説明

振れ止め用金具

【課題】 後付け施工が可能であるとともに、施工現場での作業性・安定性に優れた振れ止め用金具を提供することにある。
【解決手段】 振れ止め用金具10は、吊り部材を握持するようにして固定するための固定部20と、振止部材を取り付けるための取付部40とを備える。固定部20は、固定片30の延伸部31に形成された締結孔32を介して、ボルト71及びナット72の締結具70で締結する。取付部40は、固定片30の延伸部31,31に挟まれる取付片50の本体部分に締結孔を形成するための穿孔51と、取付片50の本体から折曲する折曲部分に振止部材を挿通するための切欠溝52とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、空調機器や配管・架台等の支持材を支持するために天井側から垂下された全ネジ又は半ネジの吊り部材と、支持材を振れ止めするために天井側から傾斜して吊り部材に取り付けられる全ネジ又は半ネジの振止部材とを連結するための振れ止め用金具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記振れ止め用金具に関する先行技術文献としては、特許文献1に示すものが挙げられる。
【0003】
特許文献1は、図9に示すものである。詳しくは、吊りボルトPの側面に挟着する平面U字形状の挟着体1と、この挟着体1の開放端部を貫通して固定する連結ボルト2と、この連結ボルト2に上下誘動自在に連結され、吊りボルトPに対して斜めに配設される長ボルトQに連結する斜め支持体3とから成る吊りボルト振れ止め金具において、挟着体1の一方の開放端部を屈曲して前記連結ボルト2の頭部2Aに係止する回り止め部1Eを設けたことを特徴とするものである。また、挟着体1の対向する内側面に、二組の係止部1Aを設けて、係止部1Aは、それぞれ吊りボルトP側面の上下2カ所の谷部に食い込む上下一対の係止突起1Aaから成り、吊りボルトPを介して相対する各係止突起1Aaの位置が上下にずれるように設定することを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−339918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記する特許文献1に開示された振れ止め用金具の目的・効果は、同明細書に記載されているように、確実な固定力を有し、高所での取り付け作業を容易に行なうことができ、しかも、1本の連結ボルトを使用する場合でも、既設の吊りボルトに後付けで装着することが可能になるものである(同明細書[0012]及び[0023]参照)。
【0006】
これに対して、本願発明者は、特許文献1に開示された振れ止め用金具とは異なる構造で、後付け施工が可能であるとともに、施工現場での作業性・安定性に優れた振れ止め用金具を提供すべく鋭意試験・研究を行い、本願発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本願発明の第1の発明は、支持材を支持するために天井側から垂下された全ネジ又は半ネジの吊り部材と、支持材を振れ止めするために天井側から傾斜して吊り部材に取り付けられる全ネジ又は半ネジの振止部材とを連結するための振れ止め用金具であって、振れ止め用金具は、吊り部材を握持するようにして固定するためC字形に形成された環状部及びその両端から延伸した延伸部を有する固定片からなる固定部と、固定片の延伸部に挟まれるようにして設けられ振止部材を取り付けるための取付片からなる取付部とを備え、固定部は、固定片の延伸部に形成された締結孔を介してボルト及びナットの締結具で締結するとともに、固定片の環状部にその軸方向に沿って強度を下げて固定片の吊り部材に対する仮固定を補助する仮固定補助手段を備え、取付部は、固定片の延伸部に挟まれる取付片の本体部分に締結孔を形成するための穿孔と、取付片の本体から折曲する折曲部分に振止部材を挿通するための挿通部とを備えたことを特徴とするものである。
第2の発明は、固定部が、固定片の仮固定手段として、1又は2以上の孔(スリット、丸孔等)又は/及び溝を形成したことを特徴とする同振れ止め用金具である。
第3の発明は、固定部が、環状部へ吊り部材を押圧するための押圧手段を固定片の延伸部内面側に備えたことを特徴とする同振れ止め用金具である。
第4の発明は、取付部が、取付片に設けられた挿通部を切欠溝によって形成したことを特徴とする同振れ止め用金具である。
第5の発明は、取付部が、振止部材に螺合するナットと挿通部の設けられた折曲部分に介在させて振止部材の脱落を防止するために切欠溝の開口側を塞ぐ脱落防止用ワッシャーを備えたことを特徴とする同振れ止め用金具である。
