説明

抵抗溶接による異種金属の接合方法及び接合構造

【課題】抵抗溶接により異種金属を接合するに際して、接合過程における金属間化合物の生成を抑制しながら、接合界面における酸化被膜を除去することができ、強固な接合が可能な異種金属の接合方法と、抵抗溶接による異種金属の強固な接合構造を提供する。
【解決手段】亜鉛めっき鋼材1とアルミニウム合金材2とを重ね合わせ、亜鉛めっき鋼材1のめっき層中の亜鉛とアルミニウムとの共晶溶融を生じさせて抵抗溶接するに際し、酸化皮膜や亜鉛、共晶溶融金属、反応生成物などの接合部からの排出を容易なものとする排出促進手段として、湾曲部Cを上記被接合材の少なくとも一方に形成しておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスチール材とアルミニウム合金材など、異種金属の抵抗溶接による接合技術に係わり、特に被接合材である両金属材料の間にインサート材として介在させた第3の金属材料と被接合材との間に生じる共晶反応を利用した異種金属の接合方法及び接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に異種金属を接合する場合、同種材同士の溶接の場合と同様に両方の被接合材料を溶融させてしまうと、脆弱な金属間化合物が生成し、十分な継手強度が得られないことがある。
例えば、アルミニウム合金と鋼材との異種金属を溶接する場合、高硬度で脆弱なFeAlやFeAlなどの金属間化合物が生成するため、継手強度を確保するためには、これら金属間化合物の制御が必要となる。
【0003】
しかし、アルミニウム合金表面には、緻密で強固な酸化皮膜が形成されており、それを除去するためには接合時に大きな熱量を投与することが必要となる。その結果、厚い金属間化合物層が成長し、接合部の強度が低くなってしまうという問題があった。
【0004】
そこで、このような異種金属材料を組み合わせて使用する場合には、従来、ボルトやリベットなどによる機械的締結によってこれら材料を接合するようにしていたが、この場合には重量やコストが増加する点に問題があった。
【0005】
また、このような異種金属の接合には、摩擦圧接が一部の部品において実用化されているが、このような摩擦圧接方法は対称性のよい回転体同士の接合など、その用途が限られている。
さらに、爆着や熱間圧延なども知られているが、設備面や能率面での問題が多く、一般の異種金属接合に広く適用することはできないという問題がある。
【0006】
このような異種金属接合の問題点の改善例として、異種金属材料の間に、当該異種金属と同じ2種の材料から成るクラッド材をそれぞれ同種の材料同士が接するように介在させた状態で、10ms以下の通電時間で抵抗溶接を行うようにする方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、アルミニウムと鋼の抵抗溶接において、アルミニウム材と接する鋼表面に、Al量が20wt%以上のアルミニウム合金又は純アルミニウムを2μm以上の厚さとなるようにめっきし、該めっき面をアルミニウム材に重ねて通電し、めっき層を優先的に溶融させ、鋼材側をほとんど溶融させないようにして、これら材料を接合する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平4−127973号公報
【特許文献2】特開平6−39558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、クラッド材を用いる特許文献1に記載の方法の場合、2枚の板を接合すべきところが3枚の接合ということになり、実際の施工を考えた場合には、クラッド材の挿入と共に、固定の工程が必要となって、現状の溶接ラインに新たな設備を組み入れなければならなくなり、コストアップ要因となる。また、例えばアルミニウムと鋼を接合する場合、アルミニウムクラッド鋼自体も異種材同士を接合することにより製造されるため、製造条件が厳しく、性能の安定した安価なクラッド材を入手することが困難であるという問題点がある。
【0009】
一方、鋼表面にアルミニウムめっきを施した状態で抵抗溶接する特許文献2に記載の方法においては、アルミニウムめっき面とアルミニウム材を接合する際、表面の強固な酸化皮膜を破壊するために大入熱を投入することが必要となって、アルミニウムめっきと鋼の界面に脆弱な金属間化合物が生成され、これから破壊が生じる可能性があるという問題点がある。
