説明

抗付着性を有する金属表面被覆材

金属材料の被覆に用いられる重合硬化性組成物であって、下記成分:
a) 組成物の重合硬化前および/または硬化時に成分b)、c)と、及びd)が存在するときはd)とのうち少なくとも1種と反応して、その結果ケイ素、チタン、ジルコニウム、マンガン、亜鉛、バナジウム、モリブデンおよびタングステンより選択される金属が硬化組成物中に結合されることとなる少なくとも1種の金属化合物、b) 成分a)に加えて、少なくとも1個のカルボキシ基またはエステル基と、少なくとも1個のオレフィン二重結合とを含むが、しかし少なくとも5個のエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド単位のポリエーテル鎖を有していないような少なくとも1種のモノマーまたはオリゴマー、c) 少なくとも5個のエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド単位のポリエーテル鎖と、少なくとも1個の重合性二重結合を有する少なくとも1個のカルボキシル基またはエステル基との両方を含む少なくとも1種の化合物を含む。該組成物は下記の成分を追加的に含むことが好ましい: d) 少なくとも1種のフリーラジカル重合用および/またはカチオン重合用開始剤、および/またはe) 殺生物剤。本発明はさらに、該組成物の使用による金属帯材の被覆方法、および該組成物を含む被覆を有する被覆金属帯材または切断加工された金属板材に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼の表面処理のためのクロムを含まない有機又は有機金属腐食防止剤および腐食防止法に関するものである。本発明の腐食防止剤、腐食防止法は、必要により亜鉛、アルミ、銅、ニッケル等の、または亜鉛、アルミおよびそれらの合金の金属被覆材を含んでいてもよい。本発明は家電及び建材部門および自動車産業において、これらの基材を使用する場合の、金属帯材被覆ライン(コイル被覆)における表面処理に特に好適である。本発明の腐食防止剤で被覆した基材は、用途分野の性格上、微生物が定着しやすい構成部品などに、追加の保護被覆を施すことなく使用される。その具体例は熱交換器表面や空調用ダクトなどである。そこでは空気中の水分や有機物が凝結して微生物の好培地となるが、そうした微生物の代謝産物は悪臭源となりかねない。感染性微生物が気流に乗って拡散すれば病気を撒き散らしかねない。本発明の腐食防止剤による金属表面処理は、この表面への微生物の付着をより困難にし、これらの表面の汚染をさらに困難にする。このことは、悪臭や感染症リスクを低減または防止するものである。
【背景技術】
【0002】
独国特許第19751153号明細書は、オレフィン性不飽和重合性カルボン酸のチタン、マンガン、および/または、ジルコニウム塩と、さらに、オレフィン性不飽和コモノマーおよびフリーラジカル重合用開始剤とを含む重合性クロムフリー有機組成物、およびこの有機組成物の、金属材料の有機コイル被覆への使用を開示している。これらの非水性重合性組成物は、腐食防止特性を有する鋼材のクロムフリー前処理を可能にする。
【0003】
国際公開第00/69978号公表は、一般式(I)
【化1】

(式中
R1および/またはR2はH、C1〜C12アルキル、アラルキルまたは-CO-O-Y基であり、
R3はHまたはC1〜C12アルキル基であり、
Meはチタン、ケイ素またはジルコニウムのイオンであり、
XはH、C1〜C12アルキル、アリールまたはアラルキル、アルコキシ、アロキシ、スルホニル、リン酸またはピロリン酸基であり、
YはH、C1〜C12アルキル基またはMeであり、またnは0〜4である。)
で示される少なくとも1種のチタン、ケイ素および/またはジルコニウム化合物を含み、
さらに、分子あたり少なくとも2個のオレフィン性不飽和二重結合を有する少なくとも1つのオレフィン性不飽和コモノマーを含み、
必要によりさらに、分子あたり1個のオレフィン性不飽和二重結合を有するコモノマー、及び少なくとも1種のラジカルおよび/またはカチオン重合用開始剤を含むクロムフリー腐食防止剤を開示している。
【0004】
前述の被覆層は腐食防止に有用である。これらの被覆層は、微生物の汚染を防止又は遅らせる活性物質を含有していない。
【0005】
表面への微生物の汚染を困難にするには、殺生物作用を有する物質を被覆層中に混入し得ることが知られている。一例をあげるならば独国特許第10341445号明細書は抗微生物性、耐指紋性の被覆層を開示している。この場合、微細銀粒子が被覆層中に含まれており、これはコイル被覆法に特に好適である。このように殺生物処理された被覆層は、付着した微生物を殺すことにより、その表面の微生物による汚染をさらに困難にする。しかし、この方法には、殺微生物活性物質が浸出する結果として、第1に時間の経過に伴って効果が低下し、また第2に殺微生物活性物質が環境中に放出されてしまう、という危険がある。
【0006】
また、表面への微生物の付着を防止するか、または、少なくとも遅らせることにより、表面の微生物による汚染をさらに困難にすることもできる。これはポリエチレングリコール/ポリアクリル酸ポリマーを表面に塗布するか、またはこのようなポリマーを表面を形成する材料中に含ませることにより実現することができる。たとえば、特開昭60-170673号公報の日本公開特許英文抄録は、たとえば水と接触する船舶などのような機材に用いる被覆材について述べている。この被覆材は、重合性不飽和カルボン酸の共重合、疎水性重合性不飽和モノマーの共重合、および(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールの共重合によって得られる。国際公開第03/055611号公報及び米国特許第5863650号明細書もまた、重合性カルボン酸ポリエチレングリコールを、抗付着性被覆材として塗布することが可能であること、または被覆材に混入して該被覆材に抗微生物付着性を付与することが可能であることを開示している。
【発明の開示】
【0007】
本発明の目的は、
金属表面被覆材であって、
1. コイル被覆法への適用に好適なもの、
2. 熱硬化性または高エネルギー放射線たとえば紫外線硬化性のもの、
3. 該被覆材による被覆が唯一の腐食防止対策であるとき、被膜の厚さが20μm以下、好ましくは10μm以下で十分な腐食防止効果をもたらすもの、
4. 被覆表面の微生物による汚染を妨げるもの、
を提供することにある。
【0008】
本発明は、その第1の態様において、金属材料被覆用の熱硬化性または放射線硬化性組成物であって
a) 該組成物の硬化前および/または硬化中に、成分b)、c)またはもし存在するならば成分d)のうち少なくとも1つと反応して、ケイ素、チタン、ジルコニウム、マンガン、亜鉛、バナジウム、モリブデンおよびタングステンより選択される金属が硬化組成物中に結合される結果となる少なくとも1種の金属化合物、
b) 成分a)に加えて、少なくとも1個のカルボキシ基またはエステル基と少なくとも1個のオレフィン二重結合とを含むが、少なくとも5個のエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド単位からなるポリエーテル鎖を含まない少なくとも1種のモノマーまたはオリゴマー、
c) 少なくとも5個のエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド単位からなるポリエーテル鎖と、少なくとも1個の重合性二重結合を有する少なくとも1個のカルボキシ基またはエステル基、好ましくはフマル酸基、マレイン酸基、クロトン酸基、アクリル酸基、またはメタクリル酸基との両方を含む少なくとも1種の化合物
を含む金属材料被覆用の熱硬化性または放射線硬化性組成物に関するものである。
【0009】
本発明の重合硬化性組成物は、たとえば熱硬化型でも、ガンマ線または電子線硬化型でもよい。この場合、前記組成物は重合開始剤を追加的に含む必要はない。本発明の被覆材は、可視領域中の、または紫外領域中の電磁放射線の作用で硬化させうるような場合には、成分d)として、ラジカル重合用および/またはカチオン重合用の少なくとも1種の開始剤を追加的に含むことが好ましい。
【0010】
前記硬化中に、前記成分b)、c)は、放射線の作用による重合の結果として被膜用の有機網目構造を形成する。成分a)は硬化の最終段階で化学結合によりこの網目構造の中に結合されて、網目にしっかりと結合した状態を保つ。この結合成分a)は被覆材の腐食防止性に不可欠である。金属は、チタン、ジルコニウムまたは両金属の混合物より選択されることが好ましい。金属化合物a)は、完全被覆材中に、それ自体が成分b)、c)の重合反応中に反応する重合性炭素-炭素二重または三重結合を有するいずれかの形で存在するか、または成分b)またはc)の酸基と反応しうることにより高分子網目構造の中に結合されるような形で存在する。
【0011】
