説明

成人T細胞性白血病の予防剤、治療剤、及びその医薬品組成物

【課題】成人T細胞性白血病の発症を抑制することによる成人T細胞性白血病予防剤、成人T細胞性白血病を改善することによる成人T細胞性白血病治療剤、及びそれらを用いた医薬品組成物を提供する。
【解決手段】本発明の成人T細胞性白血病の予防剤、治療剤、及びその医薬品組成物は、ローズマリーの加工処理物例えば、ローズマリーの破砕物、抽出物または搾汁を有効成分として用いる。また、ローズマリー中に含まれる既知成分である、カルノソール、カルノシン酸、ロズマリン酸も同様の目的で用いることができる。ローズマリー、及びローズマリー含有成分は、天然の食用植物に由来する成分を有効成分とするものであるため、医薬品や長期に亘り安心して服用できる日常薬としての利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成人T細胞白血病の予防剤、治療剤及びその医薬品組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白血病は、血液中の白血球が異常増殖する疾病であり、一般的には「血液のがん」と呼ばれている。白血病細胞が異常増殖能を獲得し、正常な血液細胞が機能を発揮できなくなり、免疫機能の低下などをきたした結果、貧血症状や感染症状を呈するようになる。疾病分類については、腫瘍の由来に基づいて骨髄性とリンパ性のどちらか、病態に基づいて急性と慢性のどちらかで分かれ、急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia; AML)、急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia; ALL)、慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia, CML)などが知られている。また、ウイルス性かどうか、細胞種がT細胞性とB細胞性のどちらかなどでも分類される。
【0003】
白血病は、通常のがんと異なり、固形の腫瘍を形成しないため、外科手術が適用できず、以前は治療が困難であった。ところが近年、有効な抗がん剤や治療技術の研究開発が進んだおかげで、白血病の種類によっては治療することも可能になって来ている。例えば、イマニチブは慢性骨髄性白血病の治療薬として用いられている。さらに、骨髄移植はドナーさえ見付かれば有用な治療法と認識されている。このように、近年白血病は必ずしも不治の病ではなくなっている。
【0004】
しかし、このような状況にもかかわらず、未だ有効な予防法・治療法もなく、極めて予後が悪い白血病も知られている。成人T細胞白血病である。成人T細胞白血病は、ヒトT細胞白血病ウイルス(human T-cell leukemia virus type 1 ; 以下、HTLV-1と称する)がT細胞に感染することにより引き起こされるウイルス性白血病として知られている。成人T細胞白血病はウイルスによって起こる白血病であるが、非特許文献1に示すように、ヒトのがんの中でも、多段階発がん説に最も良く一致するモデルであると認識されている。乳幼児期の授乳などを通じて、生体内のTリンパ球にHTLV-1が感染することでウイルスキャリアとなる。
【0005】
その後、数十年の長い歳月をかけて、ウイルスや宿主細胞の遺伝子に変異が蓄積し、最終的に感染細胞の中のごく一部が異常増殖能を獲得した結果、成人T細胞白血病を発症すると考えられている。従って、発症までの数十年の間に日々の食餌によりHTLV-1感染細胞の増殖を抑制すること、また、たとえ成人T細胞白血病を発症したとしても抗がん剤などで成人T細胞白血病細胞の増殖を抑制することが成人T細胞白血病を予防・治療する上で重要となる。しかし、既存の抗がん剤では、成人T細胞白血病細胞は速やかに耐性を獲得することから、成人T細胞白血病の治療は困難を極めている。以上の理由により、成人T細胞白血病の克服に向けては、抗がん剤等の治療的観点からだけではなく、予防的観点にも着目した研究開発が急務である。
【0006】
