説明

抗真菌剤および抗細菌剤配合洗浄用組成物

【課題】広い抗細菌、抗真菌スペクトルを有し、有効性および安全性に優れた医薬品、医薬部外品または化粧品用の洗浄用組成物の提供。
【解決手段】アゾール系抗真菌剤および抗細菌剤が配合された医薬品、医薬部外品または化粧品用の洗浄用組成物。前記アゾール系抗真菌剤としては、硝酸ミコナゾールが特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広い抗細菌、抗真菌スペクトルを有し、有効性および安全性に優れた医薬品、医薬部外品または化粧品用の洗浄用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
日常的な手洗いの最も一般的な方法は、石鹸と流水によるもので、これは手に付着した汚れ、有機物、一過性微生物(細菌、真菌、ウイルスなど)の物理的除去法である。このような手洗による除菌効果を調べるための実験では、人為的に手に付着させた菌の除菌効果は、手洗いの時間に依存し、菌量は手洗い時間15秒で1/10、30秒で1/100、1分以上で1/1000になるとの報告がある。つまり通常の石鹸と流水とにより1分以上洗浄すれば、付着した菌を充分に除去することができる。しかしながら、日常の手洗いにおいて、1分以上の手洗い時間を確保することはなかなか困難である。
【0003】
そこで、洗浄時の除菌効率を高めるための抗細菌剤配合石鹸が市販されている。食中毒の予防、土壌あるいはペットなどから付着する環境由来の細菌の殺菌消毒、院内感染防止などのために、特に菌感染が重要視される食品製造、医療現場などの従事者に使用されているだけでなく、一般家庭での抗細菌剤配合石鹸での洗浄は日常的になりつつある。このような抗細菌剤配合石鹸として、トリクロサン、トリクロカルバンおよび/またはイソプロピルメチルフェノールなどの抗細菌剤を含む抗細菌剤配合石鹸が市販されている。
【0004】
またふけ防止のために抗真菌剤を配合した組成物がいくつか知られている。
真菌P.ovaleに対し、強い抗真菌効果を示すミコナゾールまたはその硝酸塩を含ませたふけ防止剤の開示がある(特許文献1参照)。ここでの防止剤は、P.ovaleによるふけを防止するためのたとえばシャンプーなどであるが、当該防止剤には、上述したような抗細菌剤は配合されていない。
菌・カビのエルゴステロールの生合成を阻害する1種以上の抗菌・抗カビ剤とリン脂質を含む組成物を開示するものもある(特許文献2参照)。当該文献には、抗菌・抗カビ剤として、抗真菌剤であるアゾールが例示され、抗細菌剤として公知の化合物は例示されていない。皮膚糸状菌(dermatophyte fungi)に対して効果がある旨の記載からみても、当該文献における菌は実質的に真菌を意味しており、抗細菌剤は含まれていない。
【0005】
特定の界面活性剤とともに活性剤として、抗脂漏性活性剤および/または抗菌剤を含ませた脂性またはざ瘡傾向の皮膚のための起泡性クレンジングクリームを開示しているものがある(特許文献3参照)。当該文献には、上記抗菌剤の例示群のうちには、抗生物質とともに抗真菌剤であるミコナゾールおよびその塩酸塩なども例示されている。抗菌剤は2種以上使用してもよいと記載しているが、抗菌剤を2種以上含む必要性は格別に示されていない。
【0006】
殺菌剤と、水膨潤性粘度鉱物との複合体を含む皮膚保護効果の殺菌剤組成物も提案されている(特許文献4参照)。当該文献中には、殺菌剤として、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノールなどの抗細菌剤、アゾール系抗真菌剤などが記載されている。また当該文献には、殺菌剤を上記粘度鉱物との複合体にして使用すると抗菌力の持続性があるとし、殺菌剤は、任意に1種または2種以上が選択される旨記載されているが、各用途別に例示された実施例では、各用途に応じた1種の薬剤を上記粘度鉱物との複合体に形成したときの持続性効果が示されている。
上記各文献には、抗細菌剤と抗真菌剤とを組み合わせて使用する必要性は示されていない。
【0007】
【特許文献1】特開平8−3042号公報
【特許文献2】特表2001−519822号公報
【特許文献3】特開2002−145736号公報
