説明

折返しダイポールアンテナ、該折返しダイポールアンテナを用いたRFタグ

【課題】従来より小型であり、周囲の影響を受けにくく、UHF帯又はその周辺周波数帯域で動作する小型アンテナ、更に、該小型アンテナにICチップを接続したRFタグを提供する。
【解決手段】六方晶Z型フェライト及び/又は六方晶Y型フェライトを主成分とする磁性体1の内部に折返しダイポール構造からなる放射素子2と反射素子3を有する折返しダイポールアンテナ及びこれに、整合回路4A、4Bを介してICチップを接続した構造にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UHF帯又はその周辺周波数帯域で動作する小型アンテナ、更に、該小型アンテナにICチップを接続したRFタグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
RFシステムは、非接触で大量の情報を通信することが可能であることから、課金、プリペイド、セキュリティ管理、物品・物流管理、トレーサビリティ等の分野において、バーコードに代わる方式としてその利用が進んでいる(特許文献1)。
【0003】
課金、プリペイド、セキュリティ管理の分野においては、その利用形態から通信可能な範囲を限定したいものであり、主として13.56MHz等の周波数を用いた電磁誘導方式が採用されている。一方、物品・物流管理、トレーサビリティ等の分野では、数m以上の遠距離で通信が可能なUHF帯(840〜958MHz、2.45GHz)の周波数を用いた電波方式が用いられており、今後更にその利用が進むものと期待されている。
【0004】
このUHF帯のRFシステムで使用されるRFタグは、樹脂や紙等からなる平面上の薄いベースシートの上に、データを保持・処理するICチップとデータを外部と通信する為のアンテナが搭載された構造からなる。これを管理したい物品に貼付し、電波を利用してリーダ・ライタと必要な情報を通信する。
【0005】
そのアンテナの大きさは、使用する周波数、つまり電波の波長λによりほぼ決まるので、UHF帯のタグは、縦15mm、横145mm程度の大きさになってしまう。従って、必然的にこの大きさより小さな物品には貼付することができず、その使用が大きく制限されてしまう。これを解決する為、先端部分を折り曲げたダイポールアンテナにインダクタンス部を設置したRFタグが提案されている(特許文献2)。
【0006】
また、RFタグは、樹脂等の誘電体、金属、紙、水分等に近接又は貼付して使用されるが、この場合、アンテナの給電点インピーダンスの周波数特性がずれることにより、読み取り特性が劣化することが知られている。これを解決する為、前出特許文献1による方法や、プラスチックでアンテナを挟み込んだ構成にする方法(特許文献3)が提案されている。
【0007】
一方、UHF帯で使用できる磁性体として六方晶フェライト(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2008−511234号公報
【特許文献2】特開2007−295395号公報
【特許文献3】特開2005−165462号公報
【特許文献4】特開2003−243218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前出特許文献2には、先端部分を折り曲げたダイポールアンテナにインダクタンス部を設置することにより、RFタグが縦7mm、横53mm程度まで小型化できることが示されているが、更なる小型化の要求には不十分である。
【0010】
前出特許文献1〜3には、樹脂等の誘電体、金属、紙、水分等に近接又は貼付して使用する際のアンテナの周波数特性ずれを抑制する手段が示されているが、その手段は不十分なものである。
【0011】
また、RFタグをプリント電子回路基板に実装する場合、従来のRFタグはサイズが大きいことに加えて、加熱すると変形する等の為に、180〜260℃の温度をかけてはんだで固定するリフロー等の一般的な方法で他の電子部品と同様に実装することができなかった。
【0012】
更には、従来のRFタグは高温高湿や温度サイクルがあるような過酷な条件下では耐久性に問題が生じる場合もあり、耐環境性に優れているとは言えず用途が限られてしまうという課題があった。
【0013】
そこで、本発明は、大きさが従来のアンテナと比較して十分小型であり、樹脂等の誘電体、金属、紙、水分等に近接又は貼付して使用しても周波数特性が変化せず、更には、リフロー等の一般的な方法で他の電子部品と同様に実装できることで生産性を向上でき、過酷な条件下でも使用できる耐環境性に優れたアンテナと、これにICチップを接続したRFタグを提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0015】