第6の発明は、締結孔に締結具を設けた固定部が、ナットによる締め付けに対してボルトの伴回りを防止するための伴回り防止手段を備えたことを特徴とする同振れ止め用金具である。
【発明の効果】
【0008】
上記した本願発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)固定部が、固定片の環状部にその軸方向に沿って強度を下げて固定片の吊り部材に対する仮固定を補助する仮固定補助手段(スリットや凹溝等)を備えたことで、工具を使用せずに指で延伸部をつまむだけで固定片を吊り部材に仮固定できる。すなわち、固定片の延伸部を指でつまんで略ハの字に広がる延伸部の開きを抑えることで、吊り部材を簡単に握持し仮固定できるとともにボルト・ナットによる締め付けを簡単に行える。これによって、振り止め要金具の後付け施工を簡易且つ確実に実施できる。
(2)固定部が、環状部へ吊り部材を押圧するための押圧手段を固定片の延伸部内面側に備えることで、吊り部材が固定片の環状部へ押圧されて吊り部材を適正位置に維持できるために、固定片の吊り部材への固定がより確実なものとなる。
(3)取付部が、取付片の本体から折曲する折曲部分に振止部材を挿通するための挿通部として切欠溝を備えることで、振止部材を取付部に後付け施工で取り付けることができる。また、振止部材に予めナットを取り付けておく(螺合しておく)ことができる(前記の特許文献1では振止部材の挿通後でなければ、下側ナットを取り付けることができなかった)。
(4)取付部が、切欠溝の開口側を塞ぐ脱落防止用ワッシャーを備えることで、取付部から振止部材の脱落を簡易且つ確実に防止することができる。
(5)締結孔に締結具を設けた固定部が、ナットによる締め付けに対してボルトの伴回りを防止するための伴回り防止手段を備えることで、ボルトの伴回りを防止し、ナットによる締め付けを確実に行える。
(6)上記(1)〜(5)のように、本願発明は、吊り部材と振止部材を簡易且つ確実に連結できるので、耐震補助材として有効に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】振れ止め用金具の全体構造を示す分解図。
【図2】振れ止め用金具の使用状態を示す説明図。
【図3】振れ止め用金具の固定部の構造を示す説明図(1)。
【図4】振れ止め用金具の固定部の構造を示す説明図(2)。
【図5】振れ止め用金具の取付部の構造を示す説明図。
【図6】振れ止め用金具の脱落防止用ワッシャーのその他の実施形態を示す説明図。
【図7】振れ止め用金具の取付片のその他の実施形態を示す説明図(1)。
【図8】振れ止め用金具の取付片のその他の実施形態を示す説明図(2)。
【図9】特許文献1に開示された先行技術を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本願発明に係る振れ止め用金具10の全体構造を示す分解図である。
図1に示すように、振れ止め用金具10は、吊り部材(図示省略)を握持するようにして固定するためC字形に形成された環状部及びその両端から延伸した延伸部を有する(略U字形に形成された)固定片30からなる固定部20と、固定片30の延伸部31,31に挟まれるようにして設けられ振止部材(図示省略)を取り付けるためのL字形の取付片50からなる取付部40とを備える。
【0011】
固定部20は、固定片30の延伸部31に形成された締結孔32を介して、ボルト71及びナット72の締結具70で締結する。
また、取付部40は、固定片30の延伸部31に挟まれる取付片50の本体部分に締結孔を形成するための穿孔51と、取付片50の本体から折曲する折曲部分に振止部材を挿通するための挿通部としての切欠溝52とを備える。なお、符号60は、切欠溝52から振止部材の脱落を防止するために切欠溝52の開口側を塞ぐ脱落防止用ワッシャーであり、符号75は、全ネジ又は半ネジの振止部材に螺合して取付片50の折曲部分と脱落防止用ワッシャー60を挟み込み、振止部材を取付片50に取り付けるナットである。
【0012】
図2は、振れ止め用金具10の使用状態を示す説明図である。
図2に示すように、振れ止め用金具10は、空調機器や配管・架台等の支持材(図示省略)を支持するために天井側から垂下された全ネジからなる吊り部材80に固定部20を固定するとともに、支持材を振れ止めするために天井側から傾斜する全ネジからなる振止部材85を取付部40に取り付けて、吊り部材80と振止部材85とを連結するものである。ここで、取付部40に取り付けた振止部材85は、どの位置で取り付けられても他の部材、例えば、固定部20や締結具70(特にボルト71)などに接触(干渉)することがないので、位置調整が容易で余裕をもって振止部材85を収納できる。
