説明

投射光学系及び画像投射装置

【課題】プラスチックレンズの成型加工の際に発生する屈折率分布を考慮した投射光学系、及び前記投射光学系を備えた画像投射装置を提供する。
【解決手段】画像形成素子17に形成された画像を被投射面90に拡大投射する投射光学系18であって、前記画像形成素子から前記被投射面までの光路上に、光軸を共有する共軸光学系19と、1枚の非回転対称な曲面ミラー20を有し前記共軸光学系と光軸を共有しない非共軸光学系とが、この順番で配置され、前記共軸光学系は、正屈折力を有する非球面プラスチックレンズである第1レンズ19cと、負屈折力を有する非球面プラスチックレンズである第2レンズ19dと、を有し、前記第1及び第2レンズは、何れもレンズの中心から周辺に向けて屈折率分布を有し、前記第1及び第2レンズの一方は、前記共軸光学系のうち前記曲面ミラーに最も近接して配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投射光学系、及び前記投射光学系を有する画像投射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像投射装置として広く知られた液晶プロジェクタは、近来、液晶パネルの高解像化、光源ランプの高効率化に伴う明るさの改善、低価格化等が進んでいる。又、DMD(DigitAl Micro−mirror Device)等を利用した小型軽量な画像投射装置が普及し、オフィスや学校のみならず家庭においても広く画像投射装置が利用されつつある。特に、フロントタイプのプロジェクタは携帯性が向上し、数人規模の小会議にも使われている。このような画像投射装置に搭載する投射光学系において、曲面ミラーを備えたものが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、例えば、曲面ミラーとして自由曲面ミラーを採用し、自由曲面ミラー近傍にプラスチックレンズを配置した投射光学系を考える。このような投射光学系では、製造工程で誤差が生じると像面湾曲が発生し、ピントの補正を行うとスクリーン等の被投射面に投射される画像に補正できない歪みが発生するという問題がある。製造工程で生じる誤差の中で、特に像面湾曲発生の要因となるのが、自由曲面ミラー近傍に配置するプラスチックレンズの成型加工の際に発生する屈折率分布である。
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3を含めた従来の投射光学系では、実際の製造工程で生じる誤差については考慮されておらず、特にプラスチックレンズの成型加工の際に発生する屈折率分布については全く考慮されていなかった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、プラスチックレンズの成型加工の際に発生する屈折率分布を考慮した投射光学系、及び前記投射光学系を備えた画像投射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本投射光学系は、画像形成素子に形成された画像を被投射面に拡大投射する投射光学系であって、前記画像形成素子から前記被投射面までの光路上に、光軸を共有する共軸光学系と、1枚の非回転対称な曲面ミラーを有し前記共軸光学系と光軸を共有しない非共軸光学系とが、この順番で配置され、前記共軸光学系は、正屈折力を有する非球面プラスチックレンズである第1レンズと、負屈折力を有する非球面プラスチックレンズである第2レンズと、を有し、前記第1及び第2レンズは、何れもレンズの中心から周辺に向けて屈折率分布を有し、前記第1及び第2レンズの一方は、前記共軸光学系のうち前記曲面ミラーに最も近接して配置されていることを要件とする。
【0007】
本画像投射装置は、変調信号に応じて画像を形成する前記画像形成素子に、光源からの照明光を照射し、前記画像形成素子に形成された前記画像を、本発明に係る投射光学系により前記被投射面に拡大投射することを要件とする。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、プラスチックレンズの成型加工の際に発生する屈折率分布を考慮した投射光学系、及び前記投射光学系を備えた画像投射装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施の形態に係る画像投射装置を例示する模式図である。
【図2】第1の実施の形態に係る投射光学系を簡略化して例示する光路図である。
【図3】曲面ミラーについて説明するための図(その1)である。
【図4】曲面ミラーについて説明するための図(その2)である。
【図5】曲面ミラーについて説明するための図(その3)である。
