説明

成形装置および成形装置の歯飛び検出方法

【課題】1基の電動機からタイミングベルトを介して複数の従動軸に対して駆動力が伝達され、前記複数の従動軸の回転により可動部が移動される成形装置において、比較的簡単な手段により従動プーリの歯飛びを検出することの可能な成形装置および成形装置の歯飛び検出方法を提供する。
【解決手段】1基の電動機17の駆動軸18からタイミングベルト23を介して複数の従動軸21,22に対して駆動力が伝達され、前記複数の従動軸21,22の回転により可動部28が直線移動される成形装置11において、
駆動軸18から次にタイミングベルト23が送られる第1の従動軸21の回転状態を検出する第1のセンサAと、前記第1の従動軸21以外の従動軸22または駆動軸18の少なくとも一方に対して設けられ回転状態を検出する第2のセンサBと、前記第1のセンサAと前記第2のセンサBの信号が入力される制御装置38とが備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1基の電動機からタイミングベルトを介して複数の従動軸に対して駆動力が伝達され、前記複数の従動軸の回転により可動部が直線移動される成形装置の歯飛び検出に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイミングベルトを介して従動軸に対して駆動力が伝達され、従動軸の回転によりプッシャプレート等の可動部が移動される射出成形装置等の成形装置は、広く公知である。これらの成形装置において、1本の駆動軸と1本の従動軸の間にタイミングベルトが設けられたタイプ、1本の駆動軸と複数の従動軸の間にタイミングベルトが設けられたタイプ、および複数の駆動軸が設けられ、前記駆動軸とそれぞれ対応する従動軸の間にそれぞれタイミングベルトが設けられたタイプ等が存在する。そのうち2番目と3番目に記載されたタイプは、主に比較的幅広な可動部を直線移動させる場合等に使用され、射出成形装置においては、スクリュまたはその駆動軸を挟んで両側にボールネジからなる従動軸が設けられる射出装置や、エジェクタプレートを複数のボールネジにより移動させるエジェクタ装置等に広く用いられる。そしてその中でも前記の2番目のタイプは、従動軸の数に対してサーボモータ等の電動機の数が1基で済むことからコストダウンに繋がるとともに、サーボモータを2基設けた場合に必要となる同期制御等の複雑な制御を行わないで済むという利点を有する。
【0003】
ところで前記サーボモータからタイミングベルトを介して従動軸に対して駆動力が伝達される際に、何らかの原因により、従動軸側の従動プーリとタイミングベルトとの噛合関係が変わってしまう歯飛びと呼ばれる現象が発生する場合がある。そして前記歯飛びが発生した場合は、サーボモータ側のロータリエンコーダによって把握される可動部の位置と、実際の可動部の位置が相違してしまい、不良品が発生したり、射出成形装置や金型等の成形装置を破損に繋がる恐れがある。そして特には、複数の従動軸のうち1本の従動軸で歯飛びが発生すると可動部の平行移動が困難となり、従動軸のベアリング保持部等を破損する可能性が増大する。
【0004】
そして前記歯飛びは、1本の駆動軸と1本の従動軸の間にタイミングベルトが設けられたタイプのものと比較して、1本の駆動軸と複数本の従動軸の間にタイミングベルトが設けられたタイプの成形装置の方がより一層、発生しやすい。その理由を図5により説明する。図5の成形装置の回転伝達装置9は、1基の電動機の駆動軸1と、駆動軸1から次にタイミングベルト2が送られる従動プーリ3が固定されたボールネジ4からなる第1の従動軸5と、駆動軸1へ次にタイミングベルト2が送られる従動プーリ6が固定されたボールネジ7からなる第2の従動軸8の2本の従動軸が設けられている。そしてまず1基の電動機の駆動開始により駆動軸1が回転されると、駆動軸1と従動プーリ6の間のタイミングベルト2が矢印aの方向に力が及ぼされ引っ張られる。同様に次に従動プーリ6と従動プーリ3の間のタイミングベルト2も矢印bの方向に引っ張られ、更に次に従動プーリ3と駆動軸1の間のタイミングベルト2が矢印cの方向へ引っ張られる。ところがタイミングベルト2の伸び等による駆動軸1の回転角度の変化に対して、従動プーリ3の回転角度の変化が追いつかない状況が発生すると従動プーリ3と駆動軸1の間のタイミングベルト2に撓みdが発生する。そしてタイミングベルト2に撓みdが発生すると、従動プーリ3の歯とタイミングベルト2の歯の間の噛合が外れやすくなり、従動プーリ3の噛合位置を飛び超える歯飛びと呼ばれる現象が発生してしまう。また歯飛びは、タイミングベルトが長期使用によって伸びた際や、従動プーリ3とタイミングベルト2の間に樹脂ペレットが噛み込んだ際により一層発生しやすくなる。
