説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】大面積のプラズマを再現性良く生成することができ、これにより幅広い用途に適用可能な安価なプラズマソースを用いたプラズマ処理技術を提供する。
【解決手段】プラズマソース機構である酸化源69は、真空処理槽52の外側に誘電体部を介して配置され、高周波電力を印加可能な環状のアンテナ部と、アンテナ部の近傍に配置された磁石部とを有する。アンテナ部の第1及び第2のアンテナコイルが隣接して近接配置され並列に接続されている。真空処理槽52内において、回転支持ドラム53を回転させつつ第一及び第二成膜領域57、59にて基板55上に金属膜を形成し、かつ、酸化領域60にて基板55上の当該膜に対して酸化源69によって酸化処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空中でプラズマを用いて薄膜に対して処理を行うためのプラズマソース及びこれを用いた成膜技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コイルを用いたICP(誘導結合型プラズマ)放電は古くから知られており、種々の形状のICPが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
近年、大面積領域に対してICP放電を行うことが要望されているが、大面積のICP放電を確保するためには、アンテナのL(インダクタンス)成分が大きくなり過ぎてマッチングが取れずに電力を印加できない場合がある。
【0003】
このような問題に対処するため、従来は、ICP放電の面積を大きくする方策として、L成分を小さくするためコイルの形状を複雑な構成にしたり、印加する高周波電力の値を下げることで対応するようにしている。
その結果、従来技術では、プラズマ放電における再現性の低下等の問題があり、また、プラズマソースとして用途が限定されてしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2005−256024号公報
【特許文献2】特許第3188353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、大面積のプラズマを再現性良く生成することができ、これにより幅広い用途に適用可能な安価なプラズマソースを用いたプラズマ処理技術及び成膜技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた本発明は、真空槽を有する真空装置に適用可能なプラズマソース機構であって、前記真空槽の外側に誘電体部を介して配置され、直線状のアンテナ本体部を有する高周波電力を印加可能な環状のアンテナ部と、前記真空槽の外側に前記誘電体部を介して前記アンテナ部の近傍に配置され、前記アンテナ部と対応する形状を有する磁石部とを有し、前記アンテナ部が、複数のアンテナコイルが隣接して近接配置され、かつ、当該各アンテナコイルが並列に接続されているものである。
本発明は、前記発明において、前記アンテナ部及び磁石部が矩形状に形成されているものである。
本発明は、前記発明において、前記アンテナ部の各アンテナコイルが、1ターン巻で構成されているものである。
また、本発明は、真空槽と、前記真空槽の内部に設けられた成膜源とを備え、前記真空槽の外部に、前述のいずれかのプラズマソース機構が設けられている成膜装置である。
また、本発明は、真空槽と、前記真空槽内に設けられ、マグネトロンスパッタリングによって成膜対象物上に複数の膜を形成するための成膜領域と、前記真空槽内に設けられ、前記成膜対象物上の膜に対して前述のいずれかのプラズマソース機構によってプラズマ処理を行うプラズマ処理領域と、前記真空槽内に設けられ、前記成膜対象物を支持した状態で回転可能で、その回転に伴い当該成膜対象物が前記複数の成膜領域及び前記プラズマ処理領域を通過するように構成された回転支持機構とを備え、前記真空槽内において、前記回転支持機構を回転させつつ前記成膜領域にて前記成膜対象物上に所定の膜を形成し、かつ、前記プラズマ処理領域にて当該成膜対象物上の当該膜に対してプラズマ処理を行うように構成されている成膜装置である。
本発明は、真空槽と、前記真空槽内に設けられ、マグネトロンスパッタリングによって成膜対象物上に複数の膜を形成するための成膜領域と、前記真空槽内に設けられ、前記成膜対象物上の膜に対してプラズマソース機構によってプラズマ処理を行うプラズマ処理領域と、前記真空槽内に設けられ、前記成膜対象物を支持した状態で回転可能で、その回転に伴い当該成膜対象物が前記複数の成膜領域及び前記プラズマ処理領域を通過するように構成された回転支持機構とを備え、前記プラズマソース機構は、前記真空槽の外部に誘電体部を介して配置され直線状のアンテナ本体部を有する高周波電力を印加可能な環状のアンテナ部と、前記真空槽の外側に前記誘電体部を介して前記アンテナ部の近傍に配置された磁石部とを有し、前記アンテナ部が、複数のアンテナコイルが隣接して近接配置され、かつ、当該各アンテナコイルが並列に接続されており、前記真空槽内において、前記回転支持機構を回転させつつ前記成膜領域にて前記成膜対象物上に所定の膜を形成し、かつ、前記プラズマ処理領域にて当該成膜対象物上の当該膜に対してプラズマ処理を行うように構成されている成膜装置である。
