蓋部を形成する方法を説明する。図3(a)〜(b)の工程を経て、図1に示したものと同じ方法によって基板10上のアルミ櫛形電極20と電気的に接続している配線用導体81上に中空空間を形成するためのリブ部30を形成する。ここで、リブ部30の内部には、内部導体を形成するための穴35がUV露光後、現像工程を経ることによって形成されている。その後、支持フィルム上に積層された本発明の感光性樹脂組成物又は感光性フィルム41を前記のリブ部30上に塗布又は設置して、マスクを通してUV露光を行う(図3の(c))。前記のマスクは、内部導体を形成するための穴35の径に相当する部分だけが光を透過しないように遮蔽されているため、それ以外の箇所が光硬化した蓋部40を形成する。蓋部40の未露光部分は、先に形成されたリム部内部の穴35と完全に貫通させるために、現像を行った後、デスミア処理等を行う(図3の(d))。さらに、メッキ法等によって、リブ部及び蓋部の内部に形成された穴35に内部導体を形成すると共に、蓋部の表面に配線を形成する(図3の(e))。本発明では、リブ部及び蓋部の内部に形成された穴35には、メッキ法だけではなく、金属ペースト又は金属粉体を含有する樹脂ペーストを用いて導体充填法によって内部導体を形成することができる。これらの工程を経て、基板10上のアルミ櫛形電極20に配線されている導体81は、蓋部の表面に形成された配線用導体と電気的な接続が行われる。最後に、蓋部の表面にリフロー等によって金属ボール70を搭載して、本発明の中空構造を有する電子部品であ
るSAWフィルターを得る(図3の(f))。
【0107】
次に、図3において、UV露光とレーザー穴開けの両者を用いて本発明のリブ部と蓋部と形成する方法と説明する。基本的に、リブ部と蓋部の形成方法はUV露光のみの場合と同じであるが、内部導体を形成するための穴35を前記蓋部の内部に形成する際に、UV露光ではなく、レーザーによる穴開け方法を適用する点で異なる。すなわち、図3の(c)において、支持フィルム上に積層された本発明の感光性樹脂組成物又は感光性フィルム41を前記のリブ部30上に塗布又は設置した後、図3の(d)の工程において、レーザーによって蓋部の内部に内部導体を形成するための穴35を形成する。レーザーによる穴開け方法は、UV露光とは異なりマスクによる露光や現像を必要としないために、任意のパターンを自由に且つ短時間で形成する場合に適用することができる。レーザーとしては、YAGレーザー、炭酸ガスレーザー、エキシマレーザー等の公知のものを使用することができる。本発明におけるSAWフィルタの製造方法は図3に示すものに限定されない。UV露光又はレーザー照射は、リブ部の厚さ、リブ部の内部に形成される内部導体の形状及び蓋部表面配線パターンの経常に応じて、どちらかを適宜選択して使用することができる。
【0108】
図3においては、蓋部の表面に一層の表面配線層が形成されているSAWフィルタの製造方法を示したが、本発明では前記蓋部に相当する部分に2層以上の配線層を有することもできる。図4は、蓋部に相当する部分に2層の配線層を有するSAWフィルタの配線形成方法を示す。図3の(a)〜(e)に示すものと同じ方法でSAWフィルタの蓋部の表面に配線導体81を形成した後、本発明の蓋部用感光性樹脂組成物41を塗布した後(図4の(a))、外部接続用電極の径に相当する箇所が遮光されたマスク60を用いて紫外線露光を行い(図4の(b))、溶剤現像によって蓋部40の最上層に外部接続用電極用の穴を形成する(図4の(c))。次に、メッキ法によって外部接続用電極を形成した後、最後に、蓋部の表面にリフロー等によって金属ボール70を搭載して、本発明の中空構造を有する電子部品であるSAWフィルタを得る(図4の(d))。その際に、金属ボールは、外部電極用電極の酸化防止金属膜(Ni、Au等)を介して直接搭載するが(図4の(d)の左図)、フォトレジスト等を用いて蓋部の表面に配線層を再度形成した後、金属ボールを搭載する方法を採用しても良い(図4の(d)の右図)。
【0109】
以上の工程を経て、SAWフィルタの中空構造作製を完了する。
上記のように作製されたSAWフィルタは、封止材により封止される場合は一般的に以下の工程で行うが、これに限定されるものではない。
(1)SAWフィルタを成形金型にセットする。
(2)成形機のポットに固形状の封止材タブレットをセットする。
(3)金型温度150〜180℃の条件で封止材を溶融し、圧力をかけて金型に流し込む(モールド)。
