感知装置
【課題】検出用の振動領域及び参照用の振動領域を有する圧電センサーを用いた感知装置において、励振電極の形状を改良することにより高い測定感度が得られる感知装置を提供すること。
【解決手段】水晶片20aにおける、前記反応用流路52の平面形状の輪郭である円53の中心に対して互に左右に離間して対称に形成され、各々前後に平行に伸びる短冊状の左側領域及び右側領域を形成する。前記領域は、左側領域の左側の両角部100及び右側領域の右側の両角部100が前記円53よりも外側に飛び出す大きさに設定され、外側に飛び出している角部100を切り落として、左側領域及び右側領域が前記円53よりも内側に位置するようにし、これら右側領域及び左側領域に夫々計測用の励振電極21a及び参照用の励振電極21bを形成する。
【解決手段】水晶片20aにおける、前記反応用流路52の平面形状の輪郭である円53の中心に対して互に左右に離間して対称に形成され、各々前後に平行に伸びる短冊状の左側領域及び右側領域を形成する。前記領域は、左側領域の左側の両角部100及び右側領域の右側の両角部100が前記円53よりも外側に飛び出す大きさに設定され、外側に飛び出している角部100を切り落として、左側領域及び右側領域が前記円53よりも内側に位置するようにし、これら右側領域及び左側領域に夫々計測用の励振電極21a及び参照用の励振電極21bを形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子等の圧電振動子の固有振動数に基づいて、試料液に含まれる感知対象物を感知するための感知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料液に含まれる微量物質を感知し、測定する感知装置としては水晶センサーを用いたものが知られている。本発明者は水晶センサーとして、計測環境の外部要因例えば温度等の影響を低減するために、図11に示すように水晶片10の一面側2つの励振電極11a、11b(検出用電極11a及び参照用電極11b)を設け、検出用電極11aの表面には生体物質等からなる吸着層12が形成されているものを検討している。なお、水晶片10の裏面側にも励振電極11a、11bに対応して、励振電極が設けられ、検出用の振動領域と参照用の振動領域とが形成される。これにより、感知対象物を吸着することによる質量変化を受けるのは励振電極11aだけであることから、励振電極11aより取り出される発振周波数から励振電極11bより取り出される発振周波数の差分を取ることにより、外部要因を取り除いた精度の高い測定結果を得ることができる。
【0003】
一方、液相雰囲気で測定する場合には、液体の粘性により水晶センサーの感度が悪くなる。そこで、感度を向上させるために、前述の励振電極11a、11bを大きく設計されることが望ましい。
【0004】
しかし、既述のように水晶片10の表面に2つの励振電極11a、11bを形成すると、水晶センサーを発振させた場合に、一方の励振電極11a(11b)は他方の励振電極11b(11a)からの振動エネルギーの影響を受けるために、振動によるノイズが検出結果に反映されることから、これら励振電極11a、11bとの間に間隔を置くことが好ましい。この間隔の確保のため、各励振電極11a、11bのサイズを小さくしなければならないが、吸着層12の形成領域も小さくなることから、測定感度が悪くなるといった問題がある。
【0005】
ところで、感知装置には、特許文献1に開示されているように試料液を流しながら感知対象物の検出を行うものが知られている。この感知装置の水晶センサーの水晶片10は、図12に示すように配線基板13の孔部13aを塞ぐように当該配線基板13に載置され、水晶押さえ部材14の環状の押さえ部14aが当接することにより押圧されている。また、ケース体16の底部に水晶センサーを装着した状態において、水晶センサーの表面に臨む領域を囲むように反応用流路17が形成されており、このとき試料液中の感知対象物が水晶片10の吸着層12に吸着される。反応用流路17には試料液を流す前に緩衝液を流し、このときの水晶片10の周波数変化を計測することで試料液中の感知対象物の濃度が測定される。
【0006】
この種の感知装置に用いられる水晶センサーでは、臨床の分野や環境の分野において、微量な感知対象物の測定をできるだけ高感度、高精度に行うことが要求されており、本発明者は水晶センサーに形成する電極の大きさに着目した。前記水晶センサーでは励振電極11a、11bを大きく設計すると環状の押さえ部14aに励振電極11a、11bの外縁部が踏まれ(図11(a)参照)、発振が不安定になり、一方、励振電極11a、11bを小さく設計する(図11(b)参照)と既述のように測定の感度が低下するという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−58086(段落、図11及び図13)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、検出用の振動領域及び参照用の振動領域を有する圧電センサーを用いた感知装置において、励振電極の形状を改良することにより高い測定感度が得られる感知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の感知装置は、圧電片に互いに離間して計測用の振動領域及び参照用の振動領域を形成するように2対の励振電極が設けられた圧電振動子を備え、計測用の振動領域を形成する電極対のうち圧電片の一面側に位置する一方の励振電極には、試料流体中の感知対象物を吸着する吸着層が形成され、この吸着層に試料流体中の感知対象物を吸着させると共に圧電片の一面側における参照用の振動領域上にも当該試料流体を供給し、計測用の振動領域の発振周波数及び参照用の振動領域の発振周波数に基づいて前記感知対象物を感知する装置において、
圧電振動子の一面側に設けられ、計測用の振動領域及び参照用の振動領域に対して共通の試料流体供給空間を形成するために、これら振動領域を形成する励振電極よりも外側に位置しかつ励振電極を円形状に囲むように設けられた囲み部材と、
圧電振動子の他面側における計測用の振動領域及び参照用の振動領域の外側を保持する保持部材と、を備え、
前記励振電極は、以下の形状に形成されていることを特徴とする。
a.前記試料流体供給空間の平面形状の輪郭である円の中心に対して互に左右に離間して対称に形成され、各々前後に平行に伸びる短冊状の左側領域及び右側領域を形成する。
b.左側領域の左側の両角部及び右側領域の右側の両角部は、いずれも前記円よりも外側に飛び出す大きさに設定されている。
c.外側に飛び出している角部を切り落として、左側領域及び右側領域が前記円よりも内側に位置するようにし、これら左側領域及び右側領域に夫々参照用の振動領域の励振電極及び計測用の振動領域の励振電極が形成される。
また、感知装置は以下の構成を取ってもよい。
1.前記圧電振動子の一面側に設けられた両方の励振電極は、前記円形状の試料流体供給空間内にて、一端側同士が電極により互に接続されて共通の電位とされ、前記圧電振動子の他面側に設けられた両方の励振電極は、互に電気的に分離されている構成。
