説明

投射型表示装置及びその表示方法

【課題】動きが速い映像が拡大投射された際の残像感を減少させることができる投射型表示装置及びその表示方法を提供する。
【解決手段】光源2と、光源2を射出した光束と照明光束とする照明光学系3と、入力信号に基づき入射した照明光束を光変調し、変調光束として射出する液晶表示素子4r,4g,4bと、液晶表示素子4r,4g,4bで光変調された変調光束を拡大投影する投射光学系6と、投射光学系6から射出した変調光束の光路上に配設され、制御信号に基づき変調光束の透過を制御する光制御手段7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力信号に基づき光変調素子によって光変調された光束を投射手段により投影像として投射する際に、投射される投影像の見かけ上の応答速度を向上することができる投射型表示装置及びその表示方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、外部から入力した映像情報に基づき液晶表示素子において入射した光束を光変調して画像光束とし、画像光束を拡大投影する投射型表示装置が広く用いられている。
【0003】
また、一般に液晶表示素子は、例えばフレーム周波数が60Hzの場合、1/60秒の間はその画面を保持し順次画面を切り替えていく方式を採用している。
そのため次の画面表示される際に、人間の目は前の画面との両方の画面を認識することになり残像感を生じてしまうという欠点がある。特に、表示する映像がある種のスポーツのように動きの速い映像の場合に顕著である。
【0004】
このような残像感を低減する技術として、特許文献2に記載の方法が知られている。
特許文献2には、概ね以下の技術が記載されている。
液晶表示素子は、液晶に印加される駆動電圧を切り替えることにより映像画面と黒画面とを交互に繰り返し表示する手段を有するとともに、映像画面と黒画面とを1フレームおきに表示し、かつ通常の2倍速以上速度で映像画面と黒画面とを繰り返す手段を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-003809号公報
【特許文献2】特開2003-186456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2に記載の技術は、入力信号或は駆動信号の切換え手段が必要であるため液晶表示素子或は投射型表示装置が高価となってしまう。また、特許文献2に記載の技術は、通常の1フレームの画像表示期間を少なくとも2分割し黒画面を挿入するため、液晶表示素子の応答速度が十分に速くない場合、十分な効果が得られない虞がある。
更に、特許文献1の投射型表示装置に特許文献2に記載の技術を応用した場合、映像画面は拡大されて投影されるため、投影された映像画面を観察した場合、直視型の液晶表示装置の場合と比較して残像感がより多く感じられる虞がある。
【0007】
そこで、本発明は、動きが速い映像が拡大投射された際の、残像感を減少させることができる。また、液晶表示素子の応答速度が十分に速くない場合の、残像感を減少させるできる投射型表示装置及びその表示方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1) 上記の目的を達成するために、本実施の形態に記載の投射型表示装置(1,25)は、光源(2)と、光源(2)を射出した光束と照明光束とする照明光学系(3)と、入力信号に基づき入射した照明光束を光変調し、変調光束として射出する液晶表示素子(4r,4g,4b)と、液晶表示素子(4r,4g,4b)で光変調された変調光束を拡大投影する投射光学系(6)と、投射光学系(6)から射出した変調光束の光路上に配設され、制御信号に基づき変調光束の透過を制御する光制御手段(7)7と、を備える。
2) 1)記載の投射型表示装置(1,25)の光制御手段(7)は、液晶表示素子(4r,4g,4b)の画素領域の垂直走査方向に対応する方向に複数の駆動領域に分割されており、制御信号は、前記入力信号から検出された垂直同期信号に基づいて生成されたものであり、制御信号によって画素領域の垂直走査のタイミングに合わせて複数の駆動領域を順次駆動する。
3) 1)または2)に記載の投射型表示装置(1,25)の光制御手段(7)は、制御信号に基づき入射した変調光束の偏光状態を制御する液晶層(33)と、液晶層(33)の両面に形成され、液晶層(33)を駆動する際の電極となる透明導電膜(32A、32B,32C,32D,34A、34B,34C,34D)と、液晶層(33)及び透明導電膜(32A、32B,32C,32D,34A、34B,34C,34D)を透過した前記変調光束をその偏光状態に応じて透過或は遮断する偏光板(36)とを有する。