(4)30〜120秒間加圧して封止材が熱硬化後に金型を開き、成形品を取り出すことで、SAWフィルタの封止が完了する。
【0110】
図5に、別の実施形態である封止材で封止されたSAWフィルタの製造方法の一例を示す。図5において、まず、金属ボール70を搭載したSAWフィルタ素子を図3に示す方法と同じ方法で作製する(図5の(a)と(b))。ここで、SAWフィルタ素子は、リブ部30が中空構造の外枠だけではなく内部にも形成される構造を有している。次に、SAWフィルタ素子をセラミック基板やプリント基板(フレキシブルプリント基板も含む)等の配線基板12に搭載して、リフロー等によって配線基板12との電気的な接続を行う(図5の(c)と(d))。その後、樹脂封止材90を用いてトランンスファモールド法で中空構造部を一括に封止して(図5の(e))、ダイシング(切断)等の方法によって個片に分けてSAWフィルタ100を得る (図5の(f))。このようにして得られるSAWフィルタ100は、片面に位置する配線基板12に外部接続用電極として配線用導体81を有し、もう一方の片面が樹脂封止材90で封止された構造である。図5には、一つの基板上に形成した多数個のSAWフィルタを封止材で一括封止後、個片に切断する方法が示されているが、樹脂封止型SAWフィルタは図5の(b)で作製したSAWフィルタ素子を1個ずつ封止用金型に入れて、個別に樹脂封止しても良い。
【0111】
図6に、封止材で封止されたSAWフィルタの別の製造方法を示す。まず、一つの基板10に、アルミ櫛形電極20及び配線用導体81を有する多数個のSAWフィルタを作製した後、本発明の感光性樹脂組成物又は感光性フィルムを用いてリブ材及び/又は蓋材を形成する(図6の(a)〜(e))。この製造方法では、外部接続用電極と電気的接続を行うための配線用導体81が、アルミ櫛形電極20の両外側に配置されている。次に、外部接続用電極を形成するために、フォトレジスト50を基板全面に塗布して、外部接続用電極の径に相当する箇所が遮光されたマスクを用いて紫外線露光を行い、現像を行って外部接続用電極形成のためのフォトレジスト開口部51を設ける(図6の(f))。続いて、メッキ法又は導体充填法によって外部接続用電極82を形成した後、フォトレジスト剥離液でフォトレジスト50を除去する(図6の(g))。さらに、基板や蓋部の表面に存在するフォトレジス残渣を完全に取り除く洗浄工程を採用しても良い。その後、樹脂封止材90を用いてトランンスファモールド法で中空構造部を一括に封止して(図6の(h))、リフローによって金属ボール70を搭載した後(図6の(i))、ダイシング(切断)等の方法によって個片に分けてSAWフィルタ100を得る (図6の(j))。本発明は、金属ボール70の搭載を、基板のダイシング工程後の個片パッケージの状態で行っても良い。
【0112】
この際に、蓋部40及び/又はリブ部30は、金型温度150〜180℃でのモールド耐性が要求される。すなわち、蓋部40及び/又はリブ部30を感光性樹脂組成物で作製した場合、蓋部40及び/又はリブ部30は、150〜180℃の温度で変形しないことが望ましく、そのような特性を得るためには、蓋部40及び/又はリブ部30のガラス転移温度が180℃以上であることが好ましい。また、150℃における弾性率は、0.5GPa以上であることが好ましく、1.0GPa以上であることがより好ましく、1.5GPa以上であることが特に好ましい。150℃における弾性率の上限は特に限定されないが、実用的な観点からは10GPa以下である。上記弾性率を有することで、モールド耐性を上げることができ、またリブ剤の倒れを防止することができる。さらには蓋材のダレを防止し、平坦性を維持することもできる。
【0113】
以上のように、本発明によれば、SAWフィルタ製造工程において、溶剤現像液を用いたフォトリソグラフィにより圧電基板に厚膜リブパターンを一括形成でき、さらにその上から蓋部としてフィルム状に形成した感光性樹脂組成物の硬化物(もしくは、セラミック等の封止用基板)で封止することにより、中空構造を形成することができる。また、この中空空間内は周囲の樹脂組成物により防湿されるため、アルミ電極の腐食を抑制することができる。また、この樹脂組成物は高温で高い弾性率を有するため、封止樹脂モールド時の温度と圧力においても中空構造を維持できる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0115】