【図6】第1の実施の形態に係る投射光学系を例示する光路図である。
【図7】第1の実施の形態に係るフォーカス調整について説明するための図である。
【図8】フォーカス調整時に発生する画面の歪みについて説明するための図(その1)である。
【図9】フォーカス調整時に発生する画面の歪みについて説明するための図(その2)である。
【図10】非球面プラスチックレンズの屈折率分布を例示する図である。
【図11】第2の実施の形態に係る投射光学系を例示する光路図である。
【図12】第3の実施の形態に係る投射光学系を例示する光路図である。
【図13】第4の実施の形態に係る投射光学系を例示する光路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。なお、各実施の形態において、スクリーンの長軸方向(横方向)をX、短軸方向(縦方向)をY、法線方向をZとする。
【0011】
〈第1の実施の形態〉
図1は、第1の実施の形態に係る画像投射装置を例示する模式図である。図1に示す画像投射装置10は、大略的には、光源11から出射された光で画像表示素子17を照明し、画像表示素子17の拡大像を投射光学系18でスクリーン90に投射する装置である。光源11としては、ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、超高圧水銀ランプ、LED等を用いることができる。画像表示素子17としては、例えば、DMD、液晶パネル等を用いることができる。
【0012】
画像投射装置10について、より具体的に説明する。光源11から出射された光をリフレクタ12でインテグレータロッド13の入口に集光する。インテグレータロッド13は、例えば、4つのミラーを組み合わせてトンネル状にしたライトパイプである。インテグレータロッド13の入口に集光された光は、インテグレータロッド13内のミラー面で反射を繰り返し、インテグレータロッド13の出口では光量むらが一様な状態となる。インテグレータロッド13の出口を、光量むらが一様な照明光を出射する面光源として捉え、この面光源の光源像を、例えば、照明用レンズ14、第1ミラー15、及び第2ミラー16を介して画像表示素子17上に形成する。画像表示素子17は一様な照度分布で照らされるので、その拡大像であるスクリーン90に投射された画像も一様な照度分布となる。
【0013】
画像表示素子17がDMDである場合には、多数の微小ミラーを備えており、微小ミラーの角度を、例えば、+12°〜−12°まで変えることができる。例えば、微小ミラーの角度が−12°のときには照明光の微小ミラーでの反射光が投射光学系18に入り、微小ミラーの角度が+12°のときには照明光の反射光が投射光学系18に入らないように、照明光のDMDに向かう角度を設定すれば,DMDの各微小ミラーの傾斜角度を制御することで、スクリーン90上にデジタル画像を形成することができる。
【0014】
なお、画像形成素子17を、赤、緑、青等の複数個用いて、それぞれカラーフィルターを透過した照明光を当てて、色合成手段により合成された光を投射光学系18に入射させることにより、スクリーン90上にカラー画像を投射することができる。
【0015】
図2は、第1の実施の形態に係る投射光学系を簡略化して例示する光路図である。図2を参照するに、投射光学系18は、光軸を共有するレンズ又はレンズ群から構成された共軸光学系19と、共軸光学系19と光軸を共有しない非共軸光学系である曲面ミラー20とを有する。
【0016】
投射光学系18において、画像形成素子17から被投射面であるスクリーン90までの光路上に、共軸光学系19と曲面ミラー20とは、この順番で配置されている。曲面ミラー20は、1枚の非回転対称な曲面ミラーである。非共軸光学系は、曲面ミラー20以外の光学素子を含んでも構わない。なお、Aは、共軸光学系19の光軸を示している。
【0017】
投射光学系18は、共軸光学系19と非共軸光学系である曲面ミラー20との間に、画像形成素子17の中間像(実像)を一度結像し、その中間像を曲面ミラー20により大きく跳ね上げてスクリーン90に投射する中間像方式である。共軸光学系19の具体的な構成については、後述する。なお、以降、曲面ミラー20として自由曲面ミラーを用いる場合を例に説明する。
【0018】
ここで、曲面ミラー20について、更に詳しく説明する。スクリーン90に対して至近距離で画像を投射するには、通常、画面の見易さのために、プロジェクタ等の画像投射装置よりも上方に画像を作る必要があるので、例えば、図3に示すように、画像表示素子17の中心を、共軸光学系19の光軸A上には置かずに偏心して配置する。そして、共軸光学系19の性能保障範囲を広く取る(すなわち広角レンズにする)ことにより、画像品位を保つ。但し、共軸光学系19の広角レンズ化には限界があるので、このような共軸光学系19を使って、よりスクリーン90近くから画像を投射するには、ミラーを使って光路をかせぐ必要がある。リアプロジェクションテレビではミラーを使って光路をかせぐ方式を取っているが、通常の会議室で使用されるような持ち運びできる画像投射装置にミラーを付属するのは困難であるし、仮に付属したとしても大型のミラーが必要で、場所もコストもかかる。従って、図3に示すような方式は好ましくない。