【0013】
図3及び図4は、振れ止め用金具10の固定部20の構造を示す説明図である。
まず、図3に示すように、固定部20は、固定片30をC字形に形成された環状部及びその両端から延伸した延伸部で構成して吊り部材80を握持するようにして仮固定する。この時、固定片30の仮固定を容易にするために、固定片30の環状部35にその軸方向に沿って強度を下げて固定片30の吊り部材80に対する仮固定を補助する仮固定補助手段33を備えている。この仮固定補助手段33を備えることで、固定片30の延伸部31,31を指でつまんで略ハの字に広がる延伸部31,31の開きを抑えることで、吊り部材80を簡単に握持し仮固定できる。それととともに、次の締結具70(ボルト71・ナット72)による締め付けを簡単に行える。ここで、仮固定補助手段33には、図示するように固定片30の背の部分にスリット34,34や凹溝38を設けることなどが挙げられる(スリットではなく丸孔でもよいし、スリットを上下に切欠溝のように形成してもよく、要は強度を下げて延伸部をつまみやすくすればよい)。また、締結孔32の外周側には、締結具70をナット72で締め付ける場合に、ボルト71の伴回りを防止するために伴回り防止突起73を設けている。
【0014】
次に、図3及び図4に示すように、固定片30の反開放側へ形成される環状部35の上下端には、内面側に突起するずれ止め防止爪36を備える。このずれ止め防止爪36は、全ネジ又は半ネジからなる吊り部材80のネジ溝に引っ掛けることによって、固定片30が吊り部材80からずり落ちること(吊り部材80の長手方向下方への移動・落下)を防止できる。ここで、ずれ止め防止爪36は、先端のエッジ部分をネジ溝に引っ掛けるようにする構造であるために、固定片30と吊り部材80との当接(締結具による締め付け)が多少あまくても(緩くても)ネジ溝に引っ掛かり、ずり落ちを防止できる。これに対して、前記の特許文献1では、係止突起1Aaをネジ溝に食い込ませる構造であるために、固定片30と吊り部材80との当接(締結具による締め付け)を強固にしないとネジ溝へ食い込まず、係止できない。
【0015】
また、図3及び図4に示すように、固定片30の反開放側に形成される環状部35へ吊り部材を押圧するための押圧手段37を固定片30の環状部35又は/及び延伸部31内面側に備える。すなわち、押圧手段37は、環状部35との連接部分(境界部分)にあって内面側へ凸状に形成されている。このため、固定片30が吊り部材80を握持するように締結孔32へ挿通された締結具70(ボルト71及びナット72)を締め付けると、押圧手段37はこの締め付け作業に従い吊り部材80を環状部35(反開放側端部33)へ押圧することになる。従って、吊り部材を適正位置に維持できるために、固定片の吊り部材への固定がより確実なものとなる。
【0016】
図5は、振れ止め用金具10の取付部40の構造を示す説明図である。
まず図5(a)に示すように、取付片50はその本体から折曲する折曲部分に切欠溝52を備えて、この切欠溝52に全ネジからなる振止部材85を挿通する。
次に図5(b)に示すように、取付片50を振止部材85に固定するために用いられるナット75と切欠溝52の設けられた折曲部分との間に脱落防止用ワッシャー60を介在させる。
そして図5(c)に示すように、振止部材85に螺合したナット75,75で取付片50(折曲部分)及び脱落防止用ワッシャー60を締め付ける。これによって、取付部40は、振止部材85を取付片50に後付け施工で取り付けることができる。また、取付部40は、脱落防止用ワッシャー60で切欠溝52の開口側を塞ぐことになり、取付部40から振止部材85の脱落を簡易且つ確実に防止することができる。
【0017】
図6は、脱落防止用ワッシャーのその他の実施形態を示す説明図である。
図5(b)(c)に示した脱落防止用ワッシャー60は、当接する取付片50の切欠溝52の先端側を折り曲げた起立部53,53によって取付片50との当接を維持される。 一方、図6に示す脱落防止用ワッシャー65は、その両端を略S字形に折り曲げた保持部66,66を備える。そして、脱落防止用ワッシャー65は、この保持部66,66の弾性力によって取付片50との当接を維持される。
【0018】
図7は、取付片のその他の実施形態を示す説明図(1)であり、取付片の外観を(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図で図示したものである。
