説明

振動子、これをもちいた電気機械共振器及びその製造方法

【課題】微細化に際しても電極の振動を抑制し、出力特性のばらつきを防ぎ、信頼性の高い振動子、これをもちいた電気機械共振器およびその製造方法を提供する。
【解決手段】振動子3と、前記振動子3と所定の微小ギャップを隔てて配設された対向電極7Tとを備え、前記振動子3と前記対向電極7Tとの間の静電容量の変化に基づいて、前記振動子3の機械的振動を電気信号として出力するように構成され、前記対向電極7Tが、半導体基板表面に絶縁層5を介して形成された外部接続用の電極端子7Pと一体的に形成されており、前記電極端子7Pおよび前記電極端子7Pと前記対向電極7Tとの連結部7Sが、その下層の前記絶縁層5を貫通して形成された貫通孔11に充填された支持部13によって固定された電気機械共振器を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems) 技術を用いて作製する振動子、これをもちいた電気機械共振器、及びその製造方法に関し、特に電極とギャップを有するRF−MEMS共振器、及びRF−MEMSフィルタの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の容量結合型の電気機械共振器としては、電極端子と振動子の間にエアギャップを必要とするが、このエアギャップは、絶縁層を犠牲層として用いて後の工程でそれを除去することによって形成する方法が主に利用されている。(特許文献1参照)。又、電気機械共振器は、固有振動数を有する振動子の共振を利用するため、この振動子を支持基板から開放するために絶縁層を犠牲層として用いて、後の工程でそれを除去することによって形成する。さらに従来の電気機械共振器では、RF信号が入出力される電極端子と支持基板とを絶縁分離するために、電極端子の下層部に絶縁層を設けている。このように、電気機械共振器を構成するために、最低でも三層の絶縁層(ギャップのための犠牲層、構造開放のための犠牲層、電極端子の下層部の絶縁分離のための層)が必要となり、これを別々の工程で形成すると工程が複雑になる他、製造コストも増加するという問題がある。
【0003】
この例では酸化シリコン膜からなるBOX層(埋め込み酸化シリコン膜)5を介して、多結晶シリコンからなる支持基板1上に単結晶シリコン層からなるデバイス形成層(3)とを形成することによって構成されたSOI(Semiconductor-0n-Insulator)基板を用いて電気機械共振器を実現している。これを図12および図13に示す。
【0004】
この電気機械共振器の製造方法では、まず最初に多結晶シリコン基板に酸化シリコン膜からなるBOX層5、単結晶シリコン層からなるデバイス形成層(3)を形成したSOI基板に、異方性エッチングを行い、断面三角形の梁状体(三角断面梁)を形成し、ギャップ形成用の酸化シリコン9を形成した後、LPCVD法により、電極膜7となるドープトポリシリコン膜を堆積する(図13(a))。
【0005】
この後、レジスト12をスピンコートにより塗布する(図13(b))。このとき、レジストの塗布厚が(振動子3を構成する)三角断面梁の高さよりも薄くなるように、スピナーの回転数およびレジストの粘度を決定し、スピンコートしてレジスト12の膜厚を決定し頂点が露出するようにする。この後は通常のフォトリソ工程に戻り、レジストの露光と現像後を行い、電極マスクのパターニングを行う。
【0006】
次に、突出した頂点とパターニングされた電極膜7を1回のエッチング工程で同時にパターニングする。
【0007】
次に、図13(c)に示すように、支持部となる部分を残して、絶縁層9とBOX層5を除去して振動子3となる三角断面梁を開放し、空間19および狭ギャップ17を有する電極が突出構造部で構成された三角断面梁の側面に配置された空中突出構造部が完成する。
この製造方法によって、SOI基板を利用した単結晶シリコンの振動子と静電励振・静電検出を可能とする電極端子を有した電気機械共振器が実現する。ギャップ形成用の絶縁層9と振動子3の下層部にあたるBOX層5が同じ材料の酸化シリコン膜であるため、最後のリリース(構造開放)工程で同時にギャップ形成と構造開放が可能となり、製造工程の削減を実現する。
【0008】
【特許文献1】WO2004-027796
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、携帯端末分野においては高周波化に伴い、電気機械フィルタとして上述したような電気機械共振器が広く用いられるようになってきているが、このような電気機械共振器では、小型化が進む一方である。高周波化するためには理想的な節に電極を配置する必要があるため、振動子を小型化するとこの振動子との間に静電容量を形成するための対向部の幅(すなわち電極幅)も小さくなる。その結果、通電のための電極パッドを構成する電極端子から伸長して、振動子に対向する対向部の幅は40μm以下となるものが多い。このため、電流路を確保するために、電極端子と対向部との間の連結部を含む電極(以下電極)の幅は重要な要素となっている。
【0010】
このように微細化が進むと、パターニングプロセスにおける制御性が重要な問題となる。上述したような工程で素子形成を行おうとすると、最後の構造開放のためのリリース工程により、図12に示すように、フッ酸で酸化シリコン膜を除去していくと電極端子の下層部に設けられたBOX層までが同時にエッチングされるため電極にアンダーカットが発生し、中空構造が形成される。この電極に交流信号を入力して静電励振すると共振器が励振されるだけでなく、電極も同時に振動するため、出力信号中に電極の固有振動数も検出されてしまう場合がある。又、ある場合にはリリース工程で電極7が振動子3、及び電極のシリコン層に接触して離れなくなってしまう現象(スティクション)が発生するという問題もあった。
【0011】
対向部7Tや、連結部7S、電極端子7Pを含む電極7の下層部に発生するアンダーカット領域の大きさは、フッ酸でリリースするエッチング時間に依存するが、エッチング時間は主に振動子3を支持基板から開放する時間、及びギャップ形成用の酸化シリコン膜を除去する時間で決定される。例えば振動子3のサイズの拡大あるいは、BOX層の膜厚の増加によって、振動子3を支持基板から開放する時間も増加する。又、狭ギャップを実現するため酸化シリコン膜を薄膜化するとリリースのエッチング液が進入しにくくなり、BOX層まで到達するのが困難となり、エッチング時間を増加する必要がある。このように振動子とギャップのサイズやBOX層の厚みによってエッチング時間が変化するため、リリース工程における、対向部や、連結部、電極端子を含む、電極のアンダーカットの発生は免れ得ない問題となっていた。