即ち、本発明は、磁性体の内部に折返しダイポール構造からなる放射素子と反射素子が配置されていることを特徴とする折返しダイポールアンテナである(本発明1)。
【0016】
また、本発明は、磁性体が六方晶Z型フェライト及び/又は六方晶Y型フェライトを主成分とすることを特徴とする本発明1記載の折返しダイポールアンテナである(本発明2)。
【0017】
また、本発明は、本発明1又は本発明2記載の折返しダイポールアンテナにICチップを接続したRFタグである(本発明3)。
【0018】
また、本発明は、本発明3記載のRFタグを樹脂で被覆したRFタグである(本発明4)。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る折返しダイポールアンテナは従来のアンテナより小型であるため、本発明に係るICチップを接続したRFタグは、前出特許文献2に記載された縦7mm、横53mm程度のタグに比べ、最小で縦5mm、横9mm程度と小さく、貼付面積を大幅に低減できる。更にアンテナの給電点インピーダンスの周波数特性が周囲の環境に殆ど影響を受けないので、タグを貼付できる物品の選択範囲が広くなり、又、通信の信頼性を高めることができる。例えば、金属や誘電率の高い物品に貼付することができ、特に、樹脂や金属等からなるプリント電子回路基板に、他の電子部品と同様に実装することができる。その際、耐熱性が高いことから、リフロー等の一般的な方法で他の電子部品と同様に実装することができるので、生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る折返しダイポールアンテナの一実施形態を概略の斜視図で示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0022】
アンテナの設計においては、その指向性や利得に加えて、アンテナに接続する外部機器との整合性が重要になる。一般的に、アンテナとそれに接続するICチップ等の外部機器の間で送受される電力を最大にする為には、アンテナの給電点インピーダンスを外部機器の入力インピーダンスの複素共役に合致させる必要がある。例えば、特性インピーダンスが50Ωである同軸ケーブルをアンテナに接続するのであれば、所望の周波数においてアンテナの給電点インピーダンスを50Ωになるように調節する。また、RFタグの様にICチップを接続する場合、通常、ICチップの入力インピーダンスは動作周波数において、その実数部が数〜数百Ωであり、その虚数部が−数〜−数千Ωである。従って、アンテナの給電点インピーダンスを、その実数部が数〜数百Ω、その虚数部が数〜数千Ωの範囲で整合するように調整することになる。
【0023】
本発明に係る折返しダイポールアンテナの代表的な概略図を図1に示す。磁性体1の内部に、ほぼ平行に放射素子2と反射素子3が配置されている。それらの素子は、2本の平行なダイポールエレメントを両端で短絡した構造の折返しダイポールエレメントから構成されている。放射素子2には、整合回路4A、4Bが接続されており、それぞれの開放端は、外部機器を電気的に接続する為の端子(図示せず)に接続される。また、放射素子2と反射素子3は、小型化の為に両端を折り曲げた構造としている。アンテナの設置面積が制限されない場合には、両端を折り曲げることなく直線状としてもよい。
また、図1では、放射素子及び反射素子を構成するダイポールエレメントをほぼ同じ大きさとしているが、異なる大きさとしてもよい。
【0024】
UHF帯のRFタグで用いられる周波数は、例えば、欧州では865〜868MHz、米国では902〜928MHz、日本では950〜958MHzであり、各国で異なっている。従って、本発明においては、放射素子の一周長La、放射素子における各ダイポールエレメントの間隔Wa、反射素子の一周長Lb、反射素子における各ダイポールエレメントの間隔Wb、ほぼ平行に配置する放射素子と反射素子の間隔D及び磁性体の透磁率・誘電率等を制御することにより、上記所定の周波数においてアンテナの給電点インピーダンスを所望の値に調整する。
【0025】
放射素子の一周長Laは、所定の周波数に対応する波長になるように調節する。その際、磁性体の透磁率と誘電率により波長が短縮される。磁性体の大きさは有限であるので、実効的な透磁率と誘電率は材料自体が有する透磁率と誘電率より小さくなる。その為、所望の周波数とするには、放射素子の大きさと磁性体の大きさを適宜調整する必要がある。
【0026】
