説明

投射型映像表示装置

【課題】小型かつ高輝度の投射型映像表示装置を提供する。
【解決手段】当該投射型映像表示装置は、光学像を形成する液晶表示素子と、液晶表示素子を透過した光を偏光する偏光板と、偏光板を150℃以下で冷却する冷却装置と、を備え、当該投射型映像表示装置の光束量[lm]を液晶表示素子の大きさ[inch]で除した値が4500±10%[lm/inch]の場合、偏光板の初期反射率は3.7%以下に設定される。当該投射型映像表示装置の光束量[lm]を液晶表示素子の大きさ[inch]で除した値が3000±10%[lm/inch]の場合、偏光板の初期反射率は7.7%以下に設定される。当該投射型映像表示装置の光束量[lm]を液晶表示素子の大きさ[inch]で除した値が6000±10%[lm/inch]の場合、偏光板の初期反射率は0.7%以下に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投射型映像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、投射型映像表示装置では、光学部品の小型化が進められる一方、高輝度化も実現すべく、液晶パネル(ライトバルブ)や偏光板を通過する光密度も増大させている。そこで、液晶パネルや偏光板の寿命及び信頼性の確保が重要となっており、その対策として、ワイヤーグリッドタイプや金属微粒子延伸タイプの光吸収型無機偏光板の採用が主流となりつつある。
【0003】
しかし、当該光吸収型偏光板を採用しても、光吸収層の性能バラツキにより多重反射は生じ、液晶パネルへの戻り光が発生する。液晶パネルの駆動素子である薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)等のスイッチング素子に戻り光が照射されると、画素トランジスタのオフ時の保持特性が光のエネルギーにより悪化し、リーク電流が発生する(フォトリーク現象)。リーク電流により表示電極に意図しない電位差が生じる結果、液晶の配向がずれ、色度変化やコントラストの劣化といった画質の信頼性低下が起こる。
【0004】
例えば特許文献1では、前記光吸収型偏光板の反射率が10%以上であれば、画質の信頼性低下が顕著となるといった説明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−79172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、0.5インチの液晶パネルを用いて2000lm以上の輝度を満足する小型かつ高輝度タイプの表示装置を開発する場合、液晶パネル通過時の光密度は0.6インチの同輝度タイプに比べ20%以上増大するため、偏光板の反射率が10%以下でも戻り光によるTFTのリーク電流は増大し、色度変化やコントラスト劣化といった画質低下が顕著になる、という課題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、小型かつ高輝度の投射型映像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の望ましい態様の一つは次の通りである。
【0009】
当該投射型映像表示装置は、光学像を形成する液晶表示素子と、液晶表示素子を透過した光を偏光する偏光板と、偏光板を150℃以下で冷却する冷却装置と、を備え、当該投射型映像表示装置の光束量[lm]を液晶表示素子の大きさ[inch]で除した値が4500±10%[lm/inch]の場合、偏光板の初期反射率は3.7%以下に設定される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小型かつ高輝度の投射型映像表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】投射型映像表示装置の液晶パネル近傍の構成を示す図。
【図2】液晶パネル内部のTFTを示す図。
【図3】TFT発生電位差と色度変化の関係を示す図。
【図4】G光路における反射率とTFT発生電位差の関係を示す図。
【図5】温度・経過時間と反射率の関係を示す図。
【図6】温度変化に対する偏光板の反射率劣化係数を表した図。
【図7】偏光板使用温度と装置使用時間に対する適正な初期反射率の一例を示す図。
【図8】偏光板使用温度と装置使用時間に対する適正な初期反射率の一例を示す図。
【図9】偏光板使用温度と装置使用時間に対する適正な初期反射率の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、投射型映像表示装置の液晶表示素子(以下、液晶パネル)近傍の構成を示す図である。図1において、1は液晶パネル(R、G、B色用の3枚のうち、簡単のために1枚のみ示す)、2は出射偏光板、3はクロスダイクロイックプリズムなどの色合成プリズム、4は投射レンズなどの投射部、5は液晶パネルに形成されるフレキシブル基板である。出射偏光板2としては、無機のワイヤーグリッドタイプを用いることが好ましい。
