説明

手術用映像表示装置

【課題】内視鏡手術等の手術に用いられるものであって、内視鏡手術を行うために十分な偏光特性と、ハレーションの低減効果と、が得られる手術用映像表示装置を提供する。
【解決手段】外部カメラと、外部カメラからの映像信号を受けて映像を投影する映像投影手段と、映像投影手段により投影された映像を表示する半球ドーム型の投影面を有する映像表示手段と、外部カメラが撮像した映像を受け、外部カメラが撮像した映像が映像表示手段に歪みなく表示されるように映像投影手段に入力される映像信号に歪み補正処理を行う映像信号処理手段と、を備え、映像表示手段の投影面の算術平均粗さRaは、3μm以上7μm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、スクリーンに映像を表示する手術用映像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、凹面スクリーンを用いた映像表示システムが提案されている。これらの映像表示システムは、広視野の映像を凹面スクリーンに投影することにより、平面スクリーンの場合よりも臨場感の高い映像空間を観察者に提供し、没入感を観察者に与えるものである。
【0003】
しかしながら、凹面スクリーンを用いると、入射光がスクリーン面上で多重反射を起こしやすいため、スクリーン全体に靄がかかったように白く見えるハレーションが発生しやすい。この問題を解決するため、スクリーンの表面に凹凸を設けた映像表示システムがある(特許文献1)。特許文献1に記載の立体映像提示システムは、偏光を用いて立体映像を表示するものであり、表面の算術平均粗さは20μm以上60μm以下の凹面スクリーンにより、偏光特性を保ちながらハレーションを軽減している。
【0004】
また、映像表示装置としては、例えば内視鏡カメラといった外部カメラで撮影された映像を凹面スクリーンに歪みのないように投影し見ながら行う内視鏡手術に適用可能なものもある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4023479号公報
【特許文献2】特許第4241893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載の映像表示装置を用いて内視鏡手術を行う場合、例えば、術者がベッド等に横たわっている患者を挟んで凹面スクリーンの映像を見るような位置関係となる。このような場合、凹面スクリーンの表面の算術平均粗さを20μm以上60μm以下としても、十分な偏光特性とハレーションの低減を実現できない場合があった。
【0007】
本発明は上記事由に鑑みて為されており、内視鏡手術を行うために十分な偏光特性と、ハレーションの低減効果と、が得られる手術用映像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の手術用映像表示装置は、外部カメラと、映像投影手段と、映像表示手段と、映像信号処理手段と、を備えるものである。映像投影手段は、外部カメラからの映像信号を受けて映像を投影するし、映像表示手段は、映像投影手段により投影された映像を表示する半球ドーム型の投影面を有する。映像信号処理手段は、外部カメラが撮像した映像を受け、外部カメラが撮像した映像が映像表示手段に歪みなく表示されるように映像投影手段に入力される映像信号に歪み補正処理を行う。そして、上記課題を解決するために、この手術用映像表示装置は、映像表示手段の投影面の算術平均粗さRaは、3μm以上7μm以下であることを特徴としている。
【0009】
この手術用映像表示装置は、映像表示手段の投影面において、中心部は周辺部よりも表面粗さが小さくてもよい。
【0010】
このとき、中心部は、術者の視点位置から見て30°の有効視野の内部であり、周辺部は、術者の視点位置から見て30°の有効視野の外部であることが好ましい。
【0011】
この映像表示手段の投影面において、中心部と周辺部との間に、表面粗さが中心部より大きく周辺部より小さい中間部を設けてもよい。
【0012】
また、この手術用映像表示装置の映像投影手段は、左目用の映像を出力する左目用プロジェクタと、右目用の映像を出力する右目用プロジェクタとを備え、映像表示手段に立体映像を表示するものであるほうがよい。