前記成分b)、c)、またはもし存在すればd)のカルボキシ基と反応しうることにより重合中に成分b)、c)の高分子網目構造の中に結合されるような金属化合物a)の例としては、少なくとも1つのアセチルアセトン酸基、アルコラート基、チオラート基、アミノ基またはアミド基を金属に結合させて含む金属化合物がある。入手しやすく臭気も少ないという点において、アセチルアセトネート基またはアルコラート基を金属に結合させて含む金属化合物が好ましい。
【0012】
金属化合物a)は、前述の基に代わって、または加えて、少なくとも1つの重合性炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合を有する少なくとも1種の有機基、好ましくは有機酸基を、金属に結合させて含んでいてもよい。この有機酸基は、たとえば成分b)、c)またはもし存在すればd)のうちの1つの酸基でもよい。これらは次の場合、すなわち、使用された金属成分a)がアセチルアセトネート基、アルコラート基、チオラート基、アミノ基またはアミド基を金属に結合させて含む化合物であり、かつそれらの基が混合中または混合後に成分b)、c)またはもし存在すればd)のうちの少なくとも1つのカルボキシ基に置き換わりうる場合には、自然に形成されることがある。前記転化は被覆材の調製時に加熱により意図的に実現させることもできる。この転化反応では、当初金属に結合していたアセチルアセトネート基、アルコラート基、チオラート基、アミノ基またはアミド基が(揮発性の)アルコール、チオール、アミン、アミドまたはアセチルアセトンとして脱離する。これらは被覆材の希釈剤として働き、また金属表面への被覆材の適用に要求される粘性に有利に影響するかもしれない。この点に関して、これらの脱離分子は被覆材中に留まるのが望ましい。しかし、他方では揮発性成分であり、被覆材の硬化時に蒸発させなければならないものである。望ましくないのであれば、これらの揮発性化合物は、完全被覆材の混合時または混合後に、かつ金属表面への被覆材の塗布の前に、加熱および/または減圧により除去することができる。
【0013】
金属化合物a)はたとえば一般式(II)
【化2】

(式中
R1および/またはR2は、H、C1〜C12アルキル、アラルキルまたは-CO-O-Y基であり、
R3は、HまたはC1〜C12アルキル基であり、
Meは、ケイ素、チタン、ジルコニウム、マンガン、亜鉛、バナジウム、モリブデンおよびタングステンより選択される酸化状態aを有する金属原子であり、
Xは、H、C1〜C12アルキル、アリール、アラルキル、アルコキシまたはアロキシ基であるか、または2(-O-X)がアセチルアセトン酸基であり、
Yは、H、C1〜C12アルキル基またはさらなる金属イオンMeであり、
Zは、O、NH2、O-Zb-C(=O)-O基、O-Zb-P(=O)-O基、O-Zb-P(=O)2-O基、O-Zb-O-P(=O)-O基、O-Zb-O-P(=O)2-O基、O-Zb-S(=O)2-O基、O-Zb-O-S(=O)2-O基より選択されるが、式中のZbは有機基であり、
またnは0〜a好ましくは1〜(a-1)であり、aは金属Meの酸化状態を表す。)
で示される化合物群より選択することができる。
【0014】
一般式(II)中の角括弧〔 〕内の基は、重合性炭素-炭素二重結合を有する有機酸基を表す。一般式(II)中のnが0よりも大きければ、この金属化合物は成分b)およびc)の重合において、この二重結合の反応により高分子網目構造の中に結合される。他方、式(II)で示される金属化合物の-O-X基は、成分b)、c)またはもし存在すればd)の酸基によって置き換えることができる。この転化反応もまた、金属Meの高分子有機網目構造中への結合を可能にするメカニズムの1つである。
【0015】
式(II)中の角括弧で示した有機酸基が成分b)またはc)に対応するものであって、この場合、式(II)は、金属化合物Me(-O-X)aと、成分b)またはc)との(部分)反応生成物を表すことができる。既述のように、前記(部分)反応生成物は、成分a)、b)およびc)からの組成物調製時に、ひとりでに形成されることもある。この場合、組成物は、nの数値が異なる種々の式(II)の金属化合物を含むものと見込まれる。式(II)では、立体構造上の理由から、nが、式(II)中のaの数値を取らないこと、すなわち、金属化合物中の(-O-X)基は、角括弧中の酸基により完全には置き換えられないものと見込まれる。「そのまま使える」タイプの組成物では、nは一般に0よりも大きく、好ましくは少なくとも1であるが、(a-1)以下である。
【0016】
一般式(II)において、aは金属Meの酸化状態を表す。一般に、金属は、金属化合物a)中において、大気条件下で最も安定した酸化状態で存在する。言い換えると、基本的にaは、金属がケイ素、チタンおよびジルコニウムであるならば4に等しく、マンガンならば2または4に等しく、亜鉛ならば2に等しく、バナジウムならば5に等しく、またモリブデンおよびタングステンならば4または6に等しい。
【0017】
一般式(II)中のZは、最も単純な場合には酸素を表し、すなわち角括弧内の基は、不飽和カルボキシ基である。しかし前述のように、Zは複雑な構造を有し、従って複雑なカルボン酸基または含P酸基または含S酸基を含む場合がある。その場合、Z基は有機架橋基Zbを包含する。この架橋基は直鎖または分岐鎖アルキレン基好ましくは直鎖アルキレン基(CH2)x(式中xは1〜10の範囲特に2〜4の範囲の数である)、(CHR4-CHR4-O-)yCHR4-CHR4(式中R4は、互いに独立に、それぞれHまたはCH3であり、またyは0または1〜9の範囲の数である)、(CH2)x-O-C(=O)-(CH2)y(式中x、yは互いに独立に1〜10の範囲特に2〜4の範囲の数である)より選択することが好ましい。
【0018】
一般式(II)中のR1、R2および/またはR3基は、前述のように、Hだけでなくもっと複雑な基をも表しうる。しかし、一般式(II)ではR1、R2および/またはR3基のうちの少なくとも1基、好ましくは2基、そして特に3基すべてが、互いに独立に、H、CH3、C2H5、C3H7およびC4H9より選択されることが好ましい。これらは、プロピル基またはブチル基の場合にはn(ノルマル)-またはi(イソ)-異性体として存在することもある。
【0019】
本発明の金属化合物a)として使用されるチタン、ケイ素およびジルコニウム化合物の具体例は、次のとおりである。
ジメタクリロイルイソステアロイルチタン酸イソプロピル、トリ(ドデシル)ベゼンスルホニルチタン酸イソプロピル、トリ(オクチル)ホスファトチタン酸イソプロピル、(4-アミノ)ベンゼンスルホニルジ(ドデシル)ベンゼンスルホニルチタン酸イソプロピル、トリメタクリロイルチタン酸アルコキシ、トリ(ジオクチル)ピロホスファトチタン酸イソプロピル、チタン酸アルコキシトリアクリロイル、トリ(N-エチレンジアミノ)エチルチタン酸イソプロピル、フェニルオキソエチレンチタン酸ジ(クミル)、ピロホスファトオキソエチレンチタン酸ジ(ジオクチル)、オキソエチレンチタン酸ジメチル、ピロホスファトオキソエチレンジ(ジオクチル)ホスフィトチタン酸ジ(ブチルメチル)、ホスファトエチレンチタン酸ジ(ジオクチル)、ピロホスファトエチレンチタン酸ジ(ブチルメチル)、チタン酸テトラエチル、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラ-n-プロピル、チタン酸テトラ-n-ブチル、ポリチタン酸n-ブチル、チタン酸テトラ-2-エチルヘキシル、チタン酸テトライソオクチル、チタン酸イソステアロイル、モノマーのチタン酸クレシル、ポリマーのチタン酸クレシル、チタン酸オクチレングリコール、アセチルアセトン酸チタニル、ジイソプロポキシビスエチルアセトアセタトチタナート、ジ-n-ブトキシビスエチルアセトアセタトチタナート、ジイソブトキシビスエチルアセトアセタトチタナート、チタン酸トリエタノールアミン、トリイソステアロイルチタン酸イソプロピル、2-(N,N-ジメチルアミノ)イソブタノール付加体、トリエチルアミン、(メタ)アクリル酸官能化アミン誘導体、メタクリルアミド官能化アミン誘導体のジ(ジオクチル)ホスファトエチレンチタン酸エステル付加体、ジ(ジオクチル)ホスフィトチタン酸テトライソプロピル、ジ(ジトリデシル)ホスフィトチタン酸テトラオクチル、ジ(ジトリデシル)ホスフィトチタン酸テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル)ブチル、(ジアリル)オキシトリネオデカノイルチタン酸ネオペンチル、(ジアリル)オキシトリ(ドデシル)ベンゼンスルホニルチタン酸ネオペンチル、(ジアリル)オキシトリ(ジオクチル)ホスファトチタン酸ネオペンチル、(ジアリル)オキシトリ(ジオクチル)ピロホスファトチタン酸ネオペンチル、(ジアリル)オキシトリ(N-エチレンジアミノ)エチルチタン酸ネオペンチル、(ジアリル)オキシトリ(m-アミノ)フェニルチタン酸ネオペンチル、(ジアリル)オキシトリヒドロキシカプロイルチタン酸ネオペンチル、シクロ(ジオクチル)ピロホスファトジオクチルチタン酸