説明

投射型液晶表示装置

【課題】 小型化、軽量化が可能な投射型液晶表示装置を提供する。
【解決手段】 投射型液晶表示装置の照明光源は、LEDを用い、 前記の色光分離手段は、三原色の一の色光を反射して残りの色光を透過させる第一ダイクロイックフィルタと、 その第一ダイクロイックフィルタが透過させた色光から別の一の色光を反射して残りの色光を透過させる第二ダイクロイックフィルタとを備えて形成する。
そして、第一ダイクロイックフィルタは、耐熱性プラスチック材の基材に対する物理的蒸着によって、二酸化珪素と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材の二層膜とを多層とした光学膜を備えて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型軽量に設計しやすい投射型液晶表示装置(液晶プロジェクタ)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光を透過させる基材としてのガラスに対して、所定の波長の光を反射させて透過させないために設ける薄膜のことをダイクロイックフィルタという。なお、反射させた光を使うこともあり、その場合にはダイクロイックミラーと呼ばれる。
例えば、白色光を通過させたとき、波長600〜780nmの光だけが通過する薄膜を設けると、赤い光だけが透過する。この場合の薄膜たるフィルタは、白色光を透過させた時に赤く見えるダイクロイックフィルタとなる。
【0003】
光学部品であるダイクロイックフィルタは、液晶プロジェクタにも使われている。例えば、特許文献1に記載されるような技術である。
【0004】
【特許文献1】特開2003−330107号公報
【0005】
この技術は、分光された光の変調を行う液晶表示パネルによって光変調された3つの色光を合成する色光剛性手段をプラスチックにて形成することで、液晶プロジェクタを軽量化できる技術が開示されている(特許文献1の請求項4など)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された投射型液晶表示装置でも、ダイクロイックフィルタは光学ガラスを基材としたものが採用されていた。そのため、液晶プロジェクタの軽量化の妨げ、小型化やデザインを意図した設計の壁となっていた。
本発明が解決しようとする課題は、投射型液晶表示装置におけるダイクロイックフィルタの基材に透明なプラスチックを使用することにより、投射型液晶表示装置の軽量化や設計の自由度を推進することにある。
請求項1から請求項2に記載の発明は、ダイクロイックフィルタの基材に透明なプラスチックを使用することにより、軽量化や設計の自由度を広げることが可能な投射型液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1)
請求項1記載の発明は、 反射鏡を備えた照明光源と、 その照明光源から照射された照明光における集光位置に対して入射側開口が位置するように配置したロッド型インテグレータと、 そのロッド型インテグレータから出射する光を入射して所定の偏光方向に揃えた偏光を出射する偏光ビームスプリッタと、 その偏光ビームスプリッタから出射した光を三原色の色光に分離する色光分離手段と、 その色光分離手段によって分離された各色光のそれぞれに対応して備えられて各色光の光変調を行う液晶表示パネルと、 その液晶表示パネルによって光変調された三つの色光を合成する色光合成手段と、 その色光合成手段にて合成された照明光をスクリーンに投射する投射光学系と、を備えた投射型液晶表示装置に係る。
前記の照明光源は、LEDを用い、 前記の色光分離手段は、三原色の一の色光を反射して残りの色光を透過させる第一ダイクロイックフィルタと、 その第一ダイクロイックフィルタが透過させた色光から別の一の色光を反射して残りの色光を透過させる第二ダイクロイックフィルタとを備えて形成する。
そして、第一ダイクロイックフィルタは、耐熱性プラスチック材の基材に対する物理的蒸着によって、二酸化珪素と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材の二層膜とを多層とした光学膜を備えて形成する。
【0008】
(用語説明)
「ロッド型インテグレータ」4は、断面が四角状のガラス管であり、入射開口4aから入射した光をガラス管の内壁面で複数回反射させることにより、複数の光源像を出射開口4bから出射する機能を有するものである。
「偏光ビームスプリッタ」6は、入射した照明光を偏光化するとともに、偏光の偏光方向を揃える機能を有する光学部品である。例えば、1つの平行四辺形プリズム6aとこの平行四辺形プリズムの1対の平行面のそれぞれに傾斜面が貼り合わされている2つの直角プリズム6b,6cとを備えている。
【0009】