【発明の効果】
【0013】
本願発明の手術用映像表示装置は、映像表示手段の投影面の算術平均粗さRaを3μm以上7μm以下としたので、内視鏡手術を行うために十分な偏光特性と、ハレーションの低減効果と、が得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本願発明の実施形態にかかる手術用映像表示装置の斜視図である。
【図2】本願発明の実施形態にかかる手術用映像表示装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本願発明の実施形態の投影面50の中心部および周辺部を説明するための図である。
【図4】本願発明の実施形態の投影面50の中心部、中間部、周辺部を説明するための図である。
【図5】本願発明の実施形態にかかる手術用映像表示装置の使用状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態>
以下、本願発明にかかる実施形態について図面を用いて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。ただし、以下の実施形態は本願発明の実施例を示したに過ぎず、本願発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
本願発明の実施形態を図1、図2に示す。この手術用映像表示装置は例えば立体内視鏡などの外部カメラ13に接続され、外部カメラ13が撮像した映像を歪みなくスクリーン5に立体的に表示するもので、観察者は、外部カメラ13が撮像した映像をスクリーン5で観察しながら様々な作業を行うことができる。
【0017】
本実施形態では、立体映像をスクリーン5に表示するために、外部カメラ13は左目用の映像を撮像する左目用外部カメラ13aと右目用の映像を撮像する右目用外部カメラ13bとを備え、左目用外部カメラ13aと右目用外部カメラ13bは一つの筐体の中に並設されている。なお、スクリーン5に2次元の映像を表示する場合は、外部カメラ13は一つでもよい。
【0018】
この手術用映像表示装置は、左目用プロジェクタ20および右目用プロジェクタ21(映像投影手段)と、反射鏡4と、スクリーン5(映像表示手段)と、映像信号処理部1(映像信号処理手段)と、土台部6Aと、昇降装置8とを備える。プロジェクタ20、21は、映像信号を受けて映像を投影する。反射鏡4は、プロジェクタ20、21から投影された映像を反射する。スクリーン5は、反射鏡4によって反射された映像が投影される、半球ドーム型の投影面50を有する。映像信号処理部1は、外部カメラ13a、13bに接続される。そして、映像信号処理部1は、プロジェクタ20、21からの映像が投影面50に歪みなく表示されるよう、図2に示すように、プロジェクタ20、21に入力される映像信号に歪み補正処理を行う。土台部6Aは、プロジェクタ20、21、反射鏡4、スクリーン5を支持する。昇降装置8は、一体化された、プロジェクタ20および21と反射鏡4とスクリーン5と、を土台部6Aに対して垂直に移動させる。この昇降装置8による移動について、詳しくは後述する。
【0019】
映像信号処理部1は、例えばパソコンから構成される。図2中に、映像信号処理部1のブロック図を示す。映像信号処理部1は、左目用の映像信号を補正する左目用映像補正部11と、右目用の映像信号を補正する右目用映像補正部12と、左目用映像補正部11と右目用映像補正部12を同期して制御する制御部10と、を備えている。
【0020】
左目用映像補正部11は、左目用外部カメラ13aと接続され、左目用の映像が曲面スクリーン5上に歪むことなく表示されるように、左目用の映像信号に対して補正パラメータを演算し、補正パラメータに基づいて歪み補正を行う。換言すれば、左目用映像補正部11は、スクリーン5に歪みや変形のない映像を表示するために、左目用の映像に予め歪みを与える。
【0021】
右目用映像補正部12は、右目用外部カメラ13bと接続され、左目用映像補正部11と同様に、右目用の映像が曲面スクリーン5上に歪むことなく表示されるように、右目用の映像信号に対して補正パラメータを演算し、補正パラメータに基づいて歪み補正を行う。すなわち、右目用映像補正部12は、スクリーン5に歪みや変形のない映像を表示するために、右目用の映像に予め歪みを与える。