[実施例1〜16及び比較例1〜3]
(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物、(B)光重合開始剤および(C)無機フィラーを、それぞれ下記表1及び表2に示した配合割合(質量部)で混合し、実施例1〜16及び比較例1〜3の感光性樹脂組成物の溶液を得た。なお、表1及び表2中の数字は固形分の質量部を示している。また、表1及び表2中の各成分は、以下に示すものである。
【0116】
アミドメタクリレート(合成品)、アミドアクリレート(合成品)、UN−904(商品名、ウレタンアクリルオリゴマー、根上工業株式会社製)、EA−6340(商品名、テトラヒドロ無水フタル酸変性ビニル基含有フェノール型エポキシ樹脂、中村化学工業株式会社製)、A−DPH(商品名、ジペンタエリスリトール、新中村化学工業株式会社製)、多官能ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(商品名エピクロンN−865、大日本インキ化学工業社製)、感光性ポリイミド(溶剤現像ネガ型感光性ポリイミドUR−3100Eシリーズ、東レ株式会社製)、I−OXE01(商品名、1,2−オクタンジオン−1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−2−(O−ベンゾイルオキシム、チバスペシャリティーケミカルズ株式会社製)、カチオン重合開始剤(ジフェニル〔4−(フェニルチオ)フェニル〕スルホニウムトリフルオロトリスペンタフルオロエチルホスファート)、無機フィラーとして下記のマイカA、マイカB、シリカA及びシリカBの4品種
・マイカA(アスペクト比90、体積平均粒径27μm)
・マイカB(アスペクト比30、体積平均粒径5μm)
・シリカA(球状シリカ、体積平均粒径0.5μm)
・シリカB(アエロジル、体積平均粒径16nm)
【0117】
[アミドメタクリレートの合成]
温度計、撹拌装置の付いた1リットルの反応容器に、1,3−フェニレンビスオキサゾリン380.0g(2.0mol)とビスフェノールA228.0g(1.0mol)を入れ、150℃で10時間撹拌した。その後、メトキノン500ppmと、メタクリル酸172.0g(2.0mol)を加えて100℃で6時間撹拌し、ジメチルアセトアミド190gを滴下し、さらに100℃で6時間撹拌し、酸価が1.1mgKOH/gになったところで撹拌を止めて、光重合性不飽和化合物である下記式(5)で表される化合物の溶液を得た。得られた溶液の固形分は80質量%であった。
【0118】
【化5】

【0119】
[アミドアクリレートの合成]
メタクリル酸の代わりにアクリル酸144.0g(2モル)を用いた他は、上記のアミドメタクリレートの場合と同じ方法によってアミドアクリレートを合成した。得られた溶液の固形分は80質量%であった。
【0120】
<解像度の評価>
実施例及び比較例の感光性樹脂組成物の溶液を、シリコン基板上にスピンコーターを用いて均一に塗布し、90℃のホットプレートで5分間乾燥し、乾燥後の膜厚30μmの感光性樹脂層を形成した。この感光性樹脂層を形成した試験基板について、ホール径60μmφの開口パターンを有するネガマスクを介して、ウシオ電機社製のプロキシミティー露光機(商品名:UX−1000SM)を用いて露光量200mJ/cmで感光性樹脂組成物層の露光を行った。この試験基板を、有機溶剤系現像液であるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに3分間浸漬して現像を行った。現像後のレジストパターンをn-ブチルアセテートで洗浄し、乾燥後に観察を行い、図7に示すように下記の基準に基づいて耐溶剤性を評価した。図7において、11はシリコン基板を示し、52は感光性樹脂組成物を示す。その結果を表1及び表2に示す。
A:図7の(a)に示すように、ホール径60μmφが開口しており、開口部は矩形であり現像後の残渣もない。
B:、図7の(b)に示すように、ホール径60μmφは開口しているが、開口部がテーパー形状である。
C:図7の(c)に示すように、ホール径60μmφが開口していない。
【0121】
<中空保持性>
