説明

手動変速機

【課題】ロックボールを押圧するばねの反力によって、ロックボールホルダに発生する最大曲げ応力を抑制する。
【解決手段】シフトインナーレバー2の基部21から径方向に張り出したロックボール転動板13の片面に形成された波状部22と、押し縮められた状態のスプリング8によって波状部22に押圧されるロックボール5と、スプリング8およびロックボール5を摺動自在に内装したロックボールガイド6と、ロックボールホルダ7と、を含み、ロックボールホルダ7は、互いに平行に配設された平板からなる一対の脚部71を有し、その脚部71の一方にロックボールガイド6が固設された、ロックボール機構4を備える。ロックボール転動板13の波状部22が形成された面と反対側の面が前記一方の脚部71に対して面接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の手動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の手動変速機では、運転者が操作する変速レバーの操作力は、ケーブル等を介して、ミッションケース内に摺動自在に支持されたシフトアンドセレクトシャフトに伝達される。このシフトアンドセレクトシャフトには、シフトインナーレバーが固設されており、このシフトインナーレバーは、複数のシフトフォークシャフトにそれぞれ設けられたシフトヘッドの何れか1つに選択的に係合されるようになっている。そして、シフトインナーレバーが係合したシフトヘッドおよびこのシフトヘッドが設けられたシフトフォークシャフトに操作力が伝達され、変速レバーによって運転者が選択した変速段へのシフトチェンジが実行される。
【0003】
特許文献1に開示されている手動変速機のシフトアンドセレクトシャフト(特許文献1では「シフトアンドセレクト軸」と称している。)およびシフトインナーレバーは、セレクト操作力によって軸線方向に移動され、シフトインナーレバーが何れか1つのシフトヘッドに係合可能な位置に選択的に配置される。また、シフトアンドセレクトシャフトおよびシフトインナーレバーは、シフト操作力によって軸線回りに回動され、シフトインナーレバーが係合したシフトヘッドおよびこのシフトヘッドが設けられたシフトフォークシャフトにシフト操作力が伝達し、当該シフトフォークシャフトに設けられたシフトフォークが作動する。これにより、変速レバーによって運転者が選択した変速段へのシフトチェンジが実行される。
【0004】
また、特許文献1に開示されている手動変速機はシフトアンドセレクトシャフトの周囲にシフト操作力に節度感を持たせるロックボール機構を備えている。
【0005】
図5および図6は、従来の手動変速機のシフトアンドセレクトシャフト51およびその周囲を示している。シフトアンドセレクトシャフト51は、シフトインナーレバー52の筒状(ボス状)の基部521内にスプライン嵌合されている。さらに、シフトアンドセレクトシャフト51およびシフトインナーレバー52の基部521には、径方向にピン53が貫通されており、これにより、シフトアンドセレクトシャフト51とシフトインナーレバー52は軸線回りに一体に回動し、軸線方向に一体に移動するようになっている。
【0006】
符号54は、ロックボールホルダである。このロックボールホルダ54は、平板からなる一対の脚部541と、2つの脚部541の端部に架設された架設部544と、を備えており、片方の脚部541Bに筒体からなるロックボールガイド542が固設けられている。ロックボールガイド542内には、ロックボール55と、このロックボール55をシフトインナーレバー52の基部521に形成された波状部522に向かって押圧するコイルスプリング56とが内装されている。波状部522には3つの溝が形成されており、変速レバーがニュートラル位置又は各変速段位置に配置されると、ロックボール55がその溝の何れかに嵌まり込むようになっている。これにより、シフト操作する際にニュートラル位置および各変速段位置において節度感を持たせるシフトフィーリングを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−266467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ロックボールホルダ54には、コイルスプリング56の反力が2つの脚部541,541を開脚させる方向に作用し、脚部541および架設部544に変動曲げ応力が繰り返し発生する。
波状部522は、図6に示すように、筒状の基部521から径方向に張り出したロックボール転動板523の片面に形成されており、当該ロックボール転動板523とロックボールホルダ54の脚部541Aとの間に隙間Sが形成されていることから、ロックボールガイド542が設けられていない側の脚部541Aと円筒状の基部521の外周縁とが当たる部分において最大曲げ応力が発生し易い。
【0009】
本発明は既述の問題に鑑みて創案されたものであり、ロックボールを押圧するばねの反力によって、ロックボールホルダに発生する最大曲げ応力の抑制を図った手動変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するための手段として、本発明の手動変速機は、以下のように構成されている。
【0011】