本発明は、前記発明において、前記アンテナ部及び磁石部が矩形状に形成されているものである。
本発明は、前記発明において、前記アンテナ部の各アンテナコイルが、1ターン巻で構成されているものである。
本発明は、前記発明において、前記アンテナ部の各アンテナコイルの角部がアール状に形成されているものである。
また、本発明は、前記成膜装置を用いた成膜方法であって、前記成膜領域は、第一及び第二の金属材料のスパッタリングを行う第一及び第二成膜領域を有し、前記真空槽内において、前記回転支持機構を連続的に回転させつつ前記第一成膜領域にて前記成膜対象物上に前記第一の金属材料からなる膜を形成する金属膜形成工程と、前記第二成膜領域において、当該金属膜上に前記第二の金属材料からなる膜を形成した後、前記プラズマ処理領域において当該第二の金属膜に対してプラズマ処理を行い金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜形成工程と、前記金属膜形成工程と前記金属酸化物膜形成工程とを繰り返すことにより、前記成膜対象物上に前記金属膜と前記金属酸化物膜の混合膜を形成する工程とを有するものである。
【0007】
本発明のプラズマソース機構の場合、アンテナ部が、直線状のアンテナ本体部を有する例えば矩形環状のアンテナコイルが複数隣接して近接配置されているため、従来技術に比べてアンテナ部のL成分を小さくすることができ、その結果、通常用いられている13.56MHzの周波数の高周波電力であっても、大面積のICP放電を確実に生成することができる。
したがって、本発明によれば、大面積のプラズマ処理を行う種々の真空処理装置に適用することができ、汎用性を広げることができる。
【0008】
また、本発明によれば、アンテナ部と対応する形状を有する磁石部が、真空槽の外側において誘電体部を介してアンテナ部の近傍(例えば真空槽側)に配置されていることから、真空槽内においてプラズマを確実に励起させることができ、その結果、放電維持圧力を、従来技術(例えばECRプラズマソース)と同等の低い圧力まで確保することができ、これにより高密度のプラズマを得ることができる。
【0009】
このように本発明によれば、従来技術では有効面積の問題から適用が困難であった種々の真空処理装置(例えば、回転ドラムタイプの装置、大面積基板に処理を行う真空装置等)において、成膜対象物に対する酸化、窒化、アッシング、エッチング、表面改質等の各種のプロセスにおけるプラズマソースとして使用することができる。
【0010】
さらに、本発明に係るプラズマソース機構は、例えばスパッタリングによって基板上に金属薄膜を形成し、この金属薄膜を酸化する工程を繰り返し行うための、以下に説明するような所謂デジタルスパッタ方式の成膜装置のプラズマ処理源(酸化源)として使用することができる。
【0011】
この成膜装置は、真空槽内に、マグネトロンスパッタリングによって成膜対象物上に複数の膜を形成する成膜領域と、成膜対象物上の膜に対して本発明のプラズマソース機構によってプラズマ処理を行うプラズマ処理領域と、成膜対象物を支持した状態で回転可能で、その回転に伴い当該成膜対象物が上述の複数の成膜領域及びプラズマ処理領域を通過するように構成された回転支持機構とを備え、この回転支持機構を回転させつつ成膜領域にて成膜対象物上に所定の膜を形成し、かつ、プラズマ処理領域にて成膜対象物上の当該膜に対してプラズマ処理を行うように構成されており、当該成膜装置によれば、例えば金属と酸化物の混合膜を、良好な膜質で効率良く形成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高密度で大面積のプラズマを再現性良く生成することができ、これにより幅広い用途に適用可能な安価なプラズマソース及び真空処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a):本発明に係るプラズマソース機構の実施の形態の外観構成を示す平面図 (b):図1(a)のA−A線断面図で、真空槽に取り付けられた同プラズマソース機構の断面構成及び使用状態を示す図
【図2】同プラズマソース機構の回路構成を示す概略図
【図3】同プラズマソース機構の回路構成の変形例を示す概略図
【図4】同プラズマソース機構の変形例の外観構成を示す平面図