【特許文献4】特開平10−265408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ヒトの皮膚には通常、多数の常在菌や通過菌が存在する。たとえば、S.aureusは、皮膚感染症の最も頻度の高い原因細菌であり、日常的にみられる疾患としては、とびひ(水疱性膿痂疹)等がある。また、T.rubrumやT.mentagrophytesは、皮膚糸状菌症(白癬)の原因真菌である。足白癬(水虫)は、重篤な例を除いて自覚症状が弱く、他人に感染する伝染病であることの認識が十分ではないこと、自覚症状がなくなると治療をやめてしまう(コンプライアンスが悪い)ことなどから、風呂場のマットやスリッパ等から感染する機会が多い。宿主によっては通過菌量が少なくても水虫を発症するとの報告がある。また皮膚疾患のみならず、手に付着した真菌が経口的に体内に侵入し、各種臓器において真菌感染症を発症することもある。また真菌(カビ)は、アレルギー性疾患の原因(アレルゲン)の一つとされ、アレルギー性皮膚疾患としてのアトピー性皮膚炎との関わりにおいて、カンジダ(C.albicans)が重要視されている。
【0009】
昨今、生活環境の変化、抗生物質、ステロイド剤などの薬剤の日常的な使用などにより、感染症に対する抵抗性は低下する傾向にあるといえ、宿主の免疫機能の低下により発症する日和見感染も問題視されている。日和見感染の予防の観点では、皮膚の洗浄により感染予防するには、細菌だけでなく真菌除去の必要性も重要視され始めている。
【0010】
しかしながら上記従来の抗細菌剤配合石鹸の抗真菌効果を調べたところ、上記T.rubrumなどへの抗真菌効果はほとんどないか、不十分であることが分かった。これら抗細菌剤配合石鹸は、食中毒の予防、環境由来の細菌の殺菌消毒などを主たる目的とするため、大腸菌、サルモネラ菌、ブドウ球菌などの細菌の殺菌、滅菌などの抗細菌効果を目的としており、特に皮膚に付着する真菌への抗真菌効果はそれほど重要視されていたとはいえないのが実状である。
【0011】
上記のような情況に鑑み、本発明者は、広い抗細菌、抗真菌スペクトルを有する洗浄用組成物の必要性を認識した。
本発明者は、この認識に基づいて抗真菌剤および抗細菌剤を配合した洗浄用組成物について種々検討する過程において、抗真菌剤のうちには、これを通常の抗細菌性石鹸にそのまま配合しても、その溶解性、効果、安定性などが大きく変動してしまい、安定な洗浄用組成物を得ることが困難なものがあるという課題があることがわかった。
【0012】
また抗真菌剤、抗細菌剤および洗浄成分のうちには、皮膚刺激作用を有するものがあるため、その組合せや配合量の調節により、効果(抗真菌効果、抗細菌効果、洗浄効果、抗細菌剤・抗真菌剤の残留効果等)と安全性(皮膚刺激性が少ない等)とのバランスを図ることも必要である。
【0013】
本発明は、これらの課題を解決し、抗真菌剤および抗細菌剤を配合した洗浄用組成物、特に医薬品、医薬部外品または化粧品用として使用しうる洗浄用組成物であって、強力かつ広い抗細菌、抗真菌スペクトルを有し、安定で使用感に優れ、洗浄力に優れ、皮膚刺激性が少なく、頭皮や身体のかゆみの防止や防臭効果が得られ、常在菌や通過菌による感染症の予防効果が得られる洗浄用組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、抗真菌剤と抗細菌剤とを配合した洗浄用組成物について鋭意研究を行ったところ、アゾール系抗真菌剤と抗細菌剤とを配合した洗浄用組成物が、強力かつ広い抗細菌、抗真菌スペクトルを有する、製品自体が安定である、使用感に優れる、洗浄力に優れる、皮膚刺激などの有害事象を認めない、頭皮や身体のかゆみの防止や防臭効果が得られる、常在菌や通過菌による感染症の予防効果が得られる、等、上記課題の少なくとも一つを解決することを見出し、本発明を完成した。
このような本発明では、アゾール系抗真菌剤および抗細菌剤が配合された医薬品、医薬部外品または化粧品用の洗浄用組成物を提供する。
【0015】
上記洗浄用組成物において、上記抗真菌剤は、好ましくはミコナゾールおよび/またはその塩である。また上記抗細菌剤は、好ましくはトリクロサン、トリクロカルバンおよびイソプロピルメチルフェノールから選ばれる少なくとも1種である。
抗真菌剤が硝酸ミコナゾールであり、抗細菌剤がトリクロサンである洗浄用組成物は、本発明の好ましい態様例である。
本発明の洗浄用組成物において、通常、抗真菌剤の含有量は、0.1〜2.0wt%の量であり、抗細菌剤の含有量は0.01〜1.5wt%である。
本発明の洗浄用組成物は、洗浄成分として、低刺激性の界面活性剤を含むことができる。