エステル、ジシクロ(ジオクチル)ピロホスファトチタン酸エステル、2-(アクリロイルオキシエトキシ)トリメチルシラン、N-(3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、(3-アクリロイルオキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3-アクリロイルオキシプロピル)メチルビス(トリメチルシリルオキシ)シラン、(3-アクリロイルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3-アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-アクリロイルオキシプロピル)トリス(トリメチルシリルオキシ)シラン、アクリロイルオキシトリメチルシラン、1,3-ビス((アクリロイルオキシメチル)フェネチル)テトラメチルジシロキサン、ビス(メタクリロイルオキシ)ジフェニルシラン、1,3-ビス(3-メタクリロイルオキシプロピル)テトラキス(トリメチルシリルオキシ)ジシロキサン、1,3-ビス(3-メタクリロイルオキシプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(メタクリロイルオキシ)-2-トリメチルシリルオキシプロパン、メタクリロイルアミドプロピルトリエトキシシラン、メタクリロイルアミドトリメチルシラン、メタクリロイルオキシエトキシトリメチルシラン、N-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、(メタクリロイルオキシメチル)ビス(トリメチルシリルオキシ)メチルシラン、(メタクリロイルオキシメチル)ジメチルエトキシシラン、(メタクリロイルオキシメチル)フェニルジメチルシラン、メタクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロイルオキシメチルトリメチルシラン、メタクリロイルオキシメチルトリス(トリメチルシリルオキシ)シラン、O-メタクリロイルオキシ(ポリエチレンオキシ)トリメチルシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルビス(トリメチルシリルオキシ)メチルシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルペンタメチルジシシラン、メタクリロイルオキシプロピルシラトラン、メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、メタクリロイルオキシプロピルトリス(トリメチルシリルオキシ)シラン、メタクリロイルオキシプロピルトリス(トリメチルシリルオキシ)シラン、メタクリロイルオキシプロピルトリス(ビニルジメチルシリルオキシ)シラン、メタクリロイルオキシトリメチルシラン、テトラキス(2-メタクリロイルオキシエトキシ)シラン、ヘキサフルオロペンタンジオン酸Zr、Zrイソプロポキシド、メタクリロイルエチルアセト酢酸 Zrトリ-n-プロポキシド、Zr 2-メルチ-2-ブトキシド、2,4-ペンタンジオン酸Zr、トリフルオロペンタンジオン酸Zr、Zr n-プロポキシド、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン酸Zr、トリフルオロペンタンジオン酸Zr、Zrトリメチルシロキシド、ジシクロペンタジエニルジルコニウムジエトキシド、2-エチルヘキサ酸Zr、メタクリル酸Zr、ジメタクリル酸Zr。
【0020】
前記成分b)は、個別化合物として、または好ましくは成分b)の前述のさらなる定義にそれぞれ単独で対応する異なる化合物の混合物として、存在してもよい。基b)のモノマーまたはオリゴマーは、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、マレイン酸、フマル酸、および前記酸基を少なくとも1つ有するモノマーまたはオリゴマーより、選択することが好ましいが、カルボキシ基は、そのすべてが、またはそのいくつかがエステル化されていてもよい。
【0021】
前記成分b)のモノマーまたはオリゴマーは特に、芳香族または脂肪族アクリル酸またはメタクリル酸ウレタン・オリゴマー、およびアクリル酸またはメタクリル酸またはそのヒドロキシアルキル誘導体の、不飽和ジカルボン酸との、またはポリ塩基性カルボン酸またはその誘導体の無水物との、付加体またはコポリマーより選択することができる。不飽和ジカルボン酸の例はマレイン酸とフマル酸である。特別のポリ塩基性カルボン酸無水物は無水コハク酸である。
【0022】
好ましくは、成分b)の少なくとも一部分は、分子あたり少なくとも2個のオレフィン性不飽和二重結合を有するオレフィン性不飽和コモノマーである。分子あたり少なくとも2個のオレフィン性不飽和二重結合を有する好適なコモノマーは多数あり、その一例として、アルカンポリオール、ポリエステルポリオールまたはポリエーテルポリオールのエチレン性不飽和カルボン酸(たとえばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、またはカルボキシ基を含む反応性マクロモノマーまたはそれらの混合物など)によるエステル化生成物などがある。さらに、(メタ)アクリル酸官能性ポリシロキサン、(メタ)アクリル酸官能性脂肪族・脂環式および/または芳香族ポリエポキシド、および反応性(メタ)アクリル酸基を有するポリウレタン化合物もまた、分子あたり少なくとも2個の反応性二重結合を有するコモノマーとして好適である。一般に、分子あたり少なくとも2個のオレフィン性不飽和二重結合を有する前記コモノマーは分子量が600〜50,000の、好ましくは1,000〜10,000の範囲内である。
【0023】
アルカンポリオールの具体例は1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオールおよびそれらの高相同体、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトールおよびそれらのアルキル化生成物である。
【0024】
さらに、ジ-またはトリ-カルボン酸、たとえば、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、アゼライン酸、スベリン酸、3,3-ジメチルグルタル酸、テレフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、または二量体脂肪酸などと、低分子量ジオールまたはトリオールたとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、二量体脂肪アルコール、グリセロールまたはトリメチロールプロパンなどとの縮合によって調製しうる液体ポリエステルは、ポリオールとして好適である。
【0025】
本発明に使用される、さらなるポリオール生成ブロック群はα-カプロラクトンをベースにしたポリエステルであり、これは「ポリカプロラクトン」とも称される。しかし、油脂化学由来のポリエステルポリオールを使用することも可能である。このようなポリエステルポリオールは、たとえば、少なくとも部分的にオレフィン性不飽和の脂肪酸を含有する脂肪混合物と、1種以上のC1〜C12アルコールとのエポキシ化トリグリセリドの完全開環と、それに続くトリグリセリド誘導体の部分的エステル交換とによるC1〜C12アルキル基を有するアルキルエステルポリオールの生成という方法で合成することができる。さらに好適なポリオールは、ポリカルボナートポリオール及び二量体ジオール、並びにひまし油とその誘導体である。Poly-bdなどの商品名で市販されているヒドロキシ官能性ポリブタジエンもまたポリオールとして本発明の組成物に使用しうる。
【0026】
さらに、ポリウレタン化合物(A),(B)及び/又は(C)の1種以上が、本発明に好適に用いられ、これらのポリウレタン化合物(A),(B)又は(C)はラジカル重合性であり、かつ一般式(III )
(H2C=CR1-C(=O)-O-R2-O-C(=O)-NH-)nR3 (III )
で示される。
式(III)中、
R1は水素またはメチル基であり、
R2は直鎖または分岐鎖C2〜C6アルキル基、またはC4〜C21アルキレンオキシドであり、
またnは1、2または3であって
(A) n=1の場合、R3は:
−C6〜C18アリール基、
−C1〜C18直鎖または分岐鎖アルキル基、または
−C3〜C12シクロアルキル基であり;
(B) n=2である場合、R3は:
[-Q-NH-C(=O)]2](-O-R4-O-C(=O)-NH-Q'-NH-C(=O))m-O-R4-
O-]
(式中mは0〜10であり、また
R4は a)ポリカプロラクトンジオール基、
b)ポリテトラヒドロフルフリルジオール基または
c)ポリエステルジオールに由来する分子量1,000〜20,000のジオール基である)
であり、又は
(C) n=3の場合、R3は:
