振動抑制装置
【課題】安定したエネルギー吸収性能を得ることができるとともに、工期を短縮でき、抑制部材の組織変化を生じることがない振動抑制装置を提供する。
【解決手段】平板からなる抑制部材10を備え、二つの構造体70a,70bの間に設置し、抑制部材10がせん断変形することにより一方の構造体70bから他方の構造体70aに伝達される振動エネルギーを吸収して他方の構造体70aの振動を抑制する振動抑制装置1において、平面により抑制部材10を挟む態様で抑制部材10の表面と裏面とに配設した一対の拘束部材20と、一対の拘束部材20を締結固定し、一対の拘束部材と抑制部材10とを密接する締結部材30とを備えた。
【解決手段】平板からなる抑制部材10を備え、二つの構造体70a,70bの間に設置し、抑制部材10がせん断変形することにより一方の構造体70bから他方の構造体70aに伝達される振動エネルギーを吸収して他方の構造体70aの振動を抑制する振動抑制装置1において、平面により抑制部材10を挟む態様で抑制部材10の表面と裏面とに配設した一対の拘束部材20と、一対の拘束部材20を締結固定し、一対の拘束部材と抑制部材10とを密接する締結部材30とを備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、材料の塑性変形を利用して地震力による振動エネルギーを吸収し、振動を抑制する振動抑制装置が利用されている。この振動抑制装置には、平板からなる抑制部材を用い、抑制部材がせん断降伏して塑性変形することによりエネルギーの吸収を行うものがある。
【0003】
この種の振動抑制装置には、抑制部材の周囲を覆う鋼管の内部にコンクリートを打設して、抑制部材の表面および裏面をコンクリートで覆ったものや、抑制部材に補強用のリブを溶接接合したものがある。このような構成により、抑制部材の面外方向への変形を規制して、抑制部材のせん断座屈を防止し、振動抑制装置が安定したエネルギー吸収性能を得られるようにしている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−47193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コンクリートを用いる場合、コンクリートの養生期間が必要なため工期が長くなる。一方、補強用リブを溶接接合する場合、工期は短縮できるが、溶接熱によって抑制部材に組織変化が生じることにより、期待したせん断変形性能が得られないことがある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、安定したエネルギー吸収性能を得ることができるとともに、工期を短縮でき、抑制部材の組織変化を生じることがない振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る振動抑制装置は、平板からなる抑制部材を備え、二つの構造体の間に設置し、前記抑制部材がせん断変形することにより一方の構造体から他方の構造体に伝達される振動エネルギーを吸収して他方の構造体の振動を抑制する振動抑制装置において、平面により前記抑制部材を挟む態様で前記抑制部材の表面と裏面とに配設した一対の拘束部材と、一対の拘束部材を締結固定し、一対の拘束部材と前記抑制部材とを密接する締結部材とを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る振動抑制装置は、上述した請求項1において、前記締結部材は、一対の拘束部材と前記抑制部材とを貫通して一対の拘束部材を締結固定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に係る振動抑制装置は、上述した請求項1または2において、前記締結部材を一対の拘束部材に対して複数設けたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4に係る振動抑制装置は、上述した請求項1〜3において、前記抑制部材と前記拘束部材との間に夫々配設してあり、前記抑制部材と前記拘束部材との間に生じる摩擦力を抑制可能な絶縁部材を備え、前記締結部材は、前記絶縁部材を介して一対の拘束部材と前記抑制部材とを密接することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項5に係る振動抑制装置は、上述した請求項1〜4において、前記拘束部材は、前記抑制部材の一方の端部から他方の端部に亘って直線状に延在する長尺体からなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項6に係る振動抑制装置は、上述した請求項5において、前記拘束部材は、前記長尺体の短手方向に沿って複数並設してあることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項7に係る振動抑制装置は、上述した請求項1〜4において、一対の拘束部材は、前記抑制部材の表面と裏面とを全域に亘って覆う平板からなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項8に係る振動抑制装置は、上述した請求項1〜7において、前記抑制部材は、金属材料からなることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項9に係る振動抑制装置は、上述した請求項2〜8において、前記抑制部材は、前記締結部材が貫通する孔を有し、前記孔は、開口面積が前記締結部材の貫通部断面積よりも大きな拡大孔、または前記抑制部材のせん断方向に沿って長く形成した長孔であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る振動抑制装置は、平面により抑制部材を挟む態様で抑制部材の表面と裏面とに一対の拘束部材を配設し、締結部材により一対の拘束部材と抑制部材とを密接するものであるため、抑制部材の面外方向への変形を規制して抑制部材のせん断座屈を防止することができ、その結果、安定したエネルギー吸収性能を得ることができる。更に、締結部材により一対の拘束部材を締結固定するものであるため、コンクリートを用いるものと比して工期を短縮することができ、抑制部材の組織変化を生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1である振動抑制装置の正面図である。