このため、アンダーカット分を考慮して、対向部などの電極幅を確保できるようにマージンをとらなければならないという問題もあり、これが微細化を阻む深刻な問題となっていた。
【0012】
本発明は前記実情に鑑みてなされたもので、微細化に際しても電極の振動を抑制し、出力特性のばらつきを防ぎ、信頼性の高い振動子および電気機械共振器を提供することを目的とする。
また、電極のアンダーカットを防止し、微細かつ高精度で、信頼性の高い電気機械共振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで本発明では、振動子と、前記振動子と所定の微小ギャップを隔てて配設された電極とを備え、前記振動子と前記電極との間の静電容量の変化に基づいて、前記振動子の機械的振動を電気信号として出力する振動子であって、前記電極が、半導体基板表面に絶縁層を介して形成された外部接続用の電極端子と一体的に形成されており、前記電極およびその下層の前記絶縁層を貫通して形成された貫通孔に充填された支持部によって、前記電極が固定されたことを特徴とする。
この構成によれば、電極が、支持部によって支持基板上に支持されているため、支持基板と電極のスティクションを回避することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電気機械共振器の構造によれば、製造工程における電気機械共振器のリリース工程で発生する電極端子の下層部のアンダーカットを防止し、電極と支持基板とのスティクションを回避することが可能となる。又、電極端子の下層部のアンダーカットが生じないため片持ち梁構造が形成されず、不要な電極の振動が防止できる。したがってより特性の良好な振動特性を備えた電気機械共振器の形成が可能となる。
【0015】
さらにまた、電極端子の下層部の絶縁層を柱構造にすることで支持基板と電極端子との容量結合を低減し、フィードスルー(ホールド時に出力に入力信号が現れる度合い)の課題を改善することができる。
【0016】
また、本発明の方法によれば、ギャップ形成用の絶縁層に比べて膜厚の大きい構造開放用の絶縁層が、エッチング選択性をもつ材料からなる柱状体に置き換えられた状態で、エッチング除去されるため、電極下層部のアンダーカットが低減され、同一工程でギャップ形成用の絶縁層および、これに比べて膜厚の大きい構造開放用の絶縁層を除去することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1の電気機械共振器の斜視図であり、図2(a)乃至(d)は、図1の構造の斜視図を示す。
この電気機械共振器は、振動子3と、前記振動子3と所定の微小ギャップ17を隔てて配設された対向電極7Tとを備え、前記振動子3と前記対向電極7との間の静電容量の変化に基づいて、前記振動子3の機械的振動を電気信号として出力する振動子であって、この対向電極7が、半導体基板1としてのシリコン基板表面にBOX層としての酸化シリコン膜からなる絶縁層5を介して形成された外部接続用の電極端子7Pと一体的に形成されており、電極端子7Pおよび電極端子7Pと対向電極7Tとの連結部7S(これら3つで電極7とする)が、その下層の前記絶縁層を貫通して形成された貫通孔11に充填された窒化シリコン膜からなる支持部13によって、電極7が固定されたことを特徴とする。なお、この電極7はドープトポリシリコンで構成されるが、この表面はタングステン薄膜からなる電極金属層で被覆されるようにしてもよい。
【0018】
この構成によれば、電極7は、支持部13によって支持基板としての半導体基板1上に支持されているため、支持基板と電極のスティクションを回避することができ、微細で特性ばらつきの少ない電気機械共振器を構成している。
【0019】
また、本発明の電気機械共振器の構造は、主にSOI基板を利用して制御性よく作製される。本実施の形態の方法では、まず図2(a)に示すように、この基板1上にBOX層(酸化シリコン膜)5を介して形成された単結晶シリコン層(3)を形成し、SOI基板を出発材料として用い、この基板1上にBOX層5を介して形成されたSOI基板の単結晶シリコン層(3)を異方性エッチングすることにより、三角断面梁を形成する(図2(b))。
【0020】
このように、共振器の構造は、例えば水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を利用した結晶異方性エッチングにより、三角断面梁(3)を形成することによって得られる。例えば、シリコン層の厚さが1.5μmのSOI基板を使用して異方性エッチングを実施することにより、シリコンが(111)側面に沿ってエッチングされ、三角断面梁がシリコン表面に対して54.7°の角度を保ってエッチングされる。この様に、異方性エッチングを用いて形成することにより、梁の幅(2.1μm)は、製造する基板のシリコン層の厚さで決定されることになり、精度良く梁型振動子を形成することが可能となる。
【0021】
このようにして三角断面梁からなる梁型振動子の形成後、ギャップを形成する酸化シリコン膜9を成膜する(図2(c))。このギャップは共振器のRF特性につながるため、ここでの酸化シリコン膜は均一で、しかも薄膜であることが望ましい。例えば熱酸化シリコン膜を犠牲層に用いる場合、酸化炉で三角断面梁の側面に50nmの酸化シリコン膜を成長させる。そしてこの後、三角断面梁の表面に熱酸化により、薄い絶縁層(酸化シリコン膜)9を成膜する。SOI基板を用いた場合、BOX層5が酸化シリコン膜で形成されているため、この絶縁層9としては、同じ材料である酸化シリコン膜を用いるのが望ましい。この絶縁層9がMEMS共振器の狭ギャップ17を形成するもので、数十nm〜数百nmの膜厚を必要とし、高精度の膜厚制御が可能なLPCVD酸化シリコン膜や熱酸化シリコン膜を用いるのが望ましい。
【0022】
なお、本発明の製造方法では、更なる狭ギャップの実現に向けて、ギャップ形成のための犠牲層となる酸化シリコン膜9を形成する工程の前に、基板洗浄(RCA,SPM等)の処理工程により、同時に三角断面梁(3)のシリコン表面に数nmの酸化シリコン膜を形成し、これをギャップ形成用の絶縁層9として用いるようにしてもよい。
【0023】
その後、LPCVD法により、電極膜7となるドープトポリシリコン膜を堆積する(図2(d))。
【0024】