非特許文献2では、緑茶が成人T細胞白血病の予防に有効であることが報告されており、更にその活性本体はポリフェノール類であることを明示している。また、非特許文献2では、HTLV-1キャリアに緑茶サプリメントを5ヶ月間摂取させることにより、発症危険因子の一つであるウイルス感染価が抑制されることを示している。
【0007】
ポリフェノール類は、高い抗酸化能を有し、赤ワイン由来のポリフェノール類は動脈硬化の予防効果で有名であるが、がんの予防効果も知られている。ポリフェノール類の作用機序としては、その抗酸化能によって生体の酸化ストレスを軽減することであるが、がん細胞にアポトーシスを誘導する活性も有する。高い抗酸化活性を有する植物の一つにローズマリー Rosmarinus officinalis がある。ローズマリーは、地中海沿岸原産の常緑性低木で、ハーブとして、薬用、香料用、料理用として広く利用されている。ローズマリーの薬効は多岐にわたり、強壮、駆風、鎮痛、殺菌、防腐、鎮静、利尿、抗菌などの効果が古くから伝承されている。
【0008】
ローズマリー中の生理活性物質としては、カルノソール、カルノシン酸、ロズマリン酸などのポリフェノール類が知られている。特に、カルノソールとカルノシン酸は、特許文献1に示すように、アルコール性潰瘍やストレス性潰瘍に対する治癒及び予防効果、さらに、がんとの関連については、非特許文献3や非特許文献4に示すように、大腸がんで有効性が実証されている。このようにカルノソールとカルノシン酸は、大腸がんに対して高い機能性を有する訳であるが、T細胞性白血病、特に成人T細胞白血病に対する効果は知られていない。因みに、カルノソールとカルノシン酸は、同じシソ科植物であるセージにも含有されている。
【0009】
ローズマリーとその含有成分の白血病に対する効果については、多くの報告がある。例えば、非特許文献5は、ロズマリン酸がT細胞性白血病由来細胞株であるJurkat細胞の増殖を抑制することが示されている。また、非特許文献6は、カルノソールがB細胞性白血由来細胞株の増殖を抑制することが示されている。しかし、カルノソールとカルノシン酸がT細胞性の白血病細胞の増殖を抑制するとの報告はなく、特に成人T細胞白血病についての効果は全く知られていない。
【0010】
【特許文献1】特開2001-122777
【0011】
【非特許文献1】わかる実験医学シリーズ「がんのシグナル伝達がわかる」、p. 77-87、山本雅、仙波憲太郎 編、羊土社、2005年
【非特許文献2】J. Sonoda et al., Cancer Sci., 95, 595-601, 2004, “HTLV-1 provirus load in peripheral blood lymphocytes of HTLV-1 carriers is diminished by green tea drinking.”
【非特許文献3】M. James et al., Cancer Lett., 237, 130-136, 2006, “Induction of G2/M phase cell cycle arrest by carnosol and carnosic acid is associated with alteration of cyclin A and cyclin B1 levels.”
【0012】
【非特許文献4】A. E. Moran et al., Cancer Res., 65, 1097- 1104, 2005,”Carnosol inhibits β-catenin tyrosine phosphorylation and prevents adenoma formation in the C57BL/6J/Min/+(Min/+) mouse.”
【非特許文献5】E. Kolettas, et al., Mol. Cell. Biochem., 285. 111-120, 2006, “Rosmarinic acid failed to suppress hydrogen peroxide-mediated apoptosis but induced apoptosis of Jurkat cells which was suppressed by Bcl-2.”