【図2】図2は、図1に示した振動抑制装置の側面図である。
【図3】図3は、図1に示した振動抑制装置における要部を拡大して示す側面図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態1である振動抑制装置の変形例を示す正面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1である振動抑制装置の変形例を示す正面図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1である振動抑制装置の変形例を示す正面図である。
【図7A】図7Aは、本発明の振動抑制装置を適用した構造物を示す正面図である。
【図7B】図7Bは、本発明の振動抑制装置を適用した構造物を示す断面図である。
【図8A】図8Aは、本発明の振動抑制装置を適用した構造物を示す正面図である。
【図8B】図8Bは、本発明の振動抑制装置を適用した構造物を示す断面図である。
【図9A】図9Aは、図8Aに示した振動抑制装置の側面図である。
【図9B】図9Bは、図8Aに示した振動抑制装置の底面図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態2である振動抑制装置の正面図である。
【図11】図11は、図10に示した振動抑制装置の側面図である。
【図12】図12は、図10に示した振動抑制装置における要部を拡大して示す側面図である。
【図13A】図13Aは、図10に示した振動抑制装置における抑制部材の正面図である。
【図13B】図13Bは、図10に示した振動抑制装置における抑制部材の変形例を示す正面図である。
【図14】図14は、本発明の実施の形態2である振動抑制装置の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る振動抑制装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態1)
図1および図2は、本発明の実施の形態1である振動抑制装置を示したものである。ここで例示する振動抑制装置1は、せん断変形により一方の構造体から他方の構造体に伝達される振動エネルギーを吸収して他方の構造体の振動を抑制するもので、抑制部材10と、拘束部材20と、締結部材30と、絶縁部材40とを備えて構成してある。
【0020】
抑制部材10は、せん断変形により振動エネルギーを吸収するものであり、鋼材やアルミニウム等の金属材料で形成した平板からなる部材である。抑制部材10は、降伏点強度の低い材料で形成してある。抑制部材10は、矩形状に形成してあり、表面から裏面に亘って貫通する孔11を複数有している。図1および図2に示すように、矩形状の抑制部材10の対向する一対の端縁(図1における上端縁と下端縁)には構造体と接続するための接続部50が夫々設けてある。
【0021】
接続部50は、振動抑制装置1と構造体とを連結する部位であり、金属材料で形成された平板状の部材からなり、抑制部材10の平面に沿って抑制部材10の上下端縁から外方に延在して設けられている。接続部50には表面から裏面に亘って貫通する孔である複数の接続孔51が形成してある。本実施の形態では、抑制部材10と接続部50とを一体的に形成しており、接続部50が抑制部材10と同一材料で、同一の厚さとなるように形成してある。
【0022】
拘束部材20は、抑制部材10が面外方向へ変形することを規制するものであり、抑制部材10よりも面外の剛性が高い金属材料で形成した長尺体からなる部材である。本実施の形態では図1〜図3に示すように、溝型鋼によって形成してあり、平面部を抑制部材10側に向けて、抑制部材10を挟む態様で抑制部材10の表面と裏面とに配設してある。拘束部材20は、抑制部材10の一方の端部から他方の端部に亘って直線状に延在して配設してあり、表裏面で対を成す一対の拘束部材20を、長尺体の短手方向に沿って複数配置してある。本実施の形態では図1および図2に示すように、拘束部材20が抑制部材10の対向する一対の端部(図1における左端部と右端部)に亘って延在する態様で長尺状に形成してあり、拘束部材20の幅方向(図1における上下方向)に対を成す4つの拘束部材20を並設している。夫々の拘束部材20の溝部において、抑制部材10の孔11と対応する位置には、図3に示すように、表面から裏面に亘って貫通する孔21が形成してある。夫々の拘束部材20と抑制部材10との間には絶縁部材40が配設してある。
【0023】
絶縁部材40は、抑制部材10と拘束部材20との間に生じる摩擦力を抑制するものであり、粘性や弾性の高いシート状の部材からなる。本実施の形態では絶縁部材40をゴムシートによって形成している。絶縁部材40は、抑制部材10と、当該抑制部材10を挟む拘束部材20の平面との間に配設してあり、図3に示すように、本実施の形態では抑制部材10側を向く溝部の全面を覆う態様で絶縁部材40が配設してある。絶縁部材40において拘束部材20の孔21と対応する位置には表面から裏面に亘って貫通する孔41が形成してある。絶縁部材40によって抑制部材10と拘束部材20との間に発生する摩擦力を取り除くことにより、抑制部材10のせん断変形性能を維持することができる。
【0024】
一対の拘束部材20は、締結部材30によって締結固定してある。締結部材30は、抑制部材10と拘束部材20とを密接にするものであり、本実施の形態では抑制部材10と拘束部材20とが絶縁部材40を介して密接するように構成してある。本実施の形態において締結部材30はボルト31とナット32により構成されており、図3に示すように、一方の拘束部材20から他方の拘束部材20に向けて、拘束部材20と絶縁部材40と抑制部材10とに形成された夫々の孔21,41,11を貫通する態様でボルト31を挿通し、他方の拘束部材20側においてナット32を螺合することにより一対の拘束部材20を締結している。図1に示すように、締結部材30は、拘束部材20の長手方向の両端部を締結固定している。
【0025】
抑制部材10に形成された孔11の形状は、締結部材30のボルト径より大きな径を有する孔(拡大孔)、或いは抑制部材10のせん断方向(後述する構造体の振動方向)に平行な長孔とすることで、抑制部材10のせん断変形を妨げないようにすることができる。
【0026】