この後、図3(a)に示すように、フォトリソグラフィを用いて、電極膜7およびBOX層5を貫通するように貫通孔11を形成する。
そして図3(b)に示すように、LPCVD法により窒化シリコン膜13を貫通孔11内に充填する。
この後、レジスト12をスピンコートにより塗布する(図3(c))。このとき、レジストの塗布厚が三角断面梁(3)の高さよりも薄くなるように、スピナーの回転数およびレジストの粘度を決定し、スピンコートしてレジスト12の膜厚を決定する。この場合、露出する領域にも依存するが、主にレジスト12の膜厚を三角断面梁(3)の高さの1/3から1/4の膜厚にすると、スピンコート後に頂点が露出する。この後は通常の電極膜7のフォトリソ工程に戻り、レジストの露光と現像後を行い、電極マスクのパターニングを行う。
【0025】
このようにして、スピンコートによる頂点の露出後、フォトマスクを用い、レジストを露光し、その後にレジストの現像を行うことにより、電極パターン形成用のマスクパターンが形成される。
【0026】
次に、突出した頂点とパターニングされた電極膜7を1回のエッチング工程で同時にパターニングする。ここで、エッチング工程は、主に電極膜7となるポリシリコン膜の、酸化シリコン膜に対する選択性の良好なエッチング条件を用いることが必要であるため、ここではSFガスを利用したドライエッチングなどが、適している。
このように、露出された頂点と電極をRIE装置でドライエッチングを行い、エッチングした後は基板からレジストを完全に除去する。
【0027】
次に、図3(d)に示すように、支持部となる部分を残して、絶縁層9とBOX層5を除去して三角断面梁(3)を開放し、狭ギャップ17を有する電極が突出構造部で構成された三角断面梁の側面に配置された空中突出構造部が完成する。そして低抵抗電極を必要とする場合には、この電極上にタングステン膜を形成する。このとき、熱処理を行い、タングステン膜をタングステンシリサイドとしてもよい。
【0028】
最後の工程では、ギャップの形成と三角断面梁の基板から開放とが、必要であるため、フッ酸などを利用して電極と梁の間の酸化シリコン膜と梁の下層部に存在する酸化シリコン膜を除去し、梁型共振器を作製する。このとき、窒化シリコン膜13からなる柱状体が形成されているため、この柱の部分は、製作後の共振器は図1に示したとおりである。
【0029】
図1は、長さ20μm、幅2μmの三角断面梁の両側に電極を付加した共振器の構造を有する。電極と梁の間は、50nmの狭ギャップが形成されており、シリコン梁の頂点は完全に露出されている。
【0030】
このように、まず、SOI基板のデバイス層に単結晶シリコンの三角断面梁からなる振動子3を形成し、その上にギャップ形成用の絶縁層9を成膜する。この場合、絶縁層をSOI基板のBOX層5と同じ材料である酸化シリコン膜であることが望ましい。その後、BOX層5と絶縁層9の上部に電極7を成膜し、次の工程で電極と絶縁層9に溝11を掘る。この溝11は電極端子を保持する柱を形成するために構成するが、図3(c)で示したようにこの溝を酸化シリコン膜とは材料が異なる絶縁層13で埋める。例えば、溝11を窒化シリコン膜などで埋めることによって、図3(d)で表わすようにBOX層とギャップ形成用の絶縁層9を除去しても電極端子が窒化シリコン膜の柱で保持され、電極と支持基板1との間で発生するスティクションが回避できる。ギャップ17と三角断面梁振動子3の構造開放のための空間19には、ギャップの幅、構造のサイズ、BOX層5の厚さなどによってエッチング時間が変更されるが、実施の形態1の構成を用いれば、エッチング時間を長くしても電極端子が柱状体で保持されているため、所定の位置で電極の形状が保たれて形成されることになる。
【0031】
かかる構成によれば、製造工程における電気機械共振器のリリース工程で発生する電極端子の下層部の若干のアンダーカットは否めないが、電極端子の下層部のアンダーカットが低減され、窒化シリコン膜からなる柱状体で支持されているため、片持ち梁構造となるのは防止され、不要な電極の振動が防止できる。したがってより電極と支持基板とのスティクションを回避することが可能となり、特性の良好な振動特性を備えた電気機械共振器の形成が可能となる。
【0032】
さらにまた、電極端子の下層部の絶縁層を柱状構造にすることで支持基板と電極端子との容量結合を低減し、フィードスルー(ホールド時に出力に入力信号が現れる度合い)の課題を改善することができる。
【0033】
また、本発明によれば、ギャップ形成用の絶縁層に比べて膜厚の大きい構造開放用の絶縁層が、一部エッチング選択性をもつ材料からなる柱状体を形成した状態で、エッチャントにさらされることになるため、電極端子の下層部のアンダーカットが低減され、同一構成でギャップ形成用の絶縁層および、これに比べて膜厚の大きい構造開放用の絶縁層を除去する両工程を実施することが可能となる。
【0034】
次に本実施の形態の変形例について説明する。
図4は本発明の実施の形態1において絶縁体からなる柱状体を所定の場所に配置した例を示す。電気機械共振器の電極端子は、電極構造に依存する固有振動数を有しており、この電極に信号が入出力されると、電極が励振することになる。この電極の振動とは、電気機械共振器のRF特性の妨害波となるため、できる限りこれを低減する必要がある。図4は、電極端子のアンダーカットによって電極が片持ち梁に構成された時に有するたわみ振動モードを表わす。
【0035】
図4(a)は電極がたわみ1次振動モード23で励振した時を表わすがこの場合、振幅が最大となる電極の中心部に絶縁体からなる柱状体13を配置することによってたわみ1次振動モード23が励振されない構成を有することに等しくなる。なお、この構成によってたわみ振動モードの奇数モード(3次、5次、7次…)も同様に振動を防止することが可能となる。
【0036】
図4(b)は電極がたわみ2次振動モード25で励振した時を示す。この場合では、振幅が最大となる電極の端から約1/3の場所に絶縁柱を配置することによって、たわみ2次振動モード25が励振されない構成を有することに等しくなる。なお、この構成によってたわみ振動モードの偶数モード(4次、6次、8次…)も同様に振動を防止することが可能となる。
