説明

成形装置

【課題】設備費ならびに設置スペースを抑え、かつ手作業の工程も不要としてコストの低減を図る。
【解決手段】素材に所定の加工を施すとともに、その素材の表面に樹脂を射出成形する装置であって、例えば金属素材50をプレス成形する際に該金属素材50を保持する金型(上型26及び下型27)等の保持具を含む所定の加工機構を備えている。そして、保持具に保持された状態において、金属素材50の表面とそれに対向して配置される成形型部材の内面との間に樹脂を成形するための成形空間28が構成され、その外部から成形空間にまで連通する樹脂流路26aが設けられている。この樹脂流路26aを通じて成形空間28に溶融樹脂を射出することが可能な射出機構を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素材に所定の加工を施すとともに、その素材に樹脂を射出成形するための成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図9に示すブラケット70は、自動車においてメインバッテリーが損傷したときの補助用あるいは事故等が発生したときの緊急通信用として設けられているバッテリーを保持する自動車部品である。このブラケット70は、板形状の金属素材を所定の形状にプレス成形(曲げ加工)し、バッテリーを載せる表面にフェルトや樹脂からなるシート72を手作業で貼り付けている。このシート72により、バッテリーのガタツキや異音を防止している。そして、シート72の素材にフェルトよりも安価な樹脂を選ぶことで、材料コストを削減することはできるが、手作業の工程がコストアップの大きな要因になっている。
そこで、手作業による工程を、特許文献1〜3で開示されているような金属素材の表面に樹脂を成形する設備に代えることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−200877号公報
【特許文献2】特開平11−179755号公報
【特許文献3】特開平11−254481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3で開示されている樹脂の成形設備を用いる場合、その設備費ならびに設置スペースが新たに必要となり、コストの削減にはつながりにくい。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、設備費ならびに設置スペースを抑え、かつ手作業の工程も不要としてコストの低減を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
素材に所定の加工を施すとともに、その素材の表面に樹脂を射出成形する装置であって、素材に所定の加工を施す際に素材を保持する治具あるいは金型等の保持具を含む所定の加工機構を備えている。そして、保持具に保持された状態において、素材の表面とそれに対向して配置される成形型部材の内面との間に樹脂を成形するための成形空間が構成され、成形空間の外部から成形空間にまで連通する樹脂流路が設けられている。この樹脂流路を通じて成形空間に溶融樹脂を射出することが可能な射出機構を備えている。
【0007】
この構成によれば、一つの加工設備で、かつ一回の加工作動の間において、素材の加工と、素材の表面に対する樹脂の射出成形とを行うことができる。したがって、それぞれの加工設備を個別に設置する場合と比較して設備費ならびに設置スペースを抑えることができるとともに、手作業の工程を不要とすることによるコストの低減を図ることができる。
また、このような装置において、成形型部材を保持具の一部により構成することで、装置の部品点数、ひいては装置の重量、設置スペースを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の成形装置を表した正面図。
【図2】実施例1の成形装置を表した側面図。
【図3】図2に示されている射出機構を拡大して表した構成図。
【図4】実施例1の成形工程を表した説明図。
【図5】製品の一例であるブラケットを表した斜視図。
【図6】ブラケットを表した平面図。
【図7】図6のX-X矢視方向の断面図。
【図8】図6のY-Y矢視方向の断面図。
【図9】従来のブラケットを表した斜視図。
【図10】実施例2における金属圧延加工機の概要を表した断面図。
【図11】実施例3における鍛造加工装置の概要を表した断面図。
【図12】実施例4におけるV溝プーリ製造装置の概要を表した断面図。
【図13】実施例4におけるV溝プーリ製造装置の概要を表した断面図。
【図14】実施例5における直立型ボール盤の概要を表した側面図。