【0014】
図示しない光源から発生された照明光は図示しない色分離ユニットで3色光(R,G,B)に分離され、それぞれに対応する液晶パネル1に入射する。液晶パネル1は、ドライブ基板からフレキシブル基板5を通じて供給される駆動信号により入射光を変調することで、映像信号に応じた光学像を形成する。
【0015】
各液晶パネル1で形成された光学像は出射偏光板2によって偏光が整列された後、色合成プリズム3で合成され、投射部4から図示しないスクリーン等に拡大投射される。液晶パネル1によって変調された透過光6は、出射偏光板2を通過するか、あるいは出射偏光板2で吸収される際、一部が反射光7となって液晶パネル1の裏面から入射する。出射偏光板2では特にS偏光の反射率RsがP偏光の反射率Rpに対して大きなものとなる。以下、単に「反射率」と記載した時は、このRsを指すものとする。尚、このRsは一般に分光特性を評価する測定機によって容易に測定可能である。
【0016】
図2は、液晶パネル内部のTFTを示す図である。アクティブ・マトリクス方式と言われる液晶パネルは、XGAタイプでいうと水平方向に1024画素、垂直方向に768画素の画素開口部8が設けられている。
【0017】
各画素開口部8には駆動のためのアクティブTFT素子9が配接されており、映像信号に応じて、例えば垂直方向にドライブ基板からフレキシブル基板5の中のスイッチング素子10にある電圧が入力され、データ線11を介してアクティブTFT素子9に必要な電流を供給し、駆動を行う。
【0018】
ここで、フォトリーク現象について説明する。図2で示すように、例えばスイッチング素子10に反射光7が照射されると、チャネル領域の自由電子が光によって励起され、量子トンネル効果によりバンドギャップを乗り越える確率が増大し、チャネル領域にリーク電流が生じる。このリーク電流は、データ線11を介してアクティブTFT素子9の表示電極に電位差(以下、TFT発生電位差)を生じさせ、液晶が意図しない配向にねじれて色度変化やコントラスト劣化といった画質の低下を及ぼす。
【0019】
図3は、TFT発生電位差と色度変化の関係を示す図である。TFT発生電位量に比例して、投影画面上の色度はx値,y値共に同等のカーブで線形的に悪化する事が実験的に得られており、Δx,Δyが0.010を超えると、画質劣化が目視でも検知できるレベルになる。
【0020】
2社の液晶パネルを数種類測定した結果、パネル構造の違いによってTFT発生電位差と色度変化の関係には多少の幅はあるが、色度変化量を0.010以下にするにはTFT発生電位差を0.2[V]以下に抑える必要があることが分かる。
【0021】
尚、一般的に、R、G、B色の順にエネルギー密度が高い。又、3色の中で、光量割合の高いG色が最も反射光の影響を受けるため、G光の反射率とTFT発生電位差の関係を明確にする必要がある。
【0022】
図4は、G光路における反射率とTFT発生電位差の関係を示す図である。反射率が高いほどTFT発生電位差は大きくなる。又、装置の光束量[lm]/パネルサイズ[inch]=A [lm/inch]とすると、Aが大きくなるほど、反射率が一定でもTFT発生電位差は大きくなる。A=4500±10%[lm/inch]の場合、TFT発生電位差を0.2[V]以下に抑えるには反射率を7%以下に定義すれば良い。
【0023】
図5は温度・経過時間と反射率の関係を示す図、図6は温度変化に対する偏光板の反射率劣化係数を示す図である。反射率は、一般的に温度が増加するほど劣化する。実験により、温度と反射率の劣化量には相関があり、ほぼリニアな相関関係が得られた。又、本結果から経時変化に対する反射率の劣化係数の相関式はおおよそ以下のように定める事ができる。
【0024】
劣化係数(%/℃)=0.00257×Ln(時間)+0.00142
本実施例によれば、上記相関式を用いる事により、Aの値、装置の寿命時間、偏光板の使用温度による反射率の劣化を加味した上で、偏光板の適正な初期反射率を採用する事ができ、これによって画質の信頼性を維持したまま、安定的に装置の提供が可能となる。
【0025】
図7は、A=4500±10%[lm/inch]の装置において、偏光板使用温度と装置使用時間に対する適正な初期反射率を示す図である。
【0026】
近年の投射型映像表示装置における装置寿命は3000時間を越えるものが主流となってきている。又、出射偏光板の温度は無機偏光板を採用した場合、偏光板の冷却を行わないと200℃以上の高熱になる事が考えられるため、通常は100〜150℃の範囲に抑える様、冷却システムを構築する。
