説明

指静脈認証システムと指静脈認証装置

【課題】既存の認証装置と同レベルの性能の装置であっても、高い認証精度を維持できる生体認証装置を提供する。
【解決手段】
指の静脈パタンの3次元画像を透視撮影する撮影装置25と、撮影装置25の出力する3次元画像データ41と、特定の指静脈認証装置の撮影特性パラメータ42とを記憶する記憶装置40と、3次元画像データ41を撮影特性パラメータ42に基づいて解析して演算処理し、特定の指静脈認証装置の複数の認証用2次元画像データ43であって、それぞれ、撮影条件の異なるものを生成する認証用画像データ生成手段32とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指静脈を利用した個人認証に使用される指静脈認証システムと指静脈認証装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金融機関のATM(自動取引装置)や入退出管理のために、個人認証処理の重要性がますます高まっている。生体認証処理は、個体差を利用した自動個人認証処理方法で、暗唱番号等を使用した既存の認証方法に比較して十分セキュリティが高く、急速に普及し始めている。特に、手のひらや指の静脈パタンを用いた認証処理は、顔や指紋を利用した認証処理よりもセキュリティが高いことから、盛んに研究開発が進められ、実用化が図られている(特許文献1)(特許文献2)。
【特許文献1】特開2005-168627号公報
【特許文献2】特開2005-071118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、従来の技術には、次のような解決すべき課題があった。
上記の既知の認証装置では、本人の、例えば、人差し指の静脈画像を撮影する。この静脈画像データを例えば、2値ビットマップデータに変換して、認証用画像データとして登録しておく。実際の認証は、認証用画像データを撮影した装置と同一の装置を使用する。撮影条件が近いほど、認識精度が高まるからである。認証を要求された静脈画像データを読み取ると、登録した認証用画像データと比較する。対応する部分の画像を切り出し、歪みを補正するための正規化処理をし、画素単位で差分値を算出する。この差分値が閾値以下であれば、本人と認証する。
【0004】
実際に認証を要求する静脈画像データは、例えば、入退室のつど、利用者から認証装置で撮影をする。しかし、撮影装置に指を乗せるときには、認証用画像データを撮影したときとは微妙に撮影条件が変化する。撮影装置に指をまっすぐ乗せなかったり、血行の良いときや手が冷たいとき等、様々な条件で撮影をすると、認証用画像データとの差が閾値を超えてしまうことがある。即ち、本人であっても、ゲートが開かないという事態が発生する。こうした事態を防ぐために、例えば、4本の指の認証用画像データを登録しておき、いずれかの指で認証用画像データとの差が閾値以下になればゲートを開くようにする。さらに、繰り返しゲートを通過する度に本人の静脈画像データと認証用画像データとの差分値を取得し、差分値が常に大きいときは閾値を緩める。これで、本人の通過を拒絶するという問題は解消するが、別人を通過させてしまうというリスクが拡大する。
【0005】
1本の指について、設計では十万人に1人の誤り率であっても、1000人に一人の誤り率にまで精度を低下させなければならない。4本の指についても、同様に精度を低下させると、誤り率は見かけ上250分の1に低下してしまう。これでは、1つのマンションの住人数に比べて誤り率が高くなりすぎ、満足なセキュリティが得られない。本人でない人を本人と認識する率が著しく高まる。即ち、1本1本の指の認証でより誤り率を低下させなければ、安全確実な運用は望めない。高解像度の装置を使用して、時間をかけて撮影し、より大量のデータを取得して高速演算をさせれば、誤りを防ぐことができるが、コストが高くなりすぎるし、認証処理に時間がかかりすぎて実用性が無い。
【0006】
また、認証装置の撮影条件に依存するところが大きいから、認証装置を新設したときにマンションの住人全員について認証用画像データを作成したとしても、撮影装置を修理したり認証装置全体を交換したときには、再び全員の認証用画像データの再作成をしなければならない。しかも、認証用画像データはそれ自体個人情報であり、厳重な管理が要求される。認証装置本体に認証用画像データを記憶している限り、データも盗難の危険性がある。
【0007】
本発明は以上の点に着目してなされたもので、既存の認証装置と同レベルの性能の装置であっても、高い認証精度を維持できる生体認証装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の各実施例においては、それぞれ次のような構成により上記の課題を解決する。
