感温材およびその製造方法、温度ヒューズ、回路保護素子
【課題】従来の冷却鋳型を用いた棒状鋳塊の工法上の欠点を解消して、感温材への金属間化合物の析出を抑制または析出物の均一微細分散を可能としたことで、歩留を改善した高品質な保護素子用の感温材を提供する。
【解決手段】難加工性金属のBiまたはInを主成分とする母材と、特性調製用微少金属の添加材であるAg、Al、Cu、Ge、Mg、P、Sn、TiおよびZnの群より選ばれる少なくとも1種を含有した溶湯素材を溶解させ、溶湯の初晶温度以上に加熱された鋳型を通過させ、その出口側に設けた冷却手段により急冷凝固して作製した一方向凝固組織を有する鋳塊を用意し、この鋳塊を所定形状に成形加工した感温材43を使用した回路保護素子。
【解決手段】難加工性金属のBiまたはInを主成分とする母材と、特性調製用微少金属の添加材であるAg、Al、Cu、Ge、Mg、P、Sn、TiおよびZnの群より選ばれる少なくとも1種を含有した溶湯素材を溶解させ、溶湯の初晶温度以上に加熱された鋳型を通過させ、その出口側に設けた冷却手段により急冷凝固して作製した一方向凝固組織を有する鋳塊を用意し、この鋳塊を所定形状に成形加工した感温材43を使用した回路保護素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子回路の保護素子に用いる感温材とその製造方法、温度ヒューズ、回路保護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
感温材は電気・電子回路の保護素子として利用される。この保護素子は、電子・電気機器等の過熱による損傷から設備や装置を保護するため、特定の温度で動作して回路への通電を遮断する温度ヒューズの働きをする。各種家庭用電化製品やLiイオンバッテリーの充電器の保護回路などに広く利用されている。特に、可溶合金の感温材を用いた保護素子には、特許文献1に示す合金型温度ヒューズ、特許文献2に開示された抵抗発熱体を備えた抵抗付温度ヒューズなどが知られている。これらの保護素子はいずれも電源から感温材を介して回路に電流供給させて使用し、保護素子が所定の動作温度に達すると感温材である合金が溶断して回路を遮断する。また、特許文献3のサーマルリンクとして、合金固有の溶融温度を利用するが感温材自体には通電させず、組み込まれたスイッチ機構のバネ止め具に感温材を適用し、感温材の合金が溶融することでバネが開いて接点スイッチを開放し回路を遮断する方式の保護素子も知られている。
【0003】
一方、地球環境保護の観点から、国際的な化学物質の規制の下で有害元素を含有しない環境配慮型の感温材に様々な合金が使用されるようになった。規制以前に長年用いられてきた含Pb共晶合金系や含Cd共晶合金系には、48Sn−38In−14Pb重量%:126℃共晶、50Sn−30In−20Pb重量%:135℃共晶、および50Sn−32Pb−18Cd重量%:145℃共晶などがあった。これらに比べて、上述の環境配慮型材料である感温材は、Sn、Bi、In三元系を基本とした合金組成であることから、利用する上での欠点を解消するために、Ag、Cuなどの元素を微量添加し、析出強化型の合金とするなど工夫する必要があった。(例えば、特許文献4および特許文献5を参照)
【0004】
【特許文献1】特開2004−035929号公報
【特許文献2】特開2005−150075号公報
【特許文献3】国際公開WO2007−000309号公報
【特許文献4】特開2005−019179号公報
【特許文献5】特開2004−146228号公報
【特許文献6】特公昭55−046265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
環境配慮型の感温材は、BiやInを基本組成とした合金であり、その性質上、生成する金属間化合物の影響で脆く断線しやすいものや、旧来合金より延展性に富むため軟らかすぎかえって加工精度が保ち難いものなど、概して機械的強度が劣ることとなる。また、この欠点を補うために添加するAg、Cuなどの微量元素は、析出強化型の合金とするなど工夫する必要が生じていた。特に、線材やテープ材等に成形加工する際に、従来から通常の合金で専ら採用されていた加工方法が適用できないなどの問題が発生していた。具体的には、工期が短く経済性に優れた引抜伸線加工、圧延加工が採用できなかった。そのために、大口径の合金鋳塊ビレットから所定形状に成形加工する際、一度に目的の線径付近まで、長時間をかけ一気に押出加工を行う必要があった。すなわち、従来の鋳造工程は、溶融合金を冷却鋳型に流し込み鋳塊ビレットに加工するもので、処理温度や冷却速度を正確に制御し難く、鋳型の壁面側と鋳塊中心部とでは、冷却速度や温度勾配に差が生じ易かった。このため鋳型の周辺側の壁面部では急冷されるが、ビレット中心部では徐冷に近くなり、壁面部と中心部とで冷却速度に大きなバラツキが生じ、生成する金属間化合物の晶出を抑制したり均質微細分散させたりすることが困難であった。その結果、成形加工した感温材に対して、その品質や製造歩留に悪影響を与えていた。
【0006】
したがって、本発明は上記欠点を解消するために提案されたものであり、合金の鋳造過程に着目したもので、加工性に難点のある特定金属の合金鋳塊を製造するに際し特定されたプロセスを経て合金生成することを提案し、それによって金属間化合物の晶出、析出による品質や機能への悪影響を阻止できる新規かつ改良された感温材およびその製造方法を提供することを目的とする。すなわち、合金組成に良く用いられるBiまたはInを主成分に用いる合金型感温材の加工工程での欠点を解消するものである。また、本発明にかかる感温材は、特に、温度ヒューズ、抵抗付温度ヒューズおよびサーマルリンク等の電気回路用保護素子として性能を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、難加工性金属のBiまたはInを主成分とする母材と特性調製用微少金属のAg、Al、Cu、Ge、Mg、P、Sn、TiおよびZnを含む金属群から選ばれる少なくとも1種の金属を添加材とを溶解保持炉で溶融させ、生成された溶湯の凝固温度より+10〜+300℃高い温度に保ったまま加熱用鋳型に押し出し、この鋳型の出口端で急速冷却5〜5000℃/秒の冷却速度で急冷して凝固させ、所定の鋳造速度50〜500mm/分で一方向凝固組織を有する鋳塊を連続的に鋳造し、この鋳造した鋳塊を用いて所定の形状に成形加工することを特徴とする感温材の製造方法が提示される。加工性の悪い合金材料は加工条件の開発もさることながら、加工性に優れる素材を作ることも重要である。加熱用鋳型を用いて合金用溶湯素材を鋳型に通して、一方向凝固組織からなる鋳塊を作ることでその後の成形加工を極めて安定化できることを見い出した。本発明による一方向凝固組織を有する鋳塊は、結晶の成長方向に優れた加工性を示す。そして。中間素材として所定形状の感温材として成形加工を容易にすることができる。加えて、加工性等の改良に添加されるAg、Al、Cu、Ge、Mg、P、Sn、TiおよびZnを含む金属群から選ばれる少なくとも1種の金属の微少元素の添加量を極力低くすることを可能にする。さらに、鋳造工程に加熱鋳型を用いることによって冷却速度や温度勾配を制御でき、連続的かつ経済的に高品質の長尺鋳塊を鋳造できる。
【0008】