【0005】
歯飛び対策が記載された文献としては、特許文献1ないし特許文献3に記載された射出成形装置が知られている。特許文献1については、射出作動時に緩み側となる従動プーリのベルト巻掛り開始位置に、ローラよりなる規制部材を設けることにより、前記従動プーリの歯とベルトの歯の歯飛びを防止することを意図している。しかしながら特許文献1については、ローラを新たに追加する必要がある上に、一旦歯飛びが発生した際には検出することは不可能であった。また特許文献2ではタイミングベルトの内側に前記ベルトを押圧する移動可能なテンションローラを設けるとともに、前記テンションローラの位置を検出することによりタイミングベルトの伸びを検出し、歯飛び等を防止する。しかし特許文献2についてもテンションローラ等を新たに設ける必要があり、またタイミングベルトの伸びを近接センサで正確に測定することは困難であり、誤作動が発生する可能性があった。また特許文献2は、複数の従動軸が設けられた装置の歯飛びを問題とするものではない。更に特許文献3は、プーリの側面に複数の突起を設けるとともに、前記突起に対向して近接スイッチ5を設け、近接センサから検出される単位時間当たりの突起の通過量が予め定めた量と異なるとき、歯飛び信号を発生して歯飛びを知らせる。しかし特許文献3は、単位時間当たりの突起の通過量を検出するものであるので、従動プーリの側面に複数の突起を設ける必要があり、かといって従動プーリの歯と同数の近接スイッチ5を設けることは出来ないので、正確な歯飛びの検出が出来ないものであった。また特許文献3も、特許文献2と同様に、複数の従動軸を設けた装置の歯飛びの検出を問題とするものではなく、複数の従動軸が設けられた装置の歯飛びの解決策等は何ら言及されていないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−63127号公報(請求項1、図2)
【特許文献2】特開2003−120769号公報(請求項1、図1)
【特許文献3】特開2003−184967号公報(請求項1、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では上記の問題を鑑みて、1基の電動機からタイミングベルトを介して複数の従動軸に対して駆動力が伝達され、前記複数の従動軸の回転により可動部が移動される成形装置において、比較的簡単な手段により従動プーリの歯飛びを検出することの可能な成形装置および成形装置の歯飛び検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の成形装置は、1基の電動機の駆動軸からタイミングベルトを介して複数の従動軸に対して駆動力が伝達され、前記複数の従動軸の回転により可動部が直線移動される成形装置において、駆動軸から次にタイミングベルトが送られる第1の従動軸の回転状態を検出する第1のセンサと、前記第1の従動軸以外の従動軸または駆動軸の少なくとも一方に対して設けられ前記第1の従動軸以外の従動軸または前記駆動軸の回転状態を検出する第2のセンサと、前記第1のセンサと前記第2のセンサの信号が入力される制御装置とが備えられたことを特徴とする。従って複数の従動軸のうち、歯飛びが発生しやすい駆動軸から次にタイミングベルトが送られる第1の従動軸の歯飛びを確実に検出することができる。
【0009】