4) 1)乃至3)記載のいずれか1項に記載の投射型表示装置(1,25)の前記液晶表示素子(4r,4g,4b)は複数であって、照明光学系(3)は、複数個の液晶表示素子(4r,4g,4b)それぞれに照明光束を照射するよう構成され、複数の液晶表示素子(4r,4g,4b)から射出した変調光束を合成する光合成光学系(5)と、複数の液晶表示素子(4r,4g,4b)からそれぞれ射出した変調光束の偏光状態の内の1つの前記変調光束の偏光状態が他の変調光束の偏光状態と異なる場合、その変調光束の偏光状態を他の変調光束の偏光状態と同じ状態に変換する偏光変換手段(22,26)とを有する。
5) 1)乃至4)のいずれか1項に記載の投射型表示装置(1,25)の光制御手段(7)は、前記投射光学系から射出した変調光束の光路上から退避可能に設置されている。
6) 上記の目的を達成するために、本実施の形態に記載の投射型表示装置(1,25)の表示方法は、光源(2)から射出した光束を入力信号に応じて液晶表示素子(4r,4g,4b)光変調し変調光束として拡大投影する際に、複数の制御領域に分割された光制御手段(7)により変調光束の投影を制御する投射型表示装置(1,25)の表示方法において、入力信号の同期信号を検出する同期信号検出ステップと、同期信号検出ステップで検出された同期信号に応じて入力信号により液晶表示素子(4r,4g,4b)の画素を順次駆動し、入射する光束を光変調する光変調ステップと、同期信号検出ステップで検出された同期信号に応じて光制御手段(7)の複数の制御領域を順次駆動する光制御ステップとを有し、光制御ステップは、光変調ステップでの画素の駆動順に対応して制御領域を順次駆動する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、動きが速い映像が拡大投射された際の残像感を減少させることができる。また、液晶表示素子の応答速度が十分に速くない場合の残像感を減少させる投射型表示装置及びその表示方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る投射型表示装置の光学系を示す平面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る投射型表示装置の偏光変換付液晶シャッタを示す拡大平面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る投射型表示装置の別の形態の光学系を示す平面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る投射型表示装置の液晶シャッタを示す拡大斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る投射型表示装置の液晶シャッタを示す拡大斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る投射型表示装置の別の形態の液晶シャッタを示す拡大斜視図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る投射型表示装置の電気回路構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る投射型表示装置の液晶シャッタ制御部の電気回路構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る投射型表示装置の素子駆動のフレーム期間を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る投射型表示装置の画素の駆動タイミングを示す図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る投射型表示装置の液晶素子の光応答波形を示す図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る投射型表示装置の液晶シャッタのシャッタ駆動信号を示す図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る投射型表示装置の外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る投射型表示装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に、本発明の実施形態に係る投射型表示装置1の構成を示す。
投射型表示装置1は、光源2と、照明光学系3と、液晶表示素子4r,4g,4bと、色合成光学系5と、投射光学系6と、光制御手段7とを含む。
【0012】