〈構成1〉
指の静脈パタンの3次元画像を透視撮影する撮影装置と、上記撮影装置の出力する3次元画像データと、特定の指静脈認証装置の撮影特性パラメータとを記憶する記憶装置と、上記3次元画像データを上記撮影特性パラメータに基づいて解析して演算処理し、上記特定の指静脈認証装置用の複数の認証用2次元画像データであって、それぞれ、撮影条件の異なるものを生成する認証用画像データ生成手段とを備えたことを特徴とする指静脈認証システム。
【0009】
予め、対象者のきわめて正確な3次元画像データを取得しておき、これに基づいて、認証用2次元画像データを生成して使用するので、指静脈認証装置自体を使用した認証用2次元画像データの生成処理は不要になる。従って、任意の指静脈認証装置に対して、指静脈認証装置撮影特性パラメータを用意すれば、自動的に対象者の認証用2次元画像データが登録できる。また、撮影条件の異なる複数の認証用2次元画像データを生成して認証用として登録するので、認証精度を低下させずに、撮影条件のばらつきを吸収できる。
【0010】
〈構成2〉
構成1に記載の指静脈認証システムにおいて、上記記憶装置は、上記特定の指静脈認証装置固有のデータ変換演算式を記憶し、上記複数の認証用画像データは、それぞれ上記データ変換演算式により変換されてから、出力装置により出力されることを特徴とする指静脈認証システム。
【0011】
特定の指静脈認証装置固有のデータ変換演算式を用意しておくと、その認証用画像データは別の指静脈認証装置に使用することができない。同一の機種であっても、単なる設計上の誤差以上の差違が生じるから、認証用画像データの情報漏れがあっても、他の指静脈認証装置への影響が及ばない。また、個人情報の保護もできる。従って、固有のデータ変換演算式はユニークなもので、他の指静脈認証装置のものと区別できるように、認証用画像データを強制的に内容変換するものが好ましい。
【0012】
〈構成3〉
構成1に記載の指静脈認証システムにおいて、上記複数の認証用2次元画像データは、指を長さ方向に向いた基準線に並行に向けた状態で、それぞれ上記基準線を軸とした異なる回転角度から撮影をした画像データと、指を上記基準線に対して傾斜させた状態で、それぞれ異なる傾斜角度で撮影をした画像データとを含むことを特徴とする指静脈認証システム。
【0013】
認証装置で指が様々な方角から撮影されても、それぞれ正確な認証用2次元画像データと比較をするので、高い確度で認証処理ができる。
【0014】
〈構成4〉
構成1に記載の指静脈認証システムにおいて、上記撮影装置は、上記指の静脈パタンの3次元画像であって、異なる生理的条件で撮影をしたものを複数撮影し、上記記憶装置は、複数の静脈パタンの3次元画像を記憶し、上記複数の認証用2次元画像データは、上記複数の静脈パタンの3次元画像それぞれについて生成されることを特徴とする指静脈認証システム。
【0015】
例えば、血行の良いときや手が冷たいときの静脈パタンは著しく相違することがある。これを考慮して、異なる生理的条件での静脈パタンの3次元画像を撮影し、それぞれについて、認証用2次元画像データを生成する。これにより、精度を下げることなく認証誤りを減少させられる。
【0016】
〈構成5〉
構成3に記載の指静脈認証システムにおいて、上記撮影装置は、3次元指模型の3次元画像を撮影し、上記記憶装置は、上記3次元指模型を、上記特定の指静脈認証装置で撮影した複数の2次元画像データであって、それぞれ撮影条件の異なるものを記憶し、上記認証用画像データ生成手段は、上記指模型の3次元画像データから演算により上記2次元画像データを生成するための演算式を、上記複数の認証用2次元画像データ生成のための演算式とすることを特徴とする指静脈認証システム。
【0017】
実際に3次元指模型の3次元画像から、基準となる3次元画像データを取得しておく一方、その3次元指模型を特定の指静脈認証装置で撮影して模型2次元画像データを取得する。これらを比較することにより、模型2次元画像データを認証するための認証用2次元画像データを演算処理により生成する、演算式が取得できる。この演算式は撮影特性パラメータに含められる。
【0018】
〈構成6〉
構成1に記載の指静脈認証システムにおいて、上記記憶装置は、既に記憶している、上記3次元指模型を上記特定の指静脈認証装置で撮影した複数の2次元画像データを、補正要求に従って更新し、上記認証用画像データ生成手段は、上記3次元指模型の2次元画像データの更新があったときは、上記複数の認証用2次元画像データ生成のための演算式を更新することを特徴とする指静脈認証システム。