【非特許文献6】J. Dorrie et. al., Cancer Lett., 170, 33-39, 2001. “Carnosol-induced apoptosis and downregulation of Bcl-2 in B-lineage leukemia cells.”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、天然の植物成分に由来するT細胞性白血病治療剤、特に成人T細胞性白血病細胞の増殖を抑制するために用いられるT細胞性白血病治療剤を提供することを目的とする。
【0014】
また本発明は、成人T細胞性白血病予防剤、特にヒトT細胞性白血病ウイルス感染細胞の増殖を抑制するために用いられる成人T細胞性白血病予防剤を提供することを目的とする。
【0015】
さらに本発明は、成人T細胞性白血病細胞の増殖抑制作用を有し、成人T細胞性白血病患者に対して、成人T細胞性白血病を治療するために用いられる植物由来の医薬組成物を、ならびにヒトT細胞性白血病ウイルス感染細胞の増殖抑制作用を有し、成人T細胞性白血病患者に対して、成人T細胞性白血病の発症を抑制するために用いられる植物由来の医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解消すべく、ローズマリー、カルノソール、カルノシン酸、ロズマリン酸について、成人T細胞性白血病への影響を検討した結果、驚くべきことに、ローズマリー、カルノソール、カルノシン酸、ロズマリン酸に成人T細胞性白血病改善作用、及び成人T細胞性白血病発症抑制作用があることを見出し、本発明にいたった。
前記の目的を達成した本発明は、次の態様を特徴としている。
【0017】
(1)ローズマリー加工処理物を有効成分とする成人T細胞性白血病治療剤。
(2)カルノソール、カルノシン酸、ロズマリン酸及びそれらの誘導体からなる群より選択される、少なくとも1種を有効成分として含有する成人T細胞性白血病治療剤。
(3)成人T細胞性白血病細胞の増殖を抑制するために用いられる、前記(1)または(2)記載の成人T細胞性白血病治療剤。
(4)成人T細胞性白血病細胞に対してアポトーシスを誘導するために用いられる、前記(1)または(2)記載の成人T細胞性白血病治療剤。
【0018】
(5)成人T細胞性白血病患者に対して、成人T細胞性白血病改善のために用いられる、前記(1)〜(4)のいずれかに記載する成人T細胞性白血病治療剤を含む医薬品組成物。
(6)ローズマリー加工処理物を有効成分とする成人T細胞性白血病予防剤。
(7)ヒトT細胞性白血病ウイルス感染細胞の増殖を抑制するために用いられる、前記(6)に記載のT細胞性白血病予防剤。
(8)ヒトT細胞性白血病ウイルス感染患者に対して、成人T細胞性白血病の発症を抑制するために用いられる、前記(6)または(7)に記載する成人T細胞性白血病予防剤を含む医薬品組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明のローズマリー加工処理物、カルノソール、カルノシン酸、ロズマリン酸及びそれらの誘導体を有効成分とする成人T細胞性白血病治療剤は、成人T細胞性白血病細胞の増殖を抑制することにより、成人T細胞性白血病を改善することができる。このため、本発明の成人T細胞性白血病治療剤は、成人T細胞性白血病患者に対して、成人T細胞性白血病を治療するために有効に用いることができる。
【0020】
さらに、本発明のローズマリー加工処理物、カルノソール、カルノシン酸、ロズマリン酸及びそれらの誘導体を有効成分とする成人T細胞性白血病予防剤は、ヒトT細胞性白血病ウイルス感染細胞の増殖を抑制することにより、成人T細胞性白血病の発症を抑制することができる。このため、本発明の成人T細胞性白血病予防剤は、ヒトT細胞性白血病ウイルス感染患者に対して、成人T細胞性白血病の発症を抑制するために有効に用いることができる。
【0021】