図4〜図6に、締結部材30によって抑制部材10に装着される拘束部材20の別の配置例を示す。
【0027】
図4に示す振動抑制装置2では、左右方向に延在する拘束部材20に対して締結部材30の数量を増加しており、締結部材30によって拘束部材20の両端部と中央部とを締結している。また、図5に示す振動抑制装置3では、上下方向に延在する態様で一対の拘束部材20を配設するとともに、拘束部材20の短手方向(左右方向)に沿って一対の拘束部材20を複数並設している。また、図6に示す振動抑制装置4では、抑制部材10の一方の面に左右方向に延在する拘束部材20を上下方向に沿って複数並設し、他方の面に上下方向に延在する拘束部材20を左右方向に沿って複数並設している。尚、図6に示す様に拘束部材20を配置しても抑制部材10のせん断変形を拘束しないことは、幾何学的に自明である。
【0028】
次に、上述した振動抑制装置1を設置した構造物の例を示す。図7Aは、本発明の振動抑制装置1を適用した構造物を示す正面図であり、図7Bは、本発明の振動抑制装置1を適用した構造物を示す断面図である。
【0029】
図7Aおよび図7Bに示す構造物は鉄骨造(S造)によるものであり、鋼材からなる複数の柱60と、当該柱60の間に架設した鋼材からなる上部梁(構造体)70aと下部梁(構造体)70bとによって構成されている。振動抑制装置1は、上部梁70aに設けた設置部材80aと下部梁70bに設けた設置部材80bとを介して上部梁70aと下部梁70bとの間に設置してある。設置部材80a,80bは、台形状の鋼板と、当該鋼板に溶接した補強用の縦リブおよび横リブとからなり、抑制部材10より剛性の高いものとしている。振動抑制装置1は、ボルトとナットとからなる固定部材81により接続部50と設置部材80a,80bとを締結固定することにより設置されている。
【0030】
上述した構造物において、地震力により下部梁70bが水平方向(図7Aの左右方向)に振動すると、振動エネルギーは設置部材80b、振動抑制装置1および設置部材80aを介して上部梁70aに伝達される。このとき、抑制部材10に対して水平方向に荷重がかかることにより抑制部材10がせん断変形する。抑制部材10がせん断降伏して塑性変形することにより地震力による振動エネルギーが吸収され、上部梁70aの振動が抑制される。つまり、地震力によって上部梁70aと下部梁70bとに生じる層間変位を抑制することができる。
【0031】
抑制部材10の表面および裏面には一対の拘束部材20が密接してあるため、面外方向への変形(せん断座屈)が拘束される。そのため、地震力によって正負交番に繰返される荷重に対し、抑制部材10のせん断座屈を抑えて振動抑制装置1が安定したエネルギー吸収性能を維持できるようになる。
【0032】
上述した振動抑制装置1では、平面により抑制部材10を挟む態様で抑制部材10の表面と裏面とに一対の拘束部材20を配設し、締結部材30により一対の拘束部材20と抑制部10とを密接するものであるため、抑制部材10の面外方向への変形を規制して抑制部材10のせん断座屈を防止することができ、その結果、安定したエネルギー吸収性能を得ることができる。つまり、抑制部材10のせん断座屈荷重を高めることができ、降伏後も座屈変形の成長を抑えることができる。更に、締結部材30により一対の拘束部材20を締結固定するものであるため、コンクリートを用いるものと比して工期を短縮することができ、抑制部材10の組織変化を生じることがない。そのため、抑制部材10に用いる金属材料として、溶接強度が母材強度より低いアルミニウム合金を用いることも可能である。
【0033】
また、締結部材30は、一対の拘束部材20と抑制部材10とを貫通して一対の拘束部材20を締結固定するものであるため、抑制部材10と拘束部材20との密接性を高めてせん断座屈を防止することができる。また、締結部材30を一対の拘束部材20に対して複数設けることにより、抑制部材10の幅が広くなった場合であっても、抑制部材10と拘束部材20との密接性を容易に高めることができ、抑制部材10のせん断座屈を防止することができる。
【0034】
また、抑制部材10と拘束部材20との間に生じる摩擦力を抑制可能な絶縁部材40を備え、締結部材30が絶縁部材40を介して一対の拘束部材20と抑制部材10とを密接するものであるため、抑制部材10のせん断変形を拘束することなく、抑制部材10のせん断座屈を拘束することができる。
【0035】
また、長尺体からなる拘束部材20の短手方向の幅を狭くまたは広くすることによって抑制部材10のせん断座屈荷重を容易にコントロールすることができる。また、隣接する拘束部材20の間隔を狭くまたは広くして、拘束部材20を短手方向に沿って複数並設することにより、抑制部材10のせん断座屈荷重を容易にコントロールすることができる。
【0036】
尚、図8Aおよび図8Bに示すように、振動抑制装置1は、鉄筋コンクリート造(RC造)の構造物に対して設置することも可能である。図8Aおよび図8Bに示す構造物は、複数の柱61と、当該柱61の間に架設した上部梁(構造体)71aと下部梁(構造体)71bとによって構成されている。振動抑制装置1は、上部梁71aに設けた設置部材82aと下部梁71bに設けた設置部材82bとを介して上部梁71aと下部梁71bとの間に設置してある。振動抑制装置1は、接続部50に替えて接続部500を有している。接続部500は、図9Aおよび図9Bに示すように、抑制部材10の上端縁と下端縁とに一体的に形成された平板からなる固定用のフランジであり、貫通孔である接続孔501を有している。振動抑制装置1は、接続部500において設置部材82a,82bとアンカーボルト83により接合している。図7A〜図8Bに示すように、振動抑制装置1を剛性の大きな構造物に適用することで、振動抑制装置1に層間変形角より大きなせん断変形を生じさせることができる。
【0037】
尚、拘束部材20の数量は上述した例に限定されるものではなく、一以上であればよい。また、抑制部材10の左右方向の幅が広い場合には、締結部材30の数量を増加することで、抑制部材10の面外方向への変形を均一に規制することができる。更に、抑制部材10の幅を拡大し、それに伴って拘束部材20を伸長することにより、容易に振動抑制装置1の耐力を高くすることができる。
【0038】
また、締結部材30は、ボルト31とナット32に限られるものではなく、例えばリベット等、一対の拘束部材20を締結して固定できるものであればよい。