【図5】(a):本発明に係るプラズマソース機構を用いた成膜装置の実施の形態を示す正面図 (b):同成膜装置の平面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1(a)は、本発明に係るプラズマソース機構の実施の形態の外観構成を示す平面図であり、図1(b)は、図1(a)のA−A線断面図で、真空槽に取り付けられた同プラズマソース機構の断面構成及び使用状態を示す図である。
また、図2は、本実施の形態のプラズマソース機構の回路構成を示す概略図である。
【0015】
図1(a)(b)に示すように、本実施の形態のプラズマソース機構1は、真空槽20を有する真空装置21に適用されるもので、この真空槽20の外壁面(例えば頂面)20aに装着されるようになっている。
【0016】
ここで、真空装置21の真空槽20は、図示しない真空排気系に接続されるとともに、図示しない処理ガス源に接続されている。そして、真空槽20の内部には、プラズマソース機構1によってプラズマ処理が行われる処理対象物22が、例えばサセプタ23上に配置されるようになっている。
【0017】
なお、この真空槽20内には、例えば所定の電圧を印加可能なスパッタリングターゲット等の成膜源を設けることもできる(図示せず)。また、この真空槽20に対し、スパッタリング等を行う成膜槽(図示せず)を処理対象物22を真空雰囲気下で受け渡しできるようにゲートバルブを介して接続することもできる。
【0018】
本実施の形態のプラズマソース機構1は、真空槽20の外壁面20a上に取り付けられた誘電体部10と、この誘電体部10上に設けられた磁石部11と、この磁石部11上に設けられたアンテナ部12とを有している。
【0019】
誘電体部10は、例えば、所定の厚さの板状の石英からなるもので、本実施の形態では、長方形形状に形成されている。
磁石部11は、例えば多数の永久磁石13を用いて構成され、誘電体部10の真空槽20と反対側の面の周縁部上に所定の間隔をおいてリング状に配置されている。
【0020】
そして、本実施の形態の場合は、このように構成された磁石部11上に、磁石部11の形状と対応するように、第1及び第2のアンテナコイル14、15からなる環状のアンテナ部12が設けられている。
ここで、第1及び第2のアンテナコイル14、15は、同じ長さの長辺本体部(アンテナ本体部)14a、15a及び短辺本体部(アンテナ本体部)14b、15bを有する同一の矩形(長方形)形状に形成され、それぞれが重なるように近接配置されている。
【0021】
この場合、第1及び第2のアンテナコイル14、15は、各部分が磁石部11の幅方向の中央部分に位置するように配置されている。
また、第1及び第2のアンテナコイル14、15は、以下に説明するように高周波電源16に接続され、それぞれ高周波電力(例えば周波数13.56MHz)が印加されるように構成されている。
【0022】
図1(a)及び図2に示すように、本実施の形態の場合、第1及び第2のアンテナコイル14、15は、1ターン巻のコイルからなるもので、それぞれ一方の端子側は接地されている。また、第1及び第2のアンテナコイル14、15の他方の端子側は、マッチング回路17a及びチューン回路17bを有するマッチングボックス17を介してそれぞれ高周波電源16に対して並列に接続されている。
【0023】
そして、本実施の形態では、高周波電源16から第1及び第2のアンテナコイル14、15に対して高周波電力を印加すると、電力印加によって励起されたプラズマが、真空槽20に位置する磁石部11の磁界によって真空槽20内部の処理対象物22近傍に偏在するように磁石部11の磁極が設定されている。
【0024】
以上述べた本実施の形態の場合、アンテナ部12が、直線状のアンテナ本体部を有する矩形環状の第1及び第2のアンテナコイル14、15が隣接して近接配置されていることから、従来技術に比べてアンテナ部12のL成分を小さくすることができ、その結果、通常用いられている13.56MHzの周波数の高周波電力であっても、大面積のICP放電を生成することができる。
したがって、本実施の形態によれば、大面積のプラズマ処理を行う種々の真空処理装置に適用することができ、汎用性を広げることができる。
【0025】
また、本実施の形態によれば、アンテナ部12と対応する形状を有する磁石部11を真空槽20の外側において誘電体部10を介してアンテナ部12の近傍の真空槽20側に配置し、真空槽20内においてプラズマを確実に生成するようにしたことから、放電維持圧力を、従来技術(例えばECRプラズマソース)と同等の低い圧力まで確保することができ、これにより高密度のプラズマを得ることができる。