本発明の洗浄用組成物は、たとえば石鹸の形態で提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、抗真菌剤および抗細菌剤が配合された新規な医薬品、医薬部外品または化粧品用の本発明の洗浄用組成物が提供される。特に抗真菌剤としてアゾール系抗真菌剤と抗細菌剤とを配合した洗浄用組成物は、強力かつ広い抗細菌、抗真菌スペクトルを有し、製品自体が安定である、使用感に優れる、洗浄力に優れる、皮膚刺激などの有害事象を認めない、頭皮や身体のかゆみの防止や防臭効果が得られる、常在菌や通過菌による感染症の予防効果が得られる等のうちの少なくとも一つの優れた特性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明は、医薬品、医薬部外品または化粧品用の抗真菌性・抗細菌性洗浄用組成物であり、広い抗真菌および抗細菌スペクトルを有する。本発明の洗浄用組成物は、抗真菌剤と抗細菌剤とを必須配合成分として含み、この抗真菌剤としてアゾール系抗真菌剤を含むことを特徴としている。
【0018】
本発明でのアゾール系抗真菌剤としては、たとえばミコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、チオコナゾール、オキシコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、クロコナゾール、ネチコナゾール、イソコナゾール、スルコナゾール、ビフォナゾールおよびそれらの塩などが挙げられる。塩としては、硝酸塩、塩酸塩などが挙げられ、好ましくは硝酸塩である。
本発明では、これらの2種以上を洗浄用組成物中に含ませることもできる。
これらのうちでも、好ましくはミコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、チオコナゾール、オキシコナゾール、スルコナゾール、ビフォナゾールおよびそれらの塩であり、さらに好ましくは硝酸ミコナゾールである。
本明細書において、上記ミコナゾールおよび硝酸ミコナゾールは、下記(I)および(II)で表される構造を有する化合物を意味する。
【0019】
【化1】

【0020】
上記アゾール系抗真菌剤は、市販品として入手可能である。
本発明に用いる抗細菌剤は、細菌に対して増殖抑制作用を有するものであれば特に限定されないが、ジフェニルエーテル化合物、カルバニリド化合物またはフェノール化合物が好ましく、具体的には、トリクロサン、トリクロカルバン、イソプロピルメチルフェノールなどが挙げられる。なかでもトリクロサンが好ましい。
これら抗細菌剤は、市販品として入手可能である。
【0021】
本発明の特に好ましい態様は、抗真菌剤が硝酸ミコナゾールであり、抗細菌剤がトリクロサンである組合せである。
抗真菌剤および抗細菌剤の組成物中への配合量は、特に限定されないが、通常抗真菌剤の配合量が0.1〜2.0wt%であり、抗細菌剤の配合量が0.01〜1.5wt%である。具体的に、抗真菌剤が硝酸ミコナゾールの場合には、その配合量は0.1〜1.0wt%が好ましく、抗細菌剤がトリクロサンの場合には、その配合量は0.05〜1.0wt%が好ましい。
【0022】
抗真菌剤と抗細菌剤との配合比は、特に限定されないが、抗真菌剤:抗細菌剤(wt:wtの重量比)で、通常1:5〜5:1、好ましくは1:1〜5:1、より好ましくは1:1〜2.5:1であり、さらに好ましくは抗真菌剤:抗細菌剤=2:1〜2.5:1である。具体的に、特に好ましい抗真菌剤、抗細菌剤およびその配合比の組み合わせは、抗真菌剤が硝酸ミコナゾールであり、抗細菌剤がトリクロサンであり、それらの配合比が硝酸ミコナゾール:トリクロサン=2.5:1である。
【0023】
本発明では、洗浄用組成物に配合される洗浄成分としては、抗真菌剤および抗細菌剤の薬効を損なわない洗浄成分であれば特に限定されないが、陰イオン性界面活性剤を含ませることが好ましい。具体的には、アルキル硫酸エステルナトリウム塩などの陰イオン性界面活性剤に、アルキルジメチルアンモニウムベタインなどの両イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどの非イオン性界面活性剤などを適宜組み合わせて使用することができる。
【0024】