本発明の別の観点によれば、難加工性金属のBiまたはInを主成分とする母材と特性調製用の微量金属として、Ag、Al、Cu、Ge、Mg、P、Sn、TiおよびZnを含む金属群から選ばれる少なくとも1種の金属元素の添加材とからなる溶湯素材を加熱された鋳型を通過させ、その出口側に設けた冷却手段により急冷凝固して一方向凝固組織を有する鋳塊を製造し、この鋳塊を使用して所定形状に成形加工した感温材を提供する。ここで、前記難加工性金属は50重量%以上のBiであり、これにSnを40〜43重量%およびInを0.1〜8重量%を含んだ母材と、CuまたはAgを0.001〜0.1重量%の範囲で含む微少金属とからなる合金鋳塊を線材または平板材に成形加工したことを特徴とする。具体的に本発明の感温材は、さらに、Znを0.1〜5重量%含むものである。あるいは、前記難加工性金属は50重量%以上のInであり、これにSnを30〜35重量%を含んだ母材と、CuまたはAgを0.01〜0.5重量%含む微少金属とからなる合金鋳塊を線材または平板材に成形加工したことを特徴とする感温材、および前記難加工性金属は50重量%以上のInであり、これにBiを40〜50重量%を含んだ母材と、CuまたはAgを0.01〜0.05重量%含む微少金属とからなる合金鋳塊を線材または平板材に成形加工したことを特徴とする感温材を開示する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の感温材は、難加工性金属合金を主成分に含む感温材を加熱用鋳型に通してその出口側に均一急冷手段を用いて連続した一方向凝固組織を有する鋳塊を調製し、この鋳塊を成形加工により丸線状または板状の線材にするものであり、加工処理の作業の容易化と歩留まり向上を図り、かつ動作精度が高く優れた感温材を提供する。特に、この種の合金感温材の加工性の安定化により、成形加工での引抜加工や圧延加工が実現可能となり、感温材の加工処理における伸線や圧延などの作業性を飛躍的に向上させる。その結果、本発明の感温材を使用する合金型温度ヒューズや抵抗内蔵型温度ヒューズ等の保護素子の動作特性の改良が図られる等の実用的効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
合金の鋳造方法として、一方向または単結晶に成長する鋳塊の製造は、ブリッジマン法、チョクラルスキー法およびO.C.C.(Ohno Continuous Casting)法が知られている。このうち、ブリッジマン法は直接るつぼに接した状態で単結晶が育成するため、るつぼから不純物が混入する可能性が高く、これが核となって異なった方位の結晶が発生するので多結晶化し易い問題を抱えている。一方、チョクラルスキー法は、溶かした原料から結晶を徐々に引張り上げるため、るつぼの温度制御や回転制御、溶湯の対流制御、結晶引き上げ速度の制御など様々な精密制御を組み合わせて使用する複雑な工程が要求される。製造工程に要する工期や必要な装置構成などの経済性を比較すると、ブリッジマン法や、チョクラルスキー法はバッチ式で大口径の柱状単結晶を得る方法である。一方、本発明が着目した合金鋳造方法は、感温材として加工される細線材、テープ材および円柱小片材に加工する場合に優れた成形加工を実現可能にする。すなわち、所望する最終的形状に最も近い形状の加工性に優れる。したがって、感温材の鋳造合金の中間素材として加工工程を少なくすることに効果的である。このため加工性に優れる一方向凝固組織を有する鋳塊の連続鋳造を実現する。すなわち、本発明の感温材の鋳造方法は、特許文献6に開示される方法であり、O.C.C.法が適用される。
【0011】
本発明の感温材である合金は、図1に示されるようなO.C.C.法により合金素材が製造される。図1において、溶湯1はヒータ2を側壁に有する鋳型6に通され、その出口側の冷却手段3からの冷媒4により強制冷却され、一方向凝固組織を有する鋳塊5を生成する。図示しないが、溶湯1は別の場所の溶解保持炉から注湯により供給される。本発明は加熱した加熱鋳型を用い溶湯は金属の初晶温度もしくはそれ以上の温度に加熱されることを特徴としている。換言すると、難加工性金属BiまたはInを主成分とする母材と微少金属Ag、Al、Cu、Ge、Mg、P、Sn、TiおよびZnを含む金属群から選ばれる少なくとも1種の金属の添加材とを溶解保持炉で溶融させ、生成された溶湯の初晶温度より+10〜+300℃高い温度に保ったまま加熱鋳型に押し出し、この鋳型の出口端で急速冷却5〜5000℃/秒の冷却速度で急冷して凝固させ、所定の鋳造速度50〜500mm/分で一方向凝固組織を有する鋳塊5を連続的に鋳造される。なお、溶湯は溶解保持炉にかけた一定圧力により加熱鋳型を通じて押し出され、鋳型出口直後に冷水などの冷媒で急冷凝固される。冷却条件、溶湯温度や鋳造速度などの諸因子を一定にコントロールされ、凝固の定常状態を得る。凝固界面の位置は鋳型(鋳壁)と接することがない鋳型出口端に一定保持される。その結果、金太郎飴様の連続した一方向組織を有する合金鋳塊が調製され用意される。このようなO.C.C.法による一方向凝固鋳塊は金属間化合物の偏析が少なく、また金属間化合物が析出しても、マトリックス中に均質微細分散させることができる。図2は、図1の要部を含めた全体部分の断面を示す別の鋳造装置の部分断面概要図である。図において、溶湯21はヒータ付溶解保持炉20から加熱鋳型26に供給され、冷却手段23の冷却水24を用いて冷却される。さらに生成された一方向凝固組織を有する鋳塊25はピンチローラー27を経て引き出される。この連続鋳造装置は本発明の感温材の成形加工前の中間素材の製造プロセスを図示する。
【0012】
本発明にある感温材のような難加工性合金は、単に一方向凝固組織とするだけでなく成分偏析をできるだけ少なくする。また、割れや破断の起点となりやすい金属間化合物の生成を抑制することが重要である。通常の鋳塊製造は溶けた金属を冷却鋳型に注湯し、その中で固め連続的に鋳塊を引出す方法が一般的である。(例えば、図3参照)このような鋳塊は内部に巣や成分偏析などの欠陥が発生しやすく、また鋳塊表面傷など表面欠陥も多い。そのため微量元素を添加するなど組織の均質化や微細化の工夫がされているが、過剰な添加は逆に必要以上の金属間化合物の晶出または析出をまねくおそれがあり、従来の冷却鋳型を用いて製造した大口径の鋳塊ビレットは、難加工性合金の中間素材として適していない。したがって、本発明の感温材は、その中間素材として一方向凝固組織を有する鋳塊が製造され用意される。
【0013】
本発明の感温材の中間素材である一方向凝固鋳塊は、加熱鋳型を用いる連続鋳造により製造される。加熱鋳型を合金の初晶温度以上に加熱、保持することで鋳壁からの結晶生成を抑制し、凝固は鋳型出口端近傍で一定凝固界面位置を維持しながら連続的に鋳造を行う。鋳塊の凝固界面は鋳型出口端に位置するため鋳塊と加熱鋳型との摩擦がない。通常の鋳型を介して水冷する間接冷却方式と異なり、直接鋳塊を冷媒で冷却し、鋳塊を通した熱移動により凝固が進行する。そのため通常の冷却鋳型(冷却金型)での凝固と比べると、固−液界面での温度勾配を大きく取ることができる。この時、凝固界面においては平衡状態からかけはなれた急冷状態となり、本来晶出するものも強制固溶されるため偏析の極めて少ない均質の加工用中間素材が容易に得られる。
【0014】
また、前記過熱鋳型を用いた連続鋳造では、制御因子である鋳造速度、冷却位置、鋳型温度などの諸条件を適切にコントロールすることで鋳造の条件を一定に保つことができ、鋳造のスタ−トから終了まで、どの位置をとってもほぼ同一組織の一方向凝固鋳塊を作製できる。凝固は大気中もしくは不活性ガスシ−ルド雰囲気中に置かれた加熱鋳型の出口端で進行する。前記鋳造プロセス加工用の中間素材の表面は金属光沢を有する極めて滑らかな仕上がりとなり、鋳塊内部は巣や偏析が極めて少ない高品質鋳塊となる。また、鋳壁での結晶生成がなく鋳塊からの熱移動により凝固が進行するため、鋳塊は一方向凝固組織となり、結晶の成長方向に優れた加工性を示す。
【0015】
次に本発明を構成する加熱鋳型を用いた連続鋳造の製造条件について説明する。加熱鋳型を用いた連続鋳造の具体的な制御因子には、鋳造速度、冷却位置、溶湯温度−凝固点温度差(ΔT)等の諸因子がある。ここで鋳造速度を上げ過ぎたり、冷却位置を離し過ぎたりすると、溶湯の噴出をまねき連続鋳造ができなくなる。同様にΔTを上げ過ぎると溶湯の粘度や表面張力が低下し、溶湯の噴出や鋳肌の凹凸荒れが発生しやすくなる。逆に鋳造速度を下げ過ぎたり、冷却位置を短くし過ぎたり、ΔTを下げ過ぎると加熱鋳型を冷やす原因となり鋳塊形状の安定維持が困難となって、一方向凝固鋳塊ができず不完全な鋳塊組織となってしまう。
【0016】
本発明の感温材の中間素材である一方向凝固鋳塊を加熱鋳型で安定的に連続鋳造するためには、前記鋳造速度を50〜500mm/分の範囲内で、前記ΔTを感温材の凝固開始温度の+10〜+300℃の範囲内で実施するのが好ましい。前記制御因子を調整することにより冷却速度を5〜5000℃/秒の範囲に設定することができ、温度勾配を大きくした急冷条件により一方向凝固鋳塊を効率よく連続鋳造することが可能となった。
【0017】
