説明

感度を高めた、眼軸の長さの干渉測定装置

行程長を調整可能な干渉測定装置と、照明装置(1)と、光線の成形および/または案内および/または結像のための光学素子と、固定光源と、眼のアライメンント状態の把握のための検出素子と、干渉信号を検出するための光検出器と、長さ測定システムと、制御・解析装置とを備えた眼軸長測定装置。固定光源(2)は、可視光を発し、照明装置は、眼内における散光成分がごくわずかしか発生しない波長900nm〜1100nmの測定光を発する。本解決法は、眼の眼軸長および/または角膜曲率および/または前房深度を測定するための複合装置に利用すると有利である。埋め込み用眼内レンズの決定に必要なデータの非接触式測定、および、伝送エラーの回避のほか、感度が高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイケルソン干渉計に基づく、眼軸長干渉測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波を用いた接触式の眼軸の長さ測定用の従来の装置および技法のほか、現在、最新技術により、干渉測定装置を用いた解決法も知られている。
例えば、独国特許出願公開第4446183号明細書または米国特許第5673096号明細書には、干渉測定システムを用いた、生体の眼の種々の光学的な界面間の眼内距離を測定するための装置が記載されている。この場合に、種々の界面に対し、照射光線束を部分的な光線に分割するための、および/または、眼の種々の界面に由来する測定光成分の波面の統合と相互適応のための、および/または、眼の種々の界面に由来する測定光成分の波面を干渉測定システムのリファレンスアーム(referenzarmes)の測定光の波面に適応させるための、回折光学素子(DOE)が少なくとも1つある。位相フレネルレンズのような形態をとることが可能なDOEにより、個々の部分的な光線が、例えば、網膜上に、ならびに、角膜上に合焦される。網膜および角膜から反射した部分的な光線の再透過後、その波面が適応された(例えば、平行した)形態になり、その結果、光線束の断面積の著しく大きな成分を信号取得に利用することが可能である。
【0003】
独国特許出願公開第3201801号明細書に記載されている解決法は、眼内の種々の光学的な界面間の実際の光学距離を測定するためのものである。当該方法は、眼の種々の光学的な界面で反射した光の干渉現象を分析することに基づいている。このような干渉現象から、干渉測定装置および長さ測定法を用いて、種々の界面間の光学距離が決定される。記載された解決法で、眼軸の部分的な区間ばかりでなく、眼軸外の部分的な区間の測定も可能である。眼軸外の部分的な区間を測定するため、眼軸に対して一定の角度で、測定光線による照射を行なう。
【0004】
独国特許出願公開第19857001号明細書において、眼の眼軸長(AL)および/または角膜曲率(HHK)および/または前房深度(VKT)の非接触式測定のための別の装置と、それに付属する方法とが記載されている。この解決法は、特に、白内障手術前に、埋め込み用眼内レンズ(IOL)を選択するためのものである。提案の解決法では、眼の必要なパラメーターはすべて、1台の装置のみと、その該当する測定方法とで求め、また、必要となるIOLの計算が行なわれる。そのため、IOLの計算を行なうコンピュータに対し、複数の装置から測定値を伝送する場合のデータの損失またはデータの改竄を防ぐことができる。
【0005】
眼軸長ALを測定するため、マイケルソン干渉計を経由して、例えば波長780nmの光が被検眼に結像される。マイケルソン干渉計は、反射した2つの光線成分を重ね合わせるために、固定式のレフェレンスアームと、調整可能な測定アームと、光線スプリットキューブとで構成されている。フォトダイオードにより、光源の光度を監視する。眼の角膜と網膜とによって反射した部分的な光線は、重なり合い、また、光線スプリットキューブと集束素子を経由して、アバランシェ型フォトダイオードに結像する。この場合、眼軸長の測定は、米国特許第5673096号明細書に説明されている周知の方法で行なうことができる。眼と、発生する反射とを観察するため、集束素子とミラーを使用し、眼から到来する光の一部をCCDカメラに結像させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の解決法は、水晶体の濁りがわずかか、または、中程度の白内障患者の場合、問題なく使用でき、正確な測定データが得られる。その一方で、水晶体の濁りがひどい白内障患者の場合、散光成分が大きいため、眼から反射する光の成分が、装置に内蔵されている解析システムの検出限界以下になり、そのため、利用可能な測定値が得られない場合がある。
【0007】
本発明の課題は、被験者に負担をかけることなく、高精度の直接的な測定を可能にし、また、水晶体の濁りがひどく、白内障が進んだ患者の場合でも利用可能な測定データが得られる眼軸長測定のための解決法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、本発明の独立請求項の特徴によって解決される。有利な展開と形態は、従属請求項の対象である。
意外なことではあるが、波長900〜1100nmの光源の使用が、本質的に有利な効果をともなうことが判明した。780nmのレーザ・ダイオードに比べ、ヒトの眼の透過性がごくわずかしか減少せず、その一方で、散光する光の成分を著しく減少することが可能である。眼から反射し、かつ、干渉に貢献する光の成分の増加により、眼軸長を非常に高い感度で求めることが可能である。
【0009】