【0019】
図3とは異なる例として、曲面ミラーを使って斜め投射を行なう方式がある。斜め投射とは、例えば、図4に示すように、画像表示素子17や共軸光学系19をスクリーン90に対して斜めに配置することにより近距離で投射することである。この方式を取ると、近距離投射は可能であるが、画面が台形状に歪むというデメリットがある。従って、図4に示すような方式も好ましくない。
【0020】
そこで、本実施の形態では、図3や図4の方式の問題点に鑑みて、図2に示すように光学系を配置し、曲面ミラー20として自由曲面ミラーを用いることにより、画面の台形状の歪みを効果的に補正している。ここで、自由曲面ミラーとは、例えば、図5に示すように、Y軸に従ってX方向の曲率が変化するミラーである。より詳しくは、被投射面であるスクリーン90の横方向をX方向、縦方向をY方向としたときに、曲面ミラー20のX方向の曲率は、共軸光学系19の光軸Aに近い側の曲面ミラー20の端部から、共軸光学系19の光軸Aから遠い側の曲面ミラー20の端部に向かってY方向の座標毎に大きくなる。
【0021】
さて、投射光学系18の機能は、画像形成素子17の実像をスクリーン90上に結ぶことである。スクリーン90上に表示させたい画像のサイズや、画像投射装置10からスクリーン90までの距離は、使う人によってまちまちである。スクリーン90上に画像形成素子17の実像を形成するには、当然ながらピント(焦点)を合わせなくてはならない。通常のプロジェクタの投射光学系(すなわち共軸の回転対称の光学系)では、投射光学系全体を動かしてピントを合わせる全体繰り出し方式や、レンズの中の1枚(あるいは複数のレンズがセットになった1つのレンズ群)を動かすフォーカス調整方式が採用されている。
【0022】
本実施の形態に係る投射光学系18の場合には、画像表示素子17に最も近いレンズ又はレンズ群は固定して、他の2以上のレンズ又はレンズ群を光軸方向に動かしてピントを合わせるフォーカス調整方式を採用することが最も好ましい。つまり、画像表示素子17に最も近いレンズ又はレンズ群と画像形成素子17との間隔は変化しないことが好ましい。理由は、スクリーン90に対して至近距離から画像の投射を行なったときに発生する画像の歪みを、主には非共軸光学系である凹面ミラー20で補正しているため、全体繰り出しや1のレンズ又はレンズ群によるフォーカス調整では、歪み補正が不足するからである。
【0023】
又、画像表示素子17に最も近いレンズ又はレンズ群を固定した方が、画面サイズごとに明るさが変化しないからである。言い換えれば、画像表示素子17の反射光を確実にスクリーン90に届けたい(光利用効率を高めたい)からである。画像表示素子17寄りのレンズ又はレンズ群が固定されずに光軸方向に動くと、レンズ又はレンズ群の外径枠で蹴られてしまい、反射光は確実にはスクリーン90に届かない。但し、画像表示素子17に最も近いレンズ又はレンズ群のレンズ外径が画像表示素子17の反射光束の径に比べて十分に大きければ問題はない。しかし、レンズ又はレンズ群の径を大きくすることは、省資源の観点や製品の小型化の観点からは好ましくない。
【0024】
又、製品として想定する投射光学系18とスクリーン90間の距離がほとんど一定(例えば、500mm±5mm程度など、使うシーンを限定する)である場合には、全体繰り出し方式や1のレンズ又はレンズ群によるフォーカス調整方式を採用しても問題無い。
【0025】
そこで、本実施の形態では、投射光学系18の共軸光学系19を図6に示すような構成とした。図6は、第1の実施の形態に係る投射光学系を例示する光路図であり、図6では図2の共軸光学系19をより具体的に示している。図6に示す共軸光学系19は、画像形成素子17側から順番に、レンズ19aと、レンズ19bと、レンズ19cと、レンズ19dとを有する。共軸光学系19において、レンズ19aは、正屈折力を有するレンズである。レンズ19bは、負屈折力を有するレンズである。レンズ19cは、正屈折力を有するレンズである。レンズ19dは、負屈折力を有するレンズである。但し、レンズ19a〜19dは、それぞれ、複数のレンズから構成されるレンズ群の中の1枚であってもよい。
【0026】
