説明

成形体の製造方法、成形体、防音防振床

【課題】簡易な工程で、使用済自動車廃材から低コストかつ商品価値の高い成形体を製造可能な製造方法及びその成形品を提供する。
【解決手段】シュレッダーダストから、発泡樹脂類及び繊維類を主成分とする廃材を分別回収する分別回収工程S10と、分別回収した廃材に接着剤を所定量混合して混合物を生成する接着剤混合工程S20と、混合物を袋体に所定量充填して、袋体に充填された混合物を金型に設置する金型設置工程S30と、金型に充填された混合物を加熱及び加圧して成形する成形工程とからなることを特徴とする防音防振材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車廃材を利用した成形体及びその製造方法に関する。また、この成形体を用いた防音防振床にも関する。
【背景技術】
【0002】
2005年1月に施行された自動車リサイクル法により、自動車メーカ又は自動車輸入業者にシュレッダーダスト・フロン類・エアバック類の3品目の引取りとリサイクルが義務付けられた。
【0003】
これらリサイクルが義務付けられた3品目のうちシュレッダーダストは、解体業者が使用済み自動車を解体し、破砕業者が破砕機で細かく砕き、金属素材を回収した際に残る残渣のことを指し、合成樹脂、金属、ゴム、ガラス等数多くの成分を含んでいる。このシュレッダーダストはその成分毎にさらに分別され、そのうちゴム類は助燃材などの熱資源として再資源化され、また、ガラス類は建材等の骨材用途として利用が図られている。
【0004】
一方、自動車廃材から回収かれるプラスチック、発泡樹脂、繊維等の合成樹脂類を利用したものについては、従来より、例えば、特許文献1に示すようなリサイクル技術が提案されている。
【0005】
特許文献1には、繊維分を含む自動車合成樹脂廃材を反毛機によってほぐしたものに発泡ポリウレタン小片を所定の比率で混合し、ウレタン系接着剤を塗布して再度反毛機によってほぐしてからませた後、成形プレスすることにより成形品を製造する方法が開示されている。これは、反毛機を用いて、廃材中の繊維分を解繊して混合反毛材をつくり、さらに発泡ポリウレタンと接着剤とを混合してからませることにより、毛羽立ったり小片が脱落したりしないような商品価値の高い成型品を製造するためのものである。
【特許文献1】特許第3749966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載される製造方法は、反毛機を用いて、廃材中の繊維分をほぐしたり、発泡ポリウレタンと接着剤とを混合して再度ほぐしてからませたりするので、これら反毛機を用いる工程に手間と時間を要すると共に、製造にあたっては反毛機の設備投資を必要とする。
【0007】
また、使用済自動車廃材に対して所定の混合比率のポリウレタンを新たに混入しなければならず、ポリウレタンの材料コストがかかると共に、ポリウレタンを混入する工程に手間と時間を要する。
【0008】
また、破砕された合成樹脂廃材、発泡ポリウレタン及び混合物を結合させるためにウレタン系接着剤を使用するので、混合物中に水分があったり、金型内で長時間の加圧成形待ちの状態があったりすると接着力が極端に低下するおそれがある。さらに、ウレタン系接着剤を用いる場合には、混合物100重量部に対し、10重量部程度の使用量を必要とするので、材料コストが嵩むおそれがある。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、簡易な工程で、使用済自動車廃材から低コストかつ商品価値の高い成形体を製造可能な製造方法及びその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明は使用済自動車のシュレッダーダストから成形体を製造する製造方法であって、
前記シュレッダーダストから、発泡樹脂類及び繊維類を主成分とする廃材を分別回収する分別回収工程と、
前記分別回収した廃材に接着剤を所定量混合して混合物を生成する接着剤混合工程と、
前記混合物を型枠に設置する型枠設置工程と、
前記型枠に設置された混合物を加熱及び加圧して、前記混合物を成形する成形工程を含むことを特徴とする(第1の発明)。
【0011】
本発明による成形体の製造方法によれば、成形体の原料となる廃材は、予め小片に粉砕された状態のシュレッダーダストから分別された発泡樹脂類及び繊維類を主成分とするものであり、回収された際には既に粉砕及び混合された状態となっているため、改めて反毛機等の機械を使用して材料をほぐすことなく成形体を製造することができる。この結果、これらほぐす工程を省略できるとともに、これらの工程を行うための設備投資を行う必要もなく、コスト軽減に寄与する。
【0012】