【0010】
本発明は、従来の異種金属の接合方法における上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、抵抗溶接により異種金属を接合するに際して、接合過程における金属間化合物の生成を抑制しながら、接合界面における酸化被膜を除去することができ、強固な接合が可能な異種金属の接合方法と、抵抗溶接による異種金属の強固な接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、接合しようとする異種金属材料の間に、これら材料の少なくとも一方の金属との間に共晶反応を生じる第3の金属材料を介在させ、接合に際して共晶溶融を生じさせることによって、母材異種金属の融点より低い温度で酸化被膜を除去することができ、金属間化合物の生成を抑えることができると共に、接合部に、例えば湾曲部をあらかじめ形成しておくことによって、酸化皮膜や共晶金属など接合過程における反応生成物の排出が円滑に行なわれるようになって、新生面同士の強固な接合が可能となることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の異種金属の接合方法においては、互いに異なる金属材料同士を重ね合わせて成る被接合材の間にこれら金属材料とは異なる金属から成る第3の材料を介在させ、上記両金属材料の少なくとも一方の材料と第3の材料との間で共晶溶融を生じさせて抵抗溶接するに際して、被接合材の接合部における少なくとも一方の側に、第3の材料、被接合材、酸化皮膜及び接合過程で生じる反応物の群から選ばれる少なくとも1種の排出を容易なものとするための排出促進手段を設けることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の異種金属の接合構造は、上記した本発明の接合方法によって抵抗溶接されたものであって、互いに異なる金属材料から成る被接合材の新生面同士が直接接合されていると共に、当該接合部の周囲に、上記第3の材料、被接合材、酸化皮膜及び接合過程で生じる反応物の群から選ばれる少なくとも1種が排出されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、互いに異なる異種金属材料同士を抵抗溶接によって接合するに際して、両金属材料の間にこれら金属材料の少なくとも一方の金属と共晶反応を生じる第3の金属材料を介在させ、しかも接合部に例えば湾曲部のような排出促進手段を設けた状態で、第3の金属材料と一方の金属材料との間で、抵抗発熱による共晶溶融を生じさせて接合するようにしていることから、母材金属材料の融点よりも低い低温状態において酸化皮膜を除去することができるようになり、接合界面温度の制御が可能になって金属間化合物の生成が抑制されると共に、これら酸化皮膜や共晶金属など接合過程における反応生成物の接合部からの排出が上記排出促進手段を介して容易に行なわれるようになることから、被接合材の新生面同士の強固な接合状態を得ることができるようになる。
すなわち、抵抗溶接時の通電及び加圧によって、上記第3の材料や、被接合材、第3の材料と被接合材との反応生成物、接合過程に生成される反応物などが排出促進手段を介して周囲に円滑に排出される結果、上記被接合材の新生面同士が直接接合されると共に、該接合部の周囲に上記のような材料やその反応生成物が排出されている接合構造となり、強固な接合状態が得られることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、抵抗溶接による本発明の異種金属の接合方法について、さらに詳細かつ具体的に説明する。
【0016】
図1は、Al−Zn系2元状態図を示すものであって、図に示すようにAl−Zn系における共晶点(T)は、655Kであり、Alの融点933Kよりもはるかに低い温度で共晶反応が生じる。
したがって、図に示した共晶点を利用してAlとZnの共晶溶融を作り出し、アルミニウム材の接合時における酸化皮膜除去や相互拡散などの接合作用に利用することによって、低温接合が実施できるため、接合界面における金属間化合物の成長を極めて効果的に抑制することができる。
【0017】