前記製造方法により製作された一方向凝固鋳塊は、保護素子用の感温材に加工する中間素材として使用する。前記中間素材を加工して得た感温材は、金属間化合物の晶出や析出を最小限に抑制でき、晶出した金属間化合物も鋳塊全体に均質微細分散される。その結果、従来の製造方法より電気抵抗値のばらつきが少なく、電気抵抗値の低いロスの少ない感温材を作ることができる。したがって前記製造プロセスは、感温材の中間素材を効率的に得る方法として好適である。
【0018】
次に本発明の感温材組成に関して説明する。58Bi−42Sn合金は溶融点139℃の共晶合金として知られているが、Biの含有量が50重量%を超えた脆性を有する難加工性の合金である。これを基本組成として100℃〜150℃の回路保護素子に用いる感温材を製作することができる。139℃以下の合金に対しては、Inを添加することで溶融点を下げることができるが、Inの増加に伴い固液共存の温度領域が広がるので好ましくない。DSCなどの熱分析においても複数のピ−ク値を示すなど(例えば、図12参照)、Bi−Sn共晶系を基本とした合金へのIn添加は、保護素子用の感温材として使用する場合には、Inの含有量が増すにつれ合金は脆くなり加工性を阻害するため、おのずとその量が制限される。実質的にはInの添加上限値は8重量%以下、好ましくは6重量%以下が望ましい。Inの下限値は添加効果が認められる0.1重量%以上に定められる。In添加によるBi−Sn共晶系の固液温度変化を図4に示す。
【0019】
前記のようにIn量を増加すれば低融点化を図ることができるが、反面で保護素子としては好ましくない固液共存温度領域の拡大や加工性が損なわれるという問題が生じる。そこで、Inの一部をZnで置き換えた素材を用いて製造し、感温材に使用するのが有効である。ZnはInと比べると溶融点を下げる効果は小さいがピ−ク値を下げ、加工性に対してもInほどの固液共存温度領域の拡大効果はない。ただし、Znを入れすぎると長時間での酸化、腐食の問題が生じるため上限値を5重量%以下に留めるのが好ましい。Znの下限値は添加効果が認められる0.1重量%以上に定められた。すなわち100〜135℃の感温体は、Bi−Sn共晶系に0.1〜6重量%のIn、0.5〜5重量%のZnを含んだ合金が有効である。これにAl、Ge、Mg、PおよびTiの群からなる特性調製用微少金属を少なくとも1元素を選択し微量添加することで、前記特性調製用微少金属の選択酸化によりZnの耐食性を改善することができる。前記特性調製用微少金属の有効範囲は、実験的に添加効果が表れる0.001重量%以上に定めた。また、上限値は添加元素の選択酸化による防食効果が過剰となり腐食を促進しない値を実験的に求め0.4重量%以下の範囲内に定めた。
【0020】
さらに、加工性改善や保護素子の電気特性および動作温度の微調整の観点からAg、Cuなどの特性調製用微少金属を添加する場合がある。しかし、これも多すぎると高融点の金属間化合物を生成し、逆に不必要な不純物となり、圧延加工の場合は亀裂の起点となりやすい。実際Cuを例に取ると、高温域においてもCuはSnとの金属間化合物として液中に固溶して存在する。液相中(溶湯)へ固溶する金属間化合物の量は、溶湯温度に依存しており、Bi−Sn共晶系をマトリックスとした組成にCuを1重量%加えた合金では、350℃以下になるとCuSn金属間化合物の晶出がみられ、温度の低下と共に成長し金属間化合物の領域が増す。凝固開始温度に近い150〜160℃近辺では溶湯中のCu固溶量は0.06重量%と低い。この温度域では、多くのCuはSnとの金属間化合物であるCu6Sn5やCu3Snとして存在し、マトリックス中へのCuの固溶は0.1重量%以下である。従って、過度のCu添加は金属間化合物の量を増やすだけであり、金属を脆くし、また、電気抵抗値の増加などの特性面からも好ましくない。Cu、Snの金属間化合物は硬く脆いため大きく成長したり、部分的に偏析したりすると加工時、切断の起点となったり、回路保護素子として動作不良など不具合の原因となる恐れがあり、Cuは0.001重量%以上、0.1重量%以下の量が適切である。Bi−Sn共晶系に対するCu固溶量の温度変化を図5に示す。AgやCuの適量添加により、強度を高め電気的特性の安定した金属組織とすることができる。
【0021】
前記加熱鋳型を用いた連続鋳造法により、一方向凝固組織を有し、かつAg、Cuなどの特性調製用微少金属が合金のマトリックス中に均質に分散、固溶した高品質な加工用の中間素材を得ることができる。このため、材料強度の向上を目的として過度の特性調製用微少金属を添加する必要がなく0.1重量%以下の量で充分な効果を示した。
【0022】
次に、粘土様の軟らかさを呈して寸法精度が保てない理由で難加工性である合金系にIn−Sn系合金がある。In−Sn系合金に有効な特性調製用微少金属としてAgとCuがあげられる。特性調製用微少金属にAgを用いた場合、例えば67In−33Snの母材に対してAgを0.02重量%以上添加すると合金組織中に金属間化合物AgIn2の晶出が見られ、これが合金の強度を高める働きをすることがわかった。ただし、Agの過度の添加は金属組織中でAgIn2の局在化をまねくため、線材品質のバラツキや感温材の動作性に悪影響をおよぼすため、Ag添加の上限を0.5重量%以下とすることが望ましいことが実験的に確認された。同様にCuについても0.002重量%以上の添加で合金組織中に金属間化合物Cu2In3Snの晶出が確認されたが、強度を高める働きを示すのは、0.01重量%以上であった。Cu添加の上限値はマトリックス中に均質に分散する0.5重量%以下で、これを超える添加は過剰成分の偏析を起こすことがわかった。
【0023】
本発明の感温材として具体的な例を次に示す。Biを主成分にSnとInを加えた合金の化学成分として、Biを55〜60重量%、Snを40〜43重量%、Inを0.6〜8重量%、これに特性調製用微少金属としてAgまたはCuを0.001〜0.4重量%を添加した組成物からなる110〜139℃の溶融点を有する感温材が提示される。
【0024】
また、前記感温材には、Bi−Sn共晶組成にIn、Znを加えた合金を基本組成とし、Biを50〜60重量%、Snを38〜43重量%、Inを0.1〜6重量%、Znを0.1〜5重量%含み、これに特性調製用微少金属としてAgまたはCuを0.001〜0.1重量%を添加した110〜139℃の溶融点を有する感温材を用いることもできる。
【0025】
別の例では、Inを主成分にSnを加えた合金の化学成分として、Inを65〜70重量%、Snを30〜35重量%の合金に特性調製用微少金属としてAgまたはCuを0.01〜0.5重量%を添加した120〜125℃の感温材が提示される。
【0026】
本発明の製造プロセスにより製作した一方向凝固鋳塊の一例として、57重量%のBi、42重量%のSn、1重量%のInに、0.1重量%のCuを添加した合金をこの方法でφ2.0mmに鋳造し、φ0.4mmまで途中切断などのトラブルなく伸線を行うことができた。この結果、歩留も改善し生産性が大幅に向上した。前記難加工合金は加工用の中間素材である一方向凝固鋳塊を用いることにより引抜き伸線加工よる細線の製作のみならず、圧延加工による箔の製作も容易となる。特に図6に示すように、圧延での耳割れが少なく箔への加工も可能となった。この実施例で使用した加工用の中間素材である一方向凝固鋳塊(丸線状鋳塊)の金属組織を図7に示す。
【0027】
以下、本発明の1つの実施態様である保護素子のアキシャルタイプ合金型温度ヒューズを例に図面を参照しつつ説明する。この保護素子は、図8に示すように、Sn−Cuめっき銅線からなる一対のリ−ド部材41、42に、本発明の特徴とする後述の感温材(合金)3が抵抗溶接により接合される。感温材43の表面にはロジン、ワックスおよび活性剤からなるフラックス44を被覆する。その後、アルミナ等のセラミック碍管の絶縁容器またはケース45に収容され、エポキシ樹脂と少量の無機物添加材からなる封止材46、47によりリード部材41、42の導出部を残して絶縁ケース45の両端部を封着して構成される。このような構成の保護素子において、次のような変形例も可能である。先ず、感温材43の形状に関し、通常、φ0.3〜0.7mm線を使用するが、必要に応じて同一の断面積を有するテープ状合金の平角片も使用できるほか、要求に応じてφ0.3mm以下とするやφ0.7mm以上に変更することもできる。本発明の感温材は加熱鋳型による連続鋳造法を用いて製造された加工用の中間素材である一方向凝固鋳塊(φ1.0〜5.0mm)から、前記感温材3に引抜加工により順次細線状に製造されるが、必要に応じて、その後さらに加工してテープ状に圧延することもできる。リ−ド部材41、42は必要に応じてAgめっき銅線、Snめっき銅線、Niめっき銅線等に変更してもよく、Sn−Cuめっき銅線に限定されるものではない。