【0019】
長期間使用したこと等により指静脈認証装置に狂いが生じたときは、模型2次元画像データを更新して、認証用2次元画像データ生成のための演算式を更新することができる。これにより、指静脈認証装置に狂いが生じても、自動的に認証用2次元画像データを最適化できる。
【0020】
〈構成7〉
指の静脈パタンの3次元画像データを、自己の撮影特性パラメータに基づいて解析し演算処理して得られた、撮影条件の異なる複数の認証用2次元画像データを記憶する記憶装置と、認証対象となる指の静脈を透視撮影して静脈画像データを得る撮影装置と、上記撮影装置の出力する静脈画像データと上記複数の認証用2次元画像データとを個別に比較して、静脈画像データが複数の認証用2次元画像データのいずれかと近似しているときは認証判定をし、いずれとも似ていないときは否認判定をする認証判定手段を備えたことを特徴とする指静脈認証装置。
【0021】
認証装置は、1本の指の認証に、複数の認証用2次元画像データを使用する。撮影条件にばらつきがあっても、複数の認証用2次元画像データを持っているので、それぞれと個別に高精度で比較判定できる。個々の認証用2次元画像データの閾値を下げないでよいから、精度を低下させることがない。
【0022】
〈構成8〉
構成7に記載の指静脈認証装置において、上記記憶装置は、複数の認証用2次元画像データであって、予め当該指静脈認証装置固有のデータ変換演算式で変換された認証用データ群を記憶し、上記認証判定手段は、上記撮影装置の出力する撮影画像データを、上記固有のデータ変換演算式で変換したものと上記認証用データ群とを比較することを特徴とする指静脈認証装置。
【0023】
認証用2次元画像データは個人情報に相当するが、認証用データ群は固有のデータ変換がなされており、例えば、ネットワーク等を通じて送信しても、第3者にとって意味のないデータであるから、セキュリティが高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を実施例ごとに詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、実施例1の指静脈認証システムブロック図である。
このシステムは、例えば、パーソナルコンピュータ20によって制御される。このコンピュータ20は、本体制御部21、ディスプレイ22、キーボード23、及び、マウス24を備える。コンピュータ20には、撮影装置25が接続されている。この撮影装置25は、右上の円内に示すように、指10の静脈パタンの3次元画像を透視撮影する。具体的には、指10をランプ11で照射し、X軸イメージラインセンサ12とY軸イメージラインセンサ13を矢印14方向にスキャンさせて撮影をする。静脈を流れる血液を撮影するため、その撮影に適する波長の可視光をランプ11で照射し、その影を撮影すればよい。
【0026】
なお、上記のような、指の静脈の3次元画像を取得する方法には、この他に各種考えられる。例えば、レンズ系や反射鏡を用いた光像取得も可能である。可視光でなく、紫外光やエックス線を用いることもできる。一般の非破壊検査装置で採用されている反射光や回折光を利用した撮影をすることもできる。また、医療機器関係で人体の内部組織を撮影するために使用されている様々な装置を採用できる。例えば、歯科医師等が使用するマイクロコーンビーム型透視撮影装置を採用することができる。例えば、指を水中に入れて超音波を用いた撮影もできる。本発明では、指の静脈の3次元画像をできる限り高精度で取得することが目的であるから、認証に使用される指静脈認証装置とは異なる任意の最適な装置で認証用のデータを取得できるという効果がある。なお、本発明では、上記のいずれの方法による撮影も、「透視撮影」と呼ぶことにして説明を進める。
【0027】
コンピュータ20には、こうして撮影装置25が出力する3次元画像データを処理するために、演算処理装置30と記憶装置40が設けられている。演算処理装置30には、スキャン制御手段31と認証用画像データ生成手段32とが設けられている。これらはいずれもコンピュータ20に対し所定の機能を付与するコンピュータプログラムである。記憶装置40には、撮影装置25の出力する3次元画像データ41が記憶される。さらに、認証処理を行うための図示しない認証装置の、それぞれ固有の撮影特性パラメータ42がここに記憶されている。
【0028】