ここで、共晶溶融とは共晶反応を利用した溶融で、2つの金属(又は合金)が相互拡散して生じた相互拡散域の組成が共晶組成となった場合に、保持温度が共晶温度以上であれば共晶反応により液相が形成される。例えばアルミニウムと亜鉛の場合、アルミニウムの融点は933K、亜鉛の融点は692.5Kであり、この共晶金属はそれぞれの融点より低い655Kにて溶融する。
したがって、両金属の清浄面を接触させ、655K以上に加熱保持すると反応が生じる。これを共晶溶融といい、Al−95%Znが共晶組成となるが、共晶反応自体は合金成分に無関係な一定の変化であり、合金組成は共晶反応の量を増減するに過ぎない。
【0018】
一方、アルミニウム材の表面には強固な酸化皮膜が存在するが、これは抵抗溶接時の通電と加圧によってアルミニウム材に塑性変形が生じることにより物理的に破壊されることになる。
すなわち、加圧によって材料表面の微視的な凸部同士が擦れ合うことから、一部の酸化皮膜の局所的な破壊によってアルミニウムと亜鉛が接触した部分から共晶溶融が生じ、この液相の生成によって近傍の酸化皮膜が破砕、分解されてさらに共晶溶融が全面に拡がる反応の拡大によって、酸化皮膜破壊の促進と液相を介した接合が達成される。
【0019】
共晶組成は相互拡散によって自発的達成されるため、組成のコントロールは必要ない。必須条件は2種の金属あるいは合金の間に、低融点の共晶反応が存在することであり、アルミニウムと亜鉛の共晶溶融の場合、亜鉛に代えてZn−Al合金を用いる場合には、少なくとも亜鉛が95%以上の組成でなければならない。
【0020】
本発明の異種金属の接合方法における被接合材の具体的な組み合せとしては、例えば鋼材とアルミニウム合金材の組み合せを挙げることができ、このとき両材料の間に介在させる第3の金属材料としては、アルミニウム合金と低融点共晶を形成する材料でありさえすれば特に限定されることはなく、例えば、上記した亜鉛(Zn)の他には、銅(Cu)、錫(Sn)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)などを用いることができる。
すなわち、これら金属とAlとの共晶金属は、母材であるアルミニウム合金材の融点以下の温度で溶融するため、脆弱な金属間化合物が生成し易い鋼材とアルミニウム合金材の接合においても、低温で酸化皮膜を除去することができ、接合過程での接合界面における金属間化合物の生成が抑制でき、強固な接合が可能になる。
【0021】
また、本発明の接合方法を自動車ボディの組み立てに適用することを考えた場合、被接合材は鋼材とアルミニウムとの組み合せがほとんどであるが、将来的には鋼材とマグネシウム、あるいはアルミニウムとマグネシウムとの組み合せなども考えられる。
鋼材とマグネシウムとの接合に際しては、後述する実施例と同様に鋼材側にめっきした亜鉛とマグネシウムの間に共晶反応を生じさせて接合することが可能である。さらに、アルミニウムとマグネシウムを接合する場合においても、亜鉛や銀を第3の金属材料として利用することが可能である。
【0022】
なお、本発明においては、第3の金属材料として、上記したような純金属に限定される必要はなく、共晶金属は2元合金も3元合金も存在するため、これらの少なくとも1種の金属を含む合金であってもよい。
【0023】
本発明の抵抗溶接による異種金属の接合方法は、上記したように接合しようとする異種金属材料間に、これら材料と共晶反応を生じる第3の金属材料を介在させると共に、上記異種材料の接合部における少なくとも一方の側に、例えば湾曲部のように、接合時における溶融物の接合部からの排出を容易ならしめる排出促進手段を設けた状態で抵抗溶接を実施し、上記異種金属材料の少なくとも一方の材料と第3の材料との間に共晶溶融を生じさせて接合するようになすものであるが、上記第3の金属材料を被接合材の間に介在させるための具体的手段としては、例えば、被接合材である両異種金属材料の間に、第3の金属材料から成るインサート材を挿入するようになすことができる。
【0024】
また、被接合材の少なくとも一方の材料に第3の材料をあらかじめ被覆しておくことが望ましく、これによって第3の材料をインサート材として被接合材間に挟み込む工程を省略でき、作業効率が向上すると共に、共晶反応によって溶融された被覆層が表面の不純物と共に接合部の周囲に排出された後に、被覆層の下から極めて清浄な新生面が現れることになり、より強固な接合が可能となる。
【0025】