また、成形体の原料となる廃材は、シュレッダーダストから発泡樹脂類及び繊維類を主成分とする廃材を分別回収したものであり、これらをそのまま利用して成形体を製造することができる。そのため、新たに材料を追加混入することもなく、材料費を削減できるとともに材料を混入する工程も省略できる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、前記分別回収工程は、前記シュレッダーダストから回転ふるいによってガラスを取り除く回転ふるい工程と、前記回転ふるい工程によりガラスを取り除かれた後のシュレッダーダストから、磁力によって鉄を取り除く磁力分別工程と、前記磁力分別工程により鉄を除かれた後のシュレッダーダストから、非鉄金属を取り除く非鉄金属分別工程と、前記非鉄金属分別工程により非鉄金属を除かれた後のシュレッダーダストから、風力により比重の軽いものを分別して発泡樹脂類及び繊維類を主成分とする廃材を回収する風力分別工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記型枠設置工程では、袋体に前記混合物を充填して混合物充填袋体を作り、当該混合物充填袋体を前記型枠に設置することを特徴とする。
【0015】
本発明による成形体の製造方法によれば、接着剤と混合された混合物を袋体に充填して型枠に設置することにより、型枠内に設置した後でも袋体の外部から簡単に内部の混合物を均すことができるので、密度の均等な品質の良い成形体を製造することができる。また、成形後に成形体を袋体と一緒に型枠から簡単に取り出すことができる。
【0016】
第4の発明は、第1〜3いずれかの発明において、前記分別回収工程では、前記廃材を、前記発泡樹脂類100重量部に対し、前記繊維類150〜200重量部の混合比で回収することを特徴とする。
【0017】
第5の発明は、第1〜4いずれかの発明において、前記接着剤混合工程では、前記接着剤にポリブタジエンを用いて、前記廃材100重量部に対し、ポリブタジエン接着剤0.1〜10重量部を混合して前記混合物を生成することを特徴とする。
【0018】
本発明による成形体の製造方法によれば、接着剤として用いるポリブタジエンは、加熱及び加圧することにより廃材中に水分があっても接着力を有する。また、その使用量も廃材100重量部に対し、ウレタン系接着剤と比べてポリブタジエン0.1〜10重量部と少量で済むので材料コストを低減できる。さらに、ポリブタジエンはプラスチックとゴムとの中間領域に属する重合体であり、流動性に優れるため取り扱いも容易である。
【0019】
第6の発明は、第1〜5いずれかの発明において、前記成形工程での加熱及び加圧の条件を、温度100〜200℃及び圧力10〜200kg/cmにすることを特徴とする。
【0020】
第7の発明は、第1〜6いずれかの発明において、製造される前記成形体は、密度0.10〜0.50g/cmであること特徴とする。
【0021】
第8の発明は、第1〜7いずれかの発明において、前記発泡樹脂類は、発泡ウレタンを含むことを特徴とする。
【0022】
第9の発明は、第1〜8いずれかの発明において、前記繊維類は、ナイロン糸、ポリエステル、レーヨン糸又は綿糸を含むことを特徴とする。
【0023】
第10の発明は、使用済自動車のシュレッダーダストから製造される成形体であって、前記シュレッダーダストから分別回収された発泡樹脂類及び繊維類を主成分とする廃材に所定量の接着剤を混合した混合物を型枠に設置し、この混合物を加熱及び加圧することにより成形してなることを特徴とする。
【0024】
第11の発明は、第10の発明において、前記成形体は、防音防振材であることを特徴とする。
【0025】
第12の発明は、防音防振床であって、請求項11に記載の成形体を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、簡易な工程で、使用済自動車廃材から低コストかつ商品価値の高い成形体を製造可能な製造方法及びその成形品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面に基づき詳細に説明する。本実施形態では、使用済自動車のシュレッダーダストから成形品として防音防振材を製造する。
【0028】
図1は、本実施形態に係る防音防振材の製造方法を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態の製造方法10は、使用済自動車のシュレッダーダストから成型品の原料となる材料を分別回収する分別回収工程S10と、分別回収工程S10によって分別回収された材料(以下、分別廃材という)に接着剤を混入して混合する接着剤混合工程S20と、混合された混合物を袋に充填して金型に設置する金型設置工程S30と、金型に設置された袋内の混合物を所定の温度と圧力の条件にて成形する成形工程S40とを備える。
【0029】