【0039】
(実施の形態2)
図10は、本発明の実施の形態2である振動抑制装置5を示す正面図である。実施の形態2の振動抑制装置5は、実施の形態1の拘束部材20に替えて拘束部材200を備えており、更に、補強部材201を備えている。また、絶縁部材40に替えて絶縁部材400を備えている。実施の形態2において、実施の形態1と同一の符号は同一の構成を示し、ここではその詳細を省略する。
【0040】
拘束部材200は、抑制部材10が面外方向へ変形することを規制するものであり、抑制部材10よりも面外剛性が高い金属材料で形成した平板からなる部材である。図10および図11に示すように、拘束部材200は、抑制部材10の表面と裏面とに夫々配設してあり、抑制部材10の表面および裏面を全域に亘って覆う態様で配設している。本実施の形態において、拘束部材200は抑制部材10とほぼ同一の大きさに形成した矩形状の平板からなる。拘束部材200において、抑制部材10の孔11と対応する位置には、図12に示すように、表面から裏面に亘って貫通する孔202が形成してある。夫々の拘束部材20と抑制部材10との間には絶縁部材400が配設してある。拘束部材200自体をせん断変形させないため、抑制部材10の孔11の形状は、図13Aに示すように、孔の開口面積が締結部材30の貫通部断面積よりも大きな拡大孔11aや、図13Bに示すように、抑制部材10のせん断方向に沿って孔を長く形成した長孔11bを用いている。
【0041】
絶縁部材400は、抑制部材10と拘束部材200との間に生じる摩擦力を抑制するものであり、粘性や弾性の高いシート状の部材からなる。本実施の形態では絶縁部材40をゴムシートによって形成している。絶縁部材400は、抑制部材10と、拘束部材200との間に配設してあり、図11に示すように、本実施の形態では拘束部材200の抑制部材10側の面を全面に亘って覆う態様で配設してある。絶縁部材40において拘束部材200の孔202と対応する位置には表面から裏面に亘って貫通する孔が形成してある。絶縁部材400によって抑制部材10と拘束部材200との間に発生する摩擦力を取り除くことにより、抑制部材10のせん断変形性能を維持することができる。
【0042】
対向する拘束部材200の外側面には補強部材201が溶接してある。補強部材201は、拘束部材200の面外方向への剛性を高めるものであり、拘束部材200の外側面に沿って配設してある。本実施の形態では、補強部材201は溝型鋼からなり、図10に示すように、左右方向に延在する長尺状の補強部材201を抑制部材10の上下方向に沿って複数並設している。また、抑制部材10の孔11と対応する位置に補強部材201が配設してあり、補強部材201において、抑制部材10の孔11と対応する位置には、表面から裏面に亘って貫通する孔が形成してある。一対の拘束部材200は、補強部材201、拘束部材200、抑制部材10を夫々貫通する締結部材30によって締結固定してある。
【0043】
図14に、締結部材30によって抑制部材10に装着される拘束部材200の別の配置例を示す。図14に示す振動抑制装置6は、補強部材201を有しておらず、振動抑制装置5より多数の締結部材30によって一対の拘束部材200を締結固定している。締結部材30と被締結部材である夫々の拘束部材200との間には座金33が介在してある。図14に示すように、締結部材30の数量を増加することにより、拘束部材200の面外方向への剛性を高めることができる。
【0044】
上述した振動抑制装置5,6では、一対の拘束部材200が抑制部材10の表面と裏面とを全域に亘って覆う平板からなるものであるため、抑制部材10の全面に亘って面外方向への変形を規制することができる。そのため、抑制部材10の局所的な変形を防止してせん断座屈荷重を高くすることができる。
【0045】
尚、実施の形態2において、補強部材201は上下方向に配設してもよい。補強部材201の複数設けることにより拘束部材200の面外方向への剛性を高めることができる。また、拘束部材200の板厚を厚くして面外方向への剛性を高くすることも可能である。
【符号の説明】
【0046】
1,2,3,4,5,6 振動抑制装置
10 抑制部材
20,200 拘束部材
30 締結部材
40,400 絶縁部材
70a,71a 上部梁
70b,81b 下部梁
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、材料の塑性変形を利用して地震力による振動エネルギーを吸収し、振動を抑制する振動抑制装置が利用されている。この振動抑制装置には、平板からなる抑制部材を用い、抑制部材がせん断降伏して塑性変形することによりエネルギーの吸収を行うものがある。
【0003】
この種の振動抑制装置には、抑制部材の周囲を覆う鋼管の内部にコンクリートを打設して、抑制部材の表面および裏面をコンクリートで覆ったものや、抑制部材に補強用のリブを溶接接合したものがある。このような構成により、抑制部材の面外方向への変形を規制して、抑制部材のせん断座屈を防止し、振動抑制装置が安定したエネルギー吸収性能を得られるようにしている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−47193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コンクリートを用いる場合、コンクリートの養生期間が必要なため工期が長くなる。