そして、例えば、上記したアルミニウム合金材やマグネシウム合金材と鋼材との異材接合に際しては、鋼材として、アルミニウムやマグネシウムと低融点共晶を形成する第3の金属材料である亜鉛がその表面にあらかじめめっきされている、いわゆる亜鉛めっき鋼板を用いることができ、この場合には、特別な準備を要することもなく、防錆目的で亜鉛めっきを施した通常の市販鋼材をそのまま使用することができ、極めて簡便かつ安価に、異種金属の強固な接合が可能になる。
【0026】
他方、本発明の異種金属の接合方法において、接合部における被接合材の一方、又は双方に設ける排出促進手段としては、突起や溝を被接合材に形成したり、間にスペーサを挟んだりすることによって設けることができるが、加工工数や加工コストの観点から、上記したように、被接合材の少なくとも一方に所定曲率を有する湾曲部を形成することが望ましい。
このような湾曲部は、後述するように、例えばプレス加工によって、接合線に沿った連続溝状(シーム溶接の場合)、あるいは溶接位置に合わせた断続状(スポット溶接の場合)に形成することができる。
【0027】
そして、排出促進手段としての湾曲部は、抵抗溶接時の通電加圧による昇温過程において、先に軟化し、変形量が大きくなることから、被接合材を構成する異種金属のうちの融点が低い方の材料に形成することが望ましく、これによって接合過程で生じた反応生成物等が接合部周囲に排出されやすくなり、より強固な接合を得ることができる。
【0028】
また、より効果的に接合部表面の酸化皮膜を破壊することができ、当該酸化皮膜が接合過程で生じた反応生成物とともに接合部周囲に排出されやすくなって、接合材の新生面同士のさらに強固な接合を得ることができることから、上記湾曲部は、被接合材を構成する異種金属のうち、大気雰囲気下で表面により強固な酸化被膜を形成する傾向の強い材料の側に形成することが望ましい。
【0029】
本発明の接合方法における抵抗溶接方法としては、所望部位を断続的な点状に接合する抵抗スポット溶接や、連続的な線状に接合する抵抗シーム溶接を採用することができ、適用部材の形状や要求性能に応じた選択が可能となる。
【0030】
以下に、これらスポット溶接やシーム溶接に関し、上記湾曲部の形状や形成位置について、亜鉛めっき鋼板とアルミニウム合金材の接合を例にとって、図面を参照して具体的に説明する。
【0031】
図2は、抵抗スポット溶接による異材金属材料の接合要領を示す概略図であって、図示するように、表面に亜鉛めっき層1pを備えた亜鉛めっき鋼板1と、アルミニウム合金板材2とを重ね合わせた状態で、電極E1及びE2により挟持し、接合部を加圧しながら両材料1,2の間に通電することができるようになっている。
【0032】
このとき、両材料1,2の接合部には、図3に示すように、アルミニウム合金板材2の側に、鋼板1の側に湾曲した曲率を有する湾曲部Cがあらかじめ形成されており、排出促進手段として機能するようになっている。
したがって、電極E1及びE2によって亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金材2を上下から挟持し、加圧、通電により抵抗スポット溶接を行うと、アルミニウム合金板材2の酸化皮膜の破壊と、その接合部からの除去を促進することができる。特に、上記湾曲部Cを低融点側であり、しかも大気雰囲気下でその表面に強固な酸化皮膜を形成するアルミニウム合金材2の側に形成したことによって、通電加熱による軟化により湾曲部Cが変形しながら酸化皮膜の破壊と除去が進行すると共に、接合過程の共晶反応により生じた反応生成物等の接合部周囲への排出が容易なものとなり、被接合材であるアルミニウム合金と鋼の新生面同士の、不純物などが介在することのない強固な接合を得ることが可能となる。
【0033】
なお、図3に示すように、上記アルミニウム合金材2の側に形成した湾曲部Cの曲率半径Raについては、アルミニウム合金材2に当接する電極E1の先端部の曲率半径Reとの関係をRe≧Ra とすることが望ましい。
すなわち、溶接過程において排出促進手段としての湾曲部Cがより潰れ易くなり、これによって酸化皮膜や共晶金属、その他接合過程で生じる反応生成物などの接合部からの排出がさらに促進されるようになり、より強固な接合が可能となる。なお、電極E1の先端形状としては、球面状のみに限定されることはなく、平坦な先端形状(Re:無限大)の電極を使用することも可能である。
【0034】