レンズ19aは固定されており、レンズ19b、19c、及び19dはZ方向(光軸Aの方向)に独立して往復動可能に構成されている。すなわち、共軸光学系19では、共軸光学系19内の複数のレンズ(レンズ19b、19c、及び19d)が、Z方向(光軸Aの方向)にそれぞれ異なる量移動してフォーカス調整を行うフローティングフォーカス方式を採用している。なお、本実施の形態において、曲面ミラー20は固定されており、フォーカス調整時に移動しない。曲面ミラー20のような大型で歪曲補正に最も重要な機能を果たす部品を動かすと、共軸光学系19との位置誤差が大きくなり、歪曲の劣化を招くからである。
【0027】
図6の状態から、スクリーン90を曲面ミラー20側に近づけて画面サイズを小さくし、かつ、フォーカス調整を行なう際には、図7に示すように、レンズ19b、19c、及び19dを、固定されているレンズ19aから遠ざかるようにZ方向(光軸Aの方向)に動かす(但し、動く距離は、それぞれ異なっても良い)。又、スクリーン90を曲面ミラー20から遠ざけて画面サイズを大きくし、かつ、フォーカス調整を行なう際には、図7とは反対に、レンズ19b、19c、及び19dを、固定されているレンズ19aに近づけるようにZ方向(光軸Aの方向)に動かす(但し、動く距離は、それぞれ異なっても良い)。
【0028】
このように、複数のレンズを、それぞれ異なる量移動してフォーカス調整を行うことにより、自由曲面ミラーである曲面ミラー20を有する光学系特有の異形の歪曲を補正することができる。なお、複数のレンズを動かし、自由曲面ミラーである曲面ミラー20を固定してフォーカス調整を実施する場合は、必ず3以上のレンズの間隔が変わることになる。
【0029】
図6において、レンズ19c及び19dは、それぞれが非球面プラスチックレンズである。曲面ミラー20として自由曲面ミラーを用い、曲面ミラー20の近傍に非球面プラスチックレンズであるレンズ19c及び19dを配置することで、自由曲面光学系独特の画面の歪みを抑えることができる。これについて、以下に説明する。
【0030】
図6において、非球面レンズを画像表示素子17近辺に配置しても、どの画角の光束にも同じような非球面効果しか与えないが、非球面レンズは曲面ミラー20近傍に配置するほど、画角ごとの光が分割されて、画角ごとに異なる非球面効果を与えることができる。これが、自由曲面ミラーである曲面ミラー20の近傍に非球面レンズを配置する理由である。
【0031】
このように、非球面レンズの歪曲補正効果は、図6に示すように非球面レンズを自由曲面ミラーである曲面ミラー20の近傍に置くほど効果が大きいが、その分、非球面レンズの外径が大きくなる。従って、ガラス加工はコスト的にも重量的にも望ましくなく、本願のように、非球面レンズとしては、低コスト及び軽量で金型成型が可能な非球面プラスチックレンズを用いることが好ましい。
【0032】
このように、自由曲面ミラーである曲面ミラー20の近傍に非球面レンズを配置することはメリットがあるが、デメリットもある。すなわち、製造上の誤差で、像面湾曲すなわちスクリーン90の画面位置ごとにピント位置が変わった時に、深度が浅い位置(スクリーン画面上の位置)に、ピント(焦点)を合わせた時に発生する画面の歪み(歪曲)である。
【0033】
これについて図8及び図9を用いて説明する。なお、図8及び図9は、それぞれ図2及び図3と同一の構成である。例えば、図8の場合、スクリーン90上の位置Bよりも、位置Cの方が深度が浅い。ここで、深度とは、スクリーン90に垂直な方向(Z方向)でピントが合う範囲である。例えば位置BではLの範囲でピントが合うが、位置CではMの範囲でしかピントが合わないので、スクリーン90に垂直な方向(Z方向)では、スクリーン90に対する入射角度がきつい位置Cの方が深度は浅くなる。
【0034】
ここで、位置Cでは本来Mの範囲でピントが合うところを、何らかの製造誤差でNの範囲でピントが合うようになった場合を考える。この場合は、スクリーン90の画面全体でピントを合わせるためには、Lの範囲は比較的深度が深いので、一例として、図8で点線で示すようなNの範囲内の所定位置にスクリーン90を移動する等の方法でピントを合わせることができる。他の例としては、Lの範囲とNの範囲全体をスクリーン90方向に動かす方法でピントを合わせることもできる。
【0035】
このように、深度が浅い方に合わせて、本来あるべき画面位置からずれた位置でピントを合わせると、仮にピントは合ったとしても、画面に自由曲面独特の歪みを生じる。なお、図9のように、自由曲面ミラーである曲面ミラー20を有さない光学系の場合には、同じように本来のMの範囲の所定位置ではなく、Nの範囲の所定位置でピントを合わせたとしても、大きく画面の歪みが変わることはない。
【0036】