光源2としては、白色光の光束を射出する超高圧水銀ランプやキセノンランプなどや、赤色(以下「R」と称す)光,緑色(以下「G」と称す)光,青色(以下「B」と称す)光をそれぞれの光束を射出する、或は白色光を射出する半導体光源を用いることができる。
ここでは、一例としてキセノンランプを用いた場合について説明する。
【0013】
照明光学系3には、第1色分離フィルタである第1ダイクロイックフィルタ11と、第2色分離フィルタである第2ダイクロイックフィルタ12と、反射ミラー13と、偏光子14r,14g,14bとを含む。
【0014】
第1ダイクロイックフィルタ11及び第2ダイクロイックフィルタ12としては、例えば第1ダイクロイックフィルタ11に入射した光束からB光を反射し、R光及びG光を透過する特性を持たせ、第2ダイクロイックフィルタ12に入射した光束からG光を反射し、R光を透過する特性を持たせたものを用いることができる。
【0015】
偏光子14r,14g,14bとしては、入射した光を偏光分離面で分光する際に、透過する直線偏光と反射する直線偏光とが直交するように分離する機能を有する偏光ビームスプリッタや、ワイヤグリッド型偏光板を用いることができる。
ここでは、一例としてワイヤグリッド型偏光板を用いた場合について説明する。
【0016】
液晶表示素子4r,4g,4bは、ここでは反射型液晶表示素子を用いた場合について説明するが、透過型液晶表示素子を用いることもできる。その際は、適時光学系を変更すればよい
【0017】
色合成光学系5としては、反射型液晶表示素子4r,4g,4bからのR光,G光,B光を合成する機能を有するクロスダイクロイックプリズム等を用いることができる。
投射光学系6としては、投射レンズを用いる。
【0018】
光制御手段7は、入射した光束の偏光状態を揃える偏光変換手段である波長選択性偏光変換素子22と、入射した光束を入力信号に基づいて遮断する液晶シャッタ23とを含む。光制御手段7の詳細については、後述する。
【0019】
次に、光源2から射出された白色光の光束が反射型液晶表示素子4r,4g,4bで光変調され、光制御手段7から射出されるまでの光路について図1を用いて説明する。
【0020】
光源2から射出された白色光の光束は、白色光の光束の光軸に対して略45度傾斜して配設された第1ダイクロイックフィルタ11に入射する。第1ダイクロイックフィルタ11では、入射した白色光の光束のうち波長帯域が青色であるB光の光束が光軸を90度折り曲げられ反射される。また、第1ダイクロイックフィルタ11に入射した白色光の光束のうち波長帯域が緑色及び赤色であるG光の光束及びR光の光束は、第1ダイクロイックフィルタ11を透過し直進するように射出される。
【0021】
第1ダイクロイックフィルタ11で反射したB光の光束は、B光の光束の光軸に対して45度傾斜して配設された反射ミラー13に入射し、光軸を90度折り曲げられ反射される。
【0022】
一方、第1ダイクロイックフィルタ11を透過したG光の光束及びR光の光束は、G光の光束及びR光の光束の光軸に対して略45度傾斜して配設された第2ダイクロイックフィルタ12に入射する。第2ダイクロイックフィルタ12では、入射したG光の光束及びR光の光束のうちG光の光束が光軸を90度折り曲げられ反射される。また、第2ダイクロイックフィルタ12に入射したG光の光束及びR光の光束のうちR光の光束は、第2ダイクロイックフィルタ12を透過し直進するように射出される。
【0023】
反射ミラー13で反射したB光の光束,第2ダイクロイックフィルタ12で反射したG光の光束及び第2ダイクロイックフィルタ12を透過したR光の光束は、それぞれ光軸に対して略45度傾斜して配設されたワイヤグリッド型偏光板14r,14g,14bに入射する。
ワイヤグリッド型偏光板14r,14g,14bにそれぞれ入射したB光の光束,G光の光束及びR光の光束のうち、各色所定の方向の直線偏光のみがワイヤグリッド型偏光板14r,14g,14bを透過し、反射型液晶表示素子4r,4g,4bに入射する。
ここでは、ワイヤグリッド型偏光板14r,14g,14bで直線偏光にするとしているが、より光源2に近い位置で別途直線偏光にする様な光学系であっても良い。
更に、無偏光状態の光を直線偏光に変換した際に、一方の偏光を偏光変換することにより光源から射出された光の利用効率を向上させるような光学系を用いても良い。
【0024】
反射型液晶表示素子4r,4g,4bでは、図示しない外部から入力された各色光用の素子駆動信号に基づき入射した直線偏光が光変調された後に光変調光束として反射される。
反射型液晶表示素子4r,4g,4bで光変調された各色光の光変調光束は、それぞれワイヤグリッド型偏光板14r,14g,14bに入射し、光変調された偏光成分が反射され光軸が90度折り曲げられ射出する。