これによって、図4に示すように、接合部においてアルミニウム合金と鋼の新生面同士が直接、強固に接合されていると共に、この接合部の周囲に、アルミニウム合金材1の表面から破壊・除去された酸化皮膜2fや、接合過程で生じた共晶溶融金属などの反応生成物等が排出された状態の接合構造が得られる。
【0035】
図5は、排出促進手段としての上記湾曲部Cの形状及び形成方法の一例を示すものであって、図5(a)に示すように、例えばポンチングやプレス加工などによって、抵抗スポット溶接の打点位置に合わせて、接合部材の接合フランジにエンボス状に多点、断続的に設けることができる。
また、図5(b)に示すように、同じくプレス加工などによって接合フランジの長手方向に連続的なビード状に湾曲部Cを形成することも可能であって、この場合は、抵抗スポット溶接による打点位置だけ、連続したビード状の湾曲部Cがスポット状に潰されることになり、長手方向と直角方向に接合反応生成物などの排出が可能となり、上記同様の効果が得られる。
【0036】
排出促進手段としての湾曲部Cは、アルミニウム合金材2の側のみならず、例えばアルミニウム合金材の板厚が厚い時や、押し出し材を使用した時などのように、アルミニウム合金材2に湾曲部Cを形成するのに手間がかかるような場合には、亜鉛めっき鋼板1の側に設けることもできる。
図6(a)は、鋼板1の側に湾曲部Cを形成した例を示すものであって、高融点側である鋼板1は、アルミニウム合金側と比較して相対的に接合過程での変形は少ないが、湾曲部Cの形成によって、その周囲に酸化皮膜や共晶溶融金属、反応生成物などの排出空間が確保されることから、同様の効果を得ることができる。
【0037】
ここで、鋼板1の側に形成する湾曲部Cの大きさとしては、当該湾曲部の曲率半径Rsに対して、鋼板1に当接する電極E2の先端部の曲率半径Reとの関係をRe≦Rsとすることが望ましく、これによって、鋼板1に形成した湾曲部Cが潰れることなく、アルミニウム合金材2の側に食い込みながら、接合が進行し、接合面から排出された反応生成物などが排出空間に逃げ込むように円滑に周縁部に排出されることとなり、上記同様の強固な接合が可能になる。
【0038】
さらに、図6(b)に示すように、アルミニウム合金材2と鋼板1の側の双方に、同様の湾曲部Cを形成して、湾曲部Cの凸面同士を当接させることによって、両金属材1,2の間に排出空間を確保し、排出促進手段とすることもでき、同様に反応生成物などの排出が促進され、強固な接合を行うことができる。
【0039】
なお、上記で説明したような抵抗スポット溶接による点接合は、自動車用の車体のように3次元形状を有する構造物に広く適用することができる。
【0040】
図7は、抵抗シーム溶接による異材金属材料の接合要領を示す概略図であって、図示するように、表面に亜鉛めっき層1pを備えた亜鉛めっき鋼板1と、アルミニウム合金板材2とを重ね合わせた状態で、ローラ電極Er1及びEr2により挟持し、接合部を加圧しながら両材料1,2の間に通電すると共に、ローラ電極Er1及びEr2を回転させることによって、抵抗溶接が連続的に進行し、両金属材料を線状に接合することができるようになっている。
【0041】
このとき、両材料1,2の接合部には、図8に示すように、アルミニウム合金板材2の側には、図5(b)に示したような連続したビード状をなし、鋼板1の側に湾曲した曲率を有する湾曲部Cがあらかじめ形成されており、排出促進手段として機能することから、上記したスポット溶接の場合と同様に、酸化皮膜や共晶溶融金属、反応生成物などが接合部からその周囲に円滑に排出され、アルミニウム合金と鋼の新生面同士の強固な接合が可能となる。
このような抵抗シーム溶接によれば、連続的な接合が可能であり、接合部の水密性や合成に優れた異材継手を得ることができる。
【0042】
図9(a)及び(b)は、アルミニウム合金板材2に鋼製のスタッドボルト11、又はナット12を抵抗溶接によって異材接合する要領を示す概略図であって、図示するように、アルミニウム合金板材2に形成した貫通孔にスタッドボルト11のおねじ部を貫通させた状態、あるいは上記貫通孔とナット12のねじ孔を合わせた状態にこれら被接合材を重ね合わせ、電極E3及びE4によって挟持し、接合部を加圧しながら両被接合材の間に通電することによって、スタッドボルト11又はナット12とアルミニウム合金板材2とを接合することができる。
【0043】