第一ダイクロイックフィルタは、透過度が高く、耐熱性に優れたプラスチック材料(PC、PET、PEN、COPなど)を基材としている。そして、その基材に対する物理的蒸着によって透明被膜を固定する。その透明皮膜は、二酸化珪素と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材の二層膜とを多層とした光学膜を備える。
「物理蒸着」とは、PVD(Physical Vapor Deposition)法ともいう。物質の表面に薄膜を形成する蒸着法のひとつであり、気相中で物質の表面に物理的手法により目的とする物質の薄膜を堆積する。主なPVD皮膜としては、TiN(窒化チタン)、TiC(チタンカーバイト)、TiAlN(窒化チタンアルミ)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)などがある。
【0010】
「光学膜」は、二酸化珪素(SiO)と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材(たとえば五酸化タンタルTa−TiO)の二層膜とを十回以上反復させて製膜することによって製造する。各薄膜の厚さは、100nm前後であり、70〜150nm程度が好ましい。試作および実験によれば、27回(27層)の反復による製膜にて、必要な性能を得ることが出来た。
【0011】
(作用)
照明光源にLEDを用いているので、熱の発生を抑制することが出来る。また、照明光を発するLEDから発生する熱の影響を受ける第一ダイクロイックフィルタは、耐熱性プラスチックであるので、ガラス製のダイクロイックフィルタに代わって採用することが出来る。このため、投写型液晶表示装置の軽量化に寄与する。
【0012】
(請求項2)
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の投射型液晶表示装置を限定したものであり、
前記の第二ダイクロイックフィルタもまた、耐熱性プラスチック材の基材に対する物理的蒸着によって、二酸化珪素と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材の二層膜とを多層とした光学膜を備えて形成したことを特徴とする。
【0013】
(作用)
第二ダイクロイックフィルタもまた、ガラス製のダイクロイックフィルタに代わって採用することが出来る。その場合、投写型液晶表示装置の軽量化に寄与する。
【0014】
(ダイクロイックフィルタの製法)
基材の射出成形においては、後に行う蒸着工程にて設定される温度よりも低い温度で、射出成形のための金型を予め加熱しておいてから射出成形を行うこととなる。射出成形の特徴として、形状の自由度が大きく、取付け部たるボスや穴も事前に構成することができる。 例えば、光学面を平面、曲面、非球面、自由曲面などを設計することが可能である。また、熱による基材自体の変形や、それに伴う光学膜の損傷の恐れが小さい。
【0015】
基材成形工程にて形成された基材に対して、蒸着工程の前に、アニール工程を経る。すなわち、アニール工程にて、歪み及び/または残留応力を除去する。
基材として選択した耐熱性プラスチックが変形しない温度以下の大気中で晒すことによって、歪み及び/または残留応力を除去する。保持時間は、数時間から1日程度である。
【0016】
「蒸着工程における雰囲気温度」は、基材の熱変形温度が上限となる。例えば基材にCOPを採用した場合には、熱変形温度が摂氏120度となるので、製膜を実施する蒸着機の内部の雰囲気温度は摂氏120度を超えないように設定する必要がある。
【0017】
前記の蒸着工程においては、高真空状態における比較的長い時間排気する。
ここにいう「高真空状態」とは、10−1〜10−5Paをいう。
排気時間につき、「比較的長い時間」とは、ガラスなどの無機材料に比べて成型時にガスを内部に取り込んでいる恐れが高いために長い時間を要する、という趣旨である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1および請求項2に記載の投写型液晶表示装置によれば、軽量化や設計の自由度を広げることが可能な投射型液晶表示装置を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、図1から図3を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。
図1は、投射型液晶表示装置(液晶プロジェクタ)の主要部を示す断面図である。
この投射型液晶表示装置は、照明光源1から照射される光を、二つのダイクロイックフィルタ12,13を用いて三原色に分離し、三方から色合成プリズム17に入射して合成し、投射レンズ16を介して投射するものである。
【0020】
照明光源1は、光源と楕円反射鏡とを備えて構成されている。ここで、以下の説明において、楕円反射鏡の第一焦点位置と第二焦点位置を、以下のように区別する。まず、楕円反射鏡側に近い側の焦点位置を「第一焦点位置」として記載する。また、遠い側、すなわち開口部側の焦点位置を「第二焦点位置」として記載する。
