説明

成分測定用器具及び成分測定用器具を備えた血液透析装置

【課題】水を含む液体の成分の濃度を赤外線の領域でリアルタイムに測定できるようにし、しかも、その測定精度を高める。
【解決手段】成分測定用器具30は、液体が流通する流通管18a、18bに接続される流路34を形成する流路形成部31を備えている。流路形成部31には、赤外線が照射される赤外線照射部Cが設けられている。流路34の赤外線照射部Cに対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法d1は、流通管18a、18bの内径d2よりも短く設定されている。流路34には、液体の一部を、流路34の赤外線照射部Cに対応する部位を迂回させて流すバイパス部34dが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を含む液体に混入した各種成分の濃度を測定する際に用いられる成分測定用器具及びその成分測定用器具を備えた血液透析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、特許文献1に開示されているように、腎不全の患者に対しては、血液透析装置を用いた血液透析治療が行われている。血液透析装置は、患者から血液を採取して戻す血液回路と、血液回路の中途部に設けられたダイアライザーと、ダイアライザーに透析液を供給するための透析液回路とを備えている。そして、血液回路により患者から採取された血液はダイアライザーに流入して患者に戻される体外循環が行われ、この体外循環の間に、ダイアライザーに供給されている透析液によって浄化処理されるとともに、除水処理されるようになっている。
【0003】
上記血液透析装置のダイアライザーから排出される透析液(透析廃液)には、患者の血液中に存在していた老廃物等が含まれており、この老廃物等の濃度は透析中に変化する。したがって、特許文献2に開示されているように、透析廃液に含まれる老廃物等の濃度を測定することで、患者の透析中の状態を把握することが可能になるので、老廃物等の濃度変化を得ることは透析治療を実施する上で非常に有用である。特許文献2の血液透析装置は、透析廃液に酸化剤を注入し、この酸化剤と透析廃液中の老廃物等とを反応させ、そのときに発生する熱による透析廃液の温度変化を検出し、この温度変化に基づいて老廃物等の濃度を測定するように構成されている。
【特許文献1】特開2007−130300号公報
【特許文献2】特開2007−190250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、透析廃液に含まれる老廃物等の濃度を測定する場合に、特許文献2のように透析廃液に酸化剤を注入して温度変化を測定するようにすると、酸化剤を注入してから透析廃液の温度変化を検出するまでには時間を要するので、老廃物等の濃度をリアルタイムに得ることが難しい。
【0005】
そこで、例えば、透析廃液が流通する流通管の途中にフローセル(成分測定用器具)を設け、この成分測定用器具に光を照射して透析廃液の吸収度合い(吸光度)を検出することにより、老廃物等の濃度をリアルタイムに測定することが考えられる。吸光度を検出する場合、透析廃液の大部分を占める水に吸収される量が少ない紫外線の領域で測定するのが好ましいが、紫外線は照射対象物を劣化させる虞れがあるので成分測定用器具に使用できる材料が限定され、また、紫外線は、人体の目に誤って入ると悪影響を及ぼす虞れもある。これらのことを回避するために、赤外線の領域で吸光度を検出するようにした場合、上述の如く赤外線は紫外線に比べて水に吸収されやすいため、照射した赤外線の殆どが水に吸収されてしまい、成分の濃度が吸光度という形で現れにくいという問題がある。
【0006】
また、成分測定用器具の測定用流路において透析廃液の流れが滞ったり、透析廃液にキャビテーション現象が起こると、吸光度を精度良く検出できないので、測定流路の断面積を十分に確保して透析廃液をスムーズに流したいという要求がある。
【0007】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水を含む液体の成分の濃度を赤外線の領域でリアルタイムに測定できるようにし、しかも、その測定精度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、成分測定用器具の流路における赤外線照射部に対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法を短くするとともに、液体の一部を、流路の赤外線照射部に対応する部位を迂回させて流すようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明では、水を含む液体に赤外線を照射してその吸収度合いを解析することによって液体中の成分の濃度を測定する際に用いられる成分測定用器具であって、液体が流通する流通管に接続される流路を形成する流路形成部を備え、上記流路形成部には、赤外線透過材で構成され、赤外線が照射される赤外線照射部と、上記流路の赤外線照射部に対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法を上記流通管の内径よりも短く設定する寸法設定部と、液体の一部を上記流路の赤外線照射部に対応する部位を迂回させて流すバイパス部とが設けられている構成とする。
