説明

振動子駆動回路

【課題】 従来の振動子駆動回路よりもさらに大幅に高い駆動効率が得られ、製品の小型化、低消費電力化に適した振動子駆動回路を提供すること。
【解決手段】 差動増幅回路4とその出力が入力されるAGC回路5とその出力側に接続されるAGC回路5の出力信号を逆位相にするための反転増幅回路6とを有し、振動子1の電極3は差動増幅回路4の第1の入力端子に接続され、差動増幅回路4の第2の入力端子には反転増幅回路6の出力が接続され、且つ差動増幅回路4の第1および第2の入力端子の間に電流検出用抵抗器7が接続され、AGC回路5の出力は電圧バランス抵抗器9を介して電極2に接続されている。電極2と3に互いに逆位相となる駆動信号を加え、電極3に流れる電流の検出信号に所定の信号処理を行い駆動信号として帰還するループを有することにより振動子1の共振周波数で自励発振させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動ジャイロ用などの電気的な振動子をその共振周波数で自励発振させるための駆動信号を生成する振動子駆動回路に関わり、特に、小型で、大きな振幅、速い振動速度を得られるようにした振動子駆動回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電振動ジャイロ等の共振状態での振動を利用するデバイスにおいては、常に振動子の共振条件で発振させるための駆動回路が必要不可欠である。一般に、このようなデバイスの性能は、振動子の振動振幅、振動速度に依存する場合が多いからである。例えば、圧電振動ジャイロは、振動子の振動速度に感度が比例する。このため、効率良く感度を得るためには、常に共振条件で発振させるのが常套手段である。また、電池駆動等を考慮して、低消費電力化の技術開発が進められている。そのためには、電源電圧の低電圧化が必要であるが、低電圧で回路を動作させる場合、振動子の駆動信号の振幅は、通常は電源電圧以上の振幅にすることはできない。トランス等による昇圧も考えられるが、回路が大きくなり過ぎるため、現実的ではない。こうした理由から、低振幅の駆動信号で、効率良く感度を得るためには、振動子を常に共振条件で発振させる必要がある。このような振動子駆動回路は特許文献1および2などに示されている。
【0003】
しかし、利便性の追求から製品の小型化の要求も強く求められている。製品サイズを小型化するためには、振動子の小型化も必要となる。しかし、振動子を単純に小型化すれば、性能の低下が避けられない。それを避けるためには、回路の高増幅率化、振動子の設計変更、駆動信号の大振幅化が考えられる。しかし、回路の高増幅率化は、SN比の低下が懸念され、振動子の設計変更は生産性などの問題があり容易でない場合がほとんどである。また、駆動信号の大振幅化は、回路の電源電圧以上の振幅にすることはできない。
【0004】
上記のような問題を解決する方法として、2つの駆動電極に互いに逆位相となる駆動信号を加え、駆動電極に流れる電流を検出し、この検出信号に所定の信号処理を行い前記駆動信号として帰還するループを有することにより常に振動子の共振周波数で自励発振させる駆動回路が考えられる。この駆動回路により駆動信号の振幅を実質的に電源電圧のほぼ2倍にすることができる。
【0005】
図3はこのような振動子駆動回路とそれに接続された振動子の断面を示す図である。また、図4は図3に示した振動子駆動回路の各部の電圧波形の模式図である。
【0006】
図3において、振動子1は、圧電セラミクスの四角柱の振動子であり、図3においてはその断面を示している。振動子1は、上下方向に分極されており、上下の領域で分極方向が反転しているバイモルフ構成となっている。振動子1の四角柱の側面、すなわち図3の上面および下面には、帯状の電極2および電極3が配置されている。この振動子1は、電極2と電極3の間に、振動子1の共振周波数の駆動電圧を印加することで、上下方向に屈曲振動する。
【0007】
その駆動回路は、電流検出回路16、差動増幅回路17、差動増幅回路17の出力端子に接続されたAGC(Automatic Gain Control)回路18、およびAGC回路18の出力側に接続された反転増幅回路19で構成されている。電流検出回路16は、演算増幅器15、帰還抵抗器20で構成されている。AGC回路18の出力は、振動子1の電極2に接続される。このときのAGC回路18の出力電圧22は図4に示すような振幅Aを有する波形Asin(ωt)とする。
【0008】