本発明の請求項2に記載の成形装置は、1基の電動機の駆動軸からタイミングベルトを介して複数の従動軸に対して駆動力が伝達され、前記複数の従動軸の回転により可動部が直線移動される成形装置において、駆動軸の駆動プーリから次にタイミングベルトが送られる従動プーリが固定されたボールネジからなる第1の従動軸と、駆動軸の駆動プーリへ次にタイミングベルトが送られる従動プーリが固定されたボールネジからなる第2の従動軸と、前記第1の従動軸の回転状態を検出する第1のセンサと、前記第2の従動軸の回転状態を検出する第2のセンサと、前記第1のセンサと前記第2のセンサの信号が入力される制御装置とが備えられたことを特徴とする。従って第1の従動軸と第2の従動軸の回転状態から歯飛びを確実に検出することができる。
【0010】
本発明の請求項3に記載の成形装置は、請求項1または請求項2において、前記第1のセンサと第2のセンサの少なくとも一方のセンサは、前記第1の従動軸の回転によりオンオフするセンサであることを特徴とする。従って比較的簡単かつ低コストで歯飛びを検出することができる。
【0011】
本発明の請求項4に記載の成形装置は、請求項3において、前記第1のセンサと第2のセンサの少なくとも一方のセンサは、カムが近接したことにより反応する近接センサであり、前記第1の従動軸の従動プーリには1個のカムが設けられていることを特徴とする。従って請求項3の効果に加え、従動プーリに僅かに加工するだけで歯飛びを検出することができる。
【0012】
本発明の請求項5に記載の歯飛び検出方法は、1基の電動機の駆動軸からタイミングベルトを介して複数の従動軸に対して駆動力が伝達され、前記複数の従動軸の回転により可動部が直線移動される成形装置の歯飛び検出方法において、駆動軸から次にタイミングベルトが送られる第1の従動軸の回転状態と、前記第1の従動軸以外の従動軸または駆動軸の少なくとも一方の軸の回転状態とを検出し、回転状態を比較することにより歯飛びを判断することを特徴とする。従って請求項1と同様に、複数の従動軸のうち、歯飛びが発生しやすい駆動軸から次にタイミングベルトが送られる第1の従動軸の歯飛びを確実に検出することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の成形装置は、1基の電動機の駆動軸からタイミングベルトを介して複数の従動軸に対して駆動力が伝達され、前記複数の従動軸の回転により可動部が直線移動される成形装置において、駆動軸から次にタイミングベルトが送られる第1の従動軸の回転状態を検出する第1のセンサと、前記第1の従動軸以外の従動軸または駆動軸の少なくとも一方に対して設けられ前記第1の従動軸以外の従動軸または前記駆動軸の回転状態を検出する第2のセンサと、前記第1のセンサと前記第2のセンサの信号が入力される制御装置とが備えられているので、従動軸の歯飛びを確実に検出することができる。また本発明の成形装置の歯飛び検出方法についても、同様の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本実施形態の射出成形装置のハウジングプレートを後方側から見た正面図である。
【図2】図2は、本実施形態の射出成形装置の要部の平面図である。
【図3】図3は、本実施形態の射出成形装置の歯飛び検出方法を示すフローチャート図である。
【図4】図4は、本実施形態の射出成形装置の各近接センサの作動を示す説明図である。
【図5】図5は、成形装置の回転伝達装置において歯飛びが発生するメカニズムの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の成形装置の一種である射出成形装置は、射出装置11と図示しない型締装置とが設けられている。射出装置11は、図示しないベースプレート上にハウジングプレート12が固定され、型締装置に対して図示しないノズルタッチ装置により前後進可能に設けられている。図1、図2に示されるように、ハウジングプレート12には、スクリュ13が内挿された加熱筒14が固着されている。またハウジングプレート12の上面には成形材料の供給口15が設けられている。またハウジングプレート12の側面にはブラケット16が設けられ、ブラケット16に射出駆動機構の射出用のサーボモータ(電動機)17が駆動軸18を後方側に向けて固定され、サーボモータ17の駆動軸18には歯付きの駆動プーリ19が固定されている。また射出用のサーボモータ17には駆動軸18の回転数を検出するロータリエンコーダ20が設けられている。そしてロータリエンコーダ20により射出時等のスクリュ13の移動速度が検出される。