【0037】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2における電極構造は、前記実施の形態1と同様SOI基板を利用して作製した電気機械共振器であり、支持用の柱状体の構造が異なる。本実施の形態では、図5(a)および(b)に示すように、柱状体を、電極構造体の周縁部に配設した窒化シリコン膜からなる壁状体33で構成したことを特徴とする。図5(a)は本実施の形態の電気機械共振器の斜視図、図5(b)は図5(a)のA−A断面図である。本実施の形態では、電極端子の周辺部に形成した貫通溝11に窒化シリコン膜からなる壁状体33を形成するもので、このように壁を設けることで、ギャップ17と構造の開放部19にあたる酸化シリコン膜をフッ酸で除去する時に電極の下層部がエッチングされにくい構造を有する。
この構造によれば、電極の周縁部が窒化シリコン膜からなる壁状体で被覆されているため、アンダーエッチはこの壁状体33で停止することになり、微細かつ強固な構造体を維持することが可能となり、電極の振動は抑制される。
【0038】
次に本実施の形態の電気機械共振器の製造方法について説明する。
まず図6(a)において、実施の形態1と同様の製造工程を用いてSOI基板のデバイス層に単結晶シリコンの三角断面梁振動子3を形成し、その上にギャップ形成用の絶縁層9、電極膜7を成膜し、次の工程で電極膜7と絶縁層9に貫通溝11を電極の周縁から少し内側に入った所に、コの字型をなすように形成する。
そして図6(b)に示すように、コの字型をなす貫通溝11内に窒化シリコン膜を充填し、壁状体33を形成する。
この後、図6(c)に示すように、ギャップ17と構造の開放部19にあたる酸化シリコン膜をフッ酸で除去する。このとき、壁状体33で囲まれた絶縁層9はエッチングされないため、電極端子が下層部の絶縁層9で支持され、これによって支持基板1との間で発生するスティクションが回避できることになる。
【0039】
このとき、絶縁体で構成された壁状体33の分が電流の流路を妨げ、高抵抗となり、電圧降下の原因となることになるため、電流路を確保するような形状に壁状体を形成する必要がある。このため、壁状体をコの字状に形成する場合には、電極7の周縁部に沿って形成すると、アンダーエッチは確実に阻止されるが、電流路をふさぐことになる。したがって前述したように貫通溝11は周縁から少し内側に入ったところにコの字型をなすように形成すればよいが、形成位置はVHF帯,UHF帯では、数μm程度内側に入った所であれば十分である。
【0040】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3における電極構造は、図7に示すように、前記実施の形態2とほぼ同様に壁状体33を形成するものであるが、電極7の周縁部に沿って壁状体33を形成するとともに、対向電極の形成される面側では、壁状体33にスリットを形成し不連続部33Sを形成することにより、対向電極からの電流路を確保している。図7(a)は斜視図、図7(b)および(c)は図7(a)のA−A断面図およびB−B断面図である。
この構成によれば、アンダーエッチは対向電極に対向する面側のわずかな幅の領域を除いて確実に阻止され、電流路もこの不連続部33Sの部分で確保されることになり、高速作動を維持し、かつ電極の振動も回避することが可能となる。
【0041】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4における電極構造は、図8に示すように、前記実施の形態3とほぼ同様に壁状体33を形成するものであるが、対向電極の形成される面側で、スリットを形成し不連続部33Sを形成することなく、壁状体33は電極7の周縁部に沿って形成されており、この電極の上層をタングステン層からなる金属電極層27で覆うことにより、対向電極からの電流路を確保している。図8(a)は斜視図、図8(b)は図8(a)のA−A断面図である。
【0042】
この構成によれば、アンダーエッチはさらに確実に阻止され、電流路も上層の金属電極層27で不連続部なしに確保されることになり、さらなる高速作動を実現し得、かつ電極の振動も確実に回避することが可能となる。
【0043】
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5について説明する。前記実施の形態1乃至4では、支持柱および壁状体は、絶縁層5および電極7を貫通する貫通孔11に形成したが、本実施の形態では電極7には貫通孔を形成せずにその下層の絶縁層5の貫通孔に充填された支持部のみで電気機械共振器を構成するものである。これにより、電流路を狭めることなく、確保した状態で、アンダーエッチのみを回避することができる。他の構造は前記実施の形態1乃至4と同様であるため斜視図は省略する。
【0044】
この電気機械共振器の製造工程を図9(a)-(e)に示す。この構成によれば、電極7の貫通孔を形成せずにその下層の絶縁層5の貫通孔に充填された支持部のみで電気機械共振器を構成しているため、電極7に流れる電気信号の通電性を良くし、電気機械共振器のRF特性を改善することができる。
【0045】
図2(c)に示したように、前記実施の形態1と同様に、三角梁構造を持つ振動子3を形成し表面酸化を行うことにより、ギャップ形成用の絶縁層9を形成した後、図9(a)に示すようにフォトリソグラフィにより、貫通孔11を絶縁層5に形成する。その後、支持部を構成する絶縁層43として窒化シリコン膜を成膜し、貫通孔11を完全に充填する。(図9(b))。
【0046】
次にこの絶縁層43をエッチバックして、絶縁層5内に支持部を構成する絶縁層43を形成する(図9(c))。
そして、図9(d)で電極層7の成膜とエッチングを行い、振動子3の頂点を露出する。最後にギャップ形成用の絶縁層9と振動子の下層部にあたる絶縁層をエッチングして構造を開放する(図9(e))。17は狭ギャップ、19は構造開放部である。
【0047】
この構造によれば、電極面積が確保されるため、電流路を狭小化することなく、電極のアンダーエッチを防ぐことが出来るため、電気信号の通電性を改善し、より高速駆動で電極振動のない電気機械共振器を形成することが可能となる。
【0048】
(実施の形態6)
実施の形態6として、電極層を2層にして電極に流れる電気信号の通電性を改善した構造、及びその製造方法の例である。これを図10(a)乃至(g)に示す。
本実施の形態では、電極57を貫通すると共にこの電極7を支持するための柱状体(支持柱)55が、窒化シリコン膜50で覆われた酸化シリコンで構成され、この電極57および支持柱55の上層をタングステン層からなる第2の電極層27で、覆うようにした点で、前記実施の形態1乃至4の構造と異なるが、基本的な構成については同様に形成されている。