2.前記試料流体供給空間には、試料流体を供給する供給路と、試料流体を排出する排出路が接続され、圧電センサーの発振周波数の計測は、試料流体を試料流体供給空間に流しながら行う構成。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、圧電片の一面側に形成される短冊形状の励振電極を、その外側部分である角部を囲み部材で取り囲まれる円形の領域よりはみ出る部分を切り落として形成している。従って、圧電センサーの振動領域を含むに囲み部材に取り囲まれた領域内で、励振電極の面積を大きくすることができ、測定感度の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る感知装置の一部であるセンサーユニットを示す分解斜視図である。
【図2】前記センサーユニットを示す縦断面図である。
【図3】前記圧電センサーの一部を構成する水晶振動子を示す表面図及び裏面図である。
【図4】前記センサーユニットの一部を構成する流路形成部材の裏面を示す斜視図である。
【図5】流路形成部材と水晶振動子とが当接した時の配置を示す図である。
【図6】前記水晶振動子を発振させる発振回路のレイアウトである。
【図7】前記センサーユニットが組み込まれた感知装置の全体を示す構成図である。
【図8】前記感知装置の一部を構成する水晶振動子、測定回路部及び測定器本体との接続を説明するブロック図である。
【図9】感知装置に用いられる回路の一例を示す回路ブロック図である。
【図10】他の実施の形態に係る水晶振動子を示す上面図である。
【図11】圧電センサーに組み込まれる水晶振動子の比較資料を示す上面図である。
【図12】従来の圧電センサーを示す縦断面図である。
【図13】水晶振動子の比較例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係る感知装置は、圧電センサーの励振電極の形状に特徴があるが、感知装置の全体構成について簡単に述べておく。この感知装置は、後述の図8に示すように圧電センサーが装着されるセンサーユニット2と、センサーユニット2に液を供給する供給系と、センサーユニット2から液を排出する排出系と、発振回路30と、測定回路部81と、データ処理部82と、を備えている。
【0013】
先ず圧電センサーである水晶センサーについて図1を参照して説明すると、水晶センサー3は圧電振動子である水晶振動子20と配線基板40とを備えている。水晶振動子2は、図1及び図3(a)に示すように圧電片である例えば円形状の水晶片20aを備え、水晶片20aの表面には、蟹のはさみに似た形状の電極が形成されている。この電極は、互いに離間して平行に配置された2つの励振電極21a、21bとこれら励振電極21a、21bの一端側を連結する連結部分27と、この連結部分27の中央部から水晶片20aの周縁に直線的に伸びている引き出し電極28とから構成されている。一方の励振電極21aは、後述の裏面側の電極22aと共に水晶片20aに検出用の振動領域を形成している。他方の励振電極21bは、後述の裏面側の電極22bと共に水晶片20bに参照用の振動領域を形成するためのものである。従って前記連結部分27は引き出し電極28の一部をなしているということができる。
【0014】
ここで励振電極21a、21bの形状について詳述する。水晶振動子20は後述の囲み部材である流路形成部材50の凹部52の外周の輪郭(周縁)により囲まれるが、励振電極21a、21bは、この凹部52の内側に位置していることが必要である。その理由については「背景」の項目においても記載したが、励振電極21a、21bが凹部52の外側に位置するということは、流路形成部材50により踏まれるということ、つまり押し付けられるということであり、この場合発振が不安定になる。そこで図5に示すように短冊形状の角部100を切り落として扁平な6角形状としたものである。
【0015】
この形状について図5を参照しながら更に詳述する。凹部52の外周の輪郭は円形であるため、ここでの説明において前記輪郭を「円」と称し、その符号を53とする。先ずこの円53の中心に対して左右(図5では上下)に離間して対称に配置されると共に、各々前後(図5中の左右方向)に平行に伸びる2つの短冊状領域である左側領域(図5の下側の領域)及び右側領域(図5の上側の領域)を形成する。前記左側領域は、左側(下側)の両角部100が円53よりも外側に飛び出す大きさに設定され、また右側領域は、右側(上側)の両角部100が円53よりも外側に飛び出す大きさに設定されている。そして、外側に飛び出した角部100を切り落とし、前記円53よりも内側の左側領域及び右側領域に夫々参照用の励振電極21b及び検出用の励振電極21aを形成している。流路形成部材50の凹部52が円形である理由は、反応用の流路の周縁が円弧形状であることから液のよどみが発生することなく、円滑に流れ、このためより正確な測定を行うことができるからである。
【0016】
これら励振電極21a、21bの一端側は、互いに接続され、この接続部位27は水晶片20aの外縁へ引き伸ばされ、裏面側へ回し込まれている。この回し込まれた部分が後述する配線基板4の導電路42bと例えば導電性接着材により接続される部分となる。またこれら励振電極21a、21bの幅(図3では上下方向の寸法)は同じ大きさに設定され、引き出し電極28の幅方向の中心を通りかつ当該引き出し電極28に沿って伸びる中心線の延長線に対して、励振電極21a、21bは対称にかつ同じ大きさに形成されている。
水晶片20aの裏面には、計測用の励振電極22aと参照用の励振電極22bとが離間して、夫々励振電極21a、21bに対向する位置に設けられている。また前記励振電極22a、22bの一部は、水晶片20aの外縁へ引き伸ばされ、これら引き伸ばされた部分が夫々配線基板40の導電路42c、42aと接続する。前記励振電極21及び励振電極22a、22bの等価厚みは、例えば0.2μmであり、電極材料としては例えば金あるいは銀等が用いられている。
【0017】
水晶片20における励振電極21bと励振電極22bとの間の領域は、参照用の振動領域を形成し、また励振電極21aと励振電極22aとの間の領域は、検出用の振動領域を形成している。励振電極21bと励振電極22bにより参照用の振動領域が振動し、励振電極21aと励振電極22aにより検出用の振動領域が振動する。
【0018】
図3に示すように励振電極21aの表面には吸着層26が形成されている。この吸着層26は、例えば抗原である感知対象物を吸着する抗体からなり、抗原抗体反応により抗原を吸着する。この吸着による質量負荷効果により検出用の振動領域の発振周波数が低下する。一方、励振電極21bの表面は、電極表面が剥き出しとなっていて吸着層26が設けられていないため、参照用の振動領域からは温度等の外乱の影響に対応する発振周波数が取り出される。また励振電極21において参照用の振動領域を形成する領域の電極表面は剥き出しとせずに、例えば感知対象物と反応しない例えばタンパク質からなるブロッキング層を形成してもよい。
