説明

成膜装置

【課題】膜厚分布が顕著化しやすい場合においても高精度な膜厚制御を行うことが可能な成膜装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る真空蒸着装置1は、真空チャンバ101と、基板ホルダ103と、成膜源ホルダ113と、遮蔽機構109と、第1膜厚測定機構104と、補正制御部110と、を備えている。遮蔽機構109は、基板ホルダ103と成膜源ホルダ113との間に設けられており、成膜源114からみて基板上における成膜される領域の少なくとも一部を遮蔽し、基板ホルダ103の回転軌道円の接線方向における大きさを個々に変更可能な小片303a〜303lを有する。第1膜厚測定機構104は、複数の位置における成膜層の膜厚を測定する。補正制御部110は、第1膜厚測定機構104の測定結果に基づいて小片303a〜303lのそれぞれの大きさを個々に補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に成膜層を形成する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空蒸着装置などの成膜装置において、均一な膜厚を有する成膜層を形成するために、被成膜基板(以下、基板と記載する)を回転(公転および/または自転)させながら成膜する手法が採用されている。そして、このような基板を回転させる回転機構を有する成膜装置においては、膜厚の調整やさらなる膜厚の均一化を図るために、成膜源と基板との間に所定形状の遮蔽板が設けられている。すなわち、基板を回転させ、かつ、成膜材料が遮蔽板に遮られて基板に到達しない領域を設けることによって、周期的に成膜されない時間が作られる。このため、成膜時間や成膜レートの微調整が可能になり、成膜精度を向上させている。
【0003】
しかし、近年の多層薄膜製品では、高い膜厚精度が要求されるようになり、成膜開始時と成膜終了時との成膜源の厚みの差による膜厚の面内分散までもが問題になっている。
このような問題に対し、例えば、特許文献1に示すように、2枚の補正板(遮蔽板)を有する成膜装置が開示されている。この成膜装置は、1枚の固定されている補正板に対して所定方向に変位可能な他の1枚の補正板を備えている。
【特許文献1】特開2005−154855号公報(平成17年6月16日公開)
【特許文献2】特開2003−119559号公報(平成15年4月23日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の成膜装置では、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、上記公報に開示された成膜装置では、基板ホルダの回転軌道円の半径方向において領域毎における成膜速度の制御を個別に行うことができない。したがって、大面積の基板に対して成膜を行う場合や、同時に複数の基板に対して成膜を行う場合などについては、膜厚に対する十分な精度が得られない。
【0005】
本発明の課題は、複数の基板に同時に成膜する場合や大面積基板に成膜する場合など、膜厚分布が顕著化しやすい場合においても高精度な膜厚制御を行うことが可能な成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る成膜装置は、成膜源に含まれる材料を基板上に成膜する成膜装置であって、真空チャンバと、基板ホルダと、成膜源ホルダと、遮蔽機構と、第1膜厚測定機構と、補正制御部と、を備えている。基板ホルダは、真空チャンバ内に回動自在に固定されており、基板を下面側に固定する。成膜源ホルダは、基板ホルダの下面側に対向して設けられ、成膜源を載置する。遮蔽機構は、基板ホルダと成膜源ホルダとの間に設けられており、成膜源からみて基板上における成膜される領域の少なくとも一部を遮蔽し、基板ホルダの回転軌道円の接線方向における大きさを個々に変更可能な複数の小片を有する。第1膜厚測定機構は、基板ホルダの回動中心から半径方向に沿って複数の異なる位置における成膜層の膜厚を測定する。補正制御部は、第1膜厚測定機構の測定結果に基づいて複数の小片のそれぞれの大きさを個々に補正する。
【0007】
ここでは、成膜装置において、大型の基板に成膜する場合や、複数の基板に対して同時に成膜する場合においても、成膜層の膜厚およびこの膜厚の面内分布を極めて高い精度で制御するために、以下のような構成を採用している。
【0008】
当該成膜装置は、真空チャンバ内に回動自在の基板ホルダと成膜源とを備えている。そして、基板ホルダと成膜源とを結ぶ空間には、複数の小片を有する遮蔽機構が設けられている。この遮蔽機構は、基板ホルダに固定されて回転している基板に対し、その回転中の所定区間のみにおいて、成膜中に飛散する成膜物質を基板へ到達させないためのものである。さらに、上記所定区間を調整するために、当該成膜装置は、成膜層の膜厚を測定する第1膜厚測定機構とその測定結果に基づいて上記小片の大きさを個々に補正制御する補正制御部とを備えている。
【0009】
ここで、真空チャンバとは、種々の真空ポンプによって真空引きされる成膜室であって、例えば、石英ガラスによって形成されるものでもよい。成膜源とは、例えば、アルミニウムやチタン(チタニウム)など、基板上に形成する膜の原材料である。遮蔽機構は、複数の小片によって変形可能に構成されており、この小片は、例えば、圧電素子などのように連続的に変形するものであることが好ましい。第1膜厚測定機構とは、例えば、光源とこの光源からの光を検知する検出器とを含む透過型の膜厚測定器を有するものであってもよい。この場合、膜厚測定用に透明ガラスを設け、第1膜厚測定機構は、その透明ガラスに成膜された膜を透過する光のエネルギーを検知することによってその膜厚を特定する。
【0010】
