説明

投射装置、プログラム、及び投射装置の制御方法

【課題】投射装置の投射光に起因した投射画像の画質の低下を抑制する。
【解決手段】投射装置は、画像データに従って変調された投射光を被投射面に投射する投射部と、被投射面に表示された投射画像における所定の測定領域の輝度を測定する測定部と、画像データに従って変調された投射光を被投射面に投射した場合に得られると予想される画像の平均輝度と所定の測定領域の輝度とに応じて、予想される画像の平均輝度に対する、被投射面で反射し周辺環境でさらに反射した後に被投射面に再び入射した戻り光の輝度の割合を推定する推定部と、推定された割合と表示すべき画像データの平均輝度とに応じて、戻り光の輝度がキャンセルされるように、表示すべき画像データを補正する補正部とを備え、投射部は、補正された表示すべき画像データに従って変調された投射光を被投射面に投射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投射装置、プログラム、及び投射装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像をスクリーンに投射表示する投射装置として、画像が液晶パネル上に生成され、その液晶パネル上に生成された画像をスクリーンに投射表示するプロジェクタが知られている。プロジェクタによる投影においては、外光(照明光)の輝度が大きい場合、スクリーン上に投射表示された画像に対して外光分の輝度の影響で、その画像のコントラストが低下する。投射表示された画像において、コントラストが低下すると、黒となるべき画素が黒く見えなかったり、鮮やかな色となるべき画素が白くくすんで見えてしまったりする。
【0003】
それに対して、特許文献1には、プロジェクタ20において、照明光の明るさを計測して、照明光が標準の視環境より明るい場合に低階調域の出力を上げるように、再現されるべき画像を補正することが記載されている。これにより、特許文献1によれば、再現される画像において、照明光による低階調域の見えの劣化を改善できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-125125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この様なプロジェクタでは、外光(照明光)の輝度が小さい場合、プロジェクタ自身が照射した光がスクリーンに反射し、さらに壁、天井などから反射して再びスクリーンに映り込んでしまう「戻り光」によってもコントラストの低下が発生してしまう。照明光よりも、戻り光による、投射表示された画像の画質影響を与えることを見出した。ここで、戻り光は、プロジェクタからスクリーンに照射される光(投射光)のうちスクリーンで反射し部屋の壁や天井等の周辺環境にさらに反射され再度スクリーンに戻って照射される光である。投射表示された画像(投射画像)において、戻り光によるオフセットがかかると、画像に色がついたり、画像が白くぼけたりする画質の低下が発生する。
【0006】
本発明の課題について、図11を用いて詳細に説明する。
【0007】
プロジェクタ100は、画像信号源(図示せず)から画像信号を受け取り、その画像信号に応じた画像201をスクリーン200に投射表示している。ここで、周辺環境(壁、天井、床、什器、家具等、いずれも図示せず)が光を反射し得る場合、画像201の光の一部はスクリーン200で反射した後、周辺環境でさらに反射して、再度スクリーン200を照射する。このようにして、投射表示された画像に戻り光が照射されることになる。
【0008】
更に、この課題は、偏った色バランスを有した画像を投射表示する場合には目立つことになる。仮に、画像201が、大部分の青色の画像(図11の斜線部)と、フルカラーの画像からなるウィンドウ202とを含む場合を考える。この場合、画像201に青成分が多く含まれるため、周辺環境が色付いていないと仮定すると、戻り光も青成分が多いことになる。画像201の斜線部分に関しては、青い画像の上に青い戻り光が照射されるため、観察する上で影響が少ない。しかし、フルカラーのウィンドウ202の部分に関しては、その画像が青被りすることになり、観察者に不適切な画像を提示することになる。すなわち、投射表示された画像(投射画像)の画質の低下が発生する。
【0009】
本発明の目的は、前述のような投射装置の投射光に起因した投射画像の画質の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの側面に係る投射装置は、画像データに応じた投射画像が被投射面に表示されるように、前記画像データに従って変調された投射光を前記被投射面に投射する投射手段と、前記被投射面に表示された前記投射画像における所定の測定領域の輝度を測定する測定手段と、前記画像データに従って変調された投射光を前記被投射面に投射した場合に得られると予想される平均輝度と前記所定の測定領域の輝度とに応じて、前記投射画像の平均輝度に対する、前記投射光のうち前記被投射面で反射し周辺環境でさらに反射した後に前記被投射面に再び入射した戻り光の輝度の割合を推定する推定手段と、表示すべき画像データの平均輝度を求め、前記推定された割合と前記表示すべき画像データの平均輝度とに応じて、前記戻り光の輝度がキャンセルされた状態で投射画像が前記被投射面に表示されるように、前記表示すべき画像データを補正する補正手段とを備え、前記投射手段は、前記補正された前記表示すべき画像データに従って変調された投射光を前記被投射面に投射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、投射装置の投射光に起因した投射画像の画質の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態に係るプロジェクタのブロック図。
【図2】第1実施形態の補正フローを示した図。
【図3】第1実施形態のテストパターンを説明するための図。
【図4】第1実施形態のオフセット補正を説明するための図。
【図5】第1実施形態の変形例におけるテストパターンを説明するための図。
【図6】第2実施形態のテストパターンを説明するための図。
【図7】第2実施形態の戻り光輝度の推定方法を説明するための図。
【図8】第3実施形態の補正フローを示した図。
【図9】第3実施形態のテストパターンを説明するための図。
【図10】第3実施形態の変形例におけるテストパターンを説明するための図。
【図11】戻り光について説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、第1実施形態における戻り光の概念について、図11を用いて説明する。プロジェクタ100から、ある画像に応じた投射光がスクリーン200に投射された場合、その光の一部がスクリーンゲインに従って反射される。プロジェクタ100の設置された部屋の壁や天井や床が一般的な材質であると仮定すると、スクリーン200から反射した光は、部屋の壁や天井に吸収されたり、拡散反射されたりすることになる。壁や天井で拡散反射された光の一部はスクリーン200に再び照射される。第1実施形態では、この系を、プロジェクタ100から射出された光のうち一部が、部屋内で拡散反射されて積分された上、スクリーン全体に再度照射されるというモデルとする。
【0014】
次に、第1実施形態に係るプロジェクタ(投射装置)100の構成を、図1を用いて説明する。図1に示すプロジェクタ100は、次の構成要素を備える。
【0015】