【0026】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上述の実施の形態では、アンテナ部として、アンテナコイルを二つ設けた場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限られず、例えば、図3に示すように、三つ以上のアンテナコイル14、15、18…を並列接続で隣接配置することも可能である。このような構成によれば、アンテナ部のL成分を小さくしたままターン数を増やすと同等の効果があるので、より強い磁場を形成できる。そのため、プラズマ密度を上げてもマッチングが取れなくなることはなくなるので安定した放電が得られる。
【0027】
また、上述の実施の形態では、第1及び第2のアンテナコイル14、15を矩形形状に形成した場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限られず、例えば、図4に示すように、各アンテナコイル14、15において、直線状の長辺本体部14a、15a及び短辺本体部14b、15bを形成するとともに、角部14c(15c)をアール状に形成してアンテナコイルを構成することも可能である。このような構成によれば、角部でも磁界は緩やかとなり、直線部と同様に均一なプラズマが形成され、大面積の基板に対し均質なプラズマ処理(酸化ガスを導入した場合は酸化反応)ができる。
【0028】
図5(a)(b)は、本発明に係るプラズマソース機構を用いた成膜装置の実施の形態を示すもので、図5(a)は正面図、図5(b)は平面図である。
図5(a)(b)に示すように、本実施の形態の成膜装置51は、図示しない真空排気系に接続された例えば多角形筒状の真空処理槽52を有している。
【0029】
真空処理槽52内の中心部分には、例えば多角形筒状の回転支持ドラム(回転支持機構)53が真空処理槽52に対して同心状に設けられている。この回転支持ドラム53は、その回転軸Oを中心として例えば時計回り方向に回転するように構成されている。
回転支持ドラム53の側面部には、成膜対象物である基板55を保持する複数の基板ホルダ54が着脱自在に支持されるようになっている。
【0030】
真空処理槽52内には4つの仕切板56a〜56dが設けられ、これらの仕切板56a〜56dによって、真空処理槽52内における回転支持ドラム53の周囲の空間が4つの領域に分割されている。
本実施の形態の場合、これら4つの領域は、第一成膜領域57と、予備領域58と、第二成膜領域59と、酸化領域60とによって構成され、これらの領域57〜60はこの順番で時計回り方向に隣接配置され、さらに、第一成膜領域57と酸化領域60とは互いに隣接して配置されている。
【0031】
真空処理槽52の第一成膜領域57内には、回転支持ドラム53の側面部に支持されて通過する基板ホルダ54と対向する位置に、マグネトロン方式のスパッタカソード62a、62bが設けられている。
スパッタカソード62a、62bには、例えばTa等の金属ターゲット63a、63bがそれぞれ取り付けられている。
【0032】
スパッタカソード62a、62bは、第一交流電源64が接続されており、この第一交流電源64からスパッタカソード62a、62bを介して金属ターゲット63a、63bに交流電圧を印加するように構成されている。
また、真空処理槽52の第一成膜領域57は不活性ガス導入系70が接続されており、スパッタリングの際に第一成膜領域57内に例えばアルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスを導入するようになっている。
【0033】
一方、真空処理槽52の第二成膜領域59内には、回転支持ドラム53の側面部に支持されて通過する基板ホルダ54と対向する位置に、マグネトロン方式のスパッタカソード65a、65bが設けられている。
スパッタカソード65a、65bには、例えばSi等の半導体ターゲット66a、66bがそれぞれ取り付けられている。
【0034】
スパッタカソード65a、65bは、第二交流電源67が接続されており、この第二交流電源67からスパッタカソード65a、65bを介して半導体ターゲット66a、66bに交流電圧を印加するように構成されている。
また、第二成膜領域59は、第二不活性ガス導入系71が接続されており、スパッタリングの際に第二成膜領域59内に例えばアルゴンガス等の不活性ガスを導入するようになっている。
【0035】
真空処理槽52の酸化領域60の外部には、通過する基板ホルダ54と対向する位置に、上述した本発明に係るプラズマソース機構による酸化源69が設けられている。
また、この酸化領域60は酸化ガス導入系72が接続されており、スパッタリングの際に酸化領域60内に例えば酸素(O2)ガスを導入しつつ、酸化源69を動作させることにより、成膜時に、酸化領域60内において酸素プラズマ放電を行うようになっている。
【0036】
以下、本実施の形態の成膜装置51を用い、基板55上にTaとSiO2の混合膜の成膜を行う場合を例にとって説明する。