すなわち、本発明の手動変速機は、シフトインナーレバーの基部から径方向に張り出したロックボール転動板の片面に形成された波状部と、押し縮められた状態のスプリングによって前記波状部に押圧されるロックボールと、前記スプリングおよび前記ロックボールを摺動自在に内装したロックボールガイドと、ロックボールホルダと、を含み、前記ロックボールホルダは、互いに平行に配設された平板からなる一対の脚部を有し、その脚部の一方に前記ロックボールガイドが固設された、ロックボール機構を備えるものを前提としている。そして、前記ロックボール転動板の波状部が形成された面と反対側の面が前記一方の脚部に対して面接触していることを特徴とするものである。
【0012】
かかる構成を備える手動変速機によれば、前記ロックボール転動板の波状部が形成された面と反対側の面が前記一方の脚部に対して面接触しているので、当該一方の脚部とロックボール転動板の遠心側縁とが当たる部分において最大曲げ応力が発生する。その結果、ロックボール転動板と脚部との間に隙間が形成されている場合と比較して、スプリング反力を作用点とするモーメントアームが短くなり、ロックボールホルダに発生する最大曲げ応力が抑制される。なお、前記一方の脚部に貫通孔等の断面変化部位が存在し、当該部位の近傍に大きな曲げ応力が発生し易い場合には、当該部位を前記ロックボール転動板が覆うことにより、当該部位における応力集中が抑制される。
【0013】
前記手動変速機において、前記ロックボール転動板の波状部が形成された面と反対側の面に、油溜り用凹部が形成されていることが望ましい。
【0014】
かかる構成を備える手動変速機によれば、油溜り用凹部に潤滑油を溜めることで前記ロックボール転動板と前記一方の脚部との摺動抵抗を緩和することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の手動変速機によれば、ロックボール転動板の波状部が形成された面と反対側の面が脚部に対して面接触しているので、ロックボール転動板と脚部との間に隙間が形成されている従来の手動変速機のロックボールホルダと比較して、スプリング反力を作用点とするモーメントアームが短くなり、ロックボールホルダに発生する最大曲げ応力が抑制される。その結果として、ロックボールホルダの強度を、板厚を上げることなく、低コストで省スペースな方法で確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る手動変速機のシフトアンドセレクトシャフトおよびその周囲のロックボール機構を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】シフトインナーレバーの底面図である。
【図4】図3のB−B断面図である。
【図5】従来の手動変速機のシフトアンドセレクトシャフトおよびその周囲のロックボール機構を示す斜視図である。
【図6】図5のC−C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1および図2は、本発明の実施の形態に係る手動変速機のシフトアンドセレクトシャフト1およびその周囲に設けられたロックボール機構4を示している。
【0018】
シフトアンドセレクトシャフト1は、ミッションケース(不図示)内に摺動自在に支持されている。このシャフト1には、運転者が操作する変速レバー(不図示)のシフト操作力およびセレクト操作力がケーブル、アウターレバー等を介して伝達される。本実施形態では、シフトアンドセレクトシャフト1は、セレクト操作力によって軸線方向に移動し、シフト操作力によって軸線回りに回動する。
【0019】
このシフトアンドセレクトシャフト1には、シフトインナーレバー2の筒状(ボス状)の基部21がスプライン嵌合され、シフトアンドセレクトシャフト1および上記基部21には径方向にスロテッドピン3が貫通されている。これにより、シフトアンドセレクトシャフト1とシフトインナーレバー2は軸線方向に一体に移動しかつ軸線回りに一体に回動する。
【0020】
シフトインナーレバー2は、シフトアンドセレクトシャフト1の側方に延出しており、その先端部が回動することにより、複数のシフトフォークシャフトにそれぞれ設けられたシフトヘッド(不図示)の何れか1つに選択的に係合される。そして、シフトインナーレバー2が係合したシフトヘッドおよびこのシフトヘッドが設けられたシフトフォークシャフトにシフト操作力が伝達されることにより、対応するシンクロメッシュ機構が作動し、または、リバースアイドラギヤが摺動してリバースギヤ対が噛合し、その結果、変速レバーによって運転者が選択した変速段へのシフトチェンジが実行される。
【0021】
ロックボール機構4は、図2に示すように、シフトインナーレバー2の基部21に形成された波状部22と、この波状部22に向かってコイルスプリング8によって押圧されたロックボール5と、ロックボール5および押し縮められた状態のコイルスプリング8を摺動自在に内装した筒状のロックボールガイド6と、ロックボールガイド6が固設されたロックボールホルダ7とを有している。
【0022】
波状部22は、シフトインナーレバー2の基部21から径方向に張り出したロックボール転動板13の片面(ロックボール5が配置される側の面;以下この面を「表面」とする。)において、シフトアンドセレクトシャフト1の周方向所定範囲に形成されている。この波状部22には、3つの溝221〜223が形成されている。変速レバーがニュートラル位置に配置されると、ロックボール5が真ん中の溝221に嵌まり込み、変速レバーが一方のシフト位置に配置されると、ロックボール5がニュートラル用の溝221の一側に形成された溝222に嵌まり込み、変速レバーが他方のシフト位置に配置されると、ロックボール5がニュートラル用の溝221の他側に形成された溝223に嵌まり込む。これにより、シフト操作する際にニュートラル位置および各変速段位置において節度感を持たせるシフトフィーリングが実現される。