【0016】
また前記ハウジングプレート12の加熱筒14が挿通される部分を挟んで両側には、射出駆動機構の第1の従動軸21と第2の従動軸22からなる2本の従動軸21,22が設けられている。図1において第1の従動軸21は、右上側に示され、第2の従動軸22は左下に示される。前記第1の従動軸21は、ボールネジ26の一端寄りに歯付きの従動プーリ24が固定されているとともに、ボールネジ26の軸の一端は、ハウジングプレート12の図示しないベアリングにより回転自在に軸支されている。また第2の従動軸22も同様に、ボールネジ27の一端寄りに歯付きの従動プーリ25が固定されるとともに、ボールネジ27の軸の一端は、ハウジングプレート12の図示しないベアリングにより回転自在に軸支されている。そして前記駆動プーリ19、前記第1の従動軸21の従動プーリ24、第2の従動軸22の従動プーリ25には、内側に歯が形成されたエンドレス状のタイミングベルト23が掛け渡されている。そして第1の従動軸21の従動プーリ24へは、駆動軸18の駆動プーリ19から次にタイミングベルト23が送られ、第2の従動軸22の従動プーリ25からは、駆動軸18の駆動プーリ19へ次にタイミングベルト23が送られる。またタイミングベルト23は、サーボモータ17が固定されるブラケット16の取付位置の調整等により張力が規定の範囲に保たれるように調整されている。なお射出駆動機構の駆動プーリ19、前記従動プーリ24,25、およびタイミングベルト23等には安全カバーが取付けられているが、図1および図2では前記安全カバーは省略して記載されている。また射出駆動機構は、ハウジングプレート12の前方に、タイミングベルト23が加熱筒14を囲むように設けてもよい。
【0017】
またハウジングプレート12の後方位置のベースプレートの上面には、図示しないリニアガイドが設けられ、前記リニアガイド上には射出駆動機構の可動部であるプッシャプレート28がハウジングプレート12と平行に所定間隔を保って移動可能に設けられている。プッシャプレート28の両側には、前記ボールネジ26,27がそれぞれ挿通されるボールナット29,30がそれぞれ設けられている。またボールネジ26,27の他端は、射出装置11がハウジングプレート12とプッシャプレート28からなる2枚プレートの場合は、軸支されていない。また射出装置11がハウジングプレート12とプッシャプレート28と図示しないバックプレートからなる3枚プレートの場合、ボールネジ26,27の他端は、バックプレートに軸支されている。スクリュ13の軸の他端は、スクリュスリーブ等を介して、プッシャプレート28に軸支されるとともに、プッシャプレート28に固定された図示しない計量用のサーボモータによりスクリュ13が回転可能となっている。
【0018】
次に従動軸21,22の回転を検出するセンサと歯飛びの検出装置31について説明する。前記第1の従動軸21に対しては、第1の従動軸21の回転状態を検出するための第1のセンサである近接センサA(近接スイッチ)が設けられている。また前記第2の従動軸22に対しては、第2の従動軸22の回転状態を検出するための第2のセンサである近接センサB(近接スイッチ)が設けられている。更に近接センサAと近接センサBの具体的な配置について説明すると、ハウジングプレート12の後面の第1の従動軸21の従動プーリ24の近傍には突出部材32が後方に向けて設けられている。そして突出部材32には、従動プーリ24の外周輪(リム部)のハウジングプレート12と対向する側の側面24aと対向する位置に向けて、ハウジングプレート12と平行に取付プレート33が固定されている。そして取付プレート33には近接センサAの感知部39(コイル等)が固定されている。また従動プーリ24の外周輪の側面24aには、一箇所に近接センサAの検出用突起部である鉄等の金属性のカム34が設けられている。前記カム34は、従動プーリ24の回転により、近接センサAの感知部39に対向して前記感知部39によって検知可能な位置を通過可能となっている。本実施形態では、近接センサAの感知部39とカム34の配置関係は、両者が対向した際に0.5mmの間隔tとなるよう設定されている。この間隔tは、近接センサAの種類にもよるが1mm以下とすることが望ましい。そして近接センサAは、従動プーリ24の回転により前記カム34が対向位置に移動したときに1回転につき一度スイッチがオンとなり(カム34が僅かに移動する範囲もオンの状態となる)、前記カム34がそれ以外の位置にカム34が移動しているときには、スイッチがオフの状態のままとなるようになっている。