【0010】
この構成によれば、液体が流通管から流路形成部の流路に流れ込むと、流路の赤外線照射部に対応する部位を流れる。赤外線照射部に照射されている赤外線は、流路における赤外線照射部に対応する部位を流れる液体を通過して、照射側と反対側で受光される。これにより、液体による赤外線の吸収度合いが得られる。このとき、流路における赤外線照射部に対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法が、流通管の内径よりも短くなっているので、液体の成分である水によって赤外線が吸収されてしまう量を抑制することが可能になる。その結果、液体中の水以外の成分に関する赤外線の吸収度合いを検出することが可能になり、この吸収度合いを解析することにより、液体の成分の濃度がリアルタイムで測定されることになる。
【0011】
また、流路形成部にはバイパス部が設けられていて、液体の一部はバイパス部を流れることになる。これにより、上記したように流路における赤外線照射部に対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法を短くしても、トータルとしての流路断面積は十分に確保することが可能になり、流路内において液体の流れの滞りや、キャビテーション現象が起こりにくくなる。
【0012】
第2の発明では、第1の発明において、流路の赤外線照射部に対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法が0.1mm以上2.0mm以下に設定されている構成とする。
【0013】
この構成によれば、赤外線の吸収度合いを測定するのに必要な液体の流量を確保しながら、その液体の成分である水により赤外線が吸収されてしまう量を十分に少なくすることが可能になる。
【0014】
第3の発明では、第1または2の発明において、寸法設定部は、流路内面から該流路内へ突出するように形成された凸部である構成とする。
【0015】
この構成によれば、寸法設定部を容易に得ることが可能になる。
【0016】
第4の発明では、第3の発明において、凸部は、レンズ形状である構成とする。
【0017】
この構成によれば、凸部により赤外線を屈折させることが可能になる。
【0018】
第5の発明では、第3または4の発明において、バイパス部は、凸部の周りに設けられている構成とする。
【0019】
この構成によれば、液体の一部が凸部の周りを通って下流側へ流れていくことになる。
【0020】
第6の発明では、第1または2の発明において、寸法設定部は、流路内に配置され、該流路の上流側から下流側へ向けて延びる棒状部材で構成されているものとする。
【0021】
この構成によれば、寸法設定部を構成する棒状部材が、流路内において上流側から下流側へ向かって延びるように配置されているので、棒状部材によって液体の流れが阻害されにくくなる。
【0022】
第7の発明では、第1から6のいずれか1つの発明において、バイパス部は、流路の上流側から下流側へ向けて延びる筒部材で構成されているものとする。
【0023】
この構成によれば、液体がバイパス部をスムーズに流れるようになる。
【0024】
第8の発明では、第1または2の発明において、寸法設定部は、流路内に配置されたビーズ状部材で構成されているものとする。
【0025】
この構成によれば、流路の赤外線照射部に対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法を変更する際に、ビーズ状部材の大きさや数を変更するだけで対応可能になる。
【0026】
第9の発明では、第1から8のいずれか1つの発明において、血液透析装置の透析廃液が流通する流通管に接続される構成とする。
【0027】
第10の発明では、第1から8のいずれか1つの発明において、腹膜透析装置の透析廃液が流通する流通管に接続される構成とする。
【0028】
第11の発明では、血液透析装置において、第1から8のいずれか1つに記載された成分測定用器具が、透析廃液が流通する流通管に接続されている構成とする。
【発明の効果】
【0029】
第1の発明によれば、水を含む液体が流れる流通管に接続される流路を形成する流路形成部に、赤外線が照射される赤外線照射部と、流路の赤外線照射部に対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法を流通管の内径よりも短くする寸法設定部とを設けたので、液体中の水によって赤外線が吸収されてしまう量を抑制でき、液体中の水以外の成分に関する赤外線の吸収度合いを検出できる。さらに、流路形成部にバイパス部を設けて、液体の一部を、流路の赤外線照射部に対応する部位を迂回させて流すようにしたので、液体の流れの滞りやキャビテーション現象を起こりにくくすることができる。これらのことにより、液体の成分の濃度をリアルタイムに、かつ、精度良く測定することができる。