操作部102は、ユーザからの指示を受け付け、受け付けた指示を制御部101へ供給する。制御部101は、供給された指示に応じて、プロジェクタ100における各部を全体的に制御する。
【0016】
電源部103は、制御部101による制御を受けて、プロジェクタ100における各部への電源供給を制御する。例えば、操作部102が起動指示を受けて制御部101へ供給した場合、電源部103は、起動指示に応じた起動指令を制御部101から受ける。電源部103は、起動指令に応じて、各部への電源供給を開始する。
【0017】
光源制御部108は、制御部101による制御を受けて、光源106が発する光量等を制御する。これに応じて、光源106は、液晶部104に光を供給する。
【0018】
液晶駆動部105は、画像処理部117から画像情報を受ける。液晶駆動部105は、受けた画像情報に応じて液晶部104の液晶パネルを駆動することにより、液晶部104の液晶パネルに画像を形成させる。これに応じて、液晶部104は、液晶駆動部105により駆動されて、液晶パネル上に画像を形成する。液晶部104は、このような液晶パネルを例えば1枚又は3枚含む。
【0019】
投射光学系(投射手段)107は、光源106から発せられ液晶部104を透過した光を受ける。これにより、投射光学系107は、画像データに応じた投射画像がスクリーン(被投射面)200に表示されるように、画像データに従って変調された投射光をスクリーン200に投射する。投射光学系107は、光軸に沿って駆動可能なズームレンズやフォーカスレンズを含む。
【0020】
焦点検出部123は、プロジェクタ100からスクリーン200までの距離を検出することにより、焦点位置を検出する。焦点検出部123は、焦点位置の情報を制御部101へ供給する。
【0021】
光学系制御部10は、投射光学系107の動作を制御する。例えば、光学系制御部10は、投射光学系107のズームレンズの動作を制御することにより、ズーム倍率の調節を行う。あるいは、例えば、光学系制御部10は、焦点位置の情報を制御部101から受けて、焦点位置へフォーカスレンズを駆動するように投射光学系107を制御することにより、投射光学系107の焦点調整を行なう。
【0022】
アナログ入力部110は、PCやDVDプレイヤー、テレビチューナー等からのアナログ画像信号を受け付けてDA変換部111へ供給する。アナログ入力部110は、例えば、RGB端子、S端子等を含む。
【0023】
DA変換部111は、アナログ入力部110から受けたアナログ画像信号をデジタル画像信号に変換する。DA変換部111は、変換したデジタル画像信号を画像処理部117へ供給する。
【0024】
デジタル入力部112は、PCやDVDプレイヤー等からデジタル画像信号を受け付ける。デジタル入力部112は、例えば、HDMI端子等を含む。HDMI端子の場合には、外部から画像信号に加えて制御信号も同時に送信されてくる場合があり、デジタル入力部112が、画像信号及び制御信号を受信して画像処理部117へ供給する。これにより、画像処理部117は、その制御信号に従い、その画像信号に応じた画像の処理等を行う。
【0025】
USBインタフェース113には、ポインティングデバイスや、キーボード、USB型の記憶媒体(例えばフラッシュメモリ)等が接続可能になっている。USBインタフェース113は、USB型の記憶媒体が接続された場合、その記憶媒体から各種の情報データ(例えば、画像データ)又はそのファイルを受け取る、又はその記憶媒体に書き出す。
【0026】
カードインタフェース114には、SDカードやコンパクトフラッシュ(登録商標)等が挿入可能になっている。カードインタフェース114は、カード型の記録媒体が挿入された場合、各種の情報データ又はそのファイルを読み書きするためのインターフェースである。
【0027】
通信部115は、通信回線(例えば、イントラネット、インターネット)経由で各種の情報データ又はそのファイルや各種の命令信号を受信し制御部101へ供給する。また、通信部115は、制御部101から供給された各種の情報データ又はそのファイルや各種の命令信号を通信回線経由で送信する。通信部115は、例えば、有線LANや無線LAN等に接続される通信インターフェースである。
【0028】
内部メモリ116は、各種の情報データ又はそのファイルを保存する。内部メモリ116は、例えば、半導体メモリやハードディスク等を含む。
【0029】
ファイル再生部132は、所定のファイルを再生する。例えば、操作部102が再生指示を受けて制御部101へ供給した場合、ファイル再生部132は、再生指示に応じた再生指令を制御部101から受ける。ファイル再生部132は、再生指令に応じて、例えば、カードインタフェース114を介して記録媒体にアクセスし記録媒体に記録されたドキュメントファイルを取得するとともに再生する。具体的には、ファイル再生部132は、ドキュメントファイルから、ユーザに掲示するための画像信号を生成して、生成した画像信号を画像処理部117に供給する。
【0030】
画像処理部117は、USBインタフェース113、カードインタフェース114、ファイル再生部132により得られた画像信号や制御部101により得られた画像信号等に対して、液晶部104で表示するのに適した補正を行なう。例えば、画像処理部117は、画像信号の画素数を液晶パネルの画素数にあわせて変換し、液晶パネルの交流駆動のため、入力された画像信号のフレーム数を倍にし、液晶パネルによる画像形成に適した補正をする。因みに、液晶パネルの交流駆動とは、液晶パネルの液晶にかける電圧の方向を交互に入れ替えて表示させる方法であり、液晶にかける電圧の方向が正方向でも逆方向でも画像を生成できるという液晶パネルの性質を利用したものである。このとき、液晶駆動部105に正方向用の画像と逆方向用の画像とを1枚ずつ送る必要があるので、画像処理部117では、画像信号のフレームの数を倍にする処理を行なう。画像処理部117は、これらの処理を行うことにより、画像データを生成して液晶駆動部105へ供給する。これにより、液晶駆動部105は、液晶部104の液晶パネル上に、画像データに応じた画像を形成させる。
【0031】
また、画像処理部117は、スクリーン200に対して斜め方向から画像を投射し投射画面が例えば台形状に歪んでしまう場合に、投射画像に対し台形状の歪みを打ち消すように画像の形状を変形させるキーストン補正も行なう。画像処理部117は、キーストン補正をする際、液晶パネルに表示される画像の水平方向及び/又は垂直方向の拡大/縮小率を変更している。これにより、画像処理部117は、投射画面の台形状の歪みと表示素子(液晶パネル)上での画像領域の歪みとを相殺させ、正常なアスペクト比の長方形の画像表示領域に近づくようにしてスクリーン200に表示させるのである。画像処理部117は、このキーストン補正を、後述する傾きセンサ118により得られた傾き角に基づいて、自動的に動作しても良いし、ユーザが操作部102等を操作することにより、動作させてもよい。
【0032】
さらに、画像処理部117は、補正部117aを含む。補正部117aの動作は、後述する。
【0033】
傾きセンサ118は、プロジェクタ100の傾きを検出する。タイマ119は、プロジェクタ100の動作時間、各ブロックの動作時間等を検出する。温度計120は、プロジェクタの光源106の温度、液晶部104の温度、外気温等を計測する。
【0034】
赤外線受信部121、122は、プロジェクタ100付属のリモコンやその他の機器からの赤外線を受信し、制御部101に信号を送る。赤外線受信部121、122は、例えば、プロジェクタ100の前後方向等の複数箇所に設置されている。本実施形態では、赤外線受信部121がプロジェクタ100本体の後方に配置され、赤外線受信部122がプロジェクタ100本体の前方に配置されている。
