説明

拡張コドンを利用した糖タンパク質の作製方法

簡便に糖鎖を導入できる糖ペプチドの生成のための方法を提供すること。本発明では、糖鎖の導入のための基を保護したアミノ酸を、4塩基コドン法でタンパクに導入することにより、脱保護したのちにその部位に天然の糖鎖を導入することにより、上記課題を解決した。従って、本発明は、以下の工程:(a)糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含み、4塩基コドンを認識する改変tRNA改変tRNAを提供する工程;(b)該4塩基コドンまたはその相補体を含む核酸配列を含む改変核酸分子を提供する工程;(c)該改変核酸分子を転写してmRNAを生成する工程;および(d)該改変tRNAおよび翻訳に必要なセットのtRNAを含むタンパク質合成系に該mRNAを曝してタンパク質を生成する工程、を包含する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質を生産するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質に関連する生化学および化学の分野に関する。より特定すると、本発明は、糖タンパク質およびその合成に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の記載内容には、本発明の理解に有用と思われる情報が含まれている。ここに提供されている情報がいずれも本発明に対する従来技術であると認めるものでもなければ、明示的または暗黙的に参照した出版物がいずれも本発明に対する従来技術であると認めるものでもない。
【0003】
タンパク質の糖鎖による修飾は、タンパク製剤(ホルモン剤など)の血中安定性や血中保持時間の向上に役立つので重要であるが、そのほとんどは現在は動物細胞を用いてタンパク質に糖鎖修飾している。このような動物細胞をもちいた天然糖鎖付加の場合、導入される糖鎖は培養系によって決まり、自由に設計することができないことと、糖鎖の導入部位や導入率を自由に制御することができないことが難点である。
【0004】
一般に生物に使われている20種類のアミノ酸以外の非天然アミノ酸を、対応するコドンを新たに定義することでタンパクに導入する手法として、Schultzらの開発した終止コドンを用いる方法(非特許文献1)と宍戸・芳坂らの提唱した4塩基コドンを用いる方法(非特許文献2〜4)が知られている。特に、4塩基コドンを用いる方法では、一度に使用可能なコドンが理論的には何種類にもなるので、さまざまな非天然アミノ酸をそれぞれ目的の部位に導入できる利点がある。
【0005】
この4塩基コドンを用いた非天然アミノ酸導入では、これまで、蛍光性のアミノ酸などのいくつかの例が報告されているが、糖の導入には成功していなかった。
【0006】
3塩基コドンでは、ケトン基のついた非天然アミノ酸を導入して、アミノオキシル基をつけた糖鎖を結合させた報告(非特許文献5)がある。
【非特許文献1】Schultzet al., Vol.96, Issue 9, 4780-4785, April 27, 1999
【非特許文献2】Taki M.et al.,FEBS Lett.507,35-38、2001
【非特許文献3】HohsakaT. et al.,J. Am. Chem.Soc, 121, 34-40, 1999
【非特許文献4】Hohsaka T. etal.,J. Am. Chem.Soc, 118, 9778-9779, 1996
【非特許文献5】H. Liu et al., J. Am. Chem. Soc. 125, 1702-1703 ,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、簡便に糖鎖を導入できる官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質およびそれから誘導される糖ペプチドの生成のための方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、糖鎖の導入に適したアミノオキシ基などの糖鎖導入のための基を有するアミノ酸を、4以上の塩基をコドンとして用いる方法(例えば、4塩基コドン法)でタンパク質に導入すること、および脱保護したのちにその部位に天然の糖鎖を導入することにより、上記課題を解決した。
【0009】
従って、本発明は、以下を提供する。(1)以下の工程:
(a)糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含み、4塩基コドンを認識する改変tRNAを提供する工程であって、上記改変tRNAは4塩基コドンを認識する、工程;
(b)上記4塩基コドンまたはその相補体を含む核酸配列を含む改変核酸分子を提供する工程であって、上記核酸配列は上記4塩基コドンに1アミノ酸を対応させたときに、目的の糖タンパク質のタンパク質部分をコードする、工程;
(c)上記改変核酸分子を転写してmRNAを生成する工程;および
(d)上記改変tRNAおよび翻訳に必要なセットのtRNAを含むタンパク質合成系に上記mRNAを曝してタンパク質を生成する工程、を包含する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質を生産するための方法。
(2)上記糖鎖に結合し得る官能基は、保護されていてもよいアミノオキシ基、保護されていてもよいN−アルキルアミノオキシ基、ヒドラジド基、アジド基、チオセミカルバジド基およびシステイン残基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する、項目1に記載の方法。
(3)糖鎖に結合し得る官能基を含むアミノ酸誘導体が天然アミノ酸に糖鎖に結合し得る官能基が結合したアミノ酸である、項目1または2に記載の方法。
(4)上記糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸は、チロシン、ホモセリおよびセリンからなる群より選択されるアミノ酸またはその誘導体である、項目1または2に記載の方法。
(5)上記4塩基コドンは、CGGGである、項目1〜4のいずれか1項に記載の方法。
(6)上記タンパク質合成系は、上記4塩基コドンの最初の3塩基からなるコドンに対応するtRNAを有しない、項目1〜5のいずれか1項に記載の方法。
(7)上記タンパク質合成系は、上記4塩基コドンの最初の3塩基および最後の3塩基からなるコドンに対応するtRNAを有しない、項目1〜6のいずれか1項に記載の方法。
(8)上記改変tRNAは、アンチコドン部分に上記4塩基コドンの相補配列を有する、項目1〜7のいずれか1項に記載の方法。
(9)上記タンパク質合成系は、上記改変tRNAを、上記天然tRNAに比べて有意に多い量で含む、項目1〜8のいずれか1項に記載の方法。
(10)上記タンパク質合成系は、上記改変tRNAを、上記天然tRNAの少なくとも4倍の量で含む、項目1〜9のいずれか1項に記載の方法。
(11)上記タンパク質合成系は、上記4塩基コドンの最初の3塩基からなるコドンに対応するtRNAを他のtRNAよりも有意に少なく含む、項目1〜10のいずれか1項に記載の方法。
(12)上記タンパク質合成系は、上記4塩基コドンの最初の3塩基からなるコドンに対応するtRNAを他のtRNAの1〜0.01倍含む、項目1〜11のいずれか1項に記載の方法。
(13)上記4塩基コドンを3塩基コドンとして読んだ場合に生成するタンパク質を取り除く工程をさらに包含する、項目1〜12のいずれか1項に記載の方法。
(14)上記4塩基コドンを3塩基コドンとして読んだ場合に生成するタンパク質は、上記4塩基コドンを4塩基コドンとして読んだ場合に生成するタンパク質と、有意に分子量が異なる、項目1〜13のいずれか1項に記載の方法。
(15)上記糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸は、以下の式:
【0010】
【化11】

からなる群より選択されるアミノ酸またはその保護体であり、該アミノ酸は、上記改変tRNAと、該アミノ酸のカルボキシル基において結合することを特徴とする、項目1〜14のいずれか1項に記載の方法。
(16)上記核酸分子は、直鎖状で提供される、項目1〜15のいずれか1項に記載の方法。
(17)上記核酸分子は、環状ベクターとして提供される、項目1〜16のいずれか1項に記載の方法。
(18)上記改変tRNAは、配列番号1に示されるGCGGAUUUAGCUCAGUUGGGAGAGCGCCAGACUCCCGAAUCUGGAGGUCCUGUGUUCGAUCCACAGAAUUCGCACCAという配列を含む、項目1〜17のいずれか1項に記載の方法。
(19)上記改変核酸分子は、インビトロ系において機能するプロモーター配列を含む、項目1〜18のいずれか1項に記載の方法。
(20)上記プロモーター配列は、T7プロモーター配列を含む、項目19に記載の方法。
(21)以下の工程
(A)項目1〜20のいずれか1項に記載の方法により、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質を生成する工程;および
(B)上記タンパク質と所望の糖鎖とを結合させて糖タンパク質を生成する工程、を包含する、糖タンパク質を生産するための方法。
(21−1)前記糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸が2−アミノ−4−[N−メチル−アミノオキシ]−酪酸(2-amino-4-[N-methyl-aminooxy]-butyric acid)である、項目21に記載の方法。
(21−2)前記B工程において、前記糖鎖の濃度は、10mM〜1Mの間である、項目21に記載の方法。
(21−3)前記B工程において、前記糖鎖は、酢酸緩衝液
(50mM〜400mM;pH3〜6)中で行われる、項目21に記載の方法。
(21−4)前記B工程は、25〜80℃にて行われる、項目21に記載の方法。
(21−5)前記B工程は、6時間〜5日間行われる、項目21に記載の方法。
(21−6)前記生成した糖タンパク質を精製する工程をさらに包含する、項目21に記載の方法。
(22)以下の工程:
(i)糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を保護して保護アミノ酸を生成する工程;
(ii)5’−ホスホ−2’−デオキシリボヌクレオチジルリボヌクレオチド(pdNpN)を提供する工程;
(iii)上記保護アミノ酸と上記pdNpNとを脱水縮合して保護pdNpNアミノ酸を生成する工程;
(iv)4塩基コドンを認識する改変tRNAを提供する工程;
(v)上記改変tRNAと上記保護pdNpNアミノ酸とを連結して保護pdNpNアミノ酸連結tRNAを提供する工程;および
(vi)上記保護pdNpNアミノ酸が連結した改変tRNAを脱保護してpdNpNアミノ酸が連結したtRNAを生成する工程、を包含する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含み、4塩基コドンを認識する改変tRNAを生産するための方法。
(23)上記pdNpNにおけるデオキシリボヌクレオチジルは、β-D-チミジン、2’-デオキシ-β-D-シチジン、2’-デオキシ-β-D-アデノシン、2’-デオキシ-β-D-グアノシン、2’-デオキシ-β-D-ウラシルおよび2’-デオキシ-β-D-イノシンからなる群より選択される、項目22に記載の方法。
(24)上記pdNpNにおけるリボヌクレオチジルは、β-D-シチジン、β-D-アデノシン、β-D-グアノシン、β-D-ウラシルおよびβ-D-イノシンからなる群より選択される、項目22に記載の方法。
(25)上記pdNpNは、5’−ホスホ−2’−デオキシリボシチジリルリボアデノシン(pdCpA)である、項目22に記載の方法。
(26)上記アミノ酸は、天然アミノ酸である、項目22〜25のいずれか1項に記載の方法。
(27)上記アミノ酸は、チロシン、ホモセリンおよびセリンからなる群より選択される、項目22〜26のいずれか1項に記載の方法。
(28)上記保護は、フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基、アセチル基、ベンジル基、ベンゾイル基、t−ブトキシカルボニル基、t−ブチルジメチル基、N−フタルイミジル基、シリル基、トリメチルシリルエチル基、トリメチルシリルエチルオキシカルボニル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジルエチレンオキシカルボニル基およびカルバメート基からなる群より選択される保護基で行われる、項目22〜27のいずれか1項に記載の方法。
(29)上記改変tRNAと上記保護pdNpNアミノ酸との連結は、T4 RNAリガーゼを用いて行われる、項目22〜28のいずれか1項に記載の方法。
(30)上記保護基の保護は、脱水反応によって行われ、上記脱保護は、加水分解によって行われる、項目22〜29のいずれか1項に記載の方法。
(31)上記改変tRNAは、配列番号1に示されるGCGGAUUUAGCUCAGUUGGGAGAGCGCCAGACUCCCGAAUCUGGAGGUCCUGUGUUCGAUCCACAGAAUUCGCACCAという配列を含む、項目22〜30のいずれか1項に記載の方法。
(32)
A)4塩基コドンを認識する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含む改変tRNA;
B)上記4塩基コドンまたはその相補体を含む核酸配列を含む改変核酸分子であって、上記核酸配列は上記4塩基コドンに1アミノ酸を対応させたときに機能性タンパク質をコードする、改変核酸分子;および
C)上記改変核酸分子を転写するための転写酵素、翻訳に必要なセットのtRNAおよびmRNAを翻訳するための翻訳酵素を含むタンパク質合成系、を備える、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質の製造キット。
(33)
A)4塩基コドンを認識する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含む改変tRNA;
B)上記4塩基コドンまたはその相補体を含む核酸配列を含む改変核酸分子であって、上記核酸配列は上記4塩基コドンに1アミノ酸を対応させたときに機能性タンパク質をコードする、改変核酸分子;
C)上記改変核酸分子の転写するための転写酵素、翻訳に必要なセットのtRNAおよびmRNAを翻訳するための翻訳酵素を含むタンパク質合成系;
D)糖鎖;および
E)上記糖鎖に結合し得る官能基と上記糖鎖との連結を行うための連結手段、を備える、糖タンパク質の製造キット。
(34)4塩基コドンを認識する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含む改変tRNA。
(35)4塩基コドンを認識する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含む改変tRNA、および翻訳に必要なセットのtRNAを含む、糖タンパク質を製造するための翻訳反応において用いるための組成物。
(36)4塩基コドンを認識する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含む改変tRNA、翻訳に必要なセットのtRNAおよびmRNAを翻訳するための翻訳酵素を含むタンパク質合成系(system)。
(37)さらに、核酸分子を転写するための転写酵素、を含む、項目36に記載のタンパク質合成系。
(38)4塩基コドンまたはその相補体を含む核酸配列を含む改変核酸分子、上記核酸配列は上記4塩基コドンに1アミノ酸を対応させたときに機能性タンパク質をコードする、改変核酸分子
(39)項目1に記載の方法によって調製されたタンパク質を含む、組成物。
(40)項目21に記載の方法によって調製された糖タンパク質を含む、組成物。
(41)以下の式:
【0011】
【化12】

を有する、化合物(式中、Rはアミノ酸の側鎖から水素が一つ取れたものであり、R〜RおよびRは、それぞれ独立して保護基または水素を表し、Rは、糖鎖に結合し得る基を表す)。
(42)上記Rは、天然アミノ酸の側鎖から水素が一つ取れたものである、項目41に記載の化合物。
(43)上記R〜RおよびRは、それぞれ独立して、水素、Fmoc基、アセチル基、ベンジル基、ベンゾイル基、t−ブトキシカルボニル基、t−ブチルジメチル基、N−フタルイミジル基、シリル基、トリメチルシリルエチル基、トリメチルシリルエチルオキシカルボニル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジルエチレンオキシカルボニル基およびカルバメート基からなる群より選択される、項目41または42に記載の化合物。
(44)上記RまたはRは、保護されていてもよいアミノオキシ基、保護されていてもよいN−アルキルアミノオキシ基、ヒドラジド基、アジド基、チオセミカルバジド基およびシステイン残基から水素が一つ取れたものからなる群より選択される基である、項目41〜43のいずれか1項に記載の化合物。
(45)以下の式:
【0012】
【化13】

