説明

手動変速機

【課題】ギヤ抜けを防止するためのテーパ角を、小径側よりも大径側を大きくすることにより、ギヤピース及びスリーブが傾いた時のスプライン歯面の隙間を減少させ、ギヤ抜け防止のためのテーパ面同士の接触タイミングを早めて、ギヤ吸い込み力発生をより早くして、ギヤ吸い込み力の低下を防止可能な手動変速機を提供する。
【解決手段】ギヤピーススプライン9が形成されたギヤピース1、(2)と、スリーブスプライン8が形成されたスリーブ6とが、噛合されてなる手動変速機において、これらギヤピーススプライン9及びスリーブスプライン8の大径側91、81のテーパ角θ1、θ3は、小径側92、82のテーパ角θ2、θ4よりも広角に形成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤピーススプラインが形成されたギヤピースと、スリーブスプラインが形成されたスリーブとが、噛合されてなる手動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用の手動変速機(MT)には、シンクロ機構を含む歯車変速機が装着されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、図5は、従来の手動変速機におけるギヤピース及びスリーブの噛合状態を示した拡大説明図である。
【0004】
従来の手動変速機の一部であるスリーブ100の内周面には、スリーブスプライン101が形成され、ギヤピース200側にはギヤピーススプライン201が設けられている。
【0005】
また、互いに噛合する領域における両スプライン101、201の歯筋形状は、テーパ角θ(歯筋と軸線とのなす角)で、チャンファ側からヒール側に向けて歯厚が徐々に小さくなる「逆テーパ形状」を有している。
【0006】
そして、前記テーパ角θは、ピッチ円上で一定の角度で設定されている。
【0007】
これにより、例えば、オフロード走行時における衝撃によって、両スプライン101、201の延在方向に外力Fが加わったとしても、噛合した逆テーパ形状の歯筋がスリーブ100の軸方向への変位を規制するため、ギヤ抜けを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−280366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図6は、図5の要部を概略的に示した模式図である。
【0010】
ところが、図6に示すように、走行時においては、ギヤピース200が、相手ギヤ300のスラスト荷重等の影響によって傾いてしまうと、当該ギヤピース200の傾きにより、噛合されている両スプライン101、201が押し下げられて、スリーブ100も傾いてしまい、これらギヤピース200及びスリーブ100が傾きを持って回転することがある。
【0011】
すなわち、図中二点破線内の拡大図に示すように、ギヤピース200及びスリーブ100が傾くことによって、これらギヤピース200及びスリーブ100の大径側(外側)が、基準ピッチ円よりも近づくことになる。
【0012】
そのため、前記ギヤピース200及びスリーブ100に形成された夫々のスプライン101、201同士の歯面には、隙間が生じてしまい、ギヤ抜けを防止するためのテーパ面同士の接触が遅くなってしまうため、ギヤ吸い込み力の発生が遅れ、ギヤ吸い込み力が低下するという問題があった。
【0013】
また、ギヤ抜けの防止力を大きくするためには、前記テーパ角θを大きくして、夫々のスプライン101、201の歯筋の逆テーパ形状をきつくすればよいと思われるが、このテーパ角θを歯先基準で全体的に大きくすると、スプライン歯面のガタツキが増えるうえ、両スプライン101、201のヒール側における歯厚が極端に薄くなってしまい、前記スプライン自体の強度の低下を招くという問題がある。
【0014】
一方、歯元基準で全体的にテーパ角θを大きくすると、前記ギヤピース200及びスリーブ100のギヤ抜けを防止するためのテーパ面に必要な噛合い長さが確保できなくなるという問題も生じる。
【0015】
本発明は、かかる課題を解決することを目的とし、ギヤピース及びスリーブが傾いた時のスプライン歯面の隙間を減少させ、ギヤ抜け防止のためのテーパ面同士の接触タイミングを早めて、ギヤ吸い込み力発生をより早くして、ギヤ吸い込み力の低下を防止可能な手動変速機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、
本発明は、ギヤスプラインが形成されたギヤピースと、スリーブスプラインが形成されたスリーブとが、噛合されてなる手動変速機において、これらギヤピーススプライン及びスリーブスプラインの大径側(外側)のテーパ角は、小径側(内側)のテーパ角よりも広角に形成されてなることを特徴にしている。
【0017】
すなわち、走行時などに、前記ギヤピースが、スラスト荷重等の影響によって傾くと、これに噛合されているスリーブも傾いて、両者のスプラインの大径側が近づくことになる。
【0018】
ところが、本発明では、噛合されているギヤピーススプライン及びスリーブスプラインの大径側のテーパ角は、小径側のテーパ角よりも広角に形成されているため、両スプラインの歯面の隙間を、従来のものに比べて減少(狭く)できる。
【0019】
そのため、本発明では、ギヤ抜け防止のためのテーパ面同士の接触タイミングを早めることができ、これにより、ギヤ吸い込み力発生をより早くして、ギヤ吸い込み力の低下を防止することができるのである。
【0020】
また、本発明では、歯先基準や歯元基準で全体的にテーパ角θを大きくするものではないため、スプライン歯面のガタツキを防止すると共に、当該スプライン自体の強度も維持することができ、更に、テーパ面に必要な噛合い長さも確保できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の手動変速機によれば、ギヤピース及びスリーブが傾いた時のスプライン歯面の隙間を減少して、ギヤ吸い込み力の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態の手動変速機を概略的に示した断面図である。
【図2】図1で示したギヤピースの要部を示した拡大説明図である。
【図3】図1で示したスリーブの要部を示した拡大説明図である。
【図4】図2、図3で示したギヤピース及びスリーブの噛合状態を示した拡大説明図である。