【0035】
撮像部(測定手段)124は、スクリーン200に表示された投射画像を撮像する。また、撮像部124は、スクリーン(被投射面)200に表示された投射画像における所定の測定領域の輝度を測定する。この測定結果を用いて本実施形態では、戻り光を補正する機能を実現しているが、詳細は後述する。
【0036】
表示部127は、プロジェクタ100本体に配置され、プロジェクタ100の状態や警告等を表示する。表示制御部128は、表示部127を制御する。
【0037】
バッテリ129は、プロジェクタ100本体を持ち運んで使用するとき等に、プロジェクタ100の各部へ電力を供給する。電源入力部130は、外部からの交流電力(AC100)の供給を受け、所定の電圧に整流して電源部103に供給する。
【0038】
冷却部131は、プロジェクタ100内の熱を外部に放出することなどにより、プロジェクタ100を冷却する。冷却部131は、例えば、ヒートシンクとファンとを含む。
【0039】
次に、プロジェクタ100の概略動作について説明する。
【0040】
制御部101は、操作部102により電源ONの指示がなされたことにより、電源部103に各ブロックに電源を供給するように指令を出し、各ブロックを待機状態にする。そして、電源が投入された後、制御部101は、光源制御部108に光源106からの発光を開始するように指令を出す。次に、制御部101は、焦点検出部123により得られた焦点の情報等から、投射光学系107を調整するよう光学系制御部109に指令を出す。光学系制御部109は、投射光学系107のズームレンズやフォーカスレンズを動作させてスクリーン200画面上で投射光が結像する合焦状態になるよう制御する。
【0041】
このようにして、投射の準備が整う。次に、例えば、デジタル入力部112に入力された画像信号は、画像処理部117により液晶部104に適した解像度に変換され、また、ガンマ補正や輝度ムラ対策用補正、キーストン補正が加えられる。そして、画像処理部117により補正を加えられた画像データは、液晶駆動部105により液晶部104に画像として形成される。
【0042】
そして、液晶部104の液晶パネルに形成された画像は、光源106から発せられた光により投射光学系107に導かれ、投射光学系107はスクリーン200に画像を投射する。
【0043】
投射中、制御部101は、光源106等の温度を温度計120により検出し、例えば、光源の温度が40度以上になったとき等に、冷却部131を動作させてプロジェクタ100を冷却する。
【0044】
そして、操作部102により電源OFFの指示がなされたことにより、制御部101は、各ブロックに終了処理を行なうよう通信をする。そして、終了の準備が整うと、電源部103は各ブロックへの電源供給を順次終了する。冷却部131は、電源OFFされた後しばらく動作し、プロジェクタを冷却する。
【0045】
ここでは、デジタル入力部112から入力された画像信号を表示する場合について説明したが、上記各種インタフェースから入力された画像データを表示する場合も同様の処理を行なう。
【0046】
次に、本実施形態における戻り光を補正するための処理について、図2を用いて説明する。ここで、前提として、外光の影響がない場合について説明する。外光の影響がある場合については、後述する。
【0047】
S300では、制御部101が、戻り光を補正するための処理を開始する。具体的には、電源投入後の発光している間、プロジェクタ100は、操作部102からユーザより戻り光補正の開始指示を受けることができる。例えば、操作部102に含まれる「AUTOSET」ボタン(図示せず)の押下を制御部101が検出することにより実現できる。
【0048】
また、上記以外の方法で補正の開始を行なってもよい。例えば、制御部101が通信部115から開始指示を受け取った場合や、制御部101が赤外線受光部121、122を介してユーザから開始指示を受け取った場合に、補正を開始しても良い。更には、起動後の発光直後や、投射準備が整った直後に制御部101が自動的に開始しても良い。また、プロジェクタ100の移動や外光(照明光)の変化を検出することによって、周辺環境の変化を推定することで、その変化をトリガとして制御部101が自動的に補正を開始しても良い。例えば、制御部101は、照明光の明るさが所定の閾値より暗くなった場合、プロジェクタ100を補正を開始すべき状況になったと判断して補正を開始してもよい。また、光源の輝度が安定したことを検出した場合、電源投入後光源の輝度が安定する程度の時間が経過した場合、または、光源周辺の温度が一定の温度に達した場合などに補正を開始してもよい。
【0049】
S301では、制御部101が、画像処理部117にテストパターンの画像の表示の指令を出す。画像処理部117は、液晶駆動部105を介して、テストパターンの画像データに応じた画像を液晶部104の液晶パネル上に形成する。投射光学系107は、光源106から液晶部104を透過した光(テストパターンの画像データに従って変調された光)を受ける。それに応じて、投射光学系107は、テストパターンの画像データに応じた投射画像がスクリーン200に表示されるように、テストパターンの画像データに応じて変調された投射光をスクリーン200に投射する。なお、既に画像処理部117が戻り光補正を開始している場合、制御部101はそれを停止させる指示もこのステップで行なう。このステップでのテストパターン400の表示を、図3を用いて詳しく説明する。
【0050】
図3は、テストパターン400の投射画像がスクリーン200上に表示された状態を示している。テストパターン400では、大部分が黒の画像であるが、中央に黒より輝度の高い画像を有している。すなわち、テストパターン400は、黒階調を有する第1の領域401と黒階調より輝度の大きい階調を有する第2の領域402とを含む。テストパターン400では、例えば、第2の領域402が中央に配され、第1の領域401が第2の領域402を囲むように配されている。第2の領域402は、例えば、白階調を有する。なお、図3の第1の領域401におけるA〜Hは、後述する所定の測定領域である。この測定領域は、図4の例以外にどのようなサイズ、形状の領域であっても良い。
【0051】
S302では、撮像部124が、スクリーン200に表示された投射画像を撮像することにより、テストパターン400の投射画像の撮影画像信号を生成して制御部101へ供給する。制御部101は、テストパターン400の投射画像を解析することで、テストパターン400の投射画像における第1の領域401の輝度を測定する。具体的には、制御部101は、所定の測定領域A〜H(図3参照)について、色成分RGB(赤、緑、青)ごとに各輝度値を測定し、所定の測定領域A〜Hの輝度の平均をRGBごとに取る。これら各測定領域の輝度は、黒階調を有する第1の領域401に含まれているため、第2の領域402の投射光に起因したスクリーン200上での戻り光の輝度とみなすことができる。戻り光は、投射光学系107により投射された投射光のうちスクリーン200で反射し周辺環境でさらに反射した後にスクリーン200に再び入射した光である。そこで、制御部101は、所定の測定領域A〜Hの輝度をRGBごとに平均した値をRGBごとの戻り光の輝度とみなす。
【0052】