一方、補強用リブを溶接接合する場合、工期は短縮できるが、溶接熱によって抑制部材に組織変化が生じることにより、期待したせん断変形性能が得られないことがある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、安定したエネルギー吸収性能を得ることができるとともに、工期を短縮でき、抑制部材の組織変化を生じることがない振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る振動抑制装置は、平板からなる抑制部材を備え、二つの構造体の間に設置し、前記抑制部材がせん断変形することにより一方の構造体から他方の構造体に伝達される振動エネルギーを吸収して他方の構造体の振動を抑制する振動抑制装置において、平面により前記抑制部材を挟む態様で前記抑制部材の表面と裏面とに配設した一対の拘束部材と、一対の拘束部材を締結固定し、一対の拘束部材と前記抑制部材とを密接する締結部材とを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る振動抑制装置は、上述した請求項1において、前記締結部材は、一対の拘束部材と前記抑制部材とを貫通して一対の拘束部材を締結固定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に係る振動抑制装置は、上述した請求項1または2において、前記締結部材を一対の拘束部材に対して複数設けたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4に係る振動抑制装置は、上述した請求項1〜3において、前記抑制部材と前記拘束部材との間に夫々配設してあり、前記抑制部材と前記拘束部材との間に生じる摩擦力を抑制可能な絶縁部材を備え、前記締結部材は、前記絶縁部材を介して一対の拘束部材と前記抑制部材とを密接することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項5に係る振動抑制装置は、上述した請求項1〜4において、前記拘束部材は、前記抑制部材の一方の端部から他方の端部に亘って直線状に延在する長尺体からなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項6に係る振動抑制装置は、上述した請求項5において、前記拘束部材は、前記長尺体の短手方向に沿って複数並設してあることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項7に係る振動抑制装置は、上述した請求項1〜4において、一対の拘束部材は、前記抑制部材の表面と裏面とを全域に亘って覆う平板からなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項8に係る振動抑制装置は、上述した請求項1〜7において、前記抑制部材は、金属材料からなることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項9に係る振動抑制装置は、上述した請求項2〜8において、前記抑制部材は、前記締結部材が貫通する孔を有し、前記孔は、開口面積が前記締結部材の貫通部断面積よりも大きな拡大孔、または前記抑制部材のせん断方向に沿って長く形成した長孔であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る振動抑制装置は、平面により抑制部材を挟む態様で抑制部材の表面と裏面とに一対の拘束部材を配設し、締結部材により一対の拘束部材と抑制部材とを密接するものであるため、抑制部材の面外方向への変形を規制して抑制部材のせん断座屈を防止することができ、その結果、安定したエネルギー吸収性能を得ることができる。更に、締結部材により一対の拘束部材を締結固定するものであるため、コンクリートを用いるものと比して工期を短縮することができ、抑制部材の組織変化を生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1である振動抑制装置の正面図である。
【図2】図2は、図1に示した振動抑制装置の側面図である。
【図3】図3は、図1に示した振動抑制装置における要部を拡大して示す側面図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態1である振動抑制装置の変形例を示す正面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1である振動抑制装置の変形例を示す正面図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1である振動抑制装置の変形例を示す正面図である。
【図7A】図7Aは、本発明の振動抑制装置を適用した構造物を示す正面図である。
【図7B】図7Bは、本発明の振動抑制装置を適用した構造物を示す断面図である。
【図8A】図8Aは、本発明の振動抑制装置を適用した構造物を示す正面図である。
【図8B】図8Bは、本発明の振動抑制装置を適用した構造物を示す断面図である。
【図9A】図9Aは、図8Aに示した振動抑制装置の側面図である。
【図9B】図9Bは、図8Aに示した振動抑制装置の底面図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態2である振動抑制装置の正面図である。
【図11】図11は、図10に示した振動抑制装置の側面図である。
【図12】図12は、図10に示した振動抑制装置における要部を拡大して示す側面図である。
【図13A】図13Aは、図10に示した振動抑制装置における抑制部材の正面図である。
【図13B】図13Bは、図10に示した振動抑制装置における抑制部材の変形例を示す正面図である。
【図14】図14は、本発明の実施の形態2である振動抑制装置の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る振動抑制装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態1)
図1および図2は、本発明の実施の形態1である振動抑制装置を示したものである。ここで例示する振動抑制装置1は、せん断変形により一方の構造体から他方の構造体に伝達される振動エネルギーを吸収して他方の構造体の振動を抑制するもので、抑制部材10と、拘束部材20と、締結部材30と、絶縁部材40とを備えて構成してある。
【0020】
抑制部材10は、せん断変形により振動エネルギーを吸収するものであり、鋼材やアルミニウム等の金属材料で形成した平板からなる部材である。抑制部材10は、降伏点強度の低い材料で形成してある。抑制部材10は、矩形状に形成してあり、表面から裏面に亘って貫通する孔11を複数有している。図1および図2に示すように、矩形状の抑制部材10の対向する一対の端縁(図1における上端縁と下端縁)には構造体と接続するための接続部50が夫々設けてある。
【0021】
接続部50は、振動抑制装置1と構造体とを連結する部位であり、金属材料で形成された平板状の部材からなり、抑制部材10の平面に沿って抑制部材10の上下端縁から外方に延在して設けられている。接続部50には表面から裏面に亘って貫通する孔である複数の接続孔51が形成してある。本実施の形態では、抑制部材10と接続部50とを一体的に形成しており、接続部50が抑制部材10と同一材料で、同一の厚さとなるように形成してある。