実施例及び比較例の感光性樹脂組成物の溶液を、シリコン基板上にスピンコーターを用いて均一に塗布し、90℃のホットプレートで5分間乾燥し、乾燥後の膜厚30μmの感光性樹脂層を形成した。この感光性樹脂組成物層を形成した試験基板について、格子サイズ1mm□の開口パターンを有するネガマスクを介して、ウシオ電機社製のプロキシミティー露光機(商品名:UX−1000SM)を用いて露光量200mJ/cmで感光性樹脂層の露光を行った。この試験基板を現像、硬化して、格子状に開口した硬化膜パターンを得た。
【0122】
これに、感光性樹脂組成物を、支持フィルムとして厚さ50μmのポリエチレンフタレートフィルムを用いて、その上に成膜した、感光性樹脂層の膜厚が30μmの感光性フィルムを貼り付け、中空構造を形成した。
【0123】
次いで、ウシオ電機社製のプロキシミティー露光機(商品名:UX−1000SM)を用いて露光量200mJ/cmでフィルム状の感光性樹脂膜の露光を行った。この試験基板を120℃で30分、160℃で30分、220℃で60分硬化した後、上記の支持フィルムを剥離して、硬化後の格子パターンを切断した断面を顕微鏡で観察し、下記の基準に基づいて中空保持性を評価した。その結果を表1及び表2に示す。
A:中空部が保持できており、フィルム硬化膜が全くダレ落ちていない。
B:中空部は保持できているが、少しでもフィルムにダレが見られる。
C:フィルムがダレ落ちてしまい、中空部が潰れている。
【0124】
<高温における弾性率の測定(耐モールド圧性代替評価)およびガラス転位温度の測定>
実施例及び比較例の感光性樹脂組成物の溶液を、シリコン基板上にスピンコーターを用いて均一に塗布し、90℃のホットプレートで5分間乾燥し、乾燥後の膜厚30μmの感光性樹脂組成物層を形成した。この感光性樹脂組成物層を形成した試験基板について、ウシオ電機社製のプロキシミティー露光機(商品名:UX−1000SM)を用いて露光量200mJ/cmで感光性樹脂組成物層の露光を行い、光硬化させた。この感光性樹脂組成物層を、120℃で30分間、160℃で30分、220℃で60分加熱して硬化させた。得られた感光性樹脂組成物の硬化膜をシリコン基板から剥離し、剥離した硬化膜の150℃における弾性率およびガラス転位温度を粘弾性試験器(TA instruments社製、商品名:RSA−III)により測定した。なお、測定は、試験モード:引張り、試験温度:室温〜300℃、昇温速度:3℃/min、試験周波数:1Hz、チャック間距離:20mmの条件にて行った。これらの結果を表1及び表2に示す。
【0125】
<耐湿熱性の評価>
実施例及び比較例の感光性樹脂組成物の溶液を、シリコン基板上にスピンコーターを用いて均一に塗布し、90℃のホットプレートで5分間乾燥し、乾燥後の膜厚30μmの感光性樹脂組成物層を形成した。この感光性樹脂組成物層を形成した試験基板について、ウシオ電機社製のプロキシミティー露光機(商品名:UX−1000SM)を用いて露光量200mJ/cmで感光性樹脂組成物層の露光を行い、光硬化させた。その後、感光性樹脂組成物層を、120℃で30分間、160℃で30分、220℃で60分加熱して硬化させた。この試験基板を、121℃、100%RH、2気圧の条件下に100時間放置した後、硬化膜の外観を目視にて評価し、さらに接着性をJIS K5400(1990年)に準拠した碁盤目試験にて評価した。評価基準は以下の通りである。その結果を表1及び表2に示す。
【0126】
(外観)
A:硬化膜に濁り、剥離、膨れ、クラックが見られない。
B:硬化膜に若干の濁り、剥離、膨れ、クラックの、どれか一つでも見られる。
C:硬化膜に濁り、剥離、膨れ、クラックの、どれか一つでも見られる。
【0127】
(碁盤目試験)
テープ剥離後の残マス数が、
A:100/100(剥離無し)
B:≧90/100(1〜10マスの剥離)
C:<90/100(剥離が10マスよりも多い)


























【0128】
【表1】


















【0129】
【表2】

【0130】
表1及び表2の実施例に示すように、(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物と(B)光重合開始剤とを含有する感光性樹脂組成物は、各特性の評価がA又はB以上となり、優れた効果を奏することが分かる。
【0131】