本発明において有効成分として使用するローズマリーの加工処理物、及びローズマリーに含有されるカルノソール、カルノシン酸、及びロズマリン酸は、欧米諸国で古くからハーブとして利用されている。これらの毒性については、幾つか報告がある。例えば、動物への摂食実験では、ローズマリー抽出物はマウスに特に毒性を示さないことが報告されている(B. T. Zhu et at. Carcinogenesis, 19, 1821-1827, 1998, “Dietary administration of an extract from rosemary leaves enhances the liver microsomal metabolism of endogenous estrogens and decreases their uterotropic action in CD-1 mice.”)。
【0022】
非特許文献4はカルノソールを10週間摂食させたものであり、また、カルノシン酸についても2週間摂食の報告があり、毒性は認められない(K. Ninomiya et. al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 14, 1943-1946, 2004, “Carnosic acid, a new class of lipid absorption inhibitor from sage.”)。ヒトへの毒性については、ヒトへの摂食実験は報告されていないが、非特許文献6で示すようにカルノソールは健常人由来の末梢血リンパ球への毒性は認められないことが報告されていること、上記動物実験の報告で毒性が認められないこと、さらにローズマリーは食経験が豊富であることなどから判断すると、成人T細胞性白血病患者、ヒトT細胞性白血病ウイルス感染患者等に長期に亘り、安心して投与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
一般に、ローズマリーは、シソ科(Lamiaceae)ロスマリヌス属(Rosmarinus)に分類される、地中海沿岸地方原産の常緑性低木である。ローズマリーには、モーツアルト・ローズマリー(Rosmarinus officinalis‘Mozart Blue’)、ホワイト・ローズマリー(R.OFFICINALIS ALBIFLORUS)、マジョルカピンク・ローズマリー(R.OFFICINALIS‘M.P.’)をはじめ、多様な種が存在する。
【0024】
本発明の成人T細胞性白血病の予防剤、治療剤として用いられるローズマリーは、その種類や原産地を特に制限するものではなく、いずれも使用することができる。
【0025】
本発明においてローズマリーは、葉を採取後加工処理した加工処理物として用いる。加工処理物としては、ローズマリーの粉砕物(生、乾燥物)、搾汁、任意の溶媒による抽出物を用いることができるが、本発明の薬理機能及び加工容易性から葉の粉砕物、抽出物が望ましい。
【0026】
乾燥粉砕物は、ローズマリーを乾燥した後粉砕するか、または葉を細く切断した後に乾燥することによって調製する。乾燥には、本発明の薬理効果を損なわない範囲であれば特に制限はなく、真空凍結乾燥、熱風乾燥、遠赤外線乾燥、減圧乾燥、マイクロ波減圧乾燥、及び過熱蒸気乾燥等を広く用いることができる。好ましくは、成分変化の少ない真空凍結乾燥である。真空凍結乾燥条件は、原料葉の状態によって異なるので特定できないが、例えば生葉をそのまま乾燥する際、凍結温度は−30℃〜−20℃、乾燥温度は−30〜30℃、乾燥時間は15時間〜24時間の範囲が望ましい。
【0027】
ローズマリーの抽出物は、葉をそのまま、もしくは破砕物とした後、抽出操作に供するか、また乾燥後、必要に応じて粉砕し、しかる後抽出操作に供することによって調製することができる。また葉の搾汁も、上記抽出原料として使用することができる。なお、かかる葉の搾汁は、必要に応じて、濃縮または乾燥した後に抽出操作に供してもよい。
【0028】
抽出溶媒には、水、エタノールおよびこれらの混合液が安全上望ましいが、抽出溶媒を完全留去して、ローズマリーを抽出物の乾燥粉末として調製する場合には、メタノールやブタノールのごとき低級アルキルアルコール、あるいはアセトン、DMSOのごとき溶媒も使用することができる。また種々の溶媒を組み合わせた多段階抽出も可能である。
【0029】
得られた抽出物は、必要に応じて、ろ過または遠心分離などの操作により固形物を除去する。次の工程で行われる操作に応じては、抽出物をそのまま用いるか、または溶媒を留去して一部濃縮もしくは乾燥して用いてもよい。また得られた抽出物は、濃縮もしくは乾燥後、さらに適正な溶媒、例えば、非溶解性溶媒で洗浄精製して用いても、またこれを更に適当な溶媒に溶解若しくは懸濁して用いることもできる。さらに本発明においては、例えば、得られた溶媒抽出液を、減圧乾燥、凍結乾燥等の通常の手段に供して、ローズマリーの乾燥抽出物として使用することもできる。