【0030】
第2の発明によれば、流路の赤外線照射部に対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法を0.1mm以上2.0mm以下に設定したことで、赤外線の吸収度合いを測定するのに必要な液体の流量を確保しながら、赤外線が水に吸収されてしまう量を十分に少なくすることができ、より正確な測定を行うことができる。
【0031】
第3の発明によれば、寸法設定部を容易に得ることができ、低コスト化を図ることができる。
【0032】
第4の発明によれば、凸部をレンズ形状としたことで、赤外線を屈折させて所望の集光効果を得ることができる。
【0033】
第6の発明によれば、寸法設定部が、流路の上流側から下流側へ向けて延びる棒状部材で構成されているので、液体をスムーズに流すことができる。
【0034】
第7の発明によれば、バイパス部が、流路の上流側から下流側へ向けて延びる筒部材で構成されているので、バイパス部を流れる液体の流れをスムーズにすることができる。
【0035】
第8の発明によれば、寸法設定部が、流路内に配置されたビーズ状部材で構成されているので、ビーズ状部材の大きさや数によって、流路の赤外線照射部に対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法を容易に変更することができる。
【0036】
第9〜11の発明によれば、透析廃液中の老廃物等の濃度をリアルタイムに、かつ、精度良く測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0038】
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係る成分測定用器具30を備えた血液透析装置1の使用状態を示す図である。血液透析装置1は、血液透析処理実働部2と、操作表示部3を有する制御部4とを備えている。これらのうち、血液透析処理実働部2は、実際に血液透析を行う部分である。また、制御部4は、コンピュータの情報処理部を中心として構成されており、血液透析処理実働部2を制御するものである。また、操作表示部3は、医療従事者によるデータの入力ボタン28と、各種情報及び入力されたデータを表示するための画面29とを有している。
【0039】
血液透析処理実働部2は、血液透析の中心となるダイアライザー(血液処理器)10と、ダイアライザー10に接続される動脈側血液回路部11及び静脈側血液回路部12と、血液ポンプ13と、ダイアライザー10に透析液を供給する透析液回路15とを備えている。動脈側血液回路部11と、静脈側血液回路部12と、血液ポンプ13とで血液回路16が構成されている。
【0040】
ダイアライザー10は、筒状のケース内に複数の中空糸(図示せず)が収容されてなるものである。これら中空糸の内部に患者の血液が流れ、中空糸外とケース内との空間に透析液が流れるようになっている。ダイアライザー10のケースには、図示しないが、中空糸の内部に連通する血液流入ポート及び血液流出ポートと、中空糸外とケース内との空間に連通する透析液流入ポート及び透析液流出ポートとが形成されている。
【0041】
動脈側血液回路部11は、動脈側穿刺針11aを有し、ダイアライザー10の血液流入ポートに接続されている。動脈側血液回路部11の中途部には、動脈側ドリップチャンバー11bとが設けられている。一方、静脈側血液回路部12は、静脈側穿刺針12aを有し、ダイアライザー10の血液流出ポートに接続されている。静脈側血液回路部12の中途部には、静脈側ドリップチャンバー12bが設けられている。
【0042】
血液ポンプ13は、動脈側血液回路部11を構成する柔軟なチューブをしごくことによって血液を動脈側血液回路部11から静脈側血液回路部12へ送るように構成された、いわゆるしごき型のポンプである。血液ポンプ13のモーターの回転速度を変更することによって、血液回路16を流れる血液の流量が調節されるようになっている。尚、血液ポンプ13は、しごき型のものに限られるものではなく、他の形式のポンプを用いるようにしてもよい。
【0043】
透析液回路15は、透析液供給装置(図示せず)に接続される供給側回路部17と、排出側回路部18と、除水ポンプ19と、供給弁20とを備えている。供給側回路部17は、ダイアライザー10の透析液流入ポートに接続されている。排出側回路部18は、ダイアライザー10の透析液流出ポートに接続されている。供給弁20は、供給側回路部17に設けられており、該供給側回路部17を流れる透析液の流量を調節するためのものである。
【0044】