【図5】従来の手動変速機におけるギヤピース及びスリーブの噛合状態を示した拡大説明図である。
【図6】図5の要部を概略的に示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は、本実施形態の手動変速機Aを概略的に示した断面図である。
【0025】
本実施形態の手動変速機Aは、回転軸4の軸方向の左右に配置されたギヤピース1、2と、ギヤピース1、2の間に介装されたシンクロ機構3とで構成されている。
【0026】
周知のとおり、シンクロ機構3は、外周面にギヤピーススプライン9が形成されたハブ5、内周面にスリーブスプライン8が形成されたスリーブ6、および一対のリング7等を有している。
【0027】
スリーブ6は、回転軸4に固定的に取り付けられたハブ5とスプライン嵌合しており、回転軸4と一体的に回転する。
【0028】
また、左右のギヤピース1、2は、回転軸4に回転自在に取り付けられているとともに、スリーブ6側のスリーブスプライン8と嵌合可能なギヤピーススプライン9が形成されている。
【0029】
そして、変速時に、軸方向の左または右のいずれかにスリーブ6をシフトさせると、スリーブ6がリング7を押圧することによって、リング7の内周に形成されたテーパ面とギヤピース1(またはギヤピース2)のコーン面との間で摩擦力が生じる。
【0030】
この摩擦力の増大に伴い、やがてスリーブ6とギヤピース1、(2)とが回転同期すると、スリーブ6がさらにシフトして、スリーブ6側のスリーブスプライン8が、ギヤピース1、(2)側のギヤピーススプライン9と噛合され、この噛合により、ギヤピース1、(2)の駆動力は、スプライン嵌合したギヤピース1、(2)から回転軸4へと伝達されるのである。
【0031】
図2は、図1で示したギヤピース1、(2)の要部を示した拡大説明図であり、図3は、図1で示したスリーブ6の要部を示した拡大説明図である。
【0032】
図4は、図2、図3で示したギヤピース及びスリーブの噛合状態を示した拡大説明図である。
【0033】
なお、図1〜図4において共通する部位には、同一の符号を付して、重複する説明については、省略している。
【0034】
このようなギヤピース1、(2)の外周面には、ギヤピーススプライン9が切削加工等の周知手段によって形成されている。
【0035】
また、本実施形態のギヤピーススプライン9は、大径側91から小径側92に向けて傾斜された非対称な略台形状に形成され、当該ギヤピーススプライン9の大径側91のテーパ角θ1は、小径側92のテーパ角θ2よりも広角に形成されてなる。
【0036】
ここで、「テーパ角」とは、軸線Oに対して、ギヤピーススプライン9の大径側91(または小径側92)の傾斜している角度を意味している。
【0037】
一方、ギヤピース1に噛合されるスリーブ6の内周面には、スリーブスプライン8が切削加工等の周知手段によって形成されている。
【0038】
本実施形態のスリーブスプライン8は、大径側81から小径側82に向けて傾斜された略台形状であって、当該スリーブスプライン8の大径側81のテーパ角θ3は、小径側のテーパ角θ4よりも広角に形成されてなる。
【0039】
このように構成された本実施形態の手動変速Aでは、図6と同様に、走行時においては、ギヤピース1、(2)が、相手ギヤ(300)のスラスト荷重等の影響によって、傾いてしまうと、当該ギヤピース1、(2)の傾きにより、噛合されているスプライン9、8が押し下げられて、スリーブ6も傾いてしまい、これらギヤピース1、(2)及びスリーブ6が傾きを持って回転することがある。
【0040】
すなわち、走行時などにギヤピース1、(2)及びスリーブ6が傾くことによって、これらギヤピース1、(2)及びスリーブ6の大径側91、81が、基準ピッチ円よりも近づくことになる。
【0041】
しかしながら、ギヤピーススプライン9及びスリーブスプライン8の大径側91、81のテーパ角θ1、θ3は、夫々の小径側92、82のテーパ角θ2、θ4よりも広角に形成されてなる。
【0042】
そのため、本実施形態の手動変速機Aによれば、ギヤピース1、(2)及びスリーブ6に形成された夫々のスプライン9、8同士の歯面には、隙間が殆ど生じることがなく、ギヤ抜けを防止するためのテーパ面同士の接触が、従来のものに比べて早くでき、ギヤ吸い込み力の発生を早めて、ギヤ吸い込み力を向上することができる。
【0043】
また、本実施形態の手動変速機Aによれば、従来のような歯先基準や歯元基準で全体的にテーパ角θを大きくするものではないため、夫々のスプライン9、8ス歯面のガタツキを防止すると共に、当該スプライン9、8自体の強度も維持することができ、更に、テーパ面に必要な噛合い長さを確保できる。
【0044】
なお、ギヤピース1、(2)が、例えば、後方に走行するなどして、本実施形態と逆方向に回転されても、ギヤピーススプライン9及びスリーブスプライン8の大径側91、81のテーパ角θ1、θ3は、夫々の小径側92、82のテーパ角θ2、θ4よりも広角に形成されているので、前記同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0045】
A 手動変速機
1、2 ギヤピース
6 スリーブ
8 スリーブスプライン
81 大径側(スリーブスプライン)
82 小径側(スリーブスプライン)
9 ギヤピーススプライン
91 大径側(ギヤピーススプライン)
92 小径側(ギヤピーススプライン)
θ1、θ3 (大径側)テーパ角
θ2、θ4 (小径側)テーパ角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤピーススプラインが形成されたギヤピースと、スリーブスプラインが形成されたスリーブとが、噛合されてなる手動変速機において、
これらギヤピーススプライン及びスリーブスプラインの大径側のテーパ角は、小径側のテーパ角よりも広角に形成されてなることを特徴とする手動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−286025(P2010−286025A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139050(P2009−139050)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】