[-Q-NH-C(=O)-O-((CH2)5-C(=O))p-]3R5
(式中R5は直鎖または分岐鎖C3〜C6三価アルコールであり、
pは1〜10であり、また
QとQ'は互いに独立に、ジイソシアン酸エステルまたはジイソシアン酸エステル混合物に由来するC6〜C18芳香族、脂肪族または脂環式基である))
である。
【0027】
好適な芳香族ポリイソシアン酸エステルの例は、純粋な異性体または複数の異性体の混合物という形にあるジイソシアン酸トルエン(TDI)の全異性体、1,5-ジイソシアン酸ナフタレン、4,4'-ジイソシアン酸ジフェニルメタン(MDI)、2,4'-ジイソシアン酸ジフェニルメタン、と4,4'-ジイソシアン酸ジフェニルメタンの2,4-異性体との混合物、または一段と高次官能性のオリゴマーとの混合物(いわゆる粗MDI)、ジイソシアン酸キシレン(XDI)、4,4'-ジイソシアン酸ジフェニルジメチルメタン、ジイソシアン酸ジ-およびテトラ-アルキルジフェニルメタン、4,4'-ジイソシアン酸ジベンジル、1,3-ジイソシアン酸フェニレンおよび1,4-ジイソシアン酸フェニレンなどである。
好適な脂環式ポリイソシアン酸エステルの例は、前記芳香族ジイソシアン酸エステルの水素化生成物、たとえば4,4'-ジイソシアン酸ジシクロヘキシルメタン(H12MDI)、1-イソシアナトメチル-3-イソシアナト-1,5,5-トリメチルシクロヘキサン(ジイソシアン酸イソホロン、IPDI)、1,4-ジイソシアン酸シクロヘキサン、水素化ジイソシアン酸キシリレン(H6XDI)、1-メチル-2,4-ジイソシアナトシクロヘキサン、ジイソシアン酸m-またはp-テトラメチルキシレン(m-TMXDI、p-TMXDI)および二量体脂肪酸ジイソシアナートなどである。
脂肪族ポリイソシアン酸エステルの例は1,4-ジイソシアン酸テトラメトキシブタン、1,4-ジイソシアン酸ブタン、1,6-ジイソシアン酸ヘキサン(HDI)、1,6-ジイソシアナト-2,2,4-トリメチルヘキサン、1,6-ジイソシアナト-2,4,4-トリメチルヘキサン、1,4-ジイソシアン酸ブタンおよび1,12-ジイソシアン酸ドデカン(C12CDI)などである。
【0028】
分子あたり少なくとも2個のオレフィン性不飽和二重結合を有するオレフィン性不飽和コモノマー用のエポキシ樹脂形成成分としては、分子あたり少なくとも2個の1,2-エポキシ基を有する多数のポリエポキシドが好適である。これらのポリエポキシドはそのエポキシ当量が150〜4,000の範囲にあるものであってもよい。原則的には、ポリエポキシドは、飽和、不飽和、環式または非環式、脂肪族、脂環式、芳香族またはヘテロ環式のどのポリエポキシド化合物であってもよい。好適なエポキシドの例としては、アルカリ存在下でエピクロロヒドリンまたはエピブロモヒドリンをポリフェノールと反応させて合成されるポリグリシジルエーテルなどがある。この目的のための好適なポリフェノールは、たとえばレゾルシノール、ピロカテコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA (ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-プロパン)、ビスフェノールF (ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1-イソブタン、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1-エタンおよび1,5-ヒドロキシナフタレンなどである。原理的に好適な、さらなるポリエポキシドは、ポリアルコールまたはジアミンのポリグリシジルエーテルである。これらのポリグリシジルエーテルはポリアールコールたとえばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールまたはトリメチロールプロパンなどから誘導される。さらなるポリエポキシドは、ポリカルボン酸のポリグリシジルエステルであり、これらは、たとえばシュウ酸、コハク酸、グルタル酸、テレフタル酸または二量体脂肪酸などのような脂肪族、または芳香族ポリカルボン酸たとえばシュウ酸、コハク酸、グルタル酸、テレフタル酸または二量体脂肪酸などによるグリシドールまたはエピクロロヒドリンの転化により得られる。さらなるエポキシドは、オレフィン性不飽和脂環式化合物のエポキシ化生成物から誘導されるものである。
【0029】
本発明に使用される二官能性、三官能性または多官能性(メタ)アクリル酸エステルの具体例は次の化合物である:
ジ(メタ)アクリル酸1,3-ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,4-ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,6-ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ビスフェノールAエポキシド、ジ(メタ)アクリル酸アルコキシ化ビスフェノールA、ジ(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコール、ジアクリル酸トリアルキレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラアルキレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ジ(メタ)アクリル酸アルコキシ化ネオペンチルグリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリアルキロールアルカン、トリ(メタ)アクリル酸アルコキシ化トリアルキロールアルカン、トリ(メタ)アクリル酸グリセロールアルコキシ、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリトリチル、トリス(2-ヒドロキシアルキル)イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリル酸エステル、酸基を含有するトリ(メタ)アクリル酸化合物、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、トリ(メタ)アクリル酸トリスアルコキシトリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ジトリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリトリチル、テトラ(メタ)アクリル酸アルコキシ化ペンタエリトリチル、ペンタ(メタ)アクリル酸ジペンタエリトリチル、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリトリチル。
なお「アルキレン」はエチレン、プロピレンまたはブチレンを表し、また「アルコキシ」はエトキシ、1,2-または1,3-プロポキシもしくは1,4-ブトキシを、意味する。
【0030】
加えて、下記の(メタ)アクリル酸モノマーを併用してもよい: アミン修飾ポリエーテルアクリル酸オリゴマー、カルボキシ官能化多官能性(メタ)アクリル酸エステル、多官能性アクリル酸メラミン、二官能性アクリル酸シリコーン。
【0031】
下記の(メタ)アクリル酸エステルは一官能性コモノマーとして併用可能である: コハク酸モノメタクリロイルオキシアルキル、(メタ)アクリル酸n-アルキルおよびイソアルキル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4-tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル(IBOA)、(メタ)アクリル酸α-カルボキシエチル(α-CEA); フタル酸、コハク酸およびマレイン酸モノ(メタ)アクリロイルアルキル; (メタ)アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-フェノキシアルキル、モノ(メタ)アクリル酸アルカンジオール、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸2,3-エポキシアルキル、(メタ)アクリル酸N,N-ジアルキルアミノアルキル、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸モノアルコキシトリアルキレングリコール、モノアルコキシネオペンチルグリコールアルコキシ酸(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールおよび(メタ)アクリル酸アルコキシ化ノニルフェノール。
なおアルキル基は1〜12個の炭素原子を有することが可能であり、また「アルコキシ」はエトキシ、1,2-または1,3-プロポキシもしくは1,4-ブトキシを意味する。
【0032】
成分b)の特に好ましい例は実施例の項で開示する。
【0033】
