説明

抗菌性ドレナージルーメン表面を備えるステント

体内管腔への植え込み用医療器具が提供される。医療器具は抗菌コーティングを取り囲む支持部材を備え、抗菌コーティングは支持部材を貫通するドレナージルーメンを画定する。抗菌コーティングは好ましくは、ベリリウム、ニッケル、銅、コバルト及び/又はケイ素を含んでなる金属合金を含む。金属合金は望ましくは、エチル酢酸ビニル共重合体などの、抗菌材料の酸化物を保持しながらドレナージルーメン中の体液を抗菌コーティングに浸透させるのに十分な多孔性を有するよう構成された多孔質生体安定性材料に組み込まれる。医療器具は、例えば、胆管ステント又は膵管ステントとして構成され得る。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植込み型医療器具に関する。より詳細には、本発明は、胆道での使用に適したドレナージステントを備える体液ドレナージ器具に関する。
【背景技術】
【0002】
胆管ステントは、胆管の開存性を維持して閉塞性黄疸などの様々な病態を治療するために植え込まれ得る。植込み型胆管ステントは、特に外科的治癒が不可能な場合に、悪性胆管閉塞の緩和を提供できる。胆管ステント留置術はまた、胆汁瘻又は巨大総胆管結石などの病態の短期治療の提供にも用いることができる。長期間植え込まれる胆管ステントは、術後胆管狭窄、原発性硬化性胆管炎及び慢性膵炎などの慢性病態の治療に用いることができる。
【0003】
胆管ステントは、内視鏡の中をデリバリーカテーテルに沿って前進し、胆管内で展開され得る。胆管ステントは、体内管腔の圧潰に耐えるだけの、例えば、開通した体内管腔の管腔を維持し、それを通じて消化液を消化管へと流動させ得るだけの十分な強度を有するチューブ状ステントとして構成され得る。胆管ステントはまた望ましくは、体内管腔を通じて送り込み体内管腔内に留置する間、急な屈曲部を含み得る経路に沿って胆管ステントを前進させることが可能であるように、長手方向に十分な可撓性も有する。胆管ステントはまた望ましくは、胆管内の植込み部位に送り込んだ後も移動せず留まるよう構成される。
【0004】
植え込み後、ステントの内表面には無定形の生体物質及び細菌の付着物(「スラッジ」)が蓄積するため、胆管ステントのルーメンは徐々に塞がれ、胆管ステントを通じた排液が損なわれ得る。胆泥は、多量の様々なタンパク質及び細菌と共に、多くの場合にビリルビンカルシウム及びパルミチン酸カルシウム(calcium palimitate)の結晶を含む無定形の物質である。細菌の存在下で植え込まれると、スラッジは急速に堆積し得る。例えば、細菌は、線毛(細菌からの毛状の突起で、これにより細菌細胞は表面に張り付くことができる)を用いて、又はムコ多糖外被の生成を通じてプラスチック製のステント表面に付着し得る。植え込まれた胆管ステントのルーメン中にあるスラッジのグリコカリックス基質内で細菌が増殖すると、バイオフィルムが形成され得る。ひいては、時間の経過に伴い、植え込まれた胆管ステントが詰まり、そのため胆管ステントを通じた胆汁の流れが制限又は遮断されるようになり得る。結果として、植え込まれた胆管ステントを通じた胆汁の流れが制限又は遮断されることから、患者は再発性胆管閉塞の症状を発症する可能性があり、これは胆管炎及び敗血症を合併し得る。多くの場合に、かかる病態は抗生物質及び/又は閉塞した胆管ステントの内視鏡的な置換術によって治療される。一方、バイオフィルムは、胆管ステントルーメン内に閉じ込められた細菌を抗生物質から保護する物理的防壁となり得る。
【0005】
当該技術分野においては、胆管ステントなどの植込み型ドレナージステントのルーメン内部におけるバイオフィルム及びスラッジの堆積プロセスを防止又は低減する植込み型医療器具が求められている。有望な手法としては、フルオロキノロン剤などの、胆汁中で高濃度を実現し、且つ腸内グラム陰性菌に対して有効な抗生物質の全身投与が関与してきた。しかしながら、全身的な治療手法では、バイオフィルムのグリコカリックス基質が細菌の抗生物質との接触を隔て得ることで、抗生物質剤がグリコカリックス基質に浸透できない可能性がある。米国特許第6,887,270号は、ドレナージルーメンをライニングするバリア層の周りの基質ポリマー中に抗菌剤を組み込んだ植込み型多層チューブ状医療器具を記載している。このバリア層は基質ポリマーからドレナージルーメンへの抗菌剤の放出速度を調整し得る一方、バリア層は抗菌剤とドレナージルーメンとの間に位置し、ドレナージルーメン中の体液と抗菌剤との直接的な接触が防止又は低減され得る。
【0006】
様々な抗菌材料が植込み型医療器具に被着され得る。例えば、ロビー(Roby)による2003年12月4日出願の米国特許出願公開第2004/0153125 A1号は、ベリリウム脂肪酸塩を含む、抗菌特性を備えた脂肪酸金属塩を含む製品用コーティングについて記載している。シュローダー(Schroeder)らによる1998年2月2日出願の米国特許第6,254,635号は、ベリリウムなどの元素金属を植込み可能な生体適合性材料(例えば、組織心臓弁)に堆積させることによる植え込まれた材料へのカルシウム沈着の低減について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,887,270号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0153125 A1号明細書
【特許文献3】米国特許第6,254,635号明細書
【特許文献4】米国特許第5,152,782号明細書
【特許文献5】米国特許第4,955,899号明細書
【特許文献6】米国特許第5,423,631号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2005/0008763 A1号明細書
【特許文献8】米国特許第5,599,321号明細書
【特許文献9】米国特許第5,217,493号明細書
【特許文献10】米国特許第5,052,998号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】AAMI(医療器具開発協会(Association for the Advancement of Medical Instrumentation))VP20−1994年、「心血管インプラント−人工血管(Cardiovascular Implants−Vascular Prosthesis)」第8.2.1.2節、「多孔度の重力測定方法(Method for Gravimetric Determination of Porosity)」
【非特許文献2】「メルク・インデックス(Merck Index)」、メルク社(Merck & Co.,Inc.)、ニュージャージー州ローウェイ(Rahway)発刊
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ドレナージステントのドレナージルーメン内への体液及び細菌の堆積を低減するよう構成された材料でライニングされ、それによりドレナージルーメン内への生体内堆積(biodeposition)を防止又は低減するルーメンを有する植込み型ドレナージステントが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、抗菌コーティングにより少なくとも部分的に画定されるドレナージルーメンを円周方向に取り囲む支持部材を備えるチューブ状ドレナージステントを提供する。抗菌コーティングは好ましくは、抗菌材料をドレナージルーメン内の体液と接触状態に保つよう構成される。抗菌材料は、ベリリウム、銅、コバルト、ケイ素及びニッケルからなる群から選択される1つ又は複数の材料を含んでなり得る。一態様において、コーティングは、多孔質材料を含んでなるコート層を含んでなる。例えば、抗菌材料は抗菌特性を備える金属又は金属合金であってもよく、場合により多孔質の生体安定性基質ポリマーと混合される。抗菌コーティングは望ましくは、ベリリウム合金、金属又は酸化ベリリウムを含むベリリウムを含んでなる。例えば、生体安定性抗菌コーティングは、約0.2重量%〜2.8重量%のベリリウムを含有する合金を含んでなり得る。抗菌コーティングに有用なベリリウム合金の例としては、Be−Cu、Be−Co−Cu、Be−Co−Si−Cu及びBe−Ni−Cuが挙げられる。抗菌材料は場合により他の抗菌材料を含んでなってもよく、それらとしては、金属銀、約2.5重量%の銅を含有する銀の合金、クエン酸銀、酢酸銀、安息香酸銀、ビスマスピリチオン、亜鉛ピリチオン、過炭酸亜鉛類、過ホウ酸亜鉛類、ビスマス塩類、塩化ベンザルコニウム(BZC)及び過炭酸ナトリウムが挙げられる。
【0011】