このような構成によると、基板ホルダの下面側に固定される基板は、基板ホルダと共に真空チャンバ内を回転する。このとき、成膜源ホルダ(成膜源)と遮蔽機構との位置は固定されているため、基板が成膜源に対し遮蔽機構によって遮蔽されている時間と遮蔽されていない時間とを周期的に繰り返すことが可能になる。したがって、成膜層の膜厚は、基板ホルダの1回転中において、遮蔽機構に遮蔽されている時間の割合、すなわち基板ホルダの回転軌道円の接線方向における遮蔽機構の大きさ(長さ)に依存する。上述のように、遮蔽機構が有する複数の小片の長さは、それぞれ個々に変更することが可能であるため、基板ホルダの回転軌道円の半径方向に沿って小刻みに調整することができる。また、上記小片の長さは、第1膜厚測定機構によって上記半径方向に沿って複数個所で測定された値に基づいて、小片毎に補正することができる。
【0011】
この結果、基板ホルダの下面側における成膜箇所によってそれぞれ成膜源側の空間に対して遮蔽されている時間を調整することが可能になる。したがって、大面積(例えば、15インチ)の基板に対して成膜する場合や複数の基板などに対して同時に成膜する場合であっても、膜厚の面内分散(場所依存)を軽減し、高精度な成膜を行うことが可能になる。
【0012】
第2の発明に係る成膜装置は、第1の発明に係る成膜装置であって、遮蔽機構が有する複数の小片が、圧電素子を含む。
ここでは、複数の小片がそれぞれ独立した圧電素子によって構成されている。
【0013】
これにより、小片の微小な変形(伸縮)が可能になる。したがって、基板ホルダの1回転において、遮蔽機構が成膜源を含む空間と基板を含む空間とを遮断する時間の割合の微調整が可能になる。
この結果、基板ホルダの半径方向における成膜速度を精密に制御することができるため、従来よりも高精度な成膜層の形成が可能になる。
【0014】
第3の発明に係る成膜装置は、第1または第2の発明に係る成膜装置であって、第1膜厚測定機構は、第1モニタガラスを有している。第1モニタガラスは、基板ホルダの回転軌道円の半径方向に沿って、基板ホルダの下面側に固定されている。また、第1膜厚測定機構は、第1モニタガラスに形成された成膜層の膜厚を測定する。
【0015】
ここでは、第1膜厚測定機構が、第1モニタガラス上の成膜層の膜厚を測定し、補正制御部は、この測定結果に基づいて、遮蔽機構の補正を制御する。
ここで、第1モニタガラスとは、成膜層の膜厚測定用に設けられるものであって、光が透過するものであればよく、例えば、所定形状の石英ガラスが好ましい。また、第1モニタガラスは、複数個のモニタガラスを含むものであってもよい。
【0016】
これにより、第1膜厚測定機構は、複数の透明な第1モニタガラスに形成された成膜層の膜厚を測定することが可能になる。したがって、成膜される基板の形状や厚さ、または透過率などの光学特性によらず、所定の条件で透過型の膜厚測定器を用いることができる。
この結果、膜厚測定が容易になり、精度も向上するため、高効率かつ高精度な成膜を行うことが可能になる。
【0017】
第4の発明に係る成膜装置は、第3の発明に係る成膜装置であって、加熱部と第2膜厚測定機構と成膜制御部とをさらに備えている。加熱部は、成膜源を加熱する。第2膜厚測定機構は、基板ホルダの回転中心に第2モニタガラスを有し、この第2モニタガラスに成膜された成膜層の膜厚を測定する。成膜制御部は、第2膜厚測定機構の測定結果に基づいて、加熱部の出力を制御する。
【0018】
ここでは、成膜源を加熱する加熱部が、第2モニタガラスに成膜された成膜層の膜厚に依存して制御される。
ここで、加熱部とは、例えば、電子ビームを照射する電子銃を含むものであってもよく、または、成膜源に接する抵抗線を含むものであってもよい。前者の場合、当該成膜装置は、いわゆるEB(Electron Beam)加熱方式の成膜装置であり、後者の場合、いわゆる抵抗線加熱方式の成膜装置である。第2膜厚測定機構とは、例えば、透過型の膜厚測定器であってもよい。また、第2膜厚測定機構は、水晶振動子を用いた水晶モニタを含むものであってもよい。
【0019】
これにより、第2モニタガラスに形成された成膜層の厚さに依存して加熱部の出力制御を行うことが可能になる。したがって、所望の膜厚に達した時点で加熱部の出力をオフ状態にするなどのプログラムを成膜制御部に記憶させておけば、自動で加熱部の出力の制御(例えば、オン/オフ状態の切り換え)を行うことができる。
この結果、正確な成膜時間を自動で制御することが可能になり、歩留まりを向上させることができる。
【0020】
第5の発明に係る成膜装置は、第3または第4の発明に係る成膜装置であって、第1膜厚測定機構が、投光部と受光部と算出部とを有する。投光部は、第1モニタガラスに向けて光を発する。受光部は、第1モニタガラスを透過した光を受光する。算出部は、受光部が受光した光から第1モニタガラスに形成されている成膜層の膜厚を算出する。
【0021】
ここで、上述したように、第1モニタガラスが複数のモニタガラスを含む場合、受光部は、モニタガラスの数に対応する複数の受光部を含むものであることが好ましい。
これにより、投光部から発せられた光が、第1モニタガラスに形成された成膜層と第1モニタガラスとを透過し、受光部で受光される。そして、受光部が受光した光のエネルギー、投光部が発した光のエネルギーおよび成膜層の屈折率などの光学定数から、成膜層の膜厚を算出することが可能になる。
【0022】
第6の発明に係る成膜装置は、第1から第5の発明のいずれか1つに係る成膜装置であって、基板ホルダに向けてイオンを照射するイオン銃をさらに備えている。
ここで、イオン銃とは、所定元素をイオン状態にすることで電荷を帯びさせ、さらに電界をかけることで所定方向にそのイオンを照射するものである。
【0023】
これにより、成膜層の表面に所定元素(例えば、酸素)のイオンを照射することが可能になる。したがって、成膜層の高密度化を図ることが可能になる。また、成膜層の表面粗さを軽減することが可能になる。
【0024】
この結果、成膜層が水分を吸着してしまいその光学特性が変化しまうといった不具合を軽減することが可能になり、成膜層の耐劣化性能を向上させることが可能になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、複数の基板に同時に成膜する場合や大面積基板に成膜する場合においても、高い精度で膜厚の場所依存が軽減された成膜基板を形成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の一実施形態に係る真空蒸着装置(成膜装置)1について、図1〜図14を用いて説明すれば以下の通りである。