【0022】
左目用プロジェクタ20は左目用映像補正部11と接続され、左目用映像補正部11によって補正された左目用の映像信号を受けて、レンズ200から左目用の映像を投影する。右目用プロジェクタ21は右目用映像補正部12と接続され、右目用映像補正部12から出力された歪み補正後の右目用の映像信号を受けて、レンズ210から右目用の映像光を投影する。
【0023】
左目用プロジェクタ20のレンズ200には左目用偏光フィルタ30が取り付けられ、右目用プロジェクタ21のレンズ210には右目用偏光フィルタ31が取り付けられる。左目用偏光フィルタ30、右目用偏光フィルタ31は、互いに異なる円偏光を透過させる。左目用プロジェクタ20から投影された左目用の映像は左目用偏光フィルタ30を透過し、右目用プロジェクタ21から投影された右目用の映像は右目用偏光フィルタ31を透過する。なお、各偏光フィルタ30、31は円偏光を透過させるものに限定されず、直線偏光を透過させるものであってもよい。例えば、左目用偏光フィルタ30が垂直方向の直線偏光を透過させ、右目用偏光フィルタ31が水平方向の直線偏光を透過させてもよい。
【0024】
反射鏡4は、観察者の視野の上方に設置され、左目用プロジェクタ20および右目用プロジェクタ21から投影された左目用の映像および右目用の映像をスクリーン5の投影面50に反射する。
【0025】
スクリーン5の投影面50は、上述のように半球ドーム型である。なお、スクリーン5の半球ドーム型という形状は、厳密な半球型に限定されるものではない。例えば、図1の例のように、半球のさらに一部である、皿のような形状でもよいし、楕円体の一部を切り取ったような形状でもよい。スクリーン5がこのような形状であっても、映像信号処理部1によって、歪みのない映像が投影面50に表示される。また、偏光を用いて立体映像を表示する場合、プロジェクタ20、21から出力された偏光の偏光特性を維持したまま偏光メガネを透過しなければならないので、スクリーン5は、反射時に偏光特性を破壊しないように偏光を反射させることが要求される。よって、スクリーン5として、例えばシルバー塗料など鏡面反射効果を有する塗料が塗装されている鏡面反射スクリーンが用いられる。このスクリーンは一般にシルバースクリーンと称されている。スクリーン5は外周に沿って鍔部(枠)52を有し、鍔部52の内側に半球ドーム型の投影面50が形成されている。
【0026】
また、投影面50は細かな凹凸を有している。この凹凸の形状は、例えば、球面状、多角形状、多角錘状またはこれらの混合等である。プロジェクタ20、21からの映像を投影面50に投影する場合、プロジェクタ20、21からの直接光が投影面50によって反射され、その反射光が、半球ドーム型である投影面50の他の面によってさらに反射される多重反射(相互反射)が起こることがある。投影面50が半球ドーム型という凹型の形状であるために、特に半球ドーム型の投影面50の端部側に照射された映像については、投影面50上の反射面で反射した後に反射光として照射された先が、投影面50の一部であることがしばしばある。これにより、投影面50全体に、靄がかかったように白く見えるハレーションが発生する。また、反射光として照射された先の投影面50の一部は、反射面の反対側の投影面50端部であることが多い。このため、特に投影面50の端部において、ハレーションが強くなりやすい。投影面50において、表面粗さを大きくし凹凸の起伏を大きくすると、偏光の破壊は抑えつつも、上述したような、投影面50上での相互反射によるハレーションが低減される。
【0027】
本実施形態において、この投影面50の表面の算術平均粗さRaは、3μm以上7μm以下である。投影面50の表面の算術平均粗さRaは、4μm台および5μm台、つまり、4μm以上6μm未満であればなおよい。
【0028】