抗菌コーティングは好ましくは、ドレナージルーメンの一部分を画定する多孔質表面を有し、典型的にはチューブ形状を有する。抗菌コーティングは、ドレナージルーメンと抗菌材料との間に位置する多孔質の拡散層を含む2つ以上の層を有し得る。多孔質の拡散層は開放空隙を画定しており、体液は多孔質拡散層を通過して抗菌材料と接触することができる。抗菌コーティングは任意の好適な構造を有し得るが、好ましくは、抗菌材料と、ベリリウム、銅及び/又はニッケルの酸化物を含む抗菌材料により形成された金属酸化物との、双方を保持するよう構成される。好ましくは抗菌材料は、ドレナージルーメンの表面の少なくとも一部分を画定することにより、ドレナージステントのドレナージルーメン内の体液と接触するよう位置決めされることが好ましい。例えば、一態様において、抗菌材料は支持部材のうちドレナージルーメンをライニングする部分に組み込まれ、抗菌コーティングを形成し得る。第2の態様において、抗菌コーティングは支持部材により取り囲まれる単層コーティングである。例えば、抗菌材料は、チューブ状支持部材のドレナージルーメンをライニングし、且つドレナージルーメンの表面の少なくとも一部分を画定する多孔質の生体安定性ポリマーで形成された多孔質の拡散層に組み込まれ得る。第3の態様において、抗菌コーティングは2つ以上のコート層を含んでなる。例えば、多層抗菌コーティングが支持部材のドレナージルーメンに沿って被膜され得る。多層コーティングは、支持部材と、ドレナージルーメンの少なくとも一部分を画定する第2の層との、間に位置する抗菌材料を含有する第1の層を含んでなり得る。第1の層及び第2の層は、チューブ状支持部材の内表面に被着されるか、又はそれと共押出しされる同心円状のチューブ状コート層として構成され得る。第2の層は多孔質層として構成され、それによりドレナージルーメンからの体液が第1の層の抗菌材料と接触でき、同時に抗菌材料から形成される金属酸化物は保持される。好適な多孔質層の材料としては、多孔質の生体安定性ポリマー及び/又は延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)のような織り上げた材料が挙げられる。
【0012】
多孔質コート層は任意の好適な構造を有し得るが、好ましくは空隙体積率が約0.25〜0.95であり、すなわちコーティングが、総コーティング体積の約25%〜95%の総空隙体積を画定する。空隙は開放された空間であってもよく、又は他の材料で充填されてもよい。例えば、多孔質コーティングは、合計でコーティング体積の約50%に上る空隙を画定する生体安定性多孔質ポリマーを含んでなり得る。こうした空隙は、場合により抗菌材料、抗菌剤で充填されてもよく、又は開放状態のままとして体内管腔内での空隙を通じた体液の流動を可能にしてもよい。
【0013】
場合により、抗菌コーティングは抗菌剤をドレナージルーメンに放出するよう構成され得る。放出可能な生物活性剤は、抗菌コーティング及び/又は支持部材の1つ又は複数の層に組み込まれ得る。抗菌剤の例としては、セファロスポリン類、クリンダマイシン、クロラムフェニコール、カルバペネム類、ミノサイクリン類、リファンピン、ペニシリン類、モノバクタム類、キノロン類、テトラサイクリン、マクロライド類、サルファ系抗生物質、トリメトプリム、フシジン酸、アミノグリコシド類、アムホテリシンB、アゾール類、フルシトシン、シロフンギン(cilofungin)、ニッコーマイシンZ、及びリファマイシンからなる群から選択される材料が挙げられる。
【0014】
支持部材は、所望の用途に好適な任意の方法で構成され得る。支持部材は好ましくは、体液を流動させるよう構成されたドレナージルーメンを中に備え、ドレナージルーメンの少なくとも一部分をライニングする抗菌コーティングを取り囲む。支持部材は、目的の適用に所望されるレベルの可撓性又は剛性を提供する任意の好適な構造を有し得る。胆管ステントについては、支持部材は経内視鏡的に送り込むことができる十分な可撓性を有しながらも、なお胆管内に開通した通路を維持するだけの十分な剛性を有しなければならない。胆管ステントなどのステント留置術の適用については、支持部材は典型的には円環形のチューブ構造であり、内表面を有する。内表面は環状の抗菌コーティングで被膜されてもよく、この環状の抗菌コーティングが支持部材を長手方向に貫通するチューブ状ドレナージルーメンを画定し得る。好適な支持部材構造の他の例としては、起伏を有するか、若しくは粗面化された内表面、又はドレナージルーメンに沿って波形若しくは溝が付与された外表面を挙げることができる。支持部材は好ましくは、ポリエチレン及び/又はポリウレタンなどの、熱成形が可能な生体適合性の、所望のレベルの剛性と抗菌材料による被着性とを提供する任意の好適な材料で形成される。抗菌コーティングは、支持部材との共押出し、支持部材の抗菌材料溶液への浸漬、又はドレナージステントのルーメン表面への抗菌材料のコーティングを含め、任意の好適な方法で支持部材に取り付けられるか、又はその中に組み込まれ得る。
【0015】
体内管腔を通じる体液の流れを改善する方法もまた提供され、これは、ワイヤガイドを体内管腔に挿入し、ワイヤガイドを体内管腔内の処置箇所まで前進させるステップと、体液ドレナージ器具をワイヤガイド越しに体内管腔に挿入し、体液ドレナージ器具を処置箇所まで前進させるステップであって、体液ドレナージ器具が、ベリリウム、又は、銅と、ベリリウム、コバルト、ケイ素及びニッケルからなる群から選択される1つ又は複数の材料との、合金を含んでなる抗菌材料で少なくとも部分的にライニングされたドレナージルーメンを含む、ステップと、ドレナージルーメンを通じて体液を流動させると同時に抗菌材料と接触させることが可能な方法で体液ドレナージ器具を体内管腔内の処置箇所に少なくとも部分的に留置するステップとを含み得る。例えば、体液ドレナージ器具はチューブ状ドレナージステントであってもよく、抗菌材料は約0.2〜2.8重量%のベリリウムを含み得る。体内管腔は好ましくは膵管又は胆管である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】胆管ドレナージステントの第1の実施形態の側面図である。
【図2】図1に示される線A−A’に沿った胆管ステントの一部分の長手方向断面図である。
【図3】図1に示される線B−B’に沿った胆管ステントの一部分の横方向断面図である。
【図4】図1に示される胆管ステントと同様の代替的な胆管ステントコーティング構造の一部分の横方向断面図である。
【図5】屈曲した支持部材構造を有する胆管ドレナージステントの第2の実施形態の側面図である。
【図6】ピッグテール状の支持部材構造を有する胆管ドレナージステントの第3の実施形態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の詳細な説明及び添付の図面は、本発明の様々な例示的実施形態を説明及び例示する。説明及び図面は当業者が本発明を実施及び利用可能となるよう提供されるものであり、本発明の範囲を限定することは何ら意図されない。
【0018】
本発明は体内管腔への植込み用医療器具、医療器具の製造方法、及び医療器具を利用する治療方法を提供する。
【0019】
定義
本明細書で使用されるとき、用語「を含んでなる」、「を含む」、「を有している」、「を有する」、「を含有する」及びこれらの変化形は、追加的な動作又は構造の可能性を排除しない非制限的な移行句、用語、又は単語であるものとする。
【0020】
本明細書で使用されるとき、用語「体内管腔」は、限定はされないが、胆管、尿管路、食道、及び血管、例えばヒト脈管系の血管などを含む体液を誘導する任意の体内通路管腔を意味する。
【0021】
本明細書で使用されるとき、用語「植込み型」は、体内管腔内など、体内の所定位置に配置できる、医療器具の能力を指す。さらに、用語「植込み」及び「植え込みされた」は、体内管腔内など、体内の所定位置における医療器具の配置を指す。
【0022】
本明細書で使用されるとき、「管腔内に(endolumenally)」、「管腔内の(intralumenal)」又は「経管腔的な」は、全て同義的に、離れた位置から体内管腔内の標的部位まで体内管腔の管腔内を通じて医療器具を前進させる手技による植込み留置を指す。ルーメン内デリバリー(endolumenal delivery)は、内視鏡又はカテーテルからの胆管への植込みを含む。
【0023】
「生体適合性」材料とは、望ましくない毒性若しくは有害性を有さず、且つ望ましくない免疫拒絶反応を引き起こさないことを含め、目的とする治療過程と整合的であることにより生体組織又は生体系に適合する材料である。
【0024】
用語「生体安定性」及び「非生体吸収性」材料とは、同義的に、重合体又は共重合体などの、実質的な生体吸収又は散逸なしに体内に残る材料を指す。
【0025】
用語「生体吸収性」は本明細書では、溶解、分解、吸収及び排出など、散逸を起こし得る機序に関わらず、体内に植え込まれると散逸するよう選択される材料を指して用いられる。どの種類の材料を用いるかについての実際の選択は、当業者により容易に行われ得る。かかる材料は当該技術分野においては、「生体再吸収性」、「生体吸収性」、又は「生体分解性」を含め、材料を散逸させる機序に応じて種々の用語で称されることが多い。本明細書で使用されるとき、「生体吸収性ポリマー」は、体内に植え込むと散逸する重合体又は共重合体を指す。体内に挿入され、後に散逸し得る多くの異なる種類の材料が、当該技術分野において周知である。
【0026】