図7に示す取付片55が、図1及び図5等に示す取付片50と異なるのは、振止部材を挿通するための切欠溝56を折曲部分の側面(サイド)に形成した点にある。
【0019】
図8は、取付片のその他の実施形態を示す説明図(2)であり、取付片の外観を(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図で図示したものである。
図8に示す取付片57が、図1及び図5等に示す取付片50や図7に示す取付片55と異なるのは、振止部材を挿通するための切欠溝58を本体部分から折曲部分の中心にわたってL字形に形成した点にある。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本願発明に係る振れ止め用金具は、空調機器や配管・架台等の支持材を支持するために天井側から垂下された吊り部材(全ネジ・半ネジ)と、支持材を振れ止めするために天井側から傾斜して吊り部材に取り付けられる振止部材(全ネジ・半ネジ)とを連結するために広く利用できるものである。特に、既に吊り部材や振止部材が配設された場合の後付け施工が可能な振れ止め用金具として広く利用できるものである。
【符号の説明】
【0021】
10 振れ止め用金具
20 固定部
30 固定片
31 延伸部
32 締結孔
33 仮固定補助手段
34 スリット
35 環状部
36 ずれ止め防止爪
37 押圧手段
38 凹溝
40 取付部
50 取付片
51 穿孔
52 切欠溝
53 起立部
55 取付片
56 切欠溝
57 取付片
58 切欠溝
60 脱落防止用ワッシャー
65 脱落防止用ワッシャー
66 保持部
70 締結具
71 ボルト
72 ナット
73 伴回り防止突起
75 ナット
80 吊り部材
85 振止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持材を支持するために天井側から垂下された全ネジ又は半ネジの吊り部材と、支持材を振れ止めするために天井側から傾斜して吊り部材に取り付けられる全ネジ又は半ネジの振止部材とを連結するための振れ止め用金具であって、
振れ止め用金具は、吊り部材を握持するようにして固定するためC字形に形成された環状部及びその両端から延伸した延伸部を有する固定片からなる固定部と、固定片の延伸部に挟まれるようにして設けられ振止部材を取り付けるための取付片からなる取付部とを備え、
固定部は、固定片の延伸部に形成された締結孔を介してボルト及びナットの締結具で締結するとともに、固定片の環状部にその軸方向に沿って強度を下げて固定片の吊り部材に対する仮固定を補助する仮固定補助手段を備え、
取付部は、固定片の延伸部に挟まれる取付片の本体部分に締結孔を形成するための穿孔と、取付片の本体から折曲する折曲部分に振止部材を挿通するための挿通部とを備えたことを特徴とする振れ止め用金具。
【請求項2】
固定部は、固定片の仮固定手段として、1又は2以上の孔又は/及び溝を形成したことを特徴とする請求項1記載の振れ止め用金具。
【請求項3】
固定部は、環状部へ吊り部材を押圧するための押圧手段を固定片の延伸部内面側に備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の振れ止め用金具。
【請求項4】
取付部は、取付片に設けられた挿通部を切欠溝によって形成したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の振れ止め用金具。
【請求項5】
取付部は、振止部材に螺合するナットと挿通部の設けられた折曲部分に介在させて振止部材の脱落を防止するために切欠溝の開口側を塞ぐ脱落防止用ワッシャーを備えたことを特徴とする請求項4記載の振れ止め用金具。
【請求項6】
固定部の締結孔に設けられた締結具は、ナットによる締め付けに対してボルトの伴回りを防止するための伴回り防止手段を備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の振れ止め用金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−87860(P2012−87860A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234473(P2010−234473)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(391039302)株式会社昭和コーポレーション (10)
【Fターム(参考)】