【0022】
拘束部材20は、抑制部材10が面外方向へ変形することを規制するものであり、抑制部材10よりも面外の剛性が高い金属材料で形成した長尺体からなる部材である。本実施の形態では図1〜図3に示すように、溝型鋼によって形成してあり、平面部を抑制部材10側に向けて、抑制部材10を挟む態様で抑制部材10の表面と裏面とに配設してある。拘束部材20は、抑制部材10の一方の端部から他方の端部に亘って直線状に延在して配設してあり、表裏面で対を成す一対の拘束部材20を、長尺体の短手方向に沿って複数配置してある。本実施の形態では図1および図2に示すように、拘束部材20が抑制部材10の対向する一対の端部(図1における左端部と右端部)に亘って延在する態様で長尺状に形成してあり、拘束部材20の幅方向(図1における上下方向)に対を成す4つの拘束部材20を並設している。夫々の拘束部材20の溝部において、抑制部材10の孔11と対応する位置には、図3に示すように、表面から裏面に亘って貫通する孔21が形成してある。夫々の拘束部材20と抑制部材10との間には絶縁部材40が配設してある。
【0023】
絶縁部材40は、抑制部材10と拘束部材20との間に生じる摩擦力を抑制するものであり、粘性や弾性の高いシート状の部材からなる。本実施の形態では絶縁部材40をゴムシートによって形成している。絶縁部材40は、抑制部材10と、当該抑制部材10を挟む拘束部材20の平面との間に配設してあり、図3に示すように、本実施の形態では抑制部材10側を向く溝部の全面を覆う態様で絶縁部材40が配設してある。絶縁部材40において拘束部材20の孔21と対応する位置には表面から裏面に亘って貫通する孔41が形成してある。絶縁部材40によって抑制部材10と拘束部材20との間に発生する摩擦力を取り除くことにより、抑制部材10のせん断変形性能を維持することができる。
【0024】
一対の拘束部材20は、締結部材30によって締結固定してある。締結部材30は、抑制部材10と拘束部材20とを密接にするものであり、本実施の形態では抑制部材10と拘束部材20とが絶縁部材40を介して密接するように構成してある。本実施の形態において締結部材30はボルト31とナット32により構成されており、図3に示すように、一方の拘束部材20から他方の拘束部材20に向けて、拘束部材20と絶縁部材40と抑制部材10とに形成された夫々の孔21,41,11を貫通する態様でボルト31を挿通し、他方の拘束部材20側においてナット32を螺合することにより一対の拘束部材20を締結している。図1に示すように、締結部材30は、拘束部材20の長手方向の両端部を締結固定している。
【0025】
抑制部材10に形成された孔11の形状は、締結部材30のボルト径より大きな径を有する孔(拡大孔)、或いは抑制部材10のせん断方向(後述する構造体の振動方向)に平行な長孔とすることで、抑制部材10のせん断変形を妨げないようにすることができる。
【0026】
図4〜図6に、締結部材30によって抑制部材10に装着される拘束部材20の別の配置例を示す。
【0027】
図4に示す振動抑制装置2では、左右方向に延在する拘束部材20に対して締結部材30の数量を増加しており、締結部材30によって拘束部材20の両端部と中央部とを締結している。また、図5に示す振動抑制装置3では、上下方向に延在する態様で一対の拘束部材20を配設するとともに、拘束部材20の短手方向(左右方向)に沿って一対の拘束部材20を複数並設している。また、図6に示す振動抑制装置4では、抑制部材10の一方の面に左右方向に延在する拘束部材20を上下方向に沿って複数並設し、他方の面に上下方向に延在する拘束部材20を左右方向に沿って複数並設している。尚、図6に示す様に拘束部材20を配置しても抑制部材10のせん断変形を拘束しないことは、幾何学的に自明である。
【0028】
次に、上述した振動抑制装置1を設置した構造物の例を示す。図7Aは、本発明の振動抑制装置1を適用した構造物を示す正面図であり、図7Bは、本発明の振動抑制装置1を適用した構造物を示す断面図である。
【0029】
図7Aおよび図7Bに示す構造物は鉄骨造(S造)によるものであり、鋼材からなる複数の柱60と、当該柱60の間に架設した鋼材からなる上部梁(構造体)70aと下部梁(構造体)70bとによって構成されている。振動抑制装置1は、上部梁70aに設けた設置部材80aと下部梁70bに設けた設置部材80bとを介して上部梁70aと下部梁70bとの間に設置してある。設置部材80a,80bは、台形状の鋼板と、当該鋼板に溶接した補強用の縦リブおよび横リブとからなり、抑制部材10より剛性の高いものとしている。振動抑制装置1は、ボルトとナットとからなる固定部材81により接続部50と設置部材80a,80bとを締結固定することにより設置されている。
【0030】
上述した構造物において、地震力により下部梁70bが水平方向(図7Aの左右方向)に振動すると、振動エネルギーは設置部材80b、振動抑制装置1および設置部材80aを介して上部梁70aに伝達される。このとき、抑制部材10に対して水平方向に荷重がかかることにより抑制部材10がせん断変形する。抑制部材10がせん断降伏して塑性変形することにより地震力による振動エネルギーが吸収され、上部梁70aの振動が抑制される。つまり、地震力によって上部梁70aと下部梁70bとに生じる層間変位を抑制することができる。
【0031】
抑制部材10の表面および裏面には一対の拘束部材20が密接してあるため、面外方向への変形(せん断座屈)が拘束される。そのため、地震力によって正負交番に繰返される荷重に対し、抑制部材10のせん断座屈を抑えて振動抑制装置1が安定したエネルギー吸収性能を維持できるようになる。
【0032】
上述した振動抑制装置1では、平面により抑制部材10を挟む態様で抑制部材10の表面と裏面とに一対の拘束部材20を配設し、締結部材30により一対の拘束部材20と抑制部10とを密接するものであるため、抑制部材10の面外方向への変形を規制して抑制部材10のせん断座屈を防止することができ、その結果、安定したエネルギー吸収性能を得ることができる。つまり、抑制部材10のせん断座屈荷重を高めることができ、降伏後も座屈変形の成長を抑えることができる。更に、締結部材30により一対の拘束部材20を締結固定するものであるため、コンクリートを用いるものと比して工期を短縮することができ、抑制部材10の組織変化を生じることがない。そのため、抑制部材10に用いる金属材料として、溶接強度が母材強度より低いアルミニウム合金を用いることも可能である。