S303では、制御部101が、補正量の演算を実施する。具体的には、制御部101が、投影すべきテストパターン400の画像データを液晶駆動部105から受けて、テストパターン400の画像データの画像の平均輝度βを求める。制御部101は、画像データから求められた平均輝度βと所定の測定領域の輝度(測定領域A〜Hの輝度を平均した値)とから、テストパターン400を投影した場合の予想される画像の平均輝度に対する戻り光の輝度の割合αを色成分RGBごとに推定する。すなわち、制御部101は、RGBそれぞれに関し、測定領域A〜Hの輝度を平均して得られた値をテストパターン400の予想される画像の平均輝度βで割ることによって、予想される画像の平均輝度に対する戻り光の輝度の割合を推定する。この割合をαc(c=R,G,B)とおく。なお、これ以降、αcと定義する変数はそれぞれR,G,B分存在するが、それを示す添え字cについては表記を省略する。本実施例では、テストパターン400の画像データからテストパターン400の画像の平均輝度βを求めたが、これ以外の方法で求めても良い。すなわち、テストパターン400の投影画面を撮像し、撮影画像における第2の領域の平均輝度を測定し、全投影領域と第2の領域との面積比に基づいて、テストパターン400の画像の平均輝度βを算出しても良い。
【0053】
換言すれば、スクリーン上に表示された投射画像に対し、テストパターン400の画像データの平均輝度をβとしたときに、そのα倍の輝度のオフセットが戻り光の影響で発生するということである。図4を用いて説明する。図4(a)〜(d)は、それぞれ横軸が画像の階調、縦軸が画素の数を表すヒストグラムである。
【0054】
図4(a)は、テストパターン400の画像データのヒストグラムである。テストパターン400の画像データのヒストグラムから、テストパターン400の画像データの平均輝度βが規定される。これは、即ち戻り光が無い場合(周辺環境が暗幕で覆われているような場合)における予想される画像の平均輝度を示すものである。すなわち、平均輝度βは、画像データに従って変調された投射光をスクリーンに投射した場合に得られると予想される画像の平均輝度である。
【0055】
図4(b)は、スクリーン上に表示されたテストパターン400の投射画像(テストパターン400の画像データに応じた投射画像)のヒストグラムである。図4(b)に示すように、投射光学系107により投射された投射光の一部がスクリーンで反射し、部屋内で拡散反射することで積分され、戻り光として再度スクリーン上に照射されることで、全画素の輝度にαβのオフセットがかかることになる。
【0056】
図4(c)は、次に述べる戻り光補正を実施した場合における補正されたテストパターン400の画像データのヒストグラムである。
【0057】
まず補正の概念を説明する。戻り光がない場合における予想される画像の平均輝度を入力x、戻り光が加わった場合における投射画像の平均輝度を出力yとすると、次のような入出力関係が得られる。
【0058】
y=x(1+α)・・・(1)
ここで、出力として戻り光が無い状態の投射画像を実現することを考え、出力yを補正前のテストパターン400の画像データの平均輝度βと置く。また、入力xを補正後のテストパターン400の画像データの平均輝度β’と置き、β’について解くと、
β’=β/(1+α)・・・(2)
という補正式が得られる。以上の導出より式(2)は、平均輝度β’の画像データに従って変調された投射光を投射すれば、それによる戻り光を加えると、平均輝度βである仮想的に戻り光が無い状態と同様の投射画像が表示されることを意味している。これをオフセット補正により実現した場合のオフセット補正量offsetは、
offset=β−β’=αβ/(1+α)・・・(3)
となる。式(3)をβ’について解くと、
β’=β−offset=β−αβ/(1+α)・・・(4)
となる。式(4)に示されるように、テストパターン400の画像データの平均輝度βから式(3)を満たすオフセット量offsetを除去するように、テストパターン400を補正すれば、補正後のテストパターン400の画像データの平均輝度がβ’となる。
【0059】
図4(d)は、スクリーン上に表示された補正後のテストパターン400の投射画像(補正されたテストパターン400の画像データに応じた投射画像)のヒストグラムである。すなわち、図4(c)の画像データに従って変調された投射光をスクリーン200に投射した場合の戻り光が加わった投射画像のヒストグラムである。式(1)に入力x=β’及び式(2)を代入すると、出力yは、
y=β’(1+α)=β
となる。すなわち、戻り光による輝度のオフセットは、式(1)より、αβ’=αβ/(1+α)であるため、式(3)と相殺する。即ち、式(3)又は(4)で示したオフセット補正を行なうことで、戻り光がキャンセルされ戻り光がない場合の予想される画像の平均輝度(図4(a)参照)と等しくなるということである。
【0060】
S304では、制御部101が、補正設定を行う。すなわち、制御部101は、投射光の輝度に対する戻り光の輝度の割合αの情報を内部メモリ(記憶手段)116に格納する。内部メモリ116は、その割合αを記憶する。また、制御部101は、フレームごとに画像処理部117に対して、定数αを用いた画像補正を開始するように設定する。
【0061】
S305では、制御部101が、液晶駆動部105にアクセスして、テストパターン400の画像データを消去する。これにより、液晶部104の液晶パネル上に形成されたテストパターン400の画像も消去される。
【0062】
S306では、制御部101が、表示すべき画像データの投射を開始させる。具体的には、画像処理部117の補正部117aは、制御部101による上記設定に応じて、非同期に次のような補正処理を行なう。補正部117aは、シーケンシャルに入力されてくる複数のフレームの表示すべき画像データに対し、各フレームの画像データを順次内部メモリ116に格納していき、それとともに各フレームの画像データの平均輝度βdを色成分RGBごとに算出する(求める)。また、補正部117aは、内部メモリ116にアクセスして、投射光の輝度に対する戻り光の輝度の割合αの情報を取得する。補正部117aは、推定された割合αと表示すべき画像データの平均輝度βdとに応じて、戻り光の輝度がキャンセルされた状態で投射画像がスクリーン(被投射面)200に表示されるように、表示すべき画像データを補正する。具体的には、補正部117aは、上記の式(2)におけるβ、β’をそれぞれβd、βd’で置き換えた補正を行う。すなわち、補正部117aは、表示すべき画像データの平均輝度をβdとした場合に、補正された表示すべきパターンの画像データにおける平均輝度βd’が、
βd’=βd/(1+α)・・・(5)
を満たすように、表示すべきパターンの画像データを補正する。より具体的には、補正部117aは、上記の式(4)におけるβ、β’をそれぞれβd、βd’で置き換えた補正を行う。すなわち、補正部117aは、表示すべき画像データにおける各画素の輝度から、
offset=αβd/(1+α)・・・(6)
を満たすオフセット量offsetを除去するように、表示すべき画像データを補正する。ここで、補正部117aは、内部メモリ116により記憶された割合αに応じて、動画像に含まれた複数のフレームの表示すべき画像データをフレームごとに補正している。また、補正部117aは、戻り光の輝度が色成分ごとにキャンセルされた状態で投射画像がスクリーン(被投射面)200に表示されるように、表示すべき画像データを補正している。画像処理部117は、補正部117aから補正された各フレームの表示すべき画像データを順次に受け取り液晶駆動部105に順次出力していく。これにより、投射光学系107は、補正された各フレームの表示すべき画像データに従って変調された投射光をスクリーン200に順次に投射する。このようにして補正された投射画像は、戻り光が存在しない環境での投射画像に近いものとなる。