【0013】
【化14】

【0014】

【0015】

【0016】

【0017】

【0018】
【化15】

【0019】
【化16】

【0020】
【化17】

【0021】
【化18】

および
【0022】
【化19】

からなる群より選択される構造を有する、化合物。(46)
【0023】
【化20】

に示される基が、アミノ酸のカルボキシル基に置換した、化合物。
【0024】
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によって、従来達成できたものより高い収率で所望のタンパク質および糖タンパク質を得ることができること、従来達成できたものより高い選択性を持ってタンパク質および糖タンパク質(例えば、医薬、農薬、食品など)を設計することができるという効果が達成された。また、従来設計ができなかったような糖タンパク質の設計も可能にした。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、改変tRNAを用いた場合の模式図を示す。
【図2】図2は、改変tRNAを用いてタンパク質合成をする全体像を示す。
【図3】図3は、実施例6におけるSDS−PAGE電気泳動の結果を示す。左側:tRNA−CA;右側:2−アミノ−4−[O−[N−トリメチルシリルエトキシカルボニル]アミノ]ヒドロキシ−ブチリックアシジル−tRNA(CCCG)。
【図4】図4は、実施例7におけるウエスタンブロット分析の結果を示す。一次抗体:抗T7タグ抗体(マウス由来);二次抗体:抗マウスIgG−アルカリフォスファターゼ。左:変異リゾチーム配列に2−アミノ−4−[O−[N−トリメチルシリルエトキシカルボニル]アミノ]ヒドロキシ−ブチリックアシジル−tRNA(CCCG)を用いないで発現させたもの;中央:野生型リゾチーム配列を発現させたもの;ならびに右:変異リゾチーム配列に2−アミノ−4−[O−[N−トリメチルシリルエトキシカルボニル]アミノ]ヒドロキシ−ブチリックアシジル−tRNA(CCCG)を用いて発現させたもの(上記実験)。
【図5】図5は、競合するアミノ酸であるアルギニンの比率を変化させて発現にどのような影響があるかどうかを示す実施例8の結果である。1:2−アミノ−4−[O−[N−トリメチルシリルエトキシカルボニル]アミノ]ヒドロキシ−ブチリックアシジル−tRNA(CCCG)(以下ntrPhe−tRNAともいう。)、20アミノ酸(容量比はすべて1);2:ntrPhe−tRNA(4容量)、19アミノ酸:0.1Arg(容量比);3:ntrPhe−tRNA、19アミノ酸:0.1Arg;4:ntrPhe−tRNA、19アミノ酸:0.01Arg(容量比);5:ntrPhe−tRNA、19アミノ酸:Argなし;ntrPhe−tRNA 20アミノ酸なし;7ntrPhe−tRNA 19アミノ酸なし。
【図6A】図6Aは、実施例1〜4で製造した糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸以外の化合物を導入した場合に全長タンパク質が合成されるかどうかを検証する際に使用したmRNA(ストレプトアビジン 83CGGG(配列番号6))の構造を示す。
【図6B】図6Bは、実施例1〜4で製造した糖鎖に結合し得る官能基(1〜6)を有するアミノ酸以外の化合物を導入した場合に全長タンパク質が合成されるかどうかを検証した結果(右下)を示す。
【図7】図7は、タンパク質合成系において、環状核酸分子および直鎖状核酸分子を用いた場合の比較を行った結果を示す。1:環状テンプレート;2:環状テンプレート(−1.His);3:直鎖状(mRNA)テンプレート;4:直鎖状(mRNA)テンプレート(−1.His)。
【図8】図8は、リゾチームの発現における種々の条件を示す。1:リゾチーム野生型;2:リゾチーム44CGGG;3:リゾチーム44CGGG(+Tyr−N3、30℃、0.1Arg);4:リゾチーム44CGGG(+Tyr−N3、37℃、0.1Arg);5:リゾチーム44CGGG(+Tyr−N3、37℃、20アミノ酸);6:リゾチーム44CGGG(+Tyr−N3、37℃、1/2アミノ酸(0.1Arg));7:リゾチーム44CGGG(+Tyr−N3、42℃、0.1Arg);8:リゾチーム44CGGG(+Hser(ONHTeoc)、37℃、0.1Arg);9:リゾチーム44CGGG(+Hser(ONHTeoc)×2、37℃、0.1Arg);
【図9】図9は、2−アミノ−4−[N−メチル−アミノオキシ]−酪酸を導入した変異ストレプトアビジンの合成の結果を、DHBをマトリックスとしてMALDI TOF MASSにより質量分析した結果である。横軸は、質量電荷比(m/z)を示し、a.i.は、絶対強度を示す。
【図10】図10は、実施例15において、2−アミノ−4−[N−メチル−アミノオキシ]−酪酸を導入した変異ストレプトアビジンをグルコースで修飾したときのDHBをマトリックスとしてMALDI TOFMASSでの分子量測定結果を示す。横軸は、質量電荷比(m/z)を示し、a.i.は、絶対強度を示す。
【図11】図11は、実施例15において、2−アミノ−4−[N−メチル−アミノオキシ]−酪酸を導入した変異ストレプトアビジンをマルトースで修飾したときのDHBをマトリックスとして使用したときのMALDITOF MASSでの分子量測定結果を示す。横軸は、質量電荷比(m/z)を示し、a.i.は、絶対強度を示す。
【図12】図12は、実施例15において、2−アミノ−4−[N−メチル−アミノオキシ]−酪酸を導入した変異ストレプトアビジンをマルトトリオースで修飾したときのDHBをマトリックスとして使用したときのMALDITOF MASSでの分子量測定結果を示す。横軸は、質量電荷比(m/z)を示し、a.i.は、絶対強度を示す。
【図13】図13は、実施例15において、2−アミノ−4−[N−メチル−アミノオキシ]−酪酸を導入した変異ストレプトアビジンをN-アセチルグルコサミンで修飾したときのDHBをマトリックスとして使用したときのMALDITOF MASSでの分子量測定結果を示す。横軸は、質量電荷比(m/z)を示し、a.i.は、絶対強度を示す。
【図14】図14は、実施例16においてラクトースによる修飾およびα2,3シアリルトランスフェラーゼ糖鎖伸長反応のDHBをマトリックスとして使用したときのMALDI TOF MASSでの分子量測定結果を示す。横軸は、質量電荷比(m/z)を示し、a.i.は、絶対強度を示す。
【配列の説明】
【0027】
配列番号1:本発明において使用されるtRNA(RNACGGG)の配列を示す。
配列番号2:RNANCCU(−CA)の配列を示す。
配列番号3:本発明で生産した4塩基コドンを有するリゾチームの核酸配列
配列番号4:本発明で生産した4塩基コドンを有するリゾチームのアミノ酸配列
配列番号5:本発明で生産した4塩基コドンを有するストレプトアビジンの核酸配列
配列番号6:本発明で生産した4塩基コドンを有するストレプトアビジンのアミノ酸配列。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0029】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0030】
本明細書において「糖鎖」とは、単位糖(単糖および/またはその誘導体)が1つ以上連なってできた化合物をいう。単位糖が2つ以上連なる場合は、各々の単位糖同士の間は、グリコシド結合による脱水縮合によって結合する。このような糖鎖としては、例えば、生体中に含有される多糖類(グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、シアル酸ならびにそれらの複合体および誘導体)の他、分解された多糖、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合生体分子から分解または誘導された糖鎖など広範囲なものが挙げられるがそれらに限定されない。したがって、本明細書では、糖鎖は、「多糖(ポリサッカリド)」、「糖質」、「炭水化物」と互換可能に使用され得る。また、特に言及しない場合、本明細書において「糖鎖」は、糖鎖および糖鎖含有物質の両方を包含することがある。
【0031】
本明細書において「単糖」とは、これより簡単な分子に加水分解されず、一般式C2nで表される化合物をいう。ここで、n=2、3、4、5、6、7、8、9および10であるものを、それぞれジオース、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース、オクトース、ノノースおよびデコースという。一般に鎖式多価アルコールのアルデヒドまたはケトンに相当するもので、前者をアルドース,後者をケトースという。
【0032】
本明細書において「単糖の誘導体」とは、単糖上の一つ以上の水酸基が別の置換基に置換され、結果生じる物質が単糖の範囲内にないものをいう。そのような単糖の誘導体としては、カルボキシル基を有する糖(例えば、C−1位が酸化されてカルボン酸となったアルドン酸(例えば、D−グルコースが酸化されたD−グルコン酸)、末端のC原子がカルボン酸となったウロン酸(D−グルコースが酸化されたD−グルクロン酸)、アミノ基またはアミノ基の誘導体(例えば、アセチル化されたアミノ基)を有する糖(例えば、N−アセチル−D−グルコサミン、N−アセチル−D−ガラクトサミンなど)、アミノ基およびカルボキシル基を両方とも有する糖(例えば、N−アセチルノイラミン酸(シアル酸)、N−アセチルムラミン酸など)、デオキシ化された糖(例えば、2−デオキシ−D−リボース)、硫酸基を含む硫酸化糖、リン酸基を含むリン酸化糖などがあるがそれらに限定されない。あるいは、ヘミアセタール構造を形成した糖において、アルコールと反応してアセタール構造のグリコシドもまた、単糖の誘導体の範囲内にある。
【0033】
本明細書において「糖鎖含有物質」とは、糖鎖および糖鎖以外の物質を含む物質をいう。このような糖鎖含有物質は、生体内に多く見出され、例えば、生体中に含有される多糖類の他、分解された多糖、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合生体分子から分解または誘導された糖鎖など広範囲なものが挙げられるがそれらに限定されない。
【0034】
本明細書において「糖タンパク質」または「糖ペプチド」とは、交換可能に使用され、糖鎖を含むタンパク質またはペプチドをいう。そのような糖タンパク質としては、種々の有用な機能性タンパク質が含まれ、例えば、酵素、ホルモン、サイトカイン、抗体、ワクチン、レセプター、血清タンパク質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0035】
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。ポリペプチドに含まれるアミノ酸は、天然アミノ酸であっても非天然アミノ酸であってもよく、改変されたアミノ酸(例えば、糖鎖を結合し得る官能基を含むアミノ酸)であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。
【0036】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
【0037】
本明細書において、「核酸分子」は、核酸、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用され、cDNA、mRNA、ゲノムDNAなどを含む。核酸分子は、環状(例えば、環状ベクター、プラスミドなど)または直鎖状(例えば、PCR断片)で提供され得る。本明細書では、核酸および核酸分子は、用語「遺伝子」の概念に含まれ得る。ある遺伝子配列をコードする核酸分子はまた、「スプライス変異体(改変体)」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を包含する。その名が示唆するように「スプライス変異体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス変異体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。
【0038】
本明細書において、「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定するものを構造遺伝子といい、
その発現を左右するものを調節遺伝子(たとえば、プロモーター)という。本明細書では、遺伝子は、特に言及しない限り、構造遺伝子および調節遺伝子を包含する。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/または「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を指すことがある。本明細書においてはまた、「遺伝子産物」は、遺伝子によって発現された「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を包含する。当業者であれば、遺伝子産物が何たるかはその状況に応じて理解することができる。
【0039】
本明細書において遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて同一性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、同一性と類似性とは同じ数値を示す。
【0040】
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。
【0041】
本明細書において「ターミネーター」は、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。
【0042】
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、通常RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。したがって、本明細書においてある遺伝子のプロモーターの働きを有する部分を「プロモーター部分」という。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモーター領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。本明細書では、例えば、T7プロモーターなどを使用することができる。本明細書において「インビトロ系において機能する」とは、プロモーターに関して使用されるとき、インビトロ系(例えば、無細胞系)において遺伝子の転写を促進することができる活性を有することをいう。そのような活性は、無細胞系において、適切な遺伝子の上流または下流に目的のプロモーターを配置して、そのプロモーターがその遺伝子の転写を促進することを確認することによって判定することができる。
【0043】
本明細書において「エンハンサー」とは、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられる配列をいう。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
【0044】
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0045】
本明細書において、核酸分子を細胞に導入する技術は、どのような技術でもよく、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。 そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその第三版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
【0046】
また、ベクターの導入方法としては、細胞にDNAを導入する上述のような方法であればいずれも用いることができ、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換など(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法など)が挙げられる。
【0047】
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」または「組み換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体および植物個体などの宿主細胞において自立複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。ベクターのうち、クローニングに適したベクターを「クローニングベクター」という。そのようなクローニングベクターは通常、制限酵素部位を複数含むマルチプルクローニング部位を含む。そのような制限酵素部位およびマルチプルクローニング部位は、当該分野において周知であり、当業者は、目的に合わせて適宜選択して使用することができる。そのような技術は、本明細書に記載される文献(例えば、Sambrookら、前出)に記載されている。
【0048】
本明細書において「発現ベクター」とは、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞またはタンパク質発現系に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0049】
本明細書において「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞などが例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれる。本発明において用いられる細胞は、形質転換体であってもよい。
【0050】
本発明において遺伝子操作などにおいて原核生物細胞が使用される場合、原核生物細胞としては、Escherichia属、Serratia属、Bacillus属、Brevibacterium属、Corynebacterium属、Microbacterium属、Pseudomonas属などに属する原核生物細胞、例えば、Escherichia coli XL1−Blue、Escherichia coli XL2−Blue、Escherichia coli DH1が例示される。
【0051】
本明細書において遺伝子発現(たとえば、mRNA発現、タンパク質発現)の「検出」または「定量」は、例えば、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイ)を用いた遺伝子解析方法によっても行われ得る。DNAアレイについては、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。プロテインアレイについては、Nat Genet.2002 Dec;32 Suppl:526−32に詳述されている。遺伝子発現の分析法としては、上述に加えて、RT−PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two−hybridシステム、インビトロ翻訳などが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなさらなる分析方法は、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔 羊土社(2002)などに記載されており、本明細書においてそれらの記載はすべて参考として援用される。
【0052】
本明細書において「糖鎖に結合し得る」とは、糖鎖に対して、結合(好ましくは、共有結合)することができる能力をいう。
【0053】
本明細書において「共有結合」とは、当該分野における通常の意味で用いられ、電子対が2つの原子に共有されて形成する化学結合をいう。このような共有結合としては、例えば、オキシム結合、ヒドラゾン結合、チオセミヒドラゾン結合、ペルヒドロチアジン環形成およびチアゾリジン環形成などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0054】
本明細書において「糖鎖に結合し得る(官能)基」とは、糖鎖が結合することができる任意の官能基をさす。そのような官能基は、「アルデヒド基と流体中で反応し得る官能基」であり得る。「アルデヒド基と流体中で反応し得る官能基」とは、糖鎖が水溶液などの流体中で形成する環状のヘミアセタール型と非環状のアルデヒド型との平衡において、アルデヒド基と反応して特異的かつ安定な結合をつくることができる性質を有する官能基をいう。このような官能基としては、アミノオキシ基、N−アルキルアミノオキシ基、ヒドラジド基、アジド基、チオセミカルバジド基およびシステイン残基などが挙げられるがそれらに限定されない。アミノオキシ基、N−アルキルアミノオキシ基、およびアジド基が好ましい。
【0055】
本明細書において「流体」は、本発明の物質(例えば、糖鎖に結合し得る(官能)基を含むアミノ酸)が、糖鎖と相互作用をする環境を提供することができる流体であればどのようなものでも使用することができる。好ましくは、そのような流体はケト基を含む物質は実質的に含まない。なぜなら、ケト基を含む物質が有意に含有されている場合、流体中のアルデヒド基と本発明の物質との反応が充分に進まないからである。したがって、ケト基を含む物質を含まない形態は必須ではないが、好ましい実施形態である。
【0056】
したがって、本明細書において使用される流体は、糖を環状のヘミアセタール型と非環状のアルデヒド型との平衡にもたらすようなものであることが好ましい。そのような流体としては、例えば、水溶液、有機溶媒およびこれらの混合物などが挙げられるがそれに限定されない。好ましくは、流体は水溶液である。
【0057】
本明細書において、「フラグメント」とは、全長のタンパク質またはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するタンパク質またはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、タンパク質の場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、タンパク質およびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または加減としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。
【0058】
本明細書において「ヌクレオチド」とは、糖部分がリン酸エステルになっているヌクレオシドをいう。本明細書において「ヌクレオシド」とは、塩基と糖とがN-グリコシド結合をした化合物をいう。核酸は、塩基がピリミジン塩基またはプリン塩基のヌクレオチド(ピリミジンヌクレオチドおよびプリンヌクレオチド)の重合体(ポリヌクレオチド)である。糖部分がD-リボースのものをリボヌクレオチドといい、RNAの加水分解によって得られる.糖部分がD-2’-デオキシリボースのものをデオキシリボヌクレオチドといい、DNAの酵素分解によって得られる。天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
本明細書において「アミノ酸」とは、当該分野において通常用いられる意味で用いられ、カルボキシル基とアミノ基とを有する有機化合物をいう。本明細書においてアミノ酸は、天然アミノ酸であっても非天然アミノ酸であっても良い。用語「天然のアミノ酸」とは、生体内に存在する天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、ホモセリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンなどが挙げられる。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。また、本発明において天然アミノ酸をもとに改変を施したアミノ酸は、天然アミノ酸でない場合は、非天然アミノ酸の範囲に入る。「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。本明細書では、アミノ酸の代わりに、アミノ酸アナログまたはアミノ酸模倣物を使用することができる。
【0060】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。
【0061】
本明細書において「糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸」は、代表的に、
【0062】
【化21】

を有し、(式中、Rはアミノ酸の側鎖から水素が一つ取れたものであり、R〜RおよびRは、それぞれ独立して保護基または水素を表し、Rは、糖鎖に結合し得る基)で表わされる、化合物で表され得る。
【0063】
本明細書において、アミノ酸の側鎖とは、アミノ酸をRCH(NH)COOHで表したときに、Rに相当する基をいう。本明細書では、アミノ酸には、RaRbCH(NH)COOH(RaおよびRbは、任意の基であり、一緒になって環状の基を形成していても良い)で示されるイミノ酸を含む。したがって、イミノ酸の場合は、RaまたはRbはあるいはその両方相当する基が側鎖に該当し得る。個々で例示的なアミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、ホモセリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンなどが挙げられるがそれらに限定されない。ここで、プロリンなどの環状イミノ酸の場合は、R1とR3またはR4また、アミノ酸がグリシンの場合は、R1は、単結合を意味し得る。
【0064】
ここで、R〜RおよびRは、それぞれ独立して、水素(保護されていない場合)、あるいは、Fmoc基、アセチル基、ベンジル基、ベンゾイル基、t−ブトキシカルボニル基、t−ブチルジメチル基、N−フタルイミジル基、シリル基、トリメチルシリルエチル基、トリメチルシリルエチルオキシカルボニル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジルエチレンオキシカルボニル基、アルキレノイル基(例えば、ペンテノイル基)、オキシアルキレノイル基などであり得る。好ましくは、オキシカルボニル基がリンカーとして結合している。オキシカルボニル基が介在することによってアミノ基との連結がスムーズになるからである。
【0065】
ここで、Rは、アミノオキシ基、N−アルキルアミノオキシ基、ヒドラジド基、アジド基、チオセミカルバジド基、システイン残基などであり得る。
【0066】
本明細書において、「5’−ホスホ−2’−デオキシリボヌクレオチジルリボヌクレオチド」(pdNpN)とは、リボヌクレオチドに、5−ホスホ−2−デオキシリボヌクレオチドが結合した化合物をいい、3位に任意のアミノ酸を結合させて、tRNAを作製するための基質として有用である。代表的なpdNpNとしては、pdCpA(5’−ホスホ−2’−デオキシリボシチジリルリボアデノシン)が挙げられるがそれらに限定されない。pdNpNにおけるデオキシリボヌクレオチジルは、β−D−チミジン、2’−デオキシ−β−D−シチジン、2’−デオキシ−β−D−アデノシン、2’−デオキシ−β−D−グアノシン、2’−デオキシ−β−D−ウラシルおよび2’−デオキシ−β−D−イノシンなどであり得る。pdNpNにおけるリボヌクレオチジルは、β−D−シチジン、β−D−アデノシン、β−D−グアノシン、β−D−ウラシルおよびβ−D−イノシンなどであり得る。pdCpAは以下の式で示される。
【0067】
【化22】