本発明における放射素子の一周長Laは、25〜130mmであることが好ましい。25mm未満の場合は、対応する周波数が3GHzを超える為、磁性損失が大きくなり放射効率が下がる。130mmを越える場合は、対応する周波数が300MHzより低くなるので、その周波数帯域で10以上のμ′を有するスピネル型フェライトに代えて本発明における磁性体を使う理由がなくなる。より好ましい放射素子の一周長Laは、30〜120mmである。
【0027】
本発明における放射素子の各ダイポールエレメントの間隔Wa(図1のWa)は、0.5〜2mmであることが好ましい。0.5mm未満の場合、放射効率が低下するので交信距離が低下する。2mmを越える場合は、アンテナの給電点インピーダンスを、ICチップの入力インピーダンスの複素共役に合わせることができない。より好ましい間隔Waは、0.5〜1.5mmである。
【0028】
本発明においては、アンテナを金属や誘電体等に貼付した場合にも交信距離が低下しないように反射素子を設ける。反射素子の一周長Lbは、30〜140mmであることが好ましい。この範囲外の場合は指向性が低下するので交信距離が低下する。より好ましい反射素子の一周長Lbは、35〜130mmである。
【0029】
本発明においては、放射素子の一周長Laと反射素子の一周長Lbとは、同じであっても異なるものであってもよい。LaとLbの比La/Lbは、0.7〜1.3であることが好ましい。より好ましいLa/Lbは、0.8〜1.2である。
【0030】
本発明における反射素子の各ダイポールエレメントの間隔Wb(図1のWb)は、0.5〜2mmであることが好ましい。0.5mm未満の場合、放射効率が下がるので交信距離が低下する。2mmを越える場合は、アンテナの給電点インピーダンスを、ICチップの入力インピーダンスの複素共役に合わせることができない。より好ましい間隔Wbは、0.5〜1.5mmである。
【0031】
本発明においては、放射素子の各ダイポールエレメントの間隔Waと反射素子の各ダイポールエレメントの間隔Wbとは、同じであっても異なるものであってもよい。
【0032】
本発明における放射素子と反射素子との間隔Dは、1.5〜13mmであることが好ましい。1.5mm未満の場合、放射効率が低下するので交信距離が低下する。13mmを越えても交信距離の向上は望めないので必要以上に大きくする必要はない。より好ましい間隔Dは、2.0〜12mmである。
【0033】
本発明における放射素子と反射素子を図1のように配置すると、+z方向への指向性が高まり、−z方向へは電波が放射されにくくなる。従って、本発明に係る折返しダイポールアンテナやRFタグを金属や誘電体に貼付する際に、反射素子側の底面を金属や誘電体に貼付させれば、該アンテナとRFタグの特性は金属や誘電体による影響を受けにくくなる。
【0034】
上述の様に、磁性体による波長短縮効果と反射素子の配置により、本発明におけるアンテナは、従来使われていた平面状のRFタグのアンテナに比べて小型化を達成でき、貼付面積を小さくすることができると共に、小型化による利得の低下をできるだけ抑制することができる。更に、アンテナを誘電体や金属等に近接又は貼付して使用した場合、その周波数特性の変化が小さいことから、交信距離の低下を防ぐことができる。
【0035】
次に、本発明に用いる磁性体について説明する。従来、AMラジオ等に使われるバーアンテナにはNi−Znフェライト等のスピネル型フェライトが用いられているが、UHF帯では磁性損失が大きくなり放射効率が低下するので使用することができない。そこで、本発明では、UHF帯において磁性損失が少ない軟磁性の六方晶Z型フェライト及び/又は六方晶Y型フェライトを主成分とする磁性体を用いる。
【0036】
本発明に用いる磁性体の透磁率は、953MHzにおいて、実数部μ′が1.2〜5が好ましく、虚数部μ″が0.05〜1.3が好ましい。この範囲外の場合、波長短縮の効果が得られないか、磁性損失が大きくなる。より好ましくは実数部μ′は1.5〜4.0であり、虚数部μ″は0.07〜1.0である。
【0037】
本発明に用いる磁性体の誘電率は、953MHzにおいて実数部ε′が5〜30が好ましく、虚数部ε″が0.8以下が好ましい。前記範囲外の場合、波長短縮の効果が得られないか、誘電損失が大きくなる場合がある。より好ましくは、実数部ε′は7〜25であり、虚数部ε″は0.5以下である。
【0038】
本発明では、周囲の環境によるアンテナの給電点インピーダンスの変化は、10×5×3cmの発泡スチロール上にアンテナを置いた場合の給電点インピーダンスと10×5×0.2cmの金属板にアンテナを接触させた場合の給電点インピーダンスを比較することにより評価する。本発明に係る折返しダイポールアンテナの給電点インピーダンスの変化率は、発泡スチロール上で測定した給電点インピーダンスを基準とした場合、±50%である。この範囲をはずれるとアンテナとして機能しなくなる。好ましくは±30%で、更に好ましくは±10%である。