【0030】
本発明の成人T細胞性白血病の予防剤、治療剤として用いられるカルノソール、カルノシン酸、ロズマリン酸については、ローズマリーなどより精製したもの、化学合成したもの、市販されているものを使用することができるが、原材料の由来を制限するものではなく、いずれも使用することができるが、サプリメントなどの食品として摂取する場合はローズマリーより精製したもの、また、予防剤・治療剤として投与する場合は化学合成したものが望ましい。
【0031】
このようにして得られるローズマリー加工処理物、カルノソール、カルノシン酸、ロズマリン酸は、後述の実験例で示すように、成人T細胞性白血病改善(表1、図1、図2、図3)を有している。具体的には、ローズマリー加工処理物については、表1から分かるように50%阻害濃度(IC50)でJurkat細胞に対して16.71μg/mlの効果を示し、特に成人T細胞白血病細胞の一つであるED細胞に対して、緑茶(IC50濃度で204μg/ml)に比べ、強力な活性(20.55μg/ml)を有している。
【0032】
カルノソール、カルノシン酸、ロズマリンはいずれも、成人T細胞白血病細胞の増殖抑制効果を有する(図2、図3、図4)が、特にカルノソールは、図4、図5で示すように、アポトーシス誘導活性も有しており、白血病、特に成人T細胞白血病を積極的に予防・治療する観点から、優れた予防剤・治療剤として使用することができる。
【0033】
よって本発明は、前述するローズマリー加工処理物、カルノソール、カルノシン酸、ロズマリン酸を有効成分とする成人T細胞性白血病治療剤を提供するものである。本発明の成人T細胞性白血病治療剤に含まれるローズマリー加工処理物、カルノソール、カルノシン酸、ロズマリン酸の割合は、当該製剤が上述する成人T細胞性白血病改善作用を発揮する限り特に制限されず、ローズマリー加工処理物、カルノソール、カルノシン酸、ロズマリン酸を100%の割合で含有するものであってもよい。
【0034】
本発明の成人T細胞性白血病治療剤、予防剤は、上記ローズマリーの加工処理物(特に粉砕物、搾汁、もしくは抽出物)、カルノソール、カルノシン酸、ロズマリン酸を単独で、固体または液体状で利用することもできるが、これに薬学上許容される担体または添加剤を配合して、固体又は液体状の医薬組成物として調製することもできる。
【0035】
本発明の医薬組成物は、その形態に特に制限はないが、経口に適した形態であることが好ましい。例えば、経口投与用固体組成物(固形医薬製剤)としては、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤等の形態を、また経口投与用液状組成物(液状医薬製剤)としては、乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤などの形態をとることができる。これらの製剤には、有効成分に加えて、剤形に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色料、矯味矯臭剤、pH調整剤等を適宜配合することができ、常法に従って製剤化することができる。
【0036】
また本発明の医薬組成物には、有効成分であるローズマリー、カルノソール、カルノシン酸、ロズマリン酸、及び前記担体または添加剤に加えて、ビタミン等の他の機能性成分が含まれていてもよい。医薬組成物の有効成分の組成比は、使用目的等によって異なるので特定はできないが、後述の有効投与量を基準値として、適宜調整可能である。
【0037】
本発明の医薬組成物の有効投与量は、投与法、投与期間、患者の病態、年齢、性別、投与目的、その他の条件に応じて広範囲から選択できる。例えば、本発明の医薬組成物を、成人T細胞性白血病の改善を目的として用いる場合、ローズマリーでは、体重60kgのヒトに対する1回投与あたりの量としては、ローズマリーの乾燥重量に換算して約300〜4800mg、好ましくは約600〜2400mgの範囲を、カルノソールでは、体重60kgのヒトに対する1回投与あたりの量としては、約15〜240mg、好ましくは約30〜120mgの範囲を、カルノシン酸では、体重60kgのヒトに対する1回投与あたりの量としては、約7.5〜120mg、好ましくは約15〜60mgの範囲を、ロズマリン酸では、体重60kgのヒトに対する1回投与あたりの量としては、約900〜1500mg、好ましくは約1800〜7500mgの範囲を、挙げることができる。