撮影特性パラメータとは、指静脈認証装置の撮影装置固有の撮影条件を示すデータのことである。まったく同一の指の静脈パタンを撮影しても、撮像素子の構造、位置、撮影方向、照明の位置、照明光の濃度分布、撮像素子の光学特性により、取得される認証用2次元画像データの内容に特有の個性が存在する。従って、高精度の3次元画像データから演算処理により、固有の認証用2次元画像データを得るための演算式は、指静脈認証装置毎に異なってくる。この演算式に使用される係数等を撮影特性パラメータと呼ぶことにした。従って、指静脈認証装置毎に、後で説明する指模型等を使用して、撮影特性パラメータを取得するのである。
【0029】
すなわち、このコンピュータ20は、管理の対象となる多数の認証装置から撮影特性パラメータ42を収集し記憶しておく。これによって、同一人の3次元画像データから、各認証装置用の認証用2次元画像データ43を生成し、配布することができる。認証用2次元画像データ43は、3次元画像データ41を各指静脈認証装置の撮影特性パラメータ42に基づいて解析して、演算処理によって求められたデータである。なお、認証用2次元画像データ43は、各指静脈認証装置に対しそれぞれ複数生成される。これらの認証用2次元画像データは、いずれも撮影条件が異なるものとする。この撮影条件については、後で説明する。
【0030】
記憶装置40には、さらに、データ変換演算式44が記憶されている。これは、各指静脈認証装置固有の演算式である。演算式の設定方法は、いわゆる暗号化処理と同様に各指静脈認証装置ごとに自由に設定される。認証用2次元画像データ43は、このデータ変換演算式44により変換されてから、認証用データ45として、各指静脈認証装置用に向けて出力される。この出力は、出力装置34により、入出力インタフェース33を通じて該当する指静脈認証装置に転送される。なお、例えば、サービスマンが出力装置34を利用して、該当する認証用データ45をCDROMなどに記録し、これを利用者の元へ持参するということもできる。出力装置34は、コンピュータ20の本体制御部21に設けたUSBインタフェースに外付けされるものでもよい。
【0031】
図2は、3次元画像データの内容説明図である。
図に示すように、指10の静脈16が撮影されると、その右側に示すように、指を輪切りにした断面図51のように、静脈の存在する位置に黒点52の画像が存在する。本発明では、このデータを可能な限り正確に取得する。このデータは、本人を認証するために必要な重要な個人情報であるから、サービス会社のコンピュータ20で厳重に管理された状態で保管される。このような3次元画像データ取得のためには、例えば、入退室管理の対象となる人が特定の場所に出向いて精密な3次元画像データの取得に協力する。
【0032】
従来は、例えば、マンションの入退室管理を行う場合、マンションの指静脈認証装置を使って認証用画像データを登録した。ところが、この場合には、例えば、その指静脈認証装置が故障して新たな指静脈認証装置を取り付けた場合に、もう1度認証用データの取り直しが必要になる。一方、この発明では、予め極めて正確な3次元画像データを取得しておき、この3次元画像データを利用して、どの指静脈認証装置にも使用できるような認証用2次元画像データをその都度生成するので、同じ撮影と登録処理とを度々繰り返す必要はない。指静脈認証装置は一般に指を一方向から撮影した画像データを認証用として使用する。すなわち、指静脈認証装置用として、2次元画像データへの変換が必要になる。この変換方法には、例えば、次のような2種類の方法がある。
【0033】
図3の(a)と(b)は、方式の異なる指静脈認証装置用の2次元画像データ生成方法説明図である。
(a)は、イメージラインセンサ61を用いて静脈画像データを取得する方式の指静脈認証装置に対する、2次元画像データ生成方法を示す。この場合には、指10に対し、その指10の長さ方向の軸と平行にイメージラインセンサ61を配置する。このイメージラインセンサ61を矢印63方向に軸回転させて画像データを取得する。この時、イメージラインセンサ61の回転軸から見て、図のように放射状に指10の画像が入力する。従って、図のような放射線上にある画素値を累積加算すると、放射線1本分の2次元画像データが得られる。同一の断面図51について、解像度に応じて例えば、N本の放射線64を設定し、N個の累積画素値群を得る。指の長さ方向についても、解像度に応じた数の断面図51をM枚設定する。従って、合計で、N×M個の累積画素値群による2次元画像データが得られる。
【0034】