前述のように、自由曲面ミラーや自由曲面ミラー近傍に配置するプラスチックレンズを備えた投射光学系には、製造工程で誤差が生じると像面湾曲が発生し、ピントの補正を行うとスクリーン等の被投射面に投射される画像に補正できない歪みが発生するという問題がある。そして、製造工程で生じる誤差の中で、特に像面湾曲発生の要因となるのが、自由曲面ミラー近傍に配置するプラスチックレンズの成型加工の際に発生する屈折率分布である。これについて、より詳細に説明する。
【0037】
図10に、それぞれが非球面プラスチックレンズである凸レンズ50及び凹レンズ60の屈折率分布の例を示した。近年ではレーザプリンターやプロジェクタに使われる大型の非球面レンズは、低コストで軽く、非球面形状を容易に得られることから、もっぱらプラスチック成形で製造されている。光学素子のプラスチック成形工程では、熱溶融したプラスチック材料を金型で成形し、金型内で冷却させるが、金型の中心部に比して周辺部の冷却が速く、冷却の速い部分の密度が冷却の遅い部分の密度に対して相対的に高くなる。そのため、プラスチック内部の密度分布が不均一になりあるいは変性を生じ、形成されたレンズの内部で屈折率が不均一となり、屈折率分布が発生する。
【0038】
プラスチックレンズ内部の屈折率は、通常、レンズ中心部よりもレンズ周辺部が高くなる。これは、前述のように、レンズ成形時に周辺部が中心部よりも早く冷却され、中心部よりも周辺部が相対的に高密度になるからである。よって、図10に示すような屈折率分布となる。このような分布を持った凹レンズ60を、例えば図6の最も曲面ミラー20に近い位置に配置した場合、屈折率が高い位置を通過する光束(画面上方に向かう光)にかかる屈折力が不足し、ピントがスクリーン90の左側(図8のNとは逆の方向)に行ってしまうため、像面湾曲を発生する。このように、自由曲面ミラーである曲面ミラー20の近傍に非球面レンズを配置すると、ピント(焦点)を合わせた時に像面湾曲を発生する。
【0039】
しかしながら、本実施の形態では、自由曲面ミラーである曲面ミラー20の近傍に1つの非球面レンズを配置するのではなく、非球面プラスチックレンズであるレンズ19c及び19dを配置しているため、非球面プラスチックレンズの屈折率分布に起因する像面湾曲を低減できる。
【0040】
すなわち、レンズ19c及び19dは、それぞれ図10に示す凸レンズ50及び凹レンズ60と同様の屈折率分布を有している。レンズ19c及び19dが、例えば図10に示すように、レンズ中心から周辺に向かって屈折率が高くなるような、同様な屈折率分布を持った場合に、レンズ19cの屈折率がレンズの端で高くなると、図8に示すようにスクリーン位置Cでのピント位置が画面手前に動く。
【0041】
しかし、図10のようにレンズ19dの屈折率がレンズ19cと同様にレンズの端で高くなると、スクリーン位置Cでのピント位置は逆の方向に動く。つまり、レンズ19c及び19dで、像面湾曲を低減できる。このような効果から、自由曲面ミラーである曲面ミラー20を有する光学系で歪曲補正の作用が大きい非球面プラスチックレンズは、正屈折力のレンズと負屈折力のレンズのセットで配置することが好ましい。
【0042】
但し、レンズ19c及び19dにおいて、レンズ中心の屈折率をN、レンズ周辺の屈折率をNとしたときに、レンズ中心から周辺に向けての屈折率変化ΔN=N−Nの符号が、レンズ19c及び19dそれぞれで同じであれば、必ずしも図10に示すように、レンズ中心から周辺に向かって屈折率が高くなるような特性でなくてもよい。屈折率変化ΔN=N−Nの符号が、レンズ19c及び19dそれぞれで同じであれば、屈折率分布の影響をキャンセルできるからである。
【0043】
なお、レンズ19cのレンズ中心から周辺に向けての屈折率変化をΔN1、レンズ19cの中心を通る光線と最周辺を通る光線との距離をW、レンズ19dのレンズ中心から周辺に向けての屈折率変化をΔN、レンズ19dの中心を通る光線と最周辺を通る光線との距離をW、としたときに、(ΔN1/W)と(ΔN/W)は略等しいことが好ましい。又、レンズ19cの焦点距離とレンズ19dの焦点距離とは略等しいことが好ましい。屈折率分布の影響を効果的にキャンセルできるからである。
【0044】
又、画像形成素子17で反射される光束は、前述のように曲面ミラー20に近づくにつれて、画角(スクリーン位置)ごとの光束に分離される。プロジェクタ等である画像投射装置10で使用する光量は多いので、光束が分離されていない画像形成素子17寄りのレンズは、外気に比べて高温になりがちである。これに比べて曲面ミラー20寄りのレンズは温度が上がりにくく、熱膨張や屈折率の変化を起こしにくい。熱に対して、膨張や屈折率の変化に敏感な非球面プラスチックレンズは、この意味でも曲面ミラー20寄りに配置されていることが好ましい。特に、レンズ19c及び19dの一方は、共軸光学系19のうち曲面ミラー20に最も近接して配置されていることが好ましい。又、レンズ19c及び19dを隣接して配置することにより、両者は同程度の温度となるため、熱の影響を低減できる。