またこれら界面活性剤は低刺激性のものが好ましく、低刺激性の陰イオン性界面活性剤としては、モノアルキルリン酸塩、アシルグルタミン酸塩、アシルメチルタウリン酸塩、ココイルイセチオン酸塩、ラウロイルメチル−β−アラニン塩などが挙げられ、低刺激性の両イオン性界面活性剤としてはベタイン型両イオン性界面活性剤、たとえば2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインなどが挙げられる。低刺激性の陰イオン性界面活性剤と低刺激性の両イオン性界面活性剤の組合せが好ましい。
【0025】
本発明の洗浄用組成物には、更に通常の洗浄用組成物に用いられる成分、例えばプロピレングリコール、グリセリンなどの保湿剤、カチオン性ポリマーなどのコンディショニング成分、色素、顔料などの着色剤、メチルセルロース、ポリエチレングリコールなどの粘度調整剤、クエン酸、水酸化カリウムなどのpH調節剤、塩化ナトリウムなどの塩類、植物エキス類、防腐剤、ビタミン剤、香料、紫外線吸収剤、抗酸化剤、水などを適宜配合できる。
【0026】
本明細書において、洗浄用組成物とは、洗浄成分を配合し、使用後に流水等で洗い流して使用する形態の組成物を意味する。その形態は特に限定されないが、石鹸(固形石鹸、液体石鹸、泡状石鹸、ボディーソープ、ハンドソープ、等)、クレンジングフォーム、シャンプー(頭髪用シャンプー、ドライシャンプー、等)などが挙げられる。これらのうちでも石鹸が好ましく、とりわけ、液体石鹸、ボディーソープが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明の洗浄用組成物の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)硝酸ミコナゾールおよびトリクロサンのin vitroにおける抗細菌、抗真菌作用
[対象菌株]
〈細菌〉
Staphylococcus aureus ATCC 29213
Escherichia coli ATCC 25922
〈真菌〉
Candida albicans IFM 40213
Trichophyton rubrum IFM 45626
【0028】
[MIC値の測定]
〈細菌〉
(1)ミューラーヒントンII寒天培地(BBL)にて35℃、18〜20時間培養後、滅菌生理食塩液にて、McFarland No.0.5に調製した。その後、滅菌生理食塩液にて10倍希釈をし、供試菌液とした。
(2)測定薬剤はDMSOで溶解し、ミコナゾールは102,400μg/mL(力価)、トリクロサンは409,600μg/mL(力価)に調製した。
102,400μg/mL(力価)に調製したミコナゾール薬液は、さらにDMSOを用いて2倍希釈系列を作製し、102,400〜50μg/mL(力価)となるよう調製した。
409,600μg/mL(力価)に調製したトリクロサン薬液はさらにDMSOを用いて2倍希釈系列を作製し、409,600〜6.00μg/mL(力価)となるよう調製した。
(3)ミコナゾールは1,024〜0.5μg/mL、トリクロサンは4,096〜0.06μg/mLとなるように、(2)で調製した各薬剤の希釈系列をそれぞれカチオン調整したMueller−Hintonブロス(CAMHB)に添加した(このとき、最終DMSO濃度は2%以下となるようにした)。
(4)(3)で調製した測定培地をそれぞれ100μLずつ分注した。対照として薬剤不含有培地を100μLずつ分注した。
(5)接種菌液を各ウェルに5μLずつ接種し、対象として用いた薬剤不含有培地内の菌量を計測し、接種菌量を求めた。
(6)対照に用いた薬剤不含有培地での菌の発育を確認した後、菌の発育が肉眼的に認められないウェルの最小の薬剤濃度をMICとした。
【0029】
〈真菌〉
(1)C.albicansはサブローデキストロース寒天培地(BBL)で35℃、24〜48時間培養後、滅菌生理食塩液にて、McFarland No.0.5に調製した。0.165mol/L MOPSを含むRPMI1640培地で1000倍に希釈し、供試菌液(1〜5×10cells/mL)とした。
T.rubrumは、改変1/10サブロー・グルコース寒天斜面培地で27℃、1〜2週間培養後、0.1%Tween80加滅菌生理食塩液を加え分生子を採取し、滅菌ガーゼで濾過した。分生子懸濁液はさらに0.1%Tween80加滅菌生理食塩液で希釈し、血球計算板を用いて菌数を10cells/mLに調製し供試菌液とした。