【0027】
[真空蒸着装置1全体の構成]
本実施形態の真空蒸着装置1は、図1に示すように、主に、真空チャンバ101と排気機構102と、第1膜厚測定機構104と、第2膜厚測定機構105と、補正制御部110と、を備えている。また、真空蒸着装置1は、真空チャンバ101内に、基板ホルダ103、回転式ハース(成膜源ホルダ)113と、電子銃(加熱部)111と、イオン銃117と、遮蔽機構109と、を備えている。 真空チャンバ101は、当該真空蒸着装置1の成膜室を構成する部材であって、透明な石英ガラスを用いて形成されている。真空チャンバ101は、排気機構102によって真空引きされる密封空間を形成する。
【0028】
排気機構102は、真空チャンバ101内を真空引きするものであって、ロータリーポンプ102aと、ターボ分子ポンプ102bと、圧力計102c、とを備えている。ロータリーポンプ102aは、真空チャンバ101を粗引きする。ターボ分子ポンプ102bは、ロータリーポンプ102aによって粗引きされた真空チャンバ101内を、成膜に必要な真空度(本実施形態では、10-2Pa程度)まで真空引きする。圧力計102cは、真空チャンバ101内の圧力(真空度)を測定する。
【0029】
このように、真空チャンバ101内の真空度を高めることによって、不純物の混入が軽減され、良質な成膜層を形成することが可能になる。
電子銃111は、成膜源114を加熱するものであって、電子ビームを成膜源114に向けて出射する。この電子銃111は、主に、電子ビーム発生源と集束磁極と進路磁極とを有している。電子ビーム発生源は、電子ビームを発生して出射する。集束磁極は、リング状の通電コイルを含み、出射した電子ビームを磁力によって集束する。進路磁極は、対向する2枚の平板磁石を含み、集束した電子ビームを所定の領域面内で走査させる。
【0030】
回転式ハース113は、所望の材料(例えば、TiやSi)からなる成膜源114を複数個同時に載置することができるものであって、円柱形状の支柱部113bと、この支柱部113bの上部に固定され、成膜源114が載置される円板型の載置部113aと、を有している。また、支柱部113bは、真空チャンバ101の底面部に回動可能に固定されている。このため、載置部113aは、自由に回転することができる。
【0031】
このような構成により、1つの成膜源114を蒸着した後に、次の成膜層を形成するための成膜源114aを、電子ビームが照射される領域に回転して移動させることが可能になる。したがって、真空チャンバ101を大気開放することなく連続して成膜を行うことができる。
【0032】
基板ホルダ103は、当該真空蒸着装置1によって成膜される基板を真空チャンバ101内で固定するものであって、ドーム103aと回転機構103bとを有している。ドーム103aは、上方向に凸の半球殻形状であって、下面側に1つまたは複数の基板を固定する。なお、基板は、所望の被成膜面が下方向(回転式ハース113方向)に向けて固定される。また、回転機構103bは、ドーム103aを回転させるための機構であって、ドーム103aの上部側に設けられ、ドーム103aの回転中心に連結して固定されている。そして、回転機構103bは、外部から所望の回転速度に設定することができる。
【0033】
このような構成により、成膜中に基板ホルダ103を回転させることが可能になる。したがって、複数の基板が固定されている場合、または大面積基板が固定されている場合であっても、真空チャンバ101内における成膜速度の場所依存を軽減することが可能になる。
【0034】
イオン銃117は、成膜中に基板に対し所望元素のイオンを照射するものであって、いわゆるイオンアシスト法によって成膜を行うために設けられている。本実施形態におけるイオン銃117は、成膜時に酸素イオンまたは酸素およびアルゴンの混合イオンを基板に照射する。このように成膜中に基板に照射されたイオンは、成膜された膜の密度を上げる働きをする。
【0035】
第2膜厚測定機構105は、成膜された層の膜厚を計測するものであって、膜厚測定器105aと第2モニタガラス105bとを有している。第2モニタガラス105bは、基板ホルダ103の下面側であって回動中心部分に設けられており、透明なガラス部材である。この第2膜厚測定機構105によって測定された成膜層の膜厚は、電子銃111、イオン銃117、および回転式ハース113などの動作を制御する成膜制御部115に出力される。なお、ここでは図示しないが、第2膜厚測定機構105の光源や受光素子は、後述する第1膜厚測定機構104とは別に設けられている。
【0036】
第1膜厚測定機構104は、投光部108と、受光部106と、算出部107と、第1モニタガラス群(図2参照)201と、を有している。
投光部108は、第1膜厚測定機構104の光源であって、白色光を発光するハロゲンランプを有している。この白色光は、第1モニタガラス群201を透過して受光部106に到達するように投射される。
【0037】
第1モニタガラス群201は、複数(本実施形態では12枚)のモニタガラス201a〜201lを含み、基板ホルダ103に固定されている。モニタガラス201a〜201lは、図2に示すように、基板ホルダ103の半径方向に沿って、回転中心から外側にむけて等間隔に配置されている。
【0038】
受光部106は、投光部108から投射された白色光を受光するものであって、モニタガラス201a〜201lのそれぞれに対応する複数(本実施形態では12個)の受光素子を有する。この受光素子は、受光した光を電気的エネルギーに変換する。そして、変換された電気的エネルギーは、算出部107に出力される。
【0039】
算出部107は、受光部106から出力された電気的エネルギーからモニタガラス201a〜201l上に成膜された成膜層の膜厚を算出する。ここで算出されたそれぞれの膜厚は、補正制御部110に出力される。