【0019】
また第2の従動軸22の側についても、第1の従動軸21の側と同様に、突出部材35、取付プレート36が設けられ、取付プレート36に第2のセンサである近接センサBの感知部40が取付けられ、従動プーリ25の側面25aには、一箇所に近接センサBの検出用突起部であるカム37が設けられている。従って第1の従動軸21と第2の従動軸22は、1回転につき一度、近接センサA,Bがオンオフすることにより、それぞれ回転状態を検出することが可能となっている。また前記第1のセンサである近接センサAと第2のセンサである近接センサBは、射出成形装置の制御装置38にそれぞれ接続され、近接センサA,Bからの信号が入力されるようになっている。なお図1において従動プーリ24,25の回転位置は、近接センサA,BはOFFとなる位置で記載され、図2において従動プーリ24,25の回転位置は、近接センサA,BがONとなる位置で記載されている。
【0020】
なお本実施形態では第1の従動軸21、第2の従動軸22に対してそれぞれ設けられる第1のセンサと第2のセンサは、低コストで応答性が速いとの理由から高周波発信型の近接センサA,Bとしたが、磁気型や静電容量型の近接センサでもよく、他のセンサ(スイッチ)であってもよい。例えばリミットスイッチ、光電管センサ(スイッチ)、レーザーセンサ(スイッチ)、および超音波センサ(スイッチ)等であってもよく、第1の従動軸21等に対してロータリエンコーダ等の回転角度を検出する機構を設けたものでもよい。また背景技術欄において述べたように、歯飛びが発生しやすい第1の従動軸21に第1のセンサを設けることは必須であるが、第2の従動軸22には第2のセンサを設けずに駆動軸18の回転を検出するロータリエンコーダ20との間で回転状態を比較するようにしてもよい。その場合、前記駆動軸18のロータリエンコーダ20が第2のセンサの役割を果たす。また第1の従動軸21と第2の従動軸22で異なるスイッチ(センサ)を用いてもよい。また複数の従動軸は2本に限定されず3本以上の場合も想定され、他にアイドラプーリを含む場合も想定される。しかしその場合も駆動軸18から次にタイミングベルト23が送られる第1の従動軸21には必ず第1のセンサが取付けられ、他の軸との相対的な回転状態(回転角度または回転位置の関係)が比較される。
【0021】
次に本実施形態の射出成形装置の歯飛び検出方法について図3ないし図5により説明する。射出開始時に1基の電動機である射出用のサーボモータ17の駆動軸18に固定された駆動プーリ19からタイミングベルト23を介して、複数の従動軸21,22に固定された従動プーリ24,25へ駆動力が伝達される。そして第1の従動軸21の従動プーリ24およびボールネジ26、第2の従動軸22の従動プーリ25およびボールネジ27の回転により、可動部であるプッシャプレート28が直線移動され、プッシャプレート28に軸支されたスクリュスリーブとそれに接続されるスクリュ13が加熱筒14内で高速で前進される。その際に図5にも示されるようにタイミングベルト23は、矢印a、矢印b、矢印cの順に引っ張られ、正常な状態では第1の従動軸21と第2の従動軸22は同期して回転される。そして図4に示されるように第1の従動軸21と第2の従動軸22の回転は、歯飛び検出装置31の第1のセンサである近接センサAと第2のセンサである近接センサBによりそれぞれ検出され、信号が歯飛び検出装置31の制御装置38へ送られ、近接センサA,Bのオンまたはオフの状態が比較される。
【0022】