【0038】
本発明の医薬組成物の投与時期及び期間は、有効成分が古くから食品として摂取されている、安全で副作用の少ないローズマリー、及びローズマリー含有成分であることから特に制限はない。
【実施例1】
【0039】
ローズマリーとその含有成分によるT細胞性白血病細胞増殖抑制活性
古来から様々な生理機能を有するハーブ類を中心に、T細胞性白血病細胞に対する増殖抑制効果を検討した。以下に詳述する。
[1]材料と方法
(1)抽出試料の調製
ローズマリー80%エタノール抽出試料の調製は以下のように行った。ローズマリーの生葉を凍結温度−30℃、乾燥温度30℃、乾燥時間24時間で真空凍結乾燥(真空凍結乾燥機、FTS SYSTEM、Dura-Top MP&Dura-Dry MP)した。次いで、超遠心粉砕機(MRK&RETSCH、EM-1型)の0.5mmスクリーンを通して粉砕し、ローズマリーの乾燥粉末物を得た。
【0040】
得られた凍結乾燥粉末物の約1gに、80%エタノール30 ml を加えて、室温で30秒間激しく撹拌した後、吸引ろ過(有限会社 桐山製作所 商品名:桐山ロート サイズ 60 mm ろ紙:5A)を行なって固形物を除いた。ろ液を減圧濃縮して、溶媒を留去した。最後に溶媒を完全に留去するため、真空凍結乾燥処理を行ない、ローズマリーの乾燥抽出物約500mgを得た。これをdimethylsulfoxide (DMSO)で200mg/ml の濃度に調整し抽出試料とし、使用時まで−20℃で保存した。ペパーミント、スペアミント、スイートバジル、レモンバームについても、同様に抽出試料を調整した。また、活性の比較のために用いた緑茶についても、上記と同様80%エタノール抽出試料として調製した。
【0041】
カルノソール(Cayman Chemical 社、米国)、カルノシン酸(Alexis Biochemicals 社、米国)、及び、ロズマリン酸(Cayman Chemical社、米国)は、それぞれDMSOで100 mMの濃度になるよう溶解し、使用時まで−20℃で保存した。
【0042】
(2)細胞増殖抑制試験
細胞増殖抑制試験は以下のようにMTT試薬(株式会社 同仁化学研究所、商品名:MTT(lyophilized))を用いて行った。非ウイルス性のT細胞白血病細胞株としてJurkat細胞とMOLT4細胞を用いた。成人T細胞白血病(以下、ATL)細胞株として、ED細胞、Su9T01細胞、或いはS1T細胞を用いた。HTLV-1感染細胞株として、HUT102細胞或いはMT2細胞を用いた。96wellプレートに被検細胞の懸濁液(1×104 cells/well)を90μlずつ加え、10%ウシ胎児血清を添加したRPMI-1640培地(Sigma社製)中、37℃、5%CO2存在下で24時間培養した。
【0043】
抽出試料の2倍段階希釈系列を調製し、その内10μl/well添加した後、更に72時間培養した。培養後、MTT試薬を10μl/well添加し、4時間細胞に処理後、溶解液(0.04M HCl/isopropanol)を100μl/well加えて色素を溶解した。650nmを対照波長として、溶解培養液の吸光度を570nmの波長で測定した(日本モレキュラーデバイス株式会社製 商品名:EMax)。溶媒のDMSOのみ加えた細胞をコントロールとした。各試料処理細胞の細胞増殖抑制率は、コントロールに対する百分率として算出した。抑制率が50%になる試料濃度をIC50(50%抑制濃度)とした。
【0044】
[2]結果
(1)ローズマリーのT細胞性白血病細胞増殖抑制活性
植物抽出物によるT細胞性白血病細胞の増殖抑制活性について、表1にまとめた。
【0045】
【表1】

【0046】
まず、活性を比較するための陽性コントロールとして、緑茶抽出物を用いた。非ウイルス性白血病由来の細胞株(Jurkat細胞、MOLT4細胞)、ウイルス性白血病のATL細胞株(ED細胞、Su9T01細胞、S1T細胞)で緑茶抽出物の活性を調べたところ、いずれの細胞株においてもIC50濃度で200〜300μg/ml程度の活性が認められた。また、ATLの予防効果についても検討するため、HTLV-1感染細胞についても調べたところ、やはりIC50濃度で約300μg/ml程度の活性が認められた。