【0028】
なお、本発明の保護素子は、アキシャルタイプ以外のラジアルタイプ、小型薄型のチップタイプ、抵抗内蔵タイプ、絶縁容器使用のパッケージタイプなど各種の合金型温度ヒューズのほかサーマルリンク型保護素子にも適用できる。
【0029】
次に実際に本発明の感温材を適用した保護素子の具体例について詳述する。
【実施例1】
【0030】
Biを57重量%、Inを1重量%、Cuを0.06重量%、残部をSnの組成とした一方向組織を有する加工用の一方向凝固鋳塊からφ0.7mm線材に加工した感温材を適用した図8に示す温度ヒューズを作製し実施例1とした。実施例1の30個を10mAの検知電流を通電しながら1℃/分の割合で温度上昇する恒温槽の気相中で動作させたところすべてが138±2℃の温度範囲で正常に動作した。実施例1の各10個を115±3℃の恒温槽中に48時間保管してそれぞれの内部抵抗を試験したところ、すべて問題の無い範囲内に維持されていた。さらに、恒温保管後の動作温度を測定し138±5℃の範囲内にあることを確認した。実施例1の感温材のDSCチャートを図9に示す。
【実施例2】
【0031】
同様にして、実施例2はBiを55重量%、Inを2重量%、Znを2重量%、残部をSnの組成とした加工用の一方向凝固鋳塊からφ0.7mm線材に加工し、前記温度ヒューズの感温材に用いた。実施例2の30個を10mAの検知電流を通電しながら1℃/分の割合で温度上昇する恒温槽の気相中で動作させたところすべてが130±2℃の温度範囲で正常に動作した。また、実施例2の各10個を110±3℃の恒温槽中で48時間保管した後、内部抵抗を試験したところ、すべて問題の無い範囲内に維持されていた。さらに、恒温保管後の動作温度を測定し130±5℃の範囲内にあることを確認した。実施例2の感温材のDSCチャートを図10に示す。
【実施例3】
【0032】
実施例3はInを67重量%、Cuを0.25重量%、残部をSnの組成とした加工用の一方向凝固鋳塊からφ0.7mm線材に加工し、前記温度ヒューズの感温材に用いた。この実施例3について、30個を10mAの検知電流を通電しながら1℃/分の割合で温度上昇する恒温槽の気相中で動作させたところすべてが125±2℃の温度範囲で正常に動作した。また、実施例3の各10個を105±3℃の恒温槽中で48時間保管した後、内部抵抗を試験したところ、すべて問題の無い範囲内に維持されていた。さらに、恒温保管後の動作温度を測定し125±5℃の範囲内にあることを確認した。実施例2の感温材のDSCチャートを図11に示す。
【0033】
以上に説明した本発明の実施例である感温材と比較例として従来の鋳塊ビレットから押出加工により作製した比較例の感温材との物理特性の比較を表1に示す。
【表1】
【0034】
一方向凝固組織が有する金属間化合物の微細分散均一化により、表1に示した感温材を用いて作製した実施例1〜3の温度ヒューズは、従来工法で作製した同組成の感温材から作製した比較例1〜3の温度ヒューズに比べて、内部抵抗値がより低く、かつ抵抗値のバラツキが小さくなり、電気的ロスの少ない製品を実現できたほか、感温材の引張強度や伸びなどの機械的強度も向上し、温度ヒューズの組立製造時の歩留まりを大きく向上させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の加熱鋳型を用いた連続鋳造法の製造原理図である。
【図2】本発明の加熱鋳型の主要部分の断面図である。
【図3】一般的な冷却鋳型を用いた連続鋳造法の製造原理図である。
【図4】In添加によるBi−Sn共晶系の固液温度変化を示した図である。
【図5】Bi−Sn共晶系に対するCu固溶量の温度変化を示した図である。
【図6】加工用鋳塊の違いによる圧延加工箔の割れの有無を示した図である。
【図7】鋳造方法の違いによる加工用鋳塊の金属組織の比較図である。
【図8】本発明の実施例を示す保護素子の主要部分の断面図である。
【図9】実施例1の感温材のDSCチャートである。
【図10】実施例2の感温材のDSCチャートである。
【図11】実施例3の感温材のDSCチャートである。
【図12】比較例2の感温材のDSCチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1,21,31…溶湯、 2,22…ヒータ、 3,23…冷却手段、
4,24,34…冷媒、 5,25…一方向凝固鋳塊、6,26…加熱鋳型、
20…溶解保持炉、27…ピンチローラー、38…鋳塊、 39…冷却鋳型、
41,42…リード、 43…感温材、44…フラックス、45…セラミックス碍管、46,47…封止材。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子回路の保護素子に用いる感温材とその製造方法、温度ヒューズ、回路保護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
感温材は電気・電子回路の保護素子として利用される。この保護素子は、電子・電気機器等の過熱による損傷から設備や装置を保護するため、特定の温度で動作して回路への通電を遮断する温度ヒューズの働きをする。各種家庭用電化製品やLiイオンバッテリーの充電器の保護回路などに広く利用されている。特に、可溶合金の感温材を用いた保護素子には、特許文献1に示す合金型温度ヒューズ、特許文献2に開示された抵抗発熱体を備えた抵抗付温度ヒューズなどが知られている。これらの保護素子はいずれも電源から感温材を介して回路に電流供給させて使用し、保護素子が所定の動作温度に達すると感温材である合金が溶断して回路を遮断する。また、特許文献3のサーマルリンクとして、合金固有の溶融温度を利用するが感温材自体には通電させず、組み込まれたスイッチ機構のバネ止め具に感温材を適用し、感温材の合金が溶融することでバネが開いて接点スイッチを開放し回路を遮断する方式の保護素子も知られている。
【0003】
一方、地球環境保護の観点から、国際的な化学物質の規制の下で有害元素を含有しない環境配慮型の感温材に様々な合金が使用されるようになった。規制以前に長年用いられてきた含Pb共晶合金系や含Cd共晶合金系には、48Sn−38In−14Pb重量%:126℃共晶、50Sn−30In−20Pb重量%:135℃共晶、および50Sn−32Pb−18Cd重量%:145℃共晶などがあった。これらに比べて、上述の環境配慮型材料である感温材は、Sn、Bi、In三元系を基本とした合金組成であることから、利用する上での欠点を解消するために、Ag、Cuなどの元素を微量添加し、析出強化型の合金とするなど工夫する必要があった。(例えば、特許文献4および特許文献5を参照)
【0004】
【特許文献1】特開2004−035929号公報
【特許文献2】特開2005−150075号公報
【特許文献3】国際公開WO2007−000309号公報
【特許文献4】特開2005−019179号公報
【特許文献5】特開2004−146228号公報
【特許文献6】特公昭55−046265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
環境配慮型の感温材は、BiやInを基本組成とした合金であり、その性質上、生成する金属間化合物の影響で脆く断線しやすいものや、旧来合金より延展性に富むため軟らかすぎかえって加工精度が保ち難いものなど、概して機械的強度が劣ることとなる。また、この欠点を補うために添加するAg、Cuなどの微量元素は、析出強化型の合金とするなど工夫する必要が生じていた。特に、線材やテープ材等に成形加工する際に、従来から通常の合金で専ら採用されていた加工方法が適用できないなどの問題が発生していた。具体的には、工期が短く経済性に優れた引抜伸線加工、圧延加工が採用できなかった。そのために、大口径の合金鋳塊ビレットから所定形状に成形加工する際、一度に目的の線径付近まで、長時間をかけ一気に押出加工を行う必要があった。すなわち、従来の鋳造工程は、溶融合金を冷却鋳型に流し込み鋳塊ビレットに加工するもので、処理温度や冷却速度を正確に制御し難く、鋳型の壁面側と鋳塊中心部とでは、冷却速度や温度勾配に差が生じ易かった。このため鋳型の周辺側の壁面部では急冷されるが、ビレット中心部では徐冷に近くなり、壁面部と中心部とで冷却速度に大きなバラツキが生じ、生成する金属間化合物の晶出を抑制したり均質微細分散させたりすることが困難であった。その結果、成形加工した感温材に対して、その品質や製造歩留に悪影響を与えていた。