この場合には、まず、真空処理槽52内を所定の圧力になるまで真空排気を行い、その後、不活性ガス導入系70から第一成膜領域57にアルゴンガスを導入するとともに、第二不活性ガス導入系71から第二成膜領域59にアルゴンガスを導入し、さらに、酸化ガス導入系72から酸化領域60に酸素ガスを導入する。
【0037】
次に、回転支持ドラム53を時計回り方向に所定の速度で回転させ、図示しないシャッタを閉じた状態で、金属(Ta)ターゲット63a、63b及び半導体(Si)ターゲット66a、66bに交流電圧を印加してプレスパッタリングを行うとともに、酸化源69を動作させて酸化領域60内において酸素プラズマ放電を行う。
【0038】
そして、回転支持ドラム53の回転を維持した状態で、シャッタを開放することにより、第一成膜領域57を通過する基板55上にスパッタリングによって1原子程度のTa薄膜を成膜する。
さらに、第二成膜領域59において、通過する基板55上にスパッタリングによって1原子程度のSi薄膜を成膜する。
【0039】
本発明の場合、回転支持ドラム53の回転数は、特に限定されるものではないが、1回転あたり1原子程度の薄膜を形成し、かつ、ある程度の生産性を確保する観点からは、毎分50〜200回転とすることが好ましい。
【0040】
また、第二交流電源67から印加する交流電圧の周波数は、特に限定されるものではないが、極性反転による電荷蓄積補償の観点からは、20〜100kHzとすることが好ましい。
さらに、酸化領域60において、通過する基板55上のSi膜を酸素プラズマにより酸化してSiO2膜とする。
その後、回転支持ドラム53を回転させながら上述した各工程を繰り返すことにより、基板55上にTaとSiO2の混合膜を成膜する。
【0041】
以上述べた本実施の形態によれば、回転支持ドラム53を回転しつつ、第一成膜領域57を通過する際にマグネトロンスパッタリングを行い基板55上にTa膜を形成し、さらに第二成膜領域59及び酸化領域60においてSiマグネトロンスパッタリング及び酸化を行い基板55上にSiO2膜を形成し、これらの工程を連続的に繰り返してTaとSiO2の混合膜を形成することから、TaとSiO2の焼成体をターゲットとして用い、マグネットを使用しない高周波スパッタリングを行う場合に比べて成膜時間を短縮化することができる。
【0042】
特に、本実施の形態では、高周波電力が印加可能な複数の矩形状のアンテナコイルと、これに対応する矩形状の磁石部を組み合わせた酸化源69を用いていることから、磁石部の磁界によってプラズマを当該矩形領域内に閉じ込めることができるため、矩形領域にて均一な酸化分布を得られるというメリットがある。
【0043】
また、本実施の形態の場合、それぞれ独立した金属(Ta)ターゲット63a、63b及び半導体(Si)ターゲット66a、66bを用いてスパッタリングを行うことから、混合膜中におけるTaとSiO2の組成比を任意に制御して、所望の抵抗値分布を有する混合膜を成膜することができる。
【0044】
さらに、本実施の形態では、第二成膜領域59において半導体(Si)ターゲット66a、66bを用いて基板55上にSi膜を形成した後、酸化領域60において酸素プラズマによる酸化反応によってSi膜を酸化して基板55上にSiO2膜を形成することから、スパッタリングの際に酸化反応を生じさせることなく、成膜レートを向上させることができる。また、Ta膜上にSi膜を形成した後にSi膜の酸化を行うので、Ta膜が酸化されにくく、膜質の向上を図ることができる。
なお、本発明においては、回転支持機構として、上記実施の形態のようなドラム状のものの他、円板状のものを用いることも可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…プラズマソース機構 10…誘電体部 11…磁石部 12…アンテナ部 13…永久磁石 14…第1のアンテナコイル 15…第2のアンテナコイル 14a、15a…長辺本体部(アンテナ本体部) 14b、15b…短辺本体部(アンテナ本体部) 16…高周波電源 20…真空槽 21…真空装置 22…処理対象物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽を有する真空装置に適用可能なプラズマソース機構であって、
前記真空槽の外側に誘電体部を介して配置され、直線状のアンテナ本体部を有する高周波電力を印加可能な環状のアンテナ部と、
前記真空槽の外側に前記誘電体部を介して前記アンテナ部の近傍に配置され、前記アンテナ部と対応する形状を有する磁石部とを有し、
前記アンテナ部が、複数のアンテナコイルが隣接して近接配置され、かつ、当該各アンテナコイルが並列に接続されているプラズマソース機構。
【請求項2】
前記アンテナ部及び磁石部が矩形状に形成されている請求項1記載のプラズマソース機構。
【請求項3】