【0040】
遮蔽機構109は、図1および図2に示すように、基板ホルダ103の所定領域と回転式ハース113との間に配置され、基板ホルダ103を含む空間と回転式ハース113を含む空間とを遮断している。つまり、基板ホルダ103に固定されて回転する基板は、成膜源114と遮蔽機構109の輪郭とを結んだ直線の延長線と、基板の回転軌道面と、の交線に囲まれる領域を通過する間は、蒸発した成膜源114が遮蔽機構109によって遮断される。したがって、この領域を通過している間は、基板は成膜されないことになる。
【0041】
詳細には、遮蔽機構109は、図3に示すように、圧電アクチュエータ301と、複数の格納筒304と、複数の小片303a〜303lと、支柱302と、を有している。なお、複数の格納筒304と複数の小片303a〜303lとは、支柱302の両側にそれぞれ設けられている。また、複数の小片303a〜303lは、支柱302を中心線として反対側にある小片と同じ大きさであり、かつ同じ動作をする。以下では、支柱302に対して一方の側の小片303a〜303lについてのみ説明する。
【0042】
複数の小片303a〜303lは、基板ホルダ103の回転軌道円の接線方向に対して伸縮する圧電素子からなる。格納筒304は、複数の小片303a〜303lをそれぞれ個別に格納し、圧電アクチュエータ301と連結している。圧電アクチュエータ301は、補正制御部110からの指示に基づいて、個々の小片303a〜303lに対してそれぞれ独立した電圧を印加する。すなわち、補正制御部110によって小片303a〜303lの長さが補正される。支柱302は、圧電アクチュエータ301と格納筒304とを真空チャンバ101に対して固定する。
【0043】
補正制御部110は、算出部107から出力されたそれぞれの膜厚に基づいて、遮蔽機構109の形状(各小片303a〜303lの長さ)を補正する。例えば、1回目に成膜したときの成膜層の厚さが所望の膜厚よりも薄い場合、補正制御部110は、それぞれの小片303a〜303lが短くなるように補正する。反対に、1回目に成膜したときの成膜層の厚さが所望の膜厚よりも厚い場合、補正制御部110は、それぞれの小片303a〜303lが長くなるように補正する。これは、基板ホルダ103に固定されて回転している基板に成膜される成膜層の膜厚は、基板が成膜源114に対し遮蔽機構109によって遮断されている時間的割合に反比例するためである。
【0044】
[遮蔽機構109の初期形状の設定方法]
遮蔽機構109の初期設定について、図4(a)、図4(b)、および図4(c)を用いて以下で説明する。なお、ここでは、小片303aの初期形状長さを求める方法を例に説明する。また、ここでは、図4(a)に示すように、基板ホルダ103の回転中心を中心点Oとする。また、小片303aの短手方向における二等分線と小片303aの端部との交点を点Ta、上記二等分線と支柱302との交点とを点Uaとし、この点Taと中心点Oとを結ぶ直線を直線TaOとする。また、支柱302の中心を点Sとし、この点Sと中心点Oとを結ぶ直線を直線SOとする。
【0045】
第1に、遮蔽機構109がない状態で成膜する。そして、この場合に成膜された成膜層の膜厚をW1(モニタガラス201a上に成膜された成膜層の膜厚)とする。第2に、小片303aを最も伸張させた状態である矩形形状の遮蔽機構109を採用して成膜を行う。そして、この場合に成膜された成膜層の膜厚をW2(>W1)とする。第3に、図4(a)に示すように、直線TaOと直線SOとが成す角度βaを求める。第4に、小片303aが最も伸張された遮蔽機構109がある場合と遮蔽機構109がない場合とのそれぞれにおいて成膜された各成膜層の膜厚の差ΔW=W2−W1を算出する。第5に、この膜厚差ΔWと、中心点Oで交差する2つの直線TaOと直線SOとが成す角度βaと、の関係を求めるために、単位角度あたりの成膜層の膜厚変化率PH=ΔW/βaを算出する。
【0046】
第6に、成膜層に対する所望の膜厚がXである場合、膜厚W2と膜厚Xとの膜厚差Wx=W2−Xを算出する。第7に、上記膜厚差Wxを単位角度あたりの膜厚変化率PHで除算することによって、補正角度PHx=Wx/PHを算出する。第8に、図4(b)に示すように、角度βaから補正角度PHxを引算することによって、長さが補正された小片303aにおける 2直線Ta´Oと直線SOと、が成すべき角度Ya=βa―PHxが算出される。第10に、図4(c)に示すように、点Uaと中心点Oとの距離laと角度Yaの正接(tangent)とを乗算することによって、直線Ta´Uaの長さL=la・tanYを算出することができる。ただし、ここで算出される長さLaは、格納筒304の長さを含んでいる。
【0047】
このようにして、小片303aの長さを求めた手法と同様にして他の小片303b〜303lのそれぞれの長さを求めることができる。この結果、例えば、図5に示すような遮蔽機構109の初期形状が設定される。
【0048】
[真空蒸着装置1の動作説明]
以上のように初期設定を経て構成された遮蔽機構109を備えた真空蒸着装置1の動作について図6を用いて以下で説明する。なお、ここでは、材料Aと材料Bとの多層積層膜(図9参照)を形成するものとして説明する。
【0049】
まず、大気開放された状態の真空チャンバ101において、基板ホルダ103に基板を固定する(ステップStart)。
ステップS001では、真空チャンバ101内を排気機構102によって排気する。ここでは、ロータリーポンプ102aによって真空チャンバ101を粗引きした後、ロータリーポンプ102aを動作させたままターボ分子ポンプ102bによって所望の真空度(例えば、10−2Pa)に到達するまで排気する。
【0050】
ステップS002では、材料Aの成膜を開始する。ここでは、電子銃111が、回転式ハース113に載置されている成膜源114としての材料Aを加熱する。また、ここでは、同時に、回転機構103bが、ドーム103aを回転させる。
【0051】