【図15】実施例5における直立型ボール盤の概要を表した側面図。
【図16】実施例6における切削加工機の概要を表した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を用いて説明する。
実施例1
図1および図2で示す成形装置は、プレス成形機10と射出機構30とを備えている。プレス成形機10は、図4で示す金属素材50をプレス成形(曲げ加工)することが可能であり、射出機構30はペレット状の樹脂材(エラストマー等)を加熱溶融して射出することが可能である。
【0010】
プレス成形機10は縦型タイプであって、基台12の上方にシリンダーベース18が配置され、基台12の上板14とシリンダーベース18とが4本のタイバー16によって互いに結合されている。プレス成形機10の金型開閉機構20は、シリンダーベース18に組付けられた油圧シリンダー等の駆動源22と、この駆動源22の作動によって各タイバー16に沿って昇降するダイプレート24とを備えている。また、金型はダイプレート24の下面に固定された上型26と、基台12の上板14の上面に固定された下型27とによって構成されている。
図4で示すように、上型26は、射出機構30によって溶融樹脂を射出するための樹脂流路26aと、この樹脂流路26aに連通して後述する成形空間28を構成する凹部26bとを備えている。一方、下型27は、基台12の上板14に固定されたダイ27aと、このダイ27aの内部で上下に移動することができるスライダー27bとによって構成されている。
【0011】
射出機構30は、図3で明らかなようにシリンダー形状(中空形状)のボデー32を備え、その内部にはプランジャー34が組み込まれている。ボデー32の上端には、プランジャー34を作動させる油圧シリンダー36が組付けられ、反対側の下端にはボデー32の内部に連通したシャットオフバルブ38が結合されている。このシャットオフバルブ38は、上型26の樹脂流路26a内に位置している。また、ボデー32の内部へは、ホッパー42から供給路44を通じてペレット状の樹脂材が供給され、樹脂材はボデー32に内蔵されたヒーター(図示省略)で加熱されて溶融樹脂となる。
【0012】
プランジャー34は、油圧シリンダー36によって図3の位置から下方へ作動し、溶融樹脂をシャットオフバルブ38に向けて圧送する。シャットオフバルブ38は、樹脂圧を受けていないときは、スプリング力を受けているピストン(図示省略)でゲートを閉じており、樹脂圧がかかるとピストンを後退させてゲートが開き、先端のノズル40から成形空間28に溶融樹脂を射出することができる。そして、成形空間28に対する溶融樹脂の充填が完了して樹脂圧が下がると、ゲートが元の状態に閉じる構造になっている。
なお、ホッパー42からボデー32の内部に通じる供給路44は、ペレット状の樹脂材がブリッジ現象を起こして流れなくなった場合に、細い棒を使ってブリッジを壊すためのものである。したがって、樹脂材がスムーズに流れるのであれば、ホッパー42からボデー32の内部に直接供給する構造に代えることも可能である。
【0013】
つづいて、例えば図5〜図8で示すバッテリー用のブラケット52を成形する場合の工程を主として図4によって説明する。
まず、ブラケット52の形状に合わせて所定の輪郭に打ち抜かれた板状の金属素材50を、図4(A)で示すように下型27にセットし、プレス成形機10における金型開閉機構20の駆動源22を作動させて上型26を下降させる。これにより、図4(B)で示すように下型27のダイ27aに対してスライダー27bが上型26と一緒に下降して金属素材50のプレス成形(曲げ加工)が行われ、上型26が図4(C)で示す下死点に達することでプレス成形が完了する。
【0014】
図4(C)で示す状態では、プレス成形された金属素材50(ブラケット52)の表面と、それに対向する上型26との間には凹部26bによって成形空間28が確保されている。この成形空間28には、前述のように上型26の樹脂流路26aが連通しており、かつ樹脂流路26a内には射出機構30のシャットオフバルブ38が位置している。そこで、油圧シリンダー36によってプランジャー34を作動させ、前述のようにシャットオフバルブ38に樹脂圧がかかってゲートが開くと、図4(D)で示すように樹脂流路26aを通じて成形空間28に溶融樹脂が射出される。なお、成形空間28は、射出成形される樹脂部材54の形状(図5および図6)に対応した形状になっている。
金型開閉機構20には、上型26が図4(C)で示す下死点に達した型締め状態を検出するセンサー(図示省略)が設けられており、このセンサーからの信号に基づいて射出機構30による射出のタイミングが設定されている。