非接触式眼軸長測定装置は、行程長を調整可能な干渉測定装置と、測定光線を発生するための照明装置と、照明光線と測定光線の光線の成形および/または案内および/または結像のための種々の光学素子と、固定光源と、眼のアライメンント状態の把握と表示のための検出素子と、干渉信号を検出するための光検出器と、長さ測定システムと、測定値から光学的な長さを決定するための制御・解析装置とを備えている。固定光源は、可視光スペクトル範囲の波長の光を発するのに対して、照明装置は、波長900nm〜1100nmの光を使用している。眼軸長の実際の決定は、独国特許出願公開第19857001号明細書に記載された解決法にしたがって行なう。
【0010】
提案された技術的解決法は、基本的には、特定波長の光を照射し、干渉測定の方法などにより、眼軸の長さを求めるすべての測定装置に応用可能である。
本解決法は、特に、例えばカール ツァイス メディテック(Carl Zeiss Meditec)社のIOLMasterなど、眼の眼軸長および/または角膜曲率および/または前房深度を測定するための複合装置に利用することができる。
【0011】
埋め込み用眼内レンズ(IOL)の決定に必要なデータの非接触式測定、および、ただ1台の装置のみを使用することによる伝送エラーの回避といった、このような装置で得られる利点に加え、本発明による解決法を利用することで、達成可能な測定感度を著しく高めることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、実施の形態に基づいて本発明を説明する。
非接触式眼軸長測定装置は、行程長を調整可能な干渉測定装置と、測定光線を発生するための照明装置と、照明光線と測定光線の光線の成形および/または案内および/または結像のための種々の光学素子と、固定光源と、眼のアライメンント状態の把握と表示のための検出素子と、干渉信号を検出するための光検出器と、長さ測定システムと、測定値から光学的な長さを決定するための制御・解析装置とを備えている。固定光源は、可視光スペクトル範囲の波長の光を発するのに対して、照明装置は、波長900nm〜1100nmの光を発するレーザ・ダイオードが使用されている。
【0013】
光線の成形および/または案内および/または結像のための光学素子として、結像光学系、ミラー、光線スプリットキューブなどが使用される。
眼軸の長さを求めるためには、最初に、装置は、被検眼に対し、正確にアライメントを調整しなければならない。そのため、被検者に対し、固定光源がマークを提示する。被検者が当該マークを固視することにより、眼の瞳孔が、装置の光学軸の方向とアライメントが調整される。
【0014】
固定光源の光反射は、瞳孔の中央において見られ、CCDカメラにより、および、ディスプレイ/モニターにより、表示することができる。装置への被検者のアライメント調整を暗い室内でも行なうことができるよう、眼は、さらにIRダイオード(例えば、880nm)で照らす必要がある。被検者への装置のアライメント調整は、周知のx/y/z方向に調整可能なスリットランプ載物台で行なう。アライメント調整を容易にするため、明瞭に識別可能な固視マークの光反射により、被検者の眼をディスプレイ/モニターでライブ表示する。そのためには、ディスプレイ/モニターに、さらに円または十字線を表示すると有利である。
【0015】
眼軸長測定計の干渉信号を検出するため、あらかじめ選択した波長域において適切な高感度を持つ光検出器、望ましくは、アバランシェ型フォトダイオード(APD:Avalanche−Photodiode)が具備されている。
【0016】
独国特許出願公開第19857001号明細書により、アバランシェ型フォトダイオード(APD)は、眼のセンタリング状態を確認するために使用する。被検眼が、測定装置の光学軸に対してアライメント調整されると、固定光源のマークは、角膜前面から反射し、APDで結像する。それにより、APDは、直流電圧信号を発する。この信号の(相対的な)高さは、被検眼のセンタリングの程度を示している。この直流電圧信号は、内部の制御・解析装置に送られ、また、ここから適切な形状(例えば、棒または円)で、ディスプレイ/モニターに表示される。オペレーターは、棒の高さの違い、もしくは、円の扇形の大きさの違いにより、被検眼のアライメント状態について、追加情報が得られる。
【0017】
図1は、本発明の解決法を利用した眼軸長測定装置の構造を示す概略図である。
眼軸長ALを決定するため、照明装置1の偏光した光(例えば、波長920nm)を、干渉測定装置、特にマイケルソン干渉計(3〜5)、および、光線スプリットキューブ8を経由して、被検眼10に結像させる。マイケルソン干渉計(3〜5)は、固定式のレフェレンスアームR1(反射板としての役割を果たすトリプルプリズム4付き)と、調整可能なレフェレンスアームR2(別の1つのトリプルプリズム5の種々の位置によって図示)と、R1とR2とにおいて反射した光線成分を重ね合わせるための光線スプリットキューブ3とで構成されている。
【0018】
照明装置1の光度は、フォトダイオード7で監視する。眼10の角膜と網膜とによって反射した部分的な光線は、重なり合い、また、光線スプリットキューブ8(偏光面の回転用λ/4波長板9を具備)と光線スプリットキューブ11(λ/2波長板12を具備)とにより、集束素子16を経由して、アバランシェ型フォトダイオード17に結像する。
【0019】
マイケルソン干渉計(3〜5)から到来する照明光は、光線スプリットキューブ8で、眼10の方向に最大反射される必要がある。眼10から到来する反射光に対しては、光線スプリットキューブ8は、最大透過性を示す必要がある。さらに、光線スプリットキューブ8は、NIR(近赤外線)とVIS(可視光線)の光成分に対し、最大透過性を示さなければならない。
【0020】