また、除水ポンプ19は、排出側回路部18に設けられており、血液から水分を除去するためのものである。この除水ポンプ19を駆動することで、ダイアライザー10に流入する透析液の量よりも排出される液体の量が多くなり、これにより、中空糸を流れる血液から水分が除去されるようになっている。この除水ポンプ19による徐水量は、除水ポンプ19のモーターの回転速度を変更することによって調節できるようになっている。
【0045】
上記排出側回路18には、血液中の老廃物等が混入した透析廃液が流通するようになっている。この流通管18a、18bの中途部に成分測定用器具30が設けられている。尚、成分測定用器具30は、排出側回路部18であればどこに設けてもよく、例えば、除水ポンプ19の下流側に設けてもよい。
【0046】
成分測定用器具30は、赤外分光光度計(図示せず)のフローセルとして機能するものである。赤外分光光度計は、LED等からなる発光素子A(図3に仮想線で示す)と、フォトトランジスター等からなる受光素子B(同図に仮想線で示す)とを備え、受光素子Bで検出された吸光度を解析することで、透析廃液中の老廃物等(成分)の濃度を得ることができるように構成された周知のものである。発光素子Aからは、近赤外線が照射されるようになっている。この近赤外線の波長は、800nmから2500nmである。赤外分光光度計から出力された信号は、制御部4に入力されて所定の処理が施された後に、老廃物等の濃度変化(相対変化)が分かるように、グラフ形式で画面29に表示されるようになっている。よって、医療従事者は、透析廃液中の老廃物等の濃度変化を見ながら、各種設定を変更することが可能である。
【0047】
図2に示すように、成分測定用器具30は、厚肉板状の流路形成部31と、流路形成部31の両端面から突出する流入管部32及び流出管部33とを備えている。これら流路形成部30、流入管部31及び流出管部32は、発光素子Aから照射される近赤外線が透過する無色透明な樹脂材で構成されている。流路形成部30は、例えば、石英、ガラス、ポリカーボネート等で構成してもよい。
【0048】
流路形成部31は、平面視で略正方形をなしている。図3に示すように、流路形成部31の厚み方向の一方側(図3における上側)に赤外分光光度計の発光素子Aが配置され、他方側(同図の下側)に受光素子Bが配置されている。
【0049】
図4にも示すように、流路形成部31の内部には、流入管部32側から流出管部33側に亘って透析廃液が流通する流路34が形成されている。流路34の上流端及び下流端は、流路形成部30の両端面の幅方向中央部に開口している。流路34の上流端開口に、流入管部32が接続され、下流端開口に流出管部33が接続されている。流入管部32及び流出管部33の断面は、互いに同じ円形とされている。流入管部32は、排出側回路18の上流側の流通管18aに差し込まれた状態で接続され、流出管部33は、排出側回路18の下流側の流通管18bに差し込まれた状態で接続されている。流通管18a、18bの断面は、円形とされている。
【0050】
流路34は、上流部34aと、中間部34bと、下流部34cとで構成されている。流路34の上流部34aの断面は、流入管部32の断面と同じ円形状とされている。また、流路34の下流部34cの断面は、流出管部33の断面と同じ円形状とされている。流路34の中間部34bは、扁平断面を有しており、中間部34bの幅方向(図4の上下方向)の寸法は、上流部34aや下流部34cの幅方向の寸法よりも広く設定されている。中間部34bの両側縁部は、中間部34bの中心部を中心とした円弧状に湾曲している。図3に示すように、流路34の中間部34bにおける受光素子B側の面は、平坦面で構成されている。一方、流路34の中間部34bにおける発光素子A側の面には、受光素子B側、即ち、流路34内へ向けて突出する凸部(寸法設定部)35が形成されている。図4に仮想線で示すように、凸部35の周縁部は円形とされている。また、凸部35の周縁部は、中間部34bの両縁部よりも内方に離れて位置している。
【0051】
また、凸部35は、中心部が最も突出高さが高くなるように形成されている。凸部35の表面は、受光素子B側へ向けて湾曲しており、凸レンズ形状となっている。発光素子Aは、凸部35が形成された領域に対応するように配置されている。よって、流路形成部30の凸部35が形成された領域により、本発明の赤外線照射部Cが構成されている。また、受光素子Bも凸部35が形成された領域に対応して配置されるようになっている。
【0052】
凸部35の突出高さは、中間部34bの赤外線照射部Cに対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法d1が流通管18a、18bの内径d2よりも短くなるように設定されている。この実施形態では、凸部35の突出高さが最も高いところで、中間部34bの赤外線照射方向の断面寸法d1が0.1mm以上2.0mm以下となるように設定されている。その理由は、断面寸法d1が0.1mmよりも短いと、測定部位における透析廃液の流量が十分でなくなって正確な測定が難しくなり、また、断面寸法d1が2.0mmよりも長いと、透析廃液の主成分である水に吸収される赤外線量が多くなって測定が困難になるからである。