ステップS003では、第2膜厚測定機構105によって成膜された成膜層Aの膜厚をモニタリングする。ここで、成膜層Aが所望の膜厚に到達したことが検知されるまで膜厚のモニタリングを実行し、所望の膜厚に到達したことが検知された場合は、ステップS004に移行する。
【0052】
ステップS004では、成膜層Aが所望の膜厚に到達したので、成膜制御部115が、電子銃111をオフ状態にし、成膜層Aの成膜を終了する。
ステップS005では、補正制御部110が、ステップS002からステップS004において成膜された成膜層Aの膜厚の場所依存度を検出する。具体的には、補正制御部110が、モニタガラス201a〜201lに形成されたそれぞれの成膜層Aの膜厚と所望の膜厚との差を算出して保存する。
【0053】
ステップS006では、成膜制御部115が、この成膜工程が第1サイクル(1回目)か否かを判断する。ここで、成膜制御部115が、第1サイクルの成膜工程あると判断した場合は、ステップS007に移行する。一方、成膜制御部115が、第1サイクルの成膜工程ではない、すなわち第2サイクル以降の成膜工程であると判断した場合は、ステップS0014に移行する。
【0054】
ステップS007では、材料Bの成膜を開始する。ここでは、ステップS002と同様に、電子銃111が回転式ハースに載置されている成膜源114としての材料Bを加熱する。また、ここでは、同時に、回転機構103bが、ドーム103aを回転させる。
【0055】
ステップS008では、ステップS003と同様に、第2膜厚測定機構105によって成膜された成膜層Bの膜厚をモニタリングする。ここで、成膜層Bが所望の膜厚に到達したことが検知されるまで膜厚のモニタリングを実行し、所望の膜厚に到達したことが検知された場合は、ステップS009に移行する。
【0056】
ステップS009では、成膜層Bが所望の膜厚に到達したので、成膜制御部115が、電子銃111をオフ状態にし、成膜層Bの成膜を終了する。
ステップS010では、ステップS005と同様に、補正制御部110が、ステップS007からステップS009において成膜された成膜層Bの膜厚の場所依存度を検出する。具体的には、補正制御部110が、モニタガラス201a〜201lに形成されたそれぞれの成膜層Bの膜厚と所望の膜厚との差を算出して保存する。
【0057】
ステップS011では、成膜制御部115が、所望の成膜層数に到達したか否かを判断する。すなわち、所望の成膜層数が、例えば、成膜層Aと成膜層Bとが10層ずつである場合、成膜層Bの10層目が成膜されたか否かを判断する。ここで、成膜制御部115が、所望の成膜層数に到達したと判断した場合は、当該真空蒸着装置1による成膜を終了する(END)。一方、所望の成膜層数に到達していないと判断した場合は、ステップS012へ移行する。
【0058】
ステップS012では、ステップS005において保存された膜厚の場所依存度、すなわち各モニタガラス201a〜201lに成膜されたそれぞれの成膜層Aの膜厚と所望の膜厚との差が所定量(例えば、±0.5%)以上であるか否かを個々に判断する。膜厚の差が所定量を上回るモニタガラス201a〜201lが1つでも存在すると判断された場合は、ステップS013に移行する。一方、全てのモニタガラス201a〜201lにおける成膜層の膜厚の差が所定量を下回ると判断された場合は、ステップS002に移行する。
【0059】
ステップS013では、補正制御部110が小片303a〜303lの補正を行う。具体的には、膜厚の差が所定量を上回るモニタガラスがある場合は、そのモニタガラス201dが配置されている場所に対応する小片の長さを補正する。また、長さが補正された小片に隣接する小片は、この隣接する小片に対応するモニタガラスに成膜された成膜層の膜厚誤差が0.5%以下であっても、図7に示す規格化膜厚係数に基づいて、長さの補正が行われる。例えば、モニタガラス201dに成膜された成膜層の膜厚が所望の膜厚に対して+0.7%のずれが生じているとする。この場合、モニタガラス201dに対応する小片303dとこれに隣接する小片303cおよび小片303eも同時に補正される。また、これらの隣接した小片303c,303eに隣接する小片303b,303fも補正される。すなわち、いずれか1つの小片が補正された場合、その他の小片も連続的に補正される。
【0060】
ステップS014では、ステップ012と同様に、ステップS010において保存された膜厚の場所依存度、すなわち各モニタガラス201a〜201lに成膜されたそれぞれの成膜層Bの膜厚と所望の膜厚との差が所定量(例えば、±0.5%)以上であるか否かを個々に判断する。そして、膜厚の差が所定量を上回るモニタガラス201a〜201lが1つでも存在すると判断された場合は、ステップS015に移行する。一方、全てのモニタガラス201a〜201lにおける成膜層の膜厚の差が所定量を下回ると判断された場合は、ステップS007に移行する。
【0061】
ステップS015では、ステップS013と同様の処理が行われるため説明を省略する。
以上のように、ステップS001〜ステップS015を所定回数繰り返すことによって、膜厚分散の抑えられた所望の積層多層膜を形成することができる。
【実施例】
【0062】
本実施形態の真空蒸着装置1を用いた実施例を図8から図14を用いて以下で説明する。本実施例では、図8に示す特性を示す光学エッジフィルタGを形成するために、図9に示すように、TiO2からなる成膜層AとSiO2からなる成膜層Bとが交互に積層された24層からなる光学多層膜を白色ガラス基板上に形成した。
【0063】
主な成膜条件を以下に示す。表1に示すように、真空チャンバ101内の真空度は、成膜層Aを成膜する工程においては、1.8×10-2Pa、成膜層Bを成膜する工程においては、1.4×10-2Paに調整した。また、本実施例においては、イオンアシスト法を採用した。このイオン銃の条件については、表1に示すとおりである。なお、イオンビーム電圧とは、イオンを生成するための電圧である。イオン加速電圧とは、イオンをイオン銃から真空チャンバ101内に引き出して加速させるための電圧であって、イオンの引き出し量に比例する。基板温度は、ヒーターによって調節し、その測定は真空チャンバ101内に設けられている温度測定機構(図示しない)によって測定した。