【0068】
本明細書において、「改変tRNA」とは、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含む、転写RNA(tRNA)をいう。tRNAは、細胞内には20種類のアミノ酸に対して,それぞれ1種またはそれ以上の分子種(isoaccepting tRNA)が存在する。tRNAは沈降係数4S、分子量2〜3万、ヌクレオチド数70〜90程度の比較的小さいRNAであり、多くの修飾塩基(例えば、メチル化ヌクレオシド)を含有することが知られている。tRNAのヌクレオチド配列(一次構造)は分子種によって互いに異なるが、いずれも二次構造としてクローバー葉モデルをとりうるような配列であり,それが折りたたまれてL字型三次構造をとることが知られており、各tRNA分子のほぼ中央部には、コドンと相補的なヌクレオチド配列(天然では3塩基配列であり、本発明において提供される改変tRNAでは3塩基以外(例えば、4塩基以上であり、代表的には4塩基)となっている)であるアンチコドンループを形成する。3’末端にそれぞれ特異的なアミノ酸を結合したアミノアシルtRNAが、リボソーム上でmRNAのコドンと相補的な塩基対合を形成し次々とコドンをアミノ酸に対応づけることが知られている。
【0069】
そのような改変tRNAとしては、例えば、5’−GCGGAUUUAGCUCAGUUGGGAGAGCGCCAGACUCCCGAAUCUGGAGGUCCUGUGUUCGAUCCACAGAAUUCGCACCA(tRNACCCGとも称される;配列番号1);5’−GCG GAU UUA GCU CAG UUG GGA GAG CGC CAG ACU NCCU AAU CUG GAG GUC CUG UGU UCG AUC CAC AGA AUU CGC AC(tRNANCCU(−CA)とも称される;Nは任意の塩基;配列番号2)が挙げられるがそれらに限定されない。例示的な改変tRNAとしては、例えば、配列番号2におけるNCCUの位置に、別の4塩基配列を置換することによって、本願発明のtRNAを作製することも可能である。
【0070】
本発明の改変tRNAにおいて用いられ得る4塩基配列としては、例えば、CUCU、CUCA、CCCU、CGGU、CGGGなどのアンチコドンが挙げられるがそれらに限定されない。
【0071】
本明細書において4塩基コドン(またはそれ以上の塩基コドン)の「最初の3塩基」とは、5’末端から並べた場合に、第1のヌクレオチドから第3のヌクレオチドから構成されるコドンをいう。同様に、4塩基コドン(またはそれ以上の塩基コドン)の「最後の3塩基」とは、5’末端から並べた場合に、3’から数えた場合の第1のヌクレオチドから第3のヌクレオチドから構成されるコドンをいう。同様に、4塩基コドン(またはそれ以上の塩基コドン)の「任意の3塩基」とは、5’末端から並べた場合に、任意の3連続ヌクレオチドから構成されるコドンをいう。コドンの対応表は、以下の表に示される。以下の表には、3塩基コドンのほか、これまでに報告がある非天然アミノ酸を組み込んだ4塩基コドンの代表例が示されている。
【0072】
【表1】