【0039】
本発明に係る折返しダイポールアンテナの形状は特に制限されない。三角柱状、四角柱状(立方体、直方体を含む)、多角柱状、円柱状、三角錐状、四角錐状、多角錐状、円錐状、八面体状又は球状など種々の形状をとることができる。立方体様又は直方体様形状を選択した場合、本発明に係る折返しダイポールアンテナの大きさは、縦が3〜25mm、横が8〜40mm、厚さが2〜15mmとなる。
【0040】
本発明における折返しダイポールエレメント、整合回路、導線及び端子等は、後述する製造方法に示すとおり、導電材を含むペーストを磁性体と同時焼成することによって磁性体表面及び磁性体内部に形成する。従って、折返しダイポールエレメント、整合回路、導線及び端子等の厚さは5〜30μm程度である。また、折返しダイポールエレメント、整合回路、導線等の幅は0.1〜1mm程度である。
【0041】
本発明に係る折返しダイポールアンテナ又はRFタグの耐熱性は、これらを300℃で5秒保持する熱処理の前後において給電点インピーダンスを測定し、その変化率で評価する。本発明のアンテナ又はタグは、高温で焼結したセラミックスからなる為、前記熱処理を行っても給電点インピーダンスの変化は±10%以下である。好ましくは±5%以下である。また、外観の変化もほとんどない。
【0042】
また、本発明に係るRFタグは、ポリスチレン、アクリルニトリルスチレン、アクリルニトリルブタジェンスチレン、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、塩化ビニール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド等の樹脂によって被覆されていても良い。
【0043】
本発明に係るRFタグは、前記折返しダイポールアンテナにICチップを接続したものである。本発明においては折返しダイポールアンテナにICチップを実装できる形態であるが、折返しダイポールアンテナと別に設置したICチップとを電気回路で接続した形態のいずれであってもよい。
【0044】
また、本発明に係る折返しダイポールアンテナ又はRFタグは、接着剤、粘着剤又ははんだ付け等の手段で、プリント電子回路基板などの基板の表面に固定させてもよい。尚、はんだ付けで固定する場合には、接着性を高める為に該アンテナ又は該RFタグの基板貼付面に金属層を形成しても良い。本発明では、プリント電子回路基板へ電子部品を実装する際に一般に使用される手段で、折返しダイポールアンテナ又はRFタグを他の部品と同時に実装することができ、量産性が高い。
【0045】
特に、リフローはんだ付けの場合、対象物は一般的に180℃に2分間と220℃に1分間、更に260℃に2〜5秒程度曝される為、従来の樹脂を含むRFタグは熱により変形し使用できなくなる。本発明に係る折返しダイポールアンテナ又はRFタグは、高温で焼結したセラミックスであり耐熱性が高いので、リフローはんだ付けの工程において熱による変形等の不具合はなく、一般の電子部品と同様に実装することができ、量産性が高い。
【0046】
プリント電子回路基板では、その表面又は内部に導体で構成された配線やアースが形成されており、アンテナ又はRFタグに対して金属と同じ影響を与える。本発明に係る折返しダイポールアンテナ又はRFタグを実装したプリント電子回路基板では、アンテナが前述したような構造である為、金属の影響を受けることがない。
【0047】
ICチップは、折返しダイポールアンテナにICチップ接続端子を形成して接続しても良い。接続方法は、特に限定されるものではないが、ワイヤ−ボンド接続、フリップチップ接続などいずれでも良い。また、折返しダイポールアンテナに基板接続端子を形成し、一方、プリント電子回路基板内にICチップを設置して、ICチップに接続する配線を形成して、前記アンテナの基板接続端子とプリント電子回路基板内配線とを接続しても良い。
【0048】
ICチップ接続端子や基板接続端子等の外部機器を電気的に接続する為の端子、はんだ付けでプリント電子回路基板に固定する為の金属層には、はんだ濡れ性・はんだ耐食われ性・機械強度・接合強度の向上の為、単層又は複層の金属メッキをすることができる。金属は目的に適合する元素を選択すれば良いが、Ni、Sn、Au、Cu等が好ましい。
【0049】
従来、プリント電子回路基板上にアンテナを設けておき、該アンテナにICチップを接続する形態のRFタグがあった。この場合、予め基板上にアンテナを設けておく必要がある為、既存の基板にはICチップを接続してRFタグとすることはできない。また、アンテナのサイズも大きいのでICチップの設置場所が制限される。一方、本発明に係るRFタグは、アンテナとICチップが一体化したものであり小型であるので、既存の基板上の小さな空きスペースにも設置することができるという利点がある。