図の(b)は、CCD撮像素子により、静脈画像データを取得する方式の指静脈認証装置に対する、2次元画像データ生成方法を示す。この場合には、平行線65上にある画素値を累積加算して、平行線1本分の2次元画像データを得る。同一の断面図51について、解像度に応じて例えば、N本の平行線65を設定し、N個の累積画素値群を得る。指の長さ方向についても、解像度に応じた数の断面図51をM枚設定する。従って、合計で、N×M個の累積画素値群による2次元画像データが得られる。なお、こうした3次元画像データから2次元画像データを取得するための技術は、既存の任意の技術を利用すればよいから、これ以上の説明を省略する。
【0035】
図4は、3次元指模型の説明図である。
指の静脈は、指の長手方向にほぼ平行に存在する。従って、極めて単純なモデルとしては、図に示すように、指の長さ方向に配列された複数本の不透明な線73(金属線などを使用)と、その両端を固定する基板71、72を用いればよい。この線73の部分を静脈と想定して、図1に示した撮影装置25で撮影すれば、3次元指模型による、3次元画像データが取得できる。また、任意の指静脈認証装置でこの3次元指模型を撮影すれば、2次元画像データVが取得できる。一方、その指静脈認証装置の撮影条件、例えば、図3で説明した撮影方式に着目して、3次元画像データから理論的に2次元画像データWを生成できる。実際には各種の撮影条件の相違から、2次元画像データVとWには相違が生じる。そこで、両者を比較して、例えば、画素単位で各画素値の補正係数を求める。こうして、3次元画像データから高い精度の2次元画像データを生成するための演算式を得ることができる。この演算式は、各指静脈認証装置毎に異なるから、指静脈認証装置毎に別々に、記憶装置に記憶しておく。
【0036】
例えば、同じ指静脈認証装置をそのまま使い続けても、証明や読み取り装置の経時変化により、認識力が変化することがある。このときは、再度3次元指模型を撮影して、演算式を更新する、従って、その演算式により新たに、認証に必要な複数の2次元画像データを生成して、指静脈認証装置用として、出力する。これで、指静脈認証装置側の調整が完了する。認証精度を変更したり、指静脈認証装置の撮影条件を複雑な操作で調整することなく、安定で高精度な認証装置の管理ができる。なお、上記の指模型は一例である。指静脈認証装置の特性に応じて、より複雑な立方格子構造のものや、プラスチックモールドしたもの等を工夫して最適化することが好ましい。
【0037】
図5は、複数の認証用2次元画像データ取得方法の説明図である。
指の認証装置、すなわち、指静脈認証装置の撮影装置は、指を常に正確に一定の方角から撮影できるとは限らない。例えば、この図の(a)に示すように、指の長さ方向に向いた基準線50に対し、指10が角度αだけ傾斜して撮影される場合がある。これを考慮して基準線50に対して、角度αだけ傾斜させた状態の認証用2次元画像データを取得する。また、図の(b)に示すように、指10を撮影する時に、その基準線50に対して、指10が、角度βだけ回転して、撮影される場合がある。これを考慮して基準線50に対して、角度βだけ回転させた状態の認証用2次元画像データを取得する。このように撮影条件が異なる場合に、異なる撮影条件で撮影されるべき認証用画像データを3次元画像データ41から演算処理により取得する。なお、この回転角度や傾斜角度は、個々の指静脈装置に対して固有のものになる。指が曲がって撮影されやすいものや、指が回転しにくいものなど、それぞれ装置によって条件が異なる。従って、これを撮影特性パラメータとして保存しておく。撮影装置の構造上の違いや、照明装置の違いなども含めて、角度αやβがそれぞれ固有の値になる。こうして撮影特性パラメータを設定するとよい。
【0038】
図6は、指静脈認証装置の具体例を示す説明図である。
図に示すように、指静脈認証装置は、撮影装置80と、記憶装置81と、演算処理装置を備えている。演算処理装置は主要部のみを示しており、認証手段83と出力装置84を備える。撮影装置80には、指10を置くためのU字状の溝85が設けられている。ここに、指10を置いて撮影をし、指10の静脈画像データを取得する。記憶装置81には、認証用データ45と、静脈画像データ82とが記憶される。撮影装置80で撮影された静脈画像データ82は、記憶装置81に一時記憶された後、認証手段83によって認証用データ45と比較される。図5で説明したように、認証用データ45は、傾斜角度αや回転角度βの異なる条件で生成された複数の2次元画像データを含む。静脈画像データ82は、全ての2次元画像データと比較される。そして、それぞれ画素値の差分の累積値が閾値と比較される。閾値を十分に小さくしておくと、ほぼ同一の条件で生成された2次元画像データとの差分累積値だけが、閾値より小さくなる。出力装置は、この判定結果を出力し、例えば、オートロック装置の錠前を解除する信号を送出する。
【0039】