シュレッダーダストは、解体業者が使用済自動車を解体した廃車ガラを破砕機で細かく砕いた破砕物である。このシュレッダーダスト中には、合成樹脂、ウレタンやゴム等の有機物、また金属及びガラス等が含まれており、そのうち、発泡樹脂及び繊維類以外のものは防音防振材の材料として不適な材料である。そのため防音防振材の材料には、このシュレッダーダストから発泡樹脂及び繊維類を主に分別した分別廃材を用いる。
【0030】
図2は、使用済自動車のシュレッダーダストから分別廃材を分別する工程の流れを示す概念図である。
【0031】
図2に示すように、分別廃材はシュレッダーダストからS110〜S140の工程を経ることで分別される。すなわち、分別廃材は、シュレッダーダストからトロンメル112による回転ふるい工程S110によってガラスを取り除き、磁力選別機122による磁力分別工程S120によって鉄を取り除き、非鉄金属分別装置132による非鉄金属分別工程S130によって銅やアルミなどの非鉄金属を取り除くことにより残った廃材を、風力分別機142による風力分別工程S140によって比重の軽いものとして分別される。この分別廃材には、防音防振材の材料に適する発泡樹脂類や繊維類が多く含まれる。なお、防音防振材の材料とする分別廃材の発泡樹脂類と繊維類と重量比は、1:1.65であることが好ましい。また、風力分別工程S140によって分別される比重の重いものは、助燃材として活用されたり、溶融固化されて減容化されたりする。
【0032】
次に、このようにして分別回収された分別廃材を材料として接着剤混合工程S20を行う。
【0033】
接着剤混合工程S20では分別廃材に接着剤を混合する。接着剤には、好ましくはブタジエンゴムを用いる。ブタジエンゴムを分別廃材に混合する比率は、例えば、分別廃材を100重量部とした場合、ブタジエンゴムを5重量部とする。そして、混合処理には、分別廃材とブタジエンゴムとを均一に混合可能な、例えば、汎用のスーパーミキサー等(図示しない)の混合機を用いる。なお、この混合機は、小片に破砕処理がなされている分別廃材と接着剤とを混合するだけなので、改めて粉砕したりほぐしたりする機能を備えなくてもよい。
【0034】
金型設置工程S30では、先ず、接着剤混合工程S20で混合された分別廃材とブタジエンゴムとの混合物を袋体に所定量充填する。袋体には、破砕された混合物のサイズが均一でない場合もあるため、破砕された混合物の小片が袋体の網目の隙間から抜け出ないような、例えば、不織布製のものを用いることが好ましい。こうして作られた混合物充填袋体を所定の大きさに形成された金型に設置する。この際に、袋に充填された混合物が金型中で偏りが生じないように均一にならしておく。
【0035】
成形工程S40では、金型設置工程S30で金型内に設置された混合物充填袋体を加熱及び加圧して成形する。例えば、温度を150℃、圧力を50kg/cmとした状態を40分間保持させる。その後、混合物充填袋体を金型から取り出して冷却させ、十分に養生したのち、袋体から成形された成形原盤を取り出す。そして、この成形原盤を、所定の大きさ又は厚さに、ハンドナイフ(図示しない)又はスライサー(図示しない)などを用いて切断することで、密度0.10〜0.50g/cmの防音防振材が製造される。
【0036】
本発明者らは以上のようにして製造された防音防振材の防音性及び防振性を検証するための試験を行った。以下にその結果を示す。
【0037】
先ず、防音性の評価について説明する。図3は、床衝撃音試験の試験装置及び試験方法を説明するための説明図である。
【0038】
図3に示すように、床衝撃音試験の試験装置200は、合板202、根太204、梁206及び石膏ボード208からなる床模型210と、床衝撃音を発生するためのタッピングマシン212と、タッピングマシン212から薄合板222、測定対象物220及び床模型210を介して伝播した振動を測定するための加速度計214、チャージアンプ216及びスペクトルアナライザー218とから構成される。
【0039】
タッピングマシン212から発生された床衝撃音は、薄合板222、測定対象物220、床模型210へと伝播し、加速度計214により感知されて電気信号に変換され、その電気信号はチャージアンプ216により増幅の後、スペクトルアナライザー218により周波数成分毎の信号レベルが分析される。ここでスペクトルアナライザー218による周波数成分毎の信号レベルの分析は、63Hz、125Hz、250Hz、500Hz、1kHz、2kHz、4kHzを中心周波数とし、1/1オクターブバンド分析によるものとした。
【0040】
試験にあたっては、上記製造方法により製造された2種類(厚さ:4mm及び10mm)の防音防振材と、比較対象品とする2種類(厚さ:4mm及び10mm)の市販防音材A、及び1種類(厚さ:4mm)の市販防音材Bとを測定対象物220として用い、先ず、試験を行う測定対象物220を合板202の上に載置し、その測定対象物220の上に厚さ3mmの薄合板222を貼り、その上にタッピングマシン212を載置して、タッピングマシン212から床衝撃音を発生させたときの周波数成分毎の信号レベルを測定した。