【0019】
前記配線基板40は、図1に示すように例えばプリント基板により構成され、その一端側には水晶振動子20の裏面側が臨む気密空間をなす凹部を形成するための貫通孔41が形成され、励振電極22a、22bの外側を保持する。配線基板40の他端側には、発振回路に接続するための端子部42a、42b及び42cが設けられている。また、配線基板40には、その一端側から他端側に亘って導電路43a、43b及び43cが形成され、これら導電路43a、43b、43cは端子部42a、42b及び42cに夫々接続されている。従って、配線基板40に水晶振動子20が載置され、励振電極と導電路とが例えば導電性接着剤で接着されることにより励振電極21及び励振電極22a、22bは各導電路43b、43c、43aを介して端子部42b、42c、42aと夫々接続されることになる。
【0020】
次に、センサーユニット2について図2及び図4を用いて説明する。図2はセンサーユニット2の縦断面を示したものである。液路形成部材50の裏面側を図4に示す。液路形成部材50は弾性材料例えばシリコンゴムを用いて配線基板40の一端側に対応した形状に作成されている。液路形成部材50の裏面側の中央部には、円形の凹部52が形成されている。この凹部52の直径は、水晶振動子20の前記参照用の振動領域及び検出用の振動領域を含む領域よりもやや大きく設定され、液路形成部材50が配線基板40に当接することで、凹部52の周縁53で囲まれる円形領域に前記振動領域が収まる。前記凹部52の高さは、例えば0.2mm以下に設定され、この例では0.1mmに設定されている。
【0021】
前記凹部52の天井面は、水晶振動子20の一面側である表面側における振動領域と隙間を介して対向する対向面である。この対向面と水晶振動子20との間の領域、即ち水晶振動子20の振動領域に臨む領域に、試料流体供給空間に相当する反応用流路が形成される。反応用流路は、前記対向面と前記振動領域の上方領域の周囲を囲む内周面とにより囲まれる領域を含む。
【0022】
流路形成部材50には、図4に示すように凹部52を挟んで当該凹部52の直径方向に互いに対向するように、かつ各々凹部52の周縁から一直線状に伸びるように溝部52a、52bが形成されている。従って、流路形成部材50と配線基板40とを重ね合わせて、凹部52を水晶振動子20に押し付けた状態においては、凹部が反応用流路になる。なお、以降の説明では凹部及び反応用流路のいずれも符号52を用いることとする。そして、溝部52a、52bは水晶振動子20における振動領域から外れた部位と流路形成部材50とで囲まれた流路をなし、凹部即ち反応用流路52に連通している。また溝部及び流路のいずれも符号52a(52b)を用いることとする。
【0023】
そして、流路形成部材50及びカバー体70を組み立てた構造体には、図2及び図3に示すように前記内部側流路52aにおける反応用流路52とは反対側の端部から上方に垂直に伸び更に斜め上方に伸びる流路51aが形成されている。この流路51aは供給側の外部側流路に相当するものであり、この外部側流路51aの上端には液供給管72が接続されている。また、前記構造体には、前記内部側流路52bにおける反応用流路52とは反対側の端部から上方に垂直に伸び更に斜め上方に伸びる流路51bが形成されている。この流路51bは排出側の外部側流路に相当するものであり、この外部側流路51bの上端には液排出管73が接続されている。前記内部側流路52a及び外部側流路51aは、液体供給路を構成し、内部側流路52b及び外部側流路51bは、液体排出路を構成する。
【0024】
前記支持体60には、配線基板40及び流路形成部材50を嵌合し、保持するための凹部61が形成されている。従って、前記凹部61に配線基板40を嵌合した状態で、流路形成部材50を配線基板40に押し付けることにより、流路形成部材50の下面が水晶振動子20を配線基板40に押圧して、固着される。さらに、支持体60は上方よりカバー体70により覆われる。
【0025】
更にまた、感知装置は、図8に示すように発振回路ユニット30、測定回路部81、測定器本体82、試料液供給部83、緩衝液供給部84、供給液切替部85、廃液貯留部86を備えている。
【0026】
発振回路ユニット30は、センサーユニット2に差し込まれることにより、前記配線基板40の接続端子部である電極42a、42b、42cと発振回路30a、30bとが電気的に接続される。図7は発振回路30と水晶振動子20とを示す回路図である。この図に示すように、前記励振電極22bに対応する参照用の振動領域が発振回路30aに接続されると共に励振電極22aに対応する検出用の振動領域が発振回路30bに接続されている。
【0027】
図8及び図9に示すように、発振回路ユニット30の後段には、測定回路部81及びデータ処理部82が設けられている。前記測定回部部81は、例えば入力信号である周波数信号をディジタル処理して、発振周波数を計測する機能を有する。なお、測定回路部81は周波数カウンターであってもよく、測定方式を適宜選定することができる。また測定回路部81の前段には、各発振回路30a、30bからの出力信号を時分割して取り込むためのスイッチ部81aが設けられている。このスイッチ部81aは、各発振回路30a、30bからの周波数信号を時分割して取り込むことができる。データ処理部82は、計測された周波数の時系列データを記憶したり、その時分割データを表示したりする部位であり例えばパーソナルコンピュータからなる。
【0028】
試料液供給部83及び緩衝液供給部84は、各々配管83a、83bを介して例えばインジェクションバルブからなる供給液切り替え部85に接続されている。供給液切り替え部85は、液供給管72に接続され、配管83aと83bとの間で液供給管72に対して切り替え接続する役割を持つ。前記廃液貯留部86は、液排出管73を介してセンサーユニット2に接続されている。前記供給液切替部85は、例えばデータ処理部82内のプログラムに基づいて出力する信号により液の流路の切り替えが行われるが、マニュアルで行うようにしてもよい。
【0029】
次に、このように構成された感知装置8の作用について説明する。先ず、例えばセンサーユニット2を上側に開き、水晶センサー3を支持台60上に置き、センサーユニット2を閉じて流路形成部材50で水晶センサー3の表面を押し付けることにより、水晶センサー3がセンサーユニット2に装着される。次に緩衝液例えばリン酸バッファを緩衝液供給部84から供給液切り替え部85を介してセンサーユニット2内に供給する。センサーユニット2内への緩衝液の流入に関して述べると、緩衝液はセンサーユニット2内にて斜めに伸びて更に垂直に伸びる外部側流路51aを通って、内部側流路52aの上流端に達し、ここから当該内部側流路52aに沿って水平に流れて、反応用流路52に流入する。更に、緩衝液は反応用流路52を排出側の内部側流路52bの入り口に向かって流れ、当該内部側流路52bに沿って水平に流れた後、上に向かって外部側流路51bを流れ、図示しない排液路に排出される。
【0030】