少なくとも5個のエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド単位を含むポリエーテル鎖と、少なくとも1個の重合性二重結合を有する、少なくとも1個のカルボキシ基またはエステル基との両方を有する成分c)用化合物は、重合により硬化された組成物に、微生物に対する抗付着性を付与する。成分c)の種類と量は、第1に、微生物に対する十分な抗付着効果が得られるように、また第2に硬化被覆材が所要の腐食防止作用を果たすように、選定しなければならない。これは一般に、成分c)の化合物が250〜2,500、好ましくは300〜650の範囲内のモル質量を有する場合に当てはまる。これらは、前記単位を少なくとも5単位含むポリエチレングリコールおよび/またはポリプロピレングリコール鎖を有し、これらの分子鎖の一端または両端に、少なくとも1つの重合性二重結合を有するカルボキシ基が位置している化合物である。一般に、前記カルボキシ基は、前記エステル結合を介して、前記ポリエーテル鎖に連結している。
【0034】
成分c)の例は下記一般式(IV)または(V):
CHR1=CR2-C(=O)-O-(CHR3-CHR3-O)n-R4 (IV)
または
CHR1=CR2-(CH2)p-C(=O)-O-(CHR3-CHR3-O)n-R4 (V)
(式中
R1とR2は、それぞれ互いに独立に、H、C1〜C12アルキル基、-COOR5基または-(CH2)q-COOR5基を表し、R5=Hまたは好ましくはC1〜C4のアルキル基、でありまたq=1〜4)であり、
R3は、いずれの場合も、H原子を意味するか、または2つのR3基のうちの一方がメチル基を表し、他方がH原子を表し、
R4はH、好ましくはC1〜C12特にC1〜C4のアルキル基、またはフェニルまたはベンジル基を表すが、このフェニルまたはベンジル基は、各々好ましくはC1〜C12のアルキル基を含んでもよく、
或は、R4は、さらにCHR1=CR2-C(=O)またはCHR1=CR2-(CH2)p-C(=O)基を表し、すなわちポリアルキレングリコール鎖O-(CHR3-CHR3-O)nはその一端または両端が不飽和カルボン酸によりエステル化されていてもよく、
nは少なくとも5であると定義されるが、その数値は成分c)のモル質量が前記の好ましい範囲となるように選定するのが好ましく、
pは1〜4の範囲内の数である。)
で示される化合物である。
【0035】
式(IV)および(V)のC=C二重結合に関しては、前記化合物はR1がH原子でない場合にはcis体、及びtrans体のいずれであってもよい。
【0036】
一般式(IV)および(V)において、R1とR2は、いずれも好ましくはH原子を表すか、または一方がH原子を表し、他方がメチル基を表す。特にポリアルキレングリコール鎖O-(CHR3-CHR3-O)nは、好ましくは、その一端または両端がアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸またはイソクロトン酸により、またはビニル酢酸により、エステル化されるが、マレイン酸およびフマル酸の第2カルボキシ基自体が好ましくはC1〜C4アルコールによりエステル化される場合もある。
【0037】
式(IV)及び(V)の化合物の具体例は実施例の項で開示する。
【0038】
成分c)は、たとえば、アクリル酸エトキシ化ノニルフェノールであるか、または、アクリル酸エトキシ化ノニルフェノールを含んでもよい。成分c)は個別化合物でもよいし、成分c)の定義を個別に満たす異なる化合物の混合物でもよい。さらなる例は実施例の項で開示する。
【0039】
硬化被覆層中に重合した単位として組み込まれる成分c)は、当該被覆層に、微生物に関するほぼ十分な抗付着性を付与する。加えて、この成分c)の存在は実施例と比較例の比較で明らかなように、腐食防止性を驚くほど改善する。従って、たとえ十分な腐食防止効果の実現だけが意図されるときには、抗付着効果は重要でない場合であっても、成分a)、b)に加えてこの成分も使用することが推奨される。
【0040】
成分c)は、抗付着性を有するため、成分c)の存在は被覆層表面への微生物の付着をいっそう困難にする。この場合の微生物は、特に真核単細胞生物および原虫、細菌、真菌およびウイルス、それに藻類を意味するものとする。これには細菌内生または外生胞子、それに真菌の菌根形成組織として機能する胞子などが含まれる。特に微生物は細菌と真菌を意味するものと理解してよい。この場合、特に重要な真菌は酵母、カビ、皮膚糸状菌および好ケラチン性真菌である。用語「微生物」は最広義では有機アレルゲンたとえば花粉やハウスダストなどをも含む。
【0041】
被覆層をさらに、殺生物性物質または制生物活性物質(以下、一括して「殺生物剤」という)で追加的に処理するが有効である。これにより、被覆層に、その抗付着性に抗して付着する微生物は殺されるか、または少なくとも増殖を阻止される。殺生物剤は湿気によって被覆層から浸出しないように、またはごく長期間を経て初めて浸出するように、選定することが好ましい。第1に、これは効果の急速な低下を防止する。第2に、殺生物剤の浸出は、被覆層中に、腐食作用の始点となるような「隙間」を生じさせる。
【0042】
上記の作用効果を考慮して、本発明の組成物には、成分e)として、好ましくは室温での水溶解度が低く、特に10g/l以下、とりわけ1g/l以下である殺生物剤が、追加的に含有される。
【0043】
殺微生物剤(殺藻剤、殺真菌剤、殺菌剤、殺ウイルス剤)は、その濃度や温度、作用時間に応じて、細胞膜の破壊または生存に必須の代謝経路の遮断により微生物を殺し、または休眠期、未成熟期および/または成熟期の細菌、(酵母とカビを含む)真菌、藻類の殺傷と破壊および成長または増殖の阻害または抑制をもたらし、かつ、ウイルスを失活させる、という特徴がある。こうして殺微生物剤は微生物の有害な作用を抑制する。その例はアルデヒド系薬剤、第4級アンモニウム化合物およびイソチアゾロン化合物である。これら物質の具体例や殺生物活性物質のさらなる例は国際公開第2004/049800号パンフレットとそこで引用されている標準文献(standard works)の中で開示されている。
【0044】
本発明の一実施形態では、前記殺生物剤は硬化被覆層中に結合される有機化合物である。この場合、この有機化合物には、硬化被覆層の高分子網目構造に適合したものであることが要求される。このような有機化合物の例は10,10'-オキシビスフェノキシアルシン、ジンクオマジン(メーカー: Olin Chemicals)、ジンクトリチオン、N-(トリクロロメチルチオ)フタルイミド、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、N-(トリクロロメチルチオ)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシミドおよび2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジンなどである。
【0045】
本発明のさらなる実施形態では、前記殺生物剤は粒子状無機化合物または粒子状金属である。その平均粒径は、たとえば電子顕微鏡法で、また特に光散乱法で測定することができるが、硬化被覆層の所望の厚さの50%増し以下とすることがよい。平均粒径はたとえば1μm未満であり、またいわゆるナノスケールの範囲内、たとえば900nm以下特に500nm以下の範囲内であるのが特に好ましい。そうした物質の例は粒子状の、特にナノスケールの、酸化亜鉛または金属銀である。
【0046】
本発明のさらに他の実施形態では、前記殺生物剤はスズ、亜鉛、銅および銀の各イオンより選択される殺生物性の金属イオンを含有する。さらなる好ましい実施形態では、これらの金属イオンはカチオン交換能を有する有機または無機骨格に結合されており、またアルカリ金属イオンと置換可能である。殺生物性の金属イオンの結合相手となる無機骨格の例は、粒子状のシリカ、ゼオライトまたはリン酸ジルコニウムである。銀含有ゼオライトまたは銀含有リン酸ジルコニウムは特に好適である。さらに、適当な粒径の銀含有ガラス球も好適である。
【0047】
本発明の組成物は、紫外線または電子線による硬化方法により硬化することが好ましい。これらの硬化方法は、使用される開始剤やモノマーによっては、フリーラジカルまたはカチオン重合硬化方法によって、実施することができる。
【0048】