【0063】
以上のように、予想される画像の平均輝度に対する、第2の領域402の投射光のうちスクリーン200及び周辺環境(図示せず)に反射し再びスクリーン200に戻ってきた戻り光の輝度の割合を推定することが出来る。そして、その推定された割合と表示すべき画像データの平均輝度から、このような戻り光が生じさせる輝度をキャンセルするようなオフセット補正量を表示すべき画像データごと(フレームごと)に算出することが出来る。これにより、各フレームにおいて戻り光のキャンセルされた投射画像を得ることが出来る。すなわち、本実施形態によれば、プロジェクタ(投射装置)100の投射光に起因した投射画像の画質の低下を抑制することができる。
【0064】
また、RGBごとの輝度の測定と補正とを実施できるので、特定の色の戻り光が多く、色バランスが崩れた場合でも、それを補正することが出来る。
【0065】
なお、図2に示すフローでは、図3中のA〜Hのように複数の測定領域のRGB輝度値を測定し平均を取る処理を行なっていたが、これはノイズの低減のためである。測定領域の数を増加させたり、減少させたりしても良い。また、1点の測定領域の輝度を測定するようにしても良い。例えば、図3中の複数の測定領域A〜Hの輝度を測定する代わりに、例えば1点の測定領域Aの輝度を測定する場合でも、本実施形態と同様の効果を実現できる。
【0066】
また、撮像部124をエリアセンサでなく1点の測定領域の輝度を測定できるような安価な測光センサで代用しても良い。この測光センサを用いて複数の測定領域の輝度を計測する場合には、プロジェクタ(投射装置)は、複数の測定領域に順次に測光センサを向ける構成をさらに備えているものとする。
【0067】
更に、表示するテストパターンは図3に示すテストパターン400に限らない。本発明を実施するには、黒領域と、黒以外の領域に何らかの輝度を持ったパターンを用意すれば良い。例えば、図5に示すテストパターン500を用いても良い。図5に示すテストパターン500では、中央の矩形の領域が、黒階調を有する第1の領域501であり、第1の領域501を囲む環状の領域が、黒階調よりも大きな輝度の階調を有する第2の領域502である。
【0068】
第2の領域(402、502)は、例えば白階調を有しているものとされているが、これは測定対象である戻り光を発生させるためのものである。従って黒階調よりも大きな輝度の階調を有していれば良く、白以外の中間階調(例えば75%グレーや50%グレー等)を用いても構わない。また、第1の領域は、黒階調で輝度がほとんど無いもので有ることが望ましいが、ある程度の輝度があっても良い。この場合には、平均輝度の異なるテストパターンを2つ以上投影し、第1の領域の平均輝度をそれぞれ測定し、テストパターンの輝度変化と第1の領域の平均輝度の変化を測定することで、戻り光の輝度の割合αの情報を取得することができる。
【0069】
黒階調を有する第1の領域内の測定領域の輝度を測定した場合に、戻り光の他に例えば、外光の影響や、液晶パネル(輝度変調パネル)からの漏れ光などの影響による黒浮き光も測定してしまうことも考えられる。この黒浮き光が戻り光に対し無視できない場合、図3に示すS300の後S301の直前に、画像処理部117は、全画素が黒階調を有するようなテストパターンの画像データを生成しても良い。この場合、投射光学系107は、そのテストパターンの画像データに従って変調された投射光をスクリーンに投射する。そして、撮像部124は、黒浮き光による輝度を測定する。そして、S302で、制御部101は、測定領域A〜Hの輝度をRGBごとに平均した値からこの測定した黒浮き量を引いた値をRGBごとの戻り光の輝度とみなす。これにより、黒浮き光を含まない戻り光による輝度を推定することが出来る。
【0070】
また、本実施形態では、液晶パネルを内蔵したプロジェクタについて説明したが、DMDパネルを内蔵したプロジェクタであっても、射出する光を変調する構成を内蔵する投射装置であれば、どのような形態のものであっても適用することができる。
【0071】
次に、本発明の第2実施形態に係るプロジェクタについて、図6及び図7を用いて説明する。以下では、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0072】
第1実施形態の図2のフローに対し、次のように変形を行なう。
【0073】
S301において、表示するテストパターンを図6に示すテストパターン700に変形する。テストパターン700は、第1の階調を有する第1の領域701と第2の階調を有する第2の領域702とを含む。第1の領域701は、例えば、25%グレー領域である。第2の領域702は、例えば、75%グレー領域である。第1の領域701内と第2の領域702内には、それぞれ、後述するステップで使用される測定領域I、Jが設定されている。
【0074】
S302において、戻り光のRGB輝度値の測定方法を次のように変更する。撮像部124は、テストパターン700の投射画像における第1の領域701の輝度と第2の領域702の輝度とをそれぞれ所定の測定領域の輝度として測定する。具体的には、制御部101は、所定の測定領域I,J(図6参照)について、色成分RGB(赤、緑、青)ごとに各輝度値を測定する。
【0075】
次いで、制御部101は、測定した第1の領域701の輝度と第2の領域702の輝度とに応じて、テストパターン700の戻り光の輝度を推定する。この方法について図7を用いて説明する。
【0076】
図7では、横軸が、テストパターン700の画像データにおける階調の値を示し、縦軸が、撮像部124により測定された輝度の値を示す。これにI点及びJ点での測定結果をプロットし、それを直線補間すると、Y切片として戻り光の輝度が得られる。この方法で、RGBそれぞれの戻り光の算出を行なう。これにより、テストパターン700の投射光に起因したスクリーン200上での戻り光の輝度値が推定されることになる。
【0077】
S303において、制御部101が、テストパターン700の画像データを液晶駆動部105から受けて、テストパターン700の画像データに応じた画像の平均輝度βを求める。制御部101は、画像データから求められた平均輝度と推定した戻り光の輝度とに応じて、割合αを推定する。すなわち、制御部101は、上記の推定した戻り光の輝度値をテストパターン700の画像データの平均輝度値で割ることにより、予想される画像の平均輝度に対する戻り光の輝度の割合を推定する。
【0078】
このようにしても、第1実施形態と同様に、戻り光のキャンセルされた投射画像を得ることが出来る。
【0079】
尚、表示するテストパターンはテストパターン700に限らない。複数の異なる階調の領域が存在するパターンであれば、それら階調を測定し、直線補間を行なうことにより戻り光を推定できるため、本実施形態と同様の効果を実現可能である。例えば、25%グレー、50%グレー、75%グレーといった3つの階調の領域を含むテストパターンや、それ以上の数の互いに異なる階調を有するテストパターンであっても良い。
【0080】
次に、本発明の第3実施形態に係るプロジェクタについて説明する。以下では、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0081】