照明装置1から到来する垂直方向に偏光した光(s偏光、920nm)の約98%は、光線スプリットキューブ8で反射する。光線スプリットキューブ8に配置されているλ/4波長板9により、円偏光した光が生み出される。そのため、眼10で反射した光は、λ/4波長板9を通った後、再度、線形的に偏光される。ただし、偏光方向は、90°回転されている(平行偏光、p偏光)。この偏光方向に対し、光線スプリットキューブ8のスプリット層は、920nmの光線の場合、透過性がほぼ100%である。
【0021】
しかしながら、固定光源2は、非偏光のVIS光成分を発している。非偏光状態の光に対し、光線スプリットキューブ8の透過性は、波長域420〜580nmおよび波長域800〜1100nmで、90%を超える。
【0022】
照明装置1として、極めて広帯域の光を発するレーザ・ダイオードを使用した場合、レーザ・ダイオードが発する光の一部を被検者がなおも見る可能性がある。この場合には、固定光源を省くことができる。
【0023】
眼10から光線スプリットキューブ8を経由して到来する反射光は、その約80〜95%が光線スプリットキューブ11で反射し、かつ、アバランシェ型フォトダイオードAPD17の方向に向かう必要がある。光線スプリットキューブ11も、NIRとVISの光成分に対し、最大の透過性を示す必要がある。
【0024】
光線スプリットキューブ11に配置されているλ/2波長板12は、到着する反射光の偏光方向を90°回転し、その結果、光線スプリットキューブ11に再度、s偏光成分が投射される。光線スプリットキューブ11も、NIRとVIS範囲における非偏光状態の光の透過性が90%を超えている。
【0025】
眼軸長の測定は、例えば米国特許第5673096号明細書で説明されている解決法を用いて、周知の方法で行なう。眼10と、発生する反射とを観察するため、集束素子14を使用し、眼10から到来する反射光の一部が、ミラー13を介して、CCDカメラ15に結像する。APD17に最大の測定光を伝送するため、光線スプリットキューブ11は、測定光の大部分(望ましくは約80〜95%超)をAPD17に振り分ける。そのため、CCDカメラ15には、眼10から到来する反射光の約20〜5%しか到達しない。
【0026】
照明装置と、調整可能なレフェレンスアームR2の可動式トリプルプリズム5(長さ測定システムに連結されたキャリッジに取り付け)との制御は、制御・解析装置で行なう。この制御・解析装置は、例えば、コンピュータとすることが可能である。
【0027】
提案された技術的解決法は、基本的には、特定波長の光を照射し、干渉測定装置などにより、眼軸の長さを求めるすべての測定装置に応用可能である。
本解決法は、例えばカール ツァイス メディテック(Carl Zeiss Meditec)社のIOLMasterなど、眼の眼軸長および/または角膜曲率および/または前房深度を測定するための複合装置に利用すると特に有利である。埋め込み用眼内レンズ(IOL)の決定に必要なデータの非接触式測定、および、ただ1台の装置のみを使用することによる伝送エラーの回避といった、このような装置で得られる利点に加え、本発明による解決法を利用することで、達成可能な感度を著しく高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の解決法を利用した眼軸長測定装置の構造を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
行程長を調整可能な干渉測定装置と、測定光線を発生するための照明装置と、測定光線の光線の成形および/または案内および/または結像のための光学素子と、固定光源と、眼のアライメンント状態の把握と表示のための検出素子と、干渉信号を検出するための光検出器と、長さ測定システムと、制御・解析装置とを備えた非接触式眼軸長測定装置において、前記固定光源が、可視光スペクトル範囲の波長の光線を発し、前記照明装置が、波長900nm〜1100nmの測定光線を発することを特徴とする非接触式眼軸長測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の非接触式眼軸長測定装置において、前記照明装置として、波長920nmの測定光線を発するレーザ・ダイオードが使用されることを特徴とする非接触式眼軸長測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の非接触式眼軸長測定装置において、前記照明装置として、波長1045nmの測定光線を発するレーザ・ダイオードが使用されることを特徴とする非接触式眼軸長測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の非接触式眼軸長測定装置において、可視光成分を有する測定光線を前記照明装置が発する場合、前記固定光源を省くことができることを特徴とする非接触式眼軸長測定装置。

【図1】
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【公表番号】特表2007−508879(P2007−508879A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536034(P2006−536034)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【国際出願番号】PCT/EP2004/011845
【国際公開番号】WO2005/045362
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(503078265)カール ツァイス メディテック アクチエンゲゼルシャフト (51)
【Fターム(参考)】