前記フリーラジカルまたはカチオン重合のための好適な開始剤(成分d))としては、たとえば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、(5,2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-[(1,2,3,4,5,6-)-(1-メチルエチル)ベンゼン]鉄(1+)-ヘキサフルオロホリン酸(1-)、2-ベンジルジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン、ベンジルジメチルケタールジメトキシフェニルアセトフェノン、ビス(5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)フェニル]チタン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(BAPO2)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、1-(4-(1-メチルエチル)フェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1,2-ジフェニルエタン-1,2-ジオン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ジフェニルホスフィンオキシド、ヒドロキシベンジルフェニルケトン、ヘキサフルオロアンチモン酸トリアリールスルホニウム塩、ヘキサフルオロリン酸トリアリールスルホニウム塩、オリゴ-(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]-プロパノン)、1-プロパノン-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルエテニル)フェニル]ホモポリマー、リン酸ベンゾイルビス(2,6-ジメチルフェニル)、ベンゾフェノン、オルト-ベンゾイル安息香酸メチル、ベンゾイルギ酸メチル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジ-sec-ブトキシアセトフェノン、硫化 [4-(4-メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタノン-4-ベンゾイル-4'-メチルジフェニル、p-フェニルベンゾフェノン、2-イソプロピルチオキサントン、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1,2-ベンゾアントラキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、1,2-ベンゾ-9,10-アントラキノン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α-メチルベンゾイン、α-フェニルベンゾイン、ミヒラーズケトン(Michler’s ketone)、ベンゾフェノン、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、アセトフェノン、ジエトキシフェニルアセトフェノン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、1,5-アセトナフタレン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、ベンジルケトン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンジルケタール(2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタノン)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オンおよび/または2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンおよび/またはその混合物などの開始剤が用いられる。これらは必要により過酸化物型またはアゾ型のラジカル開始剤と、および/またはアミン加速剤と混合することができる。
【0049】
カチオン重合を用いることが好ましい場合には、ビニルエーテルもまたコモノマーとして使用可能である。
【0050】
このようなビニルエーテルの例は、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルプロピルエーテル、ビニルイソブチルエーテル、ビニルドデシルエーテル、ビニルオクタデシルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル、ビニル4-ヒドロキシブチルエーテル、ブタン-1,4-ジイルジビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテルであり、また下記のビニル化合物: N-ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタム、1-ビニルイミダゾール、およびジビニルエチレン尿素などである。
【0051】
重合開始剤の具体例は、実施例の項に開示されている2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノンの1-ヒドロキシエチルシクロヘキシルフェニルケトンとの混合物であり、またビス(2,4,6-トリメチルフェニル)アシルフェニルホスフィンオキシド
などである。
【0052】
本発明の組成物において、各成分の比率が、全組成物の質量%に対して次のとおりであることが好ましい。
成分a): 2〜49.99%、好ましくは7〜35%、
成分b): 50〜90%、
成分c): 0.01〜20%、好ましくは0.1〜10%、特に0.5〜6%、
成分d): 0〜10%、好ましくは1〜8%、特に2〜6%、
成分e): 0〜15%、好ましくは0.5〜12%。
【0053】
個別成分a)〜e)は各々、単一化合物からなっていてもよいし異なる化合物の混合物であってもよい。特に成分b)およびc)においては、前記混合物であることが原則である。さらに前述したように、成分a)は最初に使用される金属化合物の、特に成分b)、c)のうちの一方との反応生成物として存在してもよい。その場合、成分a)は一般にやはり異なる化合物の混合物である。
【0054】
前記成分a)が、金属に結合させた重合性炭素-炭素二重結合または三重結合をもつ有機基を含まない場合には、組成物中の成分a)の質量比率は2〜20%であることが好ましく特に5〜15%であるのがより好ましい。これはたとえば、成分a)がいずれかの使用金属のアルコラートまたはアセチル酢酸塩である場合に当てはまる。しかし、金属化合物a)が重合性炭素-炭素二重結合または三重結合をもつ少なくとも1つの有機基を金属に結合させて含む場合には、その重量比率は、もっと高くてもよく、たとえばそれは49.99%以下であり好ましくは7〜35%でもよい。
【0055】
当業者は熟知している事実であるが、前記諸成分、特に有機金属化合物は、互いに反応し合う可能性があり、また工業製品として不純物を含む場合があり、従ってそれらの物質は表面処理組成物中に前記条件下での熱力学的平衡(それがすでに確立されているものとして)に対応する形態で存在する。実施例の項に掲げた表はこの意味に理解されるものとする。表は本発明の組成物を調製するためにどの原料がどれだけ使用されたかを示す。原料の混合に伴い個別成分は互いに反応し合うものと見込まれる。たとえばアルコールとカルボン酸を一緒にするとエステルが形成される。それが望ましいなら、調製時に混合物を加熱することにより、前記反応を引き起こすことも可能である。これは特にアルコラートとして使用される金属化合物a)、たとえばチタンテトライソプロポキシラートに当てはまる。アルコラートはさらなる混合物成分と少なくとも部分的に反応し、アルコールが脱離することになろう。脱離アルコールは生成物中にとどめて、その粘度を低下させるようにしてもよい。しかし、被覆層硬化時に蒸発する溶媒を可能な限り少なくすることが大事である場合には、得られるアルコールを加熱および/または減圧により除去することもできる。
【0056】
さらに、アルコールまたはカルボン酸のアルコキシ化に際しては決まってアルコキシ化度の異なる分子を含んでなる生成物混合物が形成されることも当業者は熟知している。従って、当業者はアルコキシ化度を「平均アルコキシ化度」の意味として理解する。これは実施例の項で開示するエトキシラートにも当てはまる。
【0057】
前述の成分a)〜e)は、本発明の被覆材の主要量を構成することが好ましい。すなわちそれらの成分の全組成物に対する重量比率の合計は、少なくとも80%、特に少なくとも90%であることが好ましい。従って、組成物が含有するさらなる成分の重量比率は20%以下特に10%以下であることが好ましい。必要なら、全組成物に対する重量比率で10%以下好ましくは5%以下の、さらなる成分が存在してもよく、このような成分は、好ましくは接着促進剤(特にシラン類)と腐食防止剤(有機リン酸塩およびホスホン酸塩、ケイ酸塩特に層状ケイ酸塩、アルコキシシランおよびその加水分解生成物、縮合物からなる群より選択されるのが好ましい)より選択される。たとえばモンモリロナイトまたはタルクなどのような層状ケイ酸塩を使用する場合には、ナノスケール形態で、すなわち平均粒径1μm未満の形態で使用するのが好ましい。使用可能なアルコキシシランは、たとえばテトラアルコキシシラン特にテトラエトキシシランである。これらは、水の吸収とアルコールの脱離により、反応してシリカや縮合物を生成する。