用語「空隙対体積」とは、多孔質材料の細孔の体積を、その細孔の体積を含めた材料の総体積で除したものを指す。空隙対体積は、AAMI(医療器具開発協会(Association for the Advancement of Medical Instrumentation))VP20−1994年、「心血管インプラント−人工血管(Cardiovascular Implants−Vascular Prosthesis)」第8.2.1.2節、「多孔度の重力測定方法(Method for Gravimetric Determination of Porosity)」に記載されるプロトコルを用いて計測できる。多孔質材料の多孔度はまた、走査型電子顕微鏡(SEM)画像によって確認されてもよい。
【0027】
本明細書には、体内管腔への植込み用の様々な医療器具が記載される。好ましい実施形態は、支持部材内に配置される抗菌コーティングであって、その少なくとも一部分がドレナージルーメンのライニングを形成する抗菌コーティングを含んでなる医療器具に関する。本医療器具は、抗菌コーティングで少なくとも部分的にライニングされたドレナージルーメンを有する実質的にチューブ状の支持部材を含んでなる例示的な胆管ステントの実施形態に関して記載される。しかしながら、他の医療器具、例えば、尿管ステント、食道ステント又はカテーテルもまた、他の実施形態に係る植込み型医療器具として使用され得る。
【0028】
医療器具構造
図1は、ドレナージステント10として構成される例示的植込み型医療器具の側面図である。ドレナージステント10は、入口14から出口12までを貫通する内部ドレナージルーメン18を中に備えるドレナージチューブ16を有する胆管ドレナージステントである。ドレナージチューブ16は入口14及び出口12を画定する内表面20を有する。入口14によって体液はドレナージチューブ16に入ることができ、一方、出口12は体液がドレナージチューブ16から出ることのできる開口を画定する。特に指示されない限り、用語「入口」及び「出口」は、例示的には、入口を通って医療器具へと入り、出口から医療器具を出る、医療器具を通じた体液の流れの順行方向を指して用いられるが、反対方向の逆の(逆行性の)体液の流れ、又は順行方向及び逆行方向のいずれもの双方向の流れを排除するものではない。典型的には医療器具は、医療器具を通じて体液を実質的に順行方向に流れさせるように植え込まれる。ドレナージステント10は、1つの入口14及び1つの出口12を含んでなる。他の実施形態は、ドレナージチューブの側面に沿って設けられた入口又は出口を含め、複数の入口及び/又は出口を備える医療器具を提供する。
【0029】
ドレナージステント10は好ましくは、胆管又は膵管内において、ドレナージステント10が管路の長さに沿って延在し、出口12が十二指腸内まで延在して留置されるように構成される。好ましい実施形態は、管腔の閉塞又は閉鎖を有する患者の総胆管又は膵管での使用を意図したドレナージステント10を記載するが、ドレナージステント10は体内の他の領域用としても構成され得る。例えばステントは、尿管、尿道、食道又は血管内での使用向けに構成され得る。
【0030】
好ましくは、本医療器具は、器具を体内通路に固定するための手段、例えば、ドレナージステント10の入口14又は出口12部分の外表面から半径方向外側に延在する複数の固定用フラップを含んでなる。固定用フラップの数、サイズ及び向きは、植え込まれる特定の医療器具の移動防止要件、植込み部位及び器具の所望の機能に適応させて変更され得る。例えば、ドレナージステント10は、ドレナージチューブ16の外表面においてそれぞれ出口12及び入口14に近接して取り付けられた半径方向に延在するフラップの出口アレイ30及び入口アレイ32を含んでなり、それによってドレナージステント10が胆管内に固定される。固定用フラップは、ドレナージチューブ16の遠位端又は近位端で長手方向に小さい切片を薄く切り、その薄片を半径方向に向けることにより形成され得る。好ましくは薄い切り込みは、ドレナージチューブ16の外表面において、ドレナージチューブ16に穴が開かないよう浅く入れられる。
【0031】
ドレナージチューブ16は図1に示されるとおり、長手方向軸2に対し実質的に真っ直ぐ、且つ対称的に配置され得る。ドレナージチューブ16は目的の用途に好適な任意の直径であってよい。胆管ドレナージステント10では、ドレナージチューブ16は外径が約7〜12フレンチ(0.231〜0.396センチメートル(0.0909〜0.156インチ))、入口14と出口12との間の長さが約25〜180mmであり得る。
【0032】
図2は、図1の線A−A’に沿ったドレナージステント10の長手方向断面を示す。図3は、図1及び図2の線B−B’に沿ったドレナージステント10の横方向断面を示す。図2を参照すると、ドレナージチューブ16は、中心がドレナージステント10の長手方向軸2に沿ったドレナージルーメン18を中に備えている。抗菌コーティング22は好ましくは、ドレナージルーメン18の外周の少なくとも一部分を形成し、支持部材24の内表面に直接被着され得る。ドレナージチューブ16は好ましくは支持部材24及び抗菌コーティング22を備える。抗菌コーティング22は支持部材24の内側表面に取り囲まれる。支持部材24は、胆管などの体内管腔の閉塞部分を貫通するドレナージルーメンを提供するよう構成された連続した途切れのないチューブとして構成され得る。或いは、支持部材24は分岐したチューブ状構造を有してもよく、及び/又はドレナージルーメンと外表面との間にチューブ体の長さに沿って1つ又は複数の追加的な入口開口又は出口開口を含んでなってもよい。好ましくは、支持部材24はドレナージチューブ16の外表面を形成するが、ドレナージチューブ16は支持部材24の外表面に設けられる追加的な材料層を備え得る。支持部材24は1つ又は複数の材料層を有し得る。支持部材24は内表面20を有する。内表面20は好ましくは出口12及び入口14にドレナージルーメン18の遠位部分及び近位部分を画定する。ドレナージルーメン18は入口14及び出口12から延在し、抗菌コーティング22により画定され得る。抗菌コーティング22はドレナージルーメン18の一部分を画定してもよく(図2に示されるとおり)、又は支持部材24の入口14及び出口12まで延在することによりドレナージルーメン18の全体を画定してもよい。好ましくは、抗菌コーティング22は抗菌材料を保持するよう構成される。場合により、支持部材24の内表面20は、例えば、粗面化、プラズマ処理によるか、又はシラン又はパリレンなどの被着促進材料を塗布することにより、抗菌コーティング22の被着を促進するよう構成され得る。或いは、支持部材24と抗菌コーティング22とは共押出し又は溶媒キャストなどの方法により一体に形成されてもよい。
【0033】
ドレナージチューブ16及び支持部材24の半径方向厚さは、ドレナージステント10に対し目的の適用に所望される大きさの可撓性又は剛性を付与するように選択できる。図3を参照すると、ドレナージチューブ16の外径Rは、長手方向軸2からドレナージチューブ16の外表面までの半径方向距離として計測される。Rはドレナージルーメン18の半径であり、Rは長手方向軸2から支持部材24の内表面までの半径である。外径Rは内部ドレナージルーメン18の半径Rより大きい。支持部材24の厚さはR−Rである。ドレナージチューブ16の厚さは選択される材料に依存し、所望の大きさの半径方向支持力を提供すると同時に所望のレベルの可撓性を保つ限り、任意の厚さであり得る。例えば、ポリエチレン製の胆管ステント支持部材24は典型的には、10Fステントについて厚さが約0.2mm〜約1.0mm、好ましくは約0.4mmのドレナージチューブ16を有する。胆管ステント用のドレナージルーメン18の半径Rの典型的な値は、約0.25mmから約1.5mmまで様々であり得、10Fステントについては約0.5mm〜約1.5mm、5Fステントについては約0.25mm〜約0.75mmが挙げられる。抗菌コーティング22の半径方向厚さ及び組成(すなわち、図3におけるR−R)は、ドレナージルーメン18を通じた体液の流れについて所望の流量を提供し、生体物質の生体内堆積(biodeposition)を防止又は低減するよう選択できる。胆管ステントの場合、生体物質としてはグリコカリックス基質又は細菌の成分を挙げることができる。血管ステントの場合、生体物質としては血栓を形成させる活性を有する血液成分を挙げることができる。抗菌コーティング22の半径方向厚さ(R−R)は典型的には約0.2mm〜約0.5mmである。
【0034】
或いは、抗菌コーティング22は、例えば、抗菌材料と、コート層に抗菌材料を保持するよう構成された多孔質生体安定性材料と、を含んでなる内側の環状コート層と共に、ポリエチレンの外側チューブを共押出しすることにより、支持部材24(図示せず)と組み合わせることができる。支持部材24はまた、抗菌材料を含んでなる単一の熱成形可能な材料層として形成されてもよい。抗菌材料は支持部材24中に均質に混合されてもよく、又は支持部材24内に半径方向の濃度勾配が存在してもよい。抗菌コーティング22が支持部材24と組み合わされる場合、Rはなく、組み合わされた抗菌コーティング22及び支持部材24の厚さはいずれも等しくR−Rであり、約0.2mm〜約1.0mmであり得る。従って、ドレナージチューブ16と抗菌コーティング22との半径方向厚さの合計は、望ましくは約0.4mm〜約0.8mmである。ドレナージチューブ16と抗菌コーティング22との相対的な半径方向厚さは、植え込み後のドレナージルーメン18の開存性を維持するために最低限所望される大きさの半径方向強度を付与するよう選択され得る。