【0050】
次に、本発明に係る折返しダイポールアンテナの製造方法について述べる。
【0051】
本発明に係る折返しダイポールアンテナは、六方晶Z型フェライト及び/又は六方晶Y型フェライトを主成分とする磁性粉末、ブチラール等の樹脂及び可塑剤等からなるグリーンシートに導電性ペーストで放射素子、反射素子、電極端子、整合回路等を形成し、これらを積層・加圧して得られた積層体を所定の大きさに切断した後、880〜1050℃で1〜20時間、好ましくは1〜10時間焼結することによって得ることができる。
【0052】
導電性ペーストの種類は、焼結温度に応じて適宜選択することができる。例えば、900℃程度ではAgペースト、1000℃前後では貴金属含有Agペースト又は貴金属ペーストを使用することができる。
【0053】
焼結温度が880℃未満であると、焼結密度が低下する為、焼結体の機械的強度が低くなる。焼結温度が1050℃を越える場合には、焼結体に変形が生じやすくなる為、所望の形状の焼結体を得ることが困難になる。
【0054】
<作用>
本発明において最も重要な点は、UHF帯において磁性損失が少ないフェライトの内部に折返しダイポール構造からなる放射素子と反射素子が配置されている折返しダイポールアンテナは、小型であり、アンテナの周波数特性が周囲の環境の影響を受けにくいという事実である。従って、これにICチップを接続したRFタグは、従来貼付することができなかった小さな物品にタグを貼付できるようになり、更に、周囲の環境の影響を受けにくいことから、通信の信頼性を高めることができるという事実である。また、耐熱性が高いので、リフローはんだ付け等のプリント電子回路基板へ電子部品を実装する際に一般的に使用される手段で、折返しダイポールアンテナ又はRFタグを他の電子部品と同様に実装することができ、量産性が高く、なおかつ過酷な条件下でも使用でき耐環境性に優れる。
【0055】
本発明においては、磁性体の内部に折返しダイポール構造からなる放射素子と反射素子を配置した構造とし、放射素子と反射素子の形成条件、磁性体の特性及びアンテナの大きさを制御することによって、貼付面積が小さく、且つ、体積も小さいアンテナとすることができたものである。
【実施例】
【0056】
本発明の代表的な実施の形態は、次の通りである。
【0057】
磁性体の透磁率と誘電率は、折返しダイポールアンテナと同時に焼成して得られた厚さ2mmの円盤状磁性体から切り出したリング状コアを同軸管に挿入し、ネットワークアナライザーN5230A(アジレントテクノロジー(株)製)を用いて測定した。
【0058】
折返しダイポールアンテナの給電点インピーダンスは、ネットワークアナライザーN5230A(アジレントテクノロジー(株)製)を用いて測定した。
【0059】
折返しダイポールアンテナにICチップを接続したRFタグの交信距離は、RFタグを発泡スチロールの上に置き、リーダライタユニットCR−900LJ−5−S4((株)シーデックス製)とアンテナユニットCA−900JC−4((株)シーデックス製)を用いて測定し、交信可能な最大の距離を交信距離とした。
【0060】
折返しダイポールアンテナの大きさは、デジタルノギス((株)ミツトヨ製)で測定した。その際、縦の大きさは図1のx方向、横の大きさはy方向、厚さはz方向として採寸した。
【0061】
実施例1
<折返しダイポールアンテナの製造>
Z型フェライトとY型フェライトを主成分とする磁性粉末、ブチラール樹脂、可塑剤を含有したグリーンシート(厚さ85μm)を縦160mm×横160mmの大きさに切断し、放射素子の一周長Laが69mm、間隔Waが1mm、反射素子の一周長Lbが69mm、間隔Wbが1mm、放射素子と反射素子の間隔Dが7.3mmになるようにAgペーストで配線を20μmの厚さで印刷した。これらのグリーンシートを積層した後、350×10kg/mの圧力で加圧して、厚さ9.8mmのグリーンシート積層体を得た。得られたグリーンシート積層体を、縦13.3mm×横24.8mmの大きさに切断し、900℃、2時間で焼結して、縦11.3mm×横21.1mm×高さ8.3mmの折返しダイポールアンテナを得た。
得られた折返しダイポールアンテナの953MHzにおけるインピーダンスは、実数部=39.3、虚数部=97.2であった。同時に焼成した円盤状磁性体の透磁率は、953MHzにおいてμ′=2.2、μ″=0.11、ε′=14.5、ε″=0.07であった。得られた折返しダイポールアンテナを10×5×0.2cmの金属板に接触させた時の、953MHzにおけるインピーダンスの変化率は、実数部=−1.0%、虚数部=−0.8%であった。
また、300℃で5秒間の熱処理を行う前後の給電点インピーダンスの変化率は、実部=0.8%、虚数部=−0.2%であった。