従来の指静脈認証装置は、認証用画像データを1本の指について1枚用意していた。他人を本人として認証してしまうのを防止するのが目的の装置だが、本人を他人として誤認証すると、利用者に不都合が生じるからこれを避けたい。撮影条件がばらついても、全て本人と認証するように、誤差を許容する。即ち、性能的には十万分の1の誤認証率にできるところを、閾値を緩めて、認証精度を五万分の1に設定する。4本の指それぞれについて、同じ設定をする。これで、認証精度は12500分の1に下がってしまう。これは理論的な数字であり、実用機では数千人に一人ほどの割合で、他人を本人と認証してしまうほど精度が低下する。
【0040】
一方、予め複数の認証用画像データを用意して、それぞれ異なる撮影条件で撮影された静脈画像データと比較できれば、個々の認証精度は十万分の1より下げなくて良い。即ち、閾値は小さくてよい。認証用画像データの枚数は増えても、認証精度は低下しない。しかも、従来は本人拒否率を下げるために4本の指の登録をしたが、本発明ではその必要がなくなる。従って、例えば、指2本の登録で構わない。1本にするとその指を怪我した場合に困るから、2本が限度である。それでも、従来よりはるかに高い精度で認証ができる。もちろん、これにより、他人を本人として認証してしまう事故も確実に防止できる。
【実施例2】
【0041】
図7は、実施例2の指静脈認証システムの説明図である。
本発明の指静脈認証システムでは、3次元画像をいかに正確に取得するかが問題となる。ここで、問題になるのが、対象者の生理的条件である。指が温かい時と、冷たい時とでは、血管の状態が異なる。寒い季節で指が非常に冷たい時や、運動をした後で指が暖かい状態や血行のよい状態とでは、撮影画像が大きく異なることがある。撮影をした静脈パタンは許容誤差の範囲以上に相違を示す。そこで、3次元画像データを、例えば、異なる生理的条件で2種類取得する。図7に示した装置は、このような画像撮影用の装置の具体例である。
【0042】
まず、始めに、対象者の手92を冷やす。これには、(a)に示すように、スポーツで打ち身を冷やすためなどに使用する冷却用のスプレー91を用る。こうして、指10の毛細血管を縮ませる。この状態で、(b)に示す撮影装置94に手92を入れる。撮影装置94には、例えば、赤外線ヒータ95を取り付けておく。当初、冷やされた指10の撮影を行い、その後、赤外線ヒータ95で手92全体を温め、血行の良くなった指10を再度撮影する。これによって、2種類以上の異なる生理状態の3次元画像データを取得する。
【0043】
従来は、こうした相違を考慮して認証用画像データの閾値を大きくするような処理をしていた。この実施例を使用すれば、2種類以上の異なる生理状態の3次元画像データから、複数の2次元画像データを生成して、認証用データとして使用するので、個々の閾値は小さいままにして、高精度を維持できる。
【0044】
また、例えば、マンションの入口に設けた指静脈認証装置の撮影装置に設けたランプが故障した時、これを交換すると、撮影条件がこれまでと若干異なってくることがある。このような場合に、その都度マンションの居住者全員の指を撮影し直すのは、極めて大変な作業になる。上記の実施例のシステムを利用すると、本人の高い精度の3次元画像データがコンピュータ20に記憶されているので、撮影特性パラメータ42を新たに取得し、いつでもその指静脈認証装置に適する認証用2次元画像データを生成することができる。従って、必要な都度、補正要求を行えばよい。この時の補正は、3次元指模型を使用し、既に説明した要領で、該当する指静脈認証装置の撮影特性パラメータを取得すればよい。こうして、演算式を更新する。また、例えば、マンションに2つの出入口がある場合、それぞれ別々の指静脈認証装置を設置したとしても、住人の指の撮影は1回で済む。
【実施例3】
【0045】
図8は、指静脈認証システムの動作を示すフローチャートである。
まず、ステップS11において、撮影装置25を用いた対象者の指の透視撮影を行う。ステップS12とステップS13では、信号の補正処理や正規化処理を実行し、ステップS14で、3次元画像データ41をコンピュータ20の記憶装置40に記憶する。次に、記憶装置40に記憶した各指静脈認証装置の撮影特性パラメータ42を読み取る。そして、その撮影特性パラメータ42を使用して、認証用2次元画像データ43を生成する(ステップS16)。ステップS17で、他の撮影特性パラメータがあるかどうかを判断する。他のパラメータがあれば、ステップS15に戻り、再度そのパラメータを読み取って認証用2次元画像データを生成する。同一の指静脈認証装置であっても、撮影する角度によって様々な条件が異なる場合には、複雑なパラメータが使用される。