一方、水晶センサーの参照用の振動領域及び検出用の振動領域は夫々発振回路30a、30bにより発振し、その発振周波数がスイッチ部81aの切り替えにより時分割で測定回路部81に取り込まれる。
【0031】
そして、測定回路部81により得られた周波数信号の周波数が安定した後、自動あるいは手動で液切り替え部85を切り替え、既にカラム87内に収容されている試料液例えば血清や血液を緩衝液により送り出し、同様に反応用流路52内を通過させる。このとき試料液中の感知対象物である抗原はその濃度に応じて水晶センサー3の吸着層26に吸着される。即ち、抗原抗体反応により、抗原が抗体に捕捉され、これにより水晶センサー3の検出用の振動領域の発振周波数が低下する。従って、データ処理部82では、検出用の振動領域における周波数の低下分Δf1(緩衝液を流したときの周波数から試料液を流したときの周波数の差分)を取得する。これに対して参照用の振動領域には吸着層26が形成されていないので、周波数に変化がないはずであるが、温度変化等の外乱があった場合にはその周波数が変化する。この変化分をΔf2とするとデータ処理部はΔf2からΔf1を差し引くことにより、外乱による周波数の変化分がキャンセルされ、抗原の量に応じた周波数の変化分が高い精度で求められることになる。なお、緩衝液は、試料液を反応用流路52内に通過させる前に比較用の液体として用いられ、またカラム87内の試料液を送り出す作業用の液体として用いられる。しかし比較用の液体及び作業用の液体は、緩衝液に限らず純水などであってもよい。
【0032】
上述の実施の形態によれば、水晶片20aの一面側である表面に形成される短冊形状の励振電極21a、21bの円53より外側部分である角部100を切り落として、励振電極21a、21bを形成している。従って、水晶センサーの振動領域を含む円53に取り囲まれた領域内で、励振電極21a、21bの面積を大きくすることができ、測定感度の向上に寄与する。
【0033】
上述の実施の形態では、水晶振動子20に設けられた2対の励振電極のうち、表面側の励振電極21a、21bを共通化して発振回路30のアースに接続し、裏面側の2つの励振電極22a、22bを互いに分離して夫々発振回路30b、30aに接続する構成を採用しているが、表面側と裏面側との励振電極のレイアウトを逆にしてもよい。図10はこのような例を示すものであり、この例では、水晶振動子20において反応用流路52に臨む側の面に互いに電気的に切り離された、先の実施の形態に用いた水晶振動子20の裏面側レイアウトに相当する励振電極101a、101bが設けられている。検出用振動領域を形成する例えば励振電極101aの表面には吸着層26が形成される。図10において、53は反応用流路52の円形の外縁に相当し、励振電極101a、101bの角部が切り落とされて前記円形の外縁53の内側に位置している。なお励振電極101a、101bは、角部を切り落とさずに短冊状(四角型形状)とした場合には、当該角部が前記円形の外縁53の外側にはみ出す大きさに設定されている。これら励振電極101a、101bの各中央部からは外側に直線状に引き出し電極102a、102bが引き回され、これら引き出し電極102a、102bの端部が配線基板40の導電路43c、43aに接続されることとなる。このような例においても、円形の反応用流路52内において励振電極の面積を広く確保でき、同様の効果が得られる。
【0034】
以上の実施の形態は、試料液を流しながら周波数の測定を行うタイプの感知装置であるが、本発明は、圧電センサーが測定器本体に着脱自在であり、この圧電センサーに液収容空間が形成されていて、この空間に例えばピペットなどにより試料液や緩衝液を注入し、静止状態で圧電振動子の発振周波数の測定を行うタイプの感知装置に対しても適用できる。
【0035】
以下に、本発明に係る水晶センサーと従来の水晶センサーにおける電極の面積について比較を行う。
[試料]
試料には、励振電極の外縁を湾曲させた比較資料1(図13)と、励振電極を角状にした比較資料2(図11(a))と、本発明の水晶センサーである実施例と、を用いた。これら比較資料1、比較資料2、実施例は、水晶片には直径が8.7mmの水晶片を用い、検出用の電極と参照用の電極との間には、1.5mmの間隔を設けた。
[電極面積]
比較資料1では、例えば図12の破線部分で囲まれる励振電極21bの面積は、6.06mm2であった。比較資料2では、励振電極11bの面積は、8.75mm2であった。実施例では、励振電極21bの面積は、7.75mm2であった。
[考察]
以上のことから、比較資料1では、流路形成部材に接触することがない代わりに、電極面積が小さく(図13参照)、測定感度が低い。また比較資料2では、励振電極を大きくさせた代わりに、流路形成部材に踏まれてしまうため(図11(a)参照)、流路形成部材と水晶片との間に隙間が生じ、反応流路より試料流体が漏れてしまう。しかし、実施例では電極面積を大きくすることができ、このため測定感度が高くまた、試料流体が漏れるといった問題もない。
【符号の説明】
【0036】
2 センサーユニット
20 水晶振動子
21a、b 励振電極
22a、b 励振電極
26 吸着層
30a、b 発振回路
40 配線基板
43a、b、c
導電路
50 流路形成部材
51a、b 外部側流路
52 反応用流路
53 円
52a、b 内部側流路
8 感知装置
100 角部
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子等の圧電振動子の固有振動数に基づいて、試料液に含まれる感知対象物を感知するための感知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料液に含まれる微量物質を感知し、測定する感知装置としては水晶センサーを用いたものが知られている。本発明者は水晶センサーとして、計測環境の外部要因例えば温度等の影響を低減するために、図11に示すように水晶片10の一面側2つの励振電極11a、11b(検出用電極11a及び参照用電極11b)を設け、検出用電極11aの表面には生体物質等からなる吸着層12が形成されているものを検討している。なお、水晶片10の裏面側にも励振電極11a、11bに対応して、励振電極が設けられ、検出用の振動領域と参照用の振動領域とが形成される。これにより、感知対象物を吸着することによる質量変化を受けるのは励振電極11aだけであることから、励振電極11aより取り出される発振周波数から励振電極11bより取り出される発振周波数の差分を取ることにより、外部要因を取り除いた精度の高い測定結果を得ることができる。
【0003】
一方、液相雰囲気で測定する場合には、液体の粘性により水晶センサーの感度が悪くなる。そこで、感度を向上させるために、前述の励振電極11a、11bを大きく設計されることが望ましい。
【0004】
しかし、既述のように水晶片10の表面に2つの励振電極11a、11bを形成すると、水晶センサーを発振させた場合に、一方の励振電極11a(11b)は他方の励振電極11b(11a)からの振動エネルギーの影響を受けるために、振動によるノイズが検出結果に反映されることから、これら励振電極11a、11bとの間に間隔を置くことが好ましい。この間隔の確保のため、各励振電極11a、11bのサイズを小さくしなければならないが、吸着層12の形成領域も小さくなることから、測定感度が悪くなるといった問題がある。