【0058】
さらに前記組成物が前記接着促進剤及び腐食防止剤を追加的に含有しているか否かに関わらず、重合硬化時に生成被膜中に取り込まれずに留去されなければならない成分、たとえば希釈剤または溶媒などの質量比率は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。特に、前記組成物は、硬化時に揮発する前記成分を、2%以下の含有量で含むことが好ましい。先述のように、このような揮発性成分が、成分a)の構成物質を形成し、かつ成分a)の成分b)および/またはc)との反応による組成物の調製に際して遊離される場合には、組成物中に混入してもよい。これは、たとえば成分a)がいずれかの使用金属のアルコラートまたはアセチル酢酸塩である場合に、当てはまる。このような物質からは、カルボキシ基を含む成分b)および/またはc)との反応によりアルコールまたはアセチルアセトンが、遊離する可能性がある。このようにしてもたらされる揮発性成分の組成物に占める比率が好ましい上限を超える場合、好適な技術的手段、たとえば加熱および/または減圧留去により、前記揮発性成分の含有比率を好ましい上限まで引き下げることができる。
【0059】
本発明は、その第2の態様(aspect)において、金属帯の被覆方法に関するものであり、この方法は、本発明の被覆材料を、移動中の金属帯上に、ある層厚さに塗布し、これを高エネルギー放射線好ましくは電子線また、は紫外線の照射により硬化させて、硬化後に1〜10μm好ましくは2〜6μmの範囲の厚さの層が得られるようにすることを特徴とするものである。
【0060】
この方法では、金属帯への組成物の塗布は、それ自体周知のやり方で、ロール法(ケミカルコーティング)、ドクターブレード法、フィルムキャスティング(カーテン塗装)法、液浸/液絞り法または噴霧/液絞り法により実施する。
【0061】
被膜の形成、この被膜の架橋結合、および金属表面への固着は、それ自体周知の紫外線照射または電子照射によって行われることが好ましい。照射持続時間は、好ましくは0.1〜120秒でありより好ましくは0.5〜30秒の間である。本発明による処理を、金属表面処理、たとえば鋼帯の電気亜鉛めっきまたは溶融亜鉛めっきの直後に実施する場合には、前記金属帯に前洗浄を施すことなく、本発明の処理用溶液または分散液に接触させることができる。しかし処理対象の金属帯は、本発明による被覆処理の前に、貯蔵および/または輸送される場合には、前記金属帯は、一般に、防錆油を塗布した状態または少なくとも実質的に汚れた状態で提供されるため、本発明による被覆処理の前に洗浄が必要となる。この洗浄は慣用の弱または強アルカリ洗剤を使用して行われ、またアルミニウム及びアルミニウム合金の場合には、酸性洗剤を使用して行われる。
【0062】
本発明の組成物は、紫外線(UV)または電子線によって硬化または架橋結合させるのが好ましい。好適な紫外線は波長が200〜800nm好ましくは250〜450nmの間のものである。放射強度は所望の適用速度、開始剤系およびコモノマー組成に左右されるが、当業者は容易に決定することができる。
【0063】
電子線を選んで使用する場合は、通常の電子線源のすべてを使用することができる。一例としてバンデグラフ(van de graaff)発電機型、線形加速器型、共振トランス型またはダイナトロン型の加速器が挙げられる。電子線は約50〜1,000keVの、好ましくは100〜約300keVのエネルギーを有し、また生じる放射線量は約0.1〜100Mradである。
【0064】
金属表面の腐食防止処理方策のみに、本発明の被覆方法を用いることが好ましい。従って、本発明の被覆方法の適用前に、他の腐食防止処理を金属帯表面に施す必要はない。従って、本発明の被覆方法は、生成または洗浄したばかりの金属帯表面に直接適用することができる。さらに、金属帯表面の被覆が、本発明の組成物による被覆のみであることが好ましい。従って、本発明の被覆材料の塗布及び硬化後に、さらなる被覆材料による金属帯保護は必要ないし好ましくもない。これはせっかくの微生物に対する抗付着性が保護被覆の結果失われてしまうという事実により説明される。
【0065】
本発明の組成物または本発明の被覆方法によれば、特に亜鉛、鋼、亜鉛めっきまたは合金-亜鉛めっき鋼、ステンレス鋼またはアルミニウムおよびアルミニウム合金より選択される金属帯の表面処理が可能である。
【0066】
最後に、本発明は、必要により成形加工が可能でかつ前記の方法によって得られた被覆層を有する被覆金属帯またはそれを切断加工した金属板に関する。冒頭で述べたように、これらは特に空調設備または通風ダクトの構成部品であり、あるいはこのような構成部品の製造を目的とする金属帯である。
【実施例】
【0067】
下記の表は、比較組成国際公開第00/69978号パンフレットで開示されている先行技術の紫外線重合性組成物と、本発明の組成物とを示す。これらの表には、本発明の組成物の調製のために混合した全成分の種類と量(全組成物の合計に対する重量%)が含まれる。混合は室温〜100℃の温度範囲で行われた。先述のように、それにより混合物の個別成分は互いに反応するものと見込まれる。これは特に、成分a)として、またはその出発成分として使用されたチタンイソプロポキシラートに当てはまる。これは混合物調製時に同様に存在するカルボン酸と反応し、イソプロパノールを遊離させる。高い温度で混合を行うと、遊離したイソプロパノールは少なくとも部分的に蒸発しよう。そのため、「そのまま使える」タイプの組成物は、その調製に使用された個別成分の合計と近似的にしか対応しない。無水コハク酸もまたさらなる成分と反応し、もってたとえばメタクリル酸ヒドロキシエチルと結び付く可能性がある。
【0068】
被覆用の基材は溶融めっき鋼を含んでなる金属板とした。金属板はまず、市販洗剤(Ridoline(R)1340、Henkel KGaA)を使用して洗浄した。以下の表による成分混合で得られた組成物を、洗浄金属板に適用した。組成物はロールコーターを用いて、室温で、硬化後に5μmの被膜が得られるような層厚さに塗布された。組成物を、それぞれ、15m/分の模擬ベルト速度で紫外線により2回硬化させた。こうして被覆処理した金属板について、さらなる保護被覆を施すことなく、腐食防止性能と微生物付着性を試験した。表には、各記載試験時間(h=時間数)後の白さびの度合い(WRi)と黒さびの度合い(BRi)を示す。さびの度合い: 0は無腐食を意味し、さびの度合い: 5は完全腐食を意味する。このさびの度合いが低いほど腐食は少ない。
【0069】
腐食防止試験とは別に微生物(この場合: 黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus)付着試験も実施した。この試験のために、前記組成物を被覆した2.2×2.2cmの金属試験片をまず度数70%のメチルアルコールで10分間殺菌処理し、次いで滅菌蒸留水で洗い、乾燥させた。こうして準備した試験片に微生物懸濁液をかぶせ、1時間インキュベートした。その後、微生物懸濁液を吸い取り、試験片を2回洗った。試験片は、滅菌試験プレートに移した後、寒天培地をかぶせてから30℃で48時間培養した。試験片への微生物の定着を示す微生物増殖度を、比較組成物で被覆した試験片に対する相対パーセント値で表す。比較組成物で被覆した試験片の微生物汚染を100%としている。
【0070】
以下の表は組成物(原料総量に対する混合前のバッチ重量組成比)とそれに対応する試験結果のデータを含む。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
【表5】

【0076】
【表6】

【0077】
【表7】

【0078】
【表8】

【0079】
【表9】

【0080】
【表10】

【0081】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の被覆に用いられ、重合により硬化可能な組成物であって、
a) 前記組成物の重合硬化前および/または硬化中に、下記成分b)、c)または、必要によりd)のうち少なくとも1つと反応し、それによってケイ素、チタン、ジルコニウム、マンガン、亜鉛、バナジウム、モリブデンおよびタングステンより選択された金属が、硬化された組成物中に結合される少なくとも1種の金属化合物、
b) 成分a)に加えて、少なくとも1個のカルボキシ基またはエステル基と、少なくとも1個のオレフィン性二重結合とを含み、かつ少なくとも5個のエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド単位からなるポリエーテル鎖を全く有していない、少なくとも1種のモノマーまたはオリゴマー、
c) 少なくとも5個のエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド単位からなるポリエーテル鎖と、少なくとも1個の重合性二重結合を有する少なくとも1種のカルボキシ基またはエステル基との両方を含む少なくとも1種の化合物