【0035】
ドレナージチューブ16が支持部材24により取り囲まれた別個の抗菌コーティング22を備える図3を再び参照して、支持部材24の半径方向厚さ(R−R)及び抗菌コーティング22の半径方向厚さ(R−R)は様々であり得る。抗菌コーティング22の半径方向厚さ(R−R)の、ドレナージチューブ16の半径方向厚さ(R−R)に対する比は、好ましくは約20:1未満、より好ましくは約10:1、5:1、3:1又は2:1未満、及び最も好ましくは約1:1である。ドレナージルーメン18の半径の、抗菌コーティング22の半径方向厚さに対する比は好ましくは約5:1未満、より好ましくは約2:1である。
【0036】
ドレナージルーメン18を画定する抗菌コーティング22の表面は好ましくは、ドレナージルーメン18をライニングする抗菌コーティング22の表面積が最大となるよう構成される。抗菌コーティング22は好ましくは、粗面化されるか、又は凹凸のある表面を有する。表面の粗面化により望ましくは、ドレナージルーメン18中の体液と抗菌コーティング22の抗菌材料との間の接触の増加がもたらされ得る。場合により、ドレナージルーメン18を画定する抗菌コーティング22の表面は多孔質又はメッシュ様の形態を有してもよく、ドレナージルーメン18からの体液を浸透し得る。或いは、抗菌コーティング22の表面は溝の付いた、又は凹凸を有する表面で押し出すことにより、所望の表面の粗面化が提供され得る。
【0037】
抗菌コーティング22は1つ又は複数のコート層により構成され得る。図1〜3の実施形態に示されるドレナージステント10は単層抗菌コーティング22を含んでなる。或いは、抗菌コーティング22は多層コーティングであってもよい。図4は、ドレナージステント10’が2層の抗菌コーティングを備えることを除き、図1に示されるドレナージステント10’と同様のドレナージステントの横方向断面を示す。2層抗菌コーティングは支持部材24によって円周方向に取り囲まれている。この抗菌コーティングは、ドレナージステントの長手方向軸2を取り囲むドレナージルーメン18を画定する第1の層22’、及び第1の層22’と支持部材24との間に位置する第2の層23’を含んでなる。第1の層22’は以下に記載されるとおり多孔質の生体安定性材料として構成されてもよく、場合により抗菌材料及び/又は抗菌性の生物活性剤を含有し得る。場合により、第1の層22’には放出可能な抗菌生物活性剤が含浸される。第1の層22’の多孔度は好ましくは、ドレナージルーメン18中の体液が第1の層22’を通過して第2の層23’と接触でき、且つ第2の層23’に形成される金属酸化物が保持されるように選択され、金属酸化物としては、ベリリウム、ニッケル及び/又は銅の酸化物が含まれ得る。第2の層23’は好ましくは、ベリリウム、ニッケル及び/又は銅を含む抗菌材料を含んでなる。
【0038】
抗菌コーティング
抗菌コーティング(例えば、22又は(22’、23’))は好ましくは、抗菌材料を含んでなる1つ又は複数の層を備える。抗菌コーティングは例示的な単層抗菌コーティング22を参照してさらに考察されるが、抗菌コーティング22の説明はまた、22’及び/又は23’などの1つ又は複数の層にも適用し得る。好ましくは、抗菌コーティング22はドレナージステント内に囲まれ、抗菌材料と接触状態にある多孔質の生体安定性材料を含む。生体安定性材料は抗菌材料と混合されるか、又は抗菌材料の上に重ねられ得る。生体安定性材料は好ましくは、植え込み後に抗菌材料がドレナージルーメン18内の体液と接触状態に保たれるよう構成される。例えば、抗菌材料を抗菌コーティング22内に保持するには、空隙体積率が低い多孔質ネットワークを形成する生体安定性材料が望ましいであろう。ドレナージルーメン18内の体液の抗菌コーティング22への浸透は、抗菌コーティング22の材料の細孔径を大きくすることにより増加し得る。一実施形態において、多孔質抗菌コーティング22は空隙体積率が約25%〜約95%(0.25〜0.95)であり得る。別の実施形態において、多孔質の第2の層は空隙体積率が約40%〜約90%である。抗菌コーティング22の細孔は望ましくは、平均細孔直径が約0.1ミクロン〜約400ミクロンである。典型的には、抗菌材料は、生体適合性の多孔質生体安定性ポリマーなどの生体安定性材料の基質中に分散される。場合により、抗菌コーティング22の1つ又は複数の層は、水溶性ポリマーなどの、ドレナージルーメン中の体液と接触すると容易に溶解可能な可溶性材料を含み得る。可溶性材料は好ましくは多孔質生体安定性材料及び抗菌材料と混合され、抗菌コーティング22の1つ又は複数の層を形成する。植え込むと、可溶性材料はドレナージルーメン18内の体液中に溶解して出口12を通じて運び出され、抗菌材料及び多孔質生体安定性材料を含んでなる多孔質抗菌コート層が残ることにより抗菌材料はステント内に保持される。
【0039】
生体安定性材料は、体内管腔内で送り込む間、及び植え込んだ後に予想される機械的応力又は張力に耐えるだけの十分な強度を有しなければならない。生体安定性材料としては、支持部材24の内表面に被着するよう選択された任意の好適な材料を挙げることができ、又は支持部材24と同じ材料で形成されてもよい。好ましくは、生体安定性材料は分子量が十分な大きさのポリマーであって、それにより医療器具の滅菌、取り扱い、又は展開中にポリマーが擦り落とされず、器具を拡張しても亀裂が入らないような十分な耐久性が付与される。1つ又は複数のコート層における生体安定性材料として同様に用いられ得る例示的ポリマー系としては、生体適合性ポリマーが挙げられる。好適な生体安定性材料としては、ポリエチレン、ポリウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンのアクリル酸又はメタクリル酸との共重合体、メタロセン触媒ポリエチレン類(mPE)、及びポリエチレン共重合体、イオノマー、弾性ポリウレタン類及びポリウレタン共重合体などのエラストマー材料、シリコーン類及びこれらの混合物が挙げられる。生体安定性材料は、酢酸ビニル含量が約3重量%〜約28重量%の多孔質EVA共重合体であってもよく、ここでEVA共重合体の酢酸ビニル含量を増加させると、共重合体の透過性も高まり得る。好適な生体安定性材料の他の代表例としては、エチレン−co−酢酸ビニル共重合体、アクリルベース及びメタクリルベースのポリマー(例えば、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メチルアクリル酸)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)、ポリ(アルキルシノアクリレート)、ポリ(アクリル酸アルキル)、ポリ(メタクリル酸アルキル))、ポリオレフィン類(例えば、ポリ(エチレン)又はポリ(プロピレン))、ポリアミド類(例えば、ナイロン6,6)、ポリ(ウレタン類)(例えば、ポリ(ウレタンエステル類)、ポリ(ウレタンエーテル類)、ポリ(ウレタンカーボネート類)、ポリ(ウレタンエステル−尿素類))、ポリエステル類(例えば、PET、ポリブチレンテレフタレート、及びポリヘキシレンテレフタレート)、ポリエーテル類(olyethers)(例えば、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(酸化プロピレン)、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(酸化プロピレン)共重合体、ジブロック及びトリブロック共重合体)、及びポリ(テトラメチレングリコール))、シリコーン含有ポリマー及びビニルベースのポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニルフタレート)、及びポリ(スチレン−co−イソブチレン−co−スチレン))、及びフッ素含有ポリマー(フッ素重合体)(例えば、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及び延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE))が挙げられる。延伸ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン及びポリエチレンが特に好ましい生体安定性材料であり、抗菌材料と組み合わせた抗菌コーティング22の形成に好適である。
【0040】