【0021】
光源としては、三原色を発光できるように組み合わせた複数のLED(発光ダイオード)からなる。LEDを採用することによって熱の発生を抑制する。耐熱性が必要な素材は比重が大きいものが多いが、LEDを採用すれば、比較的軽い素材にて形成可能である。
楕円反射鏡の第一焦点位置に配置され、この光源から放射された光は、楕円反射鏡の鏡面で反射されて第二焦点位置に集光される。
【0022】
照明光源1の前方、すなわち照明光の進行方向には、インテグレータレンズ4が、照明光源1の集光する位置、つまり楕円反射鏡の第二焦点位置に、入射開口を一致させるようにして配置されている。なお、照明光源1とこのインテグレータレンズ4の間には、反射鏡が配置されている。
【0023】
インテグレータレンズ4から出射した照明光は、レンズ群に入射する。このレンズ群は、インテグレータレンズ4の出射開口から発散状態で出射する照明光を平行光束に収束させる機能を有している。すなわち、照明光を平行光束とすることにより、照明光を偏光変換プリズム6内に効率的に入射させる。
【0024】
偏光変換プリズム6は、入射した照明光を偏光化すると共に、偏光の偏光方向を揃える機能を有する。1つの平行四辺形プリズムとこの平行四辺形プリズムの一対となる平行面のそれぞれに傾斜面が貼り合わされている2つの直角プリズムとを備えて形成されている。
【0025】
偏光変換プリズム6から出射した照明光は、集光レンズに入射および出射し、第一ダイクロイックフィルタ12と第2ダイクロイックフィルタ13から構成される色光分離手段により赤、緑、青の3つの色光に色分離される。そして、それぞれの色光毎に対応して備えられる液晶表示パネル9、液晶表示パネル10、液晶表示パネル11にそれぞれ入射する。
【0026】
第一ダイクロイックフィルタ12に入射した照明光は、青色光については反射され、緑色光と赤色光については透過する。
反射した青色光は、液晶パネル9を介して色合成プリズム17に入る。
【0027】
第一ダイクロイックフィルタ12を透過した緑色光と赤色光は、第二ダイクロイックフィルタ13によって赤色光が反射され、緑色光が透過する。
反射した赤色光と、透過した緑色光とは、別々に反射鏡14,14と、液晶パネル10,11とを介して色合成プリズム17に入る。
【0028】
液晶パネル9,10,11に入射し光変調された各色光は、色光合成手段としての色光合成プリズム17により色光の合成が行われ、投射光学系16によりスクリーン(不図示)上に投射される。
色光合成プリズム17は、プラスチック材である。より具体的には、アクリル樹脂やポリカーボネイト、あるいはシクロオレフィンポリマー等の光透過率の高いプラスチック材から構成される。ガラスではなくプラスチック材を採用したことで、投射型液晶表示装置の小型化やコストの低減を図ることができる。
【0029】
第一ダイクロイックフィルタ12および第二ダイクロイックフィルタ13のうち、照明光源1から遠い第二ダイクロイックフィルタ13は、ガラスではなく耐熱性プラスチックを基材として形成することができる。すなわち、耐熱性プラスチック材の基材に対する物理的蒸着によって、二酸化珪素と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材の二層膜とを多層とした光学膜を備えて形成することができる。
【0030】
射出成形のための金型を予め加熱しておいてから射出成形を行うことで、ダイクロイックフィルタの基材を形成する。加熱する温度は、後の蒸着工程にて設定する温度よりも低い温度であり、具体的には摂氏120度以下である。
成形した基材は、アニール工程にて、歪み及び/または残留応力を除去する。すなわち、基材として選択した耐熱性プラスチックが変形しない温度以下の大気中で晒すことによって、歪み及び/または残留応力を除去する。保持時間は、数時間から1日程度である。
【0031】
「蒸着工程における雰囲気温度」は、基材の熱変形温度が上限となる。例えば基材にCOPを採用した場合には、熱変形温度が摂氏120度となるので、製膜を実施する蒸着機の内部の雰囲気温度は摂氏120度を超えないように設定する必要がある。
【0032】
前記の蒸着工程においては、高真空状態における比較的長い時間排気する。
ここにいう「高真空状態」とは、10−1〜10−5Paをいう。
排気時間につき、「比較的長い時間」とは、ガラスなどの無機材料に比べて成型時にガスを内部に取り込んでいる恐れが高いために長い時間を要する。
【0033】
600nm〜700nm(赤色)の波長を反射し、それ以外の波長を透過するダイクロイックフィルタの場合、図2に示すように、二酸化珪素と五酸化タンタルの二層膜とを多層とする。二酸化珪素(SiO)と酸化チタン系複合材である五酸化タンタル(Ta−TiO)の二層膜とを十回以上反復させて製膜することによって製造する。最初に、二酸化珪素(SiO)の薄膜とし、次に酸化チタン系複合材である五酸化タンタル(Ta−TiO)の薄膜とし、その繰り返しの後、27層目を二酸化珪素(SiO)の薄膜とする。