【0006】
したがって、本発明は上記欠点を解消するために提案されたものであり、合金の鋳造過程に着目したもので、加工性に難点のある特定金属の合金鋳塊を製造するに際し特定されたプロセスを経て合金生成することを提案し、それによって金属間化合物の晶出、析出による品質や機能への悪影響を阻止できる新規かつ改良された感温材およびその製造方法を提供することを目的とする。すなわち、合金組成に良く用いられるBiまたはInを主成分に用いる合金型感温材の加工工程での欠点を解消するものである。また、本発明にかかる感温材は、特に、温度ヒューズ、抵抗付温度ヒューズおよびサーマルリンク等の電気回路用保護素子として性能を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、難加工性金属のBiまたはInを主成分とする母材と特性調製用微少金属のAg、Al、Cu、Ge、Mg、P、Sn、TiおよびZnを含む金属群から選ばれる少なくとも1種の金属を添加材とを溶解保持炉で溶融させ、生成された溶湯の凝固温度より+10〜+300℃高い温度に保ったまま加熱用鋳型に押し出し、この鋳型の出口端で急速冷却5〜5000℃/秒の冷却速度で急冷して凝固させ、所定の鋳造速度50〜500mm/分で一方向凝固組織を有する鋳塊を連続的に鋳造し、この鋳造した鋳塊を用いて所定の形状に成形加工することを特徴とする感温材の製造方法が提示される。加工性の悪い合金材料は加工条件の開発もさることながら、加工性に優れる素材を作ることも重要である。加熱用鋳型を用いて合金用溶湯素材を鋳型に通して、一方向凝固組織からなる鋳塊を作ることでその後の成形加工を極めて安定化できることを見い出した。本発明による一方向凝固組織を有する鋳塊は、結晶の成長方向に優れた加工性を示す。そして。中間素材として所定形状の感温材として成形加工を容易にすることができる。加えて、加工性等の改良に添加されるAg、Al、Cu、Ge、Mg、P、Sn、TiおよびZnを含む金属群から選ばれる少なくとも1種の金属の微少元素の添加量を極力低くすることを可能にする。さらに、鋳造工程に加熱鋳型を用いることによって冷却速度や温度勾配を制御でき、連続的かつ経済的に高品質の長尺鋳塊を鋳造できる。
【0008】
本発明の別の観点によれば、難加工性金属のBiまたはInを主成分とする母材と特性調製用の微量金属として、Ag、Al、Cu、Ge、Mg、P、Sn、TiおよびZnを含む金属群から選ばれる少なくとも1種の金属元素の添加材とからなる溶湯素材を加熱された鋳型を通過させ、その出口側に設けた冷却手段により急冷凝固して一方向凝固組織を有する鋳塊を製造し、この鋳塊を使用して所定形状に成形加工した感温材を提供する。ここで、前記難加工性金属は50重量%以上のBiであり、これにSnを40〜43重量%およびInを0.1〜8重量%を含んだ母材と、CuまたはAgを0.001〜0.1重量%の範囲で含む微少金属とからなる合金鋳塊を線材または平板材に成形加工したことを特徴とする。具体的に本発明の感温材は、さらに、Znを0.1〜5重量%含むものである。あるいは、前記難加工性金属は50重量%以上のInであり、これにSnを30〜35重量%を含んだ母材と、CuまたはAgを0.01〜0.5重量%含む微少金属とからなる合金鋳塊を線材または平板材に成形加工したことを特徴とする感温材、および前記難加工性金属は50重量%以上のInであり、これにBiを40〜50重量%を含んだ母材と、CuまたはAgを0.01〜0.05重量%含む微少金属とからなる合金鋳塊を線材または平板材に成形加工したことを特徴とする感温材を開示する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の感温材は、難加工性金属合金を主成分に含む感温材を加熱用鋳型に通してその出口側に均一急冷手段を用いて連続した一方向凝固組織を有する鋳塊を調製し、この鋳塊を成形加工により丸線状または板状の線材にするものであり、加工処理の作業の容易化と歩留まり向上を図り、かつ動作精度が高く優れた感温材を提供する。特に、この種の合金感温材の加工性の安定化により、成形加工での引抜加工や圧延加工が実現可能となり、感温材の加工処理における伸線や圧延などの作業性を飛躍的に向上させる。その結果、本発明の感温材を使用する合金型温度ヒューズや抵抗内蔵型温度ヒューズ等の保護素子の動作特性の改良が図られる等の実用的効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
合金の鋳造方法として、一方向または単結晶に成長する鋳塊の製造は、ブリッジマン法、チョクラルスキー法およびO.C.C.(Ohno Continuous Casting)法が知られている。このうち、ブリッジマン法は直接るつぼに接した状態で単結晶が育成するため、るつぼから不純物が混入する可能性が高く、これが核となって異なった方位の結晶が発生するので多結晶化し易い問題を抱えている。一方、チョクラルスキー法は、溶かした原料から結晶を徐々に引張り上げるため、るつぼの温度制御や回転制御、溶湯の対流制御、結晶引き上げ速度の制御など様々な精密制御を組み合わせて使用する複雑な工程が要求される。製造工程に要する工期や必要な装置構成などの経済性を比較すると、ブリッジマン法や、チョクラルスキー法はバッチ式で大口径の柱状単結晶を得る方法である。一方、本発明が着目した合金鋳造方法は、感温材として加工される細線材、テープ材および円柱小片材に加工する場合に優れた成形加工を実現可能にする。すなわち、所望する最終的形状に最も近い形状の加工性に優れる。したがって、感温材の鋳造合金の中間素材として加工工程を少なくすることに効果的である。このため加工性に優れる一方向凝固組織を有する鋳塊の連続鋳造を実現する。すなわち、本発明の感温材の鋳造方法は、特許文献6に開示される方法であり、O.C.C.法が適用される。
【0011】
本発明の感温材である合金は、図1に示されるようなO.C.C.法により合金素材が製造される。図1において、溶湯1はヒータ2を側壁に有する鋳型6に通され、その出口側の冷却手段3からの冷媒4により強制冷却され、一方向凝固組織を有する鋳塊5を生成する。図示しないが、溶湯1は別の場所の溶解保持炉から注湯により供給される。本発明は加熱した加熱鋳型を用い溶湯は金属の初晶温度もしくはそれ以上の温度に加熱されることを特徴としている。換言すると、難加工性金属BiまたはInを主成分とする母材と微少金属Ag、Al、Cu、Ge、Mg、P、Sn、TiおよびZnを含む金属群から選ばれる少なくとも1種の金属の添加材とを溶解保持炉で溶融させ、生成された溶湯の初晶温度より+10〜+300℃高い温度に保ったまま加熱鋳型に押し出し、この鋳型の出口端で急速冷却5〜5000℃/秒の冷却速度で急冷して凝固させ、所定の鋳造速度50〜500mm/分で一方向凝固組織を有する鋳塊5を連続的に鋳造される。なお、溶湯は溶解保持炉にかけた一定圧力により加熱鋳型を通じて押し出され、鋳型出口直後に冷水などの冷媒で急冷凝固される。冷却条件、溶湯温度や鋳造速度などの諸因子を一定にコントロールされ、凝固の定常状態を得る。凝固界面の位置は鋳型(鋳壁)と接することがない鋳型出口端に一定保持される。その結果、金太郎飴様の連続した一方向組織を有する合金鋳塊が調製され用意される。このようなO.C.C.法による一方向凝固鋳塊は金属間化合物の偏析が少なく、また金属間化合物が析出しても、マトリックス中に均質微細分散させることができる。図2は、図1の要部を含めた全体部分の断面を示す別の鋳造装置の部分断面概要図である。図において、溶湯21はヒータ付溶解保持炉20から加熱鋳型26に供給され、冷却手段23の冷却水24を用いて冷却される。さらに生成された一方向凝固組織を有する鋳塊25はピンチローラー27を経て引き出される。この連続鋳造装置は本発明の感温材の成形加工前の中間素材の製造プロセスを図示する。