(2)測定薬剤はDMSOで溶解し、ミコナゾールおよびトリクロサン各々12,800μg/mL(力価)に調製した。12,800μg/mL(力価)に調製したミコナゾールおよびトリクロサン薬液は、さらにDMSOを用いて各々2倍希釈系列を作製し、12,800〜60μg/mL(力価)となるよう調整した。
(3)(2)で調製した各薬剤の希釈系列をそれぞれ、0.165mol/L MOPSを含むRPMI1640培地に、128〜0.06μg/mLとなるよう添加した(このとき、最終DMSO濃度は2%以下となるようにした)。
(4)(3)で調製した測定培地100μLに対し、(2)で調製した菌液100μLを接種し、C.albicansは、35℃で24〜48時間、T.rubrumは、27℃で1〜2週間培養した。但し、薬剤不含有培地での菌の発育状況によって培養時間は適宜延長した。対照として薬剤不含有培地を100μLずつ分注した。
(5)対照に用いた薬剤不含有培地での菌の発育を確認した後、菌の発育が肉眼的に認められないウェルの最小の薬剤濃度をMICとした。
MIC値(μg/mL)評価した結果を表1中に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
トリクロサンは細菌に対して、硝酸ミコナゾールは真菌に対して強力な増殖抑制効果を示した。両者を混合することで強力かつ幅広い抗真菌、抗細菌スペクトルが得られることがわかった。
【0032】
(実施例2) 液体石鹸の調製例(1)
本品100g中
トリクロサン 0.30g
硝酸ミコナゾール 0.75g
ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウム 12.00g
2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウム
タイン 12.00g
プロピレングリコール 8.00g
抗酸化剤 適量
pH調節剤 適量
精製水 適量
【0033】
(実施例3) 液体石鹸の安定性試験
実施例2で作成した液体石鹸は、調製直後は微黄色澄明な液体であり、不溶物等は認められなかった。さらにこの液体石鹸を、温度40℃、相対湿度75%で、プラスチック容器にて6ヶ月間保存した結果、硝酸ミコナゾール、トリクロサンの残存率は、いずれも95%以上(液体クロマトグラフ法を用いた常法により定量)であり、また、沈殿、着色なども認められなかった。
【0034】
(実施例4) 液体石鹸の使用(1)
実施例2で作成した液体石鹸を常法に従って手洗いおよび全身に使用した。洗浄時および洗浄後の違和感、皮膚のひりひり感、皮膚のかさつき等は認められず、使用感に優れていた。
本液体石鹸にて洗浄後に寒天培地に掌および足底を押捺(スタンプ法)し、常法に従って培養を行った。対照として、市販の抗細菌石鹸を用いて同様の試験を実施した。培養後に検出される細菌数、真菌数は、本発明の液体石鹸を使用した場合のほうが、市販の抗細菌石鹸を使用した場合に比べて明らかに少なかった。
【0035】
(実施例5) 液体石鹸の使用(2)
[方法]
実施例2で作成した液体石鹸を用いて、以下の比較試験を実施した。
1.細菌試験
(1−1)パームスタンプ培地(市販のSCDLP寒天培地;ダイズカゼイン分解物、レシチンおよびポリソルベート80含有)を用いて、被験者(N=5)の試験前の菌を採取した。試験5時間前から手洗いは禁止した。
(1−2)7%に希釈し泡噴出容器に入れた実施例2で作成した液体石鹸(本発明石鹸)および実施例2の組成から硝酸ミコナゾールを除いた液体石鹸(対照石鹸)を用い、被験者の右手掌、左手掌を片手づつ、一定の時間洗浄した。
洗浄は本発明石鹸、対照石鹸の各担当者が、被験者に対してブラインド下、左右ランダムに被験者全員の手を一定の方法(2プッシュで5秒間)で洗浄する方法により実施した。
(1−3)水道水(6L/min)で一定の時間(5秒:500mL)で洗浄剤を洗い流した。
(1−4)両手をドライヤー(冷風)で乾燥し、再度菌を採取した。
(1−5)採取後5時間手を洗わずにいて、5時間後再度菌を採取した。
(1−6)菌を採取した培地を24時間35℃のインキュベーターで培養した。
(1−7)検出された培地の写真を撮影し、細菌のコロニー数を測定した。
【0036】
2.真菌試験
(2−1)フットプレス用培地(バクトアガー15g、ネオペプトン10g、ブドウ糖20g、シクロヘキシミド1000mg、クロラムフェニコール50mg、硫酸ゲンタマイシン100mg、蒸留水1000mL)を使用し、被験者(N=5)の試験前の足の菌を採取した。