より詳細には図3のフローチャート図に示されるように、歯飛び監視がスタートされると、従動プーリ24の回転状態を検出する近接センサAの感知部39によりカム34が検出されてスイッチがOFFからONになるか、または従動プーリ25の回転状態を検出する近接センサBの感知部40によりカム37が検出されてスイッチがOFFからONになったかを判断する(S1)。そしていずれかの近接センサAまたはBがONとなると次に、近接センサAと近接センサBの信号が比較される(S2)。そして近接センサAとBが共にON(and条件を満たす)されると、第1の従動軸21と第2の従動軸22は同期して回転されている判断され、従動プーリ24、25の次周の回転時にも近接センサA,Bにより(S1)からの監視が繰り返される。
【0023】
なお前記(S2)において、歯飛びが発生していない正常な状態においては必ず近接センサA,Bが共にON(and条件を満たす)であることが検出されるためには、近接センサA,Bが共にONとなるオーバーラップ時間(図4において斜線部分)がシーケンススキャンサイクルの2倍より長いことが必要である。本実施形態では、近接センサA,Bのシーケンススキャンサイクルは、3msであって、前記オーバーラップ時間は、6msよりも長いことが求められる。そうでないとオーバーラップ時間内に近接センサAとBの両方がONになったことがスキャンできずに異常と判断されることが発生する。またオーバーラップ時間は、可動部であるプッシャプレート28の移動速度(スクリュ13の移動速度)や従動プーリ24,25の回転速度とそれぞれ一定の比例関係にあるので、プッシャプレート28の移動速度を遅くすることが望ましい。本実施形態では、プッシャプレート28とスクリュ13の移動速度が25mm/secの際には異常が発生しないオーバーラップ時間が確保できた。
【0024】
また前記においていずれか一方の従動プーリ24,25とタイミングベルト23の間で1歯分だけ歯飛びを発生させた状態での、プッシャプレート28とスクリュ13の移動速度が25mm/secの際の近接センサAと近接センサBが共にONとなるオーバーラップ時間(図4において斜線部分)は、0.6msであった。従って従動プーリ24,25のいずれか一方の従動プーリとタイミングベルト23との間で1歯分だけ歯飛びが発生した状態であっても、近接センサA,Bのスキャンのタイミングによっては、近接センサA,Bが共にONと検出されることもまったく無い訳ではない。しかし1歯分だけ歯飛びが発生した状態での従動プーリ24,25の回転時に、近接センサA,Bが共にONとなってオーバーラップすることは確率的に非常に少ない。
【0025】
次に近接センサAとBが共にONとならない(and条件を満たさず、S2がNの場合)は、近接センサAとBが共にOFFとなるか(and条件を満たす)が判断される(S3)。そして閉ループのフローにより(S2)、(S3)のうちで、どちらが先に条件を満たすかが判断される。そして(S2)よりも先に(S3)が条件を満たした場合は、制御装置38内の異常カウンタにおいて近接センサAとBの間で同期ズレが1回検出されたことをカウントする(n=n+1)(S4)。そして制御装置38は、同期ズレの回数nが予め設定した設定回数に達しないとき(S5がNの場合)は、再度(S1)に戻って近接センサA,Bにより第1の従動軸21と第2の従動軸22の同期がチェックを行う。そして同期ズレの回数nが所定回数に達するまでは、射出用のサーボモータ17の駆動は継続され、前記の(S1)から(S5)までの工程が繰り返される。そして制御装置38は、前記同期ズレの回数nが予め設定した設定回数以上となった時点(S5がYの場合)で歯飛びであると判断して異常信号を発して、射出用のサーボモータ17の駆動を停止し、表示画面に歯飛びのエラーメッセージを表示する(S6)。このように同期ズレの回数nが所定回数に達してから装置を停止するのは、第1の従動軸21と第2の従動軸22の僅かな回転ムラや振動等により検出にノイズが入る可能性があるためである。そして一回のノイズにより、実際に従動プーリ24,25等とタイミングベルト23が歯飛びしていない状態でも同期ズレと判断してしまい、射出成形装置を停止させてしまうことを防止するためである。
【0026】