【0053】
また、図4に示すように、中間部34bの周縁部と凸部35の周縁部との間には、透析廃液の一部が、流路34の赤外線照射部Cに対応する部位を迂回して流れるバイパス部34d、34dが形成されている。バイパス部34d、34dが形成されていることにより、流路34の中間部34bの断面積は、上流部34aの断面積と同程度か、それ以上に確保されている。
【0054】
次に、上記のように構成された成分測定用器具30を使用する場合について説明する。透析廃液は、排出側回路18の上流側の流通管18aから流入管部32を通って、流路形成部31内の流路34の上流部34aに流れ込む。この上流部34aを流れた透析廃液は、流路34の中間部34bに流れ込み、一部が、図3に矢印Yで示すように凸部35と受光素子B側の面との間を流れ、残りが、図4に矢印Xで示すようにバイパス部34d、34dを流れて下流部34cに流れ込み、流出管部33を通って排出側回路18の下流側の流通管18bへ流れる。
【0055】
このとき、図3に示すように、発光素子Aから赤外線照射部Cに照射された赤外線は、中間部34bの凸部35と受光素子B側の面との間を流れる透析廃液を透過して受光素子Bで受光される。流路34における赤外線照射部Cに対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法d1が、流通管18a、18bの内径d2よりも短いので、赤外線が透析廃液を通過する距離が短くなる。これにより、赤外線が透析廃液の主成分である水に吸収される量を抑制することが可能になる。その結果、老廃物等の濃度に関する吸光度が得られる。
【0056】
また、透析廃液がバイパス部34d、34dを流れるので、流路34内において透析廃液の滞りや、キャビテーション現象が起こりにくくなる。
【0057】
したがって、この実施形態1に係る成分測定用器具30によれば、流路34における赤外線照射部Cに対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法d1を流通管18a、18bの内径d2よりも短くしたので、透析廃液の主成分である水により赤外線が吸収されてしまう量を抑制でき、水以外の成分に関する吸光度を得ることができる。さらに、透析廃液をバイパス部34d、34dに流すことで、流路34内において液体の滞りや、キャビテーションが起こりにくくなる。よって、透析廃液中の老廃物等の濃度をリアルタイムに、かつ、精度良く測定できる。
【0058】
《発明の実施形態2》
図5〜図9は、本発明の実施形態2に係る成分測定用器具30を示すものである。この実施形態2の成分測定用器具30の流路形成部31は、図5に示すように、発光素子A側に位置する第1部材40と、受光素子B側に位置する第2部材41とを組み合わせて構成されている。
【0059】
第2部材41は、厚肉な矩形板状をなしており、両端面に流入管部32及び流出管部33が設けられている。図8及び図9に示すように、第2部材41には、流路34の上流部34a及び下流部34cが形成されるとともに、これら上流部34aと下流部34cとの間に、流路34の中間部34bを構成するための凹部41aが第1部材40側に開放するように形成されている。凹部41aは、円形断面を有しており、その底面は略平坦に形成されている。第2部材41の4つの角部には、それぞれ、発光素子A側から受光素子B側へ延びる貫通孔41b、41b、…が形成されている。図7に示すように、第2部材41の発光素子A側の面には、凹部41aの開口を囲むように延びる環状溝41cが形成されている。図6に示すように、この環状溝41cには、Oリング42が嵌め込まれている。
【0060】
第1部材40は、第2部材41の発光素子A側の面に沿って延びる矩形の板部40aと、板部40aの受光素子B側の面から突出する凸部(寸法設定部)40bとを備えている。凸部40bは、円形断面を有しており、第2部材41の凹部41aに挿入されるようになっている。凸部40bの外径は、全体として第2部材41の凹部41aの内径よりも小さく設定され、突出方向先端側に行くほど小さくなっている。
【0061】
発光素子Aは、凸部40bが形成された領域に対応するように配置されている。つまり、凸部40bが形成された領域により、本発明の赤外線照射部C(図5にのみ示す)が構成されていて、また、受光素子Bも凸部40bが形成された領域に対応して配置されるようになっている。
【0062】
図9に示すように、凸部40bの先端面は、凹部41aの底面と略平行に延びている。凸部40bの突出高さは、その先端面が凹部41aの底面から所定距離離れるように設定されている。この所定距離は、流路34の赤外線照射部Cに対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法d1であり、流通管18a、18aの内径d2よりも短く、例えば、0.1mm以上2.0mm以下である。第1部材40の板部40aには、第2部材41の貫通孔41b、41b、…と一致する貫通孔40c、40c、…が形成されている。これら貫通孔40c、41cには、ネジ43がそれぞれ挿通するようになっており、貫通孔40c、41bに挿通したネジ43にナット44を螺合させることで、第1部材40と第2部材41とが一体化するようになっている。