演算増幅器15の反転入力端子と出力端子を帰還抵抗器20で接続して電流検出回路16を構成し、反転入力端子に振動子1の電極3を接続することで、振動子1の駆動電流21をモニターすることができる。さらに、反転増幅回路19の出力を演算増幅器15の非反転入力端子に接続する。反転増幅回路19は増幅度1の回路であるので、その出力電圧27はAGC回路18の出力電圧22と同じ振幅で、出力電圧22に対して180度の位相差を有する波形、すなわち−Asin(ωt)となる。
【0009】
演算増幅器15の仮想接地機能により、電極3の電位は、演算増幅器15の非反転入力端子と同電位になるので、電極3の電圧23は−Asin(ωt)となる。したがって、電極2と電極3には、互いに逆位相の駆動電圧が印加されることになる。
【0010】
また、演算増幅器15の出力電圧25は、振動子1の駆動電流21(その電流値の振幅をiとする)が変換された電圧24(振幅をαとする)と非反転入力端子の電圧−Asin(ωt)を合成したものとなる。ここで振幅αは、帰還抵抗器20の抵抗値をrとすると、α=i×rである。従って、演算増幅器15の出力電圧25は−(A+α)sin(ωt)となる。演算増幅器15の出力と非反転入力端子の駆動電圧の成分を差動増幅回路17で差動増幅することにより、振動子1の駆動電流成分の電圧のみを取り出すことが可能である。すなわち差動増幅回路の増幅度をk1とすると、差動増幅回路の出力電圧26はk1αsin(ωt)となる。さらに、この取り出した振動子の駆動電流成分の電圧にAGC回路18で所定の信号処理を行い、振動子1の電極2に帰還することで自励発振させる。
【0011】
このように、振動子1の2つの駆動電極間に、互いに逆位相となる駆動電圧を印加することで、振動子から見た駆動信号の振幅は実質的に2Aとなり、実際に印加される駆動電圧の2倍となるため、駆動効率の良い振動ジャイロが得られる。またこの構成によれば、駆動モードの振動成分を入力に帰還して駆動回路を構成しているため、温度変化等により振動子の共振周波数が変化しても、常に駆動モードの共振条件で発振させることが可能である。したがって、環境等の変化があっても、常に効率良く高い感度が得られる。
【0012】
【特許文献1】特許第3122925号公報
【特許文献2】特開2001−208546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図4に示した各部の電圧波形からわかるように、図3に示した振動子駆動回路において、信号振幅が最大になるのは演算増幅器15の出力であり、その振幅はA+αとなる。一方、オペアンプ等の演算増幅器は一般に電源電圧以内で、入出力の電圧範囲が決まっており、この入出力電圧範囲内の信号しか通すことができない。したがって、図3に示した振動子駆動回路においては演算増幅器15の出力電圧の振幅がこの入出力電圧範囲以下の信号でなければならない。すなわち、入出力電圧範囲をVMとすると式(1)の条件を満たさなければならない。
A+α<VM ・・・・・・・・(1)
【0014】
すなわち、図3に示した振動子駆動回路においては演算増幅器15の出力電圧の振幅A+αが入出力電圧範囲VMにより制限を受けることになるので、電極2および3に印加される電圧の振幅Aは入出力電圧範囲VMまで大きくすることはできない。
【0015】
そこで、本発明の課題は、上記駆動電圧の制限を除き、従来の振動子駆動回路よりもさらに大幅に高い駆動効率が得られ、製品の小型化、低消費電力化に適した振動子駆動回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を達成するため、本発明の振動子駆動回路は、少なくとも2つの駆動電極を有する電気的な振動子を、前記駆動電極のうちの第1および第2の駆動電極に互いに逆位相となる駆動信号を加え、前記駆動信号の印加により前記第1または第2の駆動電極に流れる電流もしくは蓄積される電荷を検出し、この電流もしくは電荷の検出信号に所定の信号処理を行い前記駆動信号として帰還するループを有することによりその共振周波数で自励発振させる振動子駆動回路において、2つの入力端子を有する差動増幅回路と該差動増幅回路の出力が入力されるAGC回路と該AGC回路の出力側に接続される反転増幅回路とを有し、前記第1の駆動電極は前記差動増幅回路の第1の入力端子に接続され、前記差動増幅回路の第2の入力端子には前記反転増幅回路の出力が接続され、且つ前記差動増幅回路の第1および第2の入力端子の間に電流検出用抵抗器が接続され、前記AGC回路の出力は電圧バランス抵抗器を介して前記第2の駆動電極に接続されることを特徴とする。
【0017】