抗菌コーティング22は任意の好適な構造又は形態を有し得る。好ましくは、抗菌コーティング22は抗菌材料を含浸させたメッシュの形態の生体安定性ポリマーを含んでなる。或いは、メッシュは抗菌材料の層を覆って配置されてもよい。メッシュは典型的には複数の繊維又はフィラメント(すなわち、繊維状の材料)を含み、繊維又はフィラメントは、多孔質の繊維ネットワークを形成するような方法(例えば、織り合わされる、結ばれる、編み組みされる、重なり合う、輪にされる、編まれる、繋ぎ合わされる、撚り合わされる、クモの巣状に形成される、及びフェルトにされるなど)で構成される。典型的には、メッシュは柔軟な材料である。メッシュは構造物(例えば、管腔壁又は内腔壁)に支持力を付与する能力を有し得るもので、所定量の抗菌剤を放出するよう構成され得る。メッシュ材料は様々な形をとり得る。メッシュは好ましくは、ドレナージルーメン18中の体液を抗菌材料と接触させるには十分な大きさだが、抗菌材料がドレナージルーメン18に入り込むのを阻止するには十分な小ささの間隙を含んでなる。典型的には、メッシュは、間隙を通じた体液の流動を可能にし、抗菌材料とドレナージルーメン18中の体液との間の接触を促進するのに十分な多孔度を有する。メッシュの間隙を通じた体液の流動は様々な要因に依存する。メッシュの多孔度はさらに、例えば、ドレナージルーメンを通過する体液に対し可溶性の別の材料(例えば、粒子又はポリマー)でメッシュの間隙を充填することによるか、又はメッシュを加工(例えば、加熱によって)することで細孔径を縮小させて繊維状ではない領域を作ることにより調整され得る。本発明のメッシュを通じた体液の流れは、体液の特性、例えば、粘度、親水性/疎水性、イオン濃度、温度、弾性及び微粒子含量などによって異なり得る。好ましくは間隙は、含浸又は被膜された抗菌材料の抗菌コーティング22からの放出は阻止しながらも、体液のメッシュ内の抗菌材料との接触は可能にする。抗菌コーティング22は、繊維により相互に接続された結節の微細構造からなる多孔質ePTFEチューブ材で形成されてもよい。例えば、米国特許第5,152,782号及び米国特許第4,955,899号を参照のこと。抗菌コーティング22はまた、1つ又は複数の繊維からなる共に編み上げられた複数のポリマー繊維であってもよい。
【0041】
好ましくは、抗菌コーティング22は、ドレナージルーメン18を画定する抗菌コーティング22の表面への細菌の付着を低減又は除去するよう選択される抗菌材料と混合された生体安定性材料を含んでなる。抗菌材料は、ベリリウム、銅、コバルト、ケイ素及びニッケルからなる群から選択される1つ又は複数の材料、特に、イノウエ(Inoue)に対する米国特許第5,423,631号に開示される材料を含んでなり得る。従って、海水中での防汚効果を有するベリリウム、銅及び/又はニッケルを含んでなる特定の合金もまた、ドレナージステント10のドレナージルーメン18内のバイオフィルム堆積の発生を低減し得る。抗菌コーティングは望ましくは、ベリリウム合金、金属又は酸化ベリリウムを含むベリリウムを含んでなる。
【0042】
X及びYが合金成分であるとき、「X−Y」として提示される合金組成への言及は、成分X及びYを任意の相対量で含んでなり、且つX及びYが任意の酸化状態である合金組成を指す。合金組成はまた、X及びYの酸化生成物も任意の化学量論的関係で含み得る。例えば、Be−Cu合金は、特記されない限り、任意の好適な量のBe及びCuをイオン化された、又はイオン化されていない形態で、且つ任意の化学量論的関係で含有する。従って、生体安定性の抗菌コーティング22は約0.2重量%〜2.8重量%のベリリウムを含有する合金を含んでなり得る。抗菌コーティング中のベリリウム合金の例としては、Be−Cu、Be−Co−Cu、Be−Co−Si−Cu及びBe−Ni−Cuが挙げられる。特に好ましい抗菌材料組成は、(1)0.2〜1.0重量%のベリリウム、2.4〜2.7重量%のコバルト及び残りが銅、(2)0.2〜1.0重量%のベリリウム、1.4〜2.2重量%のニッケル及び残りが銅、(3)1.0〜2.0重量%のベリリウム、0.2〜0.6重量%のコバルト及び残りが銅、及び(4)1.6〜2.8重量%のベリリウム、0.4〜1.0重量%のコバルト、0.2〜0.35重量%のケイ素及び残りが銅からなる群から選択される1つ又は複数の銅合金を含んでなる。
【0043】
好ましくは、抗菌剤は、ベリリウム(Be)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及びケイ素(Si)からなる群から選択される1つ又は複数の材料を含んでなり、独立して、又は銅合金の抗菌材料における以下の範囲内での組み合わせで組み込まれる:
ベリリウム−0.2〜2.8重量%
コバルト−0.2〜2.7重量%
ニッケル−1.4〜2.2重量%
ケイ素−0.2〜0.35重量%。
コバルトは、合金又は生体安定性ポリマー基質全体に分散したCoBe化合物として提供され得る。ニッケルは合金基質全体に分散した微粒子状のNiBe化合物の形態で提供されてもよく、それにより銅合金の機械的特性及び生産性が向上する。ベリリウム、銅及びニッケルの中でのイオン化傾向の順序は、Be>Ni>Cuである。従って、ベリリウムはニッケル又は銅の各々よりイオン化され易く、抗菌材料中で酸化ベリリウム(BeO)材料の形成をもたらす。このBeO材料は典型的には多孔質であり、抗菌材料中で銅イオンがCUO及びBeOを形成することが可能となり得る。好ましくは、抗菌材料は、抗菌材料が含浸され、微小孔を有する生体安定構造体内にCuO及びBeO材料を保持するよう構成された生体安定性ポリマーの基質中に含まれる。ニッケルを含んでなる抗菌材料もまた、酸化ニッケル(NiO)を形成し得る。イオン化傾向の順序(Be>Ni>Cu)に従えば、ニッケル(Ni)は銅と比較して優先的にイオン化される。従って、酸化ニッケルの形成は抗菌材料内に形成される酸化銅の量を低減し得る。
【0044】
好適な抗菌材料の他の例としては、金属銀又は約2〜5重量%の銅を含有する銀の合金(以降、「銀−銅」と称する)のナノサイズ粒子、塩類、例えば、クエン酸銀、酢酸銀、安息香酸銀、ビスマスピリチオン、亜鉛ピリチオン、過炭酸亜鉛類、過ホウ酸亜鉛類、ビスマス塩類、様々な食品防腐剤、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、及びオクチル安息香酸エステル類(一般的にはパラベン類と称される)、クエン酸、塩化ベンザルコニウム(BZC)、リファマイシン及び過炭酸ナトリウムが挙げられる。別の好適な抗菌材料は、参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2005/0008763 A1号(シャクター(Schachter)により2003年9月23日に出願)に記載される。
【0045】
抗菌コーティング22は場合により1つ又は複数の抗菌剤を含み得る。用語「抗菌剤」とは、細菌、病原菌、真菌、ウイルス、胞子、酵母、カビ、及びその他の、一般的に感染症、例えば本明細書に記載される医療用物品の使用によって罹る感染症を伴うものなどの微生物の抑制、その予防又はそれからの保護に効果的な生物活性剤を指す。抗菌剤としては、抗生物質剤及び抗真菌剤が挙げられる。抗生物質剤としては、セファロスポリン類、クリンダマイシン、クロラムフェニコール、カルバペネム類、ペニシリン類、モノバクタム類、キノロン類、テトラサイクリン、マクロライド類、サルファ系抗生物質、トリメトプリム、フシジン酸及びアミノグリコシド類が挙げられる。抗真菌剤としては、アムホテリシンB、アゾール類、フルシトシン、シロフンギン(cilofungin)及びニッコーマイシンZが挙げられる。好適な抗生物質剤の他の非限定的な例としては、シプロフロキサシン、ドキシサイクリン、アモキシシリン、メトロニダゾール、ノルフロキサシン(場合によりウルソデオキシコール酸との併用)、シフタジジム(ciftazidime)、及びセフォキシチンが挙げられる。殺菌性のニトロフラン化合物、例えば、参照により本明細書に援用される米国特許第5,599,321号(コンウェイ(Conway)ら)により記載されるものなどもまた、抗菌剤として使用できる。好ましいニトロフラン系抗菌剤としては、ニトロフラントイン、ニトロフラゾン、ニドロキシゾン、ニフラデン、フラゾリドン、フラルチドン(furaltidone)、ニフロキシム、ニヒドラゾン、ニトロビン、ニフルピリノール、ニフルプラジン、ニフラルデゾン、ニフラテル、ニフロキサジド、ウルファジン(urfadyn)、ニフルチモックス、トリアフル(triafur)、ニフルトイノール、ニフルジド、ニフルホリン、ニフロキン、及びこれらの誘導体、及びその他の、水溶性であり、且つ抗菌活性を有するニトロフラン類などが挙げられる。上記に列挙されたニトロフラン化合物の各々についての参照は、メルク社(Merck & Co.,Inc.)、ニュージャージー州ローウェイ(Rahway)発刊の「メルク・インデックス(Merck Index)」に見ることができ、それらの開示は各々参照により本明細書に援用される。他の好適な抗菌剤としては、米国特許第5,217,493号(ラド(Raad)ら)で考察されるリファンピン、ミノサイクリン、ノボビオシン及びこれらの組み合わせが挙げられる。リファンピンは細菌のDNA依存性RNAポリメラーゼ活性を阻害するもので本質的に殺菌性であり、米国ではメリル・ダウ・ファーマシューティカルズ(Merrill Dow Pharmaceuticals)、オハイオ州シンシナティ(Cincinnati,Ohio)から入手できる。ミノサイクリンはテトラサイクリンから誘導される静菌性の半合成抗生物質であり、レダリー・ラボラトリーズ・ディビジョン(Lederle Laboratories Division)、アメリカン・サイアナミッド社(American Cyanamid Company)、ニューヨーク州パールリバー(Pearl River)から市販されている。ノボビオシンは静菌活性を有する抗生物質であり、細菌細胞壁の合成に干渉して細菌タンパク質及び核酸合成を阻害し、マグネシウムと錯体を形成して細胞膜の安定性に影響を与えると見られている。ノボビオシンはアップジョン社(Upjohn Company)、ミシガン州カラマズー(Kalamazoo,Michigan)から入手できる。