製造に際しては、支持柱55を形成するに際し、SOI基板の単結晶シリコン層を異方性エッチングにより加工し断面三角形状の振動子3を形成した後、このSOI基板の絶縁層5の電極形成領域にあらかじめ孔51を形成し、この孔51の内壁を覆うように窒化シリコン層50を形成しておくようにし、この窒化シリコン層50を構造開放およびギャップ形成のためのエッチング工程における保護膜として用いるようにしたことを特徴とする。すなわち第1の絶縁層としての電極層に貫通溝を形成する工程の後、前記貫通溝を有する表面全体に薄い保護層としての第4の膜(窒化シリコン膜)を形成し、この第4の膜で覆われた貫通溝に第3の膜(酸化層)を充填し支持部を形成しており、この構成によれば、保護層としての第4の膜を形成しているため、第3の膜は、いかなる材料であっても適用可能となり、設計の自由度が向上する。
【0049】
まず、シリコン基板1上に絶縁層5を介して形成した単結晶シリコン層(3)を備えたSOI基板を前記実施の形態1と同様にして、絶縁層5の上層に振動子3を形成する。そして表面酸化により、ギャップ形成のための酸化シリコン層9形成後、フォトリソグラフィを用いてこの絶縁層5の振動子近傍に孔51を形成し、さらに図10(a)に示すように表面全体に、窒化シリコン層50を成膜する。
【0050】
そして、異方性エッチングにより、図10(b)に示すように、孔51の内壁にのみ窒化シリコン層50を残留させる。
【0051】
この後、図10(c)に示すように、第1の電極層57として導電体層を形成するが、この場合、シリコンなど後工程で酸化できる材料を利用する。その後、この第1の電極層57に細い孔53を掘り(図10(d))、この第1の電極層57を酸化させることによって酸化層55を形成する。この酸化層55で埋められた孔53と孔51が絶縁層の支持部を形成する。形成した酸化層55の上層部は次の工程で除去し、絶縁層の支持部のみを残す。
【0052】
そして、その上層に第2の電極層27としてタングステン層を成膜する(図10(e))。このように第1および第2の電極層の積層構造で構成するのは、電極の通電性を改善するためである。その後、振動子の頂点を露出する(図10(f))
【0053】
最後に、振動子の側壁および下層部の絶縁層5を除去して構造解放およびギャップ形成を行い、電気機械共振器を作製する(図10(g))。この構造開放およびギャップ形成のためのエッチング工程において、支持柱は窒化シリコン層50で覆われているため、アンダーエッチもなく確実に形状を維持することができる。またギャップ形成用の絶縁層9と絶縁層50は違う膜厚や持つことや異なる成膜方法を利用することが可能であるため製造上の自由度が高いという利点もある。例えば、ギャップ形成用の絶縁層9の製造方法は、振動子3を酸化させて酸化層を成長させる方法をとり、その後の工程は実施の形態1と同様の製造方法を利用する。しかし、最後のリリース工程(図10(g))では、ギャップ形成用の絶縁層9と電極の下層部の縁層5が同じ材料であった場合、同時に一回の絶縁層除去により、ギャップ形成と構造開放が実現することになる。
(実施の形態7)
実施の形態7は実施の形態6の製造方法の変形例を表すものである。
前記実施の形態6では、ギャップ形成用の絶縁層9と、支持柱の周りを覆う窒化シリコン層(絶縁層)50とは別に成膜したが、本実施の形態では、ギャップ形成用の絶縁層を別に形成するのではなく、支持柱の周りを覆う窒化シリコン層50をギャップ形成用の絶縁層として用い、ギャップ形成のためのエッチング工程を行った後に、構造開放のためのエッチング工程を実施するようにしたものである。
製造に際しては、支持柱55を形成するに際し、SOI基板の単結晶シリコン層を異方性エッチングにより加工し断面三角形状の振動子3を形成した後、このSOI基板の絶縁層5の電極形成領域にあらかじめ孔51を形成し、この孔51の内壁を覆うように窒化シリコン層50を形成しておくようにし、この窒化シリコン層50を構造開放およびギャップ形成のためのエッチング工程における保護膜として用いるようにしたことを特徴とする。
【0054】
まず、前記実施の形態6と同様に、シリコン基板1上に絶縁層5を介して形成した単結晶シリコン層(3)を備えたSOI基板に対して異方性エッチングを行い、絶縁層5の上層に振動子3を形成する。フォトリソグラフィを用いてこの絶縁層5の振動子近傍に孔51を形成し、さらに図11(a)に示すように表面全体に、窒化シリコン層50を成膜する。
【0055】
そして、図11(b)に示すように、第1の電極層57として導電体層を形成するが、この場合、シリコンなど後工程で酸化できる材料を利用する。その後、この第1の電極層57に細い孔53を掘り((図11(c))、この第1の電極層57を酸化させることによって酸化層55を形成する((図11(d))。この酸化層55で埋められた孔53と孔51が絶縁層の支持部を形成する。形成した酸化層55の上層部は次の工程で除去し、絶縁層の支持部のみを残す。
【0056】
そして、その上層に第2の電極層27としてタングステン層を成膜する(図11(e))。このように第1および第2の電極層の積層構造で構成するのは、電極の通電性を改善するためである。その後、振動子の頂点を露出する(図11(f))。
そして、窒化シリコン層50をエッチングすることにより、ギャップ形成を行う(図11(g))。このとき、エッチングは細いギャップから進行していき、時間は短く、振動子3の側壁の窒化シリコン層が除去されたところでエッチングを終了することができるようにコントロールすることができる。
【0057】
最後に、振動子の層部の絶縁層5を除去して構造解放を行い、電気機械共振器を作製する(図11(h))。
このようにして制御性よく、電極が支持柱で支持され、電極の振動を抑制することが可能な電気機械共振器を形成することが可能となる。
【0058】
なお、前記実施の形態では、第2の電極層27としてタングステン層を用いたが、タングステン層に限定されることなく、モリブデンなどの金属層のほか他の導電性材料を用いるようにしてもよい。また第1の電極層と同一材料であるドープト多結晶シリコン層を用いるようにしてもよい。
この構成では貫通孔の底面を含む内壁を窒化シリコンで覆うようにしているため、基板との絶縁分離が可能となる。従って、充填する支持柱は導電性材料でもよく、電極層を構成するドープト多結晶シリコン層27をそのまま用いてもよい。この場合は、工数が大幅に低減される。
【0059】
なお前記実施の形態では電気機械共振器について説明したが、本発明の振動子は、加速度センサの感圧部を構成するセンサのダイヤフラムなどにも適用可能である。
【0060】