なお歯飛びが発生しやすいタイミングは、射出開始時や保圧開始時等の制御の立上がり時である。射出開始時においては、図5にも示されるように急激な射出用のサーボモータ17の駆動に伴いタイミングベルト2は矢印a、矢印bの順に引っ張られ伸びが発生した分だけ駆動軸1の回転が先行する。一方第1の従動軸5と駆動軸1の間のタイミングベルト2は撓みが発生して歯飛びが発生しやすくなる。しかし本実施形態において、近接センサA,Bを歯飛び検出用のセンサとして使用した場合は、射出時には駆動プーリ19および従動プーリ24,25の回転速度は高速となるため近接センサA,Bでは正確な検出が行えない恐れがあり、射出完了後の保圧時や計量時、手動後退時等、比較的前記プーリ19,24,25の回転が遅いときに歯飛びを検出することが望ましい。(ただし第1の従動軸21等の回転状態の検出に、ロータリエンコーダ等の精度が高いセンサを使用した場合は、射出開始時の歯飛びを検出して装置を停止することも可能である。)また本実施形態の第1の従動軸21と第2の従動軸22にそれぞれ近接センサA,Bを取付けて同時にスイッチがONすることにより歯飛びを検出する方法は、特許文献3等と比較して確実性が高いが、どちらの従動軸に歯飛びが発生したかは検出できないが、歯飛び後には修正が必要となるので、特に問題はない。
【0027】
そして従来は、歯飛びが発生していても気がつかずに射出成形装置が作動し続けて装置を故障させることがあったが、本実施形態では歯飛びが正確に検出されるので、装置を故障させることがなくなった。また従来は、プーリの外輪部の外周とタイミングベルトの側面に渡って、ペンキ等で印をつけておき、その印がずれることを目視して歯飛びを判断することも行われてきたが、作業員が検出する必要がある上に、カバーが設けられる場合は容易に目視することができず、結局カバーを外さないと歯飛びが確認できないという問題もなくなった。また第1の従動軸21等の回転状態の検出に近接センサAを使用した場合は、ロータリエンコーダを使用した場合よりも費用が削減できる。更には特許文献3のタイプではプーリ側面に多数の近接センサのカムを設けなければならない上に、予め設定された突起の通過量と発信される通過量を比較するという制御を行わなければならなかったが、本実施形態では、従動プーリ24の側面24aと従動プーリ25の側面25aに、それぞれ1個のカム34,37(突起)を設けるだけでよく、装置構造が簡略化できる。また本実施形態の歯飛び検出方法は、両方の近接センサのON、OFFを比較するだけなので、制御が簡単に行える。そして更に歯飛びしやすい第1の従動軸21のみに近接センサAを設ける(射出用のサーボモータ17には元々ロータリエンコーダ20がある)は、両方のプーリ19,24の直径が異なるが、ロータリエンコーダ20による駆動軸18の回転角度と第1の従動軸21の回転状態(回転数)を比較することにより、第1の従動軸21の歯飛びが検出でき、より一層費用が削減できる。
【実施例1】
【0028】
また本発明は、射出成形装置のエジェクタ装置や、型締装置、ノズルタッチ装置等であっても、1基の電動機の駆動軸からタイミングベルトを介して複数の従動軸に対して駆動力が伝達され、前記複数の従動軸の回転により可動部が移動される装置に使用することができる。図示は省略するが、実施例1のエジェクタ装置の場合、可動盤の一側にエジェクタ用の1基のサーボモータが固定され、駆動軸には歯付きの駆動プーリが固定されている。また可動盤の背面には複数のガイドバーが受圧盤側に向けて突出されているとともに、前記ガイドバーと平行に従動軸である2本(複数本)のボールネジが回転自在に設けられている。またエジェクタプレートにはボールネジナットが固定され、前記ボールネジナットにはボールネジがそれぞれ挿通されている。またボールネジにはそれぞれ歯付きの従動プーリが固定されている。そして前記駆動プーリと前記各従動プーリとの間には歯付きのエンドレス状のタイミングベルトが掛けわたされている。そしてエジェクタ用のサーボモータの駆動により、タイミングベルトを介して、各ボールネジが回転され、各ボールネジナットを介してエジェクタプレートがガイドバーに沿って可動盤に対して近接離間するように直線移動され、金型内の突出ピンが突出される。