(2−2)7%に希釈し泡噴出容器に入れた本発明石鹸および対照石鹸を用い、被験者の右足裏、左足裏を片足づつ、一定の時間洗浄した。
洗浄は本発明石鹸、対照石鹸の各担当者が、被験者に対してブラインド下、左右ランダムに被験者全員の足を一定の方法(2プッシュで5秒間)で洗浄する方法により実施した。
(2−3)水道水(6L/min)で一定の時間(5秒:500mL)洗浄剤を洗い流した。
(2−4)両足をドライヤー(冷風)で乾燥し、再度菌を採取した。
(2−5)菌を採取した培地を7日〜14日27℃のインキュベーターで培養した。
(2−6)検出された培地の写真を撮影し、真菌のコロニー数を数えた。
【0037】
[結果]
結果を図1(細菌)および図2(真菌)に示す。
図1に示す通り、本発明石鹸を用いた場合の、平均細菌コロニー数(洗浄前を100%として%で表示)は、洗浄直後には顕著な低下を示し、洗浄5時間後においても、洗浄前よりも低い値であった。一方、対照石鹸は、洗浄直後には一時的にコロニー数が減少したが、洗浄5時間後の値は、洗浄前よりも高いものであった。
図2に示す通り、本発明石鹸を用いた場合の、平均真菌コロニー数(洗浄前を100%として%で表示)は、洗浄直後に顕著な低下を示した。一方、対照石鹸は、洗浄直後にコロニー数の減少は認められず、却って、洗浄前よりも高い値となった。
以上より、本発明石鹸は、対照石鹸に比し、抗細菌、抗真菌作用に優れることが確認された。
【0038】
(実施例6)硝酸ミコナゾールおよびトリクロサン混合液のin vitroにおける抗細菌、抗真菌作用
[対象菌株]
〈細菌〉
Staphylococcus aureus ATCC 29213
Escherichia coli ATCC 25922
〈真菌〉
Candida albicans IFM 40213
Trichophyton rubrum IFM 45626
【0039】
[薬剤配合比]
(1)硝酸ミコナゾール:トリクロサン=2.5:1
(0.7107g:0.2863g)
(2)硝酸ミコナゾール:トリクロサン=2:1
(0.6634g:0.3340g)
(3)硝酸ミコナゾール:トリクロサン=1:1
(0.4975g:0.5010g)
【0040】
[薬剤調製方法]
(1)硝酸ミコナゾールおよびトリクロサンを上記薬剤配合比の割合で1gとなるよう秤量した。
(2)この1gをジメチルスルホキシド(DMSO)39.06mLに溶解し、25,600μg/mLの溶液を作成した。
(3)25,600μg/mL溶液を原液として、以下の試験に使用した。
【0041】
[MIC値の測定]
〈細菌〉
(1)ミューラーヒントンII寒天培地(BBL)にて35℃、18時間培養後、滅菌生理食塩液にて、McFarland No.0.5に調製した。その後、滅菌生理食塩液にて10倍希釈をし、供試菌液とした。
(2)上記薬剤調製方法にて作製した原液をDMSOを用いて2倍希釈し、12,800μg/mLに調整後、さらにDMSOを用いて2倍希釈系列を作製し、12,800〜0.8μg/mL(力価)となるよう調整した。
(3)128〜0.008μg/mLとなるように、(2)で調製した薬剤の希釈系列をそれぞれカチオン調整したMueller−Hintonブロス(CAMHB)に添加した(このとき、最終DMSO濃度は2%以下となるようにした)。
(4)(3)で調製した測定培地をそれぞれ100μLずつ分注した。対照として薬剤不含有培地を100μLずつ分注した。
(5)接種菌液を各ウェルに5μLずつ接種し、対照として用いた薬剤不含有培地内の菌量を計測し、接種菌量を求めた。
(6)対照に用いた薬剤不含有培地での菌の発育を確認した後、菌の発育が肉眼的に認められないウェルの最小の薬剤濃度をMICとした。
【0042】
〈真菌〉
(1)C.albicansはサブローデキストロース寒天培地(BBL)で35℃、48時間培養後、滅菌生理食塩液にて、McFarland No.0.5に調製した。0.165mol/L MOPSを含むRPMI1640培地で1000倍に希釈し、供試菌液(1〜5×10cells/mL)とした。
T.rubrumは、改変1/10サブロー・グルコース寒天斜面培地で27℃、1週間培養後、0.1%Tween80加滅菌生理食塩液を加え分生子を採取し、滅菌ガーゼで濾過した。分生子懸濁液はさらに0.165mol/L MOPSを含むRPMI1640培地で希釈し、血球計算板を用いて菌数を10cells/mLに調製し供試菌液とした。