【0073】
本明細書において「アンチコドン」とは、コドンに相補的な配列またはその配列を有する分子をいう。例えば、CGTに対するアンチコドンは、ACGであり、A−T(またはU)、C−Gの相互の変換および5’と3’とを逆にすることによって相補的な配列を作製することができる。
【0074】
本明細書において、「対応する」コドン、tRNAとは、遺伝コドン(3塩基コドンに加え、4塩基およびそれ以上の塩基コドンが存在する場合はそのコドンも含む)の対応表に従って、対応関係にあるコドンとtRNAとの関係をいう。
【0075】
本明細書においてtRNAの量が「有意に多い」とは、そのtRNAによって得られるタンパク質の合成の量が有意に変更する程度に多い量をいう。代表的には、有意に多いは、統計学的に多いものをいうが、それに限定されず、当業者は、そのような量を当該分野において周知の技術を用いて選択することができる。例示的な有意に多い量としては、例えば、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、100倍などが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において「有意に少ない」とは、「有意に多い」と逆の概念を指す。
【0076】
本明細書において「4塩基コドンを3塩基コドンとして読んだ場合に生成するタンパク質」とは、本発明の改変核酸分子をすべてが3塩基コドンを使用したとして転写および翻訳した場合に生成するタンパク質をいう。4塩基コドンを3塩基コドンして読むので、そのコドン以降のアミノ酸配列が異なり、通常終止コドンがずれることから、生成するタンパク質の長さが変更される。
【0077】
本明細書において、機能性タンパク質に関し、「改変核酸分子」とは、4塩基コドンまたはその相補体を含み、4塩基コドンに1アミノ酸を対応させたときに機能性タンパク質をコードするものをいう。ここで、4塩基コドンには、通常、その4塩基コドンに対応する改変tRNAに結合されたアミノ酸が対応し、本発明では、代表的に、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸が相当する。
【0078】
改変tRNAは、当該分野において周知の手法およびHohsaka T. et al., (1996)J.Am.Chem.Soc. 118, 9778−9779;およびHohsaka,T.,et al., (1999) 、 J. Am. Chem. Soc.,121, 34−40などを参酌して作製することができる。例示的に説明すると、既存のtRNA(天然のものであっても、すでに改変されたものであっても良い)を用いて、例えば、部位特異的変異誘発などの遺伝子操作により所望の配列を有するように改変したものをコードするテンプレートDNAを逆転写してRNAを合成することによってtRNAを作製することができる。
【0079】
あるいは、tRNA(天然のものであっても、すでに改変されたものであっても良い)をコードするテンプレートDNAをT7プロモーター制御下になるように化学合成し、別のtRNA(−CA)のテンプレートを部位特異的変異誘発により作製する。次いで、化学的に合成したアミノアシルジヌクレオチドを、T7転写したテンプレートtRNAに対して、T4 RNAリガーゼを用いて連結することによって、アミノアシルtRNA(−CA)を作製することができる。
【0080】
本明細書において、「アミノアシルtRNA合成酵素」とは、特定のアミノ酸を活性化して,対応するtRNAに正しく結合させる酵素をいう。一つのアミノ酸とそれに対応する複数のtRNAに対して、通常、一つの特異的な酵素が存在するが、2以上の特異的な酵素が存在する場合も存在し、そのような場合は、いずれの酵素も本発明において使用することができる。アミノアシルtRNA合成酵素は、通常、2段階の反応:(1)ATP存在下でアミノ酸をアシル化するアミノ酸活性化反応;および(2)活性化アミノ酸を、対応するtRNAの3’−末端アデノシンの3’−(または2’−)OH基に転移する転移反応を触媒する。アミノアシルtRNA合成酵素は、通常のtRNAとアミノ酸との連結反応に使用されるほか、本発明の改変tRNAと保護pdNpNアミノ酸との連結反応にも用いることができる。改変tRNAと保護pdNpNアミノ酸との連結は、T7リガーゼなどのリガーゼを用いて行うことができる。この場合、アミノ酸は、アミノアシルジヌクレオチドとして提供されても良い。
【0081】
本明細書において「転写」とは、当該分野において通常使用される意味と同じ意味で用いられ、伝子DNAのヌクレオチド配列を相補的RNAとして写しとる反応をいう。この反応は、通常、生体内(細胞内)で行われるが、必要な材料が存在する限り、無細胞系でも行われ得る。そのような無細胞系には、当該分野において公知のDNA依存性RNAポリメラーゼおよびその補因子および/または調節因子、ならびに必要なヌクレオチドなどを含み得る。なお、転写の逆の反応(RNAを鋳型とするDNA合成反応)は、本明細書において「逆転写」という。
【0082】
本明細書において「翻訳」とは、タンパク質の生合成または人工合成の際に、mRNA上の塩基配列を読みとってその情報に対応するアミノ酸を選びだしペプチド鎖を形成していく過程をいう。翻訳もまた、通常、生体内(細胞内)で行われるが、必要な材料が存在する限り、無細胞系でも行われ得る。そのような無細胞系は、本明細書において「タンパク質合成系」という。生体内で行われる場合は、mRNAはリボソームと結合し,そのmRNA上のコドン(3連塩基)にそれぞれ対応した構造をもつアミノアシルtRNAによって,アミノ酸は順次連結される。無細胞系は、細胞から取り出したリボゾーム系および他の必要なアミノ酸などを含み、これらの系は試験管内で行われ得る。
【0083】
本明細書においてタンパク質合成系は、翻訳に必要なセットのtRNAおよびmRNAを翻訳するための翻訳酵素(代表的には、リボソームRNA=rRNAまたはそれを含むリボソーム)ならびに他の調節因子を含む。
【0084】
タンパク質合成は、代表的に、以下の4段階の反応工程を含む。(1)アミノ酸の活性化:各アミノ酸はそのアミノ酸に特異的なアミノアシルtRNA合成酵素の上で、ATP存在下にアシル化され活性化される.続いて同じ酵素上で,対応するtRNAの3’末端アデノシンにエステル結合してアミノアシルtRNAを形成する。この段階は、アミノ酸とそのアミノ酸に対するアンチコドンを担ったtRNAを結合する。すなわち遺伝情報とアミノ酸を正確に直接結びつける点で、タンパク質生合成の正確さを維持するのに重要である。本発明では、この段階において、改変tRNAを使用することができる。(2)合成開始:タンパク質生合成は、通常、開始コドン(AUG)から開始される。開始コドンは、原核細胞ではホルミルメチオニルtRNA(fMet−tRNA)、真核細胞ではメチオニルtRNAにより認識される。まずタンパク質鎖開始因子・GTPの介助により、mRNAがリボソーム上の正しい位置に固定され、mRNA上の開始コドンにfMet−tRNAが結合した開始複合体が形成される。(3)タンパク質鎖の延長:mRNA上の次のコドンで規定されるアミノアシルtRNAが、延長因子・GTP・Mg2+の介助により複合体上に結合し、次のコドンと塩基対を形成する。この段階でfMetは次のアミノ酸のアミノ基に転移しペプチド結合を形成する。この反応は、リボソームサブユニット中のrRNA(原核細胞では23SrRNA)により触媒される。次いでリボソームは、mRNA上を1コドン分だけ5’→3’方向へ移動する。このサイクルを繰り返すことで、mRNAの示す遺伝コドンどおりにペプチド鎖は順次C末端方向に延長する。(4)合成の終結:次のアミノアシルtRNAが入る位置に終止コドンが来ると、tRNAの代わりにタンパク質鎖終止因子が結合し、新生タンパク質鎖をtRNAから切り離してリボソームから遊離させる。リボソームは次の蛋白質生合成に再利用される。遊離した新生タンパク質鎖は折り畳まれ、プロセッシングを受けるとか何らかの翻訳後修飾を受けるなどで,最終的な生物活性をもった立体構造のタンパク質が生成される。
【0085】
タンパク質合成系は、好ましくは、転写に必要な因子を含み得る。このような場合、無細胞発現系とも称される。
【0086】
改変tRNAを用いた場合の模式図は、図1に示す。また、改変tRNAを用いてタンパク質合成をする全体像を図2に示す。
【0087】
本明細書において使用される4塩基コドンは、3塩基コドンで読まれた場合には通常終止コドンが別の場所に移動することからフラグメントとして翻訳が終結するかまたはより長いタンパク質として翻訳されることから、4塩基コドンで翻訳された生成物とは区別できることから、3塩基コドンと共存することができるので,自然界の3塩基コドンによる20種類のアミノ酸の体系を大きく崩すことなしに導入できる。
【0088】
本明細書において、物質(例えば、細胞、核酸またはタンパク質などの生物学的因子)の「単離」とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の物質(例えば、糖鎖または糖鎖含有物質である場合、糖鎖または糖鎖含有物質以外の因子、あるいは、目的とする糖鎖または糖鎖含有物質以外の糖鎖または糖鎖含有物質;核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」、糖鎖または糖鎖含有物質には、本発明の精製方法によって精製された糖鎖または糖鎖含有物質が含まれる。したがって、単離された糖鎖または糖鎖含有物質は、化学的に合成した糖鎖または糖鎖含有物質を包含する。
【0089】
本明細書において、物質(例えば、糖鎖、核酸またはタンパク質などの生物学的因子)の「精製」とは、その物質に天然に随伴する因子の少なくとも一部を除去することをいう。したがって、精製および分離は、その形態が一部重複する。したがって、通常、精製された物質(例えば、糖鎖または糖鎖含有物質のような生物学的因子)におけるその物質の純度は、その物質が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)が、天然に随伴する因子が低減されている限り、濃縮されていない状態も「精製」の概念に包含される。
【0090】
本明細書において物質(例えば、糖鎖または糖鎖含有物質のような生物学的因子)の「濃縮」とは、その物質が濃縮前に試料に含まれている含有量よりも高い濃度に上昇させる行為をいう。従って、濃縮もまた、精製および分離と、その概念が一部重複する。したがって、通常、濃縮された物質(例えば、糖鎖または糖鎖含有物質のような生物学的因子)は、その物質が通常存在する状態における不純物の含有量は低減されているが、目的とする物質の含有量が増加している限り、ある特定の不純物が増加していてもよく、「精製」されていない状態も「濃縮」の概念に包含される。
【0091】
(細胞系を用いる場合のタンパク質の製造方法)
本発明のタンパク質をコードするDNAを組み込んだ組換え体ベクターを保有する微生物、動物細胞などに由来する形質転換体を、本発明の改変tRNAおよび/または糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を用いて、通常の培養方法に従って培養し、本発明のタンパク質を生成蓄積させ、本発明の培養物より本発明のタンパク質を採取することにより、本発明のタンパク質または糖タンパク質を製造することができる。
【0092】
本発明の形質転換体を培地に培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。大腸菌等の原核生物あるいは酵母等の真核生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、本発明の生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0093】
炭素源としては、それぞれの微生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類を用いることができる。
【0094】
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の各種無機酸または有機酸のアンモニウム塩、その他含窒素物質、ならびに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体およびその消化物等を用いることができる。
【0095】
無機塩としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を用いることができる。培養は、振盪培養または深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行う。
【0096】
培養温度は15〜40℃がよく、培養時間は、通常5時間〜7日間である。培養中pHは、3.0〜9.0に保持する。pHの調整は、無機あるいは有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。また培養中必要に応じて、アンピシリンまたはテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0097】
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。遺伝子を導入した植物の細胞または器官は、ジャーファーメンターを用いて大量培養することができる。培養する培地としては、一般に使用されているムラシゲ・アンド・スクーグ(MS)培地、ホワイト(White)培地、またはこれら培地にオーキシン、サイトカイニン等、植物ホルモンを添加した培地等を用いることができる。
【0098】
例えば、動物細胞を用いる場合、本発明の細胞を培養する培地は、一般に使用されているRPMI1640培地[The Journal of the American Medical Association,199,519(1967)]、EagleのMEM培地[Science,122,501(1952)]、DMEM培地[Virology,8,396(1959)]、199培地[Proceedings of the Society for the Biological Medicine,73,1(1950)]またはこれら培地にウシ胎児血清等を添加した培地等が用いられる。
【0099】
培養は、通常pH6〜8、25〜40℃、5%CO2存在下等の条件下で1〜7日間行う。また培養中必要に応じて、カナマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0100】
(タンパク質の精製および単離)
本発明のタンパク質をコードする核酸配列で形質転換された形質転換体の培養物から、本発明のタンパク質を単離または精製するためには、当該分野で周知慣用の通常の酵素の単離または精製法を用いることができる。例えば、本発明のタンパク質が本発明のタンパク質製造用形質転換体の細胞外に本発明のタンパク質が分泌される場合には、その培養物を遠心分離等の手法により処理し、可溶性画分を取得する。その可溶性画分から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−Sepharose、DIAION HPA−75(三菱化学)等樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia)等の樹脂を用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等の樹脂を用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用い、精製標品を得ることができる。
【0101】
本発明のタンパク質が本発明のタンパク質製造用形質転換体の細胞内に溶解状態で蓄積する場合には、培養物を遠心分離することにより、培養物中の細胞を集め、その細胞を洗浄した後に、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモジナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。その無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−Sepharose、DIAION HPA−75(三菱化学)等樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia)等の樹脂を用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等の樹脂を用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用いることによって、精製標品を得ることができる。
【0102】
本発明のタンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより得られた沈澱画分より、通常の方法により本発明のタンパク質を回収後、そのタンパク質の不溶体をタンパク質変性剤で可溶化する。この可溶化液を、タンパク質変性剤を含まないあるいはタンパク質変性剤の濃度をタンパク質が変性しない程度に希薄な溶液に希釈、あるいは透析し、本発明のタンパク質を正常な立体構造に構成させた後、上記と同様の単離精製法により精製標品を得ることができる。
【0103】
また、通常のタンパク質の精製方法[J.Evan.Sadlerら:Methods in Enzymology,83,458]に準じて精製できる。また、本発明のタンパク質を他のタンパク質との融合タンパク質として生産し、融合したタンパク質に親和性をもつ物質を用いたアフィニティークロマトグラフィーを利用して精製することもできる[山川彰夫,実験医学(Experimental Medicine),13,469−474(1995)]。例えば、Loweらの方法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227−8231(1989)、GenesDevelop.,4,1288(1990)]に記載の方法に準じて、本発明のタンパク質をプロテインAとの融合タンパク質として生産し、イムノグロブリンGを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。
【0104】
また、本発明のタンパク質をFLAGペプチドとの融合タンパク質として生産し、抗FLAG抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990)]。
【0105】
さらに、本発明のタンパク質自身に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製することもできる。本発明のタンパク質は、公知の方法[J.Biomolecular NMR,6,129−134、Science,242,1162−1164、J.Biochem.,110,166−168(1991)]に準じて、in vitro転写・翻訳系を用いてを生産することができる。
【0106】
上記で取得されたタンパク質のアミノ酸情報を基に、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても本発明のタンパク質を製造することができる。また、Advanced ChemTech、Applied Biosystems、Pharmacia Biotech、Protein Technology Instrument、Synthecell−Vega、PerSeptive、島津製作所等のペプチド合成機を利用し化学合成することもできる。
【0107】
精製した本発明のタンパク質の構造解析は、タンパク質化学で通常用いられる方法、例えば遺伝子クローニングのためのタンパク質構造解析(平野久著、東京化学同人発行、1993年)に記載の方法により実施可能である。
【0108】
(変異型タンパク質の作製方法)
本発明タンパク質のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加は、出願前周知技術である部位特異的変異誘発法により実施することができる。かかる1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加は、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38,JohnWiley & Sons(1987−1997)、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,79,6409(1982)、Gene,34,315(1985)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci USA,82,488(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,5662(1984)、Science,224,1431(1984)、PCT WO85/00817(1985)、Nature,316,601(1985)等に記載の方法に準じて調製することができる。
【0109】
(有機化学)
本明細書において「アルキル」とは、メタン、エタン、プロパンのような脂肪族炭化水素(アルカン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n+1−で表される(ここで、nは正の整数である)。アルキルは、直鎖または分枝鎖であり得る。本明細書において「置換されたアルキル」とは、以下に規定する置換基によってアルキルのHが置換されたアルキルをいう。これらの具体例は、C1〜C2アルキル、C1〜C3アルキル、C1〜C4アルキル、C1〜C5アルキル、C1〜C6アルキル、C1〜C7アルキル、C1〜C8アルキル、C1〜C9アルキル、C1〜C10アルキル、C1〜C11アルキルまたはC1〜C12アルキル、C1〜C2置換されたアルキル、C1〜C3置換されたアルキル、C1〜C4置換されたアルキル、C1〜C5置換されたアルキル、C1〜C6置換されたアルキル、C1〜C7置換されたアルキル、C1〜C8置換されたアルキル、C1〜C9置換されたアルキル、C1〜C10置換されたアルキル、C1〜C11置換されたアルキルまたはC1〜C12置換されたアルキルであり得る。ここで、例えばC1〜C10アルキルとは、炭素原子を1〜10個有する直鎖または分枝状のアルキルを意味し、メチル(CH−)、エチル(C−)、n−プロピル(CHCHCH−)、イソプロピル((CHCH−)、n−ブチル(CHCHCHCH−)、n−ペンチル(CHCHCHCHCH−)、n−ヘキシル(CHCHCHCHCHCH−)、n−ヘプチル(CHCHCHCHCHCHCH−)、n−オクチル(CHCHCHCHCHCHCHCH−)、n−ノニル(CHCHCHCHCHCHCHCHCH−)、n−デシル(CHCHCHCHCHCHCHCHCHCH−)、−C(CHCHCHCH(CH、−CHCH(CHなどが例示される。また、例えば、C1〜C10置換されたアルキルとは、C1〜C10アルキルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0110】
本明細書において「置換されていてもよいアルキル」とは、上で定義した「アルキル」または「置換されたアルキル」のいずれであってもよいことを意味する。
【0111】
本明細書において「アルキレン」とは、メチレン、エチレン、プロピレンのような脂肪族炭化水素(アルカン)から水素原子が二つ失われて生ずる2価の基をいい、一般に−C2n−で表される(ここで、nは正の整数である)。アルキレンは、直鎖または分枝鎖であり得る。本明細書において「置換されたアルキレン」とは、以下に規定する置換基によってアルキレンのHが置換されたアルキレンをいう。これらの具体例は、C1〜C2アルキレン、C1〜C3アルキレン、C1〜C4アルキレン、C1〜C5アルキレン、C1〜C6アルキレン、C1〜C7アルキレン、C1〜C8アルキレン、C1〜C9アルキレン、C1〜C10アルキレン、C1〜C11アルキレンまたはC1〜C12アルキレン、C1〜C2置換されたアルキレン、C1〜C3置換されたアルキレン、C1〜C4置換されたアルキレン、C1〜C5置換されたアルキレン、C1〜C6置換されたアルキレン、C1〜C7置換されたアルキレン、C1〜C8置換されたアルキレン、C1〜C9置換されたアルキレン、C1〜C10置換されたアルキレン、C1〜C11置換されたアルキレンまたはC1〜C12置換されたアルキレンであり得る。ここで、例えばC1〜C10アルキレンとは、炭素原子を1〜10個有する直鎖または分枝状のアルキレンを意味し、メチレン(−CH−)、エチレン(−C−)、n−プロピレン(−CHCHCH−)、イソプロピレン(−(CHC−)、n−ブチレン(−CHCHCHCH−)、n−ペンチレン(−CHCHCHCHCH−)、n−ヘキシレン(−CHCHCHCHCHCH−)、n−ヘプチレン(−CHCHCHCHCHCHCH−)、n−オクチレン(−CHCHCHCHCHCHCHCH−)、n−ノニレン(−CHCHCHCHCHCHCHCHCH−)、n−デシレン(−CHCHCHCHCHCHCHCHCHCH−)、−CHC(CH−などが例示される。また、例えば、C1〜C10置換されたアルキレンとは、C1〜C10アルキレンであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。本明細書において「アルキレン」は、酸素原子および硫黄原子から選択される原子を1またはそれ以上含んでいてもよい。
【0112】
本明細書において「置換されていてもよいアルキレン」とは、上で定義した「アルキレン」または「置換されたアルキレン」のいずれであってもよいことを意味する。
【0113】
本明細書において「シクロアルキル」とは、環式構造を有するアルキルをいう。「置換されたシクロアルキル」とは、以下に規定する置換基によってシクロアルキルのHが置換されたシクロアルキルをいう。具体例としては、C3〜C4シクロアルキル、C3〜C5シクロアルキル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C7シクロアルキル、C3〜C8シクロアルキル、C3〜C9シクロアルキル、C3〜C10シクロアルキル、C3〜C11シクロアルキル、C3〜C12シクロアルキル、C3〜C4置換されたシクロアルキル、C3〜C5置換されたシクロアルキル、C3〜C6置換されたシクロアルキル、C3〜C7置換されたシクロアルキル、C3〜C8置換されたシクロアルキル、C3〜C9置換されたシクロアルキル、C3〜C10置換されたシクロアルキル、C3〜C11置換されたシクロアルキルまたはC3〜C12置換されたシクロアルキルであり得る。例えば、シクロアルキルとしては、シクロプロピル、シクロヘキシルなどが例示される。
【0114】
本明細書において「置換されていてもよいシクロアルキル」とは、上で定義した「シクロアルキル」または「置換されたシクロアルキル」のいずれであってもよいことを意味する。
【0115】
本明細書において「アルケニル」とは、分子内に二重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n−1−で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルケニル」とは、以下に規定する置換基によってアルケニルのHが置換されたアルケニルをいう。具体例としては、C2〜C3アルケニル、C2〜C4アルケニル、C2〜C5アルケニル、C2〜C6アルケニル、C2〜C7アルケニル、C2〜C8アルケニル、C2〜C9アルケニル、C2〜C10アルケニル、C2〜C11アルケニルまたはC2〜C12アルケニル、C2〜C3置換されたアルケニル、C2〜C4置換されたアルケニル、C2〜C5置換されたアルケニル、C2〜C6置換されたアルケニル、C2〜C7置換されたアルケニル、C2〜C8置換されたアルケニル、C2〜C9置換されたアルケニル、C2〜C10置換されたアルケニル、C2〜C11置換されたアルケニルまたはC2〜C12置換されたアルケニルであり得る。ここで、例えばC2〜C10アルキルとは、炭素原子を2〜10個含む直鎖または分枝状のアルケニルを意味し、ビニル(CH=CH−)、アリル(CH=CHCH−)、CHCH=CH−などが例示される。また、例えば、C2〜C10置換されたアルケニルとは、C2〜C10アルケニルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0116】
本明細書において「置換されていてもよいアルケニル」とは、上で定義した「アルケニル」または「置換されたアルケニル」のいずれであってもよいことを意味する。
【0117】
本明細書において「アルケニレン」とは、分子内に二重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が二つ失われて生ずる2価の基をいい、一般に−C2n−2−で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルケニレン」とは、以下に規定する置換基によってアルケニレンのHが置換されたアルケニレンをいう。具体例としては、C2〜C25アルケニレンまたはC2〜C25置換されたアルケニレンが挙げられ、なかでも特にC2〜C3アルケニレン、C2〜C4アルケニレン、C2〜C5アルケニレン、C2〜C6アルケニレン、C2〜C7アルケニレン、C2〜C8アルケニレン、C2〜C9アルケニレン、C2〜C10アルケニレン、C2〜C11アルケニレンまたはC2〜C12アルケニレン、C2〜C3置換されたアルケニレン、C2〜C4置換されたアルケニレン、C2〜C5置換されたアルケニレン、C2〜C6置換されたアルケニレン、C2〜C7置換されたアルケニレン、C2〜C8置換されたアルケニレン、C2〜C9置換されたアルケニレン、C2〜C10置換されたアルケニレン、C2〜C11置換されたアルケニレンまたはC2〜C12置換されたアルケニレンが好ましい。ここで、例えばC2〜C10アルキルとは、炭素原子を2〜10個含む直鎖または分枝状のアルケニレンを意味し、−CH=CH−、−CH=CHCH−、−(CH)C=CH−などが例示される。また、例えば、C2〜C10置換されたアルケニレンとは、C2〜C10アルケニレンであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。本明細書において「アルケニレン」は、酸素原子および硫黄原子から選択される原子を1またはそれ以上含んでいてもよい。
【0118】
本明細書において「置換されていてもよいアルケニレン」とは、上で定義した「アルケニレン」または「置換されたアルケニレン」のいずれであってもよいことを意味する。
【0119】
本明細書において「シクロアルケニル」とは、環式構造を有するアルケニルをいう。「置換されたシクロアルケニル」とは、以下に規定する置換基によってシクロアルケニルのHが置換されたシクロアルケニルをいう。具体例としては、C3〜C4シクロアルケニル、C3〜C5シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C7シクロアルケニル、C3〜C8シクロアルケニル、C3〜C9シクロアルケニル、C3〜C10シクロアルケニル、C3〜C11シクロアルケニル、C3〜C12シクロアルケニル、C3〜C4置換されたシクロアルケニル、C3〜C5置換されたシクロアルケニル、C3〜C6置換されたシクロアルケニル、C3〜C7置換されたシクロアルケニル、C3〜C8置換されたシクロアルケニル、C3〜C9置換されたシクロアルケニル、C3〜C10置換されたシクロアルケニル、C3〜C11置換されたシクロアルケニルまたはC3〜C12置換されたシクロアルケニルであり得る。例えば、好ましいシクロアルケニルとしては、1−シクロペンテニル、2−シクロヘキセニルなどが例示される。
【0120】
本明細書において「置換されていてもよいシクロアルケニル」とは、上で定義した「シクロアルケニル」または「置換されたシクロアルケニル」のいずれであってもよいことを意味する。
【0121】
本明細書において「アルキニル」とは、アセチレンのような、分子内に三重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n−3−で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルキニル」とは、以下に規定する置換基によってアルキニルのHが置換されたアルキニルをいう。具体例としては、C2〜C3アルキニル、C2〜C4アルキニル、C2〜C5アルキニル、C2〜C6アルキニル、C2〜C7アルキニル、C2〜C8アルキニル、C2〜C9アルキニル、C2〜C10アルキニル、C2〜C11アルキニル、C2〜C12アルキニル、C2〜C3置換されたアルキニル、C2〜C4置換されたアルキニル、C2〜C5置換されたアルキニル、C2〜C6置換されたアルキニル、C2〜C7置換されたアルキニル、C2〜C8置換されたアルキニル、C2〜C9置換されたアルキニル、C2〜C10置換されたアルキニル、C2〜C11置換されたアルキニルまたはC2〜C12置換されたアルキニルであり得る。ここで、例えば、C2〜C10アルキニルとは、例えば炭素原子を2〜10個含む直鎖または分枝状のアルキニルを意味し、エチニル(CH≡C−)、1−プロピニル(CHC≡C−)などが例示される。また、例えば、C2〜C10置換されたアルキニルとは、C2〜C10アルキニルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0122】
本明細書において「置換されていてもよいアルキニル」とは、上で定義した「アルキニル」または「置換されたアルキニル」のいずれであってもよいことを意味する。
【0123】
本明細書において「アルコキシ」とは、アルコール類のヒドロキシ基の水素原子が失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n+1O−で表される(ここで、nは1以上の整数である)。「置換されたアルコキシ」とは、以下に規定する置換基によってアルコキシのHが置換されたアルコキシをいう。具体例としては、C1〜C2アルコキシ、C1〜C3アルコキシ、C1〜C4アルコキシ、C1〜C5アルコキシ、C1〜C6アルコキシ、C1〜C7アルコキシ、C1〜C8アルコキシ、C1〜C9アルコキシ、C1〜C10アルコキシ、C1〜C11アルコキシ、C1〜C12アルコキシ、C1〜C2置換されたアルコキシ、C1〜C3置換されたアルコキシ、C1〜C4置換されたアルコキシ、C1〜C5置換されたアルコキシ、C1〜C6置換されたアルコキシ、C1〜C7置換されたアルコキシ、C1〜C8置換されたアルコキシ、C1〜C9置換されたアルコキシ、C1〜C10置換されたアルコキシ、C1〜C11置換されたアルコキシまたはC1〜C12置換されたアルコキシであり得る。ここで、例えば、C1〜C10アルコキシとは、炭素原子を1〜10個含む直鎖または分枝状のアルコキシを意味し、メトキシ(CHO−)、エトキシ(CO−)、n−プロポキシ(CHCHCHO−)などが例示される。
【0124】
本明細書において「置換されていてもよいアルコキシ」とは、上で定義した「アルコキシ」または「置換されたアルコキシ」のいずれであってもよいことを意味する。
【0125】
本明細書において「ヘテロ環(基)」とは、炭素およびヘテロ原子をも含む環状構造を有する基をいう。ここで、ヘテロ原子は、O、SおよびNからなる群より選択され、同一であっても異なっていてもよく、1つ含まれていても2以上含まれていてもよい。ヘテロ環基は、芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。ヘテロ環基は置換されていてもよい。
【0126】
本明細書において「置換されていてもよいヘテロ環(基)」とは、上で定義した「ヘテロ環(基)」または「置換されたヘテロ環(基)」のいずれであってもよいことを意味する。
【0127】
本明細書において「アルコール」とは、脂肪族炭化水素の1または2以上の水素原子をヒドロキシル基で置換した有機化合物をいう。本明細書においては、ROHとも表記される。ここで、Rは、アルキル基である。好ましくは、Rは、C1〜C6アルキルであり得る。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0128】
本明細書において「炭素環基」とは、炭素のみを含む環状構造を含む基であって、前記の「シクロアルキル」、「置換されたシクロアルキル」、「シクロアルケニル」、「置換されたシクロアルケニル」以外の基をいう。炭素環基は芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。「置換された炭素環基」とは、以下に規定する置換基によって炭素環基のHが置換された炭素環基をいう。具体例としては、C3〜C4炭素環基、C3〜C5炭素環基、C3〜C6炭素環基、C3〜C7炭素環基、C3〜C8炭素環基、C3〜C9炭素環基、C3〜C10炭素環基、C3〜C11炭素環基、C3〜C12炭素環基、C3〜C4置換された炭素環基、C3〜C5置換された炭素環基、C3〜C6置換された炭素環基、C3〜C7置換された炭素環基、C3〜C8置換された炭素環基、C3〜C9置換された炭素環基、C3〜C10置換された炭素環基、C3〜C11置換された炭素環基またはC3〜C12置換された炭素環基であり得る。炭素環基はまた、C4〜C7炭素環基またはC4〜C7置換された炭素環基であり得る。炭素環基としては、フェニル基から水素原子が1個欠失したものが例示される。ここで、水素の欠失位置は、化学的に可能な任意の位置であり得、芳香環上であってもよく、非芳香環上であってもよい。
【0129】
本明細書において「置換されていてもよい炭素環基」とは、上で定義した「炭素環基」または「置換された炭素環基」のいずれであってもよいことを意味する。
【0130】
本明細書において「ヘテロ環基」とは、炭素およびヘテロ原子をも含む環状構造を有する基をいう。ここで,ヘテロ原子は、O、SおよびNからなる群より選択され、同一であっても異なっていてもよく、1つ含まれていても2以上含まれていてもよい。ヘテロ環基は、芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。「置換されたヘテロ環基」とは、以下に規定する置換基によってヘテロ環基のHが置換されたヘテロ環基をいう。具体例としては、C3〜C4炭素環基、C3〜C5炭素環基、C3〜C6炭素環基、C3〜C7炭素環基、C3〜C8炭素環基、C3〜C9炭素環基、C3〜C10炭素環基、C3〜C11炭素環基、C3〜C12炭素環基、C3〜C4置換された炭素環基、C3〜C5置換された炭素環基、C3〜C6置換された炭素環基、C3〜C7置換された炭素環基、C3〜C8置換された炭素環基、C3〜C9置換された炭素環基、C3〜C10置換された炭素環基、C3〜C11置換された炭素環基またはC3〜C12置換された炭素環基の1つ以上の炭素原子をヘテロ原子で置換したものであり得る。ヘテロ環基はまた、C4〜C7炭素環基またはC4〜C7置換された炭素環基の炭素原子を1つ以上へテロ原子で置換したものであり得る。ヘテロ環基としては、チエニル基、ピロリル基、フリル基、イミダゾリル基、ピリジル基などが例示される。水素の欠失位置は、化学的に可能な任意の位置であり得、芳香環上であってもよく、非芳香環上であってもよい。
【0131】
本明細書において、炭素環基またはヘテロ環基は、下記に定義されるように1価の置換基で置換され得ることに加えて、2価の置換基で置換され得る。そのような二価の置換は、オキソ置換(=O)またはチオキソ置換(=S)であり得る。
【0132】
本明細書において「ハロゲン」とは、周期表7B族に属するフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などの元素の1価の基をいう。
【0133】
本明細書において「ヒドロキシ」とは、−OHで表される基をいう。「置換されたヒドロキシ」とは、ヒドロキシのHが下記で定義される置換基で置換されているものをいう。
【0134】
本明細書において「チオール」とは、ヒドロキシ基の酸素原子を硫黄原子で置換した基(メルカプト基)であり、−SHで表される。「置換されたチオール」とは、メルカプトのHが下記で定義される置換基で置換されている基をいう。
【0135】
本明細書において「シアノ」とは、−CNで表される基をいう。「ニトロ」とは、−NOで表される基をいう。「アミノ」とは、−NHで表される基をいう。「置換されたアミノ」とは、アミノのHが以下で定義される置換基で置換されたものをいう。
【0136】
本明細書において「カルボキシ」とは、−COOHで表される基をいう。「置換されたカルボキシ」とは、カルボキシのHが以下に定義される置換基で置換されたものをいう。
【0137】
本明細書において「チオカルボキシ」とは、カルボキシ基の酸素原子を硫黄原子で置換した基をいい、−C(=S)OH、−C(=O)SHまたは−CSSHで表され得る。「置換されたチオカルボキシ」とは、チオカルボキシのHが以下に定義される置換基で置換されたものをいう。
【0138】
本明細書において「アシル」とは、カルボン酸からOHを除いてできる1価の基をいう。アシル基の代表例としては、アセチル(CHCO−)、ベンゾイル(CCO−)などが挙げられる。「置換されたアシル」とは、アシルの水素を以下に定義される置換基で置換したものをいう。
【0139】
本明細書において「アミド」とは、アンモニアの水素を酸基(アシル基)で置換した基であり、好ましくは、−CONHで表される。「置換されたアミド」とは、アミドが置換されたものをいう。
【0140】
本明細書において「カルボニル」とは、アルデヒドおよびケトンの特性基である−(C=O)−を含むものを総称したものをいう。「置換されたカルボニル」は、下記において選択される置換基で置換されているカルボニル基を意味する。
【0141】
本明細書において「チオカルボニル」とは、カルボニルにおける酸素原子を硫黄原子に置換した基であり、特性基−(C=S)−を含む。チオカルボニルには、チオケトンおよびチオアルデヒドが含まれる。「置換されたチオカルボニル」とは、下記において選択される置換基で置換されたチオカルボニルを意味する。
【0142】
本明細書において「スルホニル」とは、特性基である−SO−を含むものを総称したものをいう。「置換されたスルホニル」とは、下記において選択される置換基で置換されたスルホニルを意味する。
【0143】
本明細書において「スルフィニル」とは、特性基である−SO−を含むものを総称したものをいう。「置換されたスルフィニル」とは、下記において選択される置換基で置換されているスルフィニルを意味する。
【0144】
本明細書において「アリール」とは、芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1個離脱して生ずる基をいい、本明細書において、炭素環基に包含される。
【0145】
本明細書においては、特に言及がない限り、置換は、ある有機化合物または置換基中の1または2以上の水素原子を他の原子または原子団で置き換えることをいう。水素原子を1つ除去して1価の置換基に置換することも可能であり、そして水素原子を2つ除去して2価の置換基に置換することも可能である。
【0146】
本明細書においては、特に言及がない限り、置換は、ある有機化合物または置換基中の1または2以上の水素原子を他の原子または原子団で置き換えることをいう。水素原子を1つ除去して1価の置換基に置換することも可能であり、そして水素原子を2つ除去して2価の置換基に置換することも可能である。
【0147】
本発明における置換基としては、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、アルコキシ、炭素環基、ヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、チオール、シアノ、ニトロ、アミノ、カルボキシ、カルバモイル、アシル、アシルアミノ、チオカルボキシ、アミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニルまたは置換されたスルフィニルが挙げられるがそれらに限定されない。このような置換基は、本発明において、アミノ酸の設計のときに、適宜利用することができる。
【0148】
好ましくは、置換基は、複数存在する場合それぞれ独立して、水素原子またはアルキルであり得るが、複数の置換基全てが水素原子であることはない。より好ましくは、独立して、置換基は、複数存在する場合それぞれ独立して、水素およびC1〜C6アルキルからなる群より選択され得る。置換基は、すべてが水素以外の置換基を有していても良いが、好ましくは、少なくとも1つの水素、より好ましくは、2〜n(ここでnは置換基の個数)の水素を有し得る。置換基のうち水素の数が多いことが好ましくあり得る。大きな置換基または極性のある置換基は本発明の効果(特に、アルデヒド基との相互作用)に障害を有し得るからである。従って、水素以外の置換基としては、好ましくは、C1〜C6アルキル、C1〜C5アルキル、C1〜C4アルキル、C1〜C3アルキル、C1〜C2アルキル、メチルなどであり得る。ただし、本発明の効果を増強し得ることもあることから、大きな置換基を有することもまた好ましくあり得る。
【0149】
本明細書において、C1、C2、、、Cnは、炭素数を表す。従って、C1は炭素数1個の置換基を表すために使用される。
【0150】
本明細書において、「光学異性体」とは、結晶または分子の構造が鏡像関係にあって、重ねあわせることのできない一対の化合物の一方またはその組をいう。立体異性体の一形態であり、他の性質は同じであるにもかかわらず、旋光性のみが異なる。
【0151】
本明細書において「保護反応」とは、Bocのような保護基を、保護が所望される官能基に付加する反応をいう。保護基により官能基を保護することによって、より反応性の高い官能基の反応を抑制し、より反応性の低い官能基のみを反応させることができる。保護反応は、例えば、脱水反応により行うことができる。
【0152】
本明細書において「脱保護反応」とは、Bocのような保護基を脱離させる反応をいう。脱保護反応としては、Pd/Cを用いる還元反応のような反応が挙げられる。脱保護反応は、例えば、加水分解により行うことができる。
【0153】
本明細書において「保護基」としては、例えば、フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基、アセチル基、ベンジル基、ベンゾイル基、t−ブトキシカルボニル基、t−ブチルジメチル基、シリル基、トリメチルシリルエチル基、N-フタルイミジル基、トリメチルシリルエチルオキシカルボニル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジル基、2-ニトロ-4,5-ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、カルバメート基などが代表的な保護基として挙げられる。保護基は、例えば、アミノ基、カルボキシル基などの反応性の官能基を保護するために用いることができる。反応の条件や目的に応じ、種々の保護基を使い分けることができる。ヒドロキシ基の保護基にはアセチル基、ベンジル基、シリル基またはそれらの誘導体などが、アミノ基の保護基にはアセチル基のほかベンジルオキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基またはそれらの誘導体などを使用することができる。アミノオキシ基およびN-アルキルアミノオキシ基の保護基として、トリメチルシリルエチルオキシカルボニル基、2-ニトロ-4,5-ジメトキシベンジルオキシカルボニル基またはそれらの誘導体が好ましい。
【0154】
本発明の各方法において、目的とする生成物は、反応液から夾雑物(未反応減量、副生成物、溶媒など)を、当該分野で慣用される方法(例えば、抽出、蒸留、洗浄、濃縮、沈澱、濾過、乾燥など)によって除去した後に、当該分野で慣用される後処理方法(例えば、吸着、溶離、蒸留、沈澱、析出、クロマトグラフィーなど)を組み合わせて処理して単離し得る。
【0155】
(糖鎖が結合した糖タンパク質の製造)
本願発明の糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質と糖鎖とを用いて、糖鎖が結合した糖タンパク質を製造することができる。糖鎖が結合した糖タンパク質の製造は、2つの材料を、適切な緩衝液の存在下で混合し、適切な温度で、適切な時間反応させることによって、行うことができる。そのような条件の選択は、本明細書の記載に基づいて行うことができる。
【0156】
本発明において製造される糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質を、例えば、E.coliなどの発現系により製造した後、製造されたタンパク質を適切な手段(例えば、アフィニティー精製クロマトグラフィーなど)により精製し、必要に応じて凍結乾燥させる。
【0157】
その後、製造された糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質を、所望の糖鎖(例えば、ラクトース、マンノペンタオースなどのオリゴマンノース、ルイスb、シアリルルイスXなど)と適切な緩衝液の存在下で混合する。ここで用いられる緩衝液としては、例えば、酢酸緩衝系、燐酸緩衝系、トリス緩衝系などを用いることができる。
【0158】
本発明において、使用される糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質および糖鎖の濃度は、反応が進む限り、どのような濃度で使用してもよい。また、1:1での反応が想定されることから、ほぼ同モル濃度で反応させることが望ましいがそれに限定されない。従って、使用される相対比としては、例えば、1:10〜10:1などを使用することができる。そのような相対比は、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質と、使用される糖鎖との相対関係に依存することが理解され、そのような相対関係は、本明細書に基づいて当業者が理解することができる。
【0159】
使用される糖鎖の絶対濃度としては、例えば、1mM〜2Mなどを挙げることができ、好ましくは、10mM〜1Mなどを挙げることができる。
【0160】
使用される糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質の濃度としてもまた、例えば、1mM〜2Mなどを挙げることができ、好ましくは、10mM〜1Mなどを挙げることができる。
【0161】
本発明では、糖鎖の付加反応は、接触が起こる限り、原理的に進むことが理解されるが、好ましくは、例えば、25℃〜80℃で反応が進むことが理解される。適切な温度の上限としては、例えば、80℃、70℃、60℃、50℃、42℃、40℃などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような温度は、タンパク質の種類にもより、熱変性しやすいタンパク質は、上限が、例えば、37℃などであり得る。適切な温度の下限としては、例えば、25℃、30℃、32℃、37℃などであり得る。適切な温度の下限は、反応速度との関係から、必要な時間を考慮して当業者は適宜決定することができる。
【0162】
反応時間もまた、当業者が、本明細書の記載を参酌して、適宜決定することができる。そのような時間としては、例えば、6時間〜5日などを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0163】
反応時間の下限としては、例えば、数時間(1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間など)、1日、数日(2−3日)などを挙げることができるが、それらに限定されず、当業者は、反応速度および効率などを考慮して本明細書の記載に基づいて適宜決定することができる。反応時間の上限としては、例えば、数日(2〜3日)、5日、6日、10日などを挙げることができるがそれらに限定されない。生産された糖タンパク質が分解したり、変性しない程度に反応時間の上限を設定することが望ましい。
【0164】
(本明細書において用いられる一般技術)
本明細書において使用される技術は、そうではないと具体的に指示しない限り、当該分野の技術範囲内にある、マイクロフルイディクス、微細加工、有機化学、生化学、遺伝子工学、分子生物学、微生物学、遺伝学および関連する分野における周知慣用技術を使用する。そのような技術は、例えば、以下に列挙した文献および本明細書において他の場所おいて引用した文献においても十分に説明されている。
【0165】
微細加工については、例えば、Campbell,S.A.(1996).The Science and Engineering of Microelectronic Fabrication,Oxford University Press;Zaut,P.V.(1996).Micromicroarray Fabrication:a Practical Guide to Semiconductor Processing,Semiconductor Services;Madou,M.J.(1997).Fundamentals of Microfabrication,CRC1 5 Press;Rai−Choudhury,P.(1997).Handbook of Microlithography,Micromachining,& Microfabrication:Microlithographyなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0166】
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Maniatis,T.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel, F.M., et al. eds, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Inc., NY, 10158(2000);Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press;Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac ,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman & Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(1996).Bioconjugate Techniques,Academic Press;Method in Enzymology 230、242、247、Academic Press、1994;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997;畑中、西村ら、糖質の科学と工学、講談社サイエンティフィク、1997;糖鎖分子の設計と生理機能 日本化学会編、学会出版センター、2001などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0167】
(医薬・化粧品など、およびそれを用いる治療、予防など)
別の局面において、本発明は、医薬(例えば、ワクチン等の医薬品、健康食品、残さタンパク質又は脂質は抗原性を低減した医薬品)および化粧品に関する。この医薬および化粧品は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
【0168】
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバント挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、単離された多能性幹細胞、またはその改変体もしくは誘導体を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。
【0169】
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、そして以下が挙げられる:リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))。
【0170】
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
【0171】
本発明の医薬は、経口的または非経口的に投与され得る。あるいは、本発明の医薬は、静脈内または皮下で投与され得る。全身投与されるとき、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製は、pH、等張性、安定性などを考慮することにより、当業者は、容易に行うことができる。本明細書において、投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)であり得る。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。
【0172】
本発明の医薬は、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(日本薬局方第14版またはその最新版、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990などを参照)と、所望の程度の純度を有する糖鎖組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で調製され保存され得る。
【0173】
本発明の処置方法において使用される糖鎖組成物の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被検体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0174】
本発明が化粧品として使用されるときもまた、当局の規定する規制を遵守しながら化粧品を調製することができる。
【0175】
(農薬)
本発明の組成物は、農薬の成分としても用いることができる。農薬組成物として処方される場合、必要に応じて、農学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤などを含み得る。
【0176】
本発明の組成物が、農薬として使用される場合は、除草剤(ピラゾレートなど)、殺虫・殺ダニ剤(ダイアジノンなど)、殺菌剤(プロベナゾールなど)、植物成長調整剤(例、パクロブトラゾールなど)、殺線虫剤(例、ベノミルなど)、共力剤(例、ピペロニルブトキサイドなど)、誘引剤(例、オイゲノールなど)、忌避剤(例、クレオソートなど)、色素(例、食用青色1号など)、肥料(例、尿素など)などもまた必要に応じて混合され得る。
【0177】
(保健・食品)
本発明はまた、保健・食品分野においても利用することができる。このような場合、上述の経口医薬として用いられる場合の留意点を必要に応じて考慮すべきである。特に、特定保健食品のような機能性食品・健康食品などとして使用される場合には、医薬に準じた扱いを行うことが好ましい。好ましくは、本発明の糖鎖組成物は、低アレルゲン食品としても用いることができる。
【0178】
(好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0179】
(糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質の生産および糖タンパク質を生産するための方法)
1つの局面において、本発明は、(a)糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含み、4塩基コドンを認識する改変tRNAを提供する工程;(b)該4塩基コドンまたはその相補体を含む核酸配列を含む改変核酸分子を提供する工程であって、該核酸配列は該4塩基コドンに1アミノ酸を対応させたときに、目的の糖タンパク質のタンパク質部分をコードする、工程;(c)該改変核酸分子を転写してmRNAを生成する工程;および(d)該改変tRNAおよび翻訳に必要なセットのtRNAを含むタンパク質合成系に該mRNAを曝してタンパク質を生成する工程を含む、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質を生産するための方法を提供する。本発明ではまた、別の局面において、本発明のこの糖タンパク質生産するための基質となるタンパク質を生産する方法によって得られたタンパク質と所望の糖鎖とを結合させて糖タンパク質を生成する工程、を包含する、糖タンパク質(例えば、生物学的に活性を有する糖タンパク質)を製造するための方法を提供する。本発明では、糖タンパク質を、所望の位置に、所望の糖鎖を導入した形態で提供することができ、あるいは、そのための基質を提供することができ、しかも、その操作が容易であり、従来より高い収率で所望の糖タンパク質を得ることができること、従来より高い選択性を持って糖タンパク質(例えば、医薬、農薬、食品など)を設計することができるという点で有用であり、顕著な効果を奏する。
【0180】
本発明の方法において、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含み、4塩基コドンまたはそれ以上の塩基(例えば、5塩基)を認識する改変tRNAは、任意のアミノ酸の任意の基(例えば、側鎖中の水素)を糖鎖に結合し得る官能基に置換して糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を得、およびその糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸をtRNAに結合することによって提供することができる。このような改変tRNAは、例えば、3塩基コドンを認識するアンチコドンの部分を所望の4塩基コドンまたは5塩基コドンなどを認識するアンチコドンに置換するように変異を入れることによって作製することができる。そのような変異は、当該分野において周知の部位特異的変異誘発方法などを用いて導入することができる。
【0181】
本発明において、4塩基コドンまたはその相補体を含む核酸配列を含む改変核酸分子は、当該分野において周知の任意の方法を用いて作製することができる。そのような作製方法としては、例えば、PCR、オリゴヌクレオチド自動合成などによってDNAを生成することなどが挙げられるがそれらに限定されない。ここで、本発明の改変核酸分子は、4塩基コドンに1アミノ酸を対応させたときに目的の糖タンパク質のタンパク質部分をコードする核酸配列を含むように構築される。当業者は、どのような核酸配列を含む核酸分子であっても、そのような核酸分子を任意に設計し、作製することができることが理解される。
【0182】
本発明において、改変核酸分子の転写によるmRNAの生成は、当該分野において周知の任意の転写方法を用いて実施することができる。そのようなmRNAの生成は、テンプレートとなるDNA(例えば、本発明の改変核酸分子)およびその転写を触媒する酵素(例えば、DNA依存性RNAポリメラーゼ)、基質となるRNA分子、および必要に応じて他の調節因子、補因子などを用いて行うことができる。
【0183】
本発明において、改変tRNAおよび翻訳に必要なセットのtRNAを含むタンパク質合成系にmRNAを曝してタンパク質を生成することもまた、当該分野において周知の任意の系(例えば、無細胞合成系、あるいは細胞合成系など)を用いて実施することができる。翻訳に必要なセットのtRNAは、目的とするタンパク質において含まれるべきアミノ酸を含むtRNAを少なくとも1種類ずつ含むことで十分である。従って、目的とするタンパク質が20種類のアミノ酸から構成されるときは、通常、その20種類のアミノ酸に対応するtRNAを少なくとも1つずつ有する。好ましくは、64種類のコドンすべてに対応するtRNAを含むことが有利であるがそれに限定されない。コドン数が少ない場合は、それに応じて本発明の改変核酸分子の核酸配列を変更することによって、目的の糖タンパク質を生産することができる。目的とするタンパク質が19種類以下のアミノ酸で構成される場合は、19種類以下のアミノ酸に対応するtRNAを含むことで十分であり得る。
【0184】
本発明において、タンパク質と所望の糖鎖とを結合させて糖タンパク質を生成する技術もまた、当該分野において公知の化学的方法または酵素学的方法などを用いて実施することができる。化学的方法であれば、本発明の糖鎖に結合し得る官能基が、糖と結合する条件に本発明の方法で生成したタンパク質と所望の糖鎖とを含む反応混合物を曝すことによって実現される。酵素学的方法であれば、脱水縮合などを触媒する酵素を適切な条件下で本発明の方法で生成したタンパク質と所望の糖鎖とを含む反応混合物を曝すことによって実現される。
【0185】
1つの実施形態において、本発明において、使用される糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質および糖鎖の濃度は、反応が進む限り、どのような濃度で使用してもよい。また、1:1での反応が想定されることから、ほぼ同モル濃度で反応させることが望ましいがそれに限定されない。従って、使用される相対比としては、例えば、1:10〜10:1、5:1〜1:5、2:1〜1:2などを使用することができる。そのような相対比は、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質と、使用される糖鎖との相対関係に依存することが理解され、そのような相対関係は、本明細書に基づいて当業者が理解することができる。糖鎖の濃度としては、任意の濃度を使用することができ、例えば、1mM〜2M、10mM〜1M、50mM〜500mMなどの間であればどのような濃度でもよい。好ましくは50mM〜300mMであり得る。
【0186】
1つの実施形態において、本発明において使用される糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質の濃度としてもまた、例えば、1mM〜2Mなどを挙げることができ、例えば、10mM〜1M、20mM〜500mM、50mM〜200mMなどを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0187】
1つの実施形態において、糖鎖とタンパク質との結合反応は、接触が起こる限り、原理的に進むことが理解されることから任意の温度で行うことができ、好ましくは、例えば、25℃〜80℃が使用される。適切な温度の上限としては、例えば、80℃、70℃、60℃、50℃、42℃、40℃などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような温度は、タンパク質の種類にもより、熱変性しやすいタンパク質は、上限が、例えば、37℃などであり得る。適切な温度の下限としては、例えば、25℃、30℃、32℃、37℃などであり得る。適切な温度の下限は、反応速度との関係から、必要な時間を考慮して当業者は適宜決定することができる。従って、例えば、使用可能な温度範囲としては、25℃〜60℃、25℃〜50℃、30℃〜42℃などが例示され得るがそれらに限定されない。
【0188】
反応時間もまた、当業者が、本明細書の記載を参酌して、適宜決定することができる。そのような時間としては、例えば、6時間〜5日などを挙げることができるがそれらに限定されない。反応時間の下限としては、例えば、数時間(1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間など)、1日、数日(2−3日)などを挙げることができるが、それらに限定されず、当業者は、反応速度および効率などを考慮して本明細書の記載に基づいて適宜決定することができる。反応時間の上限としては、例えば、数日(2〜3日)、5日、6日、10日などを挙げることができるがそれらに限定されない。生産された糖タンパク質が分解したり、変性しない程度に反応時間の上限を設定することが望ましい。
【0189】
反応したものの同一性は、質量分析、NMRなどによって分析することができる。
【0190】
本発明の好ましい実施形態では、使用され得る糖鎖に結合し得る官能基は、アミノオキシ基、N−アルキルアミノオキシ基、ヒドラジド基、アジド基、チオセミカルバジド基およびシステイン残基などが挙げられるがそれらに限定されない。さらに好ましくは、アミノオキシ基、N−アルキルアミノオキシ基などを使用することができる。最も好ましくは、アミノオキシ基である。これらの官能基は、保護基によって保護されていてもよい。
【0191】
本発明の好ましい実施形態では、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸は、天然アミノ酸に糖鎖に結合し得る官能基を含むアミノ酸誘導体であり得るがそれらに限定されない。天然アミノ酸の形態に近いアミノ酸誘導体を使用する方が、もともと有する生物学的活性を保持する可能性が高いからであるが、所望の生物学的活性などを有する限り、天然アミノ酸以外のアミノ酸に糖鎖に結合し得る官能基を含むアミノ酸誘導体を使用してもよいことが理解される。好ましいアミノ酸としては、例えば、チロシン、ホモセリン、セリンまたはその誘導体が挙げられるがそれらに限定されない。
【0192】
本発明の改変tRNAにおいて使用される4塩基コドンとしては、CUCU、CUCA、CCCU、CGGU、CGGGなどのアンチコドンが挙げられるがそれらに限定されず、より好ましくはCGGGが使用される。
【0193】
1つの好ましい実施形態において、本発明において使用されるタンパク質合成系は、4(またはそれ以上の)塩基コドンの最初の3塩基からなるコドンに対応するtRNAを有しない。このような3塩基コドンは、本発明の4塩基コドンなどと競合するからである。そのような場合は、除かれる3塩基コドンに対応するコドンを、あらかじめ目的のタンパク質をコードする核酸配列から除くか別のコドン(好ましくは、同じアミノ酸をコードする)に変更しておくことが好ましい。
【0194】
別の好ましい実施形態では、本発明において使用されるタンパク質合成系は、4塩基コドンの最初の3塩基および最後の3塩基からなるコドンに対応するtRNAを有しない。あるいは、5塩基以上のコドンが用いられる場合は、その5塩基以上のコドンにおける任意の3塩基コドンに対応するtRNAを有しないことが好ましい。上記同様、そのような場合は、除かれる3塩基コドンに対応するコドンを、あらかじめ目的のタンパク質をコードする核酸配列から除くか別のコドン(好ましくは、同じアミノ酸をコードする)に変更しておくことが好ましい。
【0195】
好ましい実施形態において、本発明の改変tRNAの4塩基コドンの認識は、その改変tRNAがアンチコドンとして4塩基コドンの相補配列を有することによって達成される。そのような4塩基コドンの相補配列をtRNAに含ませる技術は、当該分野において周知であり、部位特異的変異誘発方法などを用いて、対応するDNAレベルで行うことによって行うことが例示される。
【0196】
本発明において使用されるタンパク質合成系は、本発明の改変tRNAを、天然tRNAに比べて有意に多い量で含むことが好ましい。ここで、改変tRNAは、競合する3塩基コドン(例えば、最初の3連続のコドンなど)を有する天然tRNAに比較して有意に多い量で含まれることで十分であり得る。ここで、好ましくは、タンパク質合成系は、本発明の改変tRNAを、天然tRNAまたは特定の競合するtRNAの少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも100倍、少なくとも1000倍の量で含んでいてもよい。1〜100倍の範囲が好ましいようであるが、それに限定されない。
【0197】
あるいは、本発明において使用されるタンパク質合成系は、4塩基コドンの最初の3塩基からなるコドンに対応するtRNAを他のtRNAよりも有意に少なく含んでいてもよい。ここで、好ましくは、4塩基コドンの最初の3塩基からなるコドンに対応するtRNAを他のtRNAの1〜0.01倍、より好ましくは0.5〜0.1倍含む。
【0198】
好ましい実施形態において、本発明の方法では、4塩基コドンを3塩基コドンとして読んだ場合に生成するタンパク質が混入することが予測されることから、本発明の方法は、そのようなタンパク質を取り除く工程をさらに包含し得る。このようなタンパク質除去は、分子量の違いまたは存在する2種類のタンパク質において相違するアミノ酸配列に起因する活性に基づいて分離し、必要でないものを取り除くことによって実施することができる。例えば、分子量カラム、アフィニティーカラム、電気泳動などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0199】
従って、本発明において、4塩基コドンを3塩基コドンとして読んだ場合に生成するタンパク質が4塩基コドンを4塩基コドンとして読んだ場合に生成するタンパク質と、有意に分子量が異なるように設計されることが好ましい。そのような設計は、当該分野において周知の技術を用いて、遺伝コドンを参酌しながら実施することができる。
【0200】
好ましい実施形態において、本発明において使用される糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸としては、以下の式:
【0201】
【化23】