【0046】
撮影角度もパラメータの一種である。また、撮影温度もパラメータの一種である。これらに応じて、複数の認証用2次元画像データを生成する(ステップS16)。必要な全ての認証用2次元画像データが生成されると、ステップS17からステップS18に進む。ステップS18では、生成された認証用2次元画像データ43を記憶装置40に記憶する。次に、ステップS19で、該当する指静脈認証装置のデータ変換演算式44を記憶装置40から読み取る。この演算式を用いて、認証用2次元画像データ43を変換する(ステップS20)。こうして、認証用データ45を生成し、記憶装置40に保存する(ステップS21)。この認証用データ45は、出力装置34を通じて取り出されて、利用される。
【0047】
図9は、指静脈認証装置の動作例を示すフローチャートである。
まず、ステップS31において、マンションのゲートなどで、対象者の認証対象の指を透視撮影する。ステップS32で、その静脈画像データを取得し、指静脈認証装置の記憶装置に保存する。ステップS33では、コンピュータ20から受け取った認証用画像データ45を読み取る。そして、ステップS34で、差分値の演算をする。差分値の演算をする場合には、読み取った静脈画像データに所定の歪み補正を行い、縦横比などを調整する正規化を行い、認証用画像データの各画素との差分値演算をする。比較画素を変更したり、画像の微小な位置や傾きを補正する差分値演算を繰り返し、差分値の合計の最小値を求める(ステップS35)。そして、ステップS36において、予め用意した閾値と比較する。この閾値は、画一的でも認証用画像データごとに別々であっても構わない。
【0048】
ステップS37において、比較の結果を判定結果として記憶する。差分値が閾値以下であれば、本人と判定する。それ以外の場合は、他人と判定する。ステップS38では、別の認証用画像データがあるかどうかを判断する。別の認証用画像データがある場合には、ステップS33に戻り、その画像データを読み取って、ステップS34以降の差分値演算と判定処理を実行する。こうして全ての認証用画像データについて、判定処理を繰り返す。これにより最も撮影条件の近い認証用画像データと差分値を取り、その最小値を求めた時、閾値以下となる場合が生じる。この時は、本人であると認証できる。
【0049】
ステップS39では、このように、判定結果群を検索して、判定結果が本人であるとしたものを取り出す。1つでも本人であると判定したものがあれば、ステップS40に進み、その認証結果を本人である旨とする。全て本人でないと判定された場合には、結論は本人でないということになる。このような処理をした場合に、ステップS36と37の段階で、閾値を高く維持したまま、高い精度で判定を行う。従って、全く他人の静脈画像データを本人のものと誤認識することが防止できる。逆に、多数の認証用画像データを繰り返し取り出して判定するので、撮影条件がいずれかの認証用画像データと一致する確率が増える。これによって本人を他人であると誤認識する率を減らすことができる。すなわち、認証用画像データを増やせば増やすほど、本人を他人であると誤認識する率を減らすことができる。いずれの場合においても、差分値演算を行い、その閾値を下げるのでなく、比較判定に使用する認証用画像データを取り替えて、必ず閾値をクリアできる条件を導き出すので、高い精度で本人の認識ができる。特に、例えば、貧血ぎみの女性とか、指が細く静脈パタンが単純な子供の場合に、誤認識が発生しやすい。これを上記のような手段により高い精度に維持できることが実証された。また、閾値を小さく維持するだけなので、既存の認証装置と同レベルの性能の装置であっても、高い認証精度を維持できる生体認証装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1の指静脈認証システムブロック図である。
【図2】3次元画像データの内容説明図である。
【図3】(a)と(b)は、方式の異なる指静脈認証装置用の2次元画像データ生成方法説明図である。
【図4】3次元指模型の説明図である。
【図5】複数の認証用2次元画像データ取得方法の説明図である。
【図6】指静脈認証装置の具体例を示す説明図である。
【図7】実施例2の指静脈認証システムの説明図である。
【図8】指静脈認証システムの動作を示すフローチャートである。
【図9】指静脈認証装置の動作例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
20 パーソナルコンピュータ
21 本体制御部
22 ディスプレイ
23 キーボード