【0023】
ロックボール転動板13は、その裏面がロックボールガイド6が設けられていない方の脚部71Aに対して面接触しており、変速レバーの操作状態(ロックボール転動板13とロックボールホルダ7との相対位置)にかかわらず常に後述する貫通孔73を覆うように形成されている。
【0024】
また、ロックボール転動板13には、油溜り用凹部131が形成されている。この油溜り用凹部13の両側縁部131a,131bは、例えば図3および図4に示すように、シフトアンドセレクトシャフト1の外周面11と同心円弧状に形成されている。
【0025】
ロックボールホルダ7は、互いに平行に配置された一対の平板状の脚部71,71と、これらの脚部71,71の端部に連続的に架設された架設部72と、を有し、これらの脚部71,71には、シフトアンドセレクトシャフト1が相対回動自在に貫通している。また、一対の脚部71,71は、シフトインナーレバー2の基部21を隙間なく挟むように配置されており、ロックボールホルダ7が、シフトインナーレバー2に対して軸線方向に相対移動不能となっている。一方の脚部71Bには、既述のロックボールガイド6が貫通し、当該脚部71Bに溶接されている。また、上記ロックボール転動板13の裏面が面接触している方の脚部71Aには、貫通孔73が設けられている。この貫通孔73は、ロックボール5、コイルスプリング8をロックボールガイド6内に組み付ける際に、これらを通すために設けられている。
【0026】
上記構成を備える手動変速機によれば、コイルスプリング8の反力によって、両脚部71を開脚させる方向にロックボールホルダ7に曲げ応力が発生しても、ロックボール転動板13の裏面が脚部71Aに対して面接触しているので、ロックボール転動板13と脚部71Aとの間に隙間が形成されていた従来のものと比較して、コイルスプリング8の反力を作用点とするモーメントアームが短くなる。その結果、ロックボールホルダ7の板厚、板幅等のサイズアップを行うことなく、ロックボールホルダ7に発生する最大曲げ応力が抑制されるようになる。
【0027】
また、脚部71Aには、貫通孔73が形成されているため、この貫通孔73の近傍において、応力が集中し易くなっているが、ロックボール転動板13が当該貫通孔73を覆っていることにより、貫通孔73の近傍における曲げ応力の集中も抑制される。
【0028】
また、ロックボール転動板13に形成された油溜り用凹部131に潤滑油を充填しておくことで、ロックボール転動板13と脚部71Aとの摺動抵抗が抑制され、シフト操作時の操作負担も軽減される。また、ロックボール転動板13と脚部71Aとの摺動による磨耗も抑制される。
【0029】
また、脚部71Aに対して面接触しつつ摺動するロックボール転動板13に油溜り用凹部131が形成されていることにより、ロックボール転動板131と脚部71Aとの接触面積が低減されているので、油溜り用凹部131が形成されていない場合と比較して、摺動抵抗が抑制され、シフト操作時の操作負担も軽減される。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、例えば自動車に搭載される手動変速機に適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
2 シフトインナーレバー
4 ロックボール機構
5 ロックボール
6 ロックボールガイド
7 ロックボールホルダ
8 コイルスプリング(スプリング)
13 ロックボール転動板
21 シフトインナーレバーの基部
22 波状部
71A 脚部(一方の脚部)
131 油溜り用凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シフトインナーレバーの基部から径方向に張り出したロックボール転動板の片面に形成された波状部と、押し縮められた状態のスプリングによって前記波状部に押圧されるロックボールと、前記スプリングおよび前記ロックボールを摺動自在に内装したロックボールガイドと、ロックボールホルダと、を含み、
前記ロックボールホルダは、互いに平行に配設された平板からなる一対の脚部を有し、その脚部の一方に前記ロックボールガイドが固設された、ロックボール機構を備えた手動変速機において、
前記ロックボール転動板の波状部が形成された面と反対側の面が前記一方の脚部に対して面接触していることを特徴とする手動変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の手動変速機において、
前記ロックボール転動板の波状部が形成された面と反対側の面に、油溜り用凹部が形成されていることを特徴とする手動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−97763(P2012−97763A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243250(P2010−243250)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】