【0047】
緑茶の結果を踏まえて、数種のハーブについて活性があるのかどうかを検討した。ペパーミント、ローズマリー、スペアミント、スイートバジル、及びレモンバームについて調べたところ、4種のハーブ(ペパーミント、ローズマリー、スペアミント、スイートバジル)において、緑茶よりも高い活性が認められた。特に、ローズマリー抽出物において、IC50濃度で16.71〜95.34μg/mlの非常に強力な活性が認められた。これは、緑茶の数倍から10倍以上の活性に相当する。
【0048】
ローズマリー抽出物は、HTLV-1感染細胞(HUT102細胞、MT2細胞)においても緑茶の5倍程度の活性を示した。この事は、ローズマリーはATLの予防効果も有することを示唆している。
以上の結果、ハーブの中でも、特にローズマリーは、ATL細胞を始めとしたT細胞性白血病細胞の増殖を強力に抑制すること、さらにその活性は緑茶の活性を凌ぐものであるが分かった。
【0049】
(2)ローズマリー含有成分のATL細胞増殖抑制活性
ローズマリーに含有される生理活性成分として、カルノシン酸、カルノソール、及びロズマリン酸が知られている。そこで、ローズマリーの活性本体を明らかにすべく、ED細胞を用いて、これらのATL細胞増殖抑制活性を調べた。
カルノシン酸の細胞増殖抑制活性を図1に示す。濃度依存的に細胞増殖を抑制し、12.24μMのIC50濃度を示した。
【0050】
カルノソールの細胞増殖抑制活性を図2に示す。濃度依存的に細胞増殖を抑制し、21.52μMのIC50濃度を示した。
ロズマリン酸の細胞増殖抑制活性を図3に示す。濃度依存的に細胞増殖を抑制し、60.36μMのIC50濃度を示したが、活性はカルノシン酸とカルノソールに比べると弱いように思われた。
IC50濃度から判断すると、ローズマリーの活性本体はカルノシン酸とカルノソールであることが示唆された。
【0051】
カルノソールのアポトーシス誘導活性
ATL細胞の増殖を抑制することの原因として、アポトーシスが関与している可能性が考えられる。また、アポトーシスは抗がん剤の作用機序としても重要であることから、アポトーシス誘導活性が認められれば、創薬への応用の道も拓かれる。そこで次に、カルノシン酸、カルノソール、ロズマリン酸がアポトーシス誘導活性を有するのかどうかを調べた。
【0052】
[1]材料と方法
(1)アポトーシス細胞の検出
アポトーシス細胞の検出は、アネキシンV-FITCキットで行った。添付プロトコールに従い、細胞を回収し、4℃に冷やしたPBSで洗浄後、アネキシンV-FITCでアポトーシス細胞を染色した。染色後、フローサイトメトリー(EPICS XL、Beckman Coulter社製、米国)で細胞の蛍光強度を測定し、染色された細胞数をカウントし、アポトーシス細胞とした。
【0053】
(2)活性化カスパーゼの検出
活性化カスパーゼの検出は、ウエスタンブロッティングで行った。細胞を回収、PBSで洗浄後、抽出液[50 mM Tris-HCl p7.4、1% Triton-X100、150 mM NaCl、1 mM EDTA、50 mM NaF、30 mM Na4P2O7、2% Protease inhibitor cocktail(ナカライテスク社)]で蛋白質を抽出した。常法通り、12%ゲルでSDS-PAGE、蛋白質の転写、ブロッキングを行い、1次抗体として抗カスパーゼ-3抗体(Cell Signaling Technology社、米国)、抗カスパーゼ-6抗体(Cell Signaling Technology社、米国)、抗カスパーゼ-7抗体(Cell Signaling Technology社、米国)、或いは抗アクチン抗体(Sigma社、米国)で処理した。
【0054】
なお、抗カスパーゼ-3抗体、抗カスパーゼ-6抗体(Cell Signaling Technology社、米国)、抗カスパーゼ-7抗体は、活性化カスパーゼを特異的に認識する。続いて、2次抗体としてPOD-conjugated anti-mouse IgG或いはPOD-conjugated anti-rabbit IgGで処理した後、ECL-plus(GE Healthcare Bio-Sciences社、米国)で特異的バンドを検出した。
【0055】
[2]結果