このとき、両材料の接合部には亜鉛などの第3の金属から成るめっき層やインサート材が介在されていると共に、例えば鋼製スタッドボルト11及びナット12の側には、曲率を有する湾曲部Cがあらかじめ形成され、排出促進手段として機能することから、上記したスポット溶接屋シーム溶接の場合と同様に、酸化皮膜や共晶溶融金属、反応生成物などが接合部からその周囲に円滑に排出されることになり、アルミニウム合金と鋼の新生面同士の強固な接合が可能となる。
【0044】
このように、アルミニウム合金板材に鋼製のスタッドボルトやナットを接合することによって、強度が低くねじ部が潰れ易いアルミニウム合金製のスタッドボルトやナットを鋼製の高強度のものに替えることができ、ねじ部の潰れを防止して、より大きな締め付けトルクの適用が可能になり、自動車部品に適用することにより、車体の軽量化、燃費向上に寄与するものとなる。
【0045】
なお、スタッドボルト11については、図10(a)及び(b)に示すように、アルミニウム合金板材2に貫通孔を形成することなく、アルミニウム合金板材2の上に直接接合することも可能である。この場合も、排出促進手段として湾曲部Cを接合部に設けることによって、共晶溶融金属、酸化皮膜、反応生成物などが接合部からその周囲に円滑に排出されるようになり、強固な接合状態を得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
図2に示したような交流電源タイプの抵抗スポット溶接装置を用いて、板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金板材2と、板厚0.55mmの亜鉛めっき鋼板1との接合を行った。
なお、亜鉛めっき鋼板1の亜鉛めっき厚さについては、約20μmの厚さのものと約5μmの厚さのものを使用した。
【0048】
このとき、アルミニウム合金板材2の側には、プレス加工によって、図3に示したような断面形状の湾曲部Cを抵抗スポット溶接の打点位置に合わせて形成し(図5(a)参照)、突出側を亜鉛めっき鋼板1に当接することによって、排出促進手段とした。
なお、スポット抵抗溶接装置における電極E1の先端部曲面の曲率半径Reが40mmであるのに対して、上記湾曲部Cの内側曲率半径Raを15mmとした。
【0049】
そして、3kNの加圧力を加えながら、24000Aの交流電流を0.2秒間通電することによって抵抗スポット溶接を行い、上記アルミニウム合金板材2と亜鉛めっき鋼板1とを接合した。
なお、めっき厚さ20μmの亜鉛めっき鋼板については、アルミニウム合金板材2の側に湾曲部Cを形成することなく接合を行い、上記発明例と比較した。
【0050】
得られた接合体からマクロ試験片を切り出し、接合部のマクロ組織を観察した結果、図4に示したように、アルミニウム合金と鋼材の新生面同士が直接接合され、その周辺に酸化皮膜や亜鉛、共晶溶融金属などの反応生成物などが排出された状態の良好な接合構造が得られることが確認された。
【0051】
この結果、表1に示すように、湾曲部Cを形成しない場合では、特にめっき厚さの厚い場合や、酸化皮膜が厚い場合などでは溶接条件によっては、接合界面に反応生成物が残存する場合があり、これが接合強度を低下させる場合があったが、本発明では湾曲部Cを形成することにより排出性が向上さるため、亜鉛めっき厚さに係わらず、JIS−A級を超える接合強度が得られた。
【0052】
【表1】

【0053】
(実施例2)
図7に示したような交流電源タイプの抵抗シーム溶接装置を用いて、上記同様のアルミニウム合金板材2と亜鉛めっき鋼板1(めっき厚:約20μm)との接合を行なった。
【0054】
このとき、アルミニウム合金板材2の側の接合部には、プレス加工によって、図3に示したような断面形状を有する湾曲部Cを連続的なビード状に形成し(図5(b)参照)、その突出面側をめっき鋼板1に当接することによって、排出促進手段とした。
なお、シーム溶接装置におけるローラ電極Er1の先端外周面が平坦な2次曲面であるのに対して、上記湾曲部Cの内側曲率半径Raは、6mmとした。
【0055】
そして、加圧力を4kNの一定とし、32000Aの交流電流を通電しながら、1.8m/分の速度で抵抗シーム溶接を行い、上記アルミニウム合金板材2と亜鉛めっき鋼板1とを接合したのち、得られた接合体からマクロ試験片を切り出し、接合部のマクロ組織を観察した結果、図4に示したような良好な接合構造が得られることが確認された。
【0056】