この投影面50上の領域を中心部と周辺部で見た場合、投影面50の表面粗さ(表面の算術平均粗さRa)は中心部と周辺部とで異なる。中心部では周辺部よりも表面粗さを小さくし、周辺部では中心部よりも表面粗さを大きくする。つまり、反射面が観察者側を向いているために投影面50上での相互反射の影響が少ない中心部では表面粗さを小さくし、前述のように相互反射の影響が大きい周辺部では表面粗さを大きくする。これにより、中心部では表面粗さが小さいため、投影された映像に凹凸の影などといった粒状感が現れにくくなる。周辺部では表面粗さが大きいため、相互反射が発生しにくくなる。このことから、観察者が注視する頻度が高いと想定される中心部では、表面の凹凸による影響の小さい鮮明な映像を観察することが可能となり、周辺部においても相互反射の影響の小さい映像を観察することが可能となる。
【0029】
本実施形態における、中心部と周辺部の決定方法を説明する。まず、観察者の視点位置を想定する。そして、図3に示すように、投影面50上において、その視点位置から見て視野角30°の有効視野の範囲に収まる領域を中心部とし、視野角30°の範囲の外になる領域を周辺部とする。視野角30°の範囲である有効視野に収まる領域は、眼球運動によって情報を注視することが可能な領域と考えられる。この領域を中心部として、中心部の表面粗さを小さくすることで、情報認識をしやすい領域において鮮明な映像を表示することが可能となる。また、図4に示すように、中心部と周辺部の間に中間部を設けてもよい。中間部においては、表面粗さが中心部より大きく周辺部より小さい。このとき、視野角30°の範囲の外になる領域のうち、例えば視野角40°の範囲に収まる領域を中間部とし、その外側の領域を周辺部とする。中間部においては、中心部との境目から周辺部との境目にかけて、表面粗さを連続的に変化させる。この変化は、例えば、直線的な変化でもよいし、2次曲線や3次曲線に当てはめた変化でもよいし、対数関数に当てはめた変化など、他のものでもよい。中間部を設けることにより、中心部と周辺部との境目で表面粗さが急激に変化することを防ぐことができる。なお、投影面50を中心部、中間部、周辺部に分けるのではなく、投影面50の中央から周縁にかけて、連続的に表面粗さを変化させてもよい。
【0030】
このように形成された投影面50について、2つの試料に対して表面粗さの測定を行った。測定に用いた試料は、半径1000mmの球を開口径600mmの部分でカットした半球底浅ドーム型の、アルミ製投影面を持つスクリーンである。このとき、超深度形状測定顕微鏡を用いて、試料であるスクリーンの、中央および中央から100mm外側の表面粗さを測定した。結果を表1に示す。試料1、2とも、算術平均粗さRaは3μm以上7μm以下の間に収まっている。また、試料1については、スクリーン中心の方が、スクリーン中央から100mm外側よりも算術平均粗さRaが小さくなっている。
【0031】
【表1】

【0032】
土台部6Aは、金属板からなり、上面が開放された箱形に形成されている。土台部6Aは下端に一対の脚部60を備える。各脚部60には、長手方向の両端下部にそれぞれキャスター600が取り付けられている。
【0033】
また、プロジェクタ20、21、反射鏡4、スクリーン5は、取付部材を用いて一体に組み合わせられ、一つの移動体7を構成する。この取付部材は、下取付部材72と中央取付部材73と上取付部材74とからなる。
【0034】
下取付部材72は、例えば金属板からなり、箱形に形成され、土台部6Aに昇降可能に収納される。下取付部材72を箱形の土台部6A内に収納することによって、移動体7を安定して保持することができる。さらに、下取付部材72と土台部6Aの底面との間には、昇降装置8の駆動部80が配置される。また、下取付部材72の上面720の中心から、円筒状の軸部750が突出している。
【0035】
中央取付部材73は、例えば金属板からなり、下面に貫通孔735を有し、下取付部材72の軸部750が貫通孔735を貫通するように、下取付部材72の上に配置される。これにより中央取付部材73は、下取付部材72に対して、図1の矢印Bの方向に回転可能となる。また、中央取付部材73の両側面732の上方には、それぞれ貫通孔733が形成される。
【0036】
上取付部材74は、例えば金属板からなり、上取付部材74の両側面の下方には、それぞれ貫通孔743が形成される。上取付部材74は、上取付部材74の貫通孔743の位置と中央取付部材73の貫通孔733の位置とが一致するように、上取付部材74の下側部分を中央取付部材73の上側部分に重ねて配置される。そして、貫通孔743、733にボルト751が挿通され、上取付部材74は、中央取付部材73に対してボルト751を軸として傾斜可能、すなわち、図1の矢印Aの方向に傾斜可能となる。