【0005】
ところで、感知装置には、特許文献1に開示されているように試料液を流しながら感知対象物の検出を行うものが知られている。この感知装置の水晶センサーの水晶片10は、図12に示すように配線基板13の孔部13aを塞ぐように当該配線基板13に載置され、水晶押さえ部材14の環状の押さえ部14aが当接することにより押圧されている。また、ケース体16の底部に水晶センサーを装着した状態において、水晶センサーの表面に臨む領域を囲むように反応用流路17が形成されており、このとき試料液中の感知対象物が水晶片10の吸着層12に吸着される。反応用流路17には試料液を流す前に緩衝液を流し、このときの水晶片10の周波数変化を計測することで試料液中の感知対象物の濃度が測定される。
【0006】
この種の感知装置に用いられる水晶センサーでは、臨床の分野や環境の分野において、微量な感知対象物の測定をできるだけ高感度、高精度に行うことが要求されており、本発明者は水晶センサーに形成する電極の大きさに着目した。前記水晶センサーでは励振電極11a、11bを大きく設計すると環状の押さえ部14aに励振電極11a、11bの外縁部が踏まれ(図11(a)参照)、発振が不安定になり、一方、励振電極11a、11bを小さく設計する(図11(b)参照)と既述のように測定の感度が低下するという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−58086(段落、図11及び図13)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、検出用の振動領域及び参照用の振動領域を有する圧電センサーを用いた感知装置において、励振電極の形状を改良することにより高い測定感度が得られる感知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の感知装置は、圧電片に互いに離間して計測用の振動領域及び参照用の振動領域を形成するように2対の励振電極が設けられた圧電振動子を備え、計測用の振動領域を形成する電極対のうち圧電片の一面側に位置する一方の励振電極には、試料流体中の感知対象物を吸着する吸着層が形成され、この吸着層に試料流体中の感知対象物を吸着させると共に圧電片の一面側における参照用の振動領域上にも当該試料流体を供給し、計測用の振動領域の発振周波数及び参照用の振動領域の発振周波数に基づいて前記感知対象物を感知する装置において、
圧電振動子の一面側に設けられ、計測用の振動領域及び参照用の振動領域に対して共通の試料流体供給空間を形成するために、これら振動領域を形成する励振電極よりも外側に位置しかつ励振電極を円形状に囲むように設けられた囲み部材と、
圧電振動子の他面側における計測用の振動領域及び参照用の振動領域の外側を保持する保持部材と、を備え、
前記励振電極は、以下の形状に形成されていることを特徴とする。
a.前記試料流体供給空間の平面形状の輪郭である円の中心に対して互に左右に離間して対称に形成され、各々前後に平行に伸びる短冊状の左側領域及び右側領域を形成する。
b.左側領域の左側の両角部及び右側領域の右側の両角部は、いずれも前記円よりも外側に飛び出す大きさに設定されている。
c.外側に飛び出している角部を切り落として、左側領域及び右側領域が前記円よりも内側に位置するようにし、これら左側領域及び右側領域に夫々参照用の振動領域の励振電極及び計測用の振動領域の励振電極が形成される。
また、感知装置は以下の構成を取ってもよい。
1.前記圧電振動子の一面側に設けられた両方の励振電極は、前記円形状の試料流体供給空間内にて、一端側同士が電極により互に接続されて共通の電位とされ、前記圧電振動子の他面側に設けられた両方の励振電極は、互に電気的に分離されている構成。
2.前記試料流体供給空間には、試料流体を供給する供給路と、試料流体を排出する排出路が接続され、圧電センサーの発振周波数の計測は、試料流体を試料流体供給空間に流しながら行う構成。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、圧電片の一面側に形成される短冊形状の励振電極を、その外側部分である角部を囲み部材で取り囲まれる円形の領域よりはみ出る部分を切り落として形成している。従って、圧電センサーの振動領域を含むに囲み部材に取り囲まれた領域内で、励振電極の面積を大きくすることができ、測定感度の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る感知装置の一部であるセンサーユニットを示す分解斜視図である。
【図2】前記センサーユニットを示す縦断面図である。
【図3】前記圧電センサーの一部を構成する水晶振動子を示す表面図及び裏面図である。
【図4】前記センサーユニットの一部を構成する流路形成部材の裏面を示す斜視図である。
【図5】流路形成部材と水晶振動子とが当接した時の配置を示す図である。
【図6】前記水晶振動子を発振させる発振回路のレイアウトである。
【図7】前記センサーユニットが組み込まれた感知装置の全体を示す構成図である。
【図8】前記感知装置の一部を構成する水晶振動子、測定回路部及び測定器本体との接続を説明するブロック図である。
【図9】感知装置に用いられる回路の一例を示す回路ブロック図である。
【図10】他の実施の形態に係る水晶振動子を示す上面図である。
【図11】圧電センサーに組み込まれる水晶振動子の比較資料を示す上面図である。
【図12】従来の圧電センサーを示す縦断面図である。
【図13】水晶振動子の比較例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係る感知装置は、圧電センサーの励振電極の形状に特徴があるが、感知装置の全体構成について簡単に述べておく。この感知装置は、後述の図8に示すように圧電センサーが装着されるセンサーユニット2と、センサーユニット2に液を供給する供給系と、センサーユニット2から液を排出する排出系と、発振回路30と、測定回路部81と、データ処理部82と、を備えている。
【0013】
先ず圧電センサーである水晶センサーについて図1を参照して説明すると、水晶センサー3は圧電振動子である水晶振動子20と配線基板40とを備えている。水晶振動子2は、図1及び図3(a)に示すように圧電片である例えば円形状の水晶片20aを備え、水晶片20aの表面には、蟹のはさみに似た形状の電極が形成されている。この電極は、互いに離間して平行に配置された2つの励振電極21a、21bとこれら励振電極21a、21bの一端側を連結する連結部分27と、この連結部分27の中央部から水晶片20aの周縁に直線的に伸びている引き出し電極28とから構成されている。一方の励振電極21aは、後述の裏面側の電極22aと共に水晶片20aに検出用の振動領域を形成している。他方の励振電極21bは、後述の裏面側の電極22bと共に水晶片20bに参照用の振動領域を形成するためのものである。従って前記連結部分27は引き出し電極28の一部をなしているということができる。