本発明の感光性樹脂組成物において、(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物として、アミド基を有するアクリレート化合物又はメタクリレート化合物を用いると、基板との接着性が向上するため、高温高湿下での耐湿熱性に優れる(実施例1〜6)。特に、アミド基を有するアクリレート化合物又はメタクリレート化合物の単独系は、耐湿熱性、中空保持性及び解像度のバランスに優れており、膜形成と膜物性の向上に対して非常に有効な樹脂成分であることが分かった(実施例1〜2)。その理由としては、アミド基を有するアクリレート化合物又はメタクリレート化合物は、高耐熱性と高接着性だけでなく、良好な感光特性を有するためと考えられる。
【0132】
一方、(A)成分として、アミド基を有しないアクリレート化合物又はメタクリレート化合物だけから構成される場合は、高温高湿下での耐湿熱性が低下する傾向にあるため、より厳しい信頼性が求められる中空構造デバイスに対しては寿命の見極めを慎重に行う必要がある(実施例12〜13)。また、アミド基を有するアクリレート化合物又はメタクリレート化合物は、感光性エポキシ樹脂との併用系において、高温高湿下での耐湿熱性がやや低下する傾向にあるものの、その他は優れた特性を示した(実施例7)。
【0133】
本発明の感光性樹脂組成物は、(A)アミド基を有するアクリレート化合物又はメタクリレート化合物を含む化合物と(B)光重合開始剤に加えて、(C)無機フィラーとして高アスペクト比と比較的大粒径を有するマイカを含有することによって、中空保持性だけでなく、高温弾性率を大幅に向上させることができる(実施例8〜10)。一方、(A)成分として、アミド基を有しないアクリレート化合物又はメタクリレート化合物だけから構成される化合物は、高アスペクト比を有するマイカを使用しても、高温高湿下での耐湿熱性、特に接着性がやや低下する傾向にあり、より厳しい信頼性が求められる中空構造デバイスに対しては寿命の見極めを慎重に行う必要がある(実施例14)。また、(C)無機フィラーとして小粒径の球状シリカやアエロジル等のシリカを用いても、それらの配合量に応じて中空保持性を向上させることができる(実施例11、15、16)。本発明の感光性樹脂組成物は、無機フィラーを含有しないでも、既に中空保持性、高温弾性率及び耐湿熱性が優れているが、これらの特性の一層の向上を図るために小粒径の無機フィラーを使用できる。さらに、実施例15に記載のシリカB(アエロジル)は、表2に示す特性だけではなく、感光性樹脂組成物を塗布する時の塗布性の形状維持性を向上できるという効果も有する。
【0134】
それに対して、(A)成分として感光性エポキシ樹脂を用いた場合は、耐湿熱性、特に接着性が大幅に低下する(比較例1、2)。比較例1に記載の感光性樹脂組成物は、光重合開始剤が少なく硬化が不十分であるために、高温弾性率が低く中空保持性も劣る。また、比較例3に記載の感光性ポリイミド樹脂を含む樹脂組成物は、厚膜形成を行うための露光量を高くする必要がある。しかし、高い露光量においても露光時の光が膜の下部(基板に近い部分)まで到達することが困難であり、現像工程においてその部分が過度に現像され、形成された膜が逆テーパー状となり、パターン形成性の大幅な低下が観測された。
【0135】
以上のように、本発明において、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物、特にアミド基を有するアクリレート化合物又はメタクリレート化合物と光重合開始剤とを含有する感光性樹脂組成物、並びにそれを用いた感光性フィルムは、耐湿熱性に優れ、硬化物が高温で高い弾性率を有し、中空構造保持性にも優れるため、中空構造デバイス用のリブ材及び/又は蓋材として使用できる。
【0136】
本発明によれば、作業性と信頼性に優れる感光性樹脂組成物、並びにそれを用いた感光性フィルムをリブパターンの形成方法及び中空構造の形成方法に適用することによって、低コストで、且つ高信頼性の中空構造の電子部品、具体的にはSAWフィルタを作製することができる。
【符号の説明】
【0137】