【0037】
上取付部材74の正面(図1でα軸の正の方向側の面)と中央取付部材73の正面とに跨る形で、スクリーン5を配置するための凹部731が形成される。スクリーン5は、凹部731に配置されるが、中央取付部材73には固定されず、上取付部材74のみに固定される。上取付部材74が中央取付部材73側に傾斜したときにスクリーン5の背面と凹部731とが干渉しないように、スクリーン5の背面と凹部731との間には、所定のスペースが設けられている。このようにスクリーン5が上取付部材74に固定されると、スクリーン5の開口面と上取付部材74の正面は略同一面となる。半球ドーム型の投影面50を凹部731に配置することで、スクリーン5の上取付部材74からの突出を抑制することができ、装置の小型化を図ることができる。
【0038】
上取付部材74の上部には、プロジェクタ収納部71が設けられ、プロジェクタ20、21および反射鏡4は、上取付部材74に固定されている。すなわち、プロジェクタ20、21、反射鏡4、スクリーン5は、取付部材のうち、上取付部材74を用いて一体に組み合わせられて一つの移動体7を構成している。また、プロジェクタ収納部71の両側から手術用映像表示装置の正面側に向かって一対のアーム714が延出されている。
【0039】
プロジェクタ収納部71は、少なくとも手術用映像表示装置の正面側の側面が開放された箱形である。プロジェクタ20、21は、プロジェクタ収納部71内に固定される。プロジェクタ20、21のレンズ200、210は、開放された側面から偏光フィルタ30、31を介して外部に臨んでいる。
【0040】
反射鏡4は一対のアーム714の先端713に所定の角度で固定されている。
【0041】
昇降装置8は、例えば油圧式で移動体7を昇降させるものであり、駆動部80と、上昇ステップ81と、下降レバーノブ82とを備えている。駆動部80は、土台部6Aの下面に配置され、駆動部80の上面800に下取付部材72が固定して載置される。上昇ステップ81および下降レバーノブ82は土台部6Aの背面側(図1でα軸の負の方向側の面)に設けられている。使用者が上昇ステップ81を上から下に踏むと、駆動部80の上面800が上昇する。何回も踏むとさらに上面800が上昇する。これに対して、使用者が下降レバーノブ82を反時計回りに回すと、駆動部80の上面800が下降する。下降レバーノブ82を時計回りに回すと上面800の上下動がロックされる。すなわち、この昇降装置8は、使用者が上昇ステップ81および下降レバーノブ82を操作することによって、駆動部80の上面800を土台部6Aに対して垂直に昇降させることができ、これにより、駆動部80の上面800に載置された下取付部材72を、土台部6Aに対して垂直に移動することができる。つまり、下取付部材72の上方に、中央取付部材73を介して配置された移動体7を、土台部6Aに対して垂直に移動することができる。
【0042】
次に、本実施形態の手術用映像表示装置の使用方法について述べる。図5に示すように、本実施形態の手術用映像表示装置を使用する際は、手術用映像表示装置の前に手術台Aが設置され、手術台Aの上に患者Bが横たえられる。また、図5では立体内視鏡などの外部カメラ13は図示していないが、外部カメラ13が患者Bの患部、つまり、手術対象箇所を撮像するように操作され、外部カメラ13が撮像した映像、すなわち、手術対象箇所がスクリーン5上に立体的に表示される。1または複数の術者(観察者)Cは、スクリーン5に表示された映像を見ながら、患者Bに対して手術を行う。
【0043】
本実施形態の手術用映像表示装置においては、昇降装置8が下取付部材72を昇降させると、下取付部材72、中央取付部材73を介して、移動体7が土台部6Aに対して垂直方向に移動する。従って、術者Cは、昇降装置8を操作することによって、移動体7を土台部6Aに対して垂直方向に移動させ、スクリーン5を見やすい高さに調節することができる。
【0044】