【0014】
ここで励振電極21a、21bの形状について詳述する。水晶振動子20は後述の囲み部材である流路形成部材50の凹部52の外周の輪郭(周縁)により囲まれるが、励振電極21a、21bは、この凹部52の内側に位置していることが必要である。その理由については「背景」の項目においても記載したが、励振電極21a、21bが凹部52の外側に位置するということは、流路形成部材50により踏まれるということ、つまり押し付けられるということであり、この場合発振が不安定になる。そこで図5に示すように短冊形状の角部100を切り落として扁平な6角形状としたものである。
【0015】
この形状について図5を参照しながら更に詳述する。凹部52の外周の輪郭は円形であるため、ここでの説明において前記輪郭を「円」と称し、その符号を53とする。先ずこの円53の中心に対して左右(図5では上下)に離間して対称に配置されると共に、各々前後(図5中の左右方向)に平行に伸びる2つの短冊状領域である左側領域(図5の下側の領域)及び右側領域(図5の上側の領域)を形成する。前記左側領域は、左側(下側)の両角部100が円53よりも外側に飛び出す大きさに設定され、また右側領域は、右側(上側)の両角部100が円53よりも外側に飛び出す大きさに設定されている。そして、外側に飛び出した角部100を切り落とし、前記円53よりも内側の左側領域及び右側領域に夫々参照用の励振電極21b及び検出用の励振電極21aを形成している。流路形成部材50の凹部52が円形である理由は、反応用の流路の周縁が円弧形状であることから液のよどみが発生することなく、円滑に流れ、このためより正確な測定を行うことができるからである。
【0016】
これら励振電極21a、21bの一端側は、互いに接続され、この接続部位27は水晶片20aの外縁へ引き伸ばされ、裏面側へ回し込まれている。この回し込まれた部分が後述する配線基板4の導電路42bと例えば導電性接着材により接続される部分となる。またこれら励振電極21a、21bの幅(図3では上下方向の寸法)は同じ大きさに設定され、引き出し電極28の幅方向の中心を通りかつ当該引き出し電極28に沿って伸びる中心線の延長線に対して、励振電極21a、21bは対称にかつ同じ大きさに形成されている。
水晶片20aの裏面には、計測用の励振電極22aと参照用の励振電極22bとが離間して、夫々励振電極21a、21bに対向する位置に設けられている。また前記励振電極22a、22bの一部は、水晶片20aの外縁へ引き伸ばされ、これら引き伸ばされた部分が夫々配線基板40の導電路42c、42aと接続する。前記励振電極21及び励振電極22a、22bの等価厚みは、例えば0.2μmであり、電極材料としては例えば金あるいは銀等が用いられている。
【0017】
水晶片20における励振電極21bと励振電極22bとの間の領域は、参照用の振動領域を形成し、また励振電極21aと励振電極22aとの間の領域は、検出用の振動領域を形成している。励振電極21bと励振電極22bにより参照用の振動領域が振動し、励振電極21aと励振電極22aにより検出用の振動領域が振動する。
【0018】
図3に示すように励振電極21aの表面には吸着層26が形成されている。この吸着層26は、例えば抗原である感知対象物を吸着する抗体からなり、抗原抗体反応により抗原を吸着する。この吸着による質量負荷効果により検出用の振動領域の発振周波数が低下する。一方、励振電極21bの表面は、電極表面が剥き出しとなっていて吸着層26が設けられていないため、参照用の振動領域からは温度等の外乱の影響に対応する発振周波数が取り出される。また励振電極21において参照用の振動領域を形成する領域の電極表面は剥き出しとせずに、例えば感知対象物と反応しない例えばタンパク質からなるブロッキング層を形成してもよい。
【0019】
前記配線基板40は、図1に示すように例えばプリント基板により構成され、その一端側には水晶振動子20の裏面側が臨む気密空間をなす凹部を形成するための貫通孔41が形成され、励振電極22a、22bの外側を保持する。配線基板40の他端側には、発振回路に接続するための端子部42a、42b及び42cが設けられている。また、配線基板40には、その一端側から他端側に亘って導電路43a、43b及び43cが形成され、これら導電路43a、43b、43cは端子部42a、42b及び42cに夫々接続されている。従って、配線基板40に水晶振動子20が載置され、励振電極と導電路とが例えば導電性接着剤で接着されることにより励振電極21及び励振電極22a、22bは各導電路43b、43c、43aを介して端子部42b、42c、42aと夫々接続されることになる。
【0020】
次に、センサーユニット2について図2及び図4を用いて説明する。図2はセンサーユニット2の縦断面を示したものである。液路形成部材50の裏面側を図4に示す。液路形成部材50は弾性材料例えばシリコンゴムを用いて配線基板40の一端側に対応した形状に作成されている。液路形成部材50の裏面側の中央部には、円形の凹部52が形成されている。この凹部52の直径は、水晶振動子20の前記参照用の振動領域及び検出用の振動領域を含む領域よりもやや大きく設定され、液路形成部材50が配線基板40に当接することで、凹部52の周縁53で囲まれる円形領域に前記振動領域が収まる。前記凹部52の高さは、例えば0.2mm以下に設定され、この例では0.1mmに設定されている。
【0021】
前記凹部52の天井面は、水晶振動子20の一面側である表面側における振動領域と隙間を介して対向する対向面である。この対向面と水晶振動子20との間の領域、即ち水晶振動子20の振動領域に臨む領域に、試料流体供給空間に相当する反応用流路が形成される。反応用流路は、前記対向面と前記振動領域の上方領域の周囲を囲む内周面とにより囲まれる領域を含む。
【0022】
流路形成部材50には、図4に示すように凹部52を挟んで当該凹部52の直径方向に互いに対向するように、かつ各々凹部52の周縁から一直線状に伸びるように溝部52a、52bが形成されている。従って、流路形成部材50と配線基板40とを重ね合わせて、凹部52を水晶振動子20に押し付けた状態においては、凹部が反応用流路になる。なお、以降の説明では凹部及び反応用流路のいずれも符号52を用いることとする。そして、溝部52a、52bは水晶振動子20における振動領域から外れた部位と流路形成部材50とで囲まれた流路をなし、凹部即ち反応用流路52に連通している。また溝部及び流路のいずれも符号52a(52b)を用いることとする。
【0023】
そして、流路形成部材50及びカバー体70を組み立てた構造体には、図2及び図3に示すように前記内部側流路52aにおける反応用流路52とは反対側の端部から上方に垂直に伸び更に斜め上方に伸びる流路51aが形成されている。この流路51aは供給側の外部側流路に相当するものであり、この外部側流路51aの上端には液供給管72が接続されている。また、前記構造体には、前記内部側流路52bにおける反応用流路52とは反対側の端部から上方に垂直に伸び更に斜め上方に伸びる流路51bが形成されている。この流路51bは排出側の外部側流路に相当するものであり、この外部側流路51bの上端には液排出管73が接続されている。前記内部側流路52a及び外部側流路51aは、液体供給路を構成し、内部側流路52b及び外部側流路51bは、液体排出路を構成する。