以上より、本発明では、振動子と、前記振動子と所定の微小ギャップを隔てて配設された電極とを備え、前記振動子と前記電極との間の静電容量の変化に基づいて、前記振動子の機械的振動を電気信号として出力する振動子であって、前記電極が、半導体基板表面に絶縁層を介して形成された外部接続用の電極端子と一体的に形成されており、前記電極およびその下層の前記絶縁層を貫通して形成された貫通孔に充填された支持部によって、前記電極が固定されたことを特徴とする。
この構成によれば、電極が、支持部によって支持基板上に支持されているため、支持基板と電極のスティクションを回避することができる。
【0061】
また、本発明では、入力信号に対して励振可能な振動子と、前記振動子と所定の微小ギャップを隔てて配設された電極とを備え、前記振動子と前記電極との間の静電容量の変化に基づいて、前記振動子の機械的振動を電気信号として出力する振動子であって、前記電極が、前記振動子と対向し静電容量をもつ対向部と、半導体基板表面に絶縁層を介して形成された外部接続用の電極端子から、前記振動子に向けて伸長し、前記対向部に接続される伸長部を具備し、前記伸長部は、電極の下層の前記絶縁層を貫通して形成された貫通孔に充填された支持部によって、支持され、前記振動子が前記電極との間の電圧変化によって機械的振動を生起しうるように構成され、前記電圧と前記機械的振動との間で電気機械変換を可能にする。前記振動子は梁状であるのが望ましい。
この構成によれば、電極が、支持部によって支持基板上に支持されているため、支持基板と電極のスティクションを回避することができ、動作特性の優れた電気機械振動子を提供することが可能となる。
【0062】
また、本発明は、上記電気機械共振器において、前記支持部は、前記電極および前記絶縁層を貫通する前記貫通孔に充填され、前記絶縁層とは異なる材料で構成される。
この構成によれば、絶縁層をエッチングし、構造解放を行う際、支持部に対して絶縁層にエッチング選択性を持たせることによって支持部の形状を良好に維持しながら形状加工を行うことが可能となる。
【0063】
また、本発明は、上記電気機械共振器において、前記支持部は、柱状体である。
この構成により、軽量でかつ振動を抑制することが可能となる。
【0064】
また、本発明は、上記電気機械共振器において、前記支持部は、前記絶縁層の側壁を覆うように形成された壁状体である。
この構成によれば、電極端子とその下層部の周縁に溝を掘り、その溝を絶縁層で埋めて側壁を形成しているため、ギャップ形成およびデバイス開放(リリース工程)のためのエッチング工程において、電極の下層部に存在するBOX層を保護することができる。これにより、リリース工程後も電極端子の下層部が側壁によって保護され、電極のアンダーカットを防止することができる。さらにまた、この側壁の存在により、より確実に支持基板とのスティクションを回避することができる。
【0065】
また、本発明は、上記電気機械共振器において、前記半導体基板は、シリコン基板であり、前記絶縁層は酸化シリコン膜である。
【0066】
また、本発明は、上記電気機械共振器において、前記支持部は、窒化シリコンで構成される。
この構成により、絶縁層としての酸化シリコンのエッチング工程において窒化シリコンは選択性を有し、残留するため、エッチング選択性が良好である。
【0067】
また、本発明は、上記電気機械共振器において、前記支持部は、絶縁性の金属酸化物層と、前記金属酸化物層上に形成された金属層とで構成される。
この構成によれば、電極面積を維持することができ、電流の流路を狭めることがないため、特性の向上を図ることが可能となる。
【0068】
また、本発明は、上記電気機械共振器において、前記振動子は、断面三角形の梁状体である。
この構成によれば、シリコンの異方性エッチングによって制御性よく断面三角形の梁状体を形成することができるため、寸法ばらつきの低減を図ることが可能となる。
【0069】
また、本発明は、上記電気機械共振器において、前記柱状体は、前記電極の伸長部の中心部に設けられる。
この構成によれば、より効率よく、電極の振動を防止することができる。
【0070】
また、本発明は、上記電気機械共振器において、前記柱状体は、前記電極の伸長部の先端から1/3付近に設けられる。
この構成によれば、より効率よく、電極の振動を防止することができる。
【0071】
また、本発明は、上記電気機械共振器において、前記柱状体は、前記電極の伸長部の伸長方向に沿って複数列設けられ、その一列は前記電極の伸長部の中心部に設けられるとともに、他の一列は前記電極の伸長部の先端から1/3付近に設けられる。
この構成によれば、より効率よく、電極の振動を防止することができる。
【0072】
また、本発明は、半導体基板表面に第1の絶縁層を形成する工程と、前記第1の絶縁層上に、傾斜面をもつ半導体層からなる突出構造部を形成する工程と、前記突出構造部の表面に、第2の絶縁層を成膜する工程と、前記第2の絶縁層の形成された突出構造部を持つ表面全体に導電性膜を成膜する工程と、前記導電性膜をパターニングし、振動子と前記振動子と所定の間隔を隔てて対向する電極部との間および、前記電極部と電極端子との間をつなぎ、貫通孔または貫通溝を有する伸長部と、電極端子部とをもつ電極を形成する工程と、前記貫通孔または貫通溝に第3の膜を充填し支持部を形成する工程と、前記電極をマスクとして前記電極から露呈する前記第1および第2の絶縁層をエッチング除去し、前記支持部を形成する工程とを含む。
この構成によれば、貫通孔または貫通溝に充填された第3の膜をストッパとして第1および第2の絶縁層をエッチング除去するため、アンダーカットも低減され、パターン精度の良好な振動子を形成することができる。したがって、マージンも少なくてすむため、より微細化を図ることが可能となる。
【0073】
また、本発明は、半導体基板表面に第1の絶縁層を形成する工程と、前記第1の絶縁層上に、傾斜面をもつ半導体層からなる突出構造部を形成する工程と、前記突出構造部の表面に、第2の絶縁層を成膜する工程と、前記第1の絶縁層に貫通孔または貫通溝を形成する工程と、前記貫通孔または貫通溝に第3の膜を充填し支持部を形成する工程と、前記第2の絶縁層の形成された突出構造部を持つ表面全体に導電性膜を成膜する工程と、前記導電性膜をパターニングし、振動子と前記振動子と所定の間隔を隔てて対向する電極部との間および、前記電極部と電極端子との間をつなぎ、貫通孔または貫通溝を有する伸長部と、電極端子部とをもつ電極を形成する工程と、前記電極をマスクとして前記電極から露呈する前記第1および第2の絶縁層をエッチング除去し、前記支持部を形成する工程とを含む。