【0064】
【表1】

【0065】
以上のような条件の下、上記ステップS001〜S015の工程を行うことによって光学多層膜を形成した。ここで、遮蔽機構109の小片303a〜303lの長さの補正の例として、図10(a)から図13(b)を用いて説明する。エッジフィルタGにおける9層目のTiO2層では、図10(a)に示すような膜厚分布が観測された。これに対し、11層目のTiO2層を成膜する直前に、図10(b)に示すように小片303a〜303lの長さの補正を行った。具体的には、9層目のTiO2層では、図10aに示すように、モニタガラス201aからモニタガラス201l方向に移るにつれて、成膜層の厚さが薄くなっている結果が得られた。すなわち、基板ホルダ103の半径方向外側に移るにつれて薄く成膜されたことが検出された。したがって、膜厚分散を軽減するためには、基板ホルダ103における半径方向外側に向かうにつれて成膜速度を上げる必要がある。つまり、成膜速度を上げるためには、小片303a〜303lの長さを短くすればよい。この要求に応えるために補正制御部110は、図10(b)に示すように、初期形状の長さから補正後形状の長さへ、小片303a〜303lのそれぞれの長さを変更した。
【0066】
この他、14層目のSiO2層、21層目のTiO2層、および22層目のSiO2層における膜厚分布を、それぞれ図11(a)、図12(a)、および図13(a)に示した。これらの結果に対し、16層目のSiO2層、23層目のTiO2層、および24層目のSiO2層の成膜時に行った小片の長さの補正を、それぞれ図11(b)、図12(b)、および図13(b)に示した。
【0067】
このように、小片303a〜303lの長さの補正を行いながら作製したエッジフィルタGの膜厚は、遮蔽機構109がない場合と比較して、図14(a)および図14(b)に示すように、平均分散がおよそ1/2〜1/3程度に抑えられた。また、場所依存における最大膜厚差は、いずれのモニタガラス201a〜201lが配置された位置においても、±1nm以下に収められ、遮蔽機構109がない場合に比べて大幅な膜厚分散に関する改善が確認された。
【0068】
[真空蒸着装置1の特徴]
(1)
本実施形態の真空蒸着装置1では、図1に示すように、成膜源114に含まれる材料を基板上に成膜する成膜装置であって、真空チャンバ101と、基板ホルダ103と、回転式ハース(成膜源ホルダ)113と、遮蔽機構109と、第1膜厚測定機構104と、補正制御部110と、を備えている。基板ホルダ103は、真空チャンバ101内に回動自在に固定されており、基板を下面側に固定する。回転式ハース113は、基板ホルダ103の下面側に対向して設けられ、成膜源114が載置される。遮蔽機構109は、基板ホルダ103と回転式ハースとの間に設けられており、成膜される領域の一部を遮蔽し、基板ホルダの回転軌道円の接線方向における大きさを個々に変更可能な複数の小片303a〜303lを有する。第1膜厚測定機構104は、基板ホルダ103の回動中心から半径方向に沿って複数の異なる位置における成膜層の膜厚を測定する。補正制御部110は、第1膜厚測定機構104の測定結果に基づいて複数の小片303a〜303lのそれぞれの大きさを個々に補正する。
【0069】
このような構成により、基板ホルダ103の下面側に固定される基板は、基板ホルダ103と共に真空チャンバ101内を回転する。このとき、回転式ハース113(成膜源114)と遮蔽機構109との位置は固定されているため、基板が成膜源114に対し遮蔽機構109によって遮蔽されている時間と遮蔽されていない時間とを周期的に繰り返すことが可能になる。したがって、成膜層の膜厚は、基板ホルダ103の1回転中において、遮蔽機構109に遮蔽されている時間の割合、すなわち基板ホルダ103の回転軌道円の接線方向における遮蔽機構109の大きさ(長さ)に依存する。上述のように、遮蔽機構109が有する複数の小片303a〜303lの長さは、それぞれ個々に変更することが可能であるため、基板ホルダ103の回転軌道円の半径方向に沿って小刻みに調整することができる。また、上記小片303a〜303lの長さは、第1膜厚測定機構104によって上記半径方向に沿って複数個所で測定された値に基づいて、小片303a〜303l毎に補正することができる。
【0070】
この結果、基板ホルダ103の下面側における成膜箇所によってそれぞれ成膜源114側の空間に対して遮蔽されている時間を調整することが可能になる。したがって、大面積(例えば、15インチ)の基板に対して成膜する場合や複数の基板などに対して同時に成膜する場合であっても、膜厚の面内分散(場所依存)を軽減し、高精度な成膜を行うことが可能になる。
【0071】
(2)
本実施形態の真空蒸着装置1では、図3に示すように、遮蔽機構109が有する複数の小片303a〜303lが、圧電素子を含む。
【0072】
これにより、小片303a〜303lの微小な変形(伸縮)が可能になる。したがって、基板ホルダ103の1回転において、遮蔽機構109が成膜源114を含む空間と基板を含む空間とを遮断する時間の割合の微調整が可能になる。
この結果、基板ホルダ103の半径方向における成膜速度を精密に制御することができるため、従来よりも高精度な成膜層の形成が可能になる。
【0073】
(3)
本実施形態の真空蒸着装置1では、図3に示すように、第1膜厚測定機構104は、モニタガラス201a〜201lを有している。モニタガラス201a〜201lは、基板ホルダ103の回転軌道円の半径方向に沿って、基板ホルダ103の下面側に固定されている。また、第1膜厚測定機構104は、モニタガラス201a〜201lに形成された成膜層の膜厚を測定する。
【0074】
これにより、第1膜厚測定機構104は、複数の透明なモニタガラス201a〜201lに形成された成膜層の膜厚を測定することが可能になる。したがって、成膜される基板の形状や厚さ、または透過率などの光学特性によらず、所定の条件で透過型の膜厚測定器を用いることができる。