【0027】
ここで、図7において、「TFT発生電位差0.2[V]以下を満足する初期反射率」の下の「150℃時」と「3000h」に合致する欄には「3.70」と記載されている。これは、装置を150℃以下に抑える条件の下、装置使用時間3000時間まで反射率7%を満足する偏光板の初期反射率は、3.7%以下とするのが適正であることを示している。他の条件についても、これと同様の見方で良い。
【0028】
又、上記相関式を用いる事により、図8、図9に示すようにA=3000±10%[lm/inch]の場合、装置使用時間3000時間まで反射率7%を満足する偏光板の初期反射率は7.7%以下、A=6000±10%[lm/inch]の場合は0.7%以下と求める事もできる。尚、偏光板の反射率は、自然放置では経時劣化はほとんど無い事から、装置を市場に出荷する時の反射率=初期反射率と定義づけて良い。
【0029】
尚、例えば図7において、装置を130℃以下に抑える条件の下、装置使用時間3000時間まで反射率7%を満足する偏光板の初期反射率は、図より4.14%以下が適正となる。しかし、上述のように、装置を150℃以下に抑える場合の条件に合わせて、初期反射率を3.7%以下としておけば、特に問題はない。
【0030】
上述の投射型映像表示装置は、光学像を形成する液晶表示素子と、液晶表示素子を透過した光を偏光する偏光板と、偏光板を冷却する冷却装置とを備え、偏光板の初期反射率は、当該映像表示素子が出射する光束量、当該映像表示素子の大きさ、当該冷却装置が維持する温度、及び、当該映像表示装置の使用時間に基づいて定められる。
【0031】
上記実施例によれば、フォトリーク対策として用いられる液晶パネルの内部に反射光を遮光するパターンなどを形成する必要が無く、安価に信頼性を確保する事ができる。
【符号の説明】
【0032】
1…液晶パネル、2…出射偏光板、3…色合成プリズム、4…投射部、5…フレキシブル基板、6…透過光、7…反射光、8…画素開口部、9…アクティブTFT素子、10…スイッチング素子、11…データ線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学像を投射する投射型映像表示装置において、
前記光学像を形成する液晶表示素子と、
前記液晶表示素子を透過した光を偏光する偏光板と、
前記偏光板を150℃以下で冷却する冷却装置と、を備え、
当該投射型映像表示装置の光束量[lm]を前記液晶表示素子の大きさ[inch]で除した値が4500±10%[lm/inch]の場合、前記偏光板の初期反射率は3.7%以下に設定される、投射型映像表示装置。
【請求項2】
光学像を投射する投射型映像表示装置において、
前記光学像を形成する液晶表示素子と、
前記液晶表示素子を透過した光を偏光する偏光板と、
前記偏光板を150℃以下で冷却する冷却装置と、を備え、
当該投射型映像表示装置の光束量[lm]を前記液晶表示素子の大きさ[inch]で除した値が3000±10%[lm/inch]の場合、前記偏光板の初期反射率は7.7%以下に設定される、投射型映像表示装置。
【請求項3】
光学像を投射する投射型映像表示装置において、
前記光学像を形成する液晶表示素子と、
前記液晶表示素子を透過した光を偏光する偏光板と、
前記偏光板を150℃以下で冷却する冷却装置と、を備え、
当該投射型映像表示装置の光束量[lm]を前記液晶表示素子の大きさ[inch]で除した値が6000±10%[lm/inch]の場合、前記偏光板の初期反射率は0.7%以下に設定される、投射型映像表示装置。
【請求項4】
前記偏光板はワイヤーグリッドタイプの無機偏光板である、請求項1乃至3何れか一に記載の投射型映像表示装置。
【請求項5】
光学像を投射する投射型映像表示装置において、
前記光学像を形成する液晶表示素子と、
前記液晶表示素子を透過した光を偏光する偏光板と、
前記偏光板を冷却する冷却装置と、を備え、
前記偏光板の初期反射率は、前記映像表示素子が出射する光束量、前記映像表示素子の大きさ、前記冷却装置が維持する温度、及び、当該投射型映像表示装置の使用時間に基づいて定められる、投射型映像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−242706(P2012−242706A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114308(P2011−114308)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(509189444)日立コンシューマエレクトロニクス株式会社 (998)
【Fターム(参考)】