からなる群より選択される化合物およびその保護体が挙げられる。ここで、このアミノ酸は、代表的には、本発明の改変tRNAと、そのアミノ酸自体のカルボキシル基において結合する。
【0202】
本発明の核酸分子は、直鎖状または環状ベクターとして提供される。当該分野において、インビトロで翻訳を行うタンパク質合成系には、直鎖状の核酸分子をテンプレートとして用いるものと、環状DNAをテンプレートとして用いるものとが存在する。直鎖状のものは、代表的にmRNAを直接使用することによって翻訳がなされる。環状DNAを用いるものは、タンパク質をコードする核酸を含むベクターとして提供される。このようなキットは、例えば、Promegaなどから市販されており、本明細書においてはいずれも使用することができる。mRNAをテンプレートとして用いるものは、例示的に、RNAポリメラーゼのプロモーターにT7プロモーターを導入して、転写をインビトロで行うように設計されている。環状DNAを用いるものは、例示的に、T7プロモーターを有するベクターから、転写および翻訳を反応液中において行うことができる。このようなキットとしては、例えば、E.coliT7S30 Extract System for Circlar DNA、TNT Coupled Reticulocyte Lysate System Kitなどをあげることができる。従って、本発明の改変核酸分子は、インビトロ系において機能するプロモーター配列を含んでいてもよい。ここで、このプロモーター配列は、代表的に、T7プロモーター配列であり得る。
【0203】
本発明において使用される、改変tRNAとしては、例えば、配列番号1、配列番号2に示す配列またはその改変体を含む。ここで、改変tRNAの改変体は、アンチコドン、アミノアシル化などの部位に実質的に改変を含まず、tRNAの機能を有する限り、どのような改変を有していてもよい。従って、改変tRNAの改変体には、核酸配列において1または複数個の置換、付加、または欠失が含まれていても良いことが理解される。
【0204】
本明細書の方法では、mRNAへの転写およびタンパク質への翻訳は、同じ工程で同時に行っても、別々に行っても良い。同じ工程で行う方が好ましい。工程数が減少するからである。
【0205】
(糖鎖導入のためのtRNAを生産するための方法)
別の局面において、本発明は、(i)糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を保護して保護アミノ酸を生成する工程;(ii)5’−ホスホ−2’−デオキシリボヌクレオチジルリボヌクレオチド(pdNpN)を提供する工程;(iii)該保護アミノ酸と該pdNpNとを脱水縮合して保護pdNpNアミノ酸を生成する工程;(iv)4塩基コドンを認識する改変tRNAを提供する工程;(v)該改変tRNAと該保護pdNpNアミノ酸とを連結して保護pdNpNアミノ酸連結tRNAを提供する工程;および(vi)該保護pdNpNアミノ酸が連結した改変tRNAを脱保護してpdNpNアミノ酸が連結したtRNAを生成する工程、を包含する、糖鎖導入のためのtRNAを生産するための方法を提供する。
【0206】
本発明の方法において、アミノ酸の保護は、当該分野において周知の任意の方法を用いて行うことができる。アミノ酸の保護は、カルボキシル基、アミノ基、および/または側鎖の反応性の官能基のいずれかまたはその複数の組み合わせまたはすべてに対して行うことができる。例えば、アミノ基には、アセチル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基,t−ブトキシカルボニル基などのオキシカルボニル基が結合した基などを保護基として使用することができる。あるいは、カルボキシル基には、アルキルカルボニル、ベンジルカルボニル、シアノメチルオキシカルボニルまたはその誘導体などとして保護することができる。
【0207】
本発明の方法において、5’−ホスホ−2’−デオキシリボヌクレオチジルリボヌクレオチド(pdNpN)は、当該分野において周知の任意の方法によって生成することができる。あるいは、市販の製品を使用しても良い。ここで、pdNpNにおけるデオキシリボヌクレオチジルは、β−D−チミジン、2’−デオキシ−β−D−シチジン、2’−デオキシ−β−D−アデノシン、2’−デオキシ−β−D−グアノシン、2’−デオキシ−β−D−ウラシル、2’−デオキシ−β−D−イノシンであり得る。pdNpNにおけるリボヌクレオチジルは、β−D−シチジン、β−D−アデノシン、β−D−グアノシン、β−D−ウラシル、β−D−イノシンなどであり得る。
【0208】
好ましい実施形態では、本発明において用いられるpdNpNは、5’−ホスホ−2’−デオキシリボシチジリルリボアデノシン(pdCpA)である。本発明で用いる4塩基コドンを用いた拡張コドンを利用したタンパク質の合成において首尾よく合成が進捗することが知られているからである。
【0209】
本発明において、保護アミノ酸とpdNpNとを脱水縮合することによって、保護pdNpNアミノ酸を生成する技術もまた、当該分野において周知の技術によって達成することができる。そのような技術としては、例えば、適切な条件下で、保護アミノ酸と、pdNpNとを混合して必要に応じて触媒を混合してやることによって実施する方法などがある。そのような技術においては、例えば、pdNpNは、反応性の少ない溶媒(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなど)に溶解することができる。反応は、アセトニトリルを用いることができる。
【0210】
本発明の方法において、4塩基コドンを認識する改変tRNAは、当該分野において周知の方法を用いて生成することができる。例えば、既知のtRNAのアンチコドン部分に、部位特異的変異誘発方法によってその4塩基コドンを認識する配列(代表的にはその4塩基コドンのアンチコドン)を置換することによって作製することができる。
【0211】
本発明の方法において、改変tRNAと保護pdNpNアミノ酸とを連結して保護pdNpNアミノ酸連結tRNAを提供する方法は、当該分野において周知の任意の方法を用いて実行することができる。そのような連結方法では、例えば、T4RNAリガーゼを使用することができる。
【0212】
本発明の方法において、保護pdNpNアミノ酸が連結した改変tRNAを脱保護してpdNpNアミノ酸が連結したtRNAを生成する技術もまた、当該分野において周知の任意の脱保護方法を用いて実施することができる。
【0213】
本発明のpdNpNアミノ酸が連結したtRNAにおいて、使用されるアミノ酸材料としては、天然アミノ酸または非天然アミノ酸が挙げられる。いずれを使用しても良いが、好ましくは、挿入された糖タンパク質において目的の活性(例えば、生物学的活性)が損なわれていないことが好ましい。従って、1つの実施形態では、天然アミノ酸を用いることが好ましくあり得る。そのようなアミノ酸としては、例えば、チロシン、ホモセリン、セリンなどを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0214】
本発明の方法において使用される保護基としては、Fmoc基、アセチル基、ベンジル基、ベンゾイル基、t−ブトキシカルボニル基、t−ブチルジメチル基、N−フタルイミジル基、シリル基、トリメチルシリルエチル基、トリメチルシリルエチルオキシカルボニル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、カルバメート基などを挙げることができ、それらは、保護されるべき官能基の種類に応じて適宜選択することができる。
【0215】
本発明の方法における保護・脱保護反応は、脱水縮合および加水分解の組み合わせであり得るがそれに限定されない。
【0216】
(改変tRNA)
1つの局面において、本発明は、4塩基コドンを認識する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含む改変tRNAを提供する。このような改変tRNAは、上記のような本発明の方法を用いて生成することができるがそれに限定されない。改変tRNAは、配列番号1に示されるGCGGAUUUAGCUCAGUUGGGAGAGCGCCAGACUCCCGAAUCUGGAGGUCCUGUGUUCGAUCCACAGAAUUCGCACCAという配列またはその改変体を含み得る。この場合、改変体において、コドンを認識する部分(代表的には、アンチコドン)は改変されていないことが好ましい。
【0217】
(糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質の生産キットおよび糖タンパク質の生産キット)
別の局面において、本発明は、A)4塩基コドンを認識する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含む改変tRNA;B)該4塩基コドンまたはその相補体を含む核酸配列を含む改変核酸分子、該核酸配列は該4塩基コドンに1アミノ酸を対応させたときに機能性タンパク質をコードする、改変核酸分子;C)該改変核酸分子の転写するための転写酵素、翻訳に必要なセットのtRNAおよびmRNAを翻訳するための翻訳酵素を含むタンパク質合成系を備える、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質の生産キットを提供する。あるいは、本発明は、A)4塩基コドンを認識する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含む改変tRNA;B)該4塩基コドンまたはその相補体を含む核酸配列を含む改変核酸分子、該核酸配列は該4塩基コドンに1アミノ酸を対応させたときに機能性タンパク質をコードする、改変核酸分子;C)該改変核酸分子の転写するための転写酵素、翻訳に必要なセットのtRNAおよびmRNAを翻訳するための翻訳酵素を含むタンパク質合成系;D)糖鎖;およびE)該糖鎖に結合し得る官能基と該糖鎖との連結を行うための連結手段、を備える、糖タンパク質の製造キットを提供する。ここで、4塩基コドンを認識する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含む改変tRNA;4塩基コドンまたはその相補体を含む核酸配列を含む改変核酸分子、該核酸配列は該4塩基コドンに1アミノ酸を対応させたときに機能性タンパク質をコードする、改変核酸分子;改変核酸分子の転写するための転写酵素、翻訳に必要なセットのtRNAおよびmRNAを翻訳するための翻訳酵素を含むタンパク質合成系は、本明細書の他の部分(特に、糖タンパク質を製造するための方法)において説明されるような形態を採ることができる。
【0218】
本発明のキットにおいて含まれるべき糖鎖は、その糖タンパク質に含まれるべき糖鎖であることが好ましいが、より短い糖鎖を連結してその後伸長してもよく、あるいは、より長い糖鎖を連結して後に切断しても良い。
【0219】
本発明のキットにおいて含まれるべき、糖鎖に結合し得る官能基と該糖鎖との連結を行うための連結手段は、その官能基とその糖鎖との連結を触媒することができる限り、どのような手段であっても良い。代表的には、加水分解活性のある酵素が挙げられるがそれに限定されず、触媒の不存在下であっても、平衡反応によって、連結されることができることが本発明の特徴の一つであることが理解されるべきである。従って、本発明において用いられるこの連結手段は、単なる溶媒(水または有機溶媒など)であってもよい。
【0220】
(糖タンパク質を製造するための翻訳反応において用いるための組成物)
別の局面において、本発明は、4塩基コドンを認識する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含む改変tRNA、および翻訳に必要なセットのtRNAを含む、糖タンパク質を製造するための翻訳反応において用いるための組成物を提供する。糖ペプチドを生成するためのこのようなtRNAのセットにおいて含まれるべき、改変tRNAは、本明細書において別の場所(特に、改変tRNA)において説明したような任意の形態をとることができることが理解されるべきである。
【0221】
(タンパク質合成系)
別の局面において、本発明は、4塩基コドンを認識する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含む改変tRNA、翻訳に必要なセットのtRNAおよびmRNAを翻訳するための翻訳酵素を含むタンパク質合成系を提供する。このようなタンパク質合成系は、本明細書の他の部分(特に、糖タンパク質を製造するための方法)において説明されるような形態を採ることができる。翻訳酵素としては、例えば、天然の細胞のリボゾーム抽出物を用いてもよい。そのようなリボソーム抽出物を利用した合成系は、市販されており、そのような製品を利用しても良い。好ましくは、このようなタンパク質合成系は、さらに、核酸分子の転写するための転写酵素、を含み得る。
【0222】
(改変核酸分子)
別の局面において、本発明は、4塩基コドンまたはその相補体を含む核酸配列を含む改変核酸分子、該核酸配列は該4塩基コドンに1アミノ酸を対応させたときに機能性タンパク質をコードする、改変核酸分子を提供する。このような核酸分子は、従来のタンパク質合成系では、何ら意味のないタンパク質を合成することになるが、本発明の技術を用いれば、目的の糖タンパク質を合成するための核酸分子に相当することが理解される。このような改変核酸分子は、本明細書の他の部分(特に、糖タンパク質を製造するための方法)において説明されるような形態を採ることができる。
【0223】
(糖タンパク質)
別の局面において、本発明は、本発明の糖タンパク質の製造方法によって調製された糖タンパク質を含む組成物を提供する。このような組成物は、医薬、農薬、化粧品、特定保健食品、食品、工業用材料など種々の用途に使用される組成物であり得る。特に、医薬品などにおいて、特定の糖鎖を有するタンパク質が所望される場合に、簡便に選択性をもって作製することを本発明は達成しており、その意味で有用性は高い。
【0224】
(化合物)
別の局面において、本発明は、以下の式:
【0225】
【化24】