【0025】
ワイヤグリッド型偏光板14r,14g,14bを射出した各色光の光変調光束は、それぞれクロスダイクロイックプリズム5の射出面5aを除く3面から入射し、クロスダイクロイックプリズム5の内部で光合成され映像光の光束として射出される。
各色光の光変調光束は、クロスダイクロイックプリズム5から射出される際に、B光の光変調光束とR光の光変調光束とをS偏光の直線偏光の状態とし、G光の光変調光束をP偏光の直線偏光の状態とするよう、上述の光学系が設定されている。
【0026】
クロスダイクロイックプリズム5から射出された映像光の光束は投射レンズ6に入射し、拡大投射される。
投射レンズ6から拡大投射された映像光の光束は、光制御手段7に入射する。光制御手段7では、図示しない外部からの駆動信号に基づき入射した映像光の光束を遮断或は透過する。
光制御手段7を透過した映像光の光束は、図示しないスクリーンに投影され映像となって表示される。
【0027】
次に、光制御手段7について図2を用いて詳細に説明する。
光制御手段7は、映像光の光束の入射側から反射防止膜付きガラス21と、波長選択性偏光変換素子22と、液晶シャッタ23と、反射防止膜付きガラス24とを含む。
反射防止膜付きガラス21及び反射防止膜付きガラス24は、図1では図示が省略されていたものである。
【0028】
反射防止膜付きガラス21は、直線偏光の映像光の光束の入射面に反射防止膜が形成されており、光が入射する際に空気と反射防止膜付きガラス21との界面で反射するのを防いでいる。
また、反射防止膜付きガラス24は、直線偏光の映像光の光束の射出面に反射防止膜が形成されており、光が反射防止膜付きガラス24から射出する際に反射防止膜付きガラス21と空気との界面で反射するのを防いでいる。
【0029】
波長選択性偏光変換素子22は、直線偏光が入射した際に、所定の波長帯域の光束の偏光軸のみを90度回転させ射出するとともに、それ以外の波長帯域の直線偏光の光束はそのまま射出する特性を有する。
本実施の形態においては、入射した光束の偏光軸を揃えて射出する目的で使用されている。ここでは、入射する直線偏光の映像光の光束は、B光の帯域及びR光の帯域はS偏光の直線偏光の状態であり、G光の帯域はP偏光の直線偏光の状態である。そこで、波長選択性偏光変換素子22にはG光の帯域の偏光軸を90度回転する特性を持たせ、波長選択性偏光変換素子22から射出する映像光の光束の偏光状態を全ての帯域でS偏光とするものである。
【0030】
液晶シャッタ23は、外部から入力するシャッタ制御信号に基づき内部の液晶を駆動し、入射する直線偏光の映像光の光束の偏光状態を制御し、射出する直線偏光の映像光の光束を透過または遮断するものである。
【0031】
ここで、変形例として光制御手段7が波長選択性偏光変換素子22を含まない例を、図3を用いて説明する。
図3に示す投射型表示装置25が図1に示した光学系と異なる点は、G光用の反射型液晶表示素子4gにおいて光変調されたG光の光変調光束の光路上であって、ワイヤグリッド型偏光板14gとクロスダイクロイックプリズム5との間に、G光の偏光軸を90度回転させる偏光変換手段である偏光変換素子26を設け、光制御手段7から波長選択性偏光変換素子22を取り除いた点である。
この場合、偏光変換素子26は、波長選択性偏光変換素子22である必要は無く、波長に対して特別な特性を有する必要は無い。
これにより、クロスダイクロイックプリズム5に入射するR光の光変調光束,G光の光変調光束、及びB光の光変調光束は、全てS偏光にすることができる。
【0032】
次に、図1及び図3に記載の液晶シャッタ23の詳細について、図4を用いて説明する。
液晶シャッタ23は、映像光の光束の入射側から反射防止膜付きガラス31と、入射側透明導電膜32A、32B,32C,32Dと、液晶層33と、射出側透明導電膜34A、34B,34C,34Dと、反射防止膜付きガラス35と、偏光板36とを含む。
【0033】
反射防止膜付きガラス31は、その入射面に入射した光束が界面で反射することを防ぐ反射防止膜が形成されており、射出面に入射側透明導電膜32A、32B,32C,32Dが形成されている。
反射防止膜付きガラス35は、その射出面に射出する光束が界面で反射することを防ぐ反射防止膜が形成されており、入射面に射出側透明導電膜34A、34B,34C,34Dが形成されている。
反射防止膜付きガラス31と反射防止膜付きガラス35との間の入射側透明導電膜32A、32B,32C,32Dと射出側透明導電膜34A、34B,34C,34Dとの間の空間には、液晶が封入されている。
【0034】
更に、反射防止膜付きガラス35の射出面側には、偏光板36が配設されている。