【0041】
次に、測定対象物220を設置しない場合、すなわち、合板202の上に薄合板222を直接貼り、その上にタッピングマシン212を載置して床衝撃音を発生させたときの周波数成分毎の信号レベルを測定した。
【0042】
そして、測定対象物220を設置した場合に測定した信号レベルから、設置しない場合に測定した信号レベルを差引いた信号レベル差(以下、床衝撃音低減レベルという)を、各測定対象物220について周波数成分毎に求めて評価値として用いた。
【0043】
図4は、床衝撃音試験の測定結果をまとめたグラフであり、横軸に中心周波数を、縦軸にその中心周波数における床衝撃音低減レベルを示している。なお、図中には、上記製造方法により製造された厚さ4mm及び10mmの防音防振材についてのグラフをG1及びG2として、厚さ4mm及び10mmの市販防音材AについてのグラフをG3及びG4として、厚さ4mmの市販防音材BについてのグラフをG5として示した。
【0044】
図4に示すように、防音防振材のグラフ(G1及びG2)と市販防音材Aのグラフ(G3及びG4)の両者とも、厚みが厚くなるにつれて床衝撃音低減レベルも大きくなる傾向を示す。これは、防音材の厚みが大きいほどその中を伝播する衝撃音が減衰するためである。
【0045】
そして、これらの測定結果によれば、本実施形態に係る防音防振材のグラフ(G1及びG2)は、ほぼ測定周波数全域にわたって市販防音材Aのグラフ(G3及びG4)及び市販防音材Bのグラフ(G5)と比べて、より大きな衝撃音低減レベルを示している。これは、防音防振材の材料である分別廃材が、様々に異なる固有振動を有する材料によって構成されていることにより、全体として固有振動を生じにくくなり、その結果、優れた防音性が得られたものと考えられる。
【0046】
次に、防振性の評価について説明する。防振性の試験は、JIS A 6322:1979(浮き床用グラスウール緩衝材)に準拠し、上記製造方法により製造された防音防振材について動的ばね定数の測定を行った。図5は、動的ばね定数の測定方法を説明するための説明図である。
【0047】
図5に示すように、本試験では、本実施形態に係る防音防振材302(900mm×700mm)を土間コンクリート304の上に載置し、さらに、その防音防振材302の上中央部に荷重板305(約300mm×300mm)を載置して、荷重板305の中央付近に振動ピックアップセンサー306を設けた。荷重板305と振動ピックアップセンサー306の重量は合わせて約22.4kgfである。
【0048】
そして、この状態でプラスチックハンマー308を用いて荷重板305を鉛直方向に打撃・加振し、その時生じた荷重板305の振動を、振動ピックアップセンサー306により検知してそのデータをPC(図示しない)に記録した。なお、測定は、2種類厚さ(10mm(1枚)及び20mm(2枚重ね))の防音防振材302について行った。
【0049】
図6は、防音防振材302の上記2種類の厚さについての振動波形のグラフである。なお、図6の横軸は時間、縦軸は加速度を示す。また、図7は、図6の振動データをフーリエ解析することにより求められたピークホールドスペクトルを示すグラフであり、防音防振材302の厚さが、同図(a)は10mmの場合、同図(b)は20mmの場合を示す。
【0050】
図7に示すように、防音防振材302の厚さが10mmの場合よりも20mmの場合の方が、振動数分布が低周波数側へ偏る傾向を示す。ここでは、これら各々のグラフにおいて加速度の一番の大きい振動数を読み取り、その振動数を防音防振材302の厚さによる固有振動数(1/Tn)とする。
【0051】
そして、図7で読み取った固有振動数1/Tn(Tnは固有周期)を、次式(1)に代入して防音防振材302の単位面積当たりの動的ばね定数Kdを求める。
Kd=(2π×1/Tn)×m ・・・(1)
ただし、mは防音防振材302の単位面積当たりの質量(kg/m)である。
このようにして求められた動的ばね定数Kdは、その値が小さい程防振性が高いことを示す。
【0052】
図8に、以上のようにして求めた試験結果を表にまとめたものを示す。なお、図8の表には、本実施形態に係る防音防振材の試験結果と共に、既存の防音防振材料であるJIS適合品グラスウール緩衝材Cと、市販ポリスチレンフォームDと、一般的なビーズ法ポリスチレンフォームEとを比較対象として記載した。また、図9に、図8に示す試験結果に基づく材料の厚さと動的ばね定数Kdとの関係のグラフを示す。
【0053】