を有する、化合物(式中、Rはアミノ酸の側鎖から水素が一つ取れたものであり、R〜RおよびRは、それぞれ独立して保護基または水素を表し、Rは、糖鎖に結合し得る基を表す)を提供する。ここで、このような改変核酸分子は、本明細書の他の部分(特に、糖タンパク質を製造するための方法および糖鎖導入のためのtRNAを生産するための方法)において説明されるような任意の形態を採ることができる。ここで、好ましくは、Rは、天然アミノ酸の側鎖から水素が一つ取れたものであり得る。
【0226】
保護基であるR〜RおよびRは、それぞれ独立して、水素、フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基、アセチル基、ベンジル基、ベンゾイル基、t−ブトキシカルボニル基、t−ブチルジメチル基、N−フタルイミジル基、シリル基、トリメチルシリルエチル基、トリメチルシリルエチルオキシカルボニル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル基などから選択され得る。好ましい実施形態では、カルボキシル基の保護基である、Rは、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、トリメチルシリルエチレンオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基,アルキニルメチル基、t−ブトキシカルボニル基またはその誘導体などであり得る。好ましくは、アミノ基の保護基である、RおよびRは、少なくとも一方が保護されていることが重要であり、より好ましくは、これらの保護基は、アセチル基、ベンジルオキシカルボニル基,t−ブトキシカルボニル基などの保護基であり得る。
【0227】
糖鎖に結合し得る基であるRは、アミノオキシ基、N−アルキルアミノオキシ基、ヒドラジド基、アジド基、チオセミカルバジド基およびシステイン残基などの基から水素が一つ取れたものであり得る。保護されていない場合は、RおよびRと一緒になって、アミノオキシ基、N−アルキルアミノオキシ基、ヒドラジド基、アジド基、チオセミカルバジド基およびシステイン残基などであり得る。
【0228】
従って、本発明は、例えば、以下の式:
【0229】
【化25】