【0024】
前記支持体60には、配線基板40及び流路形成部材50を嵌合し、保持するための凹部61が形成されている。従って、前記凹部61に配線基板40を嵌合した状態で、流路形成部材50を配線基板40に押し付けることにより、流路形成部材50の下面が水晶振動子20を配線基板40に押圧して、固着される。さらに、支持体60は上方よりカバー体70により覆われる。
【0025】
更にまた、感知装置は、図8に示すように発振回路ユニット30、測定回路部81、測定器本体82、試料液供給部83、緩衝液供給部84、供給液切替部85、廃液貯留部86を備えている。
【0026】
発振回路ユニット30は、センサーユニット2に差し込まれることにより、前記配線基板40の接続端子部である電極42a、42b、42cと発振回路30a、30bとが電気的に接続される。図7は発振回路30と水晶振動子20とを示す回路図である。この図に示すように、前記励振電極22bに対応する参照用の振動領域が発振回路30aに接続されると共に励振電極22aに対応する検出用の振動領域が発振回路30bに接続されている。
【0027】
図8及び図9に示すように、発振回路ユニット30の後段には、測定回路部81及びデータ処理部82が設けられている。前記測定回部部81は、例えば入力信号である周波数信号をディジタル処理して、発振周波数を計測する機能を有する。なお、測定回路部81は周波数カウンターであってもよく、測定方式を適宜選定することができる。また測定回路部81の前段には、各発振回路30a、30bからの出力信号を時分割して取り込むためのスイッチ部81aが設けられている。このスイッチ部81aは、各発振回路30a、30bからの周波数信号を時分割して取り込むことができる。データ処理部82は、計測された周波数の時系列データを記憶したり、その時分割データを表示したりする部位であり例えばパーソナルコンピュータからなる。
【0028】
試料液供給部83及び緩衝液供給部84は、各々配管83a、83bを介して例えばインジェクションバルブからなる供給液切り替え部85に接続されている。供給液切り替え部85は、液供給管72に接続され、配管83aと83bとの間で液供給管72に対して切り替え接続する役割を持つ。前記廃液貯留部86は、液排出管73を介してセンサーユニット2に接続されている。前記供給液切替部85は、例えばデータ処理部82内のプログラムに基づいて出力する信号により液の流路の切り替えが行われるが、マニュアルで行うようにしてもよい。
【0029】
次に、このように構成された感知装置8の作用について説明する。先ず、例えばセンサーユニット2を上側に開き、水晶センサー3を支持台60上に置き、センサーユニット2を閉じて流路形成部材50で水晶センサー3の表面を押し付けることにより、水晶センサー3がセンサーユニット2に装着される。次に緩衝液例えばリン酸バッファを緩衝液供給部84から供給液切り替え部85を介してセンサーユニット2内に供給する。センサーユニット2内への緩衝液の流入に関して述べると、緩衝液はセンサーユニット2内にて斜めに伸びて更に垂直に伸びる外部側流路51aを通って、内部側流路52aの上流端に達し、ここから当該内部側流路52aに沿って水平に流れて、反応用流路52に流入する。更に、緩衝液は反応用流路52を排出側の内部側流路52bの入り口に向かって流れ、当該内部側流路52bに沿って水平に流れた後、上に向かって外部側流路51bを流れ、図示しない排液路に排出される。
【0030】
一方、水晶センサーの参照用の振動領域及び検出用の振動領域は夫々発振回路30a、30bにより発振し、その発振周波数がスイッチ部81aの切り替えにより時分割で測定回路部81に取り込まれる。
【0031】
そして、測定回路部81により得られた周波数信号の周波数が安定した後、自動あるいは手動で液切り替え部85を切り替え、既にカラム87内に収容されている試料液例えば血清や血液を緩衝液により送り出し、同様に反応用流路52内を通過させる。このとき試料液中の感知対象物である抗原はその濃度に応じて水晶センサー3の吸着層26に吸着される。即ち、抗原抗体反応により、抗原が抗体に捕捉され、これにより水晶センサー3の検出用の振動領域の発振周波数が低下する。従って、データ処理部82では、検出用の振動領域における周波数の低下分Δf1(緩衝液を流したときの周波数から試料液を流したときの周波数の差分)を取得する。これに対して参照用の振動領域には吸着層26が形成されていないので、周波数に変化がないはずであるが、温度変化等の外乱があった場合にはその周波数が変化する。この変化分をΔf2とするとデータ処理部はΔf2からΔf1を差し引くことにより、外乱による周波数の変化分がキャンセルされ、抗原の量に応じた周波数の変化分が高い精度で求められることになる。なお、緩衝液は、試料液を反応用流路52内に通過させる前に比較用の液体として用いられ、またカラム87内の試料液を送り出す作業用の液体として用いられる。しかし比較用の液体及び作業用の液体は、緩衝液に限らず純水などであってもよい。
【0032】
上述の実施の形態によれば、水晶片20aの一面側である表面に形成される短冊形状の励振電極21a、21bの円53より外側部分である角部100を切り落として、励振電極21a、21bを形成している。従って、水晶センサーの振動領域を含む円53に取り囲まれた領域内で、励振電極21a、21bの面積を大きくすることができ、測定感度の向上に寄与する。
【0033】
上述の実施の形態では、水晶振動子20に設けられた2対の励振電極のうち、表面側の励振電極21a、21bを共通化して発振回路30のアースに接続し、裏面側の2つの励振電極22a、22bを互いに分離して夫々発振回路30b、30aに接続する構成を採用しているが、表面側と裏面側との励振電極のレイアウトを逆にしてもよい。図10はこのような例を示すものであり、この例では、水晶振動子20において反応用流路52に臨む側の面に互いに電気的に切り離された、先の実施の形態に用いた水晶振動子20の裏面側レイアウトに相当する励振電極101a、101bが設けられている。検出用振動領域を形成する例えば励振電極101aの表面には吸着層26が形成される。図10において、53は反応用流路52の円形の外縁に相当し、励振電極101a、101bの角部が切り落とされて前記円形の外縁53の内側に位置している。なお励振電極101a、101bは、角部を切り落とさずに短冊状(四角型形状)とした場合には、当該角部が前記円形の外縁53の外側にはみ出す大きさに設定されている。これら励振電極101a、101bの各中央部からは外側に直線状に引き出し電極102a、102bが引き回され、これら引き出し電極102a、102bの端部が配線基板40の導電路43c、43aに接続されることとなる。このような例においても、円形の反応用流路52内において励振電極の面積を広く確保でき、同様の効果が得られる。