【0015】
成形空間28に溶融樹脂が充填されたら、数秒間程度そのままの状態に保持して樹脂の冷却を行った後、図4(E)で示すように上型26および下型27のスライダー27bを上昇させる。そして、最終的には上型26を図4(F)で示す元の上死点まで上昇させて成形が完了する。
すなわち、プレス成形機10における一つの金型(上型26および下型27)による一回の開閉作動の間において、金属素材50のプレス成形と樹脂の射出成形とを行うことができる。
【0016】
図5〜図8で示すブラケット52は成形品の一例であり、射出成形された樹脂部材54は平面「H」形のリブ状を呈している。この形状の樹脂部材54により、図9に示すブラケット70のシート72と同様に、ブラケット52に載せられるバッテリーのガタツキや異音を防ぐことができる。
なお、ブラケット52の金属素材50と樹脂部材54との結合を確実にするために、金属素材50に開けられた複数個の貫通孔52aに溶融樹脂を流入させている。各貫通孔52aに流入した溶融樹脂は、金属素材50の裏面と下型27との間において、貫通孔52aの内径より大きな外径の凸部54aを成形している(図7および図8)。
【0017】
バッテリーのガタツキや異音を防ぐ目的からすれば、できる限り広範囲に樹脂部材54を成形するのが望ましい。しかし、金属素材50をプレス成形する際に、曲げ部に近い箇所の貫通孔52aが変形して溶融樹脂の流れを阻害するおそれがあるため、これらの貫通孔52aは曲げR面の終端から4mm程度離れた位置に設定している。また、ブラケット52における曲げのない外形部についても、プレス成形の寸法精度を考慮して樹脂部材54の縁をブラケット52の外形線から2mm程度離れた位置とし、樹脂部材54の成形時にバリが生じるのを防止している。
【0018】
本実施例のプレス成形機10については、専ら金属素材50の曲げ加工を説明したが、上型26と下型27とからなる金型を用いた打抜き加工や絞り加工等の金属プレス成形であれば、本発明を適応することは可能である。
なお、本実施例では図4における上型26に樹脂流路26aを設けたが、この樹脂流路26aの部分にそのまま射出機構30を配置してもよい。また、下型27に樹脂流路を設け、ブラケット52の側面に樹脂を射出成形してもよい。さらには、例えば実開平07−009585号に記載されているように縦に配置された2組のプレス金型の一方または両方に、本実施例のような装置を組み込むことで、1回の加工サイクル内で3〜4工程の加工を施すことができる。
【0019】
実施例2
例えば特開平05−092693号に記載されている金属圧延加工機は、図10で示すものとほぼ同じような構成になっている。この図面において、上下一対の回転ロール60のうち、何れか一方の内部に射出機構30を組み込むことで、金属素材150の圧延加工と実質的に同時に樹脂の射出成形が可能となる。回転ロール60は回転するため、単に射出機構30をその内部に設けるだけでは成立しないが、射出機構30は回転しないようにし、回転ロール60に設けた樹脂流路と連通した時にだけ射出するようにすることで、上記が可能となる。また、一旦圧延加工をした後、回転ロール60を逆回転させ、樹脂を成形したい位置まで戻してから射出成形してもよい。
このようにすることで、単に凹凸のあるコインやメダルではなく、樹脂により加飾されたものを得ることができる。
【0020】
実施例3
例えば特開平06−218481号に記載されている自動車用ホイールの鍛造加工装置は、図11で示すものとほぼ同じような構成になっている。この図面において、鍛造金型61内に射出機構30を組み込むことで、金属の鍛造加工と合わせて樹脂の射出成形が可能となる。鍛造加工は実質的に瞬時に終わってしまうため、鍛造金型61を再度3次素材250に当てる必要がある。この結果、射出成形しない場合に比べて加工時間は長くなるが、射出成形のための専用設備が不要となり、鍛造と射出成形をそれぞれ別の設備で行うのに比べ加工時間は短くなる。また設備の設置スペースも同様に少なくて済み、さらには射出成形をするために新たに追加される作業は、加工素材の搬送も含め一切必要がない。
このようにすることで、自動車用ホイールの鍛造加工と合わせて、樹脂の射出成形により加飾を施すことができる。
【0021】
実施例4
例えば特開平07−116760号に記載されている板金製ポリV溝プーリの製造装置は、図12あるいは図13で示すものとほぼ同じような構成になっている。図12において、内型62内に射出機構30を組み込むことで、金属素材350の絞り加工と合わせて樹脂の射出成形が可能となる。