【0063】
図8に示すように、凹部41aの周面と凸部40aの周面との間には、透析廃液の一部が流路34の赤外線照射部Cに対応する部位を迂回して流れるバイパス部34d、34dが形成されている。
【0064】
次に、実施形態2に係る成分測定用器具30を使用する場合について説明する。流路34に流れ込んだ透析廃液は、図9に矢印Yで示すように凸部40bの先端面と凹部41aの底面との間を流れるとともに、図8に矢印Xで示すようにバイパス部34dを流れる。このとき、流路34の赤外線照射部Cに対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法d1が流通管18a、18aの内径d2よりも短く設定されているので、赤外線が透析廃液の主成分である水に吸収されてしまう量を抑制することが可能である。これにより、透析廃液中の老廃物等の濃度に関する吸光度が得られる。
【0065】
また、透析廃液は、バイパス部34d、34dを流れるので、流路34内において透析廃液の滞りや、キャビテーション現象が起こりにくくなる。
【0066】
したがって、この実施形態2に係る成分測定用器具30によれば、流路34における赤外線照射部Cに対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法d1を流通管18a、18bの内径よりも短くしたので、水以外の成分に関する吸光度を得ることができる。透析廃液の一部をバイパス部34d、34dに流すことで、流路34内において液体の滞りや、キャビテーションが起こりにくくなる。よって、透析廃液中の老廃物等の濃度をリアルタイムに、かつ、精度良く測定できる。
【0067】
《発明の実施形態3》
図10〜図12は、本発明の実施形態3に係る成分測定用器具30を示すものである。この実施形態3の成分測定用器具30の流路34には、図11に示すように、幅方向中央部に、寸法設定部としての4本の円柱部材(棒状部材)50、50、…が配置されている。円柱部材50、50、…は、中実で、軸線が流路34の上流側から下流側へ向けて延びるように配置されている。円柱部材50は、近赤外線が透過する無色透明な樹脂材で構成されている。円柱部材50は、例えば、石英、ガラス、ポリカーボネート等で構成してもよい。
【0068】
図12に示すように、各円柱部材50の外径Sは、流路34の発光素子A側の面と受光素子B側の面との離間寸法Lよりも短く設定されている。円柱部材50は、流路34の受光素子B側の面に接するように配置されて固定されている。円柱部材50と流路34の発光素子A側の面とは所定距離離れている。この所定距離は、流路34の赤外線照射部Cに対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法d1であり、流通管18a、18aの内径d2よりも短く、例えば、0.1mm以上2.0mm以下である。
【0069】
また、図11に示すように、流路34には、幅方向両側に、円筒部材51が2本づつ配置されている。これら円筒部材50、50、…は、軸線が流路34の上流側から下流側に向けて延びるように配置されており、両端が開放されている。円筒部材50の軸方向の長さは、流路34の長さよりも短く設定され、円筒部材50の両端開口は、流路34の内面から離れている。円筒部材50の外径は、流路34の発光素子A側の面と、受光素子B側の面との離間距離L(図12に示す)と同じに設定されている。円筒部材50の外周面は、流路34の発光素子A側及び受光素子B側の面に接した状態で固定されている。円筒部材51の内部にバイパス部34dが形成されている。
【0070】
次に、上記のように構成された成分測定用器具30を使用する場合について説明する。透析廃液は、排出側回路18の上流側の流通管18aから流入管部32を通って、流路形成部31内の流路34に流れ込む。この透析廃液は、一部が、図12に矢印Yで示すように円柱部材50と発光素子A側の面との間を流れ、残りが、図11に矢印Xで示すように、円筒部材51内のバイパス部34dを流れた後、流出管部33を通って下流側の流通管18bへ流れる。
【0071】
このとき、流路34の赤外線照射部Cに対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法d1が、流通管18a、18bの内径d2よりも短いので、赤外線が透析廃液の主成分である水に吸収されてしまう量を抑制することが可能であり、これにより、透析廃液中の老廃物等の濃度に関する吸光度が得られる。
【0072】
また、透析廃液は、円筒部材51内のバイパス部34dを流れるので、流路34内において透析廃液の滞りや、キャビテーション現象が起こりにくくなる。