【0012】
本発明にある感温材のような難加工性合金は、単に一方向凝固組織とするだけでなく成分偏析をできるだけ少なくする。また、割れや破断の起点となりやすい金属間化合物の生成を抑制することが重要である。通常の鋳塊製造は溶けた金属を冷却鋳型に注湯し、その中で固め連続的に鋳塊を引出す方法が一般的である。(例えば、図3参照)このような鋳塊は内部に巣や成分偏析などの欠陥が発生しやすく、また鋳塊表面傷など表面欠陥も多い。そのため微量元素を添加するなど組織の均質化や微細化の工夫がされているが、過剰な添加は逆に必要以上の金属間化合物の晶出または析出をまねくおそれがあり、従来の冷却鋳型を用いて製造した大口径の鋳塊ビレットは、難加工性合金の中間素材として適していない。したがって、本発明の感温材は、その中間素材として一方向凝固組織を有する鋳塊が製造され用意される。
【0013】
本発明の感温材の中間素材である一方向凝固鋳塊は、加熱鋳型を用いる連続鋳造により製造される。加熱鋳型を合金の初晶温度以上に加熱、保持することで鋳壁からの結晶生成を抑制し、凝固は鋳型出口端近傍で一定凝固界面位置を維持しながら連続的に鋳造を行う。鋳塊の凝固界面は鋳型出口端に位置するため鋳塊と加熱鋳型との摩擦がない。通常の鋳型を介して水冷する間接冷却方式と異なり、直接鋳塊を冷媒で冷却し、鋳塊を通した熱移動により凝固が進行する。そのため通常の冷却鋳型(冷却金型)での凝固と比べると、固−液界面での温度勾配を大きく取ることができる。この時、凝固界面においては平衡状態からかけはなれた急冷状態となり、本来晶出するものも強制固溶されるため偏析の極めて少ない均質の加工用中間素材が容易に得られる。
【0014】
また、前記過熱鋳型を用いた連続鋳造では、制御因子である鋳造速度、冷却位置、鋳型温度などの諸条件を適切にコントロールすることで鋳造の条件を一定に保つことができ、鋳造のスタ−トから終了まで、どの位置をとってもほぼ同一組織の一方向凝固鋳塊を作製できる。凝固は大気中もしくは不活性ガスシ−ルド雰囲気中に置かれた加熱鋳型の出口端で進行する。前記鋳造プロセス加工用の中間素材の表面は金属光沢を有する極めて滑らかな仕上がりとなり、鋳塊内部は巣や偏析が極めて少ない高品質鋳塊となる。また、鋳壁での結晶生成がなく鋳塊からの熱移動により凝固が進行するため、鋳塊は一方向凝固組織となり、結晶の成長方向に優れた加工性を示す。
【0015】
次に本発明を構成する加熱鋳型を用いた連続鋳造の製造条件について説明する。加熱鋳型を用いた連続鋳造の具体的な制御因子には、鋳造速度、冷却位置、溶湯温度−凝固点温度差(ΔT)等の諸因子がある。ここで鋳造速度を上げ過ぎたり、冷却位置を離し過ぎたりすると、溶湯の噴出をまねき連続鋳造ができなくなる。同様にΔTを上げ過ぎると溶湯の粘度や表面張力が低下し、溶湯の噴出や鋳肌の凹凸荒れが発生しやすくなる。逆に鋳造速度を下げ過ぎたり、冷却位置を短くし過ぎたり、ΔTを下げ過ぎると加熱鋳型を冷やす原因となり鋳塊形状の安定維持が困難となって、一方向凝固鋳塊ができず不完全な鋳塊組織となってしまう。
【0016】
本発明の感温材の中間素材である一方向凝固鋳塊を加熱鋳型で安定的に連続鋳造するためには、前記鋳造速度を50〜500mm/分の範囲内で、前記ΔTを感温材の凝固開始温度の+10〜+300℃の範囲内で実施するのが好ましい。前記制御因子を調整することにより冷却速度を5〜5000℃/秒の範囲に設定することができ、温度勾配を大きくした急冷条件により一方向凝固鋳塊を効率よく連続鋳造することが可能となった。
【0017】
前記製造方法により製作された一方向凝固鋳塊は、保護素子用の感温材に加工する中間素材として使用する。前記中間素材を加工して得た感温材は、金属間化合物の晶出や析出を最小限に抑制でき、晶出した金属間化合物も鋳塊全体に均質微細分散される。その結果、従来の製造方法より電気抵抗値のばらつきが少なく、電気抵抗値の低いロスの少ない感温材を作ることができる。したがって前記製造プロセスは、感温材の中間素材を効率的に得る方法として好適である。
【0018】
次に本発明の感温材組成に関して説明する。58Bi−42Sn合金は溶融点139℃の共晶合金として知られているが、Biの含有量が50重量%を超えた脆性を有する難加工性の合金である。これを基本組成として100℃〜150℃の回路保護素子に用いる感温材を製作することができる。139℃以下の合金に対しては、Inを添加することで溶融点を下げることができるが、Inの増加に伴い固液共存の温度領域が広がるので好ましくない。DSCなどの熱分析においても複数のピ−ク値を示すなど(例えば、図12参照)、Bi−Sn共晶系を基本とした合金へのIn添加は、保護素子用の感温材として使用する場合には、Inの含有量が増すにつれ合金は脆くなり加工性を阻害するため、おのずとその量が制限される。実質的にはInの添加上限値は8重量%以下、好ましくは6重量%以下が望ましい。Inの下限値は添加効果が認められる0.1重量%以上に定められる。In添加によるBi−Sn共晶系の固液温度変化を図4に示す。
【0019】
前記のようにIn量を増加すれば低融点化を図ることができるが、反面で保護素子としては好ましくない固液共存温度領域の拡大や加工性が損なわれるという問題が生じる。そこで、Inの一部をZnで置き換えた素材を用いて製造し、感温材に使用するのが有効である。ZnはInと比べると溶融点を下げる効果は小さいがピ−ク値を下げ、加工性に対してもInほどの固液共存温度領域の拡大効果はない。ただし、Znを入れすぎると長時間での酸化、腐食の問題が生じるため上限値を5重量%以下に留めるのが好ましい。Znの下限値は添加効果が認められる0.1重量%以上に定められた。すなわち100〜135℃の感温体は、Bi−Sn共晶系に0.1〜6重量%のIn、0.5〜5重量%のZnを含んだ合金が有効である。これにAl、Ge、Mg、PおよびTiの群からなる特性調製用微少金属を少なくとも1元素を選択し微量添加することで、前記特性調製用微少金属の選択酸化によりZnの耐食性を改善することができる。前記特性調製用微少金属の有効範囲は、実験的に添加効果が表れる0.001重量%以上に定めた。また、上限値は添加元素の選択酸化による防食効果が過剰となり腐食を促進しない値を実験的に求め0.4重量%以下の範囲内に定めた。
【0020】
さらに、加工性改善や保護素子の電気特性および動作温度の微調整の観点からAg、Cuなどの特性調製用微少金属を添加する場合がある。しかし、これも多すぎると高融点の金属間化合物を生成し、逆に不必要な不純物となり、圧延加工の場合は亀裂の起点となりやすい。実際Cuを例に取ると、高温域においてもCuはSnとの金属間化合物として液中に固溶して存在する。液相中(溶湯)へ固溶する金属間化合物の量は、溶湯温度に依存しており、Bi−Sn共晶系をマトリックスとした組成にCuを1重量%加えた合金では、350℃以下になるとCuSn金属間化合物の晶出がみられ、温度の低下と共に成長し金属間化合物の領域が増す。凝固開始温度に近い150〜160℃近辺では溶湯中のCu固溶量は0.06重量%と低い。この温度域では、多くのCuはSnとの金属間化合物であるCu6Sn5やCu3Snとして存在し、マトリックス中へのCuの固溶は0.1重量%以下である。従って、過度のCu添加は金属間化合物の量を増やすだけであり、金属を脆くし、また、電気抵抗値の増加などの特性面からも好ましくない。Cu、Snの金属間化合物は硬く脆いため大きく成長したり、部分的に偏析したりすると加工時、切断の起点となったり、回路保護素子として動作不良など不具合の原因となる恐れがあり、Cuは0.001重量%以上、0.1重量%以下の量が適切である。Bi−Sn共晶系に対するCu固溶量の温度変化を図5に示す。AgやCuの適量添加により、強度を高め電気的特性の安定した金属組織とすることができる。
【0021】
前記加熱鋳型を用いた連続鋳造法により、一方向凝固組織を有し、かつAg、Cuなどの特性調製用微少金属が合金のマトリックス中に均質に分散、固溶した高品質な加工用の中間素材を得ることができる。このため、材料強度の向上を目的として過度の特性調製用微少金属を添加する必要がなく0.1重量%以下の量で充分な効果を示した。
【0022】