【0034】
以上の実施の形態は、試料液を流しながら周波数の測定を行うタイプの感知装置であるが、本発明は、圧電センサーが測定器本体に着脱自在であり、この圧電センサーに液収容空間が形成されていて、この空間に例えばピペットなどにより試料液や緩衝液を注入し、静止状態で圧電振動子の発振周波数の測定を行うタイプの感知装置に対しても適用できる。
【0035】
以下に、本発明に係る水晶センサーと従来の水晶センサーにおける電極の面積について比較を行う。
[試料]
試料には、励振電極の外縁を湾曲させた比較資料1(図13)と、励振電極を角状にした比較資料2(図11(a))と、本発明の水晶センサーである実施例と、を用いた。これら比較資料1、比較資料2、実施例は、水晶片には直径が8.7mmの水晶片を用い、検出用の電極と参照用の電極との間には、1.5mmの間隔を設けた。
[電極面積]
比較資料1では、例えば図12の破線部分で囲まれる励振電極21bの面積は、6.06mm2であった。比較資料2では、励振電極11bの面積は、8.75mm2であった。実施例では、励振電極21bの面積は、7.75mm2であった。
[考察]
以上のことから、比較資料1では、流路形成部材に接触することがない代わりに、電極面積が小さく(図13参照)、測定感度が低い。また比較資料2では、励振電極を大きくさせた代わりに、流路形成部材に踏まれてしまうため(図11(a)参照)、流路形成部材と水晶片との間に隙間が生じ、反応流路より試料流体が漏れてしまう。しかし、実施例では電極面積を大きくすることができ、このため測定感度が高くまた、試料流体が漏れるといった問題もない。
【符号の説明】
【0036】
2 センサーユニット
20 水晶振動子
21a、b 励振電極
22a、b 励振電極
26 吸着層
30a、b 発振回路
40 配線基板
43a、b、c
導電路
50 流路形成部材
51a、b 外部側流路
52 反応用流路
53 円
52a、b 内部側流路
8 感知装置
100 角部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電片に互いに離間して計測用の振動領域及び参照用の振動領域を形成するように2対の励振電極が設けられた圧電振動子を備え、計測用の振動領域を形成する電極対のうち圧電片の一面側に位置する一方の励振電極には、試料流体中の感知対象物を吸着する吸着層が形成され、この吸着層に試料流体中の感知対象物を吸着させると共に圧電片の一面側における参照用の振動領域上にも当該試料流体を供給し、計測用の振動領域の発振周波数及び参照用の振動領域の発振周波数に基づいて前記感知対象物を感知する装置において、
圧電振動子の一面側に設けられ、計測用の振動領域及び参照用の振動領域に対して共通の試料流体供給空間を形成するために、これら振動領域を形成する励振電極よりも外側に位置しかつ励振電極を円形状に囲むように設けられた囲み部材と、
圧電振動子の他面側における計測用の振動領域及び参照用の振動領域の外側を保持する保持部材と、を備え、
前記励振電極は、以下の形状に形成されていることを特徴とする感知装置。
a.前記試料流体供給空間の平面形状の輪郭である円の中心に対して互に左右に離間して対称に形成され、各々前後に平行に伸びる短冊状の左側領域及び右側領域を形成する。
b.左側領域の左側の両角部及び右側領域の右側の両角部は、いずれも前記円よりも外側に飛び出す大きさに設定されている。
c.外側に飛び出している角部を切り落として、左側領域及び右側領域が前記円よりも内側に位置するようにし、これら左側領域及び右側領域に夫々参照用の振動領域の励振電極及び計測用の振動領域の励振電極が形成される。
【請求項2】
前記圧電振動子の一面側に設けられた両方の励振電極は、前記円形状の試料流体供給空間内にて、一端側同士が電極により互に接続されて共通の電位とされ、前記圧電振動子の他面側に設けられた両方の励振電極は、互に電気的に分離されていることを特徴とする請求項1記載の感知装置。
【請求項3】
前記試料流体供給空間には、試料流体を供給する供給路と、試料流体を排出する排出路が接続され、圧電センサーの発振周波数の計測は、試料流体を試料流体供給空間に流しながら行うことを特徴とする請求項1または2に記載の感知装置。
【請求項1】
圧電片に互いに離間して計測用の振動領域及び参照用の振動領域を形成するように2対の励振電極が設けられた圧電振動子を備え、計測用の振動領域を形成する電極対のうち圧電片の一面側に位置する一方の励振電極には、試料流体中の感知対象物を吸着する吸着層が形成され、この吸着層に試料流体中の感知対象物を吸着させると共に圧電片の一面側における参照用の振動領域上にも当該試料流体を供給し、計測用の振動領域の発振周波数及び参照用の振動領域の発振周波数に基づいて前記感知対象物を感知する装置において、
圧電振動子の一面側に設けられ、計測用の振動領域及び参照用の振動領域に対して共通の試料流体供給空間を形成するために、これら振動領域を形成する励振電極よりも外側に位置しかつ励振電極を円形状に囲むように設けられた囲み部材と、
圧電振動子の他面側における計測用の振動領域及び参照用の振動領域の外側を保持する保持部材と、を備え、
前記励振電極は、以下の形状に形成されていることを特徴とする感知装置。
a.前記試料流体供給空間の平面形状の輪郭である円の中心に対して互に左右に離間して対称に形成され、各々前後に平行に伸びる短冊状の左側領域及び右側領域を形成する。
b.左側領域の左側の両角部及び右側領域の右側の両角部は、いずれも前記円よりも外側に飛び出す大きさに設定されている。
c.外側に飛び出している角部を切り落として、左側領域及び右側領域が前記円よりも内側に位置するようにし、これら左側領域及び右側領域に夫々参照用の振動領域の励振電極及び計測用の振動領域の励振電極が形成される。
【請求項2】
前記圧電振動子の一面側に設けられた両方の励振電極は、前記円形状の試料流体供給空間内にて、一端側同士が電極により互に接続されて共通の電位とされ、前記圧電振動子の他面側に設けられた両方の励振電極は、互に電気的に分離されていることを特徴とする請求項1記載の感知装置。
【請求項3】
前記試料流体供給空間には、試料流体を供給する供給路と、試料流体を排出する排出路が接続され、圧電センサーの発振周波数の計測は、試料流体を試料流体供給空間に流しながら行うことを特徴とする請求項1または2に記載の感知装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−27717(P2011−27717A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76194(P2010−76194)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
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