また、本実施形態の手術用映像表示装置においては、手動や電動で上取付部材74を中央取付部材73に対して傾斜させることで、移動体7を回転させることができる。回転の方向は、医療用映像表示装置の上下方向に直交しかつ投影面50の開口面に平行な軸の周り、すなわち、図1のβ軸の周りである。これにより、移動体7を土台部6Aに対して傾斜させることができる。さらに、本実施形態の手術用映像表示装置においては、中央取付部材73を下取付部材72に対して回転させることで、移動体7を回転させることができる。回転の方向は、医療用映像表示装置の上下方向に沿った軸の周り、すなわち、図1のγ軸の周りである。つまり、これにより移動体7を土台部6Aに対して回転させることができる。従って、術者Cは、必要に応じてスクリーン5の角度を変えることができる。
【0045】
このとき、プロジェクタ20、21、反射鏡4、スクリーン5は、一体に組み合わせられて一つの移動体7を構成しており、互いの位置関係が固定されている。このため、移動体7を土台部6Aに対して移動、傾斜、回転させても、プロジェクタ20、21、反射鏡4、スクリーン5の互いの位置関係は固定されたままであり、常に歪みのない映像がスクリーン5に表示される。また、この手術用映像表示装置はキャスター600を備えるので、土台部6Aを押すことで、手術用映像表示装置を、例えば部屋から別の部屋へと容易に移動させることができる。移動体7の高さを下げることで、例えば部屋のドアなども通過しやすくなる。プロジェクタ20、21、反射鏡4、スクリーン5が一体化されていない場合、スクリーン5の高さや角度が変わると、プロジェクタ20、21、反射鏡4、スクリーン5の互いの位置関係が変わる可能性がある。これにより、スクリーン5の中央に映像が表示されなかったり、歪んだ映像がスクリーンに表示される恐れがある。そのため、スクリーン5の高さや角度を変えるたびに、プロジェクタ20、21、反射鏡4、スクリーン5の位置関係を調整しなければならず、位置調整に多大な労力を要する。それに対して、本実施形態のように、プロジェクタ20、21、反射鏡4、スクリーン5を組み合わせて一つの移動体7を構成した場合、それらの互いの位置関係は固定される。よって、本実施形態のような手術用映像表示装置は、移動体7の高さや角度を変えても、位置関係を調整することなく、常に所望の歪みのない映像をスクリーン5に表示することができる。
【0046】
次に、本実施形態の手術用映像表示装置の動作について図2、図5を参照しながら説明する。まず、外部カメラ13a、13bが患者Bの患部を撮像する。外部カメラ13a、13bの映像信号は、映像信号処理部1に入力され、左目用映像補正部11、右目用映像補正部12によって、映像がスクリーン5上に歪むことなく表示されるように、歪み補正が行われる。左目用映像補正部11、右目用映像補正部12は制御部10によって同期され、補正された映像信号が、プロジェクタ20、21に出力される。プロジェクタ20、21はそれぞれ左目用の映像信号、右目用の映像信号を受け、左目用の映像と右目用の映像を出力する。プロジェクタ20、21から出力された映像は、左目用偏光フィルタ30および右目用偏光フィルタ31を透過し、反射鏡4で反射されスクリーン5の投影面50に投影される。術者Cは、スクリーン5を見るときに立体視めがね9を装着する。立体視めがね9は、左目用偏光フィルタ30と同じ偏光方式の偏光フィルタを左目部分に有し、右目用偏光フィルタ31と同じ偏光方式の偏光フィルタを右目部分に有する。スクリーン5に表示された映像を立体視めがね9を通して見ることで、術者Cは立体映像を見ることができる。ここで、スクリーン5の投影面50には、3μm以上7μm以下の凹凸が加工されているので、術者Cはハレーションの少ない、しかも立体の映像を見ることができる。
【0047】
以上のように、本実施形態の手術用映像表示装置は、内視鏡手術を行うために十分な偏光特性とハレーションの低減効果を得ることができる。
【0048】
また、本実施形態の医療用映像表示装置は、用途や使用者の身長などに応じて、スクリーン5の高さを調節することができる。このとき、スクリーンの高さを変えても、常に歪みのない映像を表示することができる。
【0049】
さらに、本実施形態の医療用映像表示装置においては、使用者は移動体7を垂直に移動させるだけでなく、移動体7を土台部6Aに対して傾斜させたり回転させたりすることができる。これにより、用途や身長、立ち位置などに応じて、スクリーンの高さや角度をより細かく調節することができる。