図8及び図9に示すように、本実施形態に係る防音防振材302の動的ばね定数Kdは、防音防振材302の厚さが厚くなる程減少する傾向を示す。例えば、防音防振材302の厚さが10mmから20mmへ2倍になると、動的ばね定数Kdは約1/2になる。この傾向から防音防振材302が20mmより厚い場合についても、防音防振材302の厚さと動的ばね定数Kdの関係が反比例の関係にあると類推して、防音防振材302の厚さが20mmより厚い場合の動的ばね定数Kdのトレンドを示したものを図9の破線aに示す。
【0054】
図9に破線aで示すように、防音防振材302の動的ばね定数は、JIS適合品グラスウール緩衝材Cの動的ばね定数域よりは高いが、市販ポリスチレンフォームDと同程度であり、ビーズ法ポリスチレンフォームEの動的ばね定数域よりも低い分布を示す。これにより本実施形態に係る防音防振材は、既存の防音防振材料とほぼ同等の防振性能を有するものと判断できる。
【0055】
なお、本実施形態に係る防音防振材を、例えば、建造物の床下地と床材(フローリングやカーペット)との間に設置することにより防音防振床を実現することができる。
【0056】
以上説明した本実施形態による防音防振材の製造方法によれば、防音防振材の原料となる分別廃材は、予め小片に粉砕された状態のシュレッダーダストから分別された発泡樹脂類及び繊維類を主成分とするものであり、回収された際には既に粉砕及び混合された状態となっているため、改めて反毛機等の機械を使用して材料をほぐすことなく防音防振材を製造することができる。この結果、これらほぐす工程を省略できるとともに、これらの工程を行うための設備投資を行う必要もなく、コスト軽減に寄与する。
【0057】
また、防音防振材の原料となる廃材は、シュレッダーダストから発泡樹脂類及び繊維類を主成分とする廃材を分別回収したものであり、これらをそのまま利用して防音防振材を製造することができる。そのため、新たに材料を追加混入することもなく、材料費を削減できるとともに材料を混入する工程も省略できる。
【0058】
また、本実施形態による防音防振材の製造方法によれば、接着剤と混合された混合物は袋体に充填されて金型に設置されることにより、金型内に設置した後でも袋体の外部から簡単に内部の混合物を均すことができるので、密度の均等な品質の良い成形体を製造することができる。また、成形後に成形体を袋体と一緒に金型から簡単に取り出すことができる。
【0059】
また、本実施形態による防音防振材の製造方法によれば、接着剤として用いるポリブタジエンは、加熱及び加圧することにより分別廃材中に水分があっても接着力を有する。また、その使用量も廃材100重量部に対し、ウレタン系接着剤と比べてポリブタジエン0.1〜10重量部と少量で済むので材料コストを低減できる。さらに、ポリブタジエンはプラスチックとゴムとの中間領域に属する重合体であり、流動性に優れるため取り扱いも容易である。
【0060】
また、本実施形態による防音防振材によれば、発泡樹脂類及び繊維類を主成分とする分別廃材は異なる固有振動を有する材料によって構成されるため、それらの集合体である防音防振材は、上記床衝撃音試験結果に示したように固有振動を生じにくい性質を有し、防音性に優れる。つまり、発泡樹脂類と繊維類との混合物をこれ以上分別することなく、混合材料としてそのまま使用することにより、製造される防音防振材は、外部からの振動に対して共振しにくく、防音性に優れた性質を有するようになる。
【0061】
また、上記動的ばね定数の測定に示す通り、既存の防音防振材料とほぼ同等の防振性能を有するので、防振材としても用いることができる。
【0062】
なお、本実施形態による金型設置工程S30及び成形工程S40では、分別廃材と接着剤の混合物を成形する際に袋体を用いるとしたが、これに限らず、金型設置工程S30で分別廃材と接着剤との混合物を金型へ直接設置して成形工程S40で成形することにより、袋体を用いることなく防音防振材を製造してもよい。
【0063】
また、本実施形態による接着剤にはポリブタジエンを用いたが、これに限らず、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂を用いてもよい。また、これら接着剤の硬化促進を図るために、高周波加熱を与えることが可能な設備を用いたり、紫外線を照射可能な設備にして紫外線硬化型のエポキシ樹脂を用いたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本実施形態に係る防音防振材の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】使用済自動車のシュレッダーダストから分別廃材を分別する工程の流れを示す概念図である。
【図3】床衝撃音試験の試験装置及び試験方法を説明するための説明図である。
【図4】床衝撃音試験の試験結果をまとめたグラフである。
【図5】動的ばね定数の測定方法を説明するための説明図である。