で示される構造を有する化合物およびそれらの保護体を提供する。この化合物は、糖鎖を結合し得る官能基を有するアミノ酸の代表例である。
【0230】
別の好ましい実施形態では、本発明は、以下の式:
【0231】
【化26】

【0232】

【0233】

【0234】

または
【0235】

に示される構造を有する化合物を提供する。糖鎖を結合する官能基を有しその官能基が保護された代表的なアミノ酸の例である。
【0236】
別の好ましい実施形態では、本発明は、以下の式:
【0237】
【化27】

に示される構造を有する化合物を提供する。この化合物は、アミノ酸のアミノ基およびカルボキシル基が保護され、かつ、糖鎖を結合する官能基が保護された、本発明の糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸の代表例である。
【0238】
別の好ましい実施形態において、本発明は、以下の中間体または生成物を提供する。このような中間体は、本発明の糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸および/または改変tRNAを製造する際に生じる中間体または生成物である。
【0239】
【化28】

【0240】
【化29】

【0241】
【化30】

【0242】
【化31】

【0243】
【化32】

【0244】
これらにおいて、アミノ酸の側鎖、糖鎖に結合し得る官能基、ヌクレオチドの塩基などが別の例に変更された化合物もまた、本発明の範囲内に含まれることが理解される。
【0245】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0246】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【実施例】
【0247】
以下、実施例により、本発明の構成をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において使用した試薬類は、特に言及した場合を除いて、和光純薬、Promegaから市販されているものを使用した。
【0248】
(実施例1:N−(4−ペンテノイル)−L−ホモセリンtert−ブチルエステルの合成)
まず、本発明の例示として、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を合成した。合成にあたり、まず、アミノ酸のアミノ基およびカルボキシル基を保護した。アミノ酸としてはホモセリンを使用した。
【0249】
【化33】

【0250】
200mlのナス型フラスコにL−ホモセリン(2.0g、16.8mmol)を入れて水6ml、メタノール4mlで溶かした。0℃に冷やした後、このフラスコに4−ペンテノイック無水物(3.68ml、20.1mmol)とトリエチルアミン(2.81ml、20.1mmol)を加えた。0℃で30分、室温で12時間反応させた。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール:水=65:15:1)により粗精製化した。これを200mlのナス型フラスコに入れて、N,N−ジメチルホルムアミド25mlに溶かした。このフラスコにベンジルトリエチルアミンクロリド(4.0g、17.6mmol)を加えて室温で5分間撹拌する。さらに炭酸カリウム(22.1g、160mmol)とtert−ブチルブロミド(26.5ml、230mmol)を加えて55℃で6時間撹拌する。氷水を加えて酢酸エチルで3回抽出し、飽和食塩水で良く洗った後、硫酸マグネシウムで乾燥した。吸引ろ過し、溶液をエバポーレーターで除去し、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:2)により分取して表題化合物(2.29g、収率53%)を得た。
【0251】
H-NMR δ (CDCl3): 6.39 (1H, d, J=7.20 Hz) (NH-),5.85~5.78 (1H, m) (C=CH-), 5.11~5.02 (2H, m)(-C=CH2), 4.65〜4.60 (1H, m) (α-H), 3.78 (1H,dd, J=4.55, 9.34Hz) (-OH),3.71〜3.65 (1H, m) (γ-H2), 3.56〜3.50 (1H, m) (γ-H2),2.45〜2.35(4H,m) (C=C-CH2-,C=C-C-CH2-),2.21〜2.15 (1H, m) (β-H2),1.54〜1.50 (1H, m) (β-H2),1.48 (9H, s) ((CH3)3-C-)
【0252】
(実施例2:2−(N−(4−ペンテノイル))アミノ−4−[O−[N−フタルイミジル]アミノ]ヒドロキシ−酪酸tert−ブチルエステルの合成)
次に、実施例1で合成したアミノ酸において糖鎖に結合し得る官能基の連結を行った。
【0253】
【化34】

【0254】
100mlのナス型フラスコにN−(4−ペンテノイル)−L−ホモセリンtert−ブチルエステル(422mg、1.64mmol)を入れてテトラヒドロフラン10mlで溶かし、トリフェニルホスフィン(517mg、1.97mmol)とN−ヒドロキシフタルイミド(321mg、1.97mmol)を窒素ガス充填下において加える。ジエチルアゾジカルボキシレート(310μl、1.97mmol)をゆっくり滴下し、室温で2時間撹拌する。反応液を減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)により分取して表題化合物(557mg、収率84%)を得た。
【0255】
H-NMR δ (CDCl3): 7.86〜7.77 (4H, m) (-Ph), 7.13 (1H, d, J=7.93 Hz) (NH-),5.88〜5.84 (1H, m)(C=CH-), 5.10〜4.98 (2H, m) (-C=CH2), 4.73〜4.70 (1H, m) (α-H), 4.31〜4.29(2H, m) (γ-H2),2.46〜2.41 (4H, m) (C=C-CH2-,C=C-C-CH2-),2.33〜2.28(2H,m) (β-H2),1.46 (9H, s) ((CH3)3-C-)。
【0256】
(実施例3:2−(N−(4−ペンテノイル))アミノ−4−アミノオキシ−酪酸tert−ブチルエステルの合成)
実施例2に引き続いて、実施例1で合成したアミノ酸において糖鎖に結合し得る官能基の連結を行った。
【0257】
【化35】

【0258】
(式中、記号は前記と同義を示す。)
25mlのナス型フラスコに2−(N−(4−ペンテノイル))アミノ−4−[O−[N−フタルイミジル]アミノ]ヒドロキシ−酪酸tert−ブチルエステル(156mg、388μmol)を入れて40%メチルアミン(メタノール溶液)2mlに溶かす。室温で45分間撹拌した後、反応液を減圧濃縮する。析出した結晶を減圧濾過し、濾液を濃縮した後、シリカゲルクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=1:5)により分取して表題化合物(94mg、収率89%)を得た。
【0259】
H-NMR δ (CDCl3): 6.03 (1H, d, J=7.19 Hz) (NH-),5.88〜5.80 (1H, m) (C=CH-),5.44(2H, bs)(-O-NH2), 5.10〜5.00 (2H, m)(-C=CH2), 4.60〜4.56 (1H, m) (α-H), 3.76〜3.71(2H, m) (γ-H2),2.43〜2.31 (4H, m) (C=C-CH2-,C=C-C-CH2-), 2.11〜1.96 (2H,m) (β-H2),1.48(9H, s) ((CH3)3-C-)。
【0260】
(実施例4:2−(N−(4−ペンテノイル))アミノ−4−[O−[N−トリメチルシリルエトキシカルボニル]アミノ]ヒドロキシ−酪酸シアノメチルエステルの合成)
次に、導入した糖鎖に結合し得る官能基を保護する反応を行った。
【0261】
【化36】

【0262】
25mlフラスコに2−(N−(4−ペンテノイル))アミノ−4−アミノオキシ−酪酸tert−ブチルエステル(44mg、162μmol)をいれてトリフルオロ酢酸1mlを加える。0℃で30分、室温で1時間撹拌する。窒素ガスでトリフルオロ酢酸を除去する。これを水500μl、ジオキサン1mlに溶かし、トリエチルアミン(67μl、480μmol)とトリメチルシリルエトキシカルボニルスクシンイミド(62mg240μmol)を加えた。室温で18時間撹拌した後、酢酸エチルで薄めて分液した。5%クエン酸水溶液、飽和食塩水で良く洗った後、硫酸マグネシウムで乾燥した。吸引ろ過し、溶液をエバポーレーターで除去した。これをアセトニトリル700μlに溶かし、窒素ガス充填下0℃に冷やした後、トリエチルアミン(67μl、480μmol)とクロロアセトニトリル(101μl、1.6mmol)を加えた。撹拌しながら室温へ温度を上げて24時間反応した後、酢酸エチルで薄めて分液した。飽和食塩水で良く洗った後、硫酸マグネシウムで乾燥した。吸引ろ過し、溶液をエバポーレーターで除去した。シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により分取して表題化合物(42mg、収率65%)を得た。H-NMR δ (CDCl3): 7.84 (1H, bs) (NH-), 7.59 (1H, s)(-O-NH-), 5.88〜5.82 (1H, m)(C=CH-),5.10〜4.99 (2H, m) (-C=CH2),4.84〜4.81 (1H, m) (α-H), 4.76 (2H,dd, J=15.65, 33.46Hz) (-O-CH2-CN),4.30〜4.23 (2H, m) (-O-CH2-C-Si),4.00〜3.95 (2H, m) (γ-H2),2.44〜2.39 (4H, m) (C=C-CH2-,C=C-C-CH2-),2.31〜2.26 (1H, m) (β-H2), 2.12〜2.07 (1H, m) (β-H2),1.03 (2H,t, J=8.62Hz) (-O-C-CH2-Si), 0.06 (9H, s) ((CH3)3-Si-)。
【0263】
(実施例5:5’−ホスホ−2’−デオキシシチジル(3’−5’)−2’(3’)−O−[2−(N−(4−ペンテノイル))アミノ−4−[O−[N−トリメチルシリルエトキシカルボニル]アミノ]ヒドロキシ−ブチリックアシジル]アデノシンの合成)
次に、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を、ジヌクレオチド(pdCpA)に連結した。
【0264】
【化37】

【0265】
1.7mlエッペンチューブに、5’−ホスホ−2’−デオキシシチジル(3’−5’)アデノシン(pdCpA)の1.0OD/μlN,N−ジメチルホルムアミド溶液(5μl、220nmol)と2−(N−(4−ペンテノイル))アミノ−4−[O−[N−トリメチルシリルエトキシカルボニル]アミノ]ヒドロキシ−酪酸シアノメチルエステル(770μg、1.92μmol)を加えて1時間反応させる。反応液にジエチルエーテル1.5mlを加えて遠心分離し、上澄みを取り除く。アセトニトリル20μlを加えて溶かし、ジエチルエーテル1.5mlを加えて遠心分離し、上澄みを取り除く。再度、アセトニトリル20μlを加えて溶かし、ジエチルエーテル1.5mlを加えて遠心分離した後、上澄みを取り除く。逆相HPLC(水:メタノール0.1M酢酸アンモニウムpH4.5 = 80:20から0:100)にて分離、凍結乾燥した後、ジメチルスルホキシド30μlに溶解させた。これにより表題化合物のジメチルホルスルホキシド溶液30μl(0.0556OD/μl、73.3nmol、33%)を得た。
【0266】
質量分析(ESI−MS):[M−H]977.2620 (計算値 977.2633)。
【0267】
(実施例6:2−アミノ−4−[O−[N−トリメチルシリルエトキシカルボニル]アミノ]ヒドロキシ−ブチリックアシジル−tRNA(CCCG)の合成)
次に、実施例5において糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を連結したジヌクレオチドを、tRNAに連結した。
【0268】
10μl中に、5’−ホスホ−2’−デオキシシチジル(3’−5’)−2’(3’)−O−[2−(N−(4−ペンテノイル))アミノ−4−[O−[N−トリメチルシリルエトキシカルボニル]アミノ]ヒドロキシ−ブチリックアシジル]アデノシンのジメチルスルホキシド溶液(2μl)、酵母菌由来のフェニルアラニンtRNAを骨格としたアンチコドンがCCCGであり3’末端のCAが欠落したtRNA(CCCG)−CA(配列番号1からCAが欠損したもの)の0.1OD/μl溶液(2.5μl)、50mM Tris−HClPH7.5、10mM MgCl、10mM DTT、1mM ATP、0.005% BSA、T4RNAリガーゼ(40ユニット)を含む反応液を4℃で反応させた。2時間後、酢酸カリウム(PH5.5)を終濃度0.3Mになるように加え、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1(pH5.2)およびクロロホルムによって抽出した。3倍量のエタノールを加え−30℃に15分静置、30分間遠心した後上澄みを捨てた。−30℃に冷やした70%エタノールを少量加えて5分間遠心した後上澄みを捨て、減圧下において乾燥させた。これを50mM I溶液(水:テトラヒドロフラン=1:1)に溶解し30分間静置した。酢酸カリウム(PH5.5)を終濃度0.3Mになるように加え、さらに3倍量のエタノールを加え−30℃に15分静置、30分間遠心した後上澄みを捨てた。−30℃に冷やした70%エタノールを少量加えて5分間遠心した後上澄みを捨て、減圧下において乾燥し、表題化合物を得た。
【0269】
これを、電気泳動により、実際に合成されていることを確認した(図3)。電気泳動は、8%ポリアクリルアミド−7M尿素電気泳動120ボルト 60分の条件で行った。
【0270】
(実施例7:2−アミノ−4−[O−[N−トリメチルシリルエトキシカルボニル]アミノ]ヒドロキシ−酪酸を導入したリゾチームの合成)
次に、実施例6において合成したtRNAを用いて、タンパク質を合成した。以下にその手順を示す。
【0271】
PROMEGA社から販売されている「E.coli T7S30Extract System for Circlar DNA」を使用した。ベクターにはT7プロモーター領域下流に開始コドン、T7タグ配列、変異リゾチーム配列(配列番号3(核酸)および配列番号4(アミノ酸))、ヒスチジンタグ配列、終始コドンをもつものを使用した。変異リゾチームの配列はリゾチームの44残基部位(配列表では59位)にCGGGの4塩基配列を挿入したものを使用した。10μlの反応溶液中に、tRNA(CCCG)−CAの0.1OD/μl溶液2.5μlから合成した2−アミノ−4−[O−[N−トリメチルシリルエトキシカルボニル]アミノ]ヒドロキシ−ブチリックアシジル−tRNA(CCCG)(1mM酢酸カリウム1μlに溶解)、S30Extract(3μl)、S30premix(4μl)、ベクター(533μg)、0.1mMアミノ酸混合物を含む溶液を37℃に静置した。1時間後、0℃に冷やし反応を停止させ表題化合物を得た。
【0272】
この化合物を、ウェスタンブロット分析(一次抗体:抗T7タグ抗体(マウス由来);二次抗体:抗マウスIgG−アルカリフォスファターゼ)により確認した(図4)。
【0273】
(実施例8:競合するtRNAの影響)
次に、実施例6〜7に記載の手順に代えて、リゾチーム配列の代わりに、ストレプトアビジンの83位(配列表では99位)がCGGGになっている変異ストレプトアビジン(配列番号5(核酸)、配列番号6(アミノ酸))を用いて、同様の発現実験を行った。
【0274】
本実施例では、競合するアミノ酸がアルギニンであることがわかっているので、図5右上に示されるように、競合するアミノ酸であるアルギニンの比率を変化させて発現にどのような影響があるかどうかを観察した。その結果を図5に示す。
【0275】
その結果、図5からも明らかなように、レーン2および3から、本発明の改変(アミノアシル)tRNAの量が多いほど、全長配列のタンパク質の発現が顕著に増加していた。また、レーン1、3および4の記載から明らかなように、アルギニンは、ストレプトアビジンの場合は、1〜0.01倍のすべてでタンパク質の発現が見られ、好ましくは0.1倍程度であることがわかった。
【0276】
このように、競合するアミノ酸は、他のアミノ酸より少なく存在させることが好ましいことが実証された。ただし、その量は、目的とするタンパク質の種類およびアミノ酸含量によるようである。
【0277】
(実施例9:他のアミノ酸誘導体)
次に、実施例1〜4で製造した糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸に代えて、図6Bに表される化合物を導入した場合に全長タンパク質が合成されるかどうかを検証した。
【0278】
これらの化合物の合成は、実施例1〜4に準じた。
【0279】
これらの糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を用いて、実施例5〜7に記載されるように、タンパク質を合成した。mRNAとしては、ストレプトアビジン 83CGGG(配列番号6)を使用した。その構造は、図6Aに示す。その結果を図6Bに示す。
【0280】
示されるように、いずれの糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を用いても、全長タンパク質が合成されることが明らかになった。これらの結果から、ストレプトアビジンへの糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸の導入効率を算出した結果を以下の表に示す。
【0281】
【表2】