カルノシン酸、カルノソール、及びロズマリン酸がアポトーシスを誘導するのかどうかを調べるため、アネキシンV染色でアポトーシス細胞をカウントした。なお、アネキシンV染色は、アポトーシスの形態学的指標であり、アポトーシス細胞に特異的な細胞膜の構造的変化を検出する方法である。
【0056】
結果を図4に示す。カルノソール処理細胞において、アポトーシス細胞は30.6%、ネクローシス細胞及び終期アポトーシス細胞は39.0%存在した。コントロールの未処理細胞(None)に比べると、アポトーシス細胞は明らかに増加していた。カルノシン酸とロズマリン酸についても調べたところ、アポトーシス細胞の割合は、ほとんどコントロール細胞と変わらなかった。カルノシン酸処理細胞でごく僅か増加したものの、カルノソール処理で認められるような顕著な増加は見られなかった。
【0057】
次にアポトーシスの生化学的指標として、カスパーゼの活性化について調べた。
結果を図5に示す。図4のアネキシンV染色の結果を反映するように、カルノソール処理細胞ではカスパーゼの活性化が見られた。これに対し、カルノシン酸処理細胞とロズマリン酸処理細胞では活性化は見られなかった。また、ローズマリー抽出物については、カスパーゼの活性化が検出された。
以上の結果、ローズマリーはATL細胞にアポトーシスを誘導する活性を有し、その活性本体はカルノソールであることが強く示唆された。
【0058】
産業上の利用可能性
本発明の成人T細胞性白血病の予防剤、治療剤、及びその医薬品組成物は、成人T細胞性白血病患者に対する、成人T細胞性白血病改善薬として、また、ヒトT細胞性白血病ウイルス感染患者に対する、成人T細胞性白血病の発症を抑制する予防薬として、広く利用することができる。特に本発明は、天然の食用植物に由来する成分を有効成分とするものであるため、医薬品や長期に亘り安心して服用できる日常薬としての利用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】カルノシン酸のATL細胞(ED細胞)増殖抑制効果を示すグラフである。
【図2】カルノソールのATL細胞(ED細胞)増殖抑制効果を示すグラフである。
【図3】ロズマリン酸のATL細胞(ED細胞)増殖抑制効果を示すグラフである。
【図4】カルノシン酸、カルノソール、ロズマリン酸のアポトーシス誘導作用についてフローサイトメトリー解析にて検討した結果を示した図である。
【図5】カルノシン酸、カルノソール、ロズマリン酸のアポトーシス誘導作用についてウェスタンブロッティング解析にて検討した結果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローズマリー加工処理物を有効成分とする成人T細胞性白血病治療剤。
【請求項2】
カルノソール、カルノシン酸、ロズマリン酸及びそれらの誘導体からなる群より選択される、少なくとも1種を有効成分として含有する成人T細胞性白血病治療剤。
【請求項3】
成人T細胞性白血病細胞の増殖を抑制するために用いられる、請求項1または2記載の成人T細胞性白血病治療剤。
【請求項4】
成人T細胞性白血病細胞に対してアポトーシスを誘導するために用いられる、請求項1または2記載の成人T細胞性白血病治療剤。
【請求項5】
成人T細胞性白血病患者に対して、成人T細胞性白血病改善のために用いられる、請求項1乃請求項4のいずれかに記載する成人T細胞性白血病治療剤を含む医薬品組成物。
【請求項6】
ローズマリー加工処理物を有効成分とする成人T細胞性白血病予防剤。
【請求項7】
ヒトT細胞性白血病ウイルス感染細胞の増殖を抑制するために用いられる、請求項6記載の成人T細胞性白血病予防剤。
【請求項8】
ヒトT細胞性白血病ウイルス感染患者に対して、成人T細胞性白血病の発症を抑制するために用いられる、請求項6または7記載の成人T細胞性白血病予防剤を含む医薬品組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−247797(P2008−247797A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90441(P2007−90441)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(391011700)宮崎県 (63)
【出願人】(306024609)財団法人宮崎県産業支援財団 (23)
【Fターム(参考)】