この構成によれば、上記作用効果に加え、電極をマスクとしてエッチングすることができ、より効率よく、パターン精度の良好な振動子を形成することができる。したがって、マージンも少なくてすむため、より微細化を図ることが可能となる。
【0074】
また、本発明は、電気機械共振器の製造方法であって、前記第2の絶縁層を成膜する工程は、前記第1の絶縁層と同一材料の膜を成膜する工程である。
この構成によれば、ギャップ形成と構造開放のためのエッチング工程が同一工程ででき、製造作業性を低下することなく、形成可能である。
【0075】
また、本発明は、電気機械共振器の製造方法であって、前記第2の絶縁層を成膜する工程は、前記第1の絶縁層のエッチング工程で、エッチングされにくい材料を成膜する工程である。
この構成によれば、第1および第2のエッチング工程を個別に制御することができ、アンダーカットの低減をはかることができる。
【0076】
また、本発明は、電気機械共振器の製造方法であって、貫通溝を形成する工程は前記伸長部に相当する領域の周縁部に沿って形成する工程を含む。
この構成によれば、電極の形状を最大限に維持し、アンダーカットの低減をはかることができる。
【0077】
また、本発明は、電気機械共振器の製造方法であって、前記電極を形成する工程の後に第2の電極層を形成する工程を含む。
この構成によれば、対向部の近傍で、電流路を遮断する場合があるが、第2の電極層を積層することにより、電流路の幅を確保することができる。
【0078】
また、本発明は、電気機械共振器の製造方法であって、前記第1の絶縁層に貫通孔または貫通溝を形成する工程の後、前記貫通孔または貫通溝を有する表面全体に薄い保護層としての第4の膜を形成し、この第4の膜で覆われた貫通孔または貫通溝に第3の膜を充填し支持部を形成する工程とを含む。
この構成によれば、保護層としての第4の膜を形成しているため、第3の膜は、いかなる材料であっても適用可能となり、設計の自由度が向上する。例えばシリコンあるいは金属などの導電体を用いることも可能である。導電体を用いる場合には電極の形成と同一工程で成膜することができ、工数の低減を図ることが可能となる。
【0079】
また、本発明は、上記電気機械共振器の製造方法において、前記電極を形成する工程は、前記導電性膜の形成された表面に前記突出構造部の少なくとも頂部が露呈するように、レジストを塗布する工程と、レジストから露呈せしめられた前記突出構造部の頂部の導電性膜をエッチングすることにより、前記導電性膜を電気的に分離する工程と、前記レジストを除去する工程とを含む。
これにより、マスクを用いることなく、高精度でばらつきの少ない電気機械共振器を形成することが可能となる。
【0080】
また、本発明は、上記電気機械共振器の製造方法において、前記分離する工程は、フォトリソグラフィにより上記レジストをパターニングする工程と、上記レジストから露出された領域および前記突出構造部の頂部の導電性膜をエッチングする工程とを含む。
この構成によれば、表面状態のばらつきに依存することなく、対向部の幅を制御することが可能となり、信頼性の高いパターニングが実現可能となる。
【0081】
また、本発明は、上記電気機械共振器の製造方法において、前記半導体基板は表面に単結晶シリコン層を有するSOI構造を持つシリコン基板であり、前記突出構造部を形成する工程は、前記単結晶シリコン層の異方性エッチングにより、断面三角形となるように形成する工程である。
この構成によれば、単結晶シリコン層を形成したSOI基板を出発材料として用いることにより、単結晶シリコンの異方性エッチングを用いることにより、極めて高精度に断面三角形の梁を制御性よく形成することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明にかかる電気機械共振器、及びその製造方法は、電極端子と支持基板の間に発生するスティクションや電極の振動を防止し、振動子やギャップのサイズに依存することなく所望の電極端子を形成することを可能とする。またこの製造方法は、電気機械共振器だけでなく、容量結合型加速度センサ、ジャイロスコープ、シリコンマイクなどSOI基板を利用したさまざまなMEMS構造にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の形態1における電気機械共振器の構造を示す斜視図
【図2】本発明の実施の形態1における電気機械共振器の製造工程を示す断面図
【図3】本発明の実施の形態1における電気機械共振器の製造工程を示す断面図
【図4】本発明の実施の形態1における電気機械共振器の構造での電極の振動と絶縁柱の配置を示す断面図
【図5】本発明の実施の形態2における電気機械共振器の構造を示す図
【図6】本発明の実施の形態2における電気機械共振器の製造工程を示す断面図
【図7】本発明の実施の形態3における電気機械共振器を示す図
【図8】本発明の実施の形態4における電気機械共振器を示す図
【図9】本発明の実施の形態5における電気機械共振器の製造工程を示す断面図
【図10】本発明の実施の形態6における電気機械共振器の製造工程を示す断面図
【図11】本発明の実施の形態7における電気機械共振器の製造工程を示す断面図
【図12】従来の電気機械共振器でSOI基板を利用した構造の斜視図
【図13】従来の電気機械共振器の工程断面図
【符号の説明】
【0084】
1 SOI基板の支持基板
3 三角断面梁振動子
5 BOX層
7 電極膜
9 ギャップ形成用の絶縁層
11 穴
13 絶縁柱
19 振動子の開放部
23 電極のたわみ1次振動モード
25 電極のたわみ2次振動モード
33 壁状体
33S 不連続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子と、前記振動子と所定の微小ギャップを隔てて配設された電極とを備え、前記振動子と前記電極との間の静電容量の変化に基づいて、前記振動子の機械的振動を電気信号として出力する振動子であって、
前記電極が、半導体基板表面に絶縁層を介して形成された電極端子と一体的に形成されており、
前記電極下層の前記絶縁層を貫通して形成された貫通孔に充填された支持部によって、前記電極が固定された振動子。
【請求項2】
入力信号に対して励振可能な振動子と、前記振動子と所定の微小ギャップを隔てて配設された電極とを備え、前記振動子と前記電極との間の静電容量の変化に基づいて、前記振動子の機械的振動を電気信号として出力する電気機械共振器であって、
前記電極が、前記振動子と対向し静電容量をもつ対向部と、半導体基板表面に絶縁層を介して形成された電極端子から、前記振動子に向けて伸長し、前記対向部に接続される伸長部を具備し、