【0045】
このように、第1の実施の形態では、正屈折力を有するレンズ19c及び負屈折力を有するレンズ19dを含む共軸光学系19と、共軸光学系19とは光軸を共有しない非共軸光学系である曲面ミラー20とを含む投射光学系18を構成する。そして、レンズ19c及び19dを、何れもレンズ中心から周辺に向けて同様の屈折率分布(例えば、レンズ中心から周辺に向けて屈折率が大きくなる屈折率分布)を有する非球面プラスチックレンズで構成し、レンズ19c及び19dの何れか一方を、共軸光学系19のうち曲面ミラー20に最も近接して配置する。その結果、正屈折力を有するレンズ19c及び負屈折力を有するレンズ19dがそれぞれの屈折率分布の影響をキャンセルするため、像面湾曲を低減できる。又、非球面プラスチックレンズで構成されたレンズ19c及び19dを曲面ミラー20寄りに配置することにより、画像投射装置10内部の温度上昇による影響を低減できる。
【0046】
〈第2の実施の形態〉
第2の実施の形態では、投射光学系18の共軸光学系29を図11に示すような構成とした。すなわち、共軸光学系29は、共軸光学系19のレンズ19c及び19dがレンズ29c及び29dに置換された光学系である。共軸光学系29において、レンズ29cは、レンズ19cの一部分(上側の略半分)が除去された正屈折力を有するレンズであり、非球面プラスチックレンズから構成されている。又、レンズ29dは、レンズ19dの一部分(上側の略半分)が除去された負屈折力を有するレンズであり、非球面プラスチックレンズから構成されている。但し、レンズ19a、19b、29c、及び29dは、それぞれ、複数のレンズから構成されるレンズ群の中の1枚であってもよい。
【0047】
レンズ19aは固定されており、レンズ19b、29c、及び29dはZ方向(光軸Aの方向)に独立して往復動可能に構成されている。すなわち、共軸光学系29では、共軸光学系29内の複数のレンズ(レンズ19b、29c、及び29d)が、Z方向(光軸Aの方向)にそれぞれ異なる量移動してフォーカス調整を行うフローティングフォーカス方式を採用している。
【0048】
図6に示す共軸光学系19において、曲面ミラー20寄りに配置されたレンズは回転対象に加工しても、レンズ径の半分程度しか光は通過しない。曲面ミラー20寄りに配置されたレンズは、画像形成素子17寄りに配置されたレンズに比べてレンズ外径が大きくなるので、画像投射装置10の大型化を招く。そこで、図11に示す共軸光学系29のように、曲面ミラー20寄りに配置されたレンズ29c及び29dは回転対象の形状(レンズ19c及び19dの形状)から光が通過しない一部分(上側の略半分)を除去した形状とすることが好ましい。これにより、画像投射装置10の小型化に寄与できる。
【0049】
レンズ29c及び29dは、それぞれが非球面プラスチックレンズであるから、金型成型が可能である。そのため、図11に示すように、回転対象の形状から光が通過しない一部分(上側の略半分)を除去した形状とすることは容易である。レンズ29c及び29dは、レンズ19c及び19dと比べて、使用するプラスチック材料が少なくて済むため、省資源や低コスト化に寄与できる。
【0050】
このように、第2の実施の形態では、第1の実施の形態と同様の効果を奏するが、更に以下の効果を奏する。すなわち、曲面ミラー20寄りに配置されたレンズ29c及び29dの形状を、回転対象の形状から光が通過しない一部分(上側の略半分)を除去した形状とすることにより、画像投射装置10の小型化や省資源、低コスト化に寄与できる。
【0051】
〈第3の実施の形態〉
第3の実施の形態では、投射光学系18の共軸光学系39を図12に示すような構成とした。すなわち、共軸光学系39は、共軸光学系19のレンズ19c及び19dがレンズ39c及び39dに置換された光学系である。共軸光学系39において、レンズ39cは、負屈折力を有するレンズであり、非球面プラスチックレンズから構成されている。又、レンズ39dは、正屈折力を有するレンズであり、非球面プラスチックレンズから構成されている。但し、レンズ19a、19b、39c、及び39dは、それぞれ、複数のレンズから構成されるレンズ群の中の1枚であってもよい。
【0052】
レンズ19aは固定されており、レンズ19b、39c、及び39dはZ方向(光軸Aの方向)に独立して往復動可能に構成されている。すなわち、共軸光学系39では、共軸光学系39内の複数のレンズ(レンズ19b、39c、及び39d)が、Z方向(光軸Aの方向)にそれぞれ異なる量移動してフォーカス調整を行うフローティングフォーカス方式を採用している。