第1実施形態では、部屋の壁や天井等の周辺環境は拡散反射することを想定している。また、スクリーン200上に戻り光が均一に照射されるというモデルを想定している。
【0082】
一方、本実施形態では、例えば壁に鏡が存在したり、スクリーン近傍に物体が存在したりして、スクリーン200上に戻り光が不均一に照射されるというモデルを想定している。本実施形態の系は、プロジェクタ100から射出された光のうちの一部が、部屋内で何らかの規則性を持った形で反射されて、スクリーンに(積分されずに)偏りをもって、再度照射されるというモデルで近似する。
【0083】
本実施形態では、画像処理部117が、生成部117bをさらに含む点が第1実施形態と異なる。生成部117bは、複数のテストパターンの画像データを生成する。複数のテストパターンは、それぞれ、テストパターンを複数のブロックに分割し複数のブロックのうちいずれかのブロックを第2の領域に割り当て残りのブロックを第1の領域に割り当てることにより生成される。第1の領域は、黒階調を有する領域である。第2の領域は、黒階調より大きな輝度を有する領域である。複数のテストパターンは、複数のブロックにおける第2の領域が割り当てられるブロックが互いに異なる。生成部117bは、例えば、図9(a)又は図9(b)に示すようなテストパターンを生成する。
【0084】
図9(a)に示すテストパターン1000Kは、3×3のブロックBK〜BSに分割されている。テストパターン1000Kでは、ブロックBKが第2の領域1002Kに割り当てられ、残りのブロックBL〜BSが第1の領域1001Kに割り当てられている。図9中のK〜Sは、それぞれ、ブロックBK〜BS内の所定の測定領域である。図9(b)に示すテストパターン1000Lでは、ブロックBLが第2の領域1002Lに割り当てられ、残りのブロックBK,BM〜BSが第1の領域1001Lに割り当てられている。同様にして、ブロックBM〜BSが第2の領域に割り当てられたテストパターン1000M〜1000Sも生成される。
【0085】
また、本実施形態では、図8に示すように、次の点で第1実施形態と異なる処理が行われる。
【0086】
制御部101は、S910〜S911のルーチンをテストパターンの数(この例では9回)だけテストパターンを変えながら繰り返し実行する。
【0087】
具体的には、S910において、制御部101は、複数のテストパターンのうち未選択のテストパターンから処理対象のテストパターンを選択する。例えば、最初のルーチンでは、図9(a)のブロックBKが第2の領域1002Kに割り当てられたテストパターン1000Kを選択する。次のルーチンでは、図9(b)のブロックBLが第2の領域1002Lに割り当てられたテストパターン1000Lを選択する。その次のルーチンでは、ブロックBMが第2の領域に割り当てられたテストパターン(図示せず)…というように順次変更させていく。
【0088】
S901では、制御部101が、画像処理部117に、選択されたテストパターンの画像の表示の指令を出す。画像処理部117の生成部117bは、選択されたテストパターンの画像データを生成する。そして、S301と同様の処理が行われることにより、投射光学系107は、選択されたテストパターンの画像データに従って変調された投射光をスクリーン200に投射する。これにより、スクリーン200には、例えば、図9(a)のテストパターン1000K又は図9(b)のテストパターン1000Lが表示される。
【0089】
S902では、撮像部124が、テストパターンの投射画像における第1の領域が割り当てられた全てのブロックの輝度を、それぞれ所定の測定領域の輝度として、選択されたテストパターンについて測定する。例えば、撮像部124は、図9(a)のテストパターン1000Kの投射画像における第1の領域1001Kが割り当てられた全てのブロックBL〜BSの輝度、すなわち所定の測定領域L〜Sの輝度を色成分RGBごとに測定する。これにより、測定領域L〜Sの輝度LKL〜LKSが得られる。あるいは、例えば、撮像部124は、図9(b)のテストパターン1000Lの投射画像における第1の領域1001Lが割り当てられた全てのブロックBK,BM〜BSの輝度、すなわち測定領域K,M〜Sの輝度を色成分RGBごとに測定する。これにより、測定領域K,M〜Sの輝度LLK,LLM,〜LKSが得られる。
【0090】
S911において、制御部101は、複数のテストパターンのうち未選択のテストパターンがあるか否かを判断する。制御部101は、未選択のテストパターンがあると判断した場合、処理をS910に戻し、未選択のテストパターンがないと判断した場合、処理をS903に進める。
【0091】
S901、S902を9回繰り返すことにより、黒階調を有する第1の領域内の所定の測定領域の輝度Lij (i,j = K,L,M,...,S, i≠j)が得られる。ここで、iは、測定領域K〜Sのうち黒階調より輝度の大きい階調(例えば白階調)を有する第2の領域内に存在する測定領域を示す。jは、測定対象の測定領域K〜Sを示す。即ちLijは、iの位置にある第2の領域(例えば、白領域)の光が、スクリーンへ戻り光として照射された時のjの位置の輝度を示すわけである。例えばLLSは、図9(b)のテストパターン1000Lが表示された際の右下の測定領域Sの輝度を示す。なお、もちろん、前述したようにこれらの変数はRGBごとに存在しているが、表記は省略している。
【0092】
S903では、制御部101が、各テストパターン1000i(i=K〜S)の画像データの平均輝度βi(i=K〜S)を求める。制御部101は、画像データから求められた平均輝度βiと所定の測定領域の輝度Lijとに応じて、テストパターンの予想される画像の平均輝度に対する戻り光の輝度の割合αijをブロックBjごとに推定する(ただし、i≠j)。すなわち、制御部101は、RGBそれぞれに関し、所定の測定領域の輝度Lijをテストパターン1000iの予想される画像の平均輝度値βiで割ることによって、予想される画像の平均輝度に対する戻り光の輝度の割合αijを推定する。割合αijにおける添え字iは、上記のように、その割合を求めるのに用いたテストパターンにおいて、どのブロックに第2の領域が割り当てられているかを示す。割合αijにおける添え字jは、上記のように、その割合を求めるのに用いたテストパターンにおける測定領域が含まれるブロックを示す。すなわち、制御部101は、第2の領域が割り当てられたブロック(i)と関連付けた形で上記の割合αijを測定されたブロック(j)ごとに推定する。
【0093】
次に、制御部101は、テストパターン1000iにおける第2の領域が割り当てられたブロックBiに対する割合αii(i=K,L,M,…,S)を補間する。これらの値は、測定の結果得られないため、近傍の値から推定する。例えば、αKKであれば、近傍αKL、αKN、αLK、αNKを用いて平均を取り、αKK=(αKL+αKN+αLK+αNK)/4 とすればよい。
【0094】
ここで、補正の方法を説明する。第1実施形態ではαはスカラ値であったが、本実施形態ではベクトル値となる。従って、同様の手法でベクトル演算すれば同様の補正が可能である。本実施形態では、スクリーンへの投射画像を3×3の部分に分けて考える。戻り光がない場合におけるブロックごとの予想される画像の平均輝度を入力x i(i=K,L,M,…,S)とする。戻り光が加わった場合におけるブロックごとの投射画像の平均輝度を出力y i(i=K,L,M,…,S)とすると、次のような入出力関係が得られる。
【0095】
【数1】

【0096】
・・・(7)