10・・・基板、11・・・シリコン基板、12・・・配線基板、20・・・アルミ櫛形電極、30・・・リブ部、32・・・リブ部用感光性樹脂組成物層、35・・・内部導体を形成するための穴、40・・・蓋部、41・・・蓋部用感光性樹脂組成物、50・・・フォトレジスト、51・・・外部電極用電極穴に相当するフォトレジスト開口部、52・・・感光性樹脂組成物、60・・・マスク、70・・・金属ボール、80・・・内部導体、81・・・配線用導体、82・・・外部接続用電極、90・・・封止材、100・・・SAWフィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空構造を有する電子部品において前記中空構造を形成するリブ材または蓋材として用いられる感光性樹脂組成物であって、(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物と(B)光重合開始剤とを含有してなる感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記の(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物が、アクリレート化合物又はメタクリレート化合物である請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記のアクリレート化合物又はメタクリレート化合物が、アミド基を含有するものである請求項2に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記の(A)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する光重合性化合物が、下記一般式(1)で表される請求項1〜3のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。

[式(1)中、R31、R32及びR33は各々独立に、2価の有機基を示し、R34は水素原子又はメチル基を示し、R35及びR36は各々独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示す。]
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の感光性樹脂組成物が、(C)無機フィラーを含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。
【請求項6】
硬化後の引張り弾性率が、150℃において0.5GPa以上である請求項1〜5のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項7】
中空構造を有する電子部品における前記中空構造を形成するための蓋材又はリブ材として用いられる感光性フィルムであって、請求項1〜6のいずれかに記載の感光性樹脂組成物をフィルム状に成形してなる感光性フィルム。
【請求項8】
基板上に、請求項1〜6のいずれかに記載の感光性樹脂組成物又は請求項7に記載の感光性フィルムを基板上に積層する感光性樹脂層積層工程と、前記感光性樹脂層の所定部分にマスクを通して活性光線を照射して露光部を光硬化せしめる露光工程と、前記感光性樹脂層の前記露光部以外の部分を現像液を用いて除去する除去工程と、前記感光性樹脂層の前記露光部を熱硬化させて樹脂硬化物を形成する熱硬化工程とを有する、中空構造を形成するためのリブパターンの形成方法。
【請求項9】
基板上に中空構造を形成するために設けられたリブパターン上に、中空構造の蓋部を形成するように請求項1〜6のいずれかに記載の感光性樹脂組成物又は請求項7に記載の感光性フィルムを積層する感光性樹脂層積層工程と、前記感光性樹脂層の所定部分に活性光線を照射して露光部を光硬化せしめる露光工程と、必要に応じて前記感光性樹脂層の前記露光部以外の部分を現像液を用いて除去する場合には現像液を用いて除去する除去工程と、前記感光性樹脂層の前記露光部を熱硬化させて樹脂硬化物を形成する熱硬化工程とを有する、中空構造の形成方法。
【請求項10】
前記の基板上に中空構造を形成するために設けられたリブパターンが請求項8に記載の方法によって形成されたものである請求項9記載の中空構造の形成方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の感光性樹脂組成物又は請求項7に記載の感光性フィルムを用いて中空構造のリブ部又は蓋部が形成されてなる中空構造を有する電子部品。
【請求項12】
表面弾性波フィルタである請求項11に記載の電子部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−68622(P2012−68622A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167045(P2011−167045)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】