【0050】
ところで、本実施形態では、プロジェクタ20、21から出力された映像を、反射鏡4を用いてスクリーン5に反射させていた。反射鏡4を備えることによって、プロジェクタ20、21およびスクリーン5を一列に設置する必要がなくなり、手術用映像表示装置を小さくすることができる。しかしながら、反射鏡4を設けた場合、反射鏡4が観察者の視野に入って、映像を遮るおそれがある。従って、反射鏡4を備える場合、観察者が反射鏡4に視線を遮られることなく投影面50全域を見ることができるように、反射鏡4を設置することが好ましい。
【0051】
なお、本実施形態では、プロジェクタ20、21が出力した映像を、反射鏡4を介してスクリーン5に投影していた。しかし、アーム714の先端側に、スクリーン5と対向するようにプロジェクタ20、21を配置し、プロジェクタ20、21から投影された映像がスクリーン5に直接投影されるように構成してもよい。この場合の手術用映像表示装置は、プロジェクタ20、21と、スクリーン5と、映像信号処理部1と、プロジェクタ20、21およびスクリーン5を支持する土台部6Aとを備える。そして、プロジェクタ20、21とスクリーン5が一体に組み合わせられて一つの移動体(図示せず)を構成し、その移動体が昇降装置8によって垂直に移動される構成でもよい。映像信号処理部1および土台部6Aの構成は図1の手術用映像表示装置と同様である。この場合も、移動体が昇降および回転可能なため、使用者は、スクリーン5を最も見やすい位置および角度に調節することができる。さらに、プロジェクタ20、21とスクリーン5との位置関係が固定されているため、移動体を移動させても、常に歪みのない映像がスクリーン5に表示される。なお、この場合も、スクリーン5を取付部材の凹部に配置し、取付部材を土台部6Aに昇降自在に収納するのが好ましい。
【符号の説明】
【0052】
1 映像信号処理部(映像信号処理手段)
5 スクリーン(映像表示手段)
13 外部カメラ
20、21 プロジェクタ(映像投影手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部カメラと、
前記外部カメラからの映像信号を受けて映像を投影する映像投影手段と、
前記映像投影手段により投影された映像を表示する半球ドーム型の投影面を有する映像表示手段と、
前記外部カメラが撮像した映像を受け、外部カメラが撮像した映像が前記映像表示手段に歪みなく表示されるように前記映像投影手段に入力される映像信号に歪み補正処理を行う映像信号処理手段と、
を備えた手術用映像表示装置であって、
前記映像表示手段の投影面の算術平均粗さRaは、3μm以上7μm以下である
ことを特徴とする手術用映像表示装置。
【請求項2】
前記映像表示手段の投影面において、中心部は周辺部よりも表面粗さが小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の手術用映像表示装置。
【請求項3】
前記中心部は、術者の視点位置から見て30°の有効視野の内部であり、前記周辺部は、術者の視点位置から見て30°の有効視野の外部である
ことを特徴とする請求項2に記載の手術用映像表示装置。
【請求項4】
前記映像表示手段の投影面において、前記中心部と前記周辺部との間に、前記表面粗さが前記中心部より大きく前記周辺部より小さい中間部を設けた
ことを特徴とする請求項2または3に記載の手術用映像表示装置。
【請求項5】
前記映像投影手段は、左目用の映像を出力する左目用プロジェクタと、右目用の映像を出力する右目用プロジェクタとを備え、前記映像表示手段に立体映像を表示する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の手術用映像表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−226204(P2012−226204A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94942(P2011−94942)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】