【0282】
ここで、図6における6がTyr-C4-N3に相当し、5がTyr-C4-Teocに相当し、4がHse(ONMeNVOC) に相当し、3がHse(ONHNVOC)に相当し、2がHse(ONMeTeoc)に相当し、1がHse(ONHTeoc)に相当する。
【0283】
(実施例10:環状核酸分子および直鎖状核酸分子の比較)
次に、タンパク質合成系において、環状核酸分子および直鎖状核酸分子を用いた場合の比較を行った。
【0284】
環状核酸分子での合成系は、実施例7に準じた。
【0285】
直鎖状核酸分子での合成系としては、実施例7における環状用のキットに代えて直鎖状核酸分子のための合成系を用いた。
【0286】
発現させたタンパク質はリゾチームであり、その結果は、図7に示す。
【0287】
示されるように、環状核酸分子および直鎖状核酸分子のいずれを用いても、リゾチームの発現が見られたが、環状核酸分子の方が、100:77で多かった。
【0288】
(実施例11:条件検討)
次に、発現の条件を種々検討した。その条件は、図8に示す。図8に示した条件以外は、実施例7に記載されるように、実験を行った。
【0289】
その結果は、図8に示されるように、リゾチームとしては、温度としては、30℃または42℃より37℃が適切であり、アルギニンの量は減らしても効果がなく、むしろ1倍の方がより多く全長タンパク質が合成された。
【0290】
以下の表に示すように、リゾチームおよびストレプトアビジンは、アルギニンの含量が顕著に異なる。
【0291】
【表3】

【0292】
従って、競合するアミノ酸(ここでは、アルギニン)の含量が多い場合は、そのアミノ酸を減少させると、そのタンパク質の合成自体に影響が出ることから、好ましくないことが明らかになった。このように、タンパク質のアミノ酸含量などをも考慮することによって、適切な条件を検討することができることが明らかになった。
【0293】
(実施例12:糖鎖の導入)
次に、実施例7で製造したタンパク質を用いて、糖鎖の導入実験を行う。導入される糖鎖としては、例えば、シアル酸、N−アセチル−グルコサミン、グルコースなどの単糖、ラクトースなどの二糖を挙げることができる。
【0294】
実施例7で製造したタンパク質と、上記単糖とを混合する。混合する条件は、例えば、以下のような条件がある。
【0295】
酢酸緩衝液(pH5.6)を適量(例えば、200マイクロリットル)添加する。そこに、糖鎖溶液適量(例えば、200マイクロリットル)、メタノール適量(例えば、200マイクロリットル)(糖鎖とほぼ等量)を添加し37℃で12時間程度放置する。例えば、マイクロコン(ミリポア社製)を用いて10,000回転/分、10°Cの条件で40分間遠心濾過を行う。この濃縮液に超純水を適量(糖鎖溶液とほぼ等量)添加し、再度同条件により遠心濾過を行う。濃縮液(100分の1量程度にまで減少させることができる)に超純水適量(例えば、100マイクロリットル)を添加し糖鎖が結合した糖タンパク質を得ることができる。
【0296】
(実施例13:2−アミノ−4−[N−メチル−アミノオキシ]−酪酸を導入した変異ストレプトアビジンの合成とラクトースによる糖鎖修飾)
糖鎖が結合した糖タンパク質の製造例として、2−アミノ−4−[N−メチル−アミノオキシ]−酪酸(以下の化学式)を導入した変異ストレプトアビジンを製造した。その手順および結果を以下に示す。
【0297】
【化38】

【0298】
タンパク質の発現系として、PROMEGA社から販売されている「E.coli T7 S30 Extract System for Circlar DNA」を使用した。ベクターとしては、T7プロモータ領域下流に開始コドン、T7タグ配列、変異ストレプトアビジン配列(配列番号5)、ヒスチジンタグ配列、終始コドンをもつものを使用した。変異ストレプトアビジンの配列はストレプトアビジンの83残基部位にCGGGの4塩基配列を挿入したものを使用した。200μlの反応溶液中に、tRNA(CCCG)−CAの0.13OD/μl溶液11μlから合成した2−アミノ−4−[N−メチル−アミノオキシ]−ブチリックアシジル−tRNA(CCCG)(1mM 酢酸カリウム20μlに溶解)、S30 Extract(60μl)、S30premix(80μl)、ベクター(1.68μg)、0.1mMアミノ酸混合物を含む溶液(いずれも「E.coli T7 S30 Extract System for Circlar
DNA」に添付される)を37℃に静置した。1時間後、0℃に冷やし反応を停止させた。この反応液を、T7 Tag antibody agarose(50μl)(Novagen社)を用いて精製し、溶出液をMicrocon YM10(Millipore社)を用いて脱塩濃縮し50μlの溶液を得た。このうち約200ngの変異ストレプトアビジンを含む溶液5μlを凍結乾燥により乾燥させた。400mMのラクトースを含む200mMの酢酸緩衝液(pH4.0)を3μl加えて、37℃において2日間反応させた。反応後、MagneHis Ni−particles(2μl)(Promega社)を用いて精製した。C4 Zip Tip(millipore社)を用いて脱塩後、2,5−ジヒドロ安息香酸(2,5−dihydroxybenzoic acid)=DHB)をマトリックスとしてMALDI TOF MASSにて分子量測定を行った。2−アミノ−4−[N−メチル−アミノオキシ]−酪酸を導入した変異ストレプトアビジン(分子量理論値 18875.3、測定値 18869.2)とラクトースにより修飾された変異ストレプトアビジン(分子量理論値 19199.6、測定値 19195.4)が確認された(図9)。
【0299】
(実施例14:糖鎖が結合した糖タンパク質の製造条件の検討)
次に、変異タンパク質と、糖鎖との結合の際の条件を検討する。
【0300】
実施例13において、ラクトースを、1mM〜2Mにまで変化させ(例えば、1mM、2mM、5mM、10mM、20mM、50mM、100mM、150mM、200mM、300mM、400mM、500mM、600mM、700mM、800mM、900mM、1M、1.25M、1.5M、1.75M、2M);酢酸緩衝液は、pH2.5〜7の間を0.2刻みで変化させ、濃度は、10mM〜1M(例えば、10mM、20mM、50mM、100mM、150mM、200mM、300mM、400mM、500mM、600mM、700mM、800mM、900mM、1M)の間を変化させる。
【0301】
反応条件は、20℃〜100℃の間を変化させ、反応は、1時間後から1時間おきに観察する。
【0302】
上記実験を行うことにより、例えば、ラクトースは10mM〜1Mにおいて反応が好ましく進行し、酢酸緩衝液の濃度は、50〜400mM、pH3〜6において反応が好ましく進行し、反応温度としては、25℃〜80℃、反応時間としては、6時間〜5日間のものが好ましく反応が進行することが観察される。
【0303】
(実施例15:2−アミノ−4−[N−メチル−アミノオキシ]−酪酸を導入した変異ストレプトアビジンの糖鎖修飾)
(グルコースによる修飾)
約200ngの変異ストレプトアビジンを400mMのグルコースを含む100mMアセテートバッファ(PH4.0)に溶解し37℃で44時間反応させた。反応後、MagneHisNi-particles (2μl)(Promega社)を用いて精製した。C4 Zip Tip(millipore社)を用いて脱塩後、DHBをマトリックスとしてMALDITOF MASSにて分子量測定を行った。結果を図10に示す。グルコースにより特異的に修飾された変異ストレプトアビジン(分子量理論値 19037.5、測定値[M+H] 19034.3)が確認された。収率 約60%。
【0304】
(マルトースによる修飾)
約200ngの変異ストレプトアビジンを400mMのグルコースを含む100mMアセテートバッファ(PH4.0)に溶解し37℃で44時間反応させた。反応後、MagneHisNi-particles (2μl)(Promega社)を用いて精製した。C4 Zip Tip(millipore社)を用いて脱塩後、DHBをマトリックスとしてMALDITOF MASSにて分子量測定を行った。結果を図11に示す。マルトースにより特異的に修飾された変異ストレプトアビジン(分子量理論値 19199.6、測定値[M+H] 19206.8)が確認された。収率 約50%。
【0305】
(マルトトリオースによる修飾)
約200ngの変異ストレプトアビジンを400mMのグルコースを含む100mMアセテートバッファ(PH4.0)に溶解し37℃で44時間反応させた。反応後、MagneHisNi-particles (2μl)(Promega社)を用いて精製した。C4 Zip Tip(millipore社)を用いて脱塩後、DHBをマトリックスとしてMALDITOF MASSにて分子量測定を行った。結果を図12に示す。マルトトリオースにより特異的に修飾された変異ストレプトアビジン(分子量理論値 19361.7、測定値[M+H] 19368.5)が確認された。収率 約20%
【0306】
(N-アセチルグルコサミンによる修飾)
約200ngの変異ストレプトアビジンを400mMのグルコースを含む100mMアセテートバッファ(PH4.0)に溶解し37℃で44時間反応させた。反応後、MagneHisNi-particles (2μl)(Promega社)を用いて精製した。C4 Zip Tip(millipore社)を用いて脱塩後、DHBをマトリックスとしてMALDITOF MASSにて分子量測定を行った。結果を図13に示す。N-アセチルグルコサミンにより特異的に修飾された変異ストレプトアビジン(分子量理論値19078.5、測定値 [M+H] 19073.1)が確認された。収率 約40%。
【0307】
(実施例16:ラクトースにより修飾された2−アミノ−4−[N−メチル−アミノオキシ]−酪酸の酵素による糖鎖伸長反応)
(ラクトースによる修飾およびα2,3シアリルトランスフェラーゼによる糖鎖伸長反応)
約200ngの変異ストレプトアビジンを400mMのグルコースを含む100mMアセテートバッファ(PH4.0)に溶解し37℃で44時間反応させた。反応後、MagneHisNi-particles (2μl)(Promega社)を用いて樹脂に固定化した後、洗浄した。樹脂を0.01% BSA、0.2% TritonX-100、3mM CMP-NANA、30 mUα2,3シアリルトランスフェラーゼ(Rat recombinant、CALBIOCHEM)を含む50 mM HEPES-Nabuffer (pH 7.5) に懸濁させて、37℃で22時間振とうさせる。反応後、樹脂に固定化されているタンパク質を精製した。C4 Zip Tip(millipore社)を用いて脱塩後、DHBをマトリックスとしてMALDITOF MASSにて分子量測定を行った。結果を図14に示す。シアリルラクトースにより特異的に修飾された変異ストレプトアビジン(分子量理論値 19490.9、測定値[M-H] 19488.2)が確認された。収率 約10%。
【0308】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0309】
本発明により、医薬、農薬、食品などで使用され得る、有用な糖タンパク質を、自在にしかも選択性よく、簡便に製造することができるようになった。従って、その用途は、種々の分野に及ぶことが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含み、4塩基コドンを認識する改変tRNAを提供する工程;
(b)該4塩基コドンまたはその相補体を含む核酸配列を含む改変核酸分子を提供する工程であって、該核酸配列は該4塩基コドンに1アミノ酸を対応させたときに、目的の糖タンパク質のタンパク質部分をコードする、工程;
(c)該改変核酸分子を転写してmRNAを生成する工程;および
(d)該改変tRNAおよび翻訳に必要なセットのtRNAを含むタンパク質合成系に該mRNAを曝してタンパク質を生成する工程、を包含する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質を生産するための方法。
【請求項2】
前記糖鎖に結合し得る官能基は、保護されていてもよいアミノオキシ基、保護されていてもよいN−アルキルアミノオキシ基、ヒドラジド基、アジド基、チオセミカルバジド基およびシステイン残基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
糖鎖に結合し得る官能基を含むアミノ酸が天然アミノ酸に糖鎖に結合し得る官能基が結合したアミノ酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸は、チロシン、ホモセリンおよびセリンからなる群より選択されるアミノ酸またはその誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸は、以下の式:

【化1】

からなる群より選択されるアミノ酸またはその保護体であり、該アミノ酸は、前記改変tRNAと、該アミノ酸のカルボキシル基において結合することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記改変tRNAは、配列番号1に示されるGCGGAUUUAGCUCAGUUGGGAGAGCGCCAGACUCCCGAAUCUGGAGGUCCUGUGUUCGAUCCACAGAAUUCGCACCAという配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記改変核酸分子は、インビトロ系において機能するプロモーター配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記プロモーター配列は、T7プロモーター配列を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(A)請求項1に記載の方法により、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含むタンパク質を生成する工程;および
(B)該タンパク質と所望の糖鎖とを結合させて糖タンパク質を生成する工程、を包含する、糖タンパク質を生産するための方法。
【請求項10】
以下の工程:
(i)糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を保護して保護アミノ酸を生成する工程;
(ii)5’−ホスホ−2’−デオキシリボヌクレオチジルリボヌクレオチド(pdNpN)を提供する工程;
(iii)該保護アミノ酸と該pdNpNとを脱水縮合して保護pdNpNアミノ酸を生成する工程;
(iv)4塩基コドンを認識する改変tRNAを提供する工程;
(v)該改変tRNAと該保護pdNpNアミノ酸とを連結して保護pdNpNアミノ酸連結tRNAを提供する工程;および
(vi)該保護pdNpNアミノ酸が連結した改変tRNAを脱保護してpdNpNアミノ酸が連結したtRNAを生成する工程、を包含する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含み、4塩基コドンを認識する改変tRNAを生産するための方法。
【請求項11】
前記pdNpNにおけるデオキシリボヌクレオチジルは、β-D-チミジン、2’-デオキシ-β-D-シチジン、2’-デオキシ-β-D-アデノシン、2’-デオキシ-β-D-グアノシン、2’-デオキシ-β-D-ウラシルおよび2’-デオキシ-β-D-イノシンからなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アミノ酸は、チロシン、ホモセリンおよびセリンからなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記保護は、フルオレニルメトキシカルボニル基、アセチル基、ベンジル基、ベンゾイル基、t−ブトキシカルボニル基、t−ブチルジメチル基、N−フタルイミジル基、シリル基、トリメチルシリルエチル基、トリメチルシリルエチルオキシカルボニル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル基およびカルバメート基からなる群より選択される保護基で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
4塩基コドンを認識する、糖鎖に結合し得る官能基を有するアミノ酸を含む改変tRNA。
【請求項15】
請求項1に記載の方法によって調製されたタンパク質を含む、組成物。
【請求項16】
請求項9に記載の方法によって調製された糖タンパク質を含む、組成物。
【請求項17】
以下の式:
【化2】

を有する、化合物(式中、Rはアミノ酸の側鎖から水素が一つ取れたものであり、R〜RおよびRは、それぞれ独立して保護基または水素を表し、Rは、糖鎖に結合し得る基を表す)。
【請求項18】
前記R〜RおよびRは、それぞれ独立して、水素、フルオレニルメトキシカルボニル基、アセチル基、ベンジル基、ベンゾイル基、t−ブトキシカルボニル基、t−ブチルジメチル基、N−フタルイミジル基、シリル基、トリメチルシリルエチル基、トリメチルシリルエチルオキシカルボニル基、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジル基および2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル基からなる群より選択される、請求項17に記載の化合物。
【請求項19】
前記Rは、保護されていもよいアミノオキシ基、保護されていてもよいN−アルキルアミノオキシ基、ヒドラジド基、アジド基、チオセミカルバジド基およびシステイン残基からなる群より選択される基から水素が一つ取れたものである、請求項17に記載の化合物。
【請求項20】
以下の式:

【化3】

【化4】





【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

および
【化9】

からなる群より選択される構造を有する、化合物。
【請求項21】
【化10】

に示される基が、アミノ酸のカルボキシル基に置換した、化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【国際公開番号】WO2005/075639
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517754(P2005−517754)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001721
【国際出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】