偏光板36は、液晶層33と組合せて使用し、直線偏光の映像光の光束の透過,遮断を制御するものである。
ここでは、シャッタ制御信号で液晶層33に所定の電圧が印加された際に液晶層33から射出した直線偏光の映像光の光束を遮断するように偏光板36の偏光軸が設定されている。
もしくは、液晶層33に所定の電圧が印加されていない際に液晶層33から射出した直線偏光の映像光の光束を遮断するように偏光板36の偏光軸が設定されていてもよい。この場合は、本実施の形態と液晶層33に印加する電圧のオン,オフを逆にすることが必要である。
【0035】
液晶シャッタ23に用いる液晶の一例として、ねじれネマティック(以下「TN」と称す)液晶をノーマリホワイトモードで用いて際について説明する。
TN液晶は、光束の入射側と射出側の両端で90度配向状態がずらすようなカイラル構造で形成されており、液晶を通過する直線偏光の光束は、その回転に沿って偏光の向きが90度回転する。偏光板36の透過軸は、90度回転した直線偏光の光束を透過するように設定されている。このようにして電圧オフの際に、偏光板36から光束を射出する。
【0036】
電圧を液晶層33に印加すると、TN液晶は入射した直線偏光の光束と同じ方向に配向し、入射した直線偏光の光束の偏光状態のまま液晶層33を透過する。偏光板36の透過軸は、液晶層33に入射した直線偏光の光束の偏光状態と90度直交した状態で設定されているため、液晶層33を透過した直線偏光の光束は偏光板36を通過できない。
つまりこの例においては、液晶層33に印加される電圧がオンのとき光束は遮断され、オフのとき光束は透過するようになっている。
ここでは、液晶としてTN液晶をノーマリホワイトモードで用いた場合について説明したが、異なる方式の液晶を用いることもできると共に、ノーマリブラックモードを用いることもできる。
【0037】
図5は、液晶シャッタ23から反射防止膜付きガラス31を取り除いた状態を示す図5からわかるように、入射側透明導電膜32A、32B,32C,32Dは、4つの領域に分割されている。
ここでは、4つに分割した場合について説明するが、分割数は増減することが可能である。
また、同様に射出側透明導電膜34A、34B,34C,34Dも、入射側透明導電膜32A、32B,32C,32Dと同じ形態で4つの領域に分割されている。
【0038】
透明導電膜は、酸化インジウム・スズ(以下「ITO」と称す)や酸化亜鉛などを用いることができる。
分割された透明導電膜を形成する方法としては、それぞれの領域に対応したマスクを用いて所定の領域に透明導電膜を成膜する方法や、基板の全面に透明導電膜を形成して所定の領域の透明導電膜をエッチング処理で除去する方法がある。
【0039】
液晶シャッタ23の別の形態である液晶シャッタ37について図6に示す。
図6に示した液晶シャッタ37が図4と異なるのは、射出側透明導電膜38が反射防止膜付きガラス35の入射面の全面に渡って形成され、分割されていない点である。
全面に渡って形成される透明導電膜は、射出側の反射防止膜付きガラス35に限らず入射側の反射防止膜付きガラス31に形成されてもよく、いずれか一方の透明導電膜が分割されていれば、所望の効果を得ることができる。
【0040】
次に、投射型表示装置1,25の電気回路の要部について図7を用いて説明する。ここでは、液晶シャッタとして図4に示す形態の場合について説明する。
図7に示すように電気回路は、同期信号検出回路41と、素子駆動回路42と、液晶シャッタ制御部43を含む。
【0041】
外部から入力した映像情報である入力信号は、同期信号検出回路41で画像信号と同期信号に分離され、それぞれ出力される。
同期信号検出回路41から出力された画像信号は素子駆動回路42に供給される。
同期信号検出回路41から出力された同期信号は素子駆動回路42と液晶シャッタ制御部43とにそれぞれ供給される。
素子駆動回路42では、入力した同期信号から生成した水平同期信号と垂直同期信号とに基づいて画像信号からR光用,G光用及びB光用それぞれの素子駆動信号を生成してR光用反射型液晶表示素子4r,G光用反射型液晶表示素子4r及びB光用反射型液晶表示素子4bに供給し、反射型液晶表示素子4r,4g及び4bに入射した光束を光変調する。
【0042】
液晶シャッタ制御部43では、入力した同期信号に基づいて液晶シャッタ23の
液晶層33を駆動するためのシャッタ制御信号を液晶シャッタ23に供給する。
液晶シャッタ23では、入力したシャッタ制御信号に基づき液晶層33を駆動し、液晶層33を透過する映像光の光束の偏光状態を制御し、偏光板36によって映像光の光束を透過または遮断する。
【0043】
次に、図7におけるXで示した液晶シャッタ23とシャッタ制御部43との回路について図8を用いて詳細に説明する。