【0046】
一態様において、抗菌コーティングは、生物学的に反応性を有する成分、例えば、組織、生体物質、又は任意のコラーゲンベースの外植された組織又は細胞外基質材料を含まないか、又は実質的にそれらが入っていない。別の態様において、抗菌コーティングは実質的に生体分解性ポリマー又は他の生体分解性材料が入っていない。抗菌コーティングは好ましくは、生体安定性ポリマー及びベリリウム又はベリリウム金属合金を含む。
【0047】
特に指示されない限り、ベリリウム含有抗菌コーティングとは、ベリリウム塩及び錯体を含め、ベリリウムを元素及び/又はイオンの状態で含んでなる組成物を指す。場合により、抗菌コーティングはベリリウムの酸化物塩又は水酸化物塩を含み得る。例えば、抗菌材料を備えた医療器具の植え込み前又は植え込み後に、抗菌コーティング中には水酸化ベリリウム(Be(OH))及び/又はベリリウムイオン錯体(例えば、[Be(OH)2+(aq)、[Be(OH)2−(aq)及び[Be(HO)2+(aq))が存在し得る。Be(HO)(OH)2(s)などの他のベリリウムイオン塩類もまた抗菌コーティング中に含まれ得る。
【0048】
支持部材
支持部材24は、それが留置される管路の曲率に容易に従う弾性的な柔軟性を十分に有すると同時に、管路内でその形態を実質的に保持するのに十分な「フープ」強度を有する任意の生体適合性材料で製造され得る。好ましくは、支持部材24は生体適合性ポリエチレンで形成される。支持部材24に好適な他の材料としては、ポリウレタン(商標PELLETHANEとしてダウ・コーニング(Dow Corning)から市販される材料など)、シリコンゴム(商標SILASTICとしてダウ・コーニング(Dow Corning)から市販される材料など)、ポリエーテルエーテルケトン(商標PEEKとしてビクトレックス(Victrex)から市販される材料など)が挙げられる。支持部材24は、生体適合性で、且つ非生体吸収性の任意の好適な材料で形成され得る。好ましくは、支持部材24は抗菌材料と共押出しできる熱成形可能な材料で形成され、抗菌材料22と支持部材24とは同じ層でも、又は別個の層でもよい。図1に示される実質的に直線状の構造の好適な支持部材24の1つは、COTTON−LEUNG(登録商標)(アムステルダム(Amsterdam))胆管ステント(クック・エンドスコピー(Cook Endoscopy)、米国ノースカロライナ州ウィンストン・サレム(Winston−Salem,North Carolina))である。
【0049】
好ましくは、支持部材24は、メタロセン触媒ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン又はこれらの共重合体などのポリオレフィンで形成される。支持部材24の製造に有用な生体安定性ポリマーの他の非限定的な例としては、ビニル芳香族重合体(例えば、ポリスチレン)、ビニル芳香族共重合体(例えば、スチレン−イソブチレン共重合体及びブタジエン−スチレン共重合体)、エチレン共重合体(例えば、エチレン酢酸ビニル(EVA))、エチレン−メタクリル酸及びエチレン−アクリル酸共重合体、イオノマー、ポリアセタール類、クロロポリマー類(例えば、ポリ塩化ビニル(PVC))、ポリエステル類(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET))、ポリエステル−エーテル類、ポリアミド類(例えば、ナイロン6及びナイロン6,6)、ポリアミドエーテル類、ポリエーテル類、エラストマー(例えば、弾性ポリウレタン及びポリウレタン共重合体)、シリコーン類、及びポリカーボネート類、並びに前述のいずれかの混合物及びブロック共重合体又はランダム共重合体が挙げられる。
【0050】
支持部材24はまた、図5に示されるとおりの1つ又は複数の屈曲部も有し得る。一態様において、ドレナージチューブ116は、出口112と入口114との間のおよそ中程に位置する屈曲部115を備え、胆管の解剖学的構造に適応している。屈曲部は好ましくは十二指腸の生体構造に一致し、約120度であり得る。或いは、屈曲部は入口114及び出口112から約1/3の距離に位置し得る。図5に示される屈曲構造を有する好適な支持部材24の例としては、COTTON−HUIBREGTSE(登録商標)胆管ステント、COTTON−LEUNG(登録商標)(アムステルダム(Amsterdam))ステント、GEENEN(登録商標)膵管ステント、ST−2 SOEHENDRA TANNENBAUM胆管ステント及びJOHLIN(登録商標)膵管ウェッジステントが挙げられ、全てクック・エンドスコピー(Cook Endoscopy)(米国ノースカロライナ州ウィンストン・サレム(Winston−Salem,North Carolina,USA))から市販されている。
【0051】
図6を参照すると、医療器具210は「ピッグテール状」の構造を有する支持部材を備えてもよく、一方でドレナージチューブ216は複数の排液穴204を含んでなる。ドレナージチューブ216の一方又は双方の端部が巻かれることで平面的なループ220が形成され得る。体液は、入口214及び出口212に加え、ドレナージチューブ216に沿った複数の排液穴204を通じてルーメンに流れ込んだり、又はそこから流れ出たりできる。例えば、ドレナージチューブ216は、全体として参照により本明細書に援用される1990年4月4日出願のジモン(Zimmon)による米国特許第5,052,998号に記載されるドレナージステント構造を有し得る。抗菌コーティングは排液穴204を被覆せずにドレナージチューブ216のルーメンに沿って不連続に塗布され得る。ドレナージチューブ216は任意の好適な直径を有し得る。好ましくは、ドレナージチューブ216の外径は胆管内に植え込むための形状及び構造とされる。図6に示されるコイル状の(「ピッグテール状の」)入口及び出口構造を有する好適なステント210の例としては、ダブル・ピッグテール・ステント(Double Pigtail Stent)、ZIMMON(登録商標)胆管ステント及びZIMMON(登録商標)膵管ステントが挙げられ、全てクック・エンドスコピー(Cook Endoscopy)(米国ノースカロライナ州ウィンストン・サレム(Winston−Salem,North Carolina,USA))から市販されている。
【0052】
支持部材、又はステントの他の部分は、遠位端及び近位端の一方又は双方にマーカーバンドが付与され得る。マーカーバンド(図示せず)は好適には放射線不透過性材料で形成され得る。マーカーバンドは、体内管腔内でステントの向きを定めるための手段を提供し得る。支持部材の放射線不透過性部分などのマーカーバンドは、X線、超音波、磁気共鳴画像法及びフルオロスコープなどを含む遠隔撮像方法によるか、又はマーカーバンドからの、若しくはそれに対応する信号を検出することにより特定できる。他の実施形態においては、ドレナージステントのデリバリー器具が、体内管腔内における支持部材の向きに関する放射線不透過性の表示を含んでなり得る。ステント又はデリバリー器具は1つ又は複数の放射線不透過性材料を含んでなることにより医療器具の追跡及び位置決定を促進でき、この放射線不透過性材料は任意の作製方法で追加されてもよく、又はステントの一部又は全ての表面に吸収されるか、若しくはその上に噴霧されてもよい。例えば、放射線不透過性のマーカーを用いて体内管腔内の医療器具の長軸又は短軸を特定できる。例えば、放射線不透過性材料は支持部材に取り付けられてもよく、又はドレナージステント若しくは他の医療器具の一部に織り込まれてもよい。放射線不透過性の造影度は放射線不透過性材料の組成を変化させることにより変えることができる。例えば、放射線不透過性材料は支持部材と共有結合させてもよい。一般的な放射線不透過性材料としては、硫酸バリウム、次炭酸ビスマス、及び酸化ジルコニウムが挙げられる。他の放射線不透過性材料としては、カドミウム、タングステン、金、タンタル、ビスマス、白金、イリジウム、ヨウ素及びロジウムが挙げられる。
【0053】
製造方法
本医療器具は、ドレナージルーメン18の表面の少なくとも一部分を画定する抗菌コーティング22を取り囲む支持部材24を有する構造体を提供する任意の好適な方法で形成できる。支持部材24は好ましくは、医療器具に所望のレベルの機械的強度を付与する熱成形可能な生体安定性材料である。
【0054】