また、図13において、回転上型63内に射出機構30を組み込むことで、金属素材350の転造加工と合わせて樹脂の射出成形が可能となる。回転上型63は回転するため、単に射出機構30をその内部に設けるだけで成立させるのは難しいが、射出機構30は回転しないようにし、回転上型63が停止した時だけ射出するようにすれば、転造加工にあわせた樹脂の射出成形が可能となる。
このようにすることで、板金製ポリV溝プーリの取付部である平面部に、樹脂を射出成形することができる。
【0022】
実施例5
特開平07−308810号に記載されている直立型ボール盤は、図14あるいは図15で示すものとほぼ同じような構成になっている。図14あるいは図15において、テーブル64に射出機構30を組み込むことで、被加工素材450の穴あけ加工と樹脂の射出成形とが可能となる。
この実施例では、ボール盤による穴あけ加工の際に被加工素材450は動かないため、穴あけ加工と同時に射出成形できるという利点がある。
また、被加工素材450は穴あけ加工の前であってもテーブル64に保持されているため、穴あけ加工の前に射出成形することもできる。
【0023】
実施例6
特開平11−239901号に記載されているホイール切削加工機は、図16で示すものとほぼ同じような構成が採用されている。図16において、ワーク支持プレート65に射出機構30を設けることで、軽合金ホイール素材550の切削加工と合わせて樹脂の射出成形が可能となる。ワーク支持プレート65は切削加工時には回転しているため同時に射出成形することはできないが、ワーク支持プレート65に樹脂流路を設け、回転が停止した状態でこの樹脂流路と連通するように射出機構30を設けることで、切削加工と合わせた樹脂の射出成形が可能となる。したがって、射出成形しない場合に比べて加工時間は長くなるが、射出成形のための専用設備が不要となり、切削加工と射出成形とをそれぞれ別の設備で行うのに比べて加工時間は短くなり、また設備の設置スペースも同様に少なくて済む。さらには、射出成形をするために新たに追加される作業は、加工素材の搬送も含め一切必要がない。
このようにすることで、自動車用ホイールの切削加工と合わせて、樹脂の射出成形により加飾を施すことができる。
なお、この実施例では切削加工を施す前に射出成形を行うこともできる。
【0024】
以上のように、金型や各種治具のように素材を保持する保持具を含む加工機であれば、保持具の一部は素材の加工処理されない部分と必ず接するため、そのような部分を利用することで、当該加工と合わせて樹脂の射出成形を行うことができる。
このような加工の例として、金属の曲げ、圧延、鍛造、絞り加工、転造加工、穴あけ加工、切削加工を例に挙げて説明したが、この他にも研磨、研削、ブラスト、切断、押抜き等、保持具を用いる加工であればどのような加工でも用いることができる。
また、金属だけでなく、木材、樹脂成形品、紙、セラミック、石膏、鉱物等、上記加工を施す素材であればどのような素材でも本発明を用いることができる。
【符号の説明】
【0025】
10 プレス成形機
20 金型開閉機構
26 上型(金型)
26a 樹脂流路
27 下型(金型)
30 射出機構
50 金属素材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材に所定の加工を施すとともに、その素材の表面に樹脂を射出成形する装置であって、素材に前記所定の加工を施す際に素材を保持する保持具を含む所定の加工機構を備えており、前記所定の加工を施すために保持具に保持された状態において、素材の表面とそれに対向して配置される成形型部材の内面との間に樹脂を成形するための成形空間が構成され、成形空間の外部から成形空間にまで連通する樹脂流路が設けられ、この樹脂流路を通じて成形空間に溶融樹脂を射出することが可能な射出機構を備えている成形装置。
【請求項2】
前記成形型部材が前記保持具の一部により構成されている請求項1に記載の成形装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−140158(P2011−140158A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1864(P2010−1864)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【出願人】(308039838)テクノハマ株式会社 (13)
【出願人】(308014639)真和工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】