前記伸長部は、電極の下層の前記絶縁層を貫通して形成された貫通孔に充填された支持部によって、支持され、
前記振動子が前記電極との間の電圧変化によって機械的振動を生起しうるように構成され、前記電圧と前記機械的振動との間で電気機械変換を可能にする電気機械共振器。
【請求項3】
請求項2に記載の電気機械共振器であって、
前記支持部は、前記電極および前記絶縁層を貫通する前記貫通孔に充填され、前記絶縁層とは異なる材料で構成された電気機械共振器。
【請求項4】
請求項2に記載の電気機械共振器であって、
前記支持部は、柱状体である電気機械共振器。
【請求項5】
請求項2に記載の電気機械共振器であって、
前記支持部は、前記絶縁層の側壁を覆うように形成された壁状体である電気機械共振器。
【請求項6】
請求項2に記載の電気機械共振器であって、
前記半導体基板は、シリコン基板であり、
前記絶縁層は酸化シリコン膜である電気機械共振器。
【請求項7】
請求項6に記載の電気機械共振器であって、
前記支持部は、窒化シリコンで構成された電気機械共振器。
【請求項8】
請求項6に記載の電気機械共振器であって、
前記支持部は、絶縁性の金属酸化物層と、前記金属酸化物層上に形成された金属層とで構成された電気機械共振器。
【請求項9】
請求項6に記載の電気機械共振器であって、
前記振動子は、断面三角形の梁状体である電気機械共振器。
【請求項10】
請求項4に記載の電気機械共振器であって、
前記柱状体は、前記電極の伸長部の中心部に設けられた電気機械共振器。
【請求項11】
請求項4に記載の電気機械共振器であって、
前記柱状体は、前記電極の伸長部の先端から1/3付近に設けられた電気機械共振器。
【請求項12】
請求項4に記載の電気機械共振器であって、
前記柱状体は、前記電極の伸長部の伸長方向に沿って複数列設けられ、
その一列は前記電極の伸長部の中心部に設けられるとともに、
他の一列は前記電極の伸長部の先端から1/3付近に設けられた電気機械共振器。
【請求項13】
半導体基板表面に第1の絶縁層を形成する工程と、
前記第1の絶縁層上に、傾斜面をもつ半導体層からなる突出構造部を形成する工程と、
前記突出構造部の表面に、第2の絶縁層を成膜する工程と、
前記第2の絶縁層の形成された突出構造部を持つ表面全体に導電性膜を成膜する工程と、
前記導電性膜をパターニングし、振動子と前記振動子と所定の間隔を隔てて対向する電極部との間および、前記電極部と電極端子との間をつなぎ、貫通孔または貫通溝を有する伸長部と、電極端子部とをもつ電極を形成する工程と、
前記貫通孔または貫通溝に第3の膜を充填し支持部を形成する工程と、
前記電極をマスクとして前記電極から露呈する前記第1および第2の絶縁層をエッチング除去し、前記支持部を形成する工程とを含む電気機械共振器の製造方法。
【請求項14】
半導体基板表面に第1の絶縁層を形成する工程と、
前記第1の絶縁層上に、傾斜面をもつ半導体層からなる突出構造部を形成する工程と、
前記突出構造部の表面に、第2の絶縁層を成膜する工程と、
前記第1の絶縁層に貫通孔または貫通溝を形成する工程と
前記貫通孔または貫通溝に第3の膜を充填し支持部を形成する工程と、
前記第2の絶縁層の形成された突出構造部を持つ表面全体に導電性膜を成膜する工程と、
前記導電性膜をパターニングし、振動子と前記振動子と所定の間隔を隔てて対向する電極部との間および、前記電極部と電極端子との間をつなぎ、貫通孔または貫通溝を有する伸長部と、電極端子部とをもつ電極を形成する工程と、
前記電極をマスクとして前記電極から露呈する前記第1および第2の絶縁層をエッチング除去し、前記支持部を形成する工程とを含む電気機械共振器の製造方法。
【請求項15】
請求項13または14に記載の電気機械共振器の製造方法であって、
前記第2の絶縁層を成膜する工程は、前記第1の絶縁層と同一材料の膜を成膜する工程である電気機械共振器の製造方法。
【請求項16】
請求項13または14に記載の電気機械共振器の製造方法であって、
前記第2の絶縁層を成膜する工程は、前記第1の絶縁層のエッチング工程で、エッチングされにくい材料を成膜する工程である電気機械共振器の製造方法。
【請求項17】
請求項13乃至16のいずれかに記載の電気機械共振器の製造方法であって、
貫通溝を形成する工程は前記伸長部に相当する領域の周縁部に沿って形成する工程を含む電気機械共振器の製造方法。
【請求項18】
請求項13乃至17のいずれかに記載の電気機械共振器の製造方法であって、
前記電極を形成する工程の後に第2の電極層を形成する工程を含む電気機械共振器の製造方法。
【請求項19】
請求項14に記載の電気機械共振器の製造方法であって、
前記第1の絶縁層に貫通孔または貫通溝を形成する工程の後、
前記貫通孔または貫通溝を有する表面全体に薄い保護層としての第4の膜を形成し、この第4の膜で覆われた貫通孔または貫通溝に第3の膜を充填し支持部を形成する工程とを含む電気機械共振器の製造方法。
【請求項20】
請求項13乃至19のいずれかに記載の電気機械共振器の製造方法であって、
前記電極を形成する工程は、
前記導電性膜の形成された表面に前記突出構造部の少なくとも頂部が露呈するように、レジストを塗布する工程と、
レジストから露呈せしめられた前記突出構造部の頂部の導電性膜をエッチングすることにより、前記導電性膜を電気的に分離する工程と、
前記レジストを除去する工程とを含む電気機械共振器の製造方法。
【請求項21】
請求項20に記載の電気機械共振器の製造方法であって、
前記分離する工程は、
フォトリソグラフィにより上記レジストをパターニングする工程と、
上記レジストから露出された領域および前記突出構造部の頂部の導電性膜をエッチングする工程とを含む電気機械共振器の製造方法。
【請求項22】
請求項13乃至21のいずれかに記載の電気機械共振器の製造方法であって、
前記半導体基板は表面に単結晶シリコン層を有するSOI構造を持つシリコン基板であり、
前記突出構造部を形成する工程は、前記単結晶シリコン層の異方性エッチングにより、断面三角形となるように形成する工程である電気機械電気機械共振器の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2008−72209(P2008−72209A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246931(P2006−246931)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】