【0053】
非球面プラスチックレンズから構成された凸レンズと凹レンズは、何れを曲面ミラー20寄りに配置しても構わない。図6に示す共軸光学系19では、凹レンズ(レンズ19d)を曲面ミラー20寄りに配置したが、図12に示す共軸光学系39では、凸レンズ(レンズ39d)を曲面ミラー20寄りに配置している。つまり、凸レンズと凹レンズは、光束が分離された位置にそれぞれが配置されていれば、何れを曲面ミラー20寄りに配置しても同様の効果を奏する。なお、凸レンズと凹レンズとの間にガラスレンズを配置してもよい。凸レンズと凹レンズとの間にガラスレンズを配置しても、凸レンズと凹レンズとが隣接して配置される場合と同様に、像面湾曲を打消す効果を奏する。
【0054】
このように、第3の実施の形態では、凸レンズ(レンズ39d)を曲面ミラー20寄りに配置しても、凹レンズ(レンズ19d)を曲面ミラー20寄りに配置した第1の実施の形態と同様の効果を奏する。
【0055】
〈第4の実施の形態〉
第4の実施の形態では、投射光学系18の共軸光学系49を図13に示すような構成とした。すなわち、共軸光学系49は、共軸光学系19のレンズ19c及び19dがレンズ群49cに置換された光学系である。共軸光学系49において、レンズ群49cは、レンズ49cとレンズ49cとを接合して一体化したレンズ群である。但し、レンズ19a及び19bは、それぞれ、複数のレンズから構成されるレンズ群の中の1枚であってもよい。又、レンズ群49cは、レンズ49c及びレンズ49c以外のレンズを含んでもよい。
【0056】
レンズ19aは固定されており、レンズ19b及びレンズ群49cはZ方向(光軸Aの方向)に独立して往復動可能に構成されている。すなわち、共軸光学系49では、共軸光学系49内の複数のレンズ及びレンズ群(レンズ19b及びレンズ群49c)が、Z方向(光軸Aの方向)にそれぞれ異なる量移動してフォーカス調整を行うフローティングフォーカス方式を採用している。
【0057】
レンズ49cは、負屈折力を有するレンズであり、画像形成素子17側の面を非球面にし、曲面ミラー20側の面を球面にしたプラスチックレンズから構成されている。又、レンズ49cは、正屈折力を有するレンズであり、画像形成素子17側の面を球面にし、曲面ミラー20側の面を非球面にしたプラスチックレンズから構成されている。レンズ49cの球面とレンズ49cの球面とが接合されている。これにより、レンズ49cとレンズ49cは、画像投射装置10の強い光束による温度変化の影響を同じように受けるので、温度変化の影響を効率よくキャンセルできる。レンズ49cとレンズ49cとの屈折力の絶対値を近い値に設定すると、温度変化の影響をキャンセルする効果が高くなるため、特に好ましい。
【0058】
このように、第4の実施の形態では、第1の実施の形態と同様の効果を奏するが、更に以下の効果を奏する。すなわち、共軸光学系49に、画像形成素子17側の面を非球面にし、曲面ミラー20側の面を球面にしたプラスチックレンズから構成された負屈折力を有するレンズ49cと、画像形成素子17側の面を球面にし、曲面ミラー20側の面を非球面にしたプラスチックレンズから構成された正屈折力を有するレンズ49cのそれぞれの球面同士を接合したレンズ群49cを配置する。その結果、レンズ群49cが受ける画像投射装置10の強い光束による温度変化の影響をキャンセルできる。
【0059】
但し、図13において、レンズ49cを画像形成素子17側の面を非球面にし、曲面ミラー20側の面を球面にしたプラスチックレンズから構成された正屈折力を有するレンズとし、レンズ49cを画像形成素子17側の面を球面にし、曲面ミラー20側の面を非球面にしたプラスチックレンズから構成された負屈折力を有するレンズとし、それぞれの球面同士を接合したレンズ群49cを配置してもよい。
【0060】
以上、好ましい実施の形態について詳説したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0061】
10 画像投射装置
11 光源
12 リフレクタ
13 インテグレータロッド
14 照明用レンズ
15 第1ミラー
16 第2ミラー
17 画像表示素子
18 投射光学系
19、29、39、49 共軸光学系
19a、19b、19c、19d、29c、29d、39c、39d、49c、49c、49c レンズ
20 曲面ミラー
49c レンズ群
50 凸レンズ
60 凹レンズ
90 スクリーン
A 光軸
B、C 位置
L、M、N 範囲
【先行技術文献】
【特許文献】
【0062】
【特許文献1】特開2006−235516号公報
【特許文献2】特許第4210314号