また、前記差動増幅回路は入力抵抗器を反転入力端子および非反転入力端子にそれぞれ接続し、反転入力端子と出力端子との間に帰還抵抗器を接続した演算増幅器により構成されていてもよい。
【0018】
また、前記振動子は振動ジャイロ用の圧電振動子であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、図3の駆動回路のように駆動電圧の振幅Aと駆動電流成分を変換した電圧の振幅αの和を取ることなく、駆動電流成分のみをモニターすることにより、駆動電圧の振幅Aを入出力電圧範囲VMまで上げることができる。すなわち、本発明では、振動子の駆動電流成分のみを電流検出用抵抗器でモニターし、その両端に発生する電圧を差動増幅回路およびAGC回路を通して振動子に帰還することにより、自励発振ループ内の最大信号振幅は駆動電圧となり、駆動電圧を演算増幅器の入出力電圧範囲まで大きくすることができる。
【0020】
また、振動子の第2の駆動電極に接続された駆動電流成分をモニターする電流検出用抵抗器と同値の電圧調整用抵抗器を第1の駆動電極に接続することにより、振動子の第1および第2の駆動電極には逆位相で同振幅の駆動電圧が印加され、振動子に印加される電圧のバランスが保たれる。
【0021】
すなわち、本発明によれば、従来の振動子駆動回路よりもさらに大幅に高い駆動効率が得られ、製品の小型化、低消費電力化に適した振動子駆動回路が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明による振動子駆動回路の実施の形態を、以下の実施例を基にして説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施例である振動子駆動回路とそれに接続された振動子の断面を示す図である。また、図2は図1に示した振動子駆動回路の各部の波形の模式図である。
【0024】
図1において、振動子1は、圧電セラミクスの四角柱の振動子であり、図1においてはその断面を示している。振動子1は、上下方向に分極されており、上下の領域で分極方向が反転しているバイモルフ構成となっている。振動子1の四角柱の側面、すなわち図1の上面および下面には、帯状の電極2および電極3が配置されている。この振動子1は、電極2と電極3の間に、振動子1の共振周波数の駆動電圧を印加することで、上下方向に屈曲振動する。
【0025】
本実施例は、2つの入力端子を有する差動増幅回路4と差動増幅回路4の出力が入力されるAGC回路5とAGC回路5の出力側に接続されるAGC回路5の出力信号を逆位相にするための反転増幅回路6とを有し、電極3は差動増幅回路4の第1の入力端子に接続され、差動増幅回路4の第2の入力端子には反転増幅回路6の出力が接続され、且つ差動増幅回路4の第1および第2の入力端子の間に電流検出用抵抗器7が接続され、AGC回路5の出力は電圧バランス抵抗器9を介して電極2に接続されている。
【0026】
ここで、本実施例においては、差動増幅回路4は入力抵抗器8および8’を反転入力端子および非反転入力端子にそれぞれ接続し、反転入力端子と出力端子との間に帰還抵抗器を接続した演算増幅器により構成されている。また、反転増幅回路6も演算増幅器により構成され、その増幅度は1である。差動増幅回路4の演算増幅器の反転入力端子側が第1の入力端子であり、非反転入力端子側が第2の入力端子である。
【0027】
振動子1の電極3に接続された駆動電流をモニターするための電流検出用抵抗器7の両端に生じた電圧を差動増幅回路4に入力し、その出力をAGC回路5を通して所定の信号処理を行い、電圧バランス抵抗器9を介して振動子1の電極2に帰還することにより自励発振ループが構成され、振動子1の上下方向の屈曲振動を励振する。また、電圧バランス抵抗器9を電流検出用抵抗器7と同じ抵抗値とすることにより、振動子1の電極2と電極3に印加される電圧を同振幅とする。
【0028】
振動子1の駆動電流10の振幅をI、電流検出用抵抗器7の抵抗値をR1、差動増幅回路4の入力抵抗器8、8’の抵抗値をR2(ここで、R1≪R2)とすると、差動増幅回路4の演算増幅器の反転入力端子と非反転入力端子間にはI×R1(=βとする)の電位差が生じる。したがって差動増幅回路4の増幅度をk2とすると、その出力電圧の振幅はk2βとなり、振動子1の駆動電流成分のみをモニターすることができる。
【0029】