好ましくは、支持部材24と抗菌コーティング22とは共押出しにより一体に形成される。好ましい共押出し可能な多層構造は、チューブ状支持部材24のルーメン内に位置する少なくとも1つの抗菌コーティング22を含んでなる2〜7つの共押出し層を有する。種々の組成及び/又は種々の抗菌剤を有する2つ以上の抗菌材料を含んでなる多層構造は、共押出しにより形成できる。特に好ましい共押出し構造は、抗菌材料22及び支持部材24の各々が円環形を有するものである。
【0055】
多層構造は、ラミナ・インジェクション・モールディング(laminar injection molding:LIM)技術などの任意の好適な加工及び成形技術により形成できる。一部の好ましい実施形態においては、多層構造は二軸押出機、例えば低剪断性設計の二軸押出機を使用して生産される。バレル温度、スクリュー速度及び処理量は典型的には、分離及び化学修飾が起こらないように制御される。外側の押出ダイを通じた押出しにより支持部材が形成され得ると同時に、1つ又は複数の内側の押出ダイにより抗菌材料が形成され得る。抗菌材料及び支持部材の成形に用いられる温度は、使用される特定の材料及び用いられる成形機に依存し得る。混合又は配合加工条件と同様に、成形加工条件もまた望ましくない分離及び/又は交差反応をもたらし得る。従って、温度、含水量、剪断速度及び滞留時間などの任意の成形加工条件を制御することが、分離及び/又は交差反応を回避するには望ましいといえる。例えば、押し出されるポリマーは、その融点を上回る温度まで昇温させ得る。次にポリマーは好適なダイを使用して、毎分0.9〜1.2メートル(3〜4フィート)の速度で高温下に押し出され、連続的な略平坦のフラットフィルムとなる。次に連続的なフィルムは、核形成水浴を通ることによって冷却され得る。
【0056】
或いは、チューブ状支持部材24の内表面に被着された抗菌コーティング22を含んでなる医療器具は、ポリマー材料、例えば熱可塑性材料及びエラストマー材料の成形に従来から用いられている任意の他の好適な加工により形成できる。かかる成形加工としては、限定はされないが、モールディング、カレンダリング、キャスティング及び溶媒コーティングがある。例えば、抗菌コーティング22は、生体安定性ポリマーの溶媒溶液又は液状分散体を支持部材24の内側表面に塗布し、続いて溶媒又は液状分散剤を、例えば蒸発により除去することによって支持部材24の表面に塗布され得る。生体安定性ポリマーのかかる溶液又は分散体は、例えば浸漬又は噴霧によって支持部材の表面を溶液又は分散体と接触させることにより塗布され得る。こうした他の成形加工の使用は、抗菌コーティング22の支持部材24への塗布に限定されない。或いは、支持部材24が抗菌コーティング22材料のチューブの外表面上に形成されることによりドレナージステント10が形成され得る。
【0057】
或いは、抗菌コーティング22及び/又は支持部材24は溶媒キャスト加工され得る。第2の層が、既にキャストされた層を溶解しない溶媒からキャストされる。例えば、支持部材24の形成に使用されるポリウレタンはジメチルホルムアミドに溶解し得る一方、抗菌コーティング22の形成に使用されるEVAはトリクロロベンゼン(TCB)に溶解し得る。第2の溶媒が支持部材ポリマーを溶解しない場合、第2の溶液は、乾燥させて溶媒を蒸散させると第1の層に拡散し得る。結果として得られる多層は、層間の結合が強い。抗菌コーティング22の形成に有用な様々な生体安定性ポリマーに好適な溶媒は、以下のリストの括弧内に提供される:アセナフチレン/MMA(THF、DMF);アセナフチレン/スチレン/アクリル(THF、DMF);アクリル/ブタジエン/スチレン(THF、DMF);ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)(DMF、DMSO、THF);アミド類(DMF);アセタール類、デルリン(DMAC、140℃);アクリロニトリル/スチレン(THF);ジメチルシロキサン類(ODCB、トルエン、TCB、クロロホルム);アクリル酸エチル(ODCB、トルエン、DMF、m−クレゾール);エチレン/酢酸ビニル(EVA)(TCB);エチレン/プロピレン(ODCB、TCB);エチレンテレフタレート(PET)(m−クレゾール、HFIP);エチレン/アクリル酸メチル(TCB);イソプレン(トルエン、TCB);イソブチレン(トルエン、THF);イソシアネート類(トルエン、THF、DMF、クロロホルム);イミド類(DMAC、DMF);メタクリル酸メチル(トルエン、THF、DMF、m−クレゾール、DMAC);メチアクリレート類(methyacrylates)(TCB、DMF、THF);及びメタクリル酸メチル/スチレン(ODCB、トルエン、THF、クロロホルム)、ここでTHFはテトラヒドロフランを指し、DMFはジメチルホルムアミドを指し、TCBはトリクロロベンゼンを指し、DMACはジメチルアセトアミドを指し、HFIPはヘキサフルオロイソプロパノールを指し、及びODCBはo−ジクロロベンゼンを指す。
【0058】
抗菌材料は押し出し前にポリマーと混合するか、又はポリマー中に封入してコート層及び/又は支持部材を形成することにより、押出し温度に耐えることのできる薬物の組み込みが可能となり得る。生体内堆積(biodeposition)を低減する抗菌剤は、高温に耐えるよう選択され得る。例えば、米国特許出願公開第2005/0008763 A1号として公開された米国特許出願に記載される抗菌剤が、この製造技術に適合する。抗菌材料又は抗菌剤は好ましくは、それが含められる生体安定性材料の物理的又は化学的特性を物質的に阻害しない。熱可塑性材料が生体安定性材料として用いられる場合、生体安定性材料と抗菌剤とを加熱することによりポリマー溶融物が形成され、それにより形成される均質な混合物を、抗菌コーティングを含んでなる支持部材として形成することができる。機械的剪断もまた生体安定性ポリマーと抗菌材料との混合物に適用され得る。抗菌材料と生物活性物質とをこのように混合する機器としては、限定はされないが、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、高速ミキサー、及びロス・ケトル(ross kettle)などの機器が挙げられる。
【0059】
場合により、抗菌材料(例えば、銅合金)に加え、抗菌コーティング22(又は層22’などの、多層コーティングの1つ又は複数の層)はさらに、器具の形成後に抗菌層22’に吸収される1つ又は複数の抗菌剤を含み得る。抗菌層22、22’、又は23’は望ましくは、抗菌剤をドレナージルーメン18に放出するよう構成される。例えば、抗菌層22、22’、又は23’はドレナージルーメン18内で抗菌剤の溶液と接触させることができる。溶液中の抗菌剤の有効濃度はミノサイクリンについて約1〜10μg/ml、好ましくは約2μg/ml;リファンピンについて1〜10μg/ml、好ましくは約2μg/ml;及びノボビオシンについて1〜10μg/ml、好ましくは約2μg/mlの範囲であり得る。溶液は好ましくは滅菌水又は無菌生理食塩水からなる。
【0060】
デリバリー及び治療方法
管腔内(endolumenal)医療器具は、任意の好適な方法で体内管腔内の処置箇所に送り込まれ得る。好ましくは、管腔内(endolumenal)医療器具は経内視鏡的に送り込まれる。例えば、胆管ステントはいくつかの方法のうちの1つ、すなわち、(1)腹壁及び肝臓を通じた針の刺入(経皮経肝胆管造影、すなわち「PTC」)によるか、(2)口、胃、又は十二指腸を通じて挿入された内視鏡を介した胆管のカニューレ処置(内視鏡的逆行性胆管造影、すなわち「ERCP」)によるか、又は(3)外科手技における直接的な切開により、胆管腔に挿入され得る。挿入前検査、PTC、ERCP、又は手術時の直視下観察が実施されることにより、ステントの然るべき挿入位置が決定され得る。ワイヤガイドは病変部を通って前進させてもよく、デリバリーカテーテルをワイヤガイド越しに挿入して病変部を通過させることによりステントを挿入できる。一般に、プラスチック製ステントはワイヤガイド越しにプッシャチューブを用いて留置され、ガイド用カテーテルは伴うことも、又は伴わないこともある。現在、ガイド用カテーテルとプッシャカテーテル(OASIS、クック・エンドスコピー(Cook Endoscopy)、ノースカロライナ州ウィンストン・サレム(Winston−Salem)とを組み合わせたプラスチック製ステント用デリバリーシステムが利用可能である。器具を送り込むには、0.89ミリメートル(0.035インチ)ワイヤガイドなど(FUSIONショートガイドワイヤ又はロングガイドワイヤシステムなど、クック・エンドスコピー(Cook Endoscopy)、ノースカロライナ州ウィンストン・サレム(Winston−Salem)から入手可能)、ステントの留置に好適な任意のワイヤガイドを使用でき、これはイントラ・ダクタル・エクスチェンジ(Intra Ductal Exchange:IDE)ポートと組み合わせて用いられ得る。ステントは、従来式のプッシュ技法によるか、又はステントの一方の端部に係合可能なステント係合部材を有する回転可能なデリバリーカテーテルにステントを装着することにより、胆管に留置され得る。典型的には、診断検査がPTCであるとき、ワイヤガイド及びデリバリーカテーテルは腹壁を通じて挿入され得る。最初の検査がERCPであった場合、ステントは口を介して留置され得る。次にステントは、放射線学的な、内視鏡的な、又は直視下での制御下に、胆管の狭小部を横切るなどして処置箇所に位置決めされ得る。ステントは従来式のプッシュ技法を用いて解除され得る。次にデリバリーカテーテルが取り出され、ステントが残って胆管を開通状態に保ち得る。さらなる胆管造影を実施して、ステントが適切に配置されたことを確認してもよい。或いは、他の管腔内(endolumenal)医療器具もまた、任意の好適な体内管腔、例えば、静脈、動脈、尿道、尿管路又は消化管の一部に送りこむことができる。