ここで、出力として戻り光が無い状態の投射画像を実現することを考え、出力yiを補正前のテストパターンの画像データの平均輝度βi(i=K,L,M,…,S)と置き、入力xiをテストパターンの画像データの平均輝度β’i(i=K,L,M,…,S)と置き、ベクトル表記すると以下のような式が得られる。
【0097】
【数2】

【0098】
・・・(8)
ただし、以下のように置く。
【0099】
【数3】

【0100】
【数4】

【0101】
【数5】

【0102】
【数6】

【0103】
・・・(9)
また、数式(7)においてベクトル同士の積は、内積である。従って、β’について解くと、補正式として、
【0104】
【数7】

【0105】
・・・(10)
が得られる。以上の導出より式(10)は、平均輝度β’iの画像データに従って変調された投射光を投射すれば、それによる戻り光を加えると、平均輝度βiである仮想的に戻り光が無い状態と同様の投射画像が表示されることを意味している。これをオフセット補正により実現した場合のオフセット補正量offset i(i=K,L,M,…,S)は、
【0106】
【数8】

【0107】
・・・(11)
となる。ただし、以下のように置く。
【0108】
【数9】

【0109】
・・・(12)
S904では、制御部101が、投射光の輝度に対する戻り光の輝度の割合αijの情報を内部メモリ116に格納する。また、制御部101は、フレームごとに画像処理部117に対して、割合αijを用いた画像補正を行なうように設定する。
【0110】
S906では、画像処理部117の補正部117aが、制御部101による上記設定に応じて、次のような処理を行う。補正部117aは、シーケンシャルに入力されてくる画像データに対し、その1フレームを順次内部メモリ116に格納していき、同時に各フレームのRGBの各平均輝度をテストパターンと同様に3×3の部分に分けて、計9個の値βijとして算出する。補正部117aは、これらβijとαijとを用いて、上記で示した式(11)を適用し、そのフレームのoffset i補正値を算出する。そして、offset i補正値を、該当ブロックの各ピクセルの輝度値に加えていくことで補正済の1フレームの画像を作成し液晶駆動部105に順次出力していく。このようにして補正された投射画像は、戻り光が存在しない環境での投射画像に近いものとなる。
【0111】
以上のように、本実施形態では、例えば壁に鏡が存在したり、スクリーン近傍に物体が存在したりして、スクリーン200上に戻り光が不均一に照射される場合であっても、例えば3×3の領域ごとにオフセット補正を行なうことが可能である。結果として、スクリーン200上に戻り光が不均一に照射される場合であっても、戻り光が存在しない環境での投射画像に近いものとなる。
【0112】
本実施形態では、画像を3×3のブロックに分割する例を示したが、本発明はその分割方法に限定されない。本発明では、テストパターンにおける第2の領域の変更可能な位置が複数であれば実施することができるため、例えば、2×2のブロックや4×4のブロック、又はそれ以上のブロックに分けてもよい。一般的に細かく分割すると補正の精度が高まり、スクリーン上の戻り光の偏りが細かくなっても対応できる。また、粗く分割すると、行列演算の規模が小さくなるため、演算コストを減少させることができる。
【0113】
なお、各テストパターンは、テストパターンを複数のブロックに分割し複数のブロックのうちいずれかのブロックの少なくとも一部の領域を第2の領域に割り当てテストパターンにおける残りの領域を第1の領域に割り当てることにより生成されてもよい。ここで、複数のテストパターンは、複数のブロックにおける第2の領域が割り当てられるブロックが互いに異なるように生成される。
【0114】
例えば、複数のテストパターンは、図10(a)又は図10(b)に示すようなテストパターン1000K’〜1000S’であってもよい。
【0115】
図10(a)に示すテストパターン1000K’では、ブロックBKにおける中央の矩形の領域が、黒階調を有する第1の領域1001K’であり、中央の矩形の領域を囲む環状の領域が、黒階調よりも大きな輝度の階調を有する第2の領域1002K’である。また、残りのブロックBL〜BSも第1の領域1001K’が割り当てられている。すなわち、図10(a)に示すテストパターン1000K’では、ブロックBKの少なくとも一部の領域である環状の領域に第2の領域1002K’が割り当てられ、テストパターン1000K’における残りの領域に第1の領域1001K’が割り当てられている。
【0116】
図10(b)に示すテストパターン1000L’では、ブロックBLにおける中央の矩形の領域が、黒階調を有する第1の領域1001L’であり、中央の矩形の領域を囲む環状の領域が、黒階調よりも大きな輝度の階調を有する第2の領域1002L’である。また、残りのブロックBK,BM〜BSも第1の領域1001L’が割り当てられている。すなわち、図10(b)に示すテストパターン1000L’では、ブロックBLの少なくとも一部の領域である環状の領域に第2の領域1002L’が割り当てられ、テストパターン1000L’における残りの領域に第1の領域1001L’が割り当てられている。
【0117】
また、この場合、第3実施形態の図8で示したフローのうち、下記に説明する部分を変形することになる。
【0118】
S901では、スクリーン200に表示されるとしたテストパターンを、例えば、図10のテストパターン1000K’〜1000S’のようにする。このようにするとS902において、図10におけるK〜Sの全測定領域が、黒階調を有する第1の領域となるので、戻り光のRGB(赤、緑、青)の各輝度値の測定に用いることができる。従って、S904では、第3実施形態ではαiiについて補間により推定していたものが、計測が実現できるため、この推定処理が不要になる。
【0119】
次に、本発明の第4実施形態に係るプロジェクタを説明する。
【0120】
第1実施形態に対し、補正の方法をオフセット補正からゲイン補正に変形した実施形態も考えられる。第1実施形態の図2で示したフローのうち、下記に説明する部分を変形する。
【0121】
S303において、式(2)をゲイン補正で実現するための、ゲイン補正値gainは、
gain=β’/β=1/(1+α)・・・(13)
となる。
【0122】
S306では、画像処理部117の補正部117aは、制御部101による上記設定に応じて、非同期に次のような補正処理を行なう。補正部117aは、シーケンシャルに入力されてくる複数のフレームの表示すべき画像データに対し、各フレームの画像データを順次内部メモリ116に格納していき、それとともに各フレームの画像データの各平均輝度βdを色成分RGBごとに算出する。また、補正部117aは、内部メモリ116にアクセスして、投射光の輝度に対する戻り光の輝度の割合αの情報を取得する。補正部117aは、推定された割合αと表示すべき画像データの平均輝度βdとに応じて、戻り光の輝度がキャンセルされた状態で投射画像がスクリーン(被投射面)200に表示されるように、表示すべき画像データを補正する。具体的には、補正部117aは、上記の式(13)におけるβ、β’をそれぞれβd、βd’で置き換えた補正を行う。すなわち、補正部117aは、表示すべき画像データにおける各画素の輝度に対して、
gain=1/(1+α)・・・(14)
を満たすゲイン値gainで増幅するように、表示すべき画像データを補正する。
【0123】
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