次に、粘土様の軟らかさを呈して寸法精度が保てない理由で難加工性である合金系にIn−Sn系合金がある。In−Sn系合金に有効な特性調製用微少金属としてAgとCuがあげられる。特性調製用微少金属にAgを用いた場合、例えば67In−33Snの母材に対してAgを0.02重量%以上添加すると合金組織中に金属間化合物AgIn2の晶出が見られ、これが合金の強度を高める働きをすることがわかった。ただし、Agの過度の添加は金属組織中でAgIn2の局在化をまねくため、線材品質のバラツキや感温材の動作性に悪影響をおよぼすため、Ag添加の上限を0.5重量%以下とすることが望ましいことが実験的に確認された。同様にCuについても0.002重量%以上の添加で合金組織中に金属間化合物Cu2In3Snの晶出が確認されたが、強度を高める働きを示すのは、0.01重量%以上であった。Cu添加の上限値はマトリックス中に均質に分散する0.5重量%以下で、これを超える添加は過剰成分の偏析を起こすことがわかった。
【0023】
本発明の感温材として具体的な例を次に示す。Biを主成分にSnとInを加えた合金の化学成分として、Biを55〜60重量%、Snを40〜43重量%、Inを0.6〜8重量%、これに特性調製用微少金属としてAgまたはCuを0.001〜0.4重量%を添加した組成物からなる110〜139℃の溶融点を有する感温材が提示される。
【0024】
また、前記感温材には、Bi−Sn共晶組成にIn、Znを加えた合金を基本組成とし、Biを50〜60重量%、Snを38〜43重量%、Inを0.1〜6重量%、Znを0.1〜5重量%含み、これに特性調製用微少金属としてAgまたはCuを0.001〜0.1重量%を添加した110〜139℃の溶融点を有する感温材を用いることもできる。
【0025】
別の例では、Inを主成分にSnを加えた合金の化学成分として、Inを65〜70重量%、Snを30〜35重量%の合金に特性調製用微少金属としてAgまたはCuを0.01〜0.5重量%を添加した120〜125℃の感温材が提示される。
【0026】
本発明の製造プロセスにより製作した一方向凝固鋳塊の一例として、57重量%のBi、42重量%のSn、1重量%のInに、0.1重量%のCuを添加した合金をこの方法でφ2.0mmに鋳造し、φ0.4mmまで途中切断などのトラブルなく伸線を行うことができた。この結果、歩留も改善し生産性が大幅に向上した。前記難加工合金は加工用の中間素材である一方向凝固鋳塊を用いることにより引抜き伸線加工よる細線の製作のみならず、圧延加工による箔の製作も容易となる。特に図6に示すように、圧延での耳割れが少なく箔への加工も可能となった。この実施例で使用した加工用の中間素材である一方向凝固鋳塊(丸線状鋳塊)の金属組織を図7に示す。
【0027】
以下、本発明の1つの実施態様である保護素子のアキシャルタイプ合金型温度ヒューズを例に図面を参照しつつ説明する。この保護素子は、図8に示すように、Sn−Cuめっき銅線からなる一対のリ−ド部材41、42に、本発明の特徴とする後述の感温材(合金)3が抵抗溶接により接合される。感温材43の表面にはロジン、ワックスおよび活性剤からなるフラックス44を被覆する。その後、アルミナ等のセラミック碍管の絶縁容器またはケース45に収容され、エポキシ樹脂と少量の無機物添加材からなる封止材46、47によりリード部材41、42の導出部を残して絶縁ケース45の両端部を封着して構成される。このような構成の保護素子において、次のような変形例も可能である。先ず、感温材43の形状に関し、通常、φ0.3〜0.7mm線を使用するが、必要に応じて同一の断面積を有するテープ状合金の平角片も使用できるほか、要求に応じてφ0.3mm以下とするやφ0.7mm以上に変更することもできる。本発明の感温材は加熱鋳型による連続鋳造法を用いて製造された加工用の中間素材である一方向凝固鋳塊(φ1.0〜5.0mm)から、前記感温材3に引抜加工により順次細線状に製造されるが、必要に応じて、その後さらに加工してテープ状に圧延することもできる。リ−ド部材41、42は必要に応じてAgめっき銅線、Snめっき銅線、Niめっき銅線等に変更してもよく、Sn−Cuめっき銅線に限定されるものではない。
【0028】
なお、本発明の保護素子は、アキシャルタイプ以外のラジアルタイプ、小型薄型のチップタイプ、抵抗内蔵タイプ、絶縁容器使用のパッケージタイプなど各種の合金型温度ヒューズのほかサーマルリンク型保護素子にも適用できる。
【0029】
次に実際に本発明の感温材を適用した保護素子の具体例について詳述する。
【実施例1】
【0030】
Biを57重量%、Inを1重量%、Cuを0.06重量%、残部をSnの組成とした一方向組織を有する加工用の一方向凝固鋳塊からφ0.7mm線材に加工した感温材を適用した図8に示す温度ヒューズを作製し実施例1とした。実施例1の30個を10mAの検知電流を通電しながら1℃/分の割合で温度上昇する恒温槽の気相中で動作させたところすべてが138±2℃の温度範囲で正常に動作した。実施例1の各10個を115±3℃の恒温槽中に48時間保管してそれぞれの内部抵抗を試験したところ、すべて問題の無い範囲内に維持されていた。さらに、恒温保管後の動作温度を測定し138±5℃の範囲内にあることを確認した。実施例1の感温材のDSCチャートを図9に示す。
【実施例2】
【0031】
同様にして、実施例2はBiを55重量%、Inを2重量%、Znを2重量%、残部をSnの組成とした加工用の一方向凝固鋳塊からφ0.7mm線材に加工し、前記温度ヒューズの感温材に用いた。実施例2の30個を10mAの検知電流を通電しながら1℃/分の割合で温度上昇する恒温槽の気相中で動作させたところすべてが130±2℃の温度範囲で正常に動作した。また、実施例2の各10個を110±3℃の恒温槽中で48時間保管した後、内部抵抗を試験したところ、すべて問題の無い範囲内に維持されていた。さらに、恒温保管後の動作温度を測定し130±5℃の範囲内にあることを確認した。実施例2の感温材のDSCチャートを図10に示す。
【実施例3】
【0032】
実施例3はInを67重量%、Cuを0.25重量%、残部をSnの組成とした加工用の一方向凝固鋳塊からφ0.7mm線材に加工し、前記温度ヒューズの感温材に用いた。この実施例3について、30個を10mAの検知電流を通電しながら1℃/分の割合で温度上昇する恒温槽の気相中で動作させたところすべてが125±2℃の温度範囲で正常に動作した。また、実施例3の各10個を105±3℃の恒温槽中で48時間保管した後、内部抵抗を試験したところ、すべて問題の無い範囲内に維持されていた。さらに、恒温保管後の動作温度を測定し125±5℃の範囲内にあることを確認した。実施例2の感温材のDSCチャートを図11に示す。
【0033】
以上に説明した本発明の実施例である感温材と比較例として従来の鋳塊ビレットから押出加工により作製した比較例の感温材との物理特性の比較を表1に示す。
【表1】
【0034】
一方向凝固組織が有する金属間化合物の微細分散均一化により、表1に示した感温材を用いて作製した実施例1〜3の温度ヒューズは、従来工法で作製した同組成の感温材から作製した比較例1〜3の温度ヒューズに比べて、内部抵抗値がより低く、かつ抵抗値のバラツキが小さくなり、電気的ロスの少ない製品を実現できたほか、感温材の引張強度や伸びなどの機械的強度も向上し、温度ヒューズの組立製造時の歩留まりを大きく向上させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の加熱鋳型を用いた連続鋳造法の製造原理図である。
【図2】本発明の加熱鋳型の主要部分の断面図である。
【図3】一般的な冷却鋳型を用いた連続鋳造法の製造原理図である。
【図4】In添加によるBi−Sn共晶系の固液温度変化を示した図である。
【図5】Bi−Sn共晶系に対するCu固溶量の温度変化を示した図である。
【図6】加工用鋳塊の違いによる圧延加工箔の割れの有無を示した図である。
【図7】鋳造方法の違いによる加工用鋳塊の金属組織の比較図である。
【図8】本発明の実施例を示す保護素子の主要部分の断面図である。
【図9】実施例1の感温材のDSCチャートである。
【図10】実施例2の感温材のDSCチャートである。
【図11】実施例3の感温材のDSCチャートである。