この結果、膜厚測定が容易になり、精度も向上するため、高効率かつ高精度な成膜を行うことが可能になる。
【0075】
(4)
本実施形態の真空蒸着装置1では、図1に示すように、電子銃(加熱部)111と第2膜厚測定機構105とを備えている。
【0076】
電子銃111は、電子ビームを出射し、成膜源114を加熱する。第2膜厚測定機構105は、基板ホルダ103の回転中心に第2モニタガラス105bを有し、この第2モニタガラス105bに成膜された成膜層の膜厚を測定する。成膜制御部115は、第2膜厚測定機構105の測定結果に基づいて、電子銃111の出力を制御する。
【0077】
これにより、第2モニタガラス105bに形成された成膜層の厚さに依存して電子銃111の出力制御を行うことが可能になる。したがって、所望の膜厚に達した時点で電子銃111の出力をオフ状態にするなどのプログラムを成膜制御部115に記憶させておけば、自動で電子銃111の出力の制御(例えば、オン/オフ状態の切り換え)を行うことができる。
この結果、正確な成膜時間を自動で制御することが可能になり、歩留まりを向上させることができる。
【0078】
(5)
本実施形態の真空蒸着装置1では、図1に示すように、第1膜厚測定機構104が、投光部108と受光部106と算出部107とを有する。投光部108は、モニタガラス201a〜201lに向けて光を発する。受光部106は、モニタガラス201a〜201lを透過した光を受光する。算出部107は、受光部106が受光した光からモニタガラス201a〜201lに形成されている成膜層の膜厚を算出する。
【0079】
これにより、投光部108から発せられた光が、モニタガラス201a〜201lに形成された成膜層とモニタガラス201a〜201lとを透過し、受光部106で受光される。そして、受光部106が受光した光のエネルギー、投光部108が発した光のエネルギーおよび成膜層の屈折率などの光学定数から、成膜層の膜厚を算出することが可能になる。
【0080】
(6)
本実施形態の真空蒸着装置1では、図1に示すように、基板ホルダ103に向けてイオンを照射するイオン銃117をさらに備えている。
【0081】
これにより、成膜層の表面に所定元素(例えば、酸素)のイオンを照射することが可能になる。したがって、成膜層の高密度化を図ることが可能になる。また、成膜層の表面粗さを軽減することが可能になる。
【0082】
この結果、成膜層が水分を吸着してしまいその光学特性が変化しまうといった不具合を軽減することが可能になり、成膜層の耐劣化性能を向上させることが可能になる。
【0083】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0084】
(A)
上記実施形態では、多層膜の成膜に関して層毎に遮蔽機構109における小片303a〜303lの長さを変化させる例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0085】
例えば、一層の成膜において、その成膜の途中で小片の長さを補正するものであってもよい。
これにより、一つ一つの層に対する成膜精度を従来よりも高くすることが可能になる。
【0086】
(B)
上記実施形態では、複数の小片303a〜303lが、それぞれ圧電素子から成る例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0087】
例えば、複数の小片は、機械的に動作することによって変位可能なものであってもよい。または、複数の小片は、圧電素子による変位と機械的な変位とを併用するものであってもよい。
これによっても、上記実施形態と同様な効果を得ることが可能になる。
【0088】
(C)
上記実施形態では、第1膜厚測定機構104が透過型の膜厚測定器である例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0089】
例えば、第1膜厚測定機構は、反射型の膜厚測定器を用いるものであってもよい。
これによっても、上記実施形態と同様の効果を得ることが可能になる。
【0090】
(D)
上記実施形態では、加熱部が電子銃111である例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0091】
例えば、成膜源ホルダが抵抗線を含み、この抵抗線に電流を流すことによって加熱する、いわゆる抵抗線加熱方式を採用するものであってもよい。
これにより、低コストで簡易な構成である成膜装置を得ることが可能になる。
【0092】
(E)
上記実施形態では、イオン銃117を用いる例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0093】
例えば、イオン銃を用いない構成であってもよい。つまり、上記実施例に示す光学多層膜を形成する場合のように、成膜層の密度が高度に要求される場合を除けば、イオン銃がない場合であっても問題はない。
【0094】
(F)
上記実施形態では、図2に示すように、モニタガラス201a〜201lが12枚設けられている例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0095】
例えば、成膜層の膜厚の場所依存に対して高い精度が要求される場合は、遮蔽機構が、より多く(例えば、30枚)の小片を含むものであってもよい。これにより、従来よりも高い精度で膜厚の場所依存を軽減した成膜層を形成することが可能になる。
【0096】
また、膜厚の場所依存に対しての要求が低い場合は、遮蔽機構が、例えば、4枚の小片を含むものであってもよい。これにより、コストアップを抑えた装置を提供することが可能になる。
【0097】
(G)
上記実施形態では、図1に示すように、成膜装置として真空蒸着装置1を用いる例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0098】
例えば、成膜源であるターゲットをスパッタリングすることによって成膜する、いわゆるスパッタ成膜装置などであってもよい。