【0033】
また、締結部材30は、一対の拘束部材20と抑制部材10とを貫通して一対の拘束部材20を締結固定するものであるため、抑制部材10と拘束部材20との密接性を高めてせん断座屈を防止することができる。また、締結部材30を一対の拘束部材20に対して複数設けることにより、抑制部材10の幅が広くなった場合であっても、抑制部材10と拘束部材20との密接性を容易に高めることができ、抑制部材10のせん断座屈を防止することができる。
【0034】
また、抑制部材10と拘束部材20との間に生じる摩擦力を抑制可能な絶縁部材40を備え、締結部材30が絶縁部材40を介して一対の拘束部材20と抑制部材10とを密接するものであるため、抑制部材10のせん断変形を拘束することなく、抑制部材10のせん断座屈を拘束することができる。
【0035】
また、長尺体からなる拘束部材20の短手方向の幅を狭くまたは広くすることによって抑制部材10のせん断座屈荷重を容易にコントロールすることができる。また、隣接する拘束部材20の間隔を狭くまたは広くして、拘束部材20を短手方向に沿って複数並設することにより、抑制部材10のせん断座屈荷重を容易にコントロールすることができる。
【0036】
尚、図8Aおよび図8Bに示すように、振動抑制装置1は、鉄筋コンクリート造(RC造)の構造物に対して設置することも可能である。図8Aおよび図8Bに示す構造物は、複数の柱61と、当該柱61の間に架設した上部梁(構造体)71aと下部梁(構造体)71bとによって構成されている。振動抑制装置1は、上部梁71aに設けた設置部材82aと下部梁71bに設けた設置部材82bとを介して上部梁71aと下部梁71bとの間に設置してある。振動抑制装置1は、接続部50に替えて接続部500を有している。接続部500は、図9Aおよび図9Bに示すように、抑制部材10の上端縁と下端縁とに一体的に形成された平板からなる固定用のフランジであり、貫通孔である接続孔501を有している。振動抑制装置1は、接続部500において設置部材82a,82bとアンカーボルト83により接合している。図7A〜図8Bに示すように、振動抑制装置1を剛性の大きな構造物に適用することで、振動抑制装置1に層間変形角より大きなせん断変形を生じさせることができる。
【0037】
尚、拘束部材20の数量は上述した例に限定されるものではなく、一以上であればよい。また、抑制部材10の左右方向の幅が広い場合には、締結部材30の数量を増加することで、抑制部材10の面外方向への変形を均一に規制することができる。更に、抑制部材10の幅を拡大し、それに伴って拘束部材20を伸長することにより、容易に振動抑制装置1の耐力を高くすることができる。
【0038】
また、締結部材30は、ボルト31とナット32に限られるものではなく、例えばリベット等、一対の拘束部材20を締結して固定できるものであればよい。
【0039】
(実施の形態2)
図10は、本発明の実施の形態2である振動抑制装置5を示す正面図である。実施の形態2の振動抑制装置5は、実施の形態1の拘束部材20に替えて拘束部材200を備えており、更に、補強部材201を備えている。また、絶縁部材40に替えて絶縁部材400を備えている。実施の形態2において、実施の形態1と同一の符号は同一の構成を示し、ここではその詳細を省略する。
【0040】
拘束部材200は、抑制部材10が面外方向へ変形することを規制するものであり、抑制部材10よりも面外剛性が高い金属材料で形成した平板からなる部材である。図10および図11に示すように、拘束部材200は、抑制部材10の表面と裏面とに夫々配設してあり、抑制部材10の表面および裏面を全域に亘って覆う態様で配設している。本実施の形態において、拘束部材200は抑制部材10とほぼ同一の大きさに形成した矩形状の平板からなる。拘束部材200において、抑制部材10の孔11と対応する位置には、図12に示すように、表面から裏面に亘って貫通する孔202が形成してある。夫々の拘束部材20と抑制部材10との間には絶縁部材400が配設してある。拘束部材200自体をせん断変形させないため、抑制部材10の孔11の形状は、図13Aに示すように、孔の開口面積が締結部材30の貫通部断面積よりも大きな拡大孔11aや、図13Bに示すように、抑制部材10のせん断方向に沿って孔を長く形成した長孔11bを用いている。
【0041】
絶縁部材400は、抑制部材10と拘束部材200との間に生じる摩擦力を抑制するものであり、粘性や弾性の高いシート状の部材からなる。本実施の形態では絶縁部材40をゴムシートによって形成している。絶縁部材400は、抑制部材10と、拘束部材200との間に配設してあり、図11に示すように、本実施の形態では拘束部材200の抑制部材10側の面を全面に亘って覆う態様で配設してある。絶縁部材40において拘束部材200の孔202と対応する位置には表面から裏面に亘って貫通する孔が形成してある。絶縁部材400によって抑制部材10と拘束部材200との間に発生する摩擦力を取り除くことにより、抑制部材10のせん断変形性能を維持することができる。
【0042】
対向する拘束部材200の外側面には補強部材201が溶接してある。補強部材201は、拘束部材200の面外方向への剛性を高めるものであり、拘束部材200の外側面に沿って配設してある。本実施の形態では、補強部材201は溝型鋼からなり、図10に示すように、左右方向に延在する長尺状の補強部材201を抑制部材10の上下方向に沿って複数並設している。また、抑制部材10の孔11と対応する位置に補強部材201が配設してあり、補強部材201において、抑制部材10の孔11と対応する位置には、表面から裏面に亘って貫通する孔が形成してある。一対の拘束部材200は、補強部材201、拘束部材200、抑制部材10を夫々貫通する締結部材30によって締結固定してある。
【0043】
図14に、締結部材30によって抑制部材10に装着される拘束部材200の別の配置例を示す。図14に示す振動抑制装置6は、補強部材201を有しておらず、振動抑制装置5より多数の締結部材30によって一対の拘束部材200を締結固定している。締結部材30と被締結部材である夫々の拘束部材200との間には座金33が介在してある。図14に示すように、締結部材30の数量を増加することにより、拘束部材200の面外方向への剛性を高めることができる。