前記アンテナ部の各アンテナコイルが、1ターン巻で構成されている請求項1記載のプラズマソース機構。
【請求項4】
真空槽と、
前記真空槽の内部に設けられた成膜源とを備え、
前記真空槽の外部に誘電体部を介して配置され直線状のアンテナ本体部を有する高周波電力を印加可能な環状のアンテナ部と、前記真空槽の外側に前記誘電体部を介して前記アンテナ部の近傍に配置され前記アンテナ部と対応する形状を有する磁石部とを有し、前記アンテナ部が、複数のアンテナコイルが隣接して近接配置され、かつ、当該各アンテナコイルが並列に接続されているプラズマソース機構が設けられている成膜装置。
【請求項5】
真空槽と、
前記真空槽内に設けられ、マグネトロンスパッタリングによって成膜対象物上に複数の膜を形成するための成膜領域と、
前記真空槽内に設けられ、前記成膜対象物上の膜に対してプラズマソース機構によってプラズマ処理を行うプラズマ処理領域と、
前記真空槽内に設けられ、前記成膜対象物を支持した状態で回転可能で、その回転に伴い当該成膜対象物が前記複数の成膜領域及び前記プラズマ処理領域を通過するように構成された回転支持機構とを備え、
前記プラズマソース機構は、前記真空槽の外部に誘電体部を介して配置され直線状のアンテナ本体部を有する高周波電力を印加可能な環状のアンテナ部と、前記真空槽の外側に前記誘電体部を介して前記アンテナ部の近傍に配置され前記アンテナ部と対応する形状を有する磁石部とを有し、前記アンテナ部が、複数のアンテナコイルが隣接して近接配置され、かつ、当該各アンテナコイルが並列に接続されており、
前記真空槽内において、前記回転支持機構を回転させつつ前記成膜領域にて前記成膜対象物上に所定の膜を形成し、かつ、前記プラズマ処理領域にて当該成膜対象物上の当該膜に対してプラズマ処理を行うように構成されている成膜装置。
【請求項6】
真空槽と、
前記真空槽内に設けられ、マグネトロンスパッタリングによって成膜対象物上に複数の膜を形成するための成膜領域と、
前記真空槽内に設けられ、前記成膜対象物上の膜に対してプラズマソース機構によってプラズマ処理を行うプラズマ処理領域と、
前記真空槽内に設けられ、前記成膜対象物を支持した状態で回転可能で、その回転に伴い当該成膜対象物が前記複数の成膜領域及び前記プラズマ処理領域を通過するように構成された回転支持機構とを備え、
前記プラズマソース機構は、前記真空槽の外部に誘電体部を介して配置され直線状のアンテナ本体部を有する高周波電力を印加可能な環状のアンテナ部と、前記真空槽の外側に前記誘電体部を介して前記アンテナ部の近傍に配置された磁石部とを有し、前記アンテナ部が、複数のアンテナコイルが隣接して近接配置され、かつ、当該各アンテナコイルが並列に接続されており、
前記真空槽内において、前記回転支持機構を回転させつつ前記成膜領域にて前記成膜対象物上に所定の膜を形成し、かつ、前記プラズマ処理領域にて当該成膜対象物上の当該膜に対してプラズマ処理を行うように構成されている成膜装置。
【請求項7】
前記アンテナ部及び磁石部が矩形状に形成されている請求項6記載の成膜装置。
【請求項8】
前記アンテナ部の各アンテナコイルが、1ターン巻で構成されている請求項6又は7のいずれか1項記載の成膜装置。
【請求項9】
前記アンテナ部の各アンテナコイルの角部がアール状に形成されている請求項6乃至8のいずれか1項記載の成膜装置。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか1項記載の成膜装置を用いた成膜方法であって、
前記成膜領域は、第一及び第二の金属材料のスパッタリングを行う第一及び第二成膜領域を有し、
前記真空槽内において、前記回転支持機構を連続的に回転させつつ前記第一成膜領域において前記成膜対象物上に前記第一の金属材料からなる膜を形成する金属膜形成工程と、
前記第二成膜領域において、当該金属膜上に前記第二の金属材料からなる膜を形成した後、前記プラズマ処理領域において当該第二の金属膜に対してプラズマ処理を行い金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜形成工程と、
前記金属膜形成工程と前記金属酸化物膜形成工程とを繰り返すことにより、前記成膜対象物上に前記金属膜と前記金属酸化物膜の混合膜を形成する工程とを有する成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−207307(P2012−207307A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−127190(P2012−127190)
【出願日】平成24年6月4日(2012.6.4)
【分割の表示】特願2009−547036(P2009−547036)の分割
【原出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】