【0124】
また、投射画像の戻り光によって投射画像の画質の低下してしまわないようにするために、実施例1から4に記載した方式を単独で使用しても、適宜組み合わせて使用してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データに応じた投射画像が被投射面に表示されるように、前記画像データに従って変調された投射光を前記被投射面に投射する投射手段と、
前記被投射面に表示された前記投射画像における所定の測定領域の輝度を測定する測定手段と、
前記画像データに従って変調された投射光を前記被投射面に投射した場合に得られると予想される画像の平均輝度と前記所定の測定領域の輝度とに応じて、前記予想される画像の平均輝度に対する、前記投射光のうち前記被投射面で反射し周辺環境でさらに反射した後に前記被投射面に再び入射した戻り光の輝度の割合を推定する推定手段と、
表示すべき画像データの平均輝度を求め、前記推定された割合と前記表示すべき画像データの平均輝度とに応じて、前記戻り光の輝度がキャンセルされた状態で投射画像が前記被投射面に表示されるように、前記表示すべき画像データを補正する補正手段と、
を備え、
前記投射手段は、前記補正された前記表示すべき画像データに従って変調された投射光を前記被投射面に投射する
ことを特徴とする投射装置。
【請求項2】
前記推定された割合を記憶する記憶手段をさらに備え、
前記補正手段は、前記記憶された割合に応じて、動画像に含まれた複数のフレームの前記表示すべき画像データをフレームごとに補正する
ことを特徴とした請求項1に記載の投射装置。
【請求項3】
前記測定手段は、前記所定の測定領域の輝度を色成分ごとに測定し、
前記推定手段は、前記戻り光の輝度を色成分ごとに推定し、
前記補正手段は、前記戻り光の輝度が色成分ごとにキャンセルされた状態で投射画像が前記被投射面に表示されるように、前記表示すべき画像データを補正する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の投射装置。
【請求項4】
前記投射手段は、階調の異なる複数の領域を含むテストパターンの画像データに応じた投射画像が前記被投射面に表示されるように、前記テストパターンの画像データに応じて変調された投射光を前記被投射面に投射し、
前記測定手段は、前記テストパターンの投射画像における所定の測定領域の輝度を測定し、
前記推定手段は、前記テストパターンの画像データから求められた平均輝度と前記所定の測定領域の輝度とに応じて、前記割合を推定する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の投射装置。
【請求項5】
前記テストパターンは、黒階調を有する第1の領域と黒階調より輝度の大きい階調を有する第2の領域とを含み、
前記測定手段は、前記テストパターンの投射画像における前記第1の領域の輝度を前記所定の測定領域の輝度として測定する
ことを特徴とする請求項4に記載の投射装置。
【請求項6】
前記テストパターンは、第1の階調を有する第1の領域と第2の階調を有する第2の領域とを含み、
前記測定手段は、前記テストパターンの投射画像における前記第1の領域の輝度と前記第2の領域の輝度とをそれぞれ前記所定の測定領域の輝度として測定し、
前記推定手段は、前記第1の領域の輝度と前記第2の領域の輝度とに応じて、前記戻り光の輝度を推定し、前記テストパターンの画像データから求められた平均輝度と前記推定した戻り光の輝度とに応じて、前記割合を推定する
ことを特徴とする請求項4に記載の投射装置。
【請求項7】
テストパターンを複数のブロックに分割し前記複数のブロックのうちいずれかのブロックの少なくとも一部の領域を前記第2の領域に割り当て前記テストパターンにおける残りの領域を前記第1の領域に割り当てた場合に前記複数のブロックにおける前記第2の領域が割り当てられるブロックが互いに異なる複数のテストパターンの画像データを生成する生成手段をさらに備え、
前記投射手段は、前記複数のテストパターンの画像データに従って変調された投射光を前記被投射面に順次に投射し、
前記測定手段は、順次に投射された前記テストパターンについて、前記第1の領域が割り当てられた全てのブロックの輝度を、それぞれ前記所定の測定領域の輝度として測定し、
前記推定手段は、順次に投射された前記テストパターンについて、前記画像データから求められた平均輝度と前記測定されたブロックの輝度とに応じて、前記第2の領域が割り当てられたブロックと関連付けた形で前記割合を前記測定されたブロックごとに推定し、
前記補正手段は、表示すべき画像データを前記複数のブロックに分割し各ブロックの平均輝度を求め、前記表示すべき画像データにおける各ブロックを前記第2の領域が割り当てられたブロックとして前記割合を用いることにより、前記推定された各ブロックの前記割合と前記表示すべき画像データにおける各ブロックの平均輝度とに応じて、前記表示すべき画像データをブロックごとに補正する
ことを特徴とする請求項5に記載の投射装置。
【請求項8】
前記補正手段は、前記割合をαとし、前記表示すべき画像データの平均輝度をβdとした場合に、前記補正された前記表示すべきパターンの画像データにおける平均輝度βd’が、
βd’=βd/(1+α)
を満たすように、前記表示すべきパターンの画像データを補正する
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の投射装置。
【請求項9】
前記補正手段は、前記表示すべき画像データにおける各画素の輝度から、
offset=αβd/(1+α)
を満たすオフセット量offsetを除去するように、前記表示すべき画像データを補正する
ことを特徴とする請求項8に記載の投射装置。
【請求項10】
前記補正手段は、前記表示すべき画像データにおける各画素の輝度に対して、
gain=1/(1+α)
を満たすゲイン値gainで増幅するように、前記表示すべき画像データを補正する
ことを特徴とする請求項8に記載の投射装置。
【請求項11】
画像データに応じた投射画像が被投射面に表示されるように、前記画像データに従って変調された投射光を前記被投射面に投射する投射装置の制御方法であって、
前記被投射面に表示された前記投射画像における所定の測定領域の輝度を測定する測定ステップと、
前記画像データに従って変調された投射光を前記被投射面に投射した場合に得られると予想される画像の平均輝度と前記所定の測定領域の輝度とに応じて、前記予想される画像の平均輝度に対する、前記投射光のうち前記被投射面で反射し周辺環境でさらに反射した後に前記被投射面に再び入射した戻り光の輝度の割合を推定する推定ステップと、
表示すべき画像データの平均輝度を求め、前記推定された前記割合と前記表示すべき画像データの平均輝度とに応じて、前記戻り光の輝度がキャンセルされた状態で投射画像が前記被投射面に表示されるように、前記表示すべき画像データを補正する補正ステップと、
前記補正された前記表示すべき画像データに従って変調された投射光を前記被投射面に投射する投射ステップと、
を備えたことを特徴とする投射装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−128564(P2011−128564A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289649(P2009−289649)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】