シャッタ制御部43は、垂直同期信号抽出回路51と、波形整形回路52と、遅延回路53A,53B,53C,53Dと、シャッタ駆動回路54A,54B,54C,54Dとを含む。
【0044】
シャッタ制御部43に入力した同期信号は垂直同期信号抽出回路51で垂直同期信号が抽出され波形整形回路52に出力される。
波形整形回路52では、入力した垂直同期信号に基づき液晶シャッタ23の液晶層33を駆動する駆動波形信号を形成する。
【0045】
波形整形回路52で形成された駆動波形信号は、遅延回路53A,53B,53C,53Dにそれぞれ供給される。遅延回路53A,53B,53C,53Dは、それぞれ入射側透明導電膜32A、32B,32C,32D及び射出側透明導電膜34A、34B,34C,34Dに対応して4つの回路に分かれている。液晶表示素子では画像は垂直走査により表示されるため、1フレームの画像を表示する場合、画素の位置によって表示されるタイミングが異なる。そこで、本実施の形態では、液晶シャッタ23の液晶層33を駆動する透明電極を分割し、映像光の光束における投影画像のそれぞれの位置での走査タイミングに合わせて液晶層33を駆動するようにしている。
このように、液晶シャッタ23の映像光の光束に対応する領域を上下方向に4分割し、それぞれの領域の走査タイミングに合わせて液晶層33を駆動するため、遅延回路53A,53B,53C,53Dが設けられている。
【0046】
遅延回路53A,53B,53C,53Dでそれぞれ所定の時間たけ遅延させた駆動波形信号が、シャッタ駆動回路54A,54B,54C,54Dに入力される。
シャッタ駆動回路54A,54B,54C,54Dに入力した駆動波形信号は、液晶層33の駆動電圧に合わせて電圧変換されシャッタ駆動信号として入射側透明導電膜32A、32B,32C,32D及び射出側透明導電膜34A、34B,34C,34Dに供給され、液晶層33を駆動する。
【0047】
この際、一般的に入射側透明導電膜32A、32B,32C,32D及び射出側透明導電膜34A、34B,34C,34Dに供給される信号の一方をグランド電位とし、他方の電圧を変化させて駆動させることが多い。特に、図6の液晶シャッタ37の場合は、反射防止膜付ガラス35の全面に形成した射出側透明導電膜38をグランド電位とする必要がある。
【0048】
次に、液晶シャッタ23の駆動について説明する前に、液晶層33に印加する駆動信号についての概要について図9を用いて説明する。
図9に示すように、e点からf点の間を入力画像の垂直表示期間(以下、「1フレーム」と称す)とすると、液晶に1フレーム期間中直流を印加し続けると、液晶内のイオンが電極側に蓄積し焼き付き現象の発生や、液晶の電気分解などによる材料の変質の発生が起こる虞がある。
そこで、一定の周期ごとに電圧を反転させる反転駆動と呼ばれる手法が採用されている。図9では、1フレーム期間を2つのフィールドに分割し、それぞれのフィールドで電圧の極性を反転している。
ここで、垂直同期信号は、垂直方向の表示の同期を取り、1フレームを正しいタイミングで表示するための信号であり、フレーム間に挿入されるものである。
【0049】
次に、図10を用いて反射型液晶表示素子4r,4g及び4bにおける入力信号と、実際の画素位置での印加電圧の違いについて説明する。
図10に示した入力信号は、素子駆動回路42から反射型液晶表示素子4r,4g及び4bに出力される素子駆動信号のことである。
液晶表示素子では、1フィールド期間に画素を順次駆動する表示方法をとるため、一度に全ての画素が駆動することはない。本実施の形態では、垂直方向の画素の走査は図5におけるaからd方向に向けて行われる。
そこで、反射型液晶表示素子4r,4g及び4bのそれぞれの画素領域における図5のa,b,c,d各位置に対応した位置の画素に印加される信号のタイミングを印加信号として図10に示している。
【0050】
図10に示すように入力信号に対して印加信号は、a,b,c,d各位置に対応した位置の画素において、aからdに向けて立ち上がりのタイミングが遅くなり、位相のずれが大きくなる。
【0051】
また、図11には、反射型液晶表示素子4r,4g及び4bに印加される印加信号と液晶の光応答波形を示す。
図11に示すように、反射型液晶表示素子4r,4g及び4bに電圧が印加されると、直ちに液晶は立ち上がるのではなく初期は急激に立ち上がるものの、その後徐々に反応し所定時間を経たところで完全に飽和する。一方、電圧の印加が停止すると、液晶は徐々に初期状態に戻る形となっている。
【0052】
従って、液晶シャッタ23の液晶層33を全面で駆動した場合、投影された映像が投影画面内の場所によって正常に表示されてない領域が発生する。