【実施例】
【0061】
仮説に基づく実施例
0.2〜2.8重量%のベリリウムと、銅、ニッケル及び/又はコバルトとを含んでなる微粉化粒子のBe含有抗菌材料を含んでなる好適な溶媒中のポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)(EVA)(60%酢酸ビニル)の溶液に支持部材を浸漬することにより、抗菌コーティングはポリエチレンで形成される支持部材に対し被着され得る。抗菌コーティングはまた、溶媒中にポリ(スチレン−co−イソブチレン−スチレン)(SIBS)も含んでなり得る。様々な量の抗菌材料がEVA溶液に添加され得る。被膜された器具を溶液から取り出した後、次に、器具を強制換気式オーブン(40℃)の中に3時間置くことにより、コーティングを乾燥させ得る。次に被膜された器具は、24時間真空下でさらに乾燥させ得る。
【0062】
抗菌コーティング溶液、例えばポリウレタン(CHRONOFLEX 85A)/THF溶液(2.5%w/v)及び抗菌剤は、被覆されたステントの外表面及び/又は内表面に噴霧されてもよい。溶液は支持部材のルーメン内に好適な速度で噴霧され得る。被膜されたステントは空気乾燥させてもよく、又は真空下で好適な時間(例えば、24時間)乾燥させてもよい。
【0063】
本発明は、特許請求の範囲の範囲内の他の実施形態、及びあらゆる実施形態の変形例を含み、特許請求の範囲によってのみ限定される。本発明の実施形態の詳細な説明及び添付の図面を参照することにより、本発明のさらなる理解を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ状ドレナージステントの長手方向軸に沿って延在するドレナージルーメンを画定する内表面を有する支持部材を含んでなる体液ドレナージ器具であって、前記内表面の少なくとも一部分がベリリウム又はベリリウム合金を含む抗菌材料でライニングされた体液ドレナージ器具。
【請求項2】
前記抗菌材料が、ベリリウムと、銅、ケイ素、コバルト及びニッケルからなる群から選択される1つ又は複数の材料とを含んでなる合金である、請求項1に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項3】
前記抗菌材料が、前記ベリリウム又はベリリウム合金を前記チューブ状ドレナージステント内に保持するよう構成された生体安定性の多孔質材料内に含浸される、請求項1又は2に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項4】
前記生体安定性の多孔質材料が、ポリエチレン、ポリウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンのアクリル酸又はメタクリル酸との共重合体からなる群から選択されるポリマーを含む、請求項3に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項5】
前記抗菌材料が、前記抗菌材料の約0.2重量%〜2.8重量%のベリリウムを含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項6】
前記抗菌材料が、Be−Cu、Be−Co−Cu、Be−Co−Si−Cu及びBe−Ni−Cuからなる群から選択される合金を含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項7】
前記抗菌材料が生体安定性材料である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項8】
前記抗菌材料が2つ以上の層を含んでなるコーティングであり、前記コーティングが前記支持部材の前記内表面に被着される、請求項7に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項9】
前記コーティングが前記抗菌材料と接触状態にある多孔質層を含んでなり、前記ドレナージルーメンの少なくとも一部分を画定する、請求項8に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項10】
前記多孔質層の空隙体積率が約0.25〜0.95である、請求項9に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項11】
前記多孔質層が前記支持部材内に酸化ベリリウム又は酸化銅を保持するよう構成される、請求項9又は10に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項12】
コーティングが第2の層を含んでなり、前記第2の層がベリリウムを含んでなり、前記支持部材の前記内表面と前記多孔質層との間に位置する、請求項8〜11のいずれか一項に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項13】
前記支持部材が放出可能な抗菌剤をさらに含んでなる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項14】
前記放出可能な抗菌剤が、セファロスポリン類、クリンダマイシン、クロラムフェニコール、カルバペネム類、ミノサイクリン類、リファンピン、ペニシリン類、モノバクタム類、キノロン類、テトラサイクリン、マクロライド類、サルファ系抗生物質、トリメトプリム、フシジン酸、アミノグリコシド類、アムホテリシンB、アゾール類、フルシトシン、シロフンギン、ニッコーマイシンZ及びリファマイシンからなる群から選択される1つ又は複数の材料を含んでなる、請求項13に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項15】
前記体液ドレナージ器具が、生体安定性ポリマーで形成されるチューブ状支持部材を含む胆管ドレナージステントであり、前記ドレナージルーメンが生体安定性の抗菌材料でライニングされる、請求項1〜14のいずれか一項に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項16】
前記抗菌材料が生体安定性ポリマーとベリリウム又はベリリウム合金との混合物を含む、請求項15に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項17】
前記抗菌材料が、Be−Cu、Be−Co−Cu、Be−Co−Si−Cu及びBe−Ni−Cuからなる群から選択される合金を含んでなる、請求項15に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項18】
前記チューブ状ポリマー支持部材が、ポリエチレン、ポリウレタン又はそれらの組み合わせで形成され、前記生体安定性の抗菌材料が、前記抗菌材料の約0.2重量%〜2.8重量%のベリリウムを含み、且つ前記ベリリウム、前記ベリリウム合金又はそれらの組み合わせからなる、請求項15に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項19】
前記生体安定性の抗菌材料が、
a.ポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)(EVA)、ポリ(スチレン−co−イソブチレン−スチレン)(SIBS)、ポリエチレン及びポリウレタンのなかの少なくとも1つを含む多孔質生体安定性ポリマーと、
b.銅、ニッケル及びコバルトからなる群から選択される1つ又は複数の材料を含むベリリウム合金と、
からなる、請求項18に記載の体液ドレナージ器具。
【請求項20】
膵管又は胆管への挿入に適した胆管ドレナージステントである、請求項1〜19のいずれか一項に記載の体液ドレナージ器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−502298(P2010−502298A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526798(P2009−526798)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/075880
【国際公開番号】WO2008/027720
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(591157154)ウィルソン−クック・メディカル・インコーポレーテッド (135)
【氏名又は名称原語表記】WILSON−COOK MEDICAL INCORPORATED
【Fターム(参考)】