【図6】防音防振材の2種類の厚さについての振動波形のグラフである。
【図7】図6の振動データをフーリエ解析することにより求められたピークホールドスペクトルを示すグラフである。
【図8】本実施形態に係る防音防振材と、既存の防音防振材料との動的ばね定数をまとめた表である。
【図9】図8に示す試験結果に基づく材料の厚さと動的ばね定数Kdとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
10 製造方法
S10 分別回収工程
S20 接着剤混合工程
S30 金型設置工程
S40 成形工程
S110 回転ふるい工程
S120 磁力分別工程
S130 非鉄金属分別工程
S140 風力分別工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済自動車のシュレッダーダストから成形体を製造する製造方法であって、
前記シュレッダーダストから、発泡樹脂類及び繊維類を主成分とする廃材を分別回収する分別回収工程と、
前記分別回収した廃材に接着剤を所定量混合して混合物を生成する接着剤混合工程と、
前記混合物を型枠に設置する型枠設置工程と、
前記型枠に設置された混合物を加熱及び加圧して、前記混合物を成形する成形工程を含むことを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項2】
前記分別回収工程は、前記シュレッダーダストから回転ふるいによってガラスを取り除く回転ふるい工程と、
前記回転ふるい工程によりガラスを取り除かれた後のシュレッダーダストから、磁力によって鉄を取り除く磁力分別工程と、
前記磁力分別工程により鉄を除かれた後のシュレッダーダストから、非鉄金属を取り除く非鉄金属分別工程と、
前記非鉄金属分別工程により非鉄金属を除かれた後のシュレッダーダストから、風力により比重の軽いものを分別して発泡樹脂類及び繊維類を主成分とする廃材を回収する風力分別工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記型枠設置工程では、袋体に前記混合物を充填して混合物充填袋体を作り、当該混合物充填袋体を前記型枠に設置することを特徴とする請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前記分別回収工程では、前記廃材を、前記発泡樹脂類100重量部に対し、前記繊維類150〜200重量部の混合比で回収することを特徴とする請求項1〜3に記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
前記接着剤混合工程では、前記接着剤にポリブタジエンを用いて、前記廃材100重量部に対し、ポリブタジエン接着剤0.1〜10重量部を混合して前記混合物を生成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
前記成形工程での加熱及び加圧の条件を、温度100〜200℃及び圧力10〜200kg/cmにすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項7】
製造される前記成形体は、密度0.10〜0.50g/cmであること特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項8】
前記発泡樹脂類は、発泡ウレタンを含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項9】
前記繊維類は、ナイロン糸、ポリエステル、レーヨン糸又は綿糸を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項10】
使用済自動車のシュレッダーダストから製造される成形体であって、
前記シュレッダーダストから分別回収された発泡樹脂類及び繊維類を主成分とする廃材に所定量の接着剤を混合した混合物を型枠に設置し、この混合物を加熱及び加圧することにより成形してなることを特徴とする成形体。
【請求項11】
前記成形体は、防音防振材であることを特徴とする請求項10に記載の成形体。
【請求項12】
請求項11に記載の成形体を用いたことを特徴とする防音防振床。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−80631(P2008−80631A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262882(P2006−262882)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000112772)フジ化成工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】