図1の振動子駆動回路の各部電圧波形を図2で説明する。AGC回路5の出力電圧11をAsin(ωt)とすると、電圧バランス抵抗器9の抵抗値R1を振動子1の共振抵抗より十分小さい値に設定すれば、振動子1の電極2の電圧はほぼ出力電圧11と同じになる。一方、AGC回路5の出力信号を逆位相にするための反転増幅回路6の出力電圧14は−Asin(ωt)であり、同様に電流検出用抵抗器7の抵抗値もR1なので、電極3の電圧はほぼ出力電圧14と同じ電圧12となる。すなわち、振動子1の2つの駆動電極間に、互いに逆位相となる駆動電圧を印加することで、振動子から見た駆動信号振幅は実質的に2Aとなり、実際に印加される駆動電圧の2倍となる。
【0030】
また前述の通り、差動増幅回路4の演算増幅器の反転入力端子と非反転入力端子間には電位差βが生じ、差動増幅回路4の増幅度k2により、その出力電圧13は−k2βsin(ωt)となる。ここで、AGC回路5のゲインは1以上であるので差動増幅回路4の出力電圧の振幅k2βは常にAよりも小さい。したがって、図1に示した本実施例の振動子駆動回路では、自励発振ループ内の最大信号振幅はAとなり、駆動電圧の振幅を演算増幅器の入出力電圧範囲VMまで大きくすることができるので、従来の振動子駆動回路よりもさらに高い駆動効率が得られる。振動子1がジャイロ振動子である場合は駆動効率の高い振動ジャイロが得られる。
【0031】
以上のように、本発明により、従来の振動子駆動回路よりもさらに大幅に高い駆動効率が得られ、製品の小型化、低消費電力化に適した振動子駆動回路が得られる。
【0032】
なお、本発明は上述の実施例に限定されるものではないことは言うまでもなく、上記の実施例では、圧電振動子用の駆動回路について説明したが、本発明の振動子駆動回路は静電型、電磁誘導型などの振動子にも用いることができる。また、本発明に用いる差動増幅回路、反転増幅回路などは演算増幅器を用いるものに限定されることはなく、トランジスタなどの基本素子を組み合わせた専用のICなどにより実現することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例である振動子駆動回路とそれに接続された振動子の断面を示す図。
【図2】本実施例の振動子駆動回路の各部の波形の模式図。
【図3】駆動信号の振幅を実質的に電源電圧のほぼ2倍にすることができる振動子駆動回路とそれに接続された振動子の断面を示す図。
【図4】図3の振動子駆動回路の各部の波形の模式図。
【符号の説明】
【0034】
1 振動子
2,3 電極
4、17 差動増幅回路
5、18 AGC回路
6、19 反転増幅回路
7 電流検出用抵抗器
8,8’ 入力抵抗器
9 電圧バランス抵抗器
10、21 駆動電流
11、13、14、22、25、26、27 出力電圧
12、23、24 電圧
15 演算増幅器
16 電流検出回路
20 帰還抵抗器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの駆動電極を有する電気的な振動子を、前記駆動電極のうちの第1および第2の駆動電極に互いに逆位相となる駆動信号を加え、前記駆動信号の印加により前記第1または第2の駆動電極に流れる電流もしくは蓄積される電荷を検出し、この電流もしくは電荷の検出信号に所定の信号処理を行い前記駆動信号として帰還するループを有することによりその共振周波数で自励発振させる振動子駆動回路であって、
2つの入力端子を有する差動増幅回路と該差動増幅回路の出力が入力されるAGC回路と該AGC回路の出力側に接続される反転増幅回路とを有し、前記第1の駆動電極は前記差動増幅回路の第1の入力端子に接続され、前記差動増幅回路の第2の入力端子には前記反転増幅回路の出力が接続され、且つ前記差動増幅回路の第1および第2の入力端子の間に電流検出用抵抗器が接続され、前記AGC回路の出力は電圧バランス抵抗器を介して前記第2の駆動電極に接続されることを特徴とする振動子駆動回路。
【請求項2】
前記差動増幅回路は入力抵抗器を反転入力端子および非反転入力端子にそれぞれ接続し、反転入力端子と出力端子との間に帰還抵抗器を接続した演算増幅器により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の振動子駆動回路。
【請求項3】
前記振動子は振動ジャイロ用の圧電振動子であることを特徴とする請求項1または2に記載の振動子駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−98081(P2009−98081A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271885(P2007−271885)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】