を含む金属材料被覆用の重合硬化性組成物。
【請求項2】
前記成分d)としてのフリーラジカル重合用および/またはカチオン重合用開始剤の少なくとも1種を追加的に含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記金属化合物a)が、前記金属に結合しており、かつ前記成分b)、c)又は必要によりd)(但しカルボキシル基を含む)のカルボキシル基により置換され得るアセチルアセトネート基、アルコラート基、チオラート基、アミノ基またはアミド基の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記金属化合物a)が、前記金属に結合しており、かつ少なくとも1個の重合性C=C二重結合またはC≡C三重結合を有する少なくとも1種の有機基、好ましくは有機酸基を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
金属化合物a)が、下記一般式(II):
【化1】

(式中
R1および/またはR2は、H、C1〜C12アルキル、アラルキルまたは-CO-O-Y基であり、
R3は、HまたはC1〜C12アルキル基であり、
Meはケイ素、チタン、ジルコニウム、マンガン、亜鉛、バナジウム、モリブデンおよびタングステンより選択された酸化状態aにある金属原子であり、
XはH、C1〜C12アルキル、アリール、アラルキル、アルコキシルまたはアロキシル基であり、式は、2(-O-X)がアセチルアセトネート基であり、
YはH、C1〜C12アルキル基、または金属イオンMeであり、
ZはO、NH2、O-Zb-C(=O)-O基、O-Zb-P(=O)-O基、O-Zb-P(=O)2-O基、O-Zb-O-P(=O)-O基、O-Zb-O-P(=O)2-O基、O-Zb-S(=O)2-O基、O-Zb-O-S(=O)2-O基(但し、式中Zbは有機基を表す)より選択され、
かつnは0〜a好ましくは1〜(a-1)であり、aは前記金属Meの酸化状態を表す。)
で表わされる化合物群より選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記一般式(II)中の基Zb
直鎖または分岐鎖アルキレン基、好ましくは直鎖アルキレン基(CH2)x (式中xは1〜10の範囲、特に2〜4の範囲内の整数である)、
(CHR4-CHR4-O-)yCHR4-CHR4基(式中の複数のR4は、いずれの場合も互いに独立に、HまたはCH3であり、またyは0または1〜9の範囲内の整数である)、
(CH2)x-O-C(=O)-(CH2)y基(式中x、yは、それぞれ互いに独立に、1〜10の範囲内特に2〜4の範囲内の整数である)
より選択されることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記一般式(II)中の、R1、R2およびR3基のうちの少なくとも1種、好ましくは少なくとも2種、そして特に3種のすべてが、それぞれ互いに独立に、H、CH3、C2H5、C3H7およびC4H9より選択されることを特徴とする請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
前記成分b)のモノマーまたはオリゴマーがアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、マレイン酸、フマル酸、並びに前記酸基を少なくとも1個有するモノマー又はオリゴマーより選択され、前記酸基中のカルボキシ基のうち、すべてが、または、いくつかがエステル化し得ることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記成分b)のモノマーまたはオリゴマーが、芳香族または脂肪族のウレタンアクリレートまたはウレタンメタクリレートのオリゴマー、およびアクリル酸またはメタクリル酸、或は、そのヒドロキシアルキル誘導体と、不飽和ジカルボン酸との、または多塩基性カルボン酸またはその誘導体の無水物との、付加物または共重合体より、選択されることを特徴とする請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記成分c)の化合物が、250〜2,500の範囲内、好ましくは300〜650の範囲内、のモル質量を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
追加成分e)として殺生物剤をさらに含有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記殺生物剤が硬化された被覆層中に結合されている有機化合物であることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記殺生物剤が、粒子状無機化合物または粒子状金属であることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記殺生物剤が、殺生物性金属イオンを含み、この殺生物性金属イオンがカチオン交換能を有する有機または無機骨格に結合されており、かつアルカリ金属イオンと置換可能なものであることを特徴とする請求項11または請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記殺生物剤がスズ、亜鉛、銅および銀の各イオンより選択された金属カチオンを含有することを特徴とする請求項13または14に記載の組成物。
【請求項16】
前記成分が、全組成物に対して、下記質量%により示された比率:
成分a): 2〜49.99%、好ましくは7〜35%、
成分b): 50〜90%、
成分c): 0.01〜20%、好ましくは0.1〜10%、特に0.5〜6%、
成分d): 0〜10%、好ましくは1〜8%、特に2〜6%、
成分e): 0〜15%、好ましくは0.5〜12%。
で含まれていることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
成分a)〜e)の、合計質量の、全組成物に対する比率は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%であり、かつ他の成分の合計質量の、全組成物に対する比率は20%以下、好ましくは10%以下であることを特徴とする請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物が、さらに他の成分を、10%以下好ましくは5%以下の重量比率で含み、前記他の成分が好ましくは、接着促進剤(特にシラン類)、及び腐食防止剤(好ましくは有機リン酸塩およびホスホン酸塩、ケイ酸塩、特に層状ケイ酸塩、アルコキシシラン並びに、その加水分解物及び縮合物からなる群より選択される)より選択されることを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が、重合により硬化する時に、生成被膜中に取り込まれることのない成分を、10%以下、好ましくは5%以下の重量比率で含むことを特徴とする請求項1〜18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
金属帯材表面は、請求項1〜19のいずれか1項に記載の重合硬化性組成物を、移動中の金属帯材上に、硬化後の被覆層の厚さが1〜10μm、好ましくは2〜6μmの範囲内になるような被覆厚さで塗布し、これを高エネルギー放射線、好ましくは電子線または紫外線の照射により硬化させることを特徴とする金属帯材被覆方法。
【請求項21】
前記金属帯材表面には、請求項1〜19のいずれか1項に記載の重合硬化性組成物の塗布前に、腐食防止処理を金属帯表面に一切施さず(必要とせず)、かつ請求項1〜19のいずれか1項に記載の重合硬化性組成物を塗布し硬化させた後に、他の被覆層で被覆しないことを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記金属帯材は、亜鉛、鋼、亜鉛めっきまたは亜鉛合金めっき鋼、ステンレス鋼、或はアルミおよびアルミ合金の金属帯より選択されることを特徴とする請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
請求項20〜22のいずれか1項に記載の方法に従って得られる被覆を有することを特徴とする、必要により成形加工が可能な被覆金属帯材または切断加工された被覆金属板材。

【公表番号】特表2009−509010(P2009−509010A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531553(P2008−531553)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008146
【国際公開番号】WO2007/033736
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】