これによっても上記実施形態と同様の効果を得ることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の装置は、膜厚の面内分散(場所依存)を軽減し、高精度な成膜を行うことが可能になるという効果を奏することから、均一な薄膜が必要とされる部材の加工装置に対して広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の一実施形態に係る真空蒸着装置を示す側面視概略図。
【図2】図1に示す真空蒸着装置の上面視概略図。
【図3】図1に示す真空蒸着装置の遮蔽機構の上面視拡大図。
【図4】図3に示す遮蔽機構の初期形状の設定方法を説明する図。
【図5】図3に示す遮蔽機構の初期形状を示す上面視図。
【図6】図1に示す真空蒸着装置の動作を説明するフローチャート。
【図7】図3に示す遮蔽機構の小片の補正に用いる補正小片長さと規格化膜厚係数との関係図。
【図8】図1に示す真空蒸着装置を用いて作製したエッジフィルタの特性を示す透過率と照射光の波長との関係図。
【図9】図8に示す特性を有するエッジフィルタの構成を示す断面概略図。
【図10】(a)は、図1に示す真空蒸着装置を用いた実施例における各モニタガラスにおける膜厚分布を示す図。(b)は、(a)に示す膜厚分布に対応して行った遮蔽機構の補正前後における形状の変化を示す上面視図。
【図11】(a)は、図1に示す真空蒸着装置を用いた実施例における各モニタガラスにおける膜厚分布を示す図。(b)は、(a)に示す膜厚分布に対応して行った遮蔽機構の補正前後における形状の変化を示す上面視図。
【図12】(a)は、図1に示す真空蒸着装置を用いた実施例における各モニタガラスにおける膜厚分布を示す図。(b)は、(a)に示す膜厚分布に対応して行った遮蔽機構の補正前後における形状の変化を示す上面視図。
【図13】(a)は、図1に示す真空蒸着装置を用いた実施例における各モニタガラスにおける膜厚分布を示す図。(b)は、(a)に示す膜厚分布に対応して行った遮蔽機構の補正前後における形状の変化を示す上面視図。
【図14】(a)は、遮蔽機構を用いて作製した成膜層の膜厚と、遮蔽機構を用いずに作製した成膜層の膜厚とをモニタガラスの位置毎に比較した図。(b)は、(a)に示す結果を折れ線グラフで表した図。
【符号の説明】
【0101】
1 真空蒸着装置(成膜装置)
101 真空チャンバ
102 排気機構
102a ロータリーポンプ
102b ターボ分子ポンプ
102c 圧力計
103 基板ホルダ
103a ドーム
103b 回転機構
104 第1膜厚測定機構
105 第2膜厚測定機構
105a 膜厚測定器
105b 第2モニタガラス
106 受光部
107 算出部
108 投光部
109 遮蔽機構
110 補正制御部
111 電子銃(加熱部)
113 回転式ハース(成膜源ホルダ)
113a 載置部
113b 支柱部
114 成膜源
114a 成膜源
115 成膜制御部
117 イオン銃
201 第1モニタガラス群
201a〜201l モニタガラス
301 圧電アクチュエータ
302 支柱
303a〜303l 小片
304 格納筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜源に含まれる材料を基板上に成膜する成膜装置であって、
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に回動自在に固定されており、前記基板を下面側に固定する基板ホルダと、
前記基板ホルダの下面側に対向して設けられ、前記成膜源を載置する成膜源ホルダと、
前記基板ホルダと前記成膜源ホルダとの間に設けられており、前記成膜源からみて前記基板上における成膜される領域の少なくとも一部を遮蔽し、前記基板ホルダの回転軌道円の接線方向における大きさを個々に変更可能な複数の小片を有する遮蔽機構と、
前記基板ホルダの回動中心から半径方向に沿って複数の異なる位置における成膜層の膜厚を測定する第1膜厚測定機構と、
前記第1膜厚測定機構の測定結果に基づいて、複数の前記小片のそれぞれの大きさを個々に補正する補正制御部と、
を備える成膜装置。
【請求項2】
前記小片は、圧電素子を含む、
請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記第1膜厚測定機構は、前記基板ホルダの回転軌道円の半径方向に沿って、前記基板ホルダの下面側に固定されている透明な第1モニタガラスを有し、
前記第1膜厚測定機構は、前記第1モニタガラスに形成された前記成膜層の膜厚を測定する、
請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記成膜源を加熱する加熱部と、
前記基板ホルダの回転中心に第2モニタガラスを有し、この第2モニタガラスに成膜された成膜層の膜厚を測定する第2膜厚測定機構と、
前記第2膜厚測定機構の測定結果に基づいて、前記加熱部の出力を制御する成膜制御部と、
をさらに備えている、
請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記第1膜厚測定機構は、前記第1モニタガラスに向けて光を発する投光部と、前記第1モニタガラスを透過した前記光を受光する受光部と、前記受光部が受光した前記光から前記第1モニタガラスに形成されている前記成膜層の膜厚を算出する算出部と、を有する、
請求項3または4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記基板ホルダに向けてイオンを照射するイオン銃をさらに備える、
請求項1から5のいずれか1項に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−18851(P2010−18851A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180803(P2008−180803)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】