【0073】
したがって、この実施形態3に係る成分測定用器具30によれば、流路形成部30に円柱部材50を配置して、流路34の赤外線照射部Cに対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法d1を流通管18a、18bの内径d2よりも短くしたので、実施形態1と同様に、老廃物に関する吸光度を得ることができる。さらに、透析廃液をバイパス部34dに流すことで、流路34内において液体の滞りや、キャビテーションが起こりにくくなる。よって、透析廃液中の老廃物の成分の濃度をリアルタイムに、かつ、精度良く測定できる。
【0074】
尚、円柱部材50の代わりに角柱部材を配置するようにしてもよいし、また、円筒部材51の代わりに角筒部材を配置するようにしてもよい。
【0075】
《発明の実施形態4》
図13及び図14は、本発明の実施形態4に係る成分測定用器具30を示すものである。この実施形態4の成分測定用器具30の流路34には、複数のビーズ状部材60、60、…が配置されている。ビーズ状部材60は、近赤外線が透過する無色透明な樹脂材を球状に成形してなるものであり、図14に示すように、流路34の発光素子A側と受光素子B側とに2段に重ねて配置され、これら重なったビーズ状部材60、60同士は接触している。発光素子A側のビーズ状部材60は、流路34の発光素子A側の面に接触しており、また、受光素子B側のビーズ状部材60は、流路34の受光素子B側の面に接触している。ビーズ状部材60は、例えば、石英、ガラス、ポリカーボネート等で構成してもよい。
【0076】
また、発光素子A側のビーズ状部材60は流路34の上流側から下流側に向けて4つ並んでおり、これらは互いに接触している。受光素子B側のビーズ状部材60は流路34の上流側から下流側に向けて5つ並んでおり、これらは互いに接触している。尚、ビーズ状部材60の数は、これに限られるものではない。
【0077】
ビーズ状部材60、60、…の隙間を透析廃液が流通するようになっている。流路34における赤外線照射部Cに対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法d1は、流路34にビーズ状部材60が配置されていることにより、流通路18a、18bの内径d2よりも小さくなっている。具体的には、流路34における赤外線照射部Cに対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法d1が0.1mm以上2.0mm以下に設定されている。また、流路34における幅方向両側は、本発明のバイパス部(図示せず)となる。
【0078】
したがって、この実施形態4に係る成分測定用器具30によれば、流路形成部30にビーズ状部材60を配置して、赤外線照射方向の断面寸法を流通管18a、18bの内径よりも短くしたので、透析廃液の主成分である水により赤外線が吸収される量を抑制でき、水以外の成分に関する吸光度を得ることができる。透析廃液の一部をバイパス部34d、34dに流すことで、流路34内において液体の滞りや、キャビテーションが起こりにくくなる。よって、透析廃液中の老廃物の濃度をリアルタイムに精度良く測定できる。
【0079】
上記ビーズ状部材60の形状は、球以外の形状であってもよい。
【0080】
尚、上記成分測定用器具30は、腹膜透析装置にも用いることができる。
【0081】
また、透析液の供給側回路部17に、上記成分測定用器具30と同様な供給側成分測定用器具(図示せず)を設け、老廃物の濃度を得るようにしてもよい。このようにした場合には、供給側成分測定用器具で得た老廃物の濃度と、排出側回路部18の成分測定用器具30で得た老廃物の濃度とを比較してその差を把握することが可能になり、透析の状況を細かく分析することができる。
【0082】
また、成分測定用器具30により得た老廃物の濃度変化と、透析液の流速(ml/min)とによって、透析時間中における老廃物の除去量を把握することも可能である。
【0083】
また、特定の波長の赤外線のみを照射して1種類の老廃物の濃度を得るようにしてもよいし、複数の波長の赤外線を順に照射して複数種の老廃物の濃度を得るようにしてもよいし、赤外線の波長を変化させながら連続的に照射して透析廃液の吸収スペクトルを得て、これに基づいて複数種の老廃物の濃度を得るようにしてもよい。
【0084】
また、例えば、2種類の老廃物の濃度を得る場合には、一方の老廃物の濃度に対する他方の老廃物の濃度変化(相対変化)を得るようにしてもよい。
【0085】
また、上記実施形態1〜4では、成分測定用器具30で透析廃液中の老廃物等の濃度を測定するようにしているが、成分測定用器具30は、水を含む各種液体の成分の濃度を検出する場合に用いることができる。
【0086】