24 マウス
25 撮影装置
10 指
11 ランプ
12 X軸イメージラインセンサ
13 Y軸イメージラインセンサ
14 矢印
30 演算処理装置
40 記憶装置
31 スキャン制御手段
32 認証用画像データ生成手段
41 3次元画像データ
42 撮影特性パラメータ
43 認証用2次元画像データ
44 データ変換演算式
45 認証用データ
33 入出力インタフェース
34 出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指の静脈パタンの3次元画像を透視撮影する撮影装置と、
前記撮影装置の出力する3次元画像データと、特定の指静脈認証装置の撮影特性パラメータとを記憶する記憶装置と、
前記3次元画像データを前記撮影特性パラメータに基づいて解析して演算処理し、前記特定の指静脈認証装置用の複数の認証用2次元画像データであって、それぞれ、撮影条件の異なるものを生成する認証用画像データ生成手段とを備えたことを特徴とする指静脈認証システム。
【請求項2】
請求項1に記載の指静脈認証システムにおいて、
前記記憶装置は、前記特定の指静脈認証装置固有のデータ変換演算式を記憶し、
前記複数の認証用画像データは、それぞれ前記データ変換演算式により変換されてから、出力装置により出力されることを特徴とする指静脈認証システム。
【請求項3】
請求項1に記載の指静脈認証システムにおいて、
前記複数の認証用2次元画像データは、
指を長さ方向に向いた基準線に並行に向けた状態で、それぞれ前記基準線を軸とした異なる回転角度から撮影をした画像データと、指を前記基準線に対して傾斜させた状態で、それぞれ異なる傾斜角度で撮影をした画像データとを含むことを特徴とする指静脈認証システム。
【請求項4】
請求項1に記載の指静脈認証システムにおいて、
前記撮影装置は、前記指の静脈パタンの3次元画像であって、異なる生理的条件で撮影をしたものを複数撮影し、
前記記憶装置は、複数の静脈パタンの3次元画像を記憶し、
前記複数の認証用2次元画像データは、前記複数の静脈パタンの3次元画像それぞれについて生成されることを特徴とする指静脈認証システム。
【請求項5】
請求項3に記載の指静脈認証システムにおいて、
前記撮影装置は、3次元指模型の3次元画像を撮影し、
前記記憶装置は、前記3次元指模型を、前記特定の指静脈認証装置で撮影した複数の2次元画像データであって、それぞれ撮影条件の異なるものを記憶し、
前記認証用画像データ生成手段は、前記指模型の3次元画像データから演算により前記2次元画像データを生成するための演算式を、前記複数の認証用2次元画像データ生成のための演算式とすることを特徴とする指静脈認証システム。
【請求項6】
請求項1に記載の指静脈認証システムにおいて、
前記記憶装置は、既に記憶している、前記3次元指模型を前記特定の指静脈認証装置で撮影した複数の2次元画像データを、補正要求に従って更新し、
前記認証用画像データ生成手段は、前記3次元指模型の2次元画像データの更新があったときは、前記複数の認証用2次元画像データ生成のための演算式を更新することを特徴とする指静脈認証システム。
【請求項7】
指の静脈パタンの3次元画像データを、自己の撮影特性パラメータに基づいて解析し演算処理して得られた、撮影条件の異なる複数の認証用2次元画像データを記憶する記憶装置と、
認証対象となる指の静脈を透視撮影して静脈画像データを得る撮影装置と、
前記撮影装置の出力する静脈画像データと前記複数の認証用2次元画像データとを個別に比較して、静脈画像データが複数の認証用2次元画像データのいずれかと近似しているときは認証判定をし、いずれとも似ていないときは否認判定をする認証判定手段を備えたことを特徴とする指静脈認証装置。
【請求項8】
請求項7に記載の指静脈認証装置において、
前記記憶装置は、複数の認証用2次元画像データであって、予め当該指静脈認証装置固有のデータ変換演算式で変換された認証用データ群を記憶し、
前記認証判定手段は、前記撮影装置の出力する撮影画像データを、前記固有のデータ変換演算式で変換したものと前記認証用データ群とを比較することを特徴とする指静脈認証装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−115072(P2007−115072A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306551(P2005−306551)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(505393223)
【Fターム(参考)】