上記のエジェクタ装置においても、本実施形態の射出装置と同様に、駆動軸からタイミングベルトが送られる側の第1の従動プーリのみに第1のセンサを設け、駆動軸に第2のセンサを設けるか、或いは第1の従動プーリと第2の従動プーリにそれぞれ第1のセンサと第2のセンサを設け、第1のセンサと第2のセンサをそれぞれ制御装置に接続し、第1のセンサと第2のセンサにより検出された第1の従動軸の回転状態を、他の軸の回転状態と比較することにより、歯飛びを検出することができる。なおセンサの種類等は限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の成形装置は、樹脂、金属、有機材料、および無機材料等を成形する射出成形装置のみならず、他の成形装置にも用いることができる。具体的にはダイカスト成形装置や、各種材料のプレス成形装置、各種の積層成形装置、金属成形装置である工作機械等であっても、複数の従動軸の回転により可動部が移動される電動機構の成形装置であれば、応用が可能である。
【符号の説明】
【0030】
11 射出装置
12 ハウジングプレート
13 スクリュ
17 サーボモータ
18 駆動軸
19 駆動プーリ
21 第1の従動軸
22 第2の従動軸
23 タイミングベルト
24,25 従動プーリ
26 ボールネジ
28 プッシャプレート
34,37 カム
38 制御装置
39,40 感知部
A,B 近接センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1基の電動機の駆動軸からタイミングベルトを介して複数の従動軸に対して駆動力が伝達され、前記複数の従動軸の回転により可動部が直線移動される成形装置において、
駆動軸から次にタイミングベルトが送られる第1の従動軸の回転状態を検出する第1のセンサと、
前記第1の従動軸以外の従動軸または駆動軸の少なくとも一方に対して設けられ前記第1の従動軸以外の従動軸または前記駆動軸の回転状態を検出する第2のセンサと、
前記第1のセンサと前記第2のセンサの信号が入力される制御装置とが備えられたことを特徴とする成形装置。
【請求項2】
1基の電動機の駆動軸からタイミングベルトを介して複数の従動軸に対して駆動力が伝達され、前記複数の従動軸の回転により可動部が直線移動される成形装置において、
駆動軸の駆動プーリから次にタイミングベルトが送られる従動プーリが固定されたボールネジからなる第1の従動軸と、
駆動軸の駆動プーリへ次にタイミングベルトが送られる従動プーリが固定されたボールネジからなる第2の従動軸と、
前記第1の従動軸の回転状態を検出する第1のセンサと、
前記第2の従動軸の回転状態を検出する第2のセンサと、
前記第1のセンサと前記第2のセンサの信号が入力される制御装置とが備えられたことを特徴とする成形装置。
【請求項3】
前記第1のセンサと第2のセンサの少なくとも一方のセンサは、前記第1の従動軸の回転によりオンオフするセンサであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の成形装置。
【請求項4】
前記第1のセンサと第2のセンサの少なくとも一方のセンサは、カムが近接したことにより反応する近接センサであり、前記第1の従動軸の従動プーリには1個のカムが設けられていることを特徴とする請求項3に記載の成形装置。
【請求項5】
1基の電動機の駆動軸からタイミングベルトを介して複数の従動軸に対して駆動力が伝達され、前記複数の従動軸の回転により可動部が直線移動される成形装置の歯飛び検出方法において、
駆動軸から次にタイミングベルトが送られる第1の従動軸の回転状態と、前記第1の従動軸以外の従動軸または駆動軸の少なくとも一方の軸の回転状態とを検出し、
回転状態を比較することにより歯飛びを判断することを特徴とする成形装置の歯飛び検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−284931(P2010−284931A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141856(P2009−141856)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000155159)株式会社名機製作所 (255)
【Fターム(参考)】