また、流路形成部30と流入管部31との接続部分や、流路形成部30と流出管部32との接続部分に段差が形成されていてもよく、この場合、段差の高さは、断面寸法d1よりも小さくするのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上説明したように、本発明に係る成分測定用器具は、例えば、血液透析装置の透析廃液中の老廃物等の濃度を検出するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施形態に係る血液透析装置の使用状態を説明する図である。
【図2】実施形態1に係る成分測定用器具の斜視図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】実施形態2に係る成分測定用器具の側面図である。
【図6】実施形態2に係る成分測定用器具の分解斜視図である。
【図7】実施形態2に係る成分測定用器具を分解した状態の側面図である。
【図8】図5のVIII−VIII線断面図である。
【図9】実施形態2に係る成分測定用器具の縦面図である。
【図10】実施形態3に係る成分測定装置の斜視図である。
【図11】実施形態3に係る成分測定装置の横断面図である。
【図12】図10のXII−XII線断面図である。
【図13】実施形態3に係る成分測定装置の斜視図である。
【図14】図13のXIV−XIV線断面図である。
【符号の説明】
【0089】
1 血液透析装置
18a、18b 流通管
30 成分測定用器具
31 流路形成部
34 流路
34d バイパス部
35 凸部(寸法設定部)
50 円柱部材(寸法設定部)
60 ビーズ状部材(寸法設定部)
C 赤外線照射部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含む液体に赤外線を照射してその吸収度合いを解析することによって液体中の成分の濃度を測定する際に用いられる成分測定用器具であって、
液体が流通する流通管に接続される流路を形成する流路形成部を備え、
上記流路形成部には、赤外線透過材で構成され、赤外線が照射される赤外線照射部と、上記流路の赤外線照射部に対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法を上記流通管の内径よりも短く設定する寸法設定部と、液体の一部を上記流路の赤外線照射部に対応する部位を迂回させて流すバイパス部とが設けられていることを特徴とする成分測定用器具。
【請求項2】
請求項1に記載の成分測定用器具において、
流路の赤外線照射部に対応する部位の赤外線照射方向の断面寸法が0.1mm以上2.0mm以下に設定されていることを特徴とする成分測定用器具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成分測定用器具において、
寸法設定部は、流路内面から該流路内へ突出するように形成された凸部であることを特徴とする成分測定用器具。
【請求項4】
請求項3に記載の成分測定用器具において、
凸部は、レンズ形状であることを特徴とする成分測定用器具。
【請求項5】
請求項3または4に記載の成分測定用器具において、
バイパス部は、凸部の周りに設けられていることを特徴とする成分測定用器具。
【請求項6】
請求項1または2に記載の成分測定用器具において、
寸法設定部は、流路内に配置され、該流路の上流側から下流側へ向けて延びる棒状部材で構成されていることを特徴とする成分測定用器具。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載の成分測定用器具において、
バイパス部は、流路の上流側から下流側へ向けて延びる筒部材で構成されていることを特徴とする成分測定用器具。
【請求項8】
請求項1または2に記載の成分測定用器具において、
寸法設定部は、流路内に配置されたビーズ状部材で構成されていることを特徴とする成分測定用器具。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1つに記載の成分測定用器具において、
血液透析装置の透析廃液が流通する流通管に接続されることを特徴とする成分測定用器具。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1つに記載の成分測定用器具において、
腹膜透析装置の透析廃液が流通する流通管に接続されることを特徴とする成分測定用器具。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか1つに記載された成分測定用器具が、透析廃液が流通する流通管に接続されていることを特徴とする血液透析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−222412(P2009−222412A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64278(P2008−64278)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】