【特許文献3】特開2009−157223号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成素子に形成された画像を被投射面に拡大投射する投射光学系であって、
前記画像形成素子から前記被投射面までの光路上に、光軸を共有する共軸光学系と、1枚の非回転対称な曲面ミラーを有し前記共軸光学系と光軸を共有しない非共軸光学系とが、この順番で配置され、
前記共軸光学系は、正屈折力を有する非球面プラスチックである第1レンズと、負屈折力を有する非球面プラスチックレンズである第2レンズと、を有し、
前記第1及び第2レンズは、何れもレンズの中心から周辺に向けて屈折率分布を有し、
前記第1及び第2レンズの一方は、前記共軸光学系のうち前記曲面ミラーに最も近接して配置されていることを特徴とする投射光学系。
【請求項2】
前記第1及び第2レンズにおいて、
レンズ中心の屈折率をN、レンズ周辺の屈折率をNとしたときに、レンズ中心から周辺に向けての屈折率変化ΔN=N−Nの符号は、前記第1及び第2レンズそれぞれで同じであることを特徴とする請求項1記載の投射光学系。
【請求項3】
前記第1及び第2レンズは、前記被投射面への焦点を調整するために前記光軸方向に独立して往復動可能に構成されており、
前記第1及び第2レンズ並びに前記曲面ミラーを含む光学素子のうち、前記投射光学系内の3以上の光学素子の間隔を変えることにより前記被投射面への焦点を調整することを特徴とする請求項1又は2記載の投射光学系。
【請求項4】
前記曲面ミラーは自由曲面ミラーであり、前記被投射面の横方向をX方向、前記被投射面の縦方向をY方向としたときに、前記曲面ミラーの前記X方向の曲率は、前記共軸光学系の光軸に近い側の前記曲面ミラーの端部から、前記共軸光学系の光軸から遠い側の前記曲面ミラーの端部に向かって前記Y方向の座標毎に大きくなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項記載の投射光学系。
【請求項5】
前記第1レンズのレンズ中心から周辺に向けての屈折率変化をΔN1、前記第1レンズの中心を通る光線と最周辺を通る光線との距離をW、前記第2レンズのレンズ中心から周辺に向けての屈折率変化をΔN、前記第2レンズの中心を通る光線と最周辺を通る光線との距離をW、としたときに、(ΔN1/W)と(ΔN/W)は略等しいことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項記載の投射光学系。
【請求項6】
前記第1レンズの焦点距離と前記第2レンズの焦点距離とは略等しいことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項記載の投射光学系。
【請求項7】
前記第1及び第2レンズは、隣接して配置されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項記載の投射光学系。
【請求項8】
前記第1及び第2レンズの一方又は双方は、回転対象の形状から光が通過しない一部分を除去した形状を有することを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項記載の投射光学系。
【請求項9】
前記第1及び第2レンズに代えて、前記画像形成素子側の面が非球面であり前記曲面ミラー側の面が球面である正又は負屈折力を有するレンズと、前記画像形成素子側の面が球面であり前記曲面ミラー側の面が非球面である負又は正屈折力を有するレンズの、それぞれの前記球面同士を接合したレンズ群を備えていることを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項記載の投射光学系。
【請求項10】
変調信号に応じて画像を形成する前記画像形成素子に、光源からの照明光を照射し、前記画像形成素子に形成された前記画像を、請求項1乃至9の何れか一項記載の投射光学系により前記被投射面に拡大投射する画像投射装置。
【請求項11】
前記投射光学系は、前記共軸光学系と前記非共軸光学系との間に、前記画像形成素子の実像を作る中間像方式であることを特徴とする請求項10記載の画像表示装置。
【請求項12】
前記画像形成素子に最も近接して配置されているレンズは、前記画像形成素子との間隔が変化しないことを特徴とする請求項10又は11記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−137622(P2012−137622A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290068(P2010−290068)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】