(2)上記薬剤調製方法にて作製した原液を、さらにDMSOを用いて2倍希釈系列を作製し、25,600〜1.5μg/mL(力価)となるよう調整した。
(3)(2)で調製した各薬剤の希釈系列をそれぞれ、0.165mol/L MOPSを含むRPMI1640培地に、256〜0.015μg/mLとなるよう添加した(このとき、最終DMSO濃度は2%以下となるようにした)。
(4)(3)で調製した測定培地を100μLずつ分注した。対照として、薬剤不含有培地を100μLずつ分注した。
(5)(1)で調製した菌液100μLを接種し、C.albicansは35℃、48時間、T.rubrumは、27℃、1週間培養した。
(6)対照に用いた薬剤不含有培地での菌の発育を確認した後、菌の発育が肉眼的に認められないウェルの最小の薬剤濃度をMICとした。
MIC値(μg/mL)評価した結果を表2中に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
硝酸ミコナゾール/トリクロサンを2.5:1〜1:1の割合で配合した混合液は、細菌、真菌に対して、強力な増殖抑制効果を示した。両者を混合することで強力かつ幅広い抗真菌、抗細菌スペクトルが得られることがわかった。
【0045】
(実施例7)液体石鹸の調製例(2)
本品100g中
トリクロサン 0.30g
硝酸ミコナゾール 0.75g
N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸カリウム 15.00g
2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウム
ベタイン 10.00g
プロピレングリコール 5.00g
抗酸化剤 適量
pH調節剤 適量
精製水 適量
【0046】
(実施例8)液体石鹸の調製例(3)
本品100g中
トリクロカルバン 0.50g
硝酸ミコナゾール 0.75g
N−ラウロイル−L−グルタミン酸カリウム 30.00g
プロピレングリコール 3.00g
抗酸化剤 適量
pH調節剤 適量
精製水 適量
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の石鹸の洗浄効果を対照石鹸との比較において示す、実施例5における細菌試験の結果を示すグラフである。
【図2】本発明の石鹸の洗浄効果を対照石鹸との比較において示す、実施例5における真菌試験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アゾール系抗真菌剤および抗細菌剤が配合された医薬品、医薬部外品または化粧品用の洗浄用組成物。
【請求項2】
前記抗真菌剤が、ミコナゾールおよび/またはその塩である請求項1に記載の洗浄用組成物。
【請求項3】
前記抗細菌剤が、トリクロサン、トリクロカルバンおよびイソプロピルメチルフェノールから選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の洗浄用組成物。
【請求項4】
前記抗真菌剤が硝酸ミコナゾールであり、抗細菌剤がトリクロサンである請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄用組成物。
【請求項5】
前記抗真菌剤の含有量が0.1〜2.0wt%の量であり、前記抗細菌剤の含有量が0.01〜1.5wt%である請求項1〜4のいずれかに記載の洗浄用組成物。
【請求項6】
洗浄成分として、低刺激性の界面活性剤を含む請求項1〜5のいずれかに記載の洗浄用組成物。
【請求項7】
前記洗浄用組成物が石鹸である請求項1〜6のいずれかに記載の洗浄用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−335768(P2006−335768A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245400(P2006−245400)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【分割の表示】特願2004−539553(P2004−539553)の分割
【原出願日】平成15年9月26日(2003.9.26)
【出願人】(000181147)持田製薬株式会社 (62)
【Fターム(参考)】