各薄膜の厚さは、100nm前後であるが、最後(最外)の二酸化珪素の膜は50nm以下でも構わない。
【0034】
図3では、分光光度計にて透過・反射率を測定したデータ(別資料)を示す。600nm〜700nm(赤色)の波長を反射できるフィルタであることが分かる。
以上のようなプラスチック製のダイクロイックフィルタを組み込んだ投射型液晶表示装置であれば、その軽量化につながる。また、ガラスを用いたダイクロイックフィルタに比べて外力に強いので、耐衝撃性など安全性も高められる。
【0035】
照明光源1から発生する熱を抑制でき、あるいはダイクロイックフィルタの耐熱性がより向上できた場合には、第一ダイクロイックフィルタ12もまた、耐熱性プラスチックを基材として形成することができる。
二つのダイクロイックフィルタ12,13ともプラスチック製を採用した投射型液晶表示装置であれば、その軽量化につながる。また、ガラスを用いたダイクロイックフィルタに比べて外力に強いので、耐衝撃性など安全性も高めることができる。
【0036】
なお、図2および図3を用いて、赤色の光をフィルタリングできるダイクロイックフィルタを説明したが、これに限られない。すなわち、緑色の光をフィルタリングするためのダイクロイックフィルタ、青色の光をフィルタリングするためのダイクロイックフィルタとも、二酸化珪素と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材の二層膜における各層の厚さや層数を異ならせることで形成可能である。
したがって、二つのダイクロイックフィルタ12,13ともプラスチック製とすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本願発明は、投射型液晶表示装置の製造業、投射型液晶表示装置のレンタル業やメンテナンス業などにおいて、利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る投射型液晶表示装置を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に用いるダイクロイックフィルタの断面図である。
【図3】ダイクロイックフィルタの光学特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0039】
1 照明光源 4 インテグレータレンズ
6 偏光ビームスプリッタ
9,10,11 液晶パネル
12 第一ダイクロイックフィルタ(色光分離手段)
13 第二ダイクロイックフィルタ(色光分離手段)
16 投射光学系
17 色光合成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射鏡を備えた照明光源と、
その照明光源から照射された照明光における集光位置に対して入射側開口が位置するように配置したロッド型インテグレータと、
そのロッド型インテグレータから出射する光を入射して所定の偏光方向に揃えた偏光を出射する偏光ビームスプリッタと、
その偏光ビームスプリッタから出射した光を三原色の色光に分離する色光分離手段と、
その色光分離手段によって分離された各色光のそれぞれに対応して備えられて各色光の光変調を行う液晶表示パネルと、
その液晶表示パネルによって光変調された三つの色光を合成する色光合成手段と、
その色光合成手段にて合成された照明光をスクリーンに投射する投射光学系と、を備え、
前記の照明光源は、LEDを用い、
前記の色光分離手段は、三原色の一の色光を反射して残りの色光を透過させる第一ダイクロイックフィルタと、
その第一ダイクロイックフィルタが透過させた色光から別の一の色光を反射して残りの色光を透過させる第二ダイクロイックフィルタとを備え、
その第一ダイクロイックフィルタは、耐熱性プラスチック材の基材に対する物理的蒸着によって、二酸化珪素と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材の二層膜とを多層とした光学膜を備えて形成したことを特徴とする投射型液晶表示装置。
【請求項2】
前記の第二ダイクロイックフィルタは、耐熱性プラスチック材の基材に対する物理的蒸着によって、二酸化珪素と酸化チタンまたは酸化チタン系複合材の二層膜とを多層とした光学膜を備えて形成したことを特徴とする請求項1に記載の投射型液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−268765(P2008−268765A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114760(P2007−114760)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(392034746)吉川化成株式会社 (22)
【Fターム(参考)】