【0044】
上述した振動抑制装置5,6では、一対の拘束部材200が抑制部材10の表面と裏面とを全域に亘って覆う平板からなるものであるため、抑制部材10の全面に亘って面外方向への変形を規制することができる。そのため、抑制部材10の局所的な変形を防止してせん断座屈荷重を高くすることができる。
【0045】
尚、実施の形態2において、補強部材201は上下方向に配設してもよい。補強部材201の複数設けることにより拘束部材200の面外方向への剛性を高めることができる。また、拘束部材200の板厚を厚くして面外方向への剛性を高くすることも可能である。
【符号の説明】
【0046】
1,2,3,4,5,6 振動抑制装置
10 抑制部材
20,200 拘束部材
30 締結部材
40,400 絶縁部材
70a,71a 上部梁
70b,81b 下部梁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板からなる抑制部材を備え、二つの構造体の間に設置し、前記抑制部材がせん断変形することにより一方の構造体から他方の構造体に伝達される振動エネルギーを吸収して他方の構造体の振動を抑制する振動抑制装置において、
平面により前記抑制部材を挟む態様で前記抑制部材の表面と裏面とに配設した一対の拘束部材と、
一対の拘束部材を締結固定し、一対の拘束部材と前記抑制部材とを密接する締結部材とを備えたことを特徴とする振動抑制装置。
【請求項2】
前記締結部材は、一対の拘束部材と前記抑制部材とを貫通して一対の拘束部材を締結固定することを特徴とする請求項1に記載の振動抑制装置。
【請求項3】
前記締結部材を一対の拘束部材に対して複数設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の振動抑制装置。
【請求項4】
前記抑制部材と前記拘束部材との間に夫々配設してあり、前記抑制部材と前記拘束部材との間に生じる摩擦力を抑制可能な絶縁部材を備え、
前記締結部材は、前記絶縁部材を介して一対の拘束部材と前記抑制部材とを密接することを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の振動抑制装置。
【請求項5】
前記拘束部材は、前記抑制部材の一方の端部から他方の端部に亘って直線状に延在する長尺体からなることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の振動抑制装置。
【請求項6】
前記拘束部材は、前記長尺体の短手方向に沿って複数並設してあることを特徴とする請求項5に記載の振動抑制装置。
【請求項7】
一対の拘束部材は、前記抑制部材の表面と裏面とを全域に亘って覆う平板からなることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の振動抑制装置。
【請求項8】
前記抑制部材は、金属材料からなることを特徴とする請求項1〜7の何れか一つに記載の振動抑制装置。
【請求項9】
前記抑制部材は、前記締結部材が貫通する孔を有し、前記孔は、開口面積が前記締結部材の貫通部断面積よりも大きな拡大孔、または前記抑制部材のせん断方向に沿って長く形成した長孔であることを特徴とする請求項2〜8の何れか一つに記載の振動抑制装置。
【請求項1】
平板からなる抑制部材を備え、二つの構造体の間に設置し、前記抑制部材がせん断変形することにより一方の構造体から他方の構造体に伝達される振動エネルギーを吸収して他方の構造体の振動を抑制する振動抑制装置において、
平面により前記抑制部材を挟む態様で前記抑制部材の表面と裏面とに配設した一対の拘束部材と、
一対の拘束部材を締結固定し、一対の拘束部材と前記抑制部材とを密接する締結部材とを備えたことを特徴とする振動抑制装置。
【請求項2】
前記締結部材は、一対の拘束部材と前記抑制部材とを貫通して一対の拘束部材を締結固定することを特徴とする請求項1に記載の振動抑制装置。
【請求項3】
前記締結部材を一対の拘束部材に対して複数設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の振動抑制装置。
【請求項4】
前記抑制部材と前記拘束部材との間に夫々配設してあり、前記抑制部材と前記拘束部材との間に生じる摩擦力を抑制可能な絶縁部材を備え、
前記締結部材は、前記絶縁部材を介して一対の拘束部材と前記抑制部材とを密接することを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の振動抑制装置。
【請求項5】
前記拘束部材は、前記抑制部材の一方の端部から他方の端部に亘って直線状に延在する長尺体からなることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の振動抑制装置。
【請求項6】
前記拘束部材は、前記長尺体の短手方向に沿って複数並設してあることを特徴とする請求項5に記載の振動抑制装置。
【請求項7】
一対の拘束部材は、前記抑制部材の表面と裏面とを全域に亘って覆う平板からなることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の振動抑制装置。
【請求項8】
前記抑制部材は、金属材料からなることを特徴とする請求項1〜7の何れか一つに記載の振動抑制装置。
【請求項9】
前記抑制部材は、前記締結部材が貫通する孔を有し、前記孔は、開口面積が前記締結部材の貫通部断面積よりも大きな拡大孔、または前記抑制部材のせん断方向に沿って長く形成した長孔であることを特徴とする請求項2〜8の何れか一つに記載の振動抑制装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【公開番号】特開2012−229782(P2012−229782A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99822(P2011−99822)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
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