【0062】
<RFタグの製造>
前述の方法で得られた折返しダイポールアンテナにICチップ Monza(インピンジ製)を接続し、RFタグを得た。得られたRFタグの交信距離は、41cmであった。
【0063】
実施例2〜6、9〜10
磁性体の透磁率・誘電率、アンテナの大きさ、放射素子の一周長La、間隔Wa、反射素子の一周長Lb、間隔Wb、放射素子と反射素子の間隔D、ICチップの種類を変えた他は、実施例1と同様の方法で折返しダイポールアンテナ及びRFタグを得た。このときの製造条件及び得られた折返しダイポールアンテナ及びRFタグの緒特性を表1、2、3に示す
【0064】
実施例7〜8
ICチップを搭載しなかった他は、実施例1と同様の方法で折返しダイポールアンテナを得た。このときの製造条件及び得られた折返しダイポールアンテナの緒特性を表1、2、3に示す。表から分かる通り、725MHz又は1025MHzにおいて給電点インピーダンスが50Ωに近くなるので、50Ω給電線で給電する場合、アンテナとして動作する。
【0065】
実施例11
実施例1で得られた折返しダイポールアンテナを10×5×0.1cmの誘電体(ε′=16、ε″=0.01)に接触させて給電点インピーダンスを測定した。その実数部は39.0、虚数部=96.6であった。発泡スチロール上で測定した給電点インピーダンスと基準として、その変化率は実数部−0.8%、虚数部−0.6%であった。
【0066】
比較例1
反射素子を配置しなかった他は、実施例1と同様の方法で折返しダイポールアンテナ及びRFタグを得た。このときの製造条件及び得られた折返しダイポールアンテナの緒特性を表1、2、3に示す。表から分かる通り、金属に接触させるとアンテナの給電点インピーダンスが大きく変化するので、周囲の環境に影響を受けやすい。
【0067】
比較例2
従来のベースシートが樹脂製であるUHF帯RFタグLatica−label(トッパンフォームズ(株)製)の緒特性を表1、2、3に示す。尚、給電点インピーダンスを測定する際には、タグからICチップを取り外した。表から分かる通り、金属に接触させるとアンテナの給電点インピーダンスが大きく変化するので、周囲の環境に影響を受けやすい。
また、300℃で5秒間の熱処理を行うと、熱により大きく変形してしまい、給電点インピーダンスを測定することができなかった。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0071】
前記実施例から明らかな通り、磁性体の内部に折返しダイポール構造からなる放射素子と反射素子を有する折返しダイポールアンテナは、従来のアンテナより小型であり、その給電点インピーダンスが周囲の環境に影響を受けないことから、信頼性の高いアンテナとして好適である。
【0072】
該アンテナにICチップを接続したRFタグは従来より小型であることから、その貼付面積を低減でき、従来十分な貼付面積がなかった物品に貼付できるようになる。また、周囲の環境に影響されないので、RFシステムの信頼性を高めることができる。更に、耐熱性が高いので、リフローはんだ付け等のプリント電子回路基板へ電子部品を実装する際に一般的に使用される手段で、折返しダイポールアンテナ又はRFタグを他の電子部品と同様に実装することができ、量産性を高めることができ、なおかつ過酷な条件下でも使用でき耐環境性に優れる。
【符号の説明】
【0073】
1 磁性体
2 放射素子
3 反射素子
4A 整合回路
4B 整合回路
D 放射素子と反射素子の間隔
Wa、Wb ダイポールエレメントの間隔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体の内部に折返しダイポール構造からなる放射素子と反射素子が配置されていることを特徴とする折返しダイポールアンテナ。
【請求項2】
磁性体が六方晶Z型フェライト及び/又は六方晶Y型フェライトを主成分とすることを特徴とする請求項1記載の折返しダイポールアンテナ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の折返しダイポールアンテナにICチップを接続したRFタグ。
【請求項4】
請求項3記載のRFタグを樹脂で被覆したRFタグ。


【図1】
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【公開番号】特開2012−105189(P2012−105189A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253844(P2010−253844)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】