上記の結果、いずれの実施例においても、第3の材料である亜鉛(亜鉛めっき層)とアルミニウムの間に共晶溶融が生じ、抵抗溶接時の加圧によってアルミニウム表面の酸化皮膜が共晶溶融金属や反応生成物などと共に、接合部にあらかじめ形成された湾曲部(排出促進手段)を経て接合部の外側に円滑に排出され、アルミニウム及び鋼の新生面同士が直接に接合され、良好な接合構造が得られることが確認された。
【0057】
(実施例3)
図9(a)及び(b)に示したような交流電源タイプの抵抗溶接装置を用いて、板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金板材2に、鋼製のスタッドボルト11(M5)を図11及び12に示す要領で接合した。
すなわち、図11においては、スタッドボルト11の側の接合部に、第3の材料としての亜鉛めっき層Pが約20μmの厚さに施されており、図11(a)に示すようにスタッドボルト11の側に湾曲部Cを形成した時の接合性を湾曲部のない場合(比較例:図11(b)参照)と比較評価した。
【0058】
一方、図12においては、アルミニウム合金板材2と鋼製スタッドボルト11の間に、第3の材料として銅製のインサート材I(板厚:40μm)を介在させ、同様に、図12(a)のようにスタッドボルト11の側に湾曲部Cを形成した時の接合性を湾曲部のない場合(比較例:図12(b)参照)と比較した。
なお、Al−Cu系における共晶点は、821Kである。
【0059】
溶接条件としては、共に加圧力を3kN、溶接電流を18000A、通電時間を12サイクルとした。その結果を次に示す実施例4の結果と共に、表2に示す。
【0060】
(実施例4)
図9(a)及び(b)に示したような交流電源タイプの抵抗溶接装置を用いて、板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金板材2に、鋼製のナット12(M6)を図13及び14に示す要領で接合した。
すなわち、図13においては、ナット12の側の接合部に、第3の材料としての亜鉛めっき層Pが約20μmの厚さに形成されており、図13(a)に示すようにナット12の側に湾曲部Cを形成した時の接合性を湾曲部のない場合(比較例:図13(b)参照)と比較評価した。
【0061】
また、図14においては、アルミニウム合金板材2と鋼製ナット12の間に、第3の材料として銅製のインサート材I(板厚:40μm)を介在させ、図14(a)のようにナット12の側に湾曲部Cを形成した時の接合性を湾曲部のない場合(比較例:図14(b)参照)と比較した。
【0062】
溶接条件としては、実施例3と同様に、加圧力を3kN、溶接電流を18000A、通電時間を12サイクルとした。その結果を表2に併せて示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に示すように、実施例3、4いずれの場合も、第3の材料である亜鉛又は銅とアルミニウムの間に共晶溶融が生じたが、図11〜14における(b)に示したように、第3の材料と接する側の先端断面形状がフラットなスタッドボルト11やナット12を用いた比較例の場合には、接合部周囲への共晶溶融金属やアルミニウム合金板材2の表面の酸化皮膜の排出がうまく行なわれず、接合界面にこれら共晶溶融金属や亜鉛、銅などが残存する結果となったのに対し、図11〜14における(a)に示したように、第3の材料と接する側の先端に湾曲部Cを形成したスタッドボルト11やナット12を用いた場合には、いずれも第3の材料である亜鉛や銅とアルミニウムの間に共晶溶融が生じ、その共晶溶融金属と共にアルミニウム合金板材2の表面の酸化皮膜が接合部周囲へ排出された後、アルミニウムと鋼の間で直接的な接合がなされていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】Al−Zn系2元状態図における共晶点を示すグラフである。
【図2】抵抗スポット溶接による異材金属材料の接合要領を示す概略図である。
【図3】接合部に形成される排出促進手段としての湾曲部の形状例を示す断面図である。
【図4】本発明の異種金属の接合構造を示す断面図である。
【図5】(a)湾曲部の形成要領を示す被接合材の斜視図である。(b)湾曲部の他の形成要領を示す被接合材の斜視図である。
【図6】(a)排出促進手段としての湾曲部の他の形状例を示す断面図である。(b)排出促進手段としての湾曲部のさらに他の形状例を示す断面図である。