そこで、図5の入射側透明導電膜32A,32B,32C,32Dのように、液晶層33も駆動する領域を分割する必要がある。
【0053】
実際に液晶層33を駆動する信号について図12を用いて説明する。
ここで、入射側透明導電膜32A,32B,32C,32Dの垂直走査方向におけるそれぞれの領域の中心位置をa,b,c,dとする。
入射側透明導電膜32A,32B,32C,32Dに対応する領域の液晶層33の駆動は、図10のa,b,c,dに対応したタイミングで行うことにより、投影画像が前面に渡って正しく表示される。
【0054】
液晶層33に印加するシャッタ駆動信号を図12(A)に示す。図12(A)には、光応答波形も合わせて示す。シャッタ駆動信号において、+Vまたは−Vの電圧が印加されている領域は液晶層33に電圧が印加されており、透過する光束の偏光が90度回転し偏光板36によって光束が遮断され投影画像が表示されない。一方、0Vと電圧が印加されていない領域は、液晶層33が駆動されておらず、液晶層33を透過する光束は偏光板36によって遮断されず投影画像が表示される。
図12(A)のシャッタ駆動信号及び光応答波形からわかるように、シャッタ駆動信号が0Vと電圧が印加されていない領域は、光応答波形の立ち上がり期間及び立下り期間にかかっていない。
【0055】
次に、図12(B)に入射側透明導電膜32A,32B,32C,32Dそれぞれにおけるシャッタ駆動信号を示す。
入射側透明導電膜32A,32B,32C,32Dにおけるシャッタ駆動信号は、図10のa,b,c,dの印加信号に対応して、図12(A)のシャッタ駆動信号の位相をずらしたものとなる。
【0056】
図12(C)には、図12(B)のシャッタ駆動信号で駆動した液晶シャッタ23の図5のa,b,c,dに対応した投影画像の表示タイミングを示す。
図12(C)に示すように液晶シャッタ23は、a,b,c,dの順に投影画像を表示する。
【0057】
これにより、投射型表示装置1,25によって投影される投影画像には、1フィールドの中に画像が表示される期間と、画像が液晶シャッタ23により遮断されて黒表示をする期間とが少なくとも1対は存在する。さらに、図12(A)から明らかなように、1フレーム期間においては、フレーム毎に画像が切り替わっていくため、フレームとフレームの区切りでは、必ず液晶シャッタ23により画像が遮断されている。
結果として、投影される画像は、異なる画像が表示される際には、切り替わりの期間に液晶シャッタ23により画像が遮断されているため、画像を拡大投影した場合でも、残像感を感じることを減らすことができる。
【0058】
図13に本実施形態にかかる投射型表示装置1,25の外観図の一例を示す。
図13に示した投射型表示装置1,25は、液晶シャッタ23を投射レンズ6から射出した画像光束の光路から退避させた状態を示している。また、液晶シャッタ23は、投射型表示装置1,25の内部に設置された液晶シャッタ制御部43とケーブルにて配線されている。
実際に動きの早い映像を表示する場合、液晶シャッタ23を投射レンズ6の前面に移動可能に設置されている。
一般に液晶シャッタ23を用いた場合、液晶シャッタ23を透過する投影画像の明るさは、波長選択性偏光変換素子22や偏光板36によって低下する。そのため、静止画やゆっくりした動きの映像のように残像感をあまり気にしない投影画像を表示する場合、液晶シャッタ23を投射レンズ6の前から退避させ、明るい投影画像を表示することができる。
【0059】
液晶シャッタ23を退避させる方法としては、投影画像に応じて手動で投射レンズ6の前から動かす方法や、入力信号から投影画像の動きベクトル等を検出しその量に応じて液晶シャッタ23を退避させるかどうか判断し、図示しない液晶シャッタ退避手段により退避させることなどがある。
【0060】
本実施の形態では、クロスダイクロイックプリズム5から射出される際の各色の光変調光束の偏光状態は、B光とR光ではS偏光の直線偏光の状態であり、G光ではP偏光の直線偏光の状態としたが、それぞれ異なる偏光状態であっても良い。その場合、各色の光変調光束の偏光状態に合わせて、波長選択性偏光変換素子の選択波長及び設置場所を設定すれば良いことは言うまでもない。
【0061】
更に、本実施の形態では、液晶表示素子4r,4g,4bの垂直走査方向は、図5のa,b,c,d位置におけるaからd方向に対応して走査される場合について説明したが、投射型表示装置1,25反転をさせて天井から吊下げて投影した場合など投影画像を上下反転して表示する場合は、以下のようにする。
投影画像を上下反転して表示する場合は、液晶表示素子4r,4g,4bにおける垂直走査方向は、図5のdからa方向とする必要がある。そこで、液晶シャッタ23の駆動順序は32D,32C,32B,32Aとする必要がある。