【図12】比較例2の感温材のDSCチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1,21,31…溶湯、 2,22…ヒータ、 3,23…冷却手段、
4,24,34…冷媒、 5,25…一方向凝固鋳塊、6,26…加熱鋳型、
20…溶解保持炉、27…ピンチローラー、38…鋳塊、 39…冷却鋳型、
41,42…リード、 43…感温材、44…フラックス、45…セラミックス碍管、46,47…封止材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難加工性金属を主成分とする母材に、特性調製用微少金属の添加材を添加した合金において、一方向凝固組織を有することを特徴とした感温材。
【請求項2】
前記難加工性金属を主成分とする母材と特性調製用微少金属の添加材との溶湯素材を加熱された鋳型を通過させ、その出口側に設けた冷却手段により急冷凝固して一方向凝固組織を有する鋳塊を用意し、この鋳塊を所定形状に成形加工したことを特徴とする請求項1に記載の感温材。
【請求項3】
前記難加工性金属としてBiまたはInを主成分とする母材を、前記特性調製用微少金属としてAg、Al、Cu、Ge、Mg、P、Sn、TiおよびZnを含む金属群から選ばれる少なくとも1種の金属からなる添加材を使用したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の感温材。
【請求項4】
前記難加工性金属は50重量%以上のBiであり、これにSnを40〜43重量%およびInを0.1〜8重量%を含んだ母材と、AgまたはCuを0.001〜0.1重量%の範囲で含む前記特性調製用微少金属とからなる合金鋳塊を線材または平板材に成形加工したことを特徴とする請求項3に記載の感温材。
【請求項5】
前記母材は、さらに、Znを0.1〜5重量%含むことを特徴とする請求項4に記載の感温材。
【請求項6】
請求項5に記載の母材に、さらに前記特性調製用微少金属のAl、Ge、Mg、PおよびTiを含む金属群から選ばれる少なくとも1種の金属からなる添加材を0.001〜0.4重量%含むことを特徴とする感温材。
【請求項7】
前記難加工性金属は50重量%以上のInであり、これにSnを30〜35重量%を含んだ母材と、AgまたはCuを0.01〜0.5重量%含む前記特性調製用微少金属とからなる合金鋳塊を線材または平板材に成形加工したことを特徴とする請求項3に記載の感温材。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7の何れかに記載の感温材を用いたことを特徴とする温度ヒューズ。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7の何れかに記載の感温材を用いたことを特徴とする回路保護素子。
【請求項10】
難加工性金属を主成分とする母材と特性調製用微少金属の添加材とを溶解保持炉で溶融させ、生成された溶湯の初晶温度より高い温度に保ったまま加熱用鋳型に押し出し、この鋳型の出口端で急速冷却して凝固させ、所定の鋳造速度で一方向凝固組織を有する鋳塊を連続的に鋳造し、この鋳造した鋳塊を用いて所定の形状に成形加工することを特徴とする感温材の製造方法。
【請求項11】
前記難加工性金属としてBiまたはInを主成分とする母材と、前記特性調製用微少金属としてAg、Al、Cu、Ge、Mg、P、Sn、TiおよびZnを含む金属群から選ばれる少なくとも1種の金属からなる添加材とを、溶解保持炉で溶融させ、生成された溶湯の初晶温度より+10〜+300℃高い温度に保ったまま加熱用鋳型に押し出し、この鋳型の出口端で5〜5000℃/秒の冷却速度で急冷して凝固させ、鋳造速度50〜500mm/分で一方向凝固組織を有する鋳塊を連続的に鋳造し、この鋳造した鋳塊を用いて所定の形状に成形加工することを特徴とする請求項10に記載の感温材の製造方法。
【請求項1】
難加工性金属を主成分とする母材に、特性調製用微少金属の添加材を添加した合金において、一方向凝固組織を有することを特徴とした感温材。
【請求項2】
前記難加工性金属を主成分とする母材と特性調製用微少金属の添加材との溶湯素材を加熱された鋳型を通過させ、その出口側に設けた冷却手段により急冷凝固して一方向凝固組織を有する鋳塊を用意し、この鋳塊を所定形状に成形加工したことを特徴とする請求項1に記載の感温材。
【請求項3】
前記難加工性金属としてBiまたはInを主成分とする母材を、前記特性調製用微少金属としてAg、Al、Cu、Ge、Mg、P、Sn、TiおよびZnを含む金属群から選ばれる少なくとも1種の金属からなる添加材を使用したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の感温材。
【請求項4】
前記難加工性金属は50重量%以上のBiであり、これにSnを40〜43重量%およびInを0.1〜8重量%を含んだ母材と、AgまたはCuを0.001〜0.1重量%の範囲で含む前記特性調製用微少金属とからなる合金鋳塊を線材または平板材に成形加工したことを特徴とする請求項3に記載の感温材。
【請求項5】
前記母材は、さらに、Znを0.1〜5重量%含むことを特徴とする請求項4に記載の感温材。
【請求項6】
請求項5に記載の母材に、さらに前記特性調製用微少金属のAl、Ge、Mg、PおよびTiを含む金属群から選ばれる少なくとも1種の金属からなる添加材を0.001〜0.4重量%含むことを特徴とする感温材。
【請求項7】
前記難加工性金属は50重量%以上のInであり、これにSnを30〜35重量%を含んだ母材と、AgまたはCuを0.01〜0.5重量%含む前記特性調製用微少金属とからなる合金鋳塊を線材または平板材に成形加工したことを特徴とする請求項3に記載の感温材。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7の何れかに記載の感温材を用いたことを特徴とする温度ヒューズ。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7の何れかに記載の感温材を用いたことを特徴とする回路保護素子。
【請求項10】
難加工性金属を主成分とする母材と特性調製用微少金属の添加材とを溶解保持炉で溶融させ、生成された溶湯の初晶温度より高い温度に保ったまま加熱用鋳型に押し出し、この鋳型の出口端で急速冷却して凝固させ、所定の鋳造速度で一方向凝固組織を有する鋳塊を連続的に鋳造し、この鋳造した鋳塊を用いて所定の形状に成形加工することを特徴とする感温材の製造方法。
【請求項11】
前記難加工性金属としてBiまたはInを主成分とする母材と、前記特性調製用微少金属としてAg、Al、Cu、Ge、Mg、P、Sn、TiおよびZnを含む金属群から選ばれる少なくとも1種の金属からなる添加材とを、溶解保持炉で溶融させ、生成された溶湯の初晶温度より+10〜+300℃高い温度に保ったまま加熱用鋳型に押し出し、この鋳型の出口端で5〜5000℃/秒の冷却速度で急冷して凝固させ、鋳造速度50〜500mm/分で一方向凝固組織を有する鋳塊を連続的に鋳造し、この鋳造した鋳塊を用いて所定の形状に成形加工することを特徴とする請求項10に記載の感温材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−172903(P2010−172903A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15126(P2009−15126)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(300078431)エヌイーシー ショット コンポーネンツ株式会社 (75)
【出願人】(390001801)大阪富士工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(300078431)エヌイーシー ショット コンポーネンツ株式会社 (75)
【出願人】(390001801)大阪富士工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】
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