【図7】抵抗シーム溶接による異材金属材料の接合要領を示す概略図である。
【図8】抵抗シーム溶接による異種金属の接合要領を示す説明図である。
【図9】(a)抵抗溶接によるアルミニウム合金板材と鋼製スタッドボルトの接合要領を示す概略図である。(b)抵抗溶接によるアルミニウム合金板材と鋼製ナットの接合要領を示す概略図である。
【図10】(a)及び(b)は抵抗溶接によるアルミニウム合金板材と鋼製スタッドボルトの他の接合要領を示す概略図である。
【図11】アルミニウム合金板材と亜鉛めっきを施した鋼製スタッドボルトの接合における発明例(a)と比較例(b)とを示すそれぞれ断面図である。
【図12】銅製インサートを用いたアルミニウム合金板材と鋼製スタッドボルトの接合における発明例(a)と比較例(b)とを示すそれぞれ断面図である。
【図13】アルミニウム合金板材と亜鉛めっきを施した鋼製ナットの接合における発明例(a)と比較例(b)とを示すそれぞれ断面図である。
【図14】銅製インサートを用いたアルミニウム合金板材と鋼製ナットの接合における発明例(a)と比較例(b)とを示すそれぞれ断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 亜鉛めっき鋼板(被接合材)
1p,P 亜鉛めっき層(第3の材料)
2 アルミニウム合金材(被接合材)
11 スタッドボルト(被接合材)
12 鋼製ナット12(被接合材)
C 湾曲部(排出促進手段)
I インサート材(第3の材料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる金属材料同士を重ね合わせた被接合材の間に上記金属材料とは異なる金属から成る第3の材料を介在させ、上記被接合材の少なくとも一方の材料と第3の材料との間で共晶溶融を生じさせて抵抗溶接するに際し、上記被接合材の接合部における少なくとも一方の側に、第3の材料、被接合材、酸化皮膜及び接合過程で生じる反応物の群から選ばれる少なくとも1種の排出を容易ならしめる排出促進手段を設けることを特徴とする抵抗溶接による異種金属の接合方法。
【請求項2】
上記被接合材の接合部に第3の材料から成るインサート材を挿入することを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
上記被接合材の少なくとも一方の材料に第3の材料が被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項4】
上記被接合材の一方の材料が亜鉛めっき鋼板であって、当該亜鉛めっき鋼板にめっきされている亜鉛を第3の材料として利用することを特徴とする請求項3に記載の接合方法。
【請求項5】
上記排出促進手段が被接合材の少なくとも一方に形成した湾曲部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項6】
上記被接合材のうち、融点が低い方の材料に湾曲部が形成してあることを特徴とする請求項5に記載の接合方法。
【請求項7】
上記被接合材のうち、大気雰囲気下で表面により強固な酸化被膜を形成する方の材料に湾曲部が形成してあることを特徴とする請求項5に記載の接合方法。
【請求項8】
抵抗スポット溶接により断続的に溶接することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項9】
抵抗シーム溶接により連続的に溶接することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つの項に記載の接合方法によって得られる接合構造であって、上記被接合材の新生面同士が直接接合されていると共に、当該接合部の周囲に、上記金属材料とは異なる金属から成り、上記被接合材の少なくとも一方の材料との間で共晶溶融を生じる第3の材料、被接合材、酸化皮膜及び接合過程で生じる反応生成物の群から選ばれる少なくとも1種が排出されていることを特徴とする異種金属の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−130686(P2007−130686A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375613(P2005−375613)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】