【0062】
また、液晶表示素子4r,4g,4bの駆動が垂直走査方向の中央部から互いに離隔する方向に走査される場合は、液晶シャッタ23の駆動順序は初めに32Cと32Bとを駆動し、その後32Dと32Aとを駆動する必要がある。
【符号の説明】
【0063】
1…投射型表示装置、2…光源、3…照明光学系、4r,4g,4b…液晶表示素子、5…色合成光学系(クロスダイクロイックプリズム)、6…投射光学系(投射レンズ)、7…光制御手段、11…第1ダイクロイックフィルタ、12…第2ダイクロイックフィルタ、13…反射ミラー、14r,14g,14b…ワイヤグリッド型偏光板、22…波長選択性偏光変換素子、23…液晶シャッタ、25…投射型表示装置、26…偏光変換素子、32A、32B,32C,32D…入射側透明導電膜、33…液晶層、34A、34B,34C,34D…射出側透明導電膜、36…偏光板、37…液晶シャッタ、38…射出側透明導電膜、41…同期信号検出回路、42…素子駆動回路、43…液晶シャッタ制御部、51…垂直同期信号抽出回路、52…波形整形回路、53A,53B,53C,53D…遅延回路、54A,54B,54C,54D…シャッタ駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源を射出した光束を照明光束とする照明光学系と、
入力信号に基づき入射した前記照明光束を光変調し、変調光束として射出する液晶表示素子と、
前記液晶表示素子で光変調された前記変調光束を拡大投影する投射光学系と、
前記投射光学系から射出した前記変調光束の光路上に配設され、制御信号に基づき前記変調光束の透過を制御する光制御手段と、
を備える投射型表示装置。
【請求項2】
前記光制御手段は、前記液晶表示素子の画素領域の垂直走査方向に対応する方向に複数の駆動領域に分割されており、
前記制御信号は、前記入力信号から検出された垂直同期信号に基づいて生成されたものであり、
前記制御信号によって画素領域の垂直走査のタイミングに合わせて前記複数の駆動領域を順次駆動することを特徴とする請求項1記載の投射型表示装置。
【請求項3】
前記光制御手段は、
前記制御信号に基づき入射した前記変調光束の偏光状態を制御する液晶層と、
前記液晶層の両面に形成され、前記液晶層を駆動する際の電極となる透明導電膜と、
前記液晶層及び前記透明導電膜を透過した前記変調光束をその偏光状態に応じて透過或は遮断する偏光板と、
を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の投射型表示装置。
【請求項4】
前記液晶表示素子は複数であって、
前記照明光学系は、前記複数個の液晶表示素子それぞれに前記照明光束を照射するよう構成され、
前記複数の液晶表示素子から射出した前記変調光束を合成する光合成光学系と、
前記複数の液晶表示素子からそれぞれ射出した前記変調光束の偏光状態の内の1つの前記変調光束の偏光状態が他の前記変調光束の偏光状態と異なる場合、その変調光束の偏光状態を他の変調光束の偏光状態と同じ状態に変換する偏光変換手段と、
を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の投射型表示装置。
【請求項5】
前記光制御手段は、前記投射光学系から射出した変調光束の光路上から退避可能に設置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の投射型表示装置。
【請求項6】
光源から射出した光束を入力信号に応じて液晶表示素子で光変調し変調光束として拡大投影する際に、複数の制御領域に分割された光制御手段により前記変調光束の投影を制御する投射型表示装置の表示方法において、
前記入力信号の同期信号を検出する同期信号検出ステップと、
前記同期信号検出ステップで検出された前記同期信号に応じて前記入力信号により液晶表示素子の画素を順次駆動し、入射する光束を光変調する光変調ステップと、
前記同期信号検出ステップで検出された前記同期信号に応じて前記光制御手段の前記複数の制御領域を順次駆動する光制御ステップと、
を有し、
前記光制御ステップは、前記光変調ステップでの前記画素の駆動順に対応して前記制御領域を順次駆動することを特徴とする投射型表示